- 1◆lHysfq3U1bWO24/12/22(日) 23:58:45
「〜♪」
ここはメジロ家の屋敷の一室。その部屋の中には鼻歌混じりに身支度をしているメジロアルダンがいた。
(遂にこの日が来ました……!)
そう、今日はクリスマス。かねてより自分のトレーナーとこの日にお出かけをする事を約束していたのである。
故に普段以上に身だしなみを整えるのにも気合いが入り、何度も何度も鏡と睨めっこ。
「服装よし……髪のセットもよし……!」
普段と変わらない身だしなみであるが、特別な日に特別な人と過ごすという事実が普段以上の高揚感をアルダンに感じさせる。故におめかしにも細心の注意を払っていたのである。
「まるでドレスを着てお城へ向かうシンデレラみたい……」
準備を終え、家で手配してくれた車に乗る。昔読んだシンデレラの一幕を思い浮かべ、アルダンは待ち合わせ場所へと向かったのであった。 - 2◆lHysfq3U1bWO24/12/22(日) 23:59:02
アルダンが待ち合わせ場所……学園の校門に到着すると既にそこにはトレーナーの姿があり、彼女の姿を見るや手を振って呼んでいた。
「お待たせしましたトレーナーさん。今日はよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしく。その服いつもながら似合ってるよアルダン」
「———ッ! さ、さぁ!そろそろ行きましょう!」
そう言いながらアルダンとトレーナーは街の方へと向かって行ったのである。
まず二人が向かったのはショッピングモール。
いつも以上に混み合っており、クリスマスという事を感じさせられる状態であった。
「アルダン、はぐれないようにね」
「トレーナーさん……もし良かったら手を……」
「分かった。絶対に離さないから安心して」
人混みに紛れない様に手を繋いで進む二人。
(暖かい……この時間がずっと続けばいいのに……)
手を繋ぎ、エスコートされるように歩いているアルダンがそんな事を考えていると目的の場所に到着する。
普段はトレーニング用品を見るのがメインであるため、アルダンにとってトレーナーと二人で普段と別の店に入るのはある意味新鮮な感覚であった。 - 3◆lHysfq3U1bWO24/12/22(日) 23:59:48
「わぁ…こんなに沢山……!」
「色々あるもんだな……」
辿り着いた二人の目の前には多くの髪飾り等のアクセサリーが広がっていた。ここの店は有名で多くのウマ娘達の勝負服のアクセサリを手がけており、レース以外でも愛用する人が多いのである。
「……………」
「それが気に入ったんだねアルダン」
「あ!い、いえ!そうではなく……」
「よし、いつも頑張ってるし特別にね」
「え?い…良いんですか?」
「心配するなって、他にもあるかな?」
「ありがとうございますトレーナーさん……!」
その言葉を受け店内の商品をしっかりと吟味し、トレーナーの方へ戻ってきたアルダンの手には二つのアクセサリー。よく見てみるそれは二つのリングであった。
「流石にダメ……ですよね?」
「そんな事ないさ、アルダンがしっかり選んだものだからね」
「トレーナーさん……!」
二つのリングを購入し、店を後にする二人。
次の目的地に向かおうとトレーナーが歩こうとすると……
「あの……トレーナーさん」
「どうしたアルダン?」
「もし良かったらさっきの様に手を繋いで……くれませんか……?」
「勿論だとも」
そう言ってアルダンの手をしっかりと握り歩き始めるトレーナー。そして彼の手の温もりを感じながらアルダンも歩いていくのであった。 - 4◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 00:00:05
その後もアルダンとトレーナーはクリスマスのお出かけを楽しんだ。
「美味しい……!」
「この美味しさ、予約しておいて良かった……」
街で有名なレストランで食事をしたり。
「ここに来るのもあの日以来ですね」
「……あの日いた可愛いシャチは居るのかな?」
「———ッ! も、もう!トレーナーさん!」
あの日訪れた水族館に再び足を運び。
「やっぱりこの店に来ちゃいますね……」
「折角だし新調するものは見ていこう」
「はい、ならまずは……」
普段行きつけのトレーニング用品店に立ち寄る。
まるで魔法にかけられたような素敵で幸せな一日の一分一秒を無駄にする事なく二人は目一杯楽しんだ。
———しかし魔法はいつかは解けるもの
素敵な時間はあっという間に過ぎて行き、二人が気付けば既に日は沈み頭上には星が輝く夜空が広がっていた。 - 5◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 00:00:24
「もうこんな時間か……あっという間だったな」
「トレーナーさん、今日はありがとうございました」
煌めく星々を眺めながらアルダンは呟く。
「まるで魔法にかけられたシンデレラの様に短くも素敵な一日でした……」
「アルダン……」
「もっとこの時間を楽しみたい……でも、だからこそ戻らないといけません。だって魔法が解けてしまうから」
微笑みながらそう語るアルダンだったがその声は震えていた。いや、声だけではなくアルダンの身体も震えていた。まるで抑えきれない何かをかろうじて堰き止めているかの様に。
「本当に今日はありがとうございま———」
「アルダン」
帰ろうとするアルダンの動きが止まる。彼女が後ろを振り向くとトレーナーが彼女の手を握っていた。
「魔法が解ける前に王子の前から帰るのがシンデレラのお話だったな」
「トレーナーさん……?」
「俺が王子役で良いのなら……シンデレラ、いや君に追いついてこの手を離さない」
「———ッ」 - 6◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 00:00:42
「いいんですか……?」
「ほんとうにいいん…ですか?」
「シンデレラが出来なかった事を……わたしが出来て良いんですか……?」
「君だから出来るんだシンデレラ……いや、『メジロアルダン』」
「なら…私も……わたしもっ! 絶対に離しません!」
その手を握り返し、そのままトレーナーに抱きつくアルダン。
「これが俺から出来るクリスマスプレゼント」
「本当に……素敵なプレゼントです……っ」
あの時、あの物語の二人が出来なかった事を自分達は成し遂げたと、その喜びを確かめ合っていると……
「なら私もトレーナーさんにクリスマスプレゼントを渡さなければいけませんね」
アルダンが先ほど買って貰ったリングを取り出して一つをトレーナーの方へ手渡したのである。
「これを受け取って欲しいのです。先程のリングを……ペアリングの片割れを」
「…………!」
「本当はあの時渡したかった……でもあの時私は……」
「アルダン……」
「でもトレーナーさんから素敵なプレゼントを……そして少しだけ勇気という名の魔法をかけてもらったから……渡す決心がついたのです」
トレーナーが手渡された箱を開けてみるとそこにはアルダンの言う通りペアリングの片割れが灯に照らされて輝いていた。 - 7◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 00:00:59
「それともし良ければこの場で互いにリングを……」
「ならアルダン、右手薬指を出してくれるかな」
「右……ですか?」
トレーナーの言葉通りに右手を差し出すアルダン。その綺麗な薬指に優しくトレーナーはペアリングをはめる。
しっかりとはめ終わり、先程と同じ様にトレーナーは右手を出し、今度はアルダンがその薬指にペアリングをはめる。
「右の薬指は精神の安定を意味するんだ」
「精神の安定……」
「今日の事もそうだけど、アルダンはいつも色んなプレッシャーと戦ってきた……」
「あ………」
その言葉を聞いてガラスの脚と称される自分の身体の事、メジロのウマ娘である事への重圧、そしてあのメジロラモーヌの妹が故の比較や期待……様々なプレッシャーと戦ってきた事をアルダンは思い出した。
そして自分とトレーナーとの事も……
「だけどもう大丈夫。きっとこれからも君は重圧を跳ね除けられる……これはちょっとしたおまじない」
「私へのおまじない……」
「俺だってずっと支え続ける……それに」
「トレーナーさん」 - 8◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 00:01:17
トレーナーの言葉を遮る様にアルダンが一言、彼の名を呼ぶ。何事かと心配そうに驚いている彼の顔を見てニコリと笑いながらアルダンは続ける。
「シンデレラのお話なら……王子様が残されたガラスの靴が似合う女性を探してシンデレラと再会します」
「ですが私達のお話にはもうガラスの靴は必要ありません」
「先程トレーナーさんが伝えたかった言葉……それは私も同じです。だから———」
一瞬深呼吸をして微笑みながら左手を差し出したアルダン。その仕草にトレーナーも何かに気付いたようだった。
「その時が来たら一緒に探しましょう。ガラスの靴の様に私達の幸せの証を……だから、約束ですよ?」
その言葉を聞き差し出された左手に同じ様に左手を出すトレーナー。そして互いの"薬指"を重ねて誓い合ったのである。
「ありがとう…アルダン……!」
「私の方こそ……ありがとうございます……!」
すると突然大きな音が鳴り響く。
二人が振り向くと街の中央にある時計が時刻を音で示していた。 - 9◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 00:01:36
「そろそろ時間だな」
「ええ……あっという間ですね……」
「遅いし家まで送っていくよアルダン」
「ならこのまま歩いて帰りましょう。色々お話もしたいですし」
「それならば……」
「え……きゃっ!?」
アルダンが驚くのも無理はない。何故ならトレーナーにお姫様抱っこをされたのだから。
「さて、そろそろ行きましょうかお姫様?」
「もう……でもお姫様ですか……」
メジロアルダンは目を瞑る。
そして幼き頃憧れた物語のお姫様、その真似をしてはいつか自分もと夢見たあの時を思い出す。
(幼き頃の私の夢を叶える事ができた……)
(でもそれで終わりではありません………!) - 10◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 00:01:49
だがそれで終わりではない、物語の人物と違い自分達は生きている。
———だからこそ、"その先"へ進めるのだと。
自分達の歩みを『いつまでも幸せに暮らしました』の一文だけでは終わらせない……
一冊、二冊…いや図書館の本を全て置き換えても記し切れないほどの物語を紡いでいきたい……
そう心に強く誓ったメジロアルダンは再び目を開く。
「ありがとう王子様…いえ、トレーナーさん。ですが私は自分の足で歩んで行きたいのです。貴方と共に……同じ歩みで」
「君ならそう言うと思ったよ」
そう言いながら抱えていたアルダンをゆっくりと下ろすトレーナー。
アルダンは自分の足で立ち上がり、そしてトレーナーの手を離れない様にしっかりと握る。
「それじゃ、行くかアルダン」
「ええ、帰りましょうトレーナーさん!」
シンデレラの様なクリスマスのお話はこれでお終い。
だがそれはトレーナーとメジロアルダンの新たな物語の始まり。この先紡がれる物語は誰にも……当の二人にもまだ分からない。
だがきっと、これから描かれる物語はどのお伽話よりも幸せに満ちたものになるだろう。
そんな素敵な未来を祝福する様に、二人の歩んでいる道は聖夜の街の光で彩られ明るく輝いていたのであった…… - 11◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 00:02:19
少し早いですがクリスマスのお話を
以上になります - 12◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 00:04:28
- 13二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 00:08:00
- 14二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 00:09:20
良いお話を読ませて頂きました
個人的に好きなポイントですが導入を「おとぎ話のようだ」としながら話の締めを「自分達は物語の登場人物ではない」と締めくくって
もっともっと紡いで生きたいと未来への欲望を語るのが彼女の育成エンド(ノーマル・温泉)に添っているのに気付いてニヤケが止まりませんでした - 15二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 00:09:44
「現在」を駆け抜けて余裕が出来たからこそ、未来を楽しげに考えたり共に歩む時間を惜しむ…そんな封じ込めてきた感情を曝け出すアルダンと、それに万全に応えるアルトレの素敵な聖夜の一幕…よいSSでした
あと…アルダンはよくシンデレラの話を交えたSS多くて良いですよね
硝子の足や一瞬の刻に全てを懸ける…って要素がそうさせているかも? - 16◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 07:58:31
- 17二次元好きの匿名さん24/12/23(月) 16:59:05
魔法使いが王子様だったんだなぁ
- 18◆lHysfq3U1bWO24/12/23(月) 20:42:53