- 1125/01/19(日) 01:11:58
- 2二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 01:22:05
うめにきたぞ
- 3二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 01:23:55
うめえ
- 4二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 01:24:45
あげろ上げろ〜
- 5二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 01:25:12
梅田
- 6二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 01:26:35
埋めるんじゃなくて上げるんじゃないか?
- 7二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 01:28:51
別に何度も上げてしまっても構わんのだろう?
- 8二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 01:34:20
明日から書き始めるのにこんなド深夜にスレ立てするのはあにまん初心者かよほどの早起きさんとお見受けする
お菓子って厳密なレシピ厳守が求められるらしいから、スイーツ部所属かつ元々のアルコール好きもあると食べるにしろ作るにしろかなりこだわりを持ちそうだよね - 9125/01/19(日) 01:41:29
トリニティ自治区の一角。ロンドン風の外装に溶け込んだ、チョークアートの立て看板を店先に置くスイーツ店。
その少女は店内の端、ガラス張りの店先から見えやすい位置。壁際のソファに沿って並んでいた丸机を寄せて並べ、対岸を三つの椅子で囲むようにセッティング。斜め前方の一席には鞄を置き、席取りはばっちりだ。
空いている席は椅子が三つと、彼女の隣、ソファに一人分のスペース。
ご機嫌に足をぱたぱたと揺する少女は、手に持ったスマホを指先で幾度か叩く。
縦長の画面。3×4の枠に区切られた、五十音の頭と記号。そのひとつ上の横長の枠には、今しがた彼女の打ち込んだメッセージが綴られている。
一瞬の静止の間に、左から右へ滑る目線が誤字の有無を確認。隣に表示された紙飛行機に人差し指が触れ、文章はそのまま、吹き出しに囲まれて真上へスライドした。
『例のお店。五人分の席、無事確保』
『授業終わったらなるはやでおいで〜』
モモトーク。グループ名の横には、参加している人数を示す(5)の文字。
気紛れにその画面のまま少し待ってみても、既読はひとつもつかない。送信主の彼女は別だが、他の四人は一年生。時間割の異なる彼女らは、今の時間は授業中だろうから、当然の事だが。
「────〜♪」
この曲、何処かで聞いたような。彼女の人生とは、精々その程度の付き合いの歌。店の中の優雅な雰囲気を助長するそれを。口は閉じきったまま、それを奏でる鼻歌を響かせながら、丸い獣耳を揺らす少女────間宵シグレは、その志と所属を同じくする一個下の友人たちを待ちながら、トリニティの街並みを眺めていた。
※
ちまちま書き溜めた分だけ、区切りのいいところまで放出して、あとは眠くなるまで書けたら上げる形でしようと思います。
...お察しの通り初心者です。やさしくしてね...
- 10二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 01:50:35
素直で好感が持てる1だなあ
あにまん掲示板は最終レスから12時間は落ちないけど、スレ立てから10レス前後までは2時間で落ちるのと、日付が変わる頃に広域規制がかかってレス出来ない人が増えるのでこの時間のスレ立てはちょっと危ないんだ
それはそれとしてシグレもスイーツ部も好きなので期待して待ってるね - 11125/01/19(日) 02:06:39
────トリニティ総合学園。その歴史は深く、現存する広大な自治区は、そのまま歴史のスケールの大きさを物語っている。
かつてこの場所は、無数の学園の密集地だった。その中で、特に力のあった三つの学園────今では三大分派の名称として、その名を残し続けている学園を代表とし、連合を結成。徐々に、トリニティという一つの学園に統合されて行った...。
「────みたいな話、だったかな」
数日前の授業内容。それを、頭の中で諳んじる。が、ノートを取っていない事もあってその内容はうろ覚えであり、現にいくつか抜けがある。それは、彼女自身もわかっている、が...。
正直、割とどうでもいい、というのがシグレの考えだ。そこから、どうやって本学が今の姿へと成長するに至ったのか。ゲヘナとの埋めがたい確執が、いつどうして生まれたのか。毎週の授業で語られるそれらは特に、彼女の琴線を揺さぶる事が無かった。
興味が無い。だから、勉強をしない。というのが、彼女の頭の中で、二年の初め頃に組み上げられた「勉強をしない理由」だ。
間宵シグレは、器用な生徒である。
目の前の物事を果たすのに、今の自分に必要な努力の量と内容。自らの力の及ぶ限界と即席で目標へ届きうる近道の発見。彼女の、それらを見定める目は、かなり正確である。
要領が良い、というのだろう。その為、傍目にみればのらりくらりとした印象を受けるシグレだが、一年の頃はクラスのそこかしこで定期的に話題の中心になる程度には「できる」子であった。
テストを受ければ、クラス最高点から三個下までを、ほぼ確実に死守している。所作は上品で粗を探そうにも、彼女を注視する程むしろ褒める点しか見つからない。他人を惹き込む話術は、軽快で穏やかな語り口調と、彼女自身の経験が裏付ける実感を伴っている。
だが、彼女は自身の立ち位置に拘らない。その胸中を他人に語ることはそうそう無いだろうが、彼女の心はある一人の少女────所謂、幼馴染という存在に比重の大部分を置いていた。
ノドカ。
口の中で、その名を咀嚼する。喉を震わせず、歯と舌だけで発声を形作って。
彼女が一年生の頃、泣く泣く離別せざるを得なかった。追うことの、出来なかった。そして今尚、追い続けている、大切な幼馴染の顔を────。
「...あ」
たった今、窓越しに発見した。 - 12125/01/19(日) 02:35:44
食べかけのシュークリームを手に、恐らく友人であろう見知らぬ生徒と、足並みを揃えている。クリームが口と鼻の間について、白い付け髭の様だ。中々愉快な姿を友人に指摘され、慌てふためきながらそれを拭き取るノドカを見て、シグレは頬を綻ばせる。
良かった、楽しそうだ。純粋に、そんな事を思いながら、頬杖を着いてその姿を遠巻きに目で追う。
クラスが変わり、互いの部活の予定が中々合わない事に加え、最近のシグレは放課後に補習や再試の予定が詰まっている事が多い。それらの事情が相まって、二人はここ暫くまともに顔を合わせられてもいない。
天見ノドカ。シグレの幼馴染で、彼女と同じくトリニティ総合学園の二年生。彼女を一言で表すなら────"問題児"だろうか。
入学したて、一年の春。天体観測を趣味とするノドカだが、トリニティにはそれらしい部活は無い。それならば、と、入学したての一ヶ月目から部活を設立しようと言い出すノドカの行動力には、流石のシグレも目を丸くした。
「...ま、ノドカがやりたいことなら、私は付き合うけど」
そうして作られたのが、ノドカを部長とする「天文部」。シグレも、設立当初から同一の部活にて副部長を担当していた。
天文部という響きの物珍しさからか、あるいは入学したての同学年の子が建てた部活、という一点が強く響いたのか、はたまたその両方か。一年生を中心に、部員はスムーズに集まり、そこそこの規模感の部活へと成長した。 - 13二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 02:41:14
これはよいものだ……
- 14二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 02:54:57
赤冬からの転校か……と思ったらノドカ共々最初からトリニティ入学か
- 15125/01/19(日) 03:06:22
歯車が狂ったのは、それから半年が過ぎた頃。ノドカが「望遠鏡などを使ったストーキング行為の疑い」を受け、ティーパーティーの茶会に呼ばれた日。その席には、副部長であるシグレも同席していた。
ノドカが"問題児"なら、当時のシグレは"優等生"としての位置づけを確固たる物にしている頃だ。代替わり前のティーパーティー・ホストの、強烈な圧迫感を肌で感じながらも、ノドカの弁明とシグレの補助により、なんとかノドカの即時停学処分は避ける事が出来た。
しかし、問題なのはここからである。温情を加味しても、トリニティの生徒として相応しからぬ行為の報告があった以上、お咎めなしとは行かない。一年の"優等生"であり、ホスト自身も目をかけている"間宵シグレ"が隣に居るとしても、だ。
結果、ノドカに下された懲罰は「一ヶ月の部活動謹慎の後、通常通りの活動を許可する」というもの。
即停学、通報の数から悪質であるとして、退学をもちらつかせる腹積もりだったであろう当時のホストにとって、その判断へ導いた最大の功労者であるシグレが、どれほど大きな存在だったかが窺い知れるだろう。
やもすれば、二年後には自身の後釜として、分派の舵取りを任せる為の第一歩────俗な言葉になるが、シグレに恩を売る目的もあったのかもしれない。その真偽は、今となっては分からないが。
────その約束を堂々と破り、更に学寮の規則も同時に破って望遠鏡を室内に持ち込んだノドカと共に、一週間もしない内に同じ呼び出し────前よりも少し、言葉のキツくなった招待状を受け取ったシグレも、流石にしばらく頭を抱えた。 - 16二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 03:12:13
真面目に天文部に参加した他の生徒がかわいそう過ぎる
クーデター起こしても奉仕作業で済む赤冬で停学喰らう所業だから、トリニティでやれば是非もないよね - 17125/01/19(日) 03:19:04
「流石に反省したと思って油断してたけど、甘かったなぁ...」
幼馴染であり、同学園でだれよりもノドカに詳しい事を密かに自負しているシグレは────実際、殆ど事実だが────そう言って、深く自省した。
勿論、迷惑をかけたティーパーティーや、集まった部員達に向けた申し訳なさもある。後者に関しては、その頃になるとシグレの人脈を介して入部してくる子も多く居た為、という部分もあり、余計に。
だが、一番はやはりノドカに対しての思い。
シグレの行動原理は、ノドカのしたい事を自身に可能な限りサポートする事。それは、彼女にとって何よりも優先される事項である。
それ故に────「天文部の解散」という、彼女にとって考えうる限り最悪の結末に導いてしまった現実。
彼女自身の為に出来る事を怠った、自罰的思考。
そして、それ故に────。
『────こんな横暴が、ゆるされますか!?』
「「「わぁあぁあァアア─────ッッッ!!!!」」」
『私達は、決して権威に屈しません!!!』
「「「うおおぉおぉおお────ッッ!!!」」」
『私達は、ティーパーティーの決定に、断固として反対します!!!!』
「「「おぉおおオオオオ─────ッッ!!」」」
時折彼女が見せる、ノドカを衝動的に突き動かす、根底に眠る反骨精神が、次に彼女に何をさせるのか。
強いショックに苛まれた事を言い訳に、それを予期出来なかった自分を、シグレは。トリニティ・スクエアを覆い尽くす程のデモ集団は飛ばす野次の、どれよりも激しく非難した。 - 18125/01/19(日) 03:33:23
シグレたちに一年も後半にさしかかった、秋頃。トリニティ・スクエアで起きた大規模なデモ活動。天文部の廃部が決まってから、二月後の事件。
天文部は、ノドカが知るよりもずっと大規模な部活となっていた。一年の間で噂が噂を呼び、広く顔の知れたシグレを目当てで。あるいは、発足から半年間の、急速な規模の膨らみ方に興味を持った生徒が、兼部を選んで。
各々の理由は兎も角────結果として。天文部の廃部に反対意見を抱く生徒は、ティーパーティーのテラスからでも全容を一望出来ない程に、多かった。
事情も知らない、誰かが、言った。
「ノドカ部長は、納得されているんですか...!?」
先程も示した通り、天文部はもはやノドカ個人で把握出来る域を超えて、大きく成長していた。
それは、実質的に部を取り纏めていたシグレが、廃部の理由を丁寧に説明したとしても、邪推と歪曲に塗れた噂が飛び交う程に。
幼馴染のした事が、大衆に愛されている。シグレにとってこれ程嬉しいことも無いが、それは最悪の形で現実に顕れてしまう。
正義実現委員会所属の全生徒のうち、4割近くを動員した大騒ぎ。怪我人多数、校舎や備品の破壊活動。
頭を取って先導したノドカですら、小さな戦争とすら言える光景を目の当たりに徐々に活気を失い、遂には青い顔で皆に「一旦、止まってください!!」と呼びかけていた。
しかし、それで止まる線は、とっくの昔から遥か後方に。
数ヶ月に渡って続いた事後処理は、シグレの一年の中で最も忙しかった期間だ。数百、千をも越えるかと思われる部員たちを取り纏めていた副部長時代もかなりのものだったが、そんな物とは比較にならない。
各方面への謝罪。ティーパーティーを介した連邦生徒会への協力要請。予算の管理。停学中の部長に代わり、その責任の全てを請け負ったシグレは、各所を走り回り、ノドカの退学処分の延期と白紙化の為に尽力し────そして、二年に入って暫くした頃、遂にその望みは叶う。
新たにティーパーティー・ホスト代理に着任した桐藤ナギサの命。「天見ノドカの『補習授業部』への強制転部」と引き換えに。 - 19125/01/19(日) 03:55:21
※
ただのプロローグの筈だったのにだいぶ長くなっちゃった。埋めや感想、アドバイス等諸々ありがとうございました。>>10 の方、御丁寧に本当にありがとうございます。規制なりやすい時間帯とかあるんですね......メモメモ
勢いで書き始めたばっかりに、まだ裏取りとか原作描写との整合性とかすら怪しい段階ですけど、変なとこ見つけたら「ここ違ぇよ!!!!!!」って宇沢ぐらい大きい声で教えてください。知見が広がる。一応時系列的には今回の回想は原作の一年前のはず。先生居ないからシャーレじゃなくて連邦生徒会で間違ってないよね...?
タイトルでシグレINスイーツ部って堂々と出しておきながら、最初に欠片だけ出してノドカの天文部の話だけつらつら書いて寝るの、かなりギルティな気がするんですけど...ちょっと紅茶バフが解けて眠気に脇腹を殴られはじめてるので寝ます、すみません
中途の感想には全部目通して大喜びでハートつけて執筆のモチベにするので、どしどしじゃんじゃん送っちゃってください。それから、一応スレタイの概念の趣旨に大体沿っていれば好きに投げつけ合って貰っても全然大丈夫です! >>14 で仰られてるみたいな転学パターンも、自分も考えたし見てみたいので。皆さんの解釈も欲しい!
結局は好きなキャラ同士を絡めたい、って自己満足なんですけど、それでも沢山賑わってくれたらとっても嬉しいので、ぜひぜひ遠慮なさらず。次スレ!!とかもやってみたいので!!
長々と失礼しました、いつまで続くか、どんな話に落ち着くのか、まだ実際なんにも決まってませんが、拙作をこれからどうぞ宜しくお願いします
- 20二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 04:06:45
つ…続きを…!
- 21二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 09:54:33
補習授業部という集合は、他の部活動とは毛色が大きく異なる。「落第に匹敵する程の成績不振者」を集め、顧問兼講師として、今年度から新たに着任したシャーレの「先生」を据え、部活に所属する生徒達の成績向上を図る。つまりは落ちこぼれに対する救済であり、最終防衛ラインである、という訳だ。
そして、補習授業部は自らの意思で入退部することが出来ない。赤点常習で進級も危ういような生徒が編入される場所なのだから、当たり前と言えば当たり前。尤も、明確な基準が定められている訳では無いのだが。
つまり何が言いたいか?
シグレは、ノドカと同じ部活に入れない、ということだ。
百歩譲って学籍を残せていれば如何様にもやり直せるだろうと高を括って、血の滲む思いでそこら中を駆け回っていたシグレ。その努力がティーパーティーに認められ、ノドカの懲罰は緩和される事となった。
故に。"優等生"間宵シグレの件は、丁寧に今期のティーパーティーにも引き継ぎをされていた。同学年に、"一年の時点で三年までのテスト、全科目オール満点"などという漫画みたいな噂が飛び交う生徒も居たのだが────そちらには、丁重に辞退された。ナギサから、第二候補として名を挙げられたシグレは、そんな事は置いておいて、と前置きをした上で尋ねる。
「私も、補習授業部入れたりしない、よね...?」
繰り返すようだが、間宵シグレの行動原理は「ノドカのしたい事を可能な限りサポートする事」である。その為には、出来る限り手の届く、近くに着いて回る必要がある。
が、ここに来て出現した新たな壁を、シグレは超えることができなかった。
成績不振者用の部活に"優等生"を加入させる必要は無い。ナギサからの返答はその一点張りだった。ちょっと、強情すぎるくらいに。
それをノドカに頼まれた訳では無い。ただ、シグレが自分の意思でしたいと考えるのが、ノドカの後を追い、背中に手を添える事である、と言うだけで。
それ故に誕生したのが、補習授業部への入部を果たす為。ノドカの背中を追いかける為。
やる気がなかろうと、少しやれば等しく取れる点数を────「やる気が無いから」と懇切丁寧な言い訳を挟んで自ら放り投げる。"優等生"の見る影もない、新二年生。
今に至る、もう少し前の、間宵シグレである。 - 22二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 10:28:09
部活動に所属していない放課後ってこんなに暇なのか、と。正門を出て、暫く真っ直ぐ行った先。アイスクリームショップの向かいの柵に背を預け、スマホ画面を見つめるシグレ。
画面にはモモトーク。名前欄に「ノドカ」と表示されたトーク画面。彼女からシグレの下に、つい先程送られてきたのは、大人の男性の写真。どう見てもハイチーズで撮ったものには見えない、盗撮に近い画角。
懲りないな、と吐息を漏らす。同時に、意外と楽しめているようで少し安心もする。落ちこぼれクラスというから心配していたシグレだったが、文面から伝わる雰囲気にそれが杞憂であったと悟る。意外にも周囲の環境が良いのか、先の盗撮の被害者────シャーレの「先生」が、良い仕事をしているのか。
「...アイスでも買って、帰ろ」
喋る相手が居ないと口寂しさが拭えない。そんな理由で、意図もなくつぶやき。同じ理由で、正面のアイスクリームショップに目を向ける。
『もうちょっと掛かるから、先に帰っててもいいよ、ごめんね!』
『すまほみてるのばへあ』
届いたメッセージにひとつ、スタンプを返して。いつもの帰り際、ノドカの後ろにぼんやりとその看板の色合いだけを捉えていたアイスクリームショップ。店名すらまともに認識していなかったシグレは、気紛れに店の門を潜った。
店内はかなり混雑している様子。注文までの列は長く、受け取りの待機列もまた長い。うげ、と顔を顰めつつ、急ぐ理由もないからと、壁に掛けられたフレーバーやトッピングの表を眺めていた時だった。
「...ねえ、あんた、この店初めて?」
「わ、」
"右下"から、声がした。
下だ。床の方から。手乗りサイズの妖精でも話しかけてきたか。そんな錯覚と、視界の端にも映らなかった声の主に驚き、しっぽと耳をぴんと立てて小さく飛び退くシグレ。
「......なんでそんな驚いてんのよ。ちょっと声かけただけじゃない」
シグレが下を向くと、むす、っと頬を膨らませた女の子が視界に入る。なんで、と言葉を重ねてはいるが、不機嫌そうな顔を見るに、驚く相手の心中は大方察しているようだ。
ふっくらとした金髪をツインテールに束ねた、女の子。少しオーバーサイズに見える赤いパーカー。
シグレも背が高い方ではない。それ故に、余計に"そう"見える。
「ちっちゃいね。一年生?」
「はっきり言うなぁ!!」 - 23二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 10:30:32
わらた
- 24二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 12:41:58
クーデターとまでは言わないけど暴動が発生するやらかし、ナツ辺りはロックだとはしゃぎそう
頑なにシグレの補習授業部入りが固辞された辺り、エデン条約編の裏切者候補を入れる補習授業部になるのかね
ノドカとは別にわざわざ怠惰の理由を用意する生真面目さいいよね… - 25125/01/19(日) 19:43:46
※
ちょっと更新遅れます...今日中には書き始めるつもりなので
しばらくセイア実装の喜びを噛み締めます。ホントに叫びすぎて喉潰しました - 26二次元好きの匿名さん25/01/19(日) 20:16:28
- 27125/01/19(日) 23:31:28
ぷりぷりと怒る姿は残念ながら、あんまりにも怖くない。小動物の威嚇を見ているようで、ほっこりと和んだ表情をしているシグレに、金髪の女の子が再び噴火する。
「何よその顔っ!?私の事舐めてるでしょ!」
「ん~ん?これからアイス舐めようとしてたとこなんだけど」
のらりくらりと受け流す物腰に、甲高い声が真正面からぶつかってくる。打てば響く、という言葉が相応しいリアクションに、シグレは満足げな微笑みを浮かべながら、冗談めかした返事を繰り返した。多少上半身を前倒しに、下へ伸ばした腕。小さな拳を握り手首を外側に曲げた、いかにもといった可愛らしい怒りの様相。からかい甲斐がある、という一点ではノドカに似通った部分がある少女だ。
暫くの間、元気な仔犬の様な声音による、精一杯の罵倒らしき語彙の応酬を受け流していると、一区切りついた所で「ん゛んっ」と咳払いを挟み、ポケットに手を突っ込んで仕切り直した。
「…そんなことはいいの。この店、見ての通り結構混むんだから。そんなとこで呑気にフレーバー選んでないで、先に並んだ方が良いわよ。カウンターの上にもおんなじの提げられてるの、見えるでしょ?」
────?
「今はまだマシだけど、ここからどっと人が流れ込んでくる位の時間帯よ。結構トッピングが凝ってる分、ひとつひとつに時間がかかるし、…ほら、向こう見れば分かると思うけど、複数人で来てる子も多いの。見た目以上に時間かかるから。ぼさぼさしてると、ね」
…ぽかん。
シグレの肩越しに細い指が示す先には、イートインスペースがある。どの椅子にも大体鞄などの席取り済みである事を示す影があり、複数の生徒たちが机を囲んで、豪華な風貌のアイスを食しながら談笑している姿。しかし、シグレはその先に目線を向けなかった。
少しの間、呆けた顔で金髪の少女を見つめる。警戒する様に目を細め、「…なによ」とでも言いたげに睨む顔を、ぼうっと。
そういえば、話しかけられたのはこちら側だった。と、少し遅れて思い出すシグレ。至って普通の事なのだが、顎を引いて目線で顔を注視されると、可愛らしい顔に上目遣いの要素が加わって、それがシグレの庇護欲をそそる────と、違う違う。我を取り戻す様に、顔を左右に振って。先の金髪の少女のように、咳払いを挟む。
「それ教えるために、────わざわざ列から、抜けてきたの?」 - 28125/01/19(日) 23:35:24
カマかけとは違う。シグレが店内に入ってから来客を示す入口のドアベルは一度も鳴っていなかった筈。少女が話しかけてきたのはイートインスペースとは反対側。そして、視界の端。遠慮がちに、一人分程度開いた空白を詰める列の生徒の姿。確証はないが、十分に推測し得る範囲だ。
「…そうよ。あんた、こういうとこ来るの初めてでしょ?」
詳しいのだろう。おそらくはこの店に限った話ではなく。
つらつらと言葉を並べ、理由と共に「早く並ぶべき」である理由を説明した彼女。きっとシグレが一人で来店した所から見ていたのだろう。それは偶然目に入っただけだったかもしれないが、その後のシグレの行動が、金髪の少女の意識を惹いた。
何をのんびり吟味なんかしているのか。運よく人が来ないから良い物を。
そうやって痺れを切らし、初心者と判断したからといって、今が混み合う時間帯である事と理由まで伝え、早く並ぶように促す理由にはならない。自分が並んでいた列から抜けて。時間がかかると、自分で分かっているのに。
「そうだね、恥ずかしながら。一年の頃は、結構暇しない生活だったからさ」
「てことは、やっぱり年上?ホントにアイス屋初めてなんだ。一緒に来る友達とか…居ないの?」
優しいのだろう。やもすれば分け隔てなく。
態度はつんけんとしていて、愛嬌のある顔だが目つきも少し鋭い所がある。しかし、それと心根の色は全く別の話だ。人を見た目で判断してはいけない、なんて、小学校で学ぶような世の中の常識を、シグレは今更、こんな場で復習させられた。
文面で見ても分からないかもしれないが、その言葉には紛れもない純粋な心配が込められている。「友達とかいないの?」なんて絵に描いた様な煽り文句だが。声調。表情。仕草。持ちうるすべてで、誤読の余地を踏み消していく。
今更になってシグレは、初対面の癖に軽い気持ちで揶揄った自分を、少し省みた。
「二年生だよ。居ないことは無いけど、去年は行く暇がなかった、みたいな感じ」
言葉を聞くと、ふぅ。と安心したように吐息を漏らす少女。平静を装ってさらりと口に出しておきながら、心中は穏やかではなかったらしいと、察する。友人関係に悩みを抱える事なんてありふれている。思い切り相手の地雷を踏みぬかないよう、慎重に探りをかけようとした。
「じゃあ、今は暇なのね。…部活とか?」
ぴくり。丸い耳が揺れる。 - 29125/01/20(月) 00:00:56
「…今は、帰宅部だよ」
入りたい部は、あるんだけどね。そう言いかけて、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。「なら入ればいい」と言われて、事情を説明する事になっても困るとの判断だ。この新一年生はシグレの顔をまだ知らないし、入学前の暴動事件の主犯格の補佐をしていた存在、と聞けば立派な大悪党。第一印象がそれで上書きされてしまうのは、シグレも嫌だった。避けるであろう先を見越して設置された小さな地雷。踏み抜かれ、爆ぜたそれを、胸中に覆い隠そうとした。彼女の気遣いに免じて、こんな性格の悪いトラップに心を痛めさせるわけには行かない。────跳ねた石の破片にまでは、気が回らなかったようだが。
「…そう」
思案顔で、ポケットから手を抜く。握ったスマホに目線を落とし、柔らかい指が硬い画面を叩く音が鳴る。それが止まって数秒、列がひとつ進んだ。
「…ねえ」
金髪の少女がシグレに声をかける。
「やる事無いなら、うちの部活、来てみない?」
あの日食べたアイスの味を、思い出しながら。頬杖をついたまま目を瞑った間宵シグレは、そういえば、と思い返す。
「…あのお店の名前、確か────」
当時は考えもしなかった、偶然。事実は小説よりも奇なり、という奴か。くす、と頬を綻ばせ、口角を持ち上げた、その時。
「────おまたせ、シグレ。いい仕事するね、お手柄じゃん」
金髪の少女────ヨシミが、繋げてくれた縁。片目を空けたシグレの視界に、すっかり日々に馴染みつつある、友人の姿が映る。
「遅いじゃんか。ドリンク一杯で粘らせるにしてはさ。...授業お疲れ、────カズサ」
プロローグ:【店名、『New Encounter』】 ▶▶▶▶▶ 第一話:【放課後スイーツ・勉強会】 - 30二次元好きの匿名さん25/01/20(月) 00:09:56
ヨシミが切っ掛け、優しいねヨシミ……
- 31125/01/20(月) 00:17:00
※
プロローグおしまいです。最後の方行間調整ミスっちゃった
ヨシミとカズサがちょっと出てきただけやんけ!7割ぐらいただのシグノドやんけ!!って抗議したい人もいるかと思いますが、ここからスイーツ部+シグレの日常をブン回しますので挙げた拳を一先ず降ろしてお楽しみに
最後の店名ネタやりたいがためにタイトル付けてみました。好評だったら続けるし、不評だったら静かになかったことにします。大体の流れだけ決めてライブ感で書いてるので断言はできないですけど、これぐらいのボリュームのを三、四話書けたらいいかなって思います。ただ今週はちょっと忙しいのと、色々調べ直さないとな...って感じなので、ちょっと間空けつつになる、かも。一日に2、3レスぐらい挙げれたら上出来かな...ノったらいっぱい進めるけど...
書きてぇ物がある皆さん!!今がチャンスです!!私も読みたい!!皆さんのシグレが欲しい!!
ということで、第一話開始までにたくさんのシグレが私を出迎えてくれることを願って、明日無事セイアちゃんが来てくれることを願って。おやすみなさい - 32二次元好きの匿名さん25/01/20(月) 00:52:51
シグレに興味はあるけど逆に言えばキャラを掴んでないんだよね
代わりに1のガチャ運が上向くように祈っておくよ - 33二次元好きの匿名さん25/01/20(月) 00:59:36
これを終わらせるだなんてとんでもない
是非続きを観覧したい - 34二次元好きの匿名さん25/01/20(月) 01:10:23
思わぬ組み合わせの綺麗な物語がていねいな文章で綴られる幸福……
続きも楽しみにしておりやす - 35二次元好きの匿名さん25/01/20(月) 11:04:42
ほしゅ
- 36二次元好きの匿名さん25/01/20(月) 22:16:33
ほしゅ
- 37125/01/20(月) 22:19:32
※
セルフ保守です。無事、軽傷でお迎え出来ました。ちょっと今日は推しを堪能しつつやる事片づけます。お待ちいただいてる方には申し訳ないですが、今回ばかりは...
明日の夕方頃まで残っていれば、ゆっくり書き始めますので、ご理解の程よろしくお願い致します - 38125/01/20(月) 22:20:35
被っちゃった!!!すみませんありがとうございます!!!
- 39二次元好きの匿名さん25/01/21(火) 08:02:42
そのうちスイーツ部で温泉行くのか気になるな
- 40二次元好きの匿名さん25/01/21(火) 19:31:44
保守なのら
- 41125/01/21(火) 22:38:59
「こんにちは、シグレちゃんっ。席取っててくれて、ありがとうございます!」
カズサの後ろから少し遅れて入店してきたのは、栗村アイリ。セミロングの髪と、それを軽く束ねる青色のアイスを模した髪留めが静かに揺れる。カズサと比べて額に汗が滲み、少々息を切らしているのが気になる所。ハンカチを額に当てながら、シグレに向けて頭を下げた。
「…あれ、他二人は?」
「あー、授業終わったのは一緒だったんだけどさ」
シグレの問いかけに、彼女の向かい側の椅子に腰を下ろしながら答えるカズサ。椅子の背もたれに鞄と銃の肩紐を預け、隣の椅子を引いてアイリが座れるように導線を確保しながら言葉を続ける。
「一番到着が遅かったヤツが注文担当ね、って、走って来た」
少し、得意げに。席に着いたカズサは席に着いたアイリの手を握って、肩の上あたりに持ち上げ、シグレに向けてにんまりと笑顔を浮かべる。照れくさそうに笑うアイリの姿と一緒に視界に収め、シグレは僅かに目を細めてほほ笑んだ。
────手間や時間をかけてでも、席を取っておいた甲斐がある。
「放課後スイーツ部」。
ヨシミの提案で仮入部したシグレが、半ば勢いのまま入部し、現在まで所属し続けている部活。活動内容が「放課後にスイーツを食べること」という、字面からも読み取れるゆるさに、逆に惹かれた────と、シグレは言う。
メンバーはシグレを除くと四人。一年生が創立した部活、という点だけはノドカの一件を想起させる。だが、スイーツ部にいわゆる”部長”という肩書の生徒は居ない。創立者はアイリだが、当人が部内の上下関係を好ましく思わないからと、わざと部長という座を作らなかったのだと、シグレも聞かされている。
シグレの知る部活は、「天文部」が他の部活動との交流を行っていなかったため、それと合わせて言わずと知れた「正義実現委員会」と、生徒会組織である「ティーパーティー」くらいの物だ。どれも規模感が大きく、「組織」と言っても差し支えないという共通点がある。
その為、「部活」とは名ばかりで、「同好会」の側面が強いスイーツ部の雰囲気は、彼女にとってかなり新鮮だっただろう。 - 42二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 00:12:52
「それにしても、良いとこ取ったね。窓際で、陽当たりも眺めも良いし。どうやったの?」
「んー。…授業すっぽかして、人が居ない間を狙ってみた…とか?」
瞬間。窓の外を眺めていたカズサとアイリ。二人の顔が凍り付き、錆び付いた機械の可動部の様にぎぎぎ…と、揃って首をゆっくりシグレの方へ向ける。
真顔、驚きを一つまみ。といった表情が、二つ。長い無言に耐えかねたシグレが、両手を持ち上げながら、控えめに、絞り出すように声を出す。
「…あー、二人とも…?」
呼びかけを聞いたカズサが、机に肘をついて俯き、頭を抱える様な姿勢で深いため息をつく。アイリも目を閉じ、口をへの字に曲げて、いたたまれない表情を浮かべている。
「アンタさあ…この集まりが何目的か、覚えてる…?」
丸い目をぱちくり。その後、少しわざとらしく額に指を当て、右上に視線を当て、考える素振りを見せたシグレは────
「…限定スイーツの、大食いチャレンジだっけ」
「『勉強会』でしょ!!九割方アンタの為のっ!!」
カズサの鋭い突っ込みを受け、丸い耳を力無く、へなりと寝かせるのだった。 - 43二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 00:15:09
「ほんとに名前のまんまなんだね。放課後スイーツ部」
時は再び遡り、シグレの体験入部の日。部室は食べ終わったお菓子やスイーツの袋と、クリームやチョコレートの汚れと食べかすが残った紙製の食器。そして、甘ったるい残り香で満ち満ちている。
ヨシミに連れられるがままに道すがら軽く話を聞きながら、アイスを齧りながら部室を訪れたシグレは、見た事も無い様な種類と量のお菓子とスイーツとに囲まれ、文字通り「お菓子パーティ」と言うにふさわしい大歓迎を受けていた。
そして、満腹感と甘みの暴力に包まれ、山の様にあったお菓子も粗方無くなり、体験入部の“活動“が終わりに差し掛かる頃、ぽつりとシグレが呟いた。
「何だと思ってたのよ、説明したじゃない」
細い棒状のお菓子を咥えたまま、ヨシミが言葉を返す。
「いやあ、もっとこう。評論とか、創作とかさ。部活って言ったら、そう言う事をするのかな~って」
「そういうのを期待されてたなら残念だけど、うちは食べる専門なんだよね。…気に入らなかった?」
そう返したカズサが、マカロンを唇に挟む。
「私はどちらかと言えば、創作畑の人間だけど…いや。身構えてたから、拍子抜け…っていうか。気楽に参加できそうで、好印象かも?」
「善し悪し、優劣、価値。それらを論ずるという事の難しさは、並大抵ではない」
シグレが振り向くと、桃のサイドテールを揺らし、皿に乗った食べかけのショートケーキを宙に掲げながら、窓際で黄昏る一人の少女。────柚鳥ナツが、居た。
「食す側だけでなく、創る側。いちからお菓子を生み出す、創作者としての観点が無ければ、その批評はただの無知蒙昧の妄言へと成り果てる事もあるだろう」
ほほう。顎に手を当て、眉を寄せて話を聞くシグレ。それに対してアイリを除く二人は、また始まったとばかりに気怠げに、背もたれに体重を預けて各々手に持ったお菓子を口に放り込んで塞ぐ。アイリもそれを見て、困り眉で「あはは…」と笑顔を浮かべている。
「故に、君のその勘違いも理解できる。私は許容しよう。だが、我々が追及するのは物事の善し悪しではない。────楽しみ。友人と共に過ごす、何気ない青春の一ページ。そう、それすなわち────」
「────ロマンだよ」 - 44125/01/22(水) 00:16:16
「ナツ。一応言っておくけどシグレ、先輩だからね?」
「承知の上。しかし、スイーツを究める道においては、我々の方が先達であるとも────」
「ごめんシグレ。こいついつもこんな感じだから、気にしないのが吉ね」
※
時系列が前後しすぎて分かりづらいかもですね、ごめんなさい...。 - 45二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 01:33:55
ナツの『ロマン』を再現できるのすごい
- 46二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 10:04:46
あぶない、保守
- 47125/01/22(水) 10:54:03
「…ふふっ」
「「?」」
思わず、シグレの口から漏れ出す笑い声。それに、ナツとカズサが顔を見合わせて呆ける。
シグレは、目下の目標を「補習授業部に入る事」としている。無論、ノドカのそばに居続けたいという思いからだ。それが揺らぐことは、無い。と、断言しても良い。
だが、その為に。自分のひとつの理想の為に────その他の全てを、切り捨てる必要は無いのではないか、とも思う所があるのも、事実だ。
和やかな雰囲気。山ほどのお菓子と共に、自然体のまま、自身を歓迎してくれる四人。慌ただしい一年間を過重労働も良い所のハイペースで駆け抜けたシグレは、ここで初めて、明確に「一度、腰を下ろした」という実感を得た。
二年に入ってから勉強はせず、成績は落ちる一方。落第に瀕する、というレベルに至るのは並大抵の事ではないが、明確に学力は低下の一途を辿っている。要領の良いシグレといえど、一朝一夕で取り戻す事は流石に厳しいほどの、差。このまま行けば、例え部活に新しく加入したとしても、強制転部の措置を受けるのはそう遠い話ではない…と、シグレは考える。
ならば、ノドカには悪いが────ほんの少しの安らぎを、この四人に求める事くらいは許されるだろうか。
少し、間を空けて、シグレが口を開く。
「うん。入るよ、部活。今、決めた」
そして、シグレがスイーツ部への入部を決めてから、数日後。
「…あの、カズサ、ヨシミ…」
「「ちょっと黙って」」「て」「なさい」
部室の入口、ドア前に正座させられたシグレ。その真正面で、シグレの鞄の中を漁る二人組は、何やら緊迫感を感じさせる表情で、ぐしゃぐしゃになったA4サイズの紙を何枚も引っ張り出している。 - 48125/01/22(水) 12:06:47
「これも、…これもね。カズサ、そっち置いて」
「…うん。これは、ひどいわ」
山の様に積み重なった、ぐしゃぐしゃの答案用紙。
数十枚はあるその紙束の、どれにも等しく書かれている、数字。
赤いペンで、二重線の上に書かれたそれが、────二桁に達している物は、全体の三割も無い。
「…アンタ、成績悪すぎじゃない!?」
「…7点、5点、8点…。あ、これは12点だ…」
「何が恐ろしいかと言えば、この殆ど全てが100点満点のテストである、という事だね…」
信じられない物を見るような顔で、重ねられた答案用紙の一枚一枚を捲って行くアイリ。その平均点が余りにも低いがために、全体の1割と少ししか点数を取れていない物ですら、その桁が変わる事を理由に、珍しい物の様に声を漏らしてしまう。…これにはさすがのナツも引き気味である。
「いやあ、…あはは、恥ずかしいね、なんか」
「恥ずかしいどころじゃないでしょこんなの。アンタ去年どうやって進級したのよ…」
椅子に腰かけ、足を組み、威圧的にシグレを見下ろすヨシミ。…普段見下ろす事など滅多にないから、ここぞとばかりに。そう零したナツは、既に彼女の怒りを買って、頭にたんこぶを作った後だ。
「すごい、24点のを見つけたよ、ナツちゃん!」
「おお、ほんとだ。過去最高点だね。でも赤点だよ、アイリ」
「ほら、うちのアイリの価値観が歪んじゃったじゃん。どうしてくれんの、シグレ」
「それは私に言われてもなぁ。教育に悪いから、見ない方が良いんじゃ…?」
きっ、と黒猫の鋭い目つきで睨まれ、縮み上がるシグレ。 - 49125/01/22(水) 12:33:08
バレた。状況説明はその三文字で十分だろう。部室に置いていた鞄から答案用紙がはみ出ていた。理由も、本人の不注意によるもの。それは反省するとして、だ。シグレにとって問題なのは、ここからである。
どう説明するか。単純に頭が悪い事に起因する成績不振、と言い訳して、心配をかける訳にもいかない。────一年の頃の自分を知る誰かと接触した場合、すぐにバレる嘘は、吐きたくない。それは、問題を先延ばしにするだけだ。良い事は一つも無い。
かといって、「成績不振者が集う部活動に転部させてもらう為に、頑張って成績を落としています」なんて言えるわけがない。自分でも何を言っているか分からないし────規模の大小に違いはあれど、真剣に部活に向き合っている彼女たちを愚弄する発言は、すべきではない、とシグレは考える。否、したくない。これは天文部での経験から、という部分が大きいだろう。
ここにきて彼女は、再び、自身の行動の軽率さを反省した。そもそもの目的が他の部活に向いているのだから、入部すべきではなかったのかもしれない。だが────。
『それでも、なんとか言い訳するしかないか』
心の中で、そうつぶやく。事ここに至ってしまったのだから、なんとか乗り切らなければ。そう思って、無いふりをしている頭をフル回転させようとした、その時。
「────…どうする?週三とかにしとく?」
「う~ん…私は、週に四回ぐらいでも、良いと思うけど」
「普段より活動量が増えそうだけど、皆は平気?」
「アイリが言うなら週四。決まりでしょ」
────?
「何の、話?」 - 50125/01/22(水) 18:38:35
「はぁ?決まってんでしょ、『勉強会』よ」
「────」
当然の様に、ヨシミが言う。
「よくやるんだよね。部員の誰かの、テストの結果が良くなかった時に」
にこにこと笑顔で、アイリが言う。
「本当なら、勉強会の主役が奢ったりもするんだけどね。入部したてだし、今回は勘弁してあげる」
シグレの肩をとん、と叩きながら、カズサが言う
「結託し、困難に立ち向かう青き友情。甘味に満ちた机の上で、次なる刺客への対抗案を練り、罫線の上に筆を走らせ────来たる試験を、皆で乗り越える。これぞ、ロマン」
髪を手で払い、気取りながらナツが、言う。
呆然と。口を空けたまま、視界に収めた四人の顔をぼんやり見つめるシグレ。その顔を見るのが四人の中で唯一、二度目である為か、ヨシミが頬を膨らませて「…ぷっ」と吹き出した。
「…な、なんで?」
喉から絞り出すかのように声を出したシグレに、同じく疑問符を浮かべたカズサが、首を傾げながら答えを返す。さも、当たり前の事を。周知の事実を。何をいまさら、と半分呆れたように。
「なんで、って、────アンタももう、スイーツ部の一員でしょ」 - 51125/01/22(水) 18:41:39
- 52二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 19:36:53
きれいで引き込まれる文章が書けるだけでなく絵もうまいとか最強過ぎない?
シグレへの強い愛を感じる…! - 53二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 20:41:35
かわいい
文章だけでスイーツ部の空気感表現できるの才能だな - 54125/01/22(水) 22:48:37
「────冗談。冗談だってば、ちゃんと授業行ったって。こないだカズサが教えてくれた近道を走ったら、丁度人が少ない時間帯に来られただけ。ほんとだから、その顔やめて二人とも…」
じっとり、双方向から鋭い目線を突きつけられるシグレは、両手を挙げて投降の姿勢を見せる。
週に3~4回。放課後の活動時、だいたい二時間弱。期間は次回の定期試験まで。場所の確保はローテーションで、上手く行かないようなら部室に集合。すっかり定例となった放課後スイーツ勉強会も、今回で九回目。
シグレが席を取っていたのは、SNSで話題沸騰中のスイーツカフェ。期間限定のカスタードパンケーキが絶品、との噂が流れていた物である。
「────あーっもう!やっぱりカズサ達もう着いてるじゃない!アンタのせいだからね、ナツ!」
「大局的に物を見る事も大事だよ、ヨシミ。今回の賭けは我々の負けのようだが、先の寄り道が我々に利を与える可能性も無限にある。何故なら、未来は誰の目にも観測できな、あだだだだだ、ヨシミ、痛い痛い」
カズサとアイリがシグレに詰め寄る丁度その時、コンビニ袋を手にぶら下げたナツと、肩で息をするヨシミが声を上げる。相も変わらず芝居がかった口調で語ろうとするナツのサイドテールを引っ掴み、財布だけを取り出して空いた席に鞄を放った。
…コンビニに寄っていたのだろうか。ナツ。
「ほら、並んでくるから。三人は注文、モモトークで送っといて!」
「…じゃあ、私達は準備だけ、整えておこっか」
竜巻の様に騒がしく、長い列の最後尾へと向かっていく二人の背を見送りながら、アイリが口を開く。カズサもシグレも頷いて同意し、各々の鞄から教科書やノートを引っ張り出し始めた。
────…。 - 55125/01/22(水) 23:00:30
「わっかんな」
「まだページ捲って2秒も経ってないよ、シグレ」
勉強会が始まってもう何度目かのやりとり。問題文を見た途端に投げ出そうとするシグレと、飽きもせず突っ込みを入れるナツが隣に並ぶ。二人の対岸、窓際にカズサ。隣にアイリ、ヨシミの順で並んで座る。ドリンクを飲み、偶にスイーツにも手を伸ばしつつ、各々の勉強を進めている。
無事に五人分買う事の出来たカスタードパンケーキ。ふっくらと分厚いパンケーキに、これでもかとかけられたカスタードの黄色が目立つ。薔薇を模った白桃のコンポートがクリームに包まれて置かれ、周囲にはハイビスカスティーにアセロラやピーチシロップがブレンドされたジュレが散りばめられている。
「…ナツせんせ~…、この辺、分かる?」
「任せたまえ、シグレく~ん。って言いたいところだけど、二年生の範囲だよね。過度な期待は禁物で~」
そう言いながら、シグレが寄せた教科書を、覗き込む形で身を乗り出すナツ。
「うわ、ど忘れした…アイリ、ここの公式、どっちだっけ」
「どれどれ、んー、と…前のと一緒、だと思う!」
頭を抱える様にして悔し気な表情を浮かべるカズサに、隣から顔を覗かせたアイリが指を指しながらアドバイス。
「よっし、一旦休憩…パンケーキ食べちゃお」
一区切りがついたのか、両手の指を組み、手のひらを上に向けて大きく伸びをしたのち、ナイフとフォークを手に取るヨシミ。
勉強会、とは言っても、本当に“会”って“勉強”をしているだけ。分からないことは都度相談し合いながらも、これといったルールも無く、スイーツを食べながらの勉強。
普段の彼女らの部活動と、大差ない緩さのまま、時間がゆっくりと流れていく。 - 56二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 00:41:37
放課後スイーツ部の(キヴォトスでは逆に珍しい)ありふれた女子高生のグループ感があっていい……
頭であれこれ考えちゃうシグレと一人称視点が合ってますねえ - 57二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 07:53:57
すいーつさしいれ
- 58二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 09:10:13
解像度高くてすごい…
いつかこんな文章かけるようになりたい - 59125/01/23(木) 15:35:13
シグレは、悩んでいた。初めに四人に『勉強会』の事を持ち掛けられた時から、今尚ずっとひとつの悩みを抱えている。
「────私は、どうしたいんだろう」
放課後スイーツ部に加入したのは、言ってしまえば気まぐれだ。小規模の部活。緩い活動内容。和やかな雰囲気。人の好い部員たち。天文部とは真逆の環境に身を置いて、心身を休めたかっただけ。勿論、それを口に出したりはしない。
ノドカを追って補習授業部に入りたいのは、本心からだ。彼女の隣に在る事。存在理由とまでは言わないにしても、その居場所を求める感情は、彼女の心の大部分を占めている。
「ノドカの隣に居るのは、別に私でなくとも構わない。彼女には私が必要だなんて、驕った考えは持っていない」
でも。そう語るシグレにとっては、彼女は欠かす事の出来ない存在である。
遠く、遠く。彼女たちが生まれ落ちた、北の果て。猛吹雪が吹き荒れる山の奥。連邦生徒会によってその身柄を保護されるまでの数年を、過酷な環境下で共に過ごし、共に生き延びた、“幼馴染”の二人。
凍えるような寒さも。朽ち果てるような空腹も。恐ろしい獣の唸り声も。
霧が晴れ、雪が止み、晴れ渡る深夜。頭上に浮かぶ満天の星空の下へ。震えて眠っていた私を起こし、手を引いて連れ出してくれた、あの少女。
あの日、彼女が見せてくれたあの景色が、瞼の裏に焼き付いて。彼女がかけてくれたあの言葉が、幾度となく脳裏から鼓膜を震わせて。
「あれがあったから、今の私が居る。────君が居たから、私はあれを“思い出“と呼べる」 - 60125/01/23(木) 15:48:03
シグレは、楽しんでいた。
停学処分が解け、補習授業部に入る直前のノドカと、数カ月ぶりに下校したあの時間を。天文部が起こした暴動の後処理の為、キヴォトス中を走り回っていたあの時間を。大きくなっていく天文部を、望遠鏡を覗くノドカの隣で、ひぃひぃ言いながら取り纏めていたあの時間を。天文部を興そう、と手を引くノドカに、着いて行ったあの時間を。
トリニティへの入学が決まり、ノドカと一緒に制服に袖を通し、登校したあの時間を。凍り付いてしまうかのような極寒の地で、薄い毛布を共有し、細い体を寄り合わせながら、朝など永劫来ないのではと錯覚するほどに長い夜を、二人で乗り切ったあの時間を。
寒いのも、辛いのも、楽しみなのも、驚いたのも、苦しいのも、疲れるのも、楽しいのも────全て、ノドカが居たから得る事が出来た、シグレの思い出。
「君が居ない人生なんて、私には想像が付かないよ」
場所なんて、どこだっていい。内容なんて、どうだっていい。ただ、大切な人と美味しい飲み物があれば、変わらない日々はその先にある。
だからこそ。彼女の思考は、初めの一言に立ち戻る。
「────私は、どう、したいんだろう」
放課後スイーツ部。シグレからしてみれば、小規模どころの騒ぎではない。部活というよりも、ただの「仲良しグループ」、という印象ですらある。その中に、招き入れられるままに腰を下ろして。そうして、流されるままに勉強会にも参加して。
その行為は、ノドカの後を追う、という彼女の望みから、遠ざかる物で。
『────アンタももう、スイーツ部の一員でしょ』 - 61125/01/23(木) 15:54:13
カズサの声。頭から離れない、言葉。
後から入って来たシグレを快く迎え入れ、彼女の為に手間をかける一つ下の女の子たち。
その気持ちを。その思いを。その行動を、裏切っていい物だろうか?
悩むシグレには、言い訳が思いつかない。「彼女たちの厚意を無下にして、勉強会も手を抜いて、あたかも努力もむなしく落第に差し迫ったかわいそうな生徒を演じる」事を、正当化する為の理由が、思いつかない。そんなものは、ない。
「────私、は────────?」
間宵シグレは、ずっと、ずっと、迷っている。
「…シグレー?」
シグレの筆が止まって、十秒と少し。茫然自失とした様子のシグレを見かねてか、対面に座っていたカズサがおずおずと声を掛ける。 - 62125/01/23(木) 16:13:18
「っ」
体を震わせ、前を向く。夕日に照らされて桃みがかった、少し心配そうなカズサの顔が、シグレの目に届いた。
「そろそろ我々は退散の時間だ。片づけるとこだけど…平気?お腹壊した?」
左隣のナツが、中途で芝居がかった口調を止め、心配の言の葉を紡いだ。彼女を視界に入れると、自ずとヨシミとアイリの姿も視界に入る。二人はきょとんとした顔で、カズサを。あるいはナツを、見つめている。シグレの異変には気付いていなかったようだ。
「…あぁ、うん。勉強し過ぎて、糖分不足かも」
「さっきみんなで糖分の塊みたいなパンケーキ食べたばっかりじゃない!」
頭を整理しながら軽口を漏らすと、ヨシミから小気味いい突っ込みが帰ってくる。うん、大丈夫だ。脳内で呟くシグレ。自分の中で念を押して確認する様に、「放課後スイーツ部の間宵シグレ」を思い出す。
「…ほんとだ、もうこんな時間か」
改めて、窓の外を眺める。夕日を覆い隠そうとする建物が、影の漆黒に染まって、その輪郭だけが映し出されるトリニティの街並み。
シグレの目に映るその景色に、昼間見たノドカの姿が重なって見えて。
それが、嫌に物寂しくて────。 - 63125/01/23(木) 16:20:38
「ねぇ、みんな」
帰り道。二列に並ぶスイーツ部の五人。前にカズサとアイリ、中央にはナツが一人。ヨシミとシグレが最後尾を着いて行く。一番後ろから、他の四人を呼ぶ声がした。アイリが足を止めて振り返り、それを皮切りに皆の視線がシグレに集中する。
「…お店で持ち込みのモノ飲むのはな~、と思ったから、出せなかったんだけどさ」
言いながら、シグレが鞄から取り出したのは、銀色で、中の見えない金属製の、二本のボトル。片手に持てるのがそれだけだったからであり、鞄の中にはもう二本、しっかりと用意されている。
「なにそれ…っぅわぁあ!?ちょ、急に投げないでよ、危ないでしょ?!」
中身を尋ねようとするヨシミに、ふんわりと投げ渡し。それを見て目を輝かせながら、「きたまえ────!」と腕を広げてキャッチするつもり満々のナツには、あえて直接手渡し。
「自家製ドリンク、ってやつ。変な物は入ってないし、甘くて美味しいよ。味は保証する」
そのまま、少しだけ不服そうなナツの横を通って、カズサとアイリにも一本ずつ手渡す。
「…飲んでみても、良い?」
ボトルから手に滲む暖かい感触を感じながら、アイリが言う。に、っと笑顔を浮かべたシグレが、両手を広げて肯定の意を示した。僅かな警戒の色を浮かべ、飲もうとしないカズサとヨシミとは対照的に、シグレの返答を見たナツとアイリが殆ど同時にキャップを回し、両手に持って口へと運んだ。 - 64125/01/23(木) 16:22:30
ボトルを口に着けたまま目を見開くナツ。上擦った喜びの声を上げるアイリ。二人の姿を見て、カズサとヨシミも「おぉ…」と、先程までとは違ったベクトルの驚きをシグレへと向ける。
「これは私からの感謝の気持ち、って事で。九回目にもなって今更だけど…付き合ってくれて、ありがとうね、皆」
夕日の下。少し、照れくさそうに笑みを浮かべて、四人への感謝を伝えるシグレ。それを見て、各々。程度の差はあれど嬉しそうに、表情を綻ばせた。
それは、シグレの正直な気持ちと、罪悪感のブレンドの味。
いずれ、皆を裏切る事になると分かっているからこその、言葉なき謝罪の前払いであることは、────…誰も、知らない。 - 65125/01/23(木) 16:24:28
────...。
「────そもそも、補習授業部は……生徒を退学させるために、作った物ですから」
夜。気品に満ちた、ティーパーティー所有の建物。その、一角。
月の下。テラスに置かれた丸机には、昼間、並べられていたスイーツは既に無く。
チェスの駒を、音を立てて動かしながら。眉一つ動かさず、当然かのように非常な言葉を言い放つのは────トリニティ総合学園、ティーパーティー現ホスト代理。桐藤ナギサ。
“どうしてそんなことを……!?”
「……」
静かな宵月の下。交わされる蜜月。
茶も菓子もない、静かな”茶会”。
招かれるは、「大人」の「先生」が一人だけ。
水面下に揺らめく影。
「あの中に、トリニティの“裏切り者”がいるからです」
それが静かに。静かに、波を立て。
音も無く。波紋が、広がる。
第一話:【放課後スイーツ・勉強会】 ▶▶▶▶▶ 第二話【葡萄酒と紅茶の乗った、机の上で】 - 66125/01/23(木) 16:40:53
※
空いた時間でちまちま書き溜めてた分をその場で直しつつ、一気に放出しての第一話、完。
第二話もお楽しみに、と言いたい所なのですが、実はプロット紛いの物はここまでしか出来てなくてぇ...スイーツ部と宇沢のイベントに繋げようと思ってたんですが、今日書き始める段階になってようやく「イベントとエデン条約編、時系列的には次どっちだ...?」の思考に陥るという。詰めが甘い
調べたらストーリー公開が断然エデン条約編の方が先だったのでそっちからやる事になりました。結果、まだ何にも考えてない第三話の内容をいきなり持ってくることに。やべぇ!!
なのでこの後は諸々の練り直しから始まります。描写見返したりとかの兼ね合いで、多分明確に遅くなります。待たせちゃったらごめんなさいですけど、自分が出来てない時は保守しててくれると本当に嬉しいです
あと、書いてる途中であんまり私の声が入り過ぎて没入感がないなったらやだな、と思って、キリの良い所でしかこういうレスしないようにしてるんですが、もうちょっと自我出しても大丈夫ですかね?感想とかお褒めの言葉を頂くたびに全部にハートつけてハシャぎながらルンルンで書いてるんですけど、見返すと反応くれてる皆さんの事ガン無視して進めてる気分になって来てそれはそれでなぁ...と思って。今のままでも良い派ともうちょい喋ってくれだぜ派が居ると思うので、そこも教えてくれるとありがたい。所々にこだわりポイントあるので、聞かれたら早口になると思います今みたいに。反応を伺いつつ、袖の振り方を決めたいなと思ってます
長々と失礼しました。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。引き続き、よろしくお願いします - 67二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 22:35:21
ちょっと重たいくらいのノドカへの想いと善良な放課後スイーツ部への後ろめたさの間で揺れるシグレはかわいいですね
ノドカの退学が見えていたときは相当駆け回っていたんだなって
自分はスレ主さんがもっと喋りたかったら全然いいと思いますよ
投下中の書き込みは感想以外にも合いの手というか、楽しんで読んでいるサインのつもりではあるので、投下の邪魔になっていなかったならよかったです。
自分は規制に引っ掛かりがちなので保守は頼むぜみんな(他力本願) - 68125/01/24(金) 01:16:07
※
ありがとうございます、ほんと~~に励みになってます。意図した所を汲み取って貰えた時なんかは特に。
そうですね、ペースは崩さないままレスも返しつつ、位が丁度いいかなと思ってます
ぜひぜひ遠慮なく、ここええやん!ここなんなん?!って突っ込み倒してもらって...!
- 69二次元好きの匿名さん25/01/24(金) 09:59:22
保守
- 70125/01/24(金) 18:20:06
「はぁ…」
溜息、ひとつ。シグレの心は沈んでいた。
似たような表情を浮かべる生徒は少なくない。周りを見渡せば、一人や二人、簡単に見つかる事だろう。
だが、シグレの憂鬱は、むしろ彼女たちのそれとは真逆に位置する理由から来るものだ。
友人同士、点数を見せ合ってはしゃぐ生徒たちを尻目に、手に持った答案用紙にもう一度目を落とすシグレ。
「…上がっちゃったなぁ」
言葉だけを聞けば、場合によっては反感を買う事もあるであろう一言。34点、と書かれたそれを見ながら、再び大きく溜息を吐く、シグレ。
赤点、回避。五十歩百歩とは言うが、その間には明確な差異がある。
たった、4点。それだけでも、目標に据えた補習授業部入りが、大きく遠のいたのを、シグレは身に染みて実感せざるを得ない。答案を返却した教師が、ほっとした様な表情をしていたのがとても腹立たしかった。
上辺だけを繕った所で、ただやる気のないだけの生徒に手間暇をかけるほど、世間は優しくない。成績不振者を飛び越え、一発退学となってしまっては元も子もない。そう考えたからこそシグレは、名実ともに「成績不振」を実現するべく、勉強をしない道を選んだ。
スイーツ部の部室で、山の様に積み重なった一桁台の答案用紙は、その歪な“努力”の結晶。シグレはひとつのテストも欠席していないし、手を抜いたことも無い。ただ、問題が分からなくて解けなかったという、事実だけを得るために、“真剣に”試験に向かっていた。
全て、自力。放課後スイーツ勉強会を経ても尚、そのスタンスは保持し続けていたシグレは────なればこそ、その成果を発揮した、と言うべきだろうか。 - 71125/01/24(金) 18:34:52
────シグレが勉強会を経て、赤点を回避した。その事実を聞けば、スイーツ部の面々はどんな反応をするだろうか。
考えようとして、考えるまでも無い事に、シグレは気づく。
「…みんなは、喜ぶんだろうなぁ」
当然だ。彼女らがどれほどの付き合いか、シグレは知らないにしても。入部したての見知らぬ一個上に親身になって、勉強会────と称した交流の場を設けるような、善意の塊だ。
カズサもヨシミも、「やればできんじゃん」なんて言いながら。アイリも飛び跳ねてはしゃぐだろうし、ナツは得意げな顔でいつもの調子の語り口を披露するに決まっている。
もしかしたら、体験入部の時みたいに、お菓子パーティを始めるかもしれない。…決め打ちで、既に準備をしている可能性すらある。
そんな祝福を、どう受け取ろうか。そんなことを考えながら、握った答案を鞄に戻し、視線を前に向けたその時。
「…あ」
「あ!」
馴染みのあるシルエットと、馴染みのないシルエットが、横並びにひとつ。
「…ノドカ」
「シグレちゃん!久しぶりーっ!」
にぱ、っと小さな顔に大きな笑み。彼女の後方から光指す太陽よりも、シグレにはそれが眩しく見えた。「久しぶり」と言葉を返し、片手をひらひらと振りながら。変わらない速度で、立ち止まった二人の近くへと。
「…こちらの方は?彼氏?」
“「違うよ!?」“
────おぉ、綺麗にハモった。顔が真っ赤だよ、ノドカ。
などと、冗談もほどほどに。その大人の男性の顔には、シグレも見覚えがあった。過去何度か、ノドカから送られてきた盗撮に近しい写真群の中でも、良く被写体に選ばれている、補習授業部の顧問。
「冗談、冗談。シャーレの先生、だよね。初めまして、かな?」
“うん。初めまして、シグレ” - 72二次元好きの匿名さん25/01/25(土) 00:01:35
先生はそう言って、小さく会釈をする。これはこれは、ご丁寧に…とシグレも会釈を返し、視線を再びノドカへと戻した。
「それで、二人はここで何をしてたの?」
「それがね、シグレちゃん!!」
両肩に手を置いて、シグレを揺さぶる姿勢。こんな距離感だったな、という懐かしさ。
────それに次いでこの距離感を「懐かしい」と感じる程の間、離れていた事を実感する。寂しさの青が、シグレの胸の中をゆっくりと広がった。
「────私達、このままだと退学になっちゃうかもしれなくて!!」
「は?」
気の抜けた声が、シグレの口から漏れる。
たいがく。退学。この言葉に、文脈で、それ以外に当てはまる漢字があるだろうか。
シグレにとっては聞き慣れた言葉。何度も頭を下げ、駆けずり回って、ノドカのそれをついこの間、取り消したばかりなのだから。
呆然とするシグレに容赦なく情報の波を、言葉にしてぶつけるノドカ。穏やかな微笑みを浮かべていた先生も、心なしか険しい顔をして、シグレの視界の端っこに佇んでいる。
つまり、ノドカの話を要約するとこうだ。
補習授業部の生徒には、最大で三回のチャンスが与えられる。
補習授業部に課される、特別学力試験。三度あるそのどれかで、全員が合格点を上回る点数を取らなければ、────所属生徒は全員、退学処分が下されるという話。
そして、ノドカ達は既に第一次特別学力試験を終えており────結果は、惨敗。
「…いや、いやいや」
若干薄れ始めている、記憶の中の現ティーパーティー・ホストの顔を思い切り睨みつけながら、シグレは天を仰ぐ。
────遅い。遅かった。
今更、自身に強制転部の措置が下されないのも、少し納得がいった。それが理由だ。一蓮托生、連帯責任────そんな話があるか、と糾弾したいのは山々だが。
つまるところノドカには、今回ばかりは、いよいよもって自らの力で乗り越えて貰わなければならない。字の通り、部外の者である私に、してあげられる事は無い。 - 73二次元好きの匿名さん25/01/25(土) 10:59:27
どうするシグレ
- 74125/01/25(土) 13:33:40
「────だけど、ヒフミちゃんが模擬試験を作ってくれたり、ハナコちゃんやコハルちゃんと水着パーティーをしたり…!諦めずに、皆で頑張ってるよ!」
「水着、パーティー…?」
“あ、あんまり気にしなくて大丈夫!”
怪しげな単語にシグレの耳がぴょこりと跳ね、疑念の色を持った目を向けられるのは、部の顧問である先生。じっとりと睨まれた先生は掌を見せ、左右に振るいながら無実を主張する。
そんな話をしている最中、ノドカの手の中の携帯が鳴った。
「あぁっ、アズサちゃんとヒフミちゃんの事待たせてるんだったっ…!!ごめんシグレちゃん、続きはまた今度―!」
「あっ、ノドカ、ちょっとま…」
声を掛けるよりも早く、手を振りながら駆け出すノドカ。一緒に居た先生も置いて、トリニティの街路を走り去り────瞬く間に、二人の視界から消えた。
“…行っちゃったね”
慌てる様子も無く、先生はそう呟く。
「相変わらず、慌ただしいなぁ。私の方ももうちょっと、話したい事あったのに」
“何か言伝があれば、私に言って”
“しっかり伝えておくから”
片手を払う様に、先生からのその申し出を断るシグレ。「モモトークもあるし、邪魔になりそうだから、平気」と、言葉を添えて。
二歩、前に進む。ノドカの駆けて行った足跡に、自身の足を重ねる様に。
「…ノドカを追わなくていいの、先生?」 - 75125/01/25(土) 13:36:02
“ヒフミとアズサが居るから大丈夫”
“それよりも今は、シグレの方が気になるかな”
────?
「もしかして私、口説かれてる?」
“そういう意味じゃなくて!”
“気にかかる事があるって事!”
────どこか、抜けた所のある大人。その癖に、変に目敏い。…否。これはシグレの主観が強すぎる表現だ。
────生徒の事を、よく見ている。そう言うべきだろう。それが例え、初対面の相手だったとしても。
“初対面だから、なんともいえないけど…”
“シグレ、何か悩んでいることは無い?”
「…え」
鼓動が、明確に早まった瞬間を。シグレは、感じた。 - 76125/01/25(土) 23:51:03
※
ちょっと筆が進まないのでセルフ保守 - 77二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 01:02:36
ゆっくりで良いんだよ、好きに書いていけば良いさ
- 78二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 02:47:18
スイーツ部より先に先生に吐露しちゃうの?
- 79二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 08:08:16
- 80二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 11:40:55
このレスは削除されています
- 81125/01/26(日) 11:44:57
先生とシグレは、ベンチを共有して座る。少し間を空けて、三人掛けのベンチの端と端に、ちょこんと腰掛け。多少待たせる事になるノドカ達に、連絡を添えた上で。
シグレが、口を開く。
「…ノドカとは、10年来の幼馴染…っていうかもう、ホントに物心ついた時から一緒にいてさ」
目を閉じ、上瞼の裏に映る白銀の景色を思い浮かべながら、次の言葉を紡ぐ。
「私達の産まれはレッドウィンターの方なんだ。雪山の奥にあった小さな小屋に、私とノドカと、もう一人。育ての親みたいな人と、一緒に暮らしてたの」
反らし、空を仰いでいた身体を、前方へ倒す。前屈み、膝に肘を置き、顔の前で手を組みながら。彼女の表情は、先生からは見えない。淡い青緑の毛髪に、シグレの目が伏せられる。
「困窮した生活に耐えかねたのか、吹雪の止まない山に狩りに出かけて熊にでもやられたのか、はたまた何か事情があって、私達を置いてキヴォトスを出たのか。その人は、ある日を境に小屋に帰って来なくなった。一ヶ月に満たない分の食糧や薪に────二丁の銃と、一つの封筒を残してね」
かちゃり、と音を立てるのは、シグレが肩から下げているグレネードランチャー。『スプリングパンチ』と名付けられた明るい水色のそれは、遠目にはドリンクホルダーの様にも見える。
「身寄りのない私達の情報をどこから聞きつけたのやら。四年前、私達が本来なら中学一年生になる年の、ある朝に山小屋を訪ねてきた、連邦生徒会の保護を受けたんだ。その時、親代わりだったあの人が残した封筒が一緒に見つかった」
僅かに、身を起こすシグレ。髪の隙間から、どこか淋しそうな目線が地面に注がれているのが伺える。 - 82125/01/26(日) 11:50:17
「それは『紹介状』みたいなものだった。『天見ノドカと間宵シグレという生徒を、トリニティ総合学園へ入学させる』為の、諸々の手続きを済ませた書類の束が入った封筒。後は私達の署名を足して、提出するだけで────二年後、トリニティ総合学園に入学を果たせる」
追い縋っても届かないものに、無意味だと分かっていて手を伸ばすかの様に。正面のアクセサリーショップとの間にある虚空を、指先で切り裂きながら、シグレは続ける。
「その人はもしかしたらどっちかの肉親だったのかもしれないし、全く関係のない、赤の他人だったのかもしれない。私とノドカははっきり血縁じゃないって分かってるけど、その人と私達との関係性はもう、知りようのない事なんだ」
握った手には、何もない。指の、手の隙間から、閉じ込めようと空気が漏れ出して、後には何も残らない。
「顔すら朧気だしね、下の名前も覚えてない。苗字も、ノドカは覚えてないと思う。私は、そっちの方は────ここに来て、思い出したけど」
ここで初めてシグレは、先生の方に顔を向ける。少し意地の悪い、からかうような表情を浮かべて。
「考えてみれば当然の話、っていうかさ。トリニティ総合学園って場所がどんな所か、先生も知ってるでしょ?気品と規律。優雅たれ、みたいな。その実どうかは別として、そんなところに。身寄りのない、薄汚い子供を、連邦生徒会越しとはいえ、ぽんと名前付きの一筆だけで二人入学させられる程度のツテ、だよ。そんなの相当、限られてくると思わない?」
強張り、押し黙った表情の先生を見て、シグレは満足そうに笑いながら、言った。
「────その人の苗字は、“桐藤“だった。現ホストのあの子との関係は知らないけど、ね」
- 83125/01/26(日) 11:51:34
- 84二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 11:53:49
- 85125/01/26(日) 12:15:29
「関係のない話だったね。できれば、内緒にしておいてほしいな、ナギサが知ってたら流石に去年の段階でなんとか言って来るだろうし」
“ナギサと、面識があるの?”
「あれ。ノドカから聞いてない?…言わないか、そりゃそうだ。…んー、そうだね。とある理由で、呼び出しを喰らっちゃってさ。心当たりはありすぎて、どんな事情だったか…。数える程度だけどブラックマーケットに出入りもしてたし、それ関連だったかなー?」
後頭部で腕を組み。足を投げ出して堂々としらばっくれるシグレ。 後にこの事を問い詰められる事があれば、彼女は「嘘は吐いてないし?」と言い逃れをするだろう。一年の初めの頃にした、ブラックマーケットへの出入りは事実。ノドカの件で心当たりがあるのも事実。
…前者は実際には足が付いていないのだが、シグレはその事を知らない。
「件の人が居なくなってから、連邦生徒会が来るまで…大体、六年くらい?ノドカと私は必死に食いつないでさ。出来る事はなんだってやる。お腹すきすぎて、二人揃って木の根っこに齧りついたこともあったっけ」
“木の根っこ…”
渋い顔をする先生を横目に、再び笑みを零すシグレ。「からかい甲斐のある反応をしてくれるねぇ、せーんせ」。と、言葉を零しながら。 - 86125/01/26(日) 12:16:27
「それは流石に冗談だけど、命からがら、二人で生き延びてきたのは本当。血のつながりは無くても、私にとってノドカは家族。いや、それよりもっと、もっともっと深く、大切な人なんだ」
「…悩み、って言うか、不安かな。本当なら私が傍で手助けしてあげたいくらいなんだけど…仕組み上、それは出来ないし。今所属してる部の子達にも、かなり迷惑をかけちゃうからね。だからまぁ、何が言いたいかっていうとさ」
二度、三度。首を振って、気持ちを切り替える。爪先、膝、上体、顔。ベンチに対して斜めに、先生に対して真っ直ぐに、改めて全身を向けて。
「先生。ノドカを、よろしく。…お願いだから、どんな手を使ってでも────あの子を、合格させてあげてほしい。あの子が退学ってなったら、私も学校を辞める。結果がどうなろうと、私はあの子の傍にしか居られない。身寄りも無いし、ツテまで失ったら、本当に行く宛ても無くなるけど…それでも、ね」
数秒間の、沈黙。それを経て。ゆっくりと、西の空が焼けていく。
シグレの目を、真っ直ぐに見つめ。シグレの言葉を、真っ直ぐに受け止めた先生が、口を開く。
“…シグレ”
“今の話を、部の友達には、した?”
「…うん?」
- 87125/01/26(日) 12:28:22
先生からの質問の意図が掴めず、眉を寄せて首を傾げるシグレ。
返答を待たず、先生は言葉を重ねる。
“シグレはきっと、選ばなきゃいけないと思ってる”
“自分の居場所は、一箇所にしかないと思ってる”
────だからこそ。ノドカがそうなるというのなら、自らも退学を選ぶと言い切る程に、追い詰められている。…返事は、要らなかった。分かり切ったことを聞いたから。少し、意地悪をしたが…これで、おあいこかな。
“でもね、シグレ”
“むしろ開き直って、どちらも大切な物だと認めてしまえば”
“広げた両手に、全部を抱え込めるかもしれない”
「…な、何言ってるのさ、先生。そんな事…」
────明らかな、動揺の色。賢い子だ。困惑の矛先は、私の発言の突拍子の無さではなく、私の言葉が描くシナリオが行きつく先を向いている。
その、先を踏んで。もう一言、言うべき言葉を。声帯を、震わせる。
“間違ってしまったとしても、気にする事はないよ”
“間違って、取り零して、後悔して────”
“それでも、何度だってやり直せるのが────”
“生徒の君たちに許された、青春の特権なんだから”
「────!」 - 88125/01/26(日) 12:34:25
────「ノドカの傍」に居たい。共に辛苦を乗り越えた、家族よりも大切な人に、いつだって寄り添っていたい。それは本音だ。
────その為になら、『他の全て』を切り捨ててでも。なんて、そこまで覚悟は決まっていない。けれど、切り捨てなければ「隣」に居られないのなら。そう、思っていた。
────「ノドカの隣」かつ、『スイーツ部の一員』。そんな、傲慢な望み、抱く事すらおこがましいと、そう思っていたから。
────軽蔑されるかもしれない。『たった一ヶ月過ごした関係性』が、その一言で崩れ落ちるかもしれない。そんな理由で、成績を落としている理由を、隠していた。
────それは、一度失い、手放し。はぐれてしまった縁を握り直す事など、叶わないのだと思っていたから。繋がりを、芽生えた絆を、失くしてしまう事を恐れていて。それで。
「…それでも、“私達は“やり直せるから、大丈夫…って?」
シグレの呟きは、声にはなっていなかった。
“私にできる事は、いくらでもするよ”
“彼女たちの努力が、最大限に実を結ぶように”
“でも、最後に結果を形作るのは私じゃない”
“ノドカたち、補習授業部のみんなだから”
“彼女たちが何を選ぶのか”
“それは私が、シグレに約束してあげられる事じゃない”
“だからどうか、信じてあげて欲しい”
“ 君が、守りたい「居場所」を ”
“ 君が、守りたい『居場所』を ”
────あぁ、この人は。この、先生と言う大人は、一体どこまで私の事を分かっているのだろう。
「…これが初対面のはずなのにね。気味が悪いよ、先生」
悪態をつくシグレの顔は、話す前よりもどこか穏やかで。
空が、美しく焼けていく。 - 89125/01/26(日) 12:44:32
※
長くなり過ぎた。このまま行くと第二話が一番ボリューミーになりそう。どこで切るべきか悩んでますが、タイトルがタイトルなもんで泣く泣くウルトラボリューミーにせざるを得ない方向性で固まってきてます。うぅん!調整へたっぴ!
先生の台詞を二行に分けてるのは、原作の選択肢リスペクト、のつもり。思い付きでやったせいでまたも行間調整をミスる
各々自己のポリシーに従ってタップしながら読み進んでる気持ちになっていただければと思います。自分は大体下を選ぶ派です - 90二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:59:12
ん、素敵
先生の背中を押す言葉が実に良い - 91二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 21:55:55
保守
- 92二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 22:01:21
良い物語だ。読みやすくて面白い
- 93二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 22:30:11
ナギサが前科が酷すぎるとはいえ従姉妹を陥れようとしたのを理解したら、パラノイアから快復した後メンタルガタガタになってそう
- 94二次元好きの匿名さん25/01/27(月) 00:13:02
保守
ウルトラボリューミー大歓迎!
あと先生の台詞を二つ並べる書き方いいですね、とっても雰囲気でますわ! - 95二次元好きの匿名さん25/01/27(月) 00:32:05
いい話だ……生徒の固まった考えをほぐす言葉は先生らしい
育ての親はその気になればどういう存在だったか知れそうだけど、そこまでする必要はないんだろうなあ(もしかすると知りたくないことが出てくるかもしれないし) - 96二次元好きの匿名さん25/01/27(月) 07:55:12
※
おはようございます
うぉお、めちゃめちゃ反応頂けてる…!無茶苦茶ニヤニヤしながら読んでます。モチベ爆上げ!
踏み込み過ぎず、肩の力を抜かせる一言。その場その場で、その子に一番必要な言葉選び。背景を知らなくとも察する力。道を指さすのではなく、静かに分かれ道の存在を仄めかすだけに留める。選択は本人の自由で、自分はあくまで中立の立場。真っ直ぐ持った芯を曲げずに、先を生きた者として培った経験を基に、生徒を教え、導く。
そんな、私の思う原作の「先生」らしさを出すのにかなり苦戦したので、その分好感触な反応を頂けてかなりほっとしてます……
多分この先触れる事は無いので、早い段階で。シグレとノドカの育ての親の「桐藤さん」については、レッドウィンター産まれの二人がトリニティに「どうして入学するに至ったか」の理由付け以上の立ち位置を付けるつもりは今の所無いので、その素性に関しては文字通りご想像にお任せします
俗世に身を窶す事を望んだ結果雪山でサバイバルする事になったハチャメチャな自由人だったり、一世代前の桐藤家における「補習授業部に出会わなかった浦和ハナコ」だったり、色んな可能性があると思いますが……ただでさえ自分の中で若干スレタイから逸れ気味なのでは疑惑があるのに、そこまで描こうとするとちょっとぐちゃぐちゃになりそうなので、そういう概念として投下しておきます。
早くシグレがスイーツ部にお酒入りチョコの話するとこ書きたい!!!!シグレのお酒要素全然出せてなくて悔しい!!!!
最速で今日の夜、遅くても明日の午前中には更新しに来たいと思ってます。出先でもちまちま書き溜めていくつもりなので、保守して頂けるとありがたいです…!
- 97二次元好きの匿名さん25/01/27(月) 11:58:53
保守!
読んでいて違和感なく没入できるほどにキャラの描写が精細で、かつストーリーも突飛なところがなくてとても読みやすく面白いです。楽しみにしてます! - 98二次元好きの匿名さん25/01/27(月) 19:32:56
夜保守
続きもすっごく期待して待ってる - 99二次元好きの匿名さん25/01/27(月) 21:57:08
ほろ酔いスイーツ部withシグレはきっとかわいいぞ
この世界でシュガーラッシュする場合、シグレはどの楽器を手に取るんだろうね - 100二次元好きの匿名さん25/01/28(火) 01:09:28
あにまんをさまよってたら出会ったいい概念スレ
出会えたことにかんしゃぁ〜、、 - 101125/01/28(火) 08:36:26
「…お。やあやあ、いらっしゃい」
「あ、来た。授業お疲れ、シグレ」
先生とシグレの“個人面談“の翌日、放課後スイーツ部の部室にて。
扉を開けたシグレを出迎えたのは、二人の少女。脚で座った椅子を斜めに傾け、パックの牛乳に刺したストローを下唇に乗せたナツと、机に上体を投げ出す形でスマホを弄っていたカズサだ。奥には冷蔵庫を漁るヨシミに、大きなチョコミントアイスのぬいぐるみ(…?)を抱えたアイリが、ソファに身を沈めている姿が見える。
「…シグレちゃん…?!」
「ど、どうしたのよ?床、汚いから…」
扉を閉めたシグレが、入ってすぐの床にぺたん、と腰を下ろす。…否、膝を折った。それはいつぞやの、点数精査の時と同じ体勢────正座だ。唐突な行動に、四人の目線が一斉にシグレに向き、アイリとヨシミが声を上げた。
多少の位置関係は除くとして、大まかな構図は以前と同じ。異なる点は、ただ一つ。
「…みんなに、話したいことがあるんだ」
34点の答案用紙を地べたに叩きつけながら。
真剣な面持ちでそう切り出す、間宵シグレの、“意思“の有無のみ。
────これから。
これから、シグレは言う。大切な人の存在を。「天見ノドカ」という幼馴染の為に、自分がこれまでしてきた事を。
これから、シグレは語る。その人が、大切である理由を。過酷な雪国の寂れた小屋に、生を繋いだ六年間を。
これから、シグレは述べる。自分の望む立ち位置を。この部活と相容れる事の無い、夢物語の様な展望を。
これから、シグレは論ずる。彼女なりの理論を。作戦を。馬鹿正直に底辺まで落ちようとした、愚かしさを。
これから、シグレは吐き出す。四人に向けて、一人と四人の揺れ動く天秤について。膨らんでいた、迷いを。
これから、シグレは話す。
「私は、“補習授業部”に入る為に────」
トリニティ総合学園二年生「間宵シグレ」の全てを、話し始める。 - 102125/01/28(火) 10:16:04
幼馴染であるノドカの事。彼女を追って補習授業部に入ろうとしていたこと。その為に勉強をしない手を選んだこと。彼女が退学の危機に迫られている事。彼女がもしも退学になろうものなら、自分もその後を追うであろうこと。
天文部の暴動事件についてだけは、明言を避けつつ遠回しに。
語るべきすべてを語り終えたシグレは目を伏せ、返ってくる言葉を静かに待つ事を選ぶ。
静寂が、部室に満ちゆく。
牛乳パックから抜けたストローを咥えたままのナツ。頬杖をついてぼんやり、遠くを眺めるカズサ。冷蔵庫に凭れたまま、アイスを手に立ち尽くすヨシミ。口をぬいぐるみに埋め、眉を寄せたアイリ。
秒針だけが、音を立てる。
1秒。
2秒。
────溜め息が。深い、深い溜め息が、3秒目の静寂を静かに切り裂いた。
「あんた、やっぱバカでしょ」
そして、その吐息の刃の主が、ワンテンポ空けて声を上げる。
「…カズサ」
呆れたような表情で。心底、呆れ果てた様な顔をして、シグレを見下ろすカズサ。
「友達が成績悪くて落第間近の特別クラス行きになって心配。ここまでは分かるよ。でも、その後とる行動が『自分も成績落として同じクラスに行こう』って何?」
こん、こん。手入れの行き届いたカズサの爪が、机を叩く音。
「本人に直接頼まれた訳でもないのに、あんたが行って何になんの?勉強教えんのぐらい、部活が違おうが出来るでしょ。予定合わせて、それこそ私らとしたみたいにスイーツ食べながら一緒に勉強でもすれば解決じゃん。違う?」 - 103125/01/28(火) 10:42:28
ぎゅ、っと目を瞑る、シグレ。
「あぁ、違うから悩んでんだもんね。じゃあ何、知り合いが近くに居ないと不安でしょうがないとか?十年来の付き合いの友達が隣に居ないと、不安で不安で何も出来なくなっちゃうから、無理矢理成績落としてでも着いて行こうって?」
ふー…。細く、空気を射抜く吐息を挟んで。カズサは、言う。
「うん。はっきり言うわ────なにそれ、キモチワル」
「────っ、ちょっと、カズサちゃん…!それは、言い過────も、がっ…!」
カズサの言葉に、声を荒げようとしたアイリの口に、牛乳パックに刺し直したストローを差し込むのは、ナツ。
「はいはい、我らがアイリ姫。今日の牛乳の時間だよ~」
「ナイス、ナツ。……ごめんね、アイリ。ちょっとだけ、黙ってて」
友人が友人に口を塞がれる様を、一瞥する事も無く。カズサの意図を汲んだナツの行動への感謝と、シグレを思いやるアイリへの謝罪と共に、聞こえてきた声に、サムズアップを返しながら。斜め上から、真っ直ぐにシグレを見下ろすカズサ。
「……それでも、一緒に居たいから。誰が…何と、言ったって」
「一緒に居る、…だけ?あんた、置物じゃなくて友達なんでしょ。着いてくるだけの置物なんて、いい迷惑じゃない?────それも、思い入れがある置物なら、尚更傍に居られると気が散るだけだと思うけど」
震える声で返したシグレの言葉に、今度は空白を空けず、カズサが言葉を重ねた。
「私は、自分の意思でこの部にいるし、自分の意思でこいつらの為に限定スイーツを買う。あんたは、何がしたいの?そのノドカって子に、どうなってほしいの?…退学になるなら一緒についてく。それは勝手にすればいいけどさ。じゃあ、あんたはノドカが退学になってもいいって考えてんの?」
「それ、は…」 - 104125/01/28(火) 11:07:52
「だから、バカって言ったの。一年の頃は頭良かったのか何なのか知らないけど、頭硬すぎ。……答えは一つでしょ。いくらバカのシグレでも、それぐらいはすっと答えれるじゃん、普通に。…友達が退学しそうなのを、みすみす許容できるヤツなんている?」
「私……私、は────」
「────ノドカを、助けたい。落第になんて、退学になんて、させたくない…この学校で、一緒に、過ごしたい…!」
「……そ。────だってさ、みんな!」
ぎ、っと椅子を傾け、大きく体を反らし、後方の三人に呼び掛ける、カズサ。その表情は、シグレからは伺えない。
「うちの“新入部員”は、そうしたいらしいけど。『放課後スイーツ部』としては────どうする?」
空白。その後に、笑い声。零れる様な、笑い声。
初めのそれが。最後のそれが。誰の物かは、わからない。
「ホントは頭良かったのにバカの振りしてました、ってなんかムカつくわね」
「私はロマンだと思うがね。能ある鷹は爪を隠す。自分の道を貫くというのも、案外悪くは無いかもしれないよ、シグレ」
「やめてよナツ。冗談じゃない」
ただ、静寂は影も残さずに飛び立ち、後にはいつもの放課後スイーツ部が残っている。
「────私達も協力するから、ノドカちゃん達が補習授業部を抜け出せるように、手助けしてあげよう!」
「…みん、な」
シグレの胸の中で、感嘆が漏れる。
…この四人に、間宵シグレを簡単に逃す気は、どうやらないらしい。 - 105125/01/28(火) 11:25:54
────これは、補習授業部に課された『第二次特別学力試験』の、二日前の出来事。
結束を固め、決意を胸に抱くシグレを他所に────張り巡らされた策謀に、容赦はなく。
疑心は不和を呼び、妄信を引き起こす。凝り固まった、桐藤ナギサの内奥に蠢く闇が────
同日、夜。トリニティ総合学園情報電子掲示板にて、その姿を現した。
────────「補習授業部の『第二次特別学力試験』に関する変更事項のお知らせ」
- 106125/01/28(火) 11:46:28
※
基本誤字脱字とか、あっても咽び泣きながら脳内補完して読んでくれることを切に願うばかりなんですが...個人的にめっちゃ嫌な誤表記見つけちゃったので、それだけ訂正しておきます
>>103 カズサの最後のセリフ「こいつらの為に」→「こいつらの分も」
投下前に修正したつもりでいたけど出来てなかったくさい部分です、ごめんなさい
頭の中のセイアちゃんが「君という存在の解釈を揺るがせないでくれ」って言って来た...細かい所だけどカズサはこんなこと言わないと思うの...
- 107二次元好きの匿名さん25/01/28(火) 22:02:50
保守
- 108二次元好きの匿名さん25/01/28(火) 22:14:10
保守
- 109二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 01:02:05
このSSのシグレがあれこれ考えを巡らせるけど強く抗う感じにはならないのは(元々のキャラ性もあるだろうけど)殆どの人生をノドカとだけ生きてきてあまり他人に助けられる考えがないというか、自己の力量を越える事象に諦めが出るのかな
などと考えたり(勝手な想像なので大外れだったらごめんなさいね) - 110125/01/29(水) 09:28:40
※
保守ありがとうございます、スレ落ちまでの時間ちょっと短くなったみたいですね...!?意識しなきゃ...
ありがとうございます、楽しんで貰えてて嬉しいです
シュガラも書く気では居るんですけど、私があんまりバンドとかに通じてないので、かなり不安が残ります。あと結局ive aliveちゃんと読めてない...ミニゲームのストーリー多くって...
あ、めっちゃ良い解釈。って思いました
細かく言語化するのは得意じゃないのであんまり的を射てはいないかもしれませんが、ノドカさえ無事なら他の事にはこだわらないシグレの、ある種の諦観みたいな物は結構原作にもあると思ってます
ノドカが心配だから停学食らってでも着いてくけど、目的は連れ戻すとかではなくて、過酷な227号の環境にも適応さえしてしまえば「まぁ、ノドカいるしこのままでも良いか」って、復学のチャンスを虎視眈々と狙うノドカと違ってそんなに学校に戻りたい、って感じしないし
足るを知る、はニュアンスが違うかもですけど、ノドカさえいればその他は今あるものだけで満足できる。だからこそ、先生と触れて何か琴線を揺さぶられる事があってのあの感じなのかな...。決まった一人二人じゃなく、"生徒の味方"な所とか刺さってそうだなって自分は思うんですけど
227号のイベント、どちらかと言うとノドカにスポットが当てられがちなので、シグレ主役の供給を...。ください...
- 111125/01/29(水) 16:58:54
張り詰めた雰囲気。燦燦と煌めく星々と、三日月の下で行われる“お茶会”。
互いに持ち寄った、形ばかりの茶菓子にスイーツ。机上の戦場、飛び交う“コトダマ”から身を隠す遮蔽。
参加者は二人。華美だが派手過ぎない装飾の施された丸机を挟んで、相対す。
紅茶を、一口。その香りを浅く堪能しつつ。音も無く、アールグレイの仄かな渋みを舌先で転がし、飲み下し。小さな音を立ててカップをソーサーへ戻した。
ふんわりとした前髪の隙間からシグレを射抜く、鋭い目つき。薄茶の髪を彩る白百合の花弁が、夜風に吹かれて静かに揺れている。
「……あなたも、懲りない方ですね。シグレさん」
招待状は、一週間前から出されていた。数回に渡り、「ノドカの────補習授業部の退学の撤廃」を訴えるシグレの直筆のメッセージ付きで。
トップに欠員が一人の現状で、日頃の通常業務に加え、差し迫るエデン条約調印式の準備にも追われているナギサだったが────補習授業部の第三次学力試験、前日の夜になって、その誘いに乗った。
何か、思う事があったのだろうか。その胸中は、シグレには測りかねる。
カップを片手に、小さく手首で回し、紅い水面に渦を起こしながら、シグレはじっとナギサの顔を見つめている。
「ノドカさんの即時退学の措置を撤回したのは、ひとえにシグレさん。あなたの努力と献身を認めたからに他なりません。本来なら我々、ティーパーティーに回される筈だった量以上の仕事量を、考えうる限り完璧にこなし、文句のつけようも無い“後始末”を付けた、『あなたへの』温情。隣人を想うあなたの『愛』に、報いる必要があるとの、私の判断です」 - 112125/01/29(水) 17:26:49
二人の態度は、対照的だ。
両手を膝の上に重ね、凛とした表情のまま。真っ直ぐに背筋を伸ばし、ティーパーティーとしての威厳を雰囲気に滲ませるナギサ。
カップの持ち手に人差し指を通し、ソーサーの上で少し斜めにしたまま。逆の肘を机に突いて、手の甲に頬を置くシグレ。
「故に、此度のノドカさんへの措置に関しては────『それはそれ、これはこれ』としか、言いようがありません。暴動の件が無かったとして、彼女の成績不振もまた事実。補習授業部への転部措置は、どのみち規定事項です。あなたと交わした契約を履行した上で、彼女の行動に尚も問題があった。それだけの話ですよ」
失礼、と言葉を挟み、再び紅茶に口を付けるナギサ。口腔に広がる芳醇な香りと渋みを、目を閉じて味わう。ゆっくりと、口腔に伝わった物を排熱するかの様に、深く溜息を吐く。
「…シグレさん。エデン条約の関連の業務で、私達は手一杯なんです。ただでさえ休まる暇も無い慌ただしい日々の中で、五人もの落第を目前にした生徒たちの面倒は、とてもではありませんが見切れません」
淡々と。少し、呆れを足したような口ぶりで、そう話すナギサの目は、冷たく濁っている。
「むしろ、これは最大限の温情だと捉えられるでしょう。シャーレの“先生”の力を借りてまで、彼女らの退学処分を防ごうとしているのです。きちんと規律を設け、条件を果たした暁には、全員元の通り復学させることまで約束した。これを救済措置と言わずして、なんと言うのですか?」
皮肉っぽく笑みを浮かべ、空になったカップとソーサーを机に戻しながら、ナギサは尚も続ける。
「与えられたチャンスを掴めないのであれば、それは彼女らの問題です。努力を怠り、足掻こうとしなければ、流されるまま下へ下へ落ちていくばかり。それはここ、トリニティに限った話ではない。どこも同じ事、一般社会の常識で────」
「説明になってないよ、ナギサ。成績不振は私だって5人と一緒でしょ」
調子付き始めた、得意げなナギサの言葉を遮る様に、シグレが声を上げた。 - 113125/01/29(水) 19:27:39
「落第に瀕してる生徒がこっちにも居るんだけど、五人は助けても私一人は退学になっても良いって事?温情、“後始末”の時に、全部使い果たしちゃった?」
沈黙。睨み合い、と言うべきか。鋭い眼光が交差し、中空に火花が散る錯覚を、両者が共に覚える。
体を起こし、背もたれに体重を預けたシグレが、続けて話を切り出す。
「……第二次試験の事、ノドカから聞いたんだよね。前々日の夜に、いきなり色々変えられたって聞いたよ。試験範囲は三倍近く。ロケーションはゲヘナの廃墟で。挙句に、『偶然』テロリストの起こした爆発に巻き込まれて試験用紙が焼けたからって、テスト結果は一律『不合格』だってね?」
「…それが、何か。変更は複雑に事情が絡んだ結果です。理由はどうあれ、此方が提示した条件を満たせなかったのですから、致し方ないでしょう」
「笑っちゃう。救いの手を差し伸べる、なーんて言っておきながら、嫌がらせレベルの変更に怪しさ満点の事件と、判定。まるで『退学させたい』みたいな行動だ」
ぴくり。ナギサの眉が動いたのを、シグレは見落とさなかった。
「それは一旦置いておいて。話は変わるけど、本当に疑問なんだよね。────ハナコは入れて、私を入れない、ナギサの判断が、ずっとさ」
再び、シグレが前のめりに、両肘を机に突いて顔を突き出す。
「ナギサ、今年の初めごろに会った時に言ってたよね。『去年の時点で三年までのテスト、全科目オール満点』だった、ティーパーティーの後釜第一候補の“優等生”には、申し出を断られた、って。……それ、浦和ハナコの事でしょ?」 - 114125/01/29(水) 19:34:34
「今年に入って急に成績がガタ落ちして補習授業部に、って聞いたよ。落差の程度は大小あるけど、境遇は私とおんなじだ。違う点は、彼女の噂ってなると避けて通れない所にある『奇行』。水着で徘徊してる目撃情報が多数だとか、淫語を大声で連発してたとか。何がしたいのか分かんないけど、私と似たような目的でもあるのかな?」
無言を貫くナギサを他所に、シグレは取り出したスマートフォンの画面を数回叩きながら、話を進める。
「……阿慈谷ヒフミは、ブラックマーケット関連できな臭い噂が多い。転校生の白洲アズサは学内で銃撃沙汰を起こして指導を受けてたりしてる。天見ノドカは言わずもがな、去年の暴動の主犯格。……下江コハルに関しては、これって挙げれる様な理由はないけど……まあ、ちょっと想像はつくかな」
本当の意味での被害者は彼女かもしれない。顔もろくに知らない正義実現委員会の少女に向けて、静かに同情を向けながら。ティーカップに入った紅茶を一息に飲み下し、かしゃんと音を立ててソーサーに戻したシグレは、言う。────性格の悪い笑みを浮かべ、詰め寄る様に身を乗り出しながら、言う。
「おかしな話だよねぇ……『落第に瀕した生徒』を救うための補習授業部、でしょ?どうして選出基準の決め手が『起こした行動』としか思えない状態になってるのかな。私を、ティーパーティーに認められる成果を残したから入部させないって風に捉えられるけど、それこそまさに『それはそれ、これはこれ』じゃない?」
眉を立てたナギサは、不愉快を明確に顔に示している。唇の隙間から食いしばる歯を漏らし、机の下で拳を握る。
「ここまで情報が出揃えば、自ずと見えてくるよね。君があのきな臭い部活を創立した真の目的……『成績不振者への救済』なんか嘘っぱちで、ほんとは『怪しい行動を起こす生徒たちをまとめて排斥する』つもりなんだって。先生の────シャーレの権限を借りて、めんどくさい手続きを全部すっ飛ばして………もう、はっきり言おうか」
「効率よく追いだしちゃおう、って腹積もりなんでしょ。君が探している────“トリニティの裏切り者”、ってやつをさ」
「…………っ、!!」
ナギサの平静が、完全に瓦解する、音。
人が「声」と、あるいは「言葉」と呼ぶそれが。シグレから発せられたそれが。ナギサの鼓膜と心臓を、大きく揺さぶった。 - 115125/01/29(水) 19:39:51
“トリニティの裏切り者”。エデン条約の破綻を目論見、トリニティのどこかで陰ながら暗躍する存在。ナギサが恐れ、探しているその人物の“正体”を敢えて挙げるとするならば、アリウス分校から差し向けられた転校生────白洲アズサが、それに該当する。
彼女の“偽装”は精巧だったと言うべきだろう。本人が既にその意思を喪失している事を考慮に入れたとしても、ナギサが裏切り者を絞り込む上で、彼女を含む五人の問題児に疑惑を分散させられる程度には。
ナギサに限った話ではない。多少素行に問題はあったが、共に時間を過ごした補習授業部の面々にすら、その真の目的を疑われる事は無かった。ほんの少し、退廃的に世界を見ていて。それでも、無邪気に友人と研鑽に励んでいて。
だから、仮に彼女の独白が無く、計画の通りに進んでいたのならば────それは、「完全犯罪」と言って差し支えない、完璧なスパイ活動として成立していたことだろう。
そう。補習授業部、五人目のメンバーである────天見ノドカさえ居なければ、あるいは。
「………何のお話ですか」
「手、震えてるよ。汗もかいてる」
彼女が最も優先する幼馴染から得た情報。それに向けられる信頼は言わずもがな。とはいえ、その色がナギサの表情の上に明確に見えた事で、シグレの中での信頼は確信へと姿を変える。
天見ノドカの“覗き癖”は、過剰が過ぎる。
それはもとより停学処分を喰らう程度のものだ。処分を受け、それが原因となって、居場所すら追われかねない経験を経た今でも収まる所を知らないのだから、病的であると言っても良い。補習授業部送りにされてからも、ノドカの“覗き癖”は問題なく猛威を振るっていた。
それは第二次試験の前。補習授業部の部長であるヒフミと先生。その間にハナコを交えた、深夜の密会。補習授業部というものの裏の目的。それを知るただ二人の人間が、事情を知らないハナコに事実を伝える場面。
それは深夜。スパイ活動を行う白洲アズサが、「スクワッド」への報告へ向かい、それを果たして合宿所に帰還する場面。
自らの目で。耳で。或いは、望遠鏡を通した景色の先に。彼女は、その全てを見ていた。 - 116125/01/29(水) 19:51:05
「私は実際の所、君が探ってる件にはほんとに無関係だし、“トリニティの裏切り者”って言葉もノドカからさっと聞いただけだから、詳しい事はなにも知らない。……ハナコと同じことを言うみたいでちょっと申し訳ないけど、政治にも全く興味は無い。ヘイトスピーチして君をその席から引きずり下ろすとか、そんな真似はする気ないよ」
シグレは、白洲アズサの事を知らない。目的も、起こした行動も、どんな人間であるかも知らない。ただ、ノドカから────“トリニティの裏切り者”を、ナギサが探している。その事実を聞いただけだ。
『きっとノドカは正体も知っていて、それを排斥するのではなく守り、共に進む事を選んだんだろう』
シグレは想像する。想像を、する。真偽は二の次。
天見ノドカが間宵シグレに、彼女が必要であると思った情報を提供したという事実だけが、彼女を支える「根拠」。
『正体を知っていて、それを自身にひた隠しにするのだから、裏切り者の正体は私が知る必要の無い情報なのだ』
わざわざ聞かなくとも、シグレにはわかる。幼馴染なのだから。シグレにすら言わない隠し事をするのには理由がある。怒られるからか、言うべきではないからか。彼女の場合、だいたいその二択だ。
「あぁ、ノドカじゃないよ、少なくともね。そんな事企むような子じゃないのも、それを私にすら隠し通せる訳ないのも、私が誰よりも知ってるんだから」
そして、前者の可能性は、シグレになら消せる。疑う事を知らないのではなく、疑うまでもないのだ。
天見ノドカが”裏切り者”である可能性は、万に一つも無い。
「けど、その為に私の幼馴染を巻き込んで罠にハメようって言うなら、私も容赦はしない。私は、ノドカの邪魔をする君達の邪魔をする」
得意げに笑ったシグレは、押し黙ったナギサの鼻先に人差し指を突きつけて、言い放つ。
「────こちとら”元・優等生”。敵に回すと怖いのは、去年の”前科”を知ってりゃ、分かるよね」 - 117二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 21:08:44
────パァンッ!!
鋭い柏手。びりびりと痺れる空気。
「────警備っ!!取り押さえなさい!!」
続けて放たれた、怒気を孕んだ命令が、扉を貫いてその奥に立つ武装したティーパーティー構成員の耳に届く。
力強く、テラスの両端の扉が蹴り破られた。構成員四人が瞬く間にシグレを取り囲み、二人がかりで両腕を背中で束ねて抑え、残りの二人が銃口を向ける。
音を立て、机が揺れる。押さえつけられたシグレに重心が寄せられ、机の脚が軋み、悲鳴を上げる。紅茶が少し零れ、チョコレート菓子が散らばった。
「あいてて…。手荒だね。……一応聞くけど、何の真似?」
「……先の発言を、我々ティーパーティーへの明確な宣戦布告と受け取りました。処分は……少し、考えます。連れて行きなさい」
────────…。
「……は~。いてて」
ティーパーティー所有の建物の、一室。シグレを軟禁するその部屋には、窓から差し込む月明かり以外に、室内を照らす光源は無い。応急の処置故か、荷物の没収等は行われなかった。ナギサの命令は、一先ず“明後日の朝まで”閉じ込めておけ、というだけの物。
ぶち、ぶち。後ろ手を縛る縄をコートに仕込んでいたナイフで切り裂き、ほんのり赤く痕の残る手を揺らしながら窓辺に腰掛けるシグレ。スマホを取り出し、画面を点ける。
モモトーク。グループ名の横には、参加している人数を示す(5)の文字。
月明かりを見上げる山の妖精は、二度、深呼吸を挟み────。
『無事、潜入~』
『時間通りになるはやで、助けに来てね~』
緊張感の欠片も無いメッセージを、送信した。
第二話【葡萄酒と紅茶の乗った、机の上で】 ▶▶▶▶▶ 第三話【集え、サジタリウスの星の下に】 - 118125/01/29(水) 21:14:05
※
このシグレとナギサの舌戦を書きたかったが為のタイトルでした、っていうオチ。舌戦って言うほどでもないかも
多分なんか読み込めば読み込むほどガバが見つかると思うのでこの辺は雰囲気で読み飛ばしてください...想定よりボリュームが大きくなっちゃって急ぎ足だったのと、シンプルに私の頭が足りてない... - 119二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 23:51:51
だからシグレにしては珍しく挑発的な語りでナギサを煽る必要があったんですね(メガトン縄抜けナイフ)
去年の前科からすると割とシグレも裏切者候補に見えそうですけど、この辺はわざわざ主犯格のノドカの助命嘆願など穏当に収束させようとしている行動で一旦容疑者からは外したって感じなのかなあ - 120125/01/30(木) 00:17:56
※
あんまり自慢げにお見せできる程じゃない落書きなんですけど、ちまちま描いてたのがまぁまぁ形になったので、間宵シグレトリニティEdition置いておきます。服のセンスとか欠片もないけど、もこもこのロングコートとか着てたら可愛いなって思って...
元ネタ氷の床だったよね...。レッドウィンターで一敗ぐらいはしてそう
ナギちゃんが引くぐらい働いてたから、まさか無いやろ...とか、やろうと思えばあの時結構なんでも出来たしな...って思考に至った感じ
シグレ自体は平気そうだけど、ノドカとくっつけると取り込まれて、歯向かわれた時ヤバい敵になる可能性も考慮していたかもしれない。現ナギちゃん視点はその疑惑も出てきてるだろうし
- 121二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 01:53:28
- 122二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 02:48:33
ノドカのためならこのくらいはやってのけるという謎の信頼がある>シグレ
ほんへ知ってるとこのやりとり見ても「お労しやナギ上…」になる
- 123125/01/30(木) 11:48:22
※
あぶな~~い - 124125/01/30(木) 19:58:16
闇夜に包まれたトリニティに、五つの人影。
「……チームIV、到着」
彼女らはトリニティの風景に似つかわしくない、重厚な武装を身に纏っている。
「特段変わった様子は無し、警戒も予想通り」
揃いで装着しているガスマスクが素顔を、その表情に彫り込んだ憎しみを、覆い隠す。
「チームV、チームVI、チームVIII、全て準備完了との事です」
通信機を手に持った一人が、小隊長らしい一人に声を掛ける。
「ターゲットの位置は確認済み。予定通り作戦を開始する」
銃を、掲げる。空高く、銃口を────桐藤ナギサが隠れ潜む、真正面の建物に向ける形で。
「総員、前へ」
髑髏紋様の復讐者達は────音も無く、足並みを揃え、トリニティへと侵攻を開始する。
謀略渦巻く、激戦。その火蓋はきられて。 - 125二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 19:59:02
やっぱ2時間短くなったの厄介だな
- 126125/01/30(木) 21:18:55
「…お」
小さな地響きが、シグレの身体を揺さぶる。時刻は2時。日はまだその気配も見せていない。
意外に早いじゃん、なんて呟きながら、シグレはスマホ画面を叩く。
『“始まってる”から、派手にしちゃってもいいと思うよ』
少し遅れて届いた二文字の返事に、満足そうな笑みを浮かべたシグレは、スマホを仕舞ってもう一度、窓の外を眺める。
…丁度、その時。建物と建物の間から見える向かいの通りを、数人の人影が駆け抜けていくのが目に映った。
「……アレか」
薄暗い街を遠目に見ての事だ。流石に、武装や顔まではっきり見えるほどシグレも鳥目ではない。だが、シルエット位なら何とか捉えられる。
────トリニティじゃ見た事無い装備と、部隊の形式。外部戦力を招き入れた形かな。
シグレが補習授業部から得られた情報と、共有した作戦は以下の通り。
桐藤ナギサの目的は“トリニティの裏切り者”を探し出し、それを除く事。補習授業部はその為に作られた組織だが、実際の所は真にナギサの言葉通りの意味の“裏切り者”が誰なのかまでは分かっていない────とは言うが。
白を切るにしても、それは流石に。と、メッセージを受け取ったシグレは、画面越しに顔の見えない浦和ハナコを浮かべて苦笑いをした。
信頼できる情報源から、第三次試験当日の明け方。“裏切り者”の手引きにより、トリニティの学園内で騒ぎが発生する事を把握した。目的は桐藤ナギサ。勝利条件はトリニティの転覆を目論むそれらの目標を阻止し、補習授業部が五人そろって第三次試験を受ける事。
シグレ達“協力者”は学園内、動きやすい場所で待機。騒ぎの発生に乗じた陽動により、一人でも敵の目を分散させつつ、可能であれば補習授業部と合流を果たし、桐藤ナギサの護衛と事態の迅速な収拾を行う。
そして、シグレ個人にはもう一つのミッションが課されている。 - 127125/01/30(木) 21:24:21
「────」
がちゃりと音を立て、鍵が開く。ノブが回るのを見て、一瞬呼吸を止めたシグレ。
────来た。
扉が開き、廊下の照明の明かりが静かに差し込むのを見て、肺に溜まった空気を一度に吐き出し、真っ直ぐに扉の向こうに居るであろう人物の姿を見据える姿勢を取る。
「────あれ?縛られてるって聞いたんだけど…縄抜け?器用だね?」
────やっぱり、か。
浦和ハナコの推測と、それを基盤に据えた作戦を受けたシグレが辿り着いた結論。
その回答の答え合わせが、逆光を浴びたシルエットの形で、シグレの前に。
彼女らが想定する限り、最悪の模範解答を叩き出した事を知らせる様に、現れた。
「会った事はあるけど、殆ど初めましてみたいなものだよね。こんばんは────聖園ミカ、様?」
軽口の応酬。笑みを浮かべて言葉を返すシグレだが、その頬は強張っている。
ふんわりとウェーブのかかった、桃の髪。腰辺りまで伸びるボリューミーなそれを、静かに揺らし。一般的なティーパーティーの制服も、彼女が着れば美しいドレスに早変わり。幼さの残る顔に丸く大きな目。華奢な体。事も無げに片手に携えた短機関銃の銃口は、床を向いたまま。
昨年度の二大“優等生”が揃って導き出した解答。トリニティ総合学園生徒会組織ティーパーティー、パテル分派代表もとい────“トリニティの裏切り者”候補、容疑者筆頭が、姿を見せる。 - 128125/01/30(木) 23:00:14
────さて。状況を整理しよう。
間宵シグレ。放課後スイーツ部所属、至って普通の二年生。所持品はスマートフォンと折り畳み式のナイフが一本。着ている制服は兎も角、その上から羽織ったロングコートも手札として数えられるだろうか。
愛銃は、持ち出していない。ナギサに没収される事を危惧した為だ。何せ、「これ」を済ませて終わり、という簡単な話ではないのだから。────そもそも室内でグレネードランチャーをぶっ放してどうなるか、という話であるが。
身体能力という観点で言うと、同年代の生徒と比べて、シグレのそれは意外にも高い水準にあると言える。幼少から行っていた狩りの経験で作られた身体の基礎を、自主トレで最低限保っている形。────だが、ノドカの退学関連で駆け回っていた時にルーティンが崩れている。既に全盛とは言えないだろう。
聖園ミカ。ティーパーティー、パテル分派代表の三年生。武装と呼べるものは手に持ったサブマシンガンが一丁。小道具を隠し持っている可能性は────無い、と、シグレは断定する。ノドカの関連で駆け回っている中、ティーパーティーの会合に同席した際などに、彼女の人となりをそれとなく知る機会はあった。
シグレの知る限り、聖園ミカは一言で言えば単純な性格をしている。それでなくともシグレ一人への警戒度はそこまで高く無い筈だし、そもそも向こうはここで戦闘になる想定などしていないはず、という事もある。現在のミカが八つ当たり以外の理由で、ここでシグレを仕留めに来る理由は無い。
力を根幹に据える、パテル派の代表。眉唾物だと信じたい噂も聞く。例えば、“トリニティの戦術兵器”────正実の委員長、剣先ツルギに引けを取らない実力の持ち主だとか。────実際の所は別としても、どのみち戦闘にもつれ込む様な択は下策と言う他ない。
シグレに課されたミッションは、「“裏切り者”の特定、次いで誘導」。“特定”とは、言い換えれば、「聖園ミカにかかった疑惑の真偽を確定させる」事。尤も、態々シグレの下を訪ねてきた時点で、既に前者は達成しつつある。 - 129125/01/30(木) 23:06:15
- 130二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 01:36:19
深夜帯にレスしても、下手すると次の昼まで保たないというのは中々厳しい
SS完結まで落としたくはないけど、夜分以外はなかなかレス出来なくてねえ - 131二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 08:41:20
※
- 132二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 14:36:45
やっと追いついた
めっちゃおもろい - 133二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 18:00:50
シグレ達の推測が正しければ、聖園ミカはトリニティに侵攻しつつある敵対勢力の指揮官に当たる存在。つまり“裏切り者”勢力の頭────本人である。
最終的な目標である「事態の収拾」には、シグレ率いるスイーツ部の協力で可能な限り敵戦力を散らした上、先生と補習授業部の下へ聖園ミカを誘導し、全員で囲んでの制圧になるが────。
「そういえば、ちゃんと喋った事無かったっけ?初めまして、シグレちゃん。よく晴れた夜だね。…まぁ、星を見るにはちょっと外が騒がしいけどさっ」
今ここで問題となるのは、彼女が何の意図でシグレの下を訪れたのか、だ。
「…ご配慮どうも。一応私、ティーパーティーに喧嘩売って軟禁されてる身なんだけど……何の用?ここからあなたの権限で出してくれたりする感じ?」
縄の件には特に深入りしないミカ。態度を見るに、どうやらシグレの監視や逃げ出していないかの確認に来た訳ではないらしい。
「縄抜けは出来たけど鍵までは無理で、途方に暮れてたってトコかぁ。ふふっ、どうしよっかなぁ?」
唇に細い人差し指を当て、身体を横に曲げる様に大袈裟に首を傾げながら、ミカは続ける。
「ここから出て、何をするの?ああ、それは聞かなくてもいっか。────補習授業部の、ノドカちゃんの事、助けに行くんだもんね」
「────!」 - 134125/01/31(金) 18:06:38
「奇襲、って聞いた時は一瞬ナギちゃんにバレてたかなと思って、肝を冷やしたけど…あの子。白洲アズサが裏切った、って聞いて、むしろちょっと安心したよ。私達の作戦をお漏らしして、ナギちゃんを一足先に確保。こっちの勝ちの目を先に抑えて待ち構えよう、って魂胆な訳ね」
────ビンゴ。だが、最悪の状態。
「ふふ。だから、これから直接居場所を“聞きに”行こうと思ってたところだったんだけど…そういえば、直前のタイミングでナギちゃんにさ。あんまりにも怪しい行動をしてる子が居たよね?」
「…何のことやら」
つまるところ、ミカの目的は────。
「交渉だよ、間宵シグレ。こっち側に着くなら、私がホストの座に就いた時に補習授業部全員の退学を取り消してあげる。手始めに────あの子達がナギちゃんを、何処に隠したのか。教えて欲しいな☆」
────尋問。
手数と策を備え、迎え撃つ準備を整えた補習授業部の面々よりも、囚われの一個人であるシグレから情報を吐き出させる方が合理的、という判断だ。
唯一、その選択に誤りがあるとすれば────シグレに補習授業部の立てた詳しい作戦が伝わっていない可能性を、除いて居ないという一点。
伝える情報を最低限に抑え、情報が漏れる事を危惧した、ハナコの采配。シグレは現在トリニティを侵攻する、ミカの私戦力────アリウス分校の存在すらも知らない。知識さえあれば、あるいは推測の果てにハナコの様にそこまで辿り着けたかもしれないが────補習授業部入りを目指すシグレの『努力』は、伊達ではなかったという事だろう。
ハナコも、これを見越してナギサに喧嘩を売らせたというのだからとんでもない。そして、彼女がその状態のシグレに、真に何を求めているかまでも、シグレは理解した。
ミカはシグレから情報が聞き出せないとなれば、どのみち補習授業部の下へ向かうだろう。シグレが誘導するまでも無く、恐らく連絡を取り合っているであろう私兵たちから情報を得て。
つまり、シグレに課された『誘導』とは、言い換えれば『時間稼ぎ』。補習授業部とスイーツ部の面々が可能な限り敵戦力を削るまで、ミカを引き付けて囮をしろ、という話である。 - 135125/01/31(金) 18:55:27
「────」
まさしくトカゲの尻尾切り。我ながら末端も末端、割を食うだけの立ち位置に腰を据えてしまった、と自嘲的に鼻を鳴らすシグレ。
ロングコートのポケットで、スマホが二度、バイブレーションを鳴らす。音が服に吸われ、ミカの耳には届かない。
ゆっくりと、窓枠から手を離し、ミカの方へ二歩前進。
「ノドカ達は、君の救いの手が無くても絶対に合格するよ」
はっきりと。身長差1cmの相手の顔を真っ直ぐ見据え、意地悪く笑みを浮かべるシグレ。
交渉決裂の合図は、直後。
────シグレの後方で起きた、閃光と爆音によって、盛大に飾られる。
「な────!」
「────おまたせ、シグレ!!」
爆音の向こう側。後方から響いた声音。シグレが、にっと笑顔を浮かべる。目は向けず。代わりに、片手を上げて。
「────飛び降りて!!」
友人への信頼。臆することなく、変わらずミカの方を真っ直ぐに見据えたまま、床を強く蹴って自身の身体を後方へ撃ち出す。
夜風が冷たい。空調の効いた室内からいきなり飛び出たのだから当然だが、肌寒い。夜空が、満天の星の下に身を投げ出したシグレの身体から、落下の勢いで更に温度を奪っていく。
自由落下。目を閉じて、四階から。
静かに、重力に、従うままに。落ちて、落ちて────。 - 136125/01/31(金) 19:08:13
────ぼふん。
「げふっ────」
柔らかい感触に体が包まれる。衝撃を殺し切れたとは到底言わないが、硬い地面に身を打ち付けるよりは断然マシだ。
「…遅かった分の仕事はしたね、カズサ」
「あんまナマ言ってると置いてくよ────!?」
山の様に積み重ねられた毛布。どこから持ち出したのか、その所在は今更聞くまい。
中央に埋もれ、ポケットに手を入れたまま、快適な寝心地の空間に身を埋めるシグレ。その腹部に、先程建物の壁を破壊するのに使ったシグレの愛銃────グレネードランチャーを放り、手を引いて起き上がらせるカズサ。
その頭上を────。
「「────!!」」
隕石でも墜落したかと紛う程の地響きと、轟音。トリニティの整備された道が砕け散り、破片が飛び散って数瞬、雨の様に降り注ぐ。
「────そういう腹積もりなら、仕方ないじゃんね」
爆心。布団の山から少し逸れた地点。陥没した道路の真ん中には、桃髪の天使が、一人。
びりびりと、空気が震える様な威圧感。まさかそれが、160cmに満たない童顔の少女が発した、たった一言の敵意のみで構成された物である、などと誰が信じるのだろうか。
少なくとも、ここに二人。
蛇に睨まれた蛙の様に、刹那を脳内で無限に拡張し、身体を硬直させたカズサとシグレだけは、否が応でもその現実を受け入れざるを得ない。
「────カズサ」「シグレ────」
二人の声が、重なる。
「「────逃げるよっ!!!」」