- 1キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/09(月) 23:08:30
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連載中のSSその1
『銀塔の虚栄都市』第一章 - 安価でオブジェクト製作スレ @ ウィキ | 二次創作序章 突然だが無知で博識かつ愚かしくも賢しい有象無象の諸君に質問だ。 「世界の中心」とはどこにあるのか? おっと、私がここで問いたいのはマントルだの内核だの地球という惑星の物理的な意味での「中心」では...w.atwiki.jp連載中のSSその2
間話『デッドマンズ柳蔭』一章 - 安価でオブジェクト製作スレ @ ウィキ | 二次創作序章 旧アメリカ合衆国、カリフォルニア州北部。 世界的勢力の一角『資本企業』の心臓部にほど近いその場所は広大なベイエリアにして有数のハイテク産業の集積地だ。 かつては一攫千金を狙って多くの夢見る採掘者...w.atwiki.jp - 6キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/09(月) 23:14:56
保守1
- 7キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/09(月) 23:15:11
保守2
- 8キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/09(月) 23:15:23
保守3
- 9キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/09(月) 23:15:39
保守4
- 10キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/09(月) 23:15:51
保守5
- 11キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/10(火) 19:40:02
今日で元スレシリーズ誕生から3年でこの後語りスレ2周年か
めでたい(?)のと同時に時の流れは早い……
なにはともあれSS完結させるぞー! - 12編集初心者マン◆bvw/mWLSaA24/12/10(火) 20:23:05
自分も完結させたいね……3章+α諸々と……‼
- 13キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/12(木) 21:05:19
煙幕……!困ったら煙幕……!!
- 14キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/14(土) 23:50:46
12月早ぇ
置いてくな2024年
来ないで2025年 - 15キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/16(月) 23:07:41
対ドミニーク戦全編オリチャーやんけー
元の安価が激戦の末キャロライン落として勝利ってめっちゃ過程がフワフワのままサクッと終わっているからしょうがないね
ここまで書かれるとは誰も思ってなかっただろうし
行間を……行間を読むのだ…… - 16キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/18(水) 21:59:01
保守
- 17キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/21(土) 08:12:33
おのれ規制
- 18キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/22(日) 23:29:34
★
- 19キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/24(火) 23:03:47
メリークリスマス
サンタさんへ
文才をください - 20キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/26(木) 23:09:35
地の文が書けないからってセリフで説明させすぎやねーん
緊迫した戦闘中にそんなベラベラ喋れるわけねーだろ阿呆 - 21キャラシート◆BP2qeK/ddM24/12/28(土) 22:35:38
年末の仕事納めで浮かれているタイミングで年明け初っ端から春まで忙しくなると告げられた
色々ぶち切れそうになったけど負けずに例え牛歩でもコツコツ書いていこうと思いました クソガッ - 22二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 21:58:31
このレスは削除されています
- 23編集初心者マン◆bvw/mWLSaA25/01/01(水) 08:11:34
明けましておめでとうございます
新年の抱負は
「完結目指してはよ続き書けや自分」に致します(土下座) - 24キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/01(水) 09:34:07
明けましておめでとうございます
今年こそ、今年こそ完結を……!
……去年の初めも同じことほざいてた? - 25キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/02(木) 21:26:24
完結すると宣いつつここ数日は正月の堕落ムードに当てられて1文字も書けてないんですけどね ゴミムシ野郎が
今も白状するとベ飲みすぎてロンベロンである - 26キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/02(木) 21:27:23
ほら、誤字してる〜
- 27キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/04(土) 22:10:08
帰省より帰還
明日から本気出す - 28キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/06(月) 21:24:00
オレはやるぜオレはやるぜ
クソみたいな拘束時間だけど書くぜ - 29キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/08(水) 22:30:18
悪党の断末魔って悩むなぁ
短すぎるととあっさりでスッキリしない
長すぎるとクドいし主人公側が虐めているように見えてダサくなる
匙加減匙加減…… - 30キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/10(金) 21:52:37
というわけで執筆開始から2周年ですよ
色々と醜態晒しまくっているけど、なんだかんだエタらずにクソ遅筆でも継続しているところだけは褒めてやる - 31キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/12(日) 22:57:08
ガバガバ理論・作戦でもノリと勢いで納得させる描写力ください
10万円までなら出しますから - 32キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/14(火) 21:54:42
ほ
- 33キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/16(木) 22:36:14
ちょっと突然アイデアが湧いた
また文字数が増えるー - 34キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/18(土) 22:06:48
しばらーく仕事行って家に帰っては飯食って寝るだけの生活
- 35キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/19(日) 22:19:17
wikiに荒らしさんが来てら
よくもまぁ限られた人しか閲覧せんのにとっくに終わったシリーズのやつを見つけて書き込むもんだ - 36キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/21(火) 22:17:51
シリーズが現役だった頃の今日の日付の時に何やってたかなと気になって赴いたところ、ラストマインに乗せられた例のメイドさん回だったでござる……
よりによって屈指の鬱回 あの時は阿鼻叫喚だったなぁ…… - 37キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/23(木) 22:00:58
ガバ修正
- 38キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/25(土) 23:05:23
1月終わるのはっや
2025年過ぎてくのはっや - 39キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/27(月) 23:22:57
- 40キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/29(水) 22:49:50
スンッ……
- 41キャラシート◆BP2qeK/ddM25/01/31(金) 22:44:34
グッバイ1月 来月こそ……!
- 42キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/02(日) 22:02:51
文章が固い キャラクターが動いてない
- 43キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/04(火) 22:58:42
ふむふむ、躍動感を出すには体言止めを多用しろとな……
- 44キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/06(木) 22:59:32
執筆時間マジで取れん……
全方位土下座 - 45キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/08(土) 23:46:04
もうちょっとな気もするんだけど、ね……
- 46キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/10(月) 23:09:47
☆
- 47キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/12(水) 23:11:01
実際に声に出して読むって大事
書いてる時は気にならなかったのに「何だこの言い回し?」ってなる部分が垢すりのようにポロポロ出てくる - 48キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/15(土) 08:15:43
不意の規制こえー
- 49キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/17(月) 20:46:59
長いな……
色々削ったものの見せ場なだけに歴代最長の節になりそう - 50キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/19(水) 22:31:53
たまに昔のスレ見返すとおバカスペックの機体の他にも無茶苦茶やっとるなぁ
喘ぎ声で倒されたアレックスちゃんとか人妻アイランドとか - 51キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/21(金) 22:48:09
もうちょい この三連休で決めたい
- 52キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/23(日) 23:41:44
明日か明後日お出しします
- 53キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/25(火) 22:30:42
ちょーと最後の推敲で見過ごせないガバ発見!
お披露目は明日に延期
申し訳ない - 54キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:03:07
14
異色の小型機とはいえオブジェクトと生身の人間との無謀極まる激突が始まる。
脚さえ廃した完全な球。
それがドミニーク=G=ラスティネイルにとって『キャロライン』を駆る際における最適な戦闘形態であった。
『アドレイド、君がクロスボウによってハッキングを行うことは知っている。だから、私は装甲の厚さに偏りが生じる変形は使わない。積み重ねた質量に任せてただ轢き潰す。実に分かりやすいだろう?単純明快な暴力に屈しろ。虫けら共』
道路を舗装するロードローラーのようにゆっくりとプレッシャーをかけて迫ろうとする敵に対して、クウェンサーとアドレイドが最初に取った行動は攻撃では無かった。
「──────フッ!」
短く抜くような息と共にアドレイドが前方に何か缶状の物体を複数個ばら撒く。
カランカランと床を滑っていくその正体はスモークグレネード。
有り体に言えば煙幕。
ネズミ花火のように回る本体から噴出される煙がフロアの一角に充満し、『キャロライン』の視界を遮った。
「(いまのうちにこっちへ!)」
「(っ!)」
煙を感知したスプリンクラーが作動して天井から雨のように水が降り注ぐ中、クウェンサーはアドレイドに手を引かれて広大な執務室を駆け抜けていく。
『何かと思えば目眩ましか。小賢しい。そうする他無いのは理解出来るがね。ならば存分に逃げ給え。私から遠く離れる程に寿命が延びるのかもしれないのだから』
こちらを追うことはせずにその場で不動を貫くドミニークからの嘲りを無視して、二人は煙のカーテンに包まれながら立ち並ぶ柱の一つに身を潜めていた。 - 55キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:06:56
「(挑発して私たちをつろうとしているだけよ。はんのうしてはダメ)」
「(わかってる。無鉄砲に走り回らずに下手に動かないのは口ではああ言っておきながら、一応は俺達を警戒しているからだろ。クソっ、素人の癖に思ったよりも慢心していないな)」
索敵の目から一旦逃れることは出来たものの、ここは壁の無い丸々一階層。
隅々まで精査されたらいずれ発見されてしまうのは確実。そして、そうなってしまえば到底人間の脚では『キャロライン』を振り切ることは出来ない。そもそも速度と体力が違いすぎる。
そのような事態に陥らないためには、何はともあれ先ずは作戦会議だ。
音を拾われてしまわないよう最小限の声量で互いの意見を交わしていく。
「さて、どうしようかしら。なげたスモークグレネードには対人センサーをごまかすチャフがまぜられているとはいえながくはもたないわ。なにか妙案はある?ドラゴンスレイヤーくん」
「その片割れしかいないっていうのにいきなり丸投げかよ……」
とはいえ頼りにされているなら何か策を練らなければ。
オブジェクト開発設計士希望の少年の得意分野は頭脳労働である。
とすれば最初にやるべきことは情報の整理か。
「アドレイド。戦闘のプロでもあるあんたに聞きたいが、正直なところ俺達の手持ちの装備でアイツを破壊できると思うか?」
「そっちょくにのべるならきびしいと言わざるおえないでしょうね。矢も銃弾もあのキューブ装甲のまえでははじかれる。ダメージをあたえるには携行ミサイルいじょうの火力がひつようだけれど、あいにく今はもっていない。つまりは真正面からいどんでもまず勝てないわね。あなたのほうは?」
「俺も似たようなもんだ。手持ちのハンドアックスはそれ程多くはない。全部使い切る勢いでありったけの量の爆風を集中させればワンチャンあるかもしれないが、相手は動き回っている以上最高効率でダメージを与えるのは難しい。そして、倒し切れなければそこでゲームオーバーだ。だから、工夫して確実に仕留められるシチュエーションが必要になる」
「となると……」
単純な火力では足りないとなれば、何か要素を加えて満たす他は無い。
幸い利用出来そうな要因ならばすぐ目の前に広がっている。
即ち─────。
「『地形』を活かすしかないわね」
「だな」 - 56キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:11:27
クウェンサーは顎に手を当て、このフロアに存在しているものを思い返してみる。
今持っている手札で足りないというのなら、「環境」という「山札」から新たな一枚を加えて起死回生を狙っていく。
これまでもそうやって彼は数多のオブジェクトを退けてきた。
一見絶対無敵の怪物にしか見えずとも、そんな物はただの虚像。
人の手で造られた物は人の手で必ず壊せる。
此度の『キャロライン』にだって存在するはずだ。
倒すための手段が。
「ふーむ……」
煙が充満する前の風景を思い返してみた所、この執務室はシンプルな構造だが本当に何も存在しない空間というわけではない。
こうして身を隠している柱を始めとした物体という意味での「オブジェクト」が幾つか散見されていた。
それらの中のどれかが『キャロライン』撃破の糸口となればいいが。
「そうだ。手っ取り早くお姫様に火力支援要請を送ってあいつだけぶち抜いてもらおう」
とはいえ取り敢えず一番頼れる戦力に期待を馳せてはみる。
「ほんき?たぶんあの子はいまじぶんの身をまもるのにせいいっぱいでそれどころじゃないとおもうけど。かりに砲撃できてもかなりはなれているから、あらぬほうこうに着弾して一般人にひがいをだすのが関の山ね」
甘ったれた机上の空論野郎のナメた提案は女スパイによっていとも容易く一蹴された。
当たり前である。
「言ってみただけだ。そんなマネすればどうせ命中しても俺達も巻き添えで丸焦げになる。……そういえばスプリンクラーで床が水浸しになっていたな。最初の『キャロライン』を倒した時みたい滑らせることはできないか?」
「ムリね。ただの水ていどではあれだけの重量から摩擦はうばえない。横転させるにはまたたいりょうの石鹸か油がひつようになるわ」
「じゃあ、『外』に落とすのは?流石のあいつも地上500mの位置エネルギーと自重が生み出す衝撃はひとたまりも無いはずだ」
「さっきあげてくれたすべらせる作戦でじめつがさそえるなら賛成していたでしょうけれどね。それがダメな以上にんげん2人でおしてどうにかなるあいてじゃないわ。現実的にはほど遠い」 - 57キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:16:41
次々と案を捻出しては却下されていく。
だが、無駄にはならない。
こうした意見の取捨選択の積み重ねこそがノミと槌で岩塊の形を整えるように余分な部位を削ぎ落とし、いずれは勝利という名の彫像(トロフィー)の完成へと導いてくれるはずなのだから。
「……だったらそうだな」
そうして幾つかのやり取りを経て、『キャロライン』打倒作戦は練り上げられていき、「完成」の時は訪れる。
「──────するっていうのはどうだ?」
「──────?────────────、──────」
「──────────────────を預けておく。その代わりに────────────。かなり際どいが行けるか?」
「えぇ、やってみましょう。どうやらそれしか方法はなさそうだもの。それにそういうつなわたりは大得意よ。あなたもごぞんじでしょ」
今更リスクは承知の上ということを示すように、クウェンサーの立てたプランに女スパイはウィンクで応える。
「それじゃあ行くぞ」
「まかせてちょうだい」
一通り打ち合わせは終わりを迎え、実行に移す段階がやって来る。
手始めに耳を澄ませて周囲を探るが今のところ付近からは『キャロライン』の気配を感じない。
しかし、異変はあった。
操縦士エリートとしての空間把握能力に長けるアドレイドが先に「違い」を察知する。
「まって、けむりが晴れるのが早い。ここは無風の屋内だからこうかがきれるにはまだじかんがかかるはずなのに」
- 58キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:24:29
彼女の言う通り、周囲を見渡すと視界がはっきりと戻りつつあった。
つい先程までは1m前方の様子でさえ伺えなかったのに、今では天井の照明であれば随分と先まで視認することが出来てしまっている。
自分達が関与していない変化。
明らかに好ましくないイレギュラーな事態が発生していた。
「一体何が……?」
その時、バリンッという何か硬質な物体が割られるような音が聞こえた。
一度だけではない。
立て続けに何度も。
「ガラス……?」
皿か何かだろうか?
否。これはもっと大きな物が壊れる音。
自分達でない以上この階層にいるもう一人、ドミニークの仕業だろう。
奴は棒立ちのカカシではなく、狡猾なハンター。
煙に阻まれたからといって、獲物を炙り出すための手段を講じないわけがなかったのだ。
薄まったスモークとの因果関係を鑑みてクウェンサーは敵の目的を直ぐに悟った。
「あいつ……!窓を割って無理矢理『換気口』を作ったんだ……!」
強化ガラスに勝る『キャロライン』の頑強さと窓際から落下しないドミニークの精密な操縦技術があってこそ成り立つ芸当であった。
奴の目論見通りに締め切られた執務室内に風の通り道が出来上がり、滞留していた煙がみるみる『アンナマリー』の外へと排出されていく。
後に残るは柱の樹林という殺風景の人間二人。
─────故に。
『そこだな』
身を隠していた場所が露呈するのは必定であった。 - 59キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:29:23
「「っ!!」」
発見と同時に暴威を伴った殺人兵器の突撃が殺到する。
装甲の厚さに基づく重量は単純極まりないただの全速力の体当たりを人間が原型を留めない挽肉へと変える威力にまで跳ね上げている。
例えアサルトライフルで迎撃しようとしても無意味。足止めにすらなり得ない。
寧ろ固さと回転で弾き飛ばれた跳弾がこちらに跳ね返ってくる恐れすらある。
よって迂闊な発砲はせず、ここで専念するは回避。
緊張のせいで爆発しそうな程にうるさい心音を頭の中で響かせながら、クウェンサーとアドレイドはタイミングを合わせて横へと飛んだ。
「おおおおおおおおおオオオオォォォォォォッッ!!」
「…………ッ!」
鋼の塊が自分の僅か数cm横の空間を猛スピードで抉り抜けていく。
ブォンッという重たい物体が通過した際に生じる特有の風が顔面を吹き抜けて、滴る冷や汗を一瞬で気化させた。
致命の一撃を何とかやり過ごせたが、今のはただの紙一重の幸運。
有限の体力と生存の確率は繰り返す程に削られていく。尽きたその時こそが一巻の終わりだ。
「まったく、心臓にわるいわね。それはそれとして『ポイント』までからだはもつかしら?」
「あぁ、大丈夫だ。まだ行ける。どうやらドミニークは『狩りやすい獲物』、つまりは俺を優先的に狙っている。だから、俺が奴を引き付けている隙にあんたは自分のやるべきことをやってくれ」
「……わかったわ」
小さく頷くとアドレイドは足を忍ばせて、フロアのどこかへと消えていった。
それで良い。
ドミニークを倒す算段自体はか細い希望であるものの既に練ってある。
だが、それを実行するにはアドレイドの工作と『キャロライン』の猛攻を躱しながら約束の場所まで辿り着く必要があるのだ。
まだまだ勝負は始まったばかり。
たった一回きりの肉薄でグロッキーになっている場合ではない。 - 60キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:35:34
(そうだ。今はただ避け続けろ。奴から目を逸らすな。体力の消耗は最小限。倒れても直ぐに起き上がれるように上手く受け身を取るんだ……!)
そうして二度、三度、──────。
右、左、左、右、左、右、右、左。
時に跳び、時に転がり、時にスライディングし。
死と隣合わせの交差を重ねていく。
勘付かれないように。
気取られないように。
悟られないように。
今にも吹き消されそうな淡い祈りを積み上げてクウェンサーは目的地への歩みを進めていった。
しかしながら、一方で─────。
(やっぱりだ)
現在進行系で幾度となく訪れる生命の危機に晒されつつも、クウェンサーの頭は幾らか冷静さを保てていた。
原因はとある確信。
(ドミニークはけっして柱ごと薙ぎ倒して俺を仕留めようとしない)
何度か回避の際に柱の陰に飛び込んだが、『キャロライン』はその度にこちらを深追いせずに素通りして仕切り直しをする様子を見せていた。
柱の直径は成人男性の胴よりかなり太いものの、『キャロライン』の全力の体当たりを持ってすればへし折ることは可能だろう。
尚且つ数を減らせばそれだけ獲物が隠れる遮蔽物が無くなっていき、より有利な状態へと持ち込み易くなる。
最悪確実に息の根を止めるなら天井を支える最低限だけの数を残して間引くという乱暴な方法を取ってしまえばいいはずなのだ。
(なのに実行しなかった)
つまり立ち並ぶ柱には柱以上の意味と価値、そして役割を持っているのだと推察することが出来る。
その「役割」とは。 - 61キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:39:34
(この柱は『アンナマリー』のエネルギーを供給する「血管」。即ち、この街とあいつにとってウィークポイントだ)
現在『ネバー』外部では夥しい数を誇る連合軍のオブジェクト達を『アンナマリー』がたった一機で相手取っている。
即ち防衛における要。異常を来して破壊されてしまっては全てが瓦解してしまう。
だから何かの不手際で、ましてや自らの手で誤って壊したくはないのだろう。
深追いして来ない理由はおそらくここにある。
(さて、ここまでは思っていた通りだ。後は「ポイント」まで俺が無事でいられるかだな)
既に息は上がり、固い床の上で叩きつけられるような回避を何度も行ったおかげで全身から打ち身による痛みが発せられている。
しかし、「ポイント」まではあと僅か。
もう一度だけ躱すことが出来ればドミニークを打倒するための準備は整う。
だがしかし、身を隠せる柱はどれもここからでは遠い。
結局、最後に頼れるのは己の勘と反射神経のみということか。
クウェンサーは周囲を旋回する怪物兵器を注視して姿勢を低くし、回避のタイミングを測る。
(大丈夫だ落ち着け。ギリギリまで引きつけてから横に飛ぶ。それだけでいい。そうやって今までやり過ごせていたんだ……!あと一回、あと一回だけ……!)
己に言い聞かすように心を奮い立たせている彼の意など介さず、『キャロライン』が狙いを定めて真正面から迫り来る。
(来たっ!右と左、どちらが正解だ!?これは─────、右!右だ!右に飛べっ!) - 62キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:47:27
しかし、そこでドミニークはクウェンサーの予想打にしない一手を繰り出してきた。
見えない壁に阻まれたかのように『キャロライン』は衝突の数m手前でピタリと止まる。
つまりは。
(なっ……!?ここでフェイントだと!?)
「慣れ」という毒に精神を蝕まれた頃合いを見計らって回避を誤発させるための罠。
ドミニークは知る由もないが、それが最悪のタイミングで作動させられた。
まんまと嵌って心身共に呆気に取られたクウェンサーはバランスを崩して転倒する。
眼前の敵を前にして致命的とも言える無防備を晒してしまう。
(まずっ──────!)
勿論、そんな絶好の機会をドミニークが見逃すはずも無く。
間抜けを葬り去るべく『キャロライン』を急発進させる。
(こんな単純な策に何引っ掛かってんだよ大馬鹿野郎っ!早く身体を起こせ!敵は待ってはくれない!急げっ!)
極限の緊張によって加速する思考。
身体を置き去りにして、スローモーションのようにクウェンサーの時間感覚だけが無意味に引き伸ばされていく。
(直撃だけはどうにか……!体を捻って……!いやダメだ間に合わな、無────死……っ!!)
その時、横合いから誰かの手が伸びてクウェンサーを『キャロライン』が通過するラインの外へと突き飛ばした。
そんなことが可能なのは一人しかいない。
この階にいる人間はクウェンサーとドミニークと──────。 - 63キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:50:04
(アドレイド!?どうしてっ!?)
一瞬だけ両者の目と目が合う。
声は聞こえずとも、クウェンサーはアドレイドの口の動きで伝えようとした内容を確かに把握した。
「あなたがたおしなさい」、と。
そして刹那の後、少年のいた位置に女スパイが入れ替わりで収まる。
その対価は己が身。
だが衝突の間際、彼女は僅かに微笑んでいた。
その儚げな表情を網膜に焼き付けた直後、体感時間は元の早さへと戻る。
「アd─────!」
言葉を塗り潰してクウェンサーの耳に突き刺さるのはグシャリという無惨な激突音。
次に視界へ飛び込んで来たのは自分の身代わりとなり、悲鳴すら上げられずに跳ね飛ばされて床に投げ出された命の恩人。
アドレイド=”エンプレス”=ブラックレインがうつ伏せの状態で横たわっていた。
「アドレイド!」
反射的に名前を呼んだがピクリとも反応を示さない。
意識を失っているのか。或いは─────。
「アド……レイド……、………づ………っ!」
今直ぐにでも彼女の容態を確認したい。
もし生きているのなら適切な処置をすればまだ助かる可能性は有る。
しかし、側に駆け寄ろうとしたクウェンサーの行く手を『キャロライン』が沮んだ。
- 64キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 21:55:43
「そこをどけクソ野郎……!」
『順番が逆になってしまったがまず一人目だ。「獲物が油断し切ったところで隠し札を切る」。狩りの定石さ。中々上手くやっただろう?それにしてもアドレイド……。まさか他人を庇って散るとは実につまらん最期だ。情に絆されたスパイ程無価値なものはない。君もそう思わんかね?』
「くっ………………!」
アドレイドの献身を侮蔑するドミニークに対して、怒りと悔しさで感情を爆発させそうになったが寸前で踏み止まる。
何の為に彼女は自らの身を捧げたのか。
声無き最後の言葉の意味を噛み締めてクウェンサーは倒すべき敵を睨みつけるに留める。
その心の中では闘争心の炎へ薪を焚べながら。
(あぁ、わかったよアドレイド。用意周到なあんたのことだから「仕込み」を完璧に終えた上で俺を助けたんだろ?だったら無駄にせず俺が必ずやり遂げてやる。だから、死んでいてくれるなよ。あんなのが最後の別れだなんて絶対に許さないからな!)
自己犠牲に殉じた女スパイの生存を信じて、少年は誓いを新たに作戦を続行する。
彼女のおかげで「最後の一回」を超えることが出来た。
いよいよここからが反撃開始だ。
「ちくしょうっ……!よくもアドレイドをっ!」
とはいえいきなり何か派手な行動を起こすわけではない。
クウェンサーはジリジリと悔しさと恐慌を滲ませた表情を顔に貼り付けて後退りをする。
攻勢に転じた者には到底見えない行為。
しかし、それで構わない。既に逆襲は始まっているのだから。
(惨めったらしくてもいい。情け無くてもいい。見苦しくてもいい。まずは油単を誘え)
ここでドミニークにまだ何かを企んでいるように悟られて警戒態勢を取らせてしまってはダメだ。
生へしがみついて死から逃れようとする素振りを見せなければならない。
アドレイドを失い、一人ではこれ以上何も抵抗する術を持たない凡夫だと錯覚させるために。 - 65キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:01:27
(もう少し、もう少しだけ……!)
一步、また一步──────。
気付けばガラスを失ったフレームから流れ込む風に背中一面を撫でられていた。
(──────フロアの最果て、窓際に辿り着いた…………っ!)
ふと足を動かすと爪先に何かが触れた。
コロコロと転がるそれは辺りの床に散乱するアサルトライフルの弾丸。
アドレイドが発砲した物だ。
その存在に気付いていたのはドミニークもまた同様であったようで。
『私が「キャロライン」に乗り込んだ最初の地点に一周して戻って来たか。滑稽極まりないな。まるで君達が行ってきたことが全て無駄だったと示しているようではないかね』
二人の行為が徒労であったことを強調するかのようにドミニークはわざとらしい溜息を吐く。
やはり彼は楯突いてきた敵を甚振ることに関して余念が無い。
『さて、もう行き止まりだ。まったく、さっきの威勢はどこにいったのやら。私を倒すのではなかったのかね?これではアドレイドが犠牲になった意味がますます無いな』
「…………………………」
『彼女のおかげで少しは生き長らえたんだ。こちらとしてはもう少し面白おかしく踊ってほしかったものだが。あぁ、そうだ少年!人生の終わらせ方くらいは自分で選んでみてはいかがかな?私に「島国」のセンベイのようにペシャンコにされるか、それとも「正統王国」らしく名誉を優先してそこから飛び降りるか。好きな方を選び給──────』 - 66キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:05:53
だからこそ、付け入る隙が生じる。
(──────そこだ!)
ダラダラと長々話しながらゆっくりと近付いていたことが仇となった。
乗機を加速させれば2秒後には獲物を轢き潰せていたであろう位置。
そここそがクウェンサーが誘い込まんとしていた「ポイント」であったことにドミニークはその時まで勘付くことが出来なかった。
『キャロライン』が「ポイント」の真上を通過すると同時に無線機のスイッチが押される。
目が眩む閃光。
鼓膜に轟く爆発音。
炸裂したのは『キャロライン』のすぐ側に立っている柱に貼り付けてあったハンドアックスであった。
そして鋼の球体を覆い尽くす衝撃と炎。
装甲車程度であれば容易く撃破せしめる威力の爆風が機体を覆うようにまともに浴びせられる。
──────が、しかし。
「そんな……」
ほぼ無傷。
『キャロライン』は健在なまま佇んでいる。
寧ろ、爆破の起点であった柱の方が表面を剥がされて内部の回路を覗かせているなど大きな損傷を被っている有様であった。
そもそも装甲車など「旧世界」由来の時代遅れの遺物。
対して『キャロライン』は最新兵器たるオブジェクト。
多少床を滑りはしたが、本体への損傷は装甲の薄皮一枚が焦げただけで揺るぎない安定感を保っている。 - 67キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:09:19
「クソッ………………!」
クウェンサーは毒づいてその場にへたり込む。
最早彼に改めて逃げ回る体力は無い。
底をついた。空っぽ。エンプティ。
これ以上の追いかけっこは不可能
つまりはここが彼にとっての限界。
一方で、最後っ屁が通じず最早抵抗手段を失った雑魚に対してドミニークは高らかに勝ち誇っていた。
どこまでも見下して敗北感を煽るのが勝者の当然の権利とでも言うように。
『ふぅ、危ない危ない。いやはや少しだけ驚いたよ。自ら囮となっている間にアドレイドに爆弾を持たせて設置させていたとは。役割を逆転させたのは渡しの心理的な隙を突くためか。見事だ。だが、あの程度の爆発で「キャロライン」を吹き飛ばして地上に落とせるとでも思ったのかね?』
「…………………………」
『しかし、甘いな。度し難い程に。弱者は弱者なりに知恵を振り絞って小細工を弄したつもりだったのだろうが結果はこのように「キャロライン」は健在だ。実にご苦労』
ドミニークの言う通り、確かにオブジェクトと比べれば生身の人間たった2人は「弱者」だっただろう。
「……違う」
だが、彼らは「弱者」であっても全てを諦めた「敗者」ではなかった。
だから、クウェンサー=バーボタージュは否定する。
「まだ終わっちゃいない!」
そう言って徐ろに後ろへ手を回すと背負っているバックパックから何かを取り出した。
その正体はカーボンと強化プラスチックで組まれた射撃武器。
即ち、折りたたみ式のクロスボウを。 - 68キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:14:50
『…………………………ふん。アドレイドへ一方的に爆弾を渡していたのではなく、そのガラクタと交換していたわけか。だが、今更そんな物で何をするというのかね?』
ドミニークの反応は冷ややかだった。
それもそのはず。
鉄壁の『キャロライン』に弾かれるのが関の山のオモチャを恐れる要素などどこにもないのだから。現に先程は至近距離での爆発にすら損傷軽微で抑えてみせた。
なので目の前の少年の行為はただの見るに堪えない醜い悪足掻きにしか写らない。
『君も男だろう?潔く諦め給え。そもそもそれだけの装備、それも生身でオブジェクトへ挑むなど最初から蒙昧甚だしい無謀極まる思い上がりだと気づけなかったことこそが君達の敗因だったのだよ』
「それはどうかな?」
一方でどれだけ詰られようともクウェンサーは不敵な笑みを返してみせた。
自暴自棄に基づいた諦観によるものではない。
その目に宿る光の強さはまるで自らの勝利を確信したかのようで─────。
『「それはどうかな?」、だと?まるでここから逆転する方法があるかのy
「なぁ、あんたの横にあるそれ」
ドミニークの言葉を遮ってクウェンサーが顎で指し示すのは『キャロライン』の傍らに立つ中途半端に壊れた柱。
「『アンナマリー』の動力が生み出す莫大なエネルギーが通っている大動脈なんだろう?」
ドラゴンスレイヤーの片割れは探偵が犯人を追及するかのように自らの推察を突き付けていく。
「例えば主砲への電力供給とか。平時は知らないけど連合軍を相手にしている今なら確実にドバドバ中に流れているはず。違うか?」
『………………それがどうした』
「俺がハンドアックスで破壊を狙っていたのは『キャロライン』なんかじゃない」
- 69キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:19:17
矢は既に装填されている。
後は指を押し込んでトリガーを引くだけでよかった。
──────ヒュンッ!
風を切る音と共に銀の弾丸は『キャロライン』──────ではなくその直ぐ横に立つ柱の損傷箇所へと突き刺さった。
「そいつが真のターゲットだ!別に折れなくても、表面を壊して回路を露出させるだけで構わなかった!後は矢でハッキングして暴走させるだけで良かったからな!」
『………貴様っ!』
漸く敵が何を目論んでいたのかを察したドミニークはその場から退避しようとするが、クウェンサーは決して逃がすまいとこれまで積み重ねて来た布石を発動させていく。
「思い出せよ。そこは最初にスモークグレネードを投げた時にスプリンクラーが作動して水浸しになった床だ」
『……………………っ!』
クウェンサー=バーボタージュとドミニーク=G=ラスティネイル。
ちょうど彼らはそれぞれ乾いたエリアと濡れたエリアの境目付近にいた。
まさしくそれが両者の命運を分ける。
「『獲物が油断し切ったところで隠し札を切る』。狩りの定石、だったか?そっくりそのまま返すよ市長サン」
『ふざけるn──────!!』
ドミニークが苦し紛れに何かを叫んだが既に手遅れだった。
暴走を促されたことによって執務室全体を照らす閃光が瞬く。
それと同時に柱から漏れ出た都市機能を賄う程のエネルギーは莫大な電力の奔流となって『キャロライン』に襲い掛かった。
危険域から逃れようとしてはいたが、既に床はクウェンサーが告げた通り作動したスプリンクラーによって水浸し。
通電させるための「導火線」は完成してしまっている。
チェックメイト。
最早逃げ場はどこにも無かった。 - 70キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:21:50
『この……!この私が……っ!があああああああァァァァァァッ!!』
幾ら分厚かったとしても、前提としてキューブ装甲の一つ一つは精密機械に過ぎない。
そして多少の耐電処理は為されていようが、電圧の桁が違い過ぎる。
碌な身動きすら取れずに迸る電流により『キャロライン』はスパークし、機体そのものを太陽のように光り輝かせた。
一方で見事奇策に嵌めた側のクウェンサーはというと──────。
(やばいやばい!流れ電気に巻き込まれる前に退避しないと……!)
季節外れのイルミネーションに見惚れている余裕など全く無かった。
完全に腰が引けてしまっており、立ち上がろうにも覚束ない。
このままではドミニークよりも先に黒焦げ死体が出来上がる。
「はやくはなれるわよ!ぬれていなくてもここも危険よ!」
「!」
そうなる直前で何者かに襟首を掴まれて身体を起こされた。
救いの手の正体は生死不明のまま横たわっていた女スパイ。
アドレイド=”エンプレス”=ブラックレインであった。
「アドレイドっ!?あんた生きて……!」
「今はいいからいそいでっ!」
頭の片隅では最悪の事態の可能性を想定していただけに驚愕で目を丸くするクウェンサーであったが思わぬ再会の余韻に浸る間もなく、アドレイドに促されるまま全速力で爆心地から距離を取るべく背を向けて走り出す。
背後を振り返ると感電した『キャロライン』は内部からショートさせられたことによってポロポロと全体のシルエットを崩しながらキューブ装甲が剥がれ落ちていき、本体を露出させていた。 - 71キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:24:21
『ぐ、おおおおおおおぉぉぉぉォォッ!!まだ、だ……!終……わ…………らっ!!』
それでも『キャロライン』は全壊せず、ドミニークは力を振り絞って脱出を図ろうとしていた。
身軽になった機体を動かしてどうにか安全圏へと逃れてみせる。
そんな敵ながら彼の凄まじい執念にクウェンサーは思わず驚嘆の声を漏らす。
「おいおいマジか……。あれだけやられてまだ動けるのか!?」
「ええ。でも、それまでみたいね」
確かにそこが『キャロライン』の限界であった。
直後に安全装置が作動したのか、ドミニーク=G=ラスティネイルは脱出口から吐瀉物のように排出された。
それなりの勢いだったおかげで『ネバー』の王は何度も跳ねながら床を転がる。
「ぐっ……ぁ……がはっ!」
しかし、まだ息はあった。
尚且つ四つん這いで身体を支えるだけの体力まで残っていたらしい。
全身を震わせている原因は痛みか屈辱か。あるいはその両方か。
「認めない……絶対に認めんぞ……!許されて良いはずがない……!たかがこんな小物二人風情に私が操る『キャロライン』が破壊されるなんて……!」
うわ言を呟きながら這いずってどこかへと逃走を図ろうとするが、その行く手をアドレイド=”エンプレス”=ブラックレインが立ちはだかって阻んだ。
「なんと言おうとけっかは見てのとおりよ。あなたはまけたの」
「違うっ!私は負けてなどいないっ!!認めるか……。認めてたまるものかこんな馬鹿げたことなど……っ!そ、そうだ!聞いてくれ!」 - 72キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:30:05
かつての部下を見上げる姿勢で顔を引きつらせるドミニーク=G=ラスティネイルは自己弁護を説き始めた。
「今でこそ住民は限られるが私が全てを掌握した暁にはかき集めた資産を世界全体で均等に分配するつもりだったんだ!その最初の足がかりとしてこの理想郷たる『ネバー』を作ったのだよ!私が管理することで完全な平等が実現した恒久的な平和を齎すために!」
政治家らしいよく回る口で何やら自分の正当性を主張しようと並び立てているがクウェンサーとアドレイドにとってはどうでもいいことだ。
彼らに課された作戦の目標は最初からドミニーク=G=ラスティネイルの抹殺。
それ以外の結末は最初から用意されていない。
「私にケリをつけさせて」
「だろうな。だったらこれをまた預けるよ」
黒幕の戯言を他所にクウェンサーはアドレイドに手のひらサイズに丸めた粘土状の塊と無線機を手渡す。
これだけあれば十分だろう。
「丁度これだけ余ってた。思いっきりかましてこい」
「あら、気がきくのね。ありがとう」
短い感謝を少年に告げてアドレイドはかつてのボスへ歩み寄ると胸倉を掴んで無理矢理起き上がらせる。
「何故わから──────ごっ……あ……っ!」
そして、握っていたものをまだベラベラと詭弁を垂れ流しているドミニークの腹目掛けて掌底を食らわせる形で捩じ込んだ。
叩き込まれた衝撃に彼は悶絶して後退りする。
「これでヨシ」
アドレイドが手を引くと鳩尾付近に付着していたのはハンドアックスの一欠片。
それに気付いてこれから自分の身に何が起こるのかを漸く理解したこの街の王は目を剥いて訴えかけようとする。 - 73キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:37:28
「待てっ!待ってくれ……!」
「………………………………………………」
しかし、アドレイドは当然の如くそれを無視した。
ただ黙ってゆっくりと自分の人生におけるケジメ、その象徴である男へと再び歩み寄る。
「やめろっ!止まれっ!クソっ!これまでの恩を忘れたのか!?あれだけ報酬を支払って来たというのに……!」
男にこれ以上の逃げ場は無い。彼の背後には彼自身が空けた巨大な怪物の口のような風穴が待ち受けているのみ。
直様両者の距離はゼロまで詰められた。
「さいごにあなたにおしえてあげる」
「金なr
耳障りな命乞いを最期まで聞き届けることなく、アドレイドがドミニークを窓の外へと蹴り飛ばす。
「『住めば都』」
そして、ただ一言告げると同時にハンドアックスの起爆信号を送る。
「────ぁ──っ」
直後、地面に激突することも叶わずドミニーク=G=ラスティネイルは空を汚す花火となり咲き誇った。
押し付けられた理想郷なんていらない。
「居場所」とは誰かに与えられるものではなく、自分で作り上げるもの。
そんな当たり前の事すら見失っていた此度の事件の黒幕は、かくして自分がこき使ってきた誰でもない女によって破滅を迎えたのであった。 - 74キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:44:57
一旦ここまで
何とたっぷり14000字
いやー多忙も相まって難産難産 上司はハゲろ
オリジナルの安価ではアンナマリーから落として勝利という案だったけれど、それだとなんかしっくりこないからこんな決着に変更
ドミニークは棒立ちになるから中に乗せちゃった
戦闘描写やっぱりムズい……
直ぐに罫線と体言止めに頼ってしまう(手遅れ)
なにはともあれ一番の山場というか動く場面は何とか書けたので一安心 多分あと5節くらい?
次回は短い予定だからこんなに投稿間隔開かない、はず - 75キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/26(水) 22:47:57
それとこんだけ長いならテレグラフなり何なり使えと思うのでしょうが、自分は推敲下手くそで一纏めでお出しすると誤字が大行列になってしまうのでこまめに見て直せるぶつ切りスタイルになっている次第
見づらいしレス数がもったいないと言われたらおっしゃる通りのご尤も - 76キャラシート◆BP2qeK/ddM25/02/28(金) 22:21:10
セリフを途中で遮られることに定評のあるドミニーク
それはそうとwikiに載せようとしたら3000行越えたから容量オーバーと表示されたでござる
なので4章は②を新たに生やすハメに ややこしい - 77編集初心者マン◆bvw/mWLSaA25/03/02(日) 21:56:50
- 78キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/03(月) 05:22:32
こんな時間に読了
わーい久々の続き!
懐かしい名前が蘇ってくるからついついwikiと照らし合わせながら読んでしまう
サンジャオロンこんな強かったんだ 『大陸』巻で最終決戦に駆り出されたのも頷ける
熊ってもしかしてボーンシェ…… 遭遇した傭兵さんカワイソ ジンはどうやって捕獲したんだあのバケモノ
そしてまさかのアドレイド(と多分ノエル)
フリーになったこの地雷元エリートコンビってオールマイティに何でもこなせるスパイとデジタルに滅法強いハッカーだから潜入できない場所なんてほぼ無いので作劇上で使い勝手良すぎるのよね 一步扱い方間違えれば「マスターキー」としてチートになってしまうくらいに(n敗)
だからやらかしで中和するんですねぇこれが! - 79キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/04(火) 20:16:28
うーむ、ぶっちゃけローアインとアリュメイアがこれ以上戦う理由がない気がするので悩み中
「合理的な考えなんてクソ喰らえ」の精神で何とかマッチングさせるのじゃ - 80キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/06(木) 22:50:31
となると二人の性格が少し変わるかも
というか新しい一面の発露? - 81キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/08(土) 22:39:05
もうちょいかも
- 82キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/09(日) 22:20:12
15
ピーーーーーー──────────。
『ネバー』のどこかに存在するとある空間に電子音が鳴り響く。
「──────父さん?」
『アンナマリー』のコックピット。
その波立つことの無い平坦な音を耳に入れた操縦士エリート、ローアイン=ラスティネイルは驚きに目を見開いていた。
(そんな……まさか……)
都市内において最優先の保護対象である市長であるドミニーク=G=ラスティネイル。
彼の心音バイタルは息子であるローアインによって24時間モニタリングされており、何かあった時には直ぐ様察知出来る仕様となっていた。
それが現在停止の信号を表示し続けている。
当初は計測機器の故障を疑って父に向けて直接コールを送った。しかし何度行っても、どれ程待とうと応答は無い。
これが指し示すのは即ち─────。
父は討たれ、既にこの世のどこにもいないという紛れも無いただ一つの事実であった。 - 83キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/09(日) 22:22:00
「…………………………………………」
父という男は政治家、陰謀家としては優秀。
一方で人間、夫、親としては間違いなく最低。
それがドミニークに対するローアインの揺るがぬ評価であった。
我が子に虐待紛いの教育を施し、「最愛の妻」と宣った母でさえも選挙のプロパガンダに利用して見殺し同然に死なせた。
例え家族であろうと自分以外の人間は「利用出来る」か「利用出来ない」かで価値を決める。
あらゆる非道をただ「必要だから」という理由で淡々と行える男であった。
「父さん……、死んでしまったいまとなってもボクはあなたを軽蔑している」
一人、誰もいない空間で呟く。
「だけど、『ネバー』への愛だけはほんものだった。『理想郷』を地球全土までひろげ、しはいすることで平和をもたらすという野望。……やりかたはどうあれ、その情熱だけはそんけいしていた」
だがしかし、欲望のままに何もかもを省みずに走り続けた結果。
『ネバー』は敵を作り過ぎた。
そして、その原因である父に従っていた自分もまた同罪。
実際に連合軍に損害を与えてしまっている以上、糾弾は免れ得ない。
(さて、どうしたものか──────)
これ以上の抵抗は無意味なのかもしれない。
このまま素直に投降するのが所謂「合理的で賢い選択」というものだろう。
だがしかし、 - 84キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/09(日) 22:25:41
(ボクがくだったとして、のこされる民衆たちはどうなる?)
拭い切れない懸念が過る。
歴史において敗者は勝者によって凄惨な略奪に晒されることを繰り返してきた。
現代においてはそのような蛮行は国際条約によって禁じられているが果たしてそれは『ネバー』に対して適応されるのか。
何故なら敵は当に「国際」を冠として掲げている連合軍。
孤立無援の都市に擁護や便宜を図ってくれる味方はいない。
加えてどの勢力も少なくない犠牲を払っているのだ。
その報復として街を土足で踏み荒らさないという保証がどこにある?
あれだけのエリート達がいて、全員が勝利の雰囲気に酔いしれず理性を保てるものだろうか?
「どうせ『悪の街』で甘い汁を啜ってきた連中しかいないのだから、ちょっとくらいハメを外して暴れてもいいだろう」と魔が差せば終わりが始まる。
オブジェクトによる一方的な「正義の制裁」という名の蹂躙は万の人間をいとも容易く殺すだろう。
それだけは絶対に避けねばならない。
だとすれば最も『ネバー』や民衆への被害を抑える方法は何か。
一番上手い「敗北のカタチ」とは一体どういったものか。
(父さんはもういない。げんざいにおける責任者とよべる人間はボクだ。だったら──────)
ローアインの決断は早かった。
今この瞬間にも『アンナマリー』で連合軍のオブジェクトを迎撃しつつ、その片手間でもう一人の『ネバー』の守護者へと通信を繋げる。 - 85キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/09(日) 22:27:47
「アリュメイア」
『なーにーローアインくん?こっちはおもったよりもネズミがおおくていまけっこう忙しいんだけどぉ?『アンナマリー』のボンボンエリートさんは「外」のオブジェクトなんてとっくにぜんめつさせたからヒマなったワケ?』
「父さんが死んだ」
軽口には取り合わずただ伝えたい事実だけを述べる。
あまり時間は残されていない。この街も、自分も。
幸い聡いアリュメイアは声の雰囲気から茶化していい状況では無いことを悟ってくれた。
『ふーん、あっそ。──────で?これからどうする?』
故に早速新たな雇用主に指示を仰ぐ。
流石はパズルのような機構を持つ『キャロライン』のエリート。
精神のモードや思考の意図的な切り替えなど朝飯前だ。
そんなシステマチックで冷淡とも取れる彼女の性質に今は心の中で感謝しつつ、『ネバー』の王を継いだ少年は告げる。
「キミは『民間人を侵入者から保護する』という名目でそのままあばれてから、てきとうなタイミングで投降してくれ。罪をついきゅうされても父さんとボクからおどされたなりなんなり言ってすべてをなすりつけろ。これは命令だ。いいね?」
『……だいたいわかった。そっちは?』
「ボクもおなじさ。なるべくおおくのオブジェクトを道連れにしてからとうこうする。死に逃げなんかしないからあんしんしてくれ。……フフッ、『首謀者の息子』。これいじょう正義感にあてられた連合軍がやりだまにあげるにふさわしい肩書はないだろう?その他おおぜいへの弾劾がおざなりになるくらいには」 - 86キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/09(日) 22:31:05
強がりで笑ってみせたが実際のところは押し潰されそうな強迫観念とプレッシャーを誤魔化しているだけ。
自分がしくじれば街の人々は瓦礫と灰燼に沈む。
それが何よりも恐ろしい。
最終的に全てを請け負うとはいえ、アリュメイアに今すぐリタイアするように促さなかったのは不安を分散する「共犯者」が欲しかったからかもしれない。
まったく、味方さえも道連れにするとは。
我ながら父譲りの浅ましさに罪悪感を禁じ得ない。
だから、謝っておく。
これから先二度とそんな機会が巡ってこない未来だって十分に考えられるのだから。
「……すまない。キミにとってはムダでしかないわるあがきにつきあわせてしまって」
『まぁ、今月分のお給料はもらってるからね。そのぶんははたらかせてもらいますよーっと。あー、そうそう。ちょっと気合いれるから市長サンがやってたいつものアレやろうよ。全てはナンチャラカンチャラってヤツ』
「……あぁ、そうだな。──────全ては『ネバー』のため。いや、そこに住まうひとびとのため。まかせたよ、アリュメイア」
『あいよー。全て「ネバー」のため。そんじゃ、いってきまーす』 - 87キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/09(日) 22:32:30
誓いを交わし合い通信を切る。
再び一人きりの空間。
コックピットの中でローアインは『アンナマリー』の操縦レバーを強く握り込む。
「そうだ。これでいい……」
例え所詮は薄っぺらい金メッキで塗られた偽物の「理想郷」であったとしても。
搾取する側とされる側の根本的な問題を見て見ぬふりをしていたとしても。
実際は真の幸福から随分遠くに位置していたとしても。
それでも自分はここで育ち生きてきた故郷であり居場所だ。
だから、
「ボクは『ネバー』を……、どんな手をつかってでもこの街をまもる──────!」
手段や方法は選ばない。
疑心暗鬼に蝕まれ。
抱いた覚悟と決意は既に暴走していることにも気付かずに。
少年は更なる戦いに身を投じていく。
果たしてその選択は本当に正しいのか。
流れる血をより少なくすることが出来るのか。
彼はまだ何も知らない。 - 88キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/09(日) 22:37:01
一旦ここまで
比較的早めに出せたー
前回はコッテリだから今回は文字数少なくあっさり目で
こうして合理的っぼい屁理屈を捏ねつつ結局は疑心暗鬼に基づく「見捨てられない」という「感情論」で戦闘を続行させるワケですよ いやー青臭い
でもローアイン、まだ10代半ばの世間知らずのボンボンだもの
そしてアリュメイア元スレ安価ではワガママ娘感強かったくせに急にイイ女感出してくるやん…… - 89キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/09(日) 22:42:11
2章のフェンとナイジェルといい今回といい、原作ではある意味一番ドライな『資本企業』のキャラクターに限って義理堅くするクセあるなぁ
お金だけの繋がりだと寂しいので契約範囲内だったらせめて……の精神
解釈違いだったらすまん - 90キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/11(火) 22:58:44
そういや同じ固定砲台型のオブジェクトでゾディアック・サインのケイローンがいたなぁと
『信心組織』的には宗教において「塔」って重要な記号を持っているから、金を巻き上げられた以外にも単純に「他所の勢力が似たようなオブジェクト(しかも高さで負けてる)を持っているのは目障りだから」という理由で攻めているのかもと妄想してみたり - 91キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/13(木) 21:49:54
なんだかサーバーよわよわで怖いから保守しておくわね
- 92キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/15(土) 22:02:29
むぅ、今書いてる節の区切り時どこにしたろか
思案迷想 - 93キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/17(月) 22:19:31
あんまり待たせるのもあれだから短い方で区切るかー
- 94キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/19(水) 23:09:45
タイムトラベルの時間〜
3年前の今日の日付に元スレで何してたかなと覗いてみたところ丁度『大陸』編のラストだったわぁ
個人的ベスト3に入るくらいあの巻気に入ってるのよね
いつになるかはわからんが今書いてるの終わったら短編書いてみたいなと思うくらいには
原作で触れられなかった地域だから良い意味で好き勝手出来た思い出 - 95キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/21(金) 21:19:35
明日お出しします
- 96キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/22(土) 13:41:21
16
黒幕を無事倒すことに成功して一段落。
柱から漏出していた電流は今はもう収まっている。
おそらくノエルが開発したウイルスの効果は一時的なもので、『アンナマリー』の電子的なセキュリティによって既に無効化されてしまっているのだろう。
「それにしても……」
そのような戦いの痕跡が残る執務室にて、クウェンサーはアドレイドの身体をジロジロと眺めていた。
断じて女スパイの豊満な肉体による無自覚ハニートラップに引っ掛かっていたわけではない。
本来なら起き上がることすら困難な重傷を負っているはずの彼女がこうして二本の脚で立っていることが不可解であったからである。
「よくその程度の怪我で済んだな。結構強めに『キャロライン』に跳ね飛ばされていただろあんた」
「あぁ、アレ?衝突とどうじにうしろへとんでダメージを最小限ににがしたの。とはいえとっさのことでかんぺきじゃなかったからすこしのあいだ気絶してしまったけれどね」
「そんな格闘漫画のトンデモ理屈みたいな……」
「うふふ、練習すればあなたにだってできるようになるわよ」
と口では余裕そうに語りつつ、アドレイドは応急処置としてテーピングサポーターで身体の各所をグルグル巻きにしてアイシングスプレーを吹き付けていた。
やはりダメージは確実に蓄積している。一見飄々としているように見えて、実はかなり痩せ我慢しているのかもしれない。
「それより報告しなくていいの?あなたの部隊のこわい上官さんにドミニークをはいじょしたことを」
「おっと、そうだな。出来るうちにホウレンソウホウレンソウっと」
アドレイドに促されてクウェンサーはベースゾーンのフローレイティアへ作戦達成の旨を伝えるべく通信を繋げる。
ドSなりに心配していたのか爆乳上官は直ぐに応じてくれた。 - 97キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/22(土) 13:46:56
『クウェンサーか』
「ドミニークの抹殺は完了しました。これで世界を掌握しようとしていたクソ野郎はもういません」
『そうか、よくやった。もっと褒めてやりたい所だが生憎そのような時間は無い』
「時間は無い」。
早速嫌なワードが飛び出して来た。
刻限はいつだって人間から余裕を奪うと相場は決まっているからだ。
故にフローレイティアは部下を急がせる。
『連合軍のオブジェクトがジリジリと近付きつつある。巻き添えを喰らいたくなければ直ぐにその街から離れろ』
「別行動を取っているヘイヴィアとノエルはどうするんですか?まさか見捨てるわけじゃないですよね?」
『それについては心配するな。先程奴の方から地下のサーバーの破壊に成功したと報告があった』
「だったら俺達の完全勝利じゃないですか!さっさと『アンナマリー』のエリートに降伏勧告を突き付けましょうよ!」
『それならとっくにやっている。まったく、「勝利条件を満たしたからそこで終わり」。事態がそうボードゲームみたいに単純であったのなら良かったのだけれどね……』
「は?」
混乱して思わず間の抜けた声を漏らすクウェンサーに対してフローレイティアは不機嫌そうな早口で説明を述べていく。
『確かに「ネバー」の野望は挫かれてとっくに趨勢は決している。だが、未だに「アンナマリー」が止まってくれない。抵抗を止めるよう降伏勧告を再三に渡って通達してはいるが、聞き入れられる様子もない』
「わけがわからない。これ以上戦ったって意味無いだろ……」
『それでもこうして今も戦闘は続いてしまっている。向こうに投降する気が無い以上、こちらから実力行使で無力化しない限りこの泥沼は続くというわけだ』
実際は『アンナマリー』のエリートであるローアインには彼なりの思惑があるのだが、クウェンサー達にその是非を知る術は無い。
連合軍と『ネバー』の間でどうしようもないすれ違いが生じてしまっていた。 - 98キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/22(土) 13:49:06
『徹底抗戦には全力で応えるしかない。だから、お前達4名は直ちにそこから退避してこれから送る「ネバー」外周部の座標へと向かえ。そこに遣わせた「ベイビーマグナム」に回収され次第安全圏まで離脱してもらう。以上、無事帰還することを祈るわ』
「……了解しました」
こうして上官との情報共有は終了する。
最初から最後までフローレイティアの声には不満の色が滲んでいた。
当然だろう。
これより先に持つのは不毛な争い。
流す必要の無い血が多く流れる。
他の連合軍の意向がどうかは知ったことではないが、第37機動大隊全体としては不本意極まり無い展開だ。
果たしてこの殲滅戦はどこまで激しさを増していくのか。
『アンナマリー』を完全に沈黙させたとて『ネバー』の原型はどれ程残っているのか。
その過程でシェルターに避難した人々の何割が流れ弾に晒されて犠牲となるのか。
胸糞悪い想像がクウェンサーの頭の中で膨らんでいく。
「クソッ!!」
街と民衆への被害を最小限に抑えるように作戦を進めてきたというのに。
その結果がこの有り様だというのか。
行き場の無い憤りを発散するかのようにクウェンサーは近くの柱を握り締めた拳で殴り付ける。
「聞いての通りだ……。でも、こんな終わり方なんてアリかよ!?一体俺達は何の為に……!」
「きもちはりかいできるわ。くやしいでしょうけれど、まずは私たちがいきのこることにせんねんしましょう」
「そんなことわかってるっ!だからってあんたは悔s
ズズンッッッ!!!!
冷淡にも聞こえるアドレイドの切り替えの早さに対してクウェンサーが苛立ちをぶち撒けようとしたその時、『アンナマリー』全体が大きく揺さぶられた。
地震ではない。
状況からして人為的な原因に基づくものだろう。
そして、500mもの威容を誇る巨大建造物にそのような衝撃を与えられるものは自ずと限られる。 - 99キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/22(土) 13:52:52
「っ!?オブジェクトの砲撃か!」
「まずいわね。連合軍が『アンナマリー』の防衛網を突破しはじめている」
先程の一発は今いる執務室とは違う階層に命中したおかげでクウェンサーとアドレイドはまだ無事でいられている。
しかし、その余波は容赦無く二人に牙を剥く。
バヅンッ!!と。
自分達がこのフロアに踏み込んだ際に潜った出入り口から何かが千切れる音が聞こえた。
嫌な予感にクウェンサーの顔がみるみる青ざめていく。
「しまっ……!今のでエレベーターが……!」
急いで扉へと赴いて脇にあった非常用のボタンを押し、手動で引いて左右に開く。
広がっていたのは無機質な人工の断崖絶壁と縦に貫く底の見えない暗闇のみであった。
「チクショウ……」
籠は地上へと真っ逆様に落ちていた。
おまけに吊るしていたワイヤーは破断してプラプラと頼り無く揺れている。
これではレスキュー隊のように伝って降りることも出来ない。
更にここは一般には秘匿されている空間なため、非常階段で他のフロアへの行き来は不可。
つまりは一階に繋がる唯一の脱出ルートがたった今失われたことを意味していた。
「こんなのどうやって降りれば……!?」
「…………………………」
思わぬアクシデントにより狼狽えるクウェンサーを他所に無言のままアドレイドは徐ろにどこかへ向かって早足で歩き出す。
その足取りは闇雲な迷走では無く、何か明確な目的意識を感じさせた。 - 100キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/22(土) 13:59:21
「おい、どこに行くんだよ!?」
「知りたければついてきて!」
「?」
もう昇降機の役割を果たせないエレベーターの前で立ち尽くしていても仕方が無い。少年は追従することを選択する。
女スパイが何を目指していたかは直ぐに明らかとなった。
無造作に転がっていたドミニークの遺産。
即ちもう動かない『キャロライン』の残骸の元へと近づき、出入り口の方へ回ると潜り込んで中身を物色する。
狭過ぎて一緒に入れないクウェンサーはただ眺めているだけしか出来なかった。
「えーと、これでもない……これもちがう……」
「一体何をやって……」
「ほぉら、やっぱりあった」
成果は直ぐに現れた。
アドレイドは脱出孔から手だけを伸ばして折り畳まれたナニカを相方に見せ付けるように掲げる。
掴んでいたのは折り畳まれたリュックサックのような合成繊維で編まれた物体。
クウェンサーにとって見覚えのある物であった。
軍では特に珍しくもないアイテムに加えて、オブジェクト設計士志望の彼はコックピットにそれが備え付けられているのを知っている。
その正体は。
「パラシュート?」
「ドミニークがエレベーターいがいのほうほうで出入りできないこのフロアで万が一つかえなくなったときのことをそうていしていないとおもう?そんなわけないわよね。なにかしらの対策をこうじているとかんがえているのが自然じゃないかしら」
これで袋小路の状況から抜け出すピースは揃った。生きて帰るための頼みの綱はまだギリギリで繋がっている。
──────のだが。 - 101キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/22(土) 14:02:21
「たった一つきりか……」
切符は一枚しか用意されていなかった。
考えてみれば当たり前か。
この執務室を利用するのはドミニーク=G=ラスティネイルのみ。他の者のことなど考える必要は無かったのだから。
故に生き残れるのはどちらか一人。
「しかたないわね」
──────とは必ずしも限らない。
徐ろに何かを決断した様子のアドレイドはクウェンサーの手を引いて駆け出す。
「こっちへ!」
「突然何するんだよ!?俺はてっきりどっちがパラシュートを使うか話し合い譲り合い奪い合いフェーズだと……!」
「時間がないんでしょう?そんなことくだらないことで浪費しているヒマがあったらどちらも生きのこるためにつかいましょ!」
「まさかアンタ……!?だとしたらこっちは心の準備が……!」
止める間も無くダッシュした先にあるのはフロアの端一面を覆っていたガラスを失った窓枠。
何となくアドレイドの意図を察したクウェンサーは瞼が裂けんばかりに目を見開いた。
つまり彼女が何をしようとしているのかというと──────。
「『何をする』ですって?当然ふたりなかよくとびおりるにきまっているでしょ!ほら、死にたくなかったら私の胴につかまって!」
「やっぱりかよこの女スパイはああああああああああああぁぁぁぁっっ!!」 - 102キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/22(土) 14:06:21
地上数百mから決死のダイブ。
床に支えられていたことで得ていた安定感は一瞬で消え失せ、二人は抱き合う形で重力に従って錐揉み状に落ちていく。
直後、回る世界の中で先程までいた執務室に連合軍から放たれた砲撃が直撃して、フロア全体を致死の熱波で満たす光景を彼は視界の端で目撃した。
あと10秒あそこに留まっていたら物言わぬ炭と化していただろう。
しかし、安堵の息を吐いている暇など無かった。
「傘をひらくわ!しょうげきでふりおとされないように備えて!」
何故なら一つの死を躱してもまた次の死が絶え間無く訪れるのだから。
「だからまだ心の準備がああああああああああああぁぁぁぁっっ!!」
「それって地面にげきとつするまでまたなきゃダメかしら?」
果たしてあと何回乗り越えれば「もう大丈夫」だと判断していいのか。
安全とはどこに存在するのか。
答えは出せないが今は取り敢えず眼前に迫る命の危機から逃れるべく少年はしがみつく両の腕に力を込めるのであった。 - 103二次元好きの匿名さん25/03/22(土) 14:07:41
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- 104キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/22(土) 14:11:41
一旦ここまで
最終推敲の時に限って気に入らない文や誤字がゴロゴロ出てきやがる…… 貴重な土曜の午前が吹っ飛んだぜ
量は短いけど悪くない投稿ペースなんじゃないの?最初期と比べたら遅筆も遅筆だけど
とはいえ普段からこんくらいの間隔で出せと言われたらごもっともなのですがはい誠にごめんなさい - 105キャラシート◆BP2qeK/ddM25/03/24(月) 21:59:12
今更調べたけどパラシュートって開いて無事な限界最低高度は300mまでなのね
多分『アンナマリー』の執務室はそれ以上の高さだからまぁ大丈夫やろ 舞台は近未来だから性能も向上してるだろうし(楽観)
でも2人分の重さ乗ってんだよな……
そもそもふわふわ呑気に上空漂ってたら格好の的やん!
あれ?やばくね?ガバくね?
こうして理由をこじつけなきゃならなくなる瞬間が生まれるってワケですな ストーリー構築して文章書くって大変だね