- 1◆l7elE92Qk0.U24/12/13(金) 01:10:25
私はもうすぐ眠りに就く。
凍てつく死の季節から逃れるために。
ただ春の陽気と貴女のことを夢見て。
今日は珍しく暖かい。きっと今年はこれで最後だろう。
エアグルーヴさん、もうすぐお別れです。しばしの別れ。
エアグルーヴさん、初めて出会った日の事は覚えていますか?
貴女が私をホースと間違え掴んでしまった日の事を。思えば最悪の出会いでしたね。
貴女の柔らかな手の感触、そして地面越しに聞こえた悲鳴。私は今でも覚えています。
エアグルーヴさん、今年も貴女の花壇を春待ちの宿としてお借りします。どうかご容赦ください。
宿代は勿論お支払いします故。最も私には財は有りませんので、弁財天様への進言にとどまりますが。
エアグルーヴさん、春の麗らかな日差しの下、また貴女と再会できることを楽しみにしております。
春になればまた害獣どもからここをお守りします。
それではまたお会いしましょう。
私はこの下で眠ります。春の到来と貴女の事を夢見て。 - 2◆l7elE92Qk0.U24/12/13(金) 01:10:42
花壇に来てみれば、珍しい……いや招かれざる者が鎮座している。
そいつの正体はアオダイショウ。この国では人家にも棲みつく蛇だ。
こいつが棲みつく家は縁起が良いとされるが、きっと彼女は嫌がるだろう。
……もう冬だというのに、なぜここに? そう思い観察してみると、そいつはどうやら日光浴の最中だ。
確かに今日は珍しく暖かい。冬眠し損ねたのか、はたまたこんな日和だから出てきたのか……。
心地よさそうにしているところ悪いが、彼女が来る前に移動して貰おう。そう思い、捕まえようとじりじりと近づいた。
「トレーナー? 何をしているんだ?」
背後から不意に声をかけられる。いつの間にか彼女がいた。担当であるエアグルーヴだ。
「エアグルーヴ、危ないから下がってて」
毒は無いとは言え、噛まれれば何かしらの菌を貰うかもしれない。野生動物にはそういった危険がある。
そう言って彼女に伝えたが、意外な返答が返って来た。
「お前、今日は出ていたか」
俺を挟む形で件のアオダイショウに話しかける。どうやらこの花壇の常連らしい。
怪訝な表情をしていたようで、彼女が説明するように続ける。
「私が花壇の世話を始めた頃からいるんだ。大人しいやつだから、そう心配するな」
聞けば入学当初、花壇の世話しているときにホースと間違えて掴んでしまったことが出会いだったそうだ。
「流石にあの時はつい叫んでしまったよ……まあ害は無いとわかったから今は平気だがな」
そう言いながら、彼女は恥ずかしそうに苦笑いし、そいつに対し続ける。
「花壇の冬支度をせねばらん。すまないが退いてくれ」
そう話しかけると、まるで人の言葉を理解したかのようにするりと近くの茂みへと姿を消した。
なんとも不思議な光景だった。 - 3◆l7elE92Qk0.U24/12/13(金) 01:10:58
以上
クッソ寒いので蛇みたいに冬眠してえなあと思い書きました
そういえば過去の人類は冬眠していたという説も有るみたいですね - 4◆l7elE92Qk0.U24/12/13(金) 01:11:11
- 5二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 01:14:24
女帝の花壇7に脳を焼かれたものがまた一人……
また春にその姿を現すのだろう…… - 6二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 01:23:36
ピット器官で、舌で…ウマ娘としての高めの、変温動物からしたら火傷しそうな熱も、舌に纏わりつく華やかで優しい香りの粒子も
そんな違う世界の眩い隣人の残り香を抱いて眠りにつく
そんなロマンチストな蛇が居たっていいじゃないかね - 7二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 01:24:28
絶対に想いが女帝に伝わらない切なさが良いね
- 8◆l7elE92Qk0.U24/12/13(金) 01:31:50