なぜ悪口が好きな人が「不幸になる」のか? なぜ人は、悪口、誹謗中傷が好きなのでしょうか?明らかに相手に精神的なダメージを与える
行為なのに、どうしてやめられないのでしょうか?
(樺沢紫苑:精神科医、作家 より)◆「悪口を言う人」の心理
人間はついつい他人と自分を比較してしまう生き物です(米心理学者:レオン・フェスティンガー)。 特
に日本人の場合、集団での和を乱さないため、つい他人の顔色を窺ったり、他人の行動や言葉に目を光ら
せ、自分と比べるなどの傾向が強いと言えます。 新型コロナウイルスの流行に伴ってあらわれた「自粛警察」
と呼ばれる人たちも、自分は自粛のルールを守っているのに、それを守ろうとしない奴がいるという「怒り」が行
動の元になっています。つまり、「他人と比較してしまう心理」が原因にあるわけです。人間は、他人と自分を比べたときに自分が優れていると「優越感」を抱きます。その逆に、自分が劣ってい
ると感じたときに「劣等感」を抱きます。劣等感は強烈なネガティブ感情なので、それを何とか払拭したいとい
う衝動にかられます。それを、悪口や誹謗中傷という形で発露したくなるようです。悪口や誹謗中傷を言うこ
とで、相手を貶めることができます。自分対相手との比較において、相手を引きずり下ろすことによって、自分
の価値を相対的に高めることができる。それによって、内なる劣等感を緩和しようという心理が働いてしまうの
です。
最近「自己肯定感」という言葉をよく耳にしますが、自己肯定感が低い人ほど自分に自信が持てません。
そういう人は、自分対相手との比較において、自分が劣っていると感じやすい傾向があります。だから、実は
自己肯定感の低い人ほど悪口を言う傾向にあるのです。自己肯定感が高い人は、自分の考えや行動に
自信を持てます。他人にとやかく言われても、その考えや行動はゆらぎません。相手と自分をいちいち比較す
ることもなければ、悪口を言うこともないのです。
ここまで理解できると、もし自分の周りに悪口好きな人がいたとしても、「自己肯定感が低い、とっても残
念な人」なんだなと上手に聞き流すことができると思います。私の場合は、「あの人は生まれ変わりの数が少
ないから・・・。」として割り切り、自分がストレスを抱えること無く、流すようにしています。
◆悪口は「依存症」である
一方で、悪口が好きな人はなぜそれをやめられないのか。それは「悪口は依存症である」と考えると、非
常に腑に落ちるようです。誰かの悪口を言うと、やる気や快楽に関与するホルモン「ドーパミン」が放出される
そうです。ドーパミンが出ると楽しい気分になります。だから、悪口を言うことは基本的に楽しいことなのです。
怖いですね。昔から、人の不幸は蜜の味といわれていますね。(私はそうは思いませんが!)しかし、ドーパミンは欲張りな脳内物質でもあり、一度放出されると「より大きな刺激」を求めるようになりま
す。つまり、悪口の回数を増やしたり、より過激な悪口を言わないと、新たにドーパミンが出ず、楽しい気分に
なれなくなってしまうのです。結果、悪口を言うことが癖になって、なかなかそれを改善しづらい状態に陥りま
す。悪口を言えば言うほど深みにはまってしまう。これはアルコール依存症や、薬物依存症と同じ原理です。
かくして「悪口は依存症」と言っても、遜色ないのです。
多くの人は、悪口は「ストレス発散になる」と思っているでしょうが、実際は逆です。悪口はストレスを増やし
ます。最悪の場合、脳を傷つけ、寿命を縮める危険性もあるようです。東フィンランド大学の研究によると、
世間や他人に対する皮肉・批判度の高い人は認知症のリスクが3倍、死亡率が1.4倍も高い結果
となったそうです。批判的な傾向が高ければ高いほど、死亡率は高まる傾向にあったそうです。また、悪口を
言うと、ストレスホルモンである「コルチゾール」が分泌されます。コルチゾールというのは、ストレスを感じたとき
に放出されるホルモンです。上記でドーパミンが放出されると申し上げたので、快楽を得ていると思いきや、
悪口を言っているときは同時にストレスも感じているのです。表面上の快楽を求めようとして、悪口を言うと、
実は裏では心を傷つけていたのですね。
心理学の法則で「返報性の法則」というものがあります。人は誰かに親切にされたとき、「その親切をお返
ししないといけない」という気持ちが湧き上がる心理です。例として、試食すると買わなければいけないという
心理です。 「好意の返報性」を上手に使うと、自身の信頼度を高め、人間関係を深めることが可能です。
しかし、残念なことに世の中の多くの人は、「悪意の返報性」を使っています。ネガティブな感情に対して
は、人はネガティブな感情を返したくなるものです。ドラマ半沢直樹の「倍返しだ!」とやり返してしまうのが、
正に「悪意の返報性」。そして人に悪口を言うと、やはり「悪意の返報性」で悪いものが帰ってくるのです。
「本人がいないから悪口を言っても大丈夫!」と思っていても、この人は「よく悪口を言う人」と周りにネガティ
ブな印象を植え付けてしまいます。いつ自分に矛先が向かうかわからないので、周りの人たちは悪口を言う
人を心から信頼せず、離れていくでしょう。