【SS】郷土料理を知ろう!大阪編〜お好み焼き〜(新ゴシック体太字)

  • 1二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 21:52:51

    「均等に、均等にぃ〜……」
    「そない力入っとったらやりにくうないか?」
    「きゃっ!」

    キャベツを睨むように猫背にまでなりながらキャベツを刻んでいたキングヘイローは、横からかけられた声にぴゃっと背筋を正した。

    「おおお、驚かせないでちょうだい!」
    「もっと適当でええんやで。あと、包丁使う時は猫の手な」
    現れた小さな先輩は、調理室の片隅で悪戦苦闘するキングの前に陣取った。ここから動くことはなさそうなその姿勢に、キングは姿勢を固くする。

    授業以外にも様々なイベントが行われるトレセン学園では、今回、郷土料理を知ろうという名目のもとでそれぞれの土地出身のウマ娘に擬似的な指導者の立場にたってもらい、他のウマ娘がその料理に挑戦するというイベントが行われていた。
    キングは料理も一流ということで参加しているものの、このお好み焼きという料理はどうにも切る量が多くて上手く進まない。

    そんな中に現れたのが彼女、タマモクロスだった。
    どうやら料理には慣れているようで、その的確な指示は料理ド初心者特有の目も当てられないような危なっかしさから抜け出すくらいの効力は持っていて、キングの周りで作業をしていたウマ娘たちはほっと胸を撫で下ろした。

  • 2二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 21:53:07

    「ほな次は生地を──」
    「混ぜるのでしょ? それくらい、キングにお任せよ!」
    「あああグルグルかき回しとるだけやないかい! 下からすくうように、生地が全体に絡むようにせんと焼けへんで!」

    具が入ってもったりと重くなった生地を、キングは言われた通りに混ぜる。混ぜながら、刃物を手放したことによる緊張感が抜けたことでふと質問した。

    「そういえば、タマモ先輩(タマモクロス先輩と呼ぼうとしたのだが、『固いわ!』とツッコまれた)は、他の子たちを見なくていいのかしら」
    「まあええやろ。大阪出身なんはウチだけやあらへんし。それに」


    ホンマはウチ、こんなお好み焼き作ったことないねん


    その言葉は、賑わう調理室の中でやけに寂しく聞こえた。

  • 3二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 21:53:27

    タマモクロスもそれを気にしたのか、空気を変えるように手を振って笑う。

    「いや〜、ウチ兄弟多かったからから、こないにキャベツも粉も卵もお肉もぎょうさん使った豪勢なお好み焼き、毎度は作れんかってん。限界までゆるうしたりそんとき安いモン刻んで入れたりしてな。お母ちゃんもようやっとったわ」
    「──いいお母様だったのね」
    「そんな丁寧に母親呼ぶことあるかーい!」

    ビシ、と手まで添えたツッコミだったが、当のキングは一生懸命な顔で生地を混ぜている。
    だからタマモクロスの手も行き場を失って、季節外れの蝶のようにひらひら宙を舞った。
    やがて、生地を混ぜ終わったキングはフライパンに火をつけ、油をまわし入れる。

    言うの忘れとったウチもウチやけど、生地を混ぜる間にフライパンを温めておかなかったところが初心者やなとタマモクロスがその様子をぼーっと見ていると。

    「さあタマモ先輩! あなたにこのお好み焼きを焼く権利をあげる!」
    「ってそこ他人任せなんかい!」

  • 4二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 21:53:44

    しゃーないなー、とボウルを手に取るタマモクロス。
    できるだけ丸く落とされた生地はさらに形成され、豚バラをぺちぺち並べてきつね色になったらひっくり返す。後ろで小さな感嘆の声を上げたキングに、裏面が充分焼けたのを確認してからフライ返しを渡す。ここまで焼けていれば崩れることもないだろう。

    そうしてできたお好み焼きは、端が少しよれていたけれど──よくできていた。

    「どーにかできたな……」
    「オーホッホッホ!キングは料理も一流だもの!」
    「そのセリフ自分で全部やってから…」
    「でも、今回はあなたも手伝ったものね」

    キングはタマモクロスに取り皿と箸を差し出した。

    「キングとお好み焼きを半分こする権利をあげる!」

  • 5二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 21:54:08

    流石トレセン学園の用意した食材だ。
    甘いキャベツは火を通すことでより甘く、また豚肉の脂を吸った生地は香ばしく、外はカリッと中はもちもちという最高の状態である。

    タマモクロスは最初に「美味いなあ」と言ったきり、無言で食べた。

    こんな豪勢なお好み焼きを毎度は作れなかったと言った。
    あれは嘘だった。
    一度しか、食べたことがなかった。その一度すら、今思い出した。

    一度だけ。チビどもが産まれる前、食べたことがあった。
    味は覚えていないけれど。
    カリカリの豚肉を噛みちぎるのに夢中な自分の頬をタオルで拭って「おなかいっぱいお食べ」と言った母の手だけを、鮮明に覚えている。

    「ちょっと、頬にソースがついていてよ」

    そう言って拭われた自分の頬。顔を上げれば、あの高飛車な後輩がウエットティッシュを持って笑っている。その顔を見て、ふと。

    「アンタ、関西でモテる顔やで」
    「きゅ、急に何!?」
    「鼻や顎がちいそうて、目ぇは大きゅうてキューっと吊っとるの、こっちの方でモテる顔やわ」
    「そ、そうなの?」

    キングが不思議そうに顔をぺたぺたと触るのを見ながら、タマモクロスは快活に笑う。
    夏空のような笑い方をするのね、とキングはそれを見て思う。

  • 6二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 21:54:33

    「ん!ごちそうさん!次はウチがご馳走したるわ!」
    「……その」
    「なんや?」

    後片付けをしながら、キングは消え入りそうな声で言った。

    「私、これをいつか……母親に、作ろうと思うのだけど。練習、付き合ってくれるかしら……」

    ザーッと蛇口から水が出る音にかき消されそうな声だったけれど。ウマ娘の耳はとても高性能なので。

    「嫁の貰い手が無かったらこっち来(き)ぃ。アンタみたいなかわええやつ、引く手あまたやで」
    「だから話を聞いているの!?」

    こうして後輩に叱り飛ばされるのであった。

  • 7二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 21:55:48

    おしまい

    どうしてもネタが思いつかなくてスレ画作成のランダム機能使わせてもらった組み合わせで書いてみたけど意外と良い組み合わせだった

  • 8二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 22:01:18

    クッキングヘイローすき

  • 9二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 22:03:13

    エエヤン

  • 10二次元好きの匿名さん24/11/27(水) 22:06:40

    >ホンマはウチ、こんなお好み焼き作ったことないねん


    ここせつないぜ

  • 11二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 00:06:32

    ランダム生成のぶっつけでよく上手くまとめられるなー

    タマが内心でしんみり郷愁に浸りながら一方で親戚のオバちゃんムーブするのすき


    >(タマモクロス先輩と呼ぼうとしたのだが、『固いわ!』とツッコまれた)

    あとこういうのも好き

    呼び方とか接し方とか色々想像するの楽しいな

  • 12二次元好きの匿名さん24/11/28(木) 01:15:53

    こういう知らない組み合わせ書けるヒト尊敬する
    タマキ…タマモとキング尊い

オススメ

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