- 1二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 22:52:24
アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。
本編を上回るほどの規模となった『西ユーラシア政変』-この世界線では『C.E.73年地球連合軍冬季攻勢』とも-がようやく終結しました。
南アフリカを荒らしまわり、オルドリンを目指していたブルーコスモス派連合軍とデストロイも潰え、ようやく世界とミネルバ、アグネス達は傷ついた翼を休ませることが出来るかに思われましたが...。
本編の世界がそうであったようにこの世界線で生きる人々にとっても、厳しい冬は始まったばかりなのかも知れません。凍てつくバルト海に降り立つ大天使と戦女神の大梟はどのように向き合うべきなのでしょうか?
おつきあいをいただければ。 - 2二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 23:02:14
前スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com1スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com2スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com3スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com4スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com5スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com6スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com※落としてしまった7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com再建てされた7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com8スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com9スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com10スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com11スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com - 3二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 23:05:16
たておつです
さあエンジェルダウン作戦は発動されてしまうのか - 4二次元好きの匿名さん24/12/02(月) 23:24:33
アスランカガリとちょびっとだけ会えたみたいでよかったねぇの気持ち
親書をスカンジナビア経由で送ったりはしたけど直接のやり取りは格別だよね、やっぱり
エンジェルダウンどうなるかな…… - 5二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 01:22:30
デストロイに随伴していたウィンダム隊長機、そのパイロットがファントムペイン指揮官ネオ・ロアノーク大佐だった。
難しい顔をしながら判明した新事実を告げるグラディス提督の言葉が様々な考えを脳裏に呼び起こす。
まとまりのない考えや感傷は邪魔だ。整理しよう。
アグネス「少しだけ考えさせてください」
タリア「いいわ。好きなだけ。待ちます」
アグネス「ありがとうございます」
心配げな女上司の前で必死に考えをまとめる。
まず、あの隊長機がファントムペインの上級指揮官で、アーモリーワンから続く因縁の敵であったことは分かっていたこと、今更驚くな!私は馬鹿になったのか!?
アグネス「(そう。それは想定の範囲内だったはず。先の戦いでもガイアを伴って戦っていたし、スマトラ島にダイダロスクレーターと干戈を交えてきた)」
まさか『大佐』の階級とは思っていなかったけど。それもよく考えたら納得できることだ。
大佐と言えば陸軍なら連隊長あるいは旅団長、海軍なら艦長あるいは戦隊司令、空軍なら飛行群(飛行連隊)司令を務める立場。彼がこれまでになって来た任務、即ち犯罪規模と合致する。
そして、プラントと対ロゴス同盟国は、ファントムペインを軍隊とは認めず、テロ組織・犯罪組織と認識している。だから、『大佐』の階級は彼にとってはありがたいものではない。
むしろ逆だ。下っ端より親分の方が重い罪に問われるのが道理というもの。
アグネス「(本人がどう思っているかは知らないけどね。というか、この決定自体を知らないかも知れない。ダイダロスからの急転直下、頭が付いて行けていないのは私だけとは限らないだろう)」 - 6二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 01:47:07
保守
- 7二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 01:50:20
感傷を廃して考えてみよう。ムウ・ラ・フラガ少佐の要素は排除して。
『もし、第三国の艦に戦争犯罪・人道犯罪の被疑者が保護・拘束されているなら?』
引き渡しを要請するだけのことだ。無論、相手の対面を傷つけることなく注意した上でね。
これまでの人類が培ってきた法の常識を守る。引き渡しを求める艦の艦長に誓約してもいい。
被疑者・未決拘禁者の人道的な処遇と拷問の禁止、公平公正で迅速な裁判、そして残虐な刑罰の絶対的な禁止。国内法でも国際法でも当たり前のことだ。
アグネス「(ただ、今の感情的な世論の中でそれが厳守できるかは…。正直分からない。地球連合軍正規軍とファントムペイン、ブルーコスモスゲリラではこちらの心証が違い過ぎる)」
ある意味、ポーランドと南アフリカのファントムペイン部隊が、母艦のハンニバル級のクルーも含めほぼ玉砕してくれて助かっている。人の死にそんな感想を抱くものではないかも知れないが。こちらが不名誉な振舞いをしたと史書に記述されずにすんだ。
アグネス「(いや、やはり真実究明には痛手過ぎる。ロゴス・ブルーコスモスの陰謀の真相、ロード・ジブリールを始めとしたメンバーの居所等聞き出したかった情報は山ほどあったわ)」
更に言えば…。本当に死んだもの皆が厳密な意味での戦死だったのか?暴虐が現場で振るわれていなかったか、その実を私は知らない。ここでの本題からは逸れてしまうけど。
次は『ネオ・ロアノーク氏≒ムウ・ラ・フラガ少佐』問題に関して。
私は彼と直接の面識は当然ない。だから、フラガ少佐についてはただの恩人と言う関係だ。
先の大戦の英雄にして、地球・プラント両勢力を核の炎とジェネシスの死のガンマ線から救ってくれた3隻同盟の要であった人だ。
アグネス「(アスランからお人柄は伝え聞いている。あのような非道に積極的に関与する人間とは思えない。生前の言動業績とあまりにも矛盾している)」
勿論、人間は相矛盾した言動をする生き物だ。生きている内に考えが変わることもあるだろうし、行動の仕方も変化する。とは言え、たったの2年だ。余りに振れ幅が大きすぎる。ベクトルが反対なんだ。 - 8二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 02:03:26
と言うことはやはり-。
アグネス「(ヤキン・ドゥーエ戦で行方不明になった後、負傷・漂流中の彼を連合が回収して記憶操作・洗脳をしたと考えるのが自然ね。責任能力なしなら無罪、治療を受けさせるのが筋と言うもの)」
ただ、そこに彼の階級、開戦から現在の世界の在り様と戦況、保護された先がアークエンジェルと面倒な要素が絡み合って変な化学反応を起こしてしまっている。
この知恵の輪をどう解けばいい?腹黒議長が暗に示唆したというアークエンジェル強襲などもっての外な選択肢のはずではあるけど。
アグネス「まさか、フラガ少佐とは別人であって欲しいものです。同一人物にしても転向によって悪事に加担した者であって欲しい。もし、記憶操作や洗脳で本人に責を問えないなら、混乱は必至です。無論、責任能力のないものに刑事罰を加えるが出来ないのは大前提です」
我ながら要領を得ないことを言っていると自覚する。得意顔でレポートを以て上官の病室に乗り込み、訳の分からない戯言を弄するとは…。アカデミーで学んできたのはナイフとフォークの使い方だけだったのか?!
情けなさで小さくなる私を宥めるようにグラディス提督は声をかけてくる。
タリア「そうね。だから、アークエンジェルに特使を派遣するにしても特務隊だけという訳にはいかない。問題が大きすぎる。交渉役として不足しない、それこそ最高評議会議員の内どなたかを派遣していただいて政治判断をその場で下せるようでないと。そうでないなら交渉は無意味よ」
最高評議会議員の中から特使を…。
良い案かもしれないが、この現地情勢でアプリリウスから西ユーラシアに踏み込む評議員などいる者だろうか。それこそ話が大きくなり過ぎではないか。うーん。どうすれば良い? - 9二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 02:22:40
アグネス「…。まだ本人確認さえできていません。何にせよ事前協議は行う必要はあります」
この状況を何とかしないととんでもないことになる。そんな焦りが心を突き動かしてくる。
タリア「それに出向くと?怪我の治療はどうするつもりなの。貴女、まだ点滴無しでは生きられない状態なのよ。頭を冷やしなさい!」
私の迷走ぶりに呆れた提督が議論を修正して下さる。思い上がってはいけない、何でもできる気に成るな、と厳しい口調で指摘される。
確かに彼女のおっしゃる通りだ。私は骨折どころか臓器の傷さえ回復しきれていない。せめて固形物を食べられるようにならないと『敵地』に望むべくもない。
何でもかんでも手を伸ばし過ぎていたのだろうか。
アグネス「落ち着きを失っていました。申し訳ありません」
タリア「よろしい」
提督はそう言うやレポートを高性能シュレッダーに押し込む。紙が裁断される機械音が虚しく響くが仕方ない。もう、あの紙に用はないのだから。
しょんぼり気落ちする私に対し、表情を和らげながら彼女は今回の面談の結論を下す。
タリア「スカンジナビア王国とアークエンジェルの件、私から最高評議会と国防委員会に上申しておきます。貴女は…。自分を労わりなさい。自分を守れるのは自分だけよ。傷ついている時は猶の事ね」
アグネス「え…」
タリア「祖国を泥沼から救い上げたいのは貴女だけじゃないわ。そうでしょう?」
そう言ったうえで彼女は席を立つ。『連名での上申』はさりげなく拒絶されてしまった。上官が目の前で立ち上がって姿勢を正すので、私も急いで立ち上がる、立ち上がろうとするが...。
アグネス「うっ…」
鎮痛剤が薄れたのか、勢いが良すぎたのか。左の上半身に何本もの稲妻が走る。 - 10二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 02:40:10
タリア「自分を労わりなさいと言ったばかりでしょう。はぁ。しっかりしなさい」
左上半身を庇うように呻く私に手を差し伸べながら、さっきの言葉を彼女は補足する。
タリア「アグネス、貴女はもう目立つ存在。出る杭は打たれるものよ。ましてそれが女性ならなおのこと。潰そうとする人や足を引っ張ろうとする人だらけよ。…、便利に使い潰そうとする人間もね」
思わず握りしめてしまった彼女の掌が柔らかい女性のものであったことに今更ながら驚く。強い軍人の手に私は慣れていたから…。
タリア「お節介を言うようだけど。貴女は17歳。その歳の女子が渡るには余りに危うい橋よ。普通の戦闘任務とは違う。分を良く弁えなさい。私が今の貴女と同じ年の頃、それなりにいろいろあって…。私も18、19の頃に結婚・出産、初めて尽くしの子育てで大変だったけど。状況は比較にならない。言いたいこと、伝わっているかしら?」
アグネス「…。はい」
不承不承、返事を返す。提督のお心遣いはありがたい。親心と言うものだろう。
しかし、この案件を一時的とはいえ手放して良いものか。特務隊長は彼女だし、選択の余地は実質無いのは確かだけど。
アグネス「(権限上は頭越しに上申できる。でも、その場合は更に成功確率は低くなるだろう。スカンジナビアとの和平の件は彼女に預かってもらうのが現状ベターかな)」
そう自分に言い聞かせ、納得させる。そう言えば、朝、手術から目を覚ましたばかりだったわね、私。
アグネス「はい。お任せします」
私の返答を聞いた後、彼女はじっと私の両目を覗き込み、それから此方に敬礼する。
タリア「よろしい。『貴女の発案だったこと』、上手くいったときは改めて記録に残します。落ち着き、注意深く時間を過ごしなさい」
アグネス「はい。よろしくお願いします」
この場合、人からの好意は素直に受け取っておかなければならない。私も返礼し、長い話につき合ってくれたお礼を言って病室を辞去する。 - 11二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 03:46:25
議長がタリアもアグネスも想定してない斜め上のことやらかして現場で必死に考えてる現状の打開案をぶっ壊す未来しか見えねぇ…
- 12二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 07:16:37
アークエンジェルと敵対していない分、余計にネオ・ロアノーク問題が厄介な事になってきてるのか…
- 13二次元好きの匿名さん24/12/03(火) 17:51:56
ネオの何が厄介って記憶を完全に別人に書き換えてるけどムウと切り離して完全にネオ・ロアノークという個人で見た場合はネオ自身の意思で作戦を指揮して遂行する能力があって責任能力もある立ち振る舞いしてる点なんだよなぁ・・・
しかしネオの身柄が口実で議長は最初からAAを物理的に排除したいと思ってるとはアグネスもタリアもまだ確信に至ってないからなぁ
関係各所へ働き替えてるとこに議長の策謀が正面衝突事故を引き起こすのは確実なわけで… - 14二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:00:58
少し落ち込み気味にグラディス提督の病室を退出する。
何だか虚脱感で胸がいっぱいだわ。最初からシュレッダー処理するつもりだったレポートが実際に目の前で切り刻まれて行くのを見ると…、胸にくるものがある。空振りに終わったわけだ。
少し涙ぐみつつ廊下をよろついていると提督の副官役をしているミネルバクルーが車椅子を押して来てくれた。リハビリだと思って極力歩いて来たけど、一気に疲れが出て来ていた。ここは有難く乗せてもらう。
ミネルバクルー「提督から言伝です。『貴女の積極性を嬉しく、心強く思っている。よく休みなさい』と」
アグネス「うん…」
少し涙を病院服の袖で拭うと彼女に車椅子を押してもらい、自分の病室に連れて行ってもらう。この程度のことで涙、弱っているのかな。やっぱり。
プラントには俊英が揃っている。ザフトには英才が集っており、軍は精強さを失っていない。
何でも手を出そうとする私は思い上がっているのか。ゆっくり骨折が治るまで1か月くらい微睡みつつ日々を過ごすのも悪くない。その頃には案外この戦争も終わっているかも…。
いや-。
現実逃避は止めよう。ミネルバは未だ敵中にいるも同然。
1か月休んで、その間に見知った顔が亡くなっていたら、いや、見知った人でなくともミネルバ、月軌道艦隊、冬季攻勢を共に戦ったギーベンラート飛行隊、その内の誰かが亡くなっていたら私はきっと生涯後悔する。
共に戦う中、隣で斃れた戦友を見送るのと、病院のふかふかベッドで夢を見ている内に仲間が死んでいたのでは訳が違う。
内臓の傷は如何ともしがたいが、ヒビが入った鎖骨と肋骨はある程度、前倒しできるかもしれない。全力リハビリと最新治療で1か月を2週間にも1週間にも縮めて、ダメならコルセットとバンドと鎮痛剤で誤魔化してでも前線に戻るべきだ。 - 15二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:06:52
アグネス、なにか思考が准将化してないか? 「僕がやらなきゃ」じゃなくて「私もやらなきゃ」だけど。
某議長の陰謀はどうなるかねぇ。正規の手続き吹っ飛ばして押し通したとしたら、真面目に手続き進めて
いた人たちから反感買うの待った無しだし。……まさか「そこまで考えてなんかいない」って事は無いよね?
- 16二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:08:43
決意を新たにキュルルルと音を上げる車椅子で自分の病室に続く廊下の角を曲がる。すると、よく見知った顔が4人、部屋の前をウロウロしている。赤服3人、緑服1名。
此方から声をかけよう。
アグネス「アスラン先輩!ルナマリアにシンも。お久しぶり(?)です。メイリンもありがとう。彼女と同じ便で此方に?」
アスラン「ああ。そうだ。変わりないか。すまない。あるから入院なんだな」
シン「大丈夫か?」
ルナマリア「だから大丈夫じゃないんだって!」
何か急に賑やかになったな。まあ、ありがたい。
アグネス「本当に来ていただいて。ありがとうございます」
そう言って敬礼しようとするとアスランから立たなくて良いのジェスチャーをされる。
なので私は車椅子上で敬礼、私の車椅子を押してくれているクルーも後ろで姿勢を正す気配がする。ただ、手礼はしない。車椅子から手を離してはいけないからね。アスランからの返礼を受け二人で直る。
アスラン「アグネス、その…。大勢でズカズカ、押しかけてすまない。お見舞い…に来た。俺達がミネルバとパイロット隊の代表だ。その、ハイネはアッシュの3人と一緒にバルト海に潜っているから。くれぐれもお大事にと4人からも言伝を頼まれてきた」
そう言って二つのバカでかい花束を私に差し出してくれる。なるほど、片方がこの4人+ミネルバ組、もう片方がお見舞いに来られなさそうな潜水組の分ね。
右手を伸ばし、抱きしめるように2つの花束を受け取る。良い香りが胸の中で弾けて鼻から脳に伝わってくる。うん。本当に嬉しいわ。 - 17二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:15:06
アグネス「あれがとうございます。アッシュ組はエーゲ海からですね。ハイネ先輩はお疲れではありませんでしたか?」
アスラン「ああ。だが、彼が言うには2日休んでもうすっかり良くなったと。カリーニングラードのバルチック艦隊がどうしても気がかりだと言って、上申して4人で。昨晩から出撃して早速、ユーラシア連邦の攻撃型潜水艦を1隻撃沈したそうだ」
疲れ知らずね。やはり、歴戦の猛者は違う。私とは諸々の条件が異なることを差っ引いても。でも、それだけじゃない。多くを見過ぎてしまった、私達は。でも、今更、それを言ったところで仕方ない。
アグネス「心強いことです。バルト海の制海権は重要ですから」
アスラン「ああ…。そうだな」
それから目線をルナマリア達に向ける。
アグネス「来てくれてありがとう。レイの所には?」
ルナマリア「ええ。皆で先に」
ルナマリアの返事にシンとメイリンも頷く。アスランも仏頂面のまま頷く。別に不機嫌なわけでは無く、元からの彼の顔はこうなのだろう。
シン「思ったより元気そうで安心した…」
アグネス「格好つけているだけでしょ。ゆっくり休めば良いわ」
ともあれ、皆と再会できてとても嬉しい。嬉しいを何度言えばいいのやら。私は自分で思っていたより孤独に弱い人間なのか。そう言えばアビーを見送る時、ショーンとデイルとも会えた。
私は自分が思っているほど一人きりで戦っていた訳では無い。自分が弱るたびに何度も同じことを気づかされる。
アグネス「貴女もどうもありがとう。提督の補佐に戻ってね」
ミネルバクルー「はい」
ここまで車椅子を押してくれた彼女、副官役を頑張るミネルバクルーにもお礼を言っておく。グラディス提督も惰眠を貪るつもりはさらさら無さそうだった。それなら部下が要る。
それに、さり気なくルナマリアが車椅子役を交代しようとしていたからね。 - 18二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:18:48
彼女が後ろに回ってくれたのを気配で察知した上で、お見舞いに来てくれた皆に声をかける。
アグネス「立ち話もなんですから、よろしければ皆一緒に中へどうぞ」
アスラン「ああ」、ルナマリア「ええ」、メイリン「はい」、シン「うん」
そのままルナマリアに押してもらって自分の病室にゴールイン。部屋に入ったら、さらに疲れが噴出してきたわ。もう、くらくらよ。
アグネス「よいっしょっと」
車椅子を押してくれたルナマリアに一瞬目配せして軽くお礼をすると、車いすから立ち上がり、ベッドにゆっくり骨に負荷をかけないように座り込む。
自分で4人を招き入れておいてなんだけど、来客・お世話係用の椅子が3人までしかない。アスラン、女性二人は椅子でシンは立ちね。一応言っておこう。
アグネス「アスラン先輩、ルナマリア、メイリンどうぞ。シン、椅子が足りなくてごめん。持ってきてもらう?」
シン「いや…。俺は良いから…」
アグネス「?そう?」
ふと、シンの顔を見ると表情に色濃い影が有る。単なる疲れだけではあるまい。私と同じく見たくもないものを見て、傷つけるべきでない人を無数に傷つけた罪悪感に苦しんでいるんだろう。
ルナマリアも眼差しがどこか虚ろで暗い。アスランも心なしか顔が強張っている。何時も強張っているけど。
アグネス「(ハイネ先輩がいち早く任務に戻られた心情も今なら何となく理解できる)」
今回の戦いは余りに多くのものを双方の陣営から奪い去ってしまった。どちらの陣営にも属したくない人も含めてだ。
そして、私達は守る側であると共に奪い去り、破壊する側でもあった。そのことを今更ながらに見せつけられ、皆が心に傷を負っている。自分よりはるかに同情されるべき人達のことを思うと息が出来ないほど苦しい。 - 19二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:21:56
ただ、それはそれだ。
皆、傷を舐め合うためだけにキールから飛んできたわけでもあるまい。グループカウンセリングはまたの機会にしよう。お見舞いの言葉もさっきお聞かせいただいた。
メイリンは入室直後から、勧められた席に座ることもなく機材を使いながら部屋のあちこちを確認している。盗撮・盗聴対策に余念がない。頼りになるわ。
やがて、彼女から『OKです』のアイサインが届き、私も改めて『座って』と目線で促す。そして、メイリンの着席と共にようやく本題に入る。
アグネス「アスラン先輩、それに3人がここに来たのはお見舞いだけではなくアークエンジェルについて、話し合うためですね?」
アスラン「そうだ…。すまない…。入院中に」
面目次第も無いと言った顔のアスラン、とは言え、特務隊同士そろそろ意見交換しないわけにはいかなかっただろう。同じく特務隊のシンもルナマリアもいる。ちょうど良いだろう。
アグネス「実は先程、グラディス提督に…(中略)」
メイリンも含めた4人にさっき私たち二人が交わした話し合いの要点を掻い摘んで話して聞かせる。シンは一々変な反応をして居るし、ルナマリアは頷いたり目を丸くしたりで忙しい。メイリンは好奇心旺盛な瞳を忙しく光らせて、アスランは難しい顔をしたり、もっと難しい顔をしている。
アグネス「こちらはこのようではありますが、アスラン先輩達は?」
アスラン「俺は…」
シン「プラントは、ザフトはどうしたら良い?ラクスさんの暗殺未遂ってどうなったんだ?アークエンジェルに乗っているんだろう?」
自分の説明がいったん終わったので、あちらに話を振るとアスランが言い淀んでいる内にシンから質問が飛んできた。同時に3つも!
アグネス「後半二つは私が知るわけないでしょう!彼女がどこにいるのかさえ。オーブを出る時はアークエンジェルと一緒で行動を共にしていたはずだけど…。アスラン先輩、ご存知ですか?」
確かポーランドのデストロイ戦でキラ・ヤマトやアスハ代表と接触していた筈よね。 - 20二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:24:35
アスラン「すまない。あの時はそれどころじゃなかった。ほぼデストロイとの戦いと、パイロットの保護で手一杯だ。ラクスがどこで何をしているかは…。俺も分からない。アークエンジェルに大気圏離脱能力は無いから、普通に考えたら艦内だと思うが…」
そう言って、アスランはシンに目線を遣る。アスランが知らないならどうしようもない。あの修羅場でそこまで気を配るのが無理なことは誰でもわかる。だから、シンもそれ以上は追及するのを止める。
しかし、ラクス暗殺未遂問題もそう言えばあったか…。もう最悪だ。
アグネス「(あの事件、プラント上層部が-下手したら腹黒議長自身が-係わっていた可能性が高いのよね。忙し過ぎて頭から抜け落ち気味だったわ)」
抜け落ちてなかったとして、何かできたかと言うとそうでもないのだけどね。
雲を掴むような議論に時間を取りたくはない。私も身体が少ししんどくなっている。
アグネス「『分からないこと』を分かっておくことも大事です。ラクス暗殺未遂の真相、現在のラクスの居場所は分からないことです。そして、彼らとしては前者が分からなければ、我々に後者を教えてくれることは無いでしょう」
ルナマリア「そうよね。アークエンジェルと政権外のクライン派はラクス暗殺未遂の件からプラントを警戒している。ミネルバのことは信じてくれているみたいだけど。でも、私達も軍人、命令系統にいる以上は簡単に秘密を話してはくれないわね」
アスラン「そう…なるな。しまった。聞いておけば!」
シン「戦闘中にですか?そもそもお互い聞いても分からないって言い合うだけになりますよ!」
アグネス「そう言えば、当時の状況を私はあまり理解していません。映像記録は拝見しましたが…。実態はどの様でしたか?」
まあ、本題ではないのだけどやはり聞いておくべきだろう。どうも要領を得ない。
アスラン「俺が降下した時の状況は…」
アグネス「(え…。そこから話すの?)」 - 21二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:29:34
やや長い話を頭の中で要約する。戦闘が長時間に及んだせいで回想タイムも長いわ。
二人に改めて話を聞くと、当時の戦況は混迷を極め、機体同士の通信状況も良好とは言えなかったそうだ。フリーダムとセイバーは半ば阿吽の呼吸で戦っていたのであって、詳しい情報交換など望むべくもなかったという。
その上、セイバーとインパルスはデストロイとミネルバ・ブレスト周辺を何度も往復しながらの任務だった。輸送ヘリの護衛も合間合間にしていた。シンはシルエット交換もこなしながらの戦闘だったから、猶のことだ。彼らはアークエンジェル側の事情について共闘した割には良く知らないのだという。
ともかく、はっきりしているのは最終局面でブルデュエルがムラサメ3機に撃墜され、そこからドミノ倒しのように隊長機とストライクノワールがアスランとキラ・ヤマトに撃破され、勝負がついたことだ。
その後、青息吐息となっていたデストロイをその場の全機でコックピットを避け、爆散させないよう慎重に撃破、中のパイロットを救出したという。
そして、アスハ代表が操縦するストライクルージュとセイバーに乗るアスランが至近距離から会話を交わし、ルージュの掌から、セイバーの掌へエクステンデッドの命が託されたわけだ。
そして、肝心のネオ・ロアノークはと言うと、ウィンダム隊長機が墜落した際にコックピットから投げ出され気を失っていた。その時点で良く生きていたと、その幸運に驚くばかりだが、彼の幸運はさらに続く。
発見者がデストロイ救出後、手の空いたキラ・ヤマトだったからだ。
アスラン「俺が…。俺達が彼を見たのはその時で。キラもカガリも本当に驚いていた。被っていたマスクが脱げた下の顔は、大きな傷跡があった以外はムウ・ラ・フラガ少佐その人だった。本人としか思えなかった」
メイリン「それでそのままにしておいたら、リンチに遭うのが目に見えていたからアークエンジェルに保護した、と言うのがこれまでの流れだそうです」
アグネス「…」
なるほど。状況は理解した。困ったわ。何にも名案が思いつかない。 - 22二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:40:09
ルナマリア「死刑にする…。わけにもいかないわよね。私達にとっても大恩人な訳だし。フラガ少佐は」
シン「いや…。でも!」
アグネス「前大戦の功績と今大戦の戦争犯罪は分けて考えるべき。それはそれ、これはこれよ!」
どんなに偉業を成した大聖人でも、ふとしたきっかけで悪事をなすことがある。その場合はやはり法にのっとって処罰されるのが筋と言うもの。
その人の生い立ち生き方等の情状は裁判で汲み取れば良いことだ。あるいは検察が考慮するかもしれない。何にせよ、私達やアークエンジェルが勝手に免責できるものではない。
ただ、事前に公布していた『エクステンデッドや記憶操作・洗脳、薬物投与によって戦闘を強制されていた兵士は、本人自身も人道犯罪の被害者である点を考慮して大幅な刑の減免や恩赦の対象とする』と言う内応と照らし合わせると重い刑を下すわけにもいかない。
それにそもそもの話-。
ルナマリア「でも、責任能力がないならそもそも無罪よね。刑罰でなく治療を受けてもらわないと。それに、人情としてアークエンジェル側が引き渡すとは思えない…」
アスラン「…」
メイリン「そうですね」
そう。ルナマリアの言う通りではある。ただ、そもそも起訴するかどうかは検察の判断することではあるし…。
これから開かれるであろう国際法廷の構成はまだ固まっているとは言えない。
ともかく、暫し黙考してみる。
アークエンジェルは多くの秘密と言うか鍵を抱え込んだ状況だ。この世界やプラントの政界を揺るがすようなネタを持っている。ミーアの正体にしたってそうだ。彼ら自身がそれを積極的に悪用していないだけのこと。
彼らが隠そうとすること、守ろうとするものをこちらから無理やり引き出そうとしてもプラントが重傷を負うだけだわ。ラクス・クライン関係のことは特にね。
では秘密にするべきでない、むしろオープンにするべきことは何か。彼らが何なら此方に打ち明けてくれ、情報を共有してくれるか、と言うと-。
アグネス「ネオ・ロアノーク。彼はこの局面の『ゴルディアスの結び目』にもしかしたらなるかも知れません」
アスラン「どういうことだ?」 - 23二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 01:55:14
アグネス「『ネオ・ロアノークの正体の確認』。その大義名分が有れば、私達はアークエンジェル側と上手くいけば複数回会合を持つことができます。堂々とコミュニケーションを図る口実が出来た-と考えるべきかもしれません」
そう口にして、怪訝な顔をしているアスラン、考え込んでいるシン、心配顔なルナマリア、流石にハラハラして此方を見つめているメイリンを順に見つめていく。
アークエンジェルとアスハ代表とは話し合わなければならないことが、スカンジナビア王国との講和の仲介の件を含め沢山ある。沢山あるが半敵対陣営ともいえる現状、無制限に会談をするわけにもいかない。味方に疑われてしまう。
アグネス「【アークエンジェルが捕虜にしたファントムペイン指揮官ネオ・ロアノーク大佐の正体は、元連合士官ムウ・ラ・フラガ少佐の可能性がある。その正体を確かめ善後策を練らなければいけない】、と言う名目で1回目の会合を持ってはいかがでしょうか?
無論、1回で終わらせず、次につなげる形で。グラディス提督が動いてくださっているのでその結果しだいとなりますが…。どうでしょうか?」
提督には私が単独で突出するのは危険と指摘された。そもそも、そんなことが出来る体調でもない、療養に務めよと。
確かにおっしゃる通りだ。先ずは提督の働き掛けのアンサーを待つのが順序。ただ、プランBはきちんと考えておかなければならない。
幸いこの場には特務隊が4人もいる。メイリン、仲間外れにするつもりはないからね!
アグネス「アスラン先輩経由であれば、ともあれ、一回目きりの情報交換程度なら応じてくれるはずです。そこからとっかかりを得るのもプランBとしてあり得るかと思います。グラディス提督とよく報連相を取りながら備えておきませんか?」
そう特務隊アスラン・ザラ、特務隊シン・アスカ、特務隊ルナマリア・ホークに質問する。どうだろうか。
アスラン「俺に異論はない。そうだな。グラディス提督のお話を伺いながら、何時でも動けるように」
シン「うん。そうだな…。他に思いつかないし」
ルナマリア「そうね。結局待ちになっちゃうけど。そこは大丈夫?」
大丈夫じゃないわよ。この問題にはタイムリミットが有る(かもしれない)。アークエンジェルがスカンジナビア王国の領海・領空に帰ってしまえば、全部の話が吹き飛んでしまうんだ。 - 24二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 08:08:29
ヤマト准将はムウさん渡す渡さないの交渉になったらクソ強そうと言うかアスラン曰くやりたくないことは絶対やらない性格だから最悪ムウさん1人のためにザフトや連合と殴り合いも辞さないファイティングポーズ取ってきそう
- 25二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 08:25:24
あとはムウとしての記憶が戻ってるかどうか…
いや状況からして多分戻ってないんだけど - 26二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 08:26:52
しかし映像で見たいなセイバーとフリーダムの共闘…
- 27二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 20:11:28
☆
- 28二次元好きの匿名さん24/12/04(水) 20:41:55
- 29二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 00:00:38
そもそもアークエンジェルは救助救援活動のために西ユーラシア連邦(リトアニア)の領海に留まっているに過ぎない。ビルニュスの襲撃から72時間は過ぎ、瓦礫の下に生存者が見つかる可能性は1秒ごとに少なくなっている。
勿論、人間の生命力は想像を超え、大規模な災害の際には奇跡的な生還者が毎回生じる。1週間程度の過酷な環境を耐え抜き、発見される例も歴史的に見れば少なくない。救助活動を断念するにはまだ早いかもしれない。
生存者のための救援活動、最低限の瓦礫撤去や炊き出し、入浴支援も行ってくれるかもしれない。ただ、全部向こうの善意頼りだ。
そのためにアークエンジェル一行が長居をしてくれると想定するべきではないだろう。
考えをまとめ、ルナマリアに返答をする。
アグネス「そうね。多めに見積もっても…。あと、4~5日でアークエンジェルはスカンジナビアに帰ると思う。交渉・接触可能な時間は長くない。でも、だからと言って焦ってはことを仕損じるわ。先ずはグラディス提督の返事を待つ」
そうルナマリアにも念を押しておく。自分自身が迷走しそうになったからこそだわ。
4人に目を配ってもう一度同意を取り、一息つく。アスランが相当思いつめた表情をしているのが気がかりだ。
アグネス「アスラン先輩、どうかくれぐれも慎重に。先輩ご自身も難しいお立場です。それを忘れなきよう」
アスラン「ああ…。分かっている」
大丈夫かしら、この人。偶によく分からない立ち回りをしだすから心配だわ。
アグネス「(後でフォローしておかないと…)」
シン「おい…。アグネス。大丈夫か?」
大丈夫かって?もうフラフラのクラクラよ。シンに看破されるとは私も修行が足りない。 - 30二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 00:06:55
彼に答える代わりにその場の全員に打ち明けてしまおう。
アグネス「申し訳ありません。もっとしっかりお話したいのですが、身体が…」
アスラン「ああ!すまない。本当に無理させて…。申し訳ない」
アグネス「いえ。こっちが勝手に無理をしただけなので。少し休みます」
そう口にした途端、緊張が一気に切れてしまう。頭がボーリングの玉みたいに重くなって姿勢を上手く保てない。そのまま、左半身を庇いながらベッドの上に仰向けに倒れてしまう。
男性の前でみっともない。これ、ふた昔前ならお嫁にいけない失態ではないか。
ルナマリア「あんた大丈夫?!ごめん。気づかなくて…」
言うが早いかルナマリアがナースコールを押している。早合点し過ぎ、疲れただけだ。
アグネス「ああ。大丈夫。お腹が減ったんじゃないかしら…」
ルナマリア「分かったから…。看護師さんが来るわよ」
アグネス「…」
部屋に入って来た2名の看護師が急いで点滴を開始する。確か、グラディス提督の所に行く前にもしてもらったから、やはり頭を使って脳の栄養が足りなくなったのか?夕ご飯はまだかな。それとも脾臓が全快ではなくて、貧血気味なのか。
忙しそうに布団をかけ直されたり、あれやこれやされる私を4人は痛ましいものを見るように眺めている。
メイリン「ゆっくり休んでください。アスランさんやお姉ちゃんは近くのホテルに宿を取っています。私はもうしばらく病院にいますから…。連絡先を貴重品入れの金庫に入れておきます。それと略綬、勲章・記章も。制服は掛けておきますね」
アグネス「ああ…。ありがとう…」 - 31二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 00:09:17
いけない。私が不調なせいで…。
アスラン「無理せず…。いや…。ともかく、ゆっくり休んでくれ」
シン「何か有ったら連絡してくれ」
ルナマリア「もう。調子悪いなら、先に言いなさいよ」
いや…。私の調子のいかんにかかわらず結構不味い情勢なのだけど…。
口を開けて何かを言う体力も急に無くなって来た。ちょっと何か…。
お見舞いに来てくれた4人にぼやける視線で目礼して、次の瞬間には意識が落ちてしまっていた。
ピピピピピ
タイマーの音で目を覚ます。点滴が空になったみたいだ。
薄目を空けて部屋を見渡すと、4人は帰った後だった。ただ、頂いた花束が綺麗に生けてある。メイリンかルナマリアがやってくれたのだろうか。
私の担当の看護師さんが入室して点滴を外すと、暫くしてあの味がしないお粥みたいなものを持ってくる。
ぼんやりした頭のまま何となく口に入れていく。しっかりしなければいけないのだが、どうも頭がまとまらない。意識が飛び散って斑の様だ。やはり、手術から起きた当日に調子に乗り過ぎたかな。
看護師が再入室し、食器を下げた後、私の服を脱がせて体をお湯で洗いながら拭ってくれる。ありがたい。正直、自力でシャワーを浴びられたか微妙だ。
その後、医師が入室、恥ずかしがる余裕なんてない。彼は何やら小難しい説明を私にしてくれる。要は身体の回復は順調だが、無理をしないように、それと早速、今晩から骨折の早期治癒療法を開始するそうだ。
彼は私に説明が書かれた紙を手渡した後、看護師に指示を出し、清潔になった体に何やら怪しいスライムみたいなジェルを塗りたくらせる。 - 32二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 00:14:35
ちょうど、不全骨折をした左鎖骨や肋骨の上ね。
医師「これは特殊な経皮吸収ジェルで傷んだ骨と関節を急速回復させる効果があります。これから毎晩、これを塗って寝ていただきます。そして、ここからが肝心ですが。このジェルを覆うように機具を着けてもらいます。そこから電気と超音波と二酸化炭素とその他さまざまな刺激を適量、不全骨折した箇所に当てて、寝ている間に身体を治していきます」
アグネス「ありがとうございます。軍人らしくない質問かもしれませんが、痛いですか?」
痛いのが嫌と言うより、睡眠が取れなくなるのが恐い。頭がボーとしたままでは、また今日の繰り返しだ。
医師「軽い睡眠薬を処方します。良く寝れますよ」
アグネス「ありがとうございます。それと、私の付き添いに来てくれていた赤い髪のツインテールの女性軍人はホテルにちゃんと帰りましたか?何だか心配で…」
メイリンにちゃんとお礼が言いたいけど、この状態では無理だろう。変に気兼ねしていないだろうか。
看護師「先程、お帰りになりました。アグネスさんが夕食を食べられたことを確認して。『こちらは任せて下さい、おやすみなさい、アグネスさん』と言伝を」
アグネス「そうですか。ありがとうございます」
そう言って睡眠薬を飲み目を閉じる。かなり早い就寝だが骨を直すには睡眠時間が大切だ。機械に繋がれた骨折治療装置が唸ったり、ビリビリしたり、温かくなったりと鬱陶しい。
ただ、それも深い眠りの淵に落ちていく私を留めることはできなかったようだ。羊を数える間もなくまた私は意識を手放してしまう。 - 33二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 08:16:23
ザフトの医学薬学は世界一ィ!
- 34二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 08:23:13
軍人の考え方があんまり通じない人達だから人類滅亡手前レベルの死線を共に駆け抜けたアスランのがまだネゴシエイターとしてマシそう
- 35二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 08:26:28
もしも価値観が根本的に違ったら
アグネス「こうこうこんなメリットとデメリットがありますよ」
准将「それのどこがメリットなの?どこがデメリットなの?」
アグネス・准将「「???」」 - 36二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 17:37:25
この時点のAA組は所属が曖昧だから、行動基準のうち義理人情による割合がでかくなってる印象はあるな…
共闘した相手に取り付く島もない、なんて対応もしないだろうけど… - 37二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 17:50:40
ラクス本人が原作と違ってまだアークエンジェルにいるなら話し合いもやりやすそうだが…宇宙で共闘した時にまだエターナルにラクスいなかったし
- 38二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 17:56:01
暗殺仕掛けてきた奴らと同じ勢力に一番辛い時期を支えあってきた仲間を差し出すなんて無理ですよねえ
- 39二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 18:48:33
ふと思ったけどエザリアが裏で手を廻すのがギルの動きよりも早くてギルがデスティニープランの導入宣言する前に失脚したらファウンデーションに亡命してデスティニープランやりそうな気が…
- 40二次元好きの匿名さん24/12/05(木) 23:52:56
- 41二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 00:32:32
ネオ・ロアノークは転落の負傷が元で死亡して、現場で記憶喪失のムウ・ラ・フラガを拾ったことにすればヨシ!
同一人物?
やだなあ。
子安声のイケメンなんてそこら中にいますって。 - 42二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 00:35:49
ピピピピピ
タイマーの音で目を覚ますのが日課になってしまっている。ラッパの音に叩き起こされるので無いだけマシかな。
アグネス「うーん。痛い!」
健やかに目覚めて体を伸ばした途端、痛みが走る。健康を取り戻してきた証だろう。
暫くして看護師が骨折治療装置を取り外しに来てくれる。それは良いが、身体は経皮吸収ジェルの残りと治療装置が起因となったと思われる大量の汗で体がベトベトだ。それと喉が渇いて仕方ない。
アグネス「看護師さん。お水をゆっくり飲んで良いですか。それとシャワーを浴びたいのですが、構いませんか?」
看護師「ええ。お水は内臓がビックリしないようにゆっくりと飲んでください。点滴は今日までなのでお体を慣らしていきましょうね。シャワーは看護師が付き添います」
アグネス「ありがとうございます」
何だか至れり尽くせりで申し訳なくなってしまう。寒風吹きすさぶ野戦病院で今も喘いでいるはずの戦友達、彼らが今の私を見たらどう思うだろうか。
看護師「それとリトアニアのザフト飛行隊から、テレビ電話で連絡がありました。アグネスさんの部下だった方達がお見舞いの言葉を、と。ただ、アグネスさんはもう、お休みになっていたので。ちゃんと録画してあるので後でご覧になって下さい」
アグネス「ありがとうございます」
それと、と気まずげに彼女は付け加える。
看護師「こちらの手違いで昨日お渡しできませんでしたが、飛行隊の皆さんからお手紙とお見舞いの品が届いています。本当に申し訳ありません」
アグネス「いえ、謝らないで下さい。お忙しいのは理解しています。受け取ります。どうか病室に」
看護師「はい」
解散したギーベンラート飛行隊の皆ね。気を使ってくれるのは正直、とても嬉しい。
ユーラシア連邦レニングラード軍管区の敵部隊は健在だ。彼らの負担を和らげるためにも何とかスカンジナビアとの講和は実現したい。 - 43二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 00:40:53
それはそうとして-。
申し訳なさそうな表情の看護師をフォローしつつ、一緒にシャワー室へ向かう。ドロドロの病院服と下着を脱ぎ捨て、身体に負担が掛からないよう温いシャワーを浴びる。そして、真新しい下着と病院服に着替えてようやく一息つく。
病室に戻ると丁度、お粥のような流動食が運ばれてきたところだった。昨日より水分の量が減っている。少しずつ体を本調子に戻していかないとね。
アグネス「(何しろ、今日はレイの転院日。壮行会の日だ。ちゃんと送り出してあげないと)」
問題があるとしたら、私の負傷部位が左鎖骨と左肋骨だということ。勲章・記章はほとんどが左側に佩用する。レプリカを全部着用したらかなりの重さだわ。コルセットとバンドをしっかりして鎮痛剤もちゃんと飲んで行かないと、みっともないところを見せてしまう。
レイの前でそれはかなり癪に障ることだ。あいつとはいろいろあった。願わくばこれからもいろいろあって欲しい。
アグネス「(人のことばかり。アホか。私は何時から博愛主義者になったんだか)」
聖女気取りなど性に合わない。なんかこう、うーん。悪女っぽいことした方が良いかな。思いつかないが…。と言うか、悪女はなろうとしてなる者でもないだろう。
美味しいとは思えないお粥を食べつつテレビをつけると、昨夜の振り返りニュースが流れてくる。
ニュースの目玉はクレタ島連合司令本部とプラント・西ユーラシア連邦が新たな合意文書にサインしたとのことだ。
調印式に臨むプラント側の代表はデュランダル議長の(表の顔の)片腕ことノイ・カザエフスキー最高評議会議員だわ。あの人、陰謀面は何にも知らなそうなのよね。
調印式の会場は汎ムスリム会議領土でクレタ島からも比較的近い旧トルコ領イズミル市、彼女は全権大使としてプラント最高評議会から派遣されたという。
アグネス「(良くコンビを組んでいるクリスタ・オーベルク最高評議会議員は本国で待機か)」
ダイダロス基地でも暴露動画では少し情けない姿を見せてしまった彼女、今回は誇らしげに胸を張って居る。満足いく協定を結べたようで何よりだわ。 - 44二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 00:48:03
さはさりながら、クレタの戦いは私達ももろに当事者だわ。作戦の帰結をしっかり知っておきたい。
テレビのニュースを目を皿にして見る。昨日の時点で世界はどう動いたのか。
アグネス「(どれどれ…)」
合意内容は、まずクレタ島地球連合軍は、クレタ島ソウダ湾海軍基地に司令部を置き、この合意以後も猶、解散せず存続するということ。
その上でクレタ島地球連合軍はロゴス・ファントムペイン・ブルーコスモスの一連の陰謀、人道犯罪、戦争犯罪を最も強い言葉で非難する。プラントのロゴス討伐宣言に賛意を表し、反ロゴス陣営として対ロゴス同盟軍に加わるものとすることが決定したそうだ。
クレタ島地球連合軍は対ロゴス同盟軍としては、ザフト及びその同盟国軍が行うロゴス・ファントムペイン・ブルーコスモスゲリラとの戦闘にのみ参戦する。それ以外の地球連合軍とザフトの軍事衝突には双方の友軍の情から局外中立の立場を保つ、と。
アグネス「(へぇー。地球連合軍から反ロゴス同盟軍なる義勇軍が生じつつあるわけね)」
ただ、困ったことにプラントと同盟条約締結国の間にはこの戦争の講和条約が締結されていない。世界各地でバリバリ戦闘中だ。
呼応してくれた地球軍の姿勢としては確かに対ロゴスでは同盟、国家間の通常戦争では局外中立、それが一つの答えにはなるのだろう。ただ、そんな虫の良い条件がまかり通ったのはクレタ島部隊の特殊な立ち位置によるものが大きい。他の地球連合軍はそう簡単に対ロゴス同盟軍には呼応できまい。
他の条件としては-。
クレタ島地球連合軍はソウダ湾海軍基地、ハニア国際空港、マレメ空軍基地、及びその付属地と兵舎、各基地を繋ぐ道路と事前に合意した空域・水域以外のクレタ島から完全に軍を撤収、島を西ユーラシア連邦ギリシャ政府に返還する。 - 45二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 00:56:07
クレタ島地球連合軍の内、西ユーラシア連邦領内出身者で帰国を希望する者は一切の刑事・民事・行政の不利益なく帰国を許される。いかなる社会的不利益も彼らに及ぼしてはならない。彼らの軍歴は、この合意以後も任務が解除され、本人が無事に帰国するまで正規軍のものとして扱われ、自身と家族の受け取る給与・年金等に反映され、授与された勲章・記章は佩用を妨げられない。
クレタ島地球連合軍は地中海の西ユーラシア連邦の海上保安活動再開のため、船舶・航空機の引き渡しに応じる。
具体的にはフレーザ級18、哨戒艇5、揚陸艇20、長距離哨戒機4、大型輸送機4、VTOL輸送機20、工兵車23、汎用車両・兵站車両・軍用トラック41。
それと『ザフト及びその同盟軍が地球連合加盟国領土内で大規模な戦争犯罪・人道犯罪を引き起こした場合にはクレタ島地球連合軍司令部より発せられた抗議声明が発せられる。抗議声明を受けて猶、ザフト軍及びその連合軍に改善が見られない場合は、合意を通告、一定時間経過後にこの協定は破棄される。』
ふーん。ふむふむ。まあ、まあ妥当じゃない。こちらの優勢のまま合意が結ばれて何よりだわ。
アグネス「(クレタ島地球連合軍と合意ができるなら、アークエンジェルとも可能性は十分ある筈。グラディス提督、頑張ってください)」
ともあれ、これでクレタ島は決着と。西ユーラシアがキプロス島も何とかしろとプラントを鬱陶しくせっついているようだが…。後回しだ。
何時の間にやらお粥を食べ終わっていたわ。次は点滴か。その後、レイの見送りね。
看護師に食器を下げてもらい、点滴を打って貰いながら思考を整理する。プランCも考えておくべきだろうか? - 46二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 01:06:03
もし、あってはならないことだが、ミネルバがアークエンジェル攻撃を命じられた場合、彼らを倒すことができるか。答えは否だ。ユニットとしては不可能、他の部隊の応援が要る。
先ず、ミネルバ…、と言うか月軌道艦隊は大気圏内を飛べるモビルスーツが少ない。
インパルス(フォースシルエット)、セイバー、カオス、グフ3機の計6機だ。
セイバーのアスランは当てにならないだろう。幼馴染に主君に同胞(オーブ軍人)にかつての戦友が相手だ。裏切らないで部屋に籠ってくれたら、それだけで御の字だろう。
カオスの私は負傷中、まあ、これについてはベラルーシの時みたいに無理くりでも乗り込むとしても…。
グフの内、レイは傷病休暇に入る。間に合わせでも良いからルナマリアにでも乗ってもらうとしても…。
実質3機(シンのインパルス、ショーンとデイルのグフ)とヘロヘロのカオスとヨチヨチのグフの計5機で勝負、話にならないわ。
それに対してアークエンジェルはフリーダム、ストライクルージュ、ムラサメ10機の計12機が空戦可能、それも高度な空戦だ。
ムラサメの空戦能力は万全な状態のカオスをも上回る。グフは接近戦に特化した機体だから分が悪い。インパルスをフリーダムにぶつけて、シンが仮にいい勝負をしたとしても一騎打ちをするのではない以上どうにもできないだろう。
ミネルバ・月軌道艦隊には他にも多数のモビルスーツが配備されているが、実は対アークエンジェル戦ではほぼ役に立たない。全部グゥルに乗るか甲板で砲台、対空砲になってもらう、もしくは海に潜っているしかない。
これまで、グゥルに乗った部隊が大活躍できたのはミネルバとの相互援護が前提だ。その上で、これまでは戦況として、相手からミネルバに接近、攻撃してくることが多かった。だから、迎撃している内にこちらが優位に慣れたんだ。
ミネルバから攻勢をかける際も大抵、動くことが出来ない地上拠点や陸上の戦車部隊等、こちらより足が遅い部隊が相手だった。
飛行状態のアークエンジェルにそのまま接近して行けるとは思わない方が良いだろう。 - 47二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 01:22:31
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- 48二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 01:25:53
それらの難関をクリアして、万難を排してアークエンジェルに接近できたとする。
しかし、あの艦には私達が2連装高エネルギー収束火線砲『ゴットフリートMk.71』×2備え付けられている。まあ、此方はアンチビーム爆雷で対処しようもある。ミネルバにも2連装高エネルギー収束火線砲『トリスタン』が×2ある。
一番厄介なのはあの艦に陽電子破城砲『ローエングリン』が2門あること、ミネルバにはタンホイザーが1門のみだ。改ミネルバ級になって射角が改良されはしたが、それで優勢になれるわけでは無い。
これ等の火砲を命中させようにもあの艦の操縦を司るノイマン氏の腕はアスラン曰く、達人急らしい。こっちだって、死線を何度も乗り越えたマリクさんがいる。そう簡単に彼らの主砲を掠めさせるとは思えない。
そうなると互いが必中位置を取るべく争うことになるが、それが困難を極めることは言うまでもないだろう。
勝利条件も良くない。
ミネルバが停泊しているキールから、アークエンジェルが錨を下ろしているクライペダまで720㎞ある。因みにクライペダからスカンジナビア王国ゴッドランド島まで222㎞、ストックホルムまで447㎞だ。別にアークエンジェルはミネルバを撃沈する気はないだろうから、この間の距離を逃げ切ればいい。
それと絶対忘れてはいけないのはオーブ連合首長国の国家元首たるアスハ代表にはお怪我をさせてはならないこと。彼女に関しては、絶対不殺が条件になる。
というかそれを言ったら弟君のキラ・ヤマトも極力不殺にしないといけない。それと、本来の目的であるネオ・ロアノークも殺さずに捕らえなければならない。
つまるところ、あの艦を沈めてはいけないんだ。オーブ軍人を死なせれば、オーブ本国との講和にも差し障るから、可能なら、モビルスーツは全機不殺で撃破しなければいけない。その上でアークエンジェルの武装と推進機のみ破壊して着水に追い込む。そして、陸戦隊を組織して接舷して斬り込む。
アグネス「(アホか!無理難題にもほどがある)」 - 49二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 01:35:25
バルト海で大作戦を繰り広げること自体が大きなリスクだ。ユーラシア連邦のバルチック艦隊はまだ無力化できていない。
その上、最悪スカンジナビア王国軍がアークエンジェルを助けるために出撃してくる恐れもある。
一応、あの国とプラントは今も戦争中なんだ。アークエンジェルをスカンジナビア王国の目前、バルト海でウロチョロ追い回すのは此方の身を危険にさらすだけだ。それは他の部隊を巻き込んだ大掛かりな作戦でより顕著になる。
せっかく相手が形式参戦に留めてくれているのに。
バルト海が大事なのはスカンジナビア王国と手同じ。その上、彼らは非公式とは言え、王家の客人なんだ。その大事な賓客を自国の裏庭で沈められようものなら、国家の面目が丸つぶれになる。黙っているとは思えない。
更に言えば、スカンジナビア本国への侵攻作戦の前段階と誤解されても文句は言えないだろう。
このリスクは作戦の規模が大きくなるにつれ、より多くの軍事ユニットが動くにつれ加速度的に大きくなる。
ミネルバだけでアークエンジェル撃破が難しいのに、他の隊を巻き込んだ作戦はより難しいというバカみたいな話になる。
つまり、プランCはほぼほぼ無理。せっかくクレタが良い感じになっているんだ。ここは『利確』しても良いのではないか。後は交渉でどうにかするべきとは思うが…。
生産性がないことを考えている内に点滴が終了。そろそろ…。
メイリン「アグネスさん、おはようございます!」
アグネス「メイリン、おはよう。昨日はありがとう」
メイリン「いえいえ」
ひょっこり顔を出してくれたメイリンに挨拶を交わす。彼女の制服にも今日ばかりは記章がフル装備されている。良し、あのアホを見送ってやるとしますか。 - 50二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 10:57:43
✩
- 51二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 12:07:59
プランCは無理筋どころか、アスランは離反しかねないわ、味方の士気は低いわ、どうにかして艦内突入しようものなら生身最強クラスが迎撃してくるわ…
恥も外聞もなく奇襲して撃沈するしかない気がする - 52二次元好きの匿名さん24/12/06(金) 20:24:14
こんな無理難題も理論上はデスティニーにシンを乗せればムラサメ全機撃墜してフリーダムとルージュを振り切ってAAを航行不能に追いやれるからヤバイよね
もっともこの作品の状況でエンジェルダウン作戦やるとシンのモチベーションは原作のオーブ侵攻以下になるだろうけど - 53二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 00:01:17
恐ろしい事に、無印で地上降りてからのAAはドミニオン相手くらいしか縛り無しで勝ちにいった事無いという
それでいて陽電子砲封じたままミネルバ相手にしつつ、隙見てザフト潜水艦と水中用MSをバカスカ落としたりしてたからなアレ。それが窮鼠というか、子を守る母ライオン状態
今のミネルバクルーが、運命ラストで乱戦の中でAA詰ませた所まで育っていれば返り討ちまではいかんとは思うが
頼みのシンもいくら性能上のディスティニーとはいえ、原作悪夢以上に必死になりそうなキラ相手にやる気出ない状態で、下手したら後ろのアスランにも警戒しなきゃという逆風だし - 54二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 03:10:53
元気そうなメイリンの顔に虚脱感にも似た安堵感を覚える。
私は目を覚ましたらベルリンのベッドの上だった。キールのミネルバの仲間たちがとても恋しい。数日しかたっていないから大袈裟だと思われるかもしれないけれど。戦場の時間を生きていた自分が戦友から引き離されることは本当に苦痛だ。
彼女がいなければ、周囲に一人ぼっちになるところだった。実は病院に3人+付き添いもいたけど。それでも心細かったわ。
お見舞いに来てくれる人々に心から感謝している。
アグネス「メイリン、貴女、よく眠れた?」
メイリン「まあまあですね。クレタ島が収まるところに収まって良かったです」
アグネス「本当にそうね」
世間話をしつつ考える。この子に…。いや、この人に何かお礼がしたい。
呼び方も『あんた』から気が付けば『貴女』に変っていた。私は斜め上か少し距離がある人には貴女呼びにしているけど、メイリンは接している内にそうなっていたわ。
アグネス「(飛行隊から届いたお見舞いの品を後でおさがりに渡そう。私が渡せるものはそれぐらいしかない)」
でも、今は自分が身嗜みを整えるのに必死になるべきだ。看護師に点滴を抜いてもらったら、急いで鎮痛剤を飲み下す。
ヒビが入った鎖骨と肋骨を固定・支えているコルセットとバンドは要チェックだ。外出中にずれてもらっては困る。
メイリン「勲章つけるの手伝いますね」
アグネス「ありがとう。リトアニアの仲間から私にお見舞いが届いているから、食べ物とか持って行って」
メイリン「アグネスさんが一口目を食べられるようになったら、貰っていきます」 - 55二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 03:16:19
そんな会話を重ねながら、ズボンを履き、上着を着こむ。ここまでは自分でやれるのだ。何でもやっていくことがリハビリに繋がるわ。
ただ、大量の記章と勲章の佩用は他人の手を借りるしかない。これまで頂いた勲章と記章の実物はプラントの実家に送ってあり、手元にあるのは許可を得て作成した複製品だ。
右胸に『プラント最高評議会議長部隊表彰』のリボン(略綬)を3つ佩用する。
3つの内、1つは我らが惑星強襲揚陸艦『ミネルバ』名義で授与されたもの。6回表彰されたので銀の星が一つ。
もう1つはグラディス分艦隊名義で授与されたもの、これは一回きりなのでリボンだけ。直ぐに分艦隊が本体になってしまったから…。
そして、最後の1つは月軌道艦隊名義のもの。6回表彰されたのでミネルバ名義のものと同じように銀の星1つを着ける。
手伝ってくれているメイリンの右胸を見て、少しうれしく思う。
アグネス「右側は皆一緒ね。合流時期の違う人は少し変わるけど」
メイリン「そうですね。私達は現役で戦った組なので。ずっと着けていられるのでお得です」
少し悪戯っぽい表情をするメイリンにアイコンタクトで同意する。
そう。私達の後にミネルバに赴任してきたザフト将兵もこの略綬は身につけることができる。けれど、任地が変わったら外さなければいけない。私達は軍服を纏う限り、ずっと身につけていられる。
後輩達の残念そうな顔を拝みたいものだ。嘘、そこまで意地悪になる気はない。
ただ、後輩のそのまた後輩の、そのまたさらに先の後輩が艦を離任する時に際に残念がり、その先の日にミネルバが記念艦として保存されるぐらいであって欲しい。
アグネス「(記念艦として残らずとも。別に訓練の標的艦になる最後でも良い。ただ、戦没して欲しくない、させられないというだけよ)」 - 56二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 03:26:58
だから、ガルナハンから立ち上がってくれて本当に嬉しかった。カスピ海から月の戦いに赴き、今、バルト海に旗を翻しているのが奇跡に思える。奇跡の立役者になれて光栄だ。
レイもそのことには同意してくれると思う。あいつとは何かといろいろあったけど、僅か数か月とは言え、あの艦で死命を共にしたことだけは事実だ。ミネルバとそこに集った人達を大切に思っていてくれると信じている。
メイリン「さぁ~て。重たくなっていきますよ。覚悟してくださいね」
アグネス「怖いこと言うわね…。と言うかメイリンも重たいでしょう」
メイリン「だからですよ」
先ず、自分で左胸元にフェイス徽章を着ける。もろに鎖骨付近でザワっとした悪寒が走る。思えば不全骨折して初めて制服を着るわけだ。我慢していた違和感がこみ上げるが、沈める。
そのまま、今度は『最高評議会名誉勲章』と『最高評議会宇宙名誉勲章』に首を潜らせる。この2つは首にかける形式だ。鎖骨がしなるが良いリハビリだと思うことにする。
『ネビュラ勲章』4個を左胸に並べて、そこに柏葉が3個付いた『特殊十字章』と『殊勲章』、『銀星章』、『銅星章』も頑張って並べて着ける。
左胸の1段目はこれでいっぱいだ。もう2個ぐらいは行けるか?
アグネス「ああ。戦傷章。忘れるところだった!」
メイリン「それで入院しているのに。ダメじゃないですか」
アグネス「ごめん」
何故か謝ってしまう。まあ、いいか。うーむ。甘やかしすぎかな。いや、私が甘やかされているのか。共依存ダメ絶対。
アグネス「(杞憂か。メイリンは人に依存するタイプじゃないし、私は…。私は何だろう?)」
ともあれ、『名誉戦死傷章』2つを1段目の最後に加える。結構な重量になって来た。戦争前ならこれらの勲章を貰って鼻高々になっていたはずだし、今も誇りに思っている。 - 57二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 03:37:10
でも、私が一番大切に思っているメダルは…。
7回賞してもらい飾版が金1枚、銀2枚目となった『人道記章』。この戦争が終わったら政財界に入る前にザフト軍のレスキュー部隊に移動願を出そうかな。どうかな。
左胸の2段目に静かに着ける。先のことは先。分からないことだらけだ。ただ、ちょっと顔を上げてメイリンの左胸を見ると同じ記章が輝いている。私とは少し数は違うが、ほとんどの任務を私達は共に乗り越え、数えるほどの敵と味方を救い上げ続けた。
私の視線に気が付いたメイリンも自分の飾版を目で数えだす。大事な思い出、そのような言い方は相手に失礼かもしれないが…。
お互い、敢えて何も語らない。二人とも分かっている。敵の首級でピラミッドを造って勲章を貰い、神妙な顔をして人助けの証を誇る。その矛盾を。
そして、その矛盾を甘受できなくなった愚か者どもの末路も知っている。苦しくて細い良心の綱を渡り続けることしか私達に出来ることは無い。
アグネス「メイリン。昨日、レイは何か言っていた?」
メイリン「そうですね…。ピアノ、音楽について少し話しました」
アグネス「ああ!あいつ上手いのよ。ルナマリアと一緒に聞いたことがあるわ」
手をパチッと叩いてメイリンに答えると、私をまねてメイリンも手をパチッとしてくれる。
メイリン「はい。カーペンタリアだったかな。そこでも弾いていたそうです。レイが軍で忙しかったから、弾く時間が取れなかったって言うので、それじゃあ、これからはリハビリ代わりにいっぱい弾いてみては、と言っておきました」
ピアノと言えばニコル先輩のことが思い出される。夭折した者の思い出は綺麗なままかもしれない。それはそれで尊いと思う。でも、生きていることそのものにも価値を見出して良いはずだ。 - 58二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 03:44:04
アグネス「絶対!そうした方が良いわ。せっかく毒親の魔の手を逃れることが出来そうなのだから…。いや、毒親が私達の目を盗んで医療ネグレクト噛ましてくる心配があるわね…」
メイリン「ちゃんと見張るつもりです!」
メイリンの真剣なまなざしを見て確信する。医療ネグレクトは大丈夫そうね。
アグネス「メイリン…。サイバー空間を使ってストーカーとかしちゃダメよ」
メイリン「?しませんよ?」
アグネス「そう…」
良し。鎖骨も肋骨もどんとこいだ!残りは一気に着ける。
アグネス「あ…。数が。やっぱり『人道記章』と『人道行動記章』は1段目に着けて。う~ん。」
計画性が無かった。つけ直すしかないわ。色々試行錯誤して結局、こんがらがって来た。
メイリン「身体…。少し休みますか?」
アグネス「いえ。休んだら動けなくなりそう…。もう自棄だわ」
メイリン「ええ…」
左胸1段目は右胸に大きくはみ出しながら、『ネビュラ勲章』4個を最初に並べる。
柏葉3個付『特殊十字章』と『殊勲章』、『銀星章』、『銅星章』、『名誉戦死傷章』×2も列に加える。
そこに、人助け要素のある記章も並べていく。解放と名前の付くものも並べる。
飾版金1枚と銀2枚目の『人道記章』、『人道行動記章』、『ガルナハン解放記念記章』、『ディオキア解放記念記章』、『黒海・コーカサス解放作戦従軍記章』
1段目に15個メダルを何とか着ける。左胸とか言いながら、ほぼ『全胸』になっているが気にしてはいけない。
2段目には12個のメダルを揃えてくっ付ける。
『アーモリーワン事変従軍記章』、『ユニウスセブン破砕作戦従軍記章』、『アスハ代表護送任務達成記章』、『フォックストロット・ノベンバー並びに同日発生した戦闘に対する参戦記章』、『オペレーション・スピア・オブ・トワイライト参戦記章』、『インド洋攻防戦従軍記章』、『敵前上陸作戦参加記章』、『ガルナハン・ローエングリンゲート攻略戦従軍記章』、『アレクサンドリア沖海戦従軍記章』、『月軌道会戦参戦記章』『ダイダロス基地占領記念記章』『レクイエム攻防戦従軍記章』…これで全部な筈。 - 59二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 03:51:03
アグネス「重いわ」
メイリン「制服が穴だらけになっちゃいました。頻繁に着ける人はそれ用の金具とか有るらしいですけど」
アグネス「なんだかんだと、前線勤務でフル装備する暇がなかったからね。私も授与されたとき以外は略綬しか着けてなかったから」
へとへとになって上の制服を脱ぐと、私が強引に着用した勲章と記章の位置をメイリンが細かく修正してくれる。
私はちょっとミネラルウォーターを口に含み、メイリンの分もコップに入れておく。コーヒーが飲めないのが辛い。
参加記章や従軍記章は、記念記章はメイリンと被っているものが多い。なので彼女もさっきから動くたびにジャラジャラ言っている。型崩れしないでもっているのは、ザフトの繊維産業の賜物だ。流石は我が祖国。
アグネス「手伝ってくれてありがとう。メイリン、ちょっと座る?いや、ごめん。私が座りたい」
メイリン「はい。私も座るので。壮行会は病院の向かいのホテルの広間に予約を取りました。ピアノもあります。レイの準備が終わるまでまだ少し時間があります。休みましょう」
アグネス「うん…。ありがとう。ごめん。呼び出すような感じになって」
メイリン「いえいえ。テレビでも見ます?」
アグネス「遠慮しておくわ…。付けたら考えなきゃいけない事件が飛び込んで来るだろうし…。無事あいつを送り出してからにする」
レイを送り出す、そのことが今日の最大ミッションだ。アークエンジェルのことは先ずアークエンジェルが対処して欲しい。彼らにとってムウ・ラ・フラガが大事なように、私達はレイ・ザ・バレルが大事と言うだけのこと。
アグネス「(と言うか、この二人、『叔父・甥』みたいな関係ね。フラガ少佐から見てレイは年下の叔父みたいな関係か。『互いに面識のない、親の双子の年下の叔父』みたいな関係。ややこしいわね)」
ただ、『互いに面識のない年上の叔父・甥』までなら世の中に幾らでもいる。
彼らは世界の異物などではない。よくあること、それが幾つか重なっているに過ぎない。レイがそう思える日が来ると今は信じたい。 - 60二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 04:09:55
灯のついていないテレビをぼうっとメイリンと見つめる。世界を見るのは戦友を送り出してから、その提案に彼女も納得してくれる。
メイリン「それが良いですね。でも一つだけ。地球連合軍内部の反ロゴス派が『対ロゴス同盟軍』としてザフトと連携を模索し始めているようです」
アグネス「ああ。クレタ島の連合軍みたいな感じね」
メイリン「はい。東アジア共和国軍からも反応が密かに。プラント上層部、と言うかデュランダル議長はかなり歓迎しているようです。ジブラルタルで歓迎すると。まだまだ未確定の話ですが...」
アグネス「遠い!そこからジブラルタルまで?水上艦で来るつもりなのかしら?」
メイリン「まだ、はっきりとは。やはり欧州は遠いですね…」
いや、逆だ。私達が混乱しているのは対ロゴス戦なるものの正体が漠然とし過ぎていることだ。
『デュランダル議長が対ロゴス同盟軍をジブラルタルに集結させようとしている』、それだけでも自分のポジションを確認するうえで大事な情報となる。そう、考えをまとめるとメイリンに返事をする。
アグネス「ええ。でも、もしプラント上層部が東アジアからの部隊を当てにしているなら…。対ロゴス決戦の時機は計算しやすいかもしれない」
仮にプラントと東アジア共和国間で何らかの休戦が合意され、東アジア共和国軍が海路でジブラルタルに向かうとする。一応の攻撃目標は…。ここでは仮に地球連合軍最高司令部部アイスランド島ヘブンズベースに置く。このタイミングでの決戦はあり得ないと私は思うけど。
アグネス「単純化するために東アジア共和国軍が一塊になって、台湾の高雄の軍港から出撃したとする。他にも軍港は有るけど、単純化のためね。それで、まず、彼らは南シナ海には向かえない。マラッカ海峡も通行できない」
なぜなら赤道連合は条約締結国でザフト軍と交戦中だからだ。プラントと赤道連合が休戦しない限り、ザフトの同盟軍がシンガポールの前を通過できるとは思えない。
メイリン「はい。いかにロゴスの悪行が告発されようと、現状では地球連合はロゴスと決別していません。赤道連合はプラントの交戦国です。他の同盟条約締結国の手前、東アジア共和国軍の無害通航を許可することはできません」 - 61二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 04:17:45
彼女の答えを肯定する。
アグネス「そうね。だから、高雄を出た東アジア共和国軍は赤道連合の領海を通ることなく、まず、プラント勢力圏の大洋州連合領土内まで南下するしかない。大西洋連邦太平洋艦隊の目を掻い潜りながらね。厳しいミッションよ」
ハワイを拠点とした連合軍は大打撃を受けつつも猶、健在だ。彼らがジブラルタルに向かう大艦隊を簡単に見逃すとは思えない。
メイリン「確かに。パプアニューギニア島とビスマルク諸島の領海北方を通過、さらにオーブの領土たるソロモン諸島の北方を通過しなければいけません。哨戒網を抜けるのに相当苦労するはずです」
アグネス「ソロモン諸島の東端、つまりオーブの領土の端であるサンタクルーズ諸島で艦隊進路を南西、次いで西に転換すれば、ザフトが制海権を握っている珊瑚海に辿り着ける。そこからカーペンタリア湾の入口であるオーストラリア大陸ヨーク岬半島に辿り着けば…。ここまでで、高雄から9400㎞以上よ」
メイリン「もし、全船団が落伍なく全艦時速30ノットの高速を24時間維持し続けたとして、7日と6時間以上ですね。ここから、距離だけで言えばインド洋に向かわず、南アメリカと南極の間のドレイク海峡を突破する手も…」
ドレイク海峡を水上艦で?しかも艦隊で突破する?
アグネス「無理ね。世界一荒れる海域だから。ホーン岬半島までたどり着いたなら、彼らはアラフラ海、ティモール海を通って西進するしかない。旧インドネシア領の赤道連合領はスマトラ島基地以外、ザフトは攻略していない。だから、やはり彼らの哨戒網を潜り、赤道連合の領海を原則通過せず、航海を続けるしかない」
幸いなことにインド洋の制海権はザフトが握っている。ただ、赤道連合の海上戦力は殲滅できていないから、ベンガル湾やラッカディブ海を避ける必要がある。スエズが抜けていれば汎ムスリム会議領に向かい、紅海から地中海に抜けられるが…。
アグネス「スエズ基地の奪取が出来ていない現状、南アフリカの喜望峰を廻るしかない。ケープタウンを過ぎた頃に彼らの旅路は22400㎞を超えることになる。さっきの計算を当てはめるなら、ここまでで17日と6時間以上が過ぎたことになる」
この戦乱の時代に大艦隊をここまで導ける者が存在するなら、ケープタウン到着の時点で勲章を差し上げたい。嫌味ではなく本心からそう思う。私では無理だ。 - 62二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 04:31:06
付け加えるなら、マダガスカル島は南アフリカ統一機構の領土だから、全クルーは緊張を緩める暇はない。
南アフリカの独立もまだその帰結は定まっていない。ケープタウンでさえ、『敵地』なんだ。
売国奴カナーバがサインした条約の約束は守られることは無く、南アフリカ以降はギニア湾までは延々と連合の勢力圏となったままだ。大西洋連邦大西洋艦隊の脅威も容赦なく降りかかるだろう。
メイリン「アフリカ共同体の領土である西暦時代のコートジボワール沖合までで27280㎞以上、そこからジブラルタルを目指すなら…。辿り着く頃には32330㎞の大航海ですね。日数にして約25日…」
メイリンが改めて考えて絶句している。無理もないわ。私が逆の立場なら絶対にやりたくない。指揮官としても兵士としても、こんな航海に同乗したい者は皆無だろう。
仮にロゴスが悪だとして、この戦争を終結させるために彼らを滅ぼすのが大義だとして、だからと言って東アジアの人々をここまで呼び寄せることに意味はあるのか。
軍事的には全くの無価値としか思えない。それぐらいならイルクーツクなりウラジオストクなり、ハワイなりを攻めて第二戦線を開いてくれる方がザフト軍人としては100倍ありがたい。
ザフト義勇同盟軍をジブラルタルに呼び寄せる意味は政治的なパフォーマンスでしかない。それなら、辿り着いた彼ら全員にネビュラ勲章を授与するぐらいじゃないと、私が東アジア共和国軍人なら羅針盤を叩き割っているわ。
アグネス「ただ、最高評議会、というかデュランダル議長は『世界対ロゴス』の構図を造りたがっている。ジブラルタルに集った大艦隊で『反ロゴス同盟ジブラルタル大集結』の絵を描きたがっているんじゃないかな。その『観艦式』の映像をメディアに撮らせたがっているはず…。内外に見せつけるためにね」
敢えて『内外』と言う。メイリンも意図を汲んで頷く。
メイリン「『観艦式』の参加者を待つ必要があるから…。ロゴスとの決戦は最短でも25日以降、と言うことですね」 - 63二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 04:58:28
アグネス「ええ…。仮定の上に仮定を積み重ねた上での予想ではね。最悪だわ...。外れていて欲しい。そもそもロゴスメンバーがどこにいるかも分からない。何と無く最高司令部が置かれているヘブンズベースと言ったけど。グリーンランドかもしれないし、サハラ砂漠の地下かも知れない。南極の氷の下にシェルターがない保障なんてないじゃない」
ついでに言えば、仮にヘブンズベースだった場合(西暦時代のアークレイリ?)、東アジアからの戦友諸君の旅路の総計は36477㎞以上となる。この世界情勢の中、辿り着いただけで本当に勲章ものだと思う。
アグネス「シンのご先祖の国が日本海海戦で勝てた理由の一つは、バルチック艦隊が地球を半周する大航海で疲労困憊していたこととされる。それ以上の荒行よ。彼らとしても逆バージョンはやりたくないでしょうね」
メイリン「間違いなく」
特務隊権限で国防委員長にガツンと言ってやるべきかもしれない。そんなことを言うとまた、グラディス提督にお説教されそうだけど…。
そもそも国防委員長が対ロゴス戦をやりたがっているわけでは無い。議長がごり押しして始めたんだ。それを追認した最高評議会と国防委員会も同じだけの責任があるのは言うまでもないが...。
そして、もう一つの悪夢。
さっきから散々、その困難さを口にして来た世界一周。幾度もの戦いを繰り広げながらその大航海を乗り越え、アラスカとオーブとヤキンの大決戦を生き延びた艦が1隻存在する。
私の目下の悩みの種たるアークエンジェルだ。
艦隊レベルの困難さと単艦での難易度は同列に語れるものではないが...。
ミネルバも彼の艦に近いことは行っていないわけでもないが...。
アグネス「国際関係や戦争の帰結、そう言っマクロな視点ではなく単に軍事ミッションとしても。アークエンジェル強襲はナンセンスだわ。何とか。うーん。レイが先ね。上着ありがとう」
メイリン「はい」
メイリンが微修正してくれた上着に私は袖を通し、メイリンは私が入れたミネラルウォーターをコップで飲む。
さて、じゃあ。出発! - 64二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 07:57:23
改めて解説されると、アークエンジェル凄い移動してるな
ガンダムの主役艦の宿命と言えばそれまでだが - 65二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 10:32:13
ガンダム史上でも交渉役というか、大政治家と名高いカナーバさんへの暴言がさらりと混じる事で思い出す
そういえばアグネスはザラ派でプラントの国力かなり過信している方だった
最近のメンタルが前大戦末期のキラアスランみたい感じで忘れてましたわ - 66二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 10:55:17
アグネスさんも正しい認識を常に出来るわけではないんだよね
そこら辺は前大戦経験してないが故か - 67二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 12:07:19
流血を止めることを優先した結果、プラントの利益を最大化できなかったというのは間違ってないしな…
下手にゴリ押しして戦闘再開なんて事になったら、それどころじゃなくなる可能性もあったんだろうけど。 - 68二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 17:57:55
ノイマンを強者とは認識できてるけど直接見たことがないからかまだ過小評価だな
- 69二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 18:06:17
- 70二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 18:18:42
……ふと思ったのだが、この世界線の東アジア共和国に、海外派兵する余力ってあるのだろうか? 原典(種運命)では
DTWで北京・上海の二大政治派閥の拠点が派閥もろとも吹っ飛んでしまった訳だが、この世界でもそうであるとするなら
ば、一体だれが国内で派兵の旗振り役をしているのだろうか。「手柄は挙げたいが損害は出したくない。ましてや、他の
軍に出し抜かれるのは我慢がならない」というのが、再構築戦争以前のあの地域の性格を見れば容易に想像できるかの国
の内情。「ウチが壊滅状態になったんだから今度はお前らの番だ!」という陸軍と、「だが断る!」という海軍の勢力争
いでも起きているのだろうか。……確かな事は、この「大長征」をしくじったなら、東アジアの地球上における軍事的な
プレゼンスは無きに等しいものになるという点だけだ。 - 71二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 18:45:13
東アジア共和国自体本編じゃ全然スポット当たらないから内情がさっぱり
アストレイで扱ったこともあるみたいだけど局地戦規模の話しみたいだし… - 72二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 21:50:52
C.E73 STARGAZER(スウェンが登場する外伝)では、>>70でも述べたように見事に北京が無くなっていたから、政治
的混乱は相当なものになっていたと考えられます。これでもし上海もやられていた(公式ソースが見つからない……)と
すると、東アジア共和国の中でも特に強大な影響力を持っていたであろう旧中国、その二大政治派閥である北京閥と上海
閥が物理的に消滅した可能性があります。……まあ偉いさんだけさっさと逃げ出した可能性もありますが。閑話休題。
とにもかくにもかの国において「中央政府による政治的統制が失われる」という事は、「軍閥化した地方勢力間の抗争の
始まり」と同義です。それこそ、第二次連合・プラント大戦そっちのけで内戦を繰り広げているという可能性が極めて大
です。それとも、やっぱり要人だけ中華版ジャブローみたいな所に逃げ込んで、統制を維持しているのでしょうか。
どちらにせよ、この情勢下で東アジア共和国健康史上初の大遠征をやれ、と言われたなら普通は「ふざけるな、それどこ
ろじゃねぇ」と罵倒されても当然でしょう。それを某議長はどーやってだまくらかして引っ張り出したのやら……。
- 73二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 03:56:56
病院のメイリンと一緒に病院の1階ロビーへ。リハビリを兼ねて階段で降りようとするとメイリンに止められる。
メイリン「先ずはレイを無事に送り出してから、って言ったばかりですよ」
アグネス「そうね。焦ってるかも」
ヘロヘロになっては彼の見送りどころではない。
メイリン「気持ちはよく分かります…。でも、昨日みたいなことになったら」
アグネス「分かっているわ」
メイリン「ああ。それと軍帽。忘れてます。はい」
アグネス「ああ!危ない!本当に。ありがとう」
ザフトの制服には軍帽が有るが結構、略している人も多い。
白服組ではグラディス提督は何時も白い軍帽をキッチリ被っているが、イザーク先輩は被っていない。
黒服はトライン副長やラドル司令官は被る派だけど、被らずにいる人も多い。
赤服にも赤い軍帽が緑服にも緑の軍帽が有るのだけど、赤服の人は省略している場合が多いのよね。
紫の高級武官服にも実は紫の軍帽が有るのだけど、ほぼ被ってないわ。軍帽の省略はともかく、ベルトまで省略している高級武官が多いのはどうも美的センスが相いれない。
シルエットがダボッとしてしまう。スタイルに自信がない方はその方が良いのだろうけど。これは好みの問題かな。
とは言え、ここまでフル装備で軍帽無しは格好が悪い。メイリンが気づいてくれて良かったわ。帽子をグイッとかぶってエレベーターに向かって廊下を進む。
ボタンを押して来るのを待っていると、西ユーラシア軍人3名が此方を見てビシッと敬礼してくる。私とメイリンも威儀を正して返礼する。彼らもエレベーターに乗り込むため隣に並ぶ。
アグネス「下に向かいますがよろしいですか?」
西ユーラシア軍大佐「かまいません」 - 74二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 04:03:59
察するに、彼らはこれから退院するらしい。入院中の持ち物も持ってきている。それはそれとして、私とメイリンが勲章だらけになっているから、3名中、特に副官と思われる尉官と隣の下士官は、かなり緊張しているようだ。
チン、と言う音と共にエレベーターがこの階に停まると3名の中で一番階級が低い男性がエレベーターボーイの役を買って出てくれる。階級章も見るに伍長、まだ若い。二十歳になるかならないか。
下士官課程修了ほやほやで地獄の東部戦線送りになったのかな。戦車撃破賞を3つも袖に着けているから、軍曹への昇進も遠くないかも知れない。
無論、『戦功=昇進』とは限らないが、ともあれ若い命が散らずにすんで良かった。
ただ、襟から覗いた傷跡を見るに首が飛ぶ寸前の状況には陥っていたようだ。包帯の様子から見るに完治はまだ先のように思う。
もう一人の尉官、階級章からして中尉ね。士官学校を出てそんなに経っているとは思えない。彼女の顔面には大きな傷跡が有る。目と鼻を出して顔がグルグル巻きだわ。
アグネス「(軍人とは言え若い女性。恋愛も結婚も出産だって…。女性だからどうと言う考えは良くない。そうやって排除されてきた立場なのだから。そう分かってはいるけど、目の当たりにすると本当に痛々しい。明日は我が身だわ)」
西ユーラシアとプラントは友邦になったのだから、情勢が落ち着いたら本国に傷跡を消しに来ると良いように思う。この場で言うべきではないけど。
西ユーラシア軍少佐「おはようございます。ギーベンラート女史。ごきげんよう。どうか、私の部下を緊張させ過ぎないであげて下さい」
3人の中で一番階級の高い-西ユーラシア軍大佐-が一声かけてくる。
じろじろ見ている、そう思われてしまったか。
40代後半の女性士官。少し恰幅が良いスラブ系の顔立ち。あのあたりの女性は一定の年頃になると『肝っ玉お母さん』化するとよく言われるが、彼女はその中でスマートに歳を重ねた風だ。
外傷が無いことから見るに私と同じお腹の中に傷が出来たのか。 - 75二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 04:12:46
アグネス「(私の名前を知っているのは『月光のワルキューレ』とか言って軍本部がプロパガンダをしているせいね。悪くない二つ名だとは思うけど、何だか真新しい服を着るようにしっくりこない)」
月で生涯忘れることなどできない光景を何度も見た。地上に再降下してそれ以上のものを叩きつけられ続けて、もう月光だか何だか。
ろくでもないことばかりが起こる。勲章ばかり重くなる。きっと彼らも同じなのだろう。女性軍人二人の左胸の略綬は年齢のわりにかなりのものだ。
たった、この場の皆、ワンシーズンで一気に増えてしまったことが容易に想像できる。
さはさりながら、先ずは誤解を解いておこう。
アグネス「いえ。申し訳ありません。これから私達、戦友の転院壮行会に向かう所でしたので。行く人を目の当たりにすると込上げるものが…。皆さん、ご一緒にご退院ですか?」
私の声にメイリンも目礼して応じて見せる。意地悪な気持ちが無いことは相手にも伝わったらしい。
西ユーラシア軍大佐「そうだったのですか。ええ。私達は3人同時に巻き込まれて3人同時に退院するところです。仏陀の教えでは『これも何かの縁』と言うものでしょう」
仏陀の教えか。ユーモアか本当の信徒か、哲学としての賛意か。これは言い回しを考えねば。
アグネス「おっしゃる通りです。此岸と彼岸の間に漂う身としては。ご退院、おめでとうございます。戦友としても、この一里塚で遭えた者としても、思いをお伝えできて嬉しく思います」
西ユーラシア軍大佐「ありがとうございます。確かに、3人同時ではなく5人同時に今日、お会いできたことが大事ですね。ギーベンラート女史はもう暫くここに?」
アグネス「はい。ただ、今日で点滴生活はお終いの予定です。」
そのように、私が大佐とお話していると、傍らでメイリンは中尉の女性軍人に話しかけている。
別に嫌な気持ちで彼らを見ていたわけでは無い。寧ろ、重篤な後遺症を一応は負わずに、退院できる彼らを気持ちよく送り出したい。 - 76二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 04:26:42
西ユーラシア軍大佐「お大事に。ゆっくりしている間に或いは戦争が終わるかも知れません。軍人にあるまじき言葉かもしれませんが」
アグネス「いえ。実は私も同じことを考えていました。ぬくぬくしている内になまけ心が芽生えたのかもしれません」
チン、と言う音と共に細やかな世間話は打ち切られる。1階に到着してしまった。
アグネス「お先にどうぞ。次会う時まで、どうか壮健で在って下さい。戦友の皆様」
メイリンが伍長殿をそっと避け、エレベーターのオープンボタンを左手で代わりに押してくれている。そして、私の挨拶と共に二人で一緒に敬礼する。
私がナチュラルの軍人に心からこんな言葉を口にする日が来ようとは、夢にも思わなかったわ。
アグネス「(でも仕方ないじゃない。色々あり過ぎた。欧州だけにしても…)」
冬季攻勢を退けてハッピーエンドになり、エンディングテーマが流れるほど、世界は優しくない。『魔王』ポジションのロゴスに爪先は届いていないし、エンディングの先も時計の針は進み続ける。無情なほど散文的に。
更に言えば、休戦条約-彼らにとっての独立達成はまだ見通しが立っていない。ブレイク・ザ・ワールドで痛めつけられた国土の再建も手が回っていない。身元不明の亡骸が家族の下に帰れるのは1世紀先かもしれない。欧州の未来もプラントの明日も真っ暗闇だ。
我らの戦いがグッドエンドを迎える日がいつ来るのか、私の想像力は及ばない。
ただ、世界が優しくなかったとしても、私が他人に不親切な振舞いをすることを正当化することにはならない。明日世界が滅びるとしても賢者は林檎の樹を植えるものだろう。
そもそも私は恵まれた側の人間だ。袖触れ合った人に捻くれた対応を取るものではない。
西ユーラシア軍の大佐は私の言葉を聞くと少し顔をクシャッとさせる。 - 77二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 04:35:00
西ユーラシア軍大佐「お先にどうぞ…。先の大戦で私はザフト兵を殺しました。大戦後半ではブルーコスモス支持を公然と口にしていました」
隣の彼女の絞り出したような小声が私の耳に入る。同時に2人の同胞が震えたのはどこかしらで思い当たる何かがあったのだろう。前大戦には参加していなかったとしても、この大戦で私達はつい先日まで敵同士として戦っていた。
しかし、それを私に言われてもどうしようも無い。
アグネス「(戦傷で生死の狭間を漂い、まだ体が治りきらない彼女には思うところがあるのは理解できる。私も同じようなものだから)」
私も巡り合わせが一つ違えば『奪取したレクイエムを再建して戦争を早期終結させよ』ぐらいは内心で思ったかもしれない。
このC.E.では皆が多かれ少なかれ思い当たることがある筈。でも、今は、今。
『どうぞ』「どうぞ」と東の島国の民のように言い合っているわけにもいかない。
メイリン「このエレベーター、同時に出れそうですよ」
メイリン、ナイスフォローだわ。場の空気も一気に軽くなる。
アグネス「そうね!いかがですか?」
西ユーラシア軍大佐「ええ!二人とも分かった?」
西ユーラシア軍中尉、伍長「はい!」
エレベーターから5人同時に飛び出る。飛び出る必要などない。エレベーターの扉はそんなに早く開いたり閉じたりしないものだ。
最近になればなるほど性能は良くなっていく。増して病院用だもの。案外、定員オーバーにもならないものだ。 - 78二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 04:45:00
降りたところでもう一度だけ彼女に聞いてみる。
アグネス「お返事を伺ってもよろしいですか?」
すると少し思い切った表情で大佐は別れの口上を述べて下さる。
西ユーラシア軍大佐「ギーベンラート女史と…」
西ユーラシア軍中尉「メイリン・ホークさんです!」
そう言えばメイリンはあまり表に出ていないものね。表に出てはいけない任務を良くこなしている。それでも一人の少女が鉄血の大軍を押し留めるために奮闘したことが伝わらないのは悲しい。
この3人には知ってもらえてよかったかもしれない。
西ユーラシア軍大佐「ホーク女史の貢献と献身に感謝します。どうかお大事に。再会する日までどうか壮健なれ」
5人で敬礼して、別々に分かれる。ロビーには勲章フル装備のグラディス提督と副官役のミネルバクルーが先に着いていた。
重役出勤したみたいで気まずい。約束時間は守っているのに。
提督はエレベーターから降りた西ユーラシアの軍人一行と敬礼を交わし、私に向かって敬礼して下さる。私が返礼するや角を生やしたような形相でつかつか此方に歩み寄って来る。
私とメイリンの真正面に仁王立ちするとドスの利いた小声で尋ねられる。
タリア「貴女、他所の軍に迷惑をかけていないわよね!?」
アグネス「かけてません!断じて」
メイリン「これは本当です!」
タリア「本当に?ならば良いいわ」
誤解が解けて良かったわ。後ろのミネルバクルーもやれやれと言った顔をしている。
アグネス「(私は聖人君子では無いけど、そう問題児でもない筈なのに。不当だわ。世が世ならパワハラよ)」 - 79二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 04:49:42
いや、ギリセーフか。どうかな?
しょうもないやり取りをやり取りを3人でしていると、病院の自動ドアから、見慣れた顔ぶれの人達がフル装備ジャラジャラモードで入って来る。
アスラン、シン、ルナマリア、マッド・エイブス、ヴィーノ、ヨウラン、ショーンとデイルも来ている。この二人も大概フットワークが軽いわね。
ブリッジ組はグラディス提督とメイリン以外はいない。
他の者は艦を守らないといけない。バルチック艦隊と相対しているハイネ先輩とアッシュ3人衆(元グーン三人衆)も来られなかったようだ。軍医も同じ理由でダメだったのだろう。
凍てつくバルト海を守り続けるのは骨が折れるはず。海の戦いはまだ優勢が取れているとは言えない。頭が下がる。
意外なことに炊事班長が来ている。案外会う機会が少ない。栄養ゼリー漬けになっていることも多いから。レイは後半、胃腸が弱っている風だったし。
メイリン「炊事班長。そのことを随分と気に病んでいたようで…」
アグネス「そう…。誰が悪いという訳でもないんだけどね」
こそこそッと情報交換。その他に旧ラドル支隊上がりの人達と月軌道艦隊合流後に加わったパイロットの代表者2名が来ている。
アグネス「(なんか、思ったより数が多くなってしまったわね。ラドル支隊組が皆来るとは…)」
ただ、ガルナハンは皆にとって、そして世界にとって大きな転機だった。
何より、レイの地上での戦いのハイライトの一つだ。クレタと冬季攻勢防御でも大活躍だったけど…。特に冬季攻勢防衛戦については心の整理を着ける時間がいるかも知れない。
勿論、レイ本人がどう思っているか、私は知らない。仕事以外のことを話す機会は少なかった。潜在的な政敵でもあったから…。それは今も同じかもしれない。
ただ、この時代をミネルバと駆ける私達にとって『仕事=戦争』。ある意味、彼は私にとって一番純粋な意味での戦友かもしれない。 - 80二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 05:02:56
まあ、賑やかで結構だわ。病院に迷惑を掛けるほどのことでもないだろう。
皆で敬礼と挨拶を済ませるとロビーの邪魔にならない位置で整列してレイを待つ。一緒に手隙の医師と看護師も整列する。病院に手隙などいない。わざわざ来てくれたのだ。ワルシャワとその先にあるここベルリンを守護してくれた感謝を表すために。
無論、事前に病院の許可も下りている。セラピー犬2匹(ラブラドール・レトリーバーとニューファンドランド)もお利口そうに並んでいる。私の病室には来てくれなかったのに!
アグネス「(後で撫でに行こう。アークエンジェル問題で苦しい思いをしている私を癒して欲しいわ)」
やがて、定刻通りの時間にエレベーターがチン、と言う音と共に開き始める。中には勲章フル装備バージョンのレイ・ザ・バレルと担当医・看護師2名。
レイの金髪がチラっと見えるやグラディス提督以下、皆で一斉に敬礼する。
レイは勢いにやや飲まれ、少し照れくさそうな表情を一瞬浮かべた後、何時も通りに敬礼を返してくる。
病院のロビーでそんなことをしているものだから、ぞろぞろと不健康な参列者が自然発生的に生じてしまう。手早く会場を移らないとね。レイの会計処理はもう済んでいる。
さてと、私とメイリンでグラディス提督にアイサインを送る。エレベーターを降りてはみたものの、レイがちょっとキョロキョロし始めているわ。
正装したグラディス提督が前に静々と進むとレイに声を掛ける。
威厳をもって声を掛けるべきか、それとも親しみを持って声を掛けるべきか最後まで迷っている風だった。 - 81二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 05:13:06
身嗜みからすれば前者、病院と言う意味では後者。では、人間としては?
タリア・グラディスとレイ・ザ・バレルはこの瞬間にどう向き合うべきか。
タリア「レイ、いらっしゃい」
レイ「はい…」
少し所在無げにしていたレイがグラディス提督に呼ばれて彼女の前に向かっていく。やはり、『人と人』としてを選ばれたのね。何を佩用していたとしても…。
アグネス「(逆かな。平服ではかえってできなかったかも)」
飾りが無い時こそ気を付けなければいけない。逆に飾り立てられている時ほど、本心を伝えねばと気合が入る。厄介な立場になったものだと思う。
グラディス提督の前に進んだレイは、勲章の模様さえ気にしなければ、インターハイで入賞して監督に報告に来る学生か…。或いは、体育祭で金メダルを取り、自慢げに姉に駆け寄る少年のようにも見える。
私はあいつの本当の歳を知らない。何と無く自分と同じとばかり思っていた。何時か聞いてみたい。時間ならこれからいくらでもできるはずだ。少なくとも、レイの悲しい幼年期の記憶を埋め合わせるには十分なほどには。
タリア「貴方、本当によく頑張ったわ。アーモリーワンから、いえその前から。退院おめでとう。だから、もういい…。自分の健康と尊厳ある人生のため、注力しなさい」
レイ「ありがとう…。ございます」
彼女が差し出した右手を彼は右手で握り、その手に重ねるように彼女は左手を添え、それの上にレイも左手を重ねる。
パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。
何かしっとりとした光景にじんわりしていたけど、周りの人達が拍手しまくったので一気に正気に戻ったわ。私も拍手する。
アグネス「(毒親から抜けたとしても、保護者的存在はあいつにとって絶対必要。これからそうした大人に出会う機会もあると思うけど。今のところ、強いて言えばグラディス提督がその位置に近いのかな)」
役職的にも性格的にも。『親がいないから先生か上司か上官で代わりに』と言うのも如何なものかとは思う。でも、人格形成上も社会生活上も、いないよりは絶対いた方が良い。不可欠よ。無論、ウィリアム君を無下にしていいわけでは断じてない。
ただ、その提督が毒親(デュランダル議長)と良い仲と言う。本当にあの男は問題しか起こさないわ。 - 82二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 07:24:40
レイはここで正式に離脱か
本来の道筋を考えれば長生きできるに越したことはないが寂しくなるな
どっかでまた出てくるのだろうか - 83二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 08:56:30
議長が無理やりレジェンド(二号機?)とかに乗せなければいいんだけど……レイもホイホイとばかりに乗っちゃいそうだからなぁ。
- 84二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 15:05:27
しかし皆が頑張らなければ人類最後の救済策デスティニープランの実現は不可能だからね
- 85二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 18:09:03
- 86二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 19:47:09
これでシンのことを議長サイドへ引っ張る最大の引力であるレイが前線を離脱
本編ならこの小康状態時にこれ幸いとエンジェルダウン発令されるんだろうけど、ザフトも結構疲弊してる
さて議長の次の一手とアグネス筆頭のフェイス隊がAAと繋ぎをつけるのはどちらが早いかな - 87二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 02:52:10
拍手で迎えたレイは私達全員にお礼を言った後、世話になった病院関係者一人一人に挨拶をしていく。
アグネス「それで、このあとは?」
メイリン「昼食会を兼ねた壮行式をして、ホテルのヘリポートに赤十字の連絡用ジェットファンヘリが来ます。そこからシャトルで大気圏を出て、病院船に乗り換えます」
アグネス「すごい。段取りが良いわね」
えへんと胸を張るメイリンにこちらも感心してしまう。
アグネス「仕方ない。この寒風の中だけれど、ヘリポートまでは行ってやるとしますか」
メイリン「はい」
今になって思う。私達の代は本当に良い仲間に恵まれたようだ。
同期の世話を焼こうと、ヴィーノはコートをレイに手渡しヨウランも交え、何か賑やかそうに話している。レイも困り顔を一瞬浮かべながらも楽しそうに会話に答えている。
アグネス「(もっと早く…。在学中に気が付けていたら。いや、大事なのは今だわ!)」
シンとルナマリアは二人に気兼ねして少し距離を取っている。私達は、普段から話せている方だから、引くところは引かなければならない。
私は賢そうなセラピー犬をちょこちょこ撫でた後、メイリンからコートを受け取り、ひびが入っている左半身に気を付けつつ袖を通す。早く治らないかな。変なジェルと治療装置に期待するしかない。
ザフト組はそのまま病院を出てホテルの会場まで歩きだす。見送りの方達にも皆で敬礼する。看護師が私に車椅子を持ってきてくれたがご遠慮しておく。今日で点滴はお終いのはずだもの。 - 88二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 02:58:29
外に出ると、相変わらず、陰鬱な空は下界の民に光を届けてはくれない。それでも、雪を溢さず留めてくれた情けには感謝するべきかな。
短い距離とは言え、グラディス提督もコートを着込んでいる。お体の調子は大丈夫だろうか。私達パイロットはなまじ自分が敵弾に身を晒しているせいで、他のクルーや上官の不調や疲労に無頓着な面があったのかもしれない。
上官は自己責任の面が大きいとしても、クルー達はどうだろうか。私は誠実な友であっただろうか。国防本部とその上の国防委員会があの有様では仕方ないが、今は特殊な事例だ。私が配慮を怠って良い理由にはならない。気を付けよう、私は上に行く人間だから。
レイを中心に団子のようになって横断歩道の信号が変わるのを待つ。彼に皆が代わる代わる話しかけるので、シンもルナマリアも私もなかなか声を掛けられない。
ただ、折を見てレイは此方にチラチラっとアイコンタクトをしてくれる。シンに視線を送り、私に視線を送り、ルナマリアやメイリンに視線を送り、感謝の念を伝えてくれているわ。
勿論、目の前で話している相手も疎かにはしていない。今はデイルが半泣きになりながら肩を叩いて闘病生活を元気づけようと励ましの言葉を伝えている。グフ3機で小隊を組んでいたからね、彼ら。
こうしたことは本来、横断歩道の待ち時間ですることではないかも知れない。ただ、私達にとって時は金より重い。直接言葉を交わせる時間は残り少ない。戦争が終わるまではお見舞いに行く機会は得ずらいはずだわ。そもそも私も皆も生き残っているかも分からないのだ。
特に皆が気にかけているのがレイの病が難病の早老症であるという点だ。西暦時代からC.E.に暦は移り、医療技術は目覚ましい発展を遂げている。特にプラントの医学・薬学の力をもってすればほとんどの病や怪我は病院に辿り着けさえすれば何とかなる。
それでも早老症を始めとした特定の難病は人類の脅威であり続けている。それらのメカニズムが完全に解明されたとは言い難い。良いところまでは行っているらしいけれど。 - 89二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 03:04:05
レイに関して言うのであれば-。
エルスマン博士は出来得る限りの最善を尽くしてくださるはずだわ。身体の各部から症状が出るたびに最良のモグラたたきを繰り出して下さると思う。ワニワニパニックのチャンピオンの如く悪化箇所を水際で堰き止めて下さるに違いない。
場合によっては症状悪化以前より健やかにすらしてくれるかも、と。どうしても期待してしまう。
ただ、それもやはり対処療法だ。最新の医学的見地に基づいた治療法を惜しみなく投入しても根治が出来るものなのかどうかは判然としない。
この場にいる者はグラディス提督やマッド・エイブスを含めても皆若い。同期や自分より若い人が先に急速に老いて死ぬなど耐えられない、そう思うのが人情と言うものだろう。
信号が青に変わる。
メイリン「じゃあ、私は先に」
アグネス「ごめん。お願い」
私達がぞろぞろ歩くのを追い越してメイリンとグラディス提督の副官役をしているクルーはホテルの玄関を跨いでいく。壮行会は私が言い出したことなのに丸投げしてしまった。諸々、事情があったとはいえ、褒められたものではない。反省しきりだわ。
アグネス「(ふむ。それはそれとして。ドアボーイの所作はまあ、なかなかなものね。100000アグネスポイントぐらいかな)」
まずまずなホテルに団体で押しかけ、メイリンが言っていたピアノのある集会場に足を踏み入れる。赤いカーペット、当然ね。ホテルで結婚式等を催すためのものだから。
カーペットを踏みしめた瞬間にベラルーシ・ミンスクの記憶が蘇る。あの破壊された結婚式場、新郎新婦は亡くなり列席者の殆んどが死傷。私がゲルズゲーを撃墜したせいだ。 - 90二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 03:09:59
アグネス「うう…」
アスラン「おい!しっかりしろ」
落ち着け、現場で私は赤いカーペットは見ていない。地図情報とレーダー、そして戦闘終了後の記録データで確認しただけだ。赤いカーペットはその時見た。映像と写真で。敵のプロパガンダだと思いたい気持ちが心のどこかにあった。
アグネス「(如何にもそれっぽいじゃない…。本当だったわ)」
様子の変化に気が付いたアスランが後ろから私を軽く支えてくれる。がっつり支えたら、ひびが入った骨が悲鳴を上げるからね。
私の異変に気が付いたらしいレイも急いで此方に駆け寄って来る。
レイ「どうした?」
アグネス「お腹が空いただけよ。多分…。点滴とお粥だけだったから」
レイ「…。そうか。確かに弱っているといけないな」
アグネス「ええ」
何かを察したようなレイと見つめ合う。ここで何とかできる物でもないだろう。何より、壮行式の主役に心配をさせるとは私はアホか。片足で踏んだカーペットをギリギリ気合で踏みにじると次の一歩を踏み出す。
アグネス「アスラン先輩、ありがとうございます」
アスラン「いや…。良い。そう言うこともある」
その後、壮行会はつつがなく進行した。改めてグラディス提督からレイに励ましの言葉と回復を祈念する思いが伝えられる。同様の気持ちをパイロット隊代表のアスラン、友人代表のシンが彼ららしいストレートな表現でレイに伝える。
アスランとあまり仲が良い印象の無いレイも今日ばかりは彼の言葉に心を動かされ、軽く涙ぐんでいた。アスランは名家の育ちだけあり、準備したスピーチは上手く読めていたわ。 - 91二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 03:12:24
シンの言葉を聞いた際のレイは一風変わった反応をしていた。シンがレイに学生時代からの感謝と共に戦ってくれたことの心強さ、病気に気づけなかったことへの申し訳なさを伝えるとあいつは強い罪悪感がこもった表情を浮かべていた。
アグネス「(?。やっぱりこの時期の戦線離脱はどうしても申し訳なく思ってしまうわよね。分かるわ)」
それだけという訳でもなさそうだけど…。まあ、勘繰るものでもない。シンが『治療頑張ってくれ』と言った時、彼は『分かった』と言った。それで十分よ。
そのまま、歓談会と言うほどではないけれど、お食事会になる。立食パーティーではなくランチ形式、怪我人や病人がいるから椅子に座ってということね。
どの道、私はお粥だけど。仕方ないものは受け入れるしかないわ。
アグネス「(しかし、人を呼び過ぎたわね。皆が一生懸命レイに話すものだから、私達は後回し気味になってしまった。それだけ、彼が大事に思われていたわけだから、良いことなのだけど)」
ルナマリア「退院は何時になりそう?」
隣からルナマリアが問いかけてくる。
アグネス「点滴暮らしは今日で終わりらしいから…。明後日くらいかな。もっとゆっくりしたいけれど」
ルナマリア「そうね…。ただ、ミネルバの皆の士気が心配。戦時疲労の危機は脱したけど…。箍が外れたというか、燃え尽きたというか…。個人個人で現れ方が違うけど、キールの方は結構不味いのよ」
この場で仕事の話は止めて欲しいが…。それを承知で口に出してしまうルナマリアの懸念はよく理解できる。私ですら今、こんな感じなのだ。もう皆、戦いに倦んでいる。決戦、決戦、決戦続きでそれでも何とか勝った、生き延びた。もう十分だろう、と言ったところか。
人によっては心の不調が本格化しているはずだ。シンなんか不味いだろう。他のパイロット達も。
アグネス「分かったわ。さて…、レイが空いた。話しに行こうか」
ルナマリア「うん」
病院より大分美味しいお粥を食べきった頃合いで、やっとラドル支隊組のレイへの激励が終わった。辛気臭い話でタイミングを逸するわけにもいかない。それはそれで後から考える。 - 92二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 03:18:44
この食事会についてはレイの胃腸は無事に済むことだろう。元々、工夫されたメニューの上、チビチビッとしか食べ進められないから、お腹がゆっくり食物を受け入れていける。
ちょっとお疲れ気味のレイの前に2人で歩み寄る。
アグネス「レイ。さっきは心配かけたわね。改めて退院おめでとう。エルスマン博士の病院でも頑張んなさいよ…。大変だってわかってはいるけど、何とでもなるものよ。案外ね」
どうしてもそっけない言い方になってしまう。これ以外の声の掛け方が分からない。
レイ「ああ。分かっている」
そんな私にレイが何時もの言葉を何時もよりも優しく柔らかく答えてくれる。
テーブルを見るとメイリン達への義理か彼の昼食はもう僅かでなくなりそうだ。ヘリで酔ってもいけないから、ちゃんと全部食べられて良かったわ。
アグネス「(パイロットが酔う?まだ、呆けているのか)」
人それぞれではあるけどね。
ルナマリア「早老症のこと、調べたけど。西暦時代より進んでいても大変だって…。お見舞い行くから、根気強くね」
レイ「分かっている。二人とも心配し過ぎだ。アグネスもらしくない。今まで飲んでいた薬をサンプルとしてエルスマン博士の下に送っておいた。早速、同じ薬の作成と改良薬の試作に漕ぎ付けたらしい」
アグネス「ほう!医学の最高権威の一人だけあるわね。入院中はどう過ごすの?」
本人もまだ分からないか、それに関しては。そう思っていると意外なことにレイが解答を寄こしてくる。
レイ「日常生活についてはサナトリウム病院を一つのモデルとして。規則正しい食事と睡眠、光をきちんと浴びて適度な運動。過度なストレスを避け、適度なストレスを心身にかける。これを『治療法』として合理的に行っていくらしい。心身の状態に合わせて連動して科学的に微調整しながら。光は『もっとも健康に良い日光』を再現して照射する積もりだと。進み具合ではデスクワークを出来るようになるかもしれない」
最新医療と保養地療養、2馬力で治療開始なのね。上手くいくと良いわ。 - 93二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 03:25:41
まだまだ、いろいろ話したいことはある。そのいろいろが何か私には分からないが。
ただ、時間だ。メイリンの合図でレイは立ち上がり、静かに会場のピアノに向かって歩んでいく。
何を弾くのだろう。別れの歌か、再開の歌か、戦いの歌か、平和の歌か。
固唾をのんで見守る私達の前でレイは音もたてずに椅子に座り、鍵盤に指を置くや-。
『歓喜の歌』を奏で始める!確かにこの場で、欧州で、相応しいわね!!何かオーケストラとは違った響きがする。
メイリン「おお友よ、このような旋律ではない!もっと心地よいものを歌おうではないか!
もっと喜びに満ち溢れるものを!」
レイが奏で始めた瞬間にメイリンが歌い出すと私達も全員勢いよく唱和していく。シンとアスランは上手いとも下手とも言えない絶妙な塩梅の歌声を会場に響かせている。
『よろこび、聖なる神の焔よ、耀く面もて我等は進む。
裂かれし者等を合はす汝が手に 諸人と結びて同胞となる』
アスラン、シン「心の友垣、操の妻を かち得し者等は集ひて歌へ」
アグネス「心の友垣(ともがき) 見目好き夫を かち得し者等は集ひて歌へ」
部分修正して強行突破よ。女性が『妻』を歌っても仕方ない。私が一人だけ替え歌したのを聞き、グラディス提督は悪戯っぽく片眉を上げる。そして、歌詞の途中からはかなり力強く声を張り始める。
タリア「己をたのみて驕れる者に、此の世の真の歓喜有らじ。
よろづの物皆、自然を生きて、並べての人皆、光に浴みす。」
レイ「友等と、力と、愛とを降す 御神の姿の在らぬ隈なし。
ああ、造物主、日の神の 遙(はる)けき御空を天駈あまかけるごと、
行ゆけ、汝が道を、勝利の道を、勇みて、兵(つわもの)の行くがごとく、
行け、我が友よ、いざ行け、友」 - 94二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 03:41:39
ピアノ弾きながらレイが澄んだ声で歌い出した。この場合の友はシンだろうか、それとも…。彼が共に戦った皆かな。
『捧げよ、諸人、人の誠を 父こそ、居ませ、星空の上に。
仰げよ、同胞、けだかき父を。ひとりの父を、星空の上に』
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
最後の部分まで皆で歌いきると何と無く皆で拍手をし合う。
歌を絶唱して火照った体と高揚した気分のまま、レイとヘリポートまで進む。もう、赤十字のヘリは着いていた。こちらに敬礼してきた乗員に敬礼を返す。
シン「レイ、手紙書くよ。電話もする。だから体に気を付けて」
タリア「医学の進歩は日進月歩よ。強い気持ちで諦めたらダメよ」
アグネス「もし、症状が進んでも簡単に気落ちしない!エルスマン博士の言うことをよく聞いて自分の人生を大事にしなさい」
ルナマリア「アグネス!いえ…。絶対、お見舞い行くから。気を付けて」
ヘリに乗り込むレイにその場の皆、好き勝手言い出す。頑張れよ、身体に気を着けろ、ゆっくりしろ。本当にこの場の全員、好き放題い過ぎだわ。
私達の熱量に涙ぐんだレイはシートベルトを締めた後、何かを口に仕掛け…。そして閉じる。
必死に気を張った顔をして此方に敬礼するレイを皆で敬礼して見送る。白いヘリコプターが轟音と共に飛び去って行くのを見送った後、ようやく私達は手を下ろす。 - 95二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 09:11:38
レイの飲んでいた薬をエルスマン博士に送ってそれ程時間が経たずに既存の追加分に加えて改良薬作成の目処まで立ってるのは
議長はあくまで「遺伝子学者様」であって「お医者様」では無いという残酷な違いなのかねぇ… - 96二次元好きの匿名さん24/12/09(月) 18:51:47
保守
- 97二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 00:18:07
保守
- 98二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 03:04:42
曇天に負けじと空を駆ける赤十字の連絡用ジェットファンヘリを見送って、ようやく一息つく。
安堵感と達成感が押し寄せ、緊張感が切れたような気持ちに襲われる。奇妙なものだ。
これからの困難な治療を請け負って下さったのはエルスマン博士、話を繋いで下さったのはディアッカ先輩とアスランだ。この会をセッティングしてくれたのはメイリン、毒親と一旦距離を置いて(?)治療を決断したのはレイ自身、勝手にそんな感情を抱くのは愚かなことだとは思う。
とは言え、何だかホッとするわ。厄介な奴だけど、横死して欲しいわけでは無い。あの憎まれ顔に遠慮なく感情をぶつけられる日が待ち遠しいわ。
アグネス「寒い…」
ルナマリア「そうね。あんた、そろそろ車椅子…」
アグネス「それは大丈夫」
気が緩み脳内物質が引いたと思ったら、今度はヘリポートに吹き付ける寒風に皆で震える羽目になる。プラントの人工的で心地よい『四季』と異なり、本当に地球の季節は容赦がない。
空から目を下ろすとグラディス提督が前に進み出て此方に振り返り、その場の皆に語り掛ける。
タリア「皆、ご苦労。ここにいる者達と戦友レイ・ザ・バレルを温かく送り出すことができてうれしく思う。また、私が不在の間、様々な迷惑をかけたであろうこと申し訳なく思う。本官は明日の朝、今の病院を退院し、その足でキールのミネルバに帰還します。その旨は既に副長を通じて今頃、あちらの者達にも。私が帰任し次第、ミネルバは平常状態に完全に復帰します。明日の午後からは猛訓練再開よ。残りの休憩時間、精一杯楽しんでおきなさい」
アグネス・一同「はい!」
提督が話し始めた瞬間、皆の姿勢が正され、話し終わるやに全力の返事が出たわ。良し、私も皆もまだ頑張れそうね。
アグネス「(戦時において士気を回復させるためには-。変にダラダラ休暇を与えることがベストではない。一刻も早くミネルバの『戦闘艦の日常』を取り戻させることが大事になる。訓練こそ士気回復の近道と言うことね)」 - 99二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 03:12:45
マッド・エイブス「真に僭越ですが…。お体のお加減は?」
マッド・エイブスが挙手をしてグラディス提督に質問している。何時もは口数の少ない、職人気質の彼なのに珍しい。そう言えば、さっきの返事の声にこの方の声は混じっていなかった。責任感の強い、とはこう言うものか。
タリア「ありがとう。ただ、私の体調について心配する必要はない。既に十分な治療は受けた。後は普段通り、何かあれば私も皆と同様、ミネルバの医務室に向かうだけのことよ」
マッド・エイブス「おっしゃる通りです。先に戻ってお待ちします」
そう言ってマッド・エイブスが敬礼するとそれに合わせて私達も一斉にグラディス提督に敬礼する。彼女からの返礼を受け姿勢を戻し、一緒にホテルに戻ることになる。
グラディス提督の訓示を聞き終えた後、私達は解散し、キールから来た者達は直ぐに帰還するマッド・エイブスと調理班長以外、着替えた後ベルリン観光を楽しむつもりのようだわ。
フェイス組とメイリン以外は、ね。こっちはこっちで協議しなければいけないことがある。
アグネス「(何かメイリンに悪いな。過重労働を押し付けているようで心苦しい。後の出世には大いにプラスに働くはずだけど、今の彼女は体の良い便利屋みたいにも見えてしまう)」
いや…。私達が揃って体のいい便利屋扱いなのか。議長も腹が立つけれど、国防委員会や軍本部も制止してくれないものか。
アグネス「(無理ね。社会は私達の母親じゃないし、戦争は女の顔をしていないものだから)」
ホテルの大理石に敷かれたまあまあ高価そうな絨毯を踏み歩きながら、私は私で頭を回し続ける。後ろでヴィーノとヨウラン達が残り時間どこに行くか話し始めているが、私に観光の時間が有るかは疑わしい。
グラディス提督が決断を下したなら、私も自分のスケジュールを月軌道艦隊に同期しなければいけない。そのためにも先ず急務なのは、今回の作戦にしっかり幕を引いておくことが肝要だわ。 - 100二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 03:18:58
具体的に言うと同じ飛行隊を組み、一時的にしろ部下となった者達の叙勲申請を国防本部に提出すること。病室に戻ったら手早く丁寧にまとめて提出しよう。
ありがたいことに皆、モビルスーツパイロットだからコックピット内の記録データを基にすれば作成自体は容易だ。リトアニアの合同司令本部は、今、西ユーラシア連邦に設けられたバルト軍管区合同司令本部に統合されている。
バルト軍管区の管轄はエストニア・ラトビア・リトアニア、この領域の新しい合同本部は今までと同じく、西ユーラシア連邦軍とザフト欧州軍より構成されている。
アグネス「(報告書自体は提出してあるし、帰還後に戦果確認も終わっているから、そのままでも授与されるはず。でも、私からも可能な限り気を効かせてあげたい。この前の戦いで伝手も出来た。それに特務隊権限もある)」
無論、嘘や誇張をするつもりはない。ただ、相応しい振る舞いをした者達のことをありのままにお伝えするだけだわ。普通に大戦果だったのだ。
戦犯クルーゼ基準だと『モビルアーマー37機・戦艦6隻』相当でネビュラ勲章。
どうかな、当時のモビルアーマー37機と比較するなら、我が飛行隊各員の手柄も負けてはいないのではないか。
アグネス「(カオスも合わせて16機。まあ、私は抜くとして…。他の15機だけで見ても-。共同撃破・共同戦果扱いになる部分が大きいが、何しろ『母数』が多い。彼ら皆で『割って』も全員にネビュラ勲章授与の資格はあるのではないかな?)」
無論、最高評議会の承認をもって授与者を決めるから、私が手前味噌で推薦したところでどうなるものでもないだろう。クルーゼ基準はともかくとして。私は己のなすべきを成すだけだわ。
シン「アグネス、ちょっと休むか…」
アグネス「これから仕事よ!」
シン「傷病休暇中じゃないのかよ?」
何かシンが心配顔で話しかけてくるが、気にしてはいけない。問題が山積し過ぎて頭がパンクしそうだわ。 - 101二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 03:24:06
ともあれ、一旦病室に戻り、佩用している勲章も外さないと重くて仕方ない。部下の受勲の心配の次の瞬間に今、衝けている重しを外す算段に入るのは何の皮肉やら。
歩きながらさり気なく、フェイス組とメイリンで、さりげなく他のメンバーやホテル利用者と僅かな距離を取る。
こう言うのは誰かの指示じゃない。阿吽の呼吸だ。ただ、『発起人』は特務隊長グラディス提督、アスランに気づかわしげない視線を送っている。
タリア「アスラン、何か話したいことでもあるの?」
アスラン「はい…。ただ、ここでは…」
アスランがチラッと見上げた先には監視カメラ、こういう高級ホテルは客のプライバシーを全力で守るものではあるが…。いや、このホテルはプラントではなく西ユーラシア連邦の管轄、かえって安全かもしれない。
手続き上、プラントの偉い人が何かをこのホテルに要求する際、国内手続きに加え、外交手続きを取って、同盟国である西ユーラシア連邦を通して動かざるを得ない。
アスランが気にしている監視カメラが『彼』の下に辿り着くまで、幾つもの手順を踏まなけれないけないし、踏んでいない-不正に入手した-情報に証拠能力はない。
アグネス「かえっていいかもしれません。ホテルの会議室を押さえられるならこの6名(グラディス提督、アスラン、私、シン、ルナマリア、メイリン)で。いかがでしょうか?」
私の反応に好感触を覚えたらしいグラディス提督が付け加える。
タリア「若しくは私の病室かしらね。やたら広いのよ。貴方はどちらが良い?」
アスラン「ホテルの会議室で。監視カメラがないならば、ですが。一応」
即答だったわ。やはり、女性の上官の病室に押し掛ける気にはなれないか。どちらでもリスクはそう変わらないから、気にするべきではないかも知れない。 - 102二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 03:33:27
タリア「決まりね。ただ、少し待ってちょうだい。アグネスと私は勲章を病室で外してこないといけない。部屋を押さえて、そちらも服を整え待っていなさい。他の者に異存は?」
シン「ありません」、ルナマリア「ありません」、メイリン「了解です」
皆の回答を待ったうえで、グラディス特務隊長は一つ頷く。
タリア「私とアグネスは支度があります。30分後に集合。会議室が抑えられない、施設が思わしくない等の場合は早めに連絡せよ」
アスラン「分かりました。お待ちしています」
タリア「よろしい」
敬礼を交わし、グラディス提督と私は揃ってホテルの玄関に向かう。ドアボーイが扉を開いてくれるので二人してまた、曇天の空の下に逆戻りだわ。
タリア「重いでしょう」
アグネス「…。はい。ここまでとは思いませんでした」
ドアの向こうの階段を下りつつ提督がポツリポツリと語り掛けてくる。
タリア「偶に思うことがある。『今、私が死んだら息子には何が残るのだろう』と」
アグネス「『母親が命を賭して守った祖国』ではないでしょうか」
冬の道路の冷たさに負けそうになりながら、二人で横断歩道まで小走りで進んでいく。私の模範解答に曖昧な顔で頷きながら、赤信号に止められた提督は言葉を吐き出す。
タリア「軍服、私服、化粧品、本、カップ、勲章…。それだけかもしれない。後は遺族年金かしら」
アグネス「…。私はまだ、母親になったことはありません。ただ、それらが残っているなら、失礼ながら十分ではありませんか。つまり艦は撃沈を免れたということ。持って帰ってくれた戦友が幾らかでも生き残っていたということです」
我慢しきれなくなった空が決壊し、遂に雪が降り出す中、私の返事を聞いた提督は少し困った表情を浮かべる。 - 103二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 03:42:21
彼女と私と私の視線がかち合い、ほんの一瞬気まずい空気が流れる。つかの間の後、タリア・グラディスと言う女性は、少し表情を緩めて語り出す。
タリア「釣れないことを言うのね。でも確かに…。それすらも残せない人達を私達は大勢見過ぎてしまったものね」
アグネス「ウィリアム君に『アフリカの子供達理論』を押し付けたいわけではありません」
タリア「分かっているわ。私を励まそうとしてくれているのね。ゴマすりスキルをもう覚えているとは!」
少し悪戯っぽい表情を浮かべる彼女に少しムキになって訂正を試みる。
アグネス「本心なので躊躇いなく言えます」
タリア「そう…。若者の特権ね」
アグネス「29歳の方が言うべき台詞とは思えません」
タリア「フフフ…。それで…これから推薦状を書くのに会議なんて入れて大丈夫かしら」
見透かされていたわ。考えてみれば同じ『上官』として、私がベルリンを立つにあたってしようとすることぐらいお見通しか。
信号が青になる。
アグネス「無理とは言えません。ああ。無理じゃないです!」
タリア「全く。気を着けなさい。アークエンジェルのことは此方でもいろいろ働きかけています」
歩道を渡り切りながら、もどかしいようなありがたいような曖昧な気持ちで彼女にアイサインを返す。どんよりした空に生気を吸い取られてしまったのか、私は。
病院の自動ドアを開けると一階ロビーの大画面テレビにまたしても腹黒議長の姿がドアップで映り出している。大演説の真っ最中だわ。勘弁してほしい。
デュランダル「私とて、先に名を挙げた方々に軍を送るような馬鹿な真似をするつもりはありません。ロゴスを討つというのはそういうことではない。ただ、彼等の創るこの歪んだ戦争のシステムは、今度こそもう本当に終わりにしたい」
アグネス「(え…?普通に軍送る気満々じゃないの?『ロゴスを討つというのはそういうことではない』っていまさら何を言っているのだか)」
まあ、何事も建前が大事ではある。とは言え、散々盛大に犬笛を吹いておきながら、こんな言葉を吐き出すとはどの口が言うのか。
世界の現状はそんな定型句で免責されるラインをとうに超えている。現在進行形で進む世界経済の混乱や各地の魔女狩りじみたロゴス狩りをどうするつもりなんだ、この男は! - 104二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 03:49:48
目の前の画面の議長の背後の大スクリーンでは相変わらず、デストロイが大暴れしている。ついでのようにロゴス全メンバーと関連企業のリストの字幕も張りっぱなしだわ。討つ気満々じゃない。
デュランダル「コーディネイターは間違った危険な存在と、解り合えぬ化け物と、何故あなた方は思うのです?そもそも何時?誰がそう言い出したのです?私から見ればあの兵器でロシア平原と南アフリカを平然と焼き払うことの出来るロゴスの方がよほど化け物だ。それもこれも彼らは、ただ我々と戦い続けるためだけにやっている」
患者達「確かに…」、患者達「あいつ等は悪魔だ!」、患者達「ロゴスめ!家族と俺の手足を返せ!」
タリア「…」
アグネス「…」
デュランダル「己の身に危険が迫れば人は皆戦います。それは本能です。だから彼等は討つ。そして討ち返させる。私達の歴史はそんな悲しい繰り返しだ。
戦争が終われば兵器は要らない。今あるものを壊さなければ新しいビルは造れない。畑を吹き飛ばさなければ飢えて苦しむ人々に食料を買わせることが出来ない。平和な世界では儲からないから、牛耳れないからと、彼等は常に我々を戦わせようとするのです。
こんなことは本当にもう終わりにしましょう。我々は殺し合いたいわけではない!こんな大量の兵器など持たずとも人は生きていけます。戦い続けなくとも生きていけるはずです!歩み寄り話し合い、今度こそ彼等の創った戦う世界から共に抜け出そうではありませんか!」
医師「そうだ!」、看護師「そうよ」、患者達「そうだ…。そうだ」
アグネス「(ちょっと…。患者達はともかくドクターは乗せられちゃダメでしょう!被害者をどっと診続けているから同情と憤りで目が曇っているのか)」
議長の安直なアジテーションにインテリ層まで踊らされているのは考え物だ。まともな教育を受けた人なら少なくとも後半部分は過度の単純化だと気づくはずだし、気づくべきなのに。
メディアの前に集まり、憤懣や興奮、感情の高ぶりを吐き出すことをもはや躊躇わない人々の群れが蠢いている。そうでないものでさえ、仕事や家事のさなか耳を傾けている。
これはなんだ?馬鹿どもが世の中にはこんなに多いのか? - 105二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 04:04:29
ただ、彼らを責めるのは余りに酷なことも分かっている。
多くの患者が手足や感覚器官を失い、顔が半分以上無くなっている人まで目に映る。一族全てを失くして自身の半身までも失い、怒りに我を忘れる人に『ちょっと冷静になりましょう』と声を掛けるほどの厚かましさを持つことはできない。
病院スタッフにしても、ここに後送された患者全員が『人間の形』をしていたわけでもないだろう。立場はさして私達と変わらない。被害者や悲劇の当事者なんだ彼ら自身が…。
アグネス「(あるいは世界が、か。大なり小なり。それを可視化してしまえば、かえって分断を…。いや、だからと言って覆い隠すべきであったかは…。分からない)」
タリア「『己の身に危険が迫れば人は皆戦います。それは本能です』確かにそうね」
アグネス「病院はそうであるべきではありません。人類を一番殺したのは人間ではありません。細菌とウイルスです。印象操作に惑わされず、病院は本来の大敵との前線基地として機能するべきでしょう」
小声で話しかけた提督に同じく小声で返事をする。絵空事だということは良く分かっている。デストロイは赤十字を避けて等いなかった。そして恐らく-いや、間違いなく、私の攻撃で巻き込まれ焼き払われた病院が存在する筈だ。
何とも言えない思いに体がぶるぶる震える。失言だった。でも、言わずにはいられなかった。議長にもロゴスにも、そして恐らく自分にも腹を立てている。
立ち尽くしている私を敢えて無視して、グラディス提督はエレベーターまで進んで行きボタンを自分で押そうとする。上官にそんなことをさせるわけにはいかない。慌てて側まで駆け寄るとチン、と言う音と共にエレベーターが着く。
二人で乗り込み扉が閉まった瞬間に傍の彼女が長い溜息を吐く。
タリア「あれを、日に何度も見せられたら、誰だってね」
アグネス「確かにそうかもしれません…」
彼女と自分の階のボタンを押すと鉄の箱は上昇を開始する。
ただ、それなら彼の言う『ロゴス』の範囲を限定して示すべきだ。限定された範囲の敵を叩いて良しとしないと。
正体不明の震えに悩まされつつ、自分の部屋に辿り着き、制服の勲章を一つ一つ外して収納していく。温かいものが飲みたい。コーヒーを飲みたい。まだ、無理だけど、どうしてもこの焦燥感を誤魔化さないと居ても立っても居られない。 - 106二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 07:25:46
議長はアジテーターとしては一流だからなぁ
誰も彼も戦争に嫌気さしてるタイミングに耳障りの良い言葉を囁くのが効果的と心得てるのが嫌らしい - 107二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 12:34:07
物事の極端な単純化に決め付けとレッテル貼りか…
政治システムが日本とは違うとはいえ、議長なんて立場にある人が野党のテレビインタビューみたいなマネをするのはいかがなものか…
対立派閥はおろか、同派閥からしても相当不評を買う行為のはずなんだが、捨て身のつもりなら後のことは怖くないのか - 108二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 21:23:38
まぁ最近そういう人が多いような気がする
- 109二次元好きの匿名さん24/12/10(火) 21:24:29
あの世界短期間ででかい戦争何度も起きすぎてみんな正気でいられなくなってるからな
- 110二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 01:21:37
最後の記章を外し終わった瞬間に焦燥感はある種の絶望感に様変わりし、伽藍洞になった胸を無力感と虚無感が満たす。
机に最後のメダルを置いたまま、フラフラと病室の窓に向かって歩いていく。この窓から身投げすれば楽になるのか…。
そう思って窓から顔を出し、雪混じりの寒風に頬を叩かれやっと正気に戻る。なにをやっているんだ、私は!信じられない!!
自分の頬を張り飛ばそうとして、寸でで思いとどまる。それこそ無意味だ。時計の秒針を確認する。部下の受勲申請のために15分は使える。
仕事用のデバイスを起動し、全力で両手を動かして様式を埋めていく。リハビリの代わりだ。
飛行隊各自の戦果報告書も順次確認。コックピットデータから分析した詳細なものを参照する。バルト軍管区のコンピューターにも正規手順でアクセス、何人かの分を書き上げる。
我等コーディネイターの力、今こそ示す時!我ながら凄い作業速度だわ。とは言えたった15分では流石に終わる筈が無い。もう時間だ。
何時もの制服に軍用コートを片手で着込み、軍帽を被る。そう言えば、髪形をツインにしていた時、帽子やヘルメットで形が崩れるのを気にしていたわ。つい最近まで、ね。
すっかりおしゃれを楽しむ気力も消えかけている。そう言う傾向が良くないことぐらい自分でも分かっているけれど、どうにもできない。
アグネス「(そもそも外は雪だわ。傘を差すのは軍人に相応しくないから、帽子必須よ)」
そそくさ病室を出たところで、副官役クルーと鉢合わせになる。
ミネルバクルー「アグネスさん。その…。グラディス提督がご心配をされていらして、それで小官が迎えに参りました」
アグネス「ありがとう。それはともかく傘?」
迎えに来てくれた彼女の左腕には畳まれた状態の黒い傘が握られている。出会いがしらの敬礼は右手ですれば良いから問題ないと言えばそうだけど。
国や地域、軍によってはそれも有りとされている。今日に限っては気にするな、と言う提督からの心遣いね。 - 111二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 01:28:51
アグネス「ありがとう。元気が出てきたわ」
ミネルバクルー「小官…。私は立場的にお二人にご一緒できません。どうか…」
アグネス「うん。頑張るわ」
そう彼女に伝えて、傘を受け取り1階に降りていく。降りて、提督を待ちつつようやく動き出した頭で今後の対策を練る。
アグネス「(やはり、フワフワした状態を放置するべきではない。ネオ・ロアノークがムウ・ラ・フラガ少佐と同一人物か確定させなければ話が前進しない)」
その場合、アスランの『ディノ特使』としての権限を使ってもらうべきか。以前と同じようにプラント⇔汎ムスリム会議⇔スカンディナビア王国⇔アークエンジェルのルートで-。
いや、時間がかかりすぎる。ジッダを通している余裕があるとは思えない。それに、もしこのルートを使った場合、必然的にプラントに情報が即座に伝わるし、アスラン自身も道義的に報告義務が生じてしまう。
彼の正体の隠蔽をする気など全くないが、今後の方針が何も見えないまま、事実が独り歩きしてしまうのも考え物だ。
何とかしなければいけない。アスランが何かしらの腹案がありそうな顔をしていたから、聞いてみるか…。心配だわ。
そして、もし『ネオ=フラガ少佐』だった場合の対応についてだけど―。
いっそ、アークエンジェル、と言うかアスハ代表の側から事情を世界に発表していただいたらどうだろうか。なにをどう言い繕っても、ファントムペイン司令官ネオ・ロアノーク大佐がアークエンジェルに拘束ないし保護されているのは周知の事実。
主権が何だ、管轄がどうだ、と言ったところでプラント・西ユーラシア両国の国民感情は彼を『匿う』ことを許容しないだろう。それはアークエンジェルやアスハ代表、キラ・ヤマトに対する好意や感謝の念とは別勘定だ。
今、アークエンジェルを強引に制圧すること等、下策も下策、忘恩の誹りを免れない。それぐらい皆分かっている。しかし、そうだからと言って、彼・彼女らをバルト海の向こう岸に黙って見送れるほど人間の物分かりは良くない。 - 112二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 01:34:08
それなら、いっそ彼らの側から『フラガ少佐本人はブルーコスモス・ロゴスの被害者であり、記憶操作ないし洗脳を受けていた。それ故に戦争・人道犯罪を実行時は、刑事責任能力がない状態だった』旨を発表してしまうのも手なのではないか。
一国の国家元首であるアスハ代表が、もし明言してくれるなら説得力も増すだろう。
無論、それで終わりにするわけにはいかないから、プラント・西ユーラシア・大洋州・アフリカ共同体・汎ムスリム会議・親ザフト派コーカサス諸国などと協議して-。何らかの合意を取り付ける。
アグネス「(例えば、アークエンジェルの独房を『見なし拘置所』として、各国から選任された警察・検察をアークエンジェル士官の立会いの下、艦内に。精神鑑定もアークエンジェル内で行う。精密検査が必要なら、選定された医療機関を一時的に中立地帯化し、アークエンジェル士官・クルーの駐留を許可した上で、彼の健康診断・精神鑑定を行う、と言うのはどうだろう)」
精神鑑定には短くても数か月、場合によっては半年や1年を必要とする場合もままある。その間、アークエンジェルは何処にいてもらえばいいか、と言う問題もあるが、そう言った実務上の問題は後で協議すればいい。
検察が行った鑑定の段階で責任能力が無いことが判明すれば、不起訴処分になる。それでも国際法廷に強引に起訴された場合は改めて弁護側が精神鑑定を国際法廷に申請すればいい。そう言った法廷の駆け引きや手続等は法務将校の管轄だから、私は門外漢だ。そちらで何とかして欲しいわ。
無論、『ネオ≠ではないフラガ少佐』なら、そんな手間も必要ない。虐待や拷問を行わないこと、公平公正で迅速な裁判を保証することを各国大使立会いの下、宣誓した上で堂々とザフト・西ユーラシア連合軍に引き渡していただけばいい。
その時、『逮捕にご協力いただいたこと』を改めて、アスハ代表とアークエンジェルに謝意を表明できれば満点だ。
そんな風に考えをまとめていると、エレベーターからグラディス提督がご到着され、此方に敬礼をして下さるので、返礼し合流する。彼女も傘を持っていて、ホッとする。流石に私だけ差すわけにもいかないし、一回りも年齢が違う女同士で相合傘と言うのも気が進まないもの。 - 113二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 01:42:16
アグネス「上申の許可を…」
タリア「聞きましょう。歩きながら、ね」
アグネス「はい」
ホテルまでの短い道すがらで、今考えたプランを提督にお伝えし、そこそこの好感触を得る。ドアボーイに玄関を開けてもらい、そのままアスラン達が押さえてくれた会議室に乗り込む。
会議室の中には既に皆が揃っていた。アスラン、シン、ルナマリア、メイリン。円卓には6つのコーヒーカップ、その内1つには白湯が入っている。私の分、嬉しい配慮ね。
敬礼を交わして、所定の位置に座っていく。私の両隣はグラディス提督とアスラン、最悪だわ。頼りのメイリンはアスランのもう片側、まあ補佐(補助)が要るものね。この人は。
タリア「それでこの会議はどういう趣旨なのかしら。話を脱線させないために決めておきましょう。アスラン?」
話を振られたアスランが頷き、立ち上がる。
アスラン「昨日、ベルリンを廻っていた時にミリアリア・ハウ氏と再会しました。彼女は元ヘリオポリス在住の18歳のオーブ国民でキラの…。フリーダムパイロットの工業カレッジ時代からの友人です。先の大戦の時はアークエンジェルをCIC担当、ヤキンの後は戦場カメラマンとなって世界中を回っていたそうです。ディオキアやクレタにも来ていたそうで…」
一気に衝撃の事実を語り出すアスランに皆が絶句する。
アグネス「(な…、なるほど??)」
戦場カメラマンなら今の時機の西ユーラシアは活躍の舞台だろう。
ベルリンは今も戦時下、避難民が多数押し寄せている。現地のインフラ復旧が有る程度、進まないことには彼らの疎開生活は続く。
そして何より、医療体制が整ったこの都市には、前線から軍民多数の負傷者が担ぎ込まれている。身分・階級の高いものから低いものまで、様々だ。最前線ほどではないにしろ、戦場カメラマンやジャーナリストが腕を振るう機会は多いはずだ。 - 114二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 01:44:49
アグネス「(キラ・ヤマトが通う『工業カレッジ』に16歳で在学していたということは、彼女もナチュラルの中ではかなりの上澄みね。うーむ。人材とはどこに生えてくるか分からないものだわ)」
どうしてもアークエンジェルクルーと言うとノイマン氏やマードック氏が思い浮かんでしまう。しかし、あの艦を真に不沈艦足らしめたのはキラ・ヤマトの友人たちヘリオポリス組の活躍によるところ大であった。そうアスランから聞いている。
確か、オーブの著名な外交官、アーガイル家のご子息も所属していたはずだが…。この本題では無いわね。
タリア「それで?そのミリアリア・ハウ氏と再会できたことは良しとして、アスラン、貴方何を考えているの?」
皆の視線がアスランに集まる。久しぶりに前大戦の戦友に会えて嬉しい、何て言う話をする場ではない。それに彼が次に言うであろうことを薄々皆が悟っている。
アスラン「彼女はターミナルと係わりがあるようです。私個人であるならば、アスハ代表やキラ達に繋いでくれると。私はその提案を真剣に検討しています」
ああ。やっぱりそうなるか。
アグネス「(アスラン個人…。それは、ハウ氏にとって信頼に足るのは共に戦った彼個人となるから当然ではあるけれど。このタイミングで私人としてアスランをアークエンジェルの人達と接触させるのはどうなのだろうか)」
正式な会合が持てないなら、私的に接触と言うことも確かに考えてはいたが…。いざその話が出るとやはり迷わざるを得ない。アスランの立場は何度も言うように微妙なものなんだ。 - 115二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 01:45:18
よくよく考えるとミリアリアさんの経歴も他人から見ると中々激動である
- 116二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 02:44:10
少し寒気がして白湯に口を着ける。寒さでぼやけた思考を引きもどさなければいけない。
何しろ傘はほぼ無駄になってしまったから。やはり今の左手では上手く扱えなかったわ。見かねた提督が右手で構わない、と言う頃にはここについてしまった。話すことの方に集中し過ぎていた。
まあ、それは良い。温かい飲み物が血液を脳までしっかり運んでくれる。それを待ちながら考えを固める。
アグネス「ハウ氏と連絡は可能ですか?アスラン先輩が単独で私服を着て接触と言うのは余計な誤解を招くかもしれません。軍服を着て、休戦旗を持って会見に臨むことはできませんか?先輩のみの単独行動ではなく、せめて随員と3名ほどで」
そう話しを振ってみる。アスランは難しい顔をする。何時もしているか...。
アスラン「彼女と連絡自体は可能だ。ただ、ザフトの制服を纏って、複数人でとなると難しだろう」
ルナマリア「それじゃあ…。後で明るみになった場合、スパイ容疑がかけられる恐れがあるのでは?」
心配そうなルナマリアの問いかけにアスランは頷くがどうしようもない。ラクス暗殺事件の黒幕がプラント上層部内に存在し(ほぼ確定)、それが腹黒議長自身の可能性があるのだから。『ザフトのアスラン・ザラ』としての面会にはやはり難色を示されるだろう。
このやり取りを聞いたグラディス提督がご提案される。
タリア「では、まず本日のこの会議の記録を書面と映像で残しておきましょう。嫌疑が掛かった時のために。メイリン、これまでのやり取りも起こした上、頼むわ」
メイリン「はい。これからの会議は録画・録音されます。よろしいですね?」
アグネス・一同「はい」
もう一度、考えをまとめる。アークエンジェル側は『ミネルバ』に関しては疑いを晴らしてくれている。
アスランがザフト軍人として彼らの下にいけないのは道理だが、オブザーバーとしてミネルバ隊の私達が付き添うことまでは許してくれるのではないか。
勿論、私達自身は軍服で。余計な嫌疑が味方から掛かった時のために『実は上官の許可を得た任務の一環だったのです』と言える余地を残しておかなければいけない。 - 117二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 10:20:58
ラクス様はもう宇宙上がったか
- 118二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 12:08:03
本編では都合のいい駒扱い感があったけど、フェイスが協力して権限を活用すればこれだけの事もできる…のか?
独断専行として国防委員会や評議会から攻撃されるリスクもありそうだけど。 - 119二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 18:59:03
もう常識が通用しないくらい議長の力は及んでそうだ
- 120二次元好きの匿名さん24/12/11(水) 19:20:53
これでアスラン拘束されたら部隊ごと離反してカウンタークーデター起こすしかないぞ…
- 121二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 01:17:55
挙手して、早速その旨を伝えることにする。
アグネス「アスラン先輩ご自身は私服・プライベート寄りのお立場で、私達ミネルバの軍人は公務・軍服でオブザーバーとして随行し、共に彼らとの会見に臨むことはできませんか?私達はアスハ代表ご本人とも護送任務の際に面識があります」
シンのアホは悪い意味で記憶に残っているだろう。あの時は最悪だった。
アスラン「それは…。俺には何とも…」
ルナマリア「服や立場も大事だけど、ザフト軍人が立ち会うという意味では同じよね。それをあちらがどうとるか…」
困り顔で応じるアスランと痛いところを突くルナマリア、しかし、ここでこうしていても埒が明かないだろう。リスクは承知でアスラン一人に行かせるしかないのか。
そんなことを考えていると、少しじれったそうな顔をしたシンが直球の提案をしてくる。
シン「ハウさんの連絡先は聞いているんですね?いっそ、今、かけて聞いてみればいいんじゃないですか?」
タリア・アスラン・アグネス・ルナマリア・メイリン「!!!」
愚者の一言が賢者の百説より核心を衝くこともある、とはこのことか。シンは赤服だから愚者とは程遠いけどね。
アグネス「(シンは何とはなしに行ったのかもしれないけど、この提案、すごく良いわ。会議を無駄に躍らせている時間はない)」
シンにアイサインを送った後、挙手して再び発言する。
アグネス「私はシンの意見に賛成です。私達は一旦退出して、この部屋でアスラン先輩から先方に問い合わせするというのはいかがでしょうか?お会いする場所、日時、随員の数、服装や立場その他についても出来ることなら」
ハウ氏の反応次第ではアスラン単独もやむなしかも知れない。ただ、出来れば、それは最後の手段にしたい。 - 122二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 01:26:14
そう考えつつ、私はグラディス提督に尋ねるように視線を送る。すると、彼女も賛意を目線で示して下さる。
タリア「もしハウ氏と連絡が繋がれば、と言う話になるけれど、私に異存はないわ。アスランはどうなの?皆は?急な話で戸惑っているだろうけど」
シン「俺…自分は賛成です。言い出しっぺですし」
ルナマリア「確かにここであれこれ言っていても…。私も賛成です」
メイリン「賛成です」
話の流れにアスランは戸惑いの表情を浮かべている。流石に今、この場で再コンタクトと言う流れになるとは思っていなかったのだろう。
ただ、彼も事態は長期化するほど悪化していくと理解している。
アスラン「分かりました。彼女に連絡します」
メイリン「盗聴されているかも知れません。会話内容には注意を。それと、申し訳ありませんが、アスランさんとミリアリアさんの会話中も録画・録音は止められません」
アスラン「ああ。仕方ない。彼女にもそのことは伝える」
メイリンはカメラの位置を固定し始める。彼女も通信中はここを出なければいけない。
退出しても録画と録音が続くなら、意味が無さそうな気がする。ただ、こういうのは気分や誠意が大切だ。
それに、お互いを守る上で-私達だけでなくハウ氏を守る上で-この配慮は不可欠、アスランの立場の弱さをさっきから心配しているが、一カメラマン(ターミナルとの関わりは有り)の彼女も相当、弱い立場である。
オーバーな表現かもしれないが、この世界の深淵に触れる以上、彼女もまた『消される』ことの無いようにしてあげたい。いざと言う時、私達が証人になり、やましいことがない証拠を残して置いた方が良いだろう。
敵か味方かで言えば、味方寄りの人なのだから。少なくとも今は。
タリア「よろしい。アスラン以外一時退室を」
アグネス・一同「はい」
会議室にアスランを残し、5人でゾロゾロ出ていく。中にポツンと取り残されるアスランが何とも表現しがたい硬い表情をしている。大丈夫か…。
トール・ケーニッヒのこともあるから不安だわ。前大戦、アスランの戦果記録にあったスカイグラスパーのパイロットはヘリオポリス組の一人だった。今も本音では互いに気まずいはずだ。 - 123二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 01:32:04
ルナマリア「アグネス…。出よう」
アグネス「ええ…。うん」
ただでさえコミュニケーションに難があるアスラン、凄く心配だが、ここは彼に任すしかない。私は彼の母親でも副官でもないのだから。
会議室の前の廊下で5人、暫し手持ち無沙汰になる…訳も無く。
シン「提督、この後、俺達は何処で戦うんですか?」
ルナマリア「ちょっと!シン」
当然、今後の世界の見通しについて会話が飛び交うことになる。普段なら『提督と一パイロット』の関係だが、今は『特務隊長(同輩中の首席)と特務隊員』の関係だ。良くも悪くも闊達なやり取りになる。
タリア「分からないわね。ただ、対ロゴスをあれだけ前面に出した以上、何かしらのアクションは起こさざるを得ないでしょうね」
調子に乗り過ぎだわ。あの議長は、本筋の戦争はどうするつもりなんだ。戦争指導全体をバランスよく行うべきなのに。
アグネス「スエズ攻めはどうなったのでしょうか?元を正せば、ミネルバはスエズ攻略支援のために西に来たはずなのですが…。加えて、対ロゴス戦協力の『見返り』に同盟国と約束した旧領回復。大洋州にはニュージーランドを奪還しましたが、アフリカ共同体は後回しにされて焦れている、とも聞いています」
困り顔のグラディス提督に重ねて質問してみる。特に北アフリカ、スエズをどうするかは『本来のミネルバの任務』に関わる。はっきりさせておきたい。おきたいが…。
タリア「申し訳ないけど、私も分からないわ。上からは何も。此方に目が行っていて、それどころではないのかも。同盟国の要請を後回しにするべきではないと、私も思うけど」
シン「そう言えば、そっちが本当の任務でしたね」
シンがそう言えば、といった調子で発言する。もうみんな忘れているだろうけど。
ルナマリア「特務隊権限で国防委員会に問い合わせますか?」
アグネス「ネオ・ロアノークとアークエンジェルの件が片付いたらね。変に聞いて『そう言えば』と任務を投げられたら…。パンクすること間違いなしよ」 - 124二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 01:40:12
ただ、現時点、アフリカ共同体以外の親プラント国とプラント本国はロゴスないしファントムペイン、ブルーコスモスの『首』を何より欲していると思う。
ここまでのことをされた以上、それなりの地位の人物を討ち取るなり、お縄にするなりしないと国民感情の収まりが付かない。
だからこそ、ネオ・ロアノークが問題になる。彼の『無罪』が予想されている以上別の誰かの首を代わりに差し出す必要にも迫られるかもしれない。
そもそもジブリールはどうなっている?
アグネス「(予想するとしたら、例えば、国家総動員体制への協力を条件にユーラシア連邦に匿われている、とか?うーん、どうだろう。ロゴスと各国政府機関・首脳個人との距離感が分からない…)」
考えてもどうしようないことは考えるな。話が散らかり過ぎてもいけない。
そう思い直していると、タイミング良く会議室の扉が開き、アスランが顔を出す。
アスラン「通信が繋がって…。話がまとまりました。中へ」
タリア「分かったわ。皆!」
アグネス・シン・ルナマリア・メイリン「はい」
ササっと急いで部屋に入ると扉をしっかり閉める。
アスラン「ミリアリア・ハウ氏と話して、まとまりました。
私、アスラン・ザラは私服で、オブザーバーのミネルバ・ザフト軍人は軍服で会見に臨むこと。自衛のため拳銃の携帯は可とすること。オブザーバーの人数は2名程度、アスハ代表護送任務時にカガリ本人と直接面識のある者から選任すること。この条件でアークエンジェルにターミナル経由で連絡する、とのことです。日時等は追って連絡すると言っていました」 - 125二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 02:01:01
アスランは難しい顔のまま、ハウ氏と結んだ決定事項をつらつらと述べる。
ほぼ満額回答じゃない。もっと嬉しそうにすればいいのに!
対照的に私達は皆、話を聞いて、やれやれと胸をなでおろす。ともかく首の皮一枚つながった気分だわ。
メイリン「やりましたね!」
ルナマリア「良かった!」
そう、こういう反応よ。苦しいのは皆同じなんだから。ちょっとずつでも前進していることを喜ばないと。
ただ、それでも問題がないでもない。最たるものが-。
タリア「問題はアスハ代表と直接面識がある者、と言う部分ね。個人の信頼を重視せざるを得ないアークエンジェル側としては当然の要望ではあるけれど…。メイリン、アグネス、無理強いになってしまうけど、行ける?」
特に私の名前にアクセントを置いてお尋ねになる。負傷が回復しているとは言えない私を慮って下さっているのね。
アグネス「はい。喜んで」
まったく嬉しくないが、こう答えるしかないわ。適任者が他にいないのだから。
メイリン「はい。頑張ります」
私の回答を待ってメイリンも返事をする。まあ、最悪、彼女が100%で動ける状態なら、私は置物でも何とかなる筈。
グラディス提督は猶も私の身体を見て申し訳なさそうな顔色をする。しかし、こればかりはやむを得ない。ルナマリアは当時、月でミネルバには乗っていなかった。ハイネ先輩はこの会議に参加していないし、政治的ポジションが分からない。何より、今はバルチック艦隊との睨み合いで精一杯だ。
トライン副長もミネルバから動かせない。と言うか、そろそろ彼を少し休ませてあげた方が良いわ。 - 126二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 05:50:53
ただでさえ手一杯なのにその上で「あ、アフリカとスエズもお願いね〜」とか言われようものなら「ふざけんな、俺たちを殺す気か!!」とブチ切れたっておかしくないからな、今のミネルバ隊の状況って
- 127二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 08:57:49
パイロット以外の乗員のメンタルは大丈夫なんだろか。以前の話で乗員の二割がせん妄状態に陥ったとかあったし。
普通なら大事故起こしてるか、ヤケッパチになった乗員が反乱起こしてるレベルだぞこれ……。
戦後に「ミネルバ隊は某議長に特段に優遇されていた!」という批判が出てきたなら、この勤務実態を映像だの医療カル
テだのの証拠付きで突きつけてやればよい。優遇どころか、馬車馬のように働かされていたと誰の眼にも明らかだろうか
ら。某議長が何を考えているにせよ、やっている事は「使い潰し」以外のなにものでもない。
- 128二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 17:20:00
保守
- 129二次元好きの匿名さん24/12/12(木) 20:15:09
ここでミリィか
ミネルバがオーブ艦隊とやり合うことなく宇宙上がったからバタフライエフェクトでミリィもAAに乗ってないんだな
…ジブリールひょっとして最悪なタイミングでオーブに逃げ込んでたりしません? - 130二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 01:32:19
保守
- 131二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 02:18:36
アグネス「(そもそもハイネ先輩はアスハ代表護送任務に不参加…。あの方をある意味フリーにしておくのは良くないのだけど…。仕方ない)」
そして、もう一人どうしようもない人間がこの部屋にいる。
シン「…」
シンはグラディス提督から名を呼ばれず、そのことに対して、ムスッとしたようなホッとしたような相反する感情が混じり合った複雑な表情を浮かべている。
そう。条件的にはシンもドンピシャで当てはまるのだ。だが、こいつを連れて行くメリットはデメリットに及ばない。
タリア「シンはミネルバで待機せよ。現状、どんな事態も発生しうるということを忘れるべきではない。何時でも急な発艦に応じられるようにせよ」
シン「…、はい」
提督はシンに待機を命じ、彼の内心を慮って、その理由の半分を話す。もう半分は言うまでもない。トラブルメーカーには大人しくしてもらわないといけない。今回ばかりは。
アグネス「(それに彼女が口にした部分も嘘ではない。バルト海と北海、ドーバー海峡の制海権は依然、連合側が握っている。カリーニングラードとレニングラード軍管区周辺の制空権もどちらに転ぶか...。フェイス全員で出かけて一度に爆撃を受けて全員戦死と成れば目も当てられない)」
万一にも交渉中に変事が起こらないとも限らない。今回はシンとルナマリアに留守番をして貰おう。
さて、私とメイリンがアスランとの同行に応じた段階でこの会議の本題は終了する。後はおまけだ。
ただ、そのおまけが肝心だわ。ある程度話す内容も詰めておかなければ意味がない。挙手して立ち上がり、アスランに向け語り掛ける。 - 132二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 02:26:45
アグネス「アークエンジェルの人達とお会いし旧交を温めることも大切ではあります。信頼関係の醸成も会談の目的ですので。しかし、優先すべきは、先ずは①『ネオ・ロアノークがムウ・ラ・フラガと同一人物なのか?』、②『彼自身が自分をフラガ少佐と自己認識できているか否か』、③『犯行時の事理弁識能力と行動抑制能力の有無』これ等の確認が求められます。③は専門家に任せるとしても①と②は此方も把握する必要があります」
その場にあったホワイトボードに話ながら、その三つを書きつけて皆に見せる。私の言葉にアスランも頷き、一旦は同意する。
アスラン「そうだな。そこが分からないと…。と言う話なんだから」
それを聞いたグラディス提督はコーヒーに口を着けた後、彼女なりの見解を述べる。
タリア「ネオ・ロアノークの正体を尋ねた際に、合わせて彼の様子を聞いてきなさい。彼らの所感は重要よ。逆に彼らから問われることもあるでしょう。そちらについては?」
グラディス提督から再度、話を振られた振られたのでお答えする。
アグネス「恐らくラクス暗殺未遂事件の真相について問いただされるでしょう。これについては『分からない』とはっきり伝えるべきです。憶測や推測は排除して、かつ正直に伝えるのがこのケースではベストなはず。私以外の人が新たな証拠を手に入れていたら、話が変わりますが…」
そう言って皆と視線を交わしていくが、新たな証拠を入手した者はいないらしい。当たり前だわ。そんな暇はなかった。それにあの事件は明るみに出てはいけない類のもの。嘘を言わなくて済むのは良いことだわ。
メイリン「それとミーアさんの正体ですね。アスランさん、カンペ考えますか?」
アスラン「そうだな。いや…。俺の口からしっかり伝える」
大丈夫か?いざとなったら私とメイリンがいるから、よっぽどじゃない限り大丈夫か。
アグネス「それと…。提督、あの話をアスランにしてもよろしいでしょうか?彼らに話すタイミングが有るかは分かりませんが…」 - 133二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 02:32:17
例の案、アスハ代表を通じて、アークエンジェルの側から拘束した人物の情報を積極的に公表するプランをアスランに伝えてもいいだろうか?
タリア「どうぞ。ただ、判断するのは貴女ではなくアスラン、そこを勘違いしないように」
アグネス「分かりました」
アスラン「うん?」
少し間の抜けた反応をするアスランにここに来るまでに提督に話した案を少し手直しして伝える。
アグネス「残念ながら、仮にロアノークがフラガ少佐であったとしても、プラントと被害に遭った国々の世論は収まりません。当然、引き渡しを求められるでしょう。アークエンジェルには難しい判断が迫られます」
アスラン「そうだな…」
彼自身もその惨劇の渦中にいた以上、理解せざるを得ない。残念だが、前大戦の英雄だから、味方だったからと言った心情で肩入れできる範疇はとうに越えている。
だからこそ正道で話を進める必要がある。裏工作に裏工作で応じれば相手の土俵に降りることになるし、その道のプロではない私達にとっては危険だ。
陰謀に打ち勝つには正義・正論だ。
陰謀家が真に恐れているのは、他人の陰謀ではなく正論パンチのはず。表で勝負できないからこその陰謀・裏工作な訳であるし。陰謀がそもそも存在するかも分からない以上、猶のこと正面から突破するべき。
アグネス「私はアスハ代表・アークエンジェルの側から『フラガ少佐本人はブルーコスモス・ロゴスの被害者であり、記憶操作ないし洗脳を受けていた。それ故に戦争・人道犯罪を実行時は、刑事責任能力がない状態だった』旨を公にするべきと考えています。あくまで、彼の正体がフラガ少佐であり、公表前に医師の意見書を得るなり、簡易鑑定を受けてもらうことが前提ですが…」
そう切り出した上で、国家元首であるアスハ代表が明言してくれるなら、その発言に重みが増すこと、プラント・親プラント国からアークエンジェル側に有利な合意を取り付け、国際法廷の手続きを進めるこべきこと、この2点をアスランに力説する。
アグネス「無論、このような重大事件、簡易鑑定のみで刑事責任能力の問題を解決できない可能性もあります。再鑑定や本鑑定を求められるでしょう。無論、私もそう思います。ただ、それらの法廷戦術・刑事手続き等は専門の法務将校に任せるべきであると思います。いかがでしょうか?」 - 134二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 02:39:10
アスラン「ああ…。そうだな…。情報公開は大事だと思う。少し考えさせてくれ」
困り顔のアスランが煮え切らない返事をする。
うーむ。今一、感触が良くない。一気に捲し立て過ぎたかな。それとも時期が早すぎたか。
アグネス「(いや、この案だとネオ・ロアノークの問題にアスハ代表を大きく巻き込むことになる。彼女は亡命中の身。政治問題を更に増やす提案をアスランが嫌がるのも当然かな)」
少し気まずい沈黙が降りようとするのをグラディス提督が押し留める。
タリア「何にせよ。アスハ代表とアークエンジェル、彼女達と会見するのはアスラン、貴方自身よ。他の二人はあくまでオブザーバー。自分の言葉で当日は語りなさい」
アスラン「はい」
本題が話し終わったので温くなった白湯を飲み切り、お代わりを入れる。病室に帰ったら最後の点滴が待っている。その次にお粥、ジェルと骨折治療装置で夜を明かすことになるのか。
アグネス「(退院は何時になるのかな。グラディス提督は明日の朝と決めたらしいから。私もそろそろ医師に尋ねてみよう)」
焦り過ぎか。ただ、何にしろ長時間の外出許可は取り付けないといけない。クライペダはこのホテルより遥かに遠い。
アグネス「(とは言え、温まるわね)」
そう思いながら、白湯をチビチビ飲んでいるとグラディス提督が意外な-でもないか-お知らせを私達に伝達なされる。
タリア「今夜、アスラン、アグネス、シンにニュージーランド戦の勲章・記章がプラント・大洋州連合両国から授与されます。プラント側はノイ・カザエフスキー最高評議会議員、大洋州連合からは着任したばかりの駐西ユーラシア連邦大使がそれぞれの国家元首の特別代理をお務めになる、とのこと。会場は私とアグネスが入院している病院の応接室よ」 - 135二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 02:48:33
ルナマリア「すごいわ!おめでとうございます、アスラン先輩、アグネス、シン!」
メイリン「おめでとうございます、アスランさん、アグネスさん、シン!」
速攻でおめでとうを言えるこの二人は凄いと毎回思ってしまう。妬みや僻みを感じさせることが一切ない。
アスラン「…」
ザフトの勲章制度に取り込まれることを危惧してか、アスランは押し黙る。仕方ないので代わりに私がお礼を言っておく。
アグネス「ありがとうございます。グラディス提督、ルナマリア、メイリン。共に戦ってくれてありがとうございます、アスラン先輩、シン!」
アスラン「ああ…」
シン「提督、ルナマリア、メイリン、アグネス、アスランさん、ありがとうございます」
グラディス提督は私達3人それぞれの反応を微笑みながら見つめて下さる。病院で入院中に勲章を受け取るとか、如何にも戦時中って感じだわ。
私達の気持ちが落ち着くのを待ち、やがて表情を改め告げる。
タリア「カザエフスキー議員は最高評議会における議長の片腕よ。授与式の後の懇談会でお話する機会もあるかも知れない。私はダイダロス基地でお会いした時から、彼女のお人柄を信用しているけれど。注意深く、でも、しっかり交流を結びなさい」
アグネス・一同「はい!」
そう言えば彼女は議長のメッセンジャーのような役回りで降りてきたのだから、当然か。
私も彼女が議長の表の顔しか知らないであろうこと、彼の陰謀(の疑い)に関与していないと確信している。
人には意外な一面があるもの、また、善人面した者ほど恐ろしいことは良く分かっている。ただ、あの何ともお人好しそうな彼女のオーラ、先の大戦期の評議会議員方、今の評議会の再戦組の議員と比べると良くも悪くも小粒で大した悪事を行いそうにない。
かえってこれはチャンスかもしれない。最高評議会議員と直接会話を交わせる機会は上流家庭出身の私もさほど多くはない。軍に入っているから猶の事だ。でも、今回は病院が会場、授与式もこじんまりとしたものだろう。交際を持っておいて損はない。何かの布石になるかもしれない。
有益な情報を聞き出すことは無理だと思うけどね、知らないだろうから。 - 136二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 09:08:48
この後に及んでまだ頭ハツカネズミかアスラン……。ここでAAとカガリに「政治的隙」を作らせる訳にはいかないんだよ!
もしも「ムウ・ラ・フラガ少佐(?)」の件をつつき回されたら、絶対にAA側に不利になることが目に見えているんだから。
「これ以上カガリに苦労を掛けたくない」だ?ド阿呆が!政治的苦労どころか、AA討伐の大義名分をどこかの誰かに与えか
ねない一大事なんだぞ!カガリの命がかかってると思え。そこをよく自覚しろ! - 137二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 15:56:03
アグネス達がどれだけ最善尽くしても議長はないものをある、あるものをないことにして計画に必要なフローチャートを進めるんだろうな
現場が考えてる以上に常識やセオリーという土台が根本から変えられていってる - 138二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 19:37:36
おいおい、友好国や同胞の危機に、危険を顧みず駆け付けてくれたキラやカガリやAaの面々だぜ?
その恩を忘れて政治的、人道的に攻撃しようだなんて、そんな恩知らずがプラントにいるわけないよなあ。
なあ? - 139二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 02:48:03
保守
- 140二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 03:51:15
今晩の勲章授与を伝達された後、会議はお開きになる。こういうものは長々とやれば良いものでもない。何かあれば電話なり、メールなり、リモート会議が出来るのだから。
私は傘を右手で持って会議室を出る。国や軍によって傘を差すことを許可している場合でも、普通は敬礼に支障がないよう左手で持つのがルール。
今、右手で持っていられるのは、私の負傷を慮ったグラディス提督が特別にお目こぼしをして下さっているためだ。
そのグラディス提督とエレベーターを待つ間に見送りに来たルナマリアが耳打ちする。
ルナマリア「ねえ。あんた、明日とかに呼ばれても大丈夫?身体の具合は?」
心配性な彼女はやはりその点が気に成るらしい。
アグネス「大丈夫と思うしかないわよ。まあ、他人から見るよりはマシだと思うわ。ありがとう」
気にしてくれるのは嬉しい限りだが、ルナマリアが心配してくれても現状はどうにもならない。一度、決定したならやり遂げるまでのこと。オブザーバー、頑張ろうじゃない!
シン「敵になるかも知れない。気をつけろよ」
ルナマリア「シン!」
アスラン「キラは敵じゃない!」
縁起でもないことをシンは口にし、それを聞きつけたアスランは彼を睨みつける。何気ない発言を聞き咎められたシンは少し驚きの表情を浮かべた後、ブスっとした表情をする。
ただ、私としてはシンの心がけを内心で評価せざるを得ない。
この世界の勢力図は目まぐるしく移り変わっている。西ユーラシアの諸国すら、ほんの半年前まで敵だった。西ユーラシア連邦を構成する諸国出身の軍人の中には私の手で討ち取られた人もいたはずだ。
アグネス「(恩義や心情は別にして、アークエンジェルとは本来、和戦両様の構えで臨むべき。彼らが明確に味方となり旗を並べるようにならない限りは。忘れるところだったわ)」
私にとって守るべきなのは祖国プラントとその国益、友好国、戦友と月軌道艦隊、そしてミネルバ。アークエンジェルの立ち位置は『友好国』にかなり近いが『=』ではない。『≒』だ。準友好勢力に留まる。そこは踏み外してはいけないポイントだ。 - 141二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 03:55:18
そこまで考えての発言かは分からないが、これはシンの側に理があるだろう。もっとも、こいつは単にオーブ関係の話題に未だ蟠りがあるだけかもしれないけど。
アグネス「ありがとうね。確かに偶発的な事態は何時でも起こり得る。肝に銘じておくわ」
そう言ってシンとアスランの順にアイサインを送る。
シン「あ…。ああ」
アスラン「そうだな…。分かっている」
タリア「…」
グラディス提督は無言だ。沈黙を持って肯定している、と捉えるべきか。
チンと言う音と共に着いたエレベーターに乗り込み、皆と敬礼して夜までの別れとする。
ホテルを出る頃にはもう夕方になっている。どんよりとした雲が覆い被さり、雪が降りしきる北欧・北ドイツの空。移ろう季節、夕焼けの色を楽しめるようになれる日はまだ先のこと。
タリア「疲れたでしょう。気が休まらないわね」
病院まで黙って歩いているとグラディス提督が声を掛けて下さる。半分はご自身に向けての言葉ね。
アグネス「ありがとうございます。確かに、休日手当てを貰っても良いかもしれません」
タリア「残念ながら、管理職にはないわよ」
悪戯っぽく話す彼女に私も少しだけ悪戯っぽく応じる。
アグネス「特務隊がまさか名ばかり管理職とは…。アカデミー在学時に見抜けなかった不明を恥じるばかりです」
二人して少し気を抜き、冗談とも本気ともつかぬ言葉を掛け合う。とは言え、特務隊だからこそ出来ることも多い。数十億の人々が流転する世界で戸惑っている。自分ばかり憐れむのも考え物だ。 - 142二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 04:02:47
アグネス「分を超えたことではありますが…」
タリア「その台詞、便利ね。でも聞きましょう」
アグネス「他のクルーやパイロットの士気が心配です。身体の傷を負った者は少ないはずですが、精神の摩耗は隠せないでしょう」
分を超えたことであっても、言わないといけないことは言わざるを得ない。名ばかり管理職であろうと見なし管理職であろうと、現場の将兵と上級指揮官、国防委員会・最高評議会の橋渡しをするのもフェイスの職務の内のはず。
また、病院前の信号は赤信号になっている。
私の発言を聞いて、提督も頷き少し長く息を吐き出す。
タリア「分かっているわ。ただ、皆に数日とは言え休みをあげることは出来た。彼らもキールやベルリンの観光を楽しめたでしょう。ここからは訓練に訓練を重ねて士気を戻して行くわ」
アグネス「軍隊にとって訓練こそ日常、そして士気回復の近道、恐縮ながら賛成です」
タリア「ありがとう」
彼女が陰のある微笑みを浮かべたタイミングで信号は青に変る。二人で病院に向かって進みつつ、思いを巡らせる。結局、この上官は休みを取れたのだろうか。顔色を見るに回復してはいる。でも、この情勢、それこそ気が休まる暇があったとは思えない。
アグネス「(白服になった後も大変ね。これで退役した後の天下り先が外れだったら最悪だわ!)」
傍らの彼女を無礼にならない程度に横目で見上げ、退役後の自分を想像してみる。大企業・国営企業に天下りするか、自分で起業するか、それとも政界入りするか悩ましい。
この戦争の行方やアークエンジェル問題で四苦八苦している身で何をとも思う。でも良いではないか。それぐらいの妄想ぐらい許してくれなければ、この狂気の日々を耐え抜くことなどできない。
病院のエレベーターから降りて提督からの敬礼を受け、返礼をした後、やっと自分の病室に舞い戻る。
疲れた。死んでしまいそうだ。それでも仕事が残っている。 - 143二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 04:05:47
デバイスを起動させ、部下の叙勲推薦の残りを必死に打ち込み続ける。様式を15人分何とか埋めている最中に看護師が部屋に来たので、一旦、作業を止めデバイスをロックする。
私の母親より少し年上ぐらいのおおらかそうな女性看護師がにこやかに進んで来る。
看護師「ギーベンラートさん、血液検査と点滴のお時間ですよ」
アグネス「ありがとうございます。退院の時機はそろそろですか?」
看護師「う~ん。もう少し様子を見ましょう」
まだ、ダメらしい。
大人しく採血してもらい、点滴を打たれる。
アグネス「明日か、遅くても明後日、公務で外出します。これは国の命運も掛かっているので先生の許可をいただきたいのですが?」
看護師「そうですねー。採血の結果次第なので先生の問診を待ちましょうね」
アグネス「そう言う話をしているのではなく…」
流石、ベテラン看護師、あれよあれよという間に仕事を終えて部屋を出ていく。否応言っている間などなかったわ。
アグネス「(仕方ない。午前中から壮行会に午後には会議、問診・検査の時間に融通を効かせてもらっているのは私の方。素直にするしかない)」
レイにあれほどエルスマン博士の言うことを聞くように言っておきながら、自分がこれではどうしようもない。
ただ、医師が何と言おうが看護師に叱られようが、ハウ氏の指定した時間が来たら外出は決行するしかない。最悪、1分後でも飛び出る必要がある。飛び出る…。
カオスは何処!?足が無いとクライペダに行けないじゃない!民間の電車や飛行機を利用するわけにもいかない!
慌てて調べてみると案の定、ミネルバのモビルスーツ格納庫の中だったわ。ポーランドから輸送して受け取っていたらしい。と言うか、そもそも私は操縦できるのか?
ベラルーシの時のようにコルセットとバンドで固定・補助して、無理やり乗れないこともない。ただ、治療中の身、気が進まない。
アグネス「(手近な基地から操縦士ごとヘリを借りるしかないか。セイバーに3人で乗り込むわけにもいかないし。アスランの都合も確認しないと)」 - 144二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 04:12:48
ただ、クライペダはもはやユーラシア連邦の飛び地と化したカリーニングラードと目と鼻の先だ。自衛手段が欲しい。そう思うと…。
勲章授与式の後、彼とメイリンの意見も聞こう。先ずは部下の受勲申請を終わらせる。頭をパンクさせても良いことは一つもない。
アグネス「(点滴しながら仕事…。何も言うまい。世の中、そんな人いくらでもいるわ!)」
その後やっとのことで部下の-部下だった飛行隊メンバー-全員の叙勲申請書を書き終え、カチッとクリックして国防本部に送信を終える。良い感じの勲章を皆がゲットできることを祈念するわ。
医師の問診を待つ間、暇が出来るかと言えばそんなことは無い。手持ちのデバイスを使ってシミュレーション訓練を再開する。シミュレーターに精度は劣るが止む無し。ここで腕を落とせば次の戦場で自分が撃ち落とされることになる。当然守るはずだった見方も死ぬ。
シンの言葉は確かに一理はある。私達が今、仮想敵とするべきなのはアークエンジェルだ。これは彼らを敵視することを意味しない。例え友好国間であっても『いざ』に備えるのが軍人であるし、それ抜きにしても彼らの戦術・戦闘術に見習うべき点が多い。
アグネス「(そう考えると、私がシミュレーションで敵役にするべきはフリーダムか。私の知る限り、今モビルスーツパイロットで一番強い。あのデストロイさえ単機で翻弄していた。それなら、キラ・ヤマトを仮想敵にするのはいいことだと思う)」
ただ、私と彼との実力差は相当なものだ。現実で彼を止めようと思えば、『セイバー+インパルス』、『セイバー+カオス』、あるいは背伸びして『インパルス+カオス+グフ3機』…。
アグネス「グフ3機は要らないわね。ハイネ先輩が乗るなら別として、でないと武装の都合上、かえって足手まといになるわ。背伸びして『インパルス+カオス』かしら」
本当にそんな事態になればアスランは全く当てにならない。彼には撃てない。共同訓練しようにもシンはここにいない。であるなら、無い物ねだりはせず、ムラサメ隊を仮想敵とするべきだろう。 - 145二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 04:19:30
アグネス「(さて、空戦能力に劣るカオスで10機の相手などできない。あくまで仮想の訓練なのだから1個小隊、3機を相手取って戦う想定してやるべきね)」
前回の戦い-対ファントムペイン戦-でムラサメの戦闘パターンは大体把握できている。流石に精鋭と名高いオーブ軍、連合の鈍間と違って攻撃時に棒立ちになる隙はほとんどない。
うーむ。これは1個小隊どころか1機相手でも手こずるぞ。
何より戦闘機型になったムラサメの速度と機動力は驚異だ。大気圏内を『飛べる』カオスと戦闘機が戦おうというのだから当たり前ではあるが…。
ただ、これも戦闘機の宿命として空戦時は相手も速度を落とさざるを得ない。従って戦闘時に限って言えば互いに亜音速以下の戦いになる。
アグネス「(仮に1個小隊と戦った場合、68A式空対空ミサイル・ハヤテが4発×3、計12発飛んでくる。これはカオスのCIWSで撃墜して-。全弾撃ち落とせるとは思えないから、撃墜し損ねたミサイルはヴァリアブルフェイズシフト装甲を頼みに被弾を覚悟する)」
画面の向こうでカオスをモビルアーマー-モビルスーツ-モビルアーマーと空中で目まぐるしく形態変更し、頭部の12.5mmCIWS4門、胸部の20mmCIWS2門をフル活用する。
最初はモビルアーマー形態から変形も出来ぬまま小隊に囲まれて12発撃ちこまれていた。暫く頑張って戦闘中の形態変更に成功するようになった。形態変更が上手くいけばCIWS6門が同時に使用できる。そのまま1機目のハヤテ4発を撃墜、機体を捻りながら宙返りをして更に4発を爆散させる。
4発が被弾。普段ならともかく、今の身体ではノックアウトされかねない。
アグネス「(レーダー視認、機体変形、目視、正面からミサイル4、2機展開。敵は3次元に迫って来る。飛び去って行く。進退自在だ、落ち着け)」
捻って宙返りして、逆宙返りして、急旋回して。レーダー、目視、実戦では偵察機や母艦ミネルバの補助もあるけれど。 - 146二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 04:24:47
8回目のトライで何とか68A式空対空ミサイル・ハヤテ12発、全方向時間差有りでも全弾撃ち落とせるようになる。逆に言うとぶっつけ本番なら7回死んでいるということ。
アグネス「(もう死なないからどうでも良い。次)」
ハヤテよりもはるかに厄介な72式高エネルギービーム砲、72式改ビームライフル『イカヅチ』の対策をしなければいけない。ハヤテは最悪、被弾を覚悟すればいい。ビームライフルは不味い。冗談抜きの命取りだ。
アグネス「(ただ、もう大分楽だわ。ハヤテで慣れた。モビルスーツ-モビルアーマー両形態を上手く切り替えながら、カオスを捻ったり、急旋回したり、宙返りさせたり、逆宙返りしたり、バレルロールすればいい。自機を急機動させながら、焦らず敵を墜としていく)」
言葉で言うのは簡単だが、訓練でそれをするのは死ぬほど大変だ。実戦でやる際には死を間近に睨みながら実行せざるを得ない。何時ものことだ。
ありがたいのはカオスの攻撃手段が多いこと。敵から見るとハリネズミの如しだわ。無論、高エネルギービームライフルが一番精密に狙えるから、他の武装は牽制用と捉えるべきかもしれない。
68A式空対空ミサイル・ハヤテ+72式高エネルギービーム砲、72式改ビームライフル『イカヅチ』の訓練を始めたところ、当たる当たるカオスは被弾しまくる。何回墜ちたのやら。
アグネス「(11回ね。何パターンも敵の機動を再現しているし…。いや、負け惜しみは止めよう。私が『死んでいる』それだけだわ)」
オーブは連合の愚図とは違う。特にアークエンジェルに乗っているようなエース級だとファイヤーフライ・誘導ミサイルはムラサメの12.5mm自動近接防御火器で大半が撃ち落とされると想定するべきだろう。奇襲に成功するか、味方機と連携できればまた違うのだろうけど。 - 147二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 04:31:36
アグネス「(良し本番。カオス対ムラサメ3機、スタート!)」
接近してくるムラサメをカオスのレーダーで確認、機体の機首を敵に向け戦闘に備え。カオスをモビルアーマー形態からモビルスーツ形態に変形開始。
直ぐに72式高エネルギービーム砲、72式改ビームライフル『イカヅチ』が3機分、6本の光の槍が一度に互いの死角を補い合うように飛んでくるはず。
モビルスーツ形態に移行したカオスを地面・水面と平行飛行させ、被弾予想面積を少しでも小さくする。
首を起こして12.5mmCIWS4門を正面に向ける。両腕も前に伸ばして、右手で高エネルギービームライフルを構え、起動兵装ポッドのビーム突撃砲2門も照準合わせ、巡航機動防盾が装備してある左腕はまっすぐ伸ばしてピクウス 76mm近接防御機関砲2門で頭部CIWSと合わせミサイル迎撃用意構える。
アグネス「(鉄腕ア●ムの飛行ポーズみたいね。こっちはもっと物騒だけど。C.E.になっても機械で戦争…。偉大な漫画家もお嘆きになるでしょう)」
ただ、私は評論家になるためにアカデミーの門を潜ったのではない。軍事評論家になるのも良いがそれはまだ先だ。
今は訓練、カオスはその態勢のまま必死に攻撃を続行しつつ自機はバレルロール、高推力スラスターは常に全開前進、機動戦闘ポッド開放、ファイヤーフライ・誘導ミサイル24発、ムラサメ1機に付き8発一斉発射!
敵もハヤテを4~12発(残存機によって変動)発射、ここで一度、敵とすれ違う。すれ違いながらお互いにミサイルを迎撃し合う。一応この段階で3機の内少なくとも1機は仕留めている予定だ。
ともあれ此方もカオスを首から上半身の順に機体を引き起こし、頭部の12.5mmCIWS4門、胸部の20mmCIWS2門をフル回転させハヤテの撃墜を続ける。同時に敵1~3機もファイヤーフライを墜とし続ける。
レーダーと目視で敵の進路を確認しながら、カオスはそのまま宙返り、ミサイルを撃墜しつつ、同時にモビルスーツからモビルアーマー形態の変形を成功させなければいけない。 - 148二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 04:35:37
分析するにムラサメ小隊はすれ違いざま機体をモビルスーツ形態に変形させ、3機で連帯しながら72式改ビームライフル『イカヅチ』を撃つ戦術を好む。
その前に-彼らがすれ違って機体を変形するか、あるいは次の攻撃に移行するか-その一瞬前に出来る隙、そこに間に合うようにカオスの変形と180度の方向転換を完了する。
方向転換が成功すればカリドゥス改・複相ビーム砲が彼らに向く。ほぼ同時に照準が定まっているであろう高エネルギービームライフル、ビーム突撃砲2門を発射する。続けて同時に複相ビーム砲を発射!薙ぎ払う。
アグネス「(全機撃墜。一応デバイスの訓練ではね)」
シミュレーターを使った訓練ではない。機体を実際に動かしてなじませないと確信が持てない。だが、今自分で出来る最善はこれなのだろう。
病室のインターホンが鳴り医師が入室を求める。デバイスを切って入室していただく。
医師「まずまず経過は順調ですね。外出の件は半日ほどですか?」
アグネス「ぴったり12時間とは限りませんが…。誰も望まぬ衝突を防ぐため最後の機会になるかも知れないのです!」
微妙にドクターストップの空気が漂い始めたので必死に牽制する。牽制してどうなる!相手は専門家だぞ、私は馬鹿になったのか。
医師は私の言葉を聞いて、ふむ、と考え込む。
医師「私達は既に『多くの人』が望まぬ衝突の只中にあります。ギーベンラートさんは多重衝突を防ぎたいと?」
アグネス「はい!その通りです」
医師が私に右手を差し出すので私も彼の右手を握る。OKのサインだろうか。
医師「ふむ。ふむ」
アグネス「(問診の一環か。前もあったわね)」 - 149二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 04:42:04
医師は少し考え、取り合えずの許可を出してくださる。
医師「良いでしょう。半日の外出を許可します。自動車の運転はダメですよ」
アグネス「モビルスーツの操縦はどうでしょうか?」
医師「やはり許可を取り消しましょうか」
アグネス「しません!操縦も運転も」
医師「よろしい」
怒るのではなく淡々と諭すように語られると反発しようもない。仕方ない。自分で操縦できないから、うーん。アスランかメイリンか、どっちかに頼むか。
医師「点滴は今日まで。うん…?ギーベンラートさん!点滴中は大人しく過ごして下さい!」
医師は点滴の挿してある腕の様子とさっきまで使っていたデバイスを見比べて強い口調で注意を始める。
アグネス「はい…。申し訳ありません」
やはり怒られたわ。そう言えば、そうね。ハードワークが当たり前で頭が変になっているわ。
医師「…。それから、暫くは病院の指導の下、食事を。お茶は飲んで結構ですが、コーヒーはまだ駄目です。アルコールなど厳禁です。17歳のギーベンラートさんは関係ないと思いますが」
アルコールとタバコを嗜む気にはなれないわね。法律どうこう以前に我が家にそう言う習慣はない。
アグネス「アルコールは飲んでいません。パイロットですし。栄養ゼリーや栄養ドリンクはどうでしょうか。部下からのお見舞いにも有ったのですが…」
部下のお見舞いの品々を確認したところ『高級栄養ゼリー』と『高級栄養ドリンク』があった。なにが高級か分からないが、きっとすごい効き目なのだろう。 - 150二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 04:50:49
医師「栄養ゼリーはかまいません。病院からもお勧めする積もりでしたので。栄養ドリンクは、今はダメです。元気の前借のようなもの、それを平常時ならともかく負傷時など…」
アグネス「分かりました」
その後も医師の指導は細々と続く。食べと良い食品、ダメな食品、まだ臓器を労わらなければいけない。
退院も、もう少し待つように言い含められる。それならば今後、もし通いになるなら向かいのホテルを借りの住処にしても良いかお尋ねする。
医師「かまいません。あのホテルは要人も良く利用される格式ある施設。軍の用事で何かと忙しいギーベンラートさんにはピッタリでしょう」
アグネス「ありがとうございます」
ただし、とも一度念を押される。
医師「もう一度、言っておきますが...。艦上勤務復帰はまだ待ってください。くれぐれも焦り過ぎないように」
アグネス「はい」
『前科』が出来てしまった分、余計に強く言い含められる。私としてはミネルバの様子を確認したい。半日なら外出できるならキールに停泊している内に一度、乗艦するべきだ。当日中に病院に戻れば問題ないだろう。
問診が終わると看護師が点滴を抜いていく。唇の動きで彼女も私を窘めている。確かに点滴中にやらんでも良いことばかりしていたわね。どうかしているわ。
二人にお礼を言って見送った後、身繕いを始める。と言っても朝しっかりしたからあまりすることは無い。
勲章授与式、その後の懇親会には食事も出る。医師から示された『食べても良い物』リストに挙がっている物が有ると良いな。 - 151二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 07:47:31
シミュレーションとはいえムラサメ隊強いな!?
ACFaか6の最終戦みたいな事になってるよ。
いや、映像でもいい動きしてたけど、ファイアフライでバタバタ墜ちてた連合MS隊と差がありすぎるな。
パイロットの質、OSの質、空戦用機体と外付けストライカーの差、この辺が大きく出てる感じか? - 152二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 09:34:34
ギル「アグネス君はAA対策を頑張っているようだね。じゃあエンジェルダウン作戦をやってもらおう」
- 153二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 11:06:27
>シン「敵になるかも知れない。気をつけろよ」
>アスラン「キラは敵じゃない!」
……「敵になる」場合もあるが、「敵に仕立て上げられる」場合もあるんだよな。そこら辺の事分かってるのかアスラン?
あの原黒ロン毛は、未だにAA討伐&フリーダム撃墜を狙っているフシがあるんだから。先手回しに手を打って行かないと、
いつ「AA=オーブ亡命政権」が「世界の敵」にされるか分からない。しかも、もう何か仕掛けているのかもしれないと思わ
ずにはいられないのが、あの扇動屋の怖い所なんだよなぁ……。マジで歴史の分水嶺が目の前に来てるんだから……。
- 154二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 11:18:41
今フリーダム相手に戦闘機動したら、絶対アグネス○ぬと思う……。せめて普通に固形物が食べられるまで待てやオイ。
ところで、疲労のあまりお化粧をする余裕も無くてどんどんナチュラルメイク系になっていくアグネスさん。いっその事、
これを利用して身を守った方が良いのでは?ただでさえ東ユーラシアが「人民の敵、アグネス・ギーベンラート!」と血圧
上げていて、下手をすればテロや暗殺の目標になりかねない立場になってしまった今の状態では顔を知られる事すら命取り。
故に、公表される&公式の場での「アグネス・ギーベンラート」は開戦前のガッツリメイク系にして、普段はナチュラルメ
イクで印象を思いっきり変えておくとか……流石に考えすぎというかやりすぎ?
- 155二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 12:26:24
ムラサメ隊の3機編成を相手にしたら、1機落としたところから崩して全機撃破か、ミサイルでもライフルでも一発かすったとたんに波状攻撃で達磨かどっちかだと思う
編隊組んでたタケミカヅチの時より小隊単位での連携戦闘の方が動きヤバいし。士気もあるだろうけど
アグネスの力量ならセイバーなら完勝できるかもだけどカオスじゃきついなコレ
祖国の利益の為戦うのが軍人と言えど、AAから仕掛けないし命奪おうとしない中で殴りかかる自分達を正義と思い続けるのは、原作シンの様に心身が弱ったり怒りで我を忘れてないと無理っすね。良心があるからこそ
エンジェルダウン実行されたらアグネスもシンも今度こそ潰れそう - 156二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 17:53:38
保守
- 157二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 02:44:14
軍服をしっかり着込んで病院内の集会場に降りていく。エレベーターから出るとアスランとシンが待っていた。ルナマリア、メイリン、ヴィーノとヨウラン、ショーンとデイル、元ガルナハン組からは代表者が3名、私達を入れて11名が参加、残りは病院内と言うことも考えて自粛してくれたようだわ。
こう言うのは盛大にやれば良いというものでもない。身を癒し、逝くものを見届けるべき場所だから。
ガルナハン組はお手伝いも兼ねているのか大きなアタッシュケースを8つも持ってきている。
アスランと敬礼を交わす。彼は何とも微妙な顔だわ。当たり前か。シンはシンで緊張で顔が強張っている。もう慣れたでしょうに。
アスランがスタスタ歩み寄ると耳打ちしてくる。
アスラン「会の後、メイリンと病室に」
アグネス「了解です」
夜に男性が部屋に訪れるのにときめきも身の不安も感じさせないとは!アスラン・ザラ、恐るべし!
そう思っているとエレベーターが何時もの拍子抜けするような音を立てて開き、中からグラディス提督と病院長、看護師長が姿を見せる。皆が一斉に敬礼、グラディス提督が敬礼するのを待ちアスラン、シンと共に私も敬礼、降ろして直る。
タリア「皆集まったわね。カザエフスキー最高評議会議員、大洋州連合勲章使節団長(駐西ユーラシア大使)がいらっしゃるわ。来賓として駐西ユーラシア汎ムスリム会議大使、駐西同じくアフリカ共同体大使、同じくファウンデーション王国特任代表、同じく親プラント派コーカサス諸国大使4名の方々も。幸いまだ時間は有る。中で待ちましょう」
アグネス・一同「はい」
親切な看護師が開いてくださった扉を潜り、提督ご自身も含め12名で整列する。なるほど、確かに定刻まで時間がある。ただ、提督は時間を浪費する気はなさそうね。 - 158二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 02:52:13
皆の前に進み出たグラディス提督が私達に語り掛けて下さる。
タリア「皆、授与式に集まってくれてありがとう。さて、忙しい所だけど、今から予備式典を始めるわ。国防本部から通達があり、勲章制度に少し手直しが加えられる。戦争が長引き、授与するメダルが増加してしまい過ぎていることもあり-」
提督が話し始めると元ラドル隊組が彼女の前にテーブルを持ってきて、8つのアタッシュケースを重そうに並べる。
タリア「-。ザフトは従来の従軍記章を廃し、新たに特別従軍記章を設けます。授与の条件は『比較的小規模な作戦または短期間の作戦に対して軍人として参戦したこと』。最初の一つ目の記章(メダル)の留め金には参戦した戦闘の日時と作戦名が刻まれています。
以後は記章ではなく同じく参戦した日時と作戦名が刻まれた飾版が授与されるので記章本体のリボンに装着、5枚溜まった段階で、もう一つ記章が授与され、また飾板を5枚溜めて-。と言う仕組みになります。
略綬は、2回目以降はリボンの上に参加した作戦の数だけ銅の小星を装着、銅の星が5つで銀の小星を交換になります」
うむうむ。確かに朝に佩用して肩がおかしくなりそうだったわ。私が負傷をしていて、尚且つ参加した作戦の数が多いことを考慮しても大変だ。前大戦からの古強者はどんなことになっているのやら。
アグネス「(他の勲章を複数授与されたときと同様にするわけね。複数授与されても同じのが授与されるタイプも存在するけれど。それがアタッシュケースの中身か)」
提督の説明は続く。
タリア「既に授与された記章の返還は必要ありません。記念品として大切になさい。ただ、公式行事に参加する際は新制度のものを佩用すること。これまでの分を手渡すので順に取りに来なさい。先ずアスラン・ザラ」
アスラン「はい」
単なる『引換』で気が楽なのか、意外とすんなり前に進むアスランに彼女は微笑みかける。
タリア「貴官のこれまでの勇戦に心底より敬意と感謝を。時間が無くて申し訳ないわ」
アスラン「いえ…。ありがとうございます」
アスランの返事を耳にすると提督はケースを開け、6枚の証明書をまとめて彼に丁寧に渡す。略綬と小星も。そして飾板が5枚付いた特別従軍記章を彼の左胸に着ける。
タリア「おめでとう」
アスラン「はい。ありがとうございます」
短い言葉を共にアスランとグラディス提督は敬礼を交わす - 159二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 03:10:23
タリア「次、アグネス・ギーベンラート」
アグネス「はい」
提督、時間が無いので巻きに入っているわね。全員に配り終えられなかったら懇親会後かな。
タリア「アグネス・ギーベンラート、貴官のこれまでの勇戦に心底より敬意と感謝を。左胸、どう?痛くない?」
アグネス「平気です。準備して来ましたので」
タリア「よろしい」
そう言うや記章の証明書12枚と略綬に小星を一度に渡す。情緒が無いけど、まあ、種類変更だからこんなものか。グラディス提督は、そのまま私の傍に歩み寄り、特別従軍記章を2つ左胸に着ける。1つ目は飾板5枚、2つ目は4枚だ。
1つ目の記章(メダル)の留め金には『アーモリーワン事変 C.E.73年10月2日』と刻まれている。
私達の、いや私の戦争が始まった日。手柄が立てられると喜んでいた。今ならどうだろう。仲間が-仲間になれる人がいるからそれでも乗艦せざるを得ないか。どの道、ね。
その次、飾板の1枚目には『ユニウスセブン破砕作戦』、世界が壊れた日。馬鹿者共がC.E.73年10月3日に地獄の巨釜の蓋を開けた。いや、釜自体を叩き割った。
私が生まれる前から壊れていた世界に更に一撃が加えられた。私の主治医が多重事故と言った言葉は的を射ている。特大の追突事故だと思う。人類史に止めを刺すレベルだ。
あの時私は当事者なのにどこか事態を軽く考えていた。幼かった。でも、あの光景を目の当たりにしたら、その壮大なスケールに今でも見とれてしまうだろう。不謹慎だという人がもしいれば、あの時の叙事詩的瞬間を見せてやりたい。言葉を失うはずだ。
アグネス「(無論、生涯口が裂けても言わないわ。それぐらいの良心は私にもある)」
そして、以降、2枚目『アスハ代表護送任務』、3枚目『フォックストロット・ノベンバー並びに同日発生した戦闘』、4枚目『オペレーション・スピア・オブ・トワイライト』、5枚目『インド洋攻防戦』と続く。
2つ目の記章の留め金には『ガルナハン・ローエングリンゲート攻略戦従軍記章』、あの後の-その前からだ、と言われればその通りだけど-ユーラシアの荒れ具合は凄まじいほどだわ。
アグネス「(議長の思惑はどこまでだったのか?どこまでが彼の読み通りでどこまでが読み違い、棚ぼたなのか。作為・不作為をどこまで仕掛けたのか。今猶分からない。私が知ることは永久にないのかもしれない)」 - 160二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 03:23:07
【由らしむべし知らしむべからず】
彼は最近、その政治的手法を糊塗することさえしなくなっている。情報を自分個人に集約し、己の都合の良いように発信する。それを事前に監視するべき国家の最高機関である最高評議会、そのメンバーでさえ出し抜き、既成事実を積み上げながら、自転車を漕ぎ続けている。
そう捉えてしまうのは私だけではないだろう。控えめに言ってもあの男は危うい。
デュランダル議長が仮に上記の言葉に従って国家の舵取りをしているなら、彼は自由民主主義の対極を突き進んでいることになる。
無論、政治は理想だけでは動かない。衆愚政治を回避するためマキャベリズムに徹せざるを得ない場合もあるだろう。まして、今は戦時だ。このような有事に無責任な理想論を振り回すような子供っぽいことはしたくない。
ただ、それは議長自身にも言えることだ。世界は彼の実験室では無いし―プラントを勝手に社会実験の場にするような気持が僅かでもあるなら、それは祖国への冒涜だ。
アグネス「(『上からの近代化』が急務だった特定の時代や地域ならいざ知らず。少なくとも現代社会において、政治的マキャベリズムは、その国の国体維持を困難にさせるほどの明白かつ急迫の脅威から、祖国と人民の生命と財産を守るため、必要最小限度で用いる場合にのみ許容され得ると思う)」
それも将来の国民の審判を仰ぐために記録をきちんと残して、開示時期を定めた上でのことだ。プラント国民は今更、啓蒙専制君主を望んでいないはず。少なくとも私はそうだ。
まして、彼は啓蒙主義者などではない。本人が自分をどう認識しているかは分からないが-。
コーディネイターの私がこんな事を考えるのも何やら可笑しいというか-皮肉なものね。
私は今も、留保を付けた上ではあるけれど、コーディネイターは人類を新たなステージに導く先駆けだと信じている。地球の人々を支配しようとまでは思わないけれど、プラントが同盟国・友好国の中で指導的役割を果たすことを望んでいる。 - 161二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 03:36:41
そして何より-あれだけの悲惨を目の当たりにして猶、私は『勝利の和平』を求めている。
議長と私は思想も考え方も目指す社会の在り方さえ、恐らく大きく異なっているだろう。腹を割って話したことなどないけど、それぐらいは分かる。
ただ、他人から『お前と議長は何が違うのだ!』と問われたら、反論は出来るにしてもドッキリとはしてしまうだろう。
そう言えば、アークエンジェルの者達はどうなのだろう。キラ・ヤマト、ラミアス艦長はアスランから聞く限りでは政治色の強い人では無さそうではある。
亡命政権としての『政治家』はやはりアスハ代表その人になる。私は流石に君主に政治責任が直撃するのは不味いから、輔弼責任を担うものを間に挟むべきと思うけど、それは彼女達の問題。
ただ、いずれにしろ、アスハ代表は何となく私と意見が合いそうな気がする。愛国者だ、彼女は。オーブを思って、国家と民を思って我武者羅に突き進む姿を本当に美しく感じてしまうほど。私が何となく肩入れしがちなのもそれが理由かもしれない。
だから彼の国の者は彼女のために身を捧げようとするのだろう。
ではラクスは?あの艦に乗っているかは分からないが、もう一人の政治家ポジションだ。
私は彼女を愛国者などと思ったことは一度も無い。それどころか、ベクトルこそ違えど彼女もまた議長と同じ【由らしむべし知らしむべからず】に近い人種だと思っている。
案の定、ターミナルなる秘密結社と前大戦後もズブズブだったようだし。
『忖度』で周囲を良いように動かし、自身は『あらあら、うふふ』とにこやかに微笑みつつ、最終的に利益と名誉を得ようとする、そう言う人間ではないかと幼い頃から思っている。 - 162二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 04:13:27
無論、私は聖人君子とは程遠い。寧ろ意地悪な人間だ。
仮初にも君子として振舞える人間に向かって、散々、周囲に嫌な思いをさせながら生きてきた私が何を、と指摘されれば黙るしかない。
それに、しっかりと彼女と向き合ったわけでもない。あちらは国父の娘、謂わば皇女殿下、私は貴族令嬢みたいなもの。お互い身分も違う。こちらが勝手に誤解していることもあるかもしれない。ただ、今のところ、私はあの女が苦手だ。近寄らない方がお互いのためだろう。
実は-ほんの僅かだが-彼女を亡き者にしようとした(仮)議長の気持ちが理解できなくもない。
ラクス・クラインは底知れず、不気味でアンタッチャブルな存在、為政者としては目障りだろう。政権外に放置すれば、虎に翼を付けて野に放っておくようなもの。彼女が前大戦の後、名誉職でも何でもプラントで役職について残っていればこんな面倒ごとは起こらなかったかもしれない。
プラント赤十字名誉総裁なんてどうだろう。キラ・ヤマトのメンタルケアもしながら、孤児を含めた不幸・不運な人のために為せることもあったはず。
カナーバは本当に使えない。自分の派閥の前党首の娘なのに。諫めることもできないとは!
ただ、それでもデュランダル議長は-何かやらかしていたかもしれない。悪い信頼感があるわ。
不気味で底知れないのはあの男も同じだ。軍事面で無能なのは果たして良かったのか、悪かったのか。
それにどんな政治的動機が有れども超えてはいけない一線は厳然とある。ラクス暗殺未遂事件はそのレッドラインを大ジャンプして飛び越えた。明るみに出せないとは言え、上層部に確実にいる犯人は報いを受けて然るべき。
横道にそれ過ぎた。今は後回しにするべきこと。
2個目の記章に飾板には4枚、残りはそれぞれ『アレクサンドリア沖海戦』、『黒海・コーカサス解放作戦』、『月軌道会戦』、『レクイエム攻防戦』だわ。
危ない危ない、そうだ!
そのラクスとターミナルのおかげで、あの鉄火場をしのぎ祖国を守れたのではないか!彼女と彼女にまつわる諸々を全肯定する必要はするつもりはない。さっき考えていたことも本心だ。でも、忘恩の徒になりたいわけでは無い。
アグネス「(もし彼女がアークエンジェルに乗っているなら今こそ恩返しの時かも知れないわね)」 - 163二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 07:51:22
昔ガンダム系の考察で「ラクスの目標は最高評議会議長」ってのがあったなあ。
実際あれだけの影響力を発揮して「政治的野心はありません」と言われても、周りが信じられないってのはある… - 164二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 07:59:26
ラクス(とアスラン)が政治的制裁でプラントから追い出されてたことは一般には知られてなかったな
- 165二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 17:15:57
それだけの力がありながら何故世界を支配しない
と思ってしまうのはアコードだけではないか - 166二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 21:04:42
ラクス・クラインとかいう適性が愚民を善導して世界を支配する女王でありながら、本人の望みは愛しい男性とこじんまりとした幸せな家庭を築く事という女
- 167二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:05:50
役割と望みの乖離で軋む心がDPの最大の弱点だと思ってる
役割を果たすことで望みが叶わなくなる状態だと最悪廃人化しかねないし
意志の強い人間ならそうなる前に役割を放棄してレジスタンス結成からの蜂起とかありえるもん
それを潰すための守護戦士シンとデスティニーだけど本編では要のシンすらケアが不十分で錯乱状態に陥るという - 168二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 02:23:13
ただ、ラクス・クラインの所在に関しては何とも言えない。
可能性の範囲なら、スカンジナビア王国から例えば王家のシャトルを借りるなりして秘密裏に宇宙に上がったかも知れない。あるいは王族の離宮で身を隠しているかもしれない。
分からないことより目の前の分かり得ることにも目を向けるべきだわ。その内の一つは…、この場の戦友皆の記章の更新が何とか無事に完了したということ。
ブスっとした顔のアスランはともあれ、メイリンやヴィーノにヨウラン、身近な人達が新しいピカピカの記章に喜んでいる顔を見るのは嬉しい。皆で戦い抜いた証だ。シンやルナマリアも満更ではなさそうだわ。
沢山の勲章や記章をじゃらじゃら下げて歩くのも気分が良い。でも逆にスマートにきちっと纏まっているのも良い物ね。
タリア「さて…。では本番が始まるわ。机を…」
ヴィーノ・ヨウラン達「はい!」
ヴィーノ達が、記章の更新のため使っていた机やアタッシュケースを片付け、メイリンが皆に証明書や略綬等が入った小ケースを持つための手提げ袋を配り始める。
私も何か手伝うか…。
シン「アグネスは大人しくしてろよ!」
ルナマリア「椅子が有れば…」
片手で何か手伝おうと思ったら、すかさず世話焼き同期がお節介を焼いてくる。まあ、良いわ。よく考えれば、人手は足りていた。
アグネス「分かった。大丈夫、ごめん、ありがとう。椅子は結構よ」
一度にいろいろ言うのも大変だわ。そう思っているとアスランがキュルルルと車椅子を押して来る。何時の間に!
アスラン「…、車椅子を持って来た。病院スタッフが心配していたぞ。座ると良い。提督には俺から言う」
グラディス提督も此方に目線で許可を出してくる。これで断ったら私が無礼者になるだろう。病院職員の人にも気を使わせてしまった。 - 169二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 02:35:23
アグネス「はい。ありがとうございます」
そう言って大人しく座ると周囲から生暖かい視線が注がれる。もう、困るわ。私は今日で点滴暮らしを卒業するというのに。周囲の人達がどうにも優しいので戸惑ってしまう。
特にシン、彼はアカデミー時代、もっと刺々した人間だったはず。艦に乗ったばかりの時もそうだった。それがどうだろう。ミネルバの日々で変わったのは私だけでは無かったということか。或いは家族を一度に失う前の本来の素直な心が顔を出したのかな。
アグネス「(実のところ、私は今日で点滴生活とおさらば。そこまで酷くはないんだけどね)」
一方のアスランは元々、優しい善人だから何時も通りね。
コミュニケーション能力が致命的に無いだけで、悪事とは程遠い人なのだ。上手く良き相棒と言うか補佐役と巡り合えれば大業を成せるだろうに。
片付けが終わって暫し、病院職員がカザエフスキー最高評議会議員と使節・大使の皆様の到着を伝えて下さる。
病院職員「傷病兵は椅子ないし車椅子に座ったままで結構と言付けを受けています」
タリア「ありがとうございます。お心遣いを無下にしないように」
そう言ってグラディス提督は私に目配せなさる。
アグネス「はい」
返事をして、椅子の上で姿勢を正す。私は今、左手が今一な状態、誰かに補助してもらわないといけないのか…。
そんなことを考えていると演壇側のと扉が開き、カザエフスキー最高評議会議員を先頭に皆様が入場を開始する。
タリア「全員、気をつけ、敬礼!」
ザッという音と共に皆が揃えて敬礼する。私は車椅子上ね。開け放たれた扉から中に進む文官の方々は、己の右手を左胸に当てて返礼して下さり、各自の定位置に向かっていく。
その中に黒を基調とした特徴的な制服に身を包んだ長い黒髪の女性が混じっている。深い黒い髪だ。緑髪と言う表現があるが、彼女の場合は青髪に近い。手礼で返礼なされているのは武官としての地位も兼ねているのか。
アグネス「(あの制服はファウンデーション王国親衛隊ブラックナイトスコードのもの。となると彼女は国務秘書官イングリット・トラドール女史か)」 - 170二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 02:44:07
アグネス「(こんなところまで『援助クレクレ』に来たのか!プラントがもう幾ら支払ったと思っているんだ!)」
半分はあの議長の勝手な肩入れのせいだ。おかげで本国は増税に物価高で困っている。さっさとカスピ海の辺に帰って欲しい。
タリア「直れ」
バッと言う音と共に右手が直る。私も車椅子上で敬礼を終える。その瞬間に気持ちのスイッチが切り替わるのだから、号令とは凄いものだと今更ながら実感する。
やがて、一群の人々から、プラントの青服をまとった若い金髪の若い女性が演壇に進みでる。言うまでもなく、この式典の主催者たるノイ・カザエフスキー最高評議会議員だ。
カザエフスキー「御来賓の皆様、ご多忙の中ありがとうございます。そして忠勇なるザフト将兵諸君諸姉、ここでこうして、あなた達と再会できたことを誇りに思います。郷に入れば郷に従え、とも言いますが、ここは病院。仰々しいことは似合わないでしょう」
タリア・アグネス・一同「はい!」
皆で一斉に返事をすると、カザエフスキー評議員も頷き、一度下がり、その場を大洋州連合勲章使節団長(駐西ユーラシア大使)にお譲りになる。
大洋州使節団長「西ユーラシアとプラント両国のご厚意により、この場をお借りして出来き誠にありがとうございます。我が国の国土ニュージーランドと首都ウェリントン奪還に貢献して下さったザフト軍人達に大洋州連合国家元首の特別代理人として賞を授与したいと思います。最初に月軌道艦隊司令長官タリア・グラディス提督」
タリア「はい!?」
まさか自分の名前が呼ばれるとは予想だにしていなかったグラディス提督が少し調子はずれの返事をしつつ使節団長の前に進み出る。外見からもわかるほど驚いた彼女を見るのは何か新鮮だわ。
アグネス「(降下・戦闘したのは私達3人だけど、任務の主体は月軌道艦隊。実際、月から私達を運んで大気圏降下の瞬間まで共に戦ってくれたナスカ級のクルー達はそうだった)」
そして、それの指揮をしてカーペンタリア基地との調整も後方で済ませた、この作戦の最高指揮官はグラディス提督その人だわ。提督、サプライズ攻撃にやられてしまったわね。 - 171二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 02:52:38
大洋州使節団長「プラント・ザフト軍月軌道艦隊司令長官タリア・グラディス提督、貴官の我が大洋州連合に対する大いなる貢献を称賛し、ここに大洋州連合功労勲章(外国籍のため名誉受章)を授与します」
大洋州連合勲章使節団長はそのように述べ伝え、まだちょっと戸惑っている彼女に勲記と略綬を手渡し、勲章を左肩にリボンで佩用させる。
大洋州使節団長「おめでとうございます」
タリア「ありがとうございます」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
皆で拍手する。ふむ。上官が偉くなるのを見るのも悪くないわね。普段からセクハラ・パワハラ・モラハラ噛ましてくる屑なら殺意が湧くだろう。でも、彼女に対して私はそう言った感情を持っていない。素直な好意と尊敬の念を今は抱いているから。
大洋州使節団長「それから、我が国は今回の作戦に参加した自国軍人・友好国軍人・大洋州側に離反した地球軍人に『大洋州再統一記念記章』を授与しています。合わせてお受け取り下さい。大気圏外でご活躍していらした月軌道艦隊の戦友諸君諸姉の分はザフト国防本部経由で届く手はずになっています」
タリア「ありがとうございます」
パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。
こうしてグラディス提督は左肩に勲章一つ、左胸に新たな記念記章を一つ加えて列に戻って来られる。
大洋州使節団長「次にこの偉業を成し遂げるために人並外れた武勇を示したパイロット達の表彰を始めます。プラント・ザフト軍月軌道艦隊所属特務隊アスラン・ザラ、同じく特務隊アグネス・ギーベンラート、同じく特務隊シン・アスカ」
アスラン、アグネス、シン「はい!」
使節団長は私が車椅子なのを見て、そちらに呼ぶのではなく自分が進んで来る方を選んだようだ。速すぎも遅すぎもしない丁度良い歩調で歩いていらっしゃる。
タリア「総員、左向け左。ルナマリア、アグネスを!」
ルナマリア「はい!」
大洋州使節団長に向けて全員が向きを変える中、上手く動けない私をすぐ後ろに並んでいたルナマリアが動かしてくれる。こうなるのが嫌だったから、車椅子は断っていたのに!
まあ、今更言っても仕方ない。皆の好意と労りに今は甘えておくか。 - 172二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 03:06:22
横列正面前に進んだ大洋州使節団長が格調高さと親しさを絶妙にブレンドしながら私達に語り掛ける。
大洋州使節団長「アスラン・ザラ、アグネス・ギーベンラート、シン・アスカ。大洋州連合の友好国軍人たるあなた方が当作戦で発揮した大胆で卓越した勇敢な戦闘行為と優れた戦果を賞して『大洋州名誉勇敢十字勲章』を授与します。また、先に述べたように『大洋州再統一記念記章』も同時に授与します」
アスラン、アグネス、シン「はい。ありがとうございます」
アスランの左胸に二つのメダルを着け、勲記と略綬を手渡した後、使節団長はやや腰を屈め私のにも同様のことをして下さる。
大洋州使節団長「お怪我の治療はいかがですか?」
アグネス「順調です」
大洋州使節団長「治ったらまた軍務に復帰されるのですか?」
アグネス「それが本分です。己が課した使命に従います」
大洋州使節団長「なんと!」
それを聞いて使節団長は大いに感じ入ったようだ。大袈裟な、手足が欠損して目と耳がダメになったら、流石に少し考えざるを得ないが、今はそんな状態ではない。
そのまま最後にシンに勲章と記章を授け、彼が再び横列の前に戻る。
大洋州使節団長「おめでとう!」
パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。
グラディス提督を含むその場の皆から温かい拍手を受ける。最上級勲章の中でグラディス提督は功労賞、私達は軍事勲章の受賞になった。果たした役割に相応しい分け方だと思う。
大洋州使節団長は目礼して、元の位置に戻るので、すかさずグラディス提督が号令を出す。
タリア「総員、右向け右。ルナマリア」
ルナマリア「はい」
全員が右回転する瞬間に周囲に聞こえないよう最小の声でルナマリアにお礼を言う。 - 173二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 03:12:22
アグネス「ありがとう」
ルナマリア「どういたしまして」
大洋州連合勲章使節団長は私達を確認した後、纏めの言葉を述べる。
大洋州使節団長「友邦の勇士諸君諸姉の献身に心からの賛辞を捧げます。我が国は不法に奪われようとした国土を奪還する際にザフトが果たした貢献を忘れることは無いでしょう。大洋州連合とプラントの友情が永遠であることを今日、私は強く確信しています。この戦いを共に戦い抜き、やがて来る平和の日には共に剣を収め、鍬を取ろうではありませんか」
前半は私達を見つめ、後半の時はカザエフスキー評議員と視線を交わしながら短い締めの言葉を述べる。『単独講和するな。地球連合とは大洋州連合の領土回復を保証しないなら、いかなる協定も締結してはならない』、釘を刺しに来たのね。
カザエフスキー評議員は一瞬ためらった後、微笑んで頷き返していた。その所作を引き出せたところで彼の今日のお務めは実質終わりだ。残りの時間はさぞゆっくりすごせるだろう。
パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。
その場の皆の拍手の中、大洋州連合勲章使節団長(駐西ユーラシア大使)は引き、カザエフスキー最高評議会議員と入れ替えになる。
始めの時と同じ位置に立った彼女は私達に述べ伝える。
カザエフスキー「グラディス提督、特務隊アスラン・ザラ、特務隊アグネス・ギーベンラート、特務隊シン・アスカ、おめでとう。大洋州連合のみならず、我がプラントも諸君諸姉の貢献に大いに感謝しています。それを表すために相応しい賞を持ってきました。プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルの特使として、またプラント最高評議会を代表して私、ノイ・カザエフスキーが厳粛にそれを授与いたします」
そう言うと私を見て、やはりこちらに向かって進んで来る。
ふーむ。失敗したかな。今更どうにもならないけど。自力で立っているべきだったか。 - 174二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 03:32:07
その場の皆の拍手の中、大洋州連合勲章使節団長(駐西ユーラシア大使)は引き、カザエフスキー最高評議会議員と入れ替えになる。
カザエフスキー「グラディス提督、特務隊アスラン・ザラ、特務隊アグネス・ギーベンラート、特務隊シン・アスカ、おめでとう。大洋州連合のみならず、我がプラントも諸君諸姉の貢献に大いに感謝しています。それを表すために相応しい賞を持ってきました。プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルの特使として、またプラント最高評議会を代表して私、ノイ・カザエフスキーが厳粛にそれを授与いたします」
そう言うと私を見て、やはりこちらに向かって進んで来る。
ふーむ。失敗したかな。今更どうにもならないけど。自力で立っているべきだったか。
ともあれ、グラディス提督の号令の下、一同一斉に向きを変える。ルナマリア、ありがとうね。
カザエフスキー評議員「特務隊アスラン・ザラ、特務隊アグネス・ギーベンラート、特務隊シン・アスカ。あなた達はニュージーランド島において抜群の武功を示し、祖国と友好国の平和と安定、不可分な国土の回復に大いなる貢献を果たしました。ここにプラント最高評議会の承認の下、アスラン・ザラには『名誉の武器』として軍用拳銃を、アグネス・ギーベンラートとシン・アスカには『ネビュラ勲章』を授与します」
アスラン、アグネス、シン「はい!」
『名誉の武器』とは古式ゆかしい。『名誉のために』等の標語と武勲を立てた場所、日時等が刻まれた多くは豪奢な作りの武器は勲章の一種。古式とか言いつつ21世紀でもバリバリ授与され続けていた。今も地球軍の中ではやっている国はあるのではないか。
アグネス「(ネビュラ勲章をアスランはもう5個以上貰っている。だから、偶には新鮮さをと言うことね)」
カザエフスキー評議員からアスランが名誉の武器(拳銃)を手渡せるのをチラっと眺めるが、銘文と装飾は最小限、本体は無骨で実用的な拳銃だ。なるほど、アスランに相応しい。
これは勲章の一種だから一般の銃刀法は適用されず、さながら昔の将校が帯剣していたように、身につけることが許可される。ただ当然、規則は有る。ナイフと同時にその説明書と勲記も受け取っている。 - 175二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 03:45:06
カザエフスキー「おめでとう」
アスラン「…。ありがとうございます」
とは言え、これは上層部の-議長の-意思表示かもしれない。アスランに対してプラント、いや議長の武具であることを再確認させるための。
そうだとしたら、喜んでばかりもいられない。勿論、それは『普通の』勲章でも同じなのではあるが-。
アグネス「(下賜された武器を手に取る時、何を思いどう振舞うべきか。他人事ではないわね。アスランのナイフにしろ、私達に割り振られたモビルスーツにしろ、授けたのはプラントだ。彼じゃない)」
アスランはそこも含めて立場が微妙なのだけど、今は何も言うまい。
カザエフスキー評議員は次に私に歩み寄り、ネビュラ勲章を胸に着けて下さる。同時に勲記と略綬もいただく。
カザエフスキー「おめでとう。5回目ね。身体の調子はどう?」
アグネス「病院の皆さんのお力で徐々に…」
カザエフスキー「良かったわ」
最高評議会議員相手に『体の中のことなので分かりません』とは言えない。普通に今日も痛いが、それは彼女のせいではない。人の好さそうな彼女が波瀾に巻き込まれないか、他人事ながら心配になるわ。
その後、シンにも同じく勲章、勲記、略綬が授けられる。
カザエフスキー「おめでとう」
シン「ありがとうございます」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
それから、最後に彼女はグラディス提督の前に進み、彼女にも授与する勲章が有ることを宣言して、その胸に『プラント国防功労勲章』を着け、勲記と略綬を手渡す。
アグネス・一同「おめでとうございます」
タリア「ありがとうございます」 - 176二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 03:57:08
グラディス提督がカザエフスキー評議員と私達に同時にお礼を言って下さる。それを聞き、何だかホッとするわ。
確か提督の国防功労勲章授与は2回目だったと思う。ネビュラ勲章でないのは前線戦闘と後方指揮の違いによるものか。何にしろおめでたい。
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
皆で拍手する。私は少し強く打つ。自分ばかりしてもらうのも居心地が悪い。
カザエフスキー「他、月軌道艦隊全体には『プラント最高評議会議長部隊表彰』を、カーペンタリア・大気圏外も含めニュージーランド奪還作戦に参加したザフト軍人には『特別従軍記章』を、戦闘後の敵兵救助に尽力した特務隊アスラン・ザラ、アグネス・ギーベンラート、シン・アスカには『人道記章』を授けます」
タリア「ありがとうございます。月軌道艦隊及び特務隊を代表してお礼申し上げます」
そうして私達はまた、メダルや略綬、星や飾板を増やす。素直に嬉しいわ。国も指導者も思惑があるのは分かっている。でも、此方も人間だ。頑張った分、報われたいと思うのは当然の権利ではないか?!
栄典の授与の影に政治がチラつくのは歴史の常だ。仮にそうであったとしても、授与された側の献身と貢献が真実なら、その輝きは損なわれないように思う。
アグネス「(無論、危ない橋は渡らない方が良いけど。今は橋自体が-川自体が-危なくなっているから困る)」
ただ、それは私が生まれる前からそうだったのだ。落ち着け。
ともあれ一連の大役を終えたカザエフスキー最高評議会議員は演壇に戻る。後は締めの言葉を述べて懇親会だ。
お腹が減って来たわ。食べられるものが有って欲しい。お粥っぽい物とか、美味しいスープとか。それぐらいしか駄目だからね。 - 177二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 05:46:18
イングリットが来てるのか
もしここで縁を結べれば彼女死ななかったりするかな? - 178二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 07:37:50
>インングリット
アコード能力で思い切り読心して、仮想敵の真っただ中でヒューミント(人的諜報活動)の真っ最中じゃなかろうか。
イングリット:(あれが『ミンスクの殺戮者』アグネス・ギーベンラートね。ここで内心を覗いておかなければ……)
アグネス:(骨折が痛い。内臓が痛い。もう疲れた。お腹すいた。早く帰って寝たい。あと原黒議長タヒね。マジでタヒね)
イングリット:(……??? ハッ、もしやこちらの読心を警戒して本心を隠している!?)
そしてこんなアンジャッシュを想像した。
- 179二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 15:22:39
保守
- 180二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 19:14:17
イングリット
「アスランさんとアグネスさん、頭の中で【インチキ議長】って呼んでましたよ」
ギルバート
「何だって…」 - 181二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 20:03:46
イングリッド来てるなら読心でアークエンジェルと会談の段取り付けしてるの筒吹けになるやん…
- 182二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 05:07:31
カザエフスキー「これにて勲章授与式を終了します。我がプラントの勇敢なザフト将兵諸君諸姉の献身に心からの感謝を。また、今日ここに集った諸国と諸国民の友情が永遠でありますように。
残念なことに未だ戦火が止む兆しは見えません。一部の不心得者が起こした惨劇の火種をロゴスが今も猶、煽り続けているためです。
プラントは国家間戦争に加え、より根本的な彼等の戦争システムそのものとの戦いを強いられています。それに勝ち抜くためには友好国相互の協力が不可欠です。
しかし、開けぬ夜が無いように終わらぬ戦火もまた存在しません。プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは開戦の折、『再び手に取るその銃が今度こそ全ての戦いを終わらせる為のものとならんことを』と最高評議会において発言しました。
本日、私は彼の名代として、そして何より一人の最高評議会議員、一人の人間として同じ言葉を祈り申し上げたいと思います」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
カザエフスキー最高評議会議員に皆で拍手を送る。まあ、今、話せる内容としてはあんなものじゃない?相変わらず、モヤッとした内容で戸惑うばかりだけど、彼女は伝言係以上の役目を帯びて居なさそうだし仕方ない。
比較的小規模な式典であったため、後は流れるように皆で病院食堂に向かう。そこで懇親会だわ。
大名行列を成して進む一行の前方中ほど、私は食堂に続く廊下を車椅子でルナマリアに押してもらい移動する。普段より視線が下がった景色は不思議に感じる。子供の頃はこの高さから世界を見ていたのだと思うと、ちょっとした神秘を感じるわね。
ルナマリア「それで…。どう?」
後ろからボソボソっとルナマリアが聞いてくる。『どう?』とはこの授与式の所感か。
アグネス「友人は大切にすべき。『国家に友人無し』の格言は事実の半分しか言い当てられていない」
ルナマリア「分かったわ」
そうルナマリアに短く返答を返すと彼女も同意してくれる。とは言え、ちゃんと意味は伝わっただろうか。この状態で深い話は不可能だ。察して欲しい。 - 183二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 05:18:04
アグネス「(諸国が何のために外交官を送って来たのか、その意図を読んで尊重するべき。と言っても私達が出来ることは少ないから、相手の意図を察して当たり障りなくお相手をするべき、と言うことよ。分かっている?)」
彼女の顔を見上げると一応、伝わっている(?)かな。
でも不安だわ。ルナマリアはともかく不安な面子が何人もいる。
各国大使たちは別に晩御飯を食べに来た訳じゃない。
プラント最高評議会議員にしてデュランダル議長の名代を務めているカザエフスキー最高評議会議員、そして今や大物になった(ように外野からは見える)特務隊長・月軌道艦隊司令長官タリア・グラディス提督にいろいろと『お話』を持ちかけるつもりのはず。
その『お話』の内容もだいたい察しが付く。
大洋州連合は回復したニュージーランドの保障、アフリカ共同体は旧領回復の約束履行、コーカサス諸国はユーラシア連邦軍の脅威に対する安全保障、汎ムスリム会議は中央アジア進駐時の共同出兵要請、彼らはこれ等をプラントに求めに来た、と言うか、念押しに来たのだろう。
アグネス「(彼らはそれぞれの国を代表して『顔を出した』。それだけで、プラントにメッセージは十分に伝わっている。もし、高官からポロリと言質を取れたら120点だ)」
今の私の位置からではカザエフスキー評議員とグラディス提督を視界に収めることはできない。二人は背が低い方ではないが、前にいる人が多い上に彼らもまた背が高い。彼ら皆の相手をするには少し心もとないかもしれない。
それと、規模としては控えめな式典にわざわざ国務秘書官を送り込んできたファウンデーション王国、どんな要求を吹っかけてくるのやら。
アグネス「(追加支援と援助、難民の早期引き取り、ユーラシア連邦国境地帯防衛の援軍要請と言ったところかな。コーディネイター難民は出来るだけ素早く引き取るべきと私も思うけれど)」
では、今夜、私が出来ることが何かあるのかと、ほぼ無い。二人を手伝おうにも少し位が足りない。議員か将官か、せめて大佐クラスはないと話にならないだろう。
ひょっとしたら、アスランがギリギリ該当するかもしれないが…。
ルナマリア「ついたわよ」
アグネス「?」
考え込んでいたら懇親会場に着いたわ。病院食堂が会場ね。 - 184二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 05:26:45
小奇麗に清掃され、飾り付けられてもいるが、ほぼ普段のままの病院食堂だわ。パーティー会場と言った趣は控えめだ。
アグネス「(なるほど、彼らなりの抗議ね)」
病院を政治的駆け引きの舞台にするな、と。敢えて病院内であることを隠していない意図はそのようなところだろうか。
フードロスを避けるため、ビュッフェ形式でなく、ディナー形式でもなく、まさかの定食方式で食事も出すところにもメッセージ性を感じる。
この病院にも入れず、雪に埋もれて息絶えた人、今夜もテント暮らしをしている人が東方に大勢いらっしゃる。外交の駆け引きも良いが、それらのことも忘れないでいただきたい、と。
カザエフスキー評議員も察することができる人、何事もなさそうに皆を席に導いていく。叙勲を受けたグラディス提督とアスラン、私、シンには当然、上席が勧められる。
よいっしょと力を振り絞って車椅子から立ち上がる。大丈夫、大丈夫と人に言っておきながら結構、身体に負荷がかかっていたわ。
アグネス「押してくれてどうもありがとう。食事の時ぐらいは自力で」
ルナマリア「ええ。楽しみましょう」
彼女の笑顔に大いに励まされるが、はて、楽しむね。どうかな?
私と同じテーブルには、カザエフスキー最高評議会議員、大洋州連合勲章使節団長(駐西ユーラシア大使)、駐西同じくアフリカ共同体大使、駐西ユーラシア汎ムスリム会議大使、ファウンデーション王国トラドール国務秘書官、コーカサス諸国大使代表、グラディス提督、アスラン、シンが着いている。
コーカサス諸国大使の残り3名も一応同じテーブルだが、端の方だ。彼らの相手はルナマリアがすることになる。フェイス徽章を着けているから、大丈夫かな?うーん、ルナマリアがどうこうではなく格の問題として-。彼らがぞんざいに扱われたと、機嫌を損ねなければいいが…。
アグネス「(と言うか、ファウンデーション王国のポジションはあっち側ではないのね。優遇され過ぎじゃない?)」
そう思っていると、トラドール国務秘書官と何故か目線が合う。何か一言言いたげな視線を受け、軽く謝るように目礼すると、彼女も機嫌を直したように目礼を返してくれる。
機嫌を損ねるようなことはしていないはずだけど、態度で出たのか。気をつけよう。 - 185二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 05:32:20
給仕役を買って出てくれた他隊のザフト兵が皆のグラスにシャンパンを注いで回ってくれている。
20歳未満にはリンゴジュースか、烏龍茶か、葡萄ジュース。流石、病院!16歳や18歳からアルコール解禁になる国も多いのに。
アスラン「私は…。ミネラルウォーターを」
給仕役「かしこまりました」
アグネス「不躾ながら、私も同じものを」
給仕役「かしこまりました」
シン「俺、自分は烏龍茶をお願いします」
給仕役「かしこまりました」
飲み会か、ここは!全員シャンパンか水にしておけば、こんな格好が悪いことは無かったのに。
アグネス「(いや、落ち着け。ここは病院。身体を治すところだ。私達は間借りしているだけ。素人臭くて、ちょうど良いのだ)」
手慣れていない兵士が来てくれて良かった。おかげで肩の力が抜けるわ。
イングリッド「私もお水をお願いします」
給仕役「かしこまりました」
アグネス「?!」
私の向かいのトラドール国務秘書官の注文で、ふと気が付く。生真面目で思慮深そうな青い目の女性、彼女は19歳、ナチュラルの国では大学2年生ほどの年齢だわ。
アグネス「(二十歳にもならない。その歳で国政を左右するほどの地位に就くとは。独立直後の混乱期、かつ身分制がある国ならでは、ね)」
それにしても…。推察するに王族所縁の出自だとしても、私と2歳しか違わずに実質的な副宰相か…。
アグネス「(コーディネイターなのか?)」
イングリッド「…」 - 186二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 05:37:51
この場で聞くのは不味いだろう。ナチュラルの大使が参加している。
それに、アークエンジェルのラミアス艦長はナチュラルで御年28歳、ヤキンの時は26歳だったはず。
イザーク先輩もアスランも18歳で既に他国なら将官・大佐級の身分だ。グラディス提督も29歳で大佐級から将官級の身分になった。あの議長でさえ32歳だ。
他人の年齢のことまであれやこれやと言う場ではない。それに大業を成すのに必ずしも年齢は必要条件ではない。少なくとも建前としては。
そう考えているとトラドール国務秘書官が私に先程よりは幾分穏やかな視線を投げかけてくる。少しは機嫌が直ったのかな。
カザエフスキー「それでは皆様、乾杯しましょう。グラディス提督」
カザエフスキー評議員から乾杯の音頭を受けたグラディス提督は座ったままグラスを挙げる。私のことを気遣って下さったようだ。
それを見て皆もグラスを一斉に挙げる。何に乾杯するべきか、グラディス提督は最後まで迷っていらっしゃる。
タリア「平和と正義に。乾杯」
アグネス・一同「乾杯!」
結局、提督が紡ぎ出した言葉は何とも苦しいものだった。なかなか音頭を取るのも難しい。
因みに私の前に出された料理は、お粥、、たっぷりドロドロ野菜ジュース(100%、多分今さっきミキサーで砕いた奴)、そして…。このスープは!?
アグネス「(これは-。かの女帝(本当は夫が皇帝)マリア・テレジアが愛した『食べるスープ』ことオリオ・スープでは?まさかベルリンで!)」
小学生の時の歴史の授業、私からすれば授業の進みが遅くて退屈で-。それで授業に使っているデバイスで少し彼女を調べたときに目にした有名な料理に見た目がそっくりだわ。 - 187二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 05:41:26
作法もそこそこにスプーンですくってゴクンと飲み込む。怪我が治りきって無くて良かった。『負傷兵のしたこと』で済むから。ウームこれは!
オリオ・スープ風のただのごった煮スープね。スパインでは今も同系統、と言うか元祖に近いごった煮スープが庶民の間で飲まれているという。それを洗練して、30種以上の具材を繊細に使うようになったのがハプスブルク家のオリオ・スープだから、ある意味同じと言えば同じだけど。
それはそれとして二口目を飲む。美味しい!カロリーの爆弾だわ。
『本物』に敵わぬまでも何種類もの肉と野菜と栗を煮詰めて煮詰めて作ってある。素晴らしい。10000000000アグネスポイント!
アグネス「(ものを食べて飲めるのがこんなに嬉しいものとは!お粥以外に口にできるものが増えていくって涙が出るほどうれしいわね)」
同じスープが全員に出ているのだが、私が固形物を食べられないことを主催者側も把握している。そのため他の者よりスープがたっぷり!幾らでも食べられるわね。
勿論、お粥が悪いわけでは無い。これはこれで病院の皆さんが工夫して美味しく作ってある。
スープだけでなくお粥もちゃんと食べる。そしてスープを飲む。
私が余りにも美味しそうに必死にスープを飲むものだから、対面のトラドール国務秘書官が目を丸くしていらっしゃる。
この無作法をママが知ったら卒倒してしまうだろう。もし、人伝に伝わったらどうしようか。
アグネス「(これが軍の作法です!)」
とでも言おうかな。無骨な武人って感じで家族の追及を乗り切ろう。 - 188二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 05:45:17
さて、私が生の実感を楽しんでいる間に上席の中での最上席では打々発矢の応酬が続いている。
案の定、アフリカ共同体大使が北アフリカ作戦の早期開始を迫っている。大使は今回の作戦成功を殊更に褒め称え、プラントの友好国への義理堅さとザフト軍の精鋭ぶりにしきりに感心して見せ、大洋州連合が『C.E.70年2月10日』時点の領土を回復したことを大袈裟に祝福している。
だから、次は此方だろう、と。そう言いたいわけね。
言い分は分かるけど、大戦前のアフリカ共同体の版図全てを回収するほどの余裕が果たしてプラントにあるだろうか?その条件でここまで付き合ってもらっているのだから仕方ないけど。
アグネス「(頑張って北アフリカ、エジプト・スエズ、紅海周辺までじゃない?ジブチとソマリアまで行ければ確かに地政学上も良いとは思うけれど)」
ただ、もともとスエズは落とすつもりだったのだ。と言うか私達の本来の任務はそれなのだから。幸いジブラルタルの本体は無事なはず…。欧州に散らしちゃったか。
大使の猛烈なアタックにカザエフスキー評議員は天手古舞になっている。グラディス提督は言質を与えまいと必死な余り食事が冷め始めている。
さはさりながら、アフリカ共同体大使はもう意地でも旧領奪還作戦開始の言質を取らない限り彼女らを離すつもりはなさそうだ。
大洋州連合大使は若干引いている。汎ムスリム大使は『自分達の番』がちっとも回ってこないのに苛立ち始めている。カザエフスキー評議員、ポロリと言質を与えそうだわ…。
悲しい。世界は歌のように優しくはないわ。しかし、世界がどうであれ、お腹は空く。身体が治って来れば食欲も復活する。生きろ生きろと生命が脈動しているのだから、私は食事を完食するのだ!
アグネス「(本当に完食してしまった。でもまだ物足りない)」
給仕にアイサイン、近寄ってくれた彼にミネラルウォーターとスープのお代わりをお願いする。上品な作法はアーモリーワンに置いてきたわ。
シン「アグネス、一度に食べ過ぎるのはダメだぞ」
アグネス「食べ過ぎてないわよ」
シン「籠城戦後の兵士が一気にご飯を食べて亡くなった話、知らないわけじゃないだろ。次ので最後にしろよ」
アグネス「…。分かったわ」
シンに注意されて、冷静になった。危ない、さっきまでの私はどうかしていたわ。はしたない。家の恥になったらどうしよう…。 - 189二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 05:47:27
まさかアグネスと心が読めるやつがいるとは思うまい
そしてオリオ・スープのこと知らなかったから調べてみたら庶民系のごった煮スープとはいえ、普通に美味しそうな代物だった - 190二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 05:53:01
最上席では順番交代、今度は汎ムスリム会議大使が提督とカザエフスキー評議員に熱弁を振るっている。中央アジア進駐の成功がブルーコスモス、ファントムペイン殲滅に絶対不可欠であると。進駐後の汎ムスリム会議加盟の是非を問う住民投票は公明正大に実行するつもりだそうだ。
アグネス「(併合する気を隠そうとしなくなったわね)」
しかし、カザエフスキー評議員は全権大使ではない。少なくとも今日は勲章運搬係以上の権限を持ってはいないだろう。何でもかんでも言われても困るはず。
グラディス提督がほとほと手を焼く横でアスランは地蔵と化している。お地蔵さんがモサモサ夕食を食べて居るから笑えない。まあ、彼は立場が微妙だから…。
イングリッド「特務隊アスラン・ザラ、お食事は楽しめていますか?」
アスラン「ええ…。まあ…」
遂に気を使ったのか、トラドール国務秘書官が彼に話しかけている。ありがたいが会話が続くのか、これ?
イングリッド「先日のデストロイ撃破、おめでとうございます」
アスラン「いえ…。私の力だけではありません」
アスランは謙虚と言うか正直すぎるわ。
そもそもあの機体は単機で墜とすようなものではない。複数の機体が連携しつつ、さながら攻城戦のように崩していくのがベスト。増して共同作戦機が多すぎた。セイバーの立ち回りに問題はなかったと思う。
トラドール国務秘書官の言葉はまだ続く。
イングリッド「そのようなことは。フリーダムのみではファントムペインからポーランドを守れなかったはず。中継で拝見したところ素晴らしい連携でした。その後、彼らとは?」
アスラン「いえ…。それっきりでして」
アグネス「?」
アスランは直後に南アフリカ行き、その後はミネルバに帰還。アークエンジェルと旧交を温めている暇などなかった。
そんなことはトラドール国務秘書官も知っているはず。話題作りか。こうやって会話の糸口を広げていくのがコミュニケーションというもの。アスランもちょっとは意識した方が良いわ。 - 191二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 08:42:17
うわー、読まれてる。内心読まれてるよ。誤魔化したつもりでも、つい思い浮かべた本音を……。恐るべしアコード。
腹黒議長、ファウンデーション経由で入手した部下の内心を逆手にとって、何か仕掛けるつもりなのかな?それとも、
これはアウラの独断? - 192二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 09:25:04
議長のことに頭いっぱいでファウンデーションが伏兵なんて想定しとらんからな
まして読心なんて対策しようがないし… - 193二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 09:52:18
不穏分子炙り出しのためにイングリットを派遣とは……その手があったか~……
- 194二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 10:03:28
そりゃアコード使えば議長が情報戦を制せるよねっていう身も蓋もない話
本編でも事前にデストロイの情報入手してたのそう言う事なんだろうね - 195二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 12:42:59
どうかな…
アコードの能力は「隠し事を曝く」にはうってつけだけど、デストロイの「情報が届く所に配置できるか(しかも10代の若者を)」はまた別だからね。
議長や手下の地道な工作の成果かもしれない。
- 196二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 12:49:27
オーブですら連合にキサカさんをスパイとして潜り込ませてて
オーブにもアスラン達の密入国手引きするザフトのスパイいて
クルーゼも連合と情報のやり取りしてるっぽくて - 197二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 13:05:15
ここでイングリットで思想調査が入るのすごい、展開が上手い
エンジェルダウンskipして、アスランスパイ容姿からの脱走につながるのかな
それともAAの話題振られたから内心はカガリとキラのことで一杯だろう
結婚許せんで一色になってたら思想調査結果をクリアできる…か?
イングリットが道ならぬ恋に共感してちょっと庇ってくれたり……庇う理由がないか - 198二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 17:29:58
キサカは連合軍に編入されたスカンジナビア王国軍に出向してたからアスラン脱走現場に居合わせたって設定じゃなかったっけ?
- 199二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 20:36:43
- 200二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 22:11:17
200ならアグネスがレジェンドに乗る。