セイア「殴り合いだ。歯を食いしばりたまえ、ミカ」

  • 1二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:16:24

    「…は?」

     ミカの表情が、疑問に曇る。当然だ。私だって、今しがたその言葉を発した自分自身がなんとも滑稽でならない。少なくとも、年ごろベッドの上で咳き込んでいるだけの虚弱な女が放つ言葉にしては、あまりにも威勢が良すぎるというものだ。
     状況が呑み込めず呆然としているミカの下へ、机の横を回り込んで、歩を進めていく。

    「…ぇ、ほ、本気なんですか、セイアさん…!?」

     ミカと同様に呆けた顔をしていたナギサも、動きを見せた私を見て、慌てて立ち上がって仲裁に入ろうとする。
     しかし、私の心は決まっている。君と真正面と向き合うには、これくらいしなければ意味が無い。それが、私の出した結論だ。
     だから、我ながらあまりにも細く、小さなこの拳を、可能な限り強く握り────。

  • 2二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:16:53

    つ🚑️

  • 3二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:17:38

    ミカ「右ストレートでぶっ飛ばす真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす」

  • 4二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:19:18

    ハナコ並みのコミュ力だな…

  • 5二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:21:41

    踏み込んで殴りかかったが滑ってコケて当たらずにただ腰を痛めただけのセイア?

  • 6二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:23:04

    >>5

    いや、転んで地面に激突する前にミカが抱きかかえる事になっている

  • 7二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:23:08

    悪くない選択かもしれないとか思ってしまった。

  • 8二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:23:35

    ぎっくり腰なので殴った体制のまま固まってしまったセイア

  • 9二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:23:41

    少年漫画みたいな展開だ

  • 10二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:24:00

    もっと早く殴り合えてれば色々事件は起きなかっただろう二人だから正しいんだけど
    それはそれとして肉体は追いつかない

  • 11二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:24:41

    流石のミカもセイアが拳で襲いかかってくるほど怒らせたら反省する

  • 12二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:25:08

    僕は知ってるんだ。病弱キャラは準最強ってことを。

  • 13二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:25:38

    >>11

    なので防御することもなく甘んじて受ける

    なんか相手が殴ることすら出来ず自爆した

  • 14二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:26:07

    バキボキベキ(軋むセイアの骨)

  • 15二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:27:00

    何を外れたことに驚いているんだ
    君は物忘れが激しいのかい?
    私は未来を読めるのだから当たらないに決まってるだろう

  • 16二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:27:24

     ────きっかけは、あの日。学内の視察に、数週間ぶりに自分の足で出向いた、あの日だ。

     学内の視察。寝台から立ち上がれない日が続いた時は、ティーパーティーの部員に代理を頼む事も少なくない。代わりに様子を見てもらって、受けた報告に目を通す。
     しかし、あくまで人伝て。学内の、生徒間の雰囲気や、派閥の情勢など、自分の目で見なければ分からない事もある。代理を務めてくれる部員を疑うだとかそういう話ではなく、物事は目を向ける箇所によって見え方が変わる。それだけの事だ。
     救護騎士団から適度な運動を勧められている事もあるし、体調もここしばらくは安定している。

    「…ふう」

     意図せず、吐息が漏れた。陽の下に居ても肌寒さを拭いきれない初秋の昼。ものの十数分歩いた程度で汗が滲み、息が上がる。ただでさえ無いに等しい体力が、更に目に見えて減った事実を重く受け止めつつ、足を進める。

     立って歩く私の存在が物珍しいという自覚はある。四方八方から視線が飛んで来て、声が上がる事もしばしば。それらに軽く挨拶を返し、見知った顔とは一言二言会話を交わし。生徒たちで賑わうトリニティ・スクエアの噴水を尻目に、お次は図書館の方へ────と、そんなことを考え、爪先の向きを変えた所で。

     視界の端。柵の向こうの庭園にある人影は、屈んだ姿勢の物が一つだけ。良く見慣れた後頭部の、左右両側にお団子を結った、桃の髪。土で汚れたジャージ。一時は目に見えて減っていた、翼を可憐に彩る装飾品。膨らんだゴミ袋を片手に握り、空いた手は地面とゴミ袋の口を行って、来てを、繰り返し…たまに、顔の前へと持っていって、逆の手で弄る様子が見える。
     
    「────精が出るね、ミカ」

    「わっ!?」

     張らずとも声が届く位の距離まで足を運び、ボランティアに勤しむ友人の名前を呼ぶ。ミカは小さな悲鳴を上げてバランスを崩し、尻餅をついた。爪に入った土を取ろうとしていた所に、意表を突いてしまった形だろう。

    「びっくりしたぁ~、急に話しかけないでよ。…セイアちゃん?なんでこんなところに。寝てなくていいの?」

    「…散歩だよ、近頃は調子が良いからね」




    (見切り発車のSSデビューなので最初のアレに繋がるかどうかも危ういけど、頑張って書くので生暖かい目で見守ってくれると幸いです...)

  • 17二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:29:17

    なんと
    応援してるぞ

  • 18二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:30:13

    >>7

    セイアの選択としては0点じゃないけどミカ側は仲直り前だったらトラウマになりかねないよこれ

  • 19二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:30:35

    結果だけ見たら謹慎中のミカがセイアに危害を加えたとしか見れないのでは?

  • 20二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:42:40

     相変わらずだな。と、返ってきた言葉にため息を漏らす。悪気は、ないのだろうが。
     君はもう少し、言葉を選ぶことを覚えるべき────などと、言い飽きた文句を静かに呑み込んだ。言葉の裏まで勘ぐって、素直に受け取れない私の方も問題だ。
     尻に着いた土を二度、三度と払い、ミカは再び屈み込んで、草むしりの体勢に戻る。
     
    「なーんだ、手伝いに来てくれたのかと思っちゃった。でもま、急に倒れられても困っちゃうし、いっか」

    「…言われるまでも無く、邪魔だろうから手伝いはしないよ。それに、ボランティア活動は君に課された懲罰の一つだ。罪の清算に他人の手を貸りるのは、君も本意ではないだろう?」

     …しまった。たった今自制したばかりだというのに、つい。しかも、今のは、良くない。

     ぶち、ぶちと、音を立てて雑草が根から引き抜かれる。そのまま流れる様にゴミ袋へと放られ、ミカの細い手が次の雑草へと伸びた。手は止まらない。
     髪に隠れ、横顔は見えない。袖を持ち上げ口を覆いながら、言おうとした。「────すまない、」から始まる、明確な失言に対する、弁明の言葉を。傷跡を抉る様な物言いの真意を。「そう言う事ではなくて…」と。

    「うん。そうだよ。だから、早く行きなよ。こんなところで、セイアちゃんが私なんかに時間を食う事無いし」

    「────」

     私の発声の半歩先。ミカの声が、鼓膜を揺らす。思わず、押し黙ってしまった。吐き捨てる様に。視線を地面に向けたまま、はっきりと追い返された。

  • 21二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:46:46

     …“いつも”なら、もう少し言い返してくる所だ。お説教は聞き飽きた、だとか、言われなくても分かってる、だとかいう減らず口を。そうでなくとも、もう少し素直な反応が見られるところだ。落ち込むだとか、拗ねて頬を膨らませる顔が目に浮かぶ。
     疲労。疲労だ。ボランティアの疲れで、気が立っているんだろう。彼女の努力は、庭園の様子とゴミ袋の中身を見れば察しが付く。

    「…そう、か。…繰り返すようだが、邪魔をして悪かったね。…休憩も、しっかり、取るんだよ」

     少し、初めの一言が震えた。返事は、無い。

     体を捻って、方向転換をするよりも先に、重心を後ろへ傾け、片足を退く。後退り。
     元から滲んでいた汗が、嫌な感触を帯びる。風が吹き、冷えた体と、尻尾の毛が一気に逆立った。
     
     ────遠目に、桃色の髪の隙間から見えた表情に、薄っすらとあの時の悲痛に似た色が見えて。

     放っておいて、と、言葉を介さず怒鳴りつけられた様な空気の重みを実感しながら。
     呆然としたまま、生徒たちの喧騒の中へ。トリニティ・スクエアの方へと、足を引きずってゆく。

  • 22二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 19:56:11

    ネタスレかと思ったら思った以上に凄そうな感じがする

  • 23二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 20:24:05

    ────これというきっかけが、ある訳じゃなかった。

    飽きもせずに続く、嫌がらせ。直接私に手出しできないからって、物を隠したり、壊したり、落書きをしたり。悪口をわざと聞こえる様に喋って、笑いながら逃げて行ったり。最近、またぶり返して来てる気がする
    ムカつくけど、そんなのにはもう慣れっこ。言葉なんて無視して忘れればいい。物は無くなったらまた買えばいい。…なんて。物の方は、そうやって言い切れるほど懐に余裕がある訳じゃ、ないけど。

    先生と、連絡が取れてない。昨日の夜に送ったメッセージにも既読が付かない。溜まってる仕事の関係で、しばらく缶詰めになる、みたいな話を、前に会った時に聞いた。だから仕方ないって分かってるけど、寂しい。
    …前に会ったの、いつだったっけ。実際は一週間ちょっとだろうけど、もう暫く会っていない気分。

     みんな、なんだか忙しそうに見える。ナギちゃんも、正実の子たちも、その他、みんな。大きな事件があった訳じゃない。派閥同士が揉めているわけでもない。私を取り巻く色々が少し落ち着いたから、いつも通り忙しいみんなが余計にそう見えるだけ。
     今日の分のボランティアも増やした。ティーパーティーの空席に名札が置いてあるだけの今の私には、今まで通りの仕事が来ない。

     それしかやる事が無い。それしかやれることが無い。言いようのない焦り。冷えて、痛んで、汚れる指。痛みが溜まって、重くなる足。肩、腰。それらが、私の償いの一歩。そう言い聞かせて。私はちゃんと向き合ってるって言い訳。

    ────これというきっかけがある訳じゃなかった。ただ、積み重なっていただけ。

    先生の手が空いて、少しでもお喋りが出来たら。私が変に遠慮せず、ナギちゃんに相談していたら。自分で、少し脅すくらいの事をして、嫌がらせを鎮静化させていたら。ボランティアの量を普通くらいにして、少しでもリラックスできる時間を、自分で作っていたら。

    あるいはそれが、────今日じゃ、なかったら。

    『────罪の清算に他人の手を貸りるのは、君も本意ではないだろう?』

     そう。そうだ。これは私の問題なんだ。だから。

    『────だから、早く行きなよ』

     だから、頼っちゃいけないんだって。懲りもせず、そんな風に思い込んだり、しなかったかもしれないのに。

  • 24二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 20:38:53

    タイミングいとわろし……

  • 25二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 21:20:18

     ベンチに腰を下ろす。こうして息を整えるのは今日、何度目か。

     初めは学園の敷地内だけで収めようと思っていた。それでさえ途方も無く広いのだから、自治区まで足を伸ばすのは別日にせざるを得ないと、至極現実的に考えて。こうして休憩を挟みつつ調子よく歩ける日が、次にいつ来るか分からない以上、苦渋の決断ではあったのだが。

     「…いつの間に、こんな所まで」
     
     見渡す景色は、気づけば自治区の街並み。スイーツ店やアクセサリーショップが立ち並ぶ通りの端に腰掛け、尚も上の空。
     辺りの会話に道すがら聞き耳を立てたり、会話を楽しむ生徒間の様子を見たりと、当初の目的である視察は怠らないよう注意を払っていた。それでも、ぼんやりと“その事”を考え、忙しなく足を動かしている内に────結局、考えていたよりも大分離れた所にまで来てしまった。

    「…ミカ」

     脳裏に焼き付いて離れない、友人の姿。冷たい秋風の中で見たあの顔。今にも泣きだす寸での所で堪えている様な表情。此方を一瞥もせず、何かを諦めたような声色。どうしようもないものを抱えた少女が、それを吐き出せずに苦しんでいる姿。
     原因は察しが付く。一時は先生を呼ぶ騒ぎにまで発展してしまった事もある、一般生徒からのミカへの嫌がらせ。今日歩いた中でも、生徒の会話に時折魔女がどうのと聞こえてくる事があった。
     ほとぼりは冷めても、一度定まった世間の評価は簡単には覆らない。落ち着きを見せたと思っていても、水面下で起こっている事柄については、上から見下ろすだけではやはり気付き辛い。そう考えると、こうして実情を知れただけでも一歩前進、と捉える事も出来るかもしれない。だが────などと俯いて、ぼんやりと思考を巡らせていた時だった。

    「────…すみませ~ん、そこの方!大丈夫ですかーっ!?」

     どんどんと迫って来る、大きな声。街路に良く通る声を聞いた耳が、ぴくりと揺れる。何か起きたか、と遅れて顔を上げると、その声の主は私の方へ真っ直ぐ走って来ている。

    「もしかして、体調不りょ、っあわあぁっ!?」

     …そして、私のすぐ前で、盛大にすっ転んだ。

  • 26二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 22:45:30

    「あぁっ、レイサさん!もう、急に走るから…はっ、は…」

    淡い紫と水色の混じったツインテールは長く、派手に浮き上がった分、転び方を余計に豪快に見せる。
    遅れて駆け寄ってきたもう一人の生徒が腕を引き、“レイサ”と呼んだ少女の腕を引いて、助け起こす。その姿には見覚えがあった。

    「確か、自警団の…」

    そう、呟く様に漏らすと、頭部の白い翼を揺らす生徒と目線が合う。

    「…あ、やっぱり。ティーパーティーの百合園セイア様、ですよね。こんな所でお見掛けするとは」

    「あいてて、スズミさん、ありが…ぁえ゛えぇっ!?セイア様って、あの、…あの!?」

     軽く頭を下げ、会釈をするスズミの隣で、ぺたりと地面に座り込んだまま、赤くなった鼻を擦りながら私とスズミの顔を交互に見回すレイサ。おろおろと、小動物の様に目を丸くしている。
     状況証拠から考えるに、ベンチに座って悩み事に耽る私の姿を体調不良者ではと考え、一緒にパトロールをしていたスズミも置いて慌てて駆け寄って、すっ転んだ、という所か。
     その上、駆け寄った相手がティーパーティーの一人。それも、滅多に外に出ない虚弱体質という属性付き。学園から離れた所でそれが体調不良を訴えていれば、なるほど慌てるのも無理はないか、という考えに至る。

    「初めまして、だったかな。パトロールお疲れさま、二人とも。私の方は散歩を兼ねた学内視察…の、つもりだったんだが、ね」
     
     袖に隠れた両手を持ち上げ、「何を間違ったか、少し遠くまで行き過ぎてしまったよ」と、精一杯茶化すつもりで言葉を返す。

    私の返事を聞いたスズミはほっと息を吐き、レイサを落ち着かせるようにぽん、ぽんと頭に手を添えた。レイサの疑った体調不良の心配は無いと判断したのだろう。

    「あぇ、スズミさん…!?」

     地べたにしゃがんだままのレイサは、スズミの意図を汲み取れているのかいないのか、どちらにしてもその意識は不意に撫でられている現状にシフトしたようだった。
    少しの間、スズミの視線が真っ直ぐ私に注がれる。

    「…何か、ありましたか?物憂げな表情を、されておられるので」

  • 27二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 23:42:43

     …顔に書いてある、という比喩表現があるが、今の私が良い例だ。ほぼ初対面の相手にさえ、思い煩う心中を言い当てられるほど分かりやすいとは。普段は分かりにくいと、それこそミカに口を酸っぱくして言われているのだから、皮肉な話だ。かなり歩いたから、もしかしたら物理的に顔色が悪いのも一因かもしれない。
     少し、迷う。今ここで、二言三言交わしただけの相手にするべき話だろうか。しかし、虚勢を張る理由も無いし、無用な心配を掛けてしまうのも申し訳ない。

    「…友人が、少し…思い悩んでいるようで。なにかしてやれる事は無いか、少し考えていただけさ」

     制服の袖で口元を隠し、可能な限り言葉を選んだ悩みの種を伝える。だいぶ抽象的になってしまったが、その位が丁度いいだろうと考えて。
     
    「────レイサさん。今日は朝から動きっぱなしですし、この辺りで少し休憩を取りませんか?」
     
    「えっ?…あ、あぁはい、それは構いませんけど…」

     目を閉じ少し考えるような素振りを見せたスズミは、不意にレイサへと視点を向ける。話の流れをぶった切るスズミの提案に困惑しながらも、スズミの手を借りて立ち上がったレイサは、落ち着かない様子だ。

    「この間お話していたクレープ屋さん、この辺りでしたよね。どこでしたっけ?買って来るので、教えて頂けると助かります」

    「あっ、はい!スイーツ部の皆さんから教えてもらったお店は、向こうの角を…じゃ、なくって!スズミさん、セイアさまの────」

     言いかけて、そこで詰まる。スズミが片目を瞑り、指先を口元に当てているのを、私も見た。

    「私が買ってきます。セイア様もお時間さえ宜しければ、ご一緒にいかがですか?」

    「…いや、私は────」

     遠慮しておく、と言いかけた、丁度そのタイミングで。

     きゅる、とお腹が鳴った。

     スズミが少し頬を綻ばせたのを見て、再び口元を…今度は、鼻の辺りまでを覆う様に隠す。豆鉄砲を喰らったような顔をするレイサの事も、今は少し見たくない。
     …誰だ、こんなこってこての台本を書いたのは。そうやって居もしない人生の脚本家に心の中で恨み節を呟く。
     頬が帯びる熱を布越しに感じながら、半ば諦念に後頭部を押される形で、私は小さく頷いた。

  • 28二次元好きの匿名さん25/01/13(月) 23:43:54

    このレスは削除されています

  • 29二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 00:32:19

    眠気で筆が止まってきたので一旦寝ます
    お昼ごろか今日のスレ立てした時刻ぐらいに更新出来たらいいなと
    おやすみなさい

  • 30二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 00:38:41

    物憂げなセイアちゃんほんとかわいい……
    そしてここにきてのスズミちゃんとレイサちゃんがまた物語を動かしてくきっかけを感じさせてドキドキする……
    明日も楽しみに待ってます!

  • 31二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 07:44:18

    続きに期待

  • 32二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 10:29:23

     つまるところスズミは、悩みを抱える私に二人がかりで寄り添ってやろうと企てた訳だ。私が断り辛い様に、自警団活動の休憩時間と称し、合理的に私に構う時間を作り出し────そこまで織り込み済みであったかは定かでないが、都合良く鳴った私の腹時計という援護射撃を経て、その策略は見事に実現する事となった。
     自警団は部活としては非公認。殆ど、各々が自主的な活動で治安維持を行っている様な物だ。そこの所属なのだから、正義感の強い子たちだという事は周知の事実。…こんな風に、心のケアまで受け付けるというのだから、彼女らなりの正義への意欲と誠意に感服せざるを得ない。

    「…大丈夫でしたか?あ、その、ちょっと無理に付き合わせる形に、なっちゃったかなぁと思って…」

    クレープを買いに行ったスズミを待つ間、私の隣に座ったレイサが、おずおずとそう話しかけてきた。

    「心配要らないよ。…むしろ、感謝したいくらいだ。気を遣わせてしまって申し訳ない、ともね」

    「いえいえ!自警団として、困っている人は見過ごせませんからっ!スズミさんも、同じ事を仰ると思いますっ!」

     ぱっ、とレイサの表情が明るくなり、声調も一段階、二段階程上がったのが分かる。

    「この『トリニティの太陽』宇沢レイサが!セイア様の心に立ち込める暗雲もずばばーんっ!と振り払ぁ…」

     飛び跳ねる様に立ち上がり、ポーズを取るレイサ。先程、私を呼んでいた時の様な調子が戻って来たなと、そう思った矢先、レイサの言葉が途切れる。

    「…えたら、良いんですけどね。友達に関する悩みといえば、私も…つい、この間までは、当事者だったものですから」

     再びベンチに体重を預け、今度はしみじみと、振り返る様に目を閉じた。その瞼の裏に、彼女が何を見ているのか、部外者の私には分からない。語り口的には、多少なりとも苦い思い出も含まれているのだろうが────。

    「…聞いても、大丈夫な話かい?」

    「あはは、もう解決した話ですし、大丈夫です。…セイア様の件の、参考になるかは怪しいですけど!」

    そう前置きをして、レイサは話し始める。

  • 33二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 11:03:50

    「中学の頃から私はこんな感じ…といいますか。困っている人は助ける、困らせる人は成敗っ!て具合で…そこらじゅうを駆けまわっていた訳です。そんな中で、中学時代に唯一、一度も勝てなかった、子…スケバンの中でも名前が知れていた様な子と、高校に入ってから再会する機会がありまして」

     ぽり、と頬を搔いて、少し照れくさそうに。先の私と同様、個人を特定されない程度に、抽象的な物言いを選ぶレイサ。

    「一方的にライバル視していたのと、まぁ…久々に会えて嬉しかったのもあって、昔みたいな勢いで絡んじゃったんです。…とっくにスケバンもやめて、その事を忘れたがっている、向こうの気持ちも知らず、考えずに」

     あぁ。胸中で嘆息が漏れる。

     言葉を額面通りに受け取れば、「名の知れたスケバン」は、中学時代のレイサからしてみればどうしたって成敗すべき対象に他ならない。しかし、彼女の語り口調からは、正義を貫く者としての、悪さを働く不良へのそれが欠片も感じられなかった。
     始まりがどうであれ、何度も顔を合わせるうちに────後に再会した時に「久々に会えて嬉しい」と感じる程度の関係性を築いたのだろう。
     そして、その頃に対する捉え方は違った。レイサにとっては腐れ縁の思い出話でも、相手にとってはとっくに忘れたい過去。それを、無暗矢鱈に掘り返す真似をすればどうなるか、想像に難くない。
    …自身の失言に、被る部分がある。

     その結果、どうなるか。想像に難くない。
     レイサもそれを口に出す事はしなかった。あなたの想像通り、と言う代わりに、少しの沈黙を挟んで。

    「…それで、これ以上迷惑をかける前にと思って、一人で突っ走っていたら、余計に迷惑をかけちゃいまして。まぁ、それがあったおかげでむしろ、今の “杏山カズサ” と仲良く…なれた!といいますか、今思うと、悪い事ばかりでもなかったな~と…?」

    「…あ」
    「…あ゛っ!!」

     ユニゾン。相手の本名どころか、フルネームをそのまま漏らしたレイサと、顔を見合わせたまま、硬直する。

  • 34二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 11:31:27

     …レイサが余計にかけたという「迷惑」とは、中学時代の…“杏山カズサ”(…レイサ曰く、「仮名!!仮名なので!!実在する人物・団体とは一切関係!!ありません!!!」との事)。彼女と因縁のあるスケバン達にレイサが囲まれ、彼女の情報を吐かされそうになったところを、“カズサ“とその仲間たちに助けられた、という塩梅の話だった。
     レイサの過ちと、反省。先生が関わっていたという話だから、間の取り持ちが上手く行った事も含めて、それらが“カズサ“が行動を起こすまでの心情の変化に繋がり、拗れた関係を解く鍵になったのだろう。或いは、”カズサ“も初めから思う所があったのか。仔細までは聞かずとも、大まかにそういう風に受け取る。

    『────  、   ────…!』

     …鼓膜ではなく、私の脳裏を直接震わせる声が、辺りに響く感覚がした。
     あれは、エデン条約の一件。白昼夢の果て、虚弱なこの肉体では耐え難いほどの負荷と引き換えに、先生の命が脅かされようとしている事を知った私。

    『──君が、先生を連れてきたから……!』

    思い出される、焦燥。恐怖。渦巻く悪感情と、胃の底が持ち上がる様な不快感。それらに全身を揉まれる様な錯覚を覚える。平衡感覚すら失いかけ、取り乱した私から…口をついて出た、言葉。
    薄れゆく意識の中、微かに聞こえた、ミカの悲痛な声色。血の赤で滲む視界に、大粒の涙を零していたあの顔。あの、顔。

    「……レイサ。少し、聞いてもいいかい」

    「あ、はいっ。答えられる事なら、なんでも!」

    「…君が“カズサ”と再会し、踏み込むべきでなかった過去に触れてしまったと、気づいた時。中学時代の…彼女が、触れて欲しくないであろう“杏山カズサ”に迫ろうとする、スケバンと戦っていた時。君は…きっと、後悔や、自責の念に苛まれていたはずだ」

     選択を誤った。すべきではなかった。
     誤ったのは自分の短慮。この結果は自分が招いたもの。
     自分が、悪い。自分の、せい。

    『────私の、せいだ────…!』

     再び、同じ声が。────ミカの、自責の叫びが、私の脳内を震え、乱反射する。垂れ落ちる様に言葉を零した、その顔が。血の色に滲んでも尚はっきりと浮かんでいた悲痛の色が、先程庭園で見た、ミカの横顔に薄く重なった。

  • 35二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 11:37:25

     きっと、あの時と同じ。「魔女」と蔑まれ、それを受容する事も厭わなくなりつつある、彼女に根付いた、自責。自分のせいだから、受け入れて。自分のせいだから、一人で。
     私を、ナギサを、人を頼る事すら許せない、彼女の頑強な自責。それを、私が。
    “君の“、罪の清算に────。いつも通り、それが正しい事であるかの様に、上から目線で語って、その地盤を更に踏み固めてしまったのだと。

     その色を拭う為に、私に何ができる?

     レイサは、黙って私の次の言葉を待つ。垂れ目気味の双眸を真っ直ぐこちらに向けて、真剣な面持ちで。私の言葉が、あくまで質問の前段階。前提であると理解した上で、それを拒まない肯定の姿勢。
     
    「…君が、それでも彼女との仲を、はっきりと「友達」と言える、今に。どのようにして、行きついたのか…」

     違う、と思った。木霊するミカの声に意識を奪われて、上手く言語化出来ない。

    「彼女の、お仲間の皆さんのお陰でもあります。今の私と、今の…杏山カズサ。それを繋げてくれた、最初の一歩は、あの人たちが作ってくれました。あ、もちろん先生も、です」

    しかし、レイサはそれに答える。大まかに何を聞きたいのか、理解した様で。少し言いよどんでから…半ば諦めたように、彼女を「仮名」で呼びながら。

    「ですが、一番はやっぱり、もう一度しっかり話す機会を得た事、ですかね!いつも通り決闘を挑んだり、一緒に、スイーツを頂いたり。そういう日常の中で、言葉を交わしている間に、…自分が悪いんだ、って思い込んでいたことも、いつの間にか忘れちゃう。…とまでは、言いませんけど!」

     …話す。

    「…今の私の言葉を、彼女が聞き入れるとは思えないんだ」

    「私は、よく言われますよ。“声も大きいし見るなり飛び掛かって来るから、無視しようにも出来ない”って、こ~んな顔をして!」

     そう言う彼女は目じりに指を当て、無理矢理吊り上げる様に、恐らく悪態をつく“カズサ”の真似をしてから、にかっと笑顔を浮かべた。

     懐から「挑戦状」と書かれている、少し汚れかかった封筒を取り出し、両手で持ったそれを眺めながらレイサは続ける。

  • 36二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 12:47:25

    家出るので続きはまた午後に!!!

  • 37二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 17:43:16

    楽しみにしてます

  • 38二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 20:40:48

    「今思うと、高校生になってまた会えたあの時、私が決闘を挑んでいなかったら…こうはならなかったと思います。無理矢理で、強引で、嫌な思いをさせてしまったのは勿論、反省点ですが、…さっきも言いましたけど、悪いことばっかりじゃなかった。行動力だけは、スズミさんにも褒められるので!」

    「…行動力だけ、だなんて、そんな薄情な事を言った覚えは無いのですが…」

     その時、手に三つのクレープを抱えたスズミが戻って来た。

    「あ、スズミさん!お帰りなさいっ!」

    「お待たせしました、お二人とも。どうぞ、美味しそうですよ」

    「…あぁ、お帰り。ありがとう。ご厚意に、甘えるとするよ」

     私とレイサにクレープを受け渡したスズミは、迷わずレイサの反対側。私の左隣に腰を下ろした。

    「私も、お話に混ぜて貰ってもよろしいですか?」

     言葉を聞いて、レイサの方を見る。特に隠している話という訳でも無いらしく、サムズアップで「大丈夫です!」と意思を伝えてくれた。

  • 39二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 21:37:29

     ざっと、レイサの話と、それを受けての私の相談内容をなぞった。三人で、クレープをかじりながら。

    「…レイサさんの言いたい事の、途中で割り込んでしまったみたいですね。つまり、こういう事でしょうか」

    もぐ、もぐ。ごくん。クレープに歯形を残し、飲み込んでからスズミが口を開く。

    「聞いてくれそうにないからと悩むくらいなら、無理矢理にでも聞かせてしまえばいい。…セイア様に決闘を申し込め、と言うのも、難しい話だと思いますが」

    「あ、はは…私も流石に、そこまで言うつもりはありませんでしたけど…」

    少々強引な結論。しかし、停滞するよりはやぶれかぶれでも言葉を交わす方が良い。口に含んだ、甘いクレープの味を噛みしめつつ。

    「…仮に、言葉を届ける事が出来たとしても。それを、彼女が望んでいるかどうかは…」

    「私は、正義実現委員会には入りませんでした」

    「────え?」

    食い気味。という言葉が当てはまるだろうか。私が発しかけた弱音の上から被せる様に、スズミが口を開く。全く的外れなような出だし。先刻、私を引き留めようとしたあの時に似た感触。
    それに不思議と不快感が無かったのは────今しがた零れ落ちかけた弱音を、言わせないでくれたからか。

    「あの組織が掲げる正義は、私の信じるそれとは少し、異なる物でした。…セイア様の御前でこんな事を言うのは少し憚られますが…生徒会組織・ティーパーティーの指揮下にある正義実現委員会。それすなわち、彼女たちをトリニティの公戦力と捉える事も出来ます。否が応でも政治性が付き纏い、時には目の前で困っている人に手を差し伸べられない事もある。救う力も、その意思もあるのに、動けない。どちらにとっても、そんなに悲しい事はない、と、そう思ってしまったんです」

    「────」

    「私は、私の正義を信じて、自警団に所属しています。上下も規律も、曖昧なものしかありません。それでもこの場所は私の信じる正義を全うできる、私の居場所です」

    「スズミさん…」

  • 40二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 21:53:00

    レイサの手の中のクレープは、既に半分以上が食べられて、原形を留めなくなっている。良いペースで食べ進めていたと思っていたスズミの物は、話し始めてから進んでいないからか、ちびちびと啄む私のそれと、減りが大差ないように見える。
     ずい、と前のめり。スズミの顔が、私に近づく。

    「…お友達の為に提言をするのは、時に不安かもしれません。それでも純粋に、お友達の為を思っての事であるならば。それが、セイア様の『正義』であるならば。それを貫き通した結末は、きっと良い物に落ち着くはずです」

     …私の。『正義』。

     スズミの言葉を噛み締めるように、唇を閉じたまま口内だけで発音する。

    「…私たちに出来るのは、何処まで行っても応援止まりです。行動を起こすも、起こさないも、セイア様の選んだ『正義』が、どうか良い形でお友達に届きますように」

     スズミの言葉に、何の返事も返せないままに。ただ私は、沈む太陽を見送る。
     夕日が、落ちてゆく。

  • 41二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 21:54:56

     その後。私は自警団の二人に付き添ってもらう形で、それほど遅くはならずにトリニティへと帰る事が出来た。

    「…」

     私室に、一人。窓を開け、すっかり暗くなった空を一望する。街灯がほのかに敷地を照らすトリニティの窓からは、見える星も限られているが。
     …夜風に当たりながら、スマートフォンを取り出し、電話をかけた。2コール、3コール。それが終わると同時に、ぷつりと音の余韻が途切れた感触の後。すっかり聞き慣れた声が、電話越しに耳に届いた。

    『────はい、もしもし』

    「もしもし。忙しい所、申し訳ない。重ねて急な話だが、…今週末にでも、久々に“お茶会”を開きたいんだ。予定はどうかな────ナギサ」

     電話口の向こうに居るのは、桐藤ナギサ。現状、私に代わってティーパーティーホストの業務を、代理として請負ながら────来たるトリニティ謝肉祭の準備を取り仕切ってもいる。恐らく今この瞬間、トリニティで最も多忙なのは、彼女を置いて他に居ないはずだ。

    『今週末、ですか。…少し、スケジュールの見直しが必要かと思いますが、はい。お時間は作れると思います』

     しかし、返答は以外にもあっさりとした、承知の色を示す。
     本当に、大丈夫か。無理はしていないか。そういった、心配の言葉は、飲みこむ。積極的に後に回す理由が無いのなら、鉄は熱いうちに打つべきだ。ナギサには、申し訳ないの一言に尽きるが────大切な事だ

    「…そうか。ではそれで。場所は追って連絡するよ。...それから、────」

     一呼吸おいて、はっきりと。

    「────今回のお茶会には、ミカも呼ぶ。…君から声を掛けてくれると、ありがたい」

     帰り際。スズミに貰った「お守り」。左手の中のそれを、より一層、力強く握りながら。

  • 42二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 23:03:51

     ティーパーティーの“お茶会”。その言葉が指すのは、紅茶やお菓子を囲んで談笑し、親睦を深める、いわゆるお茶会とは訳が違う。
     一般生徒や他組織の生徒を招待する場合にも、それが純粋に親睦を深める目的である事は稀だ。────桐藤ナギサの“お茶会”に呼ばれた阿慈谷ヒフミが、補習授業部内で先生の「補佐」を申し付けられたように。
     ましてその場に、パテル。フィリウス。サンクトゥス。三大分派の代表が一挙に集うとなれば、もはやその机上はトリニティにおける政争の最前線とも言い換える事が出来る。
     紅茶と茶菓子の香りに彩られた机の下に、各自が取り揃えた手札を忍ばせた、一種の戦場。言葉尻一つ取られれば、学園の未来が左右される可能性すらある、一触即発。それを、甘い匂いが覆い隠す。それが、これまでのティーパーティーの“お茶会”。

     それ故に、此度の私が開くお茶会は、ティーパーティーの“お茶会”としては異端と言う他ない。

    「…ミカさん、遅いですね。何かあったのでしょうか」

    「…じき、来るさ。気長に待つとしよう」

    トリニティの紋章の意匠が施された三段重ねのケーキスタンドに、これでもかと乗せられたお菓子。それを中央に置いた丸机を囲む形で、三角を描く様に置かれた三つの椅子。そのひとつは、未だ空席。
     心配そうに扉を眺めるナギサ。…その顔は、横目で見ても隈が目立つ。
     エデン条約の一件の直後、キヴォトス全域を襲った未曽有の「色彩」事件。その事後処理が落ち着いたタイミングで、今度は謝肉祭の用意。それらすべてを、可能な日は私や、傘下の子達の手を借りつつとはいえ、満足な休息も無く満遍なくこなしているのだから、無理もない。

     ばたばたと、足音が聞こえる。それが数瞬、扉の前で止まり、そして。

    「おっまたせ~☆ごめんごめん、お気に入りのピアス、どっかやっちゃってさっ。焦って部屋中ひっくり返して探してたら、遅くなっちゃった!」

    「ミカさん、お久しぶりです。お変わりないですか?」

    「ナギちゃんてば、堅苦し~!そんなんだっけ?セイアちゃんが感染っちゃったんじゃない?」

     …勢い良く扉を開け、ベランダに姿を見せたミカ。その姿は元気溌剌で、あまり何も考えて居なさそうな言動で。綺麗に整った服装で。あまりにも、いつも通り。幼馴染であるナギサの目にすら、欺ける程に。

     ────メイクが、濃い。明らかに。

  • 43二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 23:10:35

    ────────眠れない。

     眠れない、眠れない。
     眠れ。眠れ。眠れ。眠れ。

     早急に意識を飛ばせ。可能な限り早く眠りに落ちろ。身体に休息を与えろ。今日までに溜めた疲労の全てを、ここから四時間後に顔を見せる朝日と対面するまでに綺麗さっぱり洗い流せ。そうでなきゃ、心配をかける。迷惑をかける。

     肺の中身を総入れ替えするまで深呼吸をして、新鮮な空気を取り込め。乱れている場合じゃないんだよ、心臓。脳味噌は変に騒ぎまわるのをやめて。あと、三時間。寝なきゃ。寝なくちゃ。肌が荒れる。荒れたのがバレたら、二人が気にする。理由を尋ねようとする。夜更かしの理由。考えたらいい?また嘘つくの?それは嫌。嫌だから、お願いだから寝て。寝て、ください。

    明日。その明日はとっくに今日。薄い毛布に包まって待っていても眠気は来ない。でも来てくれなきゃ困る。寝かせて欲しい。今日までの。その今日はすでに昨日。昨日までの客観視すれば過重なまでに重ねたボランティアの疲れが露呈しちゃう。見られちゃう。弱い私を。先生にナギちゃんにセイアちゃんにコハルちゃんにみんなにあれだけしてもらってまだ弱い私を。二時間もない。起きて準備をしなくちゃいけない時間まで。二時間も、ない

    一時間四十六分十八秒。一時間四十六分六秒。一時間四十五分四十一秒。一時間四十五分二十九秒。一時間四十五分十九秒。一時間四十五分十六秒。一時間四十五分十二秒。一時間四十五分十一秒。一時間四十五分十秒────────目を閉じて。開いて。何度時計を見たって、まだ朝じゃない。遅い。遅い。遅い遅い遅い遅い。時間の流れが遅い。これだけ時間があるのに。まだ朝じゃないのに。寝れない。寝れない。寝れない。

     それでも、時間は私を置いて、勝手に前に進むから。
     差し込む朝日が、眩、しくて。
     ベッドから見える位置にある、姿見に映った、自分の顔。

    「…隈…、ひどい、や。肌荒れも」


    「…セイアちゃんの…お茶会。…行かなきゃ。行かないと。行って、それから」


     ────扉の前。どうやってここまで来たか、よく覚えてないや。
     笑ってない。笑わなきゃ。声を出さなきゃ。私らしく。いつも通り。心配かけないように。
     人差し指で、無理やりに口角を持ち上げて。それを、ゆっくり離して。それから、ノブに手を掛けて────。



    「────おっまたせ~☆」

  • 44二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 23:31:25

    (なんか前にもミカに殴り掛かるセイア見たな…)

  • 45二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 23:38:31

     もしかしたら、と淡い希望を抱いていた。全てが杞憂で。あの時はただ、本当に一時の気まぐれで、気が立っていただけで。
     少しいじらしげに現れて、おずおずと席について。話を始めた私が、それとなく話題を振って、それで、遠慮がちに庭園での話を始める、なんて、都合の良い空想を。
     ナギサも、違和感には気付いているのかもしれない。何も知らなければ、わざわざつつくほどでもない違和感。
     それが、私にはどうしようもなく大きく膨らんでいるように見えて。
     だから、彼女が私に振った言葉にも、いつもの調子で返す事が出来ない程に、私は動揺していた。

    「────ミカ」

     椅子を引き、私の左前方に座った彼女。その名前を、静かに呼ぶ。

    「なぁに、セイアちゃん?セイアちゃんがお茶会だなんて、いつぶりだっけ。ねぇねぇ、このお菓子どこの!?見た事無いやつだ!あ、こっちはこないだ話題になってたやつでしょ!あははっ、ハズさないね、流石セイアちゃん!」

     いつも通り。いつも通り、とは、なんだ?
     あの時の、庭園でのボランティア中の事。それがまるで、無かった事であるかのような声色。
     背筋を、何かが伝う感覚。ナギサの顔が見れない。ミカに、思考が奪われる。
     私は名前を呼んだ。ミカは返事を返した。でも、それは会話じゃない。
     なんだ。この、見えない壁があるような、錯覚は?

     ────視界の端で、不意に。私の肩から、小さな影が飛び降りた。

    「……?」

     机の上には、私の小さな友人。シマエナガが…なぜか、抜けたての自身の羽を一枚、嘴に挟んで、此方を見つめている。 多少の贔屓目はあるかもしれないが、彼はかなり賢い。私からの指示も無く、なんの意図も無い行動をしだすのは極めて稀だ。
     何か、伝えたいことが。そう思って少しの間、彼に目線が引き寄せられる。

     用意した紙ナプキンの上に、弾むように移動した彼は、咥えていた羽根をその上に落とし、…そのすぐそばにある、チョコレートの皿に、こつんと嘴をぶつけた。
     チョコレート。ストロベリーのジャムが入った物。
     紙ナプキン。シンプルなデザインに、トリニティの校章がワンポイントで入った高級品。
     羽根。根元から綺麗に抜けた、小さな羽根。

  • 46二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 23:49:30

    「君は…」

     黒い瞳に、陽光がハイライトを加える。真っ直ぐと私を見据える、手のひらほどの小さな友人。

    『レイサさんの言いたい事────つまり、こういう事でしょうか────聞いてくれそうにないからと悩むくらいなら、無理矢理にでも聞かせてしまえばいい』

    スズミの声が、耳の中をハウリングする。

    『そう言う彼女は────懐から「挑戦状」と書かれた…少し、汚れかかった封筒を取り出しながら────』 

    レイサの姿が、脳内に投影される。

    「…君は」

     彼は、理解したのだろう。私と同じことを、私よりも単純に。
     ミカに、私の言葉を聞くだけの余裕はない。隈を、肌荒れを、胸中の闇を覆い隠す、仮面の様に厚いメイク。ただひたすら、明るく振舞おうとする、彼女の態度。
     だからこそ、彼は言っている。

    『あれを、どうすべきか?』

    『君には、彼女の為に、何が出来る?』

    『────百合園セイアの「正義」とは、なんだ?』

      鼓動が、ひとつ。一際、大きな、鼓動が。私の耳に、届いた。

  • 47二次元好きの匿名さん25/01/14(火) 23:59:31

     チョコレートを、一粒手に取る。かり、と、外側のチョコレートの部分を歯で削り、中に詰まったどろりとした苺のジャムが漏れ出す。
     細い羽根を手に取り、その翮にジャムを着け────紙ナプキンの上に、迷わず滑らせた。
     …小さな羽根だ。羽根ペンとして扱うにはあまりにも細く、柔らかい。ジャムも、筆先に着けて字を書くには向いていないし、一つのチョコレートで書ける量など、たかが知れている。
     それらを念頭に置いたうえで、書いては着け、書いては着けを繰り返し────持ち上げた紙ナプキンを、ミカの方へ。フリスビーの様に回転を加えて、投げた。

     ミカもナギサも、呆然としている。当然だ、傍目には何をしているか、理解すら及ばなかった事だろう。
     だが、私の投げた紙が、空気に揺られながらミカの下まで届いたところで、ようやくそれが、私からミカに宛てた、何かの行動だという事は、二人とも把握したらしい。
     手元に来た紙を目に近づけ、眉をひそめるミカ。

    「なに、これ…?読めないんだけど…セイアちゃ、」

    「『果し状』」

    「…え?」

     流石に、原文────というか単語は、たった三文字とは言え、あの画数だ。間に合わせの画材で描くのは無茶が過ぎる。だから、ニュアンスは変えないまま、字面的にももう少し簡易的な表現で。さらにそれを、草書体────いわゆる、崩し字の形式で、なるべくインクを節約しながら、記す事に決めた。


    「…言葉は変えたが、これは私から君への────「挑戦状」だ。受け取っておくれ」


     借りるよ。胸の中で、恐らくは今日も自治区内を駆けまわっているであろう、元気な────「トリニティの太陽」。「自警団のスーパースター」と名乗っていたのも聞いたな、などと、帰り際の記憶に。短い感傷に浸りつつ────…元気な、正義感の塊に向けて、呟きながら。




    「この私、『トリニティの賢人────フィロソファー』こと、百合園セイアが。たった今、この場で、…聖園ミカ。君に、決闘を申し込む────!」

  • 48二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 00:11:16

    「…あ、?…え、…?…あ…あは、あは、は。何、急に。セイア、ちゃん?…ドラマの見過ぎじゃない?それともアニメ?そういうの見るタイプだったっけ。いくら寝たきりで、他に娯楽がないからって、さ。ていうか、それにしたってその口上はダサいし、イタいよ?キャラに合ってないっていうか。イメチェン?方向性、間違ってる、と、思うなぁ、私」

     先に口を開いたのは、ミカ。否、二人とも、口だけはずっと開きっぱなしだ。私の突然の奇行に、茫然自失としている。
     数秒の空白を挟み、絞り出すように声を上げたミカ。どこか手探りな言葉を、心臓を整えるようにゆっくりと紡いでいく。ナギサは尚も、全くもって理解が追い付いていないような顔で、ミカと私を交互に見つめている。

    「け…決闘、って言った?いや、何言ってんのさ。銃なんて私、持ってきてないって。はたし…挑戦状?が、何だって?ちょっとごめん、ほんとによくわかんなくて…。え、セイアちゃんが、私に、ってこと?」

    ミカはへらへらと笑顔を浮かべ、必死に言葉を紡ぐ。額に滲んだ汗が見えた。

    「お茶会の場に銃を持ち込むなんて、無粋な真似はしない。当然だね、最低限の品格は備えてきたらしい」

    椅子を引き、立ち上がり。そうして、はっきりとミカの目を見据え。

    「分かるかい、ミカ。今、この場での決闘、それすなわち────」


    「殴り合いだ。歯を食いしばりたまえ、ミカ」

    「…は?」

     ミカの表情が、疑問に曇る。当然だ。私だって、今しがたその言葉を発した自分自身がなんとも滑稽でならない。少なくとも、年ごろベッドの上で咳き込んでいるだけの虚弱な女が放つ言葉にしては、あまりにも威勢が良すぎるというものだ。
     状況が呑み込めず呆然としているミカの下へ、机の横を回り込んで、歩を進めていく。

    「…ぇ、ほ、本気なんですか、セイアさん…!?」

     ミカと同様に呆けた顔をしていたナギサも、動きを見せた私を見て、慌てて立ち上がって仲裁に入ろうとする。
     しかし、私の心は決まっている。君と真正面と向き合うには、これくらいしなければ意味が無い。それが、私の出した結論だ。
     だから、我ながらあまりにも細く、小さなこの拳を、可能な限り強く握り────

     彼女の頬目掛けて、思い切り、振るった。

  • 49二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 00:18:15

     ぱしん、と乾いた音が響く。
    当然、止められた。それどころか勢いをつけて殴りかかったせいで重心がふらついて、ミカに拳を受け止められていなければそのまま転んでいたくらいだ。

    「っ、…ふざけ、てるのっ!?」

    状況を理解できないまま反射で掴んだせいか、私の手を握った瞬間のミカの手には、力に加減が無かった。そのせいで、細い手首がみしり、と軋む。

    「────っ」

     歯の隙間から漏れ出すような私の悲鳴とほぼ同時に、ミカの理性が働いたか、彼女の手から一気に握る力が抜ける。じんじんと痺れる感覚。骨折までは行かないにしても、ヒビくらい入っていてもおかしくない。
     そうだ、これが現実。相手は聖園ミカで、私は百合園セイア。
    力を派閥の根幹とするパテルの代表を務めた少女。彼女が力を振るう度に届く目を疑うような報告書の内容に、幾度となく頭を悩ませていたのも、まだ記憶に新しい。

     事戦いにおいては、聖園ミカと百合園セイアでは文字通り、格が。次元が。世界が違う。

     分かっている。そんなこと、誰に言われるまでも無く。考えるまでも無く。
    例えじゃれあいの中ですら、私がミカの頬をぶん殴ることなんて、きっとこの先一度としてないだろう。

     だが。

    「う、あぁあっ!!!」

     緩められても振り解けない右手は他所に、逆の、左手を。困惑に歪むミカの顔面目掛けて、袖越しの握り拳を、横薙ぎに振るう。へっぴり腰の左フックは、ギャラリーがいればなんとも無様で、滑稽に見える事だろう。

    「っ…!!」

    今度は身を反らし、避けられた。しかもその勢いが乗った状態で、支えとなっていた右手が手放され、身体は勢いよく真横の丸机に倒れ込んで。突っ込んで。ケーキスタンドや、多数のお皿。それに乗ったスイーツたち。食器と、ティーセット。それらが丸ごと、宙に舞った。

  • 50二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 00:37:49

     痛い。
     右手首だけじゃない。今度はじんじんと、全身が痛む。
     ティーセットが割れる、耳障りな音。菓子類が落下し、崩れた鈍い音。食器が奏でる、金属の木霊。飛び散ったスイーツは、私達の白い制服を色とりどりに汚す。
     机にぶつかり、頭や肩、足なんかに、ぶちまけられたお菓子が雨の様に降り注いで、ぶつかる。

    「…ふーっ、…ふーっ…」

     足音。地面で潰れたお菓子を、さらに踏みつぶす音。影が、私に。
    見上げた、ミカの顔は。ひどく、苦しそうで。

    「────いい加減にしてください!!!」

     テラスに、鋭い声が響き渡る。

    「いったい何があったんですか、セイアさん…!?ミカさんも、衝動的にならず、落ち着いてください!!」

     ナギサ。ナギサが、拳銃を。
     彼女の愛用する拳銃を、ミカに向けている。
     お茶会の場で、銃を出す。既にお茶会の場と呼んでいい物か怪しい部分はあるが、それにしてもだ。規律を。規範を。誠実さを。品を欠くような事を好まない、ナギサが。銃を。

     そして、怒号が、跳ね返る。

    「衝動的なのは、どっちさ!!!」

     絶叫にも近い、ミカの悲痛な怒鳴り声が、先のナギサのそれよりも、更に大きく木霊する。

    「挑戦状とか殴り合いとか、急に訳わかんない事、言いだしてさあっ!!!訳わかんないのはいつもの事だけど、今日のは特に、全然意味わかんない!!!」

  • 51二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 00:50:39

    そのミカの剣幕に、さしものナギサも拳銃を向けたままの姿勢で凍り付いてしまう。

    「なんで私に銃を向けるの!?なんで私を止めようとするの!!?ケンカ吹っ掛けてきたのは、セイアちゃんの方じゃん!!セイアちゃんが殴りかかってきて、勝手にすっ転んだんじゃんか!!なんで、なんで私を、私がっ、なんで!!」

     肩で息をするミカ。雷鳴の様な声で空気を震わせていたその姿は、ただ少し俯いただけで────ひどく、小さく見えて。

    「…せっかく…。せっかく、久々に…。二人と、お喋り…できるって、思ったのに…」

     大粒の涙を流す、ミカ。

     彼女の仮面が、剥がれてゆく。


    「────よく、言うよ。上辺だけを、どうにか…ぎりぎり、取り繕っただけの、”聖園ミカ”で、入って来た、癖に…!」

    「…はあ?」

     震える膝に、手を添え。ゆっくりと、着実に立ち上がる。
     手首が痛い。肩が痛い。背中が痛い。腰が痛い。脚が痛い。
     だから何だ。

    「…聞こえなかったか?葛藤と…苦しみの痕を、即席の化粧で覆い隠した君なんか…!寂しさと自責の痛みを、作り物の笑顔で誤魔化す君なんか!!この茶会に招いた覚えは無いぞ、聖園ミカ!!」

     喉が痛い。心が痛い。目尻が熱い。声が震える。
     だから、なんだ。

    「ッッ~~~~…!!!セイアちゃんには関係ないでしょ!!?もういいから、放っておいてよ!!私の責任なんだから!!私が、私がどうにかしなくちゃいけないんだって、!!それで、私がどうにもっ、しなかった、からぁ、!!それでっ!!!」
    「本気で言っているのか!?言ったはずだろう!私達は互いに話をするべきだと!!言えなかったことも言いたかった事も、互いに!!硝煙と暗雲が晴れ、山ない雨が止み、無限に続くかに思われた絶望の夜が明けたあの日の朝に!!元々欠けていた教養や品格に飽き足らず、記憶力と脳味噌に詰まった中身の記憶まで牢屋に置き去りにしてきたのか、君は!?このっ、ぅっ、……バ、カ!!!」
    「うるっさいから、黙れって、言ってんの!!ほおら、これ見よがしに噎せたりなんかしちゃってさあ!!体弱いんだから、素直におへやで静かにねんねしてたらいいじゃん!!!なんでわざわざ私に構おうとするわけ!?放っておいてくれたらいいの!!時間が解決する話なんだから!!私には、セイアちゃんの、助けなんて────!!!」

  • 52二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 01:10:52

     肺がつぶれる。こんな声を出したのは、生まれて初めての事だ。
     内容は、目も当てられないほどひどい。殆ど、ただの暴言の応酬。幼稚な、子供の喧嘩だ。

     ────互いに、言葉が出尽くして、喉が枯れるまで叫び合った頃。

    「…君を、殴る。今、私に出来る限りの、全てを尽くして」

     視界の四隅が、黒く。狭窄しかかっている。酸欠だろうか。深く息を吸って、吐いて。まだ、倒れるわけには行かない。

    「やめろって、言ってん、じゃん…!…どうして、…どうして、さあっ…!?」

     大粒の涙でメイクがぐちゃぐちゃに崩れて、ひどい顔だ。だが、それを気にする素振りも見せず、ナギサよりも濃いのでは、と思うほどの隈のある目で、真っ直ぐに私を見つめながら、ミカは言う。

    「────どうして私に、セイアちゃんを傷つけさせようとするの!?」

     …あぁ、やっと。君らしい声が、聞けた気がする。
     私は────何と答える?

    「────それが、君に許された救いであるべきだからだ…!!」

     もう一度。握った右拳を、思い切り。ただでさえぐしゃぐしゃで、見るに堪えないミカの顔に向けて、振り被る。いっそ、更に歪めてやろう、という位の気概で。

    「────ッ!」

     それをミカは、初めと同様に、またしても難なく受け止めた。

    「ワンパターン、なんだよ…!ケンカへたっぴなクセ、に────…!?」


     ────そうだね。そうするだろう。馬鹿正直な、君の事だ────。

  • 53二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 01:21:08

    くそう、眠気に耐えられない...
    起きて色々済んだらすぐ更新に...来れる、と思います

  • 54二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 02:35:37

    めちゃくちゃ続きが気になる!

  • 55二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 06:58:05

    更新乙です
    これもまた、アオハルよ

  • 56二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 07:24:36

    すばらしい、なんという喜劇、なんという友情か
    予想以上だ、感激だよ、痺れが止まらぬ憧憬すらしよう
    交差する思惑、互いの意地、信じているのはその論点か、はたまた相手自身をこそか。その願いはどの終点を目指している?希望まで無形の混沌ではあるまい、君らは譲れぬ結末を描いて、互いを誇りに思っているのだから。ああ見ておられるか先生。あれぞ友、純粋なる情愛の活劇。我らが歓喜の幕開け

  • 57二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 08:06:50

    『セイア様に、これをお渡ししておきたいんです』

     ────別れ際。彼女はそう言って私に、どう好意的に受け取っても、その名前通りに受け取ることは出来ない形状の「お守り」を手渡した。

    『…あの、スズミ。これは、どう見ても…』

    『「お守り」です。…“それ”は、私の…正義の、象徴の様な物ですから。…それで身を守ってほしいだとか、そういう話ではなく…単に、セイア様がご自身の「正義」を貫き通せる事を願う、願掛けの様な物だと、思ってください』

    ────彼女はあくまでこれを、お守りだと言った。相手を極力、傷つけない為に、彼女が選んだ武器。
    それを、こんな使い方をする私の事を、彼女はどう思うだろうか。卑怯な戦術。傷つける為の用法。そうやって、私を軽蔑するだろうか。
    …いいや。そんなことは関係ない。だって、これが私の貫くべき「正義」なのだ。

    君を。殴る。
    思い切り、殴る。
    そうしたら、────こっちを見ざるを、得ないだろう。言葉を聞かざるを得ないだろう。
    何が起きているのか、理解するために。“なぜ殴ったのか”と問い質すために。




    迷うな、百合園セイア。
    心は、決まっている。

  • 58二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 08:14:52

    「────ワンパターン、なんだよ…!ケンカへたっぴなクセ、に────…!?」

    掴まれて自分の頭よりも上で固定されている、自分の右腕に顔をうずめて目を守り、耳を可能な限り倒して塞ぎながら────肩から左腕に移動した小さな友人を、ナギサに向けて飛ばす。

    「う、わああっ!?」

    耳の方は申し訳ないが、どう考えても私がどうこうする事は出来ない。
    私は、弱い。全て思うまま、取り零さずハッピーエンドを迎えるだけの力は無い。
     だから、ナギサを巻き込んでしまう。巻き込まずに、この状況を作り出す事は、私にはできなかった。
     本当に苦労性だ。その一因には本人の気質もあるのだろうが、そうでなくとも周りがこれだけ騒がしいのだから、そういう星の下に産まれたという事だろう。気の毒に。
    だが、シマエナガのお陰でナギサに目を瞑らせる事は出来た筈。私の掌にすら乗れてしまう、小さな友人。その活躍を信じ、それを一瞥する暇もないまま。

    左手、袖の中に隠した“それ”のピン。
    指をひっかけたまま、勢いよく腕を振るうと、ピンの抜けた「お守り」が袖から飛び出した。

    スズミから貰った、あまりにも無骨な見た目の「お守り」。




    閃光弾が、ミカの眼前で炸裂する。

  • 59二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 08:18:43

    >なんで私に銃を向けるの!?

    が双方向でお辛い……この状況で、ナギサであっても銃を向けるのはミカ。ミカは悪い子でセイアは弱い子でお互い平等には見られない……

  • 60二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 08:19:45

    きぃん、と遠のく現世の全ての音。瞼。制服。腕。それらすべてを貫通し、私の眼を灼く閃光。防御が不十分だったのだろう。
    なんとか正常に動作した閃光弾────スタングレネード。その影響が抜けきるのを、待っている余裕はない。

    ────左手。利き手ではないし、体勢が悪い。今しがたミカに突き出したばかりの腕を振り被り、彼女の顔面に叩き込む余裕はあまりない。指から、血が出ている。ピンに指をひっかけ、グレネードを振り回す様にして遠心力で無理にピンを引き抜いた時か。皮が剥がれて、痛い。────右手。ミカの手が緩んで、ようやく気が付いたが…もう、握る力が入らない。初めに受け止められた時の影響か、あるいは自分でも気づかない程に、強く握り続けていたせいだろうか。…自分の爪が刺さって、掌に浅い創傷が四つ。────ミカ。今は目を閉じているが、耳を塞ぐのと合わせて対処が間に合わず、もろに喰らった様だ。握る力が緩み、私の手を取り落とす。仰け反る様な姿勢で後ろに倒れる姿が、妙にゆっくりと見えて。────制服。汗とスイーツと血で、随分と汚れてしまった。急いでクリーニングに出さないと、汚れが染みになって残る。────髪。鏡が無くともわかる程度に乱れ切っているうえに、なんだか頭が重たい。潰れたショートケーキでも乗っているのではなかろうか。────ナギサ。目を向ける猶予は無いが、遠く、遠くで悲鳴が聞こえた。────シマエナガ。同じく、見る余裕はない。閃光弾の影響が、心配。────椅子。視界の端で倒れてる。────椅子。こっちはミカが座ってたやつ。────床。凄く汚れてる。────青空。綺麗。────雲。────光輪。────。

    否、今は────ミカ。…ミカ、ミカだ。

    ぐわんと揺れ、散乱する思考を無理矢理に、一点に纏める。ぼやける視界をわざと一挙に狭め、それ以外の情報の一切を遮断する。

    目の前に、良く見慣れた、桃色が。

    殴、
    る。


    ────ぱしんっ。


    テラスに響く、乾いた音は。ずっと遠くに行ってしまったままの、私の鼓膜にも届いた。
    ────あぁ、クソ。あれだけの啖呵を切っておきながら。私には、あまりにも弱い、一発のビンタが精一杯だ。

  • 61二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 08:31:12

     しばらく、寝そべったままでいた気がする。
     意識が飛んだ、というより、起きているけど何も考えていない、という方が正しいだろう。
     恐る恐る近づいてきたナギサが体を揺すり起こしてくれなかったら、倍の時間は同じ状態で時間を浪費していた気がする。
     
     …どう、なった?

     左手に隠し持っていた閃光弾を、ミカの目の前で爆ぜさせて。握る事すら敵わなくなった右手を振るって、“殴る”と言ったくせに誠に不本意ながら、たった一発の弱弱しいビンタでこの場を締める事になった。
     右の掌が、新たに痛みを訴えている。ひりひりと、ぶつけたような。それが、私の朧げな記憶が、確かな物であると教えてくれる。
     あぁ、というか全身が痛い。喧嘩どころか、ここまで動いたのも初めてかもしれない。

     …額の辺りが、なにか柔らかいものに埋もれている。獣耳がなだらかな丘に沿うような形で。
    何かの音がする。が、それが籠って上手く聞こえないのは耳が塞がっているからか、未だに閃光弾に眩まされているからか。
     私が頭部を預けるそれが、震えている。不規則に、しゃくり上げるように。
     直前の記憶と、未だ薄い認知機能をフル活用して、ようやくそれが嗚咽と泣き声であることを、脳が認識する。

     これは、ミカだ。私は、ミカの腹の上に倒れ込むような形で。彼女の身体がクッションになって、衝撃が受け止められたらしい。
     とすると、私の額から上が埋もれているのは胸か。そう考えるとなんだか少し腹立だしく思えてくるが────危うく、頭を打つところだった。それで本当に気絶なんかしていれば、 人生初の決闘で、無様にも大敗を喫したと言わざるを得ない。

     D.K.O────ミダブルノックアウト。引き分けだ。…此方の決まり手は実質閃光弾だから、試合を分けて戦いに負けた、という所か。デビュー戦で相手がミカなのだから、十分及第点だろう、と勝手に言い訳をする。

     ────うん。頭が、回って来た。

  • 62二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 08:44:28

     何もかも思い通りにいかず、泣き出してしまった子供のように。それを引っ込めようと必死で藻掻くあまり、逆に零れ落ちる涙に戸惑う子供のように。
     声を殺した泣き声だけが、テラスに響く。

     私の頭上で泣きじゃくるミカが、口を開いた。

    「…なんで、こんな、こと」

    体勢を変えないまま、言葉を返す。

    「…君が、塞ぎ込んでいたから」

    「なんで、わか、わかった、の」

    「見ればわかる。…見て、漸く分かった」

    「…」

    「…」

    暫しの沈黙。ふと、横に立つナギサに、ちらりと目線だけ向ける。
     どれだけ怒っているか、と思ったが、存外、心配そうな顔でおろおろとしているだけだった。肩に私の相方を乗せて────あぁ、君も無事だったか。
     …ゆっくり。可能な限り。痛みに震える手を持ち上げて。自分の身体の癖に、思うまま動かない右手の、弱弱しく立てた人差し指を、唇に当てる。
     もう少し、待ってはくれないか────と。

  • 63二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 08:48:45

    「…寂しかった」

    ミカが言う。

    「うん、そうだろうね。君は、寂しがりだから」

    私が言う。

    「…もっと、起きててよ」

    「それは難しい事を言う。出来るなら、そうするんだがね」

    「会いに、来てよ」

    「そこは体調と相談だ。もっとも、毎朝している事なんだが…此奴が、君に負けず劣らずの頑固者でね。困った物だ、まったく」

    「…助けに」

    そこで、ミカが言うのを止める。
    私は、血の滲む掌を地面に着き、上半身をわずかに起こして。逆の、こちらも血の滲む掌を────ミカの頬に、そっとあてた。

     大丈夫。

    「…助けに、来てよ…セイア、ちゃん…!」

     …そう。それで、良いんだよ。

    「…あぁ。すまなかった、ミカ」

  • 64二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 08:51:43

    「────ね。賢人(フィロソファー)のセイアちゃん」

    「…なんだい。聖園バカ」

    「決死のへなちょこビンタより、その後お腹に倒れ込んできた時の方が痛かったよ☆」

    「…次はしっかり、グーで殴るさ」

     笑みが、こぼれた。

  • 65二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 09:03:42

    ────────────

    一応これで本編?は終わりですが、ぼんやりとエピローグ、後日談みたいな物も考えてはいます
    起きて、昨夜の余熱のままに急いで書ききっちゃったので、一旦リアルの諸々を仕上げて余裕と需要がありそうならここに追撃を投下しようかなと
    当初思っていたより全然長くなってしまいましたが、ここまで読んで下さってありがとうございました。2万字強て。当初の予定の倍なんですけど
    お見苦しい所も多々あったと思います。キャラの解釈とか。結構な頻度で段落の空白忘れてるし、誤字脱字も酷いし。でも、初SSでこうやって最後まで書き上げられたのは、ここに感想を下さった皆さんや、他スレで励ましてくれたシロコ達の支えがあったからだと思います。おかげで、心の底から楽しんで駆け抜けられました。本当に、ありがとうございました
    朝食もまだなので一旦抜けますぅ...

  • 66二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 09:09:06

    さささささ、最高でした……ありがとうございます……!

  • 67二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 09:20:06

    素晴らしい

  • 68二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 09:35:11

    あまりにも良すぎる
    野生の文豪がこんなところにいたこととそんな文豪が素晴らしい作品を書いてくれた奇跡に感謝したい気持ちで一杯だ

  • 69二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 09:38:20

    出勤前にめちゃくちゃ良質なSSを見てしまった
    今日も一日頑張れそう

  • 70二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 10:38:15

    このレスは削除されています

  • 71二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 10:57:01

    すごいよかった(語彙力なし)

  • 72二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 10:58:33

    初SSでこれかよ……?!いや本当に良かったですわ。この後あの文化祭があったというのを考えるとより想像が膨らみますわね

  • 73二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 10:59:02

    >>66 >>67 >>68 >>69

    そう言ってもらえると、めちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうございます...!!

    ここからエピローグです。もうちっとだけ続くんじゃ



    ────ここから先は、後日談…。私達の、なんともスケールが小さく、それはそれは壮絶な喧嘩を発端とした物語の、エピローグだ。


     まず、一つ。今回の“お茶会”は、私個人がプライベートで設定したものだ。公的な会合ではなく、監視の目も手伝いも付かない。今のミカは会合への参加資格もないような物だから、当然と言えば当然だ。

    最低限の人払いとある程度の準備は除外するが、なんならそれ以外にはティーパーティーの名前も使っていない。此処に人を集めたのは、「百合園セイア」という一人の生徒。参加したのはその友人の、「桐藤ナギサ」という生徒と、「聖園ミカ」という問題児。それだけの事だ。その上でロケーションはそれこそいつもの“お茶会”と同程度の機密保持を徹底した。

     また回りくどいとミカに文句を言われる前に、結論を話す。つまり、目撃者は誰もいないという事だ。現場に居合わせたナギサ以外には。

     ミカの事情と私の意図を察したナギサは、不服そうにはしていたが、黙秘を貫く、という事で意見がまとまった。要するに、私もミカもお咎めは無し。シスターフッドも目じゃない三人だけの秘密事項が、ひとつ増えた訳だ。


    …ただ、まぁ。一つ、言いたいことがあるとすれば。

    可能な限り隠れて片づけをしたはずだった。割れた皿や脚の折れた机も、上手く責任を分散させて、揉み消したし。

    それなのに、どこで漏れたか────「頭に潰れたロールケーキを乗せた百合園セイアが、人目を気にして物陰をこっそり移動する写真」が、トリニティの各所で、密かに出回っていた事だけが解せない。


    …ミカ、だろうか?あんなものを、いつの間に。

  • 74二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:02:43

     ミカへの嫌がらせは、掘れば掘るだけその証拠が湯水のごとく湧き出てきた。中にはかなり、不快感のあるものもあって────迷わず、正義実現委員会に対応を一任した。私とナギサ、現ティーパーティー二人の連名による、勅命にも近い内容だ。否が応でも、ある程度改善される事だろう。暫く忙しくなるであろう正実の皆には、私から何か労いの品でも送る事にする。…あと、これは私情から、だが。ハスミに業務を委託した時、人手不足を心配していた彼女に、助言を一つ零しておいた。

    「そういうことなら────自警団との連携も、視野に入れておくと良い」

     きっと、快く動いてくれるはずだ。

  • 75二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:19:13

     ナギサも、ミカの件に関して対処が求められる書類が一山分。
     謝肉祭の準備に追われて特に忙しい所を、負担してやれなくて申し訳ない、と言いかけたのを、本人から咎められた。「私も、共に背負うべき責任ですから。なんてことはありません」…と。
     今度、彼女が落ち着く頃に改めてお茶会を開こう。もちろん今度は決闘とかナシの、まともなものを。

    ミカとは日を空けて、しっかりとお互いに謝罪をした。それからその日、一度だけ。彼女の部屋で一緒に眠った。…お忍びだ。バレたらきっと、各方面に怒られるが…そもそも暴力沙汰を隠し通している真っ最中。一つも二つも変わらないし。
    隈はまだ残っていたけれど、憑き物の落ちたような表情をしていたから、少し安心した。
     朝。目が覚めて、帰り際。ボランティアは適度な量に留めるように。困ったことがあったらすぐ相談するように。そんなことを改めて伝えた所で、不意にミカの携帯が鳴った。
     画面を見た時の、ここ一番の笑顔を見て、その内容になんとなく察しがついた。どうやら、先生の仕事が落ち着きを見せたらしい。…私はもう暫くベッドの上だろうし、起き上がれるようになるまで、彼女の事は先生に任せよう。

    さて。そんな私はと言うと、まず救護騎士団に思いっっっっきり叱られた。それはもう、思い切り。組織総出で取り囲むようにして説教を受けた。さすがに怒り過ぎ…とは、言えない。悪いのは私だ。
    先程、事件の事を知っているのはナギサだけ、とは言ったが、流石に救護騎士団に隠し通すのは難しく、大まかな概要だけは正直に伝えて、しばらく正座した。
    右手首の骨にはやはりヒビ。さらに、恐らくはあのか弱いビンタで指も二本いかれたらしい。右掌の創傷を見られた時のセリナの表情が忘れられない。精神疾患の疑いをかけられた時は、さしもの私もだいぶ心に来た。それらと比べれば、人差し指に掠り傷だけで済んだ左手はまだ良い方だ。
    他にも、踏み込んだ足は靭帯を損傷していたり、恐らく机に突っ込んだ時の衝撃で背中に大きく打ち身が出来ていたり。果てはミカと怒鳴り合った影響で、声帯も軽く痛めた。
    全身隅々まで痛いとは当時から思っていたが、割とで済まない大惨事だった。満身創痍とはこのことか。
     快方に向かいつつあった調子も、勿論崩れた。散々ではあるが────大切な友人の笑顔が見られたのだから、このくらい安い物だと言っておこう。

  • 76二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:26:28

    ────おや?

    病室の寝台で窓の外を眺めながら、慌ただしかった今朝までの出来事を振り返っていた所に、外から扉を叩く音が割って入る。
     はて、と。セリナとハナエは少し前に出て行ったばかり。ナギサは言うまでも無く、ミカはボランティア。先生なら先に連絡を入れてくるはずだろうし、正実所属の生徒で、こんな真っ昼間から暇をしている知り合いの顔は浮かばない。今の私を訪ねてくる人物に、心当たりはない。

    「…どうぞ」

     空白。考え始めると、現実が疎かになるのが良くない。慌てて、客人を部屋に通す。がらがら、と音を立てて開き戸が横に。そして────見覚えのある、二つの人影が、顔を覗かせる。

    「────お身体の具合は如何ですか?」

    「────せっ、…セイア様ぁ!?なんでそんな、ミイラみたいになっちゃってるんですかっ!?」

     ふっ、と吐息が漏れる。
     …あぁ、失念していた。今回、一番の恩人達の事を。

    「こんにちは、スズミ、レイサ。…なに、名誉の負傷さ」

  • 77二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:26:44

     きょとん、とした表情の二人。まだ、その言葉の意味がつかめていないらしい。

    「惜しくも、引き分けたよ。いやあ、接戦だったとも。観客が一人しか居なかったのが悔やまれるくらいだ」

    それを置いて、私は続ける。

    「…貫いたよ、私の『正義』。この傷と、顔。それが証だ」

    「「────」」

     表情が変わる。片方は、少し呆れたように笑い。もう片方は、心の底から嬉しそうに、目を輝かせる。
     後者が、口を開けた。

    「────いかが、でしたか!初陣の、ご感想は!」

    「あぁ、…とても、気持ちの良い物だったね」

     ────もう一度、というのは遠慮したい。その一言は、飲みこんで。

  • 78二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:52:41

     あれから、数か月が経った。
     怪我の大部分は痕も残らず、ほとんど日常生活に支障のない程度に完治した。
     賑やかな窓の外。見慣れた制服と、そのほか多数の見知らぬ人影でごった返すトリニティ・スクエアを見下ろす。
     何やらシスターフッドと救護騎士団が揉めていた、という様な話を小耳に挟んだが、────トリニティ謝肉祭は、何事も無く開催された。

    「────?」

     ふと、ベッドの上でスマホが震え、少し遅れて通知音が響いた。
     モモトーク。メッセージの差出人は、ミカ。

    『セイアちゃん、今日、体調どう?』



    ────────。



     …そんなに少ないことは無いだろう、と思っていたが…。なるほど、広さと作品数に、人口密度が全く釣り合わない。というかぱっと見、本当に誰もいない。
     入り口を入って、右手に見える廊下の、突き当たりの部屋。中央に四角い椅子の置かれた四角い部屋まで見通して、ようやく人影が二つ。
     二人で顔を見合わせてから、歩を進めてゆく。



    「────あははっ!なに、このロールケーキの絵!」

    「如何にも、ナギサらしいね」

  • 79二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:55:11

    「────!?」

     分かりやすく、反射的に翼をはためかせて驚き、ばっと振り返るナギサ。

    「やっほ~ナギちゃん!セイアちゃんも連れて来ちゃった☆」

    「ああ、ここは落ち着くね。ナギサにとっては、不本意だろうが……」

     外は人だらけ。視察に出たあの日と同程度に体調が良いと言っても、祭りの空気には流石に胃もたれしかねない。

    「ミカさん、セイアさん……」

    “元気そうだね、二人とも”

     そこで、ナギサの隣にいた先生が口を開く。視界の端で、ミカの身体が文字通り弾んだ。ぴょん、という、擬音が聞こえそうな感じに。

    「せ、先生?」

    「やあ、先生。謝肉祭を見にくるとは聞いていたが、まさかここで会うとは」

    「え、そうなの…?私、聞いてないけど!?」

     …おや。てっきり、本人から聞いている物かと。

  • 80二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:56:40

    「お二人とも、わざわざ来てくださったのですね」

    「ああ、ミカが提案してくれたんだ。どうせつまらなくて人がいないだろうから行ってあげよう、と言われてね」

    「そ、そこまで言ってないよ!?」

    「なるほど…ミカさんはそう思っていたのですね?」

     …あぁ。

     三人の。ミカとナギサ、先生の会話を聞きながら、感慨に浸る。
     いつも通り。いつも通りだ。
     掴んだ、日常。何の変哲も無く、他愛ない言葉を交わす、友人としての私達。

    「────先生に作品の説明をしている途中だったのですが、よろしければ一緒にどうでしょう?」

     少しの沈黙を挟んで、ミカがこちらに眩しい笑顔を見せながら。

    「うんっ!ナギちゃんの説明、楽しみだね☆」

     …あぁ。
     何の変哲も無く、代わり映えも無く。退屈で、平坦で、平穏で。
     何の心配もいらず、無邪気に、友人との時間を楽しめる。
     だからこそ、そんな一日一日が、愛おしい。

    「────今日は、特別な日になりそうだ」


    『セイア「殴り合いだ。歯を食いしばりたまえ、ミカ」』____________ FIN

  • 81二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:57:51

    ありがとう!!!!!!!!!!!!!!!!
    素晴らしいかったです!

  • 82二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:58:36

    このレスは削除されています

  • 83二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:59:16

    お疲れ様です!
    本当にお疲れさまでした!!!

  • 84二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 11:59:16

    リアルタイムで、文豪に出会った奇跡に感謝

  • 85二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 12:00:00

    本当にお疲れさまでした!!
    とても面白かったです!

  • 86二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 12:01:29

    セイアをエミュするのですら大変なのに、ここまで心情を描けるスレ主様凄すぎ!

  • 87二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 12:03:29

    >>56

    くんな水銀ニート

    その発言した時と似たような光景だけどお前は地下生活者と色彩足してろくでもなさをこれでもかと加えたような存在なんだよ

  • 88二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 12:05:23

    思ったよりもセイアが満身創痍でワロタw
    自警団とセイアのの繋がりは思いつかなかった……
    宇沢の繊細な心や、スズミの正義の考え方とか、スレ主のエミュまじエグい

    完走お疲れさまです

  • 89二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 12:08:39

    とても良かった!

  • 90二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 12:09:56

    セレナードプロムナード後日談に繋げるの、もしかして蛇足か...?とも >>72 を見てから思ったのですが、謝肉祭のワードちょこちょこ出してたしどうせなら書ききりたくなっちゃってつい。時系列とかもしかしたらぐちゃぐちゃかも

    それはそれとして、ミカから入ってセイアに灼かれたティーパーティー箱推し先生として、勝手に見てみたいと思った景色を共有出来たことがとてもうれしいです。趣味と誤字盛り盛りの拙作ですが、楽しんで頂けたのならそれ以上の事はありません。ミダブルノックアウトってなんだよ。

    改めて長々とお付き合いいただき、ありがとうございました!

  • 91二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 14:51:11

    紛うことなき神スレ

  • 92二次元好きの匿名さん25/01/15(水) 18:43:16

    書き手が自分の作品の解釈を狭めるような事を言うのはあまり頂けないとは思うんですが、思い付きにしてはあまりにも綺麗に出来たと思う部分についてちょっとだけ喋りたくなっちゃったので、その点注意しながら喋ります
    宇沢リスペクトのセイアちゃんの口上で選んだ、トリニティの「Philosopher」っていうワード、そのまま「賢人」にもなるんだけど「哲学者」「達観者」「諦観者」みたいなニュアンスもあって、どれを取ってもセイアちゃんだなぁ...って思ったのが選んだきっかけです
    聡明なセイアちゃんの事なので「諦観」の諦める方の意味から、エデン条約編の頃の後ろ向きな自分をちょっぴり皮肉る意図もあったりして、そこから…とか、我ながら妄想が膨らむポイントになったと思います。ニッチすぎ?
    あいらぶセイア。ティーパーティーを愛せよ

  • 93二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 01:11:06

    挿絵も声優も無いマジの文字だけなのに罵り合いながら殴り合うセイアとミカが見えた...だめだ賞賛の言葉が浮かばねえ...ただただ凄えとしか言えねえ...

  • 94二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 07:47:23

    お疲れ様でした……!!
    イッチにはセイアちゃんと殴り合う権利を進呈しよう(コラ)

  • 95二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 12:10:32

    お疲れ様でした〜〜〜〜〜〜
    最高の後日譚でした!!!
    書いてくれて本当にありがとう!!!

  • 96125/01/16(木) 23:06:42

    沢山の方に楽しく読んで頂けたみたいでめちゃめちゃ嬉しい。幕張のホテルからほくほくの1です。
    このまま落とそうかとも思ってたんですけど、折角なので皆さんのセイアちゃんやミカなんかへの解釈も聞きたいなって。私の作品を踏まえてでも、そうでなくとも、繊細で複雑で美しい彼女らの友情に心を奪われたカムラッド達の愛を聞きた〜〜〜い!!よろしく!!!お願い!!!します!!!(音割れ)

  • 97二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 07:45:51

    音割れうるせぇ!w
    しかしミカセイの解釈かー……こう、雑な印象だけど。この子らは(仲直りできること前提で)いっぺん派手にバチボコ喧嘩し合うくらいした方が色々楽だったんじゃないかなー、的な感じはあったかな?

  • 98二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 10:57:46

    水と油、おぉ水と油
    いろんな面が真逆だから会う度にチクチク言い合うしやり合う、そして本編やスレ主が書いてくださったSSのようにマジでヤバい所まで行くことだってあるだろう
    だがしかし人間は自分と近い人間と同じくらい真逆の人に惹かれると聞く(所謂相補性の法則)故に心の中では互いに互いのことをもっと知りたい、仲良くなりたいと思っていたのだと信じている
    前述の通り水と油と表現したが、水と油は上手く使えば美味い料理が出来る。コイツらだってお互いを知って上手く付き合えば最高の友達になれる筈、というかなれください
    要約するとあぁぁぁぁぁいしてるんだぁセイミカをぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

  • 99二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 22:31:05

    イッチはセイミカ派かミカセイ派か、それが問題だ

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