- 1二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 23:55:33
- 2二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 23:56:57
視点切替 →ヒフミ
「アズサさんが前に話してくれた、アズサさんがトリニティに来た理由。ナギサ様の暗殺って言っていた」
「ッ!……ああ、そうだ。私はティーパーティーの命を狙う、テロリストだ」
「嘘だよね」
目の前の少女の目が見開かれる。こちらに銃口を向けている、けれど撃つ気が全くないのがわかる、不安に顔を歪ませた少女の表情が、驚愕に変わる。
「厳密には、全くの嘘ではないんだと思う。アズサさんが何かの陰謀でここに転入してきたのは本当で、だけどアズサさん本人は、そんなつもりが全くない」
「……何を、根拠に」
「それは……なんとなく、かな」
明確な根拠が最初からあったわけではない。最初というか、きっかけは、アズサさんがそんなことをするはずがないという、ただの直感に過ぎなかった。
「まあ強いて言うなら、暗殺ならこんなやり方をしなくともいい……というか、明らかに色々悪目立ちしてる気がするし……」
暗殺だけが目的なら、最初から爆破していればよかった。ティーパーティーの執務室に爆弾を仕掛ける技量があるのだ、機会はいくらでもあっただろう。
「しかしアズサちゃんが暗殺者だと考えれば、腑に落ちる点も幾つかあります」
ハナコさんが口を開く。
「アズサちゃんは明らかに戦闘訓練を受けた経験があります。特にゲリラ戦術において、アズサちゃんの右に出る生徒はトリニティにはいないでしょう。そしてゲリラ戦術が有効な場面とは、協力者が存在する時です」
暗殺者と聞くと百鬼夜行に古くから伝わるニンジャのような、単独で対象を狙うようなイメージがあるけど、余程の熟練者じゃないと成功率は低いだろう。秘匿性を重視せず、成功率を上げるなら、方策は自ずと限られる。複数犯でのテロ工作だ。
「トリニティで起こす、ティーパーティーを狙ったテロ行為の呼び水……それがアズサちゃんに与えられた役割だったんじゃないですか?」
「……」
アズサさんは答えない。肯定はしないけど、否定もしない。
「それが真実なら、アズサさんは外からの実動部隊と同時に動き出すべきだった。だけどそうせず、先行して仕掛けた理由は」
「もういい」
無言を貫いていたアズサさんがついに声を上げる。 - 3二次元好きの匿名さん24/12/13(金) 23:59:03
「私が悪いんだ。私がトリニティの裏切り者だから、補習授業部はテストをまともに受けられない。私のせいでみんなが退学になるなんて、私は嫌だ」
「だから、正体を明かして、僕たちにかけられた疑いを晴らした、と」
「そうだ。……もう帰って。これ以上ここにいたら、私と繋がっていると思われる。ティーパーティーを狙うテロリストの仲間だと疑われたら、全てが終わったあともテストを妨害されるかもしれない」
「そうです、それも聞いておかないといけませんでしたねぇ。ナギサさんの命を狙っているなんて嘘、どうしてつくんですか?」
「っ!嘘じゃない、私は桐藤ナギサを狙う任務を受けている。既に百合園セイアだって」
「いいえ、セイアちゃんは生きています。実行犯だったなら、知らないはずもないでしょう」
アズサさんの目が見開かれる。
「こんな嘘をつく理由は、一つしか思いつきません。私も似たような事をしていましたから。嫌われて、蔑まれて、見捨てられるため。私たちを遠ざけるための嘘」
「……めて」
「アズサちゃん、そんな嘘をついたって、私たちはあなたを」
「もうやめて!」
嘘を暴き続けるハナコさんを怒鳴りつけるアズサさん。手に持った銃の引き金に指を置き、こちらを睨みつけて再度言う。
「もう帰って。誓ったんだ、みんなは私が守ってみせるって。この世界の本質は辛くて苦しいもの、だからみんなには、できる限り幸せに生きて欲しいって。私は私の因縁に決着をつける。私は最後まで足掻いてみせるから、全部無駄になる前に、お願いだからもう帰って!」
叫ぶアズサさんは、いつもの無表情は完全に崩れていて。
「それが本心なら」
そして。
「どうして泣いているの」
大粒の涙をぽろぽろと溢して、アズサさんは泣いていた。 - 4二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 00:02:12
「アズサっ!」
僕の後ろから飛び出す小さな人影。銃口を向けられているのに一切の躊躇なくコハルさんは駆け寄り、強張った右手ごと、アズサさんを抱きしめた。
「コハルっ……だめだ、離れて」
「嫌よ、絶対イヤ!1人で悩んで傷ついて、自分だけ消えるなんて、絶対ダメ!」
「なんで……私はみんなを騙してた、それなのに……」
「だって」
いつの間にか、コハルさんの声にも嗚咽が混じっていた。
「だって、アズサは私たちの友達で、仲間じゃない」
「!!」
コハルさんから離れようともがいていたアズサさんの動きが止まる。
「アズサちゃんが目的を遂げるためには、本来私たちとは仲良くするべきではありませんでした。工作員として潜入したアズサちゃんは、任務のあと、もしくは任務中に、誰にも気づかれずに消える必要があります。それをしなかった理由、いえ、出来なかった理由が、私にはわかる気がします」
1番戸口に近いところに立っていたハナコさんが、僕と先生を追い抜いて、アズサさんに近づいていく。
「補習授業部での時間が、あまりに楽しかったからじゃありませんか?」
そのまま、コハルさんごと、アズサさんを抱きしめた。
「みんなで勉強して、ご飯を食べて、洗濯をして、たわいのない話で盛り上がる。そんな時間が楽しくて仕方がなかったから。わかります。私もそうでした。こんなどうしようもなく歪んで穢れ切った学園に嫌気がさして、学園を辞めようとしてたんです。けれど、ここでみんなに出会って……実直で優しいヒフミくんと、素直ではないけれど一生懸命なコハルちゃんと、どんなことも諦めずに挑み続けるアズサちゃんに出会って、私も、変わりたいって、思ったんです」
それは紛れもなく、ハナコさんの本心だった。いつも笑顔で、だから本当の表情が見えない少女の本心が、仮面の下から溢れているようだった。 - 5二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 00:02:51
「アズサ。1人でよく頑張ったね。自分の選択に責任を持つのは大切なことだよ。だけどね、アズサはまだ子供。1人じゃどうしようもないときは、誰かを頼らなきゃ」
先生はゆっくりと歩いて3人のそばに行き、銀色の髪をさらさらと撫でた。
「辛くて、苦しくて、どうしようもない状況で。それでも信じられる存在を、アズサはもう見つけているでしょ」
先生は右手でアズサさんを撫でながら、空いた手で2つの桃色の頭を交互に撫でている。
「アズサさん」
僕も、前に足を出す。
「どんなに絶望的な状況でも、諦めずに最後まで抗うことが1番大切だって、アズサさんはいつも言っていたよね。だけど、1番頑張った人が犠牲になって終わりなんて、そんな結末は認めない。そんな風に僕たちだけが救われたって、納得できない。誰1人欠けず、最後はみんなで笑い合えるような、ハッピーエンドが僕は好きなんだ」
アズサさんの左手をとって、きゅっと握る。冷たくて震えている、小さな手。この手で、僕たちを1人で救おうとしていたのか。
「僕たちにも、手伝わせて欲しい。残酷な現実にも、強大な敵にも、一緒に立ち向かおう。どうか僕らを信じて、僕らの手を掴んで。絶対離したりしないから」
両手で握り込んだ小さな手は、未だ冷たかったけれど。それでも弱々しく、僕の手を握り返してくれた。 - 6二次元好きの匿名さん24/12/14(土) 01:57:01
「事情は把握しました。明日、アリウスの実動部隊がここトリニティに侵入し、桐藤ナギサを狙ってテロを起こすと。アズサちゃんはそれを阻止したい」
「ああ。桐藤ナギサが殺されてエデン条約が締結されなければ、トリニティとゲヘナの抗争は終わらない。またアリウスのような存在が生まれてしまう前に、その芽を摘んでおきたい」
アズサさんが潜伏していた遺跡で、僕たちはこれからについて話し合う。
「で、できるの?アリウスって、アズサみたいに戦闘訓練を受けた奴らなんでしょ。それがたくさん攻めてきて、私たちだけで追い返すなんて……」
「私が作戦を立案します。きっと大丈夫ですよ。なにせここには、ゲリラ戦のスペシャリストと、正義実現委員会の一員と、トリニティのほぼ全てに精通している生徒と、ティーパーティーから偏愛を受ける自称普通の生徒と、それにちょっとしたマスターキーのような先生だっているんです。テロの一つや二つ、すぐに制圧できますよ」
「えぇ……」
て言うか、偏愛って?