【閲覧注意・SS・キララク】「キラ……?」

  • 1二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 07:38:00

    目が覚めたときに、すでに彼はいなかった。
    子供たちを起こさないように、静かに彼の寝ていたはずのベッドに向かう。
    寝具に触ると、すでに彼の温もりはなくなっていた。
    心が粟立つ。今にも叫びだしそうな心を必死で押さえつけ、冷静に思考する。
    その場にいなくとも、思考は追えるはずだ。なんのために、私は彼の側にいるのだ。
    彼のことを理解し、支えるためだろう。
    彼の思考を追跡する。今の彼の、眠りは浅い。何かがあったらすぐ起きてしまうだろう。
    私たちのことを起こすまい、と外に出ていくとする……ベランダ。いない。
    ではどこだ。靴。ない。鍵を開けて外へ出る。
    早朝……まだ、日も昇っていない時間帯。海風がやや強く当たって、寝巻のままではどうしようもなく寒い。
    だが、追うべきは彼……視線を散らすと、たまたま砂浜の足跡が目に付く。
    危険なことを、と思う一方、それ自体は彼にとっては危険でもなんでもないかもしれない、と思う。
    とるものもとらず、足跡を追うと、間もなく。
    「……」
    一人、宙の彼方を見ている彼がいた。
    冷静に。心を落ち着けて。涙を流しながら、縋りつきたい衝動を抑え込みながら、声をかけた。
    「……おはようございます、キラ」
    「……」
    あるいは、こちらの気配に気づいていたのかもしれない。
    表情の消えた顔に、息を呑む。だが、それでも彼は。
    「おはよう、ラクス」
    薄く笑みを浮かべて―――たとえそれが見せかけの物だとしても―――穏やかに、返してくれた。

  • 2二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 07:44:24

    「キラ……?」
    ともに寝ているはずの彼がいないことに気づいたのは、朝になってからだった。
    やや痛む腰を庇いながら、歩く。
    今の彼は、どこかにいくということはしない。
    否……無駄なことをしている時間などないはずだ。
    寝室を寝巻のまま出ていくと、すぐさま静かな、だけれどもはっきりとした物音が聞こえた。
    滑らかな、だが焦ったような打鍵の音。おそらく、私には理解できない何かに取り組んでいるのだろう。
    自分を起こさぬように気遣う彼を喜ばしいと思うとともに、なぜ声をかけてくれなかったのだろう、という思いが胸を突く。自分はそんなに邪魔なのだろうか。
    ……きっと、そんなことは考えもしていないはずだけども。だけど、心が痛む。
    真剣に、画面を見つめる顔。その顔に、私は恋焦がれた。
    では、今は?果たして、恋をしたあの時のまま、彼に接しているのだろうか。
    それでも。私は、一日を始める言葉を彼にかける。
    「おはようございます、キラ」
    一拍。打鍵の音が止まる。
    「……ごめん、起こしちゃったかな、ラクス?」
    気遣う顔に、ほんの一瞬だけ、苛立ちが見え隠れしたのは、私の気のせいなのだろう。
    「いえ。朝食、用意いたしますわ」
    「ありがとう」
    何かに憑かれているかのように。彼は再度、指を動かし始めた。

  • 3二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 07:56:41

    「……」
    鳥の音で目を覚ます。
    日はまだ昇っていない。だが、プラントとオーブでは生活のリズムも違う。
    そろそろ起きて、朝食の準備を始めようか、と思ったが。
    「……瞼が重い、ですわ……」
    何回やっただろうか。何回昇りつめただろうか。
    昨夜の彼との情事を思いだす。けしかけたのは私の方だったような気もするし、彼の方から迫ってきたような気もする。
    まあどっちでもいいのだが。ぶっちゃけ気持ちよかったので。
    それはそれとして、後に引くのは考え物である。主婦として、食事を作らないわけにもいかないので、一糸まとわぬ姿で上半身を起こす。
    横には、旦那様の寝顔。今日はうなされなかったのか、と思うと、昨夜必死に頑張った成果もあったというものだ。
    朝の挨拶はまたあとでいいだろう。静かにベッドを去ろうとしたところで。
    「ひっ、ぃ……♥♥」
    かくん、と腰が抜けた。昨日の情事の影響で、えらく体が敏感になっている。セカンドバージンでもあるまいに。
    上半身が落ちると、ベッドの傍らで、四つん這いで尻を持ち上げたような恰好になってしまう。
    「……んもぅ……」
    少しばかり悪態でもついてやろうかと旦那様の方を向いたら。
    「……」
    「……」
    思い切り目があった。この怠け者の旦那様、なんでこんなときだけしっかり起きるんですの?
    視線が交わる。冷静に考えるとわたくしえらい恰好してますわね?
    あそこからお尻の穴までばっちり晒しながら朝の挨拶とかやべえですわ?
    「……おはよう、ラクス」
    「……お……はよう、ございます……キラ……」
    百年の恋も冷めますわねこれは。羞恥で真っ赤にながらも、どうにかそう返すと。
    「……さそってるの、それ?」
    「そんなわけ、ないでしゅ、ひっ!?キラ、まだ朝食、朝食も食べていませんわっ……!?
     そういうことする前に水分ぐらい、や、ひ、ひゃぁあああああ♥♥♥」

  • 4二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 08:04:17

    朝食。
    だが、前に置かれたそれに、彼は手をつけない。
    子供たちはすでに皿を空にし、彼だけが手を止めている。
    「キラ……」
    「うん……食欲が、なくて」
    パンを少しだけかじり、彼は皿にあった料理を他の子供たちに分けていた。
    「では、飲み物を」
    「うん」
    そうして私はコーヒーを用意する。
    ミルクと砂糖を多めに入れてあげれば、少しは彼の身体が欲する糖分を満たすことはできるだろう。
    その温かさが、彼の身体を温めることはできないとしても。

  • 5二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 08:06:29

    コミケ前にキラノ先生の新作ですかい!?超助かる

  • 6二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 08:15:58

    「それで、キラ?
     今日はどうされますの?」
    簡単な軽食。軍隊暮らしの彼のために、なるべく多様なものを用意する。
    それは、彼の好みを知るための持って回った準備であり、自分にとっても趣味である料理の欲を満たすことにもなる。
    「外……いや、やっぱり家にいるかな」
    「……」
    時間を無駄にしたくない、という気持ちか。あるいは、仕事をするための選択か。
    ……畢竟、私自身も、そんなに時間があるというわけではない。
    というより、おそらくはキラ以上に私の方が急な用事で職場に戻される可能性はある。
    「では、家で映画でも。
     実は最近、面白い恋愛映画がありまして……」
    心に浮かんだ最悪の展開を振り払いながら、彼と一緒に見たかった映画の中で、一番受けがよさそうなものを選び出していた。

  • 7二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 08:27:13

    「いいんですの?料理は私が……」
    「うん、でも最近楽しくなってきてさ」
    「……料理が?」
    「うん」
    そう言って、彼は慣れた手つきで、片手で卵を割る。
    その流れで脇に置いてある泡立て器がいつのまにか逆の手には握られている。
    主婦さながら、というか。効率極振り、というか。
    ある意味で彼らしい。面倒事はやりたくないくせに、いざやるとなったら、徹底的に的確に。
    ……実際、子供のための料理作らせたらすごくテキパキとやってくれそうなのである。彼は。
    「用意する手際もそうだけど、栄養や食費まで考えるとなると、なかなか奥が深いなって」
    あっという間に出来上がるスクランブルエッグを皿によそうと、そのまま焼きたてのパンを取り出しにかかる。
    「……では、キラが毎朝二人分、作ってくださいますか?」
    少し意地悪を口にする。
    「え、嫌だよ?」
    「ですわよね……」
    「ラクスの朝食を作るならともかく、僕がラクスの作った食事を食べられなくなるのは嫌だなあ」
    まあこの旦那様、奥さんの機嫌をとるのがお上手ですわ?

  • 8二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 08:54:29

    旦那として100点…

  • 9二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 08:55:34

    キラノ先生作品か…?

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