【トレウマ♀SS】熱が消えない

  • 1二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 19:22:24

    地下道をゆっくりと歩いていく。
    まだ、身体に当たる風の感覚を覚えている。歓声と、興奮に当てられた火照りが、溢れ出て尾を引いているみたい。
    いくらか年季の入った扉を開く。

    「お帰り、シービー」

    タオルを持った、トレーナーがいた。

    「ありがと」

    いつもの感じ。
    受け取って、流れる汗を拭き取っていく。
    擦っちゃだめだよ、って言うけど、好きなんだもん、これが。
    ずっとしてたら、トレーナーが手を重ねて、優しく汗を拭いてくれた。

    「キミは、優しいね」

    当然だよ、って声が聞こえた。
    耳が動いちゃうの、よく聞こうとしてるみたいで、なんだか恥ずかしいな。
    これもやっぱり、嫌いじゃない。ちょっと時間はかかっちゃうけど。

    でも、なんだか変なところが、ちょっとだけ。


    熱が、消えない。

  • 2二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 19:22:45

    「トレーナー」

    パソコンと睨めっこしていた顔が、パッとこっちに向いた。
    眼鏡を外して、こっちを見てくれる。どうしてなのかは分からないけど、何かが跳ねたのを胸で感じた。

    「ちょっと、してきてもいいかな、散歩」

    勿論、と言ってくれた。


    青々と茂った木の葉が、風に揺られて小気味よく騒めいてる。
    春と新しい出会いを運んでくる、秋と情熱的な物悲しさを連れてくるこの正門までの道が、アタシは嫌いじゃない。
    だけど、それでもアタシの熱は消えない。

    学校から少し離れた、心地よい喧騒の流れる商店街に足が向いた。
    おっきなデパートだって、嫌いじゃないけど、よく分からないけど、営みが見えるような、こんな雰囲気が何となく好きだった。
    青果店の女将さんが声をかけてきた。
    色んな子みたいに、顔馴染んでるわけじゃないけど、あったかく迎え入れてくれるのがすごく分かる。
    アタシたちって、恵まれてるなって感じないわけにはいかない。

    その足が気ままに向くまま、一番近いレース場まで来てみた。あの日あったレースが嘘みたいに、整然と芝が並んでる。
    それを見るたびに「走りたい」って気持ちが自分の中でぐつぐつ沸き立つんだ。
    でも、何だか、出処の違うこの熱が、まだ消えなかった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 19:23:09

    日が傾いて、夕焼けに照らされた街を、丘の上から見ていた。
    別段、観光地という訳でもない、憩いの場でしかないこの場所が好きだった。
    どんな時も、深く考えるといつもここに歩いてた。
    初めから来たらいいのに。今の頭の中みたいに、色んなところをぐるぐるしていた。

    この気持ちは何だろう。
    今まで1日をかけて、表面だけをなぞっていた疑問にメスを突き立てる。
    そう思うと、次には、トレーナーの顔が浮かんだ。
    アタシの後ろを、お母さんみたいな顔をして、ずっとついて来てくれるトレーナー。
    それを思うたび、熱が、また一段と強くなった。
    でも、分からない。柄にもなく柵にもたれかかって、景色の中に思索を埋めていた。

    「愛よ」

    いきなりだったけど、驚きもなかった。
    見てないけど、ラモーヌだろうな。

    「被っちゃった」

  • 4二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 19:23:30

    メジロラモーヌ。
    キミも、よく「熱」を抑えに来てるよね。

    「キミになら、分かるのかな」

    「そうね」
    「私には、興味の無いことだけれど」

    相変わらずラモーヌって感じだ。

    「ふーん」
    「じゃあ、キミの考えを知りたいな。 アタシはちょっと、お手上げだからさ」

    そう言うと、彼女はいつもの少し皮肉めいた笑みを浮かべた。

    「つまらない人」
    「自分の創った形に囚われる。 それが貴女の悪い所ではなくて?」

    それだけ言うと、後ろから規則正しい音が離れていった。
    ……かまされちゃったな。

    多分、分かってたけど蓋をしてた。
    意固地な自分が納得する自分を演じてたのが、言われるまで分からなかった。

  • 5二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 19:23:51

    その、3分くらい後だった。
    聞き慣れたスニーカーの音。小さい歩幅と不規則になる足音。
    振り向いた。トレーナーだった。

    「よく分かったね」

    「でも、探したよ」

    簡単に結び上げられた髪の毛の先が、上がった息と一緒にゆらゆら揺れていた。
    綺麗だね、って思わず言いかけた口を噤んだ。何故そうしたのかも、分かった。

    「いいところだね」

    「うん」

    「シービーがよく来るのも分かるよ」

    「好き、だから」

    日中熱されたぬるい風が頬を撫でた。すごく涼しかった。

    「私も好きだよ」

    「…………そっか」

    未だ冷め切らぬ熱をぐらぐらと煮立たせながら、二人でしばらく街を見下ろしていた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 19:31:38

    きっとシービーはどんなに時が経ってもこの熱に浮かされることになるんだろうな...

  • 7二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 20:13:18

    シービーは女の子なんだ

  • 8二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 20:39:41

    本人が思ってるよりガッツリと顔に出るタイプであってほしい

  • 9二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 22:09:42

    このレスは削除されています

  • 10二次元好きの匿名さん24/12/19(木) 23:44:46

    シビトレはいいぞ

  • 11二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 01:12:29

    このレスは削除されています

  • 12二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 01:48:08

    SSとしてもよかった。
    たしかにシービーは自分の気持ちに折り合いをつけるまで少しかかりそうだけど、でも自覚したら一直線かな?

  • 13二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 11:07:19

    >>12

    自覚すれば強いのはさもありなん

  • 14二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 13:23:33

    愛があるところならどこでも現れるラモーヌさん好き

  • 15二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 22:12:10

    >>14

    二人ともあのたまに出てくる展望台みたいなところ好きそうだなと思い…

  • 16二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 03:01:52

    このレスは削除されています

  • 17二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 15:01:25

    >>12

    一気にまくってきそうだよね

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