【SS】冬はつとめてですの!

  • 1二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:01:30

    冬戯れて、街の彩度が落ちていく。

    夜に先生との会食を控えていた彼女は、浮き足だった様子で支度を進めていた。

    百鬼夜行での一件以降、彼女が先生と関わる機会は増えていった。
    時には当番の仕事を手伝ったり、時には娯楽施設や駄菓子などの『眩く美しい世界』を彼女に教える先生の姿を見てきたからか、彼女の先生へ抱く感情は、思慕から恋慕へと移ろっていた。

    いつもなら鼻歌混じりに身支度を進めているはずの彼女が、今日はやけに強張ったように、緊張したように押し黙って漆塗りの縁に飾られた化粧鏡と相対していた。
    慎重に口紅を引いて、恋慕を噛み締めるようにティッシュを強く咥える。
    紅が濃く滲み、再び鏡に映った彼女自身は頬が微かに朱色に染まっていた。

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    今日の分の仕事を終え、私は百花繚乱の管理する敷地にある建物へと向かっていた。

    つい先日、ユカリから『日頃のお返しをしたい』という旨のモモトークが届いた。
    なんでも手料理を振る舞ってくれるとのことで、その好意に応えようと私も二つ返事で行く約束をしていたのだった。

    建物へ向かっている最中は冷たい雨が降り続いていた。冬の雨はやけに冷たく、蝙蝠傘とマフラーの間から漏れ出る白い息を切りながら歩みを進め、約束の場所へとたどり着くと、建物の奥から仄か灯りが見えた。

  • 2二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:02:19

    軒先へ入り、傘をぱちりと閉じる。傍の鎖樋から雨が小さな小川のように流れ落ちている。入り口の引き戸は立て付けが悪いらしく、開ける際にはがたがたと音を鳴らしながら開いた。玄関には厚底の下駄が揃えて置かれており、居間があると思われるの方角からは暖色の光が漏れ出ていた。

    私も革靴を脱ぎ、奥の方へと入っていく。
    丁度光源へ吸い寄せられる夜の虫のように、光の出どころへ歩みを進めると、障子に私を待つユカリの影が映った。

    向こうも私に気づいたらしく、人形劇の様な動きでくるりと向きを変え、俯いていた様子の顔が上がった。
    引手に手をかけ開けると、そこには豪華な料理と、そして見慣れた、しかしどこかいつもと違う様子のユカリがいた。

    "待たせちゃったかな?"

    「い、いえ、大丈夫ですわ。」

    「身共は先生を待っている時間も好きですから。」

    "そっか。"

    ユカリはどこか動揺したように、浮き足だったようにそわそわしていた。
    ふと、彼女の顔を見遣る。

    "その口紅、すごく綺麗だね"

    「…!ありがとう…ございます…」

    一瞬嬉しそうな顔をして、すぐに顔を伏せる。どうやら彼女は少し緊張している様だ。

    上着を脱いで軽く畳み、ユカリの前に座る。
    脚のついた膳の上には美味しそうな料理が置かれており、絢爛な匂いが漂ってきた。

    "すごい美味しそうだね。これ全部ユカリが作ってくれたの?"

  • 3二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:03:37

    「はい。実は料理はレンゲ先輩に教えていただきましたの。お口に合うかわかりませんが、是非、召し上がってくださいまし。」
     
    "ありがとう。いただきます。"

    そう唱えた後、様々な料理に箸をつけた。
    ヒラメの煮付けは柔らかく、醤油の甘辛い味付けが白米を誘った。
    味噌汁は白味噌仕立てで、甘くまろやかな風味がとても新鮮で一口、二口と進んで行った。

    「…ふふっ」

    ユカリは私が食事している様を黙って、微笑みながら、箸を握ったまま眺めていた。

    "ユカリはご飯食べないの?せっかく用意してくれたのに冷めちゃうよ?"

    「えっ、あっ、あぁ!そうでしたわね。私もいただきますわ!」

    それから、私たちは百鬼夜行での一件や調停委員会についてご飯を食べながら話した。
    しかしやはりユカリは緊張しているのか、いつもは溌剌と、鈴を転がしたように笑うはずの彼女の笑顔はどこか少し強張っているように見えた。

    料理も話も一通り終わり、私たちの間に静寂が訪れる。先程までの小夜時雨の音が聞こえなくなり、雨止みよりも遥かな沈黙が辺りを包んでいた。

    "…雪が、降ってきたね"

    窓から外を見ると、白い細雪がちらちらと舞っている。

    「……少し、体が冷えてきました。」

    「お側に寄っても…良いですか?」

    "いいよ。ほら、こっちおいで"

  • 4二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:04:24

    私は自分の右側をぽんと叩くと、ユカリは座った姿勢を崩さず、羽織を引き摺りながら私の体と密着するようにその身を寄せた。

    ふわりと彼女の匂いが香り、私の右肩に彼女の体温が伝わる。

    「本日は…本当にありがとうございます。」

    "お礼を言うのはこっちの方だよ。料理も美味しかったし、ユカリと話すことも好きだしね。"

    「そういってもらえて嬉しいです…」

    そう言うと、辺りは再び静かになる。

    外の庭の松や砂利に、薄らと白粉が塗られていた。
    そんな景色を見るともなく見ていると、ユカリは深く息を吸い、言葉を続けた。

    「本当は…月の見える夜に先生をお誘いしたかったんです。」

    「冬の月は美しく、そして、先生と共に見る月はとても綺麗でしたから。」

    "…確かに冬の月夜は空気が澄んでいて綺麗だよね。でも、私はこういった時間も嫌いじゃないよ。"

    "雪が降るようになると、人と人との距離が短くなる気がするんだ。丁度今みたいにね。"

    そんならしくない台詞をつくと、ユカリがさらに私へ寄りかかってきた。

    「身共も…こういった時間は好きです。」

    「そして、先生の事も。」

    予想だにしなかったその台詞に、私の動きが止まる。

  • 5二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:05:26

    「初めは…先生のことをお慕いしていただけでした。」

    「眩く美しい世界の中で先生と過ごした時間は、何事にも変え難いものでしたし、今後それが揺らぐ事もないでしょう。」

    「しかしいつからでしょうか…先生といるだけで…自然と心がとき解されて…とても幸せな気分になるのです…」

    「その時初めて、その感情に名をつける事が出来たのです。」

    「ああきっと、この心が、この胸の炎のゆらめきこそが恋なのだと。」

    「ですから…その…」

    「……言葉を重ねると安っぽくなってしまいますね。」

    「でも、これだけは伝えさせてくださいまし。」

    「……先生、貴方のことが、好きです。心の底から。」

    私を見上げた彼女の顔は、今迄に見せたことのないほどに色香を漂わせていていた。

    「先生。」

    傍に置かれた行燈の炎がくらりと揺れる。

    彼女は私の腕を、そして手を取り、彼女の乳房へと押し当てた。

    「私を……抱いてくださいまし……」

    婀娜っぽい、しかし少し震えのある声が、そしてそれを伝える振動が私に伝わる。
    私を見上げる彼女の表情は、既に生徒のそれから乖離し切ってしまっていた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:06:07

    ユカリちゃんのSSが少ないなと思って書きましたの〜!
    エッチなパートは要望があれば書きまつ

  • 7二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:10:06

    えっちパートがむしろ野暮と思うほどに美しい文章でした…

  • 8二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:10:58

    胸のときめき…ロマンだね

  • 9二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:34:35

    文学的ですこ

  • 10二次元好きの匿名さん24/12/20(金) 23:39:10

    しっとりユカリは貴重

  • 11二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 04:12:45

    ゆかりちゃんの湿度は高くてもええですからね。
    しっとりさせていきましょう。

  • 12二次元好きの匿名さん24/12/21(土) 11:15:08

    湿度高めのユカリだと…!
    データにないぞ!

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