- 1124/12/15(日) 11:41:26
- 2124/12/15(日) 11:41:54初代スレここだけ病弱コハル|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す季節の変わり目でも風邪で熱を出す筋肉つかないし体力もほとんどないので前線張るのはムリ日焼けで黒くなるんじゃなくて赤くなるくらい肌も弱いそれでも憧れは止められないので正実には入るし…bbs.animanch.com
その2
ここだけ病弱コハルその2|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す季節の変わり目でも風邪で熱を出す筋肉つかないし体力もほとんどないので前線張るのはムリ日焼けで黒くなるんじゃなくて赤くなるくらい肌も弱いそれでも憧れは止められないので正実には入るし…bbs.animanch.comその3
ここだけ病弱コハルその3|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す……どころか心臓発作を起こすくらい虚弱で病弱なコハルが主人公のエデン条約編再構成小説スレ体は弱くて脆いけど、原作同様正義感は強いし代わりに学力が上がってる。えっちなことにも興味あ…bbs.animanch.comその4
ここだけ病弱コハルその4|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す……どころか心臓発作を起こすくらい虚弱で病弱なコハルが主人公のエデン条約編再構成小説スレ体は弱くて脆いけど、原作同様正義感は強いし代わりに学力が上がってる。えっちなことにも興味あ…bbs.animanch.comその5
ここだけ病弱コハルその5|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す……どころか心臓発作を起こすくらい虚弱で病弱なコハルが主人公のエデン条約編再構成小説スレ体は弱くて脆いけど、原作同様正義感は強いし代わりに学力が上がってる。現在ミカと先生の秘密の…bbs.animanch.com詳しいことは上記参照
- 3124/12/15(日) 11:43:09
【注意事項】
・原作批判、またはそれに繋がりかねないレスはお控えください。原作シナリオに言いたいことがある場合は別スレたててね!
・所詮二次創作であり落書きです。内容を間に受けないでください。展開に多少の粗があっても大目に見てね! - 4124/12/15(日) 11:44:50
- 5124/12/15(日) 11:46:23
ドドドドドドドドッ!
激しい雨音が合宿所の窓を打ちつける。昨日の快晴から打って変わり、4日目は朝から天候が悪かった。
それを見ながら、溜息を1つ。今日は外に出られなさそうだ。まあ合宿所を出る用事もないのだが。
「あうぅ……結構降ってますね」
「そうですねぇ……」
私の独り言に、パタパタと部屋を動き回っていたハナエちゃんが反応してくれた。お忙しいところにすみません……。
現在、起きているのは私とハナエちゃんだけだ。他の皆は……
「アズサちゃんもハナコちゃんも、まだ起きられそうにないですね……」
私の視線の先には、「ん……んん……」と身動ぎするアズサちゃんと、いまだ夢の中にいるハナコちゃんの姿が。ハナコちゃんは昨夜の事で色々張り詰めていたものが切れたか、安心したように眠っているし、アズサちゃんは昨夜も何処かに行っていたようだ。今までほとんど寝ていないようだし……どちらにせよ、もう少し寝かせてあげたい。
まあこの2人は大丈夫だろう。その内起きる。問題なのは……
「……」
「……コハルちゃんは、大丈夫ですか?」
コハルちゃんの頭に氷嚢を乗せるハナエちゃんを見ながら、私はつい問いかけた。 - 6124/12/15(日) 11:47:04
今までの無理が響いたか、コハルちゃんは朝から熱を出した。今朝一度起きたのだが……明らかに顔が赤く、ハナエちゃんが熱を測れば、体温計は37.0を記録していた。コハルちゃんの平均体温は低いらしく、一般人には微熱でも彼女にとっては普通に高い温度とのことで。……ハナエちゃんがいてくれて本当に良かった。テキパキとスムーズに対処する姿は流石救護騎士団と言ったところか。
「今のところは熱だけですから、ゆっくりお休みさせれば何とか、と言ったところですね。今までのあれやこれやで疲れも溜まってたんでしょう。……本当のところ、一度連れ帰ってちゃんと診てあげたいところなんですが……」
ティーパーティーが……と、苦い顔をするハナエちゃんから、思わず目をそらす。一度発作も起こしているし、ここでコハルちゃんが離脱すればしばらく帰ってこないだろう。試験に間に合わせるのは絶望的と言ってもいい。そうなると、ティーパーティーの目的が私たちの退学である以上、「全員合格ではない以上、残念ですが皆さん退学ですね……」と言われかねないのは私でも予想できる。コハルちゃんの体調をわかっている上で補習授業部に入れているのだ、それが条件緩和の理由になるとはとても思えない。
……ナギサ様、どうして……何故こんな真似を……
「はぁ……こんな時、ミネ団長がいてくれたら話は早いんですが……今の惨状を見たら、間違いなくティーパーティーも救護されるでしょうし」
「『いてくれたら』って……いないんですか?」
救護騎士団のミネ団長と言ったら、あの人しかいない。蒼森ミネ。【救護騎士団】の団長を務めるトリニティ総合学園3年生。……なんといったらいいのか、ものすごくアグレッシブでフットワークの軽い人だ。私は会ったことはないが、話は聞いたことがある。『ミネが壊して団員が治す』という言葉は、このトリニティにおいてあまりにも有名だ。
そんな彼女が、いない? - 7124/12/15(日) 11:47:43
「……はい。あまり表沙汰にしてはいけない話なんですが……ミネ団長は現在、行方不明なんです。どこをほっつき歩いているのか……連絡もなく、突然ぱったりと……こんな時、団長がいてくだされば、政治的にもティーパーティーを牽制できるのですが……」
ティーパーティーを牽制……? 救護騎士団は確かに大きく歴史も長い部活だが、そこまでの影響力があっただろうか?
一瞬疑問符が浮かぶが、朧気に聞きかじった記憶が浮かび上がる。確かミネ団長って……
「……? ――ああ、団長はヨハネ分派の首長でもありますので。政治的な影響力も強いんですよ。団長自身は救護活動を優先されて政治的に動かれることはほとんどないんですけどね」
こちらの疑問に応えて、ハナエちゃんが解説してくれた。なるほど、確かに聞いたことがある。というか「あれでもう少し大人しくしてくれれば……」と、ナギサ様が嘆息をつかれていたことまで覚えている。……ナギサ様……。
にしても、ミネ団長は一体どこへ行ったというのか。あれだけ救護活動に情熱を注いでいた人が、それを放り出して失踪するなどとは考えられないが……。
「んん……」
考えていると、アズサちゃんがまた寝返りを打った。寝苦しいのだろうか。
「……アズサちゃん。今までの早起きは、無理をしていたんでしょうか……」
「枕が変わるだけで眠れなくなる人もいますからね……どんなに小さいことでも、環境の変化は侮れませんよ? 睡眠は大事です! というわけで、もう少し寝かせてあげましょう。どのみち皆さんこの有様ですから、午前中は何もできませんし。外もすごい天気ですからね!」
ピカッ!
ハナエちゃんの発言とともに、窓から一瞬強烈な光が差し込んだ。少し遅れて、けたたましい音が響く。 - 8124/12/15(日) 11:48:30
「あうぅ……なんだか雷まで……」
「んん……?」
「あ、ハナコさん。おはようございます!」
強い光にさらされたせいか、ハナコちゃんが目を開いた。ハナエちゃんの挨拶に「おはよう……ございます……」と、目をしょぼしょぼさせながら応えている。……こんなにぼーっとしているハナコちゃんは珍しい。それだけ良く眠れたのだろうか。
「……今の光は……?」
「ああ、雷です。今日は朝から天気が悪くて……うひゃあっ!」
話している最中に再び雷鳴が轟き、思わず身を竦める。「今のは近かったですねぇ」じゃないんですよハナエちゃん! 今かなり大きい音でしたよ!? なんでそんなのほほんとしてられるんですか!? ううぅ……私が怖がり過ぎなんでしょうか……
「雨……確かに、すごい音が……」
ぼーっとした表情で窓を……正確にはそこから見える外を見つめるハナコちゃん。顔立ちが整ってるせいかとても絵になる光景だ。……しかし、次第に目を見開いていき……突然ガバっと立ち上がった。
「……! いけない!」
「ハナコちゃん!? どうしたんです突然「洗濯物がまだ外に!」え? ……あ゛!?」
「……あちゃー。すっかり忘れてましたね……」
そうだ、そう言えば昨日洗濯をして……その後外に干して、そのままだ。いかんせん昨夜の出来事が濃すぎてすっかり忘れていた。
弾かれたように部屋を飛び出していったハナコちゃんを追いかけて、私も部屋から転がり出る。窓に打ち付けられる雨音は強烈で、やむ気配などない。私達はそんな荒れた天候の中、外へと飛び出すのだった。 - 9124/12/15(日) 11:48:52
「んんっ……ダメ……可愛いものが……ふわふわで……それは、よくない……ん?」
慌ただしく2人が出ていったあと、可愛らしい寝言を口走っていたアズサさんが起きた。まだ眠いのか、目をパチパチさせている。
「おはようございます! アズサさん」
「おはよう……? あの2人は?」
「あー……それが……」
外の荒天の騒々しさとは対照的に、部屋の中では私とアズサさんの会話、そして静かに寝息を立てるコハルさんの呼吸音だけが響いていた。 - 10124/12/15(日) 11:49:40
「えー、それでは……」
真っ暗な部屋の中。中央に置かれた小さな石油ストーブの明かりに照らし出された、ヒフミ先輩が口火を切った。心なしか目が死んでいるように見える。
「『第一回補習授業部仮装パーティー』を始めます……どうして、こんなことに……」
巨大ペロロ着ぐるみに収まったヒフミ先輩が、そう言ってさめざめと嘆いていた。嘴から顔を覗かせる構造になっていて、部屋が暗いのも相まってなんか食べられてるみたいになってて怖い。その横で、頭からシーツをかぶってまるで古典的な幽霊スタイルになったハナコがパチパチと拍手している。それにあわせて、良くわからないままとりあえず拍手する体操着姿のアズサと、拍手しておいてあげようと優しい顔のハナちゃんが続く。……え、なにこれは。
起きたばかりの私は、意味不明な状況に思わず思考が止まってしまった。
時は遡ること40分ほど前。
「――こ、これで全部、ですね……」
「これは……見事に全滅ですね。泥もはねちゃってますし、洗い直しが必要そうです」
「あうぅ……いま着てる体操服も、中までびちゃびちゃです……」
「途中で転んでましたからね、ヒフミちゃん……」
荒天の中、どうにか洗濯物を回収してきた私とハナコちゃんは、ハナエちゃん、起きていたアズサちゃんと一緒に被害状況を確認していた。
案の定、干してあった洗濯物はぐしょぐしょに濡れていた。はねた泥が付着しているものもあり、とてもじゃないが着れたものじゃない。寝間着がわりに着ていた体操服も、途中すっ転んだせいでだいぶ酷い有様になっている。最悪だ。 - 11124/12/15(日) 11:50:29
「……ごめんなさい、つい失念してしまって……私が纏めて洗おうなどと言い出さなければ、こんなことには……むぐっ!?」
「んもうハナコちゃん! 後悔ばっかりしないって昨日話したじゃないですか! 未来予知できるわけではないんですから、こんな豪雨が降るなんて誰もわかりません!」
「ヒフミの言う通りだ。洗濯はもう一度すればいいし、服は着替えてしまえばいい。そんなに気に病むことじゃない」
「そうですよ! 濡れた服のままだと風邪を引いてしまいますし、そうなるとハナエちゃんの負担が尋常じゃなくなるので、まずは早く着替えちゃいましょう」
またも後ろ向きにこじらせだしたハナコちゃんの口を塞いで、フォローをねじ込む。アズサちゃんも続いて援護射撃してくれた。もーほんとにハナコちゃんは、手がかかりますね……。
とりあえずいつまでも濡れ鼠ではいたくないので、着替えることを提案すると、同じくびしょ濡れのハナコちゃんは小さく笑って同意した。
「……ありがとうございます。そのとおりですね、髪も乾かさないと……」
ハナコちゃんも前向きになったので、さあ早く着替えようと自身の荷物に手を伸ばす……あれ? あれ、あれ? え。嘘。
「……? ヒフミ、どうかしたのか?」
「き……着替えが、もうありません……」
しまった、今日乾くだろうと思って本当に全部洗濯に出してしまっていた。今着ている体操着が最後の砦だったのだ。 - 12124/12/15(日) 11:51:10
「……あ、私ももうないですね」
「私も今着てるのが最後だ。予備はない。あったとしても、2人にはサイズが合わないだろう」
「私は予備がありますけど、コハルちゃん用のしか……皆さんとはサイズが合いませんね」
ハナコちゃんも予備がなく、他2人は私やハナコちゃんより小さいので服を貸してもらうこともできない。……終わった。
「こ……こうなったら、もう下着姿でやるしか……?」
「早まらないでくださいヒフミさん! ほぼ全裸だとどのみち風邪を引きますよ! とりあえず暖房効いてるこっちに来て!」
あとタオルです、それは脱いで、これで水気を拭いてください。
そう言って差し出されたタオルを受け取る。ありがとうございますハナエちゃん……!
「……とにかく、まずは洗濯しなおして、終わったらドライヤーで乾かしましょう。しばらくは下着姿でいるしかないですが、バスタオルでも巻いておけば多少マシになるはずです」
濡れた服を脱ぎながら、ハナコちゃんが方針を纏めた。特に異論もないので、それに従って行動する。……うう、早く乾くといいんですが……。
洗濯機に洗濯物を突っ込んでしばし。下着姿でうろつくわけにもいかず、私たちは部屋でおとなしくしていた。
「……酷い雨だな。まったく止みそうにない」
窓辺から外の様子を見ていたアズサちゃんがポツリと呟く。雨音は相変わらず激しいままで、合宿所の窓を打ち付けている。コハルちゃんの寝息くらいしか音のしない部屋の中とは対照的だ。天気予報では大雨だなんて言ってなかったのにぃ……。 - 13124/12/15(日) 11:52:17
再び光が走り、遅れて炸裂音。ま、また雷が……変なところに落ちないといいんですが……。
それがフラグにでもなったのか。――突然辺りが真っ暗になった。へ? な、何事ですか!?
「……停電、のようですね。落雷によるものでしょうか」
ハナコちゃんの冷静な声に合わせるように、何か大きな音がする。確認してくる、とアズサちゃんが止める間もなく部屋を出ていった。この真っ暗な中よく動けるものだ。
「……問題が発生した。洗濯機が止まってる。そのうえ蓋も開かない。困った」
「うえぇ!?」
戻ってきたアズサちゃんが報告してきたのは、しばらく下着姿でいなければならないという最悪の状況だった。ほ、本当にどうしてこんなことに……踏んだり蹴ったりです……。
「うぅ……しばらく服が着れないと思うとなんだか寒く感じてきました……」
「……寒く? ……まっずい」
「……ハナエちゃん?」
ハナエちゃんの様子がおかしい。声のトーンが深刻だ。一体どうしたというのか。ハッとした様子のハナエちゃんは焦った声で指示を出した。 - 14124/12/15(日) 11:52:55
「――今すぐ毛布を集めてください!」
「へ? ど、どうしたんです?」
「停電ということは、暖房も止まったということです! 外はあんな状態ですし、これからどんどん冷え込みますよ! 私たちはともかく、コハルさんが……!」
「!」
「集めてくる。ここから動かないで」
「服がどうこう言っている場合ではありませんね。私は先生に連絡を」
一気に状況が逼迫した。ハナコちゃんは携帯を掴み、アズサちゃんは再び部屋を出ていこうと扉に向かう。と、とりあえず私は部屋の毛布を全部コハルちゃんに被せておきましょうか。
【停電が起きたみたいだけど、みんな大丈夫……何があったの?】
その時、部屋の扉が向こうから開き、懐中電灯の光が差し込む。先生がほぼ全裸の私とハナコちゃんを見て酷く困惑していた。
「――それでまあ、先生にも手伝っていただいて色々やって、落ち着いたのですがやることがなく、そのうちハナコさんが「パジャマパーティーしましょう!」とか言い出しまして……今に至ります」
「私が寝てる間にそんなことになってたの……」
訳がわからない私に、ハナちゃんが説明してくれた。熱で浮かされてる間に、随分と色んな事が起きたみたいだ。私の体で気を使わせちゃったみたいだし、ちょっと申し訳ない。良く見たらいくつもの……というか大量の毛布が私の体に被せられている。なんか重いなと思ったのはこのせいか。これ合宿所中の毛布をかき集めてきたのでは? - 15124/12/15(日) 11:53:56
「ありがとう、皆。おかげさまでだいぶあったかいよ」
「い、いえいえ! とりあえず停電が収まるまではその状態でいてくださいね」
「……意識もはっきりしてますし、今朝よりは大丈夫そうですね。薬も効いてきましたかね? 一旦お熱測りましょうか」
ハナちゃんから手渡された体温計を脇に差し込む。しばらくして表示された温度を見ると、36.7と表示されていた。うん、まだ高めだけど、朝よりはマシだ。
「それにしても、気になってたんだけど……ヒフミ先輩のそれは、どっから取り出してきたの?」
「これはですね!」
「うわテンションの差が凄い」
私が問いかけると、ヒフミ先輩の声のトーンが急に上がった。最初からわかったけど、長くなるなこれは……
「だいぶ前に、イベント限定品として作られたものでして! あまりの大きさに採算性がなく、ゆえに作られたのもごく少数! かなりの貴重品なんですよこのペロロ様着ぐるみは!」
「ああうん……知りたいのはそこじゃなくて、どうやって持ってきたのかなんだけど……」
「? 普通にリュックに入れて持ってきてましたけど?」
「入ったの!? その大きさが!?」
どう見てもリュックに入り切る大きさじゃないんだけど!? え、ヒフミ先輩の言うリュックっていつも持ってるペロロ様リュックよね。あの白いの。あれに入ってたの……!? - 16124/12/15(日) 11:54:41
「流石にそのままだと入りませんよ? 圧縮してビニールに入ってたんです。お布団みたいに。……うう、貴重な品だったので着たくなかったんですが、流石に下着一枚だと寒くて……」
「ああなるほど……」
真空パックされてぺちゃんこになったペロロ様を想像する……ちょっとだけ、見た目が可哀想に思えた。それにしても、そんなものまで入ってるとは。いったい他には何が収められているというのだろうか、ヒフミ先輩のリュックは。何が出てきても不思議じゃないよねここまでくると。
というかついさっき死んだ目してたのは貴重品を着ざるを得なかったことに対してだったのね……。
「ところで、パジャマパーティーって言ってたけど……」
「ええ。正確には『仮想パーティー』になりましたが。服もなければ、停電も起きて、もうやることがろくにないので……こうなっては、パジャマパーティーならぬ仮装パーティーでもするしかないですよね♡」
「あうぅ……な、何か他にもありそうな気はしますが……」
シーツのお化け……発起人のハナコが楽しそうに話す横で、ペロロヒフミ先輩が消極的に突っ込みを入れる。なんてカオスな光景なの……ここだけゲヘナにでも鞍替えした?
「授業をするにしても、こんな状況じゃやりづらいことこの上ない。……こんな落雷程度で全部の建物が機能不全だなんて、ひどいセキュリティだ」
「ま、まあ古い建物ですから……」
「……予備電源の一つくらいあると思っていたんですけどね。患者を突っ込むならそれくらい頭回してほしかったですが。業者いれてるんですし」
「ハナエちゃん……!?」
予想打にしないところから毒を吐かれて、ヒフミ先輩が驚いていた。あーうん、救護騎士団にとってはそうなるよね……私も予備電源はあると思っていたから、聞いたときちょっと驚いたのだ。まあヒフミ先輩の言う通り、古い建物だから仕方ないのかもしれない。 - 17124/12/15(日) 11:55:28
「建物のことはともかく、こんな風にみんなで集まって、話を咲かせる時間こそ、合宿の花だと想いませんか? みんな寄り添って、お互いの深い部分をさらけ出し合う……雨も降っている上に停電で何も見えませんし、雰囲気は最高です!」
明らかにテンションの上がった様子で喋るハナコ。……うん。そうだね。
昨夜のハナコの話を思い返す限り、こういうことも初めてなんだろう。ペロロ様にシーツに体操服と、仮装パーティーというには少々適当だけれど、きっとジャック・オ・ランタンも苦笑いで見てくれるはずだ。……何故シーツを被っているのか、その下には何を着ているのかについては、聞かないほうがいいんだろうね。予想が正しいなら、私に気を使った結果だろうし。
「あ、あはは……確かに、合宿の定番という感じはしますね」
「なるほど、それがこの仮装パーティーと」
「……アズサ。言っておくけど、合宿で仮装パーティーはかなり珍しい例だからね? これが基本じゃないからね?」
「まあパーティーといってもただのおしゃべりですし、話題も何でもありということで♡ ふふ♡ 私、こういうことすっごくしてみたかったんですよね。なのでちょっとテンションが上がってると言いますか……」
ちょっとどころじゃなく上がってると思うよ? そう思ったけど口には出さない。水を差したくないしね。
【ハナコ、本当に楽しそうだね】
先生が穏やかな声で呟いた。うん、昨日みたいな暗い顔されるよりはよっぽどマシかなと思う。昨夜体力を使った甲斐もあったというものだ。
「気持ちは分かる。私もなんなら、補習授業部に入って以来ずっとそういう気持ちだ」
「あら、そうなんですか?」
「うん。――何かを学ぶということも、みんなでご飯を食べることも、洗濯も掃除も……その一つ一つが楽しい」
「あら……♡」
……アズサ。やっぱり、アリウスの環境は私が思うとおりなのか。それとも、もっと酷いのか……。トリニティ育ちの私には、想像することもできない。 - 18124/12/15(日) 11:56:07
「水着は泳ぐときに着るものだと、ここに来てから学んだが、こんな活用方法があるなんてこと初めて知った。知らなかったことを知れるということは、楽しいことだ」
「み、水着の件はちょっと違うといいますか……」
「でも、動きやすいし通気性も良い。ハナコがこれを着て歩いてたというのも納得がいく」
「あ、アズサちゃん、ちょっとこっちへ……」
……ああ、やっぱり。ヒフミ先輩に引っ張られるアズサを横目に入れつつ、思わずハナコの方を見る。今この場に、水着を着ているだけの人物はいない。……ハナコ、その下、やっぱり水着なのね。シーツを被ってるのは、以前の件が尾を引いているのだろう。もう気にしなくていいのに、というのは、あまりにも自分本位の考え方だろうか。……ハナコの方から気を使ってくれてるんだし、今この場では何も言わないでおこう。
「……失礼した。あとはコハルと勉強するのも楽しい」
「……? 私?」
少しして戻ってきたアズサが、話を変えるように私について言及した。楽しいって、いろいろ迷惑かけてた覚えしかないんだけど……
「うん。ハナコもそうだが、コハルも色々と知っていて、教科書に載っていないやり方も教えてくれる。点数が上がったら褒めてくれるし……」
「発作とかで迷惑かけた覚えが強いんだけど……そう言ってくれるなら、嬉しいな。役には立てた?」
「うん。本当にそうだ」
そう言ってにこりと、アズサは輝くような笑みを浮かべた。……やっぱりアズサは天使の生まれ変わりかもしれない。マリーさんに言ってみようかな? - 19124/12/15(日) 11:56:37
「アズサちゃん……最初はあまり表情の変化も読み取れなくて心配でしたが、よかったです」
ヒフミ先輩がホッとしたように息を吐いた。
「――勿論ヒフミもだ。本当にいつも世話になってる。ありがとう」
「……! あ、アズサちゃん! うわーん!」
「むぎゅっ。……ひ、ヒフミ。少し息苦しい」
感極まったヒフミ先輩……巨大ペロロ様がアズサに抱きついた。はたからみるといたいけな少女を襲う化け物の絵面だ。B級映画にありそう。……もう少ししたら止めようかな。あ、ハナちゃんが写真撮ってる。 - 20124/12/15(日) 11:57:07
その後も、補習授業部一同は話に花を咲かせた。
「――そう言えば、今トリニティのアクアリウムで、『ゴールドマグロ』という希少なお魚が展示されているらしいですね」
「あ、それ私もパンフレットで見ました! 『幻の魚』と呼ばれているんですよね?」
ハナコがそんな話題を提供して、ヒフミ先輩がそれに食いついた。ヒフミ先輩も意外と色々詳しいよね、ペロロ以外にも。
それにしてもゴールドマグロかあ……確か、突然変異で体色が黄金色になったマグロだっけ。ホワイトタイガーと同じく、いやそれよりもそうそう誕生しない希少種だとか。人生で一度は食べてみたいって"あの子"が騒いでたっけ。希少種だって言ってんのに、ほんとに食欲に忠実というか……。所属してるらしい部活が部活なので仕方ないか。あの子以上に食い意地張ってるというか、食に情熱注いでる子はそういないし。
……部活で思い出したけど、まさかこっちに来ないわよね? 今条約前でピリピリしてるから下手なことするとえらい騒ぎになるんだけど。よりによってゲヘナの部活だし……でも前科あるからなぁ……。
「はい。トリニティ近海で発見されたらしく。一度見に行きたいのですが、入場料も安くなくて……」
「海、か。……そういえば、一度も行ったことないな」
「そ、そうなんですか? 一回も……?」
アズサの発言に、ヒフミ先輩が驚いていた。そういえば、私も行ったことがない。……この体で行っても仕方ないしね。来世に期待しよう。 - 21124/12/15(日) 11:57:55
「――それで、とっくに壊れたアミューズメントパークなのにも関わらず、夜な夜な騒がしい音が聞こえてきて……」
「……雰囲気ぶっ壊して悪いけど、不良が騒いでるとかじゃない?」
「丑三つ時にですか? ……まあ、私もそういう噂として聞いただけですが……」
「……気になるな。今度偵察にでも行ってこようか」
「あ、あはは……アズサちゃん、あまり無茶しないでくださいね」
「善処しよう」
「アズサちゃん!?」
「……そういえば、又聞きした話だが、キヴォトスの何処かに水着姿で覆面を被っている犯罪集団がいるらしい。合理的な服装だ」
「いやただの変態の集いなんじゃ? というか、水着に覆面の時点で既に犯罪者集団だし……あれ? ヒフミ先輩どうしたの?」
「……………………うえっ!? な、なんでもないですよ!」
話題が水着になった時点で黙り込んだハナコはともかく、なぜかヒフミ先輩まで喋らなくなった。え? なんで? 先生も目を逸らしてる気がするし……。 - 22124/12/15(日) 11:58:47
「アズサちゃんはもっと、きちんと夜眠ったほうがいいと思いますよ」
「……うん。今朝は寝坊して迷惑かけてしまった。慣れない場所で寝坊なんて、これまでほとんどなかったのに……。――もうここは、『慣れない場所』じゃないからかもしれないな」
……まあ、早起きしていたら洗濯物の回収を手伝って二次被害が広がってたかもしれないし、結果オーライということで。
「……とにかく、もっとしっかり寝たほうがいいです。深夜の見張りは減らしていただいて」
「……? 見張り?」
「ああ、毎晩夜中にちょっと見張りを……」
そう言って目をそらすアズサ。……見張り、ね。いったい何をそんなに警戒しているというのか。……警戒すべき理由がある? それとも、単なる方便?
【ハナコ、アズサのこと凄く心配していたよ】
「そうなのか……? ごめん。実は見張りは言い訳で、ブービートラップとかを設置していたんだ」
「ブービートラップ……? どうしてそんなことを?」
「心配しないで。ここに悪意を持って侵入しようとするルートにだけ設置してるから。普通の生活をする上では、安全面に問題はない」
ハナコの疑問に、アズサは答えになってない応答をする。ハナコが聞きたかったのは、単なる合宿所にそれほどの警戒網を敷くのは何故かってことだったんだけど……アズサは天然さんだから、煙に巻きたいのか素で応えてるのかイマイチ判断がつかない。
あと昨日のマリーさんの一件からすると安全とは言い難い気もする…… - 23124/12/15(日) 11:59:48
「……。なるほど……ですが、それならそれで教えてくれると嬉しいです。どうしても、心配しちゃいますから」
「そうか。うん。これからは気をつける。私のせいで、先生や皆が被害を受けるのは望むところじゃないから」
応えてくれないと判断したか、穏やかに話を打ち切りに入ったハナコに対して、アズサも穏便に収めた。……あとでどこに何を仕掛けたのか聞いておこう。昨日のマリーさんみたいなことに私がなったら普通に死んでしまうと思う。
【アズサは優しいね】
先生の感想に、アズサは顔を赤くした。
「なっ……こ、子供扱いしないで、先生。私は別に、そんなのじゃない。――それに」
私はいつか、裏切ってしまうかもしれない。皆のことを、その信頼を。……心を。
「……」
「アズサちゃん……?」
アズサ……。
心のなかで、私は呟く。……状況証拠は揃ってる。ナギサ様が睨んでるように、この中に本当に裏切り者がいるとしたら……それは、アズサの可能性が最も高い。
だけど、あくまで状況証拠でしかない。まだ確定には至っていない。……私には、今までのアズサの笑顔が、こちらを欺くためのものだとは思えない。私は、アズサを信じたい。
その時、天井から唐突に光が差し込んだ。部屋の混沌とした状況が分かりやすくなる。改めて見ると相当カオスよね……。 - 24124/12/15(日) 12:00:17
「あ、電気が……」
「直ったみたいですね」
「暖房も、バッチリ動いてますよ! いやーよかったです本当に……」
ホッとした様子で、ハナちゃんが息をついた。今まで私の体調を気にかけてほとんど喋らなかったもんね。ごめんね本当。
「あ……雨も止んでる」
ふと窓を見ると、降り続いていた豪雨は収まり、太陽の光が外を照らしていた。ヒフミ先輩が窓を開けてみると、チチチと鳥が鳴く声が聞こえる。
「では、もう一度改めて洗濯しましょうか」
「うん、じゃあ第一回補習授業仮装パーティーはここで閉幕か。2回目も楽しみにしてる」
「あはは……ペロロ様が傷んじゃうので、2回目はちょっと……」
ヒフミ先輩が困ったようにそう呟いた。うーんコレクターの鑑。
そんなこんなで洗濯し直して、時は過ぎ、穏やかに一日を終えた。
……かに見えた。
結論から言うと、私の熱がぶり返した。 - 25124/12/15(日) 12:02:19
今日はここまで! 投稿詐欺みたいになって本当に申し訳ありませんでした……仕事納めしたら落ち着くと思うので、それまでは今回みたく投稿すると言ったのにできない時もあると思います。
ご迷惑をおかけしますが、必ず完結させますので(少なくとも2章までは)気長にお待ち下さい……ひぃんほんとにごめんよー - 26二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 12:15:32
年の瀬はどうしても忙しいから仕方ないね
過去スレ読み返したりしてお待ちしてますー - 27二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 12:27:10
投稿お疲れ様です
それはそうとやっぱりこの世界線でもファウストフラグが立っていたか。 - 28二次元好きの匿名さん24/12/15(日) 22:27:35
ほ
- 29二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 08:14:27
しゅ
- 30124/12/16(月) 18:13:52
中国コラボカフェのイラスト……いい…
最近コハルが次々と公式から供給されて幸せだよー
あ、今日は更新ないよー - 31二次元好きの匿名さん24/12/16(月) 19:35:38
ん。わかった。
- 32二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 01:15:30
保守
- 33二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 08:13:41
ほ
- 34二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 18:03:40
しゅ
- 35二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 23:51:01
ほ
- 36二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 08:02:13
しゅ
- 37二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 19:58:46
保守
- 38二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 20:00:18
このレスは削除されています
- 39124/12/18(水) 20:12:01
ひぃんお待たせして申し訳ないよー
アクシデントさえなければ明日か明後日には続きを投稿する予定だよー
この前みたくなる可能性もあるので、期待しないで待っていてくれると嬉しいよー - 40二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 05:33:42
保守
- 41二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 14:42:39
ほ
- 42124/12/19(木) 21:55:09
せーぞんほーこく〜
今日には間に合わなかったけど、アナウンスしたとおり明日には投稿できそうだよー
ただ明日は忘年会に出席するから、普段よりも遅い時間に投稿することになりそうだよー
懸念点として、あまり遅いと巻き込み規制で書き込めないことがあるのが怖いけど……もし規制で投稿できなかったら代わりに翌日の朝、起き次第投稿するので申し訳ないけどそれまで保守してもらえるとありがたいよー - 43二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 06:16:36
ほ
- 44二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 16:48:56
楽しみに待ってる
- 45124/12/20(金) 22:33:02
……実を言うと、君がここに来るのはあまり歓迎すべきことではないんだ。
ここは夢と現の境界線上。非常にあやふやで、不安定な場所だ。ゆえに来ることができるものは限られている。何らかの理由で現世から離れかけているものだけが、ここに迷い込むのさ。私や、君のようにね。
……『現世から離れかけているもの』とはって? ふむ。そうだな、説明するならば……百鬼夜行でいえば高天原。ゲヘナで言えばヴァルハラ。そして我々トリニティでいえば……天国。それらに近しい者たちのことを指す。
もっと端的に言うならば……『死』に近しい者、ということだ。……自覚は、あるだろう?
……コハル。この先を知るものとして、君に詳しいことは言えない……例え結末が、全て虚無へ還るものだとわかっていても……誰に諭されるでもない、君自身の選択こそ、一時的にでも彼女たちを救える唯一の方法だ。
自分本位ですまないが……ナギサとミカを頼む。あの子たちは、あの子たちなりに最善を突き詰めようとしただけなんだ。その結果君に被害が集中しているのは本当に申し訳ないが……
君が目覚めた時にはこの会話も忘れているだろうが……願わくば、せめて、君が後悔しない生き方をすることを、勝手ながら祈っているよ。 - 46124/12/20(金) 22:33:49
「……う……ぅ?」
「――あ」
目が覚める。熱で浮かされた頭は、目で捉えた情報をぼやけた虚像として出力する。……ピンクの人間が私を覗き込んでいる。……ハナコ、かな。
「お、おはよう、ございます……コハルちゃん。といっても、まだ夜なんですが」
「……おはよ、う?」
頭に何か乗っている。冷たいし、ちょっと重い。でもそれが気持ちいい。ハナコはそれをどけて、別の何かを私の頭に乗せてきた。固い。さっきのよりもっと冷たい。……氷嚢?
「その……魘されていたようだったので、氷嚢を新しいものに取り替えようと……え、えっと……具合は、如何ですか?」
……いえダメそうですね見れば分かりますよねごめんなさい……。
質問したかと思えば自分で結論を出して自虐し始めるハナコに、気にすることはないとの意味を込めて首を横に振る。熱が高くて喋るのがしんどい……。
それにしても、どうにもハナコは私相手になると引っ込み思案というか、口が回らなくなるのは相変わらずのようだ。もっと気楽に接してくれていいのに……まあでも、以前に比べればどもる頻度も減っているし、改善はされている。昨夜の話し合いの効果だろうか。……そういえば、今何時なんだろう。
少し起き上がって(ハナコに背中を支えてもらった。「動かないでください」と止めてくるものだから意図を伝えるのが大変だった)時計を見ると、時刻は20時を回っていた。 - 47124/12/20(金) 22:34:51
「も、こんな時間……」
「他の皆さんはもう夕食を済ませまして……コハルちゃんは、その……何か食べたいもの、とかは……」
確かに何か胃に入れておかないと。薬も飲まなきゃいけないし、こうも熱が高いと頓服も飲みたい。
そういった合理的な理由とは裏腹に、熱で頭がポヤポヤしていた私は、つい問いかけに素の欲望で応えてしまった。
「――パフェ」
「……はい?」
「アイリが、前に言ってたの……夜に、限定のパフェを売ってる、スイーツショップがあって……美味しいよって……いつか、一緒に行こうねって……でも、夜は……動けなくて……」
――あ。
ここにきて、私は結構無理難題をハナコに言ってしまったことに気付いた。これだとハナコに今からパフェ買ってきてって言ってるのと同じだし、この時間帯に外を出歩くのは厳密に言えば校則違反だ。正義実現委員の一人として、友だちにそんなことはさせられない。
「……ごめんなさい、今のは忘れて。……ゼリー飲料があるから、それを持ってきて貰えると……」
「……わかりました」
そう答えたハナコは私を再びベッドに寝かせると、ゼリー飲料を枕元まで持ってきてくれた。オマケに蓋まで開けて渡してくれる。今手に力が入らないから開けてくれるのは正直助かる……。
ゆっくりゼリーを飲み込んだあと、普段よりもさらに種類の増えた薬を全部飲み、落ち着いた私は再びベッドに倒れ込んだ。ハナちゃん曰く「今までの疲れが表面化したんでしょう」とのことで、風邪ではないから、こうして寝ていれば試験までには熱も下がるはずだ。先生にも試験まで体力回復に努めてほしいって言われたし。……試験、か。 - 48124/12/20(金) 22:35:24
正直なところ、退学の事実を知った時は驚いたけど……同時にどこか納得した自分もいる。今回の件、他生徒ごと裏切り者を放逐するというのは、確かにあまりにも強引で、パワープレイにも程があるけど……為政者の判断として、必ずしも間違っているとは言えないのだ。巻き込まれた人、ヒフミ先輩とかはたまったものじゃないだろうけど。……ティーパーティー、特にその代表者たちは、トリニティにおける絶大な特権と引き換えに、重い義務を背負っている。このトリニティを維持する、存続させるという巨大な義務を。その重圧は相当なものだろう。……もし私がティーパーティーと同じ立場なら、ここまで強引に事を進めることはしたくないけれど……それでも、そうせざるを得ないならば、全く同じことをするかもしれない。その可能性を否定しきれない。故に、私はティーパーティーを責められない。
ただ気になるのは、今のティーパーティーの状況。今回の件、ここまで強引にことを進められるのはホストだけだ。今のティーパーティーホストはナギサ様。彼女の精神状態が心配だ。いくらなんでも、好き好んで人を退学させたいわけではないだろう。痛む心はあるはず。それをケアしてくれる人が、彼女のそばにいてくれるといいのだが……"キリちゃん"に様子を聞きたいところだけど、守秘義務とかあるだろうし、何よりここ最近は音信不通で連絡が取れない。無事でいるといいのだが。
そんなことを考えていると、ポンポンと優しく頭を撫でられる。見ると、ハナコが心配そうな顔でこちらを見ている。
「コハルちゃん。今は難しいことは考えず、楽にしていてください」
「……うん。ありがとう、ハナコ」
一定の間隔でポンポンされていると、どんどんと瞼が重たくなってくる。――気づけば、私の意識は再び夢の中へと旅立っていた。
【……ハナコ? どうしたの?】
「先生……お願いがあります」 - 49124/12/20(金) 22:35:59
夜中の商店街は、思っていたよりも人影が多かった。流石に昼間ほどではないが、ちらほらと生徒たちや、獣人、オートマタの姿が見える。
「なるほど、深夜の街はこんな感じなのか……思ったより活気がある」
同じ感想に至ったアズサが感嘆したように声を上げる。確かに、もう時間的には深夜に差し掛かっているのだけど、皆元気だね。
「あはは……24時間営業のお店も多いですから。喫茶店だったり、スイーツショップだったり……あ、ここからもう少し行くと、モモフレンズのグッズショップもあるんですよ! その向かいには限定グッズだけを取り扱う隠れたお店も……」
【詳しいんだね、ヒフミ】
「あ、あはは……」
誤魔化すようにヒフミは笑った。さては、この感じだと相当夜歩くのに慣れているな?
――そんな会話をする私たちを尻目に、一人目的地へ淡々と進み続ける者が一人。
「地図によるともうすぐ……ここですね。皆さんこちらです」
そう言ってハナコが指し示したのは、一件のこじんまりとしたスイーツショップ。華美すぎず、落ち着いた風合いの店構えは、ある種の上品さすら感じさせる。トリニティのイメージにぴったりな店だ。 - 50124/12/20(金) 22:36:46
「あ、ここは……確か限定パフェがすっごく美味しいと巷で話題の……なるほど、コハルちゃんが言ってたのは此処だったんですね。24時間やっているとは知りませんでしたが」
「トリニティ広しと言えども、夜間にのみの限定パフェを扱っているスイーツショップはここぐらいです。間違っていることはないでしょう。テイクアウトのサービスもあるそうですから、早く手に入れて帰りましょう」
「そうだな。コハルも合宿所で待ってる。ハナエが面倒を見てくれているとは言え、心配だ。手早く済ませよう」
――ハナコが突然お願いをしてきた時は驚いたけど……なんでも、コハルが欲しがった限定パフェを買うための、夜間外出の理由として私を使うつもりらしく……私が引率しているという体裁を保つことで、この夜間外出を咎められた際の言い訳にするようだ。ハナコからはそう説明されて頭を下げられたが……もとより生徒のお願いを拒否するつもりは、私にはない。それが友達のためだというなら尚更だ。
そうして私と2人、合宿所を出ようとしたところで、話を聞いていたヒフミとアズサがついてきて……
一人欠けた補習授業部の面々は、目的の店へと入っていった。 - 51124/12/20(金) 22:37:59
店内は表の店構えと同じく、モダンでシックな雰囲気で溢れていた。身なりのいいオートマタの店員が、こちらに気づいて挨拶をしてくる。
「――いらっしゃいませ。4名様でしょうか? ご注文をどうぞ」
「すみません。限定パフェを一つ貰えますか? 持ち帰りで」
間髪入れずハナコが注文をつける。それに対し、店員は困ったように目……と思われる表情パーツを変化させた。
「ああ、申し訳ございません……限定パフェはちょうど先ほど、別のお客様が3つ購入されたのが最後でして……」
「あうぅ、そうでしたか……」
「一歩遅かったか。限定とは言え、こんな時間のメニューが売り切れるとは……侮れないな」
残念ながら、私たちが求めていたスイーツは既に売り切れていた後だった。こんな時間の限定商品が売り切れるとは、少々予想外だ。確か欲しがったコハルも、スイーツ部から話を聞いていたんだったか。学園都市であるキヴォトスにおいて、甘いものは人気も高いことは知っていたものの……ここまでとは……。 - 52124/12/20(金) 22:38:24
【どうする? ハナコ。代わりに別のものを買って帰るかい?】
「……いえ。代わりのものでもコハルちゃんなら喜んでくれそうではありますが……初めてコハルちゃんがワガママを、自分が欲しいものを言ってきたんです。できればそれを叶えてあげたい。――明日もう一度来ます」
【わかった。その時はまた付き合うよ】
「――ありがとうございます、先生」
今日合宿所を出てから初めてハナコが微笑んだ。そんなやりとりをしていた時だ。
「――あら?」
補習授業部ではない、されど聞き覚えのある声が響いた。
「せ、先生……?」
そちらに振り向くとそこには、スプーンを持って固まっている、とても大柄な生徒の姿が。特徴的な黒く大きな翼も、驚きすぎたのか微動だにしない。まるで出来のいい彫刻のようだ。
【ハスミ……!?】
正義実現委員会副委員長、羽川ハスミがそこにいた。……明らかに限定パフェと思われるスイーツを3つ、目の前に並べた状態で。 - 53124/12/20(金) 22:39:01
「あれ? コハルさん、起きてたんですか? ……それは?」
コハルさんの氷嚢を交換するために部屋に入った私は、ベッドテーブルに何かを拡げているコハルさんを目にした。頓服の効果で熱が下がっているのか、少しばかり体調の良さそうなコハルさんは、私を見るなり申し訳なさそうな顔をした。
「あ、ハナちゃん。ごめんね、起きてて。熱が下がって、少し頭を働かせたくなったから、ちょっとの間だけやってたの」
「やってたって……これは、チェスですか?」
「うん。昔友達に教えてもらって。たまに会うときは指したりもしてて……」
コハルさんが拡げていたものの正体は、チェス盤と駒だった。普通、チェスは互いに色違いの同じ駒を使うはずなのだが……黒はキングとクイーン、後はポーンだけ。白はキングと、ルーク、ナイト、ビショップがそれぞれ3〜4個ずつ……かなり変則的な形だ。
「おかしな形でしょ。ハンデ戦でね、黒は友達が、白は私が使ってたの。相手はポーンだけなのに、全然勝てなかったな……」
今でも時折、こうやって再現したりするの。でも私が一人で指すと、だいたい黒が負けるのよね。あの人は本当にチェスが上手くて……。
感慨深げに、コハルちゃんは目を細めていた。へー、チェスのうまいお友達ですか……コハルさんは本当に人脈が広いですね。どんな人なんだろう。トリニティにはチェス部もあるから、そこに所属してる人かな?
そう聞くと、コハルさんは首を横に振った。 - 54124/12/20(金) 22:41:45
「チェス部には所属してないの。ティーパーティーの人でね、条約絡みで忙しいのか、私の体調の兼ね合いもあってなかなか会えなくて……最近は連絡もつかないし……ちょっと心配。あ、そうだ。写真あるよ。見る?」
是非にと私が頷くと、コハルさんは懐から銀色に輝く何かを取り出した。これは……懐中時計? なんだかちょっと高価そうな雰囲気をしている。
「その友達からの貰い物でね、向こうも持っててお揃いなの。この中に……」
パチンと音を立てて蓋が開くと、精巧な作りの時計盤が姿を表す。針が時刻を刻むその上、蓋の裏側に、1枚の写真が貼り付けられていた。
「言わなくてもわかると思うけど、こっちが私。で、こっちがその友達。きれいな髪でしょ?」
「……これは」
そこに写っていたのは、2人の人間。楽しそうにピースサインを作る、珍しいことに正義実現会のものでない、ノーマルな制服を着た、笑顔のコハルさん。そしてそんな彼女に腕を引かれて、困ったように、されどどこか楽しそうな雰囲気を醸し出している――亜麻色の長髪が特徴的な少女。
「……元気にしてるかな、"キリちゃん"」
コハルさんは声音に寂寥を滲ませながらそう呟いた。 - 55124/12/20(金) 22:44:50
短いけど今日はここまで!
キリちゃん……いったい何者なんだ……
次回はハスミとハナコの再会、そして予定通り書けたなら、散々引っ張ってきた"あの子"の出番だよ― - 56二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:04:37
コハルは病弱な身体でも必死に毎日を生きてるんだぞ、夢の中の誰かさんも諦めずに生きろ
- 57二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 00:10:12
名前変更確認。何回もやらかしてるからね。よし。
ス−−−−(息を吸う音)
・・・ナギサアアアアアアアア!?!?!?!? - 58二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 08:28:58
このレスは削除されています
- 59二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 17:12:00
ほ
- 60二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 19:03:36
お労しやナギサ様……
いやナギサ様クッソ重くなったぞ!?
もしかしてそう言う事なのかナギサ様!?? - 61二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 19:15:57
……「私の大切な人」を囮に使うという背水の陣?
それとも二人の大切な人、を天秤にかけた? - 62二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 19:39:15
医療が整ってる別所に行かせる為に裏切り者を利用してる……とか?
本編は裏切り者が本命で他を利用して裏切り者を追い出そうとした
ここではコハルが本命、裏切り者を利用してもっと医療が整ってる場所に行って欲しい…みたいな? - 63二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 00:38:53
そういう考えだとしても荒れるのは確定だろ。
それだったら病弱であるコハルだけのミレニアムにいかせれば・・・いや、ハナエが「生まれつきのもので治療法はない」っていってたし・・・うーん(頭を悩ませる)
- 64二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 00:47:10
- 65二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 05:13:47
追いついてしまった、、、やっぱナギちゃんだったかあ〜楽しみ
- 66二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 15:28:58
一応早めの保守
- 67二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 18:37:27
このスレのナギサがヒフミを補習授業部に入れたのって、裏切者として疑ってるんじゃなくて
本当にヒフミを信用してるからという気がしてきた。 - 68二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 01:59:13
ほ
- 69二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 07:46:25
ほ
- 70二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 16:20:30
ほ
- 71二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 16:52:40
今更、ここの病弱コハルはピアノ激ウマ設定あったけど、体調が悪くなるにつれて弾ける曲がローテンポになっていってほしい。
ピアノギリギリ弾けるぐらいの体調のときには、子供の情景のトロイメライとか静かに弾いたりしててほしいね。 - 72124/12/23(月) 20:11:59
- 73二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 23:37:14
年末年始だし無茶しないでね・・・。
- 74二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 08:10:37
俺はいつまでも待つので身体に気をつけてな…
- 75二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 18:35:56
ほ
- 76二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 00:16:46
ほ
- 77二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 07:19:38
し
- 78二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 17:18:50
ゅ
- 79二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 21:19:20
保守
- 80二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 07:00:18
ほ
- 81二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 17:02:30
保守
- 82二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 21:08:53
俺たちは何時でも待ってるぜ
- 83二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 08:02:45
しゅ
- 84二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 08:32:57
- 85二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 17:56:46
ほ
- 86124/12/27(金) 18:30:35
無事仕事納めしてきたよー! 今まで保守ありがとうねー!
29と30はコミケいっちゃうからその前に続きを出せるよう頑張るよー! - 87二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 21:42:50
コミケ行くのか〜いいですね!私の分も楽しんでください(行けない)
- 88二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 23:26:36
イベラン中の僕の代わりに楽しんできて下さい
- 89二次元好きの匿名さん24/12/28(土) 07:42:29
楽しんできてくださいね!!
- 90二次元好きの匿名さん24/12/28(土) 14:10:47
ほ
- 91二次元好きの匿名さん24/12/28(土) 14:31:37
ここのコハルも年末年始暖かく過ごして、補習授業部とささややなパーティしてほしいものね。
具体的には防寒措置としてずんぐりむっくりに着込まされたりしてほしい。 - 92二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 00:22:15
補習
- 93二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 09:23:44
もこもこに着込んでる女の子は可愛いからな
- 94二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 19:34:51
ほ
- 95二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 23:37:20
しゅ
- 96二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 07:05:45
保守
- 97二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 07:20:50
保守
- 98二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 17:55:51
保守
- 99二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 20:51:00
- 100二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 08:13:13
楽しみにしてる
- 101二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 15:35:27
ほ
- 102二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 21:39:39
ほ
- 103124/12/31(火) 23:37:31
「先生……こんな時間に、何故ここに……それに……」
私がここにいることに驚いたのか、ハスミが動揺を隠せずに疑問の声を上げた。その目が私から、後ろのヒフミ、アズサ……そしてハナコと、流れるように見つめる。特にハナコにはしばらく目を合わせたまま動かなかった。この前の一件があるからか、その目にあまりいい感情は浮かんでいない。しかし、夜中だからか、それとも場所が店舗だからか、以前のような攻撃性はかなり抑えられていた。
「補習授業部の皆さんまで……この時間帯の出歩きは、一応校則で制限されているのですが……」
「あ、あはは……ごめんなさい、ハスミさん。ちょっと事情がありまして……」
申し訳なさそうな表情を浮かべたヒフミが、さりげなくハナコとハスミの間に割って入った。先日の一件もあり、ハナコとハスミを対面させるのは得策ではないとの判断だろう。こういう空気の読み方が、ヒフミは本当に手慣れている。ナギサが補習授業部の部長を任せたのはその点もあるかもしれないな。
「ところで、ハスミさんは何故ここに? 見回りの息抜きですか?」
「うっ……そ、それは……」
ヒフミの疑問に、ハスミは胸を突かれたようにうめき声をあげた。一瞬口をまごつかせたが、諦めたかのように肩を落とした。
「……いえ、ここで嘘を付くのは、先日ハナコさんを糾弾した者として公正ではありませんね。白状しますと、もともと甘いものが好物でして……こうして夜に間食をするのが、謎の背徳感もあってつい辞められず……今日も見回りのついでに……」
そんなことを宣うハスミ。ま、まあこの年頃の少女なら仕方ないかもしれない。見るからに堅物な彼女だが、こういう少女らしいところもあるのだ。 - 104124/12/31(火) 23:38:33
「……コハルちゃんから聞きましたが。ハスミさん、今ダイエット中ではありませんでしたか?」
「ゔっ……」
ボソリと、ハナコが呟いた疑問に、痛いところを突かれたとばかりにハスミがビクリと肩を震わせた。そういえば、ハスミの話になったときにコハルが言っていた。万魔殿との会談から帰ってきた彼女が荒れていた、その理由。なんでも体型を弄られたらしい。コハルに暴走を止められて落ち着いたあと、ダイエットをすると宣言していたとかなんとか。
「確か『一日に2回以上食事をしたり、おやつを口にするところを発見したらその場で指摘して叱ってください』……そう、おっしゃったとか。……申し開きはありますか?」
ジトッとした目で、ハナコがハスミを見つめる。ハスミはと言うと目を泳がせながら、明後日の方向を見つめていた。しばしの沈黙。
「……まあ、いいです。ハスミさんも条約等の関係でストレスが溜まっているのでしょう。これについては、見なかったことと致しましょう」
ハナコの発言に、私は内心驚いた。先日の一件でハスミと対立したのは記憶に新しい。てっきりこの弱みを握っておくとばかり思っていたのだが。やりすぎるようなら止めなきゃならないし。ハスミも同じことを思っていたのか、目を丸くしてハナコを見ていた。
「……ただし」
ハナコは自身の人差し指を口元に当て、『しー』と"静かに"のジェスチャーをした。
「交換条件があります。――ハスミさんが購入された、まだ手を付けていない限定パフェ。こちらを一つ、譲っていただけませんか? なんならお代はお支払いしますので」
「パフェ……ですか?」
困惑気味にハナコを見るハスミ。
「はい。欲しがっている人がいますので。……どうですか?」
「……」
ハスミが再び流れるようにこちらを見やる。私、ヒフミ、アズサ、そしてハナコ。……少しして、ハスミは静かに頷いた。 - 105124/12/31(火) 23:39:18
「わかりました。正直、ストレスでつい頼みすぎてしまったとも思っていたので。『欲しがっている人』がいるのなら、その方が食べたほうがいいでしょう。……店員さん、こちらのパフェを持ち帰り用に仕立て直していただけませんでしょうか」
かしこまりました、とオートマタの店員が慇懃に応え、手のつけられていないパフェを持って店の奥に引っ込んでいく。
「……意外ですね。もう少しごねられるかと思っていたのですが」
「そうですね。貴方からのお願い、というだけでは、弱みを握られたとは言え正直聞く理由として薄いのですが……」
ストレートにドライな反応を見せるハスミ。しかし、その厳しい目線がふっと緩み、小さくだが微笑んだ。
「『欲しがる人』がいるというので。……できれば、合宿が終わったあとで構いませんので、感想をお聞かせ願えますか? あの子が何かを欲しがるのは、本当に珍しいので。ああ、できれば私の名前は出さずにお願いします。気にするでしょうから」
「……流石に気づきますか」
「いくら疲れていようと、このメンツを見れば流石にわかります」
苦笑いするハナコに、ハスミは苦笑で返した。……コハル以外の全員揃ってて、この場にいない『欲しがる人』と言ったらまあわかるよね。それにしてもハナコとハスミ、話し始めた時は割と警戒してたんだけど、穏便に終わりそうで何よりだ。隣にいたヒフミもハラハラしていたようで、ホッと息をつかせている。
「なにはともあれ、事情はわかりました。本来皆さんは、合宿中は外出禁止と聞いていましたが……先生もいらっしゃいますし、私も弱みを握られてしまいました。ここはお互い、目を瞑るとしましょうか」
そう言ってウインクするハスミ。……思ったよりハスミが理性的でよかった。これがコハル関係じゃなかったらもっとややこしいことになっていた気がするが……もっとも、コハルのことがなかったらこうして外出することもなかっただろうが。 - 106124/12/31(火) 23:40:51
ありがとうございます! とヒフミが感謝の礼を伝え、ハナコも静かに頭を下げたその時。ヴヴヴヴッとハスミの端末が震えた。
「……? こんな時間に、連絡……?」
疑問符を浮かべながらもハスミが端末を手に取り、耳に当てる。……なんだか雲行きが怪しくなってきた。
「はい……イチカ? どうかしましたか?」
『ハスミ先輩、ちょっと問題が発生しちゃいまして……今どちらに?』
スピーカーモードになっているのか、会話の内容が漏れ聞こえてくる。相手はイチカか。彼女がハスミに救援を求めてくるなんて、よっぽどのことだが。
「問題……? 詳しく聞かせていただけますか?」
『どうも、学園の近郊にゲヘナと推測される生徒たちが無断で侵入、さらに無差別に銃撃を行いつつトリニティの施設を襲撃している、との情報が』
「襲撃……まさか、ゲヘナの風紀委員会ですか!? それとも万魔殿がついに本性を!?」
ゲヘナと聞いてハスミがヒートアップするが、流石に風紀委員会や万魔殿が条約前にこんな突発的な襲撃を起こすとは思えない。最も、条約前にこんな騒ぎを起こすこと自体あれなんだけど……ゲヘナだからなあ。夜中だと言うのに無駄に元気だ。
『あ、いえそれが……』
「誰であれ、きっとエデン条約を邪魔しようという意図に間違いありません! 規模は何個中隊ですか!? 場所は、その施設とはどこですか!?」 - 107124/12/31(火) 23:41:32
『落ち着いてくださいっす先輩。とりあえずゲヘナの風紀委員会じゃないっすね。兵力も全然少なくて、わずか5名だとか』
「風紀委員会ではなく……5名?」
あまりにも少ない敵戦力にハスミも気勢をそがれる。5人という超少数で、わざわざこの時期のトリニティに襲撃を仕掛けるゲヘナの人間……これだけでもかなり絞れる。ぶっちゃけ下手人の予想はついた。5人なのがちょっと気がかりだが。4人じゃなくて?
『はい。それで、襲撃されたのは……アクアリウムみたいっすね』
補習授業部仮装パーティーでの会話が思い出される。……あーうん。やっぱり彼女たちだろうか。
「あ、アクアリウム……? どうしてそんなところを……?」
『さあ? ぶっちゃけあたしも良くわからないんすけど、展示中だった希少種のゴールドマグロを強奪して逃げてるとかで』
「ご、ゴールドマグロ……?」
キテレツな答えにハスミの目が点になる。
『すげー高い魚らしくって、たぶんどっかに売り飛ばすのかと……あ、追加情報が来たっすね』
『えーっと……どうやら正体はゲヘナのテロリスト集団、【美食研究会】らしいっす』 - 108124/12/31(火) 23:42:35
トリニティのど真ん中。市街地の中を突っ切るように、1台の車が爆走する。そこに乗っているのは、5人の人間。
「うわわわわ! トリニティのど真ん中まで来ちゃうなんてぇ! これ絶対逃げる方向間違えてるよぉ!」
そう泣き言を漏らすのは、大きめのクーラーボックスを抱えた少女、獅子堂イズミ。声はへにゃへにゃだが、その手はけして落とすまいと、しっかりとクーラーボックスを抱えている。それに相槌を打つのは、一見おっとりとした金髪の少女。
「仕方ありません。正義実現委員会の国境封鎖が思ったより早かったですから。とはいえ、あのゴールドマグロと聞いては黙って見過ごす訳にもいきませんので☆」
にこやかにイズミを宥める鰐淵アカリ。その意見に、長い銀髪をなびかせた少女が賛同を示す。
「ふふっ。あの伝説のマグロを、ただ観賞用として扱うなんて……そんなこと、美食に対する礼儀がなっていないと言うものです。美食というものは孤高であって普遍……ただ見世物としてお金稼ぎの手段に終わるなど、このゴールドマグロさんも望んでいないはず。私たちはただ、その声に共鳴しただけ!――ですよね、フウカさん?」
「うっさい。黙らないと舌噛むわよ。ていうか、土地勘ないんだから脱出ルートの案内くらいしてよハルナ。そんくらい考えてるんでしょ?」
ピシャリと黒館ハルナの暴論を切り捨てたのは、三角帽を被った黒髪の少女、愛清フウカ。この中で唯一、美食研究会ではなく、ゲヘナ学園給食部所属の少女である。
トラックのハンドルを握り、時折クラッチペダルを踏んではシフトレバーを切り替える彼女は、一切美食研究会の面々に目を向けることなく運転を続ける。それに対し、「あら、申し訳ありません」と一言軽く謝罪したハルナは、再び助手席で地図を眺めた。ちなみに、マグロは泳ぎ続けないと死ぬ生き物であるため、クーラーボックスに入れられた時点で残念ながらゴールドマグロ氏は昇天なされている。共鳴もなにもあったものではない。 - 109124/12/31(火) 23:43:54
愛清フウカは先も言った通り、ゲヘナ給食部の人間であって美食研究会ではない。にも関わらずこうしてテロ同然の行為に加担しているのは、普段は美食研究会によって拉致され簀巻きにされている被害者だからなのだが……今回は、自ら運転手を買って出ている。今回に限って、何故自発的に協力しているのか。その理由は、今まで一言も喋らず後方で追っ手を警戒している赤髪の少女にあった。
つい数時間前、ゲヘナの食堂にて明日の仕込みをしていたフウカは、突如飛び込んできた美食研究会に、またいつものかと思いつつ無駄な抵抗を試みようとしたのだが……初手で赤髪の少女に土下座され、毛色が違うことに気付いた。
「虫のいいことなのはわかってる! ハルナがどう思ってようと、貴方にとっては全く利益のない、いい迷惑だってことも! でも、お願いします……力を貸してください……友達の命の瀬戸際なの」
事情を聞いた彼女は、始めて美食研究会の企てに協力することにした。まさかこうして、テロまがいの行動に加担することになるとは、自分でもびっくりだ。昨日の自分が聞いたら鼻で笑うことだろう。
(でもしょうがないじゃない……あんな話を聞いたら、流石に手を貸してやらないと寝覚めが悪くなるし)
チラと、バックミラーを伺う。それに映った赤髪の少女――赤司ジュンコは、普段の騒がしさが嘘のように静かに、愛銃を両手に握りしめつつじっと後方を伺っていた。後ろ姿しか見えないが、何か考え込んでいるようでもあった。 - 110124/12/31(火) 23:45:31
――あの子と初めて出会ったのは、ゲヘナに入学してしばらくしてからのこと。トリニティに美味しいスイーツがあると聞いた私は、一人でそこに向かった。美食研究会の面々は、普段は各々好きなように美食を追い求めていて、協力して活動するのは狙いが大物な時だけだ。なので、こうして一人で活動することもザラにある。そんなわけで、単身トリニティに向かった私だったが……
「ううぅ……おなか、すいた……」
グウゥ、とお腹が悲鳴をあげる。うっさい、私だって悲鳴あげたいわよ。うう、手に入るまでは上手く行ったのに……
思い返すと腹が立つあの時。わざわざトリニティまでくんだりしてやって来たスイーツショップ。角付きに向けられる奇異の視線をスルーして、念願のスイーツを手に入れて、いざ実食! という瞬間に、限定スイーツに端を発した銃撃戦に巻き込まれたのだ。いや、お嬢様学校の人間のクセに血の気多すぎでしょ。というツッコミを入れる暇もなく流れ弾がめちゃくちゃ飛んできて、避ける間もなく蜂の巣にされて、せっかく買ったスイーツも台無しに……思わずキレてその場の人間全員ぶちのめしたんだけど、だからといってダメになったスイーツが復活するわけでもなく。店員も気絶してるし、そうこうしてるうちに正義実現委員会が集まってくるしで、変に因縁つけられる前に慌てて逃げてきたのだ。連中、ゲヘナの人間と見ると妙に難癖つけてくるから……何よ、羽と角でそんなに違うっていうの?
うう、でももう限界……時間かけてトリニティに来たのに、スイーツは食べられないし、無駄に体力使うし、ここまで逃げてくるのにも体力使ったし……
へなへなと道端に座り込む。トリニティの片隅でうずくまるゲヘナの人間なんて、面白がった不良くらいしか突っかかってこないだろう。そうなってももうどうでもいい……お腹すいた…… - 111124/12/31(火) 23:46:03
せめて少しでも回復しようと、目を瞑ってじっとしていたその時。
「――大丈夫ですか?」
酷く可愛らしい声が聞こえて、思わず目を開けた。飛び込んできたのは、心配そうにこちらを見る、私とどっこいな小柄の少女。正義実現委員会の黒い制服に身を包んだ子が、しゃがみ込んでこちらを見ている。
「だ、大丈『グウゥー……』……」
「……。お腹、空いてるの?」
「……な、何よ! 悪い!? こっちは朝から何も食べてないの! お腹ぐらい鳴るでしょ!」
恥ずかしさのあまり、八つ当たり染みた叫びをぶつけるが、少女は気にした様子もなく。持っていた鞄の中を探ると、タッパーを一つ取り出した。
「よければ、食べる? お昼の残りだけど……」
「え……」
そう言ってタッパーを差し出す少女に、思わず動きを止める。……ゲヘナの人間に施しをするトリニティ生なんて初めて見た。それも、シスターフッドのシスターでもないのに……いるんだ、そんな奇特な人間。
「……やっぱり、いらない?」
「……いや、食べる。……頂きます」
タッパーに入っていたサンドイッチは、小さくて、中身もオーソドックスなものだったけど。
あんなに優しい味は、生まれて初めて食べた。美味しかった。 - 112124/12/31(火) 23:46:31
そこから、私とあの子……下江コハルとの交流が始まった。ゲヘナとトリニティ。美食研究会と、正義実現委員会。方向性はまるで正反対な私たちだったけど、コハルは気にしている様子はなかった。いや、美食研の活動に対して何回か釘を刺されはしたけれど、ただ頭ごなしに否定するのではなく、ある程度理解は示しつつ、私やハルナたちのことも気遣ってくれて……表には出さなかったけど、感謝はしていた。お礼に、今までの活動で知った美味しいお店とか、いろいろと教えてあげれば、コハルは嬉しそうに「ありがとう」とお礼を言ってくれた。体調がよければ行ってみるとも。……どうして、あんなにいい子が虚弱に生まれてしまったのだろう。神様がいるとは思ってないけど、もしいるのなら、そいつは相当な性悪だ。
でも、そんなことはいいのだ。今が楽しければ、それでいい。美食を求めて、コハルに怒られて。でもいつか、そのうち彼女を連れて、いっしょに美食を味わえたら、それでいいのだ。そう思っていた。
そんな幸せがずうっと続くと、そう思っていたのだ。――彼女の部屋に隠されていた、ある紙切れ一枚を見るまでは。 - 113124/12/31(火) 23:47:14
「――イズミ。それ、落とさないでね。絶対に」
「へ? う、うん! 落とさないよ!」
ぎゅっとクーラーボックスを抱き込むイズミを見て、目線を外す。アレは今回の目的であり、私にとっては生命線だ。絶対になくすわけにはいかない。
「うぅ……なんか、今日のジュンコ怖いよ……」
「ふふっ。そもそも今回のゴールドマグロについては、言い出しっぺがジュンコさんですから☆ 気合の入り方からして普段と違いますからねー」
「……ねえハルナ。本当なの? その……ゴールドマグロが、食べればどんな難病にも効く薬にもなるって。私も聞いたことがないんだけど」
「そういう噂が、山海経で流れているのは知っています。まあ如何せん、伝説の魚ですので、実際の効果の程はわかりませんが。――それを確かめるのも、美食の道。美食研究会として、避けて通るわけには参りませんわ。『食べるか、死ぬか』。それこそが、私たち美食家が歩む孤高の道なのですから」
「私は美食家じゃなくて調理師なんだけどね……今は運転手してるけど」
そんな会話をしている矢先、突如ジュンコが愛銃2丁を構えた。
「正義実現委員会! 追ってきてる!」
「おっと、やはり動きが早いですわね。――さあ、包囲網を破って退却です! 一刻も早くフウカさんに、新鮮なマグロのお造りを作って頂かねば!」
助手席から後方を向いたハルナが、愛銃を構える。狙いをつけて引き金を引けば、PSG-1(アイディール)から放たれた7.62ミリ弾が、追ってきていた正義実現委員会の車両のフロントガラスをぶち抜いてドライバーに直撃。それが、今宵の開戦の合図となった。
「待っててね、コハル……絶対、助けるから」 - 114124/12/31(火) 23:50:05
今日はここまで! ひぃーんお待たせしてごめんよー本当はコミケ前に投稿するつもりだったけど完成しなくてここまで時間かかっちゃったよ―!
本年は大変お世話になりました! いつ完結するのか全然わからないくらい遅筆だけど、暇なときにお付き合い頂ければ幸いです。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。皆様良いお年を! - 115二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 23:53:40
乙です〜。
ジュンコ…コハルを助けるための覚悟がすげぇや
スレ主様も他の皆様も良いお年を〜。 - 116二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 23:58:00
ジュンコ………これ、やった事はともかく動機聞いたら言葉つまるよ
『ゴールデンマグロは万病に効くとゆう噂がある』
『友達が命も危うい程病弱』
『その友達は自分達も大切にしてるコハル』だし
なんなら手助けするの出るまである
自分がもし取り締まる立場なら見逃しちゃうかも(嘘でないと分かるなら) - 117二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 07:04:00
コハル・・・お前ゲヘナとも繋がってたのかよ・・・すげえよお前・・・。
- 118二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 15:50:35
ジュンコ…!これ一縷の望みに賭けたやつじゃねえか
責めるに責められねえよ - 119二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 20:03:29
(ジュンコハ、なるほどそういうのもあるのか…!)
ジュンコがあれやこれや一緒に食べようね!みたいな約束しても、ここのコハルは優しく微笑むだけでちゃんと答えることは出来ないんだろうな…… - 120二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 20:04:54
たぶん正実につかまってもコハルの名前をだしたら一時解放してくれるかゴールドマグロは届けてくれるやつ
- 121二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 20:36:13
- 122二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 21:04:07
- 123二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 21:38:21
原作では散開して逃走してたけど、ジュンコの様子を見るに死に物狂いで徹底抗戦しそう……。
- 124二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 23:14:40
・・・あ
- 125二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 09:39:24
原作ではブチのめされて当然の所業だけど、ここの場合は知る人にとって悪と断ずるのが難しい奴
- 126二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 20:11:29
保守
- 127二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 20:42:24
泳ぎ続けないとお陀仏な生き物を固定した時点でね…。
- 128二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 07:04:16
ゴールドマグロは返ってくる…命は別だ
- 129二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 15:11:55
ほ
- 130二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 21:01:47
ほ
- 131二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 22:13:01
何がアレって
ゲヘナ生がトリニティ生を助けるための行動だから
ある意味エデン条約的には模範に近いんだよね - 132二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 22:21:39
マグロを生贄に小さなエデン条約が…
ゴールドマグロ「安いもんさ…あの子たちの友情のために俺の命なんざ」 - 133二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 08:51:32
ほ
- 134二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 18:58:38
保守
- 135二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 19:34:36
ゴールドマグロさんかっけえっす
- 136二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 23:12:06
保守
- 137二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 08:29:00
保守
- 138二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 15:37:41
☆
- 139二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 20:26:05
ほ
- 140125/01/05(日) 21:48:20
ひぃん間が空いててごめんよー、明日か明後日には続きを投稿する予定だよ―
- 141二次元好きの匿名さん25/01/06(月) 03:09:27
保守
- 142二次元好きの匿名さん25/01/06(月) 08:00:08
ほ
- 143二次元好きの匿名さん25/01/06(月) 17:52:20
し
- 144二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 00:32:33
ゅ
- 145二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 08:03:27
保守
- 146二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 16:24:58
保守
- 147125/01/07(火) 19:38:57
「……美食研究会?」
半分困惑が綯い交ぜになった声を上げるハスミ。ああ、うん。やっぱり彼女たちか。
――【美食研究会】。ゲヘナにある(驚くべきことに正当に認可された)部活の一つで、リーダー、黒館ハルナを筆頭にした、文字通り【美食】を追い求める集団だ。メンバーは全四人と少数精鋭で、皆一癖も二癖もある、元気な娘たちだ。まあ今回のようにある意味元気すぎるところもあるが……まあ彼女たちなら、エデン条約の妨害等は目的ではないだろう。食べたかったんだろうね、幻のマグロ。
気になるのは人数が5人と一人多いところだが……おそらくまたフウカが簀巻きにでもされている? それがカウントされてるのだろうか。
『ところで先輩、今どちらに? 早いとこご司令を頂かないと、ツルギ先輩が発射……飛び出していっちゃいそうっすけど』
「つ、ツルギはとりあえず止めてください。私はその……私用で少々外に……」
流石に夜中にパフェ食ってましたとは言えないのか、ハスミは言葉を濁した。
『いやー無理っすよ。ハスミ先輩以外じゃそうそう止められな……あっ、ツルギ先輩行かないでください! あとそっちはドアじゃなくて壁――』
向こうから盛大な破砕音……かすかに「きひひひひゃああああっ!!」という奇声も聞こえた気がする。
『あー……とりあえずあたしらも一旦追いかけて、出撃しますね』
それを最後に、イチカからの連絡は途絶えた。沈黙が辺りに満ち……突如、外から爆発音が響き渡る。
「――近いな。爆発音からして、ここから1km以内といったところか」
「え、えぇっ……!?」
アズサの推測に、ヒフミが驚きの声を上げる。よく今のでわかるね、アズサ。地味に凄い。 - 148125/01/07(火) 19:39:57
「……皆さん」
そんな折、しばらく黙っていたハスミが私たちに話しかけてくる。
「突然のことですみませんが、皆さんの力が必要です。お願いできますでしょうか? 今はエデン条約を目前に控えて、いろいろと過敏な時期です。この件が外から見て『トリニティの正義実現委員会とゲヘナ間の衝突』と捉えられてしまうと、状況が不利になることは想像に難くありません。――つまり、正義実現委員会以外の第三者……補習授業部と【シャーレ】が一緒に解決してくださる……そういった構図が望ましいのです。先生、お願いできますでしょうか」
ああ、うん。このデリケートな時期に、トリニティの正規武装組織がゲヘナの一部勢力と衝突した……というのは、確かにそれだけでは不味そうだ。事が露見すれば面白おかしく書き立てそうなマスコミ(クロノス)もいるし、補習授業部とシャーレを挟むことである程度回避すると……政治っていうのは難しいね。
だがもとより、生徒のお願いを断るつもりは私にはない。
【うん、よし。じゃあ補習授業部一同出発しようか】
「了解した。これより先生の指示に従う」
真っ先に反応したのはアズサだ。素早く愛銃をチェックし体勢を整えている。動きが速い。
「えぇっ!? い、いきなり戦闘ですか!? ……あ、あうぅ……」
あとどれだけ残ってたっけ……と、ペロロ様リュックの中をガサゴソ探るヒフミ。こちらも驚きはしていたものの切り替えが速い。 - 149125/01/07(火) 19:40:47
「……少し、待ってください」
一人難色を示したのはハナコ。私にそう声をかけると、先ほどから黙って様子を見ていた店員に向き直る。まあ当初の目的からすればそうだよね。私から店員さんにお願いしようかとは思っていたんだけど。
「店員さん。申し訳ありませんが……」
「――大丈夫ですよ、お客様。事情はおぼろげですが、横で聞いていましたので。パフェはこちらで保管しておきますので、全て終わったら取りに来てください。それまで店は開けていますから」
「いいんですか?」
「私も生徒ではありませんが、トリニティの
人間ですので。その大事には、ささやかですが協力致します」
「……ありがとうございます。すぐ取りに来ますから」
そう言って頭を下げるハナコに合わせ、私も頭を下げる。この店員さんが話の分かる優しい人で助かった。これでパフェをコハルに食べさせることができるだろう。
「……そういえば、しっかり先生の指揮の下で動くのは初めてか。遠慮は要らない。先生、私のことは存分に使って欲しい」
【ありがとうアズサ。じゃあ安全第一でお願いするよ】
こうして、突発的だが夜中の追撃作戦が始まった。ターゲットは――美食研究会。 - 150125/01/07(火) 19:41:47
「うわわわわ!? すんごい撃ってくる! こんなの当たったらマグロが傷ついちゃうって……」
「下手するとお造りではなく天ぷらになってしまいそうですわね……」
砲火を避ける、揺れる車体の中。泣き言を漏らすイズミに、感想を述べるハルナ。どこかのほほんとした光景だが、発言に看過できなかった私は思わず牙を剥いた。
「それはダメ!!」
「わかっていますわ。せっかくの幻の魚ですもの。天ぷらも乙なものですが、どうせなら鮮度のいい内に刺身で召し上がりたいところです――噂の薬効成分も、揚げるとどうなるかわかりませんので。というわけで、引き続き頼みますね、イズミさん」
「ううぅ……わかってるけど、やっぱり今日のジュンコ怖いよ……」
「うーん、それにしても……どうやら囲まれてしまったようですね☆ どうしましょうか?」
イズミのボヤキを尻目に、この状況を楽しんでいるのか、どこか楽しそうに話すアカリ。前々から思ってたけど、やっぱ大物だ。
だが状況はマズイ。ここはトリニティ自治区……相手の領内で、追っ手は多数。更には囲まれていると来た。今のところフウカのドライビングテクニックもあって有効打はもらっていないが……それが永遠に続くとは、私も思えない。 - 151125/01/07(火) 19:42:32
「今高架上だから、まずは何処かで下りないと。こんな道の限られたところ走ってたら、進路も簡単に予測されるし」
小刻みにハンドルを切って車体を降りつつ、フウカがそう語る。実際、逃走時に高架を走るのは悪手だ。基本一本道だから撒きづらい上、一般道に降りようにもIC(インターチェンジ)が限られるせいで簡単に待ち伏せされる。道を塞がれてたから入るしかなかったとはいえ……いや、これは誘導されたか?
「鋭いですわね、ジュンコさん。その通り、誘導されているかと。なにせこの先は――」
「……うん? ――え!? 嘘!?」
ハルナの肯定と、フウカの驚愕が同時に発生する。その理由、今見えた高架の先は――途中で一部途切れていた。
「――工事中で一部途切れていますので。ここでなら追い詰められると踏んだのでしょう」
「余裕ぶってる場合じゃないでしょハルナ! どうすんの、Uターンしようにも!」
ビシッとフウカがバックミラーを指差す。そこに写っていたのは、迫りくる正義実現委員会の車両たち。ある程度はハルナの射撃で減らせたとは言え、それでも結構な数が後ろから迫ってきていた。
「あれだけの数をすり抜けるのは流石に無理よ!? 塞がれて終わりよ!」
「ええ。かといって全て狙撃するのも現実的ではない。ですので――このまま突っ切ってください」
え。 - 152125/01/07(火) 19:43:59
「よし、追い詰めました!」
『そのまま壁を維持しつつ前進で。いやー、正直ここに来るまでに捕まえられるか期待したんすけど、運転手の技量が予想以上っすねぇ』
敵ながらあっぱれ、と言わんばかりに笑うイチカ先輩の声が通信機から聞こえる。飛び出したツルギ先輩を追って出撃した先輩たちは、今ICの一つで待ち構えているらしい。万一Uターンしてかつ包囲を抜けられた際の備えだとか。この包囲網を抜けられるとは思えないけれど……相手はあのゲヘナだ。慎重に越したことはないか。
「そういえば、なんで今の時期にマグロなんて狙ったんでしょう? トリニティが厳戒態勢なことなんて分かりきってるでしょうに」
『うーん、あたしもゲヘナの人間じゃないんでわからないっすけど……今しかないと思ったんじゃないすか? なにせこの幻の魚、展示が終わったら海に返すことになってたんで、ここを逃すと次の機会がいつになるかわかったもんじゃないっすからねぇ』
あー、海に返すことになってたんだ……どうりで美食研究会が動き出すわけだ。話を聞くと、どうも連中気に入らない店を爆破するくらい食にこだわりがあるみたいだし。なんだ店を爆破するって。野蛮すぎる……これだからゲヘナは。
まあ何にせよこれで終わりだ。この先はまだ工事中で、途中で途切れてしまっている。向こう側はできているものの、どう考えても飛び越えられる距離じゃない。第一飛び越えようとして失敗したらキヴォトス人でも命が危ない高さだ。いくら馬鹿でもそこまでではあるまい。ターンしてこちらに突っ込んできたとしても、それこそ複数台で前を塞いでしまえばそれでお縄だ。
まさしく袋のネズミ。この夜中に叩き起こされた恨みも兼ねて、事情聴取では盛大にいびってやる。 - 153125/01/07(火) 19:44:31
そろそろ途切れた地点が見えてきた。ここで減速しないと止まれないから、連中ここで止まるしかない。さあ止まるぞ。止まる……止ま……? あれ?
「イ、イチカ先輩! 連中全く止まる気配がないんですけど!?」
『……はい? え、マジで?』
あろうことか、黄色い車体は一切減速せず、それどころかますますスピードを上げて突っ走っていく。……いや、いやいやいや! 前が見えてないの!? その先に道なんてないってのに!!
……っ! マズイこっちは減速しないと一緒に冥土まで行く羽目になる。慌ててブレーキをかける。
「と、止まりなさい! 止まれ! 死にたいの!?」
思わずメガホンで呼びかけるが、向こうは意に介さず。相変わらず止まることなく最後の直線に差し掛かる。このままだとあと10秒もせず……!
と、その時向こうで動きがあった。……銀髪の女が狙撃銃の銃口をこちらに向けている。その銃口は、かすかに青白く光っているように見えた。 - 154125/01/07(火) 19:45:21
「……い、今なんて? なんかこのまま突っ切るって聞こえたけど……」
イズミが涙目になりながらそう尋ねると、ハルナは一切の余裕を崩さないいつもの態度でニッコリと微笑んだ。
「ええ、一字一句そのとおりですわ。このまま突っ切ります」
「……いや、いやいやいや! 無理だよぉそんなの! 道ないんだよ!? このまま進んだところで地面に叩きつけられておしまいだよぉっ! なんなら普通に死んじゃうよ!?」
イヤイヤと首を横に振るイズミ。私も同意見だ。別にこの先はカタパルトとして作られているわけではない。スピードに乗っているとはいえ、このまま飛び出したところで普通に飛距離が足らず地面に墜落する。……こんなところで死ぬわけにはいかない。ましてや、あの子より先になんて絶対嫌だ。後で死ぬのはもっと嫌だけど。
「ふふっ。確かに、このまま普通にいけば飛距離が足りません。ですが……この道の先、ちょうど途切れる部分の端に、鉄骨が突き出ています。ここを走行できれば距離が稼げますので、残りの足りない部分は私が補いますわ」
「て、鉄骨って……あんな細いところ無理だよぉ! 片輪分しかないじゃん!」
「いいえイズミさん。片輪分"も"あるのです。もちろん凡百の輩には無理な話でしょうが……」
チラと、ハルナは運転席に目を向ける。そこに収まっている運転手もチラと目線をハルナに向けた。 - 155125/01/07(火) 19:46:20
「――フウカさん。あなたを信じていますわ」
「アンタねぇ……私は凄腕ドライバーでも何でもないただの調理師だって言ってんのに。――あーもう! 死んだら化けて出てやるからね!」
掴まって! 放り出されても知らないから!
鋭く叫んだフウカは、ガッとアクセルペダルを全開で踏み込んだ。もともと速かった速度が更に加速。みるみるうちに高架の端が近づいてくる。その先、端から突き出た1本の鉄骨めがけて車体が寄っていく。
「左に寄って!」
フウカの指示に、反射的に左側に跳び、助手席の背もたれを掴む。横で鈍臭いイズミがワンテンポ遅れ、アカリに腕を掴まれて左側に引きずり込まれたのが見えた。その頭上をまたぐようにして、ハルナの愛銃が構えられる。そういえばさっき「足りない部分は私が補う」って……
次の瞬間、車体ががくんと不自然に震え……私たちは車ごと空へ飛び出した。
ふわふわとした浮遊感。重力から解放されて、自然と体が浮き上がる。背もたれを掴む手に力を込める。今手を放したらホントに死ぬ。イズミがクーラーボックスごと飛ばされかけ、アカリがイズミの腕を握りしめてそれを防いでいる。「あらあら☆」と楽しそうに笑う声と、イズミの汚い叫び声が木霊する。そんな中、ハルナはしっかりと体を固定しつつ、深呼吸。後ろに向けた銃口に青白い光が宿り、みるみるうちに激しく輝いていく。銃身が鮮烈なスパークを起こす。
「――スコヴィル値1千万級の激辛ですわ。たんとお召し上がりくださいな」 - 156125/01/07(火) 19:46:58
「……! マズっ避けて!」
悲鳴じみた叫びを上げるも時すでに遅し。まるでアクション映画のカースタントのように飛び出した黄色い車から、青白い閃光が放たれた。こちらに向けて。――視界が青に染まった。
光は私が乗る車の真横を通り過ぎ、後続の車列に直撃。その全てを貫通してなぎ倒した。遅れて、空気が裂けたかのような衝撃が襲ってくる。私の乗った車はそれに耐えきれず横転し、車内で激しくシェイクされた私は頭を何かにぶつけて気を失った。
これは後日聞いた話だが、美食研連中はあれの反動でさらに距離を稼いで、向う側の高架に見事着地したらしい。あんたらもうカースタントだけで食ってけるんじゃない? これだからゲヘナは……本当に頭おかしい。 - 157125/01/07(火) 19:47:30
ハルナ渾身の一撃の反動もあり、給食部の車は見事に向こう岸へと着地した。大きくバウンドこそしたものの、車体はなんとか衝撃を吸収し、そのまま走り続ける。
「し、死ぬかと思ったぁ……」
「なかなか刺激的なイベントでしたね〜☆」
同じ車内にいたにしては、あまりにも対照的なコメントだった。やっぱアカリって大物だ。私? 二度と経験したくない。
まあでも包囲網は突破したし、あとはこのまま境界線を越えるだけだ。そうすれば、あとはフウカがなんとかしてくれる。散々振り回して疲れているとは思うけど、もう一働きしてもらおう。そう思っていたのだが……
ICを通過したあと(向こう岸にまで飛んでいくとは思わなかったのか、正義実現委員会の姿は影も形もなかった)、おもむろに車は速度を落としていき……やがて道端で停車した。え、なんで?
「……悪いけど、私はここまでね。さっきのでサス(サスペンション)がイカれたと思う。これ以上は走らせられないわ」
こっちは適当に降伏して、たぶん風紀委員会に引き渡されると思う。アンタらに脅迫されたって言えばそう無下にはされないだろうし……ゲヘナに戻り次第そのマグロ調理してあげるから。無くさないでよ? ここまでしたんだから。
そう言って、フウカはハンドルから手を放した。「はあー……また万魔殿に予算交渉しなきゃ」とボヤいている。う、嘘。ここから徒歩? 格段に近づいたとはいえ、まだゲヘナとの境界線まで多少距離がある。……でも、これ以上無理は言えないか。思えば普段からこっちの都合で振り回して迷惑かけているというのに、今回は本当にいろいろと手を貸してもらった。何ならこのあとも一仕事残っている。 - 158125/01/07(火) 19:48:38
「……あ、ありが「その言葉は全部終わってからにして。アンタらがそれ持って逃げられなきゃ、ここまでの苦労もなんの意味もなくなるから。いい?」――わかった」
「あらあら☆ ……さて、どうしましょうか? ここからゲヘナ自治区までまだ距離はありますし、時期に正義実現委員会も追ってくるでしょうし」
「……そうですね。ここは一つ――散開するとしましょうか」
四人一塊になっていてはいずれ物量に押しつぶされるでしょうし、ならば散開して一人でも逃げ切れることに賭ける方が一番ですわ。
そう言いながら、ハルナはいそいそとその場を離れようとする。言ってることは正論だけど、いつもながらその切り捨ての早さはなんなのよ。まあ私も同じ選択をさせてもらうけど!
「イズミ、それこっちに渡して! 私が一番足速いから、私が運んだほうがいい!」
「ふぇ? う、うん! はいこれ!」
イズミが今まで後生大事に抱えていてくれたクーラーボックスを預かる。中に入った魚と氷の重料が片方の肩に伸し掛かる。……あの子の命の重さだと思うと、凄くずっしりとくるけど……ここまで大事を起こしたんだ。絶対逃げ切ってみせる。
「ふぅ。では誰が逃げ切っても恨みっこ無し、世は弱肉強食ということで☆ では私も♪」
そう言ってアカリも走り去る。こんな状況でも最後まで楽しそうな辺り、ほんと大物だ。
私も逃げさせてもらおう。最後に、ここまで連れてきてくれたフウカに目をやると、素っ気なさそうにしていたけど……ひらひらと片手を降ってくれていた。ほんと、ありがとう!
約束通り声には出さず、私はゲヘナの境界線へと向けて走り出した。
「……へ? あ、あれ? 皆もう行っちゃったの!? ちょ、ちょっと待ってよー!!」 - 159125/01/07(火) 19:49:50
【……正直、この展開は予想外だったよ】
トリニティの市街地はずれ。対峙する集団が2つ。
片方は正義実現委員会の生徒たちと、補習授業部3人を連れた私。いわばシャーレ合同軍。
「――あら、こちらとしては予想通りの展開ではありますわね。正義実現委員会については。先生、貴方がそちらについているのは同じく予想外ではありますが。ふふっ」
対するは、余裕を崩さない銀髪の少女、黒館ハルナ。ニコニコと笑顔を崩さない金髪の少女、鰐淵アカリ。そして「え、えっ? 戦うの? 散開するんじゃなかったの?」と困惑気味に右往左往する少女、獅子堂イズミら美食研究会の3人。
【まさか、その人数で真正面から打って出てくるなんてね。しかも君たちが。……成長したね、ハルナ】
「ふふっ、私はいつもと変わりありませんわ、先生。これはそう……"味変"、というものです。いつもいつも同じ味付けでは飽きてしまいますもの。たまにはこうして、全力をもって抗ってみるのも、また一興。正義実現委員会がどこまでのものか、興味もありましたし」
【そうか。……ジュンコは、どうしたんだい?】
「彼女はいつも通り逃げました。流石の逃げ足の速さ、あっという間に消えてしまいましたわ。今頃どこにいるのやら。……もっとも、それを知れるのはもっと後のことですわ」
ジャキッと音を立てて、彼女の愛銃がこちらに向けられる。 - 160125/01/07(火) 19:50:40
ジャキッと音を立てて、彼女の愛銃がこちらに向けられる。
【……ハルナ。君ならもうわかっているだろうけど、一応言っておくよ。――その有様では、抵抗するのは難しい。どうか降伏してくれないかな。悪いようにはしないと約束するから】
ハルナが向ける愛銃からは、煙が上がっていた。心なしか、銃身が多少歪んでいるようにさえ見える。――先ほど聞いた話では、ハルナは自身の神秘をオーバーチャージして放ち、その反動で素晴らしいカースタントを成功させたようだ。その代償に、彼女の愛銃はかなりのダメージを負っていた。あれではまともに撃てるか怪しいものだ。
「確かに、先生のおっしゃるとおり、私のアイディール(銃)は今使い物になりません。……ですが、先生。抵抗というのはただ銃を撃つだけではありません」
こういったやり方もありまして。
そう言って彼女は身につけたスカートを広げて見せた。まるでカーテシーを行う淑女のように。――その足元に、音を立てて大小様々な物体が落ちてきた。……まさか、あれは!?
「っ!? いけない! IED(即席爆破装置)だ!」
「――アカリ」
「はぁーい。では、すこぉしばかり……グロテスクに、やらせてもらいますね?」
アズサの警告も早かったが、ハルナはすでに動き出していた。
足元に落ちたIED。そのうちの一つをハルナがこちらにめがけて蹴り上げた。同時に、アカリが自身の愛銃を向ける。
シュポっと気の抜けた音を立てて、榴弾が発射され……空中でIEDと衝突した。
爆発。
予期せぬ先制攻撃が、今宵の決戦の火ぶたを切った。
(ジュンコさん……あとは、託しましたよ) - 161125/01/07(火) 19:51:36
「はっ……はっ……はっ……!」
走る。走る。走る。
肺が痛い。心なしか目眩もする。走りすぎて足も疲れた。――でも、ここで止まるわけには行かない。
もうすぐゲヘナの境界線だ。そこさえ越えてしまえば、正義実現委員会は手出しできない。エデン条約でピリついてる中、ゲヘナ自治区に入ることはできないだろう。あと少し。あと少し、で……
何か音が聞こえた気がして、私は咄嗟に体を捻った。その横を、何かがすごい勢いで通過した。
とんでもない音を立てて、目の前の壁に何かが衝突した。もうもうと土埃が立ちこめる。その中を、ゆっくりと黒い影が起き上がる。
「きひひ……」
黒い、大きな翼。血が滴るかのような、赤黒い光輪(ヘイロー)。同じ人とは思えない強烈な人相。鬼……? いや違う。あれは……
「きひゃあああああぁぁぁっ!!!」
「……剣先、ツルギ……!!」
正義実現委員会、委員長……人呼んでトリニティの戦略兵器。
キヴォトスでも最高戦力の一人が、私の目の前に立っていた。 - 162125/01/07(火) 19:56:30
今回はここまで!
Q.美食研究会ってここまで情に厚いっけ?
A.同志の仲間の命がかかっているから。徹底抗戦して時間稼ぎする美食研究会がいてもいいじゃないか、2次創作だもの。――いちお
あとはフウカの運転技術が盛られましたが、1の趣味です。ホントは頭文字D的なカーチェイスも書きたかったけど自重した。
そしてツルギが立ちふさがったジュンコ。はたして彼女の運命は如何に。次回更新はまた日が空くと思うけど、ゆっくり待っててね― - 163二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 19:57:40
本当、次が気になる書き方が上手いなぁ
- 164二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 20:45:50
ああ、そういやモブにも気性が荒い嫌ゲヘナいたな正実
- 165二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 21:29:04
ジュンコさん・・・抜けられそう?
- 166二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 23:29:45
ツルギ、襲撃の理由がコハルの命を救うためと知ったら別の暴走をし始めそうだけどどうなる?
- 167二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 23:36:11
ジュンコがみた紙の内容が一体何だろう…?
そしてその内容を正実は知ってるんだろうか? - 168二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 07:32:41
ほ
- 169二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 11:24:12
フウカは本編でもすごいスタントドライブ披露してたしこれぐらいの運転やってもあんまり違和感ないよね
- 170二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 21:29:10
次が楽しみ
- 171二次元好きの匿名さん25/01/09(木) 07:34:36
ほ
- 172二次元好きの匿名さん25/01/09(木) 07:36:19
- 173二次元好きの匿名さん25/01/09(木) 08:04:38
とりあえずフリーズするんじゃね?
- 174二次元好きの匿名さん25/01/09(木) 13:03:35
宇宙猫不可避
- 17512125/01/09(木) 18:05:05
ちなみに、マグロは泳ぎ続けないと死ぬ生き物であるため、クーラーボックスに入れられた時点で残念ながらゴールドマグロ氏は昇天なされている。共鳴もなにもあったものではない。(>>108 より)
あ、やべ。明言してたわ
- 176二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 00:11:30
ほ
- 177二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 08:06:47
し
- 178二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 12:36:39
の
- 179二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 21:42:14
ほ
- 180二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 00:33:48
このレスは削除されています
- 181二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 09:23:47
コハルはかすがい
になるといいな - 182125/01/11(土) 10:59:59
ひぃん今日明日あたり続き出せると思うよー
ただもう残りレス数が少ないから次スレ立て次第そっちに載せるよー
申し訳ないけれどもうちょっとだけ待っててねー - 183二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 21:19:07
ほ
- 184二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 02:06:37
- 185二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 12:18:09
ほ
- 186二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 21:41:21
いやーやっと追いついた。ジュンコ…お前ええやつやん…!
- 187125/01/12(日) 22:57:02ここだけ病弱コハルその7|あにまん掲示板興奮するとすぐ熱を出す……どころか心臓発作を起こすくらい虚弱で病弱なコハルが主人公のエデン条約編再構成小説スレ体は弱くて脆いけど、原作同様正義感は強いし代わりに学力が上がってる。現在美食研奮闘中。果た…bbs.animanch.com
ひぃんおまたせしました次スレだよーちょっと早いけど
こっちは埋めちゃっていいよ―
- 188二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 23:04:11
たて乙だよー
- 189二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 23:18:39
かんしゃ〜
- 190二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 11:15:13
埋め
- 191二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 11:32:31
うめうめ
- 192二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 13:36:42
埋めー