- 1二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:00:06
なに、これ……。
イライラするし、ムカついてくる。
隣にいるこいつも知らない奴だけど気に入らない。
ほら、周りの連中もみんな暴れ出してる。
ならアタシもいいよね?
手始めに隣にいるこいつを殴ってやろう。
名前も知らない、たまたま隣にいただけだけどそんなことはどうでもいい。
アタシの隣にいたのがいけないんだ、大人しく殴ら
「ぐっ…!?」
え…?
なんでアタシが殴られてるの?
アタシが振りかぶるよりも先に隣にいた奴が手を出してきていた。
それも手の平ではたくなんて生やさしいものじゃなく握り拳での一撃。
ふざけないでよ、アンタがやるつもりならアタシも
「がっ…!」
そんなアタシの肩にもう一撃。
そのまま両肩を掴まれてアタシは床の上へと押し倒されていた。
- 2二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:01:27
「離して…!」
床に叩きつけられ胸の中の空気が無理矢理吐き出される。
そのまま伸し掛かってくるコイツが腕を振りかぶるのが見えた。
「ぐっ…あ、くぅ…」
すぐさま両腕で顔の前に盾を作る。
アタシの腹の上に跨ってマウントを取ったコイツが躊躇なくガードの上からその拳を振るう。
「このっ…大人しく…しなさい!」
「!?」
「この、このっ…!」
コイツもアタシと同じでイラついてる?
だからってこのまま殴られてるのなんてふざけるな、一発やりかえして
「……っ!」
しまった。
何度も殴られ続けていた腕が弾き飛ばされ、顔面の前が開いた。
痛みと痺れで自由の利かない腕は瞬時には戻らない。
「……」
コイツ…笑ってる。
勝ちを確信して、無防備なアタシの顔を見下ろしながら笑ってる。
ちくしょう……。
アタシはぎゅっと目を閉じるしかできなかった。 - 3二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:02:32
真っ暗な視界の中。
次に瞬間に伝わってきたのは、頭上で何かに金属がぶつかる音。
上半身が潰され、後頭部が床に叩きつけられる痛み。
そして……唇に触れた柔らかな感触だった。 - 4二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:04:37
「!?」
思わず見開いた目の前にはさっきまでアタシを殴ってきていたトリニティの子。
その向こうにパイプ椅子の足を掴んだミレニアムの生徒がいた。
「んっ、んんっ!?」
パイプ椅子を持った奴はアタシたちに構わずに周りの生徒へと襲い掛かる。
奇声を上げながら椅子を振り回すも、別の生徒に取り押さえられ袋叩きにされる。
「……」
そしてようやくアタシは今の状況に気が付いた。
今、目の前にこの子はさっきまでアタシと殴り合っていたトリニティの子だ。
そしてこの顔の近さと唇に感じる柔らかさ。
まさか……。
「ん…んん……?」
トリニティの子もようやく気が付いたのか、ゆっくりと目を開く。
まだ現状を理解していないのか、ゆらゆらしていた瞳が落ち着いて。
アタシと目が合った。
「……?」
「……」
「ひゃ……あ、あわっ!」
物凄い速さで顔を引きあげる。
そりゃあ殴り合っていた相手と……キス、してたんだから。 - 5二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:24:27
「え…あ、わ、私…」
アタシのお腹の上で自分の唇に両手の指先を当てて困惑している。
とてもさっきまで笑いながらアタシの顔目がけて拳を振るっていたのと同じ人物とは思えない。
ただ、分かるのはアタシもこの子ももう目の前の相手を殴ってやろうなんてことは考えてはいないことだった。
「はっ…あ、あの、お怪我はありませんか!?」
今更それを聞いてくるか。
そりゃあさっきまでのアタシたちは何かおかしかった。
「とりあえずはね…」
「私、さっきまで貴方を…申し訳ありません!」
「あぁ…」
「あまつさえ…その、キ、キ……」
消え入りそうな声で「キス」と囁いた顔は次第に真っ赤に染まっていく。
言いたいことがあるのはこっちなんだけど…。
「とにかく……」
「は、はい…」
「あたしの上からどいてもらえると助かる…」
「え、あ…は、はいぃ!」
ようやく自分が人の上に脚を広げて跨っていたのに気が付いたのか。
慌ててアタシのお腹の上からどいてくれた。 - 6二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:27:06
「気が付くのが遅れて申し訳ありません!」
「いいよ…それよりいっ…!」
「!?」
アタシも体を起こそうと、体の横に手を着いた瞬間。
支えにしようとした腕に痛みが走り、くぐもった声が口から零れてしまった。
「大丈夫ですか!?」
どう見ても大丈夫じゃない…と答えるより先、彼女は膝を着いてアタシの手を取る。
白いスカートが汚れていくのも構わずに、腕の下に体を入れて。
背中を支えてくれながらアタシを抱き起こしてくれた。
「…ありがと」
「いえ、私が…貴方の腕を痛めてしまったから…」
彼女に支えられながら改めて辺りを見回す。
そこはまさに混乱の坩堝と化していた。
怒声、罵声、絶叫、悲鳴。
人の声だけでなくガラスが割れる音、物が壊れる音がフロアに響いていた。 - 7二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:39:40
「なに、これ…」
「……」
ミレニアムで騒動というのはよくあることだけれども。
これはいつもとは明らかに様子が違っていた。
よく見ればアタシたちの先にゲームで遊んでいた生徒が暴れていて。
その中心に開発者である子が大泣きして蹲っている。
壊されたブースの入り口近くにその双子の妹と部員だろうか。
二人は何もできずにただ見ているしかできなくて。
「……」
異様な光景に、トリニティの子が握っていた手が小さく震えている。
アタシはまだ痺れの残る手を添えてあげるくらいしかできないけど。
「ひとまずここから離れよう」
「は、はい…!」 - 8二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:47:17
- 9二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 15:58:43
「セイア様、お気を付けて」
「なに、外部からなにか衝撃を受ければ大人しくなる。軽い催眠状態になっているみたいなんだ」
「催眠…?」
そんなものに掛かった覚えはないんだけど…。
そういえばあのゲームを遊んでから、なんだか頭の中がおかしくなっていったような気がする。
「それが解けているということは、私が来るより先に何かあったのかな?」
「……!」
確かにあれは衝撃的だったし、おかげでその催眠が解けたのかもしれない。
だけど、隣の子は人前で唇に手を添えないでほしい…。
「とにかく、今はここから離れていたまえ」
そう言って騒ぎの中へと入っていってしまった。
「あっちにベンチがあるからそこまで行って休もう」
「はい」
トリニティの子は足元に落ちていたアタシと自分の鞄を拾いあげる。
そのままアタシに肩を貸しながら、壁際のベンチまで避難していった。 - 10二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 16:11:18
おうおうやってくれたなオイ。
スカートフェチの吾輩、左上のティーパーティーちゃんの清楚なお嬢様スカートがミレモブちゃんに覆いかぶさって広がる光景に軽く一発抜いている。
故に! この百合SSは! 吾輩に得である!!
- 11二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 16:21:27
さっきのセイア様?が取っ組み合っている生徒たちを一組ずつ落ち着かせいている。
この調子ならもうしばらくすれば騒ぎは収まるだろう。
「……」
痛めた腕に目を移す。
アタシの前には腕を手に取り、湿布を貼っていくトリニティの子がいた。
「痛くはありませんか?」
「さっきよりは引いてきたよ…っ」
「無理はなさらないでください。私が…痛めつけてしまったのですから」
申し訳なさそうな声色で湿布の上からテープを巻いていく。
幸いにも痣が残る様なことはなさそうで。
数日もすれば痛みも引くとのこと。
「それにしてもあんた、治療の心得もあったんだ」
「はい、簡単なものではありますけれど。落ち着いたら病院で診てもらってください」
「……ありがと」
「……」
落ち着いてきたアタシの様子にトリニティの子はようやく安堵したように微笑んでくれた。
……なんだろ、思わず見とれてしまったかもしれない。 - 12二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 16:31:59
「ところでさっき、セイア…さん?が言ってたけれどさ。催眠に掛かってたアタシたちが元に戻ったってやつ」
「は、はいっ。何か、別の衝撃が…っていう……」
ベンチに並んで座りなおしたアタシたち。
今は駆けつけた保安部と警備が現場を片付けていくのを見ていた。
「それってさ…やっぱり、その…」
「えっと……たぶん、キス……だと思います」
収まりかけていた顔の熱がまたぶり返りそうになる。
それは隣にいたこの子も同じようで。
頬がまた赤くなっていくのが目に入ってしまった。
「でもあれは事故みたいなものだし!」
「え…」
「よく分からない催眠状態だったし、あんたも頭を叩かれたからしちゃったみたいだしさ」
「……」
「気にしないでいいよ!あ、はは…」 - 13二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 16:39:26
モブちゃんズでこれほど濃密な百合を!?いいぞもっとやれ!
- 14二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 16:58:27
「……」
唇に指を添えて、どこかぼーっとした様子。
そうとう気にしているようで……。
「……」
アタシは鞄の中から携帯ゲーム機を取り出す。
「あのさ…」
「はい…?」
「あそこのブースにいたってことはさ、ゲームするの?」
「え、は、はい…その、嗜むくらいですけれど…」
「はい、これ。さっきのブースのゲーム開発部が前に出したゲーム。気分転換にはなるでしょ」
携帯機に入っていたゲームを立ち上げて彼女に手渡す。
「……」
「安心してよ。それをプレイしてもさっきみたいにはならないって」
「……」
ちょっとまだ不安を感じているのか、まぁ仕方ないよね。
それでも両手でゲーム機を受け取りボタンとレバーに指を添えた姿は一端のプレイヤーだ。
「それはねぇ、ちょっと難しいけれどクリアできた時の」
「あっ」
さっそくのミス。
これで最低難易度だというのだから恐ろしい。 - 15二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 17:04:17
「そこでジャンプして」
「はい…」
「その敵を」
「これでっ」
時にアタシのアドバイスで、時に彼女の判断で。
ミスを重ねながらも着実に先に進んでいく。
そして…。
「…ゴールです!」
ファンファーレとともに「Stage1 Clear」の文字がディスプレイに浮かぶ。
「貴方のアドバイスのおかげです」
「いやいや、アンタの腕前だって」
顔を向け合い、健闘を称えるように笑い合う。
まぁ、まだ1面しかクリアできてないんだけれどね。
「ありがとうございます。面白いゲームでした」
「うん…だからさ、あの子たちの作ったゲームのこと、勘違いしたままでいないで欲しいなって」
「あ…」
視界の先には懸命にブースを立て直し、ゲームの体験会を再開させようとしている部員たちの姿があった。
どう見たってあんな騒ぎを狙って引き起こすような子たちには見えない。 - 16二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 17:17:16
「もし、よかったらさ…」
「はい?」
「また並んでいかない?」
「あそこに…ですか?」
「せっかく来たんだし、ちゃんとしたのを遊んでいかないともったいないでしょ」
どうしようかと迷っているのが見て取れる。
でも…。
「まぁ…また何かあったとしてもアタシがキスして目を覚まさせてあげる」
「…!!」
「なん、て……」
「……」
「……」
ああ…アタシ、何を言ったんだろ。
彼女を誘う冗談のつもりだったのに。
「……」
そんな目で見つめないでよ。
変に意識しちゃうから。
「ほら、また始めるみたいだから。行こ?」
「…はいっ」
火照りだした顔を隠すようにアタシは一足先にブースへと向かっていった。 - 17二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 17:24:20
その日の夜……
「……」
アタシは立ち上げたモモトークの画面をじっと見ていた。
(「今日はありがとうございました。その…腕のお怪我は本当に申し訳ありませんでした!」)
(「もういいって。あの時はアタシも殴りたくなってたし…」)
(「……」)
(「それよりさ、ゲームやってるんでしょ?それならさ、アタシと友だ……フレンドになって、くれないかな?」)
(「……もちろんです!」)
そう言ってモモトークのアドレスを交換して。
アタシのフレンドコードを送って。
「……」
いつ返信が来るか分からないのに、返信がくる瞬間を逃したくなくって。
ベッドの上に転がりながら足をばたつかせていた。 - 18二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 17:35:48
なんだろ、これ…。
彼女とは今日初めて会ったばかりで。
出会い方は事件に巻き込まれたとはいえ最悪に近くて。
見ず知らずに間柄だったのに、事故とはいえキスまで…。
「……」
それでも嫌だとか、そういう感情は浮かんでこない。
むしろこうやって彼女と繋がれるのを楽しみにしている自分がいる。
「……」
知らず知らずのうちに自分の唇に触れていた。
彼女が治療で触れていた指先でそっと唇を撫でる。
自分の指先のはずなのに、そこに彼女を感じられるような気がして。
「っ!!」
アタシは枕に顔を埋めてベッドの上でじたばたと身じろぐ。
今日何度目か分からないけど、頬が熱くなっていくのを感じていた。 - 19二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 18:21:48
ピコン!
「!!」
モモトークの通知音に慌てて顔を上げる。
アドレスを交換したあの子からだと確認すると大急ぎでメッセージを開く。
そこには彼女のフレンドコードと、
『これからよろしくお願いします』
という簡潔なメッセージが載っていた。
きっとアタシの顔はまた真っ赤になってしまっているだろう。
新しいフレンドができただけなのに……ううん。
彼女はただのフレンドじゃない。
そんな特別な「フレンド」へ。
アタシはお互いが遊べるゲームの招待を送り、ボイスチャットのスイッチを入れた。
「こんばんは」
『こんばんは』
帰ってきた声に、アタシの胸が高鳴るのがはっきりと分かった…。
彼女のことをアタシは―― - 20二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 18:26:13
- 21二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 19:13:02
- 22二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 21:39:36
- 232125/01/26(日) 21:48:12
いやいやいやアレは勝手に欲望のままに口走っただけだから!! むしろあの発言がその後の展開を捻じ曲げなかったことに心から安堵しております!
小生としてはそのスチルの周囲の状況を補完して上質な百合の花を咲かせてくれた1様に感謝していますので!期待以上のものを味わうことができました!
- 24二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 21:58:36
おつでした! いやあ良いSSだった……モブ同士で生まれる関係性も素晴らしいですね!
学園交流会って本来こういう風なものだよねって思いました。 - 25二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 22:23:36
百合の花を増やすのが学園交流会・・・?いいじゃないか毎週開催して欲しい
- 26二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 23:14:31
今回EXPO会場を歩き回れたおかげでモブやネームド含めていろんなところが見られたのはよかった
それをネタにもっといろいろ見てみたいなぁ - 27二次元好きの匿名さん25/01/26(日) 23:23:50
あの学園交流会だって画面の外では先生の指揮の下モブちゃん達がわちゃわちゃ戦ってて
戦闘後に開かれた親睦会みたいのでみんなでご飯食べたりしてるかもしれないじゃないか
それで「あんたやるじゃん」「次は負けませんから!」みたいなやり取りがいくつも - 28二次元好きの匿名さん25/01/27(月) 08:44:25
ほ
- 29二次元好きの匿名さん25/01/27(月) 20:33:40
良いSSでした!
背後からパイプ椅子を振り下ろされたらそのまま前に倒れ込むだろうからキスしてもおかしくないよね