- 1二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 16:08:57
蹄鉄の重い足音が遠くから聞こえる。応援する声、落胆のため息。見定める容赦のない大人達の呟き。それらが風にのって暗く冷たい廊下にまで届き、待機しているウマ娘達の緊張感を高めていく。
今日は定期開催される選考レースの日。入学して三度目となる開催だ。はじめはただ一生懸命走るだけだった新入生ウマ娘たちも、三度目ともなれば選考レースの重要を理解しはじめている。それゆえに、待機場の彼女たちの表情は硬かった。
スワローウィローも鏡の前で最後のチェックをしていた。
「一番綺麗な練習着にしたし、シューズも蹄鉄も完璧。ゼッケンも歪んでないし、耳の手入れもオッケー、尻尾は昨日たっぷり手入れしたし、ピンはちゃんと磨いたし……」
同室のデリバーステッカーに頼んで手伝ってもらい、ヘアピンが映えるように前髪に編み込みをいれてもらった。真っ黒な髪を留めるヘアピンは、スワローウィローを励ますようにピカピカと輝いている。経年劣化でその色は褪せたせいで、ピンを覆う淡い緑色は彼女の瞳とちょうど同じ色になっていた。
「3レース目待機の生徒、集合してください」
アナウンスを受け、番号通りに整列する。誘導する教官について地下道を抜けると、やわらかな日差しが降ってきた。ターフにはすでにゲートが用意されている。冷たい金属製のゲートは狭く、怖がって足がすくんでしまうウマ娘もいる。しかしスワローウィローはすんなりとゲートに入った。
スワローウィローだってゲートは怖い。けれど彼女はこのレースに賭けているのだ。今日までにできることは全てやった。準備に不足はなく、コンディションも万全だ。一番ピカピカに輝く自信がスワローウィローにはある。
「このレースで勝って、絶対に……絶対におねえさんに認めてもらうんだ!」
スタンドに一瞬だけ目をやる。スタンド席の三階に佇む人影は自分を見ている。そのはずだ。
息を深く吸い込む。つま先に力を込める。
ゲートが開く鈍い音がして、スワローウィローは一歩目を踏み出した。 - 2二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 16:09:26
「断る」
「なんでっ!?」
ノータイムだった。契約の一文字も言わせることなく下された決断に、スワローウィローは叫んだ。
「一番とったんですよ、わたし。一番です。しかも二回!まぐれじゃないです!」
前回の選考レースでもスワローウィローは一着だった。しかし目の前の女性、善田トレーナーは首を縦に振ってくれなかったのだ。
「まぐれじゃないのはわかった。良い走りをしていたとも思う」
「それなら!」
「でもダメ」
「なんッ!で!ですか!」
いまにも噛みつきそうな勢いのスワローウィローにも、善田の仏頂面は揺るがなかった。
「キミ、芝ウマ娘でしょ。私はダート専門」
「嘘だ!わたし、知ってるもん。おねえさんの担当してる中に芝のウマ娘がいるって!」
「チッ……調べやがった。おいそこ、見てないでクールダウンちゃんとやんなさい」
「は,ハイ!」
様子を伺っている野次馬のウマ娘達が怯えまじりの顔で距離をとる。
黒いブルゾンに紫の大きなサングラス、男性並みの長身と威圧感のある声のせいで、たいていの新入生ウマ娘は萎縮する。怯えていないのは目の前でぷりぷりと怒っているスワローウィローぐらいだ。
「度胸は認める。でもダメなもんはダメ。諦めて他をあたりなさい。声かけてもらったんでしょ、他のトレーナーにも」
「いやです。わたし、絶対におねえさんに教えてもらうって決めてここに来たんです。だから、」
「却下。おーい、ちょっと、この子回収して」
「ハイ!ほら、行こ、スワロー」
クールダウンを終えた子達がスワローウィローの肩を叩く。
「ゼンタおねえさん!」
「ヨシダだって言ってんでしょ。はい、お疲れ〜」
「待て!おねえさん!わたしの話は終わってない!」
話を打ち切って背を向けるトレーナー、追い縋ろうとするウマ娘。ほとんど修羅場だ。
「スワロー、もう帰ろうって。ほら、飴あげるからさ」
「グミもつけたげるから、ね」
宥めるクラスメイトに抱えられ、引き離されていく。
「ぜったい、ぜーったい、契約するって言わせてみせるから!」
遠ざかっていく善田の背にスワローウィローは声を張り上げた。しかし善田は振り向くことはなかった。 - 3二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 16:09:48
「また断られたの?粘るねえ、スワローも」
スワローウィローが膨れ面で帰って来たのを見て、デリバーステッカーは大体のことを察した。
「だって約束したもん、あのとき」
「もう十年前の話でしょ?忘れてんじゃない?」
スワローウィローとトレーナーの『エピソード1』は、同室になった日から何度も聞かされている話だ。
「忘れてない。だって、トレセン学園に来た時真っ先にわたしのこと見つけてくれたんだよ?助けてくれたんだよ?運命だよ、これは!」
「はいはい、聞いた聞いた。転びそうになったところを助けてくれたんでしょ」
スワローの中でこれはエピソード3にあたるらしい。2はなんなんだと思うが、敢えて聞いてはいない。デリバーステッカーは賢かった。
「かっこよかったぁ、おねえさん」
「それもう百回聞いた」
「あと五百回聞いて」
「ムリ。ほら、電気消すよ。明日も朝練あるんだし」
今回の選考レースは出場しなかったが、デリバーステッカーの選考レースも近いのだ。明かりを消すと観念したのか、スワローウィローも渋々ベッドに入った。
「……ねえ、デリバー。おねえさん、どうして契約してくれないんだろう」
「そりゃ、アンタが芝ウマ娘だからでしょ」
「でもオーロラクラック先輩は芝ウマ娘だよ?」
一度だけゼンタというトレーナーを見たことがあるが、側にいたのはカレットパレットというダートウマ娘しかいなかった気がする。
「まあ、なんかじじょーがあんでしょ。もうねようよ」
「……一番になれば認めてくれると思ったのに」
隣のベッドから溢れた声は湿っていた。
「……ねえ、やりかた変えてみれば?」
「やり方?」
「一番になる以外でさ、なんか他にもあんじゃないの、アプローチの仕方が」
トレーナーとの契約は選考レースなどでのスカウトがほとんどと聞くが、勝利しなければ契約できないというわけでもない。名ウマ娘のインタビューを読んでいると、レースはあくまで決定打であり、そこに至るまでに様々な出会いを経ていることが多い。
「他の手段、か……」
どうやら納得してくれたらしい。スワローウィローがなにごとか呟いているのを聞き流しながら、デリバーステッカーは眠りについた。
- 4二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 16:12:04
このあとどうするか決めてないから🎲を振るよ
dice1d6=1 (1)
1 手紙でアピール乙女心
2 プレゼント大作戦
3 ダートも走ってみよう
4 将を射んと欲すればまずはウマ娘を射よ
5 法の範囲内で弱みを握ろう
6 押してダメなら押し倒せ!ゴリ押し
- 5二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 17:27:02
出勤すると、デスクの上に見慣れない封筒が置かれていた。宛名を見ると、ひょろひょろとした字で善田トレーナーとだけ書かれており、差出人の名前はなかった。
「あの、この封筒いつからありました?」
隣のデスクで仕事をしていたトレーナーが顔をあげた。
「僕が来た時にはもうありましたね。郵便にしては早いなとは思ったんですが」
トレセン学園宛に来た郵便物は一旦事務の方で仕分けされてから届けられる。しかしこの封筒には切手すら貼っていなかった。
「いたずらですか?それとも担当ウマ娘から?」
「いえ、うちの担当ウマ娘の字じゃないですね」
「それじゃあイタズラですかね?それにしてはけっこう分厚いような……」
「そうですね。とりあえず開けてみますか」
持ってみたところ、紙以外の感触は感じられない。善田は慎重に薄緑色の封筒を開いた。
『拝啓 善田トレーナー
新録が目に鮮やかな季節となりましたたが、おトレーナーにおかれましてはますますご建勝のこととお鹿び申し上げます。
十年前は故郷でお目にかかり、お話を司うことができこと、心より感謝しております。あの時、トレーナーのお言葉が私に新たな目標と走る意欲を与てくださいました。そのきっかけがなければ、私は今日の自分にはなれなかったと感じております。
このたび、選考レースで一番良い成積を収めることができました。これもひとえにトレーナーのご指道とお助言のおかげです。本当にありがとうございました。さらなる高みを目指して走り続けたいと思っておりますので、もしご可能であれば、改めてトレーナーのご指道をお願いできねばと存じます。
これからもおねえさんのご健康とご多幸をお祈り甲し上げます。最後に改めて、私をみちびいてくださったトレーナーへの感謝をお伝えさせていただきます。
敬貝』
「……」
誤字脱字がひどい。
善田は額を押さえた。
手紙の中にも差出人は書かれていなかったが、手紙の主が誰なのかはすぐにわかった。
「スワローウィローだ」
「スワローウィロー?ああ、一昨日の選考レースで一着だった」
同僚も覚えていたらしい。
「1,600……1,800はちょっと厳しいかな。でもそのぐらいは走れそうなウマ娘ですよね」 - 6二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 17:27:30
このレスは削除されています
- 7二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 17:30:23
なかなか手強い善田トレーナー攻略に向けて再度ダイスを振ります。
dice1d4=2 (2)
1 ダートも走ってみよう
2 将を射んと欲すればまずはウマ娘を射よ
3 押してダメなら押し倒せ!ゴリ押し
4 運を天に任せてチャンスを待つ
- 8二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 17:47:47
多くの契約はトレーナーからウマ娘に対してもちかける。トレーナーは契約を取るために在籍するウマ娘のデータに目を通して把握しているが、ウマ娘がトレーナーの名前を把握しているケースは少ない。契約して初めてトレーナーの名前を知ってもらうのがほとんどだ。
「羨ましいな、滅多にないウマ娘からの逆指名ですよ」
「そう言われましてもね……」
「彼女に何か問題でも?」
「芝ウマ娘なんですよ、あの子」
「ああ……そうか、善田さん芝のウマ娘ってあんまり担当してなかったですもんね」
現在善田の指導する担当ウマ娘は二人。そのうちの一人、オーロラクラックは芝ウマ娘ではあるが怪我からのリハビリを目的にしており、レースの指導をしたことはない。
「でも資料見る限りダートが走れなくもない感じなんですけど」
ウマ娘の家庭調査書には親族にウマ娘がいる場合、その成績も記載されている。スワローウィローの家は姉も含めて全てダートウマ娘だ。芝を走っているとはいえ、ダートの才能も持ち合わせている可能性がある。
同僚の言葉に善田は苦笑した。
「芝が走れるなら芝の方で出るべきでしょ」
スマートファルコンをはじめとしたアイドルウマ娘のおかげで、ダートレースも盛り上がりをみせているとはいえ、やはり芝のレースと比べると盛り上がりに差があることは否めない。ダートのクラシック三冠も存在する。けれど世間一般にクラシック三冠といえば芝のレースを指すのだ。
スワローウィローにはその芝を走れる能力がある。それなら芝の指導ができるトレーナーを選ぶべきなのだ。
「でももったいないなぁ、そんな熱烈なラブレターを貰えるなんて、それだけ善田トレーナーに思い入れがあるんですよ」
「ただの思い出補正ですよ」
手紙を封筒に戻すと、デスクの引き出しに放り込む。スワローウィローの資料は再び未所属ウマ娘のファイルに戻され、棚に戻されていった。
後日、スワローウィローの部屋に大きな封筒が届く。芝ウマ娘の合同トレーニングの案内書と共に、漢字ドリルが添えられていた。 - 9二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 17:48:24
ちょっと間違えたので訂正しました。
ダイスを振ってから続きを書くので遅いですが、スレを落とさないようがんばります。 - 10二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 17:56:19
支援
- 11二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 18:33:23
続きを書くまでの間に登場分のウマ娘を紹介しておきます。書いてる間に生えて来たキャラクターもいるのでまとめないと忘れそう。
スワローウィロー 中等部一年 栗東寮
黒鹿毛 耳飾りは左
未出走
芝1,600〜1,800mのレースを想定
前髪は七分ぐらいで分けてあり、緑色のピンで留めている。同室のデリバーステッカーが編み込みをしてくれる日もある。
尻尾長め。
普段はおとなしいが善田トレーナー絡みになると強火になる厄介な子。国語の成績は良くない。 - 12二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 18:33:58
デリバーステッカー 中等部三年 栗東寮
鹿毛 耳飾りは左
未出走
ダート1,600のレースを想定
前髪は短く眉上。癖毛のショートカット。
実家は運送業を営んでいる。シールを貼るのが好きで、持ち物にはポップで大きめのステッカーを貼っている。もちろん実家の会社のステッカーも貼っている。デザイナーに憧れている。
オーロラクラック 高等部二年 美浦寮
芦毛 耳飾りは右
芝2,000〜2,200
クラシック現在一勝クラス
前髪真ん中分けミルキーホワイトのセミロングの困り眉。おっとりした性格だが、走る意欲は高い。怪我により前トレーナーとの契約を解消、善田トレーナーの元でリハビリ中。 - 13二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 18:34:32
カレットパレット 高等部二年 美浦寮
栗毛 耳飾りは左
ダート1,600〜1,800
クラシック現在二勝クラス
キャラメル色のサイドテール。さっぱりした性格。面倒見が良い。重賞勝利目指して頑張っている。オーロラクラックに善田トレーナーを紹介した。
善田トレーナー
身長172センチの長身。二十代後半。
紫の大きなサングラスがトレードマークになっている。光過敏なのでナイターのレースでもサングラスをしていることがある。
ゼンタではなくヨシダ。
スワローウィローとは同郷らしい。 - 14二次元好きの匿名さん25/01/22(水) 18:34:54
嬉しい。読んでくれる人がいるとわかると頑張れます。頑張ります。
- 15二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 01:07:09
漢字ドリルわらったw
- 16二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 03:23:05
既読スルーじゃないだけ優しいなw
- 17二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 12:39:57
オーロラクラックがトレーニング場所を変更したいと言うのでグラウンドに来てみれば、なぜかそこにはスワローウィローまでいた。まだ綻びもない真っ白な体操服には仮のゼッケンまでつけてある。どうやら走るつもりでいるらしい。
「諦めの悪い奴だとは思ったけど、ここまでとは」
「だってわたし、まだ三回しか断られてないですから!」
「十分だと思うけど?」
「これまでのやつはサンゴの礼って言うんですよね。だから今日はきっと大丈夫だと思うんです!」
何が大丈夫なのだろうか。そしてその自信はどこから来るのだろうか。三顧の礼のことを言っているのだとしたら、すでに手遅れなのだが。
色々言いたいことはあるが、ひとまずそれらは飲み込んで、担当ウマ娘へ向き直る。
「オーロラはなんのつもりなんだ。今日は室内トレーニングの予定だったろ」
オーロラクラックは半年前に足首を故障し、善田の元へ来たウマ娘だ。芝を走るウマ娘だが、リハビリ目的でならという理由で契約をした。故障さえ治れば確実にオープンウマ娘にはなれる実力の持ち主だ。
「ンフフー、今日は足首の調子がいいから、せっかくだしスワちゃんと並走してみよっかなって」
「君ね……」
契約をとりつけたいがあまりオーロラクラックを焚き付けたのか、とスワローウィローを睨むと、オーロラクラックが慌てた。
「ちがうよぉ、私から誘ったの。一緒に走ろって」
スワローウィローがグラウンドの隅でダンゴムシを眺めているのを見て、不憫に思ったらしい。オーロラクラックから言い出したのなら仕方ない。善田は諦めのため息をついた。
「オーロラ、足見せて。前後に動かしてみて。そう……痛みは?」
「ないよ〜」
彼女の足首の骨自体はほぼ治っている。だが善田はまだ無理をさせたくなかった。
念のためテーピングを巻き直し、動きの確認をする。オーロラクラックの表情を見る限り、痛みがないのは本当のようだ。
「三本までならいいよ」
「やったぁ。トレーナーありがと」
- 18二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 12:40:11
ちょうどコースが開いた。ゴール位置にはカレットパレットを立たせ、二人をスタート位置に並ばせる。コーナーでの負荷を考え、オーロラクラックは外枠を意識した位置に。スワローウィローを内枠に立たせる。
「距離は1,600m、コーナーは二つ。今回はコーナリングで無理に体を傾けないようにしなさい。まだリハビリの範囲だ。ちゃんとセーブをするように」
「はぁーい」
「おねえさん、わたしは?わたしには?」
「……好きに走りな。Ready,set,……GO!」 - 19二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 12:40:36
トレーニング
芝 距離1,600m 晴 良
dice3d4=4 2 3 (9)
1 オーロラクラックの勝利
2 スワローウィローの勝利
3 オーロラクラックの勝利
4 同着
- 20二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 12:43:33
思ったより悪くない結果が出てしまいました。
ちょっと今後を考えつつ続きを書いていきます - 21二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 16:12:11
- 22二次元好きの匿名さん25/01/23(木) 18:43:48
バッチリ覚えてるし、なんならちょい避けてたまであるやつです