【SS】ハルナ「爆破してさし上げますわ、こんな店」

  • 1二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 00:09:28

    ジュンコ「珍しいよね、会長がご飯奢ってくれるなんて」

    快適に飛ばしていく給食部トラックの後部座席で赤いツインテールを靡かせながら、ジュンコは顔にかかる髪を退けて言う。

    ハルナ「フフ、最近チョコレート占いにハマっていまして」
    ジュンコ「チョコレート占いって、あの駄菓子のやつ・・・・・・?」
    ハルナ「ええ、そうですわ。それによると本日は『他人に良い行いをすると吉』らしいのです」

    「ふーん・・・・・・」 と素っ気ない返事をするジュンコはあまり興味が無さそうだった。
    それよりも普段はあまりお互いに奢ったりしない間柄の部員同士だ。ハルナがどんな食事を奢ってくれるのか、そっちの方が興味がある。
    だが、そのおかげで本日のランチを奢ってもらえるというのであれば、チョコレート占いとやらに感謝しよう。

    ジュンコ「それでさ、今日の目的地は?」
    ハルナ「わたくしがまだ1年の頃に出会った『黒柴食堂』というD・U地区の定食屋です。長らく行っていませんでしたから、久しぶりに顔を出してみようかと」

    ハルナがリピートするのだから、それはそれは美味しい定食屋なのだろう。

  • 2二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 00:16:00

    ハルナが主役のSSあげていこうと思います。

    ・地の文多めかも
    ・ある程度は書き溜めてありますが、続き書いたり、校正しながらなのでゆっくりです
    ・かなーり真面目なストーリーの予定なのでギャグ無いよ

    上3点でも構わんという人はゆっくりしていってほしい

    書き終わったらスレ落とす予定
    感想レスはあればあるほどうれしい
    ってことで、のんびりと続き張っていきます

  • 3二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 00:16:51

    ジュンコ「どんなお店?」
    ハルナ「そうですわね、外観はとても普通。というか目立たない感じでしたわね。店主は奥さんとふたりでお店を切り盛りしておられて、おふたりともとても親切で気の良い方たちですわ」
    アカリ「私としてはお食事の量も知りたいですねー」
    ハルナ「わたくしは元より少食ですのでデカ盛りは求めていないのですが・・・・・・とはいえ、しっかりと量はあったので満足できるかと」

    ジュンコが「ハルナが1年の時の話聞かせてよ!」 と後部席から顔を覗かせてハルナに頼み込む。
    「私も聞く!」 とイズミからの援護射撃もあって、ハルナは「では、着くまでに時間もありますし・・・・・・」 と前置きして、昔を思い出すように目を閉じて話し始めた。

  • 4二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 00:18:04

    その日は、朝から小雨が降り続いていました。

    ハルナ(高1)「・・・・・・追手は撒けましたわね・・・・・・」

    ふぅ、とひと息入れる。ようやく一息つく事ができた。
    ここから少し離れたエリアではカイザーフードソリューションズの傭兵が、店舗を爆破した犯人であるわたくしを探し回っているはず。
    小雨とはいえ、長時間雨に濡れて、髪と制服が肌に張り付いて気持ちが悪い。
    濡れた顔だけでも拭おうと、ハンカチを探すが、見当たらない。

    ああ、銃口を雨から守るために突っ込んだんでしたわね・・・・・・。

    ハルナ(この様子では遠からず見つかってしまいますわね・・・・・・身を隠す場所を探さないと・・・・・・)

    「おいおい、どうしたんだい、アンタ・・・・・・」  という声が聞こえて、慌てて振り向くと、黒い柴犬のおじさまが、傘をさして立っていた。
    「ずぶ濡れじゃねえか・・・・・・俺の店に来な、タオルくらい貸してやるから」

    通りがかりのおじさまは、背中を向けてさっさと歩き始めましたが、わたくしに向かって、ついてこい、と言わんばかりにぶんぶんと手を振っていたのを鮮明に覚えています。

    ハルナ「お邪魔致します」

    そうして連れられて入ったのは本当に、ごく平凡な雰囲気の大衆食堂だった。
    四人掛けのテーブル席が五席、カウンターに七席ほど、三十人も入れば窮屈に感じてしまうだろう、そんな程度の食堂。

  • 5二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 00:20:19

    ハルナ(こんなところに定食屋さんなんてあったんですのね・・・・・・)

    前髪からぽたりぽたりと、垂れてくる雫にも気づかずに、店内の様子をつぶさに確認していく。
    床、壁、テーブルはきれいにされている。
    テーブルの調味料類や割り箸も十分補充されている。
    厨房も、ここから見える限りは綺麗に使われていそうだ。

    店主が店の奥に向かって「おーい」 と声を掛けると、奥さんと思しき女性が出てきて、すぐにわたくしと目が合って、お互いに小さく会釈を交わす。
    「なにか、拭くもの貸してやってくれ」 と店主がジェスチャー交じりに言うと奥さんはすぐに店の奥に引っ込んで、また戻ってきたときには大判のタオルを手に持っていた。
    奥さんが、ハルナの頭を拭きながら言う「冷えたでしょう? なにか食べる?」 と、優しい声音だった。

    ハルナ「ええと、お構いなくですわ、あまり長居するとこのお店にご迷惑が掛かるかもしれませんので」
    店主「んなこと心配しなさんな、見ての通り、今は閑古鳥でよ。暇だから飯の一つでも作らせてくれよ」
    ハルナ「し、しかし・・・・・・」

    わたくしの言う迷惑というのはカイザーフードソリューションズとの間で起きたもめごとの事を言っていたのですが、二人がそれを知る由もない。
    なんとか断ろうと思考を巡らしていると、わたくしのお腹がクゥクゥと鳴くものですから。

    店主「ほれ、腹は正直だ。ちょいと待ってな、とんかつ定食かなんかでいいかい?」
    ハルナ「え、ええ・・・・・・」

    勢いに押されて了承したが、この出来事が思わぬ出会いを与えてくれた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 00:28:38

    「お嬢さん、どこの学校なの?」 と、奥さんが訊ねてくる。
    「ゲヘナ学園で『美食研究会』という部活に所属しています。といっても、まだメンバー募集中なのですが」 と答えると、店主と奥さんの二人は顔を見合わせた。
    そして、店主は不敵な笑みを浮かべていた。
    「へへ、美食を研究してると聞いちゃあ一介の料理人として黙っちゃあ居られねえな、よぅし、今日は腕を振るってやろうじゃねえの」 と店主は威勢よく腕まくりをしていた。
    時刻、13時44分。
    わたくし以外の客は居らず。
    期待はできそうもない、とわたくしは半ば落胆した気持ちで料理を待っていた。

    しばらく待った後。
    店主がトレイを持って料理を運んでくる。

    店主「ほいおまちどおさん、こいつが『定食の真髄』ってやつよ!」

    大袈裟な人ですわね、と思って流していましたが、出てきた料理にわたくしは目を疑った。
    『美しい』 そう思った。
    これが料理を目の前にした感想でしょうか、それも、豪快なトンカツがキャベツの上に乗ったような、いかにも『庶民の為の定食』を見た感想なのかしら。
    それでも、わたくしの目は一瞬でそのトンカツと、味噌汁に釘付けになっていた。
    ブルルッ、と身体を何か、悪寒のような、武者震いのような震えが駆け上った。
    体が冷えたからではなくきっと、これ以上ない極上の味に出会う前触れだったのでしょう。

  • 7二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 00:37:24

    失礼 >>2 で ・オリジナルモブ(獣)出ますって書くの忘れちゃってました。

    今更ですけど一応言っておきます、ごめんね

  • 8二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 00:52:30

    わたくしは「いただきます」 と手を合わせて、箸を取る。
    冷えた体を先ず温めたかったのもあり、お味噌汁を一口啜る。
    まだ熱い、けれど冷えた体には丁度いい。
    わたくしは深く、深く息を吸い込んでもう一度吐く。
    鼻に抜けていく味噌汁の風味にうっとりと目を細める。

    「おいしい・・・・・・」

    きっと、無意識に呟いていた。
    「そうだろう? この人の一番の得意料理だからね」 と奥さんがコロコロ笑いながら教えてくれた。
    味噌の風味、塩味、出汁の取り方、塩梅・・・・・・具材の大きさまでもが完璧に調和したひと椀だった。
    椀を置き、メインディッシュのトンカツを見やる。
    わたくしの口は、はしたなくも唾液の分泌量を増やして催促してきていた。
    ごくり、と生唾を飲んで、等分にカットされたトンカツを摘まみ上げる。
    均一な衣の厚み、溢れる肉汁、うっすらと絶妙なバランス感覚で赤みを残したお肉。

    「お、塩もソースも無しとは、お嬢ちゃん通だねぇ」 なんて、店主はおっしゃって居ましたが、このトンカツに調味料をかけるなど邪道!
    『そのまま行け』とトンカツが言っているのです!
    ザクッ! と耳障りの良い音を立てて衣が爆ぜ、耳を楽しませる。
    サラサラとした舌触りの良い衣の奥から肉汁が溢れて舌の上で衣と調和していく・・・・・・。
    柔らかな肉は噛むほどにはらりと解けて行って・・・・・・。
    嚥下するころには、もう夢中で店主の定食をいただいていました。
    おそらく土鍋で焚いていると思われる白米。
    完璧な味噌汁とトンカツ。
    シンプルなキャベツの千切りと自家製の沢庵。
    箸が止まらないとはまさにこのこと。
    なるほど、これは・・・・・・定食の真髄と店主が仰るのも頷ける。
    いや、文字にするならば『定食の神髄』と言ったところでしょうか・・・・・・これは。

    ハルナ(これは、神業ですわね・・・・・・)

  • 9二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 00:53:02

    もっと小分けの方が読みやすいですかね・・・?

  • 10二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 01:04:03

    ハルナ「ごちそうさまでした。本当に、本当においしかったですわ」
    店主「いやー、気持ちのいい食べっぷりだったな、俺もうれしいよ」
    ハルナ「・・・・・・お、お恥ずかしいところをお見せしました」

    しかし、おいしい料理であればあるほどこのお店の状況は不思議に思える。
    店主が料理に取り掛かって、完食するまでに一時間弱が経過しましたけれど、他の来客は無く、雨が降っているせいにしても、もっと賑わってもよさそうなものですのに。

    ハルナ「失礼ですが・・・・・・お昼過ぎの定食屋さんにしてはお客様が少ないような・・・・・・お料理はこんなにおいしいのですから、わたくしの見立てでは15時くらいまでは集客が期待できると思うのですけど・・・・・・?」
    店主「うーん、俺たちはほとんど宣伝なんかはしないからなぁ、商店街の身内達が定期的に来る程度ってなもんで・・・・・・それに・・・・・・」

    少し、店主が俯き加減になる。
    わたくしにはその理由はすぐに推察できた。
    わたくしが今日、この地区に足を運んでいた理由でもあるのですから。

    ハルナ「近くにできたモールタウンに客を取られているのですわね?」
    店主「まぁ、そういうことだわな」

    カイザーグループが建設した巨大ショッピングモールにより、この地区の商店街は、疲弊していた。
    もちろん、カイザーフーズを始めとするカイザー系列飲食店がすべて悪いというわけではないでしょう。ああいったお店にも、良さと需要があるものです。
    しかし、ここにはこの地元の産業があり、特産品があり、ここだけの味がある。
    やつらに踏みにじらせ、この地域の味を絶えさせるわけにはいかない。

  • 11二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 01:04:31

    あんまり気にせず投稿してもらって大丈夫ですよ

  • 12二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 01:05:33

    読めてるよ
    しかしこれは…この時間の空きっ腹に堪えるぜ

  • 13二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 01:07:30

    了解、このままの感じで行きます

  • 14二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 01:17:44

    ハルナ「店主、ご相談があります」
    店主「ん? なんだい、相談って?」
    ハルナ「わたくしにこの店の宣伝を任せていただけまんか?」
    店主「宣伝・・・・・・まぁ、構わないけど、どうしてそんなことを?」


    「理由は主にふたつございます」 わたくしは店主に指を二本立てて見せ、説明を始める。
    ひとつはこの商店街を保守するため。この味であれば、多くの客を引き付けて周囲の店舗にも恩恵を与えられると思いますわ。
    ショッピングモールに組み込まれているカイザーフードソリューションズに食い潰されることはないはずです。
    この商店街にはこの”商店街の味”がありますもの、カイザーの系列店のように量産品ばかりでは、面白みがありませんわ。
    ふたつ目は・・・・・・店主の料理の味に惚れてしまったから、かしら。

    店主「ハハ・・・・・・嬉しいこと言ってくれるじゃねーの、そういうことなら異論はねぇ、あんたの好きなようにやってみりゃあいいさ。相手はあのカイザーグループだ・・・・・・俺の店程度でどうにかなるかは分からねぇが、料理については期待に応えてやらぁ」

    「それでは、わたくしはこれで失礼いたします。タオルとお食事、ありがとうございました」 深々と頭を下げて店を後にしようとすると奥さんに声をかけられた。

    奥さん「また来てね。今度は、お友達も連れておいで」
    ハルナ「はい、是非そうさせていただきますわ」

  • 15二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 01:22:16

    店を出ると雨は止んでいた。
    まだ空には厚い雲が掛かっているが、雲の切れ間からもうすぐ陽が差して来そうだ。

    それから、わたくしはこの店と商店街の宣伝を行った。
    アカリさんと二人で活動するようになり、そこにイズミさんが加わるころには美食研究会の名はキヴォトス各地で知られるようになっていった。

    ・味や接客態度の悪い店は爆破される
    ・キヴォトス中どこにでも現れる
    ・どんな巨大企業の傘下や系列店でも噛みつく
    ・『EATorDIE』を信条とする狂犬集団
    ・味覚は本物で彼女らが評価した店に外れは無い

    言われようは様々あれど、わたくしたちの『宣伝』には力がある。
    黒柴食堂の件も、その例に漏れることはなかった。
    店はテレビで度々取り上げられるようになり、グルメ雑誌では特集が組まれ、昼頃から数時間の間は店の前に列ができるようになっていった。
    評判が評判を呼び、あとはわたくしが何をするでもなく、勝手に商店街に人が集まる。
    しばらくしてからも黒柴食堂の好評は続き、商店街も人通りが増え、活気に満ちたようだったのを、テレビやSNSで目にしていた。

    ハルナ「もう大丈夫そうですわね」

    その後、わたくしは美食研究会のメンバーを集め始め、店には顔を出すことなく時間が過ぎていきました。

  • 16二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 01:44:53

    やがてハルナは長かった説明を終え、ゆっくりと目を開ける。

    ハルナ「こうして、ジュンコさんを研究会に迎えた今だからこそ、もう一度皆さんを連れて伺いたかったのですわ」

    ハルナがそう言って、後部座席にいるふたりをちらりと見ると、ジュンコもイズミも目の色を変えていた。
    アカリが適当なパーキングに車を止め、サイドブレーキを引く。

    アカリ「さ~て、丁度お話も終わったところで、着きましたよ~☆」
    ジュンコ「行こう行こう、すぐに行きましょ! もう会長の話聞いてるだけでお腹ぺこぺこになっちゃった!!」
    イズミ「私もー!」
    ハルナ「ウフフ、楽しみですわね」

    四人は車を降りて、ハルナが話していた件の商店街へと足を踏み入れていく。
    時刻は昼過ぎ、あまり店が忙しい時間帯に来ても迷惑だと思い少しピークからは時間をずらしてある。
    商店街から少し離れた場所ではもう昼休憩を終えた現場職のドリルがガリガリと地面を削る音がかすかに響いている。

    商店街を歩きながら、ハルナは前回来た時の情景と比べていた。

    ハルナ(以前より雰囲気が良くなっていますわね。あの時は雨だったせいかしら)

  • 17二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 01:55:48

    前から2人の生徒が歩いて来るのが見えた。どうやら『黒柴食堂』で昼食を取った帰りらしい。
    方やスケバン風の見た目をし、方や小脇にフルフェイスのヘルメットを抱えている。
    ハルナ達とすれ違い、しばらく歩いたところでその2人が話している。
    「なんかさぁ・・・・・・思ったよりじゃなかったな」 というヘルメットの生徒に対してスケバンは「な。あの美食研究会がプッシュしてるっていうからわざわざ来たのに、そうでもなかったわ」 と答える。
    「まぁ、不味くはなかったけど」 とか「いうて二年くらい前の情報だし、そんときの美食研の会長が未熟だったってコトじゃね?」 とか言いながら商店街の中を通り過ぎて行った。


    ハルナ達の方はというと、目的の黒柴食堂を見つけた。
    おそらく今の2人を見送った後なのだろう、黒柴食堂の店主が食堂に戻っていこうとするところだった。
    バチっと、ハルナと目が合う。
    店主は、目を皿のようにして口を「あっ!」 と言うように開けていた。

    ハルナ「お久しぶりですわね、店主さん」
    店主「・・・・・・あぁ、久しぶりだな、お嬢ちゃん」

    ハルナ「あの時の約束、果たしにまいりましたわ『お友達を連れてまた来るように』と。奥さまがおっしゃっていましたので。今は席は空いておりますか?」
    店主「・・・・・・すまねぇ、お嬢ちゃん・・・・・・いや、ここは”ハルナさん”と呼ばしてもらおうかね」
    ハルナ「わたくし、あの時は名乗っていませんでしたが・・・・・・」
    店主「ハハッ、何を言うんだい、アンタはもう有名人じゃあないか。テレビを見てたらすぐに気づいたよ、あの時店に来たお嬢ちゃんだ、ってな・・・・・・」
    ハルナ「・・・・・・そうでしたか、覚えていてくださったようで、うれしく思いますわ」
    店主「・・・・・・その、折角来てくれたのに悪いんだが、ハルナさん・・・・・・すまね、帰っちゃあくれねえか、アンタに飯は作れねぇ」

  • 18二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 03:35:48

    店主は静かに、されどきっぱりと言い放った。
    ハルナの目が大きく見開かれる。
    ハルナは、あまりの衝撃に思考が追い付いていないようで、少しの間固まっていたがアカリの指で方をトントンと叩かれて、我に返る。
    アカリが静かに店内に向かって指を指す。
    静かだ。
    2年前のあの時と変わらない、静かな店内だ。
    人の声はおろか、気配すら今は感じられない。

    ハルナ「!?」

    ハルナは入り口前に立つ店主を押しのけるように店内へと走りこむ。
    誰もいない。
    残された2人分の食器が物悲しくテーブルに残っているだけだ。

    ハルナ「いったい・・・・・・いったい、なぜですの、これは・・・・・・どういう・・・・・・」

    呆然とするハルナの後ろから、困惑する美食研の面々も続いて入ってきた。

    アカリ「良い店ですね、大切にされているのが良くわかります」
    イズミ「うん、私もそう思う、私はこういうお店好きだよ!」
    ジュンコ「・・・・・・」

    困惑はあるものの、先にハルナがある程度情報を与えていたからか、それぞれに印象を呟いている。
    ジュンコだけは、スマホの画面を見つめたまま硬い表情をしていた。

    ジュンコ(SNSの評価だと・・・・・・最近になって急に低評価が増えてる・・・・・・味が変わったって言ってる人がたくさんいるみたい・・・・・・)

  • 19二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 13:21:41

    力尽きて寝てしまってたので続き書く

  • 20二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 17:08:11

    ジュンコ「どういうこと・・・・・・結構流行ってたんじゃないの・・・・・・?」

    アカリ「うーん、分かりませんねぇ、でもまぁ、実際に食べてみるのが一番早いんじゃないでしょうか☆」

    イズミ「で、でも店主さんは・・・・・・」

    店主「・・・・・・あぁ、料理を作る気はねぇ。本当に悪いとは思うんだが帰って欲しい」


    アカリ「嫌です☆ 帰りません」


    アカリが食い下がる。


    アカリ「さっきも言いましたが、私たちは料理を楽しみにしてここに来ています。

    それに、店主はまだ幟<のぼり>を出しているじゃないですか。営業中ということですよね?

    営業中に客を追い出すのは、美食研究会としても看過できません。我々が何か、店主の気に障るようなことをしてしまったのであれば、そう言ってください。

    何も分からないままで、ハイそうですかと引き返すことは到底できませんねー?」


    (怖・・・・・・) とジュンコとイズミは思った。

    圧倒的なまでの”圧”がそこにはある。


    店主「・・・・・・・・・・・・分かったよ、作ってやるから、何にするか決めておくれ」


    4人はメニューを手に取り、それぞれに選んでいく。結果的に、アカリとイズミが唐揚げ定食、アカリは大盛りチャーハンも付けていた。ハルナとジュンコはとんかつ定食にすることにした。

    店主が、テーブルの上に残っていた2人分のトレイを持って、厨房の方へと入っていく。

    美食研究会の4名は近くにあったテーブル席に座って待つことにした。

    すぐに店主がお冷を4人分の食事を並べていく。店主は、頑なにハルナの方を見ようとしない。

    その間、何とも微妙な空気が場を包んでいた。

  • 21二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 17:10:07

    ジュンコ「えっと・・・・・・何かあったのかな」
    ハルナ「・・・・・・」
    アカリ「ジュンコさん、他に何か・・・・・・SNSで情報などあったりしますか?」
    ジュンコ「うーん・・・・・・D・U地区商店街の開発再開・・・・・・大型ショッピングモール・・・・・・敷地拡大に伴う商店街の買収・・・・・・この地区のネット記事は最近こんなのばかりみたいね、グルメ雑誌とかの特集はここ最近組まれてないっぽいし・・・・・・」
    アカリ「ふむ・・・・・・なにか関係があるのでしょうか・・・・・・?」
    イズミ「それよりお腹空いたよ~」
    ジュンコ「はぁ、イズミはいつも通りね・・・・・・」
    ハルナ「・・・・・・」

    ハルナ(カイザーフードソリューションズの開発計画が止まっていない・・・・・・? 商店街を守れるだけの勢いはあったはずですのに、どうして・・・・・・。
    それに、店主のあの態度は一体・・・・・・?)

    待っているうちに、食事がサーブされてくる。
    ジュンコとイズミが声を揃えて「おお・・・・・・」 と、目を輝かせて感嘆の声をあげていた。
    相変わらず、均整の取れた盛り付けに『これぞ』と言ったような見た目の定食。
    それを見たハルナはホッと、胸を撫でおろした。

    ハルナ(はやり、素晴らしい腕をお持ちですわね。店主のトンカツ・・・・・・久しぶり食べるのが楽しみです)

    そして、最後にハルナの前にも定食が配膳される。
    アカリは、店主の手が少し震えていることに目ざとく気付いたが、何も言わなかった。
    食事が揃い、美食研究会全員で手を合わせる。
    「いただきます」 と声を揃えるのを店主は傍らで見ていた。

  • 22二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 17:19:55

    ハルナ以外の3人が先に料理を頬張っていく。
    ハルナは、すぐには手を付けず、視線を店内に彷徨わせていたのだが、
    「ハルナさん・・・・・・これ・・・・・・」 というアカリの声に意識を引き戻されて、テーブルの美食研の面子をみる。

    ジュンコ「おいしい! ・・・・・・けど・・・・・・ん?」
    イズミ「???」
    アカリ「このお料理・・・・・・」

    アカリ「・・・・・・本当に、あなたが作っていますか?」

    ハルナ「!?」
    ジュンコ「え、どういうこと・・・・・・? 店主が作った料理じゃないって?」
    アカリ「いいえ、本当にそうかは分かりませんが・・・・・・でもこの料理は明らかに『何かおかしい』です。だって、普通に考えてありえないと思いませんか?
    こんなに美しく料理を盛り付ける、見た目にもしっかりと配慮できる人です。しかも、この均一なキャベツの千切りや、他の調理を見ても技量の高さが伺えます。
    なにより、あのハルナがあれだけ褒めるような店、そうそうありません。
    そんな人が、こんな『平凡』な味付けをするなど・・・・・・ありえるのでしょうか?」

    それを聞いたハルナは、乱暴とも言える勢いで箸を取り、とんかつに食らいついた。
    普段礼儀作法をきっちりするタイプの彼女にしては珍しい。それほどの『何か異常なこと』がこのテーブルの上で起こっている。

    ザク! といつかと同じように、衣が爆ぜ、肉汁が口の中に溢れる。
    味噌汁を啜る。いつかと同じように、熱い温度が心地よい。
    だというのに、あの繊細な味が、美術品のように完成されていたバランスが、完全に失われている。
    奇跡的なまでに調整された具材の形や加熱加減であるにもかかわらず、味だけがどこか平凡で、そのアンバランスさが違和感をさらに増長していた。

    ハルナ「どう・・・・・・して・・・・・・?」

    実際に料理を口にしてしまうと、疑いようなどなかった。

    ハルナ「まさか・・・・・・店主、味覚が・・・・・・味覚を、失っているのですか・・・・・・?」

  • 23二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 17:35:26

    店主は、下を向いたまま、黙って頷いた。
    美食研究会の面々は、静かに店主を見つめていた。

    店主「ハルナさん・・・・・・あんたにだけは、食ってほしくなかった・・・・・・”あの頃の味”を知っているあんたにだけは!! ・・・・・・だが、そっちの嬢ちゃんが言うように、料理人として店開けてる以上は、作ってやらねえとな。
    ここまで来ちまったんだから、もうすべて話すが・・・・・・さて、どこから話したもんかね。
    まずは・・・・・・・そうだな」

    店主は一度店の奥に行って、何か手に持って戻ってきた。

    遺影だった。

    店主がハルナの前にそっと、遺影を置く。
    一同が息をのむ、微かな声で「嘘・・・・・・」 と呟いたのは、誰だったのだろうか。
    ハルナは、目が眩むような感覚になっていた。思考が追いつかず、枠の中に収まる奥さんの温和な笑顔をただ呆然と見つめることしかできない。

    店主「ほんの、半年前だ・・・・・・あいつが逝っちまったのは。
    あいつが居なくなってからも、しばらくは俺ひとりでなんとか回せてたんだが・・・・・・ある日、常連から『味がおかしい』って言われたんだ。
    「そんなわけあるかよ」 ってな事、俺は言ってたがそれでもやっぱ気になって、何度も味見をしたんだが、おかしくは感じなかった。
    調理も材料もいつも通りなのに、味だけが違ってた・・・・・・。
    医者に掛かって、初めて味覚がおかしくなっちまってることを確信した」
    ハルナ「・・・・・・原因は・・・・・・?」
    店主「ストレス性のもんだって医者に言われた、薬で治るかどうかは”人による”ってところらしい」

    ハルナのこめかみと額には、ジワリと嫌な汗が滲んでいた。
    奥さんが亡くなったのが半年前。
    ハルナがこの店を宣伝して、繁盛し始めてから2年弱。疲労を溜めこむには充分だろう。
    であれば、奥さんの亡くなった原因は。

  • 24二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 17:40:00

    ハルナ「奥さんは・・・・・・どうして・・・・・・」

    もうなんとなく、察しはついていた。
    喉の奥が締め付けられるようで、上手く声が出せない。

    店主「・・・・・・過労による、急性の心臓麻痺だってよ・・・・・・」
    ハルナ「っ!! ・・・・・・ご、ごめん、なさい・・・・・・! わたくし、そんなつもりでは! こんな、こんなことになるなんてっ・・・・・・!! 思わなくて・・・・・・」

    ハルナの肩の震えが大きくなって、強く握ったこぶしの上に、大粒の涙が落ちる。
    止めどなく、落ちる涙は、こぶしの輪郭に添うように流れ落ちていく。

    ハルナ「わたくしの・・・・・・せいで・・・・・・っ!!」
    店主「!? そ、それは違うさ! ハルナさん!!」
    ハルナ「何が違うというのですか!!? わたくしがこの店を宣伝することさえなければ! おふたりは今でもあの味を、幸せな時間を過ごせていたはずです!! わたくしが、このお店に来なければ・・・・・・っ!!」
    店主「バカ言うんじゃないよ・・・・・・」

    店主はハルナの両肩を優しく掴んで、まっすぐにハルナの目を見つめた。
    彼も、泣いていた。

    店主「あんたには、俺たちふたりとも、感謝してたんだ。地元の人間しか来ねぇような店に、たくさんの人を呼んでくれたのはあんたじゃねぇか。
    店を見てみな、今はあんたら以外誰もいねぇが、昼前からここが客でいっぱいになるんだ! 来る人、来る人、みんな笑顔でよ、毎日知らねぇ顔がやってきて、うめぇうめぇって俺の飯食ってくれるんだ。こんな幸せなこと、他にあるかい?
    その幸せを運んでくれたのは他の誰でもねぇ、ハルナさんだろ?」
    ハルナ「ですが・・・・・・!」
    店主「嫁は、『またあの子に合いたい』って、いつも言ってた、今度来たらいっぱいおいしいもの食べさせてあげようって、ふたりで言っててよ・・・・・・。
    なのに・・・・・・ごめんよ、お嬢ちゃん・・・・・・こんな、”こんな飯”しか作れなくて、ゴメンっ!!
    あんたが俺たちにくれたモノもくれたチャンスも、何も、守れなくって・・・・・・ごめんな・・・・・・」

  • 25二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 18:40:49

    ハルナ「店主・・・・・・っ、うぅ・・・・・・ごめんなさい、ごめんなさい! 奥さん、もっと早くに、もう一度来ていれば!! もっと足繫く、ここに通っていれば・・・・・・なにか、違っていたかもしれないのに・・・・・・わたくし、このお店は、もう大丈夫だって、おもって・・・・・・いつでも来れるって、おもってしまって・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
    店主「ハルナさん、謝ることなんてなにもないんだ。この店に来た人の中で、悪い奴なんかひとりもいなかったさ。
    俺たち夫婦はふたり揃ってバカでよ、どんなに忙しくてもお客さんの笑顔がありゃあ疲れなんてふっ飛ぶなんて言ってよ・・・・・・そんなわけ、ねぇのにな。それで体壊しちまったら、元も子もねぇのにな・・・・・・」

    いつの間にか、ジュンコとイズミもつられて泣いていた。
    どうしてこうなってしまったんだろう。
    こんなに優しく笑う奥さんが居て、料理上手な優しい店主が居て。
    みんな、笑顔だったはずなのに。

    イズミ「どうにか、できないのかな・・・・・・こんなの可哀そうだよぉ・・・・・・」

    イズミがわんわんと泣きながら言う。

    ジュンコ「・・・・・・あ、そうだ・・・・・・! 会長! 会長は昔の味を知ってるんでしょ? だったら、店主が作って会長が味見すれば、元の味が作れるんじゃない?」
    イズミ「! ジュンコ頭いい! それだよ!」
    ハルナ「し、しかし・・・・・・店主・・・・・・」

    ハルナは店主の方を見る。
    店主は少し考えた後、小さく「やってみればいいさ」 と呟いた。

    店主とハルナの2人は厨房に立つ。
    食材の準備をしながら、店主はハルナに問いかける「行けると思うかい?」 「・・・・・・不可能ですわ」 「俺も同感だ」 とやり取りを交わす。
    作業しながらも、2人はぽつぽつと話を続けた。

    店主「普段、料理はするのかい?」
    ハルナ「いいえ、専ら食べるのが専門で、滅多に厨房には立ちません」
    店主「そうかい・・・・・・」
    ハルナ「ゲヘナにも、おいしい料理を作って下さる友人が居て、ですが、お忙しいのでなかなか構ってくれなくて・・・・・・」
    店主「そうかい・・・・・・大事にしなよ、あと、たまにはリフレッシュさせてやんな」
    ハルナ「・・・・・・そうですわね」

  • 26二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 19:07:22

    >>あと、たまにはリフレッシュさせてやんな



    これに関してはマジでその通りで草

  • 27二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 19:14:54

    店主が、いつも通り味噌汁の調理をし、ハルナに味見を求める。

    店主「どうだい?」

    ハルナが感じたのは、絶望感だけだった。
    味が違うことは、分かる。あの味噌汁よりも甘味が強い。
    では、ここからどうすればあの味にたどり着けるのだろうか?
    何を、どれだけの分量淹れればいい? 煮込み具合はもういいのか、もう少しなのか。
    何も分からない・・・・・・。目的地は分かっているのに、そこにどうすればたどり着けるのか、何も見出すことができない。
    料理人が味覚を失う事は大海原の真ん中を航海しているときにコンパスを失うことに等しい。
    (わたくしでは・・・・・・この方のコンパスにはなれない・・・・・・) そんなことができる人が居るとすればそれは、奥さんだけだろう。

    ハルナ「・・・・・・諦めましょう。これ以上やっても、食材を無駄にするだけです」
    店主「・・・・・・そうだな」

    ハルナは、今度こそ、あの味が永遠に失われてしまったことを悟って、もう一度泣いた。
    ただ純粋に、店主のあの味がもう食べられないことが悲しくて。
    仲間たちに、食べさせてやれないことが悲しくて。
    キヴォトスから、ひとつの才能が消え落ちてしまったことが、悲しくて。泣いた。

    テーブルは静かだった。いつもならもっと賑やかな食事になっているはずだが。
    発案してくれたジュンコとイズミに向かって、ハルナは首を振る。
    「そっか・・・・・・」 とジュンコは静かに呟くと、下を向く。味噌汁の水面をじっと見つめているようだった。

  • 28二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 21:53:12

    ぽつりと、店主が呟く。

    店主「なぁ、ハルナさん。頼みがあるんだが」
    ハルナ「?・・・・・・なんでしょう」
    店主「この店、爆破しちゃあくれねぇか・・・・・・? そいつが、あんたらのやり方、だろ?」
    ハルナ「は、はい!? ど、どうして・・・・・・」
    店主「終わりにしたくてよ・・・・・・実はもう家財道具はもう他所に移してて、料理道具しか残ってないんだ。俺ひとりじゃ、なかなか店を閉める決心が付かなくて、ダラダラ開けちまってたが・・・・・・俺に料理人として幸せな時間を与えてくれたあんたが終わらせられるなら俺は本望だ」
    ハルナ「・・・・・・それで良いのですか? 店主は」

    店主は頷いた。

    しかし、そこに割り込んでくる声がひとつ。

    イズミ「ま、待ってよ! そんなの勿体ないよ! だってこの料理だって充分おいしいと思うし、店主さんだって、良い人で、奥さんもこのお店が好きだったんじゃないの!?」

    イズミは出された唐揚げを箸でつかみ、バク、と頬張る。

    イズミ「こんなに、こんなに唐揚げだっておいしいもん!! ハルナもこの味が好きだったんじゃないの!?」

    ハルナ「っーー違います!!!」

    ハルナが叫ぶ。
    滅多に聞かない彼女の怒声に、ジュンコもイズミも驚いた顔をしていた。

    ハルナ「違うんです! イズミさん! 店主のお料理はもっと・・・・・・もっと美味しくて、繊細で、優しくて・・・・・・! こんなものではないっ!! なかったんです!!! なのに・・・・・・わたくしが・・・・・・壊してしまった・・・・・・ですから、その償いと、ケジメは付けさせていただきますわ」
    ジュンコ「会長・・・・・・」

  • 29二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 21:54:10

    アカリ「店主さんは、お覚悟はできているんですか?」
    店主「・・・・・・ああ、これ以上、客に納得の行ってねぇ料理を出すのもな・・・・・・」

    アカリ「わかりました。ですが、それは食べ終わってから最終的にハルナさんが決めるべきですね。やはり、食べてから判断しないと」

    アカリの冷静な言葉に、ハルナは小さく頷いた。
    「はぁ」 と深い息をついて、ハルナが改めて席に着くと、奥さんの写真が、変わらず優しい笑顔を浮かべている。
    「奥さん・・・・・・ごめんなさい、食事時に騒いでしまって・・・・・・改めて、いただきますわね」 ハルナは、美食研の面々に続いて、黙々と定食を食べ始めた。
    どこかにかつての面影を探しながら、変わってしまった店主の味を、噛みしめていく。
    全員が完食するまでに、そう長い時間は掛からず、全員が箸を置き「ごちそうさまでした」 と声を揃える。

    ハルナ「・・・・・・店主」
    店主「ああ」
    ハルナ「・・・・・・良い食材と、完璧な調理でしたが・・・・・・味付けが不安定で浮いている。
    客を追い返そうとするやる気のない店主。
    おまけに店主は味覚障害を患っており、かつての味は再現できそうもない・・・・・こんな店・・・・・・っ!!」

    ハルナ「爆破してさしあげますわ、こんな店」

  • 30二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:05:44

    いつもの美食研究会のギャグ的なノリのSSかと思ってた

    クソほど重くて泣いた

  • 31二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:09:03

    >>30

    分かる

    ココロ折れそうなんだけど、明日月曜ってことも合わさって死にそうだ

  • 32二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:18:33

    >>30

    このSSはスレ主がハルナをボロボロに泣かせたいが為だけに制作されております。

    ちゃんと晴らすからね、安心してね

  • 33二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:35:11

    強引に理屈をつけて、震える声で爆破を宣言するハルナの頬を、一筋の涙が流れ落ちていく。
    店主が静かに頷き、全員が外に出た後。
    轟音とともに、店内が火の海に巻かれる。
    立ち上っていく煙を見ながら、店主はゴシゴシと涙を拭っていた。
    彼はスゥーと息を吸って、無理やりに元気な声を出しながら言った。

    店主「いやー、吹っ切れたぜ! ありがとうなハルナさん、いや、美食研究会!」
    ハルナ「店主・・・・・・わたくしは今日まで様々な定食をいただいてきましたが、あなたのものに敵う定食とはついぞ出会いませんでした」
    店主「そうか・・・・・・」
    ハルナ「無理を承知で言いますが、次お会いする時・・・・・・あなたが厨房に立っていてくださることを、希っております」
    店主「・・・・・・」

    しばらくの間、2人は何も言えずに店舗を見ていたが、やがて遠くからサイレンの音が近づいてくるのが聞こえてきた。
    「会長! ヴァルキューレが来てるよ!」 とジュンコが言う。

    ハルナ「あら、お早いですね。店主、残念ですがお別れのようです」
    店主「達者でな」
    ハルナ「ええ、そちらも・・・・・・あ、そうですわ、こちらを差し上げます」
    店主「タイ焼きのキーホルダー・・・・・・?」
    ハルナ「落として壊れてしまったものですが、置き土産ですわ」

    先に駆け出したイズミとジュンコが「ハルナー! 早くー!」と叫んでいる。

    ハルナ「ええ、今行きますわ! では店主”ごちそうさまでした”!」
    店主「・・・・・・ああ! お粗末様」

  • 34二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:39:39

    フウカ「で、どういう風の吹き回しなの、今日は美食研究会で私とジュリに夕食を作ってくれるって?」
    ハルナ「まぁまぁ、たまには良いではないですか、こういうのも趣があって」
    フウカ「はぁ、まぁ良いんだけどね・・・・・・」

    フウカ(ハルナの目、少し充血してる、何かあったんだろうな・・・・・・)

    ぼんやりと考えているうちにいい香りが漂ってきた。

    フウカ「・・・・・・驚いた、ちゃんとした味噌汁とトンカツが出てくるなんて」

    彼女は目を丸くしている。
    「いただだきます」 とフウカとジュリの2人で声を合わせる。
    味噌汁を一口、ゆっくりと飲む。

    フウカ「辛・・・・・・味見したのハルナでしょ」
    ハルナ「!? そ、そんなに辛いでしょうか・・・・・・?」
    フウカ「ううん、飲めないほどじゃないわよ、でも、好みが出てるからすぐにわかる。ハルナならこういう味にするだろうなーって」
    ハルナ「・・・・・・///」
    フウカ「で、あなたたちは食べないの? 冷めちゃうわよ」
    アカリ「そうですね、頂いちゃいましょうか」
    ジュンコ「はーい」
    イズミ「いただきまーす!」

    広い食堂に6人、テーブルを囲んでの夕飯の時間はあっという間に過ぎていった。

  • 35二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:44:11

    夕暮れが商店街を赤く染めていく。
    事情聴取などを一通り終えた店主は、あることを思い出していた。
    そういえば、昔の馴染みも、辺鄙な場所でラーメン屋をやってると言っていた。
    長らくあっていないが、いつだったか、店舗が爆破されて入院しているとか聞いたが、今は何をしているのだろうか・・・・・・。

    スマホを取り出して指を走らせる。
    電話帳をさかのぼり、連絡先をコールする。

    電話相手「もしもし? ひさしぶりだな、どうしたんだい」
    店主「今、大丈夫かい? あんた店を爆破されたって、前に言ってたじゃないか、今何をやってるのか気になってね」
    電話相手「何してるってオメー、ラーメン作ってるに決まってんだろう? 俺にはそれしかねえからよ! それに・・・・・・」
    店主「それに・・・・・・?」
    電話相手「まだまだ食わせてやりてぇ子たちが居るんでな」
    店主「!!」
    電話相手「もうしばらく引退は無理ってもんだ。そっちはどうなんだい?」
    店主「・・・・・・おう、俺も、今日ちょうど発破かけられたところでね、もう一回、道を探してみようと思ってる。・・・・・・次はたい焼き屋でもしようかね!」
    電話相手「そいつは随分転身なさるんだな、久しぶりにこっちに来なよ、奢るからさ」
    店主「ああ、今から向かうよ」

    店主は焼けた店内を一瞥すると、赤く染まる空の方へと歩き出す。
    肩から下げた大きなボストンの中には、優しく微笑む奥さんの遺影と、たい焼きのキーホールダーが一緒に入って、仲良く揺られていた。

  • 36二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:45:16

    はいー、これにてハルナさんのSS終了ですー
    長々と(本当に長々と)お目汚ししました・・・・・・

  • 37二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 23:05:06

    読み返してみるとやっぱちょっと読みにくいような気もするな・・・?
    難しいな、SSは・・・・・・

  • 38二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 23:16:31

    良かった、そして涙腺も美食研に爆破された……

    素晴らしいSSをありがとう……

  • 39二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 23:19:45

    いや素晴らしい…これしか言えないんだが本当にいいSSだった…

  • 40二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 23:21:22

    >>38

    ありがとう・・・! そう言ってもらえると1週間向き合った時間が報われます

  • 41二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 23:24:37

    >>39

    スレ主としてはその言葉だけでも十分嬉しい。

    こちらこそ読んでくれてありがとうなんだよ

  • 42二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 23:39:12

    >>34

    ハルナへの理解が深いフウカ好き

  • 43二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 23:56:13

    >>42

    今回カプ要素なしのつもりだったんだけど気づいたら入ってましたね・・・

スレッドは12/16 11:56頃に落ちます

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