(SS注意)キングヘイローと猫カフェに行く話

  • 1二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 08:08:32

    「…………トレーナー、少し、喫茶店に寄っても良いかしら?」

     街を行き交う人々の喧騒の中、隣からの小さな問いかけが鼓膜を揺らした。
     反射的にそちらを見やると、くいっと袖を控えめに引くウマ娘の姿。
     上品なウェーブのかかった鹿毛の長い髪、シンプルな青の耳カバー、赤みを帯びたブラウンの瞳。
     担当ウマ娘のキングヘイローは、何故か恥ずかしげに顔を俯かせていた。
     いつも自信に満ち溢れている彼女には珍しい態度に、思わず、面を食らってしまう。

    「それは構わないけど、それじゃあ、さっき見かけたところで良いかな?」

     微かな動揺を隠しつつ、俺は道中にあったお店のことを思い出す。
     小さなお店ではあったものの、小洒落ていて、それなりの賑わいを見せていたので印象に残っていた。
     しかしキングは、俺の提案に対して、ゆっくりと首を左右へと振る。

    「……いえ、この辺りに、私の行きつけの喫茶店があるから」
    「キミの、行きつけ?」

     彼女とはそれなりに長い付き合いだが、この辺りにそんな店があるだなんて知らなかった。
     “一流”に相応しい見識とセンスを併せ持った、彼女の行きつけの喫茶店。
     それがどんなものであるか────そのことが、とても気になってしまう。
     ……まあ、お値段も一流相応であるかもしれないが、そこは口に出さないでおこう。

    「わかった、そこへ行こうか……キング御用達の喫茶店か、ちょっと楽しみだな」
    「えっ?」
    「えっ?」
    「あっ、いや、そっ、そうね! 一流のお店選びを、存分に堪能なさいっ! おーほっほっほ!」

     お決まりの高笑いをするキングだが、どこかぎこちなくて、いつものキレに欠けている。
     そんな彼女の態度に首を傾げながらも、俺達は喫茶店へと向かうのであった。

  • 2二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 08:08:45

    「……いやまあ、喫茶店には違いないけどさ」
    「…………………………なによ?」

     十数分後、俺とキングは目的の喫茶店へと辿り着いていた。
     店の佇まいは素朴な感じで、良い意味で庶民的な、和やかな雰囲気。
     窓から見える店内は広々としていて、利用者はみんな、癒されてるような微笑みを浮かべている。
     そして微かに聞こえてくる、にゃあにゃあと鳴き声。

     それはいわゆる────猫カフェ、といわれるお店であった。

     隣を見れば、腕を組みながら頬をほんのりと染めて、顔を逸らしているキングの姿。
     やがて彼女は小さな声色で、言葉を紡ぎ始める。

    「…………以前、ウララさんとお出かけした時に、立ち寄ったのよ」
    「それで、気に入ったの?」
    「…………おかしい、かしら?」
    「いや、そんなことないよ、ちょっと意外だっただけで」

     ちょっぴり不満げな様子で頬を膨らませるキングに、思わず苦笑いをしてしまう。
     普段から背筋を伸ばし、周囲の人達の世話を焼いて、一流たらんとしている彼女。
     そんな彼女が、猫との触れ合いによって癒されるというのなら、悪いことなど一つもない。
     その時間を俺が共有できるなら、尚更だ。

  • 3二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 08:09:00

    「しかし、猫カフェかあ、実は行ったことなかったんだよね」
    「……あら、そうなの?」

     俺の言葉に、キングの耳がぴくりと反応した。
     ちらりとこちらへと顔を向けて、ほんの少しだけ眉尻を下げて、口角を吊り上げている。
     尻尾はどこか忙しなくそわそわと揺れ、瞳は期待しているような光を湛えていた。

    「ああ、だからルールとかマナーとかわからないから、キングだけが頼りだよ」
    「……へえ」
    「猫カフェにおける、一流に相応しい立ち振る舞いを俺に教えて欲しいな」
    「…………!」

     キングの耳がピンと立ち上がる。
     そして彼女は自信に満ち溢れた勝気な微笑みを浮かべて、高らかに笑い声を上げた。

    「おーほっほっほ! この! 一流の! キングに! 万事! 任せなさいっ!」
    「……うん、よろしくね」

     面倒見が良い割に、こういうとこは年相応だなあ。
     そんな微笑ましい気分になりながら、俺はキングの言葉に、小さく頷いた。

  • 4二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 08:09:16

    「……」
    「……」

     猫カフェに入店した俺達の間には────妙に気まずい、沈黙の時間が流れていた。
     このお店では、飲食をする喫茶ブースと猫達と触れ合えるブースが別れている。
     軽くお茶を飲んだ後、いよいよ俺達は猫達と邂逅したのだが。

    「……なんか、ごめん」
    「……別にいいわよ、私のところにも、ちゃんと来てくれている子はいるし」

     キングは、膝の上にくつろぐ一匹の白猫の背中を撫でながら、そう言う。
     対して────何故か俺は、数匹の猫たちにもみくちゃにされているのであった。

    「あなたって、もしかして動物に好かれるタイプなのかしら、ウララさん並みの引き寄せ具合よ?」
    「おっと……小さい頃からそうだし、俺に関しては舐められてるだけかも……こら、くすぐったい……っ!」

     周りを見る限り、このお店の猫達は基本的に大人しい。
     そのはずなのだが、俺に対してはがんがん纏わりついたり、よじ登って来たりとなかなかに横暴であった。
     しかし、不愉快さは、一切ない。
     毛並みはふわふわで暖かいし、それになんだか振り回されてるのが、妙に心地良い。
     キングに悪いなと思いながら、どうしても、顔がにやけてしまう。
     やがて、小さく、吹き出す音が聞こえて来た。

  • 5二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 08:09:28

    「ぷっ……トッ、トレーナー、服が毛だらけよ、髪だってぼさぼさで」
    「あっ、ほんとだ、困ったな」
    「あなたの顔は、全くそんな風には見えないけどね?」
    「……それは、まあ、うん」
    「……ちょっと羨ましかったけど、その顔を見ていたら、どうでも良くなってちゃったわ」

     そう言って、キングは柔らかな微笑みを浮かべた。
     気まずい雰囲気が一気に解けだして、暖かなものへと変わっていく。
     これは、俺がちょっと気にしすぎていたのかもしれないな。
     気持ちを改めて、俺は彼女とともに、心行くまで猫カフェを堪能しようと決めるのであった。

  • 6二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 08:09:40

    「わぷ、こっ、こら、口をぺろぺろしないで」
    「……」
    「あはは、妙にくっ付いて来て、お前は本当に可愛いなあ」
    「………」
    「うわ、ほら、そんな転げ回らなくて、ちゃんとかまってあげるから」
    「………………」
    「……あの、キング? なんかすごい視線が気になるんだけど?」
    「……………………なんでもないわよ」

     ────お互いに猫と戯れていると、妙に鋭い視線を感じるようになる。
     それは、隣からジトっとした目つきで見つめている、キングのものであった。
     俺からの指摘に一旦は視線を外したものの、しばらくすると、またちらちらと見てくる。
     やがて、彼女は少しだけ低い声色で、声をかけてきた。

    「気づいているかしら、その子達、全員メスなのよ」
    「あっ、そうだったんだ」
    「………………おんなたらし」
    「えっ?」

     拗ねたように発されたキングの言葉は、良く聞こえなかった。
     そして猫達は、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、じゃれつき続けて来る。
     ぺろぺろと、口や首筋を舐めて来たり。
     お尻を持ち上げながら、すりすりと、身体を擦りつけて来たり。
     膝の上でごろごろと身体をくねらせながら転げ回って、甘えるような鳴き声を出したり。
     そんな風に好き放題され続けていると、どんどん顔が緩んでしまう。

  • 7二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 08:09:53

    「ふぅん────そういうのがいいのね」

     そのキングの声は、妙に良く聞こえた。
     彼女は自らの膝の上に乗せていた猫を放してあげると、俺の方へと身体を向ける。
     そして、四つん這いになりながら少しだけ近づいて、上目遣いで近づいて来た。

    「……キング?」
    「……っ」

     俺の呼びかけに対して、彼女は無言のまま、何も応えない。
     緊張した面持ちで息を呑み、やがて意を決したように、小さく右腕を上げ、指を軽く曲げた。
     そして、引きつった笑顔でウインクをしながら、彼女は震える声で言葉を紡いだ。

    「………………にゃっ、にゃあーん♪」

     ────その瞬間、世界は、確かに止まった。

     目の前に現実に対して、脳の処理能力が限界を越えてしまったのである。
     情報が完結しないまま、猫のポーズを取るキングから目を離せず、声を出すことも出来ない。
     俺がようやく我に返ったのは、彼女が顔を真っ赤に染め上げて、涙目でぷるぷる震えていることに気づいた時だった。
     まあ、すでに手遅れだったのだけれど。

    「なっ、ななっ、なにか、言いなさいよぉーっ!!」

     店内にキングの声が響き渡り、猫達が一瞬で離れていく。
     そして俺達は、店員さんにしこたま怒られてしまうのであった。

  • 8二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 08:10:40
  • 9二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 08:14:27

    お疲れ様です!

    しゅき…

  • 10125/01/16(木) 09:13:31

    >>9

    ありがとうごさいます

    そう言っていただけると幸いです

  • 11二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 09:32:18

    猫キングからしか得られない未知の栄養素で、寿命が75日伸びた

  • 12125/01/16(木) 11:12:18

    >>11

    もっと長生きしてもろて

  • 13二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 22:05:52

    引きつった笑顔なのが葛藤や恥じらいが感じられてよきかな

  • 14二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 22:10:04

    猫キングは保護するべき

  • 15125/01/17(金) 08:41:49

    >>13

    色々な感情を混ぜ合わせながら猫なで声を出して欲しい

    >>14

    天然記念物だよね……

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