【SS注意】【トレウマ注意】純情乙女狂想曲第2番第2楽章<アダージョ>

  • 1二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:01:20

    「キミの愛バが~♪」

    鼻歌交じりに、トレーナー室棟の廊下を歩く。
    いつものように、トレーナー室の鍵を開けて中に入る。
    その時だった。
    ありえないはずのものが見えたのは。

    「……ルビー!」

    トレーナー室で着替えていたのは、担当で愛バのダイイチルビー。
    しかも折悪しく、ちょうど服を脱いだ状態。
    テーブルの上には、今しがた脱いだであろう下着と、これから着る予定であろうトレーニング用のスポーツ仕様の下着。

    「……トレーナーさん?」

    その声で、我に返る。
    今、自分は服を脱いだルビーとトレーナー室に2人きり。
    何を言われても、言い返せない状況。

    「ご、ごめん! すぐに出ていくから!」

    すぐに身体をUターンさせ部屋を出ようとすると、溜息をつかれる。

    「お待ちください。今扉を開けられては、私の姿が外から見えてしまうではありませんか」

  • 2二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:01:58

    ……確かに、そうだ。
    自分の動きが、ピタリと止まる。

    「そのまま、目を瞑って身体を壁のほうに向けてください」

    言われるがままに、ぎくしゃくと身体を動かす。
    聞こえる、服と肌の擦れる僅かな音。
    そう言えば、と口を開く。

    「今日のトレーニングは、『朝練での動きが悪かったので、疲れが残っていると思うから中止』と連絡したと思うのだけど、なんで着替えていたの?」

    衣擦れの音が、止まる。
    それから、スマホの電子音が鳴り。
    最後に、それをテーブルに置いたであろう小さな音。

    「……そのようですね。見過ごしていました。申し訳ありません。今しばらくお待ちください」

    再び、服を着る音が響く。
    ……ルビーは、スマホのチェックも怠るくらい疲れていたのだろうか。
    だとしたら、自分の管理不足。

  • 3二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:02:25

    「どうぞ」

    その声に、振り向く。
    制服姿の、いつもの彼女。
    無表情に、こちらを見つめている。

    「ごめん」

    直角に腰を曲げて、ルビーに謝る。
    すると、また溜息をつかれた。

    「今回は私も悪かったですから。それに、私は貴方に見られたことについては気にしていません。どうぞこちらへ」

    促されるままに、ソファに腰掛ける。
    いつもより拳1つ分、隣に身体を寄せてくる彼女。
    気にしていないことはありがたいが、どう対応すればよいか困る。

    「じゃあ、ミーティングでもしようか」

    「はい」

  • 4二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:02:50

    了承を得られたので、仕事用のデスクからタブレットを持ってくる。
    それだけではなんなので、2人分の紅茶も淹れる。
    気分を変えたくて、自分のマグにはいつものストレートと違って、ミルクにお砂糖を2匙。

    「お疲れですか?」

    「えっ? なんで?」

    それを、ルビーに気付かれたのは意外だった。

    「いつもはミルクやお砂糖を入れていませんのに、今日は随分と多めに入れているようでしたので」

    ……どう、答えたものか。
    まさか、「さっきのアクシデントに動揺しているから」とは口が裂けても言えない。
    結局、「ちょっとね」と口を濁すしかできなかった。

  • 5二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:03:28

    日ごろから彼女の状態には注意を向けているし、そのことを細かく伝えてもいる。
    目標レースに向けてのトレーニングについても、必要な理由を話しながら進めている。
    だから、ミーティングはあっという間に終わってしまった。

    「あのピアノ、弾いても良いですか?」

    一息ついて、2人で何をするでもなく紅茶を啜っていると、そんな一言。
    ルビーの指さした先にあるのは、埃をかぶったアップライトピアノ。
    昔はトレーナーもウイニングライブの指導を生演奏でしていたとかで、どのトレーナー室にもピアノがあって、毎年調律されている。

    「良いよ」

    とは言え、CDラジカセや携帯プレーヤーがある今では、使われることはほとんどない。
    断る理由もないので承諾すると、立ち上がってスタスタとその前に行き座る。
    そして、軽くグリッサンド。

    「ヤマハ製ですか。良いピアノですね」

  • 6二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:04:11

    そのまま、両手を鍵盤に載せると、静かに旋律が奏でられる。
    およそ10分間、彼女の演奏を堪能した。
    最後に、ほっとした様子で手を離したので、パチパチと拍手。

    「お粗末様でした」

    「いや、素晴らしかった。誰の曲なの?」

    「ショパンです。……トレーナーさんが褒めてくれるなら、ファツィオリの予定でしたが、ヤマハも良いかもしれませんね」

    ……ショパン、ショパンか。
    正直なところ、ショパンの曲は「別れの曲」くらいしか知らないが、この曲もその類いなのだろうか。

    「思い出した。ショパンコンクールの日本予選に出るって言っていたよね」

    「はい。でも私は手が小さいので、なかなか大変ではあります。日本予選のファイナリストが目標としています」

    「そうなんだ」

  • 7二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:04:40

    その手の話題に詳しくはないから、相槌を打つことしかできない。
    すると、彼女がじっとこちらを見つめてきた。

    「なに?」

    「今の曲、ショパンのピアノ協奏曲第2番第2楽章ですが、本番で弾く予定です。トレーナーさんも、聴きに来ていただけませんか?」

    「もちろん!」

    担当の晴れ姿に、駆け付けないトレーナーなどいるだろうか。
    その言葉に、少しだけ顔を赤らめたルビーが言葉を紡ぐ。

    「貴方を想って弾きますので、最前列のチケットを御用意いたしますから、ちゃんと来てください」

    ……自分を想って、とはどういうことだろう。
    ショパンだし、「お前とはこれでお別れだ」ということだろうか。
    引継書、作っておいた方が良いだろうか。

  • 8二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:05:10

    「ああ、もうこんな時間ですか」

    そんな話をしているうちに、ルビーの次の習い事の時間が来てしまった。
    手早く身支度を整えて、部屋を出ていく彼女を眺める。
    と……。
    ドアに手をかけたところで、振り向いてこちらに話しかけるルビー。

    「先ほど、この部屋に入ってきたのが貴方で良かったです。未来の旦那様以外に乙女の柔肌を見られたら、私は舌を噛み切って死ぬしかありませんでしたから」

    わずかに頬を染め、口元を緩ませてそんなことを言うと、そのまま出て行ってしまう。
    「貴方で良かった」とはどういうことか。他の人と違って自分の担当トレーナーだから事故に見せかけて存在を消しやすいということか。
    それならば、先ほどのショパンの意味も納得がいく。
    つまり。

    ――ルビーは、俺を抹殺するつもりかもしれない。

  • 9二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:05:30

    これで終わりです。
    ありがとうございました。

    至らない点もあると思いますが、よろしくお願いいたします。

  • 10二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:10:13
  • 11二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:16:00

    乙でした!
    このクソボケっぷりからして、ルビーの手を汚すぐらいなら…って先回りして自害の覚悟決めそうで怖いよルビトレ

  • 12二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:22:38

    はっきり「未来の旦那様以外に乙女の柔肌を見られたら、私は舌を噛み切って死ぬしかありませんでしたから」って言って舌噛み切ってない状況なら普通分かるだろうが!

  • 13二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 18:24:56

    乙です
    好き好きオーラが隠しきれないルビーとクソボケルビトレなんてなんぼあっても困りませんからね

  • 14二次元好きの匿名さん25/02/01(土) 20:46:44

    >>11

    ありがとうございます。

    ショパンのピアノ協奏曲第2番第2楽章は、ショパンが片想いの女の子を想って作曲したものなので、その辺を知っていればよかったんですけどねえ……。


    >>12

    ありがとうございます。

    そこがわからないからクソボケなのだと思います。


    >>13

    ありがとうございます。

    好き好きオーラ前回のルビーは良いですよね。

スレッドは2/2 06:46頃に落ちます

オススメ

レス投稿

1.アンカーはレス番号をクリックで自動入力できます。
2.誹謗中傷・暴言・煽り・スレッドと無関係な投稿は削除・規制対象です。
 他サイト・特定個人への中傷・暴言は禁止です。
※規約違反は各レスの『報告』からお知らせください。削除依頼は『お問い合わせ』からお願いします。
3.二次創作画像は、作者本人でない場合は必ずURLで貼ってください。サムネとリンク先が表示されます。
4.巻き添え規制を受けている方や荒らしを反省した方はお問い合わせから連絡をください。