- 1◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:12:37
- 2◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:13:02
ってコトで、前はなんだかんだでお流れになっちゃったクリパを! と、友だちとお菓子とかあれこれ準備して、無事にできたのはよかったんだけど、
「ごめーん! ウチこのあと用事あるから先帰るね!」
「あたしも。そろそろ勉強に本腰入れないとだし」
とかなんとかで1時間くらいで解散しちゃった。せっかくのクリパだったのにっ!
そんな友だちとのクリスマスパーティーのあと、寮に帰るでもなく、街へ行くわけでもなく、ただ学園の中をとことこと歩く。理事長さんのシュミなのか、季節に合わせて学園内もクリスマスバージョンになってて、学食とか購買とかにクリスマスツリーとか飾り付けがしてあったりでみんな楽しそう。
でも、わたしの足はそっちには行かなかった。
「……居るかな?」
そんな場所とはエンもなさそうなほどひっそりとしてる。なのに、わたしの足は自然とこっちに。
いろんなすごい子たちが、レースして、競って、勝って。わたしなんかには、全く関係のない場所。そう思っていたのに。 - 3◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:13:24
「━━トレーナーさん」
トレーナーさん、トレーナーさん。あたまの中で、何度もなんども出てくるヒト。わたしに『できる!』って言ってくれたヒト。『がんばれ!』って言ってくれたヒト。わたしのことを信じてくれたヒト。
わたしに、勇気を与えてくれたひと。
足がだんだんと速くなる。走っちゃいけないから、小走りで。でも、それでも。少しでも早く。真面目なトレーナーさんのことだから、きっと、イブなのに、『関係ない』って感じでずっとお仕事してて。だから、部屋にいるハズで、急ぐ必要はあんまりなくて。
……ないのに。
部屋の前にたどり着く。部屋の中からは、いつも聞いていたパソコンのキーボードを押す音と、考えているときによく口にする声が聞こえて、ちょっとホッとした。
「(……よかったぁ〜!)」
心のなかでそう思うと、今度は逆にドキドキしてきちゃった。ドアの前で立ち止まって、なんども深呼吸をする。そうなっちゃったのはきっと、去年とはちがうからなのかな。
やっと落ち着いて、決心してノックをする。『はーい』と、中から返ってきたトレーナーさんの声。もういちど、もういちどだけ深呼吸をして、ドアを開ける。
カバンのなかに入れた、大切なものと一緒に。 - 4◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:13:52
「しつれいしま~す。……トレーナーさーん!」
やわらかなあったかさと、夕暮れが部屋の中をやさしく照らしている中に、てっきり先生とか、同じトレーナーさんかなって思ってたような顔が、笑顔に。そしてそのまま流れるように『なぜ? ここにいる?』と言いたそうな顔に。そういえば、前もおんなじ顔してたっけ。
「めりーくりすま~すっ! ……あは」
クリスマス。それを聞いてやっと、今日が24日だったことを思い出してくれた。そしてまた新しいギモンが浮かんだようで。
「あれ? 今日は友だちとクリスマスパーティーをするんじゃなかったっけ?」
この前はできなかったから、今年はできる~って喜んでいたはずじゃ? そう続くコトバに、ちょっと恥ずかしそうに答える。
「……い、いやぁ~それが、友だちの予定がけっこー忙しくって……。ちょこっとやって終わっちゃいました」
そういうと、『……ああ、それじゃあ仕方ないね。他の生徒がテストがどうとかって言ってたみたいだから』と納得してくれた。……ギクッ! て、テスト勉強はちゃんとしま~す……
って、そうじゃなくて! このままだとデー……。いやいやいや、一緒にご飯とかお出かけに行くコトができなくなっちゃう。なんとか話題を変えなきゃ。
「……じゃなくて! てかトレーナーさんイブなのにお仕事あるんですか!?」
わたしの質問に、トレーナーさんは首を傾げる。まるで、それが当たり前みたいとでも言いたそうに。
「まあ、平日だからね。祝日ってわけでもないし」
「え、ええ〜……? うへぇ~……お仕事って大変だぁ」
お仕事の大変さと将来へのばくぜんとした不満を呟くわたしとは対象的に、トレーナーさんはどこか嬉しそう。
「でも、ヒシミラクルのためだと思うと頑張れるよ」 - 5◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:14:21
━━わたしのため。
その言葉を聞いて、顔が熱くなった気がした。……も~! そうやってハズかしげもなく~!!
……でも、おかげでキッカケができた。トレーナーさんは、頑張ってるわたしにゴホウビをくれる。だから、今度はわたしが。お返しになるかは分からないけれど。
「……ってことで! いつもわたしのためにガンバってもらっちゃってるので!」
カバンから小箱を取り出す。今日この日のために。といっても、むずかしいのだったりこったりなのはできないから、簡単なのしか作れなかったけど。
「━━メリークリスマス!」
ちゃんと、伝わるといいなぁ。
「わたしからのクリスマスプレゼントですっ!」
━━わたしの。
「えっ!? いいのか!? ありがとう!!」
いつも見ていた、大人だなぁって感じから、まるで欲しかったプレゼントがクリスマスに来た子どもみたいに、パッと笑顔になったトレーナーさんにつられて、わたしも笑顔になっちゃった。よかったぁ~! 喜んでもらえたみたい!
「といっても、そんなにたいしたものじゃないですけども……。ぜひぜひ~」
「そんなことないって! 本当にありがとう!」
さっそく開けてみるよ! と、トレーナーさんがさくら色に水色のリボンがついた小箱を丁寧に開けると、
「白くて丸い……お菓子?」
中から出てきたのは、丸めたクッキーに粉砂糖をまぶした海外のお菓子。雪玉っていう意味がついた名前の、縁起のいいお菓子とかなんとか。
箱の中のクッキーを珍しい顔をして見るトレーナーさんに答えた。初めて作ったわりには、上手くできたハズ。……そう思いたい。
「━━ブールドネージュ、です〜」
━━わたしの、気持ちを。 - 6◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:14:51
トレーナーさん、美味しそうに食べてくれたっけ。あんまり自信はなかったけど、ここまで美味しそうに食べてもらえるなら、作ったかいがあったかも。
「うん! 美味しい! 本当にありがとうヒシミラクル!」
「いやぁ~、そこまでホメられちゃうと……。そんなに美味しかったですかね?」
食べる度に笑顔になる顔につられて、また笑っちゃう。こんなに美味しそうに食べてるの、なかなか見れないかも。
「こんなに美味しいお菓子だって作れるし、お好み焼きだって俺よりも上手だ。ヒシミラクルはすごい!」
「……も~、またおだてて~。そんなにおだてたって何にも出ないですってば」
……さすがにここまでホメゴロシだと恥ずかしいけど。でもほんとに、作ってよかった、かな。うん。
「こんなに美味しいもの食べさせてもらったし、俺も恩返ししないとな」
突然、思ってもなかったコトバが飛び出す。そりゃあ、一緒にご飯行けたら嬉しいけれど。でもこれはいつも応援してくれるからってか、むしろこっちが恩返ししなきゃって作っただけなのに。
「い、いやいやいや! そんなつもりじゃ! むしろこれはわたしが恩返ししなきゃって思ってか!」
わたわたと、手を広げて止めるように動かす。トレーナーさんも負けじと『いやいやいや……』と返してきた。……これ、前もやったよーな。
なんどもやるうちに、なんだか面白くなっちゃって、笑っちゃった。
「……ぷっ、あははっ! おんなじようなこと、前もやったじゃないですか~」
『そういえばそうだったね』と、トレーナーさんもつられて笑ってた。
お互いにくすっと笑い合って、
「じゃあ、そういうことなら」
お互いに、うなずき合う。
「よろしくおねがいします~♪」 - 7◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:15:20
似ているのかな。それとも、似てきたのかな。
出かける準備もそこそこに、トレーナーさんはひとつひとつ、わたしが作ったブールドネージュを美味しそうに食べてくれた。そして、とうとう最後のひとつになったとき、
「最後の1個はヒシミラクルが食べていいよ」
そんなことをいうから、わたしはあたまをかしげて。
「あ、いえいえ。これはお返しなので、トレーナーさんが全部たべてもらっちゃってもいいんですよ?」
ほんとはたべたかったけど。ま~試食でたべたからいっかな、とか思っていたのに。トレーナーさんは、
「美味しいものは、分け合おう」
と言ってくれた。そういうことなら、ありがたくもらっちゃおっかな。
「えへへ~。じゃあ、お言葉に甘えて」
箱の中に残ったひと粒見て、ふと思う。わけあう、とはいったものの……これってどう分ければいいんだろう。チョコみたいにパキってならないし。
「(う~ん……。……あっ! いいこと思いついた!)」
いい感じに分ける方法を思いついたわたしは、最後のひと粒をつまんだ。
うまく、いきますように。
「……ん。……ほ、いいかんひ!」
ちょっとだけ、はんぶんよりもちょっと少なめなくらいにしたのを口にして、かんでみる。くずれないかな? って心配したけど、なんとかいい感じ。これなら上手く半分こにできたかな。
その半分の片方をトレーナーさんにあげよう。ちょうど向かい合って座ってたから、意識しなかったけど、……なんかこう、あーんしてあげてるみたいで。……今わたしめちゃ恥ずいことしてるんじゃ!?
意識しちゃって恥ずかしいのに、ドキドキしてるのに、でも、どうしてなんだろ。 - 8◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:15:54
すごく、嬉しくて。
「トレーナーさ〜ん! はい、あ〜ん♪」
あっけにとられてたトレーナーさんの口に、半分こをあげた。
口に入った、半分このブールドネージュを食べる。昨日と変わらない、自分にしてはよくできたと思う味。
だけど。
「ひ、ヒシミラクル……。半分にしてくれたのは嬉しいし、美味しかったけど……分け合うってそう意味でもなくて」
はっとなって思い出す。いま、わたしがしちゃったのって……!?
「……間接」
か、間接、キ……。
「……ぁ、ああああ!?!?!? いやっその……いまのはちがっ、違くてっ!!!!」
何が違うのか、自分でもわからなくなっちゃって、『あっあのわたしコート忘れてきちゃったんでとっ取りにいってきます〜!!!!』って、もうコート着てるコトすら忘れてて、慌てて部屋を飛び出した。廊下はヒンヤリしてたかもしれない。でも、そんなことが気にならなくなっちゃったくらい熱くて。 - 9◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:16:33
- 10◆4soIZ5hvhY24/12/24(火) 23:17:24
『幸せのブールドネージュ』 おわり
- 11二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 23:23:03
かわいい
良いSSとイラストありがとう - 12二次元好きの匿名さん24/12/24(火) 23:27:57
近いようでしっかりとした大人であるトレーナーに対して、背伸びしたいな、ほんの少しでもその距離を縮められたらな…みたいに思いながらブールドネージュを渡すひしみーは可愛いっすね
結局ヒシミラクルの為に頑張れると言われたらめちゃくちゃ喜んじゃうのも、あーんの方を恥ずかしがっててそれよりよっぽど恥ずかしい事をしてたのに後で気付いてワタワタするのもやっぱり子供らしくてそこも可愛いかったです
ちょびっとだけ特別で甘酸っぱい聖夜の夜の一幕はやはりいいわね - 13二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 00:28:16
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