- 1二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 21:29:17
- 2二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 21:31:21
お日様からの柔らかな陽が頬を撫でるように注ぐ
先生と行ったカフェや深夜に会った記憶などが暖かさと共に思い出される
もう少しだけ、この光を感じたい
どこまでも飛んでいけるようなそんな気持ち...
ーーー
「委員長大変です!」
勢いよく執務室の扉が開き、書類の山と格闘しているゲヘナの風紀委員長【空崎ヒナ】が顔を上げた。
「もうノックされることもなくなったわね。今度は何?」
息せき切って駆け込んできた風紀委員の生徒が、慌てて叫ぶ。
「っはっはぁ...アビドス高校からの救援要請です!先生がっ.....先生が拉致られましたっ!」
ガタッ!
一瞬頭が真っ白になったが何とか落ち着きを取り戻す。
今は事態の確認が先だ。
「わかった。すぐに向かうわ。概要は移動中確認するからモモトークに送っておいて。」
そう言い残すと、気づけばゲヘナを飛び出し、アビドス行きの列車に駆け込んでいた。
列車というものの速度に悪態を吐きたくなる気持ちを深呼吸で飲み込んだ。
電話を取り出しさっきの子のモモトークを確認する。
しっかりと情報が送られていた。
それによると、
先生を誘拐したのはある企業で、目的は不明。そして救出を試みた際、ビナーが現れ、アビドスメンバーは対応に追われているとのことだった。
「だから私が頼られたのね...。」
納得すると同時に嫌なことに気が付いた。
”目的が不明”ということは’先生の身が無事である保証はない’ということだ。
なにかあるのなら早々に取引に持ち込むだろう。
エデン条約が頭に過ぎり、胸が締め付けられるようだ。
それでも深呼吸して、なんとか浅くなる呼吸を整える。
「先生は私が守る。」
もうあの時の失敗はしない。
今度こそ。絶対に。
もどかしさでおかしくなりそうだったが無力な私はただ電車に揺られるだけだった。 - 3二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 21:33:55
~数十分後~
ピロン♪
追加の情報が送られる。
先生の場所、”アビドス市街地のビル”だ。
ジリリリリリ
アビドスに到着した。
「お願いだから。無事でいて。」
ーーー
分厚い扉を打ち抜き極力早く侵入する。
(先生は恐らく最上階の19、20階付近...最速で駆け上がらないと)
唸るような警報が鳴り響く。
ロボ系の職員が一斉に向かってくる。
(思ったよりも早い......!)
「どきなさい!でなければ実力行使で行く!」
職員の攻撃に対してヒナは軽く身を翻す。
反撃の乱射が機関部を撃ち抜き、機械の体が地面に崩れる。
しかし、その隙に背後から新たな敵影が迫る。
(数が多い...)
ほとんどの社員を総動員しているのではないかと疑うほどだ。
焦燥感に胸が焦がされる。
(それでも、蹴散らすだけ...今はスピードが命、走り撃ちで駆け抜ける!)
ーーー
~19階~|社長室|
カンカンカン
足音が金属音を響かせる。
(.....早く、もっと早く!)
視界が揺れるが関係ない。
扉を蹴破り中に入る。
一人、ロボ系の体躯のいい男が視界に入る。
意外にも側近がいなかったので一気に間合いを詰め、社長と思わしき人物を足で踏みつけ銃口を向ける。 - 4二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 21:35:07
「先生を返しなさい!」
『これはこれは、優秀な生徒がいたもんだ...お目にかかれて光栄だよ。』
「御託はいい。なぜ先生を攫った?」
『...以前、アビドスでは大規模な鉄道計画があったんだ。ほら、鉄道はマクロ的な利益が高いだろ。勿論手に入れたかったさ。先生のお陰で白紙になったがね。まあ復讐ってやつだな。』
すると男はニヤリと口角を上げる。
『ああ、安心しろ先生に危害は加えてない。その前にお前が来ちまったからな。』
その一言で一瞬安堵した。
今度は守れた...と。
『まあ、こうなっては仕方あるまいし、先生はもう解放してあるよ。』
そいつは手をひらひらさせながら言った。
「......?もう、解放している...?」
背中を嫌な汗が伝う。
『そりゃあな、私は引き際を弁えているんだ。あの速度で登ってくる様をみて色々と察したさ。しかも、今ならまだ未遂だ。拉致位キヴォトスでは日常だろう。それに、感謝してもらいたいな。』
「.......?」
『お前さんの広範囲攻撃で先生が怪我をしては困るだろう?ちゃんと防具も着せてやったよ。............ただ、うちの職員と同じ防具だがね。』
心臓がドクンと大きく脈打つの。
銃口からはまだ鼻をくすぐる硝煙が立ち昇っている。
瞼に蘇る光景。
「まさか.....」
ドンッ!
反射的に頭を撃ち抜く。 - 5二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 21:37:24
(嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ)
(そんなはずが!!!そんなはずがない!!!!!)
ダッ!
フロアを駆け降りる。
「先生っ!先生っ!!」
(もし先生の当たり所が悪かったら!!!手遅れになってしまう!!!!!)
周囲には壊れた機械の部品しか散乱していない。
タタタッ
タッ
タ....
足が止まる。
壁沿いの倒れたロボに気づいてしまった。
弾が腹部を何か所も貫通し、上半身の落ちたロボ...いや、”先生”の周りを赤黒い液体が染めている。
付近には濃い鉄の匂いが充満している。
「先生.....?」
音が消えた。
その中で、ピチョンと滴る血の音だけが、嫌に耳に響いた。
断裂部の損傷がひどい。腸間膜も剥がれて小腸がまろび出ている。
「はぁ...はぁ....うっ.............!」
パタタッ
胃の中身をいくら出しても一向に気分は良くならない。
手足に力が入らずその場に崩れ落ちる。
「はぁ.....はぁっ.....!」
「先生ぇ........!」
「うっ..うあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙......」
「あっあ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙......」
うまく息が吸えず、えづく。
「ごめんなさいっごめんなさい...先生!」
目の端が滲み、次第に視界にぼやがかかる。 - 6二次元好きの匿名さん24/12/27(金) 21:38:57
「私がっ....ヒグッ........私が先生をっ!!!!」
両の手が震え、赤く染まったかのような錯覚に陥る。
逃げることは許されないのに。
それでも涙が零れ落ちていく。
どれだけ強く拳を握りしめても、どれだけ慟哭しようともそれに何の意味もないことは、ヒナ自身よくわかっていた。
(ああ.....そうだ、私がこの手で先生を殺したんだ......)
引き金の重さに差はなかった。
あの瞳は、真っすぐに私を見つめてくれたあの眼はもう帰ってはこない....
ーーー
(責任を取らなくては。)
(それが”大人”でそれが責務。)
屋上に向かう。
世界の彩度がない。
(先生はこんな未熟でわがままな私を許してくれるだろうか........)
柵に手を掛ける。
(......いや、許さなくていい。)
(ただ、それでも....)
(それでも、向こうでも先生と一緒がいいなぁ......)
私は、お日様に手を伸ばし、重力に身を預けた。
ーーー
~数週間後~
先生の墓石には暖かな陽が差し、尾羽の長い、乳白色の小鳥が一羽、静かに佇んでいた。
「そういえば少し前からロボ系の人は丸々バックアップが取れるようになっていたそうですよ。」
羽が微かに揺れるたび、影が淡い模様を描いていた。
〜終〜