【SS注意】【トレウマ注意】不幸も考えよう

  • 1二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:10:59

    書店の外に出ると、雨が降っていた。
    土曜日の午前中は、商店街にもそれなりに人が多いが、突然の雨にみんな右往左往している。
    かくいう自分も、「どうしたものか」と思案に暮れていた。

    天気予報では快晴だったので、余計に性質が悪い。
    勿体ないがビニール傘でも買うべきか、と周りを見回したところで、見覚えのあるシルエットを見つけた。
    担当で愛バの、ライスシャワー。

    「ライス!」

    「あっ、お兄さま。……来ないで!」

    近寄ろうとすると、まさかの強い拒絶。
    それにかかわらず、ずんずんと近寄ると。
    小さな折り畳み傘を差しているライスの頬を引っ張る。

  • 2二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:11:21

    「いひゃい、いひゃいよ。お兄さま」

    「ライスから酷いことをいうからね。で、どうしたの?」

    彼女の頬から手を放すと、挨拶代わりに額に口付け。
    綺麗なキューティクルから、甘い柑橘の香りがふわりと香る。
    その手から傘を奪うと、2人で相合傘

    「今日はライス、とっても運が悪い日なの」

    「運が悪い日?」

    「うん。出かけるまで頑張ったけど、結局癖毛が直らなかったし、そういうときに限ってお兄さまに会っちゃうし。天気予報にない雨を降らせちゃうし。今もそう。横断歩道が全部、赤信号なの」

  • 3二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:11:44

    指を差した先には、ちょうど赤に変わったばかりの信号。
    水を跳ねながら、車が次々と通り過ぎていく。

    ――それにしても。
    「運が悪い日」なんて言われると、反抗したくなるのはトレーナーの性だろう。
    少しかがんで、彼女の頬に手を添えると、そのまま唇を奪う。

    「それじゃあ、お兄さまと『運が悪い日デート』しようか」

    「ダメだよ。ライスは嬉しいけど、お兄さまが不幸になっちゃう」

    「ライスと一緒なら、どこにいても幸せだからそれはないな」

  • 4二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:12:15

    ライスの手を取る。

    「それに、片方が赤なら、もう片方は青なんだから、どんどん青信号のほうへ行ってみよう」

    手を繋いで、一緒に歩き出す。

    「お兄さまったら。……もう♪」

    そんな声と共に、並んで歩いてくれるライスと。
    気の向くままの休日デート。

  • 5二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:12:37

    「そろそろ、お腹が空いたね」

    気の向くまま、青信号の方に2人で歩いていった結果。
    どこかもわからない裏路地をさまよっている。
    いつもと違う鳥の声、秋の風、見知らぬ景色。

    「うん。……あ、お兄さま。あそこにイタリアンがあるよ?」

    「本当だ。入ってみようか」

    そろそろお昼と言う時間。
    目聡くライスが見つけたレストランに入ると、ランチメニューのパスタを注文する。
    カルボナーラにペペロンチーノ。
    いつもは御飯派のライスだけど、たまには良いだろう。
    そう、思ったのだが。

  • 6二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:12:58

    「……お兄さま」

    「言わないで」

    伸びきった麺。
    ベシャベシャのチーズ水がかかったカルボナーラ。
    七味が降りかけてあるペペロンチーノ。

    「いただきます」

    「いただきます」

    それでも、「食べてみれば美味しいかもしれない」と思って口に入れてみるのだが。

  • 7二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:13:23

    「……お兄さま」

    「……ごめん」

    考えてみたら、休日のお昼時にガラガラのお店が美味しいはずがない。
    多少不味くとも、時間帯を考えれば0ということはないだろう。
    なら、この状況を楽しむしかない。

    「はい、ライス。あーん」

    「お兄さま!?」

    「あーん」

    「あ、あーん」

  • 8二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:13:46

    半ば強引にライスにあーんをさせて。
    手元のペペロンチーノを、彼女の口に放り込む。
    それから、こちらにも。

    「じゃあ、今度はライスの番。あーん」

    「お兄さま!!??」

    「ライスの、一口ちょうだい」

    「あ、あーん。お兄さま」

    「あーん」

  • 9二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:14:21

    やっぱり美味しくはない。
    それでも、不味い飯にささくれだった精神は、少し和らいだ気がする。
    くすり、と笑顔をみせるライス。

    「お客さん、いないね」

    「そうだね」

    こそこそと喋る。
    それから、出されたパスタを胃に詰め込んで。
    なんとか、そのイタリアンから脱出した。

  • 10二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:14:44

    「口直し、したいよね」

    「そうだね、お兄さま」

    できるだけ信号のない裏道をとおりながら、表通りに戻る。
    まだ3時だというのに、すっかり日が傾いて、空は夕方の装い。
    すれ違う人たちの足も、心なしか速く感じる。

    「いつものあそこ、行きたいな」

    「じゃあ、そうしようか」

    ライスとのデートでは定番の喫茶店。
    ケーキも大きめで、カップル割が効くのがお財布にも優しい。
    いつものように、訪ねてみると。

  • 11二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:15:07

    「すみませ~ん。今日はちょっと一杯で、今はカウンター1席しか空いていないんです。なので2人席は少しお待ちください~」

    のんびりした口調の店員さんが、忙しそうに店内を縦横無尽。
    会話を楽しむ客、遅めの昼食らしき客、それぞれに喫茶店を楽しんでいそうだが、概して回転率は悪そうな客ばかり。

    「……どうしよう、お兄さま」

    不安気な瞳を大きくして、くるり、と回すライス。
    自分も完全にこのカフェでリフレッシュするつもりだったので、肩透かし気味。
    空いている1席を眺める。

  • 12二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:15:31

    ――そうだ。

    「お兄さま? なんだか悪戯っ子みたいな顔をしているよ?」

    上目遣いのライスから、そんなことを言われる。
    確かに、思いついたことは邪道と言えば邪道なので、その通り。
    店員さんに声をかける。

    「お姉さん、カウンターの1席に2人で座っても良いですよね?」

    「へっ?」

    「ふぇっ?」

  • 13二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:15:51

    素っ頓狂な声を挙げる店員さんを尻目に。
    傍らにいるライスに腕を回して持ち上げると。
    カウンターの椅子に腰掛けて、膝の上に彼女を載せる。

    「あ、あの、お兄さま?」

    「動くと落ちちゃうから、大人しくしててね」

    戸惑うライス。
    そのウマ耳の間に、顎を乗せる。
    彼女のお腹に手を回し、固定する。

  • 14二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:16:27

    「あらあらまあまあ~、御注文は何になさいますか~? 今ならカップル限定ジュースがありますよ~」

    「じゃあ、それで」

    「かしこまりました~」

    尻尾をフリフリとしながらキッチンに戻っていく店員さん。
    さすがにウマ娘だけあって可愛らしい。
    そんなことを思っていると、突如として腕を抓られた。

    「……お兄さま?」

    「いててて。痛いよ、ライス」

    「えっちな目をしてた。その、そんな目をするのはできればライスだけにして欲しいな」

  • 15二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:16:49

    可愛らしい嫉妬。
    顔は見えないが、おそらく拗ねた表情。
    膨れた頬を、つんつんとつつく。

    「でも、ライスはえっちなお兄さまは嫌いでしょう?」

    「えっと……、その……。ライス、えっちなお兄さまも嫌いじゃないよ」

    気軽に振ったのに、予想と違う反応が返ってきてしまった。
    白いうなじが、桜色に染まる。
    気まずい雰囲気になったところに。

  • 16二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:17:12

    「お待たせしました~」

    ジュースがやってきた。
    ストローが途中から2股で、ハート形に絡まっている。
    ちゃんと、自分とライスの高さに吸い口が調整されているのにも、サービスの良さを感じる。

    「ほら、ライス。吸って」

    「う、うん」

  • 17二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:17:34

    この手のストローは、2人で一緒に吸わないと、片方から空気が入ってしまって口まで届かない。
    「せーの」で一緒に口を付ける。
    蜜柑、苺、マンゴー、林檎、柿。
    ミックスジュース特有の複雑な甘みが舌を襲う。

    「美味しいね、お兄さま」

    「そうだね」

    ――とりあえず、ライスの機嫌も直ったのでよしとするか。

  • 18二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:17:55

    夕焼けの帰り道を、ライスと歩く。
    いつの間にか雨は止んでいて、水たまりがその余韻を残しているばかり。
    子供たちが、楽しそうにパシャパシャと遊んでいる。

    「危ない! ライス!」

    「ふえっ!?」

    その時だった。
    向こうから来る大きなトラックが、車道の大きな水たまりに突っ込む。
    咄嗟に、ライスを抱き締めて庇う。
    泥が大きく跳ねて、全身に浴びせかけられた。
    そのまま、トップスピードで去って行くトラック。
    泥にまみれた、自分のコート。

  • 19二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:18:16

    「お兄さま、大丈夫!」

    「ああ。大丈夫。水を被っただけだから。ライスこそ大丈夫?」

    「うん。でもお兄さま、こんなに……。やっぱりライスのせいだ」

    責任を感じているようで、表情の曇った彼女。
    その頭を、ゆっくりと撫でる。
    落ち着きを取り戻せるように。

  • 20二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:18:35

    「ねえ、ライス。もし、今日のことを日記に書くとしたら、なんて書く?」

    「えっ?」

    「『今日は、髪型が朝から上手く行かなくて、さらに雨に降られました。信号機もずっと赤信号でした。お昼に入ったイタリアンがあんまり美味しくなくて、その後喫茶店に入ったら1席しか空いてなくて、2人で一緒に座りました。帰り道に、トラックに水をかけられそうになりました。』ってなるよね?」

    「うん」

    「でも、ライスは今日1日、楽しくなかった?」

    「ううん。楽しかった」

  • 21二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:18:58

    その言葉に、強くかぶりを振るライス。
    お昼のあーん、や喫茶店のカップル専用ジュースを思い出しているのか、仄かに顔が赤い。
    耳が楽し気に動いている。

    「だろう。だから、運が悪いというのは、気の持ちよう。考え方だと思うんだ。今だって、俺が庇えたからこそ、被害が俺だけで済んだわけだし」

    前髪から、ポタリ、と雫が落ちる。
    どうにも、こういう時に決まらないのは困ったもの。
    だが、ライスは笑顔で頷いている。

  • 22二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:19:18

    「わかってくれた?」

    「うん……。うん!」

    「それじゃ、トレセン学園に帰ろうか。それにしても、ずぶ濡れになっちゃったなあ。まるでカエルみたいだ」

    苦笑する。
    片方の手を、温かいライスの手とつなぎながら。
    冷えた身体も、少しはマシになる気がする。

  • 23二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:19:40

    ウマ娘寮まで帰り着く頃には、月は中空に掛かっていた。
    門限まではまだ少し時間があるが、けっして早くはない。
    つないだ手を、放す。

    「それじゃ、ライス。また明日」

    「待って、お兄さま」

    踵を返そうとしたところに。
    ライスから、声がかけられる。

    「なに?」

    「ちょっとかがんで、目を瞑って」

  • 24二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:20:04

    妙なお願いをされる。
    ――まあ、ライスのことだから、変なことはしないだろう。
    言われた通りにすると。

    チュッ

    柔らかい感触が、唇に迸った。
    目を開ける。
    そこには、赤くなってモジモジしている彼女。

    「カエルさんは、乙女のキッスで王子様に戻るから。お兄さまのためなら、ライス、いつでもいくらでもキスしてあげる」

    言っていて恥ずかしくなったのか、それだけ言うと寮内に駆け込んでいってしまった。
    唇に触れると、まだライスの口づけの感触が残っている気がする。

    ――今夜は、眠れないかもしれない。

  • 25二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:20:26

    これで終わりです。
    ありがとうございました。

    至らない点もあると思いますが、よろしくお願いいたします。

  • 26二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:26:16

    ライスの不幸を幸せいちゃラブデートで上書きするお兄さますき
    応援スレに推薦してもいい?

  • 27二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:37:32

    >>26

    ありがとうございます。

    推薦に値すると評していただけるならば、大変光栄です。

  • 28二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 22:39:31

    >>27

    感謝

    早速推薦してきた

  • 29二次元好きの匿名さん24/12/07(土) 23:00:51

    >>28

    こちらこそありがとうございます。

  • 30二次元好きの匿名さん24/12/08(日) 10:50:22

    ほしゅ

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