- 1二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 10:55:11
- 2125/01/13(月) 10:56:01
- 31作目25/01/13(月) 10:56:48
あの人を一目見たその時、何故だか懐かしい気持ちになった。もしかしたら、もしかしたらだけど、ずーっと前にどこかで出会っていたのかもしれない。そんな風に夢を見てしまうくらい好き、ってことなのかな。
一見ぶっきらぼうだけど、本当は優しい人で、ついつい喋りすぎてしまう私の話に飽きずに耳を傾けてくれる。私がご飯を食べている時だって、私から話しかけなければ特に何か話してくれる事はあまりないけど、私が食べ終わるまでずっと待っていてくれる。
シーザリオちゃん曰く私はおっちょこちょいな部分があって、目を離すのがちょっと心配って言われたけど、あの人が登下校の時にそっと私を陰から見守ってくれているのも、ひょっとしたらそれが理由かもしれない。
今はそれでもいい。あの人が私を見ててくれているってだけで、胸が泣きそうな気持ちでいっぱいになる。でも、やっぱり私はあの人と今以上の関係性になりたい。
いつか、私があの人の隣を胸を張って歩いている『絶景』に辿り着いてみせる。自分の足で、自分の力で。ライバルは多いけど、誰にも負けないよ。
『絶景』を夢見て、私は今日もあの人の名を呼ぶ。
「ケビンさん!」 - 4二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 10:56:48
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- 52作目25/01/13(月) 10:58:04
ファーストキスは鉄の味がした。
何の変哲もない日のはずだった。『あの日』は休みの日だったから、ケビンさんに無性に会いたくなって、今からお邪魔させて貰ってもいいですか…?と電話をかけて恐る恐る聞いたんだ。返ってきた言葉は、わかった、という単語だけ。簡素な返事だけど、私の心は浮き足立った。
持っている服の中で一番可愛い服を着て、精一杯のおめかしをして。ケビンさんに会いに行く時はいつもそう。
あの人の前では、誰よりも魅力的な女の子でいたい。恋愛経験なんてまともに無かった私の、傲慢で繊細な恋心。私よりも相応しい人がいる事に気付いているけれど、それでもあの人を誰にも渡したくない。
恋をして、あの人が欲しいという激情だけが、常に私を突き動かしていた。
ケビンさんが女の人を家に上げたのは、私が初めてではなかったらしい。それに気付いたのは『あの日』だった。それまでは彼の居宅にお邪魔させて貰っている、というだけでいっぱいいっぱいで、彼の立ち振る舞いにまで気を回す余裕はなかったけれど、ある程度逢瀬の回数を重ねていく内に、それとなく察してしまった。
あれだけかっこいい人なんだから、過去に女の人とそういう付き合いをしていたとして、何も不思議は無い。頭ではわかっている。わかっているけど、心が壊れそうな程の嫉妬が抑えられなくて、彼の家に着いて少しした後、つい言ってしまった。
「ケビンさん、キスして」と。 - 62作目25/01/13(月) 10:58:34
突拍子もない私の言葉を聞いて、ケビンさんは返事に困っているようだった。いつも威風堂々としているケビンさんのらしくない態度に、胸が切なさで疼いた。
―昔の女の人とはしていたのに、私にはしてくれないんだ…。
「ケビンさん、私、あなたのことが好きなんです。だから、キスして。お願い…」
彼に抱きついて、がむしゃらにそんな言葉を口にしていた気がする。よく覚えていないのは、その直後に起きた事があまりに衝撃的すぎたから。
私が先の言葉を言ってすぐ、彼は悔しさや悲しさで涙ぐむ私の顔をグイと指で持ち上げた。そこからはもう、全てがスローモーションの世界で、ゆっくりと迫ってくるケビンさんの顔が、怖いような愛おしいような、不思議な感覚だった。
奇妙な感覚に酔いしれて『ああ、ケビンさんの瞳の色、とってもきれい…このまま、ずっと見ていたい…』なんて思ってたら、私の唇に冷えた鉄が触れた。鉄が触れたと思ったら、今度は暖かい感触になった。
暖かい感触は、一回だけじゃなかった。角度を変え、場所を変え、ケビンさんは私に『それ』を繰り返す。唇だけではなく、ほっぺやおでこにもされていたと思う。
間違いない、これはキスだ。自分が何をされているのかやっと理解した時には、私はケビンさんの家の床にへたり込んでいた。 - 72作目25/01/13(月) 10:59:10
「ケビンさん、あの、私…」
「今ので熱は冷めたか、ブエナ」
床にへたり込んでいる私を見下ろしながら、ケビンさんはそう言い放った。どこか突き放すような声色。それが切なくて、躍起になって私は口を出す。
「熱だなんて、そんな…私、ずっと夢見てたんです…あなたとこうするの…」
「その割には、随分泣きそうな顔をしていたな、お前」
「そ、それは…!ファーストキスだったからっ…!」
言っていて胸が色々な気持ちでいっぱいになって、涙まで出てきていた。それでも、目の前の愛おしい人に離れないで欲しかったから、必死に想いを口に出し続けた。
「好きなんです、ケビンさん。あなたが、あなたのことが。あなたじゃなかったら、キスしたいなんて、そんなこと言わなかった」
泣きじゃくりながら、子供みたいな言葉ばかり言っていた。なんとかしてケビンさんに私の気持ちをわかってもらいたくて、一つ一つの言葉に一生懸命だった。
すると、そんな私を見て途方に暮れるように彼は呟いた。
「やっぱりガキだな、お前…」
「………え?」
「…ブエナ、お前がトレセン学園を卒業したらキスの続きをしてやる。今のお前はまだ幼すぎる」
「キスの、続き…」
「ああ、お前にあそこまで言わせたんだからな。約束する。けど、今はこれだけだ」
そう言うなりケビンさんは、私のおでこにキスをした…鉄仮面越しに。それが、『あの日』の最後のキスだった。
ずるい。私は心の底からそう思った。だけど、そう思えるのがすごく幸せに思えた。ずっと、ずっとこの人と一緒にいよう。傍にいよう。あの時のケビンさんの言葉が夢じゃなければ、私達の未来は明るいんだから…。 - 8125/01/13(月) 12:46:39
SSを書いたのは本当に久しぶりだったんですが、書いていてとても楽しかったです
自分は数年前に本を出してからやる気の問題でずーっと創作活動ができていなかったので、このカプに出会えたことは本当に幸せだったと思っています
活力をくれるカプってやっぱりいいものですね - 9二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 14:25:30
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- 10125/01/13(月) 15:20:08
保守してくださった方ありがとうございます…!
また、よければ一言でも感想を頂けたらすごく嬉しいです - 11二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 15:21:40
ケビンとブエナの甘酸っぱさがよかったです。
- 12125/01/13(月) 21:07:43
ありがとうございます!ブエナはまだ子供ですから、できる限り子供の未熟さみたいなものを出そうと表現を凝らしていたつもりなので、感じ取って頂けて嬉しいです