【SS注意】【トレウマ注意】誰も寝てはならぬ

  • 1二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:31:37

    「納得できません」

    休日の夕方。
    担当で愛バのシーザリオがトレーナー室に来たかと思うと、じっとその手元のパンフレットを見つめていた。
    しばらくして、そんな一言。

    「どうしたの?」

    急ぎでない仕事をのんびりとしていたので、後ろのソファでうなっていたのはわかっていた。
    ただ、どうにもいつもと様子が違っていたので、声をかけるのをためらっていたのも事実。
    なんとなく居心地も悪かったのもあって、彼女の声にこれ幸いと席を立って覗き込む。

    「さっき、クリスエスさんと一緒に行ったオペラなんですが……」

  • 2二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:31:57

    『トゥーランドット』。
    プッチーニの名作オペラと名高い作品だ。
    シーザリオの隣に座って、パンフレットをパラパラとめくった。

    「これがどうしたの?」

    「ハッピーエンドとして宣伝されていたのですが、リューが可哀そうで、クリスエスさんと泣いてしまいました。……ハッピーエンドとはなんなのでしょう」

    リュー。
    主人公である王子の従者で、王子に恋しているウマ娘。
    主人公とトゥーランドット姫の結婚を助けるために、拷問を受けて最後は自殺してしまうもう1人のヒロイン。

  • 3二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:32:22

    「うーん。演劇には詳しくないからなあ」

    「……貴方も、トゥーランドット姫のような理想の女性が目の前に現れたら、ウマ娘のリューを捨ててしまうのですか?」

    不安に揺れる、少し硬い声。
    上目遣いで、探るような眼差し。
    いつの間にか、オンザリオになっている。

    「トゥーランドット姫がシーザリオだったら、もしかしたらそっちに夢中になっちゃうかもしれないな。逆にリューがシーザリオだったら、トゥーランドット姫に求婚はしないかも」

    「では、両方とも私でしたら?」

  • 4二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:32:47

    ……言葉に、詰まる。
    そう返されるとは思わなかった。
    黙りこくってしまった自分を見て、何を思ったのかシーザリオは。

    「試してみます?」

    コホン、と一つ咳ばらいをすると。
    芝居がかった仕草で。
    オンザリオの、心持ち低めの声を朗々と響かせる。

    「『火のように燃え盛るが火ではなく、貴方にすげなくされると冷たくなり、貴方に優しくされれば燃え上がる、夕日のように赤く私と貴方の身体に流れるものは?』」

    「『それは、シーザリオを想うこの熱き血潮!』」

  • 5二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:33:06

    つられて、謳うように答えてしまう。
    なんだか、彼女にのせられてしまっているような気もする。
    でも、こんなのも楽しい。

    「『よろしい、正解です。貴方を誰よりも愛し、貴方に誰よりも愛されることを望む、貴方のウマ娘は?』」

    「『それは、我が愛するシーザリオ!』」

    ニコニコ顔で2問目を出す彼女。
    問題が雑になっているような気もするが。
    それさえも気にならないくらいの、超絶御機嫌なシーザリオ。

  • 6二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:33:27

    「『よろしい。私の名前は?』」

    「『それは、愛!』」

    彼女を抱き寄せると、その頤に手を当ててキス。
    女の子のしとやかな肌の感触と、甘い苺のような香り。
    温かい、ウマ娘の体温。

    「正解です」

    ちょっと照れながら、彼女からもキスをしてくれる。
    何度唇を交わしても、初々しさの抜けないシーザリオは可愛らしい。
    そっと髪を撫でると、こちらの肩に頭を預けてきた。

  • 7二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:33:49

    「謎かけの順番が、原作と違って焦ったよ」

    「うふふ。でもトレーナーはちゃんと答えられたじゃないですか」

    「なんとか、ね」

    正直なところ、さっきのパンフレットを見ていなかったら答えられたかは怪しい。
    すると、シーザリオが身体を起こして、こちらに相対してきた。
    雰囲気は、やわらかいままのオフザリオ。

    「『ああ、この大きな貴方への愛! この拷問さえも、貴方の役に立っているという証明! この甘美な痛み、希望! すべて、命さえも貴方へ差し上げられるという喜び!』」

    「『可愛い、シーザリオよ!』」

  • 8二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:34:10

    今度はリューの台詞。
    さすがに覚えていなくて、適当に答えたのが正解だったらしく、花のような笑顔。
    胸に飛び込んで抱き着いてきたので、しっかりと抱き締め返す。

    「……それで、トレーナーはどっちが好きですか?」

    「シーザリオが、好きだよ」

    「そうじゃなくて」と彼女が言いかけたところに、遠くからチャイムの音が聴こえる。
    窓の外には、もう夜だと主張する藍色の帳。
    切れかけの街灯が、チカチカとまばらにアスファルトを照らしている。

  • 9二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:34:30

    「あ、もうこんな時間ですか。夕食の準備をしないと」

    「今日は、トレーナー寮に泊まっていくんだっけ?」

    「ええ。外泊届も出してありますから。一緒にお風呂に入って、一緒に御飯を食べて、一緒のお布団で寝ましょう?」

    少しだけ頬を緩めながら、可愛らしいことを言ってくるシーザリオ。
    さっきのほうが余程、大胆なことを言っていた気がするが、芝居と素では違うのだろう。
    ひょい、と傍らの、彼女が持ってきたエコバッグを開けてみる。

    「今日は中華にしようと思うんです。『トゥーランドット』を見ていたら、それも良いかなあ、って。オルフェーヴルさんに唐辛子も貰いましたし」

    「それは、精が付きそうだね」

  • 10二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:34:58

    ニンニクやオイスターといった食材が詰め込まれている。
    この寒い時期には、確かに身体は温まりそうだ。
    ……シーザリオが隣でべったりしていることを、考えに入れなければ。

    「でも、これだと今夜は『誰も寝てはならぬ』ってシーザリオにしてしまいそうだな」

    「うふふ。そうなってくれるなら嬉しいです。それなら私は『愛と希望に震えて』、トレーナーをベッドの中で待っていますから」

    「なら、『我が口付けでシーザリオを我が物とし、その心身を溶かして見せよう!』」

    「……トレーナー」

  • 11二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:35:17

    頬を紅く染めて、とろんとした瞳でこちらを見つめるシーザリオ。
    彼女を抱き寄せて立ち上がると、素早く唇を奪う。
    それから、恋人繋ぎで手を絡めて、トレーナー寮へと向かった。

    『誰も寝てはならぬ』と、2人でアリアを口ずさみながら。

  • 12二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:35:34

    これで終わりです。
    ありがとうございました。

    至らない点もあると思いますが、よろしくお願いいたします。

  • 13二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:38:33

    GOOD
    良い作品だった
    後オルフェが唐辛子使ってて草、まだ唐辛子農家してるのか

  • 14二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:43:48

    で、こうやって生まれたのが俺たち三兄弟なわけ

  • 15二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 19:56:15

    この自分達の好きなものでイチャつくのレベル高いな…

  • 16二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 20:07:53

    ごく自然に一緒にお風呂に入ってる…
    風紀はどうなってるんだ風紀は!いいぞもっとやれ!

  • 17二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 21:05:49

    すごくよかった


    > 問題が雑になっているような気もするが。

    >それさえも気にならないくらいの、超絶御機嫌なシーザリオ。


    ここ特に好き

  • 18二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 21:06:46

    トレウマたすかる

  • 19二次元好きの匿名さん25/01/12(日) 22:15:46

    すごく良質なSSトレウマだった、ありがとう、助かったよ

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