【SS】マリーが幽霊にであう話

  • 1二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 10:56:07

    「どうもこんにちは、ゆうれいです」
    「……え?」

    寒い、凍えるような冬の朝。まだ薄暗い大聖堂で伊落マリーは幽霊に出会った。
    子供が真っ白なシーツを被り、目の部分だけを黒く塗りつぶしたような出で立ちをしたそれは、まるで絵本に出てくる「おばけ」をそのまま抜き出したかのよう。
    そんな姿をした幽霊が、マリーの視線より少し高い所に浮かんでいた。

  • 2二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 10:57:55

    「え、え?」
    「ゆうれいですよー」

    マリーは混乱した。まだ薄暗い聖堂で、揺らぐろうそくの灯が生んだ影を見間違えたのではないと、目を何度か瞬かせる。
    幽霊はそんなマリーの傍を飛びながら、語りかけた。マリーのベールと髪が、風も無いのにざわざわと揺れる。
    幽霊の声は高く綺麗で、少年のものにも少女のものにも聞こえた。感情が希薄で平坦な発声がその区別を曖昧にしていたが、マリーは“少女”の印象を持った。

    (……夢?私、寝惚けているのでしょうか)

    目の前の出来事を受け止めきれないマリーは両手を組みそっと瞼を閉じる。そして心の中で祈りの言葉を唱え始めた。
    途端、ぺしょりと軽い何かが落ちる音。

    「あわわわわ」

    そして、幽霊の声。
    マリーがぱっと瞼を開くと、幽霊が床に落ちてもだもだともがいていた

    「わ、わぁ……大変……!」

    打ち捨てられたシーツの様になってしまった幽霊に、マリーは慌てて駆け寄った。

  • 3二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 10:59:31

    ゆうれいさんは何か悪いことするのかな?

  • 4二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:00:37

    「おいのりはかんべん……しびれる……ぼろぬのになっちゃう……」
    「ごめんなさい、私の見間違いかと思って……」

    マリーの眼前で、再び幽霊が浮き上がる。その動きが、ほんの少しくたびれたもののように見えて彼女の両耳がしゅんと下を向いた。

    「われらが見えるひとはすくないゆえ、そうおもってもしかたなし?過ぎたことはざぶざぶいたします」
    (……水に流していただける、ということでしょうか?)

    小さく首を傾げたマリーの前で、幽霊はくるりと一回転した。

    「あらためまして、ゆうれいです。ゆーとよんでください」

    そして、どこか誇らしげにそう名乗った

    (何故、急に幽霊が見えるようになったのでしょうか……?)

    マリーに去来したのは、疑問だった。
    湯が沸き立つように、幾つもの「?」がふつふつと彼女の中で浮かぶ。
    これまで、幽霊なんて見たことが無かった。それがなぜ急に見えたのか。見えているのは目の前の幽霊……ゆーと名乗ったこの幽霊だけなのか。そして何より……
    “それ”に思い至ったマリーの喉が、ひゅうと引き絞られた。
    冬の朝だからではない寒気が、背筋を這い上がる。
    深く、息を一つ。そうしてマリーはゆーに問いかける。

    「えっと……ゆー、さん?は……もう、亡くなられているの、ですか?」
    「でしょうなー、ゆうれいですゆえ」

    あっけらかん、と
    それなりの葛藤と覚悟を持って投げかけたマリーの問いに、ゆーはこともなげに答えた。
    マリーが思わず言葉を忘れて、口をぱくぱくさせてしまう程に、その答えは軽い

  • 5二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:01:46

    ゆーさんとマリーのほのぼのホラー可愛い。

  • 6125/01/16(木) 11:02:45

    「ゆーは“ぬけがら”の“ぬけ”のほう。21グラムてきなやつなので」
    「そん、な……」

    キヴォトスにおいて、死は重いものだ。
    目の前の、このどこか抜けた幽霊にそれが訪れたかと思うと、マリーの心がずしりと重くなる。

    「おお、それでおもいだしました。マリーさんにだいじなおねがいがあったのでした」

    その一方で、自らの言葉がマリーにもたらした衝撃など知る由も無いかのように、ゆーはふわふわと宙を漂いながら言った。

    「……お願い、ですか?」

    ぴく、とマリーの耳が揺れて、彼女は居住まいを正した。半ば無意識に行われたその振る舞いは、困っている誰かを放って置けないマリーの持つ気質ゆえだろう。
    おかげで彼女は、心にのしかかった物から気をそらすことができた。

    「はい、ゆーをさがしてほしいのです」

    そしてゆーはマリーをまっすぐみつめてそう言った。

  • 7125/01/16(木) 11:05:46

    (どういう事でしょう……?)

    言葉を素直に受け止めるなら、ゆーは自らを探して欲しいと言っている。自分探し……モラトリアムの一環でしょうか……?おかしな方向に発想が飛びそうになって、頭を振ってそれを引き留めて……そうして、思い至った。

    「そうか、探して欲しいゆーさんというのは……」
    「はい。“ぬけがら”の“がら”のほうです。せいかいせいかいー」

    ゆーがそう言うのと同時に、聖堂の柱がこんこんと音を立てた。ラップ現象。ゆーなりの拍手だろうか。柱の方をちらと見たマリーはそう思った。

    「ゆーは新人のゆうれいです。まだ“がら”もあたたかいかもしれません」

    でも、とゆーは一旦言葉を溜めた。

    「ゆーは“がら”から抜けたあと、どこで抜けたかすっかり忘れてしまったのです。ゆーはそれがほんのりさみしい」

    ふよふよ、ふよふよ。マリーの周りを飛びながらゆーは言葉を続ける。

    「そう……なのですね。それを何故私に……?」
    「それが分からぬのです」

    むむ、とゆーが唸った。

    「ここは人がたくさんです。ゆーの“がら”も、そのうちきっとだれかがみつけて埋めてくれるとおもいます。けど、ゆーはマリーさんにみつけてほしい。わからぬけれど、なぜだかそうおもうのです」

    それを聞いて、マリーは小さく目を見開いた

    「もしかして、ゆーさんが見えるのもそれの影響で……?」
    「そうだといいなーと、ゆーはおもうのです」

  • 8125/01/16(木) 11:07:47

    そしてゆーは、マリーの方にずいと近寄る。落書きのような両目が、マリーをじっと見据えてくる

    「もちろんむりにとはいいません。でもことわられたらちょっとしょんぼりします。それに、ゆーはほうふくするかもしれません」

    報復。ゆーの口から出たものものしい言葉に、マリーが小さく緊張する。

  • 9125/01/16(木) 11:09:07

    「たとえばいきなり体をとおりぬけ、せすじをぞくりとさせましょう」
    「背筋を……」
    「あるいは視界のはしっこのほうの、ぜつみょうにじゃまなところをふわふわしましょう」
    「ふわふわ……」
    「おそろしかろ」
    「……」
    「おそろしかろ」
    「……あの、ゆーさん。私が言う事ではないかもしれませんが、呪ったりとかは……?」
    「できませぬ」
    「できないのですか」
    「ゆーはよわっちいゆうれいゆえに」

    くす、と笑い声が聖堂の空気を揺らす。
    それはマリーの喉から零れ出ていた。

    「わかりました。このマリー、微力ではありますが……ゆーさんのお手伝いをさせてください」

    小さく、非力な幽霊。彼女(?)は大切なものを無くし、途方に暮れている。
    その寂しさを、マリーはどうしても捨て置くことができなかった。

  • 10125/01/16(木) 11:17:04


    ──

  • 11125/01/16(木) 11:19:09

    「それで……ゆーさんはご自分のことを覚えておいでなのですか?」
    「それがとんと」

    聖堂での出会いから数分後
    トリニティ自治区をマリーが歩いていた。
    その周囲にまとわりつくように、ゆーがふわふわと飛び回っている。
    ゆーの“がら”を求めて聖堂を後にした二人だが、人の脚で探すには自治区は広すぎる。
    だからマリーは少しでも手がかりが得られることを期待して尋ねたのだが、その目論見は早々に頓挫した。

    「どうやら21グラムになるとき、いろいろわすれてしまうようで。ゆーのともだちもみんなそうでした」
    「そうなのですね……待ってください、ゆーさんの他にも幽霊がいるのですか?」
    「おります、そこかしこに。マリーさんのすぐ後ろにもひとり」

    そういわれてマリーは思わず振り返ったが、何もいない。
    ……否、不意に立ち止まったマリーに怪訝そうな目を向けて、足早に通り過ぎていく学生が一人いた。
    頬がほんのりと熱を持つのを感じながら、マリーは曖昧に笑いその学生に会釈をした。

    「ゆうれいはたいていみえませぬ。みえませぬが気のいいやつばかりです」

    ふわり、とゆーがマリーの足元から伸び上がり言った。
    子供がシーツを被ったような姿。その裾の部分がひらひらと揺れる。

  • 12125/01/16(木) 11:21:25

    「……そういえば、他の皆さんもそんな姿なのですか?」
    「そんなとは?」
    「なんというか……シーツを被ったような」

    ああ、と合点がいったようにゆーが頷く。

    「たいていみんなそうです。ゆうれいはみんなわすれんぼ。だから“がら”の形をわすれちゃうのです。わすれたゆうれいはみんなこのかっこう」
    「そうなんですね。ということは……生前の姿のままの幽霊も?」
    「たまにおります。そういうひとたちはちょっとこわい。おもいがつよいので。呪ったりもできます」

    ぶるぶるとゆーは体を震わせる。
    それを見たマリーの身体も小さく震えた。怖気ではなく、寒気で。
    冬風は冷たく、体温を容赦なく奪う。マリーは手近な自販機でホットドリンクを買うと道脇のベンチに腰かけた。

  • 13125/01/16(木) 11:24:26

    「……ふと思ったのですが、ゆーさんの布をめくったら元の姿が分かったりしませんか?」

    暖かな缶を掌で転がして指を温めながら、マリーは尋ねた。

    「えっち」
    「えっち……!?」

    ゆーの思いがけない答えに、マリーは思わず缶を取り落としかける。

    「ゆうれいてきにせんしてぃぶなやつです、それは」
    「そ、そうだったんですね……ごめんなさい……」
    「いえいえ、でもいま話したおかげでひとつおもいだしたことがあります」

    あら、とマリーは目を見開きゆーを見た。

    「ゆーは、たくさんかわいいといわれた覚えがあります。ちやほやもされていた気がします」

    はっと何かに思い至ったように、ゆーが顔を抑えた

    「ゆーはアイドルだったやもしれません……!」
    「……い、今の流れでその結論に至られるのは少し抗議したいのですが……!」

  • 14125/01/16(木) 11:25:18

    “えっち”と“アイドル”を紐づけられるのは少々、いやかなり思うところがある。
    ……私、えっちではありませんよね?
    そう自問するマリーを横目に、ゆーはとある方角を見た。

    「あちらです。あちらからびびびと、ゆーのさがしものの気配がします」

    ゆーの声は、幾分弾んでいるように聞こえた。
    ここにきて初めての手がかりが見つかったのだ。その気持ちもうかがい知れる。

    「わかりました。それでは早速向かいましょう」
    「はい、ぜひに。なるはやで」

    マリーは結局封を切らず仕舞いだった缶を仕舞い、ベンチから立ち上がる。
    それを急かすように、ゆーはマリーの頭上をぐるぐると回った。

  • 15125/01/16(木) 11:27:50

    (書き溜め分はこれまで。続きはゆるりとお待ちください)

  • 16二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:29:10

    おつおつ。ゆーさんとマリー可愛い。

  • 17二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:51:38

    このレスは削除されています

  • 18125/01/16(木) 11:58:08

    (終始こんなノリの予定なので、怖いことはおきないです。きっと)

  • 19二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:59:38

    イギリスだと幽霊ってかなり好意的に見られるんだっけ?
    かわいい幽霊だしこのまま良き隣人であって欲しい

  • 20二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 12:15:40

    かわいい…

  • 21二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 12:27:15

    >私、えっちではありませんよね?

    マリーはえっちだよ


    それはそれとしてほのぼのしてていいね

  • 22二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 13:16:32

    >>9

    >「おそろしかろ」

    >「……」

    >「おそろしかろ」


    ここ好き

    ばぁ!って感じで手を広げてそう

  • 23二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 13:27:53

    二人ともかわいい
    続き期待

  • 24125/01/16(木) 15:25:14


    ──

  • 25125/01/16(木) 15:25:57

    「マリーさんストップです」
    「はい、今度はどちらでしょう?」
    「ゆーアンテナきどうです。びびび」

    太陽が傾きかけた空の下、マリーとゆーが歩く。
    道が分かれるたびにゆーはその場に止まり、彼女(?)が言う”気配”の方向を探っていた。
    そのせいで二人の歩みは遅々たるものだったが、それでも着実に状況が前に進んでいるとマリーは実感することができた。

    「……ところで、気配とはどんな感じなのですか?」
    「びびび。ことばでせつめいするのはむずかしいです。びびび」

    ゆーを待つ間に、なんとなく手持無沙汰になったマリーはゆーに問いかけた。
    ゆーはふよふよと左右に小さく揺れながら、それに答える。

    「たとえばみちをまっすぐすすむことと、みぎにまがることをじゅんばんにおもいうかべるのです。そうすると……こっちのほうがいいよってきもちになるほうがあります」
    「なる、ほど……?」
    「こればかりは、たいけんせねばわかりませぬ。どうですかマリーさん、いちどぬけてみては」
    「え、ええと……それは遠慮しておきます」
    「むう、ざんねん。いがいとかいてきなのですが、21グラム。もとにもどりたいという人がいないほどに」
    「あはは……」

    これは、笑っていいのでしょうか……?
    マリーは眉尻を下げたまま、微笑む。

  • 26125/01/16(木) 15:28:05

    ──そこに風が吹いた。

    「きゃ……っ!」

    冬の気配をたっぷりはらんだ冷たい突風がマリーの制服を、髪を弄る。
    マリーは体を屈ませ、風が吹き抜けるのを耐える。

    「ふふ、すごい風でしたね……あれ?」

    風が止み、マリーが顔を上げる。すると、今しがたまでそこにいたはずのゆーの姿が無い。

    「ゆーさん?ゆーさーん?」

    マリーはゆーの名を呼びながらきょろきょろとあたりを見渡す。

    「…………け~……」

    そんなマリーの耳が、小さな声を捉えた。
    ぴょこ、とマリーの耳が起き上がり、声の出所を探って小さく揺れる。
    それから、マリーは、ばっと顔を上げた。

    「おたすけ~……あれ~……」
    「ゆーさん!?」

    その視線の先で、一枚のシーツ……否、ゆーが風に煽られ青空にさらわれそうになっていた。
    風にもみくちゃにされ、ぐるぐると回りながらゆーはどこかへと飛んでいく。
    マリーは慌てて、その方向に向かって駆け出した。

  • 27125/01/16(木) 15:54:44

    ──それから数分後。二人はとある公園にいた。

    「まったくひどいめにあいました。ゆーはもみくちゃです」
    「んっ、く……っ!本当ですね……!」

    風の吹くまま飛ばされ続けたゆーは、やがて公園に植えられた木の枝に引っかかって止まることができた。マリーはそれを外そうと顔を赤くしながら背伸びをしていた。

    「はぁ、はぁ……よい、しょ……!」

    目いっぱい伸ばされたマリーの指が、ゆーの布に引っかかる。マリーはそれを逃さないようにつまんでぐい、と引っ張った。
    ぽき、ぺきと小枝が数本折れて、ゆーがばさりと落ちてきた。ゆーは捨てられたシーツのように地面に一塊になり、それからふわりと浮き上がる。

    「……ふと思ったのですが」

    それを見届けたマリーは額の汗をぬぐいながら、ゆーに尋ねる。

    「ゆーさんは幽霊なのですから、枝をすり抜けて地面に降りたりできなかったのでしょうか」
    「…………おお」

    思いもよらなかった、とでも言うように、ゆーが揺れた。
    それを見たマリーは、体の力が抜けるような気持になった。

    「できますが、すっかりわすれておりました。ゆーは、たかいところがにがてだったようです。そのせいであたまがまわりませなんだ」
    「そう、ですか……」

  • 28125/01/16(木) 16:11:47

    ゆーの言葉に、マリーは少し考え込んだ。

    「ゆーさん」
    「なんでしょう?」
    「手を繋ぎませんか?」

    そうしてゆーのほうにそっと右手を差し出した。
    ゆーは差し出された手とマリーの方を交互にみながら尋ねた。

    「いいのですか?ゆーはさわると、ひんやりいたしますよ?」
    「いえ、お構いなく。それにまた風が吹いたら大変ですから」
    「……では、ごえんりょなく……」

    ゆーはおずおずといった様子でマリーの掌に自分の手を乗せた。
    マリーはそっと指を握りこむ。ゆーの手は、布に見えながら水の様に液体の感触がした。それなのに、マリーの手は少しも濡れてはいない。
    幽霊とは、こんな手触りなのか。マリーはそう思いながらゆーに尋ねた。

    「さて、ゆーさん。気配の方はどうですか?」
    「ああ、それでした。どたばたですっかりわすれておりました」

    ぴょこん、とゆーが跳ねてマリーの手を引っ張る。

    「じつはけがのこうみょうなのです。とばされたおかげで、けはいにかなり近づきました」
    「まあ……!」
    「これもマリーさんのおかげです。さあさ、いきましょう。きっとあとすこしです」

    ゆーに促されるまま、マリーは歩き出した。

  • 29125/01/16(木) 16:12:53

    (続きは夜か……あるいは明日のこの時間帯に)

  • 30二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 16:18:55

    >>29

    おつです。

    また待ってます。

  • 31二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 16:30:35

    マリーの耳の描写が結構細かくされててスレ主の癖が見え隠れしてる気がする

  • 32125/01/16(木) 17:13:16

    >>31

    (ぴょこぴょこ動く獣の耳が好きです。カラカルとか大好き)

  • 33二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 18:30:25

    可愛い

  • 34二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 18:53:47

    イッチ、事情は理解した。
    保守は任せて君は休むんだ。

  • 35二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 19:40:13

    展開予想したいがネタ潰しになるこのもどかしさ
    がんばれイッチ
    毎秒投稿してくれイッチ
    それはそれとしてきちんとあったかくするんだぞイッチ

  • 36二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 21:44:32

    ぬけがらのがらとか21グラムとか、言い回しが独特で好き

  • 37二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 06:53:46

    ほしゆーさん

  • 38125/01/17(金) 09:49:04


    ──

  • 39125/01/17(金) 09:49:58

    公園を抜けたマリーとゆーは手を繋いだままビル街へと歩みを進める。 太陽は西に傾いて雲を茜色に染めて、地面には長い影が伸びていた。
    この時間になると放課後の学生が増えて、通りは賑やかになり始める。そんな彼女達の中には、片手を中空に上げたまま歩くマリーの姿を好奇の目で見る者もちらほらといた。

    「むむむ、みられていますよマリーさん。やはりゆーのてをはなしていただいたほうが」 「いいえ、このままで。また飛ばされたら、今度は見つけられないかもしれませんよ?」 「それは……ゆーがとてもこまるよかん」
    「私も困ってしまいます。だからこのままで、ね?」

    夕暮れ時になって折からの冷え込みは一層増していた。
    冷たい風にせかされる様に、マリーは自然と早足になる。

    「マリーさんのてはあたたかですね」
    「そう、ですか?」
    「ゆーはていたいおんゆえに、ことさらしみいります。ぬくぬくです」
    「ふふ、ならよく温まってくださいね」
    「ごえんりょなく。それに、なつかしいきがいたします」

    マリーの手がふよふよとやわらかな圧力を感じる。ゆーがにぎりしめているのだろう。

  • 40125/01/17(金) 09:50:54

    「マリーさん」
    「はい、ゆーさん」
    「ゆーにおつきあいしてくれてありがとうございます」
    「……どうしたんですか、急に」
    「きゅうじゃありません。ずっといおうとおもっていたことですゆえ」

    ゆーが唐突に立ち止まる。
    そしてマリーの手をするりと抜けて、彼女の前に回り込んだ。

    「でも、なかなかいいだせず。そしていまいわなければもうタイミングがなくなってしまうゆえ」
    「……?あ、もしかして……」
    「ここです」

    ゆーはぐるりと横を向いた。
    その目線の先は……ビルとビルの隙間。夜の迫る中で殊更に薄暗い、狭い路地だった。

    「この先に、ゆーの“がら”があります」

  • 41125/01/17(金) 09:51:50

    (保守ありがとございます。体調も多少マシになったので少しずつ続きを)

  • 42二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 10:00:03

    ゆーさんの語彙が良いな

  • 43二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 10:41:46

    マリゆう尊い…

  • 44125/01/17(金) 13:18:09

    それを聞いたマリーの顔が強張る。

    (このさきに、ゆーさんの……)

    この散策の目的がそれである以上、いつかこの瞬間が来ることは理解していた。
    それでも、いざ目の当たりにすると……どうしようもなく緊張してしまう

    「……マリーさん、ここからならゆーはひとりでだいじょうぶですよ?」

    マリーの緊張を察したゆーが囁くように尋ねた。マリーはそれに頭を振って答える。

    「……いえ。ほんの少し、脚が竦んだだけです」
    「でも……」
    「……ごめんなさい。ゆーさんに、心配をかけてしまいました」

    いけませんね、とマリーは自らの頬を軽く叩き、それから笑顔を浮かべた。

    「せっかくここまで来たんです。最後まで見届けさせてください、ゆーさん」
    「……はい!ではではぜひ、ごいっしょに」

    ゆーが嬉しそうに跳ねた。
    マリーはそれを見て頷き、それから路地へと足を踏み入れた。

  • 45125/01/17(金) 13:19:38

    路地はしんと静まり返っていた。
    まるで切り離されたかのように、表通りの喧騒が届かない。
    暗く、見通しが聞かない路地をマリーは壁に手を付いて一歩一歩ゆっくりと歩いていく。

    そして、見つけた。

    ビルの谷間の、ごく狭い路地の真ん中。
    そこに、黒い毛並みをした猫が横たわっていた。
    その目は閉じられて、ぴくりとも身動きしない。

    「……ああ、そっか」

    マリーは制服が汚れるのも構わず、膝をついて猫の傍にしゃがみ込むと、すっかり冷たくなってしまったその背中を撫でた。

    「……貴方だったのですね、ユニさん」

    そしてマリーは、寂しさを滲ませながら“彼女”の名を呼んだ。

  • 46125/01/17(金) 13:36:47

    二月ほど前の事だろうか。
    トリニティ学舎の庭園で、木に登って降りられなくなってしまった野良猫がいたのだ。
    高い木の上で、にゃあにゃあと悲しそうに鳴いているのを、マリーは放ってはおけなかった。だから梯子をかけて、下ろしてあげたのだ。
    怯えているのか、抱き上げた手の中で小さく震えていたことをマリーはよく覚えている。

    ──ゆーは、たかいところがにがてだったようです。

    それがきっかけなのか、その猫はマリーに懐いた。ある時は学舎を散歩するマリーの後ろについて歩き、またある時は書類仕事に手を出すマリーにちょっかいをかけ、またある時は聖堂に入り込みお腹を見せて昼寝をしていた。他のシスターたちがかわいいと騒ぎながら写真を撮っていたのを覚えている。

    ──視界のはしっこのほうの、ぜつみょうにじゃまなところをふわふわしましょう。
    ──ゆーは、たくさんかわいいといわれた覚えがあります。ちやほやもされていた気がします。

    そうして過ごす間にいつの間にか愛着が湧いて、マリーはその猫に名前を付けた。
    この子が、これからも良きつながりに恵まれますように……そう願いを込めて、Unityを捩りユニと。

    思えば、兆しはたくさんあったのだ
    今になって、何故気付かなかったのだろうと思ってしまう程に。

  • 47二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 13:38:35

    このレスは削除されています

  • 48二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 13:52:47

    ああああああ……

  • 49二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 14:04:25

    このレスは削除されています

  • 50125/01/17(金) 15:55:31

    「くるまに、ぶつかったのです」

    ゆーが静かに語り始めた。

    「そのときはなんともなかったのです。へっちゃらでした。でも、夜になってきゅうにおなかがとってもいたくなって……ゆーは、ゆーになったのです」
    「それは……」
    「ありがとうございます、マリーさん。おかげでゆーはぜんぶ思い出すことができました」

    マリーは顔をあげ、ゆーをみる。そして目を見開いた。

    「ゆーさん、体が……!」
    「おやおや?」

    ゆーの、シーツを被った様な体。その端の方から光の粒になって霧散を始めている。
    マリーは慌てて立ち上がると、ゆーに向かって手を伸ばす。
    その手はゆーに触れることなくすり抜けた。

    「あ、れ……どうして……!?」
    「きっと、まんぞくしきってしまったのでしょうな」
    「どういうこと、ですか?」
    「こうして “がら”もみつけてもらえて、みれんがなくなってしまったのでしょう。もうつぎのところに行くじかんなのです」
    「そんな、こんな急に……!」

    おもわず声を張り上げたマリーに、ゆーは静かに首を振った。
    そう話す間にも、ゆーの体は光となって消えている。もう半分ほどしか残っていなかった。

  • 51125/01/17(金) 15:57:07

    「ゆーのじかんは、ほんとはあの夜おわっていたはずなんです。それなのに、きょういちにち、マリーさんとあるいて、マリーさんとお話して、マリーさんとすごせました。これ以上をのぞんだら、ゆーはぜいたくさんになってしまいます」
    「―――っ!!」

    ゆーの言葉を聞いたマリーは、唇と瞼を固く引き結んだ。込み上げる物をこらえて身体を震わせ、言葉にし損ねた荒い吐息を幾度も零し……そして最後に、笑顔を作った。

    「ゆーさん」
    「なんでしょう?」
    「お祈りをさせてくれませんか?貴方が迷わず楽園に行けるように」
    「おお、それはすてきですな。ついでにおそなえもあればいうことなしですが」
    「おそなえですか……」

    なにかあったかしら、とマリーは身体を弄る。すると何か固いものに指が触れた。
    引っ張り出してみると、それはコーヒーの缶だった。

    「おお、それならばもうしぶんなし」

    ゆーと休憩した時に買って、結局飲まずじまいだったそれ。それを見たゆーは満足げに頷いた。
    マリーは缶を地面に置き、手を組んだ。目は開けてゆーをまっすぐ見据えたまま、ゆーの先行きを祈る。

  • 52125/01/17(金) 15:58:44

    ゆーが消えていく。もう、顔の部分のらくがきのような両目から上しか残っていない。
    その残った部分も、見る間に崩れ光の粒となって霧散していく。

    「マリーさん」
    「はい、ゆーさん」
    「さようなら」
    「──ええ、さようなら…!」

    そうして交わしたあいさつを最後に、ゆーは消えた。
    最後の瞬間、マリーはにゃあと猫の鳴く声を聞いた気がした。
    けれど周りを見渡しても、何も見えることは無い。
    ……行ってしまったのだ。

  • 53125/01/17(金) 15:59:39

    「……う、ぅ」

    小さな嗚咽が漏れる。
    マリーの肩が震え、彼女の足元に小さな染みができる

    「うわぁああん…!!」

    顔を覆い、マリーはその場にうずくまった。
    ゆーさん……ユニさん。“彼女”はもう、どれだけ探しても見つからない場所にいる。
    それがマリーには、どうしようもなく悲しかった。
    沢山泣いた。涙と鼻水で顔が汚れるのも構わず泣いた。

  • 54125/01/17(金) 16:00:42

    ……そうして、何もでなくなるまでたっぷり泣きはらしたマリーは、ユニの亡骸を抱き上大聖堂への帰途につく。

    「……どうか、お元気で」

    マリーは空を見上げて呟いた。
    無くなった魂の行き場は、空のとても高い所にあるという。上を向けば、言葉はきっと“彼女”にも届く。届いて欲しいと思った。
    トリニティの夜が更けていく。
    長い一日が、終わろうとしている。

  • 55125/01/17(金) 16:01:06

    この日以来、マリーが幽霊を見ることは無かった。

  • 56125/01/17(金) 16:01:58

    マリーが幽霊にであう話【完】

  • 57125/01/17(金) 16:02:41

    (これにて、御終い。お付き合いありがとうございました)

  • 58二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 16:03:11

    優しくて悲しくて、とても暖かい話だった

    少し泣く…

  • 59125/01/17(金) 16:29:07
  • 60二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 17:20:29

    完走お疲れ様でした

  • 61二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 17:38:07


    やっぱり猫ちゃんだったか……

  • 62二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 17:44:21

    おつおつ
    簡潔にまとまってて心が暖かくなる良きお話だった

  • 63二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 18:37:27

    猫は9つの魂があるというし、また違う姿でマリーに会いに行ってほしいなぁ

  • 64125/01/17(金) 20:50:21

    ──後日談、あるいは蛇足

  • 65125/01/17(金) 20:52:23

    マリーがゆー……ユニの亡骸を持ち帰り、大聖堂の傍に小さな墓を作ってから数日後。

    「ちょ、ちょっとまってくださいみなさん……!」

    大聖堂を出たマリーはたくさんの猫に囲まれていた。
    茶トラの猫はマリーの脚に纏わり付き、頭を擦りつけ。
    斑の猫は地面に寝そべりお腹を上に向けながらマリーに何かいいたげな目を向け。
    長毛の白猫はマリーのスカートの裾に執心な様子でたしたしと猫パンチを繰り出し。
    猫たちは思い思いににゃあにゃあ鳴きながら、マリーにじゃれついていた。

    「……大変なことになっていますね、マリー」
    「わ、サクラコさま……!」

    そこに声をかけてきたのは、たおやかな笑みを浮かべたサクラコだった。
    サクラコはマリーと彼女を取り囲む猫の群れを見て「まあ」と小さな感嘆の声をあげた。

    「失礼しました、すぐになんとかしますから……!
    「いえ、そのままで構いません。彼らもまた、大切な隣人ですから。無下にせず丁重にもてなしましょう、ね?」

    サクラコはそう言ってしゃがみ込むと、一匹の猫の前にしゃがみ込み指を差し出した。
    猫は鼻を寄せてすんすんと匂いを嗅ぎ……それからずい、と自らの頭を指に押し付けた。
    サクラコはそのまま指先で猫の頭をゆっくりと撫で始める。

  • 66125/01/17(金) 20:53:27

    「……それにしても、マリーがこんなに猫に好かれるだなんて。なにかあったのでしょうか?」
    「……!」

    何の気なしに尋ねたであろうサクラコの言葉に、マリーの耳が跳ねた。
    ちらと視線を向けたのは、大聖堂の傍にひっそりと建てられた小さな墓。

    「……はい。心当たりが、一つ」

    マリーはそう答えて、空を仰いだ。

    (もしかしたらユニさん……)

    空は遠く、青の底は何処までも深い。

    (私の事を、噂したのかもしれませんね)

    ━━マリーさんはすてきなおひとですぞ
    その深い青の底で、どこか愉快なしゃべり口で、自身の事を触れ回る姿を想像し、マリーは小さく顔を綻ばせた

  • 67125/01/17(金) 20:54:04

    (これにて、ほんとうに御終い)

  • 68二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 20:56:30

    最高を超えた最高

    …ところで茶トラの猫さんちょっとその場所代わ(ry

  • 69二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 21:10:47

    ゆーさん…ユニちゃんが名前に込められた願い通り新しい縁を運んでくるの綺麗

  • 70125/01/17(金) 21:22:47

    重ね重ね
    たくさんの感想ありがとうございました

  • 71二次元好きの匿名さん25/01/17(金) 23:17:15

    こんなssを私も書けるようになりたいものだ…
    マリーかわいい

  • 72二次元好きの匿名さん25/01/18(土) 01:39:07

    ・・・。(プルプル)

  • 73二次元好きの匿名さん25/01/18(土) 09:12:32

    このレスは削除されています

  • 74二次元好きの匿名さん25/01/18(土) 09:14:29
  • 75二次元好きの匿名さん25/01/18(土) 09:20:50

    このレスは削除されています

  • 76二次元好きの匿名さん25/01/18(土) 17:28:22

    突然の風評被害を受けるサクラコ様に悲しき現在…

  • 77二次元好きの匿名さん25/01/18(土) 18:33:59

    これはサクラコ様は関係ないぞ?????
    なんでサクラコにヘイトが向いているんだ??????

  • 78125/01/18(土) 19:19:16

    (申し訳ありませんがこちらの本意ではないレスがありましたので消させていただきました。悪しからず)

  • 791◆lhUZZh3AGhLe25/01/18(土) 19:29:20

    (それから本人証明のためトリップを。今後スレ主から何か報告があるときはこちらのトリップで)

  • 80二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 02:04:21

    >>79

    了解です。

    最高のSSをありがとうございました

  • 81二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 02:20:49

    いいお話だった……

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