- 1二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:45:50
- 2二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:46:26
“香道?”
先生は瞳孔をまん丸にし、首をことりと傾げた。
耳馴染みが無い言葉だったらしく、私の言葉を反芻している。
掻き上げた濡羽色の髪が揺れ、眼鏡のグラスに触れた。
赤みがかかった瞳が疑問に染まっている。
「ええ、香木を焚いて情景や詩歌を楽しんだりする芸道です」
興味ありげな先生の様子を見て、ほっと溜め息を吐くと、香炉に灰を詰めつつ会話を続ける。
机に上の円柱状の炭団を取り出し、状態を確認する。
欠けもなく良好だ。
問題は無い。 - 3二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:47:28
“そりゃロマンチックだね、その祭りが来週?”
「はい!傘條祭は年に一度の香道の祭典なんです!」
茶道の千里祭と華道の池房祭に並ぶ、三大芸道の大祭典だ。
三桁にも及ぶ数の出店が並び、中心のステージでは大会も行われる。
当日には丁度地上に花火が咲いたような、華やかな光景で溢れる。
そんな素敵な日が、来週に迫ってるのだ。
「それで色々手伝いをしたんですが、その御礼としてこれを貰ったんです」
設営準備や器具の手配、その他諸々を粉骨砕身で働いた。
その結果、運営の方たちからこの香木をプレゼントされた。
伽羅と呼ばれるものであり、甘く優雅な重厚感ある香りを仕立ててくれると言う。
香道に関しては素人であるが、皺や彫りが優美な逸品であるのは十全に理解できた。 - 4二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:47:56
蝋燭で火を灯した炭団を灰に埋め、手早く掻き混ぜる。
山状に灰を整えると、火箸で箸目を作る。
熱を出す為に頂点に穴を空け、銀葉と呼ばれる火気が当たらないようにする為の板を乗せる。
「この上に香木を乗せたら、灰づくりは完成です」
“おお・・・!”
プロや本職には劣るものの、幾度か経験はある。
納得がいく出来だ。
少しずつ、部屋中に香木の格調高い香りが充満していく。
煙が畳や炬燵の中を駆けて行く。
思わず深呼吸しそうになってしまう。
“心がゆったりしていくような、凄く暖まる臭香りだね”
「そう言って貰えれば、幸いです」
いつになく柔らかくなった先生の横顔を眺める。
とろんと口元が弛んでおり、鈴蘭の花のように白い歯が僅かに見えた。
目元の隈が少しばかし薄れたように見えたのは、きっと気の所為では無いだろう。 - 5二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:48:24
“・・・・・カホ?少し頭がクラクラしない?”
数分もせず、先生が頭痛を訴えてきた。
頬も紅潮しており、息も早くなってきている。
眼鏡が霧みたいに曇っていた。
「それより、先生に一つ質問があるんです」
“・・・・・・・・・?”
幽鬼より不安定な足取りで襖へと向かう先生の前に立ち塞がる。
リラックスした顔は消え失せ、心底不思議そうな、弱々しい顔に変貌している。
じいっとそんな先生に見入りつつ、後ろ手で入室禁止の札を表に掛ける。
“どうしたの?”
「えっと、その、先生・・・・・」
「チセちゃんと、えっちなコトしましたよね?」
“!!!” - 6二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:48:54
三日前、紫色の夜が地を覆い尽くす午後十時頃。
部室の一部屋から異音が鳴るのが聞こえ、爪先立ちで音の発生源へ歩みを進めた。
肌色の呼吸音が微かに聞こえており、雫が触れ合う艶美が廊下まで響いていた。
息を殺し、影が写る障子をゆっくりと開けた。
そこには、チセちゃんと先生が身体を重ね合う淫靡な光景が在った。
数時間前、俳句を詠んでいた無垢な唇はひたすらに先生の舌を貪っており。
乱れた髪が三日月に照らされ、月草色に染まっていた。
鶴の足のようにか細い手で皺ができるほど必死にワイシャツを掴み、妖艶に微笑んでいる。
きっと、供花になっても忘れることがない、芸術的なまでに退廃的な画であった。 - 7二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:49:50
“そ、それは、偶々二人で媚薬を飲んだりしちゃって・・・・・!”
「それであんなコトをした、ということですか?」
先生の声色は真剣そのものだ。
その言葉は恐らく本物である。
誤ちを上っ面の言葉で包装するような、そんな卑怯で愚劣な人では無いことを私は知っている。
“・・・・・いや、それは言い訳にはならないよね”
「故意では無いのですよね?」
“それでもやってしまったのは事実だよ、どうお詫びすればいいのか分からないけれど———”
言い終わらぬ内に。
抱き付く形で押し倒す。
ただでさえグルグルとしていた瞳の中の渦巻きが増えてしまい、目の前の大人は疑問符を呻き声のように吐き出している。 - 8二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:50:35
“か、カホ?”
私はチセちゃんが大好きだ。
歌が上手くて、舞が綺麗で、笑顔が素敵で。
どれだけ賛辞を重ねても、彼女の良さは語り切れない。
私は先生が大好きだ。
お人好しで、気遣い上手で、笑顔が素敵で。
どれだけ賛辞を重なても、彼の良さは語り切れない。
私は三日前まで、チセちゃんは穢してはならない絶対領域だと考えていた。
だからチセちゃんの仄かな恋心を裏から応援し、願いが成就することを望んでいた。
だが、実際の心根は少しばかし違ったようだ。
欲張りな私は、あの交わりに共鳴されてしまった。
詰まり、先生にもっともっともっと愛されたくなってしまったのだ。
チセちゃんと先生の純情を汚すのは、他でもない私なようである。 - 9二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:51:06
「チセちゃんとえっちなコトしたなら、私ともえっちなコトしてくれますよね?」
“そ、それは・・・・・”
反論を許さず、乱暴に口付けを行う。
林檎の飴玉の味とコーヒーが混じったような、甘く苦い風味を感じた。
パンを捏ねるより丹念に、蛇の交尾より激しく舌と舌を交える。
前歯の凹凸を充分に味わう頃には、私も先生もすっかり壊れていた。
けだものになっていた。
「好き、です」
“カホ・・・・・”
半ば脱げてしまったワイシャツの下へ手を這入り込ませ、腹筋を撫で回す。
筋肉質であり、凄く硬い。
つぅーっと、人差し指で線を引くと、小さく痙攣した。
先生も負けじと服の上から乳房を触る。
緩慢な動きで、優しく埃を払うように。
硝子細工へ接するように愛撫を行った。 - 10二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:52:36
「先生、もういいですよね?」
熱暴走した頭のまま言葉を紡ぐ。
私も先生も、最早まともな思考はできそうにない様子だ。
そんな状態でも大人としての矜持はあるようで、逡巡を続けている。
「・・・・・せんせい?これは全部、私が灰に仕込んだ所為ですから」
“そうなのぉ・・・?”
「はい、ですから、もう好きにやっても良いんですよ♡」
先生は見たこともない顔のまま、こくりと頷いた。
じゅるり、と。
私は思わず、本能に任せた舌舐めずりをしてしまう。
「じゃ、じゃあ、ズボン脱がせますよ・・・?」
遍く全ての責任を灰に押し付け。
性欲と愛に塗れた、醜く浅ましい私は。
逸る呼吸を抑え、ベルトに手をかけ———。 - 11二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:53:35
- 12二次元好きの匿名さん24/12/18(水) 23:59:24
クッ…夢中で読み進めてしまったじゃあないか…
- 13二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 00:03:16
くそがぁぁぁぁぁ!!!
- 14二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 00:04:11
めちゃくちゃ惹き込まれる語彙力と文章からお出しされるバーボン……!!
こんな拷問があるのかよぉ!! - 15二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 00:09:24
まあそうだろうと思ったよ!
今回も?名文ありがとう畜生! - 16二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 00:12:45
似てたからもしや?と思えば案の定だよ
- 17二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 00:14:27
前作ある?みたいなら教えてください
- 18二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 00:15:20
もしかして名のあるバーボン?文章力があるからベテランバーボンだとしても驚かんが
- 19二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 08:14:48
ドスケベは何処…ここ?
- 20二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 13:24:28
なんだそのへにゃへにゃの字は
- 21二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 13:31:28
おお、バーボン三銃士じゃないバーボンか。良いssを見せてもらったよ。
ほうじ茶置いてあります? - 22二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 13:42:40
- 23二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 14:44:11