- 1二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 00:04:01
「えっ、ゴールした後に投げキスなんてしていたのか」
俺はつい思っていたことを、そのまま言葉にしてしまった。
慌てて塞ぐものの、時すでに遅く、長椅子で読書中の彼女はぴくりと耳を立ち上がらせる。
栃栗毛のショートヘア、咲く誇る桃の花のような瞳、耳の周りには月桂冠の髪飾り。
担当ウマ娘のサクラローレルは、少し困ったような笑顔を浮かべて、こちらを向いた。
「あはは、トレーナーさんにもバレちゃいましたか、良い走りが出来たもので、つい」
「あっ、いや、それ自体は良いんだ、素晴らしい走りだったのは事実だしね」
俺はデスクの上にある月刊トゥインクルの号外を見やりながら、そう答える。
記事の大部分を占めているのは、最前列でゴール板を走り抜けようとするローレルの姿。
見ているだけで、先日のレースの興奮が蘇りそうなほどの素晴らしい一枚、なのだが。
「ただ、その、投げ、うん、まあ、それをしているところは見ていなかったなって」
「ゴール直後で一瞬でしたからね…………えっと、写真は小さめでって、記者の人にお願いしたんですけど」
「見たところその写真はなさそうだね、多分、撮ってはいなかったんじゃないかな」
「そうですか、それは一安心です」
そう言いながら、ローレルはほっと胸をなでおろす。
どうやら、ずっと気になっていたようだ。
ついテンションが上がってやってしまった投げキスが、写真や映像に残ったと考えたらさもありなん。
しかし、まあ、ローレルの投げキスか。
大人びた外見とは裏腹に彼女はノリが良い方ではあるが、投げキスをしている姿は想像出来ない。
それを見逃したというのは、実に勿体ないことをしたような気がする。 - 2二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 00:04:14
「────私のキス、見たかったですか?」
突然、聞こえてくるローレルの声。
ぞくりと背筋が走って、反射的に顔を上げると、いつの間にか彼女は目の前に立っていた。
そのぱっちりとした双眸で射抜いて、愛らしい口元を愉しそうに緩めて。
息が詰まりそうになるのを何とか堪えて、俺は喉から声を絞り出す。
「そっ、そんなことは、ないよ?」
「…………良いですよ」
「えっ」
「ちょっと恥ずかしいですけど、トレーナーさんにだったら、見せても良いですよ」
ローレルは、じっと俺の目を見つめたまま、小さく言葉を紡いでいく。
そして俺の視線は話題のこともあって、つい、声を奏でる小さな唇へと誘われてしまう。
まるで花びらを重ねたような、瑞々しい桜色。
形そのものは薄いものの、ハリがあって、ふっくらとしていて、とても魅惑的だった。
だから、だろうか。
「じゃあ、見たい、かな」
そんな世迷い事を、口走ってしまったのは。
その言葉を聞いてローレルは嬉しそうに目を細め、微笑みを浮かべた。 - 3二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 00:04:26
「……私にも心の準備がありますので、少しの間、目を閉じていてもらっても良いですか?」
「…………キミも、照れたりするんだね」
「もう、私をなんだと思っているんですか?」
わざとらしく頬を膨らませながらローレルはそう話す。
もっとも、彼女が緊張していたり、照れているようにはまるで見えなかったけれど。
とにもかくにも、俺は言われるがままに瞼を降ろして、視界を暗闇の中に閉じ込めた。
────すると、他の感覚が妙に鋭くなってしまう。
静かに鳴り響く時計の音、心臓の鼓動、俺とローレルの小さな息遣い。
弾けるような桜の香りは、爽やかでありながらどこか儚く、可憐な雰囲気を感じる。
ふと、ぽんと両肩の上に手が置かれる。
優しさを感じる柔らかな感触と、春の日和のようなぽかぽかとした温もり。
そして僅かではあるものの、ゆっくりと重み増していって────。
「……って待って、そこに手を置いてたら投げキスなんて出来なぁ!?」
つい目を開けてしまった俺の眼前には────ローレルの顔が迫っていた。
どきりと、心臓が跳ねあがる。
俺とは反対に軽く目を閉じていて、そして少しだけ、唇を尖らせていた。
彼女は俺の言葉にぴくりと耳を動かすと、残念そうに眉を垂らしながらそっと目を開ける。
……微かに、口角を吊り上げながら。 - 4二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 00:04:40
「おっと、これは残念でしたね」
「えっ、えっと、ローレル? これは一体?」
「トレーナーさんに対して投げつける、なんて失礼なこと出来ないじゃないですか?」
「……それで?」
「だから、直接届けようかと思いまして」
「…………普通に投げてください」
「ふふっ、はぁい────でも、やっぱり投げつけるのは失礼だとは思うので」
ローレルは揶揄うように俺を見やりながら、人差し指と中指でちょんと自らの唇に触れる。
そして、そのまま淀みなく、唇に触れた指先をこちらへと、そのまま俺の唇にちょんと当てた。
突然の出来事に、俺は何の行動も、何の言葉も発することが出来ない。
彼女はくすりと妖艶に微笑むと、静かに顔を近づけて来て、耳元でそっと囁いた。
「…………せっちゅーあん、ということで♪」 - 5二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 00:05:02
お わ り
特に理由のない流れ弾がネイチャさんを襲う - 6二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 00:12:54
まーたイチャイチャしてる
- 7二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 00:35:20
(間)接ちゅー案……だと……!?
- 8124/11/26(火) 06:47:32
- 9二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 07:22:34
朝からすごい濃度のトレロレを摂取できた
ローレルはこういうことする - 10二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 07:32:07
濃厚ですね、、、、
- 11二次元好きの匿名さん24/11/26(火) 09:03:57
うう...ローレル、好き...
とても良いSSでした。ありがとうございます。 - 12124/11/26(火) 18:48:38