- 1二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:26:53
仲冬の寒さもわずかに緩み始めた睦月の終わり、色の淡い一枚のシクラメンの花びらがゆったりと風と戯れつつ街の上空を踊っていた。冬の風ではあるが、寒風という字面はどうも合わない。緩やかな余韻すら感じさせるように、その花びらはひらひらと高度を下げ、とある学校の中庭に降り立つ。
「あら、これは・・・シクラメンの花びら?」ベンチに腰掛けていた読書に耽っていた雄英高校2年生・八百万モモは自らのつま先を可愛らしく飾り付けた一片の花びらに、幼児に向けるような優し気な微笑みを見せた。
気品を感じさせる動作でふわりと花びらをつまみ、読んでいた本のしおり代わりに挟みこむ。頃合いを見て中庭を去る八百万の心持ちはどこか和やかであった。 - 2二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:27:43
同時刻、雄英高校2年生・轟焦斗は級友との歓談に興じていた。
「轟も分かるようになってきたな!」
同級生である峰田は友と喜びを分かち合える僥倖ににっこりと相好を崩している。
「心ってのは話さねえと分からねえだろ…?思ったんだ。生きてるうちにもっともっと色んな人と色んな話をしようって…。」
「俺はカウンセリング対象かよ~、はははは」
サイドテーブルには上等な玉露の緑茶といくつかのチョコレート菓子、そして蜜のかかったわらび餅が置かれている。
「でもよ、峰田。俺たちは17歳だ。18歳未満はこういうサイトにアクセスするのはダメなんじゃねえか?」
轟はごく真面目にヒーローたらんとしている。その誠実さこそが、彼の容姿以上に人々を惹きつけてやまないのである。 - 3二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:28:28
「まあ聞けよ。」
轟の反論など峰田にとっては最初から想定済みだったのだろう。落ち込むことも荒げることもなく、父が子に諭すような懐の深さを感じさせる語り口で峰田は言う。
「18歳ってのは何のことだと思う?」
「そりゃあ・・・大人のことだろ」
「そうだ。大人なんだ。それじゃあ聞くけどよ。“大人”ってのは歳だけ取ればなれるもんなのか?」
「っ!」
「気づいたみたいだな。そうだ、轟。“大人”ってのは“心”なんだ。心の在り方が大人を決めるんだ、轟。んで、“大人”の役割ってのなんだと思う?」
「役割・・・社会を・・・子供たちを・・・守ること・・・だろ・・・」轟は己の胸を強く打つ何かを感じている。血が、臓腑が沸き立つのを強く感じている。
「“守る”か、轟らしいな。そうだよ、守るやつが大人なんだ。守ったやつが大人になるんだ。守った経験が大人にしてくれるんだよ、轟。」峰田の口調はどこか演説がかっていて、普段の彼の言い回しとは違った印象を感じさせる。 - 4二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:29:09
「峰田・・・」
「轟、お前も守っただろ?俺も守った。俺たち、一生懸命守ったよな?」
「・・・・ああ、守った」
「なら、俺たちもう」
「ああ、悪かった、峰田。俺たちはもう大人だ。18歳以上の大人だ。」
もちろん、そんなはずはない。17歳は17歳であり18歳ではない。
このときの口八丁を峰田はこの後、友人の奇癖に大きく後悔することになるが、この時点では彼の胸に去来していたのは作戦成功と自らの手腕への賞賛であった。
彼らが歓談に興じていたのはそれぞれの自室ではなく、寮の共用スペースであった。そこに自前のPCを持ち込んでこのような話をしていたのは、この女子陣があらかた連れ立って街の方へ出かけて行ったため、寮内には女子がいないと思われていたからである。
一月の寒空の下、復興も大部分が終わった街を散策するのは、彼女たちの胸にどんな思いをもたらすのだろうか。峰田は何も語らない。 - 5二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:30:08
羞恥心やスリルというものは、人に不思議な快感をもたらしてくれる。古今東西、春になると共に様々な変態達が現れるのは、そういった人のさがと無関係ではないのだろう。峰田は女子がいないという絶好の日和をもって轟と心の底から通じ合おうという算段を立てたのだった。
それもまた、友と共に腹の底から笑い合いたいという彼のヒーロー性によるものなのかもしれない。
しかし、峰田少年最大の誤算は、女子全員が町に行ったのではなく、急な事情により、八百万が外出しておらずちょうど寮内に居たということ。そして、もう一つの誤算、いや、誤算というよりはミスというべきか、峰田は女子がいないという慢心から刺激の強いホームページを開いたままの状態で、自室に菓子や飲料を取りに轟と共に一時離席してしまったのである。
「あら、なんでしょう・・・」
結果として、八百万は誰もいない共用スペースに置かれたPCの画面を視界に入れることになる。
「これは・・・・蕎麦打ち・・・?」 - 6二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:30:26
いや草
- 7二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:31:21
あまりに脈絡のない状況がそこには展開されていた。
一心不乱に蕎麦を打つ職人とおぼしき男性。恐らくはその道の玄人なのだろう、その手の動きは洗練され一種の機能美を宿すことに成功していた。
速く走ることを追求したサラブレットや、切るという一念を突き詰めた日本刀などと同種の魅力を、その蕎麦打ちの男は備えているのは明らかだった。しかし、八百万を困惑させたのはその男の熟練の動きではない。男の傍らに緊縛された露出度の高い女性が放置されているという事実であった。
カメラアングルなどから、これが映像作品であることは間違いない。八百万の背には一筋の汗が奔り始めた。一年生の頃よりは多少世間の見識を広めた彼女である。人の性癖には様々な世界があることを理解していたつもりであった。
が、しかし、彼女の脳が眼前のビデオの内容を理解することを早々に諦めているかのように、八百万の中ではこの「蕎麦打ち」というものと性の世界がリンクしない。 - 8二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:31:41
とはいえ、彼女にも分かることが一つだけあった。それは・・・、
「なんて・・・美しい・・・」
恐らく主演であろう男の蕎麦打ちの技は、確かに美しいものであるということ。洗練された技術は人を感嘆させ、いずれは美へと至る。その蕎麦打ちは確かにドラスティックであり、エロティシズムを内包していた。 - 9二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:32:22
ドキドキという心臓の高鳴り。八百万、17歳。はじめての感覚であった。
自らの高鳴る鼓動を聞きながら、口元を押さえてぼんやりと窓の外を見る八百万。そんな折、和やかな話し声と共に峰田と轟が共用スペースにやってきた。分かりやすく狼狽してみせる峰田。事態を呑み込めない轟。頬を染める八百万。
反応は三者三様であったが、そこはやはりあの戦いを生き抜いた猛者たち。状況を収拾するための会話のひとつやふたつは当然の嗜みである。
結局のところ、三人の会話は当たり障りのないところで切り上げられ、男女それぞれの自室へと戻っていくことになったが、八百万は会話の端々からひとつの可能性へと到達していた。
(轟さん・・・まさか「蕎麦打ち」に性的な魅力を・・・?いえ、無理もありませんわ・・・殿方ですもの、あれほどのアトラクティブ・・・ああ、なんてこと・・・) - 10二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:33:11
それから1時間ほど経っての昼休み、とはいっても休日であるため彼らの自由時間に区切りはない。寮内をところなく歩いていた轟は同じく暇を持て余していた八百万を見かけた。
普段ならば空いた時間は勉学にあてている彼女にとって、あてもなくただ歩くというのは存外新鮮な心持ちである。
そこで、はたと落ち合った二人。轟の口から出てきたのは、昼食の誘いであった。
「八百万、これから飯食いに行かねえか?」
「え、ええ。昼食ですわね。喜んでご一緒いたしますわ。どちらまで?」 - 11二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:33:41
轟の性癖を把握してしまったと誤解している八百万としては、顔を合わすだけでもどこか頬が熱くなるような気がしていたが、一番の衝撃はこの後の轟のひと言である。
「蕎麦食いに行こうぜ」
「・・・・そ、そば!!!???//////」
「蕎麦打ちからやってるところがあんだ」
「そ、蕎麦打ちから!?ヤってる・・・!!?//////」
(轟さん!?まだ明るいうちから一体何を…そうですか、葉隠さんも芦戸さんも確か殿方はオオカミだと…益荒男なのだとのことでしたが、これほどとは…変化は急に訪れるのですね…)
一年生の頃ならこうはならないだろう。しかし、二年生に上がり八百万は知識を増やした。その膨大な知の泉の中には同級生たちから与えられた少々下世話な情報も含まれている。 - 12二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 15:34:13
結果として、八百万の脳は轟のランチへのお誘いを性的なアプローチと同義語として捉え、彼女の精神を大きく揺るがしていた。
だがしかし、忘れてはならない。彼ら、彼女らはあの大戦争を生き抜いた戦士たちのだということを。
一瞬の逡巡、ひとかけらの動揺、わずかな熟考と確かな覚悟・・・。半刻ほどののち、轟・八百万両名は学校近くの蕎麦屋の暖簾をくぐっていた。 - 13二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 16:16:43
博識なヤオモモなら蕎麦屋の二階が何を意味するかわかるはず…
- 14二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 16:38:18
「・・・」
「・・・」
てんぷらの衣は小気味よい音をたててまるで意思があるかのように楽し気に二人の口の中に消えていく。別段気まずいわけではないのだが、二人の間には何となく会話がなく、不思議とけだるげな雰囲気すら漂っていた。
「なあ、八百万」
「っ!?ひゃ、はいっ」
少々緊張しているのか、八百万の応答は上ずっている。丸一年もの間、芦戸や葉隠たちによる女子教育の成果によって、思春期少女・八百万へと進化した今、これまでは意識の端にすら上らなかった男子との一対一での食事という事態は、八百万の脳を揺るがしてやまない。 - 15二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 16:39:04
「汁付けすぎると香りが飛ぶっていうけどよ、俺、結構濡らすの嫌いじゃないんだよな」
「ぬ、濡らっ!?」
「そりゃビシャビシャは論外だけど」
「ビ、ビシャビシャ!?」
「旨く食えりゃそれが一番だと思う」
「美味しく頂く(意味深)!?」
完全に空回りしている八百万だが、それに気づくほど轟は女性の機微に敏い方ではない。結果として、店を出る頃にはすっかり茹でだこのようになり、事後のごとく気だるい足を引きずって寮へと帰っていくのだった。先に帰寮していた数名の女子たちに轟と一緒に外出から帰ってきたところを目撃され、当然質問の雨嵐。 - 16二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 16:39:56
トンチキテーマに対してこの文章力よ
- 17二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 17:08:42
焦凍ォォォォォォ!!!!
- 18二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 17:50:52
顔を赤らめて八百万は言う。
「轟さんは、とても・・・大胆で・・・(蕎麦を食べるのが)お上手でしたわ・・・///」
女子陣の燃え上がりは天を衝くばかり。
無理に手を出したとあれば全霊を以ての鉄拳制裁が待っているはずだが、当の本人がこれほどまでに幸せな表情で語っているのだから、これに茶々を入れるのは野暮というもの。
次はどちらから誘うのか、どんなところに行くのか、もはや女子陣の中ではすでに二人は恋人同士として成立し、その青い甘さのおこぼれを啜るのもやぶさかではない、というのが大方の感想であった。 - 19二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 18:03:07
これがお嬢様の力…
- 20二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 19:48:02
確か本家のそば打ちAVは寝取られもの?不倫もの?じゃなかったっけ
- 21二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 22:05:35
- 22二次元好きの匿名さん25/01/29(水) 22:19:37
- 23二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 00:04:11
いや…何…?この…???
謎のシチュエーションかつテーマにして文章力が高いのはなんなんだよ
続きください - 24二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 06:34:40
続きはよ
- 25二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 09:06:46
一方の男子勢、当然ながら八百万と帰寮してきた轟の姿は数名の同級生男子たちに目撃され、質問を受けることになったが、女子ほどの熱量はなく、もっぱら「どこに食事に行ったのか」「飯の値段は」「旨かったか」などなど。概して色気のない質問ばかり。
その一つ一つに丁寧に答えていく轟の心中は極めて穏やかで、友人との歓談に興じるのはなんとも言えない多幸感をもたらしてくれていた。
後日、A組の中では、いや正しくは女子勢の中では「蕎麦」というものが恋愛的なアプローチの意味とリンクした言葉として機能するようになっていた。いわゆる隠語の誕生である。また、発信源の八百万にとってはもはや性的な意味すら併せ持っている非常にタッチ―でセンシティブな言葉となっていることは筆目に値する。
睦月も終えようという1月暮れのとある週末。真冬にしてはいやに暖かいその日、八百万は両親が学友を連れてきて食事会でもしないかと提案を受けているところであった。もちろん電話口での話だが、久方ぶりの両親との会話は彼女にほのかな安堵感を与える。いくらヒーローといえど、彼女もまた人の子なのである。
八百万の口から両親へと告げられたのは、一人の男子生徒の名前。両親としては女子勢や男女複数人、または同級生全員などを想定していたのだが、娘の口から出てきたのは一人の異性の名前。されども、それを口に出して茶化すような愚を踏む彼らではない。
若干の生暖かさは詮無いこととして、両親は愛娘がうまく招待できるよう背中を押すのみであった。 - 26二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 09:41:13
その日、轟は先日の八百万と同様に、中庭のベンチに腰掛けぼんやりと雲を眺めていた。傍らにはタオルとスポーツドリンク、彼自身の顔が紅潮し息が上がっているのを見る限り、トレーニングに励んだ後か休憩をとっている最中といったところだろう。時刻としてはそろそろ昼食時。いつもならば緑谷や飯田が鍛錬に付き添っているところだが、飯田は何やら用事があるとのこと、緑谷は麗日に腕を引かれて校外に出ているのを見ていたため、この日は独りでの鍛錬である。
空は澄み渡ってどこまでも青く、点々と浮かぶ白い雲は実にあでやかなコントラストを描いている。一幅の絵画のように美しい風景を見つめながら、フーッと長い息をつく轟。激しい鍛錬の直後のためか、それでも息が整うにはまだ早い。
そんな彼の背後、正しくはベンチの背後から近づく影があった。
八百万である。 - 27二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 09:41:54
遠くから声をかけようと思っていたが、なんとなく近づいてきたしまった彼女の目には紅潮し息を荒らげている轟の姿が。
(!!!????と、轟さん!?真昼の中庭で一体なにを!?)
「・・・(何喰おうかな・・・)そばにするか・・・・」
(そ、そば!!??)
「ん?ああ、八百万、ちょうどいい。蕎麦食いに行こうぜ」
(ちょうどいい!?わたくしが!?そばに!?)
八百万にはもはや轟が猥談をしているようにしか見えない。
元々、世間知らずなところのあるお嬢様であったが、芦戸の教育が災いし彼女はいま思春期が暴走している。これもまた一つの個性なのかもしれない。 - 28二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 15:14:17
1から10までを言葉にしないからこんなことになるんだよ
- 29二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 15:46:24
思春期ヤオモモかわいい
- 30二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 18:41:39
思春期未満お断りって感じのヤオモモだ
かわいい - 31二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 19:58:02
今回のショート君は1から10まで蕎麦食べに行こうしか意図してないんだよ!
- 32二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 21:07:09
(ああ・・・こんな・・・衆人環視の中で・・・)
蕎麦屋に着いた両名だが、八百万は明らかにそわそわと落ち着かない様子。自覚していないとはいえ、憎からず想っている異性との逢瀬を余人に目撃されるというのは、多感な彼女にとっては耐え難い羞恥である。しかし、そんな羞恥の中にも八百万の精神はピンと一本の筋を通していた。いざとなれば、この場にいる全員が彼女にとっての守るべき対象となる、そんな気概が感じられる眼差しであった。
そんな彼女の姿を見て柔らかく微笑む轟。
彼にとって八百万は混じりけの無い敬意の対象であり、昼食という気の抜け時にすら眼光鋭く気を研ぎ澄ます級友の姿は、まさしく襟を正すに相応しい。しかし轟の微笑みを横目で視界に入れた八百万はといえば・・・。
(轟さん!?いま、わた、わたくしを見て、不敵に・・・!?一体なにを・・・ああ、なんてこと・・・)
確かなエロティシズムを感じ取った八百万だが、今回の蕎麦屋訪問は以前とは違う。
今回は、自ら攻めの姿勢を取ると決めている。それはつまり、自らの食事姿勢を以て轟の官能を刺激し、蕎麦に性的興奮を感じる彼の異常性癖を矯正しようというのである。
八百万は気づいていない。
それが、”わたしの魅力で悩殺してやる”と同じものであるということに。 - 33二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 21:19:54
これ誰かが問い質して誤解の発端が峰田のAV布教にあって内容が蕎麦打ちだったってのまで発覚しないと解決しない奴では?峰田は処される
- 34二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 22:26:50
純粋に草生えるわこんなん
- 35二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 22:32:28
羨ましい文章力だ
普段読んだら本とか教えてくれ - 36二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 22:35:25
(芦戸さん、葉隠さん・・・貴女たちの教え、今ここで活かさせていただきます!)
今回はかけそばを注文した八百万。轟の方は相変わらずざるそばである。店内には蕎麦のふくよかな香りが上品に漂い、店の客たちを蠱惑的に刺激している。
高級店ではないしろ、大衆店とも言い難いカジュアルな装いの雰囲気は、来店客の肩から強張りを解きほぐし、純粋に蕎麦の味をむき合うこと可能にしている。それほど数が多いわけではないが、轟はたびたびこの店を訪れ、ひそかに「行きつけ」というものを生み出そうとしていた。ちなみに緑谷も峰田もこの店には訪れているものの、一対一での来店は八百万が初めてである。
「それでは・・・いただきますわ・・・」
(耳に、髪を・・・こう・・・これでいいのかしら・・・こう・・・あれ・・・)
芦戸たちが八百万に授けた策。それは"髪を耳にかける仕草"であった。それそのものは魅力的な動作のひとつとして間違いないものではあるが、問題は、八百万モモ17歳が考える最大の色仕掛けがそれであり、”髪を耳にかける仕草”一本で勝負しようというところである。
無論、轟としては自身の髪の毛に苦戦している八百万という印象しかない。 - 37二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 22:42:52
「大丈夫か、八百万。ほら」
そっ・・・と。彼女の髪を耳にかけてやる轟。その表情には柔らかな微笑みが浮かび、その背には父性にも似た力強さが漲っている。
優しい手つき。ゆったりとした動き。必然的に近づく距離。かみ合わない思惑。微笑む隣の客。
八百万の渾身の色仕掛けは不発に終わり、あろうことか至近距離での反撃を許す大失態。
いつの時代も渾身の攻撃をすかされれば、次に待つのは手痛いカウンターである。
「ここ、八百万が初めてだな」
「は、初めて!?」
普段からあまり表情の豊かな方ではない彼が見せた気の抜けた笑顔。その追撃となる「初めて」のひとこと。もはやその後に続いた「二人で来るのは」の下の句など寸毫たりとも聞こえていない。
結果として、八百万は足元からふるふると震えているような衝撃を受けつつかけそばを啜ることになったが、その心を推しはかれるほど、轟は女心に詳しくない。 - 38二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 22:44:05
なんなんこの文章力(ありがとうございます)
- 39二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 23:08:03
スレタイと文体の教養が合っとらんぞ
- 40二次元好きの匿名さん25/01/30(木) 23:08:45
ヤオモモが想定する精一杯の色仕掛けがかわいいw