【SS】stay ←to→ f(I)rst.

  • 1二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 10:03:04

    崩れかけた壁掛け時計の針が、昼夜の移り変わりを指し示す。
    奇跡的に壊れていないのが少し恨めしく思える、空はずっと壊れたままなのにね…
    見慣れた…なんて言えなくなったシャーレだった室内から赤く染まった空を見上げる。

    いつからこうなったんだろ…、ミレニアムで魔王が起動、エデン条約の破綻…
    そして、カイザーを筆頭とした企業の躍進とどこからか現れた色彩と呼ばれる勢力の侵攻。
    崩れた壁から吹きすさぶ冷風が体温を奪う。身を寄せるように私は羽織っている継接ぎのコートごと
    ショットガンとボストンバックを手繰り寄せる。

    風前と消えかかるキャンプ用コンロからケトルを外し、温かみの無いステンマグに焦げた色の液体を注ぐ。
    ハルカが育てていた雑草の内、食用に向く種子を炒った物で作ったコーヒー擬き。
    自分でも柄じゃない…傍にあって欲しいのに残っていて欲しいのにと口に出してしまいたい…けど、
    苦し紛れの苦味が本音を閉口させる、思い出を消費して生きるのを肯定するために。

  • 2二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 10:05:01

    コーヒー擬きだけじゃ温まらない体を摩る。
    そういえば、便利屋全員で先生にクリスマスプレゼントと称して
    クリスマスソングを歌おうって企画していたっけ…ムツキが発案して
    社長が丸め込まれて、ハルカが遠慮して…でも、それも無くなった…

    煤けて下半分が黒く染まったカレンダーに付けられた印は、
    既に過ぎ去ったクリスマスと予見もできない明日の証明だった。

    寒い…、体温が白い吐息となって口から排出される。
    その気になれば、この壊れたキヴォトスでも暖を取れそうな場所は在るはずなのに
    私はここから動けない…いや、動きたくないのかも…
    社長は寒くなかったかな、アウトローかは怪しいけど
    強がって庇う様はハードボイルドだったかな、ムツキとハルカは一緒だったから少しは温かかったかもね…

    先生…今、何処にいるの?何かをしているの?
    社長、大晦日に先生に会いに行こうかとか初詣とか考えてたみたいだよ。
    私も…それなりに期待していたんだけど…
    壁に付けた傷とカチコチと鳴る時計の針を見比べる。
    あぁ、もう大晦日だ…先生、遅いな…
    まだ日付が変わるには速い時間だけど、真夜中の様に真っ暗な景色の中
    朽ちたシャーレに1人、待ちぼうけをくらう…

    寒い……先生が来てくれたら遅れた罰として何かしてもらおうかな…
    ムツキみたいに可愛くはできないけど、待たせた時間は隣に居てもらおうかな…
    お気に入りの曲をかけて…、バッテリーが切れて役割を果たした
    スマホを胸に抱く、いつか聴いたあの音を温もりを
    思い出すように、瞼の裏の優しい闇を享受した。


    はぁ……寒い…。

  • 3二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 10:05:46

    心地よくも感じられる不定期な振動に揺り起こされる。
    ピントの合っていない眼を瞬かせ、周囲を見回すと
    どこかの列車みたい…だけど窓の外はまるで照明弾の様に
    強い光で外の様子はよくわからない。

    外からの光のお陰で車内の照明は必要ないのが却って不気味に感じる…
    私は立て掛けていたショットガンを手に乗客がいないか探索を始める。
    ふと、当たり前の違和感を感じる…どうして私はショットガンを…?
    だって、これはハルカの……。
    もしかしたらハルカが置いたまま先に進んだのかもしれない、
    都合の良い言い訳を抱えて先頭車両を目指す。


    寒い……。

  • 4二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 10:06:17

    数両抜けても、人の気配も先頭に着く気配も感じない…
    行先を告げる電光案内板も、次の駅ではなく進む時間を示している。
    ただ、かじかむ様な寒さと光だけが増していった。

    この先には何があるのかな…案外、社長やムツキ、ハルカがいたりして
    ムツキがイタズラと称して私を置いて他の車両に移ろうって、そしたら先生も
    意外とノリ気で…と想像してふっと笑う。
    だって、社長も先生も既にいないのにね……

  • 5二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 10:07:21

    あれ…?そうだ…、そうだよ、みんな…いないんだ…


    不意に思い出してしまった真実に呼吸が止まる、
    忘れていた寒さが…身を包む…。

    いつのまにか流れていたお気に入りのブラック・デス・ポイズンが
    非現実を奏でていた。
    私は事実を受け止めた瞬間、目の前の光を背けて走り出した。

    乱雑に吐き出される白い吐息も気にせず、一両、二両と
    順行する列車を逆行する。
    先頭車両から離れる度、光は鈍くなって、
    案内板の時間は逆順し、音楽は巻き戻される。

    何両目かの車内には、汚れた床に見覚えのあるボストンバック、赤い豪奢なコート
    それらを拾い上げて後続車両を走る、だけど一向に最後尾に着かない。

  • 6二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 10:11:06

    息も絶え絶えに、床に倒れこみそうになるのを耐え座席にもたれる。

    どうすれば、ここから出られる…?
    どうして、私はここにいるの…?

    寒い………

    はぁ、と吐いた息は蒸気のように小さく舞って宙に消える。
    自身の匂いが場に似合わず焦げ臭い…
    そういえば、コーヒー飲んでたっけ…寒いから…

    違う……寂しいんだね…私……

    社長もムツキもハルカも、先生もいなくって
    あそこにいればいつか会えるかもって……。
    いつもの事だから、黙っていれば誰かが来ても勝手に納得するから…
    けど、それじゃ駄目だから……
    上着からデモンズロアを取り出し構え、窓を狙う。


    「寒い…寂しい…、会いたいよ…社長、ムツキ、ハルカ…先生…!」


    引き金を引く、轟音が空間を割って光が溢れる。
    その眩しさを避けるように私は瞼を閉じた……。

  • 7二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 10:11:51

    「…ヨコ、カヨコ……カヨコ!!」

    目の前で、眉を下げた社長が私の顔を覗き込んでいた。
    みんなの声が聞こえないほどボッーとしていたみたい…

    「大丈夫、カヨコちゃん?」
    「む…無理はしないでください、カヨコさん…」
    「大丈夫…ちょっと、寒いなって思ってただけ。」

    そう?と心配そうにしてる社長とみんなに
    大丈夫と言い聞かせ、シャーレに向かって再び歩き始める。
    凍みいる寒さにどこか覚えを感じながら、先を歩く3人に悪いと
    謝りながらイヤホンを付ける。

    ふと空を見上げると青い寒空とビル街に反射する日光が眩しくて
    思わず瞼を閉じる。イヤホンから流れてきた音楽は不可逆なメロディーを奏でているのに気づく…
    スマホの画面を操作し正しく曲を再生する。
    何も無かったように……。

  • 8スレ主25/01/03(金) 10:15:56

    大晦日に外で2時間待ちぼうけをくらい終電rtaを敢行したのと

    ↓の曲を元に短いですが、カヨコのssを書いてみました。

    【AC6】レイヴンの火×Blackout【歌詞意訳】

    エミュ出来てるか怪しいです……

  • 9二次元好きの匿名さん25/01/03(金) 10:19:17

    心の弱ったカヨコからしか得られない栄養素はある

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