- 1二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:18:39
1月。トレセン学園の寮は、陽が昇る遥か前から明かりが灯り始める。静かに眠る街の側で目覚めたウマ娘達はすぐさま布団から飛び出し、あるいはヒーターのスイッチを入れ、長袖のジャージに袖を通す。
一日のトレーニングを充実させる為にも、身体に火を入れるのは早いに越したことはない。軽いストレッチを終えたら、筋トレで全身のスイッチをONにして寮を出て今日を走り出す。
無論、陽が昇るまで布団を被っているウマ娘も居ない訳ではないが。
少しずつ賑やかな声が飛び交い始めた寮において、ハッピーミークもまたジャージに着替え、ふんすと気合を入れた。全身のストレッチは両手、両脚、隅々の関節までじっくり解す。それから負荷の軽い筋トレを少々。
他のウマ娘よりウォーミングアップに多く時間を配分し、ターフを走るのに近いベストな状態へと自分を整える。彼女が自身のトレーナーと共に組み上げたルーティーンだ。
「……よし」
寮のゲートを押し開けたら、白み始めた東の空を軽く仰ぎ見て、静かに白い息を燻らせる。その日の調子や身体の様子に合わせてコースは複数用意してあるが、今日は少し長めのコースをチョイス。
冬の冷たく、しかし澄んだ空気を纏って駆ける河川敷は何とも心地よく、人気のコースだ。今朝はそこまで風も強くないので、気持ちよく走れるだろう。
「あっ、ミークだ! おはよー!」
風の子の声に振り向くと、白い息と共にトウカイテイオーが駆けてきた。ミークがゆったりとおはよう、と返すと、テイオーは楽しそうにその場で軽くステップを踏む。
「ミークも今から? ボクも一緒に行っていい?」
「うん……今日は少し、遠くまでだけど」
「どこまででも良いよ! ボクなら全然へっちゃらだし!」
得意げに笑みを浮かべるテイオーを見ていると、不思議とこちらまで笑顔になる。ミークはふ、と微笑みを浮かべると、スマホの記録用アプリのスタートボタンをタップし、テイオーと一緒に学園の門を飛び出した。 - 2二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:20:17
テイオーと一緒に街を駆けていると、ミークは時折デビュー前の事が頭を過る。思えば、目標も進み方も違う二人の道がトゥインクル・シリーズで交わるのには、随分と時間がかかったものだ。
『シンボリルドルフの後継者・トウカイテイオー。堂々推参!』『トウカイテイオー、無敗の二冠達成!』……そんな見出しが新聞や雑誌に踊っていた頃、ミークはまだ春を待つ蕾だった。華々しいクラシックの煌めきには遅れても、決して途中で歩みを止めることはない。ゆっくり、ゆっくり、辛抱強く、春を待つ。そして────。
『ここでハッピーミーク上がってきた! 先頭との差は2バ身、一気に差を詰め並ばない! 並ばない! ハッピーミーク一着!!』
その時、ターフに真っ白な大輪が咲いた。その姿を、スタンドで、学園で、沢山の人が見ていた。勿論、トウカイテイオーも。
才能を開花させ迎えたシニア期の初め、ミークはテイオーと併走トレーニングをすることが一気に増えた。
菊花賞を回避することになったテイオーが次なる目標に定めたのは、天皇賞・春。現役最強のステイヤーと名高いメジロマックイーンが待ち受ける淀のターフを目指すテイオーに、ミークは追随するまでになっていた。この時初めて、二人はお互いをライバルと呼んだ。
遅咲きの白い大輪と、ターフの帝王。愛すべきライバル達にも囲まれて、二人はターフを駆け抜ける。テイオーが天皇賞・春でマックイーンと激突した頃には、ミークはグランプリレース・宝塚記念の出走メンバーに選ばれるまでになった。
それから季節が巡り、ミークが秋の天皇賞でビターグラッセにハナ差二着という激走を見せれば、テイオーはジャパンカップと有馬記念で憧れのルドルフと同じレイを纏い、澄んだ青空にその人差し指を突き上げた。
メイクデビューから、栄光と苦難の道を歩んで、あっという間に三年が経ち、遂に二人の道は一つに交わった。URAファイナルズ決勝という大舞台で。
あの日、東京レース場芝2400mに響いた大歓声と残り1ハロンに詰め込んだ青春を、きっと二人はいつまでも忘れないだろう。 - 3二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:21:31
「お疲れ、ミーク」
「うん……テイオーも、お疲れ」
労いの言葉を掛けたら、お気に入りの水筒を交換。二人でトレーニングをする時には、こうして友情を確かめ合うのが最近のテイオーのマイブームだ。
漫画か誰かに影響されたんじゃないか、とはナイスネイチャの言であるが、案外素かもしれませんわよ、とマックイーンは語る。
いずれにせよ、ミークもこうして互いの走りを称え合うような習慣は悪くないと思っていた。
テイオーも自分も、ここからはシニア二年目、古豪と呼ばれる立場になる。またいつか共にターフに立って、あの決勝のような歓声を背に戦う日も来るだろう。時には共に次世代を担う強者たちを迎え撃つこともあるかもしれない。そんな時でも、こうして互いの走りを称え合えたら。ミークは、密かにそう思っていた。
「よし、クールダウン終わり! そろそろ寮へ……ん? マヤノからLANEだ」
「ん……こっちはネイチャから。なになに……」
ストレッチや体操でクールダウンを終え、寮に戻ろうかというタイミングで二人に届いたメッセージは、その表情を驚きと興奮の色に染めるのに十分過ぎた。
テイオーとミークは互いに鋭く視線を交わして頷くと、それまで街を駆け抜けてきたのが嘘かのようにその場から駆け出した。
テイオーとミーク、二人の縁を取り持ったのはターフや愛すべきライバル達ばかりではない。二人が互いに意識し合うライバルとなれば、当然二人のトレーナーもお互いを大なり小なり意識するようになる。それが、両者ともにトレーナー試験を合格して中央トレセン学園に赴任したばかりの新人トレーナーとなれば、尚更だ。
それが少し他と違っていたのは、その意識がトゥインクル・シリーズに担当ウマ娘と共に挑むライバル同士として、だけではなかったことであろうか。 - 4二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:23:00
「あっ、いたいた。おーいマヤノー!」
「しーっ、しーっ! テイオーちゃん声がおっきい!」
「うん……? マックイーンも、呼ばれてたの?」
「あ、いえ。私はたまたま通りかかっただけで……」
「えー? ホントにー? マックイーンも気になったんじゃないの~?」
「本、当、ですっ!」
「まぁまお二人さん、ほら、来ましたよ」
宥めるネイチャに従い、テイオー達は静かに茂みに身体を隠した。全員耳に目立たない色のメンコを装備し、更にジャージの上から懐炉を仕込んだコートを纏って相手側からのカモフラージュも寒さ対策もバッチリ。鳥の雛よろしく茂みの一か所に集まって静かに息を潜める。
そうしてゲートの中のような緊張感を伴って見つめる先に姿を現したのは、他でもないテイオーのトレーナーである。時折左腕の時計を確認し、辺りを見回している。どうやら、誰かを待っているようだ。
「ねぇねぇ、そろそろいつもの時間だよね?」
「いえ、もう少し過ぎてますわね」
「おお、珍しい……トレーナー、時間には正確なのに」
「ほほう、となると……やはり我が商店街の情報網は間違いなかったようですな」
「えっ? 何々ネイチャ、どういう事?」
「……しっ、来ましたわよ」
得心するネイチャ、不思議そうな顔をするテイオー、やはりと言うべきか想像以上にノリノリなマックイーン。そして、目の前の人物の様子を伺う二人。五者五様に様子を伺う中、テイオーのトレーナーが足音に気付いて顔を上げると、その表情に晴れやかな笑顔が浮かぶ。
朝陽を浴びて、その表情は何とも晴れやかだ。
「おはようございます、待ちました?」
「おはよう、今来た所だから、大丈夫」
そう応える彼に、桐生院葵は安堵の笑みを浮かべた。代々優秀なトレーナーを輩出する、名門桐生院家の御令嬢にして、ハッピーミークのトレーナーを務めている。
テイオーのトレーナーとはお互い同期の間柄であり、担当ウマ娘とも同期でトゥインクル・シリーズに入るという不思議な縁で結ばれた仲である。
一足早く結果を出すに至ったテイオーとそのトレーナーや周囲に焦りを感じていた時期もあったようだが、ミークと、他ならぬテイオーのトレーナーの励ましもあって立ち直り、今や一人前のトレーナーである。 - 5二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:23:56
片や才能を開花させたミークの更なる成長を、片やテイオーの更なる飛躍を胸に願い、トレーニングを共にする機会も増えていった。
そうして切磋琢磨する二人が、お互いを異性として意識し始めるのに、そう時間はかからなかった。
「それで、今朝はどうしたの?」
「……いつもは食堂とか、トレーナー室でお昼を食べますけど……偶には、お弁当なんてどうかなって」
そう言うと、桐生院は手元の鞄から紺色の包みを取り出し、どこか恥ずかしそうにはにかみながらテイオーのトレーナーに差し出した。
彼は一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐにそれを収め、嬉しそうな笑顔を返した。
「ありがとう、葵。嬉しいよ」
「……っ! そ、それじゃあ、今日はお昼に会議があるので、その後にでも……!」
「うん、一緒に食べよう。その方が、きっと美味しいよ」
「ええ、是非!」
彼の返事を聞いた桐生院もまた、嬉しそうに微笑んだ。紅の差した頬が、得も言われぬ愛らしさを醸し出し、彼の胸の鼓動を押し上げるのだった。
さて、そんなやり取りを茂みから見ていたテイオーとミークの一団は、そこはかとなく静かな興奮に包まれる。
「……見た? 今の」
「見た見た! アレ、絶対手作りのお弁当だよね? ね!?」
「あ、あれが所謂、愛妻弁当というモノでは……!?」
「マックイーンさんや、まだ妻じゃございませんよ」
「おお、ネイチャ、冷静……もしかして、心当たりがあった……?」
「マヤ分かっちゃった。テイオーちゃんのトレーナーちゃんにお弁当作ってたから遅くなったんだよ」
「あっ、さてはネイチャ、商店街で情報収集したなー?」
「いやいや……アタシからは何もしちゃおりませんよ? ただ、ちょっと井戸端会議からトレーナーの制服を着た女の子が食べ物について色々聞きながら買い物してたという話を聞いたりすることもありますけどねぇ」
「もー! そういう情報は共有してよ! ボクだって気になってるのにさ!」
ぶーぶーと声を上げるテイオーに対し、ネイチャはどこ吹く風のすまし顔。自身のトレーナーと桐生院の話題で盛り上がるのがトレンドのテイオーとマヤノも、地域のコミュニティに影響力を持つネイチャには情報力で一歩劣るようである。 - 6二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:25:35
同期のライバルという立場を超えて互いに惹かれあった二人は密かに職場恋愛を始めたのだが、それが担当ウマ娘のテイオーとミークにバレるのもあっという間であった。
一応、本人たちは秘密にするようテイオーとミークにしっかり伝えたのだが、ミークはともかく恋に恋するテイオー(と同室のマヤノ)がそんな大事件を秘密にできるハズもなく、これは内緒なんだけど、という枕詞と共に半日もせず学園中に知れ渡ったのであった。
同僚、先輩、話を聞きつけた生徒たちから尾鰭が何枚も付いた話を振られ、果てはルドルフ会長からからかい交じりのお祝いと、エアグルーヴからくれぐれも節度を守るようにと説教を受けるこの状況にテイオーのトレーナーは始め大いに頭を抱えた。
しかし、年頃の少女らしい姿が見られるのも悪いことではない、という桐生院の悟りを経て一応納得するに至った。
そんな一件を経て、事あるごとにこうしてテイオーとミークの一味は身近な恋物語を特等席で楽しんでいたのである。
そうして今日も桐生院の愛情弁当イベントを鑑賞していると、パチ、とスマホのシャッターを切る音がした。
「ん……マヤノ?」
「えへへ、こういう写真をいっぱい撮っておいて、結婚式の時とかスライドショーで流すの! ナイスアイデアでしょ?」
「イイね! じゃあボクも撮ろっと♪」
「むふ、それじゃあ私も一枚……」
「おお、ミークまでこういうのに乗っかるのは珍しいねぇ」
「……流石にいかがなものかと思いますわ」
「まあまあ、こうして覗き見てる時点でねぇ」
やれやれとばかりに放たれたネイチャの言葉に、マックイーンは思わずうぐ、と苦い顔。しかし、その顔もテイオー達が撮影した写真を見るとすぐに引っ込んだ。お互いお弁当の包みを抱えたまま、共に過ごす始業前のひと時を楽しんでいる。
ふと、マックイーンの頬に僅かに紅が差した。自分もいつかは自身のトレーナーとそういう事をする日が来るのかも……と思うと、胸の奥が何とも暖かくなっていった。 - 7二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:26:40
「あ、マックイーン今あの二人を自分とトレーナーに置き換えたでしょ」
「なっ!? そ、そんなことありませんわ!」
「マックイーンちゃん、声、声」
「っ!? こ、コホン……」
「いやはや、天下のメジロ家も人の子でございますなぁ」
「ネイチャちゃんにだけは言われたくないと思うよ」
そう言ってくるりと向きを変えたマヤノのスマホには、ピッタリ寄り添って商店街を歩くネイチャとそのトレーナーの姿があった。
制服姿のトレーナーと、それに寄り添って買い物バッグを肩にかけたネイチャの姿は最早おしどり夫婦である。
さりげなく尻尾をトレーナーの方に寄せているのも非常にポイントが高いと言えるだろう。
「ちょっ、まっ……!?」
「まぁまぁ、ネイチャさんってば、大胆ですわね」
「い、いつの間にこんな……!? いや待って! コレは、その、違くて……!」
「ネイチャちゃん、自分のトレーナーちゃんと一緒の時は大体こんな感じだよ」
「……うにゃ!」
「ストップストップ! ネイチャ叫んじゃダメだって!」
一瞬で羞恥心が全身を駆け抜けたネイチャの叫びをテイオーが抑え込む傍らで、ミークは自身が撮った写真をじっと見つめていた。そこに映った笑顔を見ていると、何とも言えず込み上げるものがある。 - 8二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:27:22
自身のタイムが良くなった時とも、レースで初めて勝った時とも、初めてGⅠを勝利した時とも違う、大好きな人と一緒にいる幸せに溢れた笑顔。
トゥインクル・シリーズで共に歩む日々が終わるその時まで、そして、二人の門出を祝うその日まで。ミークはこの笑顔を、ずっと大切にしたいと思った。
万感の想いを白い息に変えたその時、学園のチャイムが鳴った。
「うわ、もうこんな時間?」
「あ、二人も、もう学園に行くみたい……私たちも準備しないと、遅刻する」
「そうと決まれば、今日のところは撤収ですわね」
「アイ・コピー♪ あ、ネイチャちゃんの写真、後でネイチャちゃんにも送るね」
「……一応言っておくけど、他の人には絶対見せちゃダメだからね」
真っ赤な顔でマヤノを睨むネイチャだったが、トレーナーとのツーショットが欲しい事を否定はしないネイチャの本心を、その場の全員が理解していた。最も、ネイチャに関して言えば秘密に出来てると思っているのはネイチャ本人くらいのモノなのだが。
そうして五人で寮へ向かって急いでいると、不意にテイオーがミークに声を掛ける。
「ね、ミーク。さっきの写真、すごくイイ感じだったね」
「……むふ。トレーナー、とっても嬉しそうだった」
「この調子でどんどん行っちゃおう! それでさ、結婚式で二人を驚かせちゃおうよ!」
「うん……! えい、えい、おー……!」
ミークの勝鬨に合わせて、二人はハイタッチと共に誓った。いつか門出の日を迎える時、一緒に最高の贈り物ができるように、と。二人は愛すべきライバル達と共に、始まりを告げる朝日の中を駆け抜けてゆくのだった。
その後、テイオーとマヤノは、自身がファインダーに収めた写真をまたしてもこれは内緒なんだけど、という枕詞と共に広め、結果あっという間にテイオーのトレーナーにバレて揃って大目玉を喰らう羽目になるのだが、それはまた別の話である。 - 9二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:30:40
以上です、ありがとうございました。
えっ……トレーナーって桐生院さんと付き合ってるの!?|あにまん掲示板えっえっいつから!?いつから!?ねぇチューした!?チューとかしたの!?デートは!?結婚とかするの!?ねえねえねえねえねえ!!!身近な大人と身近な大人が付き合ってると聞いて好奇心丸出しにする女子中学生テ…bbs.animanch.com古いスレですが、こちらの概念をお借りして身近な人の恋模様にキャーキャー言うテイオーとミーク達をお話にしてみました。
門出は、青春の輝きと共に【SS】|あにまん掲示板「只今より、新郎新婦が入場致します。皆様、後ろの扉をご覧下さい」厳かな宣言と共に、教会の扉が開く。参列者達の視線が一斉に扉の向こうから放たれた光に集まると、その中から祝福を受ける二人が幸せな未来へ向か…bbs.animanch.comまた、以前同じ概念で書かせて頂いたお話がもう一つありますので、こちらもよろしければお楽しみ下さい。
等身大の思春期女子中学生全開のウマ娘からしか摂取できない栄養素がある。この尊さはDNAに素早く届く。
- 10二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 00:41:54
懐かしい…女子中学生全開テイオーは良いぞ
ガキンチョ味ですごくすごい健康になれるからな - 11二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 07:05:56
トレ葵とミークの供給助かる。テイオーにバレたらそらもう拡散は一瞬よ
- 12二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 11:22:17
その内デートのスケジュールを察知して尾行とかしだしますねこれは……
- 13二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 17:20:44
こういうの好物です
ありがとうございます - 14二次元好きの匿名さん25/01/31(金) 20:21:59