【閲覧注意】ここだけ先生が深夜に

時刻は深夜。その日ミサキは偶然、そう本当に偶然1人で外出していた。
いつもより帰るのが遅くなってしまうと仲間達に連絡をし、用事を済ませてから帰路につこうとしたところでシャーレのオフィスが未だ光を放っているのを見かけたのだ。
別に通り過ぎても良かったのだが、何となくあのどうしようもなくお人好しな先生の顔でも見てやろうかと思い歩みを進めていた。
が、その道中でミサキは思わず足を止めた。

（……何？この音……）

カリカリカリカリ、ポリポリポリポリ。言葉にすればそんな音がふとオフィスから聞こえてきたのだ。
先生が夜食に不健康にもスナック菓子でも齧っているのかと考えたが、それにしてはどうにも音が固い。

（……アーモンドとか……？）

ひたすらに聞こえてくるのが気掛かりだが、この深夜のシャーレにいるのは先生しかいないだろう。他の生徒がいる気配は無いし、特に気にする必要もないかと迷わず扉を開けた。

「……は？」

“きゅっ！ぷきゅっ！きゅー！ふっふっふっ！きゅるるー！ぐるる………あ”

そこにいたのは紛れもなく自分のよく知る先生だった。日々生徒の為に奔走し、こんな自分にも手を差し伸べるバカなお人好し。
そんな先生が、妙な鳴き声？を上げながら両手で大事そうにどんぐりを持って前歯を突き出しながら齧っていた光景を見たミサキが絶句するのも無理は無かった。
先生もミサキに気付いたのか黙りこくってしまい、手から齧りかけのどんぐりが落ちる音だけがシャーレのオフィスに響いた。

“……え、っと……こんばんは、ミサキ。良い夜だね”

「…………ごめん、帰る」

“待ってミサキ！お願い！お願いしますミサキさん！待って下さい！ねぇ！”

目の前の現実が受け入れられないミサキが踵を返した所を先生が縋り付く。
いつものような大人の余裕は失われ、そこにいたのは情け無く生徒に懇願する尊厳が完全に破壊されたダメな大人だった。