【ウマウマSS・顔カプ注意】紅玉は伝える

  • 1二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:04:45

    「…………くっ!」

    レース開始からの長い競り合いにより、スタミナは大きく削られた。脚は重く、心臓の鼓動もかつてないほどに荒ぶり昂っていた。肉体が、そして欠片ほどしか残されていない理性が、もう限界だと訴え掛けている。

    それでも、ここまで全て想定内。ラストスパートで先頭を差し切る為の余力は、なんとか残せている。あとは仕掛けるタイミング。遅ければ逃げ切られ、早ければゴールを目の前に力尽きる。

    今ではない、焦ってはいけない……見極めろ、勝機は―――




    『さあ、早く追いかけなければいけない! ここは3, 4コーナー! 後続のウマ娘14人が一気に差を詰めなければ、とても前の2人は捕まりそうにない!!』




    ―――今。

  • 2二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:05:34

    「はあああああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁっ!!」


    残されたすべてを注ぎ込み、加速する。集団を置き去りにし、逃亡者たちのもとへ向かう。

    『メジロパーマー大逃げ! 宝塚の再現なるか! しかし後方3番手、ダイイチルビーがものすごい勢いで迫ってきているぞ!?』

    全身が熱を発している。息を吸うたびに、空気が喉を突き刺す。

    『残り400の標識を! パーマーが、ヘリオスが、そしてルビーが切った! 直線は310m! 中山の直線は短いぞ!』

    それでも、視線はただ前へ。2人の背中を、その先のゴールを、この目は捕らえているのだから。

    「逃げろズッ友おおおお! あとは任せたあああああ!!」
    「オーケー、ズッ友っ! 任しとけえええええええっ!!」

    出し切れ、振り絞れ、そして掴み取れ。

    『メジロパーマー逃げる! ダイイチルビーも食らいつく! 残り200m!』

    眼前まで迫った栄光に、その手を伸ばして…!

    『メジロパーマー先頭、メジロパーマー先頭! メジロパーマー逃げ切るか! だがダイイチルビーもすぐそこまで来ているぞ! 外の方からナイスネイチャ! 内を通ってダイイチルビー! メジロパーマーとダイイチルビー、2人並んでゴールインっ!!』

  • 3二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:07:46

    「はっ、はっ、はっ……」

    膝に手をつき、上体を下げる。
    頭の中で轟音が響く。視界がぼやけて定まらない。

    「……っはぁッ! はぁっ、はっ……」

    予想以上に息切れしてしまっている。なかなか息が整わない。
    駄目だ、このままでは……

    「ルビーさんっ! 鼻から息吸って!」

    肩に手を乗せられ、観客席にいるはずの声が聞こえた。確認するより先に、反射的に指示に従う。

    「そしたら口から吐いて〜、もっかい吸って〜……大きく吐いて〜……えっと、今度はゆーっくり吸ってみて……そしたらゆーっくり吐いて……うん、これで大丈夫!」

    呼吸が落ち着いたのを確かめて、徐々に上体を起こす。顔を上げた先には、ウララさんがいた。

    「……ありがとうございます、おかげで助かりました。」
    「えっへへ、キングちゃんがこの前おんなじことしてたから真似してみたんだぁ。ゴールしたあともすっごく苦しそうだったから、良かったぁ〜。」

    遠目からでも憔悴していたのが分かったのだろう。だから堪らずここに来てくれたのだ。

    「私はもう大丈夫です。さあ、早く席へ。」
    「うんっ! じゃあまたね!」

    そうしてピンクのポニーテールを靡かせながら、彼女は戻って行った。

  • 4二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:08:40

    (……あとは、彼女次第。)

    脳裏に、数週間前の会話が蘇る。



    『……それは、本当ですか?』
    『うん! ウララはね、いつか〈ありまきねん〉に出てみたいんだー! いろんな娘たちが集まって走るから、すっごくワクワクするレースなんだよね? そのレースで1着、とりたいな〜!』
    『……そう、ですか。』



    それから短期的ではあるが、血反吐を吐きそうになるほどの綿密なトレーニングを重ねた。そして本来なら縁のないこの年末の中山レース場に姿を見せた。
    表向きはヘリオスさんからの、珍しくアポイントメントを介したお誘いに乗った、というもの。しかし本当の目的は、猛者の集う名誉あるレースに、適性の無いウマ娘が出走することが如何に過酷なのか、それを身を持って示すことだった。

    実のところ、脚はもう立っているのがやっとだった。心臓も落ち着く気配が無く、身体の火照りも冷めやまない。このレースに向けて万全・万策を期したが、万が一にも今後の活動に支障が出るかもしれない。そうなればどんな形であろうと、遅かれ早かれすべて伝わる。
    夢を見ている中で、不変の事実とありのままの現実を見せつける。残酷だが、夢を追い求め過ぎるあまり、尊い未来が失われるようなことは、決してあってはならない。

    ……己自身のエゴが含まれていることは、重々承知している。安くはないその代償も、いずれ支払わなくてはならないだろう。それでも……

    (貴女にはいつまでも、笑顔で楽しく走っていてほしいから。)

    そうして誰かに声を掛けられる前に、静かにコースの出入り口へと向かった。

  • 5二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:10:18

    「パ〜マ〜ちぃ〜ん……」

    レース終了直後、自分への呼び掛けに顔を向けると、這々の体と形容したくなるようなヘロッヘロの足取りで、ヘリオスが駆け寄って来ていた。そして徐ろに抱きついて来たので、それならとパーマーも背中に手を回す。

    「お疲れ、ズッ友! やっぱ爆逃げ最高、だね!」
    「マァジそれな〜……てかパマちんめっちゃんこカッコよかったぁ〜……ウチもうガチ泣きピエン一閃しそうだよぉうわあああああん!!」
    「よしよーし、そう言ってくれて嬉しいよ。……ありがとね、ズッ友。」
    「パマちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!」

    それからズビズビと泣いてたヘリオスだったが、ふと泣きやんでパーマーに問い掛けた。

    「……パマちん。」
    「ん?」
    「……お嬢、だいじょぶかな。」

    レース後のあの異常な息切れだけでそう言っている訳ではないのだろう。今回の出走自体、とんでもないリスクが付いたはずだ。あとのことを考えると、ただでは済まない。そしてこのレースへ誘った本人であるヘリオスも、そのことを分かっている。

    「さあ、ね……さすがのパーマーさんも簡単には言えないなぁ。ただとりあえず、ルビーのことは信じていようよ。ね?」
    「…………ん、だね!」

    パッと離れてゴシゴシと腕で目元を拭うと、いつもの笑顔がそこにあった。

    「んじゃパマちん、ウィナーズサークル行くべ! みんなガン待ちキメてるし!」
    「おけ! んじゃシメに一発アゲてこーか!」

  • 6二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:14:10

    「んもう、急に飛び出すからビックリしたわよ。」
    「まあまあ。それでウララちゃん、ルビーはどうだった?」
    「えっとねー、息を吸って〜吐いて〜したら、元に戻ったよ。キングちゃんが前にミラクルさんにしてたの思い出したから、やってみたんだ〜。」
    「……そういえばあの時、そばでじっと見てたわね。うふふっ、このキングから学ぶなんて、いい心掛けじゃない。」
    「うん、さっきもすぐに気付いて動いてたからね。本当にすごいよ、ありがとう。」

    しかしそんな2人とは裏腹に、ウララの表情は晴れやかではなかった。

    「ウララさん?」
    「どうかしたの?」
    「……ルビーさん、本当に大丈夫だったのかなぁ。」

    不安そうな顔を見せるウララに、揃って疑問符を浮かべた。

    「ルビーさんの肩に手を乗せてた時ね、すっごく熱かったの。手脚もブルブル震えてて……さっきもコースの出入り口に行ってる時、歩き方がいつもと違ってたんだ。……このレースに出るのって、本当に大変なんだね……」

    思わずこっそりと視線を交わす。2人ともヘリオスとパーマーから、事前に事情は聞いていた。
    適性の無いレースへ出走することの過酷さを示す。この時点でルビーの目的は達成されていた。あとはこれに対し、ウララ自身がどう思うのか。
    ミラクルに小さく頷くと、キングは至っていつものように話した。

    「いい、ウララさん? ルビーさんはもともと短距離に適性があったウマ娘なの。だから今日みたいな長距離のレースじゃ、いつも以上に体に負担が掛かってしまうのも無理はないわ。」
    「うーん……でも最後のほうはパーマーさんに並んでたよね。適性が無いのに、どうしてあそこまで走れたの?」

    その疑問には、今度はミラクルが答えた。

    「ウララちゃん、ルビーはこのレースに出る為にすごく頑張ってたんだよ。いつものトレーニングじゃ長距離には向かないからって、違うメニューもたくさんした。走り切るために必要なスタミナも、短い間になんとかつけたんだ。出るからには負けたくない、勝ちたい。そう思ったから、必要なことをしてきた。その姿を、おれは今日までずっと見てきた。」

    そして、ふぅっとひと息ついた。

    「とっても難しいし、大変だった。けど、ルビーはあそこまでやり遂げた。……ウララちゃんもこのレースに出たいって、ルビーから聞いたよ。どうかな、今日のレースを見ても、まだ出たいって思う?」

  • 7二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:14:42

    それから少しばかり俯いていたウララだったが、真っ直ぐな眼差しで顔を上げた。

    「わたし、やっぱりいつか出たい!」

    その目には、迷いが無かった。
    キングもミラクルも、何も言えなかった。

    「すっごく難しいし、トレーニングもどんどんやらなくちゃいけないし、それでも今日のルビーさんみたいにボロボロになっちゃうかもしれない。けどね、それでもすっごいレースなのは分かったし、1着もとりたい。そこでルビーさんと勝負もしたいし、ルビーさんに勝ちたい!」

    呆気に取られていたミラクルだったが、隣から聞こえてきた溜め息にハッと気を取り直した。

    「ごめんなさいね、ミラクルさん。この子、すっっごく自分に正直なので。」
    「……うん、そうだね……わかったよ、ウララちゃん。それじゃあ、ちょっとルビーのところに行ってみようか。」
    「はーい! よーし、いっくぞー!」


    彼女の行く末は、彼女自身さえ知らない。ただひとつ言えることは、どんなレースでも彼女は笑顔で走り抜けるだろう、ということだけだ。

  • 8二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:20:55

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  • 9二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:23:06

    ご精読ありがとうございます。

    「そうだ、ルビウラを書こう。」
    そう思い目が覚めたのが午前3時過ぎ。それから顔も洗わず朝ご飯も食べず、今までぶっ続けて書いてました。
    年末のチャンミにちなんで、有馬記念を題材と致しました。皆さんは誰に出走してもらう予定ですか?
    自分は星3確定ガチャでお迎えできたスイープに、ジャーニーとタマで脇を固める予定です。
    今回は逃げが強い環境と聞いてはいますが、天邪鬼な自分はスタミナグリード×3で挑んでやろうと思います。
    皆さんの健闘を祈ります。

    画像は魔改造する予定だったルビーです。

  • 10二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:23:10

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  • 11二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:24:04

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  • 12二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:25:08

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  • 13二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:25:28

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  • 14二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:26:12

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  • 15二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:26:27

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  • 16二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:27:00

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  • 17二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:28:00

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  • 18二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 09:33:39

    >>8

    >>10

    分かりにくくてすみません。

    次回から1レス目にも顔カプ注意喚起しておきますね。


    >>11

    こちらも次回から実施します。

    紛らわしくてすみません。


    >>12

    安直でしたね、次はもっと捻ってきます。


    >>13

    ご意見ありがとうございます。

    次からはタイトルにも表記します。


    >>14

    そのような魂胆は無かったのですが、そう思わせてしまってすみません。


    >>15

    確かにあとがきに書くことではなかったですね。

    失礼しました。


    >>16

    まだまだ力不足ですね、精進します。


    >>17

    人生経験の無さが出てましたか。

    ご指摘ありがとうございます。

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