【子世代ss閲覧注意】そうよ、私はラウ・ル・クルーゼの娘

  • 1124/12/29(日) 11:11:09

    クルーゼ娘「あなたからもそう言われるなんて……やっぱり私は、本当にクルーゼの娘なんだわ!」

    デュランダル息子「いや、そんな仮面着けておいてツッコまれないほうが不自然だと思うけど……」

    ※種シリーズ子世代ifSSスレです。
    ※「クルーゼの娘」と「デュランダルの息子」の生まれるはずのなかったコンビが本編とはちょっと違う未来で自分たちのルーツをゆるーく探っていく短めSSです。ゆえに他子世代スレの設定は踏襲していません。
    ※本編カプは固定ですが、その他本編では結ばれなかった組み合わせの子世代キャラが出てきます。下の登場人物紹介を見て、地雷かどうか判断してからの閲覧推奨です。
    ※全体的にゆるいノリですが、話の都合上『卵子』『受精卵』といった単語や生命倫理に関してややグロテスクな内容が含まれます。ご注意ください。
    ※話の都合上、プラントの遺伝子研究の警備はザルです。
    ※ダイスはほぼありません。

  • 2124/12/29(日) 11:11:42

    【このSSに登場する主な子世代キャラ 1/4】

    dice1d3=3 (3)

    (1.フラウ 2.フレア 3.フィール)

    生物学上ラウ・ル・クルーゼとフレイ・アルスターの娘。ザフト軍所属MSパイロット。

    物心ついた時には捨て子として里親のもとで育ち、いつどのようにして自分が生まれたのか、自他共に知る者はいない。

    かねてからラウ・ル・クルーゼの熱狂的なファンを自称しており、最近「ある事」がきっかけで自分がクルーゼの娘だと確信した。

    「私が生まれたということは、クルーゼはあの戦いの後も生きていたのでは?」という考えから、クルーゼの情報を集めるためデュランダルの息子と接触する。

    ちなみにフレイもクルーゼも、本編通りのタイミングで亡くなっている。

  • 3二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 11:12:08

    このレスは削除されています

  • 4124/12/29(日) 11:12:59

    画像付け忘れ


    【このSSに登場する主な子世代キャラ 2/4】

    dice1d3=3(画像付け忘れたレスのダイス結果)

    (1.アリアス 2.アート 3.アリタ)・デュランダル

    生物学上はアーサー・トラインとタリア・グラディスの息子。ザフト軍所属ブリッジ担当。

    しかし、対外的にはギルバート・デュランダルとタリア・グラディスの息子とされ、自身も生まれた時からデュランダルの息子だと自覚している。

    特にアーサーのそそっかしく影響されやすい部分と、タリアの感情に流されてしまう部分を受け継いだ性格をしている。

    生まれてからずっとアーサーのもとで育てられたため、もう一人のアーサーの息子とは兄弟同然の仲。

    また、ウィリアムからは溺愛されている。

    ザフトでは戦艦乗りであり、クルーゼの娘とは同じ艦の同僚。

    ちなみにタリアは本編通りのタイミングで亡くなっている。

  • 5124/12/29(日) 11:13:52

    【このSSに登場する主な子世代キャラ 3/4】

    dice1d3=3 (3)

    (1.ムウマ 2.ムリュー 3.ムユリ)・ステラ・ラ・フラガ

    ムウ・ラ・フラガとマリュー・ラミアスの娘。

    オーブ軍人だが、交流出向としてザフトに来ているMSパイロット。

    子世代の間では年長であり、年下を男女隔てなく可愛がる性格。

    デュランダルの息子であるアとも幼い頃に交流があり、からかい半分で可愛がっている。

    フとは顔を合わせた際に不思議な感覚を抱いているが、ラウ・ル・クルーゼについてほとんど知らないため、ピンと来ていない。



    dice1d3=3 (3)

    (1.オールト 2.オリリット 3.オリフェット)・ハイバル

    オルフェ・ラム・タオとイングリット・トラドールの娘。

    民間人。

    ファウンデーション王国が滅亡した後、残存したデスティニープラン推進派によってアコード達の遺伝子が利用され、生み出された。

    間違った形で親の遺志を継ぐため、ある人物を探している。

    普段はまだ廃墟同然のファウンデーション跡地で細々と暮らしている。

    一応今回の悪役なので、最後に逮捕される。



    キララ・ヤマト

    キラ・ヤマトとラクス・クラインの娘。

    民間人。Y0UTUBERきららとしてネットの世界で歌手活動している。

    最近、アコードの能力が開花してきた。

    子世代の間では年少であり、兄が何人かいる。

  • 6124/12/29(日) 11:14:44

    ダイス3ばっかやないかい!


    【このSSに登場する主な子世代キャラ 4/4】

    dice1d3=1 (1)

    (1.イザリオ 2.イズホ 3.イジクス)・ジュール

    イザーク・ジュールとシホ・ハーネンフースの息子。ザフト軍所属MSパイロット。

    フやアの息子と同じ艦で働く先輩。

    艦長とMS隊の隊長が別にいるタイプの艦なので、もっぱら「隊長」と呼ばれている。


    dice1d3=1 (1)

    (1メイサン 2.メイアス 3.メイサー)・トライン

    アーサー・トラインとその妻メイリン・ホークの息子。ザフト軍人ではない。

    デュランダルの息子であるアとは兄弟同然に育った。

    アがあまりにも自分と似ているので、本当は血が繋がってるんじゃないかと常々思っている。

    ちなみに両親の馴れ初めは良く知らない。

  • 7124/12/29(日) 11:16:49

    ということで、種子世代SSです。
    1にも書いた通り、本編とはちょっと違った未来ということで他子世代スレの設定はほぼ踏襲していません。
    ダイス結果で出た名前を書き溜め部分に流し込んでいくので、5分後くらいから開始していきます。

  • 8124/12/29(日) 11:18:54

    あっ登場人物紹介のところ、名前をダイス前の省略形のままで載せちゃった……
    ア=アリタ君(デュランダルの息子)、フ=フィール(クルーゼの娘)です

  • 9二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 11:21:57

    保守ら無くても始まりそうだが…

    途中で「選択肢全部頭文字一緒だったんだ」って思った「フ」とか「ア」とかで

  • 10124/12/29(日) 11:26:44

    YES キャラの頭文字で書き溜めていたので、たまに省略形のままコピペしてしまったらすみません……
    では以下からお昼ごはんまで、投下していきます
    そんなに長くないので、年内には完結する予定です

  • 11124/12/29(日) 11:27:54

    ・ ・ ・

    ザフト戦艦のとある一室で、ザフト軍人であるフィールは同僚アリタに迫っていた。

    フ「あの『ギルバート・デュランダルの息子』であるあなたがそう言うのなら、やっぱり私はクルーゼの娘なのね! まあ、元から確信はしていたけれど」フフ

    ア「えぇ……えっと、そろそろツッコミしてもいいかな」

    今はプラントに停泊しており、2人とも艦が整備される間は本部で事務作業等を行う予定だ。

    ア「君、MS隊のパイロットだっけ? 今までろくに話したこともなかったよね。その仮面は何かの冗談かい? 笑えたよ、……もう行ってもいい、かな?」

    フ「いい訳ないでしょ。仮面の自慢をしたいだけなら、わざわざギルバート・デュランダルの息子に話しかけたりしないわよ。頼み事があるの」

  • 12124/12/29(日) 11:28:44

    フィールの指摘通り、アリタはもっぱらギルバート・デュランダルの息子として有名人だ。
    今までまともに話したこともなかった女性、しかも変人らしい相手からそう呼ばれ、アリタは大げさにうなだれため息をつく。

    ア「……はぁ。その『ギルバート・デュランダルの息子』って言われるの、あまり好きじゃないんだけどな」

    フ「あっ、ごめん。悪かったわね」

    変人なのにそこはちゃんと謝るんだ、とアリタは肩をすくめた。

    フ「それであなた、アリタだったかしら?」

    事の成り行きを話さなければ、頼み事もできない。
    フィールはまず、自分がラウ・ル・クルーゼの娘だという説明を改めて始めることにした。

    フ「この仮面は冗談じゃなくて本気よ。さっきあなたが『もしかして君ラウ・ル・クルーゼの娘?』なんて言った通り、私はクルーゼの娘……そうね、フィール・ル・クルーゼと名乗ってもいいかしら」ドャァ

  • 13124/12/29(日) 11:29:45

    ア「確かに君は、前々から変わり者……」

    フ「なんですって?」

    ア「ああいや、あのラウ・ル・クルーゼの熱狂的なファンだって艦内でも噂だったけど。でもまさか娘を自称するなんて」

    ラウ・ル・クルーゼについては、この時代でもアカデミーの教科書に名を残している。
    だが、とても良い名の残し方とは言えない。

    フ「何よその目! パパの娘を名乗っちゃ変だって言いたいの!? 私だって、何の根拠もなくそう言ってるんじゃないんだから!」

    ア「わっ、わわっ! いきなり大きな声を出さないでよ、分かった話を聞くから落ち着いて! ……根拠?」アワアワ

  • 14124/12/29(日) 11:31:09

    ア「えーっと、根拠? 君がラウ・ル・クルーゼの娘だっていう根拠があるのかい?」

    フ「そうよ! あなた、ラウ・ル・クルーゼのことはどれくらい知ってる?」

    ア「どれくらいも何も、アカデミーで習った程度だよ。

    白服だったけど実は連合軍のスパイで、第一次連合・プラント大戦が激化した要因を作った男。
    経歴はデタラメで、入隊以前の出自は全くの謎。
    ナチュラルだったとも、コーディネイターだったとも言われているが身体データが書き換えられていたためはっきりしない。
    大戦末期にMS戦で撃たれMIAになった。
    独身。

    ……とか」

    フ「そう、それよ。正直私も彼がザフトに入隊する前の経歴は分からなかったんだけど、でも入隊後のことなら沢山調べたわ。彼、MSパイロットとして『エンデュミオンの鷹』と呼ばれた連合パイロットと激戦を繰り広げていたのよ!」

  • 15124/12/29(日) 11:32:38

    ア「……で?」

    フ「知ってた? こないだ交流出向だか何だかでオーブからザフトに来たパイロット、そのエンデュミオンの鷹の娘なのよ!」

    ア「うん、それで?」

    フ「それで私、そのパイロットとすれ違った時……感じたの! なんかこう、キュピーンって!」キャッキャッ

    ア「はぁ、きゅぴーん」

    フ「しかも、相手もこっちの顔見てたわ! ああ、それって私もあの子もパパから運命を受け継いでるってことね!」

    ア「はぁ、運命」

    フ「それこそが私の正体を知る鍵! この宇宙の中でただ一人、私こそがラウ・ル・クルーゼの娘だと示しているのよ!」

    ア「ごめん、君がだいぶ面白い子だっていうのは分かったけど、話の筋はよく分からないなぁ」

  • 16124/12/29(日) 11:36:06

    フ「なによ! さっきからあんたが真面目に話を聞いてないだけでしょ! もう、とにかくそういう訳であんたにお願いがあるの!!」ムキー

    ア「うわーっ、分かったから落ち着いて! その仮面着けたまま迫らないでそれ思ったより怖いから!」ヒエー


    アリタがフィールをなだめつつ、話題は「頼み事」の内容へと移る。
    だというのに、機嫌を損ねたせいかフィールは堂々とふんぞり返ったままだ。


    フ「私を、ギルバート・デュランダルと会わせて欲しいの」

    ア「……本気?」

    フ「そうよ。だってデュランダルは今は、あんたの家で暮らしてるんでしょ。ずっと前の大戦で、一人だけ生き残って以来」

  • 17124/12/29(日) 11:41:11

    ア「暮らしてる、っていうか……まあ、うん。僕の家というか義父さん、アーサー・トラインの家だけど」


    ギルバート・デュランダルは第二次連合・プラント大戦の後、宇宙要塞メサイアで奇跡的にたった1人、
    生き残った。
    以来色々あったものの、アーサーとその家族が彼の世話をするという形に収まっている。


    フ「ギルバート・デュランダルはラウ・ル・クルーゼと友人関係だったらしいの。だから」

    アリタはアーサー・トラインに育てられたため、アーサーを義父さんと呼び慕っている。

    ア「あの人から、ラウ・ル・クルーゼの話を聞きたいの?」

    逆に、アリタはデュランダルについて良い印象を抱いていなかった。
    かつて世界を混乱に陥れた人物として、ラウ・ル・クルーゼとは比べ物にならないほど有名過ぎるからだ。
    それでも、生まれた時からずっと彼を父だと認識している。

  • 18124/12/29(日) 11:43:13

    フ「『ラウ・ル・クルーゼが今も生きているのか』を知りたいの」

    ア「えっ……ええっ?」

    フ「だってそうでしょ。確かに私は、病院に捨てられていた身だからいつ生まれたのかはっきりとは分からないけど、でも」

    フィールとアリタは、どう見ても同い年くらいだ。
    加えて、フィールは生まれて間もない状態で発見され里親に預けられたので、生まれ年は一応のところ確定している。
    つまりどう推測しても第一次大戦どころか、第二次大戦の後の生まれである。

    フ「教科書通りにパパが死んでちゃ、私は生まれるはずがないわ。もちろん、まだ誰かも分からないママもね。パパの部下や敵だった人じゃなくて『友人』だったらしいギルバート・デュランダルなら、何か知っているかもしれない。だから彼に会わせて、彼と話をさせて」

  • 19124/12/29(日) 11:46:52

    ア「…………君って、まさか」ジーッ

    フ「え? なに?」

    ア「あっ、ううん! 何でもない、そ、それより」


    『ラウ・ル・クルーゼが生きているのかどうか、友人であったギルバート・デュランダルに話を聞きたい』
    フィールの願いの内容を、2人の間で改めてまとめる。


    ア「……無駄だよ。父さんは誰とも話さない。長く介護を受けているし、毎日寝てるか外を眺めているだけ、ずっと無気力状態として心神喪失しているんだ。刑務所じゃなくて家にいるっていうのはそういうことだよ」

  • 20124/12/29(日) 11:48:44

    フ「でも、ちょっと話すくらい」

    ア「そんな仮面着けて押しかけられたら、義母さんがびっくりするし」

    フ「じゃあ、仮面を外すから」スッ

  • 21124/12/29(日) 11:51:15

    ア「……!!」

    フ「? なに、どうしたの変な顔して? 仮面着けてたところ、赤くなってる?」

    ア「…………」

    フ「ちょ、ちょっと。何で急に固まってるのよ。ねえ、ねえってば」

    フィールがアリタの眼前で手を振る。
    だがアリタは心ここにあらずといった様子で、ぼうっと頬を赤くしていた。



    ア「……か、かわいい……!」デヘ

    フ「は?」

  • 22124/12/29(日) 11:52:51

    いきなり、アリタが体をひるがえし、

    ア「よっしゃあ!!」

    フ「はぁ?」

    嬉しそうな表情で思いっきりガッツポーズをする。
    かと思えば飛び跳ねる勢いでまたフィールに向き直り、大口を開けながらフィールの両肩を掴んだ。
    フィールが口元をひきつらせていることなど、まるで気にしていない。

    ア「~~~~っかわいい!!!!」

    フ「え、ちょ」

    ア「君、素顔はそんなに可愛かったのか! いつもメットを着けた姿ばかりモニター越しに見ていたから、気が付かなかったよ!!」ピョンピョン

  • 23124/12/29(日) 11:55:02

    フ「なに、急に」

    ア「そっかぁ、ヤバい子に話しかけられて困ったなぁって思っていたけど、素顔を見たら悪い気はしなしなぁ!」

    フ(もしかして私も、だいぶ変な人に話しかけちゃったのかも……)

    アリタは完全に舞い上がっていた。
    ドン引きするフィールにようやく気付き、ハッとして慌てて一歩引きさがる。

    ア「あっ、うわ、ごめんよぉ! 女の子と話すのに慣れてなくて、つい」バッ

  • 24124/12/29(日) 11:57:08

    アリタは顔を真っ赤にしたまま、照れくさそうに頭を抱えた。
    落ち着かない人だな、とフィールが半目で呆れる。

    ア「ほら、デュランダルの息子ってだけで僕に近づいてくる子なんていないし、そうでなくとも男ばっかの家族で育って、ブリッジも10割男だし……」シュン

    フ「……あのー……で、どうなの? デュランダルに会わせてくれるの、会わせてくれないの?」

    ア「えっ? あっうんオッケー。いいよ好きなだけ会わせてあげる」ケロッ

    フ(やっぱ、やばい奴かも)

    ア「でも、その代わりと言っちゃなんだけど」

  • 25124/12/29(日) 11:58:47

    フ「な、なによ。何か差し出せって言うの」

    フィールは思わず、自身を抱きしめながら相手を睨みつけた。
    だが、アリタは意に介さず恥ずかしそうに頭をかいている。

    ア「ううん、ただ……僕とデート、ぁいやお茶でもしてくれたら、嬉しいなぁ。なんて」

    フ「……お茶?」

    お茶、お茶、成人男性からお茶に誘われる意味。
    フィールの頭の中で様々なイメージが点滅する。


    ドスッ

    ア「あ痛っ!? ちょっ、なんで脇腹叩くの!?」

    フ「馬鹿、騙されないわよ! お茶とか何とかいいながら、変なところに連れてく気でしょ! 身体は差し出さないんだから!!」ドスドス

    ア「変な意味じゃないって! ほんとにお茶するだけ、一緒にカフェでパフェでもつつけたらなって!」ヒィィ

  • 26二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 12:01:08

    このレスは削除されています

  • 27124/12/29(日) 12:01:58

    フ「……本当に、お茶するだけ?」

    ア「本当、本当だって! 僕を信じてほらこの涙目!」

    フ「私が言うのもなんだけど、成人した同僚への誘い文句が、ただのお茶?」

    ア「だから、女の子に慣れてないんだって……」グスッ

    フ「……ふうん……」ジーッ


    フ(女に慣れていない、それで今時『お茶でもいかが』なんて。純情な感じがして、ちょっとかわいいかも?)

  • 28124/12/29(日) 12:03:13

    ア「ど、どうかな?」モジモジ


    フ(それにデュランダルとも話ができるんだし、一回くらいなら付き合ってあげても……)





    イ「おい貴様ら! こんなところでサボりか!? 臨時ミーティングだ!」シュバッ


    ア「うわっ隊長!」


    フ「す、すみませんイザリオ隊長」タタッ

  • 29124/12/29(日) 12:04:16

    突如現れたMS隊の隊長イザリオに呼ばれ、慌てて二人が通路へと飛び出す。

    フ「……さっきの話、いいわよ。一回だけなら、お茶してあげる」コソッ

    ア「え、や、やった」コソッ



    イ「貴様ら何をこそこそ話している! こっちだ、やっとプラント本国に帰国したからな。例のオーブからの出向パイロットをMS隊以外にも紹介する、臨時ミーティングを行う!」

  • 30124/12/29(日) 12:07:23

    ア「オーブからの出向って」

    フ「あの、エンデュミオンの鷹の……!」

    艦が停泊している宇宙港の広い場所で、クルー一同が並ばされる。
    オーブからの出向パイロットは宇宙で途中合流したため、ゆっくり顔合わせをする時間が無かった。
    そのため、アリタはムユリが同じ艦にいると知ってはいたが、会いに行くことができないでいた。

    ア「僕の事、覚えているかな……」ドキドキ

    フ「?」

    フィールが隣に立ったアリタの顔を眺めている内に、ムユリがクルーの前へ姿を現す。

  • 31124/12/29(日) 12:08:47

    そして、


    ム「……アリタちゃん?」


    ア「えっ?」




    ム「ああ、やっぱりアリタちゃんだ! あたしだよ、ムユリ姉ちゃんだよ!!」ダッ


    イ「なっ」


    フ「えっ」


    ア「えっ、わっ、うわわっ!?」



    ムユリは全員の目の前で、アリタに向かって思いっきり抱き着いた。

  • 32124/12/29(日) 12:09:52

    フ「な、ななな……」

    イ「何ィっ!?」

    ム「ひっさしぶりだねぇ! ほら昔はムユリ姉ちゃんって呼んでくれただろ!?」ギュウ

    身長の高いムユリに思いっきり抱き寄せられ、アリタの顔が胸元に埋まる。
    アリタにとって嬉しいシチュエーションだが、とても喜べる状況ではない。

    ア「ム、ムユリさん……ぼ、僕も覚えててくれて嬉しいです、でも……」タハハ

    フ「…………」シラーッ

    アリタがひきつった笑顔で周りを見回すと、案の定、全員の目が点になっている。

    イ「き、き、貴様らーっ! 戦艦の前で、一体何をイチャついているかーっ!」プンプン

  • 33124/12/29(日) 12:11:37

    フ「な、なによ、私にあんなこと言っておいて……普通に女の人からモテてんじゃない!」

    ア「えっあっちょ」

    フ「ちょっと純情でかわいいかもって思ったのに、女に慣れていないって言ったのに! ナンパのための嘘だったのね、信じらんない!」

    ア「それは本当で、いやだからあの」

    ム「ムユリさんだなんてそんな、昔みたいにお姉ちゃんって呼んでちょうだいな」

    ア「乙女心をもてあそんだ罰よ! ぜーったいあんたとお茶なんてしてあげないんだからーっ!」

    イ「いい加減にしろ! 貴様ら全員、甲板掃除だーっ!」プンプン

  • 34124/12/29(日) 12:13:35

    とまあこんな感じで小休憩、お昼ご飯を食べてきます。
    ここまででだいたい6分の1くらいです。

  • 35二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 12:27:27

    新しい子世代だ!続き楽しみ
    フィールちゃんの顔グラ可愛いよね

  • 36124/12/29(日) 14:17:58

    あざます! ぼちぼち再開していきます。
    キリのいいところまで投下します。
    どうでもいいけど、このSSでラウ・ル・クルーゼって書きすぎて昨日夢にクルーゼが出てきました。

  • 37124/12/29(日) 14:20:37

    すでに投下した分にもまあまあ誤字ありますね……特に「ア」と「フ」って字面が似てるせいか、たまに入れ替わってしまう
    まあアとフが入れ替わるくらいなら口調で判別はつくので、誤字があってもガハハ!そういうこともあるか!でスルーしていただけると助かります


    ・ ・ ・

    ム「いやぁ悪かったねぇ! あたしが居たオーブのMS隊は女ばっかだったから、久しぶりに男の子と会ってつい」アッハッハ

    ア「と、いう訳で僕が女の子に慣れていないというのはナンパの口実ではなく本当のことでして……」シュン

    フ「分かったわよ、もういいからさっさと甲板掃除を終わらせるわよ!」シュッシュッ

    フィールとアリタ、それにムユリの3人は他のクルーが解散した後も、騒いだ罰として艦に残り甲板掃除を行っていた。
    今日はこの後家に帰れるはずだったのに、とフィールが口をとがらせる。

  • 38124/12/29(日) 14:22:18

    ム「へぇ、アリタちゃんはガールフレンドの一人もいないのかい? さっきは急に抱き着いて悪かったね」

    ア「あ、いやあれはあれで嬉しかったり……」デヘ

    フ「…………」ジトーッ

    ア「あ! いやいや! 人前で抱き着いちゃだめですよムユリお姉ちゃ……ムユリさん!」アセアセ




    イ「貴様ら、掃除はもういい! 急な任務ができた、降りてこい!」

  • 39124/12/29(日) 14:24:09

    フ「急な任務? なによ、デュランダルについてもう一度落ち着いて話をしたいのに……」

    ム「デュランダル?」

    フ「え? あ、ううん。独り言よ」

    ム「ふぅん…………」ジーッ

    ・ ・ ・

    イザリオに連れられ、三人は宇宙港近くの公園へとやってきた。
    どうやら有名人がやってきて野次馬が増えたため、交通整理の追加人員として呼び出されたようだ。

    イ「ユーチューバー? とかいうのがライブ配信していたところにファンが集まったらしい。そのライブをしている本人も雑踏から抜け出せず困っているようだ、交通の妨げになる前になんとかせねばな」

  • 40124/12/29(日) 14:27:15

    ム「っと、ユーチューバーっていうから誰かと思えば」


    そこにいたのはキラ・ヤマトとラクス・クラインの娘、歌姫きららことキララ・ヤマトであった。



    キ「プラントのみなさ~ん、わたくしのきら☆ライブ配信に集まっていただき、ありがとうございま~す」


    ウォー!


    キララチャーン!


    キ「きらめいと(ファンネーム)の皆さんも、そうでない方も、サインには応じますのでどうか順番に」




    イ「なるほど、あの歌姫サマなら大勢のファンが集まるのも頷ける。それにしても多すぎる気はするが……?」

  • 41124/12/29(日) 14:28:22

    ア「あ、そうだ」ポン

    アリタがフィールに耳打ちしようと顔を近づけたが、フィールは一歩下がってそれを拒否した。
    さらにムユリが興味本位で近づいてきたため、仕方がなくアリタは普通の声量で思いついたことを伝える。

    ア「父さんは基本的に無気力だけど、アーサー義父さん相手にはごくたまにぼそぼそ話したりするんだ。だから義父さん経由なら、ほんの少しだけ話ができるかも」

    フ「そうなの? 頼める?」

    ア「お茶してくれるなら……」デヘ

    フ「はぁ?」ギロリ

    ア「ああ、いや、今のは冗談。やっぱ無理だと思う。クルーゼのことを聞きたいなんて、義父さんは絶対首を縦に振らないよ」

    ム「クルーゼのこと? ……って、クルーゼって誰だい?」

  • 42124/12/29(日) 14:31:33

    フ「ちょっと、話の腰を折らないでよ。隠してることじゃないから言うけど、私は……」


    ・ ・ ・ カクカクシカジカ


    ム「へぇ、親父のライバルの娘ねぇ。そのクルーゼって男のことはよく知らないけど、あたし達が父親から運命を受け継いでるっていう考えは面白いね」

    ア「話を戻すけど、正攻法じゃアーサー義父さんはうんと言わないよ。でも、ご機嫌取りをしたら。一度なら頼みを聞いてくれるかもしれない」

  • 43二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 14:33:53

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  • 44124/12/29(日) 14:34:22

    今更ですが、誰が誰か分からなくなったらア=アーサーとタリアの子(デュランダル息子)、フ=フレイとクルーゼの子、みたいな感じで親の名の頭文字と照らし合わせていただければ分かりやすい……かも?

    --

    それがキララのサインだと、アリタは雑踏を指さした。

    フ「……ファンなの? あのアーサー・トラインが、ユーチューバーの?」

    ア「ああ、きららのサインを渡したら機嫌が良くなってくれるに違いないよ。幸いにして僕もムユリさんも彼女の知り合いだ、貰ってこよう」

    ム「アーサーさん、基本的にずっとご機嫌な人だけどねぇ」

  • 45124/12/29(日) 14:35:28

    イ「おい、人がかなり増えてきたぞ。そこ! サボッていないで人の流れを」



    パァン


    フ「!? 銃声!?」

    イ「全員伏せろ! ザフト兵は群衆事故が起きないよう、避難誘導を――!」

  • 46124/12/29(日) 14:36:07

    キャー!
    ジュウセイ!? イヤー!


    イ「くそっ、出遅れたか! 銃は空に向けて撃たれたようだが……」

    すかさずイザリオは周囲を観察し、撃たれた者がいないことを確認する。

    イ「配置が決まっていない追加人員はあのユーチューバーを救出しに行け、彼女を狙うため引き起こされた混乱かもしれん! 走れ!」

    ア「は、はいーっ!」

    フ「行くしかないわね……! ああもう、人が邪魔で前に進めないわ!」

    ム「背の高いあたしならなんとか進める、2人ともあたしの後ろからついてくるんだ!」ダッ

  • 47124/12/29(日) 14:38:20

    フ「ちょ、ちょっと……なんかユーチューバーの隣に、怪しい奴がいるんじゃない!?」

    フィールが指さす先をすかさずアリタ達が確認する。
    確かにキララの隣には、明らかに逃げ惑う群衆とは違う動きをしている者がいた。

    混乱し辺りを見回りているキララの背へゆっくりと近づくその人物は、顔を隠しているが女性のようだ。
    明らかに旧式のコンパス制服を身にまとっていることから、一見してただの通りすがりではない。
    女性の手には、銃が握られている。


    ム「そこっ、何してるんだい!」ガシッ

    一足先にキララの元へたどり着いたムユリが、銃口を地面へ向けるように女性の手首をつかむ。

  • 48124/12/29(日) 14:40:53

    だが、女性はムユリの姿を見て首を横に振った。

    謎の女性「あなたじゃない……」

    ム「なんだって?」

    途端、ムユリの手が勢いよく振りほどかれる。

    ム「!? なんて力だ、この女っ! キララのファンかい!?」

    キ「ム、ムユリさん……いいえ、このような方はきらめいとではありません、あるはずがありませんわ」

    遅れて到着した2人が、キララを守るように女性の前に立つ。

  • 49124/12/29(日) 14:42:22

    すると、銃を持った女性の動きがぴたりと止まった。

    フ「……?」

    かと思えば、フィールめがけて勢いよく地面を蹴り飛び上がる。
    銃を撃つ体勢ではない。
    フィールはとっさに頭部を守るため腕をクロスし足を踏ん張った。
    だが、女性はフィールへ抱き着くような形で覆いかぶさったため、2人はそのまま地面へと倒れこんだ。

    ア「フィール!」

    アリタはキララの側を離れず、ムユリは女性を引きはがそうとフィールへと近づいた。
    しかし、

    謎の女性「来ないで……!」チャキッ

    女性は身体全体でフィールを抑えたままムユリに銃口を向け、牽制する。

  • 50124/12/29(日) 14:46:29

    ム「フィール……! 抜け出せそうかい!?」

    フ「待って、なんとか……駄目……!」グッ

    フィールがナチュラルであることは、ザフト内では知られていない。
    だがそれほど並外れた力を持つフィールやムユリすら相手にできないほど、謎の女性の格闘能力は高かった。
    訓練を受けているような動きではないのに、筋力に大きな差があるようだ。


    謎の女性「……あなたは、私と一緒に来てもらうわ……」

    フ「あら、雑踏を抜け出すための人質ってこと? 侮られたものね」

    だが、フィールは後ろ手を女性につかまれたまま無理やり立ち上がらせられ、痛みに表情をゆがめる。
    未だに回りには混乱で慌て逃げ惑う人が多く、紛れ込まれたら追いかけるのは難しい。

  • 51124/12/29(日) 14:48:43

    ア「待て! 銃を下ろせ!」


    この群衆に紛れこめば銃を構えている必要もない、そう判断したのだろう。

    女性はアリタの言葉に応えるように、銃を服の中に収めた。




    次の瞬間、



    イ「うおおおおおおーっ!!!!」


    いきなり人の間からイザリオがタックルしてくる可能性を考慮していないとは、やはり訓練を受けていない素人の犯行かもしれない。


    フ「隊長!」

    ム「隊長さん!」

    ア「隊長ぉ~っ!」


    イ「馬鹿者ーっ! 俺に笑顔を向けている暇があったら、確保だ確保ーっ!!!!」プンプン

  • 52124/12/29(日) 14:51:29

    謎の女性「くっ……!」ダッ

    ア「あっ逃げた!」



    イ「逃げられたか……」

    謎の女性は、瞬く間に人込みの中へと消えていく。
    やがて人々の混乱も冷めてきた頃には、女性の姿はすっかり消えてしまっていた。

    ・ ・ ・

    イ「おい、戦闘した者達は治療を受けろ。特にムユリはナチュラルだからな、よく見てもらえ」

    ム「おっと、お優しいこって。ほら、キララも怪我してないか念のため一緒にチェックしてもらったほうがいいよ」

  • 53124/12/29(日) 14:54:44

    あの女性は何者だったのか? キララを狙った犯行だったのか?
    何故、一度の銃声で混乱を起こした後すぐに逃げてしまったのか?

    何も分からないままイザリオが本部へ報告をしている間、公園のベンチへアリタとフィールとムユリ、それにキララが並んで座る。
    疲れただろう、と隊長のおごりで渡された缶ジュースを片手に3人はキララへ事情を聞き取り始めたが、女性についてめぼしい情報は得られなかった。

    キ「はい、あの女性について心当たりはなく……それに、ライブ配信でこんなにも人が集まるとは思っていませんでした。わたくしも、認識の甘いところがありましたわ」シュン

    ア「いやいや、いくら人気のユーチューバーだからって場所の告知もしてないのにあんな人数が集まるなんて、想像する方が難しいよ」

    女性の正体は分からずじまいだが、このまま再び現れないければおそらく『キララを狙ったファンの犯行』ということで収まるだろう。
    キララは予定より早く、両親のいるコロニーへ帰ることになる。

  • 54124/12/29(日) 14:57:19

    フ「……なによ、やっぱり女の子と話すの慣れてそうじゃない」ボソッ

    ア「えっ、あ、いや彼女は年下だし、前からの知り合いで妹みたいな感じっていうか……」アセアセ

    ム「なんだいなんだい、ちょっとからかわれただけで顔赤くしちゃって。かわいいねぇアリタちゃんは」


    オイキサマラー! チャントケガシテナイカミテモラエヨー!


    ア「ムユリさんこそ、からかわないでくださいよお。……ところでフィール、さっきから気になってたんだけど」

  • 55124/12/29(日) 14:59:14


    ア「なんでまた仮面着けてるの?」


    フ「パパが側に居るみたいで、癒されるのよ」フフフ


    ちなみにこの仮面はかつてクルーゼが付けていた仮面、と同ブランドの商品でありクルーゼ本人が使用していたものではない。



    キ「パパ……? その仮面、もしかして貴方はラウ・ル・クルーゼの?」

  • 56124/12/29(日) 15:02:41

    フ「!! あなた、パパのことを知っているの!?」ガバッ

    キ「い、いえ、わたくしはそれほど……ですがわたくしの父や、ムユリさんのお父様が実際にお会いした方だとは、うかがっておりますわ」

    ム「ああそうだよ、クルーゼの情報を知りたいなら、親父に電話でも繋いでやろうか?」

    フ「駄目よ、当時敵だった相手と話したって意味無いわ。だって私は」

    フィールは立ち上がり、振り返って3人を見下ろした。

    フ「ただパパの情報が欲しいんじゃあない、パパが生きているかどうか知りたい……そして会いたいの。私がパパの娘だってことはもうムユリやアリタに会った時に確信したわ、かつてパパの敵だった人に会って、変に困らせたくはないのよ」

    ム「あたし達は今は仲間なんだから、いいじゃないの」ギュ

    フ「ちょ、ちょっと抱き着かないでよ! え? じゃあ肩を組む? そ、それくらいならいいけど……」

  • 57124/12/29(日) 15:05:35

    フ「とにかく。デュランダルから話を聞き出さなくちゃね。でも」

    ム「ギルバート・デュランダルはまともに会話できない状態だし」

    ア「フィールは僕とお茶してくれないし……」シュン



    キ「事情はお察ししましたわ。もしかするとその話、わたくしがお力になれるかもしれません」

    ア「えっ?」

  • 58124/12/29(日) 15:06:47

    当初の予定通りサイン作戦で行くか、コンビニに色紙売ってるかなとか考えている間に、キララは良い方法があると語りだした。


    キ「……先ほどあまりにも多くの人が集まりすぎたのは、わたくしの『ある能力』が原因だと、わたしく自身は思っております。その能力を、今度は助けていただいたお礼として使わせてください」

    フ「ある、能力?」

    キ「はい。軍人である皆様でしたらご存じでしょう、かつて大きな戦いを引き起こした『アコード』の存在を」

  • 59124/12/29(日) 15:07:48

    とまあここいらで小休憩、喉が渇いたのでお茶を飲んできます。
    この辺でだいたい3分の1くらいです。

  • 60124/12/29(日) 16:00:08

    ハートありがとうございます!
    ゆるーく再開していきます。

    --

    アコードの名を聞き、3人がはっと顔を見合わせる。
    クルーゼ、デュランダルに続き世の中を混乱に陥れた第3の存在、アコード。

    その存在は知っていても、結局何をできる人達だったのかを知る者は少ない。


    キ「どうやらわたくしは、僅かながらその力を母から受け継いだようです。しかしまだ母のようにコントロールできず、無意識のうちに道行く人を惹き寄せてしまい……」

  • 61124/12/29(日) 16:01:15

    キ「本当に、皆様にはご迷惑をおかけしました」ペコリ

    ム「いいって。あの女が銃を持って暴れたのは、キララのせいじゃないんだし」

    フ「そうよ。それに原因が分かったのなら、これから改善していけばいいだけよ」


    ア「それで、その能力が役に立つって?」

    キ「ええ。この能力をデュランダル氏に使えば、彼の眠ったままの感情を呼び起こし、再び会話できるようになるかもしれません。今度はコントロールできるようしっかりと意識して正しく使ってみせますわ」

  • 62124/12/29(日) 16:04:32

    キ「もちろん、デュランダル氏が無気力のまま生き続けているのは傷ついた心を守るための本能であり、無理に感情を揺れ動かすべきではない、とも考えられます。しかし、彼はもう長い間アリタさんやアーサーさん、暖かい家族に囲まれて過ごしてきました。きっと今なら、彼の心はまた現実を受け止められるのではないでしょうか」


    ア「いやまあ、そこはいいんだけど」

    フ「それってなんか」

    ム「特定の治療計画とか申請せずにやって良い行為なのかい……?」


    キ「先ほどの隊長さんも『アコードの力については本部に報告しない』とおっしゃってましたし、やがて私の代で途絶える程度の力ですから。さあ、いつデュランダル氏に会いに行きますか?」フフ

  • 63124/12/29(日) 16:07:37

    ア「そうだね、それなら君がプラントに居られる間に……」


    アッアレキララタンジャナイ!?
    イッショニイルノッテデュランダルノ…


    ア「……また通行人が増えてきたし、そろそろ隊長に許可貰って帰ろう。今から皆で、僕の家に行こうよ」

    ・ ・ ・

    幸いなことに、アリタの家がある地区までの移動便は空いており、すぐ乗ることができた。
    どうせ暇だから、とムユリもアリタ達についてくる。

  • 64124/12/29(日) 16:11:57

    道すがら、アリタが隣に座ったフィールへおずおずと話しかけ始める。

    ア「ところで、お茶してくれる件は……」

    フ「さっき一緒に缶ジュース飲んだじゃない」

    ア「うぅ、ひどい」シュン

    フ「ああもう、分かったわよ。そのうちカフェにでも行ってあげるから。それより、パパについてデュランダルから話を聞くのが楽しみだわ」

    ア「……そんなに、楽しみ?」

    フ「もちろん」

    ア「でも、今更だけど……悪いことで有名になった人の子どもになるってそんな、嬉しいもんでもないだろ? その明るさがうらやましいような、変人だと思うような……」

  • 65124/12/29(日) 16:15:28

    フ「アリタはギルバート・デュランダルの息子って言われるのが嫌、って言っていたわね」

    ア「うん。分かるだろ、さっきの公園でだってほとんどの人はキララちゃんを見ていたけど、何人かは僕の顔を見ていた。生まれてからずっと、いや、生まれる前から皆に知られてるようなもんだ。有名人の息子って、つらいよ」

    フ「生まれる前から……ああ、そうね。あんたの場合は、人工子宮の件が……」

    フィールの頭の中に、自分が生まれた頃のニュースが思い浮かぶ。

    ファウンデーション王国とコンパスの戦いから数年後、プラントでは人口減対策として『新しい人工子宮』の試験運用が秘密裏に開始された。

  • 66124/12/29(日) 16:17:21

    コーディネイターの出生率が減少しているのは様々な原因が絡み合ってのことだが、せめて課題解決の糸口になれればという狙いから、人工子宮はプラント政府主導で再開発された。

    計画が一般公開されなかったのはまだ人工子宮の成功率が低く、いわゆる死産の可能性が高かったからだ。
    『計画を知る立場からの立候補者』や、『卵子や精子を冷凍保存していた故人のうち遺族の許可を得られた者』から得た受精卵等で試験されていたが、成功例はたったの2例だった。

    そして、その2例のみで人工子宮の研究開発は停止された。


    ア「君も知っての通り、人工子宮の開発がストップした理由は2つある。一つは、成功例のうち片方の新生児が、研究所を襲ったテロリストに誘拐され行方不明となってしまったから。もう一つは……」

  • 67124/12/29(日) 16:19:22

    フ「……残った『成功例』であるアリタがギルバート・デュランダルの息子だとマスコミに漏れて、世間からバッシングを受けたから、よね」

    卵子凍結をしていた故タリア・グラディスと、ギルバート・デュランダルの息子としてアリタの存在は世界中に報道された。
    政治犯の息子さえ生み出してしまう人工子宮、というテロップが連日テレビに映っていたと当時の記録が残っている。

    ア「そう、遺伝子提供者であるアーサー義父さんは最初『アーサー・トラインとタリア・グラディス』の配偶子だと偽って提供して、僕が生まれた後になって実は『ギルバート・デュランダルとタリア・グラディス』のものだったと公表したんだ」

    フ「アーサー・トラインは当時、デュランダルに再び生きる希望を与えたかった、後になって良心の呵責に耐えきれず事実を公表した、って言ってたとか聞いたけど……」

    ア「うん。何の法や条例に引っかかるのかは分からないけど、とにかく紆余曲折の末、義父さんは裁かれなかった。そんなアーサー義父さんも今年はプラント議長だし、肩身の狭い僕には女性との出会いが無いよ」ハァ

  • 68124/12/29(日) 16:27:44

    ア「だから君の明るさが、少しだけうらやましい。でもね、そんな僕にも生きる希望があるんだ」

    フ「……?」

    ア「僕と同じ時に生まれた、もう一人の『成功例』。僕も彼女を、ずっと探しているんだ」

    もう一人の成功例である新生児の女の子は、テロリストに誘拐された後、見つかることはなかった。
    また提供された遺伝子データ自体がテロリストによって改ざんされたものだったため、全くの身元不明児であった。

    見つかるとすれば彼女自身が名乗り出て、出生当時の遺伝子データと照合されるしか方法はないだろう。

    ア「生きているかも分からないけどね。でも生きてたら、きっと彼女も僕と同じくらい辛い思いをしながら、でも、頑張って生きてるんじゃないかって」

  • 69124/12/29(日) 16:30:22

    ア「もしかして、それが君だったりして」

    フ「まさか、どんな偶然よ? そんなの砂粒みたいな確率じゃない」

    ム「…………」フフッ

    キ「Zzz……」ムニャムニャ

    ・ ・ ・

    そうして一向がトライン家に着いた頃には、プラント時間でもう夕方となっていた。

  • 70124/12/29(日) 16:34:54

    キ「この辺りが、アリタさんの故郷なのですね」

    ム「へぇ、初めて来たけどいい街じゃないの……」

    フ「思ったより普通の家ね、今日はトライン議長はいらっしゃるの?」

    ア「ううん、アーサー義父さんは任期中ほとんど帰ってこないよ。ウィル兄さん一家も今は地球出張中だし、義母さんはまだ仕事で帰ってないかも? だから今は父さん以外誰も」



    メ「あっおかえ……」ガチャ

  • 71124/12/29(日) 16:37:53

    メ「ええーっ!? 女の人!?」


    ア「ええっ!? メイサン!?」


    メ「ええーっ!? ムユリちゃんとキララちゃん!?」


    ア「ええーっ!?」


    メ「ええーっ!?」


    ア・メ「「ええーっ!?!?」」

    ※二人合わせてデシベル量dice1d200=12 (12)



    フ(うっさ……)

  • 72124/12/29(日) 16:39:30

    12db=木の葉のふれあう音以下
    声張れや!!

    --

    ア「なんでメイサンが家に……」

    メ「今日はリモートワーク! ねえねえ何で女の人と一緒にいるの!? 彼女!?」

    ア「説明すると長くなるんだよぉ、彼女かどうかは……んふふ」

    ドスッ

    ア「あ痛っ!? ちょっ、脇腹叩かないで!?」

    フ「なぁ~にが『んふふ』よ! 家族相手に見栄張ってんじゃないわ! さっさと行くわよ!」

    ム「メイサンちゃんも久しぶりだねぇ~! 後で可愛がってあげるから、ちょっーとお邪魔するよ」スタスタ

    キ「ふふ、なんだかにぎやかですわね」スタスタ

  • 73124/12/29(日) 16:43:48

    メイサンをリビングに残し、一同はある部屋へと集まった。

    ア「ここが父さんの部屋だけど」ガチャ

    フ「……!」

    暗い部屋でベッドに横たわるギルバート・デュランダルを見て、フィールは思わず目を丸くした。
    ほとんど寝てばかりの壮年期だというのに、デュランダルの顔に著しい老いが見られないからだ。

    フ「……貴方が……」

    それはアリタの家族が、非常に良く世話をしている証拠であった。
    目を閉じたままのデュランダルの額に、キララが小さな手を乗せる。

  • 74124/12/29(日) 16:49:49

    キ「それでは、始めます」

    緊張のあまり、その言葉に誰も答えなかった。
    先ほどまでの騒がしさは嘘のように、部屋は静まり返っている。


    キ「……良いですね? アリタさん」

    ア「…………」コクリ

    アリタが頷くと同時に、キララが深く息を吸う。

  • 75124/12/29(日) 16:53:03

    キ「ギルバート・デュランダルさん。聞こえますか……」

    ア「…………」

    キ「わたくしはキラ・ヤマトの娘、キララ・ヤマトです。そして隣に居るのが貴方の息子の……」


    その時。
    ギルバート・デュランダルの目が、はっきりと開かれた。

  • 76124/12/29(日) 16:56:26

    フ「……ッ!」

    そしてデュランダルは、自らの力で上半身を起こし、辺りを見渡した。

    ここまでは、心を失っていた今まででも見られた行動だ。
    だが寝起きのおじさんを若者4人で囲むという異様な状況。
    もしキララの手によって少しでも感情が揺り動かされていたら、何らかのリアクションがあるに違いない。

    はたしてデュランダルは言葉を発するのか。
    全員の視線が、デュランダルの口元に集まる。

  • 77124/12/29(日) 16:59:55

    デュ「……そうか」

    ア「あっ」

    デュ「彼の娘が、私を……」


    デュランダルと、アリタの視線がぶつかる。

    デュ「……アリタか」

    ア「!! ……父さんが、僕の、名前を……!」

  • 78124/12/29(日) 17:01:45

    フ「……ふふ」

    フィールはアリタの様子を見て、壁際へと下がった。
    クルーゼについて聞くのは後にするから、まずは親子の会話を楽しめと目で伝える。
    ぽん、とムユリがアリタの背中を押す。

    ム「ほらほら、抱き着いちゃいなよアリタちゃん」

    ア「あ、えっと、父さ……」

    デュ「アリタ」

    アリタはデュランダルに両肩を掴まれ、顔を赤くした。
    父親と言われた男はいったい、息子へ何を語りかけるのか。
    大きくなったな、とかいつもありがとう、とかそんな言葉をくれるんじゃないか。
    どうしても、そんな都合のいいことばかり想像してしまう。

  • 79124/12/29(日) 17:04:28

    だが。

    デュ「もう、いいんだ」

    ア「えっ?」

    デュ「すべて分かっている。……もう、気を使う必要は無い」

    デュランダルの手が、アリタの頬を弱弱しく撫でる。



    デュ「君は私の息子ではない。だからもう嘘はいいと、アーサーに伝えてくれ」

  • 80124/12/29(日) 17:05:18

    そんなこんなで中途半端なところですが小休憩、日課のリングフィットアドベンチャーをやってきます。
    今のところで半分のちょっと手前くらいです。

  • 81二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 17:21:24

    誘拐された片割れの子はきっとそうなんだろうなぁ
    色々謎と種明かしがあって楽しい

  • 82124/12/29(日) 18:40:19

    あざます! ご飯&お風呂が炊けるまでほんのちょっとだけ投下します

    --


    ア「…………」

    フ「アリタが……」

    ム「デュランダルの息子じゃない、って」


    ア「あ、ああ」

    アリタは恐ろしいものから逃れるように、一、二歩後ずさった。
    すぐに背後にいたムユリにぶつかり、怯えた顔で振り返る。

  • 83124/12/29(日) 18:42:28

    以前から、フィールは何故ギルバート・デュランダルがあれほど世界を混乱させられたのかが不思議だった。
    だが、今なら分かる。
    彼の声は、あらゆることが正しいと信じ込ませる力がある。

    だからといって、はいそうですかといきなり受け入れられるものではないが。

    ア「嘘だ、嘘だっ!」

    突然、アリタは取り乱し叫んだ。

    フ「アリタ!」

  • 84124/12/29(日) 18:43:58

    ア「何だよ急に、僕の名前を呼んだと思ったら息子じゃないって!! それが初めて親子でやる会話なのか!?」

    アリタがムユリを押しのけ、部屋から飛び出していく。
    慌てて、残りの3人もアリタを追いかけた。
    そのため、デュランダルは1人部屋に残される形となる。

    デュ「…………」

  • 85124/12/29(日) 18:47:23

    アリタは、振り返らずにまっすぐリビングへと駆け込んだ。

    メ「えっ、えっえっ? 何々急に」

    リビングで仕事をしていたメイサンを他所に、アリタが思いっきりクッションを壁に投げつける。
    そして顔からソファに突っ伏した。

    そこに、フィールとムユリとキララが追いかけてくる。

    メ「えっ、ええーっ? 何があったの、全員にフラれた?」

    ム「いや、ちょっとややこしい事情があってね」


    ア「……父さんが、僕は父さんの息子じゃないって……」ボソッ

  • 86124/12/29(日) 18:50:21

    メ「えぇ?」

    アリタがソファに突っ伏したまま、もごもごと、先ほどのデュランダルの言葉を繰り返す。

    ア「……君は私の息子ではない。だからもう嘘はいいと、アーサーに伝えてくれ……って……」

    メ「そんな、おじさんと会話できたの?」

    何故、デュランダルはそんなことを言ったのか。
    初めての会話がこれか? とアリタの拳がソファを叩く。

    メ「じゃ、じゃあ」

    お前は一体誰の子なんだ、と言いかけてメイサンは言葉を飲み込んだ。

  • 87124/12/29(日) 18:57:30

    フ「…………」

    なんだかクルーゼの話を聞くどころではなくなってしまったな、と思いながらフィールは小さく息を吐いた。
    アリタの背中に、ムユリとキララが手を置く。

    ム「アリタちゃん、何がそんなにショックだったんだい」

    キ「息子ではないと、言われたことですか? しかしそれは、真実かどうかはまだ分かりませんよ」

    メ「そうだよ。寝起きのおじさんに言われただけだろ? 寝ぼけていただけかも……それにアリタが誰の息子だったとしても、ぼくらが家族なことには変わりないだろ?」

    ア「……でも」グスッ

    アリタの表情は見えないが、声色からして泣き出しているようだ。

  • 88124/12/29(日) 19:01:06

    ア「今まで、ずっと、ずっと……デュランダルの息子として、生きてきたから……」ズビッ

    メ「え?」


    フ「彼の言葉が真実かどうかはともかく、彼自身から親子関係を否定されたのがショックだったんでしょ」

    ア「…………」ブピー

    ソファに顔をうずめたまま、アリタが頷くように頭を動かす。

  • 89124/12/29(日) 19:04:54

    ア「僕は、デュランダルの息子だから……デュランダルの息子が、僕だから……今更、息子じゃないなんて」ズビビ

    ギルバート・デュランダルの息子でない自分が想像できない。
    生きられない。アリタはそう嗚咽交じりに呟いた。

    ア「もしかして、血のつながりが無いのか? だとしたら、僕は、僕はどうしたら」ウェェ


    フ「なら、それでいいじゃない」

    ア「えっ?」

  • 90124/12/29(日) 19:08:23

    フ「血が繋がっていないから何よ。さっきそこの、あんたの弟? も言ったでしょ」

    アリタが誰の息子だったとしても、家族なことには変わりないと。

    フ「あんたは生まれてからずーっと同じ家で、ギルバート・デュランダルの家族でいたんだから。これまでも、これからもずっとデュランダルの息子として生きる権利はあるわ。この宇宙で誰よりもね」

    ア「……でも、父さんは僕を否定して……」ウェェ

    フ「ならもう一度、あんたが否定し返しなさい。親が子を選ぶなら、子だって親の子を名乗るか名乗らないか、選べるのよ」

    うんうん、と隣にいたキララも頷いた。

    キ「自分が何者なのか、それを決めるのは遺伝子でも、家系図でもありません。あなた自身です。そうでしょう? アリタさん」

  • 91124/12/29(日) 19:11:23

    フ「あんたがこれからも、ギルバート・デュランダルの息子っていう辛くて面倒くさい舞台の主役でいたいなら、そうしたらいいのよ。私だって」



    フ「パパの娘だと自覚したきっかけは、血の繋がりかもしれないけれど。たとえこの先血の繋がりが否定されても、何を知ったとて、何を手にしたとても、私はこれからもずっとラウ・ル・クルーゼの娘フィール・ル・クルーゼよ」


    ア「…………」


    目と頬を真っ赤にしたまま、アリタはゆっくりと顔を上げた。

    ばつの悪そうな表情で、上目遣いにフィールを見る。

  • 92124/12/29(日) 19:12:34

    フ「機嫌、治った?」

    ア「…………お茶してくれたら」グスッ

    フ「あら、結構元気そうね」

    ム「お姉ちゃんが慰めてあげよっか?」ギュウ

    メ「ああっ! アリタめ、慰められついでにムユリちゃんから抱きしめられるなんてズルいぞ! このラッキースケベ!」アハハ

    キ「ふふ、ひとまず皆さんに笑顔が戻りましたね」

  • 93124/12/29(日) 19:13:54

    メ「……でも、本当にどういうこと? アリタがギルおじの息子じゃないって。というか、おじさんが喋ったの? ふぅん、キララちゃんの能力かぁ。とにかくもう一度おじさんに話を聞きに行こうよ」

    もしかすると、デュランダルの嘘かもしれない(なんでそんな嘘をつくのかは知らないけど)。
    もしくは本当に寝ぼけていたか。
    メイサンの想像はどれもパッとしないが、もう一度話を聞きに行くというのはアリタも賛成した。

    フ「そうね。それに今度こそ、私とも話してもらわなくちゃ」

    そうして再び、今度はメイサンも交えてデュランダルの部屋へと戻ったが、


    ア「えっ」

    メ「えっ」


    ギルバート・デュランダルは姿を消していた。

  • 94124/12/29(日) 19:14:51

    ア「…………」
    メ「…………」

    窓が開いたままになっており、そこから外へ出ていったとすぐに分かる。


    ア・メ「「…………ええーっ!!!!」」


    そして、その日ギルバート・デュランダルが見つかることはなかった。

  • 95124/12/29(日) 19:15:59

    とまあここいらでキリがいい&ご飯タイムなので小休憩
    今で丁度半分くらいです
    本日は多分寝る前にあとちょっとだけ投下できるかな?

  • 96124/12/29(日) 22:26:29

    寝る前にちょっとだけ投下していきます
    アリタはアーサーのそそっかしさとタリアの感情を優先してしまう部分を、フィールはクルーゼの視野とフレイの行動力、あとレイの物をはっきり言う性格を受け継いでいるイメージです

  • 97124/12/29(日) 22:27:45

    ・ ・ ・

    次の日の朝にはもう、ニュースはデュランダル失踪の件でもちきりだった。
    一人で動ける状態ではないから現議長の家で養生しているはずだったのに、どこへ?
    彼の意思で失踪したのか? 誰かに略取されたのか?
    今、彼は無事でいるのか? デスティニープランの再現を目論む組織と合流しているのでは?
    世界は再び、混乱に陥るのではないか?

    アサ「はい。そのことを今確認中でして。……ええ、今は報告を待っている状態であり……」

    ・ ・ ・

    メ「アーサー父さん、朝のテレビどのチャンネルにも出てるね」

    ア「…………」ポケーッ


    メイ「ほらほら二人とも、テレビばっかり見てないで早く朝ごはん食べて。アーサーさんなら大丈夫だから」ピッ

  • 98124/12/29(日) 22:32:36

    昨日デュランダルから言われた言葉について、アリタもメイサンもメイリンには話していない。
    メイリンは何も知らない可能性があるし、訳を知っているであろうアーサーやウィリアムが家に帰ってきてから落ち着いて話しよう、とまとまったからだ。

    あの後フィールとムユリは寮に帰り、キララはホテルに泊まってから朝の便で両親のいるコロニーへと発った。
    アーサーへ『デュランダルがいなくなった』と連絡した際は軽くパニックになっていたけど、報道規制が間に合わないとは。
    ザフトの人員不足も極まっているなぁ、とメイサンはトーストを齧りながら呟いた。

    メ「時差があるとはいえ、地球でも報道されてる頃かなぁ」モグモグ

    ア「…………」ポケーッ

    メ「そろそろウィル兄さんから電話かかってきそう。あとシンさん辺りからも」サクサク

    ウィリアムは今、妻や息子達と共に地球に出張している。
    ウィリアムはアリタを溺愛しているため、もし昨日この場に居ればデュランダルに怒鳴り込み、さらなる大騒ぎへと発展していただろう。

  • 99124/12/29(日) 22:36:05

    ア「…………」ポケーッ

    メ「だめだ、完全にアリタから魂が抜けてる」ムシャムシャ

    アリタは、ショックで開いた口がふさがらなくなっていた。
    加えて、今朝は自宅から出るなと命令が下っている。
    デュランダルが失踪した今、アリタを動かすのはややこしいとの判断なのだろう。

    メ「おーい、アリタ。しっかりしてくれよぉ、お前の分もトースト食べちゃうぞ」ゴクゴク



    イ「ほう? 朝から呆けていられるほど、元気そうでなによりだな」

  • 100124/12/29(日) 22:37:04

    ア「えっ」


    メ「えっ」


    ア・メ「「ええーっ! なんでイザリオ隊長がここに!?!?」」


    イ「やかましいっ!! ご母堂が驚いていらっしゃるだろうが!! アリタを迎えに来たに決まっているだろう!?!?」

    ※3人合わせてデシベル量dice1d500=275 (275)




    メイ「あっイザリオ君いらっしゃい~、朝ごはん食べてく?」ポテポテ


    イ「ありがとうございます。しかしお構いなく、もう済ませてきましたから」

  • 101124/12/29(日) 22:41:39

    ア「えっ、じ、自分を迎えに……?」

    イ「ああそうだ、艦長に代わり特別任務を言い渡しに来た。昨日の面子も一緒だ」

    イザリオが後ろを指さすと、背後からフィールとムユリがひょいっと顔を出した。

    ア「2人とも……!」

    ム「やぁ、昨日は大変だったね」

    フ「なによ、私より隊長の顔見たほうが元気出てるんじゃない。隊長がわざわざ本部に頭を下げて任務を作ってくれたのよ、良かったわね」フフ

  • 102124/12/29(日) 22:42:58

    イ「ギルバート・デュランダルを探しに行く。無論俺達だけではない、今はザフトもコンパスも手が空いている者は全員駆り出されている状態だ。本来俺はフィールやムユリと3人班で動く予定だったが、父上に頼みアリタの同行許可を取った」

    ア「し、しかし自分はデュランダルの息子? ゆえに、今動くのは……それにイザリオ隊長も、お父上のコネを使うのはあれほど嫌っていたのに」


    イ「気にするな。コネを使っても気にならないくらい、俺の実績が重なってきたところだ。それに俺とお前は普段持ち場こそ違うが、父親の愚痴を言い合ったこともあったな。お前の気持ちは分かる、今は誰よりもギルバート・デュランダルを探しに行きたいんだろう?」


    ア「隊長……!」

    フ「隊長!」

    ム「隊長さん」フフッ

    メ「ひゅぅ~! ジュール隊長素敵~!」ヒューヒュー

  • 103124/12/29(日) 22:44:06

    イ「からかうな! 言っておくが、様々な可能性を考慮し単独行動はできないからな!」

    フ「そういう訳だから、ほら早く立って。……私だって、ギルバート・デュランダルがいなくなられちゃ困るし」コソッ

    ア「フィール……」

    フ「次会った時は、今度こそパパの行方を聞くわ。あんたももう一度ちゃんと話がしたいんでしょ。本当に早く終わらせたいものね、さ、お互いに力を尽くさなくちゃ」



    イ「行くぞ、俺達の探す場所はプラントの外だ!」ダッ

  • 104124/12/29(日) 22:48:22

    ア「えぇっ?」

    イ「ギルバート・デュランダルが行きそうな場所、ということで各班割り振られたからな。ギルバート・デュランダルは遺伝子研究の専門家だっただろう? だから、当時のコロニー・メンデルとは違うが」

    ・ ・ ・

    フ「同じ座標に再建された、『ネオメンデル』を捜索するって訳ね」

    ム「とはいえ、かなり広いから探すのは骨が折れそうだわねぇ」

  • 105124/12/29(日) 22:49:36

    とまあこんな所で本日の投下はここまで
    明日は朝起きたタイミングでまた残りを投下していきます。

  • 106二次元好きの匿名さん24/12/29(日) 23:31:15

    乙でした!

  • 107124/12/30(月) 09:06:48

    あざます! またゆるーく投下していきます
    明日は投下できるか分からないので、なるべく本日中に終えらせたいと思います。

    --

    一同は、かつてコロニー「メンデル」があった場所に再建されたコロニー「ネオ・メンデル」にたどり着いた。
    度重なるテロによりバラバラになっていた研究者たちが再集結し、遺伝子研究を中心に、あらゆる研究施設が集まった学術研究コロニーである。
    道行く研修者達を眺めながら、いくらメンデルと同じ座標に再建されたからって実質違うコロニーだしデュランダルは来てるかなぁ、引っ越し前の家に帰っちゃうペットロボットじゃないんだから、とアリタ達は口々に話していた。


    イ「俺は到着報告をしてくるから、お前達はまず……あのでかい建物の持ち主に話を聞きに行ってくれ」ダッ

    フ「『遺伝子研究博物館』? 研究所じゃなく、観光客にも一般公開されている建物のようね」

    ム「ああ、ここなら前に来たことがあるよ。それに、ここはきっとあの子が」

  • 108124/12/30(月) 09:11:27


    キ「まあまあ皆さん! 昨日ぶりですわね、お会いできてうれしいですわ」


    博物館に足を踏み入れたアリタとフィール、ムユリの前にに現れたのは、昨日会ったキララ・ヤマトだ。

    どういうこと? とフィールが首をかしげると、キララは嬉しそうに豪奢なエントランスホールで両手を広げた。


    キ「この博物館は、わたくしの父と母が建てたものですわ。今はわたくしの兄が館長を務めていて、今日は父や母と共にここに来ておりました」


    ア「へーっ、偶然だね」


    キ「偶然……とも言い切れませんわ。ギルバート・デュランダル氏が出奔してまで向かう場所と言えばコロニーメンデル、もといネオ・メンデルと考えるのはあなた方だけではないようですから」

  • 109124/12/30(月) 09:16:38

    キ「皆さん情報が早いもので、今日は昨日に比べ来館者数200%割増ですわ」

    ア「また変な人が紛れ込まないよう、警備は厳にね」

    キ「ええ、もちろん」

    ・ ・ ・

    ム「うん? フィール、一体何を見ているんだい?」

    フ「この博物館がどうして作られたのか、の解説パネルよ。へぇ、下手に研究を秘匿して色んな組織から狙われるより、開示できるものは展示して、生まれ故郷に対する後ろ暗い印象を払拭したいと思い博物館を建てた……ってキラ・ヤマトの言葉が書いてあるわ。原稿を作ったのは別の人かもしれないけど」

  • 110124/12/30(月) 09:22:37

    フ「それでこのエントランス横に、かつてのメンデルの歴史を展示しているのね」

    ふと、フィールの目にある人物のポートレート写真が留まった、
    かつて遺伝子研究に多額の出資を行った人物、アル・ダ・フラガの肖像との説明が付いている。


    フ「……この人、何だか……すごく気になるような……?」

    ム「ああ、そりゃあたしの祖父にあたる人物だよ。あたしが生まれるずっと前に亡くなったらしいけどね」

  • 111124/12/30(月) 09:28:07

    ム「目元とかあたしに似てるだろ?」

    フ「そうね、それで気になったのかも?」



    キラ「いや、彼は君と関係のある人物だよ。……多分ね」

    フ「え?」

  • 112124/12/30(月) 09:34:11

    一方、アリタとキララは少し離れた場所で別の展示に注目していた。

    キ「お仕事なさらなくてよろしいんですか?」

    ア「まぁまぁ、これだけ見たくて」

    アリタが指さしたのは、人工子宮の歴史の解説パネルだ。

    ア「……僕が生まれた時はまだこのネオ・メンデルは無かったけど、でもその時の研究データはネオ・メンデルに保管されているんだよね」

    もちろん、アリタと同じ時に生まれたもう一人の『成功例』のデータは、行方不明となる直前までで途切れている。

  • 113124/12/30(月) 09:44:24

    ア「いつか、このネオ・メンデルには行ってみたいと思っていたんだ。仕事仕事でなかなか行く機会が無かったけど、まさか仕事で来ることになるなんてね」

    アリタは目を閉じて、今までもう一人の『成功例』を探すために行ってきた様々な事を思い返した。

    当時の研究者達は、プライバシーの保護や研究管理のため、と言って提供された遺伝子データを含む研究内容の開示を断った。
    元々成功例の低い実験だった上、結果的に身元不明の遺伝子データさえ使用してしまったこともあり、世間からのバッシングを避けたかったのだろうとアーサーは言っていた。
    だがそれでもマスコミは『人工子宮は政治犯の息子さえ生み出してしまう研究だ』とフューチャーし、結局研究はバッシングされ、人工子宮の開発は止まってしまった。

    アリタがある程度成長した後、当時の研究内容にアクセスしようにもデータごと研究チームがバラバラになっており、運よく会えた数人の関係者も「公表すべきことではない」「情報が錯綜しよく分からない」としてもう一人の『成功例』の話を語らなかった。
    やがてアーサーも、研究者でない者がこれ以上情報を求めるべきではないと協力を渋るようになり、アリタも反抗期を迎える頃にはアーサーを頼らなくなった。

  • 114124/12/30(月) 09:49:38

    いくら人工子宮で生まれた者の一人とはいえ、ただの子どもにかつての研究内容を調べられるはずもなかった。
    だが今はもう大人になり、そして遺伝子研究のあらゆるデータはネオ・メンデルに集まっている。

    ア「これを機にネオ・メンデルの偉い人と仲良くなって、当時の研究について調べてもらうってのもアリだなぁ」ウンウン


    フ「ちょ、ちょっとアリタ! ぼーっとしてないでこっち来てよ!」ダッ

    ア「へっ? な、なにが……うわっ!?」グイッ

  • 115124/12/30(月) 09:59:30

    フィールは突然、アリタの腕を抱きしめるような形で引き寄せた。
    見れば、フィールの後ろから男性と、ムユリが慌てて追いかけてきている。

    フ「あのおじさん、いきなり私に向かって『君のことは知ってるよ~』なんて話しかけてきたの! きっとヘンタイよ!」

    ア「えっ、あの、あれ」

    フ「民間人をぶっ飛ばすわけにもいかないし、ほら、彼氏のフリでもしてよ!」ギュウ

    ア「えぇ~っ? っていうか、あの人は」

    フ「ああもう、ふにゃふにゃしてんじゃないわよ! いいわ、それならムユリに彼女のフリでも……」



    キ「あら、お父様」

    フ「へっ? お、お父様?」キョトン

  • 116124/12/30(月) 10:09:22

    フ「す、すみませんでした! 私ったらすっかり、勘違いしてしまって……!」

    キラ「いや、僕もいきなり背後から話しかけてしまったから……気にしないで」ハハ

    話しかけてきた人物、キラ・ヤマトへフィールは何度も頭を下げた。
    しかし、フィールは不思議に思い首をひねる。

    フ「……私のことを知っている、って?」

    キ「すみません、勝手な事とは思いつつも、わたくしから父へフィールさんについて伝えさせていただいたのです。貴方が」

  • 117124/12/30(月) 10:13:09

    キ「ラウ・ル・クルーゼの娘だと」

    フ「ああ、いいわよそんなこと。隠している話でもないし」


    キラ「そのことで、僕からフィールさんに聞きたいことがあるんだ。少し、いいかな?」

    ・ ・ ・

    キラに連れられ、アリタ達4人は隣の研究棟にある、薄暗い研究室へと足を運んだ。
    元々隊長からは博物館の持ち主に接触しろと言われていたし、まあサボリではないだろう……と判断したからだ。

    フィールには何をする部屋なのかまったく分からなかったが、キララがこっそりここは『血縁関係の有無を判別する鑑定ができる』場所だと説明を加えた。

  • 118124/12/30(月) 10:19:24

    キラ「それで、君が」

    ラウ・ル・クルーゼの娘なんだね、とキラがフィールと目を合わせる。

    フ「え、えぇ」

    キラ「……うん。君は『そう』なんだと、僕も思う。ごめんね、お仕事の邪魔をして。デュランダル元議長の行方はこっちでも探ってるから、少しだけ僕の質問に付き合ってもらってもいいかな」

    キラの物腰は柔らかだというのに、アリタや他の人が口をはさむ隙が無い。
    キラはある物をフィールに差し出した。
    1枚の写真だ。

    フ「これは……!」

  • 119124/12/30(月) 10:27:46

    キラ「20年以上前に撮影された、ラウ・ル・クルーゼの写真だよ。当時クルーゼ隊が撮影したらしいんだ、もし欲しいならあげるよ」

    フ「いいんですか!? ありがとうございます、いただきます!!」ルンルン

    でも、とフィールが写真を眺め困ったような顔になる。

    フ「キラ・ヤマトさん。貴方はパパ、じゃなくてええっと、私の父の……私の父を撃った方なんですよね? どうしてこの写真を」

    キラ「やっぱり、それは知ってるんだ」

    もうずっと前のことだから。忘れられないけど、とキラが微笑む。

  • 120124/12/30(月) 10:34:41

    キラ「この写真に写ってるのと同じ、彼のマスクを持っているんだって? 見せてもらっても、いい?」


    フ「え、えぇ。これです」スッ



    キラ「うわっ」

  • 121124/12/30(月) 10:46:13

    キラ「君は、自分がラウ・ル・クルーゼの娘だと、ずっと公表しているの?」


    フ「いえ。確信したのはつい先日ですから。ですが、隠すようなことでもないと思っています」


    キラ「……君もアリタと交流しているなら分かると思うけど、大変なことで有名になった人を父親だと呼ぶのは、それこそ大変なことだよ」



    フィールが仮面を外し間近でキラの顔を覗き込むと、キラは少し驚いたような顔をして顔を背けた。


    キラ「僕は彼、ラウ・ル・クルーゼがどのような人生を歩んでいたのか、実を言うとよく知らない。妻にあたる人がいたのかも、君という娘がいたということも……けど、彼が『命を懸けてまでしたかったこと』については僕も知っている」

  • 122124/12/30(月) 10:49:15

    キラ「彼自身の口から、聞いたんだ。ううん、分かったつもりでいるだけで本当は何も理解していないのかもしれない。でも、彼自身はもういないから、確かめることもできない。……だから君が彼の娘だというのなら、君に確かめなくちゃならない」

    フ「…………」

    キラ「君は彼の憎悪を知った上で、本当に彼の娘でありたいと思うの? そして彼の願った『世界の滅亡』を、父親に代わって君が達成するつもりでいるの?」



    フ「えっ、パパ、世界の滅亡を望んでいたんですか?」

    キラ「えっ?」

    フ「えっ?」

  • 123124/12/30(月) 10:56:34

    うん? とフィールとキラが揃って首をかしげる。
    どうにも、話の真ん中がすれ違っている。

    ア「あのぉ~、キラさん。補足しますとね」ヒョイッ

    この人、世間一般で調べられる範疇のクルーゼ情報しか知りませんよ。
    ついでに前々からクルーゼのファンです。
    と言われ、キラの顔から一気に緊張が抜ける。

    キラ「じゃあこの子、アカデミーで習った内容だけでクルーゼのファンをやってて、娘を自称していたの?」

    フィールはキラの目の前で、先ほど見せられた写真を大事そうに抱きしめていた。
    その表情に、陰りは無い。

  • 124124/12/30(月) 11:03:02

    キラ「な、なんだ。びっくりした、彼の野望を受け継ぐ人が現れたんだと思って、てっきり……それなら昨日、慌ててムウさんに連絡することなかったな」

    ム「えっ、親z……父さんと連絡をしていたんですか?」

    キラ「だってラウ・ル・クルーゼの娘だなんて、もしまたクルーゼ本人みたいに世界を滅ぼすとかいいだしたらどうしようって」

    ム「父さんは、フィールについて何て?」

    キラ「ムウさんも、ムユリと感応しあったならきっと本物のクルーゼの娘だろうって言ってたよ。……ああでも後で叱られちゃうかも、ラウ・ル・クルーゼが世界の滅亡を望んでいたこと、知らないなら言わない方が良かっただろうし」

    フ「世界を滅ぼすだなんて、パパはどうしてそんなことを……」

  • 125124/12/30(月) 11:10:21

    キラ「知りたい? 彼がどうして世界の滅亡を望んだか。一応ムウさんからは、言ってもいいって許可は貰っているけど」

    ム「? どうしてそこで、父さんの許可を?」

    フ「……私、ラウ・ル・クルーゼは生きていると思っています。だからいつか彼に会って色んな話を聞きたい、父さんの友人であったデュランダルやその息子のアリタ以外に捜索協力は求めないでいよう、って。
    でも今話を聞かなかったら、後で後悔する気がします。教えてください、キラ・ヤマトさん。父さんは何故、世界の滅亡を望んでいたのですか?」

  • 126124/12/30(月) 11:14:42

    キラ「分かった、教えるよ。でもその前にもう一つだけ質問してもいいかな」

    フ「?」

    キラ「君はラウ・ル・クルーゼが世界の滅亡を望んでいた、と知っても、これからも彼の娘だと名乗り続ける? 彼の遺志を、継ぐ気が無くとも」



    フ「もちろん、名乗り続けます。だって彼を想う人がいないと……パパは安らかでいられません。たとえ私1人でも、私自身がパパの生きた証として彼を想い続けます」

  • 127124/12/30(月) 11:21:31

    ・ ・ ・


    そうして、キラはクルーゼの正体を語った。
    アル・ダ・フラガのクローンであったこと。
    失敗作として捨てられ、世界への憎悪を募らせていったことを。


    フ「……パパ……」

    キラ「僕は、君に会えてよかった。あのラウ・ル・クルーゼにも、命を繋ぐことができたんだと知れたから」

    それで、とキラが机の上にある機械を指さした。

  • 128124/12/30(月) 11:22:39

    キラ「君さえよければ、DNA検査でルーツを確かめることができるけど、やる?」

    フ「検査って、もしかして」

    驚いて、フィールとムユリが顔を合わせる。

    キラ「うん、フィールさんとムユリの血縁鑑定をすれば、遺伝子情報という形で『証明に近いもの』が手に入る。もっと血の近い、ムウさんとの情報を照合することもできるよ。それは100%の結果ではないし、ラウ・ル・クルーゼの娘だと示すものではないけど、それでも……」

    フ「…………」

    キラ「……血のつながった人を、見つけられる。どうする?」

  • 129124/12/30(月) 11:32:33

    フ「止めておきます」

    フィールは、はっきりと首を横に振った。

    フ「だって、私は」



    パァン

    フ「!? 銃声、また!?」

    ア「近い! キラさん、キララちゃんはこの部屋で動かないで!」ダッ

  • 130124/12/30(月) 11:33:24

    イ「お前ら、こんなところにいたか! 今の銃声を聞いたか!?」ダッ


    ム「隊長さん! ああ、通路の先で一体何が……!」




    謎の女性「くっ……流石ギルバート・デュランダル。おじさんになっても抵抗するだけの体力があるとは……」ガチャガチャ


    デュ「……っ!」

  • 131124/12/30(月) 11:39:58

    フ「あれは、デュランダル!?」

    一同が通路を進むと、そこには銃を構えた謎の女性と、その腕をつかむギルバート・デュランダルの姿があった。
    状況を見るに、どうやら謎の女性が銃で脅そうとしたところ、デュランダルが抵抗し無理やり床に向かって発砲させたようだ。

    ム「あの銃、もしかして昨日のと同一人物か!?」

    ア「そんな……父さん、いなくなったと思ったら美女と遊んでいただなんて」アワワ

  • 132124/12/30(月) 11:44:00

    謎の女性「ち、違っ……彼とはさっき会ったばかりで、私はここにいた彼を攫おうとしただけでっ……」

    デュランダルの体を抑えようとしつつ、何故か謎の女性が釈明を重ねアリタが怯む。


    フ「本当にネオ・メンデルにいただなんて」

    ム「おじさんにも帰巣本能ってあるんだね」

    トリィ「トリィ!!」バサァ

    ア「父さん! 今、助けるから!!」ダッ

  • 133124/12/30(月) 11:45:57

    なんの話やねんってなってきた所で小休憩、お昼ご飯を作ってきます。
    今のところでだいたい75%くらいです。

  • 134124/12/30(月) 14:59:28

    ゆるーく投下再開していきます
    多分ラストまでにあと一回は休憩をはさむかな?

    --


    アリタはいの一番に駆け出した。
    女性の銃を落とそうと、その腕に向かって手刀を振り下ろす。

    デュ「アリタ……」

    ア「父さん!」

    だが、女性は苦悶の表情を浮かべたものの銃を離さず、身をよじってアリタを引き剝がそうとする。
    そこについて来たトリィが女性の視界を遮り、フィールとムユリがデュランダルを保護しようと近づいた。

    イ「いや、待て!」

    だが女性が突如不可解な動きをしたため、イザリオは慌てて仲間の肩を掴み止めた。
    女性はすさまじい力で地面を蹴り、人間離れした高さを跳んだのだ。
    それも、デュランダルを脇に抱え込んだまま。

  • 135124/12/30(月) 15:03:44

    ア「父さんっ!」

    デュ「……まだ私を、父と……」


    さらに女性は、壁を駆けるようにして場を離れようとする。

    デュ「しまった、今のアリタにこれは……!」ヒラッ

    女性に引っ張られ、デュランダルの服から1枚の紙が落ちる。



    イ「あれは人間か!? くそっ、出口を塞げ!!」

    しかし、デュランダルを抱えた女性の速さに、誰も追いつくことができない。

  • 136124/12/30(月) 15:07:12

    やがて、建物を出た辺りで女性の姿は完全に見えなくなってしまった。

    ・ ・ ・

    ム「ギルバート・デュランダルごと、あの女は消えてしまったか……」

    フ「すみません、隊長。目の前にいたのに」

    イ「いい、あの動きは明らかに尋常ではなかった」

    高身長の男性を抱えたまま壁を走るなど、コーディネイターでさえできる芸当ではない。

    イ「あの動き、まさか……俺自身、過去の話としてしか聞いたことはないが」

  • 137124/12/30(月) 15:16:37

    キ「アコード、ですか……」

    後に建物から出てきたキララが、女性の消えた方角を見つめながらそう呟く。

    イ「ああ。もしやアコードの生き残り、いや、年齢から推測するとアコードの子孫か?」

    だがファウンデーション王国のアコードは何年も前の戦いで、全て滅んだはずだ。

    イ「今は考えても詮無きことだな。それより一旦先ほどの通路に戻るぞ、奴の手掛かりが何か残っているかもしれん」

    イザリオが、一足先に現場検証に戻ったアリタの背中に声をかける。
    だが返事はなく、イザリオはもう一度その背に名を呼んだ。

  • 138124/12/30(月) 15:25:44

    イ「アリタ? どうした、怪我をしたか?」

    ア「……隊長」

    アリタは、震える手である一枚の紙を掴んでいた。
    先ほど、ギルバート・デュランダルが落としていった紙だ。
    それを見るアリタの表情は怯えているとも、怒っているともとれる。
    どうした、とイザリオはその紙の内容に目を通した。

    イ「血縁鑑定の、結果?」

    フ「それって……!」

    そこには、アリタとギルバート・デュランダル、ではなく、アリタとアーサー・トラインが生物学上の親子であるとの結果が示されていた。

  • 139124/12/30(月) 15:39:42

    ・ ・ ・

    トライン家に、一同は集結した。
    あれから家に着くまで、アリタは一言も発することはなかった。

    ア「…………」

    フ「やけに人数が多いわね」
    ム「まああたし達は、ついて来ただけだけど」
    イ「アリタを送ったはいいものの、帰るタイミングを失ってしまったな」

    ここに居るのはイザリオ達だけではない。
    キラもアーサーに話があるからと同行し、そこにキララもついて来た。

    キ「アーサー・トライン議長にお会いするのは、久しぶりですわ」

    ギルバート・デュランダルの失踪が略取と判明した後、一旦家に帰ってきたアーサー。
    その妻のメイリンと、息子のメイサン。
    地球からビデオ通話で繋がっているウィリアム。
    これが今から行われる、家族会議のメンバーだ。

  • 140124/12/30(月) 15:53:17

    フ(ああ、いつになったらパパの話をできるのかしら……)ハァ

    キラ「ウィリアム君、君の息子達は?」

    ウィ「隣の部屋で、マリューさんに遊んでもらっています。それで、今回呼ばれたのは」

    ア「……これだよ」スッ

    ウィリアムにも見えるように、アリタが例の血縁鑑定の結果書類を差し出した。
    謎の女性の言葉を信じるなら、ギルバート・デュランダルはこの結果を出すためネオ・メンデルに赴き、そこを略取されたと考えられる。
    途端、アーサーの顔が引きつり、メイリンがさっと顔を逸らし、ウィリアムの顔から笑みが失われる。

  • 141124/12/30(月) 16:05:00

    多分1スレでまとまるはずではあるんですが、中途半端なところで200行きそうだったら最後の方だけ1レスずつがめちゃくちゃ長くなるかもしれません
    --

    ア「そうか、その3人は知っていたんだね」

    そして、この紙に書かれていることは事実だと察せられる。
    これは一体どういう事、とアリタが紙をテーブルに叩きつける。

    アサ「…………」


    ム「場のムードが、地獄みたいだねぇ」

    キ「確かアリタさんの出生というのは、ええと……」


    アーサーは最初、『アーサー・トラインとタリア・グラディス』の配偶子だと偽って、冷凍されていたタリア・グラディスの卵子と共に遺伝子を提供した。
    アリタが生まれた後になって、実は『ギルバート・デュランダルとタリア・グラディス』のものだったと公表した。
    アーサーは当時、デュランダルに再び生きる希望を与えたかった、と動機を答えた。
    しかし後になって良心の呵責に耐えきれず事実を公表した、とされている。

  • 142124/12/30(月) 16:17:32

    アサ「……先に言っておくと、メイリンは関係ない。ぼくと結婚する時に本当のことを知ってもらっただけで、何も悪くない」

    メイ「アーサー……」

    アサ「ちゃんと、真実を話すよ」

    その言葉を聞き、ウィリアムはそっと目を閉じた。

    アサ「そうだよ、アリタは遺伝子で言えばぼくと……タリア・グラディスさんの息子という事になる。けど君を生み出すことで、心神喪失したギルバート・デュランダルに生きる希望を与えたかったっていうのも本当だ」

    ア「…………」

    アサ「彼はタリアさんにとって大切な人で、ぼくは彼女に後を任されたから」

  • 143124/12/30(月) 16:24:52

    では何故、アリタはギルバート・デュランダルとタリア・グラディスの子ではないのか。
    ウィリアムが、重い口を開いた。

    ウィ「僕のせいだよ」

    ア「…………」

    ウィ「当時、僕がアーサーに懇願したんだ」


    アーサーと、血の繋がりが欲しかった。

    生きる希望が必要だったのは、ギルバート・デュランダルだけではなかった。
    だからアーサーは、表向きはギルバート・デュランダルの息子として、真実を知る者の間ではアーサーとタリアの息子として、アリタを生み出した。


    ウィ「血が繋がっていなくても家族になれると、理解できたのはもっとずっと後になってからだった。だから……」

  • 144124/12/30(月) 16:31:42

    アサ「新しい人工子宮のプロジェクトは、成功率が高くなかった。……ウィルにもギルバート・デュランダルにも、ぼくが『研究に遺伝子を提供した』という行動で、新しい希望を持ってもらいたかったんだ」

    ギルバート・デュランダルには、貴方とタリアの遺伝子が結ばれる可能性があると伝える。
    今回のプロジェクトにも遺伝子データが使用された、何年か後には本当に子どもができるかもれしない。
    だから、もう一度心を取り戻して欲しい。

    ギルバート・デュランダルが本当に求めていたのは、そういうことじゃないんだけどね。

    ウィリアム・グラディスには、アーサーとタリアの遺伝子を提供したと伝える。
    それで上手くいかなかったとしても、いや上手くいかないだろうという前提だったとしても、願いを聞き遺伝子提供にまで踏み切ったというアーサーの気持ちはウィリアムの心を大きく動かすことになっただろう。

    ア「……でも、僕は生まれた」

    だからアーサーは、全ての責任を取りアリタを育てることにした。
    ただし、ギルバート・デュランダルの息子として。
    自分がメイリンと結婚し息子を生んだ後も、ウィリアムがナチュラルの女性と結婚した後も。

  • 145124/12/30(月) 16:39:45

    アサ「……細かい部分はかなりはしょったけど、大まかな経緯は伝わったかな」

    テーブルに置かれたアリタの両拳が、震えている。

    アサ「今まで、多くのことを黙っていたのは事実だ。だけど信じて欲しい、ぼくもウィルもメイリンも、皆、アリタを愛している。大切な家族だと思っているよ」


    フ「アリタ」

    フィールはその肩に、そっと手を置いた。
    また泣くと思ったからだ。

    だが、アリタは笑っていた。

  • 146124/12/30(月) 16:44:30

    ちょっと調整したので200で収まる(12~15余るくらい)で終われそうです
    --

    ア「ふふ」

    フ「……?」

    ア「ふふ、はは、……ははは!」


    笑ったままアリタの首がぐるりと回り、フィールと目が合った。

    ア「昨日君は言っていたよね、僕にはデュランダルの息子として生きる権利があるって」

    フ「え、えぇ」

    ア「たとえ血が繋がっていなくとも」

  • 147124/12/30(月) 16:46:24

    ア「僕はギルバート・デュランダルの息子だ。これからも、ずっと」


    そう言いながら、アリタがゆっくりと立ち上がる。


    ア「今までと何も変わらない」



    ア「そう、何も変わらないんだ。この家にいることも、周りから変な目で見られるのも」

  • 148124/12/30(月) 16:48:39

    いや改めて数えてみたら、多分180ちょい手前くらいで終わりそうだな……?
    --
    ア「……僕はもう大丈夫だよ、さあまずは仕事だ。父さんを、ギルバート・デュランダルを探そう」

    フ「アリタ」

    アリタは何もショックを受けていない、大丈夫だと自身の胸を叩いた。
    だが、その手をイザリオがそっと取る。

    イ「大丈夫なのか?」

    ア「……はい、自分は平気です。早く、あの男を探しに行きましょう」

  • 149124/12/30(月) 16:50:05


    イ「本当に、しばらく休まなくて、大丈夫なのか?」


    ア「…………はい」


    アリタはイザリオにまっすぐ見つめられ、思わず目を逸らした。

    それにしても、と壁際に立っていたフィールがため息をつく。


    フ「ギルバート・デュランダルがどこに逃げたか、手掛かりが無いわ。やみくもに探すわけにもいかないし」


    メ「それなら、実は今調べがつきました」

  • 150124/12/30(月) 16:51:58

    フ「調べ?」


    メ「アリタ、今まで黙っていたけど……実は僕と母さんは、ターミナルに所属する諜報員だったんだ」


    ア「えっ」

    アサ「えっ?」


    メ「え?」(アーサーまで驚いたことに驚く)


    ア「ええっ?」(メイサンが驚きだしたことに驚く)


    アサ「ええーっ?」(皆驚きだしたことに驚く)


    ア・メ・アサ「「「ええーっ!!!!」」」

    ※3人会わせてデシベル量dice1d500=135 (135)



    メイ「この家、防音加工してるから安心してね~」クスクス

  • 151124/12/30(月) 16:54:35

    ア「そんな……どうして今まで黙って」

    メ「そりゃだって、『や~いお前の母さん女スパイ~』ってからかわれたくないし」

    ア「からかう訳ないだろ! メイリン義母さんは、僕にとっても母さんなんだぞ!」

    それで、とメイサンがターミナルで調査された内容について、直接プラント議長であるアーサーに報告する。

    メ「ギルバート・デュランダルを略取した組織は、あのファウンデーション王国跡地で活動する『アコードの生き残り』を自称する者達。ギルバート・デュランダルを使い、デスティニープランの再現を目論んでいるらしいんだ」

  • 152124/12/30(月) 16:56:05

    とまあ話がまとまるんだかまとまらないんだかよく分からないところで休憩、
    後は残りを夜に投下して終わりになります。
    ハートありがとうございます!

  • 153124/12/30(月) 21:30:29

    後はラストまで、駆け足で投下再開していきます。
    いつも日付が変わるころには何故か規制が入るので、それまでに最後まで行きたいと思います。

  • 154124/12/30(月) 21:34:33

    キ「アコードの生き残り……」

    ム「デスティニープラン、だって?」

    メ「そのため、ギルバート・デュランダルは今ごろ地球に降ろされ、ファウンデーション王国跡地に監禁されていると推測される。
    さらに、実行に関わった女が数日前からプラント内をうろついていたことも確認された。キララちゃんの配信ライブを邪魔したのも、同一人物だね」

    彼女はギルバート・デュランダルと、もう一人『ある人物』を探していた。とメイサンが説明を付け加える。

    メ「それがギルバート・デュランダルへの『献上品』。詳細はまだ分からないが、アリタと同時期に人工子宮で生み出されたもう一人の『成功例』の女性をデュランダルへの献上品として捜索していたらしい」

  • 155124/12/30(月) 21:36:06

    ア「もう一人の『成功例』……! 献上品って、どういうことだ!?」

    メ「そもそも、その『成功例』はアコードの生き残り達から提供された遺伝子により生み出された、ということがターミナルの調査でようやく分かった。
    その計画には当時、ギルバート・デュランダルへの献上品というコードネームが付けられていたようだ。
    つまりその『成功例』は、元々ギルバート・デュランダルへ捧げるために生み出された存在だと推測できる」

    献上品として扱われるほど、ギルバート・デュランダルが喜ぶ遺伝子を持った存在。
    そして、ギルバート・デュランダルへの献上品は生み出された直後にテロリスト、つまり当時から存在するアコードの生き残り達に奪われた。

  • 156124/12/30(月) 21:39:09

    メ「だけど何かあったのか、その献上品は一度アコードの生き残り達の手から離れたらしい事が記録が残っていた。新生児を乗せられる船が無かったのか、それとも育てられない事情があり捨てたか……とにかく、アコードの生き残り達は何年も経った今再び新たな計画のために、成長した彼女を探している」

    デュランダルをファウンデーション王国に連れていき、その『成功例』を献上品として捧げることで協力を乞い、デュランダル指導のもと今度こそデスティニープランを実行、アコードが世界を掌握する。

    というアコードの生き残り達の作戦が調査により判明した、とメイサンは報告をまとめた。
    なんか杜撰な気もするけどね、と余計な一言も最後に付けて。

  • 157124/12/30(月) 21:41:52

    ア「ということは、人工子宮で生まれた彼女は、今も生きて……!」

    そしてその正体を、アコードの生き残り達は知っている。
    アリタの目が大きく見開かれる。

    ギルバート・デュランダルの息子とされるアリタが狙われなかったのは、おそらくアリタが遺伝子だけで言えばデュダンダルとの繋がりが無いと、アコードの生き残り達も分かっていたからだろう。

    メ「その『成功例』である女性が今すでにアコードの生き残り達に捕らわれ、ファウンデーション王国に連れていかれたのかどうか……までは分からなかった」

  • 158124/12/30(月) 21:44:20

    メ「だけどデュランダルは確実に地球へ降ろされただろう、計画がどの段階にあるのかは現地に行かなくては分からない」

    その場にいる全員の目が、アーサーに集まる。

    アサ「分かった、ファウンデーション跡地捜索のためにザフトを動かそう。それにコンパスもだ。丁度いい、ウィル、通話をつなげたままフラガ氏達を呼んでくれ」

    イ「ならばすぐに、我々もファウンデーション跡地に……!」

  • 159124/12/30(月) 21:46:29

    いや、それは駄目だとアーサーが制止する。
    ザフト軍は、地球にもいる。
    わざわざ宇宙に居る者を地球に降ろしてまで人員を動かす必要はないからだ。

    キラ「それに、ファウンデーション跡地へ入るには許可が必要だしね」

    侵入できるのは、特別な許可を得た存在だけだ。
    例えば、コンパスが平和維持のため急を要して動かすべきだと判断した人材。

    ム「……隊長さんは言っていたね。親のコネを使えるくらい、実績を重ねてきたって」

    イ「ん?」

    ム「あたしだってずっと頑張ってきたんだ、たまには、親に頭を下げるのもいいかな」

  • 160124/12/30(月) 21:53:14

    ム「親父……じゃなかった、父さん、母さん、そこにいるのか?」

    ムユリが、ビデオ通話で繋がった画面をのぞき込む。
    そこには、コンパス総裁であるマリューとその夫ムウの姿があった。

    ム「お願い、許可を出して。父親のピンチに何もできないなんてそんなのあり得ないよ。それにあたし達はあの女の顔を見た、あたし達がすぐに追いかけるべきじゃないか!」

    ふふ、と画面向こうのマリューが微笑む。

  • 161124/12/30(月) 21:54:53

    マリュ「ついこないだ『あたしはもう大人だから親には頼らない』……って言っていたのは、誰だったかしら?」

    そう言われ、ムユリは珍しく顔を真っ赤にして頬をおさえた。

    ム「お、大人になったってあたしは母さん達の娘なんだから、たまには頼らせてもらっても、その、いいかなって……」モジモジ

    マリュ「冗談よ。分かりました、貴方達のファウンデーション跡地捜索をコンパスから依頼します。よろしいですね? トライン議長」

  • 162124/12/30(月) 21:56:24

    遺伝子的には違ったとはいえ、デュランダルの息子を今回の騒動に巻き込んでいいのかという疑問はあるが、要人を前線に出すのはコンパスのお家芸なので大丈夫だ。

    イ「ならお前達はコンパスの助けを借りて先に地球へ降りろ。俺はその間に、面倒な申請やらを済ませておく」

    イザリオはアリタに見えないよう、そっとフィールとムユリの肩を掴んだ。

    イ「……アリタは気丈にふるまっているが、どこか様子がおかしい。よく見てやってくれ」

    フ「はっ、おまかせを」

    イ「頼む。お前達も、絶対に生きて帰ってこい。俺も後から合流する」

  • 163124/12/30(月) 21:59:40

    ア「ファウンデーションへ行こう、父さんを助けに! そして……!」

    もう一人の『成功例』と会うために。

    ア「……アコードの生き残り達の計画を、阻止するために!」

    アリタ達はさっそく、コンパスの力を借りて地球へと降りることになった。
    ギルバート・デュランダルを助けるため、そしてアコードの生き残り達の計画がどこまで進んでいるのかを知るために。

    ・ ・ ・

    ム「あれっ、キララもついてくるのかい?」

    キ「アコードの生き残りとあらば、放ってはおけませんから。大丈夫、父からの許可はいただきましたわ」

  • 164124/12/30(月) 22:02:36

    フ「パパ、ママ、どこかで私を見守っていて……」

    ・ ・ ・


    フ「そういえば私、生まれて初めて地球に降りたのよね」

    次の日、ファウンデーション跡地へとたどり着いた一行は荒廃した土地を見回した。
    荒れた地に所々集落はあるが、何か特別な事情があって住み続けている人ばかりで、あの戦い以前のファウンデーション国民の姿は目立つところには見当たらなかった。

  • 165124/12/30(月) 22:04:47

    フ「こんなに、広い地球……この地面のずっと向こうにも、人間はいるのね」

    どこまでも広がる地平線を、フィールがまぶしそうに見つめる。

    フ「広くて大きくて、愛しきこの世界。パパはこの世界を滅ぼそうとしたの?」



    廃墟が目立つ町の中で、コンパス職員による探索用MSの準備を待つ。

  • 166124/12/30(月) 22:06:14

    しかしMSへの搭乗準備も途中だというのに、フィールの背後から呼びかける声が聞こえた。


    謎の女性「そこの人……こちらへ」


    フ「え?」



    振り返ると、廃墟の陰に見覚えのある顔が隠れていた。

    例の、謎の女性だ。

  • 167124/12/30(月) 22:09:47

    フ「あんたは……!」

    謎の女性「シー……静かに。私は敵ではありません、どうか……話をさせてください」

    ム「おいおい、あの時の女じゃないか。敵じゃないだって? 信じられるもんか」

    ア「父さんは、どこに」

    各々謎の女性に詰め寄るが、女性は暗い顔で首を横に振るだけだ。

    謎の女性「全てをお話しします。ですが、人前では……お願いします、人目のつかない場所へ」

  • 168124/12/30(月) 22:11:30

    罠だろうか。
    だがすぐそこにはコンパス職員達がいるし、いつでも連絡を取れる。

    キ「確かに、彼女から敵意は感じません。……今のところは」

    ・ ・ ・

    4人は女性に連れられ、ファウンデーションの王宮跡まで足を運んだ。
    美しい庭園は見る影もなく、瓦礫とひび割れたガゼボが残っているのみだ。


    謎の女性「ここまで貴方達を連れてきたのは、他でもありません……お願いします、私を助けてください」

    ア「えっ?」

    オ「私の名はオリフェット。貴方達がここに来たのは私がアコードの生き残りだと、分かってのことですね……」

    オリフェットと名乗る女性は、美しい所作でアリタ達に頭を下げた。

  • 169124/12/30(月) 22:17:01

    ア「助けて、って?」

    オ「順を追って、まずは最初から説明します……」

    貴方達はもう我々の計画を知っているのでしょう、とオリフェットは続けた。

    オ「確かに、今回のギルバート・デュランダルを利用したデスティニープラン再始動計画は……かつてのファウンデーション王国の生き残りが、関わっています……」

    しかし、とオリフェットは表情を暗くした。

    オ「元々生き残りは少なく……今回、計画に携わったのはほとんど『王国民だった者の子ども達』です。ゆえに、組織と呼べるほどの人数でもなく……実際にアコードであるのは、私1人」

    そして、子ども達はアコードであるオリフェットをリーダーとしてファウンデーション王国の再建を目指してきたのだ。
    どこにも行き場のなかった親達から産まれた、どこにも行き場のない子ども達として。
    彼らには、親達の遺志を継ぐことでしか生きる意味を見出せなかった。
    その遺志も、親と呼べる僅かな人達はやがて消えていったため、20年以上の月日の内にどれほど歪んでしまったのかはもう分からない。

    キ「貴方は、アコードなのですね?」

    オ「はい。私はかつての王国民の手によって……アコードの遺伝子データと人工子宮を用い生み出されました」

    ア「!!」

  • 170124/12/30(月) 22:18:22

    ア「人工子宮、だって!?」

    オ「はい。ですがアウラ・マハ・ハイバル亡くして人工子宮の成功率は低く……成功例は私だけ。そこで、私を助けて欲しいというのは」



    ア「分かるよ、君の言いたいことは」

    オ「は?」キョトン

    アリタは唐突に、オリフェットにぐっと近づいて両手を包みこんだ。
    はぁ? と後ろにいたフィールとムユリとキララが顔をひきつらせる。

  • 171124/12/30(月) 22:20:08

    オ「わ、分かるんですか? 私の言いたい事が……」


    ア「ああ、もちろん。君は」



    ア「世界を滅ぼしたいんだろう?」


    オ「……は?」


    ア「生まれを呪い、この世へ憎悪を抱き……分かるよ。僕もそうだから!」


    フ・ム・キ「「「はぁ?」」」


    そう言いながら、アリタはオリフェットの肩を無理やり抱き寄せた。


    ア「君だ、君だったんだねもう一人の『成功例』は! 僕達にはある、この宇宙でただ2人、全ての人類を裁く権利が!」

  • 172124/12/30(月) 22:21:44

    フ・ム・キ・オ「…………」ポカーン



    ア「さあ行こう、オリフェット! 僕と君と父さんで、共に世界を滅ぼすんだ!」

    オ「えっ? あ、ちょっ……」

    フ「!」

    アリタはオリフェットの手を掴んだまま、宮殿跡の奥へと走り出した。

    ム「あのバカ! またすぐ感情に流されて……! ちぃっ、追いかけるよ!」ダッ

    フ「何考えてるのよあの馬鹿は! ぶん殴るだけじゃ済まないわよ!」ダッ

    キ「そもそもギルバート・デュランダル氏は、世界の滅亡を望んでいませんでしたけど……」トテトテ

  • 173124/12/30(月) 22:22:59

    ・ ・ ・


    だが、間もなく一行はアリタ達に追いついた。


    フ「!」

    見れば、すぐそこのガゼボ下にあるティーテーブルに、アリタは倒れこんでいた。
    その横で、オリフェットが息を切らしながらへたり込んでいる。

    ム「おいあんた、アリタちゃんに何を……!」

    フィールとムユリはすかさず、オリフェットへ銃を向けた。
    反射的に、オリフェットも驚いた顔で銃を構える。

  • 174124/12/30(月) 22:24:52

    だが、すぐにオリフェットはその手を下ろした。
    警戒を解かないままフィールが首をかしげると、オリフェットがうなだれ大きく頭を横に振る。

    オ「もっ……もう、私に戦う意思はありませんっ……」

    フ「はぁ? じゃあ、アリタに何をしたのよ」

    オ「きっ……急に走り出すからびっくりしてっ……アコードの力で強制的に意識を落としましたっ……」

    ムユリがアリタの頭を強く叩いたが、目覚めない。
    余程深く意識を闇に落とされたらしい。

    女性達に囲まれ、オリフェットが顔を両手で覆う。

  • 175124/12/30(月) 22:27:28

    オ「うぅ……」

    フ「? なによ?」

    オ「もう嫌……! やっとの思いで助けてと言ったら、世界を滅ぼすとか訳の分からない話されるし……」

    わっと、オリフェットは泣き出した。
    色んな事が重なり、心のキャパがオーバーしたらしい。


    ム「助けて、って言ってたのは本心だったのかい?」

    オリフェットが、肩を震わせたままこくこくと何度も頷く。

  • 176124/12/30(月) 22:30:32

    オ「もうこんな計画止めたかった、リーダーを辞めて逃げ出したかった……! なのに、なのに……」

    相手はもう武器を放り投げているため、ムユリがまだ警戒しつつもオリフェットへの表情を和らげる。

    オ「なのにこの男の人、憎悪がどうとかデュランダルの息子が何とかとか言ってばっかりで……貴方はデュランダルの息子ではない、って言ったら勝手に泣き出して……怖くなってアコードの力を使ってしまいました……」グスッ

    キ「いいんですよ、さあ、私の胸で好きなだけ泣いてください」ヨシヨシ

    本当はずっと、アコードなんてどうでもいいからファウンデーションから逃げ出したかった。
    でも周りの期待に応えるため、計画を止められなかったとオリフェットが弱弱しく語り始める。

  • 177二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 22:31:28

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  • 178124/12/30(月) 22:31:54

    オ「私はアコードの娘だから……でも、本当は自由に生きたかった、ファウンデーションを出たかった……」

    フ「それならギルバート・デュランダルを攫ったりせず、逃げたらよかったのに」

    オ「駄目……私だけでは逃げ出せない、だから、助けてください……」

    ム「まっ、そういうことなら助けない訳にはいかないわな。でも助けを求めるのが少し遅かったね、あたし達と来たら相応の裁きは下されるよ?」

    オ「覚悟はしています……捕まってでも、ここを出られるなら。それに捕らえられるのは、アコードの娘として生まれた宿命ですから……」

    オリフェットは仕方がない、といった顔で揃えた両手をムユリに差し出す。

  • 179124/12/30(月) 22:32:57

    フ「そういうことじゃないのよ」

    オ「えっ?」

    フィールはそんなオリフェットを見て、差し出された手を止めた。

    フ「今のまま捕まえても、貴方は何も変われない。また同じことを繰り返すかもしれない。……あの馬鹿と一緒に説教してやるわ。あの馬鹿を起こす方法はある?」

    オ「ええ。私がもう一度、力を使えば……」

    キ「お待ちください。そういうことであれば、貴方とわたくしの力を合わせれば」

  • 180124/12/30(月) 22:35:18

    ・ ・ ・

    アリタの意識は、心の奥深くへと落ちていた。
    深層の心理風景の中、アリタは一人美しい庭園に座っている。
    目の前には優雅なティーセットとケーキがあり、1人でチェスの駒を動かしながら甘い紅茶をゆっくりと嗜んでいる。




    ム「バ~~~~っカ野郎」パシィン

    フ「フラれたからって一人で茶ぁ飲んでんじゃないわよ馬鹿」パシィン

    背後からムユリとフィールが思いっきりアリタの頭を叩き、アリタの顔に思いっきり紅茶が零れた。

  • 181124/12/30(月) 22:39:13

    ア「ぶっ……!? フィール、それにムユリさん!? キララちゃんにオリフェットさんまで……どうしてここに」




    キ「わたくしとオリフェットさんが力を合わせて、わたくし達4人でアリタさんの心に語りかけています」


    オ「私はもう、捕まえてもらうことにしましたから……ギルバート・デュランダルも解放します。さあ、目覚めましょう」




    ア「…………」フイッ


    だがアリタは、すねたように一同から顔を逸らした。

    呆れたように、フィールがため息をつく。

  • 182124/12/30(月) 22:41:10

    フ「なによ、世界滅ぼしてくれる仲間がいなくなって、すねてるの?」

    ア「……だって、ずっと探していた相手に会えたのに。それに」

    フ「それに?」

    ア「僕はギルバート・デュランダルの息子だ。たとえ血が繋がっていなくても、これからもずっと。そういう風に生み出されたから……そんな生まれを知って、世界へ憎悪を覚えても仕方がないだろう?」

    フ「あのねぇ、いいの? そうやって世界を憎んでばかりじゃ、一緒にお茶飲んでくれる相手もいないわよ」

  • 183124/12/30(月) 22:43:10

    ア「…………」

    フ「パパもきっと、一緒にお茶を飲んでくれる相手がいなかったのね。それとも、ママやデュランダルと一緒に居ても、お茶の味すら分からないくらい憎しみに捕らわれていたのかしら? まあ、とにかく」

    フィールはアリタの真向かいに座った。
    その周りに、ムユリやキララ、オリフェットも座る。

    フ「世界が憎いなら、デュランダルの息子を辞めれば?」

    ア「えっ?」

    フ「前にも言ったでしょ、あんたにだって親の子を名乗るか名乗らないかを選ぶ自由があるわ。今は、その良い機会なんじゃない?」

  • 184124/12/30(月) 22:46:14

    ア「……嫌だ」

    アリタが、泣きそうな声でそう答える。

    ア「僕は、父さんの息子でいたい。今までと変わらず」

    フ「それは、世界を憎んでいたいから?」

    ア「……! 違う、僕は……僕は父さんと、ずっと……!」

  • 185124/12/30(月) 22:49:06

    アリタは、今度ははっきりと答えた。

    ア「本当は今まで通り、父さんと、義父さんや皆がいる家で、ゆっくり暮らしていきたい。ギルバート・デュランダルの息子として、家族と一緒に居たい」

    フ「そうね。きっとパパも引き返せなかっただけで、心のどこかでは人並みの幸せを願っていたに違いないわ。……でもあんたはパパと違って、帰る場所がある。世界を滅ぼすなんて言ってないで、ほら、早く現実でお茶でも飲みましょ」

    ふと、アリタは自分の肩に大きな手が乗っているのを感じた。
    現実のアリタの側に、ギルバート・デュランダルがいる気がする。

    ア「……僕はこれから、この憎しみを手放せるかな?」

    フ「私がラウ・ル・クルーゼの娘であっても『世界を滅ぼしたい』だなんて思わないように、デュランダルの息子でもアリタはアリタ。好きに生きていいの、自分で決められない生まれ方なんて定めでもなんでもないもの。囚われる必要なんてないし、私なら世界の方を変えてみせるわ」

  • 186124/12/30(月) 22:50:21

    フ「そこの貴方もよ」

    オ「え? 私……が何か?」

    フ「貴方はアコードの娘だから、捕まるのも宿命だって言ってたけど……たとえアコードの娘でも、貴方は貴方。捕まるのも、貴方がした行動の結果なのよ」

    オ「……そうですね……それでは、そろそろアリタさんには目を覚ましてもらいましょう」

    オリフェットが手を振りかざすと、周囲の景色が光に包まれ消えていく。

    オ「これが終われば、デュランダルをお返しした後に私は捕まります……ですから最後に、一つだけ伝えさせてください」

  • 187124/12/30(月) 22:53:05

    オ「私はファウンデーション王国に残っていた、40年以上も前の古い人工子宮で生み出されました……」


    ア「えっ?」


    オ「そして、私が探していたギルバート・デュランダルに協力してもらうための『献上品』……それは、彼の友人ラウ・ル・クルーゼの娘」



    オ「結局プラントで攫うことはできませんでしたが、まさか本人の方から来るとは。不思議な運命もあるのですね……」

  • 188124/12/30(月) 22:54:47

    オ「かつてアウラ・マハ・ハイバルは、ギルバート・デュランダルへ捧げるため……ラウ・ル・クルーゼが戦いに敗れたタイミングで保護しようとしていました。しかし、クルーゼの救出は間に合わず……その代わりにある一人の少女を保護しました」

    戦争に巻き込まれたその少女は、保護後間もなく息絶えてしまった。
    だが、今わの際にアウラへあることを伝えた。

    ずっと、妊娠を隠していた。
    この腹に居るのは、ラウ・ル・クルーゼの子だと。

  • 189124/12/30(月) 22:56:27

    アウラは事前に、ラウ・ル・クルーゼがその少女を手厚く扱っていた情報を得ており、妊娠している可能性を考慮し少女を保護したのだろう。
    全てはラウ・ル・クルーゼの遺伝子を、ギルバート・デュランダルへの献上品とするために。

    オ「アウラはあろうことか、その少女から胎児を取り出し……」

    胎児は人工子宮の中で、ずっと胎児のまま保存された。
    アウラがそのように調整したのか、それとも人工子宮の欠陥だったのかは今となっては分からない。

    オ「……ずっと後になり、新しい人工子宮の研究開発を耳にした王国民の生き残りは、研究チームに潜り込みその胎児を実験体として使って……」

    チームに潜り込んだ研究者にとっても、それは偶然だったのかもしれない。
    彼女は生まれた。
    人の手によって複数の人工子宮を渡り、母親の腹から離れた何年も後になって。

    オ「しかし生まれた彼女を連れて宇宙を越えられず、やむを得ず病院に置いて……そして当時の王国民もいなくなった今、今回の計画のため成長した彼女を再び見つけ出し、利用しようという話になりました」

  • 190124/12/30(月) 22:57:28

    オ「ですから、アリタさんが探していた方というのは私ではなく……」

    ア「……!」

    アリタの目が見開かれ、フィールへと顔を向ける。


    フ「……そう。それじゃあパパも、ママもあの戦いで……」

    フィールは、目を閉じたまま一度だけ、大きく頷いた。

  • 191124/12/30(月) 22:58:40

    フ「でも、もういいわ。私は私、パパがいない世界でもパパの娘よ。これからもパパのことを想いながら、この愛しい世界で仲間達と楽しくやっていくわ。

    だからパパ、ママ、どうか安らかに……」


    ・ ・ ・

    あれから数日後。


    フィールは街頭テレビに映るアリタの顔を見つめていた。
    アリタはインタビュアーの質問に、ギルバート・デュランダルの息子というテロップを携え淀みなく答えている。

    ア「……はい。父は再び、会話できない状態に戻りましたが……その前に、少しだけ話をすることができました。ええ、デスティニープランの実行はもう考えていない、計画再現をたくらむ組織が現れても決して協力しない、と」

  • 192124/12/30(月) 23:00:36

    アリタはこれまでと同じく『ギルバート・デュランダルの息子』として、しかし世界を恨むのではなく、世界を少しずつ変えていくことにした。

    ア「そうですね、ギルバート・デュランダルの息子である私だからこそ、父の想い、そしてそれを受け継いでいく私自身の想いを、こうして世界中の皆さんに発表していかなくてはと思っています。しかし、それは私が父の息子だから、という義務感からではありません。私は私、ギルバート・デュランダルの息子として育った私自身が、家族のいるこの世界を少しでも平和にしたいと思っているのです」


    ・ ・ ・

    フ「って、あれほとんど私の受け売りじゃない」

    ア「あっはっは、いやぁ僕って影響されやすい性格だから」

    プラントのとあるカフェの中で、フィールとアリタは同じテーブルに座りお茶を飲んでいた。
    ただし、すぐ隣にはムユリとキララもいる。

  • 193124/12/30(月) 23:01:13

    ア「まあ、父さんと話ができたってのは嘘なんだけどね」

    あれから間もなく、デュランダルは以前のように、何もしゃべらぬ状態へと戻ってしまった。
    ギルバート・デュランダルの魂はもはや、誰かに利用されぬよう今の様相に落ち着いているのかもしれないと騒動の後にアリタは気づいた。

    ア「傲慢なのは父さん譲りだ。これくらいの嘘、許されなくってもつき続けるよ」

    だが、アリタが「父さん」と呼びかけた時、たまに反応するのだという。

    ア「色々大変だったけど、父さんは家に戻ってきたし。アーサー義父さんにもだいぶ手を回してもらったけど」

  • 194124/12/30(月) 23:05:00

    フ「だいたいねぇ、結局泣いて喚いていただけのあんたが一番良い思いをしてるってのがおかしいのよ」

    ア「べ、別にテレビに出るのは良い思いしてる訳じゃないけど」

    ム「そうじゃなくて、こうして美女に囲まれてお茶してることが、だろ?」

    ア「えっ、ええっ? いやだって、僕が一人でお茶飲んでた所に皆が来たので……」

    キ「うふふ、いつかオリフェットさんとも一緒にお茶したいですわね」

    オリフェットはあの後コンパスに引き渡され、ギルバート・デュランダルの誘拐、ならびに世界を混乱に陥れる組織的計画を実行しようとした件で裁きを受けることになった。
    だが当のデュランダルが誘拐ではなく自分の意志でオリフェットについて行ったと話した上、生まれた頃からアコードの娘として振舞うよう洗脳に近い状態だったことを踏まえると減刑されるだろう、とのことだった。

  • 195124/12/30(月) 23:07:14

    ア「うぅ、僕はフィールと二人っきりでお茶したいのに……」

    フ「あら、私がずっと探していた相手だと知って、好きにでもなったって訳?」


    ア「ううん、確かに君を探すことは長い間僕の生きる希望だったけど……僕は君の考え方、君の全部が好きになったよ」


    フ「ばっ……」

    ア「あ、ご、ごめん! やっぱ女の子と話すのって慣れてないから、なんか、はっきり言い過ぎた……!」

    ム「おやおや、二人とも真っ赤になって可愛いこったねぇ」クスクス

  • 196124/12/30(月) 23:07:58

    イ「お前達! 休憩は終わりだ、出航準備が始まるぞ!」

    ア「あわわ、そうだ急がないと」

    キ「平和を願う全世界中継月面ライブ、護衛の程よろしくお願いいたしますわね」

    ム「議長夫婦だけでなく、うちの親父達も来るってさ。楽しみだね」

    フ「行きましょう。パパにも届くくらい、素敵な歌を響かせてもらわなくちゃ」


    終わり

  • 197124/12/30(月) 23:09:24

    と、いった感じでなんとか200までに滑り込み完結
    読んでいただいた方、ありがとうございました!
    まだ読んでいらっしゃらない方は、年末年始暇な時のお供にでもどうぞ

  • 198二次元好きの匿名さん24/12/30(月) 23:48:01

    読み応えありました、お疲れ様でした!
    こういう世界観ありですね、種は
    にしても、せっかくダイスしたのに声量小さい子達だったな

スレッドは12/31 11:48頃に落ちます

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