- 1二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 10:56:07
- 2二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 10:57:55
「え、え?」
「ゆうれいですよー」
マリーは混乱した。まだ薄暗い聖堂で、揺らぐろうそくの灯が生んだ影を見間違えたのではないと、目を何度か瞬かせる。
幽霊はそんなマリーの傍を飛びながら、語りかけた。マリーのベールと髪が、風も無いのにざわざわと揺れる。
幽霊の声は高く綺麗で、少年のものにも少女のものにも聞こえた。感情が希薄で平坦な発声がその区別を曖昧にしていたが、マリーは“少女”の印象を持った。
(……夢?私、寝惚けているのでしょうか)
目の前の出来事を受け止めきれないマリーは両手を組みそっと瞼を閉じる。そして心の中で祈りの言葉を唱え始めた。
途端、ぺしょりと軽い何かが落ちる音。
「あわわわわ」
そして、幽霊の声。
マリーがぱっと瞼を開くと、幽霊が床に落ちてもだもだともがいていた
「わ、わぁ……大変……!」
打ち捨てられたシーツの様になってしまった幽霊に、マリーは慌てて駆け寄った。 - 3二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 10:59:31
ゆうれいさんは何か悪いことするのかな?
- 4二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:00:37
「おいのりはかんべん……しびれる……ぼろぬのになっちゃう……」
「ごめんなさい、私の見間違いかと思って……」
マリーの眼前で、再び幽霊が浮き上がる。その動きが、ほんの少しくたびれたもののように見えて彼女の両耳がしゅんと下を向いた。
「われらが見えるひとはすくないゆえ、そうおもってもしかたなし?過ぎたことはざぶざぶいたします」
(……水に流していただける、ということでしょうか?)
小さく首を傾げたマリーの前で、幽霊はくるりと一回転した。
「あらためまして、ゆうれいです。ゆーとよんでください」
そして、どこか誇らしげにそう名乗った
(何故、急に幽霊が見えるようになったのでしょうか……?)
マリーに去来したのは、疑問だった。
湯が沸き立つように、幾つもの「?」がふつふつと彼女の中で浮かぶ。
これまで、幽霊なんて見たことが無かった。それがなぜ急に見えたのか。見えているのは目の前の幽霊……ゆーと名乗ったこの幽霊だけなのか。そして何より……
“それ”に思い至ったマリーの喉が、ひゅうと引き絞られた。
冬の朝だからではない寒気が、背筋を這い上がる。
深く、息を一つ。そうしてマリーはゆーに問いかける。
「えっと……ゆー、さん?は……もう、亡くなられているの、ですか?」
「でしょうなー、ゆうれいですゆえ」
あっけらかん、と
それなりの葛藤と覚悟を持って投げかけたマリーの問いに、ゆーはこともなげに答えた。
マリーが思わず言葉を忘れて、口をぱくぱくさせてしまう程に、その答えは軽い - 5二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:01:46
ゆーさんとマリーのほのぼのホラー可愛い。
- 6125/01/16(木) 11:02:45
「ゆーは“ぬけがら”の“ぬけ”のほう。21グラムてきなやつなので」
「そん、な……」
キヴォトスにおいて、死は重いものだ。
目の前の、このどこか抜けた幽霊にそれが訪れたかと思うと、マリーの心がずしりと重くなる。
「おお、それでおもいだしました。マリーさんにだいじなおねがいがあったのでした」
その一方で、自らの言葉がマリーにもたらした衝撃など知る由も無いかのように、ゆーはふわふわと宙を漂いながら言った。
「……お願い、ですか?」
ぴく、とマリーの耳が揺れて、彼女は居住まいを正した。半ば無意識に行われたその振る舞いは、困っている誰かを放って置けないマリーの持つ気質ゆえだろう。
おかげで彼女は、心にのしかかった物から気をそらすことができた。
「はい、ゆーをさがしてほしいのです」
そしてゆーはマリーをまっすぐみつめてそう言った。 - 7125/01/16(木) 11:05:46
(どういう事でしょう……?)
言葉を素直に受け止めるなら、ゆーは自らを探して欲しいと言っている。自分探し……モラトリアムの一環でしょうか……?おかしな方向に発想が飛びそうになって、頭を振ってそれを引き留めて……そうして、思い至った。
「そうか、探して欲しいゆーさんというのは……」
「はい。“ぬけがら”の“がら”のほうです。せいかいせいかいー」
ゆーがそう言うのと同時に、聖堂の柱がこんこんと音を立てた。ラップ現象。ゆーなりの拍手だろうか。柱の方をちらと見たマリーはそう思った。
「ゆーは新人のゆうれいです。まだ“がら”もあたたかいかもしれません」
でも、とゆーは一旦言葉を溜めた。
「ゆーは“がら”から抜けたあと、どこで抜けたかすっかり忘れてしまったのです。ゆーはそれがほんのりさみしい」
ふよふよ、ふよふよ。マリーの周りを飛びながらゆーは言葉を続ける。
「そう……なのですね。それを何故私に……?」
「それが分からぬのです」
むむ、とゆーが唸った。
「ここは人がたくさんです。ゆーの“がら”も、そのうちきっとだれかがみつけて埋めてくれるとおもいます。けど、ゆーはマリーさんにみつけてほしい。わからぬけれど、なぜだかそうおもうのです」
それを聞いて、マリーは小さく目を見開いた
「もしかして、ゆーさんが見えるのもそれの影響で……?」
「そうだといいなーと、ゆーはおもうのです」 - 8125/01/16(木) 11:07:47
そしてゆーは、マリーの方にずいと近寄る。落書きのような両目が、マリーをじっと見据えてくる
「もちろんむりにとはいいません。でもことわられたらちょっとしょんぼりします。それに、ゆーはほうふくするかもしれません」
報復。ゆーの口から出たものものしい言葉に、マリーが小さく緊張する。 - 9125/01/16(木) 11:09:07
「たとえばいきなり体をとおりぬけ、せすじをぞくりとさせましょう」
「背筋を……」
「あるいは視界のはしっこのほうの、ぜつみょうにじゃまなところをふわふわしましょう」
「ふわふわ……」
「おそろしかろ」
「……」
「おそろしかろ」
「……あの、ゆーさん。私が言う事ではないかもしれませんが、呪ったりとかは……?」
「できませぬ」
「できないのですか」
「ゆーはよわっちいゆうれいゆえに」
くす、と笑い声が聖堂の空気を揺らす。
それはマリーの喉から零れ出ていた。
「わかりました。このマリー、微力ではありますが……ゆーさんのお手伝いをさせてください」
小さく、非力な幽霊。彼女(?)は大切なものを無くし、途方に暮れている。
その寂しさを、マリーはどうしても捨て置くことができなかった。 - 10125/01/16(木) 11:17:04
─
── - 11125/01/16(木) 11:19:09
「それで……ゆーさんはご自分のことを覚えておいでなのですか?」
「それがとんと」
聖堂での出会いから数分後
トリニティ自治区をマリーが歩いていた。
その周囲にまとわりつくように、ゆーがふわふわと飛び回っている。
ゆーの“がら”を求めて聖堂を後にした二人だが、人の脚で探すには自治区は広すぎる。
だからマリーは少しでも手がかりが得られることを期待して尋ねたのだが、その目論見は早々に頓挫した。
「どうやら21グラムになるとき、いろいろわすれてしまうようで。ゆーのともだちもみんなそうでした」
「そうなのですね……待ってください、ゆーさんの他にも幽霊がいるのですか?」
「おります、そこかしこに。マリーさんのすぐ後ろにもひとり」
そういわれてマリーは思わず振り返ったが、何もいない。
……否、不意に立ち止まったマリーに怪訝そうな目を向けて、足早に通り過ぎていく学生が一人いた。
頬がほんのりと熱を持つのを感じながら、マリーは曖昧に笑いその学生に会釈をした。
「ゆうれいはたいていみえませぬ。みえませぬが気のいいやつばかりです」
ふわり、とゆーがマリーの足元から伸び上がり言った。
子供がシーツを被ったような姿。その裾の部分がひらひらと揺れる。 - 12125/01/16(木) 11:21:25
「……そういえば、他の皆さんもそんな姿なのですか?」
「そんなとは?」
「なんというか……シーツを被ったような」
ああ、と合点がいったようにゆーが頷く。
「たいていみんなそうです。ゆうれいはみんなわすれんぼ。だから“がら”の形をわすれちゃうのです。わすれたゆうれいはみんなこのかっこう」
「そうなんですね。ということは……生前の姿のままの幽霊も?」
「たまにおります。そういうひとたちはちょっとこわい。おもいがつよいので。呪ったりもできます」
ぶるぶるとゆーは体を震わせる。
それを見たマリーの身体も小さく震えた。怖気ではなく、寒気で。
冬風は冷たく、体温を容赦なく奪う。マリーは手近な自販機でホットドリンクを買うと道脇のベンチに腰かけた。 - 13125/01/16(木) 11:24:26
「……ふと思ったのですが、ゆーさんの布をめくったら元の姿が分かったりしませんか?」
暖かな缶を掌で転がして指を温めながら、マリーは尋ねた。
「えっち」
「えっち……!?」
ゆーの思いがけない答えに、マリーは思わず缶を取り落としかける。
「ゆうれいてきにせんしてぃぶなやつです、それは」
「そ、そうだったんですね……ごめんなさい……」
「いえいえ、でもいま話したおかげでひとつおもいだしたことがあります」
あら、とマリーは目を見開きゆーを見た。
「ゆーは、たくさんかわいいといわれた覚えがあります。ちやほやもされていた気がします」
はっと何かに思い至ったように、ゆーが顔を抑えた
「ゆーはアイドルだったやもしれません……!」
「……い、今の流れでその結論に至られるのは少し抗議したいのですが……!」 - 14125/01/16(木) 11:25:18
“えっち”と“アイドル”を紐づけられるのは少々、いやかなり思うところがある。
……私、えっちではありませんよね?
そう自問するマリーを横目に、ゆーはとある方角を見た。
「あちらです。あちらからびびびと、ゆーのさがしものの気配がします」
ゆーの声は、幾分弾んでいるように聞こえた。
ここにきて初めての手がかりが見つかったのだ。その気持ちもうかがい知れる。
「わかりました。それでは早速向かいましょう」
「はい、ぜひに。なるはやで」
マリーは結局封を切らず仕舞いだった缶を仕舞い、ベンチから立ち上がる。
それを急かすように、ゆーはマリーの頭上をぐるぐると回った。 - 15125/01/16(木) 11:27:50
(書き溜め分はこれまで。続きはゆるりとお待ちください)
- 16二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:29:10
おつおつ。ゆーさんとマリー可愛い。
- 17二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:51:38
このレスは削除されています
- 18125/01/16(木) 11:58:08
(終始こんなノリの予定なので、怖いことはおきないです。きっと)
- 19二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 11:59:38
イギリスだと幽霊ってかなり好意的に見られるんだっけ?
かわいい幽霊だしこのまま良き隣人であって欲しい - 20二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 12:15:40
かわいい…
- 21二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 12:27:15
>私、えっちではありませんよね?
マリーはえっちだよ
それはそれとしてほのぼのしてていいね
- 22二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 13:16:32
- 23二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 13:27:53
二人ともかわいい
続き期待 - 24125/01/16(木) 15:25:14
─
── - 25125/01/16(木) 15:25:57
「マリーさんストップです」
「はい、今度はどちらでしょう?」
「ゆーアンテナきどうです。びびび」
太陽が傾きかけた空の下、マリーとゆーが歩く。
道が分かれるたびにゆーはその場に止まり、彼女(?)が言う”気配”の方向を探っていた。
そのせいで二人の歩みは遅々たるものだったが、それでも着実に状況が前に進んでいるとマリーは実感することができた。
「……ところで、気配とはどんな感じなのですか?」
「びびび。ことばでせつめいするのはむずかしいです。びびび」
ゆーを待つ間に、なんとなく手持無沙汰になったマリーはゆーに問いかけた。
ゆーはふよふよと左右に小さく揺れながら、それに答える。
「たとえばみちをまっすぐすすむことと、みぎにまがることをじゅんばんにおもいうかべるのです。そうすると……こっちのほうがいいよってきもちになるほうがあります」
「なる、ほど……?」
「こればかりは、たいけんせねばわかりませぬ。どうですかマリーさん、いちどぬけてみては」
「え、ええと……それは遠慮しておきます」
「むう、ざんねん。いがいとかいてきなのですが、21グラム。もとにもどりたいという人がいないほどに」
「あはは……」
これは、笑っていいのでしょうか……?
マリーは眉尻を下げたまま、微笑む。 - 26125/01/16(木) 15:28:05
──そこに風が吹いた。
「きゃ……っ!」
冬の気配をたっぷりはらんだ冷たい突風がマリーの制服を、髪を弄る。
マリーは体を屈ませ、風が吹き抜けるのを耐える。
「ふふ、すごい風でしたね……あれ?」
風が止み、マリーが顔を上げる。すると、今しがたまでそこにいたはずのゆーの姿が無い。
「ゆーさん?ゆーさーん?」
マリーはゆーの名を呼びながらきょろきょろとあたりを見渡す。
「…………け~……」
そんなマリーの耳が、小さな声を捉えた。
ぴょこ、とマリーの耳が起き上がり、声の出所を探って小さく揺れる。
それから、マリーは、ばっと顔を上げた。
「おたすけ~……あれ~……」
「ゆーさん!?」
その視線の先で、一枚のシーツ……否、ゆーが風に煽られ青空にさらわれそうになっていた。
風にもみくちゃにされ、ぐるぐると回りながらゆーはどこかへと飛んでいく。
マリーは慌てて、その方向に向かって駆け出した。 - 27125/01/16(木) 15:54:44
──それから数分後。二人はとある公園にいた。
「まったくひどいめにあいました。ゆーはもみくちゃです」
「んっ、く……っ!本当ですね……!」
風の吹くまま飛ばされ続けたゆーは、やがて公園に植えられた木の枝に引っかかって止まることができた。マリーはそれを外そうと顔を赤くしながら背伸びをしていた。
「はぁ、はぁ……よい、しょ……!」
目いっぱい伸ばされたマリーの指が、ゆーの布に引っかかる。マリーはそれを逃さないようにつまんでぐい、と引っ張った。
ぽき、ぺきと小枝が数本折れて、ゆーがばさりと落ちてきた。ゆーは捨てられたシーツのように地面に一塊になり、それからふわりと浮き上がる。
「……ふと思ったのですが」
それを見届けたマリーは額の汗をぬぐいながら、ゆーに尋ねる。
「ゆーさんは幽霊なのですから、枝をすり抜けて地面に降りたりできなかったのでしょうか」
「…………おお」
思いもよらなかった、とでも言うように、ゆーが揺れた。
それを見たマリーは、体の力が抜けるような気持になった。
「できますが、すっかりわすれておりました。ゆーは、たかいところがにがてだったようです。そのせいであたまがまわりませなんだ」
「そう、ですか……」 - 28125/01/16(木) 16:11:47
ゆーの言葉に、マリーは少し考え込んだ。
「ゆーさん」
「なんでしょう?」
「手を繋ぎませんか?」
そうしてゆーのほうにそっと右手を差し出した。
ゆーは差し出された手とマリーの方を交互にみながら尋ねた。
「いいのですか?ゆーはさわると、ひんやりいたしますよ?」
「いえ、お構いなく。それにまた風が吹いたら大変ですから」
「……では、ごえんりょなく……」
ゆーはおずおずといった様子でマリーの掌に自分の手を乗せた。
マリーはそっと指を握りこむ。ゆーの手は、布に見えながら水の様に液体の感触がした。それなのに、マリーの手は少しも濡れてはいない。
幽霊とは、こんな手触りなのか。マリーはそう思いながらゆーに尋ねた。
「さて、ゆーさん。気配の方はどうですか?」
「ああ、それでした。どたばたですっかりわすれておりました」
ぴょこん、とゆーが跳ねてマリーの手を引っ張る。
「じつはけがのこうみょうなのです。とばされたおかげで、けはいにかなり近づきました」
「まあ……!」
「これもマリーさんのおかげです。さあさ、いきましょう。きっとあとすこしです」
ゆーに促されるまま、マリーは歩き出した。 - 29125/01/16(木) 16:12:53
(続きは夜か……あるいは明日のこの時間帯に)
- 30二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 16:18:55
- 31二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 16:30:35
マリーの耳の描写が結構細かくされててスレ主の癖が見え隠れしてる気がする
- 32125/01/16(木) 17:13:16
(ぴょこぴょこ動く獣の耳が好きです。カラカルとか大好き)
- 33二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 18:30:25
可愛い
- 34二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 18:53:47
イッチ、事情は理解した。
保守は任せて君は休むんだ。 - 35二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 19:40:13
展開予想したいがネタ潰しになるこのもどかしさ
がんばれイッチ
毎秒投稿してくれイッチ
それはそれとしてきちんとあったかくするんだぞイッチ - 36二次元好きの匿名さん25/01/16(木) 21:44:32
ぬけがらのがらとか21グラムとか、言い回しが独特で好き