- 1二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:39:42
ある日のトレセン学園にて。
スペシャルウィーク・サイレンススズカ・オグリキャップの3人は雨天でグラウンドでのトレーニングが出来ない為に暇を持て余していた。
「はあ………雨そのものは嫌いではないけれど、走れないと元気が出ないわ。」
「スズカさんって走ると元気が出るんですね………普通は逆なのに。」
「ああ。だが、今の私達は何もする事がなくて暇なのは事実だ。どうするべきか………。」
その時、スペがある案を思いついた。
「そうだ、図書室に行きましょう!」
「図書室………?」
普段の彼女らは、本にはあまり興味がなく、図書室を訪れる事は少ない。
だが、多くの書物が収蔵されている図書室なら、暇を潰せるかもしれない。
何か面白い本があれば良いのだが。
「図書室、そういえば最近行った事がないわね。」
「私もだ。だが、スペの案は良いと思う。」
「ええ。私は心がドキドキする恋愛小説を読みたいな。」
スズカとオグリは賛同し、図書室に行く事が決まった。 - 2二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:40:06
スペは二人と一緒に教室を出て、図書室へと向かった。
「料理について書かれた本は、あるでしょうか。」
「美味しそうな世界の料理の写真や挿絵が載っていると、もっといいな。」
「あなた達は、本当に食べる事しか考えていないわね………。」
食欲で頭が満たされているスペとオグリに、スズカが困惑しながらツッコミを入れる。
スズカは恋愛小説を読むつもりで、良いものがあったら借りようと考えていた。
三人が図書室に到着し、スペがゆっくりと扉を開けるとそこには珍しくテイオーがいた。
しかも、何やら子供向けの絵本を読んでいるようだ。
スズカはテイオーは自分達と同様に本にあまり興味がないと思っていたので、テイオーが絵本を読んでいる姿を珍しく思った。
絵本のサイズは、開けばテイオーの顔を覆えるほどに大きい。
美しい金色の装飾で縁取られた絵本の表紙には、カラフルで楽しそうな遊園地の絵が水彩画で描かれている。
「テイオー………?」
スズカが声を掛けると、テイオーはスズカ達が来た事にすぐに気付き、顔をこちらに向けた。
そして即座に彼女らの元に駆け寄り、読んでいた絵本を見せてきた。
「スズカ、それにみんなも! あまり図書室にいるイメージのない面々だけど、やっぱりトレーニングが出来なくて暇だったの?
そんな事よりねぇ見てよ! この絵本に出てくる遊園地、すっごく楽しそうじゃない?」 - 3二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:40:28
図書室なので声を抑えてはいるが、かなり興奮しているようで尻尾をパタパタと振っている。
テイオーはその絵本がかなり気に入ったようで、満面の笑みを浮かべていた。
それは、主人公が賑やかなな遊園地に行く物語であった。
絵本の主人公が訪れた遊園地には、カラフルなゴンドラの観覧車や非常に高いローラーコースター、龍や虎といった生き物に乗れるメリーゴーランド、自分で運転出来るゴーカートと楽しそうなアトラクションがたくさんある。
そして、他のどんな遊園地でも見る事が出来ない最高のショーが開催されているという。
テイオーはもしもこの遊園地が実世界のどこかにあったのなら、同期のブルボンやターボは勿論、スペ達も誘って行きたいと考えていた。
しかし、一つ不審な点があった。
この絵本には、タイトルや作者、出版社の名前がどこにも書いていないのだ。
発行年数も書かれていないので、いつ書かれたのかも分からない。
図書委員のロブロイも、見覚えのない絵本だと言っていたそうだ。
図書室の棚に、いつの間にか挟まっていたという。
教員達に聞いてみても、こんな絵本を納品した覚えはないらしい。
つまり、いつどこからトレセン学園の図書室に現れたのか分からない、正体不明の絵本であるという事だ。
そんなオカルトのような話はにわかには信じ難いが、現実にここに存在している。 - 4二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:40:50
「でも、その絵本っていつどういう経路でここに来たのか誰も分からないんでしょう? それはちょっと怖いわね。」
スズカはもちろん、普段は鈍感なところがあるスペとオグリも警戒していた。
何者かがトレセン学園に侵入し、この絵本を仕込んだ可能性もある。
もしもトレセン生の指紋の採取が目的なら、テイオーはいずれ個人情報を暴かれてしまうだろう。
しかし………やはり、絵本の中の遊園地は魅力的だ。
カラフルな観覧車に、龍や虎に乗れるメリーゴーランド。
自分で運転が出来るゴーカートに、水を浴びながら爆走するローラーコースター。
ピエロや魔法使いが練り歩くパレードに、他のどこでも見る事が出来ない最高のショー。
夜は美しくライトアップされ、まるで人工の星空のようだ。
こんな空間で1日を過ごせたのなら、きっと一生の思い出に残るだろう。
スペとオグリは遊園地に行ったのは幼少期のみで、スズカも過去にディズニーの所有する遊園地から案件を貰った事はあるものの遊園地で遊んだ事はなかった。
この遊園地ほど豪華な場所でなくても、友達とみんなで遊園地に行ければきっと楽しく過ごせるだろう。
テイオーは腕を伸ばして絵本を見上げながら、こう言った。
「あーあ。現実にも、こんな遊園地があったらなあ………。」
その時だった。 - 5二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:41:21
絵本が一瞬、ビクッと揺れた。
「わわっ!?」
テイオーは唐突に絵本から自身に伝わった振動に驚き、絵本を手から落とした。
そして自身も驚いた事でうっかり座っている椅子を倒してしまい、椅子に後ろに転んでしまった。
「テイオー!? 大丈夫!?」
絵本はテイオーの手から落下し、遊園地の描かれたページを上にして床に着地した。
テイオーは打った部分をさすりながら、慌ててそこにいた皆に確認した。
「ねえ、今の見てたよね!?」
絵本が動いたのは、気のせいでも何でもなかった。
スペもスズカもオグリも、しっかりその光景を見ていた。
4人は絵本を、警戒しながら見つめた。
特殊な魔法でも込められていない限り、生き物ではない絵本がひとりでに動くなど絶対に有り得ないからだ。
絵本は床に落ちてからも、ずっとカタカタと音を立てて震えている。
まるで本当に生きているかのように。
絵本の動きが段々と静まり、皆が安堵した瞬間。
今度は絵本が、強い光を放ち始めた。 - 6二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:41:42
絵本が紙面から、白く輝く光を放つ。
4人はあまりの眩しさに、目をぎゅっと閉じて腕で覆う。
「うわっ!?」
絵本はしばらくの間、光り続けていた。
やがて光が収まり、皆は瞼越しにそれを確認するとゆっくりと瞳を開いた。
すると、そこは既にトレセン学園の図書室ではなかった。
目の前にあるのは、賑やかで楽しげな雰囲気を放つ大きな大きな遊園地。
先ほどの絵本に描かれていた遊園地が、その場に現れたのだ。
というよりも、遊園地のある場所にスペ達が飛ばされたというのが正しいだろうか。
ピンク色の空も、遊園地を覆うおもちゃのブロックのような壁も、カラフルな観覧車も、爆走するローラーコースターも全てが絵本の世界と変わらない。
4人は急激な周囲の景色の変化に、戸惑いと焦りを感じていた。
テイオーはなんとか落ち着きを取り戻し、絵本が光り始めるまでに自分がした事を思い出す。
「確か………ボクが『こんな遊園地があったらなあ。』って言ったのに反応して、絵本が揺れ始めたんだ。それで………」
「つまり、テイオーの願いにこの遊園地が呼応したという事か?」
オグリは焦りながらも状況を判断し、結論を出す。 - 7二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:42:02
テイオーが遊園地に向かって『こんな場所で遊びたい。』と願った事で、絵本がそこにいた4人を巻き込んでしまったのだ。
絵本がテイオーの願いを聞き、望みを叶えようと中にある遊園地の世界へ他の3人も含めて引き摺り込んでしまった。
つまり、この絵本はただの絵本ではなく、人を閉じ込める力を持った恐ろしい代物なのである。
「作者も出版社も書いてない時点で、警戒しとけばよかった………。」
後悔して落ち込むテイオーの肩を、オグリがそっと叩く。
「ん、何? オグリセンパイ。 慰めの言葉なら別に欲しくないけど………。」
「そうではない。テイオー、あれを見ろ。」
オグリは自分達の後ろにあるものを指差す。
それは、開いた絵本の形をした白く輝く光であった。
4人がその光の元に駆け寄ると、そこには先ほど自分達のいた図書室の天井が見えた。
絵本はまだ図書室の床にあり、遊園地のあるページを広げたままなようだ。
この光の先に行けば、きっとトレセン学園に帰れるだろう。
閉じ込められたと思っていた4人はそう確信し、肩を撫で下ろして安堵した。
しかし………。 - 8二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:42:36
「ねえ、みんな。せっかく遊園地に来たんだから、ここで遊んで行こうよ。」
スペ達と違い、テイオーはトレセン学園に帰る気がなかった。
絵本の中の遊園地が現実に現れるという夢のような出来事が実際に目の前で起きたのに、それに自ら背を向けてみすみす無駄にするなんて絶対に嫌だ。
テイオーはそう思っていた。
「トレセン学園に帰るのは、ここで楽しく過ごしてからでも遅くはないはずだしさ。」
「でも………。」
テイオー以外の4人は、この絵本や遊園地の事を警戒していた。
あまり長く滞在していると、今度こそ閉じ込められるかもしれない。
これが何かの罠である可能性も否定出来ないし、そうであった時に抵抗する手段もあるとは限らない。
それに、学園の者たちもきっと心配する事だろう。
3人はなんとかテイオーを説得し、トレセン学園に帰ろうとした。
その時、何者かに声を掛けられた。
「おや? キミ達はお客さんなのねん?」 - 9二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:42:58
声を掛けたのは、人間ではなかった。
赤と青の派手な色をした、ぬいぐるみや着ぐるみのようなクマのマスコットであった。
顔や身体のあちこちには、星型やハートのマークが入っている。
その派手さはどちらかというと日本よりも、アメリカで人気を博しそうな感じだ。
シルクハットを被っており、杖も持っているので本人は紳士のつもりなのだろう。
背丈はスペ達よりも一回り大きく、影だけでそこにいる4人全員を覆い尽くすほどだ。
顔は可愛らしいが、いかんせん図体が大きすぎるのでスペ達に強い威圧感を与える。
それでいてのほほんとした喋り方をするので、それが非常に不気味であった。
オグリは恐怖を感じながらも、クマの問いにとりあえず答えた。
「いや、私達は遊びに来たわけではない。ただ、絵本に引き摺り込まれてしまって………だが、あの光から帰る事は出来るのだろう?」
「その通り。あの絵本の形をした光からキミ達の世界に帰れるのねん。でも、せっかくだからこの【ドリーミー・ワールド】で遊んで行くのねん。」
クマは、絵本の形の光から帰れるという事は肯定した。
しかし、遊園地で遊んでから帰るようにと勧めてくる。
先程のテイオーのように「遊んでから帰っても遅くない。」「せっかく来たのだから。」などと語っており、非常に胡散臭い。
ここのスタッフなのか、はたまた支配人なのかは分からないが油断ならない人物だ。 - 10二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:43:27
スペはクマの誘いを、丁寧に断った。
「ごめんなさい、誘って頂けて光栄ですが、遊園地に入るにはチケットが必要ですよね。私達、チケット代を持っていなくて………。」
「それなら心配しなくていいのねん。【ドリーミー・ワールド】は、入園やアトラクションはもちろん、中にあるレストランも全部タダなのねん!」
「!!!!」
クマがスペに返した言葉は、一同を大きく震撼させた。
入園が無料な遊園地は確かにあるが、それでも基本的にアトラクションや食事を利用するには別途の料金がかかるはず。
それすらも全てタダというのは、太っ腹を通り越してかなり怪しい。
そもそも遊園地の経営というのは点検やら電力供給やらで少なからず金がかかるもので、それをどうやって取り返すつもりなのだろうか。
スペ達が驚愕している間に、クマは自己紹介をし始めた。
「ああ、自己紹介が遅れたのねん。オイラはクマタン、ここのマスコット兼支配人なのねん。」
どうやら名前はクマタンというらしい。
ネーミングの直球さが、ある意味マスコットらしいだろう。
マスコットなのは見た目通りだとして、支配人というのは少々意外であった。
いくら胡散臭くても、相手に自己紹介をさせておいて自分は自己紹介をしないのは失礼だろう。
オグリは自分と、他の3人の事をクマ………クマタンに紹介した。
「私達も自己紹介が遅れてすまない。私はオグリキャップで、彼女達は左からスペシャルウィーク、サイレンススズカ、トウカイテイオー。私の友人だ。私達はトレセン学園中央校という場所から来た。よろしく頼む。」 - 11二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:43:57
クマタンはどうやらオグリ達は知らないが、トレセン学園については覚えがあるようだった。
「トレセン学園中央校? 知ってるのん! 全国にあるトレセン学園の中でも、選りすぐりのエリートウマ娘が集う場所だって聞いたのん! そんな名門校の生徒さんがわざわざ来てくれて、オイラ嬉しいのん!」
自分の学校を褒められて、4人は満更でもない気持ちになった。
誰しも所属している学園やチームを褒められるのは、気持ちよく感じるものだ。
「そんな名門校の生徒さんなら、きっと日々トレーニングや勉強で大変だと思うのねん! 是非うちでリラックスして行って欲しいのねん!」
慰るように見せかけて、しれっと遊園地に入る事を促す。
さすがは支配人だ。
入園もアトラクションも何もかも無料なのだから利益は出ないはずなのに、一体どうしてここまで遊園地に来て欲しいのだろうか。
スペは、クマタンに「少し考える時間を下さい。」と言った。
「いいのねん! でもあんまり時間をかけすぎると閉園時間になって遊べなくなっちゃうから、気をつけるのねん!」
クマタンは快く待つと返事をした。
「あの人、怪しいと思いますか?」
「ええ。入園もアトラクションも食事も無料な遊園地だなんて、世の中にそんなうまい話はないものだわ。」
「スズカの言う通りだ。私は鈍感な方だが、さすがに怪しいと勘付いた。さしずめ名門に通っている女子中高生を誘拐すれば、多大な身代金を得られると思っているのだろう。」
「でも………私達はウマ娘です。見た目は貧弱かもしれませんが、抵抗する手段はいくらでもありますよ。」 - 12二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:44:28
「そうだよ! アイツが何か企んでるのがバレたら、その時にぶっ飛ばせばいいんだ! ウマ娘があんなクマに負けるもんか!」
「スペちゃんはそこまでは言っていないと思うけれど………でも、そうね。私達には高い身体能力という武器がある。」
確かに怪しくはある。
しかし、人間を圧倒的に凌駕する身体能力を有する自分達ウマ娘なら、抵抗する手段はあるはずだ。
4人の出た結論は、完全に一致した。
今日は遊園地で遊んで、もしクマタンが何か悪事を働いていたら自分達の力で抵抗する。
学園の者が心配しているだろうから、何も起こらなくても翌日にはトレセン学園に帰る。
1日ぐらいならトレーニングをしなくても大丈夫だし、理事長には後で謝っておけばいい。
スペ達もクマタンを警戒してはいるが、遊園地で遊ぶか遊ばないかの二択ならもちろん遊びたい。
先程は遊園地に行きたがるテイオーを説得したものの、遊園地で遊びたくないと言えば嘘になるだろう。
スペ達は再びクマタンに行き、こう言った。
「クマタンさん、決めました。では先ほどのお言葉に甘えて、今日は1日中楽しませてもらいますね!」
「それでこそトレセン生なのん!この遊園地にいる限り、1秒たりとも絶対に退屈はさせないのん!」
クマタンは嬉しそうに言葉を返した。
4人はクマタンに見送られながらゲートを通過し、遊園地へと入っていった。 - 13二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:44:57
スペ達はまず、ローラーコースターへと向かった。
もっと大勢なら何人かに分かれるだろうが、今回は4人なので全員同時に行動する。
スズカはスペ達が迷子にならないか心配だったので、あらかじめ待ち合わせ場所を決めておいた。
「もしもはぐれたり迷子になったら、真ん中にあるお城の元に行くのよ。私が迎えに行くから。」
「はい!」
「ああ。」
「もう、スズカは心配性だなぁー。」
スペとオグリは素直に返事をするが、テイオーははいはいと軽く流した。
そうこうしているうちに、一行はローラーコースター乗り場へと辿り着いた。
ローラーコースターはかつて鉱業で栄えていたアメリカの岩山がモチーフとなっており、閉ざされた鉱山を暴走する汽車に乗って激しいアップダウンを楽しむ内容となっている。
これだけ賑やかな遊園地なのだからもっと混雑していても良いのに、どういうわけか他の客は1人もおらず、スペ達はすぐにアトラクションに乗る事が出来た。
スペとスズカがトロッコの1両目の前列、オグリとテイオーが後列に乗り込む。
スタッフや係員はおらず、代わりに設置されたロボットが乗る時のルール等を解説する。
「走行中に立ち上がったり、トンネルに入る時に手を伸ばすのはおやめ下さい。」
「停止しても安全バーが完全に上がるまで、決して動かないでくださいね。」 - 14二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:45:27
アナウンスされたのは、常識的なルールばかりだ。
4人の中にはスタッフの指示に従えないような愚か者はいなかった為、素直に指示を聞いた。
アナウンスが終わると、ガタンという大きな音を立てながら安全バーが下がり、4人をしっかり拘束した。
特定のバーのみを下げる事はどうやら出来ないらしく、誰も乗っていない車両のバーも下がっている。
安全バーが少しお腹に食い込み、押さえ付けられているように感じる。
この瞬間がドキドキする。
怖さと楽しみな感情が混ざり、心臓を激しく鼓動させる。
普通なら拘束されて嬉しい人間はいないが、ローラーコースターに乗る場合のみは別だ。
ガッチリと自分の動きを封じる安全バーに、強い安心感を感じる。
縦にループしたり激しく傾くようなコースがあるなら、尚更だ。
しっかりと全員の安全バーのロックがかかった事をロボットが手際良く確認し、安全が確かめられた。
そして、プルルルルというブザーが鳴り、コースターがゆっくりと動き始めた。
後ろから力強く押されるような感覚に、冷や汗が止まらない。
ローラーコースターはまず、長い登り坂へと差し掛かった。
コースターは自力で坂を登る事が出来ないため、設置されたチェーンリフトによって上へと巻き上げられる。 - 15二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:45:51
コースターが坂を登り始めた瞬間、後ろから押される感覚が強くなる。
そして、どんどん地面が遠ざかっていくのを見ると、自分達が高いところに登っているのを再実感する。
ガタタン、ガタタンと音を立てながらコースターはゆっくりと、頂上へ近づいていく。
頂上の後は、急降下する下り坂がある。
「スズカさん、私………ちょっと怖くなってきました。」
そう言っても周りには何もなく、逃げ出す事は出来ない。
コースターはスペ達のいる2両目が最も高い位置についた状態で、一旦停止した。
先頭の汽車が少しだけ下り坂に入り、下を向く。
頂上に設置されたゲートには、「Have a fun!(楽しんで!)と言っているクマタンが描かれている。」
既に下にある売店や自動販売機の類いは、豆粒のように小さく見える。
スペは深呼吸をし、覚悟を決めた。
一方でテイオーはワクワクした表情で、下を覗き込んでいる。
そして、コースターがゆっくりと動き出し、目の前の下り坂を一気に駆け下り始める。
ゴゴゴゴオオオオォォォォ!!!!
「ひゃあああああっっっっ!!!!!」 - 16二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:46:25
空中に投げ出されたかのような不思議な浮遊感に包まれ、一瞬だけ尻が浮く。
重力から解放されたような、はたまた内臓が浮くような謎の感覚が気持ち悪い。
そしてその感覚を味わう間も与えず、ローラーコースターは内側にえぐれるように急降下し、斜面を軽やかに駆け降りていく。
コースターの走行音と、スペ達の上げる悲鳴が周囲に一斉に響き渡る。
ダミーの汽車がスペ達の乗ったトロッコを率いり、まるで蛇のように駆け抜ける。
それは本気を出したスズカやオグリよりずっと速く、2人は自分の脚でも到底到達できないような速さに新鮮さを感じていた。
コースターは斜面を駆け降りた事で得た勢いに乗り、その後のチェーンリフトのない登り坂を慣性だけで駆け上がった。
そして今度は内側に傾いた螺旋状のレールをを旋回しながら滑り落ち、波打ったレールを上下に揺られながら走り抜けていった。
水溜まりを水をはねながら通過すると、水溜まりの中にある噴水が一斉に勢いよく水を吹き出し、スペ達をびしょびしょに濡らす。
しかし、ローラーコースターに乗りながら自身に吹き付ける風を浴びるうちに、すぐに濡れは乾いてしまった。
最終的には急降下で得たなけなしの慣性を振り絞り、大きな縦のループを一回転。
身体の上下が逆になり、頭の位置が脚よりも下にになるような機会は人生単位でも非常に少ない。
コースターが逆さになる瞬間、スペ達の髪も重力に引かれて逆さに伸びる。
額が露わになった事でスペ達は冷たい風を直に浴び、少し気分がよくなった。
しかし、4人は乗車中ずっと悲鳴を上げ続けた為、降りる頃には喉を枯らしてしまった。 - 17二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:46:50
ローラーコースターを後にして、何かを食べようと提案するテイオー。
するとスペが、近くにある屋台でホットドッグを売っているのを見つけた。
「スペちゃんは食べ物の事となると本当に真剣になるのね。」
食い意地の張っているスペにスズカはやや困惑しながらも、優しく微笑んだ。
そして、一行はホットドッグ4本を屋台で働いているロボットに注文した。
ホットドッグはすぐに、4人の元へと到着した。
天然酵母パンに包まれた香ばしいソーセージには、マスタードが贅沢に塗られており、野菜と4種類のチーズが入っている。
ソーセージはしっかりとした食感で、かみしめると肉の旨みが口の中に広がり、その下に敷かれたキャベツとチーズがその旨みを引き立ててくれる。
パンのふわっとした感覚と、硬めなソーセージやキャベツのギャップがたまらない。
大人ならビールを1本追加で頼みたくなるところだが、まだ未成年で学生のスペ達はビールの味を知らない。
それでも、スペ達は既にこのソーセージの虜になっており、スペとオグリは調子に乗って追加で20本注文した。
食欲の激しい者の多いウマ娘の中でも、特にその傾向が顕著に見られる2人だが、さすがにホットドッグ21本は中々腹にきたようだ。
最初の数本は余裕でたいらげていたが、18本を越えたあたりで段々と苦しくなり、21本でとうとうギブアップを迎えてしまった。 - 18二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:47:17
「食欲旺盛なのは元気な証拠だからいいけれど、腹八分目に医者いらず。ね?」
スズカは満腹で動けなくなったスペとオグリを見て、「あらあら。」と微笑んだ。
その後も彼女達は、遊園地を楽しんだ。
2人で乗れるメリーゴーランドの龍ではスペがスズカと一緒に乗り、テイオーに写真を撮ってもらった。
ゴーカートではテイオーの運転が初めてなのに非常に上手く、皆が感心していた。
コーヒーカップではオグリがカップを回しすぎた為、他の3人が目を回していた。
夕方になると観覧車から遊園地の煌びやかな星空のようなライトアップを見て、皆で感動した。
皆は観覧車の中で、それぞれの同期の事を考えていた。
「キングちゃん………グラスちゃん………エルちゃん………。」
「ネイチャ……ターボ……ブルボン……。」
「フクキタル……グルーヴ……タイキ……。」
「タマ………クリーク………イナリ………。」
みな、自分の事を心配しているだろう。
自分達だけ楽しい思いをして、果たしてこれでいいのだろうか。
彼女らに謝る為にも、もうそろそろ帰らなければならない。 - 19二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:47:50
スペ達はまずは、クマタンを探す事にした。
胡散臭い人物ではあるが、彼が無料で今日一日楽しませてくれたのは事実だ。
お礼の一つも言わないのは、失礼というものであろう。
学友や学園長、そしてトレーナー達に早く会って謝罪をしたいところではあるが、クマタンに何も言わずにここを去る事は出来ない。
しかし、クマタンが何処にいるのかは分からない。
自分達が遊園地に入った時、クマタンは一緒に入らずに外で見送っていたので、まだそこにいる可能性がある。
実際、園内では一度もクマタンを見かけなかった。
園内一面を見渡せるローラーコースターや観覧車にいても、彼の姿は何処にもなかったのだ。
スペ達は一旦、園外に出た。
入った時と同じ門を潜り、遊園地の外に出る。
クマタンは案の定、そこでスペ達を待っていた。
「お帰りなさいなのねん! 楽しかったのねん?」
「はい! 今日はどうもありがとうございました!」
「それはよかった。お客さんを楽しませる事が、オイラの生きがいなのねん。」
クマタンは、笑っていた。
人を楽しませるのが好きなのは、本当なのだろう。 - 20二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:48:14
しかし、次の瞬間。
クマタンの表情が、豹変した。
笑っているのは同じだが、何か悪い事を考えているような、そんな笑みを浮かべている。
「でも………もっと生きがいにしている事があるのねん。」
「それは………お前らみたいな学校をサボって遊園地で遊ぶ悪い子を、捕まえて監禁する事なのねん!!!」
監禁という恐ろしい言葉が、クマタンの口から出た。
彼は案の定、真っ当な人物ではなかった。
クマタンの姿がだんだんと氷のように溶けて歪み、ドロドロとした黒い液体に変わっていく。
声も音割れしたガラガラなものに変わり、恐ろしさを感じさせる。
4人は命の危機を感じ、絵本の形の光に向かって一目散に走っていった。
振り返ると遊園地が崩壊していくのが見えたが、すぐに黒い液に視界が遮られてしまう。
スペ達は自分の脚を掴もうとする液を蹴りながら、光へと懸命に逃げる。
「ざいじょがらぞうずればよがっだのねん!がっごうをザボっておいで、ばづがらにげるのばやめるねん!!!」
何とか液から逃げ切り、光へと飛び込む。
再び激しい光に包まれ、ゆっくりと目を開けると、そこは崩壊した遊園地ではなく、見慣れたトレセン学園であった。 - 21二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:49:25
面白かったぞ
- 22二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:54:19
実際こういうイベストはなさそうだよな
あまりに非現実的すぎるものはウマネストが最後だろう - 23二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:54:46
学園にいるそれぞれの同期のことを考えて悲しくなるとこ好き
- 24二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:56:14
クマタン戦をもうちょい丁寧に描いてほしかった
- 25二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 15:56:54
中々大作やったな。乙やで
- 26二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 16:01:27
前にスぺスズがインドに行くSS書いてなかった?
- 27124/12/02(月) 16:10:49
- 28二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 16:39:37
- 29二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 16:41:09
他作品の名前出して悪いけどツイステにこんなイベストあったな
- 30二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 16:51:01
去年のハロイベ・プレイフルランドか