- 1二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 05:04:39
「あっ、トプロ委員長ー! こっちこっちー!」
喧騒に包まれているお店の奥のから聞こえてくる、聞き覚えのある声。
ぶんぶんと振られている両手を目印に進んでいくと、そこには懐かしの光景が広がっていた。
────ともに勉強をした、仕事を手伝ってもらった、レースでたくさんの声援をくれた。
きっと、一生忘れられない日々を過ごしたクラスメートたちが、ここには集まっている。
ただ、制服は身に纏っておらず、あの頃よりも皆、少しだけ大人びていた。
「わあ、お久しぶりです皆さんっ! ……って、もう委員長じゃないですよー!」
「あはは、ごめんごめん、でも他にしっくりくる呼び方がなくってさ」
「……ふふっ、それじゃあ仕方ないですね」
私は思わず口元を緩めてしまう。
何気ないやり取りが、当時のことを思い出させてくれたから。
今日はいわゆる────クラス会、というやつだった。
トレセン学園を卒業して、もう数年が経っている。
アヤベさんを始めとする数人とは今でも連絡を取り合っているけれど、ここまでの人数と会うのは久しぶり。
声をかけてくれる子達に挨拶を返しながら、私は空いている席へと腰を落とす。
「……あっ、アヤベさんは少し遅れて来るそうです、先に始めてて良いとは言ってましたが」
「せっかく我がクラスの両雄が揃い踏みするんだもん、来るまで待ってるよ、ねー?」
ある子がそう言って皆に声をかけると、同意の言葉が一斉に返ってくる。
その内の一人が当時の応援で使っていた団扇なんか持ち出していたから、あの頃の記憶が蘇って来てしまった。
アヤベさんやオペラオーちゃんと鎬を削ったクラシック三冠。
本格化を迎えたオペラオーちゃんに挑み続け、ポッケちゃん達の新世代とも競い会ったシニア期以降。
色んな人達の期待に背中を押されながら、“彼”とともに懸命に走り続けて来た日々────。 - 2二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 05:04:57
「あっそうだ……すいません、少しの間、テレビを見ていても良いでしょうか?」
ふと思い出して、私はスマホを取り出す。
このスマホにはフルセグのチューナーが搭載されているから、外でもテレビがリアルタイムで見ることが出来た。
……まあ、正直滅多に使うことはないのだけれど。
隣の席に座っていた子は黒髪のお下げを揺らめかせながら、目を丸くして、こちらを見つめる。
「それは構わないけど、見たいドラマでもあった?」
「いえ、今やっている番組で彼、えっと、私の元トレーナーが、取材を受けていたみたいで、録画もしてあるんですけどね」
「委員長の担当さんが!? えっ、私も見たい見たいっ!」
「じゃあ、こうしてっと……あっ、丁度特集が始まったタイミングみたいです」
私が立てかけるようにスマホを置くと、丁度、画面では近く始まるオークスの特集が始まっていた。
今年の桜花賞の振り返りから始まって、去年のオークスの話を経て、今年注目のウマ娘達が続々と紹介されていく。
彼は、担当の子のレースが決まると、今でも私に逐一教えてくれていて、今日の取材の話もその一貫。
いつぞやの温泉旅行での約束を、今でも律儀に守り続けているのだ。
相変わらず真面目な人だなあ、と思い返しながら、懐かしさに目を細めてしまう。
そんな中、隣の彼女はちらりとこちらを見やりながら、問いかけて来た。
「委員長はさ、当時の担当さんとは今でも会ったりしているの?」
「……お互い、それぞれの生活がありますから、たまにしか会っていません」
「……そっか、私達から見てもすごく仲良さそうだったけど、やっぱりそんなも────」
「大体週一回くらいになっちゃいました、連絡は毎日のように取り合ってるんですけどね?」
「ちょっとまってそのはなしもうちょっとくわしく」
「あっ、始まりますよ!」
そんな話をしていると、ついに彼が画面へと移し出された。
私とともに居た頃とあまり変わらない、穏やかで、優しそうで、それで少し不器用そうな立ち振る舞い。
そしてその隣には、微かな幼さを残すウマ娘が緊張した面持ちで立っている。
艶やかな黒鹿毛の長い髪、左耳にはダイヤモンドを模した耳飾り、可愛らしいピンク色の双眸。 - 3二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 05:05:14
「…………この子が、担当さんが今、指導している子?」
「はい、私も何度か会ってお話したことがありますけど、とっても素直で良い子なんですよっ!」
何年も前のOGにも関わらず、私のことも慕ってくれている子。
桜花賞もあわやということまで迫っていて、オークスや次の秋華賞でも期待されているウマ娘の一人。
……なんとなく自分の姿と重なって、すごく応援したくなってしまうのだ。
「それにしても担当さん、なんか貫禄出てきたね、大人の男性って雰囲気が出てるっていうか」
「……そうでしょうか?」
「そうだよー! インタビューも落ち着いてるし、受け答えも淀みがないしさー!」
言われてみて、ハッとなる。
昔は、新人だったこともあって、彼は取材やインタビューを得意とはしていなかった。
緊張すると語彙がおかしくなってしまう私と併せて、一緒に頭を悩ましていたのが懐かしい。
そんな彼も、今やそつなく、インタビュアーさんの質問をさばいていた。
……私が卒業してからもう数年経つ、そうもなるだろう。
当たり前のことで、喜ばしいことのはずなのに────何故か、ちょっとだけ寂しい。
そうこうしている間に、あっという間にインタビューは最後の質問となった。
一人当たりの尺は、あまり長くはないのである。
『では最後に……貴方にとって、もっとも美しいウマ娘とは?』
それは、トリプルティアラに挑むウマ娘やトレーナーに対しては、定番の質問。
ティアラ路線には良く、美しさという価値基準を持ち出されることがある。
ティアラがもっとも似合うウマ娘にこそ、ティアラの輝きは相応しい。
すなわち、ここでいうところの『美しさ』というのは『強さ』のこと。
この質問は『誰がもっとも強いウマ娘だと思うか?』という問いかけの他ならない。
要は、次走オークスに向けての意気込みを聞いているのだ。
だからこそ、ここで彼が口にするのは、必然的に担当しているウマ娘の名前になるのだけれど。 - 4二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 05:05:32
────聞きたくないな、と思ってしまった。
思わず、耳を塞いでしまいそうになってしまう。
彼の口から、もっとも強い、もっとも美しいウマ娘として、他の子の名前を聞きたくはなかった。
でも、それは、それだけはしてはいけないことも、わかっていた。
それは、今までの彼の努力を否定するような行為。
ひいては、私が彼と進んで来た、頂点へと道のりをも否定する行為なのだ。
だから私は、顔を伏せながらも、机の下で手をきゅっと握り締め、彼の言葉へと耳を傾け────。
『トップロードですね』
────瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
顔を上げると、画面にはさも当然という表情をしている彼の姿。
そして、困惑するインタビュワーと、すごい顔をして尻尾で彼をしばいている担当の子。
直後、私の背後からは黄色い悲鳴がわあっと巻き起こる。
慌てて後ろを振り向くと、それぞれで話をしていたはずのクラスメート達が、みんな画面を見つめていた。
私は我に返り、まるで何かを誤魔化すように、その場で立ち上がった。
「トッ、トレーナーさんってば! そういう時は担当の子の名前を出さなきゃ、ダメじゃないですか!」
「……いいんちょ~、顔めっちゃニヤけてるよ?」
「……っ」
指摘されて、両手で顔を押さえる。
手のひらに感じるは、吊り上がった口角と、緩み切った頬。
みるみる内に感じる温度が熱くなって来て、そのまま力なく私は、ぽすんと椅子へと着地してしまう。
そんな私を見て、隣の彼女は衝撃を受けたように口元を手で隠しながら、言葉を紡いだ。 - 5二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 05:05:54
「やだ、私達の委員長可愛すぎ……!」
「こーら、違うでしょアンタ」
「えっ? ああ、そうだったそうだった……あなたにとって、もっとも可愛らしいウマ娘とは?」
「────トップロードですね」
「……っ! もっ、もおー! やめてくださーいっ!」
「…………妙に騒がしい人達がいると思ったら、貴方達は何をしているのよ」
ちょうど到着したアヤベさんは、肴だけで盛り上がっている私達を見て、呆れ顔を浮かべていた。 - 6二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 05:06:17
お わ り
クラスはRTTT準拠ということで - 7二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 05:40:23
ガッシャンガッシャン
- 8124/11/25(月) 07:25:49
(私じゃないんかい!?)
- 9二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 08:14:45
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- 10二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 08:52:25
良い…
- 11二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 08:57:48
クラスメイトとのやり取りが可愛くていいですね
と同時に、やっぱりあの子はこうやってダシにされることでしか見てもらえないのかと悲しくもなりました
このネタを扱うのであればあの子が「トップロードの元トレーナー」にどれだけ貢献した子なのか、どれだけ頑張った子なのか知っていてほしかったです - 12124/11/25(月) 11:22:01
- 13二次元好きの匿名さん24/11/25(月) 21:51:53
このレスは削除されています
- 14二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 02:37:43
ガッシャンガッシャン