- 1◆AUpi.WRO.BrV24/12/25(水) 00:43:26
「メリークリスマス! お兄ちゃん♪」
今日はクリスマス・イヴ。俺はいつも通りシングルヘルを味わっていた。コンビニケーキと共に。
そんな静寂は、一人のカワイイ来訪者によって打ち破られた。
カレン。
俺の担当、カレンチャン。
昨日の事だ。俺は彼女にペアチケットを渡していた。ちょっとお高いレストランのディナーチケットを。
"友達と行っておいで"そう言って彼女に渡していた。
時刻は午後8時。今ここに彼女がいるのは辻褄が合わない。何か有ったのか!? そう思い問いかける前に、彼女から切り出す。
「ごめんね、お兄ちゃん。あのチケット、アヤベさんにあげちゃった……今頃トレーナーさんとクリスマスデートかな?」
確かにあのチケットは俺があげたものだ。それをどうしようと彼女の自由、俺が咎める理由は何もない。
それにしても、あいつ……隅に置けんな。まあ別に悔しくなんて無いが。
「ねえ、お兄ちゃん? カレンとお家デートしない? ケーキとチキンも買ってきたんだ♪」
そう言いながら手に提げていた袋を俺に見せる。そのまま寮まで送ろうと考えていたが、どうやらそれも難しい。
それにこの寒空の中、そのまま帰してしまうのもかわいそうだ。
「……門限までだぞ」
「やった! お邪魔しまーす!」
俺が発した雰囲気を感じ取ったのだろう。その瞳には不安の色が浮かんでいた。
あの時の眼だ。初めて会った日の、あの眼だ。それを思い出してしまってはどうしようもない。放っておくわけにもいかない。
大丈夫、門限までの話だ。
それに、たまにはいいと思うんだ。こんな聖夜も。 - 2◆AUpi.WRO.BrV24/12/25(水) 00:43:41
ただ二人で静かに過ごす。
二人でチキン、そしてケーキを食べて他愛いのない話をして静かに、そして賑やかに過ごす。
誰かと過ごすクリスマス。いつぶりだろうか。
子供の頃は家族で賑やかに、そして朝のプレゼントを夢見て眠る。
学生時代は気の知れた連中とつるんで夜通し騒ぐ。朝には泥のように雑魚寝。
今は担当の子と。たまには良いかもしれない。こんなクリスマスも。
さあ、もうすぐ門限だ。そろそろ寮まで送ろう。
そう考え立ち上がろうとすると、隣に座っていた彼女が俺にしな垂れかかって来た。
「お兄ちゃん、カレン、私、帰りたくない」
上目遣いに潤んだ瞳。そしてあの色。初めて会ったあの日と同じ色。
いや、しかし……ダメだ。今はダメだ。口を開く前に、彼女は続ける。
「お兄ちゃん、お願い。朝まで一緒に……ダメ、かな?」
俺は甘い。甘すぎる。だが、これ以上はダメだ。
「カレン。門限までと約束しただろ? 寮まで送るから」
「……わかった」
心が痛むが仕方あるまい。これ以上はいけない。この子の将来がかかっている。
手早く身支度し、玄関を出たが……視界は真っ白、まさにホワイトクリスマス。
スマホを取り出し天気を確認してみると、どうやら朝まで降り続けるようだ。
「……カレン、朝に送るよ」
「ほんと!? お兄ちゃん、ありがとう!」
このまま帰すのは危険だ。一応たずなさんには事情を説明しておこう。
良くてお説教か始末書かな……まあ、仕方あるまい。 - 3◆AUpi.WRO.BrV24/12/25(水) 00:43:58
「カレン、お風呂沸かすから入って。着替えは俺ので悪いが」
「ありがとう、お兄ちゃん。お風呂貰うね」
水の音がやけに大きく感じる。いや、今は何も考えるな。これは不可抗力だ。何も考えるな。
「ふーさっぱり♪ ぽっかぽか♪」
……当たり前なのだが俺の寝巻は彼女の身体には大きすぎる。ぶかぶかの寝間着姿というのは、少々刺激が強い。
視線を泳がせながらも呼吸を整え返答する。
「それはよかった。もう寝ようか。ベッド使ってくれ。俺は床で寝るよ」
「お兄ちゃん、一緒に寝よ? こんなに寒い夜だもん。だめ、かな?」
そう言いながら俺にもたれ掛かり、甘えるように難題を言ってくる。
上目遣いに妖艶な瞳。そしてあの色。不安の入り混じったあの色。
今日の俺はどうにかしている。
「……シングルだから狭いぞ。それでもいいか?」
「大丈夫! お兄ちゃん、よろしくね」
二人でベッドに入るというのも妙な感覚が有る。ウマ娘特有の高い体温と自分のではない息遣い。香り。
いっそ眠らずじっとしていようか。ほんの数時間耐えるだけだ。ほんの数時間。
なーに、背中合わせに彼女の存在を感じるだけだ。俺は耐えて見せるさ。
「お兄ちゃん」
「こっち、向いて?」
不意にそう声をかけられた。ゆっくりと寝返りを打つと、彼女は俺の首に手を回してゆっくりと顔を寄せてきた。 - 4◆AUpi.WRO.BrV24/12/25(水) 00:44:16
「お兄ちゃん、いいかな? おやすみのキス」
それ以上はいけない。あの眼をしても、それ以上はいけない。
そっと彼女の口元に手を当て、諭す。
「カレン、君にはまだ早い。まだ、今はダメだ。君が大人になってからだ」
「それまではお預けだ。大人になって君の気が変わっていなければ、続きをしよう」
「だから、今はダメだ」
そう告げると、彼女は小さく頷く。まだ彼女は子供だ。今はその時ではない。
その後、彼女はゆっくりと俺の胸元に顔を埋め眠り始めた。ウマ娘特有の高い体温と自分のではない息遣い。香り。
どうやら、今夜は長くなりそうだ。
──
朝だ。俺は耐えきった。睡眠時間を犠牲にして。
雪もすっかり止み、雪化粧した街を朝日が照らす。後は彼女を寮まで送り届けるだけだ。
「カレン、行こうか」
「うん、お兄ちゃん……昨日はありがとう」
澄んだ冷たい空気と朝日を浴びながら二人で寮へ向かう。手を繋いで。寒いはずなのに温かい。
「それじゃあ、またトレーニングで会おう」
「うん、それじゃあね、お兄ちゃん♪」
自宅へ戻り、一息つく。まだ手に温もりを感じる。彼女の温もりを。
それは、質量の無い砂糖菓子。脆くも崩れ、また現実へ戻される。
……少し眠るとしよう。 - 5◆AUpi.WRO.BrV24/12/25(水) 00:44:28
お兄ちゃん、カレン、私、本気にしても良いよね?
"今はダメだ。君が大人になってからだ"
"大人になって君の気が変わっていなければ、続きをしよう"
お兄ちゃん、待っててね。カレン、私、素敵な大人になるから。
素敵な、素敵な大人になって見せるから、待っててね? お兄ちゃん。
お兄ちゃん、カレン、私、あの日からお兄ちゃんしか見えてないんだ。
私、お兄ちゃんとの続き、楽しみにしてるね。
だから、お兄ちゃんもカレンの、私のこと、そのまま見ていてね。
お兄ちゃん。 - 6◆AUpi.WRO.BrV24/12/25(水) 00:44:39
以上
たまにはこういうカレンチャンも良いよね!
なお、私は今年もシングルヘルでお仕事です!年度末までクッソ忙しいのでFxxkです!ンアー! - 7二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 00:46:04
乙ええもん読ませてもらいました
- 8二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 00:48:05
おつぁるけあとるす
メリークリスマスと感謝を - 9二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 00:56:31
- 10◆AUpi.WRO.BrV24/12/25(水) 01:49:25
- 11二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 08:55:38
社会人になってたからは当然のように毎年一人だったお兄ちゃんに悲しい過去
- 12二次元好きの匿名さん24/12/25(水) 12:41:06
<今日はクリスマス・イヴ。俺はいつも通りシングルヘルを味わっていた。コンビニケーキと共に。
お兄ちゃん・・・ - 13◆AUpi.WRO.BrV24/12/25(水) 23:09:44
- 14二次元好きの匿名さん24/12/26(木) 00:41:02
- 15◆AUpi.WRO.BrV24/12/26(木) 12:02:00
お兄ちゃんは鉄壁のラインバッカーにして人間の鑑
- 16二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 00:00:22
- 17◆AUpi.WRO.BrV24/12/27(金) 00:39:02
成人しててもなお耐えそう(偏見)