- 1前スレの124/12/15(日) 08:23:09
(↓のスレで続き的な奴をもちもち書いてたら書いてる途中に落ちたからこれだけ出させてください)
【1レスSS】キヴォトスが滅びて二年が過ぎた|あにまん掲示板今日も残骸を漁って日々の糧を得る。昔から好きだった機械弄りも、最近はろくにしていない。発電機を作っても、電気を使う意味がない。電気を使うものを作っても、それがなんだというのだろう。キヴォトスが滅びて、…bbs.animanch.com新しく衣装が出来た。
残骸の中から引っ張り出した、あり合わせの布と糸。それを繕って、切って、繋げて、一着の服に仕立てていった。
前はもっと簡単に手に入ったものも、今では輝かしい宝物だ。
出来たのは、ミレニアムの制服。それをひたすら簡素に作り変えたような、未練の塊。
出来上がった衣装を拾ってきたボロボロの衣装ラックに掛けると、猫塚ヒビキは日記に何着目かの作品の完成を記した。
キヴォトスは広い。
この都市が終わってしまったあの日、稀少な布を買い求めて百鬼夜行まで出向いていたヒビキは、ミレニアムへ帰るための移動手段を失ってしまった。
最初の一ヵ月は百鬼夜行の人々を助けるために手を尽くした。誰かが迎えに来てくれないかと、望みを託して。
次の一ヵ月は旅立つ人々を見送った。歩いていくには遠すぎるからと、現実から目を背けて。
それから、次の一ヵ月、また次の一ヵ月と、ヒビキは時間を食い潰しながら、目を覆うように沢山の衣装を作った。
なんとか移動のための乗り物を誂えるために、一年以上を使った。
ミレニアムからの便りはなかった。誰かが訪れて、ミレニアムは今こうなっています、キヴォトスはこうなっています、と教えてくれることもなかった。
何もわからない、誰も知らない。皆が行ってしまって、独りぼっちになったヒビキは、孤独に喉を震わせながら、それでもちゃんと歩き出そうとしていた。
荷物を積んで、拠点にしていた部屋の衣装ラックには名前と学年、学校名、それから『この衣装を差し上げます、大切にしてね』と記した紙を貼り付けた。
何処かの誰かが、着るものに困ってこれを見つけて、大笑いでもしてくれればいいと思いながら。
自作のスターターを動かし、エンジンに火を入れる。どっどっどっど、とやや機嫌の悪そうな音が鳴り出したのを確認してから、ドアを閉め、アクセルを踏み込んだ。
一台の車、一人の子供、ぎっしり詰まった幾日分かの大荷物。きっと旅立つには十分な剣と鎧に違いない。
こんにちは、会えてよかった。
そう言える誰かと打ち切られた時間が動き出すことを祈って、挫けた心にもう一度火が点ることを願って。猫塚ヒビキは走り出した。