引退後妄想SS

  • 1二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:10:40

    3つほど書けたので>>2から載せます

    ・バックパッカー サイレンススズカ

    ・メッセンジャー ツインターボ

    ・絵本作家 ライスシャワー

    以上の順です

  • 2二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:13:20

    ・バックパッカー サイレンススズカ

    ──この大沃野を、古のウマ娘たちも走ったのかしら
    サイレンススズカは思う。目の前に広がる草原は、ここが中東で、かの有名な砂漠地帯からそう遠くない場所だとは思えないほどだ。スズカが日本にいた頃のイメージと異なり、穏やかな丘陵が続いている。
    ──ここを走ったら、さぞ気持ちがいいでしょうね
    スズカは脚が疼くのを感じた。今にも駆け出したい気分だった。しかし、やるべきことがいくつかある。まずは目的地である古代都市を訪れたのだから、風景の写真を撮影し、動画の編集資料を得るため、カメラを回さなければならないだろう。たとえばそう、あの放牧されている羊などは、開けた景色と相まって、実にエキゾチックではないか。きっとウマチューブユーザーに満足を与えられるに違いない。
    スズカは深呼吸をした。
    ──気持ちいいに決まってるわ
    そして、駆け出した。

  • 3二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:15:14

    >>2


    大きなバックパックが揺れる。日本を出るときに贈られたこの頑丈な鞄は、最初こそ鮮やかな緑色をしていたものの、今では色褪せて黒ずみはじめており、補修と拡張を繰り返したので、繕った痕が目立っていた。スズカはそのことに対して、最初こそ残念に思っていた。いわばこの鞄は、トレセン学園で積み重ねた思い出の象徴だったから、変化が生じる度に、変わらないはずの思い出が、失われていくような錯覚に陥って、ひどく寂しさを感じたものだった。今になって思い返すと、ホームシックだったのだろう。ブログ「先頭の景色」に固定客がつき、広告料が安定しはじめた頃、友人たちとトレーナーからメッセージが送られてきた。そこにはスズカの旅の順風を祝う言葉がつづられており、バックパックを捨てずに使い込んでいることへの感謝が述べられていた。

    ──ああ、きれい

    スズカは脚を止めず、バックパックのストラップに手を伸ばし、ベルトを強く引き絞った。より体に密着させることで、安定を図ったのだ。不思議だった。背負っているというのに、抱きしめられているような感覚が得られるのだ。

  • 4二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:15:45

    >>3


    どこにいようと、たとえ一人であっても、脚を止めようとする自分と戦い、駆け出していけば、先頭の景色を見ることができる。旅を続ける中で、スズカはそんな風にも考えるようになった。そして、自分は決して彼らを置き去りにしたわけではないのだ。なぜかと言って、地球は丸い。アースグラウンドクラシック、60億人立て、1枠1番サイレンススズカ、今も地上を駆け続けている。先頭を維持した先には、生まれた国で待つ大切な人たちの姿があるぞ──ブログのネタにするには、ちょっと穿ち過ぎだろうか。スズカはほほ笑み、脚を止める。2000メートル近く走った気がする。羊と羊飼いのウマ娘がこちらを見ている。頭を下げる。羽織ったケープで汗をぬぐう。

    ──現地のウマ娘とレースをしました。彼女は羊飼いで、普段はあまり走る機会がないのでしょうか。とても楽しそうでした。もし楽しんだ時間を競ったとしたら、違った決着を迎えるのかもしれません

    ──彼女と、彼女の家族のご厚意で、今晩は泊めていただくことになりました。その写真がこちらです。スパイスが効いた羊肉の焼き物は、間違いなくこの土地でしか食べられない味がします。貴重な一頭だったのでしょう……。お心遣いに感謝するばかりです

    ──明日は有名な架空園を目指します。バ場は良好そうなので、昼ごろには着くでしょう。そこにしばらく滞在するつもりです。世界中の花が咲き乱れて、草木が生い茂り、鳥たちが遊んだと言われる架空園の現在と、その周辺に住む人びとの姿をお届けします。もしその様子をご存知の方がいらっしゃったら、申し訳ありません、今日と明日ばかりはコメントを控えてください。私の見た景色と、皆さんの見た景色、その二つを重ね合わせて、新しく見えてくるものを楽しみましょう

    ブログを更新し、スズカは羊飼いのウマ娘と同じ布団で眠る。お互いに言葉は不確かで、何を言っているのかわからないこともあったが、走ることが大好きな気持ちは通じあっている。

    サイレンススズカは止まらない。もはや競うことはなく、レース場を離れて久しい彼女が、脚を止めない理由がそこにあるのだろう。つまり、スズカは今も走っていたいのだ。


  • 5二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:16:47

    次はターボだもん!
    でもちょっと(当初比)妄想強めだから閲覧注意かもだもん……

  • 6二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:19:32

    ・メッセンジャー ツインターボ

    やりたいことが全部やれるわけじゃない。
    世の中、走ってはいけない場所の方が多い。仮に走れたとしても、信号とか、制限速度とか、道路の流れとか──自由な走行を妨げるものが、街には満ちあふれている。
    ツインターボは20歳になった。トレセン学園を卒業してから、もう一年以上経っている。背丈はあまり伸びなかったが、少し肉付きはよくなった。昔みたいなツインテールは少し恥ずかしく、けれども二つには括っていたいので、少しだけ短くした髪を、うなじのあたりでおさげにしている。風にたなびく青い髪を褒める者は多いが、道行く車に絡まっては危険なので、昔ほどは伸ばせないのだ。
    オーバーサイズのTシャツは、ターボの日常に欠かせない。なぜかと言えば、そのだぼついたシルエットが自分らしいからだ。暑いときは一日に何度も交換し、ガンガン洗濯するから、安くて丈夫なものをまとめて買っている。
    寒いときはパーカーを羽織る。これも大きなサイズだ。もっと寒かったらスタッフジャンパーを羽織る。背中には「MilkyWay」の文字がプリントされている。それは行きつけのカフェの名前で、牛乳に並々ならぬこだわりを持った名店だ。この店の生クリームたっぷりフルーツサンドは絶品であり、カフェオレも合わせてターボはいつも注文する。本業が奮わないときはアルバイトをさせてもらう店でもある。
    古着屋で買ったお気に入りのショーツに、学生時代から愛用しているスポーツブランドのレギンスを合わせる。シューズはインディペンデント・メーカーのもので、ソールには蹄鉄型の圧縮ゴムが装着されている。誰もが知るように、ウマ娘が公道を走る場合、金属の蹄鉄は使用を禁じられている。アスファルトをたやすく抉るからだ。
    肩掛けカバンは先輩から譲り受けたものだ。本体はぼろぼろで、さまざまなワッペンが貼りつけられている。その中には「MilkyWay」のものもあり、「Twin Turbo」と現役時代に作られたグッズから拝借したものもある。カバンのバックルをゆるめ、近ごろ取り替えたのでまだ固いベルトを強く引き絞り、無線機をしっかり固定すると、仕事の準備は万全だ。
    いつでも走れる。どこにでも行ける。なんでも届けられる。
    「こちらTB。配達完了しました。指示願います」

  • 7二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:20:21

    >>6


    現役時代の彼女を知る者なら、さぞ驚いたことだろう。ターボ自身もいまだに違和感がある。しかし、社会に出て仕事をするとなると、それに相応しい言葉遣いと振る舞いを要求される。

    客を相手にする上での適切な振る舞いは、ナイスネイチャに教わった。

    社会人としての丁寧な言葉遣いは、イクノディクタスから学んだ。

    それらの勉強に嫌気がさすと、決まってマチカネタンホイザが慰めてくれた。

    友人たちの支えがあって、今の自分がある。「とにかく走る仕事がしたい!」と言ったターボに、トレーナーはメッセンジャーの仕事を、ためらいがちに紹介した。なぜ躊躇したかと言うと、この仕事は安定していないからだ。最低限保証された給料があるわけではなく、届けた荷物の量に応じて報酬が変わってしまう。また、常に依頼があるとは限らない。結果として、行きつけのカフェでコーヒーを淹れ、せっせとフルーツサンドをこさえ、注文をとり、レジを打って、客に頭を下げる必要になる。

    ターボは後悔していない。

    メッセンジャーをしながら一人暮らしを始めて、何度か家計が苦しいときがあった。その度にネイチャがご飯を作りに来てくれて、イクノは食べられる野草について説明し、マチタンはアルバイトの口利きをしてくれた。トレーナーにそのことがバレたとき、彼は金銭的な援助をそれとなく申し出たが、ターボはそれを断った。

    「もう少しだけ、自分の力でやってみるもん!」

    街はレース場ではない。ほかのウマ娘たちと競走する場ではない。特急の郵便物を運ぶのだから、大逃げを敢行した結果、力尽きてヘロヘロと歩くことは許されない。ペースを考えなければならない。

    かつて多くのファンを魅了したツインターボという個性は、彼女が大人になったことによって、失われてしまったのかもしれない。しかし、彼女は彼女である。ツインターボはツインターボでしかない。たとえその振る舞いを変えてしまったとしても、走り続ける限り自分は自分なのだとターボは強く信じている。

  • 8二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:20:50

    >>7


    仕事がうまくいかないことがある。

    心ない言葉を浴びせられることもある。

    ひもじくて、ベッドで一人泣いた夜もある。それでもターボは走りたいからこの仕事を続けている。

    「これが諦めないってことだ!」

    それは自分が最も輝いていたときの言葉だ。あのときの自分に恥じないため、今日も彼女は府中の街を駆け回る。いつかこの脚も止まるだろう。しかし今ではない。


  • 9二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:22:59

    最後にライスなんですけど、今日の4時頃に投稿して、もう過去ログいっちゃったんで、URLを載せますね

  • 10二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:23:54
  • 11二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:30:02

    以上です


    引退したウマ娘が就いてそうな職業|あにまん掲示板マックイーンはグルメリポーターとかしてそうbbs.animanch.com

    ↑このスレを見かけて、ちょっと書きました


    引退後のウマ娘たち|あにまん掲示板bbs.animanch.com

    ↑こんなスレを前に立てたのもあって、楽しかったです


    関西ローカルで活躍するタマちゃん概念とかもいいと思うので、またなんか書きたいですね

    みなさんよい休日を

  • 12二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:41:24

    どれも素晴らしい作品だった

  • 13二次元好きの匿名さん22/03/05(土) 11:44:53

    世界を駆けるスズカさん像いいね

オススメ

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