(SS)冬至

  • 1◆l7elE92Qk0.U24/12/21(土) 23:57:58

    ──冬至。
    それは一年で最も日が短くなる日。そしてこの日を境に徐々に日が長くなる区切りでもある。
    厳しい冬はこれから春に向かって復路を進むことになるが、それであっても寒さは続く。
    担当の体調に気を配らねばな……競走ウマ娘はどうしても体を絞らざるをえない。
    それ故に免疫力も落ちてしまう。体調を崩さないよう対策せねば。

    今日は担当の休養日かつ俺も珍しく休暇だ。時間は有る。
    まずは食事メニューを練り直そう。そう考え作業に取り掛かった時、来客がやって来た。

    「休暇中にすまんな。差し入れを持ってきたんだ」
    ドアを開けてみれば担当であるエアグルーヴがそこにいた。
    休養日だというのに、わざわざ差し入れを? ひとまず中に入れるとしよう。今日も冷える。

    「わざわざありがとう。寒いから入って」
    「これを渡しに来ただけだ。すぐ戻るから気にしなくていい」
    そう言いながら紙袋を渡してきた。中身を問う前に、続けて教えてくれた。

    「かぼちゃの煮物と柚子だ。今日は冬至だろう? だから持ってきたんだ」
    紙袋の口から覗くと確かに入っている、柚子が二つ、そしてタッパーに詰められた煮物。
    確かに冬至にはかぼちゃを食べ、柚子湯に浸かるのが習わしだ。なるほど、彼女らしいことだ。

    「ありがとう、エアグルーヴ! 大事に食べるよ」
    「ああ、それで栄養を摂って風邪をひかぬようにな。次は看病せんからな」
    ……丁度去年の事だ。俺は普段の不摂生が祟り、風邪をひいてしまったのだ。
    それを知るや否な彼女は各所から許可を取り、治るまで看病してくれたのだ。
    どうやら彼女の心配の前に自分の心配から始めた方が良さそうだ。これはありがたく頂いて養生するとしよう。

    「……気を付けるよ。今日はありがとう」
    「ではな、トレーナー。体を冷やすなよ?」
    担当に負担をかけないようにしないとな……彼女の言うとおりにしよう。

  • 2◆l7elE92Qk0.U24/12/21(土) 23:58:16

    今日は冬至。そして休養日。
    いつも顔を合わせているというのに、どうしてもあの男の顔が脳裏に浮かぶ。
    私の杖は真面目で不器用だ。それ故に、自分の事は後回しにしがちだ。
    丁度去年の事だ、トレーナーが風邪で寝込んでしまった。

    あの時の私はどうにかしていた。結局治るまで看病してしまったからな。
    ふっ、あの男と結婚すると苦労しそうだ……いや、なぜそう思ったんだ?

    妙な考えはやめよう。

    トレーナーのことだ、冬至であることを忘れているかもしれん。差し入れでもして思い出させてやるとしよう。
    丁度夏頃に取ったかぼちゃが食べごろだ。それにハルウララから貰った柚子も有る。
    柚子はそのまま渡すとして、かぼちゃは煮物にしよう。日持ちするし丁度良いだろう。

    堅い外皮ごと立ち割り、ワタを取る。そして面取りだ。
    味付けは……少し濃いめにしよう。そうすれば副菜にしやすい。
    醤油、みりん、鰹出汁を少し。そして砂糖も大さじ一杯。
    煮汁を沸騰させてかぼちゃを入れる。落し蓋をして煮込めば終わりだ。

    煮込んでいる間にも脳裏に浮かぶのはトレーナーの笑顔。気に入ってくれるだろうか? ただそんな考えばかりが浮かぶ。

    ──

    どうやら煮上がった。粗熱を取り、タッパーへ詰める。後は渡すだけだ。

    「ありがとう、エアグルーヴ! 大事に食べるよ」
    トレーナー寮へ向かい、差し入れを渡すと嬉しそうにそう言ってくれた。その一言で何かが満たされていく。

    「ああ、それで栄養を摂って風邪をひかぬようにな。次は看病せんからな」
    若干の気恥ずかしさからそう返答してしまう。私は少しおかしくなっているのかもしれない。

  • 3◆l7elE92Qk0.U24/12/21(土) 23:58:31

    夏にもがれて一日千秋。
    我が身の円熟、待ちて待ちて一日千秋。

    遂にお役目、私のさだめ。御魂の禊。
    女帝殿、私を割って下され! 女帝殿!

    割って刻んでわたを抜き、沸々煮え立つ鍋の中。
    女帝殿、私を使って下され! 女帝殿!

    私の御魂を清めて下され、女帝殿!
    沸々煮え立つ鍋に入れ、この身禊いで下され、女帝殿!

    女帝殿、これは私のさだめ。御魂の宿命。
    女帝殿、その業、私に下され女帝殿!

    貴女の業は私が背負う。
    御魂の旅路の供として。

    冥府への土産として下され、女帝殿。
    女帝殿、私は幸せです。貴女のお役に立てて、幸せです。

    女帝殿、お役目下さり感謝します。
    貴女の慈悲が、御魂を禊ぐ。

    女帝殿、貴女の慈悲に感謝します。
    女帝殿、お役目下さり感謝します。

  • 4◆l7elE92Qk0.U24/12/21(土) 23:58:45

    以上
    冬至なので書きました
    かぼちゃの煮物は旨いですね、やはり
    柚子湯もいいぞ^~これ

  • 5◆l7elE92Qk0.U24/12/21(土) 23:59:00
  • 6◆l7elE92Qk0.U24/12/21(土) 23:59:55

    ついでに今回作ったかぼちゃの煮物も貼っておきます
    見た目はちょっと悪いがとても美味しかった(小波)

  • 7二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 00:01:38

    >>6

    醤油の色が強く出てるな……

  • 8◆l7elE92Qk0.U24/12/22(日) 00:02:28

    >>7

    かぼちゃって煮汁を吸いやすいんでな

    しゃーない

  • 9二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 00:12:35

    >>3

    急にかぼちゃ殿が荒ぶってて戸惑った

  • 10◆l7elE92Qk0.U24/12/22(日) 00:55:57

    >>9

    すまんな

    でも大好きな人の役に立てるって興奮するやろ?

  • 11二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 00:58:21

    >>3

    隣で姉殿下がぶっちゃ騒いでて草

    三本足立ってるぞ

  • 12◆l7elE92Qk0.U24/12/22(日) 01:00:15

    >>11

    姉殿下は1ミリも出てないで誤解させてすまんな

  • 13二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 01:02:20

    >>12

    マジか

    幼児とかにする物に意志があるかのようにアテレコしてるやつかと思ったわ

  • 14◆l7elE92Qk0.U24/12/22(日) 01:09:12

    >>13

    調理されてるカボチャ視点やで

  • 15二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 01:25:53

    トレーナーを想う女帝の心中のあたたかさと女帝を盲信するかぼちゃの切なさの対比が染みる…

  • 16◆l7elE92Qk0.U24/12/22(日) 13:04:03

    >>15

    ありがとナス!

    どうあがいても思いは伝わらないの悲しいけど美しい

  • 17二次元好きの匿名さん24/12/22(日) 14:15:22

    (味見はしてるかもだけど)エアグルーヴの口には入らず、
    それどころかトレーナーの為に、悪く言えば思いやりの手段として使われる…
    これは素晴らしいSSだべ…

  • 18◆l7elE92Qk0.U24/12/22(日) 21:59:19

    >>17

    ありがとナス

    例えただの手段であろうと絶望無き断末魔と共に冥府へ旅立つカボチャくんは信徒の鑑

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