- 1二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 20:33:56
アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。
激しい戦いの後、戦女神と大天使は冬のバルト海で翼を休めています。氷に覆われつつあるこの海は安息を求めるには向いていないかも知れません。
アークエンジェルとコンタクトを試みるアスランとアグネス達、無用な衝突や行き違いを防ごうと彼ら彼女らは懸命ですが、その努力は実を結ぶのでしょうか?
ロゴスとの戦い、地球連合との戦争、激動する世界の大波が普段は穏やかなこの海域にも迫っています。
港を出るであろうミネルバの航路は何処に続くのか。
おつきあいをいただければ。 - 2二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 20:46:48
前スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com1スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com2スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com3スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com4スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com5スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com6スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com※落としてしまった7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com再建てされた7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com8スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com9スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com10スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com11スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com12スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com - 3二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 21:01:10
立ておつです!
ファウンデーションもこの時点で絡んできたので
いよいよこの先どうなって行くか分からなくなりましたね… - 4二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 21:19:04
たておつです
イングリットとアスランがやり取りし始めたけどこれが後々どう作用するか - 5二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 22:10:14
保守梅~。なんだかアコード(イングリット)が不穏な動きをしているけど、一体どうなってしまうのでしょう!?
- 6二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 22:10:27
保守
- 7二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 23:12:46
☆
- 8二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 23:37:10
西ユーラシア政変が収束するやいなや、いろいろな勢力がこの機に自分たちに有利に進めようと動き出す。
少しでも平和裏に事態を終息させたいアグネスとミネルバの仲間たちの気持ちは報われるのか、裏切られるのか。
そして遂に姿を現したファウンデーション王国は敵か味方か… - 9二次元好きの匿名さん24/12/17(火) 23:51:03
- 10二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 00:02:37
ふと思った。ラクスを始末したい腹黒議長と女王に迎えたいアコード。暗殺未遂事件の話が伝わったら、一気に関係が悪化しないか?
- 11二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 00:14:32
アスランの返事を聞きトラドール国務秘書官は怪訝な表情を浮かべる。アスラン、何か変なことを言ったかな。
イングリッド「それっきり、とは?プラント・ザフトとアークエンジェルは現在、交信してないのですか?」
成程、さっきの質問はそう言う意味か。確かにプラントとアークエンジェル間のパイプがしっかりしていれば『それっきり』にはならないわね。
アスラン「ああ…。いえ、それは…」
戸惑うアスランが答えにならない答えを返している。挙動不審な彼の隣に座っている私は冷汗ものよ。
アグネス「(確かに同盟国としては気になる筈。私もうっかりしていたわ...。困ったわね)」
アグネス「横から失礼します。私どもはプラントとザフト全軍の状況は把握しておりません。彼が先程述べた『れきり』、とは一軍人・パイロットとして、アスラン・ザラ個人として、と言う意味であると推察します」
トラドール国務秘書官に見つめられ、回答に窮しているアスランに代わりお答えする。こういう時は事実に基づいて最小限に答えるべきだろう。今ので相互連絡に支障が生じていることは伝わったはずだわ。
口で言葉を発しながら彼女と視線を合わせるように心がける。横入りする無礼を詫びつつ、何とか先輩の失言を取り返さないといけない。私がやらないと自爆だわ。
イングリッド「そうなのですか?」
アスラン「はい」
アスランは、何やらすまなそうに返事をしているが、事実だから仕方ない。それをこれから何とかしようと云う話なのだ。
私とアスランの返答を聞いたトラドール国務秘書官は少し考む仕草をする。まあ、特務隊と言えども実情はこんなものだわ。国防本部も国防委員会も彼方から情報を下ろしてくれることはまずない。自分で聞くか調べるかしないと。 - 12二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 00:41:56
私達では相手にならないと思われたのか、彼女はアスランの上座側の隣に座るグラディス提督にも話を振る。
イングリッド「グラディス提督はアークエンジェルとの方法をご存知ありませんか?我が国は貴国の対ロゴス戦に協力すべく、地球軍第81独立機動群『ファントムペイン』をテロ組織と認定し、その構成員を指名手配しています。我が女帝陛下はアークエンジェル内に司令官ネオ・ロアノーク大佐他パイロット1名が拘束されているとの報を受け、その動向をにご注目なされています」
アスラン、アグネス、シン「!!!???」
いきなり本丸を強襲された気分だわ。もう友好国から戦犯引き渡し要求が来るとは…。引き渡されてすらいないのに。
アグネス「(いや、これは牽制球かな。それともトラドール国務秘書官は私達がパイプを持っているのか聞き出そうとしているのか...。仮にそうだとしても秘匿情報だから開示できるものではない)」
彼女に見つめられているアスランはたじたじになっているが、しっかりして欲しい。何時もの仏頂面はどうしたのか?
声を掛けられた当人のグラディス提督は、口に入れようとしたフォークから肉を落としてしまう。彼女はやっと大使たちの猛攻を潜り抜け、食事に手を着けようとしたところだった。
グラディス提督は更に落とした肉を一瞬見つめて時間を稼いだ後、何でもないような風を装い、トラドール国務秘書官の質問にお答えする。
タリア「誠に申し訳ありませんが、本官は彼らと交信を図る独自の手段を持ち合わせていません。特務隊長としても月軌道艦隊司令長官としても。お役に立てず申し訳ございません」
イングリッド「そうですか…。残念です」
良し。これがベストなはず。嘘を言わず、馬鹿正直にならず、世を渡って行かないとね。
トラドール国務秘書官は軽くカザエフスキー最高評議会議員にも視線を投げかける。だが、彼女は今、アフリカ共同体旧領奪還問題の議論で精一杯だ。とても声を掛けられる雰囲気ではない。
それを察したのか彼女は一旦矛を収めてくれる。そもそもカザエフスキー評議員にはさして興味を持っていないようにも見える。彼女がこの場で一番偉いのだから、厄介ごとはまずそちらに当たって欲しいものだが...。 - 13二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 01:29:20
議長の依頼を受けての思想調査だと思ってたけどラクス探索が目的かな
- 14二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 01:38:49
両方じゃない?議長からはミネルバ隊の思想調査を頼まれて(議長の駒だったレイが離脱したため)、でもラクスを最重要視してるアウラとしてはラクスの所在も知りたいから両方やってるだけかと
- 15二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 02:14:33
トラドール国務秘書官は私達のすげない返事を聞いても気分を害された風ではない。寧ろ、何か収穫を得たような顔をされている。気のせいだろうか。
ただ、私としては大困りだ。彼女がどう思っていようが場の空気はかなり悪くなっている。
タリア「独立後の復興は順調にお進みですか?ガルナハンの後、我々もいろいろ振り回され気味で。もしよろしければ貴国のお話をお聞かせ願えませんでしょうか?」
グラディス提督が、空気を変えようとトラドール国務秘書官に話しかけて下さる。話しかけながら、アスランと私に目で合図する。食事を食べ進め、一呼吸置きなさい、ということね。
アグネス「(ご自分の食事はすっかり冷えているのに…。申し訳ないわ)」
だが、仕方ない。せっかくお代わりしたオリオ・スープが冷めたら勿体ないのも確か。彼女のご厚意に甘えさせて貰おう。こういう時、コミュニケーション能力の高い人を見直してしまう。私はまだまだ修行が足りない。
因みに、傍らのシンは私達が神経戦をしていた間も構わずモシャモシャ食べていたわ。何か馬鹿らしくなる!鈍感力とか言って気が利く人に凭れ掛かるのは止めて欲しい。
アスラン「…」
アスランも地蔵顔に戻りやがったわ!
その後はトラドール国務秘書官とグラディス提督の会話を耳で聞き、時折、相槌を打ちながら時間を過ごす。自国のことを語る時のトラドール国務秘書官の表情は生き生きとしている。
アグネス「(意外…という訳ではないけれど。もっと冷たくて嫌な感じな人だと思った)」
上座では、アフリカ共同体に押し退けられた汎ムスリム会議大使が不満顔だ。これではプラントが友好国の言うことを全く聞き入れないと思われかねない。
それはそれで困る。諸国がプラントに何も要求しなくなった時は我らが友好国をすべて失う時だ。プラントは『自然に』出来た国でない以上、見返りが少なければその分、人も国も離れていく。 - 16二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 02:27:13
アグネス「(見返りを求められるのは迷惑なもの。でも、必要とされている証でもある。少なくともその間はプラントが見捨てられることは無い。それを忘れてはいけない)」
私がそう思った瞬間、トラドール国務秘書官の瞳に影が差したように見えた。気のせいか。
それはともあれ…。『自然に』形成された国家はある程度、言語的・文化的・民族的・歴史的につながりのある国が他に存在し、ある程度までなら『義理人情』で支え合ってくれるケースもある。
『国家に真の友人無し』の格言に反し、国家はある程度までなら、友好国に利益度外視で力を貸してくれる場合がある。そうした事例は歴史上多い。
だが、プラントはそう言った意味でも異端な国家なのだ。友好国でさえ、真の意味での友人かは分からない。成り立ちにしろ、国民にしろ。
何より、こちらに言い分はあるとはいえ、エイプリル・フール・クライシスとブレイク・ザ・ワールドは彼らにも降り注いだのだ。直ぐに援助したとは言え。
頭上に降りかかった大災厄を飲み込んだ上で同志となってくれている諸国をぞんざいに扱うわけにはいかない。
私は少し寝ぼけていたかもしれない。スエズぐらい、北アフリカぐらい取り返して見せないと二度と我らに地球の大地を貸してくれる国家は現れない。
そして、必要云々と言えばそれは-。
アグネス「(それは私達もまたしかり。この場で『ネオ問題』を深堀されるわけにはいかない。しかし、特務隊、月軌道艦隊が無力なものだと印象付けられてしまえばお終いだわ)」
私達の築いてきた勇名は自分達が思っている以上に自らの立場を守ってくれている。だからこそ、このまったく楽しくない懇親会も開かれたわけだ。
それで、もし私達が思ったより大したことないと思われれば、頼むに足りずと思われれば。必ず今後の作戦に響くだろう。響くというのは物資的・精神的援助を内外から十分に受けられず、私達の内誰かが死ぬ目に合うということ。
『孤立無援の特殊大隊が戦場で大活躍』みたいな話はフィクションなら面白い。でも、自分がそうなりたいわけでは無い。ミネルバと月軌道艦隊はこれまで少なくとも孤立無援では無かった。 - 17二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 11:07:45
✩
- 18二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 11:26:33
ああ、必死に考えれば考えるほど、思考が読み取られていく。アコード……何と恐ろしい。諜報活動に投入したら無敵じゃないか。
なんでこういう人材をMSパイロット「ごとき」瑣末な役割にしか使わなかったのかねアウラは。きっちり駐在武官として通用する
教育と見識を与えたうえで情報戦に投入していたら、レクイエム無しで地球征服できていたんじゃないか?明らかに人材の使い方
を間違えているとしか思えん。他のアコードの、教育方針の見当はずれぶりも含めて。
あるいは、アウラはこの時点ですでにボケ始めていたのかもしれないな……。 - 19二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 12:09:51
小説版だと望まない若返りと肉体固定のせいで精神を病んでた描写があるから、作戦というか国の方針がかなり攻撃的に偏って行ったのかもね
- 20二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 14:14:23
能力が知られてない状態で読心能力者が頭良い奴と接触すると情報や今後の予測やらをガッツリ抜かれてしまうな
- 21二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 18:09:41
アークエンジェルとまだやり取りできてないのはこれでバレたな
議長と何処まで繋がってるかにもよるが先手取られそう…
ラクスの所在をミネルバ側が誰も把握してないのがせめてもの救いか - 22二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 18:46:22
AAとの会談日時や場所がバレてそこでAA側に死人でも出ようものなら流石に敵対不可避だろうな
- 23二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 19:46:36
シンを読心してこの人何も考えずに食べてる…とか思ってそうだな
二年後にアグネスがファウンデーションに来た時にはブルコス残党のせいで過労死寸前になっててシュラにダンス誘われてもそんなことよりフルコースだ! 久々の栄養ゼリーじゃない食事だ! とシンと一緒にがっついてるかもしれんが - 24二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 03:30:02
☆
- 25二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 04:23:17
私達は慕われはせずとも畏怖される存在で在らねばならない。
諸外国の前で『出来ません』『やれません』『分かりません』は滅多なことでは言うべきではない。
とっ散らかった考えを何とかまとめる。ついでに夕食も食べきる。
その間、ずっとトラドール国務秘書官のお相手はグラディス提督にお任せしてしまった。申し訳なく思う。
彼女の負担を和らげるため、私も会話に加わるタイミングを見計らう。
提督がここまで聞き役に回ってくれたおかげで、『為政者の外面』としてのファウンデーション王国は理解することが出来た。
フィルターにフィルターが掛かった上での情報ではあるが、一応、私も教育を受けてきた身、相手の明らかな嘘なら見抜ける。
アグネス「(ユーラシア連邦から独立したファウンデーション王国は西暦時代のカザフスタン共和国西部4州-即ち西カザフスタン・アティラウ・マンギスタウ・アクトべ-の実効支配を完全に固めた。ユーラシア軍は彼らが『緩衝地帯』と定義するエルドア地区を始めとしたラインまで追い出された。そこまでは事前に聞いていたけど-。追加情報として、一応国内は平穏を取り戻し、治安は比較的安定しているそうだわ)」
ユーラシア連邦軍からの鹵獲物資を加え、プラントから下げ渡されたモビルスーツ等で急速に国防態勢を強化、身の丈に合わないと馬鹿にしていた宇宙軍もそれなりの規模になっているらしい。
ファンデーション王国の首都アティラウはイシュタリアとオリエント風に改名、心機一転、傷ついた街並みの修復に一応の目途がつき、動揺した人心も落ち着きを取り戻しつつあるという。王宮の修繕も粗方終わった、と。
彼女の青い目、顔の表情筋、手足体の仕草全てを確認する。恐らくここまで『嘘』はついていない。
イングリッド「我が王国の宰相、オルフェ・ラム・タオは貴国の最高評議会議長ギルバート・デュランダル閣下の優れた指導力を私淑しています。王国再興の道は容易ではありませんが、他国に誇れる国となれるよう努力しています」
タリア・アスラン・アグネス「!?」
適切なタイミングで会話を変わってあげようとしていたら、彼女が思いもかけないことを言い出した。タオ宰相閣下がデュランダル議長を尊敬している?何で? - 26二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 04:27:32
タリア「それは…。心強いことです」
グラディス提督はそう応じているけれど、と言うかそう応じるしかないのではあるけど。
トラドール国務秘書官を再度見つめ直す。やはり『嘘』は言っていない!
あの議長の指導力を手本にしているとか…。どうなの、それ。正直、あの男が就任してからろくなことが無いわ。その前からろくでもないけど。
そう思った次の瞬間、グラディス提督の差すような視線がアスランと私に突き刺さる。余計なことは言わないように、と。念押しね。
アグネス「(取り合えず、彼女の言は社交辞令。そう考えるのが正解なはず。ともあれ、お返しをしなければ)」
アグネス「我々の方こそ、歴史の上では新参者。モンゴル帝国以来の伝統を誇る貴国の在り方にプラントの方こそ学ぶところ大でしょう」
そうトラドール国務秘書官に返礼を兼ねて語り掛ける。
わざわざモンゴル・カザフに縁もゆかりもない古代メソポタミアのイシュタル門もどきを王宮内に立て、首都まで改名したのだ。アウラ女帝は伝統と長い歴史に憧れがあるのかもしれない。
一応、そう踏んだ上でお世辞の言葉を紡いでみたが、どうだろう?
イングリッド「そのように我が国を思って頂けるとは。我らはますます励まねばなりませんね」
私の社交辞令の返しはさほどお気に召さなかったらしい。すんなり流されてしまった。ただ、こういうのはお互いお世辞と分かっていても述べ合うことに意義がある。 - 27二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 04:33:33
アスラン「…」
イングリッド「…」
アグネス「(ええ…。ちょっと何でお見合いしているの!?アスランも適当にお世辞言ってよ。向こうは一応こっちの最高権力者を褒めてくれているんだから!)」
アスラン「タオ宰相閣下はなぜ議長に…。いや…。ありがとうございます」
私の一つ向こうの席に座るグラディス提督の眦がつり上がる。私の顔からは血の気が引く。ええ…。何かもっと、こう言いようがないの?!
アグネス「(しまった!アスランの内心の議長評価が思わしくないせいで…。そこを基点にした返しが出来なかったのか)」
それにしたって前大戦の時は潜入任務もこなしていたはず。今の大戦になってからのアスランの鈍らぶりは酷いわ。戦闘面にリソース裂きすぎよ。
コミュニケーション能力が今一つなアスランをトラドール国務秘書官はじっと見つめ、少し話題を切り替える。
イングリッド「先程、お話したように我が国の民も独立直後の混乱から日常を取り戻しつつあります。市井の間では貴国の歌姫ことラクス・クライン嬢の歌声を日々の励みとしている者も多いとか」
アスラン「…」
ここで言うラクスはミーアか。議長が全世界に流しまくっているのね。
アグネス「(そう言えば、ミーアは今どこだろう?ダイダロス基地で会ったけど。あの後、余りにも忙しくて。確か、ニュースで…)」
イングリッド「ラクス様は今回の惨事に深く遺憾の意を表し、デストロイの被害エリアの慰問のため地球に降りると伺っています。デストロイとは比較になりませんが、我が国もユーラシア連邦の暴虐の被害に遭ってた当事者。もし、時間の余裕があり、イシュタリアにご足労いただければ幸いに思います」
トラドール国務秘書官のお話を聞いて、やっとニュースを思い出す。軍事と外交関連に関して目が向いていたせいで見落としていた。
ミーアはポーランド東部を慰問訪問する。キエフやビルニュスにも行くかもしれないとアナウンサーが言っていたわ。 - 28二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 04:38:21
アスラン「婚約者…の私に連絡が取れないか、と言うことですか?」
イングリッド「そうした場が今後増えれば、我が国とプラントとの交流の機会も増え、喜ばしいと。ご無理を言って申し訳ありません。お忘れください」
終始、地蔵顔を崩さないアスランと睨めっこするのに疲れたのか、トラドール国務秘書官もやっと会話を切り上げ、ミネラルウォーターを口になさっている。
セーフ…。じゃないわ!何度も場の空気が半分凍ってしまったわ。
アグネス「(あ~!腹立つ!)」
テーブルの下でシンの足を強く踏む。何時まで食べて居るんだ!お子様ランチを食べに来たんじゃないんだぞ!
足の甲を踏みにじられたシンがビクッと反応する。
シン「(痛ッ!)」
アグネス「(あんた!ここがどういう場か分かっている?!何か言いなさいよ!)」
シン「(そんな…。無理言うなよ)」
イングリッド「シン・アスカ殿、改めて叙勲おめでとうございます。南アフリカでの奮戦、同盟国として心強く頼みに思います」
シン「はい。ありがとうございます」
お水を飲んでいたトラドール国務秘書官はシンがやっとお食事モードを終えたことに興をそそられたのか、彼に話しかけ始める。
イングリッド「南アフリカの惨禍を見るに…。あれを決して他人事と思うことはできません。貴殿は対ロゴス戦にどのようなご見解をお持ちですか?」
アグネス「(そうか…。シンは南アフリカ戦が目立っていたのね。東部戦線では『手柄』が分散するから。それは南アフリカでも同じだけど、相対的にね)」
しかし―。シンにちゃんと答えられるか?
シン「ロゴスの不法行為は罰しなければいけませんし、不幸な連鎖は止めなければいけません。そのために何をどうするべきかは分からないことも多いですけど。でも、ファントムペインとブルーコスモス派地球連合軍は倒さなければいけないと思います」
おお…!一応、答えられるか! - 29二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 04:46:31
トラドール国務秘書官はシンの答えを首肯し、今度は私に視線を移す。今度は私の番か。
イングリッド「ギーベンラート女史は対ロゴス戦にどのようなご見解をお持ちですか?」
厄介な質問ね。どう答えるべきか。嘘をついても良いことは無いわね。
アグネス「世界経済の健全化を小官は支持します。明らかになったロゴスの極端な経済独占体制はそれ単体でも十分巨大な犯罪行為です。その影響力を持って各国の政治に過剰な干渉を続けてきたことは民主主義の毀損行為であった、と糾弾されても仕方ありません」
そうお答えすると彼女の思慮深そうな瞳に怪しい光が灯る。
イングリッド「おっしゃる通りです。続きを」
続きも何も…。それはそうとして、じゃあ何処をゴールにするのか、何処をあの腹黒議長はゴールと考えているのかが判然としなくて困っているのに…。
アグネス「対ロゴス同志国が政治・経済・軍事、そしてソフトパワーを駆使して連携して対処する必要があります」
毒にも薬にもならない、何にも言っていないに等しい返事はこういう時にこそ使うものだわ。言質を取られるわけにはいかない。
汎ムスリム会議大使「真におっしゃる通り。各国の連携が対ロゴス戦の要、中央アジア・ユーラシア緩衝地帯をテロリストの巣窟にしてはなりませんぞ!」
突然の横やりに心臓が跳ね上がる。汎ムスリム会議大使が口を挟んできたわ。トラドール国務秘書官が眉を顰めるが、見えないふりをしている。
アグネス「(アフリカ共同体大使にカザエフスキー評議員を取られて、手持ち無沙汰になっていたんだわ…)」
困ったわ…。中央アジア共同出兵の話に今巻き込まれたくない。こっちはアークエンジェルとバルト海で一杯一杯なのに!
いや…。曖昧模糊、五里霧中の対ロゴス戦。なら、ロゴスの武装部門、走狗たるファントムペインに当面の的を絞って攻撃を掛けるのもありか?幸い中央アジアイスラム圏は既にユーラシア連邦から半独立状態、汎ムスリム会議進駐に合わせて呼応する用意は整っている。
そうなれば、後は飛び小島のように孤立している地球連合基地を現地軍と共に進軍する汎ムスリム会議軍と連携しながら叩き潰して回るだけで済む。
アグネス「(中央アジアを根城にするファントムペインとブルーコスモス派地球連合軍も、未だに領土放棄を受け入れきれないユーラシア連邦軍も殲滅できる。そはそれでありね)」 - 30二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 04:50:37
これはこれで『ロゴスに対する勝利』ではないか?十分に実現性がある上がりのはずだ。アフリカとどちらを先にするべきは政治判断次第だけど。
タリア「大使のご慧眼、恐れ入ります。ザフト中東軍はガルナハンとエーゲ海を戦い抜いてきた精鋭部隊。マハムール基地のラドル司令にも小官からこのお話をお伝えしておきます」
汎ムスリム会議大使「おお…。お頼みしますぞ!」
危ういところをグラディス提督に助けられる。ありがたい。思考が変な方向にそれるところだった。私は特務隊であると共に月軌道艦隊の一員。中央アジアはまず、ラドル司令とザフト中東軍の皆さんにお任せするべき。
グラディス提督にアイサインを送ると彼女からも肯定のサインが帰って来る。そして、『気をつけなさい』というお叱りの言葉も。唇を軽く動かして伝えてくる。最近、怒られてばかりだわ…。
それはそうと、斜め先の汎ムスリム会議大使は言質を取れた積もりで大喜びしている。大丈夫か?
アグネス「(大丈夫、大丈夫。提督は『お伝えする』としか言っていないから…)」
大喜びしている汎ムスリム会議大使の影でトラドール国務秘書官はアスランにも目線を投げかけている。シンや私と同じ問いを発しているのだろう。
アスラン「…」
動かざること山の如し(?)だわ。地蔵になって動かない。まあ、失言しなくて良いかな。もう和やかな会食は諦めたわ。グラディス提督以外、私達食事が終わっているし。
そう思って、上座を見ると彼方では何故かアフリカ共同体大使が大喜びしている。ガッツポーズしそうな勢いだわ。
そして、対面のカザエフスキー評議員は顔面蒼白になっている。まさか…。ポロリと言ってないわよね?
時間をさりげなく確認する。そろそろこの懇親会もお開きか…。疲れたわ。
グラディス提督はすっかり冷えた食事を急いで口に押し込んでいる。皆さんが完食するなかたくさん残したら体裁が悪いから。偉くなっても大変だわ。それでも私は上に行くけど。 - 31二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 04:55:40
イングリッド「同じ話題を何度も恐縮ですが、我が国はファントムペインとブルーコスモス派地球連合軍への対応に苦心しています。彼らが中央アジアとユーラシア連邦緩衝地帯を本拠としていることまでは判明しているのです。もし、上級指揮官を捕らえることが出来れば、その解決に向け事態が大きく前進します」
トラドール国務秘書官がまたアスランにアタックを掛けている。どうやら、彼女は彼が鍵だと狙いを定めているらしい。
アグネス「(もう勘弁してほしい。そっちはそっちで後で考えるから!)」
ただ、懇親会の終了間際、彼女も一歩も譲る気はないらしい。
イングリッド「アスラン・ザラ殿は第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦にて、アークエンジェルのラミアス艦長、クサナギのアスハ現代表、エターナルのラクス・クライン嬢等と共闘なされた間柄。彼女らとのお取次ぎ、お願いできる見込みは有りませんか?」
アスラン「それは…」
え…。アスランが揺らいでいる?!そんなわけないわよね!どっちでっも良いから何も言わないで!
カザエフスキー「え…。宴もたけなわではございますが、本日の懇親会はそろそろ-」
疲労困憊気味のカザエフスキー最高評議会議員が最後の力を振り絞って終わりの鐘を鳴らして下さる。
イングリッド「…」
アスラン「…」
セーフ…。セーフ!!アスランは何も言っていない。この人の口の重さを今は天に感謝したい!やっと終わったわ…。 - 32二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 06:49:23
今回に限っては腹の探りあいが無意味なのだ
本能かあるいは原作でキラやシンの本質一番理解できてた洞察力が何故か発揮されて議長をガチで尊敬してること察したか理屈すっ飛ばして完全に読心されてること察したか - 33二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 06:59:40
この中じゃ一番魔法とか超能力染みたものに理解があるのアスランだな
ムウさんやクルーゼやヤキン終盤のキラのような特定の個人が近くに来たら感じられるレベルの空間認識能力が更に強くなったものと思えば読心能力もそこまであり得ないものでもない - 34二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 12:54:30
イングリット怖っ!
探りを入れる程度かと思ったら、立場を活かしてめっちゃ攻めてきた。
地雷を見付けては突いてるようなもんだから、そりゃあ空気も凍りつくよ! - 35二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 12:59:27
タネが割れてないアコードってこんなに怖いのか……
- 36二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 13:12:27
どこまで読まれるんだろう?
言葉や映像として思い浮かべたのは読まれるんだろうけど
一度に読めるのは何人とか無意識は読めないとか限界はあるよね - 37二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 15:54:25
アコード当人の情報処理能力しだいじゃないか?少なくとも情報の量に関しては。「100人分の思考を読んで」と言われても、
大勢人のいる所でのザワザワ音みたいになって誰が何考えてるのか分からない、とか。または、「少なくとも明確に思考して
いない情動などは、明確な情報としては読み取れない」ってのもあるかも。まあシンのように、「最初から何も考えていない」
という相手が来たら、完全にお手上げなのは確実ですな。
- 38二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 17:42:34
徹頭徹尾アグネス視点なのと本来の流れからかなり逸脱してる事もあって議長やファウンデーションがどう動くか読めなくて怖いな…
所詮人は己の知る事しか知らぬとは言うが… - 39二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 18:59:45
プラントにいるラクスがミーアなのは確実にバレたが議長と連携してるならまぁ元々知ってるよね
問題はミーアのことを誰がどこまで把握しているかが議長と繋がりがある可能性の高い人間に露見した件
まさかレイが離脱した代わりにイングリッドでギルへの忠誠心を図りに来るとは…
アスラン脱走フラグが溜まっていく
ミーアの身もこれで安全とは言えなくなったぞ… - 40二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 19:16:24
これ、誰かが内心でラクス暗殺未遂(議長が怪しい)を思い浮かべたら大変な事に
- 41二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 20:07:56
- 42二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 02:59:35
窶れ顔のカザエフスキー最高評議会議員の閉めの言葉をお聞きして、長かった勲章授与式と懇親会がやっと終わる。
その瞬間の解放感に胸を撫で下ろしたのはプラント側だけではないだろう。各大使たちもホッと一息ついて、さっきまでとは打って変って柔和な表情を浮かべながら、各々お別れの言葉を述べている。
大使・使節の皆様も、やはり同じ人間。神経衰弱のゲームを想起させる時間経過に辟易していたのは私と同じだったのだ。
アグネス「(でも、そう言う仕事だから仕方ない。私達も似たようなものだもの)」
グラディス提督以下整列して、私は再び車椅子に乗り込んで来賓の方々を敬礼してお見送りする。病院の玄関を出ていくトラドール国務秘書官と少し視線が合う。
イングリッド「…」
アグネス「…」
何かを話すわけでもなく互いに目礼を交わし合う。なかなか手強い相手とお見受けするけれど、今は味方同士。協力し合わなければいけないわ。
イングリッド「よき夜になりますよう」
アグネス「はい。貴女にとっても」
彼女からの呼びかけに私も応じる。楽しい会食では無かったが、お互いの務め上仕方ない。『戦い』が終わったらノーサイドで行かなきゃね。
外国人の方々を見送った後、最後に肩をしょんぼり落としたカザエフスキー最高評議会議員もお見送りする。
カザエフスキー「忠勇なるザフト軍諸君諸姉、どうか今後も一層奮励努力されたし…。私達政治家もなすべくを成すよう励みます。どうかそのことは理解してください」
そう詫びるというか釈明するような訓示をすると補佐の文官と共にとぼとぼ玄関を出て言ったわ。
アグネス「(やはり、何か言質を取られたのか…。どんなことを…)」
勇み足や嘘八百を言うような人物ではないはず。となると、口を滑らせたのは『嘘ではないこと』。
アグネス「(思うに『スエズ攻略戦は中止されておらず、出来るだけ早期に実行する予定である』とでも言ったのではないか。これなら『本当のこと』の範疇だわ)」 - 43二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 03:06:03
いずれにしろ、あれだけの圧を受けたら仕方ない。その先は国防委員会と最高評議会で考えるべきことだ。私がどうこう言える立場でもない。
お偉方を見送った私達も解散、グラディス提督と私は病室に帰る。
ルナマリア「メイリン、アグネスをお願い…。私は副官役の人と一緒に提督の下へ」
気丈な足取りで自室に向かうグラディス提督を心配したルナマリアが後を追おうとしている。それが良い。あの方は過労で倒れて入院して、やっと明日退院と言う時にこの仕打ち。勲章を貰って褒めてもらっている立場なのに罰ゲーム同然よ。
アグネス「提督をお願いね」
メイリン「分かった!お姉ちゃん」
ルナマリア「うん!」
エレベーターに乗り込む提督と副官役の下にルナマリアが滑り込む。明日の退院に向けた準備を手伝ったり、彼女の愚痴-は言わないにしても-話し相手になってくれる人が傍にいるべきだ。あのクルー一人では少し荷が重いだろう。
シン達はまた、向かいのホテルに戻る。
シン「じゃあ、お休み」
ヴィーノ「アグネス、受勲おめでとう」
ヨウラン「改めてな。せっかく点滴無しになったんだから、大人しくするんだぞ」
気の良い仲間たちは再度、順番にお祝いの言葉をかけてくれる。ホテルに戻った後、シンにも同様のことを話すのだろう。それとも男友達同士、二次会だろうか?
アグネス「ありがとう。皆もゆっくり休んでね」
シン・ヴィーノ・ヨウラン達「おう!アグネスも」
そう言って、皆ともお別れ。傍にはメイリンとアスランが残る。あれ?
アグネス「アスラン先輩は?メイリン…」
メイリン「アスランさんなら、歩哨のザフト兵に道具を借りに。授与された名誉の武器(拳銃)に盗聴器や爆弾が仕込まれていないか分解して確認するそうです。ついでにメンテナンスも。直ぐに合流するそうです」
アグネス「良い考えね。じゃあ先に部屋で待ちましょう」
メイリン「はい!」 - 44二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 03:15:15
次のエレベーターをメイリンと一緒に待つ間、うっかり車椅子で寝落ちしてしまう。本当に何の罰ゲームよ。
キュルルル~。キュルルル~。
夜の病院に響く車椅子の音で目を覚ます。響いているのは私の足元だわ。瞼をうっすら開けるとメイリンが病室前の通路、私を押してくれている。もうすぐ病室に着く。
アグネス「ごめん。寝落ちしてたわ」
メイリン「良いですよ。3分も経っていません。お疲れでしたから…。でも、そのままは不味いと思って…」
アグネス「ありがとう」
アスラン「本当に申し訳ない」
うわっ!アスラン、拳銃の手入れ終わったのね。ついでに寝顔も見られたわ…。軍隊生活だから関係ないわね、そう言えば。
アグネス「(思えば、嫁入り前に寝顔見られまくりね。職業上、当然か)」
アカデミーに入ってからの日常だというのに、ふとした弾みで一般女性のような感情が湧き上がってくるのは考え物だ。
アグネス「(いや…。ザフト軍-というよりは-ミネルバと月軌道艦隊の綱紀が厳正な故に、私たちザフト女性軍人は安心して軍に身を置けている。アスランも含む戦友たちが紳士で在ってくれて本当に良かった。軍隊によっては女性軍人が敵兵より、味方の男性軍人に恐怖しながら軍営生活を送らざるを得ないケースも多い)」
アグネス「アスラン先輩、お疲れさまです。メイリンもありがとう。入って下さい」
アスラン「ああ。失礼する」
メイリン「失礼します」
病室の敷居を超えた瞬間にやっと安全地帯に辿り着いたことを実感する。疲れた、もう寝たい。
アスラン「盗聴と盗撮のチェックをするから、少し待ってくれ」
メイリン「直ぐ済みますから」
安全地帯じゃなかったわ。まあ(仮)と言ったところね。 - 45二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 03:22:24
アスランとメイリンに部屋のチェックを任せている間に自分のデバイスを起動させておく。傷病休暇中も業務連絡のメールはお構いなしに届く。最悪だわ。
アグネス「(うん?国防委員会から…。至急、返信されたし…。シュライバー国防委員長からだわ)」
リモートのためのパスコード付き、緊急かしら。
アグネス「(厄介ごとの臭いがプンプンするわ。見なかったことに…は出来ないから。アスラン達と段取りを着けたら、折り返そう)」
だいたい、私は休暇中で、それにもかかわらず公務に出席した帰りだ。もう、ギブアップしたいのに。
アスラン「どうした?」
メイリン「盗撮、盗聴の恐れはありません」
アグネス「国防委員長から業務連絡が…。折り返さなければ、だからこそ先に」
そう言って車椅子から立ち上がろうとすると気を利かせたメイリンが傷ついた骨に注意しながら体を支えてくれる。ありがとうね。
そのまま、ベッドまで歩いて腰を下ろす。
アスランが気づかわし気な視線を私に送って来る。
アスラン「その…。すまない」
謝られても困る。話を進めよう。アークエンジェルとの会談の段取りをつけ、国防委員長殿に一応、つながらないことを期待して返信を掛け、骨折治癒治療を受けつつ就寝。予定が一つ喰い込んだだけだわ。
アグネス「失礼ながら単刀直入に。会見の日時と場所をお知らせ願います」
アスラン「明日の4時。西ユーラシア連邦デンマーク領ボーンホルム島。詳細な位置座標は直前に」
なるほど。ボーンホルム島、良いチョイスね。恐らくは。
アグネス「(スカンジナビア王国南部スコーネ県と西ユーラシア連邦ドイツ領及びポーランド領に囲まれている。ユーラシア連邦に残留したカリーニングラードにも近い。『真ん中』を考えたらここになった、と言ったところか)」 - 46二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 03:35:09
アグネス「丸見えではありませんか?
アスラン「それが狙いだそうだ。馬鹿なことをすれば、その瞬間に世界の晒し者になる。かえって安全だと」
アグネス「確かに」
確かに、変に隠そうとする方がリスクが高いかもしれない。
今の東部戦線とバルト海は、ザフトと西ユーラシア軍、それと対峙しているユーラシア連邦軍・地球連合軍、連合(実質中立)のスカンジナビア王国軍の3陣営が近接している。アークエンジェル(オーブ亡命政府軍)も含めれば4つだ。
その上、、地域の人口密度も高い。無理に隠れて会おうとすればボロが出る、という判断か。
『誰にも見つからない場所』が無いなら、その次に安全な場所は『誰からも見える場所』。
この話がアスランの下に来るまでにスカンジナビア王国には話が通してあるのだろう。
アグネス「分かりました。移動手段は?」
アスラン「民間機をザフト経由で借りていく。島内はレンタカーで移動。セイバーでは行かない。自衛武器は約束通り拳銃のみ。だから…、いざとなった時の命の保障は出来ない」
そう前置きした上で、アスランは俯き気味だった視線を上げて私の瞳を見つめる。
アスラン「着いて来てほしい。必ず君を守る」
アグネス「分かりました。行きます。ただ、国防委員長からのメールが気になります。先輩の元には?」
アスランの格好をつけたセリフはさらりと流して私は私の業務をこなす。世界は散文的なものだ。
アスラン「いや…。ああ!特別訓練課程のことじゃないか?君に教官の依頼だと思う」
アグネス「特別訓練と言いますと?」
アスラン「グフの量産計画が本格化して…。ハイネや君たちが乗っていたのは試作機だったから。それで、その第一陣が地球に届いたそうだ。試作機で抜群の戦果を挙げたのがハイネと君とレイだからその話だと思う」
そう言うことか…。その3人の内、レイは長期療養に突入し、ハイネ先輩はアビスでバルト海の制海権維持に奔走中、引き抜けない。それなら入院中で『手が空いている』私にと…。
何と迷惑な! - 47二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 03:38:47
メイリン「それに加えて、対デストロイ・対陽電子リフレクター装備大型モビルアーマー対策特別訓練の依頼だと思います。アグネスさんは量産機を率いてデストロイを撃破、グフを操縦して多数の陽電子リフレクター機を撃破した経験がありますので。その功績を買ってのことだと」
アグネス「メイリン何処からそれを…。いや、いい。言わないでね」
良かった。最悪な中でもマシな最悪だわ。断るしかないわね。そもそも、未だ操縦できないし。
アグネス「分かりました。少しの間だけご退出を。国防委員長に折り返します」
アスラン「分かった。外で待つ」、メイリン「待っています」
アグネス「手短にすませます。お相手次第ですが…」
そう言って、二人に一度部屋を出てもらう。扉から出るアスランの後ろ姿を見送りながら、さっきの言葉を何となく思い出す。
アグネス「(『着いて来てほしい。必ず君を守る』ね。言う相手間違えてない?まあ、意味合いも状況も違うけど)」
イケメンからあんなこと言われたら、コロッと恋に落ちたりしたかもしれない。中身のポンコツ具合を先に知っていて良かったと思う。ダメ男に引っ掛かるところだったわ。
顔良し、家柄良し、スペック良し、人柄良しで、猶もあれほど残念な人間もいると知れたことは大いなる収穫だったわ。
まあ、その人と明日死命を共にするわけだけど。違うか。明日『も』死命を共にするの間違いね。何時も通りだわ。
億劫だけど、必死に体を起こして病室の鍵を中から閉め、制服の寄れを直し、リモートワークの準備を手早く整えた後、手元のデバイスに秘匿回線のパスコードを打ち込む。
アグネス「(教官…。アホか!そもそも私は教官養成課程を修了していない。やれるわけないでしょう)」 - 48二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 08:17:23
- 49二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 16:01:18
保守
- 50二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 19:33:01
アグネスのアスランへの評価が一貫してブレないのが笑う
教官職へのお誘いかぁ議長の事があるからミネルバから切り離したいのでは? と疑いたいところだけど
陰謀論抜きにしてもアグネスの教官適正考えたらアグネスに教官やらせて対電子リフレクター装備兵器戦術指導させてデストロイクラスとやり合えるパイロット育てた方が戦力の底上げとして理にかなってるんだよなぁ
まして今のアグネスは名実ともに月光のワルキューレの二つ名に違わぬ戦果を叩き出してるエースでプロパガンダの広告塔としても使ってるから最前線で戦死でもされた日には前線の士気がガタ落ちになるわけで… - 51二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 19:41:56
しかし……イングリットにどこまで情報を抜かれたのだろうか。こうしてみると、アコードというのは情報戦における
反則技だという事が良くわかる。先手を打たれる前に行動できるか……いや、情報を抜かれたという自覚すら与えない
というのでは、正直対策の立てようがない。恐ろしい相手だ。せめて議長に情報が伝わって手を打たれる前に行動する
ことができれば……儚い希望か……。 - 52二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 04:44:00
アグネス「パスコードっと…」
カタカタと業務用デバイスにパスコードを打ち込んで秘匿回線を開き、国防委員長に通信を入れる。デバイスの画面は白いまま…。ありがたい、出ないなら出ないでくれた方が…。
シュライバー「おお。繋がった!ご苦労」
コールを鳴らして3回目、もうおなじみの顔になりつつあるシュライバー国防委員長の顔がデバイスの画面いっぱいに移り込む。
アグネス「はい!国防委員長閣下。直ぐにお掛け直しできず、誠に申し訳ありません」
ビシッと画面越しに敬礼してお詫びをお伝えする。普段、散々エアーマン扱いしているこの口髭が特徴的な御仁、タカオ・シュライバー国防委員長。その実、紫服(高級武官)のトップ、ザフト全軍を指揮する権限を有する大物なのだ。何時も、議長に丸め込まれているけどね。
私の敬礼に国防委員長は気さく気に返礼を返しながら語り掛けて下さる。
シュライバー「いや、入院中のこと。それも授与式・懇親会の直後に私こそ済まなかった。受勲おめでとう。君はプラントの誇りだ!」
アグネス「はい。ありがとうございます!」
裏表のなく祝意を表して下さるシュライバー国防委員長を目の当たりにして少し考えてしまう。
プラント最高評議会メンバーの内、国防委員会のメンバーはシュライバー国防委員長も含め、全員新任組だ。他はエドアルド・リー国防委員、アラン・クラーゼク国防委員、リカルド・オルフ国防委員。我らが頼もしき(嘘)エアーマンズ!
アグネス「(前大戦時の国防委員達。ザラ議長兼国防委員長、ユーリ・アマルフィ(ニコル先輩の父君)、ヘルマン・グールドは皆席を追われるか、世を去ったわ)」
ダイダロス基地で、そして今日の懇親会で目の当たりにしたカザエフスキー最高評議会議員の姿。『国家の最高意思決定機関』という厳めしい文言や『上層部(暫しば【無能な】という前置詞が付く)』という抽象的な概念じゃない。
アグネス「(生身の人間なんだ。彼らも…。そう改めて考えると見えてくるものもある)」
デュランダル議長政権その内実が-。 - 53二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 04:52:32
頭の中で閃いた考えを忘れぬ内に言語化して心のノートに書き留めておく。
アグネス「(まず、国防委員会。彼らは皆、最高評議会新任組でデュランダル議長の同期。さぞ仲が良いのだろうと思いきやさにあらず)」
今のところ、デュランダル議長が評議会をコントロールしているので亀裂は表面化していないが…。特にシュライバー国防委員長は、公の場でも個別事案に関しては議長に異を唱える局面も多く、必ずしも彼の手駒とは言い難い(その度にやり込められているけど)。
他の国防委員もしばしば議長を冷めた目で見つめている節がある。
無論、国としての最高指導者は最高評議会議長ではあるけど、デュランダル議長が開戦当初から高級武官・ザフト全軍を掌握していたかと言うと、それは違う。
アグネス「(実際、対ロゴス戦も彼らは事前に知らされていなかったらしいし…。もしラクス暗殺未遂事件に『第二容疑者』を挙げるなら、この方なんだけど…)」
画面の向こうで熱心に自身のお考えを訴えかけているこの御仁、はて、どうだろう?
シュライバー「今日の世界情勢は貴官が知っての如く、誠に容易ならざるものがある。あの恐るべき大型可変モビルスーツ・デストロイは量産化されていた、それも大気圏内で!
今後、何時、何処にその脅威が現れてもおかしくはない。連合軍は既に複数の大型陽電子リフレクター装備モビルアーマーを開発、量産化済みだ。誠に遺憾ながら、この方面で我が軍の対策が後手にまらったことを認めざるを得ない。このような状況を打開するためには…」
お祝いの言葉と昨今の世界情勢に関するシュライバー国防委員長のご高説に相槌を打ちながら、考える。
うーん。この人がラクス暗殺ね…。少なくともあのタイミングでそれをする動機があるようには思えないのよね。ラクスが『将来の政敵となるリスク』についても、文民のデュランダル議長と武官のこの人では脅威としての温度感が違う。
レース会場が違うのだ。 - 54二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 05:16:01
シュライバー「グレートブリテン島とドーバー海峡、大西洋は未だ彼らの勢力圏。北海の制海権もザフトは確保できていない。
フランスのカレー、或いはノルマンディー、若しくはユトランド半島、或いはジブラルタルにもし連合が上陸作戦を決行し、西部戦線が形成されてしまえば-。欧州の我が軍は2方面作戦を余儀なくされる!
そうでなくとも、大型陽電子リフレクター装備モビルアーマーと随伴機よりなる比較的少数の強襲隊が海岸線をゲリラ的に攻撃してくるだけで、西ユーラシア連邦と我が軍は-」
アグネス「おっしゃる通りです。大西洋側からの逆襲への備えを怠るべきではありません。大規模上陸作戦以上に少数精鋭部隊-大型陽電子リフレクター装備モビルアーマーと随伴護衛機から構成された小隊から中隊-が散発的に沿岸都市を襲撃する可能性は排除できません」
シュライバー「おお…!貴官もそう思うか!やはり、私は常々…」
画面の向こうで何やら嬉しそうな顔を浮かべている彼。普段、上司(議長)から否定ばかりされているから、本気で喜んでいるのかも…。
そう、やはりこの人にラクスをあの場で殺す必要性も動機もない。私に無いように。ポジションが違うのだ。
議長とラクスは例えて言うなら歌手同士、アイドル同士の争いと言える。伸るか反るか生きるか死ぬか、ファンや信奉者の奪い合いだ。
だけど、私は軍人でこの人もあくまで武官だ。戦う相手は現実(リアル)に存在する。国内の支持が『敵に勝つ』には不可欠、でもそれを目的に戦争をするわけじゃない。人を殺すわけでも勿論ない。どう表現したらいいか、難しいが思考回路が違うのだ。これが私的な諍いの殺人なら分かるが、公人としての立場のために人を殺すとなると。
アグネス「(『戦争は殺人ではない』が詭弁のきらいがあるとしても、暗殺は明確に殺人。やっぱり違うわね)」
彼も政治家で『議長になりたくないか?』と問われればYesだと思うし、私も将来の政界入りに興味津々だけど。今のポジションから距離が有る。良くも悪くも殺すまでではない。
私もラクスのことは好きでは無いし、何ならクライン派も打ち負かしてやりたいと思っている。ただ、ここで言う打ち負かすは文字通りの人殺しを意味しない。単に政争・出世争いで勝ちたいという意味よ。 - 55二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 05:23:47
第一、もうトップを取った議長ならともかく、この方は今より上に行こうと思えば次の選挙で評議会に再選される必要がある。万が一にも露見する可能性を天秤にかけて、それでもラクス暗殺を謀るだろうか?
アグネス「(そう考えると…。出世ポイント獲得でなく、いきなり相手の抹殺に及んだ動機を考えるなら、やはり本星は議長か…。何にせよこの人は白と判断して良いだろう。所感としても)」
何と無く、私は議長の『手駒』が潜伏しているのは国防事務局や広報局ではないかと踏んでいる。逆に軍の作戦本部や軍部隊そのものに議長の基盤は未だに存在しないのではないか。
アグネス「(そのためのグラディス艦長のミネルバ着任とフェイス濫用だったのだと思う。それと、ジャガンナート隊長のダイダロス基地司令官兼駐留艦隊司令官就任ね。軍の支持が本当にあればこんな搦手を使う必要もない)」
その策略は半分成功、半分失敗だわ。タリア・グラディスと言う一人の女性は議長に愛情を持っているだろうけれど、戦略的・戦術的観点では全く相いれないはず。と言うか、相当怒ってたわ。
最高評議会に関しても-。
未だ評価の別れるニュートロンジャマ―の地上投下。その開発者で旧ザラ派の一員たるオーソン・ホワイト最高評議会議員は普通に再選され、評議会に席を占めている。
この辺り、プラントの民意も一筋縄ではいかない。同じく再任されたアリー・カシム立法委員長(立法担当)も旧ザラ派だ。アスランの亡き母君の親友、ルイーズ・ライトナ―最高評議会議員も旧ザラ派だが、彼女も評議会内の実力者として政権に留まっている。
もっとも、カシム最高評議会議員を中立派と紹介するメディアもあるし、ライトナ―最高評議会議員は『旧クライン派⇒ザラ派⇒中立派寄り』となった経緯もある。
この辺り、激動の時代を生きる人間ならではの立ち回りだと思う。それを変節漢と呼ぶのは適切なことではないだろう。クライン派のジェセック最高評議会議員・司法委員は再選組、ザラ派政権でも警察を統括していた。
公務として真面目に励んでいただけなのだから、彼を責めるのもおかしい。エザリアおば様が公職追放で済んだのは、彼女を虐めると飛び火する人物が多すぎるという面もあったのだろう。立場は彼と何ら変わらない。末期の暴走に彼女は関与していない。 - 56二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 05:29:46
シュライバー「ニューミレニアムシリーズ、次期主力MS選定コンペティションでザクウォーリアを次期制式量産機に決定したこと自体は正しかったと今でも確信している。しかし―。あの時は、よもや大気圏内でこれほどの規模の戦争が勃発し、かくも長期間続くとは思いもかけなかった。そうであったなら、空戦能力を持つグフイグナイテッドの同時選出も考慮するべきであった…」
口惜しそうに語る彼の話を聞き、また気が付く。ちぐはぐなんだ。議長肝いりのセカンドステージシリーズはカオスを除けば、誰がどう言い訳しても地球上での戦闘を意識したもの。
アグネス「(それなのにグフは落とす?まあ、そう言うことは歴史上よくありがちではあるけれど。でも多分…。やはり、ザフト軍上層部が揃って『ユニウスセブン落下テロ後』に備えていたわけでは無いのね…)」
当たり前な話だけど…。少し安心したわ。流石に上層部全部グルだったら、この軍服を纏ったままではいられなかったかもしれない。
何やら、回想シーンに勝手に入っている国防委員長殿は置いておいて、考察の続きをする。
アグネス「(新任組の内、国防委員会4人組はあまり議長派と言った風はない。デュランダル議長から見て先輩評議員4人の内3人はザラ派にも縁がある。新任のアダマン最高評議会議員は如何にも小物だけど、ポジション不明)」
となると、純粋に議長の『手駒』と言えるのはオーベルク最高評議会議員、そしてカザエフスキー最高評議会議員の二人。うーん。あの二人、悪いこと出来なさそう。あくまで『表側』の側近と言ったところね。
順序だてて考えるなら、デュランダル政権は今も猶、薄氷の上に成り立っている砂上の楼閣である、と感じざるを得ない。
彼自身が研究者上がりなこともあり、最高評議会はもとより、軍内部、政府高官(パパがこのポジション)にも確固とした基盤が無い。
ただ、ギルバート・デュランダルと言う男は場の空気を支配し、勢いを掴むのが上手い。仕込みもしているだろうし、運もあるだろう。でも、その『何となくそう言う空気だった』で時代は動く。それをコントロールできる人間が何と恐ろしいことか。
『何と無く』、私達は議長の権力が絶大でプラント全てをコントロールしているとイメージしてしまう。けれど、それは間違い。そう思わせるのが、それが彼の手口。 - 57二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 05:37:40
『空気』を『現実』に変え、その『現実』を用いて『一回り大きい空気』を作り出し、さらにそれを『一回り大きい現実』に変換する。それの繰り返し。科学者と言うより錬金術師みたいね。
取り留めもなく、あの日のことを思い出す。アーモリーワンからの慌ただしい出港、モビルスーツ格納庫で彼女は叫んでいた。
カガリ「議長は嬉しそうだな」
デュランダル「嬉しい、という訳ではありませんがね。あの混乱の中から皆で懸命に頑張り、ようやく、ここまでの力を持つことが出来たというのは、やはり…」
カガリ「力か。争いが無くならぬから力が必要だと仰ったな、議長は」
デュランダル「ええ」
カガリ「だが!ではこのたびの事はどうお考えになる!」
カガリ「あのたった3機の新型モビルスーツのために、貴国が被ったあの被害のことは!」
デュランダル「だから、力など持つべきではないのだと?」
内心ではアスハ代表の言を戯言とまでは行かずとも理想論に過ぎないと思っていた。今から思い返すと…。
いや、それでも結局、私はセカンドステージシリーズ開発を支持しただろう。無論、片面的な軍縮など屈辱だ。国家の存立を危うくする。それに国の象徴として綺麗ごとを言うことも、国家元首・君主の務めだ。
私は王家の生まれではない。ワンランク下、貴族みたいなもの。立場的にはもう少し足元を見なければいけない。
ただ-。もし、議長がアーモリーワン事変さえ作為にしろ不作為にしろ関与したなら。もし、そうならあの場で死んだ兵達が余りにも浮かばれない。思い過ごしかもしれないで在って欲しいもう、今更、証拠が残っているとは思えない。
アグネス「(ただ、斃れた彼ら彼女らとそのご遺族だけは真実を知る権利があったはず。もし、私が知る日が来たとしても握りつぶさざるを得ない、その真実を)」 - 58二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 05:49:33
シュライバー「そうして、この『ZGMF-X2000』を『ZGMF-2000』として、大気圏内空戦と何より陽電子リフレクター搭載機に対抗するため、制式化するに至った。
既存の、或いは、これから配備される予定のモビルスーツと合わせ、地球連合軍の大量破壊兵器からプラント・ザフト及び友軍、友邦を守る切り札としたい。
そこで、『ZGMF-X2000』を駆り多大な戦果を挙げ、また、ミネルバと共に大気圏内の海・空・陸上を転戦、大気圏降下作戦の経験も豊富で、先の戦闘では量産機を率いてデストロイを追い詰めた貴官アグネス・ギーベンラートに彼らの教導を任せたいと思っている。どうかな?」
一気にそこまで喋り切ると、シュライバー国防委員長は流石に疲れたのか、こちらの返事も聞かず手元のコーヒーをぐびぐび飲み始める。あ~。コーヒー飲めて良いな~。
アグネス「(うん...?ああ…。うん??)」
アグネス「国防委員長閣下のご高説、誠にごもっとも。そこまで小官をご評価いただき大変な名誉に思います。しかし、小官は教官教育課程を修了していませんし、負傷も…」
シュライバー「皆まで言わなくても良い。負傷のことは知っている。貴官はシミュレーターと座学で良い。病院から通いで出来るよう万難を排す。軍医や看護師も帯同して構わない。カリキュラムも貴官に一任する。必要な機材などが有ったら叶う限りのことはする」
こいつ!治る前からやらせるつもりだったのか!?じゃあ言ってやろうか!!
アグネス「必要なものとしてはデストロイ、ザムザザー、ゲルズゲー…。月で撃破した機体とクレタ島で撃ち落とした機体を修理して最低、2機ずつ揃えて下さい。部品は…。たくさん撃ち落としたので足りるはずです。既に軍が回収しているかとは思いますが…。
復元した機体の内、1機は模擬戦仕様、もう一機は-完全なものを。最終テストで使います。デストロイはそのままではコーディネイターでも動かすのは難しいでしょう。複座式に改造するなどの工夫を」
『万難を排す』『叶う限り』と言うなら、やって見せろよ!
私が言ってみると案の定、シュライバー国防委員長は驚愕する。もっと驚かせてあげるわ。
アグネス「小官には移動手段がありません。必要ならシャトルと旅客機の貸し出しを。リモート講義を安全に行うための秘匿回線もお貸し願います。それと…」 - 59二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 05:59:01
少しかまをかけるか。彼の国防委員長閣下の『本音』を聞くまたとない好機だ。明日のため、逃すわけにはいかない。
シュライバー「ま…。まだ何かね?」
アグネス「明日は午後から公務があります。もし、国防委員長が明日からの教導開始をお考えならご配慮を願います。それから-。小官が真の脅威と考えているのはデストロイではありません。アークエンジェル級強襲機動特装艦とムラサメです」
私の言葉を聞くやシュライバー国防委員長はすごい剣幕で私に迫る。
シュライバー「あ…。アスハ代表達を手にかけようというのか?!」
良し!良かったわ。ザフト軍上層部はアスハ代表達を現段階では敵視していない!
アグネス「(人を怒らせて本音を聞き出そうなどと…。それも遥か雲の上の上官を。私もアホになったわね)」
だが、これで明日の会談の成功率はぐっと上がったわ。まあ、それはそれとして誤解は解いておかないとね。
アグネス「違います。アスハ代表とアークエンジェルを討つというなら、私が彼らに撃たれる覚悟で説得に赴きます。そうではなく、地球連合がかつてドミニオンを建造したようにアークエンジェル級強襲機動特装艦を複数建造して実戦配備することを恐れているのです。ムラサメにしても小官はオーブ国民を戦禍に巻き込むことを望んでいません。ただ、連合が彼らを脅迫して機体や開発データの提供を強制するのではないかと恐れているのです」
せっかく自分に好意的に接して下さっている方の不興を買ってはいけない。さっきの言い方は赤点だ。幾ら何でもどうかしていたわ。
そんな私の内心はどこ吹く風でシュライバー国防委員長は深刻な顔で考え込み始める。
シュライバー「な…。なるほど。もっともな懸念だ。しかし…。デストロイや他の3機体とは違いアークエンジェル級やムラサメを訓練のためだけに復元するのは難しい。そちらは暫く、何とかシミュレーターで対応して欲しい。ラミネート装甲を使ったレプリカ艦ぐらいなら何とか…。いや…。陽電子砲ならこちらにもノウハウが…」
何やらぶつぶつ考え込んだ後、ようやく思い出したように再度、私の方を向く。
シュライバー「では明日から早速お願いする。一応、教官養成課程を超短期卒業した体にするから今から簡易修了試験を受けてくれ。グフの部隊はジブラルタルから、ドイツのラムシュタイン空軍基地に移動中だ。よろしく頼む」 - 60二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 06:20:09
国防委員長がそう言った瞬間、デバイスに『速成教官養成課程卒業試験』と題されたメールが届く。
アグネス「あの…。口頭試問は如何しますか?」
私はアホか!聞くのはそこじゃないだろう!
シュライバー「今までのが面接だ!合格!物おじせず祖国と軍を憂う姿、200点満点だ。筆記は安心したまえ」
アグネス「いえ…。下駄をはかせていただかなくて結構です。自分のためにも周囲のためにもなりません。何より先人に無礼は働けません」
テストぐらい自分で何とかしないとダメだろう。上手く不合格なら…。いや、プライドが許さない!
ただ、私の言葉が多少胸に刺さったのか、国防委員長は少し神妙そうにこちらに視線を寄こす。
シュライバー「私のことを負傷兵に無理強いをする酷い上官と思うだろう。その通りだ。ただ、目下状況は逼迫している。あの機体が次、出没する先がカーペンタリアやジブラルタルでないと誰も保証できない…」
一応良心の呵責は有ったのね。
アグネス「小官…。私が思うにその2カ所の可能性はさほど高くありません。より危険なのは黒海・コーカサス、次にカスピ海沿いでしょう。セバストポリもアストラハンも無傷です。カスピ海に関して言えば、アストラハンだけでなく、その上流、ヴォルガ川西岸ヴォルゴグラードも。ただ、『スターリングラード』を陸から攻めるべきでは無いでしょう」
真面目に話して下さったので、真面目にお返しする。お互いにクールダウンしないとね。
シュライバー「そうだな…。ああ。そうだとも…。すまない。勢いで吞めば良いという態度で君に接したこと、申し訳なく思う」
そう言って目礼されたら、此方も応じざるを得ない。
アグネス「いえ…。ただ、もう一つだけ。私の所属はどうなります。それと訓練期間はどの程度を見込まれていますか?」
シュライバー「議長は相当急いでおられるから…。ただ、座学・シミュレーター・機体訓練合わせて各員に最低100時間は頼む。デストロイは何時出るかも分からないから、無理を言うが許して欲しい。治療に響かないように最大限配慮する。貴官の希望は可能な限り聞く。デストロイとザムザザー、ゲルズゲーの件は承知した。所属はそのままで。詳しくは修了試験を返却する明日、午前に改めて伝える」 - 61二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 06:27:21
アグネス「(何か論文試験まで合計すると制限時間5時間とか書いてあるけど、私にほぼ徹夜しろと言うこと?)」
シュライバー「君の犠牲的精神に心からの感謝を。お休み」
画面の向こうの口髭紳士は綺麗な敬礼を遥か大気圏の彼方より送って来る。
アグネス「はい!」
うっかり-と言うか習性で-返事をして敬礼を返してしまったわ。自国の国防大臣兼統合作戦本部長に敬礼されて返事を拒める者のみ私に石を投げよ。正直、議長なら拒めた。国防委員長は難しい。
アグネス「(シビリアンコントロールがぁ!とか、怒る人もいるでしょうけど、人情的というか心理的な距離感としてね。それでも人道・戦争犯罪の命令なら拒むけど、自分を守るためにも)」
私の敬礼を見て、安心したのかもう一瞬、拝み倒すような視線を投げかけた後、人騒がせな国防委員長は画面から姿を消した。
彼が消えた画面をぼうぅと見つめている内にやっと現実感が戻って来る。大変なことを承諾してしまった…。最悪だ。
アグネス「(ああ…。でも、明日の午後は空けてもらったから。じゃなくて今からテストを)」
もう嫌だ。
アグネス「アスラン先輩、メイリン。終わりました」
ともあれ、外の二人にインターホンで呼びかける。ああ…。取り消したい。数十秒前の自分をぶん殴りたい。 - 62二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 07:45:22
>>61「愛される価値があるのよ!」
この世界のアグネスはそんなこと言わなそうだけど、言ったら言ったで皆頷いてくれるな…辛い顔しながら
- 63二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 09:29:35
国防委員長は白だと所感を得られた収穫と引き換えに増える仕事で徹夜コースワロタ
アグネスの行動力が結果としてアグネスを雁字搦めにしてるのがなんとも…
最高評議会もかなり危ういバランスで成り立ってるけど入院患者を酷使するザフト軍の層の薄さも軍組織としてかなりマズイ - 64二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 13:22:43
元々人口6000万の国で、格上の地球連合相手に二回も国家総力戦やらかして、大損害を二回も被ったのだからこうもなりましょう。
マジでプラントの人口、出生率低下以前に減少方向に転じないか?単純に自然増が見込めるほどの人数がいなくなった、という理由で。
史実のWW1直後のフランスみたいに。
- 65二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 13:40:02
シュライバーポイント100000000ポイント獲得!
- 66二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 22:08:43
保守
- 67二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 01:54:44
鍵を開けて二人を迎え入れようとして、はたと思い出す。ザムザザー、ゲルズゲーに加えてユークリッドも必要だった。言外に伝わっていたようだけど、心配だわ。
アグネス「(業務メールを送っとこう。『ユークリッドも復元、準備をお願いします。各機2機は最低ライン。多いに越したことは有りません。黒海・コーカサス、カスピ海に加え、アフリカも警戒すべきです。南アフリカ・オルドリン自治区に加え、アフリカ共同体にも注意喚起を、と』)」
カタカタ打ち込み国防委員長に送り付けておくわ。『アフリカ』が範囲として広すぎる言い方なのは分かっている。でも、これ以上のことは分からない。
デバイスを閉めて、鍵を開錠、アスランとメイリン二人を中に入れる。
アスラン「あ…。アグネスどうした?泣いているのか…」
アグネス「泣いてはいません。泣きそうになっただけです…」
実際半泣きになっていたけれど、あまり人に見せたい姿ではない。泣き言を言うな!それで状況が良くなるわけでもない。
メイリン「断れませんでしたか?」
アグネス「ええ。まあ、そんな感じかな。でも考えてみれば、入院しながら仕事を続けている人も、病院から通勤する者も世の中には大勢いらっしゃる。その中の一員になったということ。末期がんでも最後まで仕事に精進する方もいらっしゃる。凹んでいる場合じゃないわ」
そうだ!私は何時の間に志の低い人間になり下がったのか?!しっかりしろ。徹夜が何ほどのものだ。レンジャー訓練中の兵士の前でそれ言える?サバンナでも同じこと言えるのか!
気を取り直し、二人に掻い摘んで事情をお話する。アスランは驚愕し、メイリンは半ば呆れ、半ば本気で心配そうな表情を浮かべるが、心の整理を着けた今の私は無敵だわ。
メイリン「分かりました。お手伝いできることがあれば何でも言って下さい。いざとなれば『特務隊権限』で私を徴発して結構です。副長やアビーさんとも相談して動けるようにしますので」
アグネス「ありがとう。気持ちに甘えまくっちゃうかもしれないわ」
メイリン「ええ。どうぞ!」
私の覚悟が固いのを見て取ったメイリンが嬉しい申し出をしてくれる。今回ばかりは肉体的にも精神的にも他人に頼りまくるしかない。彼女の献身に報いる道も考えたいが、それは明日以降考える。 - 68二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 02:00:38
アスラン「何か…。本当に申し訳ない。明日の午後、それでも同行する気でいてくれて、何と言うか。ありがとう」
アグネス「自分を含む全ての人々のためです。さて、申し訳ありませんが、そろそろ…」
二人を追い払うようなことはしたくないが、『速成教官養成課程卒業試験』を1分1秒でも早く開始しないと睡眠時間が無くなるだけだわ。
アスラン「ああ…。分かった。健闘を祈る」
メイリン「お…」
メイリンが『おやすみなさい』を言うべきかで戸惑っているので此方から言ってあげよう。
アグネス「おやすみ、メイリン」
メイリン「おやすみなさい。アグネスさん。試験頑張ってください」
アグネス「うん」
そう言って、病室から二人が退出するのを見送る。やっと、一人の時間ができるわ。言うほど一人じゃないけど。
デバイスを再度、開き試験一時間目を即座に開始する。1限は基礎科目60分、2限が基礎応用科目60分、3限に応用基礎60分、4限発展応用60分、5限に小論文60分。
アグネス「(2限目まで回答して送信したら、ナースコールして骨折治癒装置をお願いし、鎮痛剤を飲んで残りをこなすしかないか)」
一体、私の夜は何時終わるのか…。
ピピピピピ。ピピピピピ!ポチッ!
タイマーを憎しみの籠った拳で殴りつけ、黙らせる。朝9時00分だわ。
看護師「おはようございます。ギーベンラートさん」
アグネス「おはようございます」
意識が戻った瞬間に経皮骨折治癒ジェルと骨折治癒装置の作用による発汗でドロドロになった体の気持ち悪さに襲われる。 - 69二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 02:15:27
『気持ち悪い』と感じられることは良いことだ。本当に弱っていたら、自分がどんな状態になっても快不快さえ感じられなくなっているはず。
看護師「当院は、本当は夜更かし厳禁なんですよ。院長先生もすっかり怒ってザフト軍にクレームの電話を入れていました。それと名刺交換を成されたばかりのカザエフスキー最高評議会議員にも抗議の電話を。先生なんかカンカンで-」
アグネス「ええ…。カザエフスキー評議員もお気の毒に…」
看護師「気の毒なのはギーベンラートさんでしょう。まったく!信じられない。夜の3時近くまで実質拘束とか。大気圏の向こうの御方達はお気楽でいいですね」
もう顔なじみになったベテランの看護師さんは体温、脈拍、血圧を測りながら私に衝撃の事実を知らせてくれる。
アグネス「(何だか…。正直嬉しい。『軍にクレームなどけしからん!』と何時もは思うくせに…。我ながら現金なものだわ)」
それでも自分のために怒ってくれた人がいてくれたのは素直に嬉しい。まあ、カザエフスキー評議員はそう言うのを受け止めるのも職務の内と思って頑張って欲しい。2期目が有れば生きるはずだわ。
看護師さんと軽く話し終わると、急いでシャワーを浴びに行く。もう自分だけでも浴びられるわ。左側を労わりながらじゃないといけないけれど。
医師の指導通り、体に負担を掛けない微温湯で体のドロドロを洗い流す。自分で出来ることが少しずつ増えていくのはとても嬉しい。何だ、嬉しいことばかりじゃないか。私の人生、捨てたものじゃないわね。
シャワールームから戻ると、朝食が届けられている。柔らかいパンと牛乳、そしてオリオ・スープ風ごった煮スープ、良いわね。
病院の定刻を過ぎた朝食、食べながらデバイスを開くと業務メールが入っている。
アグネス「(試験結果は合格。『ザフト軍モビルスーツ戦闘技術教官資格』をゲットしたわ。あ~あ。疲れた…。基地に着いたら資格証明書等を受け取らなきゃだけど…)」
メールをパパッと確認すると、今回の任務の詳細が改めて記されている。ドイツ南西部ラムシュタイン空軍基地に到着したグフ隊は1個大隊48機、これに対陽電子リフレクター装備機戦訓練のため参集させたバビ、ディン、AWACSディンも含めると総計100機。 - 70二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 02:26:38
アグネス「(突然、1個連隊の教官か…。一人でやる訳じゃないとは言えきついわね)」
ありがたいのはバルト軍管区から旧ギーベンラート飛行隊のメンバーが補助教官に数名選抜され、駆けつけてくれたこと。中にはあのAWACSディンパイロットもいる。頼りになるわ。副教官はシホ・ハーネンフース先輩、ジュール隊から一時出向中とのこと。
アグネス「(と言うより、『ZGMF-2000』の宇宙での訓練を実施していたのがジュール隊だったらしいわ。そう言えば、イザーク先輩もグフに乗っていらっしゃるから)」
何にしろ教官ミーティングを設定しなければならない。シホ先輩達に連絡しなければ。
業務メールを送信した後、配膳を下げていただき、そそくさと着替えを済ませる。新しい略綬も加えた制服を着こみ一旦、病室を出る。
病院1階のホールにはグラディス提督とルナマリア、副官役、そして迎えのミネルバクルー達が集まっている。提督の退院日は今日。何とか間に合ったわ。
アグネス「提督、ご退院、おめでとうございます」
エレベーターから出た瞬間、彼女から敬礼してくれるので即、返礼してお祝いの言葉をお伝えする。私が歩み寄ろうとすると彼女から私に向かって歩いてくる。
タリア「ありがとう。貴女、大変なものを引き受けたわね」
アグネス「プラントとザフト、友邦のためとあれば。断れませんでした」
私の返事で全てを察したのか、彼女は視線を和らげ、励ましの言葉を掛けてくれる。
タリア「夜中に国防委員会からの連絡で起こされてしまったわ。その時は災難だと思ったけど、貴女ほどではないわね。いかなる事情が有れども、一度引き受けた以上精勤せよ」
アグネス「はい!」
そう言うと、もう半歩此方に踏み込んでコッソリ、メッセージを伝えてくれる。
タリア「私もザフト軍の空戦力不足は心配していたし、陽電子リフレクター装備機の脅威も軽視するつもりはない。貴女が教官に選ばれたことは月軌道艦隊・ミネルバ・特務隊としても心強い。私も協力は惜しみません。さっきと言うことが矛盾していると言われるかもしれないけれど、気楽にやりなさい。『午後の件』も上手くいくよう祈るわ」
アグネス「はい。ありがとうございます。提督もご自愛ください」
そうして、皆を病院から見送り、また慌てて病室に戻る。忙しい1日がまだまだ続く。 - 71二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 09:14:21
大変は大変だけど、市街地で大規模戦闘するよりは気持ち的にマシだろうか…飛行隊の仲間と再会できるのも。
なあに、一度講義すれば、あとは録画した動画を配信しとけばいけるって!(無責任) - 72二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 17:22:47
☆
- 73二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 18:12:28
病室に帰ると40秒で支度を整える。業務用デバイスなどをぶち込んだ仕事鞄を準備、略綬いっぱいの制服に一応、軍帽を被り軍用コートを羽織って準備完了、忘れ物が有っても何とかするしかないわ。
病室から出ると部屋の前にはメイリンとアスランが待ってくれていたので敬礼を交わす。
アグネス「おはようございます、アスラン先輩。おはよう、メイリン」
アスラン「おはよう」、メイリン「おはようございます、アグネスさん」
メイリンは昨日の約束を守ってくれていた。彼女はあの後、入院中だったグラディス提督とキールのミネルバ両方とコンタクトを取り、私の今回の任務の副官役を申し出てくれていたのだ。グラディス提督とトライン副長も『ミネルバの任務と調整可能な限り』許可して下さったそうだわ。
アスランは午後の予定の主役だが…。午前にも少し用事が出来たかもしれない。
アグネス「それでは参りましょう」
アスラン「ああ」、メイリン「はい!」
目的地はドイツ南西部ラインラント=プファルツ州ラムシュタイン空軍基地。西暦時代はヨーロッパ最大のアメリカ空軍基地であり、NATO軍の連合航空軍司令部も所在した。
C.E.においてもユーラシア連邦軍の西欧・中欧における最大拠点であり、地球連合軍も重宝していたのだが-。動乱の時代では瞬く間に様相が一変してしまう。
アグネス「(今は西ユーラシア連邦軍・ザフト軍共有基地に看板を変えたわ。中の人員・武装・兵器ごと陣営を変えてしまったわけだから、短慮なんて起こすものじゃないわね)」
3人で軽くお話しながら、エレベーターで病院の屋上に登る。屋上へリポートには連絡用ジェットファンヘリが既に待機して下さっているので、皆で乗り込む。勿論、このヘリでラムシュタイン空軍基地まで飛ぶのではない。これでベルリン・ブランデンブルク国際空港まで飛んで、そこでプラントがチャーターした旅客機に乗り込んで基地に向かうのだ。
メイリン「私、ファーストクラスは初めてです」
アグネス「そう?まあ、40分とは言えその間も仕事しないといけないからね」
アスラン「すまない…」
アスランが意味不明に謝ってくれるが、それには適当に相槌を打ち、私はデバイスを開くと仕事を再開する。やらなければいけないことが山盛りだ。
乗り換えを挟みながら、二宮金次郎状態よ。別に忙しいアピールをしたいのではなく本気で忙しい。 - 74二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 18:28:01
先ず、基地司令官を始めとした方々や今回の訓練に協力して下さる整備兵等の名簿・プロフィールに目を通す。それから100名の生徒諸君のプロフィールも短い時間ながら必死に読み込む。
前大戦の際、勇んで戦地に飛び込んで来た若人たちもこんな感じだったのだろうか。アスラン先輩、イザーク先輩、ディアッカ先輩、ニコル先輩、ラスティ先輩、ミゲル先輩達、それにラクスのご学友たち。
少なくない者達が、あの戦争で今の私と同じくらいかそれより若く-いや幼く-命を散らせて逝ってしまった。ニコル先輩に至っては14歳でアカデミーを出て15歳で戦地に斃れた。母君を少しでもお慰めしたいけど…。
アグネス「(プラントの成人年齢が幾ら15歳とは言え、ナチュラルの国家で喩えても18、19、20になったばかり。あの時はそれが当然のことだと、みんな思っていた…。きっと今も)」
将来有望な若者、その中でも最良の者達が、親より先に早世してしまったことになる。その損失は国家にとっても甚大なものだ。それをまた繰り返すというのか?
アグネス「(なんて17歳の私が考えるのもおかしいけれど…。流石に15、16の後輩を自分より先に死なす気にはなれないわ)」
『俺も最後の1機で必ず後から続く』とか言っておきながら生き残るのは御免だ。それぐらいなら自分が先駆けになって敵陣をこじ開け、学校やストリートの名前になった方がよほど気が楽だわ。格好の良い銅像を建てて欲しい。まあ、死ぬ気はないけれど。
残りの28人の出身部隊や経歴は-前大戦期を生き抜いたベテランか、今大戦で名を挙げたエース、若しくはその両方ね。
アグネス「(なるほど。それでスーパーエースの私に声が掛かったのか。鼻持ちならないエースの重しになれて、若鳥たちとは歳が近いから。意固地になりやすいベテランも名誉勲章授与には敬意を払うだろう、と)」
グフ以外の生徒諸君の顔触れも当然確認。
AWACSディン4機、ディンは15機、バビ33機、計52機と同数のパイロットが参加か。
アグネス「(3~4個中隊ね。この戦局で良く引っこ抜けたものだわ。今回の100機で今後の作戦を戦うのか、或いは今回の訓練の成果を各部隊に持ち帰って共有する形をとるのか)」
そこまでは私が知る術はない。 - 75二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 18:36:30
今はともあれ1時間目の授業を考える。先ずは全生徒にこれまでの陽電子リフレクター装備機との戦闘の内、代表的なものを視聴させレポートを書かせなければ。
コックピット記録データ、母艦の記録データ、僚機の記録データだけでなく、西ユーラシア連邦が此方に着いたおかげで『敵目線のデータ』も確保してある。
そこからのどのような気付きを彼ら彼女らが得るのか。単なる操縦技術だけではなく、思考力や理解力を確認したい。
秘匿回線をオープンにして、必死に作業している内に気が付いたら、ラムシュタイン空軍基地の滑走路が目の前に迫っていたわ。
メイリン「アグネスさん、到着しました。10時30分です」
アグネス「ありがとう」
身体を思いっきり伸ばしたいけど、骨が治っていないから我慢する。今日もコルセットとバンドで体を守っている状態、エクステンデッドを笑えないわ。将来自伝書くときは絶対にこの恨みをぶちまけてやる。
旅客機を下りて、基地司令室に赴き司令官とご対面、ありがたい訓示をいただき『ザフト軍モビルスーツ戦闘技術教官資格証明書』を正式に受領する。
ラムシュタイン空軍基地司令官は2名。西ユーラシア側とザフト側1名ずつ、一応西ユーラシアの方が主でザフト軍司令官は副だそうだわ。
ラムシュタイン空軍基地司令官(西ユーラシア)
「…であるからして、東部戦線のみならず、カレー、ノルマンディーを始めとした沿岸部防御のためにも貴官の働きに期待するところ大であるから、どうかその力量と経験をいかんなく発揮するように!」
アグネス「はい!身命を惜しまず、任務に挺身します」
ラムシュタイン空軍基地司令官(西ユーラシア)
「心強い。頼むますぞ」
ラムシュタイン空軍基地【副】司令官(ザフト)
「流石フェイスだ」
アグネス「恐れ入ります」
二人の敬礼に返礼すると部屋を出る。そして改めて頂いた資格証明書を改めて広げて眺める。ふーむ。
アグネス「(考えてみれば教官養成課程をショートカットできたわけだから得をしたと言えばしたのかもしれないわね。再就職に使えるかも知れないし、その予定はないけれど)」 - 76二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 18:40:59
今、ザフト軍は人員不足を回避するためにリクルート活動に必死だ。一応、志願制が建前だから、『職場の魅力アピール』と言うやつをしなければいけない。
隊内で取得した免許・資格を非軍事部門・民間でも利用可能する動きが加速中だから、これも多分、教員免許なりパイロット資格なり、大型機械操縦資格なりと紐づけされるのだろう。
そんなことを考えながら、廊下を歩き休憩スペースで待って貰っているアスランとメイリンの下に向かう。部屋に入ると二人に凛々しく美しい黒髪の女性士官が話しかけていた。
アグネス「(シホ先輩だわ。やはり、こちらにいらしたのは…)」
ジュール隊長から訓練を引き継いできたのは嘘ではないだろうけれど、何かしらのメッセージを地上の私達に送って来てくれたと言うことだろう。
彼女は此方に気づくやパッと体の向きを正して私に敬礼して下さる。それを見て私も姿勢を正して返礼する。
シホ「お久しぶりです。今回の任務よろしくお願いします」
アグネス「お久しぶりです。こちらこそよろしくお願いします」
不味い。先輩が部下とか気まずくて死んでしまいそうだわ。年齢が近い分、余計意識してしまう。シホ先輩も口調がどこか他人行儀だ。これまで『隊長(年上・先輩)⇒隊員(私達がここ)』という関係に甘んじていることが多かったからこそ、苦労しそう。
この前の戦いは状況が状況だったし、士官学校の先輩後輩である分、余計に気を使ってしまう。
まあ、それはともかく…。
彼女と私、互いに歩み寄りながらこそっと会話を交わす。
アグネス「場所を移した方が良いでしょうか?」
シホ「そうしましょう。いえ…。ありがとうございます」
うーん。やはり慣れないな。
私がシホ先輩とおっかなびっくり話している横でアスランは物思いに耽っており、メイリンは何処か面白げにこちらを見ている。私は必至だというのに! - 77二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 19:50:04
これからアグネスがシホからイザーク経由での悪い情報を聞かされるに議長の魂を賭けるぜ!
- 78二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 00:53:29
シホ「一旦、私の部屋へ」
アグネス「女子寮にですか?アスラン先輩がいますが…」
女性士官室に男性を連れ込むというのはスキャンダルの基ではないか?
シホ「確かに…。では、屋外運動場のベンチへ」
皆から隠れられないなら、皆から見える場所で、と。確かに安全ね。
アグネス「名案です」
その場で言葉を交わしてアスランとメイリンにアイサインを送る。
メイリン「私も良いですか」
アグネス「勿論よ」
4人で移動を開始する。他の補助教官、特に飛行隊の仲間とも会いたいと思うが、後回しにせざるを得ない。
歩きながら、シホ先輩に語り掛ける。聞かれても良い内容はさっさと話してしまわないと時間がもったいない。
アグネス「訓練生に年少者が多くて驚いています。特にグフ隊のパイロットの内20名はザフトアカデミーを志願して繰り上げ卒業した後輩達。15歳、16歳の者も多い。彼ら彼女らがあの期の赤服ですか?」
さっき画面で目にした幼さの残る少年少女たちの顔が頭から離れない。ナチュラルの視点では私とて大して変わらないのかもしれないが…。
シホ「ええ。ジュール隊長もご心配していました。せめて卒業まで待てないのかと説得もしたのですが…。隊長も私達も彼らも、結局は似た者同士なので中々上手くいかず。成績上位者だけあって腕は抜群で覚えも速いですが、危うい」
アグネス「確かに…。私達の代とて似たようなものでしたから。分かります」
イザーク先輩が一度、説得して猶も地上に来てしまったのなら、もう何ともならないわ。ともかく教え込むしかない。
アグネス「(後輩たちの生死の心配をするのはもう少し先のことと漠然と思っていた。いろんなことが急すぎる)」
歩きながらシホ先輩と視線を交わし合う。考えていることは二人とも同じだろう。これまで、私は心配される側だった。一夜にして立場逆転とはね。 - 79二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 00:59:05
建屋から出てグラウンドに向かっていく。元気よく走る軍人達の姿が目に留まる。
屋根が有る休憩スペースに入る。一応、口元が監視カメラの死角になる位置に身を置き、周囲の盗撮・盗聴器が無いか確認した後席に着く。
アスラン「それで…。イザークは何と?」
シホ「ジュール隊長に関わりは有りません。私個人が勝手にお話しているだけです」
単刀直入すぎるアスランの質問を受けて、やや強い口調でシホ先輩が注意を促す。何かあった時に上司を巻き込むまい、と言う配慮ね。
アスラン「…すまなかった。シホの話を聞きたい」
アスランが少し怯んだように詫びると、シホ先輩もその謝罪を受け入れ、今日の本題を切り出して下さる。
シホ「プラントではサードステージシリーズと称されるべき最新鋭モビルスーツ群が、表向きセカンドステージシリーズとして開発されていました。その内の2機はジブラルタルに配備される予定です。これらの機体にはハイパーデュートリオンエンジンが搭載されています」
ほう。そんなものが開発されていたとは!
アグネス「(しかし、新鋭機の開発は重大事ではあるけれど。そのためだけに腹心をつかわすほどなのだろうか)」
深刻そうな表情を浮かべるシホ先輩の顔をついまじまじと見つめてしまう。『グフを実戦配備することになったのだ!』とか国防委員長が大真面目に言っている現状でそんなに慌てるほどのことなのか?
アスラン「ハイパーデュートリオンエンジン?セカンドステージシリーズの追加機体ではなくサードステージシリーズ…。何なんだ」
一方、アスランは耳慣れないエンジンの名前を聞き戸惑いの表情を浮かべる。確かに聞きなれない名前のエンジンね。
アグネス「(名前から察するに、今、セカンドステージシリーズに積んでいるエンジンの改良強化版じゃないかな。デュートリオンビームの充電効率が爆上がりしているとか、バッテリーの容量が大幅増加しているとか、そんな感じじゃない?)」 - 80二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 01:03:02
そう思っているとシホ先輩が驚愕の事実を告げてくる。
シホ「ハイパーデュートリオンエンジンは、ニュートロンジャマーキャンセラー搭載型核エンジンとデュートリオンビーム送電システムを併せ持ったハイブリッドエンジンです。核動力とバッテリーを組み合わせることで従来型核エンジンの数倍の出力を発揮可能になっている、とのこと」
おお…。そんなものを造っているとは。議長、最初からやる気満々だったのか。じゃあ!そのテロもやっぱり…、いや、それだけでは…。
アスラン「何だって!どうしたそんなものが!?」
アスランがガチギレ気味に台詞を言ってシホ先輩に眉を顰められている。
大袈裟なリアクションをするアスランのお陰で、沸騰しそうになった頭が急冷却される。予断を持つべき場ではない。今必要なのは事実だけだわ。
メイリンに視線を向けると彼女も首を軽く振る。これは知らなかったらしい。
戸惑う私達に対し、シホ先輩はあくまで冷静さを保って事情の説明を続ける。
シホ「こちらではハイパーデュートリオンエンジン搭載機を2種類確認しています。それは『ZGMF-X42S』ディスティニーと『ZGMF-X666S』レジェンド。
『ZGMF-X42S』ディスティニーは、この機体を主力にした特殊精鋭部隊『コンクルーダーズ』の編制が構想されており量産化が開始されています。部隊の隊長はハイネ・ハイネ・ヴェステンフルスが内定、彼専用機が既に製造完了しているとのこと。実機製造数は不明です」
デスティニー【運命】、レジェンド【伝説】、『コンクルーダーズ』【決定者達】。随分仰々しい。
アグネス「(既にフェイスが有るのにまた精鋭部隊…。独裁者は親衛隊を編成するのが大好きね)」
流石に『特別行動部隊』ではないことを祈りたい。祈ってどうにかなるものではないけれど。 - 81二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 01:09:19
シホ「また、製造された『ZGMF-X42S』ディスティニーの内、1機はシン・アスカ用のワンオフ機として製作され、パイロットは彼に内定しています。そのことは本人にも秘密とされています。それとこの機種の拠点攻撃用追加装備として『ゼウスシルエット』の開発完了が判明しています。このシルエットの詳細はまだ分かりませんが、地中貫通弾を撃つためのものとされます」
アグネス、アスラン、メイリン「!!!???」
何故にシンが?ああ、撃墜数から考えたらザフトトップは彼だから当たり前か…。しかし―。
うーん。なに、どうなっている?
シホ「それと、『ZGMF-X666S』レジェンドのパイロットには…。特務隊アスラン・ザラ、貴方が任命される予定となっています。お話は?」
アスラン「いや…。まだ何も…」
シホ先輩の話を聞いてアスランは目を白黒させている。私も何が何やらよく分からない。いや…。ここはオッカムの剃刀を発動するべき時。
アグネス「(新型ハイブリッド核動力モビルスーツが2種類と専用シルエットが1種類開発されていたこと。『ZGMF-X42S』ディスティニーのパイロットにシンが内定したこと。この機種を主力とする特殊精鋭部隊『コンクルーダーズ』の編成が開始され、ハイネ先輩が隊長に内定し、専用機も完成していること、他の隊員の分が完成しているかは不明であること。アスランが『ZGMF-X666S』レジェンドのパイロットに内定していたことまでは分かったわ)」
盛り沢山ね。しかし―。どういうことなのだろう?
アスラン「議長は…。もしや世界征服でも望んでいるのか?」
シホ「…隊長は貴方に謝りたいと。あの日、軽々しく帰って来いと言ったことに-」
アスラン「彼を恨んだことは無い!」
世界征服か...。いや、どうだろう…。そこまで誇大妄想に憑りつかれてはいないといないと思いたいが…。あの人のことをもう何も信用できないわ。元からしていなかったけどね。 - 82二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 04:51:38
忘れがちだけどレジェンドは元々アスランに渡す予定だったからレイが抜けても問題ないんだったな
寧ろ本編でレイがレジェンド乗るのが議長的にはイレギュラーだから - 83二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 12:20:57
- 84二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 14:08:26
これどうなるんだろ
- 85二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 17:20:28
- 86二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 22:33:16
- 87二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 22:46:52
議長は世界征服よりも質が悪い全人類の遺伝子への服従を望んでると言うね…
- 88二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 01:13:54
シホ先輩のお話を聞いてアスランは動揺を隠せないでいる。彼の慌てぶりを見ていると逆にクールダウンできるから、ありがたいものだわ。
アグネス「(冷静に…。冷静になって考えよう。開戦と同時にユニウス条約は破棄されている。核動力だろうとミラージュコロイドだろうと搭載すればいい。先に戦端を開き(アーモリーワンを含めれば立派な戦争犯罪)、先制核攻撃を行った地球連合軍が開き直ったなら道義的な責めを免れない。でも、プラントは和平を踏みにじられた側。それらの技術を採用する国内外の世論のハードルは低い)」
コンクルーダーズに関しても、その部隊が軍の統制下に編成されるなら、或いは少なくとも特務隊と同様に国防委員会・最高評議会の指揮下にあるなら民主主義的コントロールが一応担保された部隊と言うことになる。
アグネス「(レッドラインは-。コンクルーダーズが議長直属の部隊として編制された場合ね。そうなってしまえば、もう彼らはザフト軍とは完全に別の最高評議会も軍の統制からも離れたデュランダル親衛隊ないしは特別行動隊と言うことになる)」
そう考えて、シホ先輩に質問する。
アグネス「コンクルーダーズの詳細は分かりますか?彼らを指揮する権限はどの機関が保有しますか?」
シホ「申し訳ありませんが、分かりかねます。各地のエースパイロットを招集するのだろうとは予想できますが…」
私の質問にシホ先輩はほんの少し眉を困ったように動かしながらお答えくださる。そうか、じゃあ今はその部隊の性質について議論できそうではないわね。
しかし―。
この機体の開発速度、ユニウスセブン落下テロ以前から計画を進めていないと間に合う訳が無い。私が大っ嫌いあの条約をデュランダル議長は最初から踏み倒すつもりでいた。新型ハイブリッド核動力モビルスーツ、幾つ作ったのやら…」
クライン派の一員のような顔をして、カナーバの路線を引き継ぐように見せかけて、これだ!タカ派なんてものじゃない。国民も大部分のザフト軍人も出し抜かれた形だわ。
アグネス「(就任した直後から、対ロゴス戦を意識していたのか?最近の議長の振る舞いを見るに、国家間戦争よりそちらが彼の本命と考えるべきか…)」 - 89二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 01:24:32
いずれにしろ、ユニウス条約破棄と軍拡だけなら、私も支持したかもしれない。けれど、2年前、更に言えば開戦直前と今日では、何よりあの男の指導下で行われるなら、その社会的文脈は全く異なる。
パイロットとして、戦場を生きる軍人として強力な兵器は心強い。ただ、最高評議会と国防委員会に直属する特務隊としては、半ば戦略兵器に片足を入れている核動力モビルスーツの大量投入には警戒感を抱かざるを得ない。大量と言ってもコンクルーダーズも含めて、多くても1個中隊くらいだとは思うけど。
メイリンの反応を見ようと視線を向ける。すると彼女も困惑した視線を投げ掛けていた。流石にこの話題に関しては彼女もお手上げかしら。
ふーむ。前大戦の頃のザラ派は、特にエザリアおば様辺りは『ワシントンに旗を立てる』のを夢見ていた。ナチュラルどもを蹴散らし、憎き仇敵に城下の盟を強制する。ただ、その彼女でさえも、地球上の全国家をプラントの文字通りの意味の属国にしようとしていたかと言うと微妙なものだ。
今大戦に至っては、プラントの民意は早く戦争が終わって欲しい、の一言だと思う。自国の軍が勝てば喜ぶし、贔屓のパイロットが活躍すれば喝采を送ってくれるけど、それは別腹のはず。
アグネス「(ロゴスメンバーの逮捕にしろ、ファントムペインの殲滅にしろ核動力機が複数機どうしても必要か、と問われれば回答はNOだわ。あれば便利、ぐらいね)」
敢えて使い道を考えると…。スエズ攻略戦やグレートブリテン島上陸作戦、地球連合軍の最高司令部所在基地ヘブンズベース攻略戦等の大規模作戦の決戦戦力とする場合か。或いは相互に距離のある複数の戦場をその持久力を武器に連続転戦する場合とか?
前者の場合、それらの作戦を成功させ、重要拠点や都市を攻略して、条約締結国全体に停戦圧力を加えると言った運用は出来ると思う。講和条件の項目にロゴスメンバーの引き渡しと世界経済改革への強制参加条項を入れておけばこちらの面目も一応は立つ。
ただ、議長の望みが本当に和平と対ロゴス戦勝利にあるか、私は分からなくなってきている。
ディステニーにしろレジェンドにせよ、コンクルーダーズにしろ、その真の仮想敵は目の前の地球連合ではなく、後方の自国民なのではないか? - 90二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 01:45:10
これ等の兵器やコンクルーダーズ(親衛隊)の剣の切っ先はその実、プラント国内の反デュランダル派国民と本来の国軍たるザフト軍に向いていて、いざと言う時にその圧倒的武力を持って『反体制派』を弾圧することを密かな使命としているのではないか。
止めよう。考えても解答が転がっている訳じゃない。今聞くべきはシンプルに2つだけ。
アグネス「アスラン先輩、『ZGMF-X666S』レジェンドのパイロットを内示された場合どう対応しますか?お引き受けするかお断りするか。先輩は特務隊ですから辞退する際は上官である国防委員長に申し出る必要があろうかと推測されます」
アスラン「分からない…。正直混乱している」
正直なのが彼の美点だ。変にはぐらかされてもこの場では困る。
アグネス「では、コンクルーダーズ入隊の内示があった際も?」
アスラン「ああ…。分からない。君はどうする?いや…。もうこれ以上はダメだ!その時はお断りする。こんな事を続けてどうするつもりなのか、一度議長と話がしたい」
アスランの双眸から真剣な光が私の両目に飛び込んで来る。賢明で愚かだわ。どうしよう、この人まるでセンスが無い…。
ともあれ、私も自らの立場も明確にしておかなければならない。そうでなくてはイザーク先輩にもシホ先輩にも不誠実だろう。
アグネス「私も気が進みません。コンクルーダーズが軍の命令系統に属しているか、せめて特務隊と同様に最高評議会・国防委員会の下にあるなら、いざ知らず。そうでないならお断りします」
私の答えを聞いてアスランの張りつめた空気が一旦和らぐ。仲間がいてくれて安堵しているのか。彼のように強い人間もそうした所は変わらないのね。一安心するわ。ああ、ただ…、一つだけ言っておかなければ!
アグネス「レジェンドのパイロット単体なら引き受けて損はないかもしれません。ミネルバの戦力強化になりますし、何であれ力は必要です。中に遠隔起爆式の爆弾が入っていないか、整備班に要チェックしてもらいましょう。レジェンドのパイロット任命は他の件から切り離して、内示の内容次第で決断なさってはいかがでしょう?」
そうアスランに助言するとアスランは意外とすんなり受け入れてくれる。 - 91二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 02:12:39
アスラン「『思いだけでも力だけでも…』か。分かった。ただ、レジェンド受領がコンクルーダーズ入隊の条件なら、その部隊が単なる軍や特務隊の一隊でないなら断る」
懐かしい誰かの生き様をなぞるようにアスランは私の発言を受け止め、彼なりの答えを出す。
アグネス「ありがとうございます。私がお礼を言うのも何か変かもしれませんが…」
アスラン「いや、こちらこそ。しかし、議長はなぜ…」
また難しい顔をしだすアスランは放置して、今度はメイリンがシホ先輩に質問している。
メイリン「他にプラントで変わったことは有りますか?」
シホ「戦争増税と値上げ、戦争国債の購入の推奨。流石に餓死者が出るほどではないけれど、国民の負担感は増しているわ。無論、戦死傷者の増加も人々に影を落としている。その状態に皆が慣れてしまっていくのが本当に苦しい」
それはそうでしょうね…。戦死傷者もそうだけど、対ロゴス戦が始まって経済が混乱している友邦への援助も行っているから最悪よ。こちらは凍結資産も用いて立ち直る兆しも有るから良いとしても。
アグネス「(ファウンデーション王国の復興費の軍事費援助まで…。滅びても困るとはいえ)」
議長の贔屓も大概にして欲しい。
シホ先輩にその旨を離すと、またとんでもない話が舞い込む。
シホ「ファウンデーション王国宰相オルフェ・ラム・タオをデュランダル議長は高く評価していると言います。彼の国と議長の信頼関係はかなり強いようです」
アグネス「議長は何かあの国に縁でもあるのでしょうか?」
シホ「そこまではまだ把握できていません」
アグネス「そうですか…」
あのカスピ海のほとりにあるモンゴル帝国の末裔になぜそこまで入れ込むのだろう。中央アジア経由のコーディネイター難民の避難道になってくれているため?そのためだけにか?
アグネス「(世界地図を一目見て分かるように地政学的要所ではあるけれど。それだけとは思えない)」
トラドール国務秘書官、彼女の振る舞いも奇妙な点はないものの、強い目的意識が感じられた。何なんだ、一体。 - 92二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 07:31:22
借りパクせずに先に断るあたり、アスランは真面目だなあ。いや、さすがに借りパクは軍紀違反か…
- 93二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 15:14:59
保守
- 94二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 21:19:44
アグネスがこの先デスティニープランの全容知ったらあのインチキ議長本気でこの世界を実験室にする気だったの!? って唖然としそう
- 95二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 23:25:14
>借りパクせずに先に断るあたり、アスランは真面目だなあ。いや、さすがに借りパクは軍紀違反か…
真面目の前に「馬鹿」が付くたぐいかと思われ。……アスランよ、機会主義者になれとは言わん。だが、
せめて万が一の時に自分たちが少しでも有利になるような布石くらい打とうとは思わんのか?
卑怯だ卑劣だ信義にもとるとか言っててタヒんだらそこで終わりなんだぞ?
- 96二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 00:50:53
シホ先輩は他にも言おうか迷っていることもある風であったが、まだその時ではないと決めたのか、ここまでで話を打ち切る。
だがこちらはそれどころではない!
アグネス「(何とはなしに『独ソ秘密軍事協力』をイメージしてしまうわね。勿論、プラントとファウンデーション王国間の国交はヴァイマル共和国とソビエト連邦のそれとはかけ離れたものではあるけど。うん。違うな、力関係が違う。しかし―)」
もしやファウンデーション王国とデュランダル議長はプラントの頭越しに同盟関係を構築しているのではないか。そして、いざことが起きれば、ファウンデーション王国軍を『デュランダル派』の軍事部門に、彼の私兵なり『党の軍隊』の主力にするつもりなのではないか。
無論、それにはファウンデーション王国の協力が不可欠ではあるけれど。トラドール国務秘書官の話とシホ先輩の情報から察するに少なくとも議長とタオ宰相の信頼関係は強固に思える。
私は悠長に事を構え過ぎていたのかもしれない。まあ、そもそも怪我で動けなかった以上、どうしようもないけど。肝心なのは今!
アグネス「シホ先輩、先に行って補助教官達を呼び、ミーティングの準備を開始してください。直ぐに私も向かいます。カリキュラム全体の概略と1限目の講義の叩き台は先輩のデバイスにメールでお送りします」
シホ「分かりました。気をつけて」
申し訳ないけれど、シホ先輩に席を立ってもらう。彼女には彼女のお役目があり、私にも私のなすべきことがある。
アスラン「?」、メイリン「!」
シホ先輩が軽やかに走り去るのを見送りつつ、業務用デバイスを起動、道中作成してきたデータを秘匿回線で送信する。
良し、次。
アグネス「アスラン先輩、誠に申し訳ありませんが、ハウ氏にご連絡して会談の時間を早めることは出来ないでしょうか?今日に今日のこと無理は承知です」
アスラン「どうした?午後4時ではいけないのか?核動力モビルスーツとコンクルーダーズに関係があるのか?」
私の突然の直言に驚いたアスランは、思わず一度に幾つもの質問を投げ掛けてくる。まあ、これは私が悪いわ。昨日の段階でもっと詰めておくべきことだった。 - 97二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 00:57:55
アグネス「アスラン先輩、思うに私達が小舟を浮かべる時代の濁流は、うねりを増しています。この局面、1分1秒が金より重く、血より価値がある。半日を無駄にするべきではありません」
意図的に声のトーンを落としてアスランに心の内を打ち明ける。深刻に本気で話している、そう受けとってもらえるように目の輝きから体の角度まで調節する。
やがて私の意図が彼にも伝わり、その瞬間、アスランは表情を一変させ、頷く。
アスラン「しまった!『世界征服』と言い出したのは俺だったのに…。じゃあ彼はカガリやオーブも!」
そこまでは言っていない。話が飛躍し過ぎだわ。
ただ、アスハ政権のオーブをデュランダル議長が望んでいるかは正直微妙だと思う。プラントとしては、そしてザフト軍としてはソロモン諸島が中立地帯になってくれた方が良い。条約締結国が一つ減って、和平が結べた方が絶対に良い。
しかし、それは祖国の利益と言う意味で議長の利益とイコールではない。彼の望みが分からない以上、今は-。
アグネス「それは分かりません。しかし、予断を持つべきではありませんが、予測は立てるべきです。それに基づき、備えも。アークエンジェルがリトアニアのクライペダに長居するのは得策では無いでしょう。ムラサメ等を引き上げ、何時でも緊急出港できるよう準備も、とお伝えください。フラガ少佐の簡易鑑定は今日から行うべきです。細かく伝えられなくとも工夫を、メイリン!」
メイリン「はい!『今からの会話は録音されます』、レコーダーは置いておきます。アグネスさんと私は少し距離を取りますので、ご連絡を」
そう言ってメイリンと私は休憩スペースから一度席を外す。シホ先輩と同じこと、私達とアスランの領分は重なっているところと重なっていないところがある。レコーダーはいざと言う時の護身用、使わなければそれに越したことは無い。
屋根から出ると珍しく木漏れ日が体を優しく包み込む。ベルリンのどんよりとした空気と比べ南西ドイツの方が冬を過ごすには適しているのだろう。 - 98二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 01:04:32
こんな時こそ地中海に行きたいものだけど。
アグネス「(散々、血まみれにしたのは私達-いや、私自身だものね。もし、北アフリカ戦が有れば再度流血の海か…。いや、今日もあの海の何処かで護衛艦が轟沈され、輸送艦が積み荷ごと沈められている)」
それをどうにかできるのは先のことだろう。人は自分の手が届く範囲でしかことを成せない。士官学校を卒業して、パイロットとしてキャリアを積ませてもらった以上、この手をうんっと伸ばせるだけ伸ばすべきではあるけれどね。こじんまりしてたまるものか!
アスラン「二人とも!あちらは前倒ししてくれると。今日の午後1時だ。俺は今から伝えてあった基地の航空機を準備をする。11時30分までに来てくれ」
アグネス「了解、私はミーティングに出席してきます。出来れば生徒たちへの挨拶も」
メイリン「了解です。私は…」
メイリンはどっちを補佐すべきか迷っているが、それなら一択しかない。
アグネス「メイリンはアスラン先輩についていて。万事遺漏が無いように」
メイリン「了解です」
私にビシッと敬礼するメイリン。そんな私たち二人のやり取りを目にしたアスランが一言漏らす。
アスラン「二人ともすまない」
アグネス「いいえ」、メイリン「いいえ」
『それ以外に言えないの?』と内心イラっと来たが、おくびにも出さない。この感情が八つ当たりと焦りであることは自分でも分かっている。
ただ、ともかく時間を大事にするべきだ。それは私にも言えることだわ。
アグネス「(多分、私に割り振られた生徒100人が激戦地の真っ只中に投入されるのは遠くない。教えてあげられることは教えてあげないと。まだ、顔も合わせていないとは言え、こっちは彼らの写真も家族構成も経歴も目にしている。無惨に死んで良いほど罪深い人間は一人もいなかった!)」
アスランに敬礼して別れると基地建屋に滑り込みミーティング室に向け、ひた走る。まあ、怪我しているから、早歩きなんだけどね。 - 99二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 09:22:50
✩
- 100二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 16:07:33
保守
- 101二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 16:28:23
『それ以外に言えないの?』と内心イラっと来たが、おくびにも出さない。この感情が八つ当たりと焦りであることは自分でも分かっている。
アグネス聖人かよ…いや、女神様か
アスランはアスランで、「すまない」ばかりじゃなく「ありがとう」って言おうぜ。
まあこの時期は色々と迷って、ありがとうが出にくい時期だろうけどね…
- 102二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 01:18:31
建屋内を足早に駆け抜け、ミーティング室の扉をノック、中に突入する。
私が入室した瞬間、中にいた5人がまるで鞭で打ち付けられたかのように飛び上がって敬礼してくる。シホ先輩とバルト軍管区から出向して来た補助教官4名だわ。旧ギーベンラート飛行隊で共に戦った戦友達、あれから1週間経っていないなんて信じられない。
5名に丁寧に敬礼を返す。
アグネス「ご苦労。楽にせよ」
シホ、一同「はい!」
私が手を下ろすと、一瞬後に彼らの手も下りる。
アグネス「突然の任務に馳せ参じてくれてありがとう。今回の特別訓練課程任務、100名の参加者に十分な戦闘教育を施すのは容易なことではない。ただ、連合軍の大型陽電子リフレクター機の脅威は差し迫ったもの。特に『GFAS-X1』デストロイが戦略兵器として用いられた際、発生しうる事態がどの様なものか、我らの記憶に新しい。それらの兵器が地球連合正規軍によって運用される場合以上に、軍内のブルーコスモス派やファントムペインの手に渡り無差別大量殺戮に積極的に用いられることにも備えなければいけない。我らが負託された責任は非常に重い。全力を尽くそう!」
シホ、一同「はい!」
5人の勢いのある返事を頼もしく思う。軍人は簡潔明瞭たれね。
訓示が終わったので椅子を引き座ると皆もそれに続く。
アグネス「全力を尽くす、そう言っておきながら誠に申し訳ない。私はこの後、11時30分の便で基地を一旦立つ。早々で申し訳なく思うが、こちらも重大任務だ。理解して欲しい」
そう言って、副教官のシホ先輩に視線を遣ると彼女も頷き、短く答える。
シホ「ご心配はありません。お任せを」
アグネス「ありがとう。可能な限り早く帰る。リモートで出来る仕事は全部行う。協力を」
シホ、一同「はい!」
そこから具体的なカリキュラムを再度、皆で手直しする。 - 103二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 01:27:15
この強化訓練に参加する機体とパイロットは100機、100名。
AWACSディン4機、ディンは15機、バビ33機、グフ48機と同数のパイロットが参加し、グフのパイロットの内20名は今年のアカデミーを繰り上げ卒業した赤服だ。素質は有れども経験が圧倒的に足りない。
それと何よりグフの機体の癖が強すぎる。中・長距離攻撃能力が不足し過ぎてM68キャットゥス 500mm無反動砲を持たせても実戦で補いきれるものではない。
アグネス「そもそも陽電子リフレクター装備大型モビルアーマー、何よりデストロイは本来単機で墜とすものではない。実戦では随伴機が1機に付き大体3機以上付いてくるから猶のこと。訓練時より連携作戦になれさせなければいけない」
そう言って100機の部隊を4つの訓練隊に分けて教導を進める考えを伝える。基本は2機編隊、それが編隊2つで(4機)小隊として組んで行きたいが、余りが無いよう3機小隊も組む。
第一班、AWACSディン1機、ディン4機、バビ8機、グフ9(3機小隊×3)機
第二班、AWACSディン1機、ディン4機、バビ8機、グフ9(3機小隊×3)機
第三班、AWACSディン1機、ディン4機、バビ8機、グフ10機(4機小隊×2と2機編隊1)
第四班、AWACSディン1機、ディン3機(3機小隊1個)、バビ9機(3機小隊3個)、グフ20機(本年卒業生・4機小隊×5)
アグネス「これで行こうと思う。彼らには寝食を共にして貰う。と言ってもこの訓練期間が終わるまでは、ゆっくり寝たり食べたりできないけどね。異論のある者は?」
シホ「ありません」、他4人「同じくありません」
5人の返事を聞いて一安心する。
アグネス「補助教官は各班に担任として1名ずつ付いてもらう。ただ、人数が多く明らかに手が掛かりそうな第四班はシホ先輩も加わって2名態勢で…」
シホ「教官よろしいですか!」
突然、険しい顔でシホ先輩が私に注意を促す。
シホ「私のことは呼び捨てで、或いはハーネンフース副教官か単に副教官と及び下さい」
面食らうとはこのことか?言われてみれば確かにね。
アグネス「ありがとう。副教官。それでは改めて、担任の件を-」
担任の分担を終えた後、1限目の課題の叩き台を皆に示す。 - 104二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 01:30:23
これまでの月軌道艦隊・ミネルバと陽電子リフレクター装備モビルアーマーの戦闘データから、事例を20通り抽出しておいた。宇宙、海上、陸上、航空それぞれ4例ずつ。それぞれ、取得データを基に再構成した『敵のコックピットモニターからの視点』の再現映像も参照データとして各事例に付けた。
アグネス「当基地のシミュレーターの数は?」
シホ「訓練生と教官・副教官・補助教官分揃っています。全体訓練も可能です」
アグネス「よろしい。これらを訓練生に見せ、必要ならシミュレーターにも乗せてレポートを書かせたい。期限は8時間後まで。映像視聴とシミュレーター、レポート執筆の配分は各自に任せるつもり。教官らに事実確認や助言を求めるのは有りとするが、原則彼ら自身の思考力・判断力を確認し、その発展の糸口としたい。単なるイエスマンや脳筋にデストロイは墜とせない」
そう言って5人を見回す。すると意外な意見が飛び込む。
補助教官「あの…。その講義に関してなのですが…。訓練生と同時に我々が受けてもよろしいでしょうか?実は隊長…教官達ほど自分達も戦闘経験があるわけではありません」
補助教官「この前のベラルーシ戦が初めての陽電子リフレクター装備機との戦闘でした。無論、訓練生の質問や助言は力の及ぶ限り応えます」
他の面々も-シホ先輩も含めて-同意見とのこと。そう言えば、教官できる人間がいなくて私にお呼びがかかったんだわ。そこまで意識が及ばなかった。
アグネス「(手探りなんだ…。全部が)」
この状態で核動力機にコンクルーダーズ?同じ世界の出来事なのか。グフも最新鋭機、この部屋の皆も訓練生もこの世界のエリートだ。改めて頭がおかしいピラミッドの中に自分は身を置いていることを思い知る。
ただ、ある意味その間を埋め、中継する役割を求められているのかもしれない。超天才と大衆、頂点と底辺(と言うと語弊があるけれど)の間、天才と秀才からなるエリートが国家にとっても今後の世界にとってますます重要になって来るはず。
そして―。残念ながら戦争で真っ先に死んでしまうのもこの層の人達だ。補充し、育て、備えないとね。
アグネス「分かりました。そのように。副・補助教官のレポートの評価は先んじて私がします。その後、手分けして訓練生の評価を。基地に戻り次第、私も講義に加わります」
シホ・一同「はい!」 - 105二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 01:36:55
良し、最初の講義は大丈夫そうね。後は-。
アグネス「副教官。訓練生を集会場に集合させなさい。私から訓示を述べます。その後、即、訓練を開始するように」
シホ「はい」
部屋にかかった時計を確認する。アスランと合流するまでに『始めの言葉』を皆に伝えるぐらいは出来そうね。
特別強化課程訓練生を呼び出す放送の声が基地に響く。さて、何を話したものか。
早歩きで集会場に向かう。視界の向こう側では、土埃を上げそうな勢いで訓練生たちが勢いよく建屋に駆け込み集結していく気配がする。
アグネス「(あー。私もミネルバの中をいつも走っているわね。廊下は戦場とはよく言ったものだわ)」
その自分が教官ね。歴史の流れは激しさを感じるわね。
もしかしたら-私の授業は今日が最後になるかも知れない。投げ出すのではなく、私が死ぬかもしれないという意味で、ね。
彼ら彼女らとて戦場が逼迫すれば、その時点で訓練は打切り、最前線行きも十分あり得る。
そうであるからこそ、伝えておかなければいけないこともある。
補助教官が扉を開いてくれるので目線でお礼を言い、一歩中に足を踏み入れると、訓練生と副・補助教官計105人が一斉に敬礼してくる。
アグネス「(わぁ!自分がやられるとビックリするわ)」
そう思いながらも敬礼を返す。皆が先に動いてしまったため、シホ先輩は号令のタイミングを失って少ししょんぼりしている。お互いまだいろいろと慣れない。
平静を装いながら演台に登り、我等が精鋭たちに極力平等に視線を投げ掛ける。
シホ「これより、この特別強化訓練課程の教官をお務めになる特務隊アグネス・ギーベンラート女史に訓練開始のお言葉をお聞かせいただく。全員、注目!」
ザッという音と共に元々良かった皆の姿勢が更に良くなるのだから、驚く。前の方で固まっている赤服20人が繰り上げ卒業組ね。ほんの少し前まで私達が同じ立場だったとは信じられない。 - 106二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 01:42:19
アグネス「楽にせよ。皆、ようこそ。戦友諸君諸姉も知っての通り、戦況は逼迫しており時間は限られている。長々と話す時間は無いし、話す気もない。ただ、私としては諸君諸姉が何と戦うべきなのか、今からの訓練期間中も、訓練を終了して、各々の部隊に戻った後も覚えておいて欲しい」
静まり返る集会場、私は伽藍洞の空間に向け話しているような錯覚を覚える。
私の話の意図が読めなかったのか、一部の訓練生は顔に『?』マークを浮かべている。ありがたい。無反応が一番困る。
話を続けよう。
アグネス「これは哲学的な問いではない。諸君諸姉はデストロイに勝てるようになるべくこの訓練課程に参加した。だが、あのモビルスーツと中に押し込められた不幸なエクステンデッドは何も無から突然、ロシア平原に湧いて出たわけでは無い。
エクステンデッドを『製造』する過程では、各地の『ラボ』で多数の研究者、医師、看護師、兵士、職員がその非人道的所業に加担していた。そして-これらの犯罪者のみならず、ブルーコスモス・ファントムペインであるか否かに関わらず。悪事を助長してきた者達がいることも、また諸君諸姉は知っていることと思う」
そのように訓練生に語り掛けると、ようやく皆、得心したような顔になる。『ああ、その話か』と。
アグネス「彼らの悪事を薄々は勘づいて居ながら、子供たちを悪魔に売り渡した者達がいる。子供たちの軍事教育や訓練に関与した軍人がいる。エクステンデッドの正体を知りながら彼らを作戦に参加させ、艦に乗せ、モビルスーツに乗り込ませてカタパルトを開けた者達がいる。これらの者は-各々言い分もあるだろうが-『あなた達は知っていた』と糾弾されたとしても止むを得ない。他の強化処置兵に関しても同じことだ」
親に売られた子供もいたかもしれない。孤児院の経営が苦しくなったとか、お涙頂戴話も転がっているだろう。でも、それはそれ、これはこれ。情状は裁判で述べればいい。歴史の批判にも晒されるだろう。何より、たとえこの世の法廷で裁かれずとも、神の御前では言い訳が効かない。 - 107二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 01:57:30
アグネス「あの大惨事を引き起こした者達、あの巨大な大量破壊兵器を準備して、陸上戦艦で中央アジアからロシア平原まで進軍を成し遂げた者達。デストロイと共に全てを焼き尽くしながら進んだ随伴モビルスーツ隊。
これらに関与した多数の者は、皆が皆、頭の中がブルーコスモス思想一杯の確信犯だったのか。そうではない。彼らの多くが単に『そう命令されたから』そうしたに過ぎないのだろう。恐らくファントムペインの構成員でさえも」
そこまで話すと流石に訓練生も騒めきだす。私が敵に同情を示していると勘違いしたアホもいるみたいだわ。
少し、落ち着くまで待つか。
何とはなしに、私はあの腹黒議長の顔を思い浮かべる。世界を焼き尽くそうとしているのは果たして誰なのだろうか?ロゴスが悪くないと、大西洋連邦やその他の地球連合が潔白であると言いたいわけでは無い。
ただ、それは議長の潔白を意味するものでもないだろう。現段階で彼に有罪を宣告するに足る証拠など私は持っていないが-。
やがて、その場の騒めきが少し静まって来た。私を心配そうに見上げる何人かの訓練生と視線が合う。アカデミーを出たての子は本当にかわいい。私も新任と言えばそうだけど。
アグネス「察しの良い者なら気が付いているように-。我々は『悪の凡庸さ』と戦っている。人間が生来持つ本来、不可侵の権利、最後の息を吐き出すまで決して奪われることなく持っている権利。生命、自由、及び幸福追求の権利を蹂躙して恥じない者達。『不法国家(勢力)の悪法は法たりえない』と弁えぬ者達。確信犯ではなく、ただ『そう命令された』から、ただ『そう決められた』からで悪事に加担して裁かれることの無いと高をくくっている者達と我々は戦っている。これは道徳論ではない。強さの話をしている」
驚きを隠せないでいるシホ先輩と4人の補助教官の顔を宥めるように、そして勇気づけるように見返す。大丈夫、多分滑ってはいないはず。
アグネス「デストロイをただ倒すだけなら、簡単だ。諸君諸姉100機で適度に散開しつつ、一斉に弾幕を張りながら攻撃を撃ち込み、斬り込めばあれは倒せる。タイミングの練習は必要だが…。
しかし、敵も馬鹿ではない。必要とあれば改修を施し新型機も出すだろう。そして、その時、諸君諸姉はこの世に別れを告げることになる。皆の葬列には無辜の民が続くことになるだろう」 - 108二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 02:12:52
訓練開始、終了しました。そして、デストロイ改が出ました。訓練に無かったので、負けました。では、話にならないということ。そして―。考えられる軍隊は強い、思考力と判断力を最後まで捨てない兵士は凄く強い。
アグネス「その連鎖を打破れるかどうかは人類普遍の正義に立脚した国家と国民と軍の意思、個人の良心と使命感に裏打ちされた思考力と判断力にかかっている。敢えて言おう、『真の勇敢さ』は『凡庸な悪』を破ると!
諸君諸姉は、これから始まる訓練を単なる戦闘操縦訓練と見なすのではなく、己の家族と戦友と、圧政と隷属を拒む全ての諸国民の生存権を守る術を身に着けるためのものである、と考え一身に励む様にせよ。以上」
半分は自分に言い聞かせている。以前、ハイネ先輩がおっしゃった『割り切れよ』は、憲法と法に基づいた命令の範囲のお話。その憲法とて天上の法と人類5000年の歴史が織りなした普遍的正義、各個人の譲り渡せぬ良心には従属せざるを得ない。
アグネス「(聞いてるか、議長!?まあ、聞いてないところで言っているんだけどね)」
独裁者になるのが、もしあいつの目的なら、そんなくだらん野心は叩き潰してやるわ。こっちが潰れそうだけど。
シホ「総員、気をつけ。敬礼」
十人十色の表情を浮かべながら、皆は私に敬礼する。ふむ。思考力は放棄していない様ね。何よりだわ。
私も敬礼を返し、演壇を下りる。
アグネス「では、ハーネンフース副教官。留守を頼みます」
シホ「はい。幸運を!」
アグネス「貴女も。皆も」
そう言い終えて、集会場を後にする。身嗜みと手荷物だけは抱えて、と。はぁー。次はアスランとバルト海のど真ん中にレッツゴーか…。
メイリン「アグネスさん。終わりましたか?」
集会場から外に出るとメイリンが基地内自動車に乗って私を拾いに来てくれたわ。
助かるわ。右手で持っていても左側に力はかかるから。リハビリと思って鎮痛剤飲みながら頑張っているけど。
アグネス「メイリン!開会は終わったわ。訓練は始まったばかり。ともあれ滑走路に向かいましょう」
メイリン「はい。アスランさんがそわそわしていました」
アグネス「させておきなさい!」
疲れたわ。これからさらに疲れに行く。 - 109二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 09:53:35
✩
- 110二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 12:08:02
不謹慎だがトラブル発生を期待してwktkしてる自分がいる…
- 111二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 19:27:34
保守
- 112二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 22:14:04
だんだんアグネスの中でアスランの扱いがぞんざいになってない?
- 113二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 01:20:50
基地滑走路までメイリンと自動車で進む。いかつい軍用機、モビルスーツ群の中にライオンに囲まれた兎のようなビジネスジェットが1機停まっている。
これから私達を乗せてボーンホルム島空港まで飛んでくれる隼だ。
停車場で降りて、飛行機に近寄り、アスランが降ろしてくれた内蔵タラップをメイリンと一緒にスタスタ上る。この飛行機は私達が特務隊権限でザフト軍に民間から借り上げてもらったもの。大体10人か11人くらい乗れるみたいだわ。
当然武装はされていない。フレアも積んでいないから、どうしようもなくなったら本当に飛び降りるしか活路はない。そんなことにはならないと信じたい。
機体前方寄り搭乗口から、二人一緒にキャビンに進み席に着くとシートベルト。
アスラン「二人とも。よく来てくれた…。行こう」
アグネス、メイリン「はい」
アグネス「(焦れていた、と聞いていたけど。それはそれとして私達への感謝の念は本物みたいね。当たり前か…)」
焦れても意味が無いことぐらい彼自身が分かっているだろう。操縦技術なら申し分ない。大丈夫だわ。
機長兼パイロットのアスランが管制と忙しく交信しながら、ビジネスジェットの車輪で滑走路を移動、飛行機を離陸態勢に持って行く。
アグネス「普段同じようなことをしているのに。後ろから見てみると何か奇妙に感じるわね」
そう何気なくメイリンに伝えると彼女は少し悪戯っぽい表情を浮かべる。
メイリン「カタパルト、オンライン。推力正常、針路クリアー」
アグネス「止めてよ。いや、ありがとう。緊張が解れるわ」
ミネルバのカタパルト発艦。懐かしい…アホか!最後に飛び出てから1週間経っていないわ。
自分自身に突っ込みを入れつつメイリンと顔を見合わせ笑いあう。こうして、彼女の『発進シークエンス』を聞けたのだから、この任務の幸先は良いかもしれない。
アスラン「アスラン・ザラ、ビジネスジェット、発進する!」
アグネス「ふぁ!?」 - 114二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 01:23:49
私達の会話が聞こえたのかどうかは知らないが、凄く張り切った口上と共に飛行機は滑走を開始、離陸していく。
十分な高度まで上がったところでメイリンに細やかなご褒美を渡す。
アグネス「メイリン、これ。私がベラルーシを飛んだ時の仲間からお見舞いで貰った高級栄養ゼリーと高級栄養ドリンク。お昼の分どうぞ」
メイリン「ありがとうございます」
そう言って、二人で10秒のお昼ご飯を終える。メイリンは続いて高級栄養ドリンクを豪快に一気飲みする。そう言えば、彼女も相当なハードワークね。
アグネス「将来、娘が出来て。もし、その子が軍に入隊を希望したとしても。母親としては止めたくなっちゃいそうだわ」
メイリン「戦時ではどこも大変だと思いますよ」
アグネス「それはそうね。私達はその中の極だと思うけれど」
前方、コックピットのアスランに視線を遣る。彼にも到着後にゼリーを渡す予定だ。会談が会食か軽食会になるかもしれないけど。栄養ゼリーなら胃袋に入れられるだろう。
因みに私は医師に止められているから、栄養ドリンクはお預けだわ。
ドイツ南西部ラムシュタット空軍基地から西ユーラシア連邦領デンマーク王国ボーンホルム島ボーンホルム空港まで約790㎞、50分。
この島はスカンジナビア王国(西暦時代のスウェーデン)南部スコーネ県とドイツ、ポーランドに挟まれたバルト海西部の戦略的要衝であり、第二次世界大戦では独ソ間の戦争にも巻き込まれた。
ただ、基本はのどかな観光地で、海洋性の温暖な気候で平和な時代にはウォータースポーツも盛んだったという。暖かい場所で良かったわ。楽しむ余裕はないだろうけれど。
アグネス「(今回、この島が選ばれたのもその地理的条件によるもの。アークエンジェルとアスハ代表が身を寄せているスカンジナビア王国と島の距離は36㎞も離れていない。何かあればフリーダムとストライクルージュに乗ってスコーネ県に一飛びだわ)」
夏ならスーパーコーディネイターとナチュラル上澄みのアスハ代表なら泳いでも渡れるのではないか。 - 115二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 01:34:43
アスラン「西暦時代、バーンホルム島にはデンマーク王国近衛騎兵連隊第3偵察大隊が駐屯していた。無線傍受のための聴取塔も。それはC.E.となっても同じこと。新しい聴取塔が建って少し前まではザフト、今は地球連合に聞き耳を立てている。それに今は戦時、近衛騎兵連隊は第3だけでなく、大隊5個を全て島に送り込み、ボーンホルム島と国民、王室を守護している」
操縦席から、アスランの事情説明が開始される。
そこで素朴な疑問が一つ。
アグネス「デンマーク王室と近衛騎兵連隊は今回の会合をご存知ですか?」
アスラン「ああ。王室間のネットワークでスカンジナビア王家からデンマーク王室にご連絡いただいたそうだ。デンマーク王室はユーラシア連邦のモスクワ遷都時もデンマーク国民と運命を共にしていらしたから。近衛連隊には侍従武官から話が付いている、と。知った今日!」
そうか、王室間のネットワークと言う手があったわね。ヨーロッパの王侯と高位貴族は皆、親戚同士・知り合い同士みたいなもの。アスハ首長家とスカンジナビア王家は先代から懇意の間柄だから。
アグネス「(だから、アスハ代表から見れば、『友達の親戚のお宅の一室を会合時に借りた』みたいなもの。近衛騎兵連隊は友達の親戚の家のガードマンね)」
無論、これは過度な単純化ではあるけれど。そう考えると…、今回の会合の主役はアスハ代表と言える。彼女を基点に今日は全ての人間関係の線が引かれているのだから。
アグネス「そうですか。何よりです。私とメイリンは公務で向かっているので、空港の西北5㎞、島の行政中心地レネに置かれている近衛騎兵連隊本部に出頭し、ご挨拶を述べます」
アスラン「当然の配慮だな。そうしてくれ。レンタカーの予約はしてある」
アグネス「何よりです。それで今日話す内容ですが…。ハウ氏を通じてどこまで?」
そうアスランに尋ねると、後ろ姿から見るアスランは少し曖昧な風を漂わせる。
アスラン「先ず、ネオ・ロアノークは負傷しておりアークエンジェル内で治療中とのこと。検査によると彼のフィジカルデータは、艦内のデータベースにあったムウ・ラ・フラガ少佐のものと100%一致した。肉体的に彼は間違いなくフラガ少佐だ!」 - 116二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 01:49:31
話が早くて助かる。会談の時間が省略できるわ。そして、最大の懸念が遂に具現化してしまったわね。
アグネス「お辛いでしょうが、私達は事実をベースに行動するべきです。彼の記憶と責任能力については何か伺っていますか?」
そう尋ねるとアスランは苦い声で答える。
アスラン「彼は応急治療時に一度目を開けて、自分は地球連合軍第八十八独立機動軍所属ネオ・ロアノーク大佐だと名乗ったそうだ…」
メイリン「名乗っちゃいましたか…」
アグネス「名乗らなくても同じよ。状況的に、ね」
何よりフラガ少佐の今後の人生を考えた場合、この問題を避けては通れない。一生を追われるか幽閉されて過ごす境遇に彼を陥れること等、アスラン達も望んでいないはずだ。だからこそ、公に申し開きをするしかない
飛行機の窓からはもうバルト海と海に囲まれたボーンホルム島が明瞭に見えている。花崗岩からなるあの島の海岸線は一部を除いて岩だらけだ。緑と岩よりなる『バルト海の真珠』に私達は舞い降りていく。
西側にはデンマークの複雑な海岸線、それと向き合うスカンディナビア半島の先端を上空より確認する。バルト海の出入り口たるエーレスンド海峡とベルト海峡、大寒波の際、この海はサンクトペテルブルクからあそこまで凍結したことも有るらしい。
今年、そんな現象が起きようものなら人類史上まれに見る醜悪なスケート大会が開催されることになるだろう。今の水泳大会と曲芸飛行大会も愉快なものではないのだけれど。
アグネス「プレッシャーをかけるわけではありません。事実としてこの地の流血の程度はアスラン先輩の双肩にかかっています。私達も全力でサポートします。それで、医師の意見書の作成はどのようになりましたか?」
アスラン「船医の作成した意見書なら既にある。ただ、これではダメなんだろうな」
アグネス「はい。せめて専門医、精神科医と脳神経科医のものが必要でしょう。可能なら部外者の…。ただ、この局面、真の部外者は存在しません」
そこが一番の問題だわ。アークエンジェルの船医の意見書も鑑定書も説得力が不足している。ただ、プラント陣営の医師に鑑定してもらったとしても、どうしても色が付く。
メイリン「ともあれ、会ってみて話してみないと」
アスラン「そうだな」、アグネス「そうね」 - 117二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 02:05:14
やがて、アスランはまた管制と忙しくやり取りをし、ビジネスジェットをこの小ぶりな空港に着陸させる。
着いたわ!疲れた、とか言っている場合じゃない。
降りたら一番、アスランに高級栄養ゼリーと高級栄養ドリンクを手渡す。彼の私服を上から下まで確認、センスが悪い!ただ、『アレックス・ディノ』の時もこの服だったから、もうこれで良いか-。
アグネス「どうぞ。私と飛んだ飛行隊のお見舞いの品です。力を!」
アスラン「ありがとう」
そう言ってアスランは私達と同じようにお昼ご飯を10秒で済ます。はぁー何だかな。何時ゆっくりできるのやら。
それはそうとて、現実は目の前に押し寄せてくる。私とメイリンは鞄から拳銃を取り出して身に着ける。お守り兼身嗜みだ。昔の将校がサーベルを吊っていたのと同じこと。
空港の外に出て、アスランがレンタルしていた車に乗り込む。
アグネス「アスラン先輩、お願いします」
アスラン「ああ。先ずはレネの近衛騎兵連隊本部だな。おれは外で入口の警護を。ミリアリアともレネの町で合流だ。彼女が案内してくれる。キラ達の下に午後1時に」
アグネス「了解」、メイリン「了解です」
レネの華やかとは言い難いが、こじんまりと美しく纏まった街並みを進んでいく。ああ、観光できたかったわ! - 118二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 07:03:28
センスが悪い!
アグネスがどんどん遠慮がなくなってきた。
いいぞもっとやれ
でも服のセンスは皆大概だと思うの - 119二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 16:06:46
保守
- 120二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 20:14:18
>「アスラン・ザラ、ビジネスジェット、発進する!」
アスラン?アスラン!?
- 121二次元好きの匿名さん24/12/28(土) 02:19:10
レネの街並みを進むとやがて近衛騎兵連隊本部、アルメガズル兵舎が視界に入る。ここは元々この島に配備されていた近衛騎兵連隊第3偵察大隊の兵舎だわ。
メイリンと兵舎の中に入り、先ずは受付を済ます。衛兵と受付スタッフは丁寧に応対しつつ、私とメイリンが携帯する拳銃にも一瞬目を光らせていた。
ただ、『士官の権利』と認識したのかそれ以上は追及せず、その場を通してくれた。
奥に進むと、剽悍だが紳士的な雰囲気の連隊長と上品な挙措の侍従武官が向かえてくれる。連隊長の階級章は大佐ね。
二人にメイリンと敬礼、ほぼ同時に彼らも敬礼して下さったので、同じくほぼ同時に腕を下ろす。
アグネス「ザフト軍月軌道艦隊旗艦ミネルバ・パイロット隊所属、特務隊アグネス・ギーベンラートです。ご多忙の折、また戦雲が立ち込める中、敵味方不明勢力との接触のため、この島の土を踏むことをお許し下さり、のみならず、彼らとのコミュニケーションのため大変なお骨を折りいただきましたこと、心底より感謝いたします。貴国の繁栄と王室の御稜威が永遠ならんことを心より祈念いたします」
メイリンと一緒にピシッと姿勢を正して口上を述べる。するとお二人もそれぞれ私とメイリンに丁寧なお返しの言葉を掛けて下さり、執務室に迎えられる。
連隊長「アスラン・ザラ殿はどちらに?」
アグネス「彼は私人としての来島なので。一応、今日の場も。私達にとっては公的、彼らにとっては私的なものです」
連隊長「なるほど。難しいものですな」
そう言って連隊長は視線を王宮から派遣されたと察せられる侍従武官に投げ掛ける。ただ、彼はYesともNoとも言わず目礼するのみだ。彼は主君たる国王陛下を守らなければいけない。軽々しくは返答できないのだろう。
連隊長「せっかく来ていただいたのです。軽く我が連隊のご説明を。『近衛騎兵』と聞いていたのに、驚かれたのではありませんか?」
そう、連隊長は少し悪戯っぽい表情を向けてくる。
アグネス「はい。確かに。てっきり肋骨服にペリースを纏い馬に跨ったフッサールを目にするかと思いました。無論、全員がそうとは思っていませんでしたが…。サーベルと共に最新式の銃を携えている、と想像していました」 - 122二次元好きの匿名さん24/12/28(土) 02:28:18
そうお答えすると連隊長は我が意を得たりと言った表情を浮かべる。
連隊長「皆さん、そうおっしゃる。その役割は当連隊の騎兵中隊が担っており彼らは本土に。我が連隊は西暦の頃から実質、機甲と歩兵の混合部隊。第3のみこの島で情報と偵察任務を遂行していました。ごく最近、3つの大隊に編成を改め、連隊総出でこの島に」
なるほど、格好の良い制服の騎馬兵を目の当たりにする機会は後日の楽しみにとっておこう。暖かい紅茶を出していただいた。冷める前に少し口を着けさせてもらう。
連隊長のお話はもう少し続く。歴史ある近衛騎兵連隊は西暦以降も進歩を止めることは無かったそう。
先の大戦後半、ナチュラルでも操縦可能なモビルスーツが開発され、連隊でもこの新兵器を採用し、以降、第1機甲歩兵大隊は第1モビルスーツ大隊に変更された。現在はモビルスーツ中隊1個(ストライクダガー6機とダガーL6機+予備機)と機械化歩兵1個中隊、整備兵等スタッフ班で構成されている。
第3偵察大隊は長距離哨戒機とレーダー車、スピアヘッド中隊とスカイグラスパー中隊の編制だそう。島の中央部やや南東にそびえる自由の女神とほぼ同サイズの無線傍取聴取塔の運用もこの大隊が担っていいるそうだわ。
連隊長は第1モビルスーツ・歩兵大隊推しみたいだけど、私としては第3の方がよっぽど脅威だと思う。大気圏内で戦闘してみると意外とスポアヘッドやスカイグラスパーに手こずるし、何より戦争の勝敗を決するのに情報は欠かせない。
他、V訓練大隊も島に着任。徴兵された兵士を3個中隊に分けて訓練中、1個中隊は機械化歩兵だそうだわ。
長い伝統を誇る連隊、やはり今日の在りようを賓客に語りたくなるのだろう。
ここまで親切に手の内を明かしていただいた以上、私も何の『土産話』も無しでは礼を失する。話しても問題のない範囲の『秘密』、グフの量産化と大気圏内配備開始を連隊長と侍従武官にお伝えする。すると彼らは目を丸くして驚く。そう、これが普通の反応だ。
アグネス「(ここで核動力機とコンクルーダーズの事を漏らしたら、この部屋は氷河期突入ね)」 - 123二次元好きの匿名さん24/12/28(土) 02:33:40
侍従武官「少しよろしいですか?」
アグネス「はい」
彫像のように立っていた侍従武官が紅茶を飲み干した私に尋ねる。
侍従武官「最新鋭機量産化と配備開始、誠におめでとうございます。同盟国として心強い限り。しかし―その『ZGMF-2000』で再強化したザフト軍を持って貴国は何を討とうとなされているのですかな。自国と同盟国を守るのか、敵を討つのか、討つならだれを…」
ああ、やっぱりそこ気になるわね。正直にかつ当たり障りなく答えておこう。
アグネス「対ロゴス戦は最高評議会・国防委員会と言うより、デュランダル議長が主導なさっています。特務隊とは言え、我らにも知り得ぬことも。また同盟国の中には西ユーラシア連邦とはまた異なった立場の国も存在します」
『旧領奪還』とか『進駐』とかいろいろね。
私をじっと見つめる侍従武官に対して、私は私なりに困惑の念と国家への忠誠、相反する感情を持っていることをアイコンタクトと表情筋を全て使いお伝えしようと試みる。
暫く、奇妙な睨めっこをした後、彼から目線を和らげて下さる。
侍従武官「お互い難しい立場ですね」
アグネス「はい」
その後、社交辞令的やり取りを4人でして、侍従武官殿と名刺交換をして連隊本部を後にする。
兵舎の外側にはアスランと明るい茶髪の女性が待っていたわ。彼女の後ろ髪は寝癖なのか好みなのか二つに分かれて跳ね上がっている。
アグネス「(彼女がミリアリア・ハウ氏…。アークエンジェルの元オペレーター)
メイリンと一緒に姿勢を正して敬礼する。一瞬迷ったけど、彼女は退役軍人だから、こちらの方が良い、と思って。
それを見かけた近衛騎兵連隊の兵士たちも釣られてアスランとハウ氏に敬礼し始め、二人は慌てだす。しまったわ…。兵舎で出て直ぐだったから。 - 124二次元好きの匿名さん24/12/28(土) 02:44:50
アスランとハウ氏は迷った末に2人で敬礼を返し、私とその場に立ち会った連隊兵士は、ほっと一息、手を下ろす。
近衛連隊の皆さんは私とメイリンにも目礼した後、忙しく任務に戻っていく。その気配を感じて少し安心していると、ハウ氏が私の前まで進み出てくる。
自己紹介ね。
アグネス「私はザフト軍月軌道艦隊旗艦ミネルバ・パイロット隊所属、特務隊アグネス・ギーベンラートです。本日は…」
ミリアリア「私はミリアリア・ハウ。フリーのカメラマンで元アークエンジェルオペレーター。今日はよろしくお願いします。あんまり堅苦しいのは止めましょう。どうかミリアリアと」
そう言って右手を差し出して下さるので、私もその手を握り返す。
アグネス「改めて今日はよろしくお願いします。ミリアリアさん。アグネスと」
ミリアリア「アグネスさん、こちらこそ今日からよろしくお願いします」
『今日から』か。なるほどね。互いにそっと指を解く。
ミリアリアさんはメイリンとの自己紹介に移っているので、アスランに歩み寄ると耳打ちする。
アグネス「兵舎の中には連隊長と侍従武官殿。詳しくお話をお聞かせいただいたので、私からもグフの量産化と配備の情報を『お返し』にお伝えしました」
アスラン「そうか…」
アスランはそれどころじゃないか。まあ、こればかりは当然ね。皆の自己紹介も終わったので車に戻り、待ち合わせポイントに向かうとしますか。
アグネス「メイリン、お願い。アスラン先輩、ミリアリアさん。録音と録画を始めます。ご迷惑かと思いますが、お二人の身の安全と疑いを掛けられた際の潔白証明のために必要です」
改めて、二人にお声がけをして了承を得る。
ミリアリア「こちらこそ。お手間を、お願いします」
アスラン「頼む」
メイリン「はい。『今からの会話は録音されます。また同時に録画も開始されます』」 - 125二次元好きの匿名さん24/12/28(土) 12:20:40
保守
- 126二次元好きの匿名さん24/12/28(土) 18:10:41
さあ、何が起こるのだろう……。
- 127二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 00:43:26
素晴らしいことだよ…
- 128二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 02:08:10
レンタカーに皆で乗車、アスランに運転を任せてボーンホルム島西岸の道路を北上していく。助手席にミリアリアさん、後部座席にメイリンと私。
ミリアリア「会談場所は島の北端にあるハンマーシュー(ハンマーフース)要塞遺跡のすぐ北西の岬付近になります」
アグネス「程よく人目に付く安全な場所ですね」
ミリアリア「ええ」
斜め前のミリアリアさんと会話を交わす。目的地に着くまでの僅かな時間、何を話すべきだろうか。ターミナルと言う組織について詳しく尋ねるべきか?
そのような考えを抱いていると、一足早く彼女から私に質問が飛ぶ。
ミリアリア「ミンスクのことを伺っても?」
アスラン「!?」、メイリン「!!!」
ミリアリアさんに爆弾を投下されてしまった。普通、ここで聞くか?!いや、今だからこそ聞くべきなのか…。アスハ代表らと合わせる前に、私が軍人か殺戮者か確かめないといけないはず、と。
アグネス「(やっぱり、避けて通れないわね。彼女が私をどう理解するべきか、不安に思うのは当然のこと)」
アグネス「…答えられる範囲ならどうぞ」
そう言葉を助手席に投げ返す。すると彼女からは短い質問が一つ。
ミリアリア「多数の民間人が巻き込まれました…。意図しての攻撃でしたか?」
アグネス「いいえ。軍事目標のみを目標にしていました」
ミリアリア「作戦の立案は?」
アグネス「私です」
そうお答えすると、前で息を飲む音が聞こえた…。鬼門だったか。やや、強張った声で彼女の第2問目が投げ掛けられる。
ミリアリア「後悔の念は有りますか?亡くなった人や遺族に謝罪したい気持ちは?」
アグネス「…」 - 129二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 02:16:19
録画と録音は続いている。何より私自身、嘘を答える気もない。
アグネス「ありません。果たすべき使命を果たしました。ただ-」
ミリアリア「ただ?」
彼女の声に怒気が混じる。予想していたこと。仕方ない。ただ、これは口にしても良い感情だろうか?分からない。
アグネス「自分の良心に恥じるところは有りません。しかし、ご遺族や後遺症に苦しむ人を目前にすれば、合理的・論理的観点は抜にして、そうした衝動に駆られるでしょう」
アスラン「…」
メイリン「…」
墓穴を掘ったかな。ここまではセーフラインと思うけれど。彼女はどう思うだろう?戦場カメラマンとして、前大戦の惨禍を目の当たりにした人間として-。
ミリアリア「…答えづらいことを正直に、ありがとうございます」
アグネス「いいえ。貴女には話しておくべきでした」
私の答えを彼女がどう解釈したのかは分からない。ただ、それ以上ミリアリアさんは私に質問することなかった。やがて、レンタカーはハンマーシュー(ハンマーフース)要塞遺跡前に広がる森にぽっかり空いた駐車場に到着し、そこで皆と下車する。
幾度も絵画の題材となった中世城郭の廃墟が丘の上に佇んでいる。寂しさと神秘を同時に感じさせるものを秘めた城だ。ゆっくり見学したいがそれは今日ではないだろう。
ミリアリア「行きましょう」
アスラン「ああ」、アグネス・メイリン「はい」
小高い丘に立つ要塞に続く道を上り、途中の二股に分かれる道を海岸の方向に進む。荒々しく削られた小高い岬とその下に僅かに広がる砂浜が広がっている。
そこで待つこと暫し。やがて北西北スカンジナビア王国スコーネ県から、2機のモビルスーツが飛来、制動を掛け岬前の空き地に降り立つ。 - 130二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 02:19:38
空と海を思わせる青と白の機体、アラスカに舞い降りた剣と紅色のオーブの守護者を見上げ、感動とも感心ともつかない感情に一瞬囚われる。
アグネス「(これがフリーダムとストライクルージュ…。まじかで見るのは初めてね)」
ややあってコックピットが開き、中からキラ・ヤマトとアスハ代表が顔を覗かせる。キラ・ヤマトは拘束着のような私服、アスハ代表は制服姿だわ。中で着替えたのね。
二人が顔を出した瞬間、メイリンと共に敬礼する。
私とメイリンの敬礼に気が付いたアスハ代表は即時に返礼をしてくれる。しかし、キラ・ヤマトはやや迷ってからの返礼だった。そう言うの困るわね。
モビルスーツから簡易昇降装置で降りてくる二人にミリアリアさんが呼びかける。
ミリアリア「キラ!」
キラ「ミリアリア」
地に立つキラ・ヤマトのシルエットを見て、思ったより痩せている印象を受ける。声も元気が無いとまでは言わないが覇気がない。大丈夫かな。
ミリアリア「あーもう。本当に信じられなかったわよ。フリーダムを見た時は。花嫁を攫ってオーブを飛び出したっていうのは聞いていたけど」
カガリ「いや…。その話は…。あの…」
少し緊張した空気が漂う中、ミリアレアさんは間を取り持とうと一生懸命だわ。口ぶりを聞く限り、彼女も直接の再開は今だったよう。これまでは通信だったみたい。
アスハ代表は一瞬困った表情を浮かべた後、こちらにと言うか私に向かって歩いてくる。
最低限の儀式を済ませないといけない。私とメイリンは公務で来ていて、アークエンジェルとアスハ代表は『人道危機への出動と被災地の救難救援』を理由として始めて西ユーラシア連邦領内で活動できるのだから。 - 131二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 02:26:10
アスハ代表の足が私の正面で止まったタイミングで私とメイリンは背筋をピンと伸ばし、代表の私がご挨拶とお礼を申し上げる。
カガリ「久しぶりだな。アグネス、メイリン。もう、そう呼んでも構わないか?」
アグネス「はい。勿体ないお言葉です」、メイリン「はい。ありがとうございます」
カガリ「うん」
彼女が微笑んでくださったタイミングで今日の『公務として』の本題を済ませる。
アグネス「お久しぶりです。ご機嫌麗しく。オーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハ閣下。プラント・ザフト軍月軌道艦隊旗艦ミネルバ・パイロット隊所属・特務隊アグネス・ギーベンラート、先日の西ユーラシア政変時の人道危機に対する閣下とアークエンジェルのご来援とその後の救難救援活動に心底よりの感謝を申し上げます。加えて本日のご足労、誠にかたじけなく思います」
そのように告げるとアスハ代表もご返答を下さる。
カガリ「こちらこそ。プラントのオーブ連合首長国とアークエンジェルへの度重なるご配慮、首長国代表として深く感謝している。そして、先日の政変で故なく殺戮された無辜の民と勇敢なザフト軍将兵の御霊に心からの哀悼の意を表する。どうかそのことをプラントと関係各国、各機関にもお伝え願いたい。合わせて今後も我等は被災者に寄り添い、支援を続ける意思と用意があることもお伝え願いたい」
アグネス「心底より感謝申し上げます。必ずお伝えいたします」
そのように言葉を交わし、彼女から4通の親書を賜る。
カガリ「オーブの代表首長たる私の親書と、スカンジナビア王国国王陛下の親書だ。プラントに各1通ずつ、西ユーラシア連邦に同じく1通ずつ。スカンジナビア王家の方々も今回の事態に深く同情の念を御寄せになり、援助を惜しむつもりは無い、と」
アグネス「閣下とスカンジナビア王国、国王陛下のご決意に心からの敬意を。必ずお届けします」
そうお答えすると彼女は改まった表情を和らげ、私に年相応の少女に少し近い親し気な眼差しを向けて下さる。
カガリ「うん。頼んだ」
アグネス「はい!」 - 132二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 02:32:28
おお…。思わぬ収穫が有ったわ。もしかしたら、これで…。戦災被害者救済事業を皮切りにスカンジナビア王国と和平が成るかも知れない。棚から牡丹餅とはこのことね。
アグネス「(フリーダムとストライクルージュがスカンディナビア王国を経由して来なければいけなかった理由がこれだったのね)」
そう悟るとメイリンと一緒にビシッと敬礼する。アスハ代表もそれに返礼して下さり、こちらの公務は一旦、幕を閉じる。
このやり取りがあったから、彼女らはこの島に合法的に着陸できたわけ。そして、『そのついで』に私服の-プライベートの-アスランとちょっとした立ち話をすることになるのだ。
アグネス「(公務第二幕。アスハ代表とアークエンジェルの会談のオブザーバー開始ね
アスハ代表は私達から一旦離れるとキラ・ヤマトと共に地蔵を通りこして立像となっているアスランの方に歩み寄る。
アスラン「キラ。カガリ」
キラ「アスラン…」
大丈夫か?心配だわ。頑張れ、アスラン。貴方ならできる!?
アスラン「…。フラガ少佐のことを聞いた。ネオ・ロアノークが彼と知って、こっちでは皆、と言っても特務隊の一部だが…。凄く混乱している」
キラ「それは…」
カガリ「その後、彼は完全に意識を取り戻して…」
あの後とは今日のアスランとミリアリアさんの通話の後と言う意味ね。
アスラン「それで彼は何と?」
カガリ「『自分は少佐ではなく大佐だ。捕虜だからと言って勝手に降格するな』、それとラミアス艦長を美人だと…」
アスラン「…どうかしている!」
カガリ「そう言っているんだから、仕方ないだろう!」
はぁ?!しょうもない。互いに語気が強くなってしまうのも分かるが…。ここは冷静にならねば。
アグネス「(とは言え、当の張本人に危機感が無いのは考え物だわ。このままだと戦争犯罪と人道犯罪のコンボで絞首刑一択だと彼は分かっているのだろうか?捕虜では無くて犯罪の容疑者になっているのに)」 - 133二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 02:45:18
何か話を聞く限り能天気そうね。自分の指揮下であれほどの惨劇を引き起こしたというのに…。
アグネス「(ご遺族と被災者には絶対聞かせられないわね。まだ、Ⅰ種間経っていない)」
とは言え、記憶がいじられているなら彼のせいとも言えない。確認しなけれな!
ずいっと、アスランに接近してコソコソ耳打ちする。
アグネス「先ずは彼の記憶の有無を確認してください」
カガリ「聞こえているから大丈夫だ。そうだな…。彼は記憶が無いのではなくて違った記憶を植え付けられているように見える。ただ、まだ私たちを信用して無くて。全部話そうとしてくれない…」
アスランの口から言わなければいけないのだけど…。まあ、良いわ。記憶の植え付けね。連合・ブルーコスモス、いやロゴスか…。何にしろ酷いことするわね。
アグネス「(やはり刑事責任能力の問題をはっきりさせるためには本格的な精密検査が必要か)」
地理的に言えばスカンジナビア王国の国立専門病院に連れて行くのが一番楽なのだけど。彼の国は条約締結国で建前上は交戦国。となると、まだプラントと条約締結国間の戦争には参加していない汎ムスリム会議…。いや、対ロゴス戦は参戦しているし、ファントムペインをテロ組織に指定していたわね。
そうなると-。寧ろスカンジナビア王国との和平を優先させるべきか。『ネオ問題解決⇒スカンジナビア王国和平』ではなく『スカンジナビア王国和平⇒ネオ問題解決』の順番にするとか…。そうすれば病院も使える。
アグネス「(でも、それでは順番があべこべで-。実現可能性も…。待てよ。月面中立都市コペルニクスから医師団を派遣してもらえば!)」
いいアイデアかも知れない。そう思っていると、ふと、こちらを-私を見つめるキラ・ヤマトと目線が合う。ぼんやりとした目線、やはり精神を病んでいるのか…。彼は何処か私を咎めるような、そう思う自分を責めているような表情を浮かべている。
アグネス「(お互い厄介なものね)」
『戦争は殺人じゃない』、私は軍人だからそう割り切る、割り切ったように見せることができるけれど。彼はどうなのか。一生このままという訳にもいくまい。 - 134二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 07:45:32
- 135二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 12:21:12
このアグネスが映画時点での容姿だとキラのメンタルにヤバい…
- 136二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 18:43:20
そう言えば中立都市のコペルニクスって成り立ちがよくわからんな
連合の勢力圏でもザフトでも勢力圏でもなく国ですらない
月面開発でできた都市だろうから開発に出資したのは多分プラント理事国だと思うが - 137二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 00:57:17
メイリン「ところで…。もう一人、ストライクノワールのパイロットはどうなりましたか?」
メイリンの控えめな質問が脇から飛んできて、アスランと私は思わずハッとする。うっかり後回しにしていたわ!
アスランに視線を送ると彼も一つ頷いてアスハ代表に尋ねる。
アスラン「カガリ、彼もしくは彼女について聞きたい。教えてくれ」
そう尋ねられたアスハ代表は何故か躊躇うような表情を一瞬浮かべる。
アグネス「(ロアノークの時と違う?何か事情があるのかな)」
ただ、そのままという訳にもいかない。彼女はキラ・ヤマトと視線を交わした後、回答をして下さる。
カガリ「フラガ少佐と同じタイミングで捕虜になった男性パイロットの名前はスウェン・カル・バヤン『中尉』。地球連合軍第81独立機動群において、ホアキン中佐の指揮下、特殊戦MS小隊で戦闘・破壊活動に従事していた。小隊メンバーは先日死亡したヴェルデバスターのパイロット、シャムス・コーザ中尉と同じくブルデュエルのミューディー・ホルクロフトの3機3人。彼は取り調べには素直に応じている…」
アスラン「そうか…」
なるほど、ファントムペインにはロアノーク大佐が直卒する部隊の他、そのホアキン中佐の部隊も存在したわけね。
アスハ代表は迷いながら慎重に言葉を紡がれていく。
カガリ「彼はキルギスプラント襲撃事件の『鎮圧』に従事していた。その後の難民キャンプに対する無差別攻撃も含めて、とのことだ」
アスラン、アグネス、メイリン「!!!」
うぉ!とんでもないのが飛び出してきたわね。超重要人物じゃない!
アグネス「難民キャンプ襲撃は彼の独断でしたか?」
ついアスランを介さず質問してしまった。ただ、もう『腹話術』はしない方が良いのかな。 - 138二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 01:02:59
アスハ代表はこの質問に相当苦慮している。どうしたの…。
アスラン「カガリ、教えてくれ。頼む」
悩む彼女を勇気づけるようにキラ・ヤマトがアスハ代表にそっと寄り添う。
カガリ「ホアキン中佐の命によるものとのことだ。彼自身は難民キャンプ襲撃の関して必要性の有無をホアキン中佐に念入りに問いかけ、遠回しに翻意を促したとのことだ…」
アスラン「そうか…。だが、彼は実行した。それもまた事実だ」
キラ「そう言うことに…なるね」
アスランの答えを、キラ・ヤマトは俯き加減に聞く。なるほど、アスハ代表が躊躇う訳だわ。彼の証言は-まだ又聞きだけど-事実上の死刑執行のサインに等しい。
アグネス「人道犯罪行為時、彼の事理弁識能力と行動制御能力に問題はなかった、と。良心の呵責や行為の妥当性に疑問を感じることもでき、上官に質問も出来たとなるとなると…」
そう私が口にするとアスハ代表は急いで言い添えなさる。
カガリ「バヤン中尉は幼い頃、事故の巻き添えを食い、両親を失って孤児となり、養護施設に引き取られたと。非人道的な…電極に繋がれたりする洗脳教育を受けて、薬剤も投与されている。立場としてはエクステンデッドとほとんど変わらない!」
それを私に言われても困る、とは口にしづらい。相手は国家元首だし、うーん。困ったな。
アスランに視線を向けると、それを受けた彼はキラ・ヤマトに目線を投げ掛ける。
キラ「彼は今、罪悪感苦しんでいる。最初はファントムペインの仲間が死んだことに怒っていたけれど。僕たちに助けられて-。僕がコーディネイターであることを知って、顔を見て。そして大勢のコーディネイターの命を奪ってしまったと…」
キラ・ヤマトはそう訴えかけるようにアスランに事情を話すが、アスランの答えは決まっている。
アスラン「だが、罪は罪だ。彼に償う意思があるなら猶のこと」
アグネス「幸い、と言うべきかは分かりませんが…。洗脳教育と薬物投与を受けて-アスハ代表がおっしゃるように-エクステンデッドと近い境遇なら刑の減免が成されるでしょう。国際法廷は開廷していませんが、最高刑は回避できるのでは、と思います」 - 139二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 01:11:18
そのようにお話してもアスハ代表とキラ・ヤマトの不安は払拭されていない。当たり前ね。
アグネス「(そもそも今の世論はかなり危うい。裁判までの勾留・拘置期間の間に彼が無事であるか、拷問や虐待を受けないか心配になるのでしょう。最悪、激高した軍人や警察官に暗殺されてしまうかも、と)」
だが、何時までもこのままではいられない。責任能力があることが、はっきりしているバヤン中尉は早く引き渡してもらわないといけない。
アグネス「(仮に裁判になったらどのぐらいの判決になるのかな。本来の判決が死刑(絞首刑)だとして。
洗脳や薬物投与と言った事情を酌んで、仮釈放ありの無期懲役に罪一等を下げて。若く更生の余地があり、本人も深く反省していること、孤児になりブルーコスモスに引き渡され、彼自身にその境遇から逃れる選択肢が事実上なかったことを加味して、仮釈放ありの無期懲役を懲役30年に下げ。
プラスアルファ、司法取引に応じてファントムペイン殲滅に協力してくれたら、懲役30年を懲役15年に。15年まで下がれば模範囚なら約7割経過して10年ちょい仮釈放で塀の外に出られるかも)」
ただ、それは裁判しだい。ここで軽々しく私が口に出来ることではない。減刑要素を考慮して猶、死刑も十分あり得る。何にしろ-。
アグネス「(アスラン先輩、本題に)」
隣の彼に小声で話しかけ、決断を促す。それにアスランも目線で返事をしてアスハ代表に提案する。
アスラン「キラ、カガリ。俺達は…。フラガ少佐に関しては犯罪行為時に刑事責任能力が無かったと思っている。だから、こちらが納得できる医師から診断と鑑定を受けて、彼のことをカガリ、君から世界に発表して欲しい。そして、アークエンジェルを一時的な見なし拘留施設と出来ないか、各国と交渉して欲しい。警察官と検察官の乗艦は認めざるを得ないだろうが…」
アグネス「医師に関して提案があります。世界が事実上2つの陣営に分かれる中、中立を保っている月面都市コペルニクスから専門医を招聘しては如何でしょうか?」
突然の提案にアスハ代表は驚かれている。ただ、アスランと私の誠意は伝わったらしく一旦は乗り気になったような表情を浮かべられる。 - 140二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 01:18:44
キラ「少し待って。その話だとアークエンジェルは決められた場所で停船していないといけないよね。艦にもプラントの人達が大勢乗って来る」
アスラン「キラ!?」
キラ・ヤマトから不穏な気配がする。苛立っているのか、疑っているのか?私達の提案に彼は後ろ向きのようだ。
アグネス「(いや、後ろ向きどころか拒絶状態…。何で?)」
カガリ「キラ?!」、ミリアリア「キラ?」
アスハ代表とミリアリアさんも彼の静かな声から危ういものを感じているらしい。
キラ「オーブで-。僕等はコーディネーターの特殊部隊とモビルスーツに襲撃された!ラクスは誰に、何で狙われなきゃならないんだ?」
アスラン「うぅ…」
キラ・ヤマトは核ミサイル並みに危うい発言を撃ち放つ!不味い、不味い…。その話は、今は無しだ!
キラ・ヤマトが私とメイリンに向ける瞳、信じたい気持ちと疑う気持ちが混じり合っている。疑い100%でないだけ彼は大人なのか…。
アグネス「ヤマト殿、録画、録音されています!どうか慎重に…」
私の注意喚起もどうやら無意味なようだわ。彼の問いかけは終わらない。
キラ「狙いはラクスだった。だから、僕は、またはフリーダムに乗ったんだ。彼女も皆も、もう誰も死なせたくなかったから。彼女はなぜコーディネイターに殺されそうになるの?」
アスラン「キラ!」
アスランの短い声。止めようとしているのか、あの映像が事実と改めて本人から突き付けられ動揺しているのか。どちらでも良い。事ここに至っては同じことだわ
アグネス「(言いやがった!この男。どうしてくれるんだ!)」
慌ててメイリンに目線を投げ掛けるが、彼女は困惑しつつも首を振る。ここで止めるくらいなら録画も録音も意味はない。
キラ「メディアはこの戦争と混乱はロゴスのせいで、プラントはこんな馬鹿なことを一日でも早く終わらせようと頑張っていると言っている。戦争を早く終わらせて、平和な世界にしたいって。プラントは本当にそう思ってるの?あのデュランダル議長って人」
アスラン「そ…。それは…」
アグネス、メイリン「…」 - 141二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 01:25:50
図星を突かれた!不味いわ…。何か上手く言い繕わないとこっちの身が破滅する。そして、アスランは嘘が付けないタイプの人間。私が話して切り抜けるしかない。
アグネス「キラ・ヤマト殿のおっしゃる襲撃が仮にあったという前提に立ってお話します。思うにその襲撃はプラント最高評議会と国防委員会の命令に基づかない、極一部の人間が勝手にやったことではないか、そう小官は推察します」
キラ・ヤマトの静かな怒りを受け止めながら、私は嘘にならないギリギリの弁明を試みる。
アグネス「もしラクス様が狙われたというなら、本当にとんでもないこと。しかし、だからプラントも信じられないというのは、少し早計過ぎるかと。ヤマト殿、プラントにも様々な思想信条を持った国民がいます。残念ながらユニウスセブンの犯人達のように。その襲撃も国家の意思に反した者の愚行ではありませんか?」
アスラン「そんなことくらい解らないお前じゃないだろ!?」
フリーズ状態から蘇ったアスランが私を側面支援してくれる。あれ?逆じゃない?
キラ「それはそうだけど…。でも、それがはっきりしない内は、僕にはプラントも信じられない」
遂にきっぱり言い切った彼を見て、失望感が胸に込み上げてくる。確かに彼の言うことが正論だ。私達が何をどうしようと上が悪巧みをすれば何ともならない。
しかし、一応、言うだけは言う。脇道(ではない)にそれた話を修正しなくては!
アグネス「プラント6000万人の国民が皆、悪事に加担しているような言われようは心外です。我が国は独裁国家ではありません。仮に一部の者が陰謀を企んでもそれを自浄する仕組みがあります。アスラン先輩!」
アスラン「ああ。船を停めたり、人を乗せるのが嫌なら。フラガ少佐のことは話し合いを続けるとして。せめて、バヤン中尉だけでも引き渡してくれないか?」
アスラン、ナイス。囁かなくても意をくんでくれたわ。
アグネス「(せめて1人ぐらい確保しないと。今のままでは状況が悪化するだけだわ)」 - 142二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 01:33:21
キラ視点だとアンタらが政治的な判断でラクスがやったこと色々考慮した結果プラント追放でもう済んだ話なのにまたちょっかいかけてきたって感じプラント迷走し過ぎてて何も信じられんわな
アグネス含む普通の軍人や一般人はラクスやアスランがどんな処理されたか全く知らんけど - 143二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 01:36:23
妥協するのが軍人でもキラは身内のためなら妥協は許さないし覚悟もできてしまう
スウェンさえも分かりあってしまって身内認定してしまったら - 144二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 01:41:16
キラ・ヤマトがアスランの言葉を聞いて考え込み、アスハ代表が何かを口に仕掛けたその時、私のポケットの業務用携帯が勢い良く震えだす。これは先程名刺交換した侍従武官殿のもの!
アグネス「アスハ代表失礼します!」
カガリ「ああ。かまわない」
アグネス「ありがとうございます」
そのまま耳に携帯を近づけると切迫した近衛騎兵連隊長の声が耳を突き抜ける。
近衛騎兵連隊長「すまない。私だ。侍従武官殿からお借りして。大西洋連邦・大西洋艦隊から発艦したウィンダム隊がスカンジナビア王国上空を飛行中、ノルウェー海からこちらの方向に。無線傍受聴取塔で判明した!王国政府の抗議も同盟国の義務の一点張りで奴等突っ切って来ている。彼らも発見が遅れたらしい。20分後にこの島の上空を通る。本島が目標かもしれない!」
携帯をスピーカーモードに。最悪、懸念していた事態の一つ。それがよりによって今日か。奴等、スカンジナビア王国を巻き込むつもりだ!
アグネス「お知らせくださりありがとうございます。同盟国として共同防衛体制を。私達は連隊本部に向かいます。欧州軍合同本部には伝達済みですか?」
近衛騎兵連隊長「ああ。伝達済みだ。協力を頼む。島民に空襲警報を鳴らす。ザフトは構わないな?」
アグネス「ええ。機密よりこの場は民間人の安全を第一に」
携帯を切るとサッと4名に視線を投げ掛ける。時間が無い。
アグネス「お二人は速やかに島外に退避を。政治的に微妙な局面です」
カガリ「いや。しかし...。民間人が…」
アスラン「キラ!」
キラ「討ちたくない。討たせないで…」
何やらキラ・ヤマトがヤバそうだけど。こっちはそれどころじゃない。連隊本部に急がねば! - 145二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 05:48:34
偶然とも取れなくはないがあえて言わせてもらおう…
やりやがったなあの野郎! - 146二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 08:04:11
デュランダルが(アコードを使って思考探査させてまで情報を得ていたことでほぼ確定で)流したとしてもそうでなくとも交渉は御破算だなこりゃ。
プラントへの不信もあってこの有様だからキラ達も今後、態度をこれ以上に硬化させてスウェンを身内に入れてしまった以上、引き渡しもプラントの人間の乗船なんてもってのほかだからな
…ロゴス関係者を庇ってるってデュランダルが言い出せばもうスカンジナビアも追われてエンジェルダウン作戦は避けられないか? - 147二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 09:49:34
キラがアグネスの発言を―――
信じる:やっぱり議長かそれに近い人が怪しい、何かおかしなことをしてるって薄々思ってるんですよね?
信じない:取り繕おうったってダメですよ。大体この間だってザフトは民間人を犠牲にするような作戦を……
あらやだどっちにしろ詰んでる - 148二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 12:08:46
議長のチャート修正力さぁ…
- 149二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 12:59:19
戦時の最高評議会議長はとんでもない暴走ムーブもできてしまう
キラもアスランも前大戦の最前線でその結果を直に見てきた側でアグネスはそうじゃない
アスランの世界征服発言にも表れてるように彼らは権力の暴走に対して敏感にならざるを得ないのだ - 150二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 18:23:36
…闇に落ちろ使えば侵攻する意思も目的もない連合部隊も自由に動かせるんだよなぁ
それこそザフト軍だって自由自在に
ただアウラがラクスを手に入れたがってたのに対してギルは暗殺しようとしてたから本編だとどこまで歩調合せてたのかが読み解けないんだよなぁ
小説版だとアウラはラクスの暗殺に積極的に反対もしなかった風にも取れるし - 151二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 01:56:03
アスラン「キラ!」
アスランの叫び声でキラ・ヤマトは我に返るとアスハ代表に呼び掛ける。
キラ「カガリ、僕たちは島を出よう!このままじゃ、巻き込まれる」
カガリ「ミリアリアはどうする?!それにこの島には大勢の民間人が!」
二人のやり取りの間に島中の防災スピーカーから、けたたましい空襲警報が鳴り響く。決断の時間だ。ポケットに入れていた鎮痛剤と抗炎症剤を口の中に放り込み、鞄から高級栄養ドリンクを取り出し一気に流し込む。傷が塞がったばかりの胃腸、回復し始めたばかりの身体がどう反応するか。考えても仕方ない。
アグネス「メイリン、駐車場に走るわよ。アスラン先輩も!ミリアリアさんは?島から脱出するならフリーダムかストライクルージュに乗せてもらって下さい!」
ミリアリア「いいえ。私は戦場カメラマンです。残ります」
彼女の返事を聞いたアスハ代表は決意を固めると、私にお声がけくださる。
カガリ「アグネスありがとう。だが、私も残る。ここでこの島の危機を見捨てて去れば…。デンマーク王室と国民に顔向けできない」
キラ「カガリ!」
アスラン「君は何を!」
幼馴染二人組は驚きながら、アスハ代表を制止するが、彼女は最後まで言い切る。
カガリ「無論、積極的戦闘には加われない。でも、住民の即避難誘導とシェルターに間に合わなかった人達の防御だけでも」
彼女の決意が固いことを知る。なら、むしろそれを活かしてもらうべきかもしれない・
アグネス「ではお願いします。ただ、その意思を外部に明確に示して下さい」
アスラン「お…。おい」
カガリ「分かった。ありがとう。いろいろ…」
アグネス「いいえ。このようなことになりお詫びのしようもありません」
真直ぐな彼女の瞳をチラリと確認して、そう言い置くと今度こそ駐車場に向けて走り出す。メイリンとミリアリアさんも続く。
背後から後ろ髪引かれたアスランが半ばパニックになりながら追いかけてくる。怖いわ! - 152二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 02:04:26
岬ではアスハ代表がストライクルージュに簡易昇降機で登っていく。隣ではキラ・ヤマトもフリーダムに搭乗中だわ。そう言えば、彼はどうするのだろう?まあ、それどころではない!
アスラン「どういうつもりだ!アグネス、彼女が標的かもしれないんだぞ!」
私に並走しながらアスランがもっともなことを言ってくる。無論、それも考えたのだけど…。
アグネス「接近する敵の目的が不明です。もし、この前のデストロイ同様、無差別攻撃が主目的の場合、『島民を見捨てて逃げ出した』アスハ代表とアークエンジェルの威信は地に落ちます。代表にキラ・ヤマトが付いているなら余程のことが無い限り、お命の危険は無いのでは?」
そう、アスランに私なりの答えを投げ掛けると、彼は一瞬虚を突かれたような顔になり、その後、不承不承納得して頷く。
アスラン「確かに。キラがいるなら大丈夫か…」
幼馴染の名前を聞いて精神の均衡をやや取り戻したアスランに素早く注意点を伝える。
アグネス「それより…。アスラン先輩は速く軍服を着ないと…。私服で戦闘に加わるのは国際法違反と見なされかねません」
アスラン「ああ…。そうだな。連隊本部に軍服の余りがあるか聞かないとな」
森の中の駐車場、レンタカーに4人で滑り込む。唸るようにエンジンを吹かせて連隊本部が置かれているレネの町に向け、南下を開始する。
上空ではストライクルージュとそれを守るフリーダムが急上昇している。どこか煮え切らない態度だったキラ・ヤマトも結局、姉(妹)を守ることに決めたようだわ。何よりね。
レンタカーのラジオから国際救難チャンネルが流れ出す。 - 153二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 02:10:37
カガリ「私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ。本日、私は先日の西ユーラシア政変における地球連合軍無差別攻撃によって生じた被害者の支援を促進するため、ザフト特務隊と意思疎通を図るべく、西ユーラシア連邦領デンマーク王国ボーンホルム島を訪問していた!
そこで地球連合軍の一方的なスカンジナビア王国の領空侵犯を知るに至った。この事態を招いた者達をオーブ連合首長国代表として、最大限の強い言葉で非難する。私はオーブ連合首長国が中立を守ることを望んでいるが、先日の戦災を思うに目前の文民が危機にさらされていることは看過できない。当機とフリーダムはこれよりボーンホルム島における民間人保護に参加する。その際は自らと自己の管理下に入った者を防衛する場合のみ、武器を使用する。その旨、各国・各機関は配慮されたし」
アスハ代表の宣言を片耳に聞きつつ、レネの近衛騎兵連隊本部に業務用携帯を掛け鳴らす。
連隊長「ギーベンラート女史!今、アスハ代表が!」
アグネス「はい。尊いご判断です。この島のシェルターを始めとした民間防衛マップをストライク・ルージュとフリーダムに転送してください。思いだけでは空回りになってしまいます」
連隊長「分かった…。いや、分かりました。ふむ、焦るといけませんな」
アグネス「ええ。確かに」
レンタカーは猛スピードで突進中だわ。景色が後ろに飛んでいく。その車をきょうだいが操縦するモビルスーツ2機は飛び越えていく。
アグネス「(レネのどうなる?ウィンダムで無差別爆撃など非合理的だから、もしこの島が攻撃目標なら、狙いは無線傍受聴取塔だと思うけど。自由の女神と同じ高さと言っていたやつね)」
のどかな田舎道が家から転げ出た島民でいっぱいになって来たから、アスランは車を脇の畑に豪快に乗り上げて進む。
島の西海岸、時々畑を踏む荒らしながら、何とか岬とレネの中間地点まで到着、ミネルバに連絡を入れる。今度は業務用デバイスを起動させ、ミネルバブリッジに特務隊権限で直接通信を入れる。あんまりない機会ね。
アビー「ああ!アグネスさん!大丈夫ですか?」
アグネス「大丈夫。グラディス提督に…」
そう話している最中にレネの南側、ボーンホルム空港空港の方角から閃光が幾つも煌めき、数秒後に複数の爆発が耳をつんざく。やや小ぶりなキノコ雲が幾つも発生したところを見るに-。 - 154二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 02:14:45
アグネス「大丈夫じゃないわ。訂正、空港が襲われた。多分、スクランブル態勢に入っていた飛行中隊2個とダガーL隊も無事では無いはず。全滅したかも」
アーサー「ええ!もうそこまでウィンダム隊が?!」
おお。副長、お久しぶり。
タリア「アーサー!アグネス、どういうこと?!まだ、敵航空隊は…。まさか潜水部隊!?」
アグネス「そうとしか思えません。キールからミネルバを向かわせる際は飛行、空路で向かって下さい。水中モビルスーツないし、特殊潜水艇をムルマンスクで陸揚げして空路か陸路でバルト海に投入したのかもしれません。要注意を」
まさかフォビドゥンヴォ―テクスか?もし、そうなら最悪だ。内陸部までは来ないと思うけど、空港が潰されたなら援軍が来ないと島は孤立する。
アグネス「(急展開過ぎる。現実は分かりやすい伏線を敷いてなどくれないものか…)」
少なくとも地球連合はこの前の大敗で偏ったキルレシオを少しだけ揺り戻すことに成功したらしい。
タリア「分かりました。それと…。申し訳ないけど、本艦は訓練のためにキールを一旦離れ、現在地点はザクセン=アンハルト州レッツリンゲン、アルトマルク部隊演習場の上空よ。国防本部に問い合わせつつ、現地に向かいます。幸運を」
アグネス「艦隊の皆にも」
アスラン「ミネルバはキールを離れていたのか…」
運転席からアスランの声、自分で運転しているから舌を噛まないのね。私はさっきから冷や冷やしながらコミュニケーションを取っていたのに。
チラリとミラーを見るとミリアリアさんはワイルドすぎる運転のせいで真っ青だわ。
メイリン「士気を取り戻すために猛訓練とおっしゃっていましたから。でもタイミングが悪いですね」
やや声を大にしてメイリンが隣でアスランに向けて叫ぶ。
アグネス「でも、実質60㎞延びただけ。バルト海を疎かにするほど。こちらも馬鹿じゃないわ。360㎞先から援軍が来る。他の部隊も黙っている筈が無いわ」
20分は飛ぶように過ぎていく。 - 155二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 10:02:16
保守
- 156二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 16:09:59
保守
- 157二次元好きの匿名さん24/12/31(火) 19:54:01
チャート修正したつもりの議長だろうけどこれ失敗してない?
イングリッドが読心で得たであろう会談の時間より前倒しでやってるから連合の攻撃から退避する時間的猶予ができててアグネスの進言を受けてカガリが声明出してるからザフト特務隊と人道支援の協議の為に現地に居たことは対外的に伝わってる
その上で現地民の保護と専守防衛を明言してる
これでエンジェルダウン作戦強行しようものならまず最高評議会がストップかけるぞ
まぁ最高評議会通さずに強行せんとも限らんが…
しかしアグネス大丈夫か?
怪我が再発してアークエンジェルに拾われたら更に状況が拗れそうだけど - 158二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 02:06:39
島の中心都市にして連隊本部が置かれているレネの町に帰還、海岸線が危ないことは分かっているので北東方向から町に入る。
南南東のボーンホルム空港は真っ赤に染まり、もうもうと黒煙と白煙が立ち昇っている。私達のビジネスジェットも破壊されただろう。双眼鏡を取り出して確認すると、煙の合間からストライク・ルージュとフリーダムが見える。恐らく破壊された建物の下敷きになった人々の救助に当たっているのだろう。
アグネス「(民間人への避難勧告は無かったからね。恐らく、炎上する空港施設の下敷きになっている人が相当数いるはず。重機が間に合わないならアスハ代表とキラ・ヤマトだけが頼りね)」
町に入ってすぐの交差点で、近衛騎兵連隊第一大隊の装甲車に遭遇、ザフトの軍服を見えるように示しながら手を振って停まってもらう。
互いの敬礼もそこそこに運転席からアスランが叫ぶ。
アスラン「ザフト軍特務隊のアスラン・ザラ、同じくアグネス・ギーベンラート、他2名。連隊本部に向かっている!案内を頼めるか?!」
近衛騎兵連隊下士官「分かりました。自分達もちょうど向かっているところで…」
やり取りをしている間に町の西側、レネの港湾施設が大爆発を起こし、爆音が私達の鼓膜を打ち鳴らす。
爆発は一度で終わらず、繰り返し何度も。舞い上がったコンクリートと建材、ガラスの破片が街中まで降り注ぎ、吹き飛んだ艦船の錨が学校の屋根を押しつぶしていくのがスローモーションで脳裏に焼き付く。
町に入る際、少しだけ遠回りして北東方向を選んだのは正解だった。海岸線に後、1本でも寄った道ならどうなっていたことか。装甲車が盾になったため、車も含めて皆無傷で済んだ。
近衛騎兵連隊下士官「な…。何だ!?」
一般市民「誰か…!誰か…」
一般市民「うぁぁぁ!」
港湾施設全体を破壊しつくすつもりなのか、今も爆発は止まない。空港同様、いやそれよりもはるかに大きな規模で炎と有毒ガスと黒煙・白煙の集合体が天高く昇っていく。
のどかな島は一変してしまった。どうしようもない…。どうしようもないのでなすべきを成す! - 159二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 02:13:11
下士官と装甲車内の兵士の顔に怯えの色が走るのを目にする。事態を冷静に把握させ、次に何をするか示さねば!
アグネス「恐らく、港湾内に侵入した敵水中モビルスーツ、フォビドゥンヴォーテクスの破壊工作でしょう。フォノンメーザー砲、スーパーキャビテーティング魚雷キャニスターポッド、115mm機関砲『アルムフォイヤー』等を使用して停泊中の艦船と港湾施設を攻撃したものと推測。ともあれ我々は連隊本部に向かいましょう」
やや動揺している皆を落ち着けるよう状況を説明する。アスランは私の言うこと等聞くまでもなく戦士の顔に豹変している。
近衛騎兵連隊下士官「分かりました!装甲車の後ろに着いて来て下さい」
アスラン、アグネス「了解!」
混乱した街中を兵士の怒号と共に装甲車は押し進み、後ろから私達の車が続く。
ミリアリア「あのモビルスーツ、上がってこない?」
アグネス「あれは地上戦に適した機体ではありません。『連隊本部。状況をお伝えください』」
ミリアリアさんに軽く気休めを言ってしまう。実際のところ、今上がってこられたら、なかなかの脅威だ。本隊の航空隊が来る前にこれとはね。
広げたデバイスとイアホンマイクを繋ぎ連隊本部に呼び掛けると、本部詰めの女性オペレーターの返事が届く。彼女は明らかに動揺を隠せていない。
連隊本部オペレーター「ボーンホルム空港壊滅、レネの港湾施設と本土とのフェリー、民間船舶も!近衛騎兵連隊の第3偵察大隊のスピアヘッド中隊とスカイグラスパー中隊は全損!モビルスーツ中隊は空港でスクランブル中だったダガーL6機中3機を損失!パイロット・整備兵等スタッフ班の内、空港配属者の安否は不明…。民間人の犠牲多数-」
一度に損害を報告されてしまった。当初思ったより不味いわね。半泣きになっている彼女の声を聴きながら、如何にメイリンとアビーが優秀であったかに気づかされる。無論、彼女を責めているわけでは無い。戦友と共に暮らしている住民が一気に大勢亡くなりショック状態なのだろう。
アグネス「了解。では、第3大隊の長距離哨戒機とレーダー車、無線傍取聴取塔は無事なのですね。第1大隊の内、ストライクダガー6機と先程、ダガーL3機も」
受信機の向こうの彼女は必死に息を整えながら答えてくれる。 - 160二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 02:18:04
連隊本部オペレーター「はい。ストライクダガーは内陸配置だったので。ダガーL3機は退避に成功しました」
アグネス「補機・予備機は?V訓練大隊の動向もお願いします」
いいぞ。彼女、だんだん落ち着いてきたわね。
連隊本部オペレーター「ダガーL1機、ストライクダガー1機が予備機として連隊本部兵舎敷地内に。訓練大隊は民間人避難誘導に出動させました」
ちょうど1機ずつか…。どういう廻り合わせかな。
アグネス「アスラン先輩!私は連隊本部に先輩と私が予備機に搭乗、戦闘に参加する意思がある旨、お伝えしようと思います。よろしいでしょうか?」
アスラン「君怪我は?!」、メイリン「アグネスさん!?」
流石、アスラン。『操縦の仕方が分からない!』ではなく、私の怪我の心配が第一に来るのね。まあ、この人なら乗った瞬間、乗りこなすでしょう。
アグネス「ベラルーシを飛んだ時はこんなものではありませんでした。今日は守るべき友邦の民がすぐ傍にいます。足りぬ分は士気で補います」
何の不幸か私もこの2種なら操縦に問題はない。これまでのシミュレーション訓練、そして直近の強化訓練課程教材づくりの際、ババッと『敵視点』の確認をしたから。
車のバックミラーにアスランの心配げな顔が映り込む。目線に力を込めてそれに答える。
アスラン「分かった!頼む」
アグネス「はい。『連隊本部、そのように連隊長と第1大隊長にお伝えください』」
連隊本部オペレーター「了解!」
勿論、予備のパイロットが控えていたら彼ら彼女らに乗ってもらえばいい。ただ、やはりどちらかのコックピットにアスランは押し込んだ方が良いと思うけれど。
アルメガズル兵舎がようやく目前に迫った頃、カーラジオから大西洋連邦コープランド大統領のやる気の無さそうな談話が発表されている。
コープランド「私は大西洋連邦大統領ジョゼフ・コープランドです。私は大西洋連邦大統領としてスカンディナビア半島大西洋沿岸部、ベルゲン、トロンハイム、ナルビクに軍の進駐を開始する旨、先刻スカンジナビア王国政府に通告しました。現在、地球連合軍はベルゲンとトロンハイムに無事、上陸し、現地の住民から歓呼の声と共に迎えられています」 - 161二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 02:24:23
歓呼の声、歓呼の声と来たか!アホらしい。まあ、この人はそう言わなければいけない立場ではあるけれど。
アスラン「ノルウェー進駐!このタイミングでか?!」
アグネス「このタイミングだからこそかもしれませんが…。しかし―」
コープランド「この進駐はスカンジナビア王国の主権を侵害する意図を有するものでは決してありません。ただ、些細な手違いから、通告が事後になってしまったことを遺憾に思います。この軍事行動はあくまで同盟条約締結国間の部隊の配置転換に過ぎず、進駐した3都市に軍政を敷く意図も持ちません。また、スカンジナビア王国の東部国境線管理に変更を加える意図もありません」
ミリアリア「東部国境線、というと西暦時代のフィンランドとロシア国境地帯のことね」
メイリン「そうですね。ユーラシア連邦軍の越境は認めないから大目に見ろ、ということでしょうか?」
アスラン「…」、アグネス「…」
彼曰く、この軍事行動は大西洋連邦と地球連合の積極的自衛権の発動なのだという。もし、ザフトがスカンジナビア王国に侵略を開始し、スカンディナビア半島西岸部までその『魔の手』に落ちれば-。ノルウェー海沿いの港湾は北大西洋海流の影響で不凍港、フィヨルドの奥に潜水艦基地を造られ、北極海・北大西洋一帯の安寧が脅かされることになる、と。
アグネス「(無論、アイスランド、ヘブンズベースも、という論法ね)」
コープランド「…故に、スカンジナビア王国単体でのスカンディナビア半島防衛は困難であると地球連合本部は結論を下し、今日の事態となったのであります。繰り返しになりますが-」
連隊本部前に車が到着、無能者の談話はまだ続いているが、最後まで聞く時間はない。
刹那の間に脳内で思考を巡らせる。
要はスカンジナビア王国領内旧ノルウェー大西洋沿岸部に地球連合軍が進駐したということ。そして、スカンジナビア王国はそれに表立った抵抗はしていない。
と言うか、建前上、同盟条約締結国だし、何より、ほぼ全戦力を旧フィンランド東部国境とバルト海方面に貼り付けていたため、仕様のなかったということか。
ただ-
アグネス「(それならこの攻撃は何だろう?陽動なのか、馬鹿な指揮官が手柄欲しさに先走ったのか?大西洋沿岸部を遥かに超えてバルト海に突っ込んで来るとは)」 - 162二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 02:29:07
答えの出ない問いをしている暇などない。恐らく進駐を完了するまでの陽動だと内心で結論を着ける。
皆で車から飛び出す。アスランは真っ先に兵舎に飛び込む。私も続くが、ミリアリアさんのことが心配だ。彼女はフリーのカメラマン、国際法上の『従軍記者としての保護』を受けることができない。
降りてカメラを構える彼女に呼び掛ける。
アグネス「ミリアリアさん、一緒に中に。臨時に報道関係者証明書を出してもらえないか掛け合って下さい。私の名前を出してもかまいません。せめて『PRESS』のゼッケンを。お守り代わりにはなります」
振り向きざまに彼女に視線を遣る。すると彼女も顔を上げて私を見上げる。ミリアリア・ハウと言う女性の顔を改めて目にする。随分と逞しい。前大戦を生き抜いた強者はかくも覚悟が違うものか…。
フリーとしての矜持から、彼女は私の提案を謝辞するような表情を浮かべた。
アグネス「メイリンの願い!」
メイリン「はい!」
ミリアリア「ああ。ちょっと!」
しかし、ここで彼女を死なせるのは個人的にも公的にもあまりに大きい損失、見過ごせない。やや強引にメイリンに手を引かれ、背を押されて彼女もまた連隊本部に。
奥から連隊長が駆け寄って来た。
近衛騎兵連隊長「ギーベンラート女史、無事ですか!それと貴方がアスラン・ザラ殿ですかな?」
アスラン「はい。軍服を…。それとパイロットが必要なら…」
近衛騎兵連隊長「機体は既に。ウィンダム隊が島北端にまで達しています。フォビドゥンヴォ―テクスは水中に身を潜めていますが油断できません。ギーベンラート女史、乗りますか!?」
皆に聞かれるわ!答えなどこの場では一択だろう。
アグネス「乗れます。差し出がましいことを、申し訳ありません」
近衛騎兵連隊長「…感謝します。こちらです。少尉案内を」
近衛騎兵連隊少尉「はい」
連隊長に呼ばれて敬礼して来た若い士官に敬礼を返して、パイロットスーツを受け取りアスランと駆けだす。 - 163二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 08:33:15
これコープランドもジブリールもなんでもあいつら勝手に侵攻してんの…!? って宇宙猫状態になってない?
- 164二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 09:19:54
コープランド(ポンコツ)大統領の発表通りなのか
純粋に現地指揮官の暴走のみなのかでも変わるな…
先の戦いでも場の流れで後追い侵攻が発生してたから、後者っぽいんだよね。
あとアグネスさん?
予備機を借りて民間人を守るために出撃とか、アスラン以上にアスランムーブしてません?
どっかの偉い人に睨まれない?大丈夫?
- 165二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 09:36:28
やってくれたな(多分)ジブリール
- 166二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:06:13
議長がアコード使って連合の暴発促したのならキラカガリのどさくさ塗れ出の排除に失敗してもスカンジナビアと連合の関係にひびを入れて対ロゴス同盟に抱き込むことができるって利点があるんだよな
ただしそうなった場合進駐してきた連合軍の排除必須になるから戦術ミネルバ込みでザフト部隊による軍事行動が必要になるし戦線が増えた分後方の負担が増えるわけで
兵站部面の担当者ならアグネスじゃなくてもあの軍事素人議長め! ってブチ切れるわ - 167二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 13:11:53
プラント、ヘブンズベースに手を付ける前に攻勢限界点に達しないかこれ?1600年後のイゼルローン要塞の金庫番じゃないが、
プラントは兵力と軍事費が無限に湧き出してくる魔法の壷なんて持ってはいないんだぞ。いい加減、財政部門あたりが悲鳴を
上げるか、軍事部門が無茶振りにキレるかしてしまいそう。 - 168二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 16:35:35
- 169二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 17:28:37
(タリアの血管がブチ切れる音)
- 170二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 02:53:16
そうだわ!その前に-
アグネス「メイリン!ごめん。こっちに来て!」
ミリアリアさんに青地に『PRESS』の白文字のゼッケンを手渡しているメイリンに声を掛ける。
近衛騎兵連隊のオペレーターは居る。けれども今後、ザフト軍本部、欧州合同本部、本土から到着する援軍、ミネルバ等と現地の回線を維持する人員が必要になる。
アグネス「メイリン!私の業務用デバイスを使って総合オペレーターを、連隊長殿達と一緒に地下壕で。『特務隊権限でアグネス・ギーベンラートがメイリンホークにボーンホルム島の総合オペレーションを命じます』、お願い」
メイリン「はい!」
駆け寄ってきたメイリンにデバイスと共に業務鞄も手渡す。
アグネス「鞄の中にアスハ代表とスカンジナビア王国国王陛下の親書が2セット。特にスカンジナビア国王陛下の親書は今回の事態が王国の本意でなかったことの証明になる。守り抜いて」
メイリン「はい!必ず」
時間が無い。メイリンに命じながらその場でババッと服を脱いでパイロットスーツを着こむ。周囲が目を丸くしているが仕方ない。一瞬で終わったから通行の邪魔に放っていないはず。
メイリンは鞄と私が丸めた制服を引き取ると、敬礼してくれた。私もそれに手礼で応じ、アスラン達の後ろを追いかける。
少尉殿とアスランは近衛騎兵連隊第1大隊長とブリーフィング中、こちらも着替えながら行っている。仲間がいて良かったわ。
大隊長「モビルスーツ中隊長と最先任小隊長、両名は空港で戦死。控えのパイロットにも搭乗させて現在の状況です。貴官らにも搭乗していただき、ストライクダガー7機、ダガーL4機。我が隊のモビルスーツはこれで限界。ザラ殿とギーベンラート女史は軍事顧問として実質的な中隊長と副隊長をお任せします。それぞれダガーL隊とストライクダガー隊を率いて欲しい。目下、縄張り意識無しで行きましょう」
アスラン、アグネス「はい!」
ちょうど一番大事なところだったわ。自分で確認できて良かった。 - 171二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 03:06:27
即座に格納庫から引き出されたストライクダガーの簡易昇降機に足を置き、掴まってコックピットに昇っていく。隣ではアスランがダガーLに。兵舎敷地内には残りのモビルスーツ隊も一時、集結している。
私達を案内してくれた少尉はストライクダガーのパイロットだったらしく、こちらと同時に機体に飛び乗っていく。
そして、北の空にはウィンダムの編隊が突き進んで来る!既に連隊幹部とメイリン達は連隊本部地下壕を駆け下り始めているだろう。
ただ、モビルスーツ中隊が属している第1大隊長は最後まで見送ってくれるようだ。それなら此方も礼を尽くさないといけない。虚礼ではなく実礼でね。
アグネス「大隊長殿!フォビドゥンヴォ―テクスは、動力部やコクピット周辺以外なら通常兵器でもダメージを入れられます。上陸時に備え対戦車地雷を。装甲車の対戦車砲でも全身に満遍なく撃ち込めばあるいは効果があるかも知れません。脛から下がねらい目です。機械化歩兵もまだまだ戦場の主役です!」
大隊長「!?。了解しました!武運を!」
アグネス「近衛騎兵連隊全将兵にも!」
彼への敬礼と共にコックピットに転がり込みスイッチを押し起動。如何にも簡素なコックピット、シンプルな機体。
ありがたいことに時代遅れの『M703 57mmビームライフル』と『ES01 ビームサーベル』は、ウィンダムとダガーLのものを流用して『M9409L ビームライフル』と『ES04B ビームサーベル』に交換されている。対ビームシールドもダガーLと同じ規格だ。これで少しはましだろう。
回線を6機の僚機とアスランが乗っている臨時中隊長機、そして連隊本部に固定する。
レーダーには押し寄せる敵ウィンダム隊第1波30機がチカチカ映っている。市街地戦は避けたかったが町の外まで出る時間もない。それに市庁舎も守れたら守るべきだろう。
敵部隊は後方から第2波、第3波も。第3波の更に後方から大きな光点が追いかけてきている。おそらくザムザザーかな。
アグネス「(…第1波を退けてから考えれば良いことね)」
アスラン「アスラン・ザラだ。この中隊の指揮を執る。連携を重視していくぞ。ダガーL隊は3機小隊で、俺が随時カバーする。全機上昇せよ。アスラン・ザラ、ダガーL、発進する!」 - 172二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 03:25:33
短い号令と共に急遽再編されたダガーLが連隊本部敷地から空に舞い上がっていく。真顔で30対4の空中戦を宣言しているのだから、あの人はやはり戦士が適職なのではと思う。
此方は此方で指示を出せ、と言うことね。
アグネス「アグネス・ギーベンラートよ。よろしく。ストライクダガーは彼らに増して連携が大事。こちらも3機小隊を基本とするが、時に散兵、時に亀甲陣。統一した意志の下、臨機応変に敵に臨めば自分も戦友も島民も助けられる。勇敢さと忍耐と賢明さを!」
ストライクダガー隊一同「はい!」
良し!
アグネス「市庁舎の防衛に向かう。道路移動時は縦隊を。続け!」
ストライクダガー隊一同「了解!」
そう命じて私の機体を先頭に7機のモビルスーツは駆け足で町を進む。自動車と瓦礫を可能な限り避けながらだ。中に人がいるかも知れないし、瓦礫の下敷きになっている人間もいるかも知れない。
シェルターに入り切れなかった住民が彷徨っているし、仲間の歩兵も走り回っている。地べたを駆け回るのがこうも面倒だとは!
レーダーと目視で確認するに、さっそくアスラン率いるダガーL隊が一撃離脱を成功させ、一度に5機のウィンダムを撃墜している。ライオンが率いる羊の群れは、羊が率いるライオンの群れに勝つとはよく聞くが、こうも違うとは!
ワンマン気質が光るポジションならあの人は一騎当千出来るのね。
でも敵も馬鹿じゃない。一撃目から即立ち直ると町のど真ん中を駆け足で進む7機の『格下機』を目ざとく見つける。
アグネス「(『見つける』と言うより『見つけられた』と私が感じた、と言うのが正解ね。ぞわぞわっとした感覚が走り抜けたから)」
アグネス「円陣を組め、亀甲陣、前列正面の盾は私が!イーゲルシュテルン起動、ミサイル迎撃用意!盾の隙間からビームライフル構え!」
ストライクダガー隊一同「了解!」
アスランに叩き落とされた小隊の両隣の翼、後方の胴、各3機ずつ、計9機が此方に頭を向け始める。典型的な鶴翼の陣、猛禽に頭上から囲まれたらこういう気分なのかしら。
ストライクダガー隊の内6機が忙しく動く中、真っ先に動いていたウィンダム9機が空で制動を掛け、こちらに空対地ミサイル『ドラッヘASM』を向けてくる。その瞬間、皆が浮足立つのが肌でわかる。 - 173二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 03:59:13
アグネス「慌てない。イーゲルシュテルン発射用意!」
ストライクダガー隊一同「了解!」
大きすぎない声で命じると真正面の私は対ビームシールドを掲げる。そして上空で能天気に舌なめずりをしている猛禽気取りのトンビを1匹、ビームライフルで撃墜する。
その瞬間、敵編隊の空気が凍り付く。
アグネス「今!」
ストライクダガー隊一同「はい!」
アグネス「今!」
ストライクダガー隊一同「はい!」
相手の心が一瞬怯んだ隙に、ストライクダガー隊は何とか円陣を完成させる。私を正面に5機で中に2機を入れた状態で5角形を作り対ビームシールドを正面に突き出す。そして五角形の中に囲まれた2機は対ビームシールドを上に構える。
間に合わせの円陣だ。シールドとシールド、盾と盾の間から半身を狙えば-
アグネス「(そう思っているんでしょうね)今!撃て!」
自分自身も命令しながら、ビームライフルの引き金を引く。ビームの閃光の先でウィンダムが爆散、ほぼ同時に他のストライクダガーが放った光で3機が燃えながら地面に崩れ落ちていく。相変わらず反応が遅い。空中で何をやっている!
アグネス「この要領よ!それから、敵の砲身の向きをよく見てシールドを微調整すること。1機やられたらみんな死ぬ!」
ストライクダガー隊一同「了解!!」
私が皆に号令したちょうどすぐ後、敵の背後から別の小隊3機が合流する。再び多勢になり優位に立ったウィンダム8機は数を生かして一斉に空対地ミサイル『ドラッヘASM』を発射-
発射される直前に!
まず、隊長機と思しき1機をビームライフルで撃ち抜き撃墜する。ここまで来て敵もようやくシールドを構えだす。反応が本当に遅い。おかげで何時も助かっている。 - 174二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 04:11:09
アグネス「イーゲルシュテルン!発射直後に頭を狙ってくる!頭を防御要注意!」
ストライクダガー隊一同「了解!!」
今更になってシールドを構え始めたウィンダム7機から発射された『ドラッヘASM』14発、これを対ビームシールドから僅かに頭部を覗かせイーゲルシュテルンで撃ち落とす。宙で爆発したミサイルの破片が戦友の掲げてくれている2枚の盾の表面に降り注ぐ。
敵の狙いは分かっている。ミサイルは撃墜されること前提だ。そして、こちらが頭部のバルカン砲塔システム『イーゲルシュテルン』を使用するために頭を覗かせたところを-
ビームライフルの引き金を引きシールドから身を晒して仲間の頭を狙っていたウィンダムを撃ち落とす。注意を呼び掛けても下手-は言い過ぎか-上手く庇えていない仲間がいる。
敵が彼を狙おうとするのが分かっていれば、狙う敵も撃ち落とせる。発射!もう1機撃墜!
私の要領をまねてストライクダガー隊3機が敵にビームライフルを発射、2機が撃ち抜かれて昼間の花火になる。焼けこげた肉が最後に零れ落ちる嫌な炎だわ。
アグネス「(神経戦ね。まだ始まったばかりの)」
(カウントMS779〈+共同撃破多数〉 デストロイ2(共同) セカンドシリーズ1(共同) 大型MA21(共同2) 戦闘機46 対MSヘリ160 大型輸送機33〈+共同撃破多数〉 VTOL輸送機33〈+共同撃破多数〉 リニアガン・タンク141〈+共同撃破多数〉 自走リニア榴弾砲154〈+共同撃破多数〉 ブルドック174〈+共同撃破多数〉 工兵車60<+共同撃破多数> レーダー車5 汎用車両・兵站車両・軍用トラック等261〈+共同撃破多数〉 対空砲7 空母11 イージス艦16 フレーザ級3 大型輸送艦1 コルベット艦2 哨戒艇1 軍用艇3 アガメムノン級14 ネルソン級14 ドレイク級17 リフレクターシールド装備型ドレイク級10)
- 175二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 10:49:35
実戦で見本を見せて仲間のレベルも引き上げるとは…さすがアグネス教官。これがOJTってやつですね!
- 176二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 12:16:40
累積した戦果がとんでもねぇ量に……。これは絶対、戦後の戦史の教科書に名前だの詳細な作戦行動だのが記載されるレベル。
で、プラント側の通称は「月光のワルキューレ」、連合側は「ミンスクの虐殺者」と。なお本人の心情(以下略。
- 177二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 14:17:58
ねえアグネス、自伝出す気ない?
まあ大半が愚痴(主に腹黒議長に対して)とかなるかもだけど - 178二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 19:36:27
今まで隊員がコーディネーターだからこそ隊長として正しい判断を下せば後は隊員達の基礎的な反応速度や操縦技術で数の差を覆してると思ってたけど
今回アスラン隊のお陰で敵は空中と地上の両方を警戒しないといけないとはいえナチュラルを指揮しても優位に戦えてるあたり敵味方の練度に合わせた上で最適な指揮が出せるのか? - 179二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 22:13:20
アスランは久しぶりのGATシリーズですね今度はストライクの量産型ですが
- 180二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 23:05:34
教官業務やってる暇がなくなりましたな…
- 181二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 02:33:29
私達の思わぬ抵抗に苦戦した4機は一旦、戦線離脱を決意、急上昇に転じる。判断が遅いので私自身のビームライフルで1機を撃ち抜き、ストライクダガー隊も倣って射撃し、更に1機が空中で炎上し始める。
残り2機はアスラン率いるダガーL隊が上空から急降下、ビームカービンから迸った閃光に貫かれ、計4機が立て続けに大地に叩きつけられていく。
その大地とは-言うまでもなく、さっきと同様に市街地のこと。墜落の有様がスローモーションのように目から脳に流れ込む。
墜ちたウィンダムは1機ごとに複数棟の家屋を粉砕し、炎上させる。落下前、あるいは落下後に爆散した破片は半径数百mのエリアを飛散して生物を死傷させる。降り注ぎ、流れて飛んだ欠片は、私達ストライクダガー隊が掲げる盾も雨のように打ち付けてくる。
眼を遣ると、さっきまで傍で駆けていた人々が墜落の余波で死傷して斃れ、蹲っている。戦闘中はそれどころでは無かったけど。仲間の歩兵と反応が早かった人は障害物に隠れ、あるいは、地に伏すなどして最悪の事態を避けられているが-。改めて意識が回ると町は滅茶苦茶だ。
出動前からそうなりつつあったのは間違いないのだけれど。
アグネス「(これでは、守りに来たのか壊しに来たのかも分からないわ。考えてみれば戦闘機が14機も街中に墜落してきているだから、仕方ないけど…)」
アスラン「あれは?!」
アグネス「!」
下らない感傷はアスランの声と南東から響く爆発音が吹き飛ばしてしまう。町の中核エリアで大爆発が連発している?!その上空にはハゲワシのようなウィンダムが13機、あいつ等!!
味方の半分を生贄に差し出す代わりに彼らは市中心部上空に到達していたのだ。そして、ジェットストライカーから空対地ミサイル『ドラッヘASM』26発を一斉射、市の機能を破壊しにかかったのだ!
立ち昇る黒煙と白煙に炙られ、再び心の時計が再び動き出す。
間に合わなかった!でも-どうしようもできない。数の差とはこう言うものだ。
南東方向から立て続けに響く爆発音、目視とレーダーで地図と照合していく。
市庁舎、地方裁判所、コミュニティセンター、公共インフラ企業地域本社、公立図書館、刑務所、ボーンホルム島地方新聞社、ボーンホルムラジオ局、ボーンホルム美術館、大型ショッピングセンター、この地の文化遺産たるレンネ劇場と出窓の家…。 - 182二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 02:44:59
この島の歴史の象徴にして住民の心の支えで在った聖ニコライ教会にまで被害が及んでいることが分かり怒りのボルテージが頂点に達しそうになる!
試合に負けて勝負に勝てたなら、まだ良い。試合にすら勝てていないのに私達は勝負に負けていた。足止め係を全滅させても痛み分けにはならない。
アスラン「アグネス!次の編隊が迫っている。町の北縁で備えろ!ダガーL隊は俺に続け」
命令を下すやアスランは自分が先頭に立ってハゲワシの群れに突っ込んでいく。ダガーL3機もそれに続く。地を進まざるを得ない私達に出来ることでは無い。
アグネス「了解!ストライクダガー隊続け、町の北縁に急速展開する!」
ストライクダガー隊一同「りょ…。了解!!しかし―」
アグネス「私が先頭、小隊ごとに2縦隊にで!漫然とせず次の号令に備えよ」
そう口にすると、来た道を急いで引き返す。ガチャンガチャンと音を立ててアスファルトを蹴る。それを見て他のストライクダガー隊も駆け足を始める。
仲間たちは後方を様々な意味で気にしているようだが、それなら猶のこと前進しなければならない。なぜなら-
アスラン「こんなことは…。もうやめるんだ!」
一仕事終えたハゲワシども13機に、アスランがアスランが駆るダガーLは最高時速のまま接近する。ビームカービンを脚部にマウントし、両手でビームサーベルを抜き放つと一閃で2機を斬り墜とし、急速旋回するともう一閃、合わせて4機を空で屠る。8つに別たれた敵機は自らが焼いた街の炎の中に永久に突き落とされる。
予想通り過ぎて予想を上回る光景をレーダーで確認して、戦慄が走る。
アグネス「(やっぱりね。気持ちが乗った時、アスランの爆発力は凄い。シンも似たところがあるけれど…。空中戦の常識など母胎に忘れてきたかのようだわ)」
あっと言う間に9機に撃ち減らされたウィンダム隊に後続して突っ込んできたダガーL隊の3連装ヴュルガー空対空ミサイルとビームカービンから飛び出した死の光線が命中、5機が燃え上がりながら大地に叩きつけられる。
その間も私達の駆け足は止まらない。必死に十字路までたどり着くや皆に合図を送る。
アグネス「横列に展開、背後は気にしないこと。シールドを南に掲げて退却してくる4機を墜とせ!」
ストライクダガー隊一同「了解!」 - 183二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 03:02:04
アスランとダガーL小隊の迫力に押されたウィンダム隊は退却、私達の展開より早く空を横切ろうとしている。
本来、空高く舞う彼らを簡単に撃ち落とせるものではないが、今回は違う。何故なら、二閃したアスランは上昇に転じて彼らの上を取り、攻撃を続行しているから。彼が撃ち放つビームカービンにまた1機が餌食になって、私達の200m手前の家に激突、爆発している。
残り3機が空から追われた低空飛行に移った、その瞬間、先頭の1機を私のストライクダガーが放ったビームが撃ち抜き、それを合図に2機目がけてストライクダガー隊6機のビームライフルが掃射され内3発が命中する。最後の2機は50m手前と120m先の路上に焼け焦げ分解しながら激突する。
爆砕された破片が全方向から飛来し、シールドで粗方防ぐが、細かいものは機体の装甲をゴリゴリ削っていく。
50m手前のウィンダムは近距離に堕ちたこともあって、撃破後の機体の有様が嫌なほど良く見える。パイロットはビーム命中時に死に切れていなかったらしい。
彼は半壊し、燃え上がる機体のコックピットを内側から必死にこじ開け、体を機外に引っ張り出す。そのヘルメットは砕け、パイロットスーツは高熱で溶け皮膚と一体化している。更に破壊されたコックピット内部の破片が10箇所以上体に突き刺さっている。もう長くはないだろう。
それでも生けるものの本能から、彼は私達の方向に助けを求め捻じ曲がった両手を掲げる。が、そのままバランスを崩して地面に落下していく。
彼が地面に落ちて数秒後、運悪く-運良くと言うべきか-漏れ出したオイルの炎は彼の身体を包み、その命の灯さえ周囲と変わらぬ大気現象と化してしまう。
焼死は苦しい死に方と言われるが、今回ばかりは慈悲の介錯と思うべきだろう。
普通ならこの光景を見て何かしらを感じるべきなのだろう。でも駄目だ。何も感じない。私も皆もキャパオーバーだ。
おまけにボーンホルム島北端の岬には第2波のウィンダム隊30機が到達しつつある。第1波と比べて、足が遅いのは後続の第3波とザムザザーに合わせているためだろう。私達が、私が無情なのではない。戦場が無情なだけ、そう思いたい。
コックピット回線にアスランから通信が入る。
アスラン「アグネス。俺とダガーL隊は弾薬補充の必要がある。それまで任せられるか?」 - 184二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 03:18:42
ジェットストライカーの武装をフル回転させていたから当然か。電力の心配もするべきだがそんな余裕はないだろう。
アグネス「分かりました。ただ、ストライクダガー隊のイーゲルシュテルンも残弾の余裕はありません。弾薬車を急がせてください」
アスラン「分かった。すまない。ダガーL隊、一時帰還する!」
ダガーL隊「了解!」
ダガーL隊が連隊兵舎に飛行していくのと同時に私も指示を出す。
アグネス「番号!」
ストライクダガー隊一同「1.2.3.4.5.6!」
不条理に打ちのめされた人間の呻くような声がする。よろしい。呻き声でも張りがある。まだ戦えそうだわ。
アグネス「再び2列縦隊。このまま北上して海岸公園に広がる森林地帯で展開し、敵を迎え撃つ。海に近づきすぎればフォビドゥンヴォ―テクスが乗り上げてくるかもしれない。浜辺との距離を保て。続け!」
ストライクダガー隊一同「了解!」
北に向かって地面を蹴りながら進む。後ろから彼らの足音が聞こえてくることに安堵感を感じる。守る筈だった町は背後で今も炎上し、見たくもないものを見て心が伽藍洞になりかけていた。この島の最重要拠点であった港湾、自分達を迎え入れてくれた空港は既に廃墟だ。
アグネス「(戦場では戦友がどれだけ大事か身に染みるわ。今、後ろから聞こえる足音と比べたら、核動力機はどれ程無力なのだろう!)」
地獄に救いがないではない。アスハ代表、ストライク・ルージュとフリーダムが空港の救助を終えて、今度は市街地の救援に駆けつけてくれている。ありがたいことだわ。
それにもう一つ救いがある。ヨーロッパ本土から援軍が飛来して来た!
陣容は-。スピアヘッド24機、スカイグラスパー12機、ディン12機にバビ9機…。
アグネス「(何かしょっぱいわね…。フランス海岸とカリーニングラード周辺地域から兵力を割けないからね…。要地とは言え島は島だし)」
グフと飛行部隊の精鋭を訓練のため、ドイツ南西部に集めてしまったことも良くなかった。すべて結果論だからどうしようもない。やれることをするしかないわ。 - 185二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 11:44:53
訓練配備に襲撃にアグネス達の滞在…
どこまでが仕込みでどこまでが偶然なのやら…
さすがの議長でも全ての配置をコントロールはできないだろうしねぇ - 186二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 12:57:08
案外議長もアドリブでやってそう
どっかの赤い彗星みたいに - 187二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 20:58:18
保守
- 188二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 23:59:22
思考を巡らしているとコックピットモニターにメイリンの顔が映り込む。
メイリン「連隊から機械化歩兵中隊再編させ、北上させています。間も無くストライクダガー隊と合流するかと。歩兵戦闘車12両、歩兵は指揮官を合わせ81名。歩兵携行式多目的ミサイルを24基輸送中、歩兵戦闘車は各車両、対戦車ミサイルと機関砲、機関銃を装備!それとレーダー車から情報が届く手はずです。同期してください」
なるほど。混乱の渦中の街道を強行突破して北上してくる12の光点が彼らね。
アグネス「了解!作戦を練り直す。『ストライクダガー隊へ通達。海岸森林公園への展開は歩兵中隊に任せる。我々は後ろから合流する歩兵戦闘車と共に道路と東側の畑に展開する。凸時に陣形を。正面先頭は私が務める』」
ストライクダガー隊一同「了解!」
アグネス「それとメイリン、本土から飛んでくる援軍の指揮官に繋いで!無策で突っ込んだら無駄死にする!」
メイリン「了解!ですが…。もう-」
航空戦の展開は早い。本土から送られた援軍の内、一番足が速いスピアヘッドは轟音と共に私達の頭上を飛び越し北の岬を超えつつあったウィンダム隊に猛進する。スカイグラスパー隊はランチャーパック9機とソードパック3機の編制、恐らくソードストライカーはザムザザー対策で組み込んだのだろう。
アグネス「(狙いは良いと思うけれど…。現地部隊との連携が成っていないわ!少なくとも私は何も聞いていない)」
それにバビ9機とディン12機が続く。飛行形態になったバビはともかくディンが単純な速度で戦闘飛行機と共同作戦を行うのは容易ではない。
何にせよ、こちらはこちらでやるべきことがある。
連隊の歩兵戦闘車が万難を排して到着してくれたので、コックピットモニターで中隊長に呼びかけ、手短に協議を行う。歩兵戦闘車から降ろした歩兵を左手側の森林公園に散開させ、車両は私達の前方に『ハの字型』左右6両ずつ配置してもらう。
彼らを『盾にしてやろう』と言うのではない。車両が搭載している機関砲と機関銃を有効に使おうとしたら彼らを前に出さざるを得ないのだ。
その代わり『ハの字』の彼らのすぐ後ろにストライクダガー隊の『凸の字』を控えさせる。いざと言う時はシールドで何とか庇ってあげたいと思うけれど-。 - 189二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 00:06:13
こちらが陣形を整えている最中、空では熾烈な戦いが続く。
ランチャーパック装備スカイグラスパー9機から320mm超高インパルス砲『アグニ』が発射され、真っ赤な極太の光線が敵編隊を突き抜ける。ビームに焼かれたウィンダム2機が空中で爆発分解され、破片は大地に降り注ぐ。
先頭を切って突き進んでいたスピアヘッドはドラム式ランチャーをフル回転しながら6本のミサイルを撃ちだし、一撃離脱を図る。
ただ、悲しいことに一度目の接敵で13機がカトンボのように撃墜されてしまう。6発のミサイルを全て発射できたのは数機に留まるだろう。それでも5機のウィンダムが攻撃を避けられず、シールドで受け止められなかった3機は爆散炎上しながら彼らが傷つけた大地に吸い込まれて行く。
追いついたバビが、空中で制動を掛けモビルスーツ形態に変形(馬鹿者!何やっている!!)、アルドール複相ビーム砲を先陣が掻き回したウィンダム編隊に発射、9本の大火焔が10機ものウィンダムを焼き落とす。が、それと引き換えに即応した敵のビームライフルとヴュルガー空対空ミサイルが発射され、次の瞬間にバビ隊は9機から4機に数を減らす。
バビが全滅しなかったのはディンが必死にフレア弾を発射したためだ。そのために前に出たディン隊の内3機はウィンダムのビームライフルに貫かれて撃墜されてしまう。
敵のウィンダム隊は45機中17機を喪失、残り28機だ。その代償としてヨーロッパ本土からの援軍は半壊、スピアヘッドは残り11機、ディンは9機、バビは4機、スカイグラスパーは-」
編隊を建て直したウィンダムが今度は南方向に猛進し、小回りが利かないランチャーパック装備スカイグラスパー9機に襲い掛かる。9機は機関砲やバルカン砲、ガンランチャーを駆使しながら旋回、一時撤退を試みるが敵わず。全機撃墜されてしまう。
ウィンダム側も1機撃墜されているのは彼らが無能者でなかったことの証としては十分だろう。
敵の残りは27機、スカイグラスパーはソードパック装備の3機以外は全滅した。
味方飛行隊は態勢を整えるため一時退却、私達の頭上を再び今度は逆向きに飛び越えていく。 - 190二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 00:33:44
味方を撃退したウィンダム隊は27機。彼らは内9機を分割し、私達の簡易防空陣地を避けて島をさらに南下させる。やはり無線傍受聴取塔が狙いなのか?それとも-
アグネス「(アスハ代表が狙いなら…。どうする?)」
どうもこうもしようがない。ウィンダム9機程度、フリーダム、キラ・ヤマトの敵とも思えないが...。
そして、敵飛行隊の残り18機は私達の頭上に迫る。後ろの味方と合流すれば良い物を。格下機と歩兵戦闘車だから、と侮っているのか?
空対地ミサイル『ドラッヘASM』の照準が此方に向く。ミサイルの残りは18発程度、無誘導ロケット弾も半分程度は使っていると見た!
アグネス「全機『イーゲルシュテルン』起動!中隊長殿!」
機械化歩兵中隊長「はい!全機、対空戦闘用意!」
ウィンダム隊が『ドラッヘASM』と無誘導ロケット弾を発射すると同時に12両の歩兵戦闘車の機関砲と機関銃、ストライクダガー隊7機のイーゲルシュテルンが一斉に火を噴く。非モビルスーツ部隊と共同した本格的な対空迎撃は私にとって何気に初めてかもしれない。
結果、空対地ミサイルも無線ロケット弾も全て我等に届くことなく爆散し、のみならず機関砲の弾丸は低空飛行気味だったウィンダム隊に数機に命中して火花を散らしている。もう少しで撃墜できそうだったのに!
ウィンダム隊がやや怯んで何時もの棒立ちになった瞬間、私はビームライフルを発射し空高く舞う猛禽を1機地面に叩き落す。続いて仲間が放った6本のビームが後ろから続く!
内3発は外れるが、3発命中。1発は敵のシールドに防がれるが、残り2発は過たず彼らの胴を貫き空中で爆散させる。
苦し紛れに敷いた防空陣であることを考えると、ウィンダム隊の反応はかなり悪いと言わざるを得ない。しかし、考えてみれば私も敵の防空陣地と戦闘飛行機に手こずっていた。ある意味、モビルスーツ以上に。
ブルドックとリニア自走榴弾砲が無かったから、対空防御は絶望的かと思っていたが、なかなかどうして-。 - 191二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 01:00:58
ただ、その善戦も敵が平常心を取り戻すまでのこと。気勢を制せられていた感があるウィンダム隊もやがてビームライフルを構え照準を合わせてようとする。
アグネス「全機3歩前へ。亀甲陣、歩兵戦闘車の乗員は脱出を!中隊長」
機械化歩兵中隊長「各員脱出、ダガー隊の裏に!防御姿勢!」
ストライクダガー隊一同「了解!」
そう掛け声を掛けながら、私自身は歩兵戦闘車の『ハの字』の先の隙間まで前進、その場でビームライフルの2射目を放ち追加でもう1機のウィンダムが撃墜する。
各歩兵戦闘車からは車長含む3名の乗員が飛び出し、ダガー隊の亀甲陣の内側に飛び込もうとする。私の両側からも3人ずつ飛び出そうとしている。無論、敵はそれを見逃してなどくれない。
全員が脱出する間もなく、両車両はビームに貫かれて炎上、爆発。その火焔と爆風がストライクダガーに押し寄せ、一瞬目の前が白くなり、飛来した破片が機体を更に傷だら気にする。
燃え上がる車内に取り残された車長2名はその場で戦死…。そして、飛び出せた4名の内1名死亡、2名が重軽傷。無事な1名と軽い方の負傷兵がズタズタになった仲間を引っ張って私のストライクダガーの後ろに身を伏せる。その状態でもこちらは攻撃を手めることはできない。この間、私は1機、仲間は3機のウィンダムの撃墜を果たしている。
激しい攻防の中、辛うじてストライクダガー隊からの損失はない。それに対して、歩兵戦闘車12両は全滅してしまった。乗員36名中、今生き残っているのは半分いるかどうか…。無傷か軽症な者はその内の半分、4分の1に過ぎない。残りは重体か重症だ。機械化歩兵中隊長も戦死した。彼が歩兵戦闘車ごと真っ先に燃え上がるのをこの目で確認したから。
アグネス「(これがモビルスーツの脅威…。ナチュラルから見て、私達はこういうふうに映っていたの…)」
脳内の99%が過剰なほど活動するなか1%がおかしな感慨を抱いている。
鉄火場の中、コックピット回線にメイリンの声が木霊する。
メイリン「アグネスさん。ストライク・ルージュを狙って飛来したと思しき9機をフリーダムが撃退しました。彼らは退路でこちらの飛行隊に捕捉され、殲滅されたとのこと。ボーンホルム島北部に第3波ウィンダム15機とザムザザー到着。海岸線は異常なし」
アグネス「良し!」 - 192二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 01:27:22
キラ・ヤマトに不殺された敵が撤退時に撃墜されてしまったのは哀れだわ。でも、降伏を申し出ず、武装解除して着陸もしなかったのだから仕方ない。全武装が文字通り破壊されていたならともかく。武装解除を伴わない撤退は戦闘の続行と見なされる。
アグネス「(フォビドゥンヴォ―テクスの襲撃が無いのは空港と港湾攻撃時に弾薬を使い切ったためかな)」
メイリン「それと…、アスハ代表達を迎えに行くためクライペダを出港したアークエンジェルが、カリーニングラードの地球連合軍から攻撃を受けました!相当な強度の攻撃のようで、ムラサメ隊に撃墜は確認されていませんが、アークエンジェルはかなりのダメージを受け、主砲ないし副砲が破壊されたとの報も」
アグネス「なにそれ?!」
一度にいろいろなことが起こりすぎる。辛うじて均衡が保たれていた状況が崩れる時とはそう言うものかも知れないが...。しかし―。
アグネス「(私達にとっては残念ながらそれどころではない。アークエンジェルのことは後回しにするしかないわ)」
レーダーで確認するにアスランのダガーL隊はすぐそこまで来ている。メイリンが口にした再編された援軍部隊も一緒だ。この島の戦い自体の帰結は大体定まったと言っても良い。ザムザザーが来ても戦局は引っ繰り返らないだろう。
それは敵の認識も同じはず。ここら辺が潮時だ。痛み分け、引き分けと言える程度の打撃をこちらは負っている。彼らの面目も立つというものだろう。
そんな中、1機のウィンダムが急降下して吶喊、サーベルを振り上げて向かってくる。あれが殿ね。残りの機体は急上昇して北上を開始する。
アグネス「全機、焦らないで!陣形を維持せよ」
ストライクダガー隊一同「了解!」
そう皆に指示を出すとビームライフルをマウントして半歩前に進む。そしてビームサーベルを右手に持つと、急降下してきたウィンダムの振り上げたビームサーベルを左手の対ビームシールドで受け、至近距離からサーベルの刃を吹き出させてコックピットを貫く。
アスラン「アグネス、良くやった!」
アグネス「はい」
このタイミングでアスラン率いるダガーL隊4機と援軍のスピアヘッド11機、バビ4機、ディン9機が私達の頭上に到着、追撃態勢に移行する。一旦、戦闘は終わったのか...。 - 193二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 02:14:44
アークエンジェルが回避できない攻撃なんてキラアスランシンクラスでもないと死ぬやん
- 194二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 09:50:47
まさかMAに集られた?
- 195二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 18:52:41
アークエンジェルが損傷した状況ある意味撃沈するチャンスですが大義名分はどうするんだこの状況を呼び込んだ原因を擦りつけるのかな
- 196二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 00:00:08
撤退を始めたウィンダム9機は駆けつけた援軍に直ぐに追いつかれ、アスランに4機は斬り捨てられてしまう。残りの5機も鴨撃ちにされ同時に複数被弾、空中で粉々になる。
彼らの内心は分からないが-。私には引き際を誤ったとしか思えない。
アグネス「連隊本部へ。こちら重傷者9名、機械化歩兵中隊長は戦死。大至急、医療班を!」
近衛騎兵連隊長「了解!既に向かっている!」
コックピット回線で連隊本部と通信し、外部スピーカーで足元の負傷兵にそのことを伝える。中隊付きの衛生兵がたった1人でトリアージと応急手当を懸命に開始している。
アグネス「皆、医療班の救助が来ます!どうか辛抱を。皆助かります」
盾の裏側の勇士たちに声を届けると、驚くべきことが!黒いタグ(優先順位4位。息をしていない・救命困難)を付けられた兵士が息を吹き返して両手を振って応えだしたわ!両足を失い、腹から内臓も飛び出てそれも無傷ではない筈なのに!!
衛生兵は飛び上がって彼に駆けつけ、タグの色を黒から赤(優先順位1位、バイタル不安定、重症)に切り換える。奇跡の種は何処にでも転がっている物なのね。些細な弾み一つで人は死んだり生きたりする。
レスキューのサイレンが爆速で迫るのを聞いて、彼の生還を確信すると共にコックピットレーダーを確認して、島から慌てて離脱を図る馬鹿者どもの死を予期する。
我らの大梟が空から舞い降りてきたのだ。
メイリン「島北部のウィンダム隊とザムザザーに向けて大気圏からフォースインパルスが降下、ミネルバも後続しています!」
メイリンの知らせを聞くまでもない。北の空を拡大すると、雲を突き破り、フォースインパルスが降りてきたところだわ。下りるや即時にビームライフルを発射し、隊長機らしきウィンダムを血祭りに上げている。
アグネス「(良し!チェックメイトね)」
インパルスに後続したショーンとデイルのグフ2機は上空からキャットゥス500mm無反動砲を発射、命中。爆散した2機のウィンダムは炎上、分解しながら冬のバルト海に突っ込み波間に消えていく。
ストライクダガー隊の足元では、駆けつけた医療スタッフが負傷兵を担架で、軍用救急車両に収容している。それが終わると、今度は超特急で野戦病院行きだ。敬礼して見送る。 - 197二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 00:16:36
アスラン「アークエンジェルが…。一体なぜ!?」
アスランの驚きと怒りが込められた声がコックピット回線越しに聞こえるがこちらはそれどころではない!
アグネス「(『どうして』ではなく、『どれで』ではないかな。思うにロアノーク関係か、後で考えるわ)」
回線越しにメイリンに呼び掛ける。
アグネス「メイリン、ボーンホルム空港と港湾施設の現状の詳細を詳しく!映像を送って!」
メイリン「はい!」
メイリンから送られてきた空港と港湾施設の惨状を確認、数を数えていく1.2.3.…。
その頃、残敵たる12機のウィンダムとザムザザーは、死に物狂いで北上、スカンジナビア王国スコーネ県を目指している。スカンジナビア王国の接続水域、或いは領海上空までたどり着けばザフトの追撃は止まると踏んでいるのだろう。
コックピットの通信回線とミネルバブリッジにも接続、固定する。ブリッジ組の懐かしい(そうでもない)声がする。
タリア「スカンジナビア王国の接続水域及びその上空に以北への攻撃は禁じます。ここで彼らを撃てるだけ討つ。アーサー!」
アーサー「はい。タンホイザー起動、目標、敵モビルアーマー、モビルスーツ群!」
チェン「プライマリー兵装バンク、コンタクト。出力定格。セーフティ解除!」
アーサー「撃て!」
トライン副長の号令と共にタンホイザーの大火線がボーンホルム島-スコーネ県間の海峡上空を切り裂く!
一瞬で9機のウィンダムが焼き落とされる。今回に限っては、ザムザザーは盾となるより、生還を選んだようだ。彼らは随伴のウィンダム3機と遂にスコーネ県3海里沖合上空まで駆けこむことに成功、インパルスとグフ2機の追撃からも辛くも逃げ切ったことになる。
アグネス「(あの面子に追われたなら、彼らに『味方を見捨てた』と責めるのは酷ね。それよりも-良し!確認が取れたわ)」
アグネス「メイリン、エーレスンド海峡、ベルト海峡、カリーニングラード沖の部隊に通達を!特に潜水部隊には即時に。『こちら特務隊アグネス・ギーベンラート。ボーンホルム島襲撃に参加したフォビドゥンヴォ―テクス1機につき。攻撃による痕跡から推測するに、彼の機体の魚雷、残無し。75mm対空自動バルカン砲塔システム『イーゲルシュテルン』と115mm機関砲『アルムフォイヤー』も同様か僅か。健闘を祈る』」
メイリン「了解です!」 - 198二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 00:37:07
- 199二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 00:38:33
がんばれアグネス
それゆけアグネス