- 1125/01/01(水) 23:05:01
- 2125/01/01(水) 23:05:27
- 3125/01/01(水) 23:05:38
- 4125/01/01(水) 23:05:51
- 5二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 23:06:36
たておつ
- 6二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 23:07:12
あざっす
- 7二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 23:07:31
たておつ~
- 8125/01/01(水) 23:12:12
おつあり
じゃあエピローグ投げていくね
「最後の」
ステージの興奮冷めやらぬまま次のスケジュールを確認する。体を冷やすため、束の間の休憩の間舞台裏で水を飲んでいると彰から声をかけられる。振り返ると少しこちらを小馬鹿にしたような顔をしていて、不愉快になって眉を顰めた。
「珍しいじゃん、あんな笑顔すんの」
「気分が乗ったんだよ」
「お前にもそういうのがあるんだ」
いつもならば頭を撫でまわされるが、ワックスでガチガチに固めていることを思い出したのか肩を叩かれる。それがいやに優しくて、二十代半ばの男の顔を睨みつけた。
「何だ」
「怒んなって。ちょっと安心しただけ」
「はあ?」
なんだよと再度言うが彰はにやりと笑って背中を向けた。他の三人のところへ行くようだった。ああいう年上風を吹かせる言い方をショータは好まなかった。
下唇を突き出して不機嫌さを隠さずにいると、横に居た光木が爽やかな声で「ははっ」と笑う。 - 9125/01/01(水) 23:12:42
「彰は普段からショータの表情が硬いこと気にしてましたからね」
「光木」
「だから嬉しかったんでしょう、少しは気持ちを汲んでやってください」
最年長、今年で二十八を迎える彼にそう言われてショータは渋々頷く。
「……子ども扱いしやがって」
「大切なんですよ。僕たちにとってショータは恩人ですから」
「もしかしてバズったことか? あれは元々お前らの実力があったからだろ。前の事務所の連中が勝手に自滅したのもでかいが」
「ははっ、そういうところです」
笑って流されてしまい、嫌そうに眉を顰めた。
次はバックダンサーで予定がある。場所は会場の端なので走る必要があった。衣装をそのままに舞台裏を走っていく。華やかな歌声がここまで聞こえてくる。
以前までなら、自分が居るのは会場の外、寒空の下のはずだった。
- 10125/01/01(水) 23:13:11
「……悪くねえな」
『あの頃』のように人を救う活動が出来るわけではない。それでも、自分の信念は形を変えてここにある。
「なに、ショータくんなんかセンチメンタル?」
「うるさい拓哉。お前初っ端ミスりかけてたの忘れてねえからな」
「うへえ、末っ子が厳しいよ蓮」
「俺に話振るのやめて、お前の比じゃないくらいボロクソに言われるから」
「分かってんじゃねえかいつもこんくらい練習しろ」
「ほらあ~」
無駄口を叩きつつもこの大舞台に穴を開けるわけにはいかないと五人は大急ぎで走っていく。
その最中、ショータは彼らの背中をかつて前を征く少年たちの姿に重ねてしまった。
「……なあ、生まれ変わりって信じるか?」
「えなに怖い話?」
「なんでもない」
「ウソウソウソウソ、俺はねえ、あったら良いなって思う」
拓哉の茶化した言葉に不機嫌になりつつ、隣でスタンバイを完了させた蓮も同じように頷いた。
「やっぱあったほうが未来に希望持てるもんな」
「何の話?」
「生まれ変わりって信じる? って話」
「ショータ狂った? 俺は信じない派」
- 11125/01/01(水) 23:13:46
さりげなく刺してくる言葉に下唇を突き出す。可愛くない顔をしていると周りからとがめられて渋々ひっこめた。
「光木はぁ?」
「僕は……あるんじゃないかなって思いますね」
「お、ある派か」
なんで? と聞かれて光木は奇麗にセットした無精ひげを撫でた。
「うーん、時々あるじゃないですか、人生何週目? ってくらい達観してる人とか。そういう人に会うとやっぱりあるんだろうなあって思っちゃうんですよね」
「例えば?」
「ショータとか」
「あー」
全員が声を揃える。
ショータは少しバツが悪くて顔を背けた。
「それで、肝心のショータはどうなんですか?」
「え」
「生まれ変わり」
話を振られて、ショータは口ごもる。
なんと返せばいいかわからなくなっていると、後ろから声が飛んできた。
- 12125/01/01(水) 23:14:16
「『BLACK CASE』さん! あと十秒で出番です!」
「はい!」
全員がキリッとした表情になって無言になった。話が逸れたことを幸運に思い、ショータも冷や汗をそのままにステージの方を見る。
──生まれ変わりがどう、なんて。言えるわけねえ。
ショータは合図とともに駆け出していく。『以前』の自分とは真逆の世界へ、輝かしくも厳しい世界へ。
──だって俺は現に生まれ変わっちまってるんだから。
相澤消太はもう居ないが、ショータはここにいる。
新しい世界で、新しい自分で、新しい人生を歩んでいく。
あの笑顔は、かつての教え子たちがヒーローとして活躍する平和な世で歌えることの喜びだった。
彼らが守る世界があるから、アイドルSHOTAはまた一歩を踏み出せる。
- 13125/01/01(水) 23:17:27
エピローグ以上です!
先生は五歳くらいの時から相澤消太としての自意識があって今の自分と違う人間の記憶に苦しんでたって言う過去がある
グループや先生の設定とか諸々をまとめた小ネタはこちら
小ネタ | Writening読まなくても良い設定 BLACK CASE# 元々DD9という大手事務所のグループから離脱した四人とオーディションで選ばれたSHOTAで結成された新進気鋭のボーイズグループ 四人は全員が二十代なのでSHOTA一人だけ年…writening.net本編一気読みしたい方はこちら
ドルパロ | Writening 眠気眼を擦って朝食の準備をする。女性ファン獲得のためには映えがマストなので手を抜くことはできない。 砂藤に教えてもらったおかげで上手くできるようになったフレンチトーストを三十分かけて作り上げ…writening.net - 14二次元好きの匿名さん25/01/01(水) 23:25:47
- 15二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 00:26:31
エピローグの先生末っ子扱いされてて可愛い〜って思って読んでたのに小ネタでしんだ
前グルからの脱退メンバーで再結成してさらに新しいメンバー募集とか絶対当時のファン死ぬほど荒れただろうし新メンなんて受け入れられない人大勢いただろうし先生が大炎上したのもそこでついたアンチのせいなんだろうな…
それでもついてくファンは強いよ… - 16二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 00:46:00
スレ主14スレ目もお世話になります!
グループメンバーいい人たちばっかでほっこりした
脱退メンバーで再結成ってだけでも荒れそうなのに更に途中加入の新メンバーって絶対酷い荒れ方するし苦労しただろ
でもその時は相澤消太の記憶があるおかげで多少達観できてたのかな - 17二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 11:30:41
☆
- 18二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 14:00:43
14スレ目まできたのすごい!スレ主今回もよろしく!
性格が先生のままだからアイドルらしい愛嬌苦手だろうに1番愛嬌求められる末っ子ポジになったの面白い
アイドルSHOTAの物語もっと見たい - 19二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 14:07:17
- 20二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 14:19:49
さらに横から失礼するがたぶん14の言ってる濁点付き文字って「あ゛」じゃなくてスレ主がよく使ってる「あ゙」のことだと思う
- 21二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 14:41:32
格付けに呼ばれるSHOTAくん知識系は結構事前に勉強してくるから善戦するけど食べ物系で自信満々に絶対選んだらあかんやつを選択する信頼がある
そういうところで末っ子ムーブしてほしい - 22二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 15:01:11
サルミアッキを美味しいと感じる味覚とガンリキネコを多分可愛い猫キャラくらいに感じてる美的感覚だから飯系と美術系でボロボロになるSHOTAは余裕で想像できる
- 23二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 15:52:28
最後の最後で自信満々にチーム丸ごと画面から消し飛ばずSHOTA見たすぎる
普段しっかりしてるくせに意図しないポンコツな末っ子ムーブ見せられてファンは狂うんだろ知ってる - 24二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 16:55:11
相澤先生時代から体の管理の癖が抜けてないSHOTA可愛いなって思う
時間合理的に使いすぎて一日のスケジュール見たメンバーから「囚人のスケジュール」「限界サラリーマン?」って散々なこと言われてそう - 25二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 19:15:59
相澤先生時代にオルマイからのおすそ分けで何となく正解の味がわかるSHOTAいそう
- 26二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 20:02:22
「あのオールマイトも御用達のミシュラン三つ星フレンチ」を「これ昔ご馳走してあげるよって言われて食ったことあるな…」で当たるSHOTA良いな
- 27二次元好きの匿名さん25/01/02(木) 21:37:50
アイドル転生パロ最高すぎる
世間露出なしヒーローとの繋がりも一切なしの頃に現場でオタ活ガチ勢してる弟子を見つけた時の先生の動揺具合気になるな - 28125/01/03(金) 00:03:26
- 29二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 01:31:40
BLACK CASEのキャラの濃さと生い立ちにめちゃくちゃ興奮する
DD9からTAKUYA推してて脱退してから少し離れてたけどBLACK CASEで復帰した出戻り勢になってSHOTAの存在に対し若干のアンチになりつつTAKUYAの偉い懐きように脳破壊されたい - 30二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 07:16:53
蓮の愛されキャラ感ハンパなくて笑った
SHOTAのこと結構怖がってるのも面白い - 31二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 09:30:20
蓮絶対寸借詐欺とかにあってそうだしその度にSHOTAから「生徒たちより手がかかる…」って思われてそう
- 32二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 14:01:31
みつきのオールラウンダー具合すごいな
そら荒れますわ
みんなキャラ濃いけど根は優しそうな人ばっかでいいグループだな - 33二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 17:23:10
蓮がモニタリング的なやつで「メンバーから特殊詐欺にあったから助けてくれと泣きつかれたら信じる?信じない?」みたいな検証されて
先生に「あれ詐欺に引っかかったみたいで…」って言った瞬間に「お前が詐欺だってわかるわけねえだろ」と言われてぶつ切りされる伝説回とかありそう - 34二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 21:26:14
ドルパロ澤可愛すぎるから尊敬する人にオルマイを出してることだしサプライズでオルマイと出会うドッキリとか仕掛けられてほしい
たぶんSHOTAは秒で気づいてしまうんだけどこれきっとドッキリだよなって気にして気付かないふりをしててほしい
モニター越しに監視してたA組の誰かがたぶん「これバレてるよね?」って気づいて急遽逆ドッキリに変更される - 35二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 21:35:08
モニ◯リング的なやつならプロヒーローが近くにいたら気づく?気づかない?みたいなのもやって欲しい
秒で看破するけど「もしかして作戦行動中か…!?」って思って他のメンバー(仕掛け人)にヒーローの存在を気づかれないようにしてるんだけど仕掛けられてるの君って言う - 36二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 23:05:14
SHOTAくん前世からの癖で背後から忍び寄る仕掛け人にだけ異様な速度で気付いてほしい
最初こそ番組側も扱いに困ってたけど段々そういう師範キャラみたいな扱いされてくる - 37二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 07:59:53
あまりの無双っぷりにSHOTAの個性全然戦闘向きじゃないらしいけどもしやショートのような複数個性持ちでは?みたいに噂されてたら可愛い
- 38125/01/04(土) 15:40:04
たぶん明日なら書きに来れる〜
夢彼氏と炬燵でいちゃいちゃセッする先生♀を書く予定だよ〜 - 39二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 16:58:48
♀澤楽しみ!!
炬燵でいちゃセッとかえっちすぎる - 40二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 21:42:20
夢彼氏と先生♀の話嬉しい
スレ主の書く夢主SSちゃんと社会人同士の恋愛って感じがして好き - 41二次元好きの匿名さん25/01/04(土) 23:37:02
スケベだやったー!
夢彼氏と一緒にいる先生可愛くて好き - 42二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 08:24:43
夢彼氏と先生♀の話結構好きだから楽しみ!
- 43二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 18:31:53
☆
- 44125/01/05(日) 19:02:11
冬休み中、インターンに行っている生徒たちの報告をまとめつつ、改善点のレポートにまとめていると時間が迫っていることに気付く。
緑谷は片手でテレビを点けると、賑やかな音が一人暮らしの部屋に響いた。
新春特番は相変わらず華やかな芸能人たちがテレビを彩っている。それは子供の時から変わらない光景だ。
「あ、SHOTAくん出てきた」
最近推しているアイドルの少年が画面に出てきたのを視界の端で捉えて頬を緩める。かつての恩師に似ているという不純な理由で推し始めた彼らのことを、今緑谷は自分でも驚くくらいに気に入っていた。
「今日は元ヒーローたちと腕相撲大会かあ、平和になったな」
『これ本気で勝ちに行ってもいいんですよね?』
『おっ、SHOTAくん強気だねえ~』
『お前マジビッグマウスなのやめた方が良いぞ』
『勝つつもりでやらない勝負で勝てるわけないだろ』
「ははっ、好戦的だなあ」
司会の男が煽り、それをメンバーが窘めるもまったく効いた様子のないところもいつもの彼だ。
彼のテレビ出演を見るのはこれが初めてではない。 - 45125/01/05(日) 19:02:34
ファンになったことを自覚してからは彼がテレビに出るとなれば録画をし、インソタライブをすると聞けばアーカイブで必ずチェックをする。グッズは流石に控えめだが、恋人関係になった麗日と一緒に行こうとライブのチケットを取ったこともあった。
その時は流石にヒーローのデクとウラビティが会場に来ると騒ぎになるため、事務所から連絡があり関係者席を用意されたけれど。
「相手は発動型“個性”のダンクマンか。右腕だけだけど増強率は砂藤くんを超えた七倍だしまともにやりあうんじゃSHOTAくんじゃ勝ち目ないけどどうするんだろう」
レポートはこれ以上やるとながら作業になってしまうため一旦止めて緑谷は画面に集中した。元とはいえ一線で活動していたヒーロー。特にダンクマンは足の怪我が原因で引退したものの一昨年まで現役で、今は地元の消防団で最前にいるはずだ、他のアスリートなどよりはずっと手ごわい。
- 46125/01/05(日) 19:02:56
『ダンクマンにはハンデとして左手で勝負をしていただきましょう!』
『いや、そう言うの良いです』
『へえ?』
『いや、ちょっとSHOTA……』
『右手で構いません。意味がないので』
「ええっ」
沸き立つ会場、にやりとニヒルな笑みを浮かべるダンクマン。青ざめるメンバー。面白がる司会。どこまでが台本なのかわからないがこれには緑谷も思わず驚いた声を出してしまう。
「右腕はダンクマンの“個性”の範囲内だ……SHOTAくんそれ知らないのか……? いや彼が共演者の情報をサーチしてこないわけがないし……それか他の勝算があるのかも……?」
この場合、アイドルは場の賑やかしとして呼ばれているだけだろうことは素人の緑谷にもわかる。肉体派のアイドルが本気を出しても勝てない相手、それがプロという感じの演出をしたいのだろうテレビの思惑も。
だが、何故だろうか。
- 47125/01/05(日) 19:03:23
「どう、するんだろう」
彼が元ヒーローと比べて全く相手にならないとは思えないのは。
『それでは両者睨みあって……レディ……』
緑谷の呼吸が止まる。
テレビからも一瞬、音が消えた。
『ゴッ!』
ダァン!
ゴの「g」の発音が出た瞬間に響き渡る轟音。それが、ダンクマンの右腕が机に叩きつけられた音だった。
余りのことに悲鳴が起こる会場、呆けた表情ののちカメラに抜かれて大笑いをするダンクマン、手ごたえがあったのかいつも通りクールな表情を崩さないSHOTA、そして大きなリアクションを取るメンバー。
「うわあ!」
『えっ、なになになになに!? 勝った!?』
『ん』
『えー! マジ!? SHOTA八百長した!?』
『するかよ。RENお前そういうところ迂闊だしどっちにも失礼だぞ』
『えっ、あ、ごめん』
『はははっ、強いなあ負けちまったわ!』
『それではリプレイを見てみましょう!』
ダンクマンが爽やかに笑っているのが唯一の救いだろうか。緑谷も自身の動体視力で「何が起こったのか」は大体わかっているが「どうしてそうなった」のかはわからない。
- 48125/01/05(日) 19:04:04
スローで再生される映像を凝視する。
『合図がかかった瞬間……』
「なるほど……? ダンクマンが“個性”を発動するよりも早くに反応して叩きつけたのか……? でもどうしてそんなことが」
『勝因は?』
『事前の情報収集ですかね』
『というと?』
『過去のヒーロー活動を見させていただきました。その中で注目したのがオーディエンスが居る時の敵対応です』
『敵対応?』
『挑発をしてくる敵に対しその挑発に乗る形での対応していました。これはオーディエンスを盛り上げるというヒーローとしてのプロ意識でもあるでしょう』
『ちゃんと見てるねえ~』
ダンクマンは苦笑いをしつつも感心している。
確かにヒーローは周りにオーディエンスがいる場合彼らを安心させるため、もしくは後々の活動の為にあえて敵の挑発に乗ることが多い。そちらの方が一般人の心証がいいからだ。
かつてダンクマンの活動を見たことのある緑谷もそれは感じていた。特に彼はパフォーマーとしての気質が高く、その性質が強かった。
- 49125/01/05(日) 19:04:47
「そこまで見ていたのか……」
『つまり最初の挑発はわざと?』
『はい。そうしたら右手を絶対に使って尚且つ“個性”も使用してくると思ったので。俺は明らかな素人ですし、真面目に戦ったら塩試合になってしまいます。なので場を盛り上げるためにも“個性”を使ってくるのは読めていました』
『ここまで読まれちゃうともうプロ形無しだなあ! いやもう引退してるんだけど』
『でも“個性”使われちゃったら意味なくない? 絶対勝てないじゃん。いや勝ってんだけどさ』
RENの言葉に司会者が頷くが、緑谷は首を横に振っていた。確かに通常の戦闘ならば“個性”は使われない方が良い。
だがこの場合は……。
「アームレスリングなら、瞬発力が高い方が勝つ」
『アームレスリングなら、瞬発力が高い方が勝つので』
腕相撲とは腕力のみの勝負に思えるが、そう言うわけではない。昔爆豪と腕相撲勝負になった時に勝てなくてかなり試合について調べたことがあるから知っていた。
合図とともにどれだけ早く相手を倒せるかの勝負、つまりスタートの瞬発力が物を言う。特に力が入る直前の脱力した状態ならば、合図が出た瞬間に動けたほうが勝てるのは道理だ。
- 50125/01/05(日) 19:05:20
『“個性”発動までにはコンマ二秒かかります。そのうえで、ダンクマン さんは合図より前に発動させることはないと思ったので、瞬発力勝負にかけました。コンマ二秒より早く倒せば勝てるので』
『すごい、ここまで必勝法を詰めてくるのは番組初ですよ!』
『いや本当に凄いな。ウチの元サイドキックが独立して新しいサイドキック探してるんだけどどう? 今から免許取らない?』
『遠慮しておきます』
『ははっ! 振られちまったぜ!』
『すいませんうちの末っ子が……』
番組は和やかなムードでそのまま別のコンテンツへと移った。恐らく出番はこれだけだろうとテレビの音量を下げる。また出てきたら視線を戻せばいい。
携帯を点けてSNSを開く。おすすめ欄はSHOTAのことであふれかえっていた。推しが褒められているのは個人的に気分が良い。
幾つかを流し見してから「SHOTAくん凄かったよ~!」と自分でもポストをし、閉じようとしたとき偶然流れて来た一つのポストが目に入った。
- 51125/01/05(日) 19:05:45
- 52125/01/05(日) 19:06:07
恐らくは茶化した言葉のそれに、緑谷は反射的に携帯の画面を落としてしまう。
思い出すのはあの日、麗日と共に特典会に臨んだ時の光景だ。CDを買うごとにチェキやお話が出来るそれは自分たちにとっては初めての文化で、とりあえずチェキを一枚お願いした。
現れたSHOTAはパフォーマンス後にも関わらず息は乱れていなかった。ライブ中も何度か目が合っているはずなのに、今日初めて見つけたと言わんばかりに目を見開かれた後、泣きそうな顔をして「ポーズ何にしますか?」と聞かれたとき、あまりにも頭が真っ白になってしまった。
その、見開いた目が余りにも恩師に似ていたから。
こちらも感極まってしまって「じゃあ、握手で」と意味不明なポーズを注文してしまったし、同じ流れで麗日も握手をしていた。それは結果としてネットニュースに流れ、A組のみんなからは笑われたけれど、心操と爆豪だけは何も言わなかった。
彼らも「そう」だったのだろう。
「前世がヒーロー、か」
信じてしまいそうになる。信じたくなる。
それでもそんなことはあり得ないのだと、緑谷は頭から振り切ってレポートに向かった。
- 53125/01/05(日) 19:07:09
- 54二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 19:29:38
アイドル澤の話嬉しい!
バラエティの流れ無視してガチで勝ちにいくSHOTAで笑ってたのに最後の元生徒たちとSHOTAとのやり取りですごいやるせない気持ちになった…
すけべな話も楽しみに待ってます! - 55125/01/05(日) 20:55:15
へいお待ち!
スケベも書いてきたぜ!
短いけど書きたいやつが二個あったから二本立てだよ
【R18】夢彼氏x相澤♀ 2本立て | Writeningイメプ編# 四十代の男の土下座は見苦しい。 相澤は外から帰ってきた冷たい体をそのままに捕縛布を取り、上がり框で土下座をしている男を素通りして部屋に入ろうとした。 「お願いお願いどっかいかないで…writening.net今日は既にドルパロ澤も書いてるから見てくれると嬉しい
明日が仕事はじめなので今日はもう寝るぜ寝るぜ寝るぜ
おやすみ!
- 56二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 21:02:01
昨日からスレ追いかけ始めてやっと追いついた
スレ主書き続けてくれてありがとう
ドル澤最高過ぎるよ…! - 57二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 21:21:52
ドル澤はやく生徒に前世バレしてくれ〜〜〜〜!!!!先生がアイドルとか似合わなすぎて確信までに至れなかったわって生徒にゲラゲラ笑われた後に泣きそうな顔で抱きつかれてくれ〜〜〜〜〜!!!もどかしい!!!
- 58二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 23:22:23
まさかのスケベ二本立てで感謝
ドル澤の前世バレてほしい気持ちとこの絶妙な距離感をもっと見たい気持ちとでムズムズする〜
夢彼氏と先生♀のイメプも炬燵のイチャイチャセッもエロすぎて明日からの労働頑張れそうだ
1日でSS3本も書いてくれてありがとうスレ主
まじで命助かる - 59二次元好きの匿名さん25/01/05(日) 23:23:17
ドル澤見た元同僚たちの反応が知りたい
マイクはドル澤見て気付くのかな - 60二次元好きの匿名さん25/01/06(月) 06:46:41
すけべもドル澤もどっちも最高…
ありがとうありがとうありがとう - 61二次元好きの匿名さん25/01/06(月) 08:30:13
先天性にょたも好きなんだけど後天性にょたも好き
スレ主の書くありきたり個性事故でにょたったり幼児化する相澤先生みたいな - 62二次元好きの匿名さん25/01/06(月) 18:37:03
ドルパロ澤からのすけべ♀澤先生で脳焼けそう
どっちもとても好き - 63125/01/06(月) 19:50:28
アイドルという職業を知ったのは七歳の時。
父の友人が出るという音楽番組を家族で見ていた時のことだ。メジャーデビューを華々しく果たした彼らの出番の前に現れたのは華やかな女性の集団。
子供ながらにキラキラした彼女たちに一瞬で虜になった。可愛くて綺麗でふわふわしてて、当時ウチが口では否定しながらも心の奥底で欲していた女の子らしさ全てがそこにあった。
でも、音楽家の娘の性だろうか。
どうしても気づいてしまう違和感、それは次第に嫌悪感へと変わった。
キラキラした可愛らしいアイドルの流れてくる声と口元が合っていなかった。
それに気づいて以来、アイドルは嫌いだ。
‡
エヴィバディアユレディ?
『お前らおまちかね!プレゼント・マイクのぷちゃへんざレディオの時間だぁ!』
金曜日の夜一時から朝の五時までぶっ通しの頭がおかしいラジオ。近所迷惑にならないように音量を少し絞ってそれを部屋に流していた。
耳郎が彼のラジオを流すようになったのは最近の話ではない。学生時代、音に関する“個性”ということで師事してからずっと習慣としていることだ。今はもう耳郎の方がヒーローランクは上だけれど、この習慣をやめるつもりはなかった。
「……はあ」
なかった、のだが。
スピーカーの向こう側、ご機嫌な声が重ねた年齢を感じさせない声量で一人の名前を呼んだ。
『今日のゲストはぁ〜!!!ナ、ナ、ナァント!今をときめく超新星!BLACK CASEのSHOTAだぁ!』
『どうも、よろしくお願いします。SHOTAです』
紹介された名前に舌打ちが出そうになって、それが最悪なことだってわかっているから唇を噛んで耐えた。 - 64125/01/06(月) 19:56:50
ただいま!
保守とか感想とかありがとう!
ご新規さんもきてくれて嬉しい!気の狂ったスレ主を楽しんでくれよな!
私が後天性女体化を書くと体と心の性の不一致やホルモンバランスの変化故に全てが気持ち悪くなって必死に平静を保とうとするのにその仕草がまるで守られる女みたいで自分自身に腹が立ってどうしようもなく悲しくなるみたいな可哀想な先生になってしまうからたぶん求められてるものは書けないかな…
なんかアホエロのノリを書きたくなったら解釈なんざ洒落くせぇ!って書くかもしれんが
これは明日続きを書く予定のやつ
ドルパロ興味ない人はごめんやで
私の熱意が熱いうちに粗方書きたいんや
今日は仕事始めでマジで限界なのでもう寝る
- 65二次元好きの匿名さん25/01/06(月) 23:02:25
ドルパロすごい続き気になる!
親友のラジオ現場に呼ばれるの嬉しいけど先生めちゃくちゃ困惑してそう
マイクが勘づくのかも気になる - 66二次元好きの匿名さん25/01/06(月) 23:17:14
スレ主お仕事お疲れ様!
後天性にょた好きって書いた者なんだけど、スレ主の解釈と文体が好きだから
こちらが求めてるものとか無視して筆が乗ったら書いてくれ…!
好きなシチュで〜とか好きなキャラで〜とかそんなん全部そっちのけでただただスレ主の書く文章が好きなんだよ…!
スレ主の文章上手すぎて知らんジャンルでも苦手なCPでも全部読みたいんだ…!
だからとにかくスレ主が楽しく書きたいように書いてくださいお願いします
あと単純に可哀想な相澤先生好きです
肉体的より精神的にぼこぼこでしんどい先生癖です - 67二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 00:06:41
スレ主お疲れ様
アイドルパロありがとう
耳郎ちゃんアイドルはあんまり認めれない感じか
1人残された山田と転生したドル澤のやりとりも気になるな - 68二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 06:22:55
音楽やってた人だと口パク許せないのはしょうがないよな…
こっからどうなるか楽しみ - 69二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 07:06:56
マイクのラジオに登場するの嬉しい!
マイクは気づくのかな - 70二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 07:08:14
ドル澤の続き楽しみ!
マイクとどんな話するのか気になるし耳郎ちゃんの反応も気になる! - 71二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 18:18:44
保守
- 72125/01/07(火) 20:31:45
すまん体調ゴミで今日書けんわ
寝るぜ - 73二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 20:42:11
スレ主しっかり休んでくれ
お大事に - 74二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 20:45:39
そういえば体調良くなったら教えて欲しいんだけど
スレ主が一纏めにせずにss投稿する時に間に感想を書いていいの? - 75125/01/07(火) 20:51:02
- 76125/01/07(火) 20:58:39
三次創作とかも嬉しい
あんまり数多くなってきたらさすがに別スレとか立てると思うけどまあそんなことにはならんやろ
投稿するときはスレあんま消費しないようURLで投稿してくれるとありがてえで - 77二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 21:00:24
- 78二次元好きの匿名さん25/01/07(火) 23:38:57
スレ主お大事にやで
七草粥でも食べていっぱい寝てくれ - 79二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 07:02:20
スレ主お大事に〜
三次創作ができる人間ではないが感想はこれからもバリバリ言っていくぜ - 80二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 12:55:10
いつでも感想言っていいってことなんで遠慮なく言うんやが
マジでずっと一作目に脳を焼かれ続けてる
先生もホークスも死を感じさせない話し方をするのがなんか15分くらいの短編映画みたいな空気感あって好き
最期骨壺になって帰ってきた先生の衝撃をリアタイしてからずっとこのスレにいるくらいにはあれに脳を焼かれてる
ふとした時にもう一回読みたくなる - 81二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 13:42:23
パロの中でも芸能系パロが大好きなんだけど、ドルパロ澤がクリティカルゾーンに刺さって抜けん
前世バレしろ…!っていう感情とこのままでもいいな…って感情が反復横跳びしてる
ダイナマとSHOTAが絡んでるとこみたいけど絶対炎上するんだろうな… - 82二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 19:07:29
自分はリオルと先生の話が好き
特にゲンガーが大好きだから先生の元相棒がゲンガーめっちゃ嬉しかったのと先生とリオルが今後どうなっていくのかも気になった!
あとプロヒ達の相棒ポケモンがしっくりきすぎて毎回楽しみにしてた - 83二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 19:29:04
私は公安澤の話が好き
日本戻った後プロヒーローと生徒達から怒られ悲しまれるのが想像できて切ない気持ちになったしホークスの部下になった後どんな仕事してるのか気になる - 84125/01/08(水) 19:29:16
- 85125/01/08(水) 19:30:03
- 86二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 20:54:49
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- 87125/01/08(水) 21:01:29
最近、友人たちがこぞって推しているアイドルSHOTA。爆豪との炎上記事から飛躍的に注目度が上がり、ヒーローを中心に口コミが広がって今や知らない人はいないほどの人気となっている。炎上した当初は見たこともないアイドルに憐憫の情すら湧いたが、次第に友人たちがハマっていく姿を見て興味と綯い交ぜになった気持ち悪さのような感情を抱くようになった。
出来るだけ自分の視界から排除するようにしており、動画も見ていない。歌だけはどうしてもテレビをつけるとBGMで流れてきてしまうので聞いているが、そのたびに何とも言えない気持ちになった。
SHOTAと言うこの少年が悪いわけではない。彼のことは何も知らないが、友人たちがそこまで推しているのならばきっと悪い子ではないのだろうし、努力家なのだろう。
だがそれでも、どうしても『アイドル』は好きになれない。
口に出すことも憚られる感情が、そこにはあった。
『最近めっちゃ凄くね? BLACK CASE、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いってヤツゥ?』
『ありがとうございます。実際これだけ反響を頂けていて嬉しい限りです』
在学時代世話になった恩師のラジオで、しかも本人から「今元A組で流行ってるSHOTAをゲストで呼んだからラジオ聞いてくれよナ!」とメッセージ迄貰ってしまっては聞かないわけにはいかない。
- 88125/01/08(水) 21:05:56
敵がいれば飛んでいけるが生憎と平和で呼び出し音すら鳴らなかった。深夜一時なので寝落ちしたという言い訳はできるだろうが、あの人に嘘を言いたくなかった。深呼吸して、心を落ち着かせながら話を聞く。
『っつーかバリバリ未成年なのによく来れたな、誘ったの俺だけど』
『事務所からの許可と文科省からの許可と両親からの許可があれば未成年でも深夜労働が出来る制度が昨年成立して、そちらを使いました』
『モォンカショー!? いろんなところに掛け合ってくれたんだなあ、サンキューSHOTABOY!』
「真面目だな……」
聞いたことのない制度に耳郎は文科省のページを検索した。
昨年急遽決定した制度で、様々な条件を満たした場合に限り特例として一か月に六時間以内の深夜労働を未成年に許可すると書かれていた。
「……もしかしてこれって」
提案された時期と、成立した時期。それを見比べるとなんだか嫌な予感がする。
爆発的に有名になった少年を無理やりテレビや放送に出させるための制度なような気がしてならないのだ。
そこにも、漠然とした気持ち悪さがあった。
- 89125/01/08(水) 21:10:28
『じゃあさっそくプロフィール紹介といきてえんだが……SHOTA○○高校通ってるってマジ?』
『はい、出席日数は考慮してもらっていますが普通科に通っています』
「○○高校の普通科!?」
嫌な感覚を通り越した驚きに思わず声が出る。
○○高校と言えば耳郎でも知っている名門校だ。雄英の普通科よりは低いが全国的に見てもかなり偏差値の高い高校であることには間違いない。
嫌悪感が驚きに塗り替えられて、スピーカーに釘付けになる。
『授業とかどうしてんの?』
『うちの学校はリモートでも授業が受けられるのが強みなんです。なのでリモートで受けられる授業はそっちで受けて、学校に行くときは実験等をやってます。その方が合理的なので』
「リモートで授業……そっか座学ならそれでも良いんだ」
正直学校に必ず行かなければいけないという先入観があったので目から鱗だ。○○高校のホームページを見てみると、確かにリモート授業についてはかなり目玉として推しているようで大きく書かれている。
授業動画は一週間保存されており、学生ならば好きなタイミングで見ることが出来るのだそうだ。これは雄英高校時代にも欲しかったシステムだ。今度母校に寄る時緑谷に言っておいた方が良いかもしれない。
- 90125/01/08(水) 21:11:05
『ぶっちゃけ学年の順位的な? そっちはDoなのよ』
『レッスンとお仕事の時間以外を勉強に当ててどうにか学年二十位くらいですかね。来年はもっと忙しくなるのでキープを頑張りたいと思ってます』
『学年に何人いての二十位?』
『二百五十人くらいです』
『Oh~! 超超超超ユートーセーじゃねえか!』
「○○高校の全体十パー以内……」
しかも耳郎が意図的に情報を排そうとしなければ目に映ってしまうくらいには多忙も多忙を極めている現役アイドル様がだ。
一周まわって尊敬の念すら浮かんでくる。胡坐をかいていた足を綺麗に伸ばして頬杖をつきつつご機嫌な音でしゃべるスピーカーを見つめた。
『ンじゃ次の項目な~』
寄り道をしつつも的確にプロフィール紹介が進んでいく。最近デビューしたばかりだが他の四人は別グループの経験者だということ、SHOTAはそこに最近入ったルーキーであること、CDの売上枚数、出演した音楽番組、本人の体力、バラエティ適正、その他エトセトラエトセトラ。
最初のインパクトが強すぎたおかげか、動揺が収まらないうちにスルスルと情報が入ってくる。
耳郎の頭の中にも、今まで拒絶していた彼の情報が自然と入力されていった。
だが。
- 91125/01/08(水) 21:15:47
「いや、でもさ……」
誰もいないのに出てきたのは言い訳の言葉だった。あとに言葉が続かなかったが出てくるものは決まっていた。同時に、そんなことを言うのはひどく醜いということも、わかっていた。
誰に向けているかもわからない気まずさが、自分の頭を下に向けていく。
『好きな音楽は~っと、お、なっつかし!『Hero too』とか好きなんだ』
「えっ」
衝撃を与えられたときのように、頭が弾かれて上を向く。
『名曲だよな~』
『いい曲ですよね。すごく……なんというか、エネルギーを貰えるというか』
『いいこと言うジャン~!』
「っ」
耳郎の思考がぐらつく。
そうだ、この曲はいい曲だ。誰もかれもが盛り上がれるし何十年経ったって色あせない。ヒーローがきっと必要なくなる未来にだって紡がれていく名曲だ。
思い出されるのは高校一年生の文化祭。
クラス全員でまとまって前を向き、同じものを作り上げた数少ない時間。土と埃と血にまみれた一年間だったけれど、その中にある確かな思い出が彼女の中に息づいている。
- 92125/01/08(水) 21:16:39
「懐かしいな……」
口元は緩んでいた。
否定の言葉は出てこず、ただ同じ物が好きな同志を見つめる瞳になってしまう。穏やかな気持ちに、これで良かったのだと安堵した時だった。
『でもこの曲聞いたら普通はヒーローになりてえってなるんじゃん? どうしてアイドルに?』
『一番落ち込んでいる時にこの曲を歌ってくれた人がいるんです』
『落ち込んでるとき?』
『十年前に災害があったじゃないですか。俺、そこで被災していまして。そこで慰安コンサートをしてくれたアイドルがこの曲を歌ってくれ』
反射的に、電源を落としていた。
ずっと克服していたと思っていた、最悪な感情が耳郎の胸の中から芽を出して内側を食らおうとする。それを必死に抑え込んで、代わりに涙が出た。
「ウチ、最低すぎる……」
あんなに努力家な少年を、たったこれだけのことで嫌いになりそうになっている。
自分はどうしようもなく矮小で最低だ。頭の中を不協和音が支配して吐きそうになった。弱い自分が嫌いだ、馬鹿な自分が嫌いだ。こんな、こんな情けないことで他人への評価が定まってしまいそうな自分が、どうしようもなく嫌いだ。
耳郎は、誰にも言えない思いを抱えたまま音もなく泣いた。
- 93125/01/08(水) 21:19:32
‡
空が白んでいる。
しっかりと仮眠をとって臨んだからまだ眠くない。終了の合図を聞いて体から力が抜けそうになるのをこらえた。
「や~、今日は良かったぜSHOTA~!」
「ありがとうございます」
出来る限り丁寧なお辞儀をすると、金のトサカを持つ男は相変わらず大きな声で笑っていた。怪しまれていないことに内心胸をなでおろして鞄を抱えなおす。
「今日はこのあと寝んのか?」
「いえ。物理の範囲が少し広がったのでちゃんと復習をしたくて」
「真面目だなぁ。飯とかどーしてんの?」
「あー……今日は、適当になんか、食べます」
勉強をするのは嘘だ。物理は昔から得意だったからこれ以上勉強しなくてもついていける。家に帰ったらレッスンと今日の反省点の洗い出しをするつもりだったけれど、もしそんなことを言ったらこの世話焼きの男が飯でも行こうぜと言ってくることは目に見えていた。
いくら眠気が殆どないとはいえ徹夜明けの判断力が鈍っている状況でこの男とこれ以上ここに居たくはない。帰るそぶりを見せれば「気をつけて帰れよ」と言いつつ手を振ってくれる。
- 94125/01/08(水) 21:20:29
「あ、そうだこれ」
「……なんですか」
「タクシー代」
「貰えませんよ」
「ガキをこんな時間に一人で出歩かせらんねえのよ大人は。良いから遠慮なくもらっとけって」
──昔から、この男はこう言う奴だ。
明るくて喧しくて人のことなんか何も考えてないように見えつつ、その実誰よりも人の機微に敏感だった。それでいて距離感を測るのが絶妙にうまいこの男に、かつての……相澤消太は甘えていたのだ。
しぶしぶ、車代を受け取る。
下にはタクシーが待機しているといい、マイクが案内を買って出た。別になくてもたどり着けるが、古株ヒーローであり大物ラジオパーソナリティでもある彼から顰蹙を買うのは宜しくない。
並んで廊下を歩いた。
- 95125/01/08(水) 21:24:18
「マッジでお前ツイスターゲーム強かったな!? オッサンビビったわ」
「はあ。あれはマイクさんが弱すぎるだけじゃないですかね。関節曲がらなすぎでしょう」
「シヴィー! 四十五歳の関節がそんな簡単に曲がるわけねーだろ!」
「俺の年齢の三倍か……想像つかないですね」
「お前よく可愛くないって言われねえ?」
「ラジオ中に四回言われましたね」
「ウッソ! 俺そんな言ってた? ソーリーソーリー!」
「いえ、自覚があるんで別にいいですよ。MITUKIからも直せって言われてるんで」
「あ~、あの子優しい顔してそこらへんキビシーよな」
「本当に。笑顔が下手ってかなり怒られました」
「こないだの赤白ンときゃよかったじゃん!」
「あれはまぐれなので。もう少し安定して出したいです」
「GOOOOOOODな目標だぜユートーセ―! やっぱ上目指してかねえとな!」
「そうですね、メンバーはみんななんだかんだベテランなので、あいつらに恥じないアイドルでありたいです」
「Oh……想像の百倍まともな答えでおっさん感動しちゃったぜ。あ゙~、話してたら腹減ってきたなあ! なあ今の時間からやってる飯屋あんだけど相澤一緒に行かね?」
「いや、俺は」
- 96二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 21:25:43
マイク気づいた!?
- 97125/01/08(水) 21:29:52
廊下のど真ん中で足が止まる。冷や汗が背中を流れ伝う。
否定すればよかった。
言い間違いですか? と聞けばよかった。
けれどあまりに耳になじんだ名前が、拒絶することを許さなかった。
「……マ~ジか」
少し高い所にあるマイクの顔が、苦い料理を食べたときみたいにくしゃくしゃになっていた。言い訳の一つも出ない状態で固まった俺の肩に手を置いて、力なく笑う。きっと逃げてもこいつは追ってこないけれど、今逃げてはいけないことなど分かっていた。
顔を上げて恐る恐る表情を見るが、角度が変わってサングラスの反射光で見えなくなっている。自分の薄い唇をかんだ。
「とりあえず、サ。飯食おうぜ。場所は……わりぃけど俺ン家で良い?」
「はい……」
肩に置かれた手を振り払うことは出来なかった。
呼んでいたタクシーには代わりにスタッフが乗って家に帰っていく。俺は地下の駐車場まで行って見覚えのある真っ青なスポーツカーに乗り込んだ。
- 98125/01/08(水) 21:36:01
‡
空気は重苦しかった。
「いやマジ!? リアリ!? お前自分の意志でアイドルやってんの!?」
訂正、そんなことはなかった。
騒がしいマイクの声にソフトドリンクを飲みつつ柔らかなソファに背中を預けて裂きイカを口に入れた。わざと音を立てて食べれば「お下品~」と笑われる。
酒ですべて忘れてしまいたいが十五歳の体にそんなものは与えられないしどこで誰が見ているかわからない。もうアングラヒーローではないのだ。
「わりぃか?」
「いや悪くはネーんだけど……ぜんっぜん想像つかねえな。誰かに脅されてとか、親に勝手に書類送られてとかじゃねえんだ」
「……ちゃんと自分の意志でやってる。寧ろ親からは反対された」
「だろなあ。あんなにお勉強できんのに」
「勉強は楽しいが、アイドルは馬鹿って言うレッテル貼られやすいから、どっちかというと自己防衛だ」
サングラスを外して髪を降ろした旧友は随分と皴が顔に刻まれていた。順当に老けた彼に、生徒たちと出会った時よりも時の長さを感じてしまう。
- 99125/01/08(水) 21:42:55
もし自分も隣に居ればそうなっていたのだろうな、と思考が湿っぽい方へと行きそうになるのを気合で堪えた。
「お前はどこで気づいたんだよ」
家について早々質問攻めにあい疲弊していた俺はやっとのことで本題に切り出せる。
マイクはコーラを片手に飲みつつ、「Uh~m」と勿体つけた口調で口ごもる。
「おいマイク」
「いやさあ、気づいてねえんだわ」
「あ゙?」
「だからさ、俺、気づいて声かけたわけじゃねえのよ」
どういう意味だ。
嫌な予感がして睨みつけると「消ちゃんこわぁ~い」と茶化された。こっちはマジでやってんだよ。
暫く視線を送っていると、降参のポーズがとられる。
「まずお前を収録に誘ったのはA組へのサービスな。最近アイツらお前にハマってるらしいから」
「……なんでアイツらとそんな仲良いんだよ」
「聞いてねえの? 俺お前が居なくなった後の担任」
「あ゙!? お前ラジオと掛け持ちできねえから担任持たねえって散々言ってたじゃねえか」
「ンなこと言ってられる場合じゃなかっただろうがよ。ただでさえお前って言う古株居なくなっちまったのに……と、これは言わねえ約束だわな」
そんな約束はしていないが。
- 100125/01/08(水) 21:46:55
だが、そうか。マイクがA組を見てくれていたのか。そう思うと少し心が落ち着いた。この男は気がききすぎるところがあるが、それはあの大戦を経た生徒たちには救いになっただろう。
「……助かった」
「そういうのは生きてる時に聞きたかったぜ」
「勝手に死んでごめんとか言うべきか?」
「ああ言っとけ言っとけ。大事な友達三人共死んでごめんって言っとけ」
投げやりな態度で本気か冗談かわからないことを言われた後「脱線したわ」とセルフで話を戻してくる。こういう時何も言わなくても伝わって助かった。
「そもそも呼ぶきっかけがアイツらが「SHOTAって相澤先生に似てるところあるんですよね」って言ってたからなわけよ。主に俺の情報源は緑谷なんだけど」
「俺そんな感じになってんのか……」
「俺はそれを流しつつ「あ゙~、こいつらやっぱ赤の他人に面影重ねるくらい相澤のこと引き摺ってんのか……可哀想に」って思っちまってな、お前を呼んだわけ」
「ご丁寧にどうも。で? 会ってみた感想は?」
「緑谷の言う事馬鹿に出来ねえ~だった」
そんなに昔の面影があっただろうか。これでもかなり今風に寄せられるよう努力をしているつもりだったのだが。
- 101125/01/08(水) 21:55:01
「プロフィールも意図的に随分変えていたと思うんだが」
「なんだろうな、雰囲気? そこらへんがもうお前なんだよな。猫背以外」
「なんだよそれ」
「あと時々合理的な口癖出てただろ。ああいうの聞いて「相澤がこんくらいの時って雰囲気こんなんだったっけな~」って思って接してたワケ」
釈然としない。
不貞腐れていると「下唇出す癖は変わんねえな」と指摘されて慌てて元に戻す。この顔はあまりウケが良くないからやめた方が良いとマネージャーやメンバーからも言われていた。
俺の不満そうな目にマイクは皴の刻まれた口元で笑った。
「そんでよ、お前が相澤だったら良いな~ってなんとなく思いながら話してたら、あの名前が出ちまったわけ」
「……じゃあ俺が墓穴掘っただけだってのか」
「あそこでなんか訂正されてたら俺だってごめん言い間違えたって言ってたわ。あんな悪戯がバレたガキみたいな顔しやがって」
頭をぐしゃぐしゃに撫でられて振り払う。ラジオの収録だけだから髪はセットせずにそのままだ。癖がつかないうちにさっさと手櫛で直す。
- 102125/01/08(水) 21:55:30
「そういうところは昔と全然ちげえんだけどな」
「そりゃこっちでもう十五年生きてるからな、記憶があるだけで殆ど別人だよ」
「本当か~? それにしちゃ結構怪しまれてたぜ」
「……どこでバレんだよ」
「足の運び方とか」
「染みついてんだ、音消して歩くの」
机に置かれたクラッカーを食べる。サクサクとした触感が心地いい。少しの無言のあと、なんとなく視線を窓に向けるとカーテン越しに太陽がやっと高くなり始めていた。
手持無沙汰になったことが伝わったのか、マイクが気まずそうにして口を開く。どうやらここからが本題らしい。
「お前にさア、言っとかねえといけないことがあるんだわ」
「なんだよ」
「俺A組へのサービスってことでお前呼んだじゃん?」
「そうだな」
「でも中にはお前のことあんま好きじゃない奴がいてよ」
「…………待て、俺は今十五歳だからな?」
「傷つくような伝え方はしねえって」
- 103125/01/08(水) 21:56:32
元生徒たちに嫌われているということはかなり傷つく。いくら前世分の心はまだ体に引っ張られているせいでそこまでの強度はない。
言葉少なに伝えればマイクには伝わったようだった。言葉を選ぶようにして言い淀みながら、一人の人物をあげる。
「耳郎」
「じ、ろう?」
「あ~、嫌いってことじゃなくてな、なんかアイドル全般があんま好きじゃないっぽくて」
「本人が言ってたのか?」
「いや……なんつーか、その、俺アイツの師匠みたいなもんで、そんで他の奴より話す機会が多いから」
「お前が師匠!? 正気か!?」
「ダミッ! 今日イチ驚いた顔してんじゃねえよ腹立つな!」
耳郎がアイドル嫌いというのは聞いたことがないが、そもそも生徒のプライベートなことを聞いたこともないので当然だ。
そういえば耳郎は音楽が好きだった。アイドルというとやはり軟派な感じがするのだろうか。
「そんで……まあ、それ自体はただ好みの問題なんだが、アイツが本気でアイドル嫌いになったのには大きな理由があってよ」
- 104125/01/08(水) 22:02:14
「それ俺に言っても良いのか?」
「お前に言っておくと後の話がスムーズなんだよ」
それはマイクだから言ってくれた耳郎の期待を裏切ることになるのではないかと思ったが、今はもう全く関わることのない俺に言ったところで問題は確かに少ない。
そう思われるのは少し寂しいことだが。
「理由ってのは」
「……十年前、お前も巻き込まれた災害が合ったろ。死者が五百人を超えた、大戦以降最悪の災害」
「あ、ああ」
「あそこにな、アイツも居たんだ」
それがどうしたというのだろう。別にヒーローなのだから災害現場に居るのは不自然ではないはずだ。寧ろ、イヤホン=ジャックの“個性”は要救助者を見つけるのに適したものだ。フル稼働していてもおかしくはない。
マイクがその程度のことを理解していないわけもない。この男のヴォイスも災害現場では役に立つ便利な“個性”なのだから。
「大戦経験者っつっても、あの頃は明確な敵が居て、そっちに憎悪が向いていたからな。あれとは勝手が違う。災害ってのは誰を恨めばいいかわからない、当然市民の気もかなり荒くなる」
「だからそれが……」
「あいつはまだ、デビューしてから三年程度のペーペーだった」
- 105125/01/08(水) 22:03:27
俺の言葉を遮るような声は、少しだけ切羽詰まっている。かすれた音が耳障りだ。
「そりゃ現場に出ればみんなプロだよ。学生の時すらそう言われていたのにモノホンのプロが泣き言なんぞ言ってらんねえ。それでも毎日「どうしてもっと早くみつけてくれなかったんだ」って遺族に泣きつかれながら瓦礫の中を生存者を探すために奔走していたアイツが、擦り切れそうになることの何が変だってんだ」
……俺には正直そこまで響く内容じゃなかった。
それは俺が在学中に親友の死を間近で見たせいもあるのかもしれない。死を嘆く暇すらなかったせいかもしれない。だがそうだ、耳郎や生徒たちはあの大戦後きちんと心の整理をつける時間を得た。
その時間が、彼らの決意を強くする一方で人の死という物に対する耐性を減らしてしまったのかもしれない。
「まあ、とにかくよ。同年代と比べても特にアイツは“個性”の都合上死体を見まくってて結構ギリギリだったわけ。そのうえ被災者の人らもいっぱいいっぱいで有難うすらいえなかったしな」
「……まさか」
「ああそうだ。やっと事態が落ち着いて復興フェーズに入れるぞってなった時、来たのがあの慰安コンサートだ」
- 106125/01/08(水) 22:04:16
俺はあの日のことをよく覚えている。
救われた「あと」の話しだ。家がなくなってしまい、周りの人たちの中には家族が死んだ人たちもいた。空気は最悪で、これから頑張っていこうと言えるような状態ではなかった。
そこに現れたのが、アイドルたちの慰安コンサートだった。みんなにペンライトやTシャツを配って、入場を無料にして、誰もが知ってる曲を歌って踊ってくれた。
男も女も老いも若いもみんな笑っていた。
あれが、この体になってからの俺の『原点』だった。
「相澤は……あれ見てアイドルって良いなって思ったんだろ?」
「あ、ああ。俺の“個性”はヒーローに向いてねえし、何よりヒーローを目指したらきっとまた全く同じ道を辿っちまうと思って。なら新しいことに挑戦してみたいと思ってた矢先のこと、だったから」
なんで俺はこんな言い訳みたいなこと言ってるんだ。
俺はあの光景を一生忘れない。それはとてもポジティブな意味のはずだ。あの時あの場に居た人たちはみんな、そう言う気持ちだったはずだ。
だが、話の流れとマイクの表情でそれは違うのだとわかる。
「……耳郎は、あれを見て心が折れちまった。毎日駆けずり回って憎まれ口叩かれて、それでもって頑張っていた時、いきなり来たアイドルたちがちやほやされてたら、そりゃあな」
「……」
「いや、そんなんは八つ当たりだよ、わかってる。実際俺も似たような立場だったが苛立ちなんて起きずにみんなが笑ってくれてよかったって心から思ってた。アイツの心が未熟だっただけだ、それはな、大前提」
- 107二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:05:07
わあ…あ…
- 108125/01/08(水) 22:06:42
大戦のとき、頼れる先はヒーローだけだった。だから、ヒーローだけに批難が向かい、そして過ちに気付いた市井の人々が手を取り合って立ち上がって、あの勝利へと導き、今がある。
けれど、もしあの時一人だけ誰からも石を投げられずにただ感謝だけされる英雄のような人がいたら、どうなっていただろうか。ヒーローは、あの時少なからず敵に立ち向かっていったヒーローたちは、あそこからさらに数を減らさなかっただろうか。
きっと、彼女が折れたのはそう言うこともあったのだろう。
「今、耳郎は」
「その年のうちにケアも終わってとっくに復帰してる。心が折れたっつってもアイツもプロだからな、すぐに自分の至らなさに気付いて持ち直したよ。ただまあ……どうしてもあそこで植え付けられちまった考えってのはそう簡単にはぬぐえねえ」
「そのうえ今日の俺の発言か」
「Soーそれ! あの発言聞いたときひやっとしちまってよぉ~」
- 109二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:07:19
耳郎ちゃんキツすぎるな…
- 110125/01/08(水) 22:09:41
絶対フラッシュバックしちまったよぉ~とわざとらしく泣くこいつに、変に言葉をかけたくない。だが何か言ってやらないといけないのは間違いなくて、そして今日ここに俺を連れてきたのも理由の一つだろうということはわかる。
手に持っていたソフトドリンクをもう一杯注いで勢いよく飲みほした。
「で、俺は何すりゃいいんだ」
「話がはえーな」
「じゃなきゃここに呼んでねえだろうが。それとも今からプレゼント・マイクに家に連れ込まれましたって文秋に垂れ込んでやろうか」
「ちょっとリアルにヒーロー生命断とうとしてくんのヤメテ」
手を挙げて降参されたのでそれ以上は言わない。
マイクは口ひげを弄って笑う。
「いやさ? 音楽でついた傷はやっぱ音楽で晴らさねえと、だろ?」
そういってそいつが指さしたのはアコースティックギター。まさかと思い目を見ると、色の薄くなったエメラルドがきらりと光っていた。
- 111二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:11:37
お?お?(期待)
- 112125/01/08(水) 22:12:37
‡
本当に最悪、本当に嫌。
口には出さず、笑顔を口に貼り付けて上鳴の隣を歩く。手にはマイクから貰った一枚の関係者チケットがあった。
「おい耳郎! 早くいこうぜ! もう始まっちまうから!」
「待ってよそんな急がなくても会場は逃げないって」
嘘。
本当はあんま行きたくなくてブザー鳴らないかなって思いながら歩いてる。でも上鳴を誘った手前そんなことも言えないし、歩幅を合わせて二人そろって早足に会場に向かった。
抽選応募になっている観覧席はウチらが座れば満席だった。
「それにしてもマイク先生太っ腹だな! SHOTAとの公開収録に呼んでくれるなんてよ」
「そうだね」
「……耳郎もしかして腹痛い? さっきからあんま体調良くなさそうだけど」
「えっ、あ、いや、そんなことないって! 楽しみすぎて昨日寝れなくてさあ!」
「マジ!? 俺も俺も!」
- 113125/01/08(水) 22:16:49
上鳴に嘘を吐くのは心苦しい。
こいつになら何でも相談できるけど、このことだけは相談できてない。だってコイツSHOTAのこと好きだし。インソタとかかなりチェックしてるみたいだから、そこに水は差したくない。
純粋にうれしそうな顔をする上鳴が隣に居てくれると、仏頂面のウチがここに居ることを少しだけ許されるような気がした。
──まあ見に来てくれって。来てくれりゃわかるから
マイクの言葉を思い出してステージの方を見つめる。いったい何が分かるって言うんだろう。
「楽しみだなあ、耳郎! 誘ってくれてありがとな!」
「……都合つきそうなのがアンタしかいなかっただけだって」
「それでもさ、やっぱこういうの来れると嬉しいって!」
無邪気に喜んでいる上鳴に少しだけ罪悪感が漏れる。
ウチは自分の至らなさを棚に上げてるだけなのに。
「……」
アイドルが全部手抜きって思ってるわけじゃないよ。
ライブではちゃんと生歌だって知ってる。テレビではいろんな事情があるからああなってしまうことも知ってる。あの人たちが居ることで笑顔になれる人が大勢いることも知ってる。
全部わかってるよ、けど。
- 114125/01/08(水) 22:17:34
あの時の暗い気持ちがよみがえりそうになる。そこから芋づる式に、幼い日の落胆が補強されて行ってしまう。
本当に嫌な奴だ。
自分が嫌になる、やっと向き合えたと思っていたのに。
「あっ、始まる!」
「っ」
ステージにマイクとSHOTAが現れた。
心臓がバクバクと鳴っている。頭が真っ白になりそうだ。思い浮かべるのは、薄暗い雲、人々の罵倒、投げられる石、冷たくなった体。そして私たちの後ろで華々しい声を上げる、アイドル。
逃げたくなるけど、逃げる選択肢はなくて。この職に就いたからにはこういうことは当たり前にあって。でも、だけど、いや、だからって。
「皆さんこんにちは、SHOTAです」
声が。
低くて、落ち着いた声がウチの頭を冷静にさせた。
「皆さん今日は来てくれてありがとうございます。紹介とか色々してもらいたいんですけど、その前に」
そう言うと、何かを持っている隣のマイクに目線を動かした。あ、この人近くで見ると塩顔のイケメンかもしれない。ウチはあんまよくわかんないけど。
マイクは……ああなんで気付かなかったんだろう、アコースティックギターを持ってる。ジャン、と音が響いた。SHOTAが手に持ったマイクを口元へと持っていく。
- 115125/01/08(水) 22:18:09
- 116125/01/08(水) 22:20:28
ガツンと、頭を殴られたような。
アコースティックギターは流石に上手い。マイクは音楽関係でも食べてるからそれなりに楽器は出来ると聞いてたけど想像以上だ。
ああ、でも、そんなんじゃなくって。
彼の、声が。
最近ありがちなアイドルの、柔らかい感じのそれじゃない、心から、芯から通すような声が。
「すっげ」
隣の上鳴の声さえ鬱陶しい。
さっきまでの不快感が嘘みたいに晴れていく。この人が今どれだけ真剣に歌ってるかわかるから。誰かの為に作られたこの歌を、真摯に歌ってることが伝わるから。
「……?」
上鳴が無言でハンカチを差し出してきた。
何のことかわからなかったけど、ああ、視界が滲んでる。悲しいわけじゃないのに涙が出る。
ハンカチを貰って目を覆う。ボロ泣きしてるこいつにはウチのハンカチを渡してやる。奇妙なハンカチ交換会をして、それぞれの涙で汚した。
あの日の辛い思い出が、文化祭の思い出に塗り替わっていく。楽しくて、みんなと一緒に何かを作った大切な記憶が、ウチを慰めてくれる。
- 117125/01/08(水) 22:22:35
- 118二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:24:31
細切れにされた表現が沁みる…
スレ主の文才とストーリーに感動してる - 119125/01/08(水) 22:28:36
アコギ伴奏での生歌なんぞ初めてだ。
散々マイクの家で練習したおかげでどうにかなったが、それでもどうにか形になった程度な気がする。
「最高最高! さっすがSHOTA!」
「どうも……」
外では敬語を使う。誰が聞いてるかわからないからな。ただそれはそれとして恨みがましい目だけは向かせてほしい。
耳郎の前で『Hero too』を歌うと聞いたとき、正直正気を疑った。そんな、トラウマを加速させてしまったらどうするんだと。
だがこいつは自信満々に「それで良いんだよ」と笑っていた。
「耳郎だって元々音楽で人を楽しませた経験のあるヤツだ。わかるんだよそう言う奴ってのは、本気で向き合おうとしてる奴の歌声くらい」
そう言われてしまえば、俺にできることと言えば本気で歌うことくらいで。
今日のせいで生徒たちに絶対にバレたくない理由がまた一つ増えちまった。まあ、終わり際泣いてた耳郎と上鳴が見れたから良しとするが。
「お、噂をすれば」
「あ?」
外が少し騒がしくなる。テントの向こう側から聞こえてくる聞きなれた声に、俺は背筋をしゃんと伸ばした。
- 120125/01/08(水) 22:35:58
「マイク先生~! ラジオ良かったっすよ!」
「上鳴Boy! それに耳郎! 来てくれてサンキュー!」
「ども……」
「どうも」
泣きはらした目でやってきた二人に俺は会釈をする。耳郎はまだ引きずっているのか少し鼻を啜っていた。
そこまで泣いてもらえると、歌った甲斐があったというものだ。あんまり突っ込まない方が良いとは思うので黙っておく。
「……あの、良かったです。『Hero too』」
「そう、ですか。自分にできる精いっぱいで歌ったので、そう言ってもらえると嬉しいです」
「はい、伝わり、ました」
すごいぎこちないが大丈夫か耳郎。
だが彼女にここまで言われると、本当に良かったのだと自信がつく。少し気恥ずかしい気もするが、SHOTAであれば素直に受け取ることが出来た。
「えっと、ライブとかって、次、どこで……」
「えっ」
「チケットとるので」
「いえいえ、ご用意しますよ!」
「いや、ウチそんなお金払ってるファンじゃないし。ちゃんとこういうのは自分で取ります」
- 121125/01/08(水) 22:40:35
心操や爆豪の時も思ったがどうしてお前らはすぐに現場に来ようとする。茶の間でも良いだろうが。
隣の上鳴、俺もチケット欲しいって顔するな。
「あ、ありがとうございます。次は二ヶ月後にありますね……」
「わかりました」
また現場のヒーロー指数が増えてマネさんから怒られる。MITUKIからもあんまりヒーローと一緒にいると枕疑われるからやめろってめちゃくちゃ言われてんだよな。
どうするべきか。そうは思う物の、携帯弄ってすぐにスケジュールを組む耳郎を見ていると、なんだかそれくらいは受け止めるべきことのようにも思えてきた。
……まあ、こいつがトラウマ再発してパニックになったりしてなかっただけ、今日の収穫か。
「じゃあ今度はBLACK CASEステージを見に来てください。絶対に楽しませますから」
「……はい」
「俺も俺も! 俺も行きます!」
「はい、お待ちしてます」
アイドルスマイルを貼りつければ、耳郎は面白いものを見た時みたいに笑った。本当に絶対こいつらには正体バレたくない。
記念撮影をして二人が出て行ったあと、耐えきれないというように笑ったマイクを一発殴って、その悲鳴が外まで響いた。
- 122二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:42:26
これは正体バレした方が面白くなる(主観)ドル澤
- 123125/01/08(水) 22:42:32
- 124二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:43:31
おやすみスレ主!
今日も一段とすごい文をありがとう! - 125125/01/08(水) 22:44:12
21時に出すって言う→全然書き終わらない→いやワンチャン投稿しながら書けるのでは…?→公開ラジオ収録が終わったところで追いつく→自転車操業
だったんでマジクライマックス明日にしようかとも思った
本当に読んでくれてありがとやで - 126二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:46:53
構成がマージで良すぎる
ありがとうアイドルとは人を照らす存在だと思ってるのでこういう持って行き方してもらえて嬉しい
耳郎ちゃん良かったね - 127二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:48:59
スレ主マジでありがとう……過去一好きなSSだ
- 128二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:50:53
良かったね…良かったね、耳郎ちゃん…(泣)
- 129二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 22:55:34
耳郎ちゃんトラウマが感動で上書きできたようで良かった……
マイクも生まれ変わった親友に気付けてまた話ができてよかったね
すごい心温まる話だ - 130125/01/08(水) 23:00:04
入らなかった会話文(見えないところでしてる設定)
「まあこれで心配事は一個無くなったな」
「なに?」
「俺の喪主」
「他人のアイドルがお前の喪主……!?」
「今から仲良くなっときゃダイジョブだってえ」
「まあ事故とかなけりゃ俺が先に死ぬことはねえが」
「いや~、四十五になって遺される側から遺す側にジョブチェンジするとは思わなかったぜえ」
「俺が若くして白血病とかにかかるかもしんねえだろ、可能性を無くすな」
「無くせそんな可能性」
本当に寝るぜ
- 131二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 23:13:30
また軽口叩けるようになって2人とも本当に良かった
久々にプラスな方の気持ちで泣きそうになった - 132二次元好きの匿名さん25/01/08(水) 23:26:18
俺は「アイドル本当はあんまり好きじゃなかったんだ」の地の文で泣いちゃった
誰にも言えないことを抱えて生きていかなくて本当によかった… - 133二次元好きの匿名さん25/01/09(木) 06:39:20
すごいいい話で幸せになったわ
バレてほしいけどバレないでほしい〜! - 134二次元好きの匿名さん25/01/09(木) 07:24:26
死ネタの時といい今回の話といいスレ主が真実を知る人の位置にマイク選んでくれるの嬉しい
マイクと耳郎ちゃんの心が救われてよかった - 135二次元好きの匿名さん25/01/09(木) 12:38:36
マイクに正体バレたの可愛い
っていうかラジオでツイスターやったんか伝わらんだろ - 136二次元好きの匿名さん25/01/09(木) 18:51:44
これ書き込みながらssの続き書いてたの!?
スレ主すごすぎないか?
耳郎ちゃんが自分に素直になれたのもマイクと先生がまた友達として喋れたのもめちゃくちゃ感動したよ - 137125/01/09(木) 21:26:05
感想いっぱい合って全部返しきれねえ!
ありがとう!嬉しい!ありがとう!
駆け足な展開になっちゃったから大丈夫かなってちょっと心配だったから褒めてもらえて嬉しい
あとすまん
土曜の夜まで来れねえっす
保守頼む
おやすみ! - 138二次元好きの匿名さん25/01/09(木) 23:05:55
スレ主おつかれさま
保守任せろ! - 139二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 06:41:50
ドル澤本当に好き
どうかスレ主の熱が続いてほしい
もっと見たい - 140二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 13:46:47
作品ページに収録されてないけどあいざワンの話好きだった
あいざワンの人外感良いよね… - 141二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 17:56:59
相澤兄妹ってやっぱ高校の時クラス分かれてたのかな?
3バカとの関わりってどうだったんだろ
白雲山田から妹分として可愛がられてるのも良いけど
あんまり交流なくてインターン後曇りまくった兄を慰める妹もみたい - 142二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 19:59:02
- 143二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 21:36:48
小ネタで終わってる話だとスレ主解釈の花吐き病にかかる先生の設定めちゃくちゃ好きだった
スレ主ss以外でも好みの設定ぶち込んでくるの好き - 144二次元好きの匿名さん25/01/10(金) 23:10:32
- 145二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 09:01:31
白雲と妹の絡み見てみたいな
山田に惚れてたこと白雲は知ってたんかな - 146二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 10:49:59
白雲にバレるくらい普段から好き好きアピールしてても可愛いし隠してるけど兄妹の絆で兄にだけモロバレなのも尊くていい
兄妹澤は幻肢痛で苦しんでる兄を落ち着かせる妹の話がめちゃくちゃ好き - 147二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 11:02:55
- 148125/01/11(土) 19:39:17
ただいま〜
日付変わるくらいに「オールマイト(相澤先生の正体は知らない)に年末の格付けのコンビ相手として指名されて二重の意味で顔面蒼白になるSHOTA」の短いやつを持ってくる予定だよ - 149二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 19:41:46
あーーーありがとうスレ主マジでありがとう
番組パロ大好きなんだ - 150二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 20:20:31
格付けパロ嬉しい!!!
オールマイト本家とはまた違った威圧感ありそう - 151二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 21:14:51
スレここまで一気読みしたけどこんなに話の流れが自然なドルパロ人生で初めて読んだわ ドルパロ大好きだから嬉しい スレ主ありがとう
- 152二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 22:44:40
格付けパロだって?!
番組パロ大好きなんだありがとう
オルマイに指名されてSHOTAが胃を抑えてる姿が見える - 153二次元好きの匿名さん25/01/11(土) 22:51:07
やったー番組ネタ大好き!!
先生の時の経験とか持ち越してるのかな!?
サルミアッキ美味しい(元々味覚音痴)のか
諸々の経験によりなんでも美味しく食べれるのか
味覚壊れててとりあえず美味しいよって言ってるのか… - 154125/01/11(土) 23:59:39
ナチュラルボーンヒーロー オールマイト
劇的なデビューを果たし四十年という長い間ナンバーワンヒーローとしても君臨し続け、平和の象徴と位置付けられた偉人。
彼の人生は激動そのものだ。
大戦後明かされた彼の人生とその活動の真意に多くの人が賞賛の言葉を贈り、涙を流した。現在は世界各地を飛び回り平和のための講演や莫大な資産を生かして慈善事業の為の基金を設立するなどその生活は多忙だ。
だが、流石は元ナンバーワンヒーロー。どんなに忙しくともファンサービスは欠かさない。
現役時代でも時間が少しでもあればテレビへの出演をすることもあった彼は現在でもその傾向を崩さない。現役時代よりかは若干空きの出来たスケジュールでファンや世間への寄付を依頼するためバラエティに出演することも増えた。
増えた、わけだが。
「…………」
「だぁっはっはっはっはっは! チョー面白れぇ! オールマイトと共演ってマジかお前!」
「笑うなマイク……あと声がでけえ……」 - 155125/01/12(日) 00:00:04
「ここ完全防音だから大丈夫だって! っていうかそれ言うならお前それまだ情報公開前だろ、良いのかよ」
「良いわけないがこれ一人で抱えるのはもっと無理だった」
「それはそう」
完全なセキュリティが敷いてあるマイクの自宅でショータ──前世に相澤消太を持つ現役アイドルSHOTA──はジンジャエールを一気飲みしてげっぷをだしながらソファに凭れ掛かる。
アルコールで全てを忘れてしまいたいくらいだがそれを許す体ではない。端にチラつくワイン棚を視界から追い出して喉の奥に残るツンとした炭酸の痺れで自分を誤魔化した。
「しかも年始の格付けチェックねえ。大出世じゃねえのSHOTAクン、あれに出れたら向こう一年はネットで切り抜かれまくりで話題にゃ困らねえぜ?」
「そりゃそうだが……」
「最近バラエティの方はだいぶ慣れてきた感あるし、ここらで真面目系面白キャラとして認知されてくのも悪くねえだろ」
「待てなんだ真面目系面白キャラって」
「お前ってかなり体張る系でもガンガン行くから知り合いのDさんも評価してたぜ。アイドルであんな体張れるの珍しいってな」
「そいつは有難う。次も使ってもらえるよう頑張るよ、それでなんだ真面目系面白キャラって」
- 156125/01/12(日) 00:02:58
聞き捨てならない言葉に反応するがマイクは「いやお前のことだけど」と言うだけで答えにならない。その笑い声が不愉快で唇を尖らせた。
マイクは緑茶を飲んで喉を潤わせていた。彼の金に透き通った奇麗な髪がエアコンの風に揺らされてふわりと揺れている。緑色の目が細められてこちらを見た。
「にしてもなんでまたオールマイトと? お前んとこそんなコネ持ってたっけ?」
「……向こうからオファーがあったんだよ」
「オールマイト側から!?」
ジンジャエールを飲み干してペットボトルから手酌で注ぐ。マイクの大声に思わず昔の癖で睨みを利かせてしまうが、音を無効化することはできなかった。
今の“個性”は『抹消』ではなかったのだと痛感させられる。三十年以上生きていた体の習慣は簡単に消すことはできなかった。
マイクの好奇心の塊のような瞳に辟易しつつ、ショータは重苦しく息をつく。
- 157125/01/12(日) 00:09:18
「正しくはオールマイトから依頼を受けた番組側から」
「同じようなもんだろ」
「『オールマイトがSHOTAさんと一緒なら出るとおっしゃってるので出てください』って言われてマネさんが決定した。俺の拒否権はなかった」
「そりゃな!? 格付けに出れてオールマイトとペアならもう出るしかないっしょ!」
「まあそりゃな……」
引退して十六年経っているとはいえ、オールマイトのブランド力は未だに凄まじい。
子供向け番組でデフォルメ化された彼が活躍するのは最早当たり前となっているし、版権商品の数は最早数える方がバカらしいくらいだ。
やせ細ったトゥルーフォームになってからは「大人の色気がある」と評価され各アパレルブランドのモデルもこなしており、どこを見ても必ず彼の姿がある。
スーパーヒーローでスーパースター。そんな彼と共演できるチャンスを芸能人が逃してはいけない。
ショータも、そこに異論はなかった。
「なあなあ何で? オールマイト指名するならやっぱ緑谷とかじゃねえの?」
「……緑谷は現役だからな、バラエティみたく何時間も拘束する番組には向かねえんだろう。ヒーローは呼び出しかかると収録途中でも抜けちまうから」
「あー、そっか。そういや俺も同じ理由で途中抜け出来ねえ番組はNG出してるわ。でもなんでお前なんだろうな」
「……知らねえ。番組側の人も良くわからねえって顔してたし。それ別のSHOTAじゃないですかって一応聞いたけど俺で間違いねえらしいし」
- 158125/01/12(日) 00:14:59
ショータ自身、このオファーは寝耳に水だった。
最初は緑谷が勧めたのではと思ったが、だったらこの前の現場で平常運転だったのはおかしい。彼ならば態度に出るはずだ。
「じゃあ俺みてえにA組へのサービスとか?」
「それもねえだろ。オールマイトさんは他人の為にっていう理由でパートナーにされた俺の気持ちを考えられない人じゃない」
「それもそうか」
マイクよりもオールマイトの人柄については詳しいつもりだ。相澤消太だった頃、緑谷や爆豪と言った秘密を共有するメンバーを抜かせば最も信頼を得ていたという自負がある。
彼は決して人が傷つく行動を進んで取る人ではない。もしアイドルSHOTAが彼の知人を喜ばせるためだけに出演をオファーされたことに傷ついてしまったらと、きっと彼は考えるだろう。
だからこそわからないのだ。
どうして、何故、自分は……相澤消太ではないアイドルSHOTAが彼に選ばれたのか。
- 159125/01/12(日) 00:15:31
「……もしかして、バレてるとか?」
一番あり得るが一番あり得てほしくはないことにショータは項垂れる。生まれ変わりなどを普通の人は信じないだろうが超“個性”社会であり人から人へと受け継ぐ“個性”なんてものを譲渡された本人であるのだから、その当たりの思考が柔軟であってもおかしくはない。
オールマイトは守秘義務をしっかり守れる人ではあるけれど自分の正体を知る人が一人でも増えるのは正直嫌だった。
「まあ本人に聞けばわかる」
「そりゃそうだけどよ。それまで不安じゃねえの?」
「不安すぎて吐きそうだよ。だが芸能界やっていくならこれくらい耐えらんねえとダメだろ」
「ヒュ~! 相澤がぜってぇ言わなそうな言葉ランキング三位くらいに入ってそうだぜ」
「うるせえ」
「っていうか番組の対策はどうすんの」
「これからやる。手伝え」
「しょうがねえナ~。飯に関しては今から取れる最高級のレストランで修行してやるよ」
「助かる」
手酌で注いだジンジャエールを再び飲み干した。今度はげっぷは出ない。ただ胃に重く炭酸がのしかかっただけだった。
- 160二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:18:36
ナチュラルにマイクの家に居るSHOTAに笑った
相変わらず真面目に予習しようとしてるのもおもろい - 161125/01/12(日) 00:18:53
‡
九十度に折りたたまれた巨体がこちらに頭を向けている。それが謝られている姿だとわかったのは数瞬遅れてのことだった。
「や、やめてくださいオールマイト!」
「いや、本当に済まないSHOTA少年! 私の軽口の性でこのようなことになってしまった!」
収録当日、事前にお話をしたいことがあるので早めに来てほしいと言われ二時間前に用意された楽屋に着くと、荷物を置いたほぼ直後に扉がノックされた。
扉越しからも感じる威圧感に嫌な予感を覚えつつ開けると、そこに立っていたのは自分の記憶よりも老けているオールマイトだった。
彼を部屋に招き入れ、扉を閉めた直後が冒頭のやり取りだ。深く折りたたまれた長い体は一向に起き上がりそうにない。
「最近好きな芸能人は居ますかと聞かれて、思わず君のことを答えてしまった。彼らの考えに気付いてから訂正を入れようとしたら既に予定を組まれてしまっていて反故にすることも出来ず……!」
- 162125/01/12(日) 00:19:55
「構いませんよオールマイト。確かに偉大な貴方と肩を並べてバラエティに出ることは恐れ多いですが、芸能人としては良い経験だと思っていますので」
「だが、きっとどんな結果であれ君へバッシングが行くだろう。今が一番大事な時期だというのに本当に申し訳ない……もし不利益を被ったと思ったら、すぐ事務所に連絡をくれ、出来る限り顔を利かせることを約束する」
オールマイトの顔を利かせるレベルがどんなものなのか興味があったが、それを実行したときの恐怖が勝った。にこりと曖昧な笑みを浮かべて「そこまで気にかけてもらえて嬉しいです」と当たり障りのない返答をした。
それよりも、先ほどの一言の方が気になった。
「あの、好きな芸能人で俺のことを言ってくださったとのことなのですが……」
「あ、ああ! 実は君のファンでね。もしよければサインを貰えるかな」
「ふぁん……」
オールマイトがアイドルのファン。
前世でプライベートのかかわりがあったとは言えないが、あまり想像のつかな単語に目を丸くする。差し出されたCDは結成当時に物販で手売りしていた頃の物で、今ではプレミア価格になっているそれだった。
この人が転売に手を出すとは考えられないので、きっと代理購入をしてもらったのだろう。オールマイトが現場に居たら絶対に大騒ぎになっていたに違いないし、そういう配慮をしてくれたのだとすぐにわかった。
- 163125/01/12(日) 00:20:42
「あ、これはマネージャーに買ってもらって」
「わかりますよ、オールマイトが転売で買うわけありませんから」
「あ、ここに俊典さんへって入れてくれるかい?」
「はい」
手が震える。
アイドルSHOTAというよりも相澤消太の方が緊張していた。胃がひっくり返るような痛みを伴い、昼に食べたカツサンドが出て来てしまいそうだった。
しっかりと書ききり渡すと彼は大仰に悦んだ顔をする。
「嬉しいよ、有難う!」
「いえ、俺も憧れのオールマイトにこんなことをさせて貰えて嬉しいです。あ、あの、俺も良いですか?」
「サインかな? 勿論いいとも!」
いそいそと取り出したのはオールマイトカードだ。
古びたそれは所々のメッキが剥げていて、年代を感じさせる。彼の手が止まった。
「こ、れは」
「今から三十五年くらい前のオールマイトカードです。どうしても欲しくて芸能人の友人が取って置いた物を譲ってもらいまして」
オールマイトはなるほどと言ってサインをする。
心の相澤消太の部分が、憧れのヒーローに嘘をついたせいで痛んでいる。 - 164二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:29:05
サイン交換会微笑ましいな
- 165125/01/12(日) 00:30:17
本当は、自分の遺品を捨てられないと泣いていた相澤消太の母を気遣って遺品の全てを引き取っていたマイクから、大昔に集めていたオールマイトカードの一枚を返してもらっていた。
──この人とは、最後まで教育方針が合わなかった
ウマが合わず、言い合いになることもしばしばあった。けれどそれでも、オールマイトは相澤消太にとって特別なヒーローだった。
誰もかれもが彼を見てヒーローを夢見たように、かつての相澤消太もそうだった。死んでもそんなこと本人には言わなかったけれど。
オールマイトからサインを貰えて、俄に胸の内が騒がしくなる。思わず笑みがこぼれると、こちらをじっと見つめる青い瞳と目が合った。
「な、何か……?」
「ああいや、やっぱり気のせいだったかなって」
「……?」
- 166125/01/12(日) 00:30:51
- 167125/01/12(日) 00:31:26
全く心当たりのないことに頭が混乱する。相澤消太に似ていると言われることは多くあったが、赤の他人と似ていると言われるのは初めてだった。
どういう反応を返すのが良いのかわからなくて苦笑する。
「そ、そうですか」
「気を悪くしたらすまない! きっかけはそれだったが、今はちゃんと君の活動を見てしっかりとファンをしているよ。ただやっぱり、本人を見ると違う物だなと思ってね、当たり前だし失礼なことなんだが……」
「……幻滅しましたか?」
「とんでもない!」
大きな手を振って否定を示す彼が面白い。
「その人はオールマイトにサインをお願いしたりしないんですか?」
「うーん、絶対しないなあ。そもそも彼多分私のこと嫌いだっただろうし」
「いるんですね、そんな人が」
「ああ、いつも怒られてばかりだったよ」
もしかしてグラントリノのことだろうか。
彼はあのご老人に対してかなり尊敬……しつつ怯えていた。
──RENに対する態度とかがそう思わせたんだろうな
- 168二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:32:46
>自分の遺品を捨てられないと泣いていた相澤消太の母を気遣って遺品の全てを引き取っていたマイク
こんなさらっと言う事じゃないでしょ
マイク…
- 169二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:37:50
微笑ましく見てたら急に情緒ぶん殴られてびっくりした
本人の手元に戻ってよかったね - 170二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:39:04
- 171二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:40:23
- 172二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:40:44
- 173二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:45:00
本人優しいのに経歴諸々凄すぎるせいでかなりプレッシャーかかるやつだ
味覚がどうなってるのか分からないけどマジで胃痛くなってそうだなSHOTA - 174125/01/12(日) 00:45:14
コテハン消えてた
戻したぜ
チェック「ジャズバンド」
SHOTA:次は俺ですね、頑張ります
オル:音楽は専門だからな、期待してるぜ
SHOTA:プレッシャーかけんでください……
~チェックへ~
SHOTA:……たぶん、B、だと思います。Aはどっちかというと吹奏楽的な上手さで、音が揃いすぎてる。バーで演奏するようなジャズバンドはBGMになる必要があるのでこういう音にはならないはずです
~スタジオ~
司会:これはスタジオの皆さんにも正解は教えられません
オル:どうだろう……確かにSHOTA少年の言うようにAは音が揃ってて奇麗だなと思うんだけれど。うーん、私にはわからないかもしれない……
司会:オールマイト様的にはどちらだと思いますか?
オル:強いていうなればA……だろうか……
司会:さて次のメンバーも、A……
モブC:これSHOTAくん一人勝ちだったら熱いなあ
モブD:SHOTAくん未成年なのにバーのジャズバンドとかわかるもんなの?
ナレーション:他の全員がAの部屋を選んでいる! これはSHOTA、まさかの失敗か~?
- 175125/01/12(日) 00:45:27
- 176125/01/12(日) 00:46:39
- 177二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:48:38
味覚そっちか〜
これはポンコツ晒しそうなSHOTA - 178125/01/12(日) 00:48:55
- 179125/01/12(日) 00:49:49
チェック「ブレイクダンス」
~スタジオ~
司会:さあ、相方のSHOTA様が迷わずAを選択されましたが、オールマイト様的にはどうでしょうか?
オル:体の動かし方に熟練さが出ていたのはAだと思ったよ。同じことを彼が感じてくれてればいいのだけど
モブA:めちゃくちゃ意思の疎通が取れてるチームですね
オル:SHOTA少年が味方で良かったよ。私一人だったら恥をかいていたかもしれないからね
モブB:俺だったらオールマイトの隣なんて恐れ多くて座れないっすわ
司会:一般人が一流芸能人に話しかけないでくれませんか?
モブB:話すくらい良いでしょうよ!
~Bの部屋~
SHOTA:(やることなくて暇だな)
モブC:よ、良かった~! 人が居る~!
SHOTA:ようこそBの部屋へ
モブC:SHOTAさん! 本業の人がいてくれると安心できますね!
SHOTA:大丈夫、これに関しては自信があります
モブE:いや~! 心強い!
- 180125/01/12(日) 00:51:11
ごめんSHOTAが入ったのはAの部屋です
私がワンランクダウンしてくる
チェック「メイク」
~スタジオ~
司会:さあ! いまだ連勝中のチーム「あり合わせ」のお二人ですが次はオールマイト様にいっていただきます!
オル:先に謝っておくね、ごめんね
SHOTA:大丈夫です俺は多少居心地悪くなっても良いので
モブA:やる前から諦めないでください!
ナレーション:いつになく弱気なオールマイト! これは大丈夫だろうか……!?
~スタジオ~
正解:B
SHOTA:これ俺がいってたらダメでしたね
司会:Aだと思った?
SHOTA:絶対にAだと思いました
司会:モブCは?
モブC:B以外ありえないかなって。Aだとどうしてもお肌の感じが全然違うから。光の当たり加減とかで顔の大きさも変わるし
司会:さあ、オールマイトは正解を選べるんでしょうか!?
モブB:オールマイト以外も心配してくれません?
- 181二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 00:56:43
モブBさっきからいいツッコミするな
- 182125/01/12(日) 00:58:00
チェック「ヴァイオリン」
~スタジオ~
司会:オールマイト様が迷わずAを選択されましたが、ジャズバンドを成功させたSHOTA様、いかがですか?
SHOTA:あのですね、十億円のヴァイオリンは確かに凄いかもしれませんが五十万のヴァイオリンだって凄いんですよ、つまりわかりません
司会:自信満々に自信のないガキやな~
モブC:こういう一面みるとすごい安心しますよね
モブB:オールマイトはどうか合ってほしい~!
司会:ちなみに正解は……Aです!
SHOTA:本当に凄いなオールマイトさん
~Aの部屋~
モブE:オールマイトがいる!
オル:やあ。でも私もあんまり自信があるわけではなくてね
モブD:大丈夫ですよ! 良い音楽とか聴かれてるんでしょう?
オル:うーん、クラシックはあんまり……でもスポンサーのご意向でそういうのを聴かせていただくことはあるかな
モブE:かっこいい~!
- 183125/01/12(日) 00:59:35
最終チェックは牛肉です
この分は明日の夜くらいにSSにして持ってくる予定
スレの埋まり具合的に次スレに出そうと思うからこっちは落ちない程度に埋めてもらって大丈夫です
今日は付き合ってくれてありがとう!
寝るぜ!
- 184二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 01:00:42
スレ主めちゃくちゃ楽しかったよ
明日の最終チェックのSSも楽しみだ - 185二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 01:01:10
了解~!
いつも最高のSS有難う
牛肉チェックSS楽しみにしてる! - 186二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 01:03:10
親友の遺品を15年間保管し続けたマイクのメンタルが心配でならねえ
ト書きも楽しかったしSSも楽しみ!
ありがとうスレ主! - 187二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 01:03:25
格付けパロ好きだからすごい面白かった
このオールマイト本人からの圧はゼロだけど周りからの圧が強いから相方の胃はボロボロになりそうだな - 188二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 01:06:00
オールマイトにも面影重ねられてるあたりSHOTAから滲み出てる相澤感凄いんだろうな
生まれ変わっても先生の味覚は相変わらず死んでそうでよかった - 189二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 01:06:37
夜中にも関わらず滅茶苦茶笑ってしまった
とても最高でしたありがとうスレ主
最終問題どうなるか楽しみ - 190125/01/12(日) 01:20:02
ごめんメイクの結果入れてなかった
~結果発表~
オル:本当に良かった……本当に良かった……!
司会:Bの部屋を選んでくれて一番安心したの多分俺らです
SHOTA:それは本当にそう
モブA:オールマイトが二流になるところ見たくないっすからね
オル:モデルをさせていただいたときの経験が生きたよ……何でもやってみるものだな
- 191二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 09:28:03
今読んだんだが親友の遺品譲り受けて保管してたマイクの衝撃が強すぎて抜け出せない
それはそれとして自信満々に自信の無いSHOTAがのても好き - 192二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 20:06:38
自分の専門分野はバチバチに当ててくるのにそれ以外は自信ないし味覚に関してはポンコツ通り越してるSHOTAかわいい
あと遺品の件とか諸々マイクは転生後の先生とまた仲良くなれて本当によかったって思った - 193125/01/12(日) 20:39:46
22時くらいに次スレと一緒に持ってくるよ~
- 194125/01/12(日) 22:05:29
- 195125/01/12(日) 22:05:43
こっちは埋めちゃってくれい
- 196二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 22:06:01
了解
- 197二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 22:06:22
埋め
- 198二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 22:06:36
15スレかはええな
- 199二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 22:06:39
うめうめ
- 200二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 22:06:57
スレ主の健康祈願