- 1二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:12:30
後悔なんてしたくはない。
そう思っていても人生なんてものは失敗だらけだ、だなんて言えるほど私は人生経験を積んでいるわけではないけれど。
だけど、少なくとも後悔の味についてはちょっとだけ知っている自覚はあるし。
失敗も人並みくらいにはしてきたつもりだった。
そもそも失敗や後悔を恐れるのは多分生物として正しい本能なような気がするし、いやでも、うーん。
難しい事は、やっぱり分からない。
聖園ミカという生徒は決して賢い訳ではないし、小難しい哲学について考える機会なんていうものも今までほとんどなかった。
楽しい事を考えている時が一番楽しいし、美味しいものを食べている時が一番美味しい。
苦難も困難もそれなりにあるけど。
だけど決してそれだけではない。
人生というのはちょっぴり塩辛くて、だけどほんのり甘い。
そのくらいの塩梅なのかもしれない。
だなんてちょっと、詩人ぽかったかな? - 2二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:13:28
そんな私は生徒会、ティーパーティーに所属していたあればただの一般生徒であった時もあり、だけどそれらは今や昔。
あと数日で私はトリニティ総合学園を卒業する事となる。
卒業。
それはつまり大人になるって事だ。
成長するとも言い変えられるだろうし、だけどあんまり実感がない。
実際、私の環境が時の流れで大きく変わった訳では――いや、大きく変わったりはしたけど――人間関係に関しても大きく変わった訳では――いや、大きく変わったりしていた。
ゆ、友情とか?
そういうのに関しては全く変わったりせず今も不変なままだと思うし。
私の彼女達に対する気持ちも変わってない。
この一年は激動の一年であり、いろいろな事もあり、起こしたけれど。
それらを経て私がどう変わったのかというと、結論から言うとそこまで変化はなかったのかもしれない。
ただ、ほんのちょっぴりだけみんなの事を知る事が出来た。
結論から言うとそれだけだし、だけどそれは得難いものなんだと思う。 - 3二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:14:13
「ナギちゃんのロールケーキが恋しくなるね……」
自室のベッドの上に腰掛けながらおどけてそんな事を言う私に対し、遊びに来てくれた幼馴染はジトっとした視線を送ってくる。
「何言っているんですか、別に離れ離れになるどころか進路は同じでしょうに」
「だけど今まで通りとはいかないのも事実じゃんね」
「今まで通りのものは変わらず今まで通りなのも事実です」
「私達は幼馴染だし、友達です」
そんな恥ずかしい事を言ってくれるようになったのは、まあ、多分大きな変化かもしれない。
「そういえば、ミカさん」
「んー?」
「先生への愛の告白は、いつ頃?」
「ぶぁっほッ!!!!」 - 4二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:14:53
突然の言葉に吹き出してしまう私に対し、幼馴染はそれでも真面目な表情で続ける。
いや、続けるのか……
「学校を卒業したら先生とはなかなか会えなくなるでしょうし、その。こういう事をミカさんに言うのは酷かと思いますが、貴方と同じくらいあの人を慕っている生徒達は、この機に愛の告白を済ませていると思いますよ?」
「う……」
「もしかしたら、既に誰かの愛の告白に対して」
「そ、それはないと思う、よ? だって先生は」
「先生は?」
「生徒に対して、そういうの、応えるとは思えないし」
先生と生徒。
大人と子供。
その関係性が持つ意味、そしてその責任について先生はちゃんと理解している。
そんな人だから私は、あの人の事が。 - 5二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:15:22
「……」
「全く」
思わず俯いてしまった私に対し、幼馴染は大きく嘆息をする。
「ミカさん。人生は一度きりなんです、ここぞとばかりに頑張らないと後悔しますよ」
「だけど私は」
「……言い訳をつらつら並べるばかりで何もしないなんて、一年前の貴方を知っている私からすれば信じられないですよ、ミカ」
「べ、別に私は一年前から変わってないよ~」
「いえ、変わりました」
むかつくほどにきっぱりと幼馴染は言う。
「そうですね、”ヘタレ”になりました」
「……な、殴るよ?」
「殴りたいなら殴っても良いですよ、私は”ヘタレ”じゃないので」
ああ言えばこう言う。
こういうところは昔から変わらない。
そんな幼馴染だから、私は彼女の事が大好きなのかもしれないけど。
だけどこのタイミングでデリカシーにない発言を繰り返されると、流石にそれこそ殴りたくなってくる。 - 6二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:15:52
「ちなみに、私は既に告白を済ませてきました」
「ぶぉっふぁ!!!!」
「今までの感謝の気持ちを心から……何を勘違いしているんですか?」
「げほっげほ……もー、ナギちゃん!」
腹が立ったので、私はベッドの上から立ち上がり部屋から出る。
背後で幼馴染が何か言っているような気がしたが、無視した。
なんていうか、幼馴染だけど、ムカつく!! - 7二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:16:29
「おや、ミカ。君も散歩かい?」
外に出て気分を紛らわせるためにちょっとだけ歩こうかと考えていると、偶然にもキツネ耳の友達とばったり出会う事となった。
「なぁに? セイアちゃん、散歩だなんて珍しいね」
「いや、ちょっとした勘が働いてね」
「勘?」
「ここに来れば君と会えるのかも、とね」
はて、と首を傾げる。
「何か用事でもあった?」
「……友達と会って話したいと思うのは別に珍しい思い付きではないと思うが」
「え」
「それはさておき」
何か聞き捨てならない事を言われたような気がしたが、かまわず友達は続ける。
「先生にはもう告白したのかい?」
「ぶぶっふぅ!!!!」
思い切り吹き出してしまう。 - 8二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:17:04
「げほっげほっ」
「その様子だとまだなようだね」
「い、いや。なんでそう冷静に分析しているの驚いちゃったよ!」
目を白黒させる私に対し友達は逆に半眼になった。
「わ、私がそんな事誰にすると思ってるの?」
「今、先生はシャーレで一人だから行ってくると良い」
「……話通じてる? もしかして脳みそが小鳥サイズになっちゃったの?」
「時間は有限だ、そして私達のような卒業を控えている生徒にとっては猶更それは重要なものだろう」
親切フォックスからの助言だよ。
そんな言葉を最後に、友達は返答を待たず踵を返しどこかへと消えていった。
い、一体なんだったんだ……? - 9二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:17:34
「……」
そんな二人の話とは全く一切関係ないのだが、その後私はシャーレのビルに来ていた。
本当に関係ないのだが、だけどなんだかそんな気分になったからである。
こういう時期だから仕方がないのだが、最近のシャーレはかなり忙しい事になっているらしいのは知っていた。
当番の子達が先生の仕事を手伝っている事も知っていたし。
多分、何人かの生徒からはきっと『告白』、されているのかもしれない。
「行こう」
そのように言葉で宣言してから数十分ほど入り口の前でうろうろし、それでようやく覚悟を決められた私はビルの中に足を踏み入れた。
階段を上り、先生がいるであろうその場所へと足を踏み入れる。
友達の言葉が本当ならば先生は今、一人でいるのだろう。
本当に珍しいと思うし、だからこそこれが最後のチャンス。
「せ、せんせ――」
浦和ハナコと談笑する先生がいた。
楽しそうに、何を話しているんだろう? - 10二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:18:00
「なに、やってるんだろ」
気づいたらシャーレから逃げ出してきてしまった私は、近くの公園にあったベンチに腰掛け自問自答していた。
別に先生が生徒と話している事なんてよくある事だ。
そして今回はたまたまその相手がハナコちゃんだった、ただそれだけの話。
ただそれだけの話、それだけなのに。
どうしてこうも、胸がずきずき痛むんだろ。
「う、ぅ」
思考が悪い方向に進んでいるのは自覚している、でも。
その流れを止める事が出来ない。
水の雫が重力に引かれて地面へと落ちていく事と同じ。
止める事なんて、無理。
「い、嫌だよぉ……」
”……ミカ?”
思わず振り返り、思わず零れてしまった言葉が聞かれてしまったかもしれないと思うより、喜びがふつふつと湧いてくるのが先だったのはきっと私が正直な生徒だったからだろう。
それも間違いなく「バカ」が付くタイプの。
「せ、先生? あ、どうしてここに?」
”ハナコからミカの姿が見えたって聞いて、もしかしてと思って”
「も、もー先生? 女の子の前で別の女の子の話をするのはマナー違反じゃんね☆」
”ごめん、でもあまりハナコの事は悪く言わないであげて?” - 11二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:18:26
「……どうして?」
性格が悪い女の子とは思われたくないけど。
だけどつい、そんな言葉が出てきてしまった。
「それは、ハナコちゃんの事が好きだから?」
”ハナコは大切な私の生徒だよ”
「じゃあ、私は? 大切な生徒なの?」
”もちろん”
「……ッ。それじゃあ、私が好きだって言ったら応えてくれるの――ッ」
言ってしまった後で、しまったと思った。
こんなの、私の言葉じゃない。
血の気が引く。
涙がそれでも流れてくる。
溢れる気持ちが、それらを止める事を許してくれない。 - 12二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:18:49
”ごめん、生徒の気持ちには応えられない”
心が冷えていくのを、感じた。 - 13二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:19:13
「せん、せ」
”きっと、それはミカにとっての後悔になるだろうから”
ぽん、と先生の大きくて暖かい手が頭の上に載せられる。
大きくて、だけど昔よりほんのちょっぴり小さく感じるその手。
”ミカはまだ、この大きな世界の事を知らない。そこではミカがまだあった事がない人がいて、そしてそこにはきっと――私よりも素敵な人がいると思う”
「……」
”そんな人に会った時、きっとミカは後悔する。『どうしてあんな人の事をあの時の私は好きになってたんだろ』って”
「そんな、事は」
”だから、ミカ”
”大人になって、この世界の事をたくさん知って、それでも私の事を好きでいてくれていたら。その時は改めて私の方から告白させて” - 14二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:19:32
なんて、なんて傲慢な人なんだろうと思った。
ずるいと思った。
「先生は、ずるいね」
”そうかもしれない”
「うん、でも」
許せちゃう、だって今の私はこの人の事が好きだから。
……例え近い先、あるいは遠い未来。
この恋を後悔する時が来るのだとしても。
それでも、今の私はこの人の事が好きだから。
「先生、大好き」
今のこの気持ちにだけは、嘘を吐きたくなかったから。 - 15二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:20:08
「それで、ハナコ。そちらはどうだった?」
「ちゃんと先生には念を押しておきました♡」
「そうか、それは良かった……先生はあれで難しい人間だからね、こと『恋愛』に関してはいくら相手が『お姫様』とはいえ我々から先に釘を刺しておいた方が確実だ」
「私は別に恋のキューピッドではないのですが……ただ想定よりもミカさんが早く来てしまって、あの時は流石に肝が冷えましたよ」
「……なに、しかしどうして」
「それに関しては、簡単な理屈だと思います」
「ミカさんが、私達の想像以上に先生が大好きだったってだけかと、ふふ♡」 - 16二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:20:25
………………
…………
……
数年後。 - 17二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:20:48
「な、なあ〇〇ちゃん」
「ん? 何かな☆」
「その、今日さ。みんなでこのあとカラオケに行こうって話になっているんだけど〇〇は」
「ごめんね、今日はちょっと早めに帰らないといけないの」
「そ、そうなんだ」
「お父さんとお母さんが喧嘩しててね。全く、くだらない内容で喧嘩してほしくないんだけどね……」
「ご両親の仲、悪いのか?」
「うーん……」
”だから〇〇の卒業式は振袖が一番だって!”
「貴方ったらそればっかり、〇〇はドレスが一番似合っているに決まってるじゃんね!」
”「むむむ……」”
「いや、私の意見は?」
「〇〇はどっちを着ていきたい!?」
「い、いや。普通にスーツで良いと思ってるんだけど。ていうか私まだ二年生じゃん」
「仲は、良いんじゃないかなぁ」
FIN - 18二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:22:54
youtubeでブルアカを知って、ミカの事が好きになって、この場所を知って、それで初めてSSを書いた人なのでクオリティに関してはお察しですが、最後まで読んでくださった方がいらっしゃればとても嬉しいです。
ありがとうございます。 - 19二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:23:37
見事やな……。
- 20二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:29:48
良いSSだった
スレ画が違えばもっと見てもらえた気がする - 21二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:35:36
素晴らしい……
- 22二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 15:44:07
ミカが悪いんじゃなくてこのカテの環境が悪いんや……
- 23二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:42:35
ほ