- 1二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:12:13
- 2二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:12:47
そして。
トレっちとシュヴァちは。
2人で、恋人同士のクリスマスデート。
――いいなあ。
羨ましい。
昨年のクリスマス前に恋人になった2人は、そのままクリスマスをはじめとしたイベントをこなし。
今年も、カップルとして聖夜の雑踏に消えていった。
去年は、自分にデートプランを相談するくらい初々しかったのに。
相手の好みを知り尽くした今では、阿吽の呼吸で会話まで交わすように。
……本当に、羨ましい。 - 3二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:13:11
トレっちが好きだった。恋していた。愛していた。
その胸の痛みは、まだジクジクと自分を苛む。
先んじられた自分への後悔を、この1年間忘れたことはない。
「あー! もー! やめやめ!」
そんなことを考えていても、トレっちは戻ってきてくれない。
頭を振って袋小路に陥りそうになる思考を払うと、ダイニングテーブルに載せた御馳走に目を向ける。
こんな感情で食べてしまったら、作ってくれた人にも失礼だろう。
有名パティシエ監修のお高いケーキ。
クリスマス仕様の、海産物をふんだんに使ったピザが数枚。
ポテトにチキン。 - 4二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:13:35
外泊届を受け取った寮長も、まさか実家で孤独に牛飲馬食とは思うまい。
まだ日が落ちたばかりで、夕食を食べるには早そう。
時間を潰そうと、大画面のテレビを点ける。
よくわからないお笑い芸人のネタ合戦。
……面白くない。次。
バラドルがひな壇に座って恋愛失敗談。
……恋愛の話なんて聞きたくない。次。
美形の男性アイドルグループが普通の女の子とデート。
……トレっちの方がカッコいい。次。 - 5二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:13:56
刑事ドラマの特別編。
……トレっちの方が頭脳明晰。次。
東京のイルミネーション特集。
……トレっちとシュヴァちのデートが映っていた。次。
そんなこんなで、輸入商の男性がひたすら1人で御飯を食べるドラマに落ち着いた。
共感を覚える。御飯は1人で食べるもの。
……そう、静かに、1人で。 - 6二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:14:17
瞳から、知らず識らず涙が零れた。
未練。
まだ、トレっちを忘れられていない。忘れられるはずがない。
今まで出会った人の中で、一番素敵な人。
「もう。しっかりしなさい、ヴィブロス」
姉の真似をして、自分に言い聞かせる。
そんなことでもしていないと、トレっちがいない淋しさに今にも泣いてしまいそうで。
時計を見れば、午後8時。 - 7二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:14:43
「そろそろ、御飯食べようかな」
正直、あまり食欲は湧いていない。
買ってきたピザを、オーブンレンジに放り込む。
……そうだ、子供のころ好きだったレモネードでも飲もう。
――バチン
電気ケトルを点けた途端、聞きなれない大きな音。
訪れる、漆黒、静寂、寒風。
頼りなさげな、青白い常夜灯が足元を照らす。
ブレーカーが落ちたのだ、とは頭では理解できた。
だが、どこにあるかがわからない。
なにもできない自分に、涙が出てくる。 - 8二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:15:09
――トレっちに、捨てられても当然だよね。
思わずスマホに伸ばした手を、引っ込める。
……誰に電話しようというのか。
連絡すれば駆け付けてくれるだろうけど、幸せな時間を邪魔したくはない。
シャッ。
思いっきりカーテンを開けて、月明かりを吸い込む。
……これで、少しはマシ。
小高い丘の上に建つこの家からは、横浜の夜景がよく見える。
中華街、レンガ倉庫、みなとみらい21の観覧車。
きっと、あの光の一つ一つに、幸せが詰まっているのだろう。
――光ることさえ、できない自分。 - 9二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:15:35
また、ポタリと涙が床を濡らした。
滲んだ視界、キラキラと反射する月の恩寵。
オーブンから、まだ冷たいピザを取り出してかじる。
冷めきってパサパサのチキンとポテトを詰め込む。
端から、ケーキを崩して食べる。
――おいしくない。
誰もいない。
温もりもない。
ただどこまでも続く、鈍色の空間。 - 10二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:15:57
寂しくて、窓に近寄る。
少しでも光を浴びていたくて。
すると、窓の近くにあった大きな姿見が目に入った。
――私、そんなにシュヴァちより魅力ないのかな。
気が付くと、スルリ、と着ているものをすべて脱ぎ捨てていた。
一糸まとわぬ乙女の清らかな身体を、鏡に映す。
シュヴァちより一回り小さいけど、それでも主張するバストとヒップ。
シュヴァちより細いウエスト。
シュヴァちに負けない、あの人への想い。 - 11二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:16:18
――でも。
負けたのは、自分。
いや、勝負すらできなかった。
2人が幸せになるのを、眺めることしかできなかった。
泣き崩れて、氷のような感触のフローリングに蹲る。
冷たい月が、容赦なく裸体を照らす。
肌をとめどなく流れて落ちる、涙。 - 12二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:16:35
「トレっち。寂しいよ、冷たいよ、苦しいよ。……側に居てよ。振り向いてくれなくていいから、シュヴァちだけじゃなくて、私の想いに気づいてよ。……ねえ」
孤独の中で。
ただ、慟哭することしかできなかった。
応えてくれる人なんて、いないのに。 - 13二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:16:55
これで終わりです。
ありがとうございました。
至らない点もあると思いますが、よろしくお願いいたします。 - 14二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:17:30
- 15二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:22:04
文章上手い!!
あとこういうのでしか吸えない成分ある 助かる - 16二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 19:34:23
以前似たような概念をみたけどどうしてヴィブロスはこんなにWSSが似合うんだろうね…
素晴らしいSSをありがとうございました! - 17二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 07:32:23
ほしゅ
- 18二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 17:16:38
とても切ないが美しい…
ありがとうございます - 19二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 20:04:25
- 20二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 00:48:53
すまん…美しさがある
- 21二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 02:17:11
- 22二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 08:08:09
ほしゅ