(SS注意)クリスマスは今年もやってくる

  • 1二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:41:59

    「おはようございますトレーナー、新年あけましてメリークリスマス」
    「あっ、あけましておめでとう……?」

     一月一日。
     お雑煮を食べながらのんびりと過ごしていた俺の下に、サンタがやってきた。
     ……自分でも何を言っているのかわからないが、目の前の現実がそうなのである。
     真っ直ぐに伸びた艶やかな黒い長髪、鋭いクールな目つき、前髪の白い流星。
     担当ウマ娘のカルストンライトオは────玄関先で、何故かサンタの衣装に身を包んでいた。
     俺がぽかんとしていると、彼女は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

    「ふっ、私以上に速くクリスマスを満喫しているウマ娘はいないでしょうね」
    「……まあ、だろうね」
    「去年の大掃除で気づいたのです、どんなイベントも一月で過ごしてしまえば最速だと」
    「さすがに大掃除と季節催事を一緒にするのはどうかと思うなあ……!」
    「一年の計は元旦にあり、とはこのことだったのですね、先人の知恵は偉大です」
    「きっと先人もびっくりしていると思うよ」
    「というわけでトレーナー、クリスマスプレゼントをどうぞ」
    「あっ、はい、どうも……あの、なんか、お重がリボンでラッピングされてるんだけど」
    「中身はおせちのお裾分けです、父から持って行くように言われたので」
    「…………そっか、今度お礼を言わないとね」

     色々と言いたいことはあったが、話が進まなそうなのでぐっと飲み込んだ。
     そういえば今年の大晦日は帰省する、という話をしていた。
     きっと学園へと戻る途中で、ここに立ち寄ってくれたのだろう……えっ、この格好で?
     まあ、付属した要素はともあれ、新年早々顔を合わせて挨拶が出来たことはとても嬉しい。
     これから予定がなければ一緒に初詣でも、そう問いかけようとしたその時だった。

  • 2二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:42:10

    「では部屋に入りますね、お餅は一個で、お代わりもお願いします」
    「えっ、あっ、うん?」

     ライトオは流れるようにするりと部屋へと上がっていく。
     あまりに自然な流れのため、止める暇もなく、ただ見送ってしまうだけだった。

    「……はっ!」

     我に返った俺は慌てて扉を閉め、ライトオを追いかけるようにリビングへと向かう。
     もはや、どっちが家主なのかわからない光景である。
     ……まあ彼女のことだ、初詣なんて新年最速で行っていることだろう。
     そしてリビングへと辿り着いた頃、彼女は部屋の炬燵にすっぽりと埋まっていた。
     ぴしっと真っ直ぐうつ伏せになっている姿は、もはや貫禄すら感じさせるほどである。

    「……ふむ、良いですね、ここに蜜柑とニャンコがあれば言うことはないのですが」
    「トレーナー寮ペット禁止だから……蜜柑ならあるから待ってて」
    「ひゃっほう、ニャンコの方はイメージで我慢しましょう……よしよしかわいいかわいいかわいいにゃにゃにゃにゃー!」
    「ごめん、虚空を撫でながらにまにまされるとちょっと怖い」

  • 3二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:42:36

    「お待たせ、せっかくだから貰ったおせちも頂いちゃおうか」

     お雑煮を持って、リビングへと戻る。
     匂いから察したのか、ライトオは耳をぴこんと立てて、素早く起き上がった。

    「はい、そうしましょう……我が家のおせちは父のお手製なんです、母は『大変だから無理しなくて良いのに』と言っているのですが、数年前に年末で父の仕事が重なって作ることが出来なかった時はとても寂しそうにしていていました」
    「うん、そういうことは話さないであげてね」
    「……それと今回は私も少し手伝ったんです、とても驚かれましたが」
    「へえ」

     その言葉に、俺も少し驚いてしまった。
     女の子へ失礼な話ではあるが、ライトオが料理をするイメージがあまりなかったからだ。
     元から楽しみにしていたけれど、色々と話を聞いて俄然楽しみになってきた。
     お雑煮をテーブルに置いて、俺も炬燵に潜り、お重のラッピングを解いて広げていく。
     小さなお重の中には、所狭しと広がるおせち料理の数々。
     数の子、黒豆、たたきごぼう、紅白かまぼこに栗きんとん、煮しめや酢の物もある。
     見るだけでも、とても丁寧に作られているのがわかるのだが────どうにも、異質なものがある。

     海苔で覆われた切られていない巻物が、どかんとお重の段を一つ占領して、二本鎮座していた。

     俺が呆気に取られていると、ライトオは柔らかく微笑みながら口を開く。

    「ふふっ、トレーナー、どれが私の作った料理だかわかりますか?」
    「うん、一目でわかったよ」

     そりゃあ、お父さんもおせちに太巻ねじ込まれたんだから、びっくりしたことだろう。
     ライトオはひょいっと太巻を一本手に取ると、俺に背中を向けた。

  • 4二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:42:53

    「今年の恵方は西南西、今年の節分は生意気にも二月二日と速度を主張してきましたが、私には追いつけなかったようですね」
    「……一つ聞くんだけど、このペースで催事を消化していって、当日はどうするんだ?」
    「勿論、それはそれで楽しみますよ、『まあ私の方が早かったですが』と心に余裕を持ちながら」
    「余裕なのかな、それ」

     俺は苦笑いを浮かべながら、太巻を手に取って、ライトオと同じ方向を見る。
     そして無言のまま、二人同時に、かぶりつくのであった。
     ……あっ、鰻入ってるこれ。

  • 5二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:43:08

     その後、思い出したかのようにお菓子か悪戯かを迫られながら、おせちとお雑煮を堪能して。
     蜜柑の残りもお餅の残りも空になった頃、ライトオは突然、目を大きく見開いた。

    「……しまった!」
    「……どうしたの?」
    「まだ、初詣に行っていませんでした……くっ、私としたことが……っ!」
    「あっ、そうだったんだ」

     悔しそうに顔を歪めるライトオ。
     もうとっくに行っているものだと思ったが、まさかの展開であった。
     しかしながら珍しい、この手のことで、彼女が最速を譲ることがあるだなんて。

    「最速で貴方に会いたくて、頭がいっぱいなっていました」
    「……そっ、そっか」
    「早すぎて通り過ぎてしまった、ということですか……トレーナー、どうしましたか、顔が萎びたトマトみたいですよ?」
    「…………気にしないで」

     ライトオは、不思議そうな表情で覗き込んできた。
     ……相変わらず、表情一つ動かさないで、さらりとこういうとこを言ってくるのだから困ってしまう。
     俺は目を逸らそうとして────突然、ぎゅっと手を掴まれる。
     暖かくて、柔らかい手の感触にどきり、とする間もなく、立ち上がったライトオに炬燵から引きずり出された。

  • 6二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:43:25

    「うわっ!?」
    「こうしてはいられません、遅れを取り戻すため、今から初詣に行きましょう、なんなら来年分も行きましょう」
    「まあ、それは良いけど……待った、その格好で神社行くの?」
    「脱げと?」
    「言ってないから……コート貸すから、せめてそれを上に羽織ってね、後、俺も着替えるから」
    「わかりました、四秒で支度してください」
    「ドーラよりも厳しい……っ!」

     慌てて、着替えを取りに行こうとするのだが、何故かライトオは手を離してはくれない。
     彼女は俺の手を握りながら、じっと、こちらを見つめ続けていた。

    「……どうかした?」
    「いえ、トレーナーへと新年の挨拶も忘れてしまっていたな、と」
    「ん? それは最初会った時にしたでしょ、ちょっと変だったけど、って、ああ、そっか」

     ふと、俺も思い出す。
     あけましておめでとうは伝えたが、今年もよろしくは伝えていなかったな。
     担当トレーナーと担当ウマ娘としてやっていくのだから、一番大切な挨拶だったかもしれない。
     俺は改めてライトオと真っ直ぐ向き合って、頭を下げた。
     偶然にも、同じタイミングで彼女は垂直に、頭を下げていた。

  • 7二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:43:41

    「それじゃあライトオ、今年も宜しくお願いします」
    「はい、来年もよろしくお願いしますね、トレーナー」
    「……それは気が早くない?」

     正直、言うだろうなと思ったけども。
     そう問いかける俺に対して、ライトオは静かに首を左右へと振った。

    「いえ、早くはないでしょう」

     握られていた手に、もう片方のライトオの手が重なる。
     そして彼女は、一際強くぎゅっと手を握りしめ、確信めいた瞳で、はっきりと言葉を紡いだ。

    「貴方と私は、来年も再来年もその先も────ずっと共に、直進し続けるのですから」

  • 8二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:43:59

    お わ り
    スレタイとサムネで出オチですなコレ

  • 9二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:45:29

    書き乙、ライトオエミュ出来るの凄いっすね

  • 10二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:45:59

    本家のパンチと比べると物足りん

  • 11二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:48:19

    >>1乙、良いものを見せて貰った 

    そして>>10よ、サイゲライターのトンチキ度に追いつけと申すか

  • 12二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:49:03

    あけおめ
    雑にハロウィン捩じ込まれてるの笑うわ

  • 13二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:50:29

    >>11

    追い抜くのは別としても追いつけなきゃ劣化版になってしまうのはまあ…うん、仕方ないよね

  • 14二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 12:55:48

    このレスは削除されています

  • 15二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 13:03:10

    最速フィルターかかってて雰囲気台無しだけどよく見たらこいつら正月からだいぶイチャイチャしてんな?

  • 16二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 13:16:13

    トレーナーと一緒に最速で行事満喫したいライトオはかわいいね
    押せ押せライトオとツッコミつつ流されるトレーナーさんは良いパートナーだと思いました!

  • 17二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 13:24:56

    >>15

    元からそういうところあるからな……すごく表現できてると思うぜ

  • 18125/01/01(水) 20:34:36

    >>9

    書いててもまだまだ難しいです

    >>10

    原液はパンチが強すぎる

    >>11

    そう言っていただけると幸いです

    >>12

    多分食べてる最中に仮装であることに気づいたんだと思います

    >>15

    なんやかんやで常に仲良くやっている気がします

    >>16

    かわいいよね・・・

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