ここだけノエル先生が『一周目の記憶』を引き継いだ世界 7.5

  • 1スレ主25/02/04(火) 23:20:51
  • 2スレ主25/02/04(火) 23:21:26
  • 3スレ主25/02/04(火) 23:22:26

    このスレのノエル先生
    ・フランス事変後に修道院に隔離されて間もなく『一周目の記憶』を自覚する
    ・隔離後すぐに代行者として就任。この時点でエレイシアに対する報復を決意し復讐者として生きる
    ・エレイシアが目覚めて代行者になるまでの六年半でひたすらに自己研鑽&限界を超えるための代償を払い続ける。その甲斐あって原作とは非にならない強さを得る
    ・人間以上の耐久を得るための一環で左足を聖別化した義足に改造してもらってる
    ・偶然にも手に入れた十四の石を用いて人外と化す。外見の変化は肌が白くなったくらい。完全に適応してからは恐らく瞳孔も十字になってると思われる
    ・幻想種の中で神獣に区分される『白鯨』モビーディックの遺骸を直接的な経口摂取で取り込み、更に肉体の存在規模を拡張させる事に成功している
    ・現時点での強さは少なくともシエルとの連携でなら後継者をも斃せるまでになっている
    ・というよりシエルとの連携の末に二十七祖のクロムクレイに引導を渡すという大快挙を成しえてしまった
    ・↑の功績もあって教会から『焔(ほむら)のノエル』という異名をつけられる
    ・着実に強くなっていってる事と『一周目の記憶』の自分を反面教師にしてる事もあって大分精神が安定している
    ・ただし完全な復讐者として生きているので高い身分だの裕福な生活だのと言った人並みの幸せには全く固執していない。もはや彼女が望んでいるのはロアやシエルに対する復讐のみとなっている
    ・そんなんだからマーリオゥからは『手を焼かせる制御不能の猪』と厄介に思われてる
    ・ここまで復讐鬼に振り切っているものの、無辜の人々が死徒に虐殺されるのを何よりも許せない代行者としての正義感もちゃんとあったりする

  • 4スレ主25/02/04(火) 23:28:33

    前スレで有志の方が描いてくださったとっても仲良しで尊いノエシエの神絵
    この二人の退廃的で狂気的な絡みが見たい人は6スレ目にどうぞ

  • 5二次元好きの匿名さん25/02/04(火) 23:29:29

    建て乙

  • 6二次元好きの匿名さん25/02/04(火) 23:29:39

    スレ保守間に合わなくて申し訳ない
    続編感謝

  • 7スレ主25/02/04(火) 23:34:27

    現在の状況:志貴クンの救護に間に合ったシエル先輩が彼を護る為にノエル先生とバチバチにやりあっている。ノエル先生は戦闘の中で蛇腹剣を破壊されるも白鯨の力をそこそこ開放してより本気になり、先輩の方は拷問具アーマーを纏って杭打機で何とか応戦中。志貴クンは完全にヤムチャ視点

  • 8二次元好きの匿名さん25/02/04(火) 23:36:56

    「は―――!」
    「っ……!!」

    人間の域を超えた鍔迫り合いの中で、瞬きにも満たない瞬間(すき)を捉えたシエルの一撃がノエルの蛇腹剣を破壊する。
    痛手ではあるが、大した問題ではない。元々長期間による傷や劣化の蓄積が激しかったので、どの道この街での一件が済み次第、教会から新しく寄越させるつもりだった。
    加えて、13年間もの間を死地で戦ってきたノエルにとっては劣勢に追い詰められる事はシエルよりも全然慣れっこである。
    否―――恵まれた才能と精神力、何より不死身の力のおかげで最初から割とスムーズに生き延びてこれたシエルと違い、彼女はいつもいつも生きるか死んで終わるかの瀬戸際に立たされてきた。
    生き延びる為に、強くなる為に知恵(あたま)と肉体(からだ)を無理やりでも動かしていかねばならなかった。人間だった頃も人外と化してからもそれは変わっていないし、今この瞬間も例外ではない。

    「あっははははまーた面白い冗談を言うのね!全力で私を止めるぅ?止められるべきはアンタのこの行いをそのものだって言うのにさ!明らかな戒律違反に該当してるっつー自覚はあんのかしらぁ!?」
    「分かっています!それでも、それでもわたしは彼を救いたい!彼をロアから引き剥がし、その上でロアを完全に消滅させる。その手段が、可能性があると信じて!救いたいんです!!」
    「だから!!そののぼせ上がったクッソ寒い妄言を吐き散らすのやめろっつってんのよ偽善者ァァァァァ!!!」

    尚もありもしない希望に縋る彼女の発言と覚悟に、怨讐の少女はその焔(ほのお)を更に迸らせて苛烈さを加速度的に上げていく。
    ノエルはこれまで幾多にも渡る死の逆境を潜り抜けてきた影響で、普通に戦うよりも追い詰められれば追い詰められるほどに本領を発揮させやすいスタイルが自然と身についていた。
    つまり今の彼女は、ほんの先ほどまでの全力の彼女よりも更に厄介な手合いと化している。無論、当人はそれを自覚してはいないが。
    現にこれほどまでのシエルへの殺意と憤怒と憎悪を向けていても、その攻撃の殆どが彼女ではなく遠野志貴に向けられている。冷静さを欠いていないわけではないが、勝利条件まで見失うほど我に染まってもいない。

  • 9二次元好きの匿名さん25/02/04(火) 23:38:05

    「そら、さっさと私を殺すかぶちのめして気絶でもさせなきゃ志貴クンは惨たらしく死んでしまうわよ!?
    ま、ホントにそれをやったらやったで勿論後から教会に連絡を入れるけどね!『代行者シエルは存在しない希望的観測を優先して代行者としての責務を放棄し戒律違反に走った』ってなぁ!!?
    幾らアンタが治外法権の立場を手にしてるっつっても、そんな報告をされたら教会はアンタにどんな対応をするんでしょうね!あははははははははは!!」
    「構いません。わたしはもう、自分可愛さに逃げたくない。何を敵に回そうと、彼を守り抜いてみせます……!!」
    「あっそう!じゃあまずはおまえが食い残した虫ケラの炎から愛しの彼氏を守ってみろよクソ悪魔がァ!!」

    互いに一歩も一瞬も譲る事なく、少女たちは全力でぶつかり合う。シエルの重戦車(ジャガーノート)の魔力がじわじわと消費されつつあるのに対し、ノエルの焔(まりょく)は萎えるどころか益々その火力を底上げしていく。
    体内で適合している白鯨の遺骸も、その魔力増産を助長している。不死身の肉体である事と元々の超人的スペックの恩恵でシエルの魔力が尽きる事はまだまだないが、だからと言って決して余裕があるワケではない。魔力(オド)の生産が無尽蔵になっているのはノエル(向こう)も同じ。
    しかもこれほどまでに過剰放出しているのに自壊の気配なども一切ない。十四の石と遺骸が彼女の存在強度そのものをより強固なモノとして改良してる故なのだろう。

    「―――そこぉっ!!」
    「ご、ぅぶ―――!?」

    やがて、ノエルの槍斧の刃がシエルの脇腹を刺し貫く。同時に、その内側から蒼黒い炎が焼き焦がしていく。

    「が―――らぁぁああっ!」
    「はっ!?」

    直後、激痛を堪えたシエルの前蹴りが炸裂する。数十トンは下らない重さと威力の手加減なしのキックがノエルの腹筋に直撃し、これを向こうの壁際まで吹っ飛ばす。

    「ふぅ―――ふっ―――セブン!『拷問死(ペイン)』並びに『衝突死(ブレイク)』に換装!『出血死(ブレイド)』では彼女の手数と立ち回りに付いていくには厳しいです!」

    脇腹を抑えながらもシエルがそう告げた直後。第七聖典は瞬間的に形態を変え、赤い線の走る黒き鉄の鎧を形成し、巨大な蛇腹剣をコンパクトな杭打機へと変貌させる。

  • 10二次元好きの匿名さん25/02/04(火) 23:39:01

    聖典が秘める七つの死因の一つ、拷問具・純潔証明(ヴァージンペイン)。着用すれば使用者が死ぬまで外す事はできないが、逆を言えば使用者が死ぬまではその安全(いのち)を絶対のものとして保証する甲冑でもある。
    機動力こそ若干下がるが、それはシエルの身体能力の前ではデメリットとも言えない些細な事である。
    『出血死』の蛇腹剣から杭打機に変換させたのは、これまでの打ち合いの中で大振りな蛇腹剣ではノエルのスピードに追い縋るのは難しいと判断したからだ。
    対神秘にも特化した拷問具の甲冑で雷霆や炎を正面から耐えつつ突破し、『衝突死』で一気に決着をつける。これが今の彼女の算段だった。

    「っ!?」

    だが、そう都合よく決着に持っていける事は問屋が卸さない。換装を終えて今まさに突撃しようとしたノエルが吹っ飛んだ方角の炎の檻から巨大な水の砲弾がシエルに襲いかかる。
    ほんの一瞬虚をつかれるも、すぐさまそれを杭打機で打ち払いながら突撃する。
    そのままお返しのつもりで炎ごと杭で穿った―――が、そこにノエルの姿はなく。

    「―――上!」
    「当ったりぃ!」

    直上より殺気を感じた瞬間、ウォータージェットなど及びもつかない流水の津波(レーザー)が地盤ごと貫かんとシエル目掛けて発射される。
    食らえば並の上級死徒でも一撃で跡形もなく潰れかねないその津波を前に、シエルは最小限のジャンプで後退してコレを寸でのところで回避した。
    そのまま動きを一旦止める―――なんて事はない。飛び退いた際に柱に飛び移り、そこから一秒弱で駆け上がり天井に足を着かせ、そして前方のノエルに向かって突貫する!

    「はっははははすっごいわ!今ので確実に決まったと思ったのに避けたどころかこうして天井を走りながら私に向かってくるとか!やっぱアンタは吸血鬼よりも吸血鬼らしいデタラメなバケモノね、シエル!!」
    「それはどうも。ですが、バケモノなのはお互い様でしょう……っ!!」

    そして二人の少女(かいぶつ)は重力など知った事かと言わんばかりに天井を、柱を、壁を駆け巡り、跳び回っていく。本気とは程遠かったノエルに追い詰められていた遠野志貴からすれば、最早ただ見守る事しかできなかった。

  • 11スレ主25/02/04(火) 23:40:23

    とりあえず保守がてらに前回の進行を少しだけ再掲しました
    さあこっから書くぞぉ

  • 12二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 00:23:55

    だが―――どれだけ実力が拮抗していようとも、決着の時は必然として迎えるものである。

    徐々に、本当に徐々にではあるもののシエルの動きがノエルを制し始めてきている。何だかんだといってもシエルとて、魔人揃いの埋葬機関をして特例と言わしめるほどの弓を始めとした武芸に秀でた天才の中の天才。

    逆境に追い詰められるほどに力を発揮し、相手の上を行くのは何もノエルだけの特権ではない。


    「―――そこっ!!」

    「ぐ、っ―――ちぃぃぃぃ……!!」


    コンマ1秒を下回る一瞬(すき)を突いた聖典の杭が、槍斧の切っ先を砕く。先に破壊された蛇腹剣と同じように、槍斧の耐久自体はそこそこガタが来ている状態にある。それ故に秘蹟と炎を付与して神秘を纏わせていなければ、シエルのような超人とこうして打ち合うにはあまりにも心許ない。


    「っざけんな裏切り者の偽善者ぁぁぁっ!!」


    復讐鬼は激昂に叫び、さりとて冷静さを失わずに縦横無尽に駆け巡りつつ遠野志貴に狙いを定める。しかし放つ傍から目の前を阻む女によってその一撃一撃を正確に迎撃され、撃ち落とされる。

    ならばと今度は眼前の女に全神経を集中させて浄炎、激流、雷霆の雨あられを浴びせるも、忌々しい事に対神秘に特化している黒い甲冑に護られてるせいで強行突破をギリギリのところで許してしまう。


    「ふざ……ふざけんな。ふざけんなっ!抵抗しないでよ!向かってこないでよ!何もかもアンタが間違ってんのに私にその剣を振りかざすな!!

    倒れろ!倒れろ!斃れろぉぉぉぉっ!!!!」


    なりふり構わずに今の自分にできる全てを以て迎え撃つ。殺しにかかる。このままここが崩落しようが関係ない。それはそれでこの女はともかく、彼方の彼は燃えながら崩れる瓦礫を前に生き埋めになって死に果てるから結果オーライだ。

    いや、もう寧ろここまでくればそれを狙うのもまたいいのかもしれない。記憶の中とは違って今は深夜帯、直上のデパートは無人だし最後の一手としては躊躇いなく使える状況ではある。


    そこまで考えた彼女は―――


    dice1d2=2 (2)

    1.迷いなくそれを実行に移すと判断した

    2.しかしながら後々のリスクが大きいと懸念し、今はまだすべきタイミングではないと判断した

  • 13二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 00:36:35

    おそらくアルク対策…?
    個人的には復讐鬼であっても無辜の市井の人々に対しての被害は極力抑える姿勢のノエルさんが好きなのでそうだと嬉しい
    自分自身が元々弱き者だったからその者達の心情が一番理解できるのは生まれつきの化物であるシエルでもなくノエルだと思うし

  • 14二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 03:51:06

    今度こそ見届けるぞ 保守

  • 15二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 08:26:42

    このままやりあってもジリ貧だし、この場で志貴を殺してシエルの首根っこ掴んでアルクと戦おうにも蛇腹剣は壊れハルバートは壊れそうだから、こんな状態の得物だと不味いから後顧の憂いであるアルクを片付けてからじっくりと志貴を殺そうって方針に切り替えたのか?

  • 16二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 12:39:25

    シエルは結局志貴が言うようにノエルを説得出来るのか?
    現状ありもしない手段に縋ってロアという吸血鬼を庇い多くの無辜の人々の生命を危険に晒そうとしてる時点でノエルの復讐という私情抜きにしても
    その根底にある罪もない人々が理不尽に殺される事が許せないっていう信条に抵触するからどう足掻いても無理だと感じる…
    この世界だとシエルがノエルを理詰めで追い詰めるのは不可能か

  • 17二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 18:17:20

    理詰めは難しいだろうな 力でねじ伏せるしかないのか

  • 18二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 21:37:38

    「っ……!」

    苛立ちに歯噛みしながらも冷静に思考を回す。ここで今すぐ実行しようと思えば容易くできる。だが人気の静まっている深夜であろうと、それでもデパート一つを周囲一帯ごと巻き込んでの崩落など些か目立ちすぎる。
    何より、

    (その騒ぎに真祖が気づかない筈がない……!そんなコトすれば絶対にこっちに向かって飛んでくるに決まってるわ!)

    恐らくは、今もどこか離れたところで観ているだろう白い化身。それを迎え撃つ算段もしっかりと用意してはいるものの、生憎とそれを設けているのは学校だ。
    ここで遠野志貴(ロア)を殺し、そしてシエルと共にすぐさま学校へと向かい、そこを戦場として襲い来るであろう真祖を迎撃・撃退する。これがノエルの組み立てている予定である。
    そしてそれ故に、今ここで強行手段に及びその結果としてアルクェイドに即座に来られるのは非常に不味い。自分は崩落に巻き込まれたところですぐに復帰できるだろうが、シエルは恐らく遠野志貴を守れなかったショックでそのまま瓦礫の中で蹲るに違いない。
    そうなれば自分一人で憤怒に染まった真祖の姫と殺し合わねばならない。ただでさえこうしてシエルとの戦いで消耗しているというのに、仮にそんな状況になってしまえばまず間違いなく殺されてしまう。

    (ああクソ。ロアがいる限り絶対に殺しに来るのは分かってるけど!なんで大人しく城で眠らずに出てきやがったのよ!!)

    改めて想像以上に面倒で恐ろしい手合いだという事を実感し、やり場のない苛立ちを目の前の女にぶつける。しかしそれもまた女を止めるには至らずに接近を許してしまう。
    ノエルはこの時点で薄々悟っていた。身を焦がすような怒りと焦燥で炎の勢いは更に増してこそいるが、同時にそのせいで動きの精度が欠け落ちつつある事を。反対にシエルの方は戦闘が激化するほどに少しずつこちらの動きを学習し、一つ一つの微かな隙を確実に突いて来るようになっている事を。

    「ちく、しょう―――ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!!」

    一撃ごとに圧されていく。一撃ごとに削られていく。一撃ごとに反撃(かえ)し、そして反撃(かえ)されていく。
    しかしまだ余裕がない訳ではない。それどころか純粋な火力では今やこちらが上だ。
    だから殺す。ここから何とか押し返し、この怪物を殺した上であの少年を確実に灰にする―――!

  • 19二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 22:26:46

    「―――、―――、―――!!」

    荒んだ息をなるべく整え、今まで以上に攻めの方に余力を回す。もう何合目かも分からない撃ち合いの中で、それでも裏切り者の代行者は止まらずに突き進む。
    裏切り者の攻撃の一つ一つに迷いはなくとも殺意は乗せていない。つまり本気でこそあるものの殺すつもりはないということ。
    そんな中途半端な剣で、どうして尚も自分とこうして対等に戦えているというのか……!

    「なによ……なによ、なによ、なによそれ……!!ふざけるのも大概にしろ!
    あの代行者シエルが!!私という被害者を、私という復讐鬼を、私という理解者(バディ)を裏切っておきながら、私との誓いを反故にしやがりながら!まだ“敵”として殺意を向けないの!?なんでこの期に及んで、そうして手加減して私を倒そうとしてんの!?
    裏切るんならちゃんと殺れ!私に少しでも負い目があんならせめて戦闘マシーンに戻れ!それともなに、その子を生かそうとするに飽き足らず私もこのまま追い詰めて叩き伏せた上で殺さずに説得しようってか!?
    笑わせないでちょうだい。この場において正しいのは私だ。私こそが正義だ。中途半端な使命感で中途半端に戦ってんなら!さっさとそこを退けぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

    血走った目で怨讐に狂う少女は叫ぶ。彼女は、ここまで来ても人間らしさを捨てきれていない裏切り者の甘さを全力で糾弾する。
    散々疑わしきは罰してきた。散々女だろうが子供だろうが死徒であるとして殺してきた。散々、お互いに非人間として徹してきた。
    本当に、どうしてこうなる。どうして記憶の中と同じようにこの女は私を置いていく。どうして、どうして―――記憶の中とは違って、自分(かいぶつ)を殺そうとしない?

    「ねえ、聞いてんの?黙ってないで何か言いなさいよ。私がこうしてベラベラと喋れてんだからアンタも何か言ってよ。
    私の怒りに、恨みに、悲しみに、殺意に!!どう思ってんのか言ってみなさいよぉ!!!」

    劣勢に立たされつつも魂からの叫びをぶつける。そんなノエルの怒号に呼応するかのように礼拝堂を囲う炎の檻も一層と燃え盛る。
    それに温度上昇と熱気が、向こうで見守っている遠野志貴にも襲いかかる。直接触れていなくとも、既に死に体も同然である今の彼からすれば、その熱は徐々に体力を奪われるには十分だった。

  • 20二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 23:11:52

    このまま炎の勢いが増していけば、その熱で彼を殺す事もできるだろう。しかしそう単純に事が運ばないのもノエルは理解している。

    「ふっ―――!!」

    シエルの動きが更に精度を増していく。ご自慢の杭打機の一撃が、槍斧の耐久を擦り減らしていく。
    負けじとノエルも抗う。炎で燃やし、激流の渦を繰り出し、雷霆で焼き焦がす。だがそのどれもを乗り越え、女はどこまでも止まらずに迫り続ける。
    礼拝堂は戦いの余波でもうボロボロだ。いつ倒壊しても不思議じゃない。
    そしてそうなれば異変を悟った真祖が一瞬で飛んでくるだろう。それだけは避けねばならない。
    その焦りと苛立ちが、ノエルのパフォーマンスを阻害している。皮肉にも逆境の中で力を発揮していながら、それ以上に彼女自身の感情が彼女を追い詰めていく。

    「なんで、どうして!?強くなる為にこの13年間を死に物狂いで必死に戦ってきたのに!復讐する為に、アンタを責めて殺す為に人間を辞めてまで強さを得てきたのに!
    なんで倒れてくれないの!?なんで私が正しくて自分が間違っているって分かってるのに戦ってくるの!?
    結局、結局―――この私“も”、ここまで強くなってもアンタには及ばないっていうの!?」

    どうしようもない悔しさがこみ上げてくる。思い返せば、この6年間で何度も稽古という名の鍛錬を交わした事はあったが何れも目の前の怪物に勝つ事ができなかった。
    でもそれはあくまで試合であって殺し合いとかではないからと、本気で殺し合えば自分にだって勝機はなくはない筈だと、そう誤魔化すように思い込んでいた。
    しかしこれはなんだ。なぜ自分への殺意のないこの女に、全力で殺す気で掛かっている自分が劣勢に立たされている?
    なぜ中途半端な偽善者如きに、復讐鬼でありながらも正しい立場にいる自分がこうも追い詰められているというのか?

    「―――分からない。分からない。全っ然理解できない!その子は、遠野志貴はもう間もなくロアに書き換えられる。その汚染は精神でどうにかなるものなんかじゃないってのは他ならないアンタ自身が一番分かってるでしょ?
    仮にロアを引き剥がす方法が本当にあるとして、それを見つけ出して実行するまでにその子が耐えられるとでも思ってんの!?
    転生体をロアから救う手段。そんなお優しい事を、アンタを散々いたぶって私を汚染物扱いしやがった“あの”聖堂教会が律義に考えているとでも!?」

  • 21二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 23:19:15

    ノエルさん一貫して正論しか言ってねぇ…
    後ノエル自身はロアを恨んでるだけで志貴対しては常に人としての尊厳が失われる前に安寧な最期を与えようとする慈悲を見せてるし

  • 22二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 23:39:33

    お辛いけどすごい引き込まれる
    ノエルの感情とか文章とか台詞とか本当にすごい

  • 23二次元好きの匿名さん25/02/06(木) 05:04:29

    どっちも欠けずに続いて欲しいが難しそう……

  • 24二次元好きの匿名さん25/02/06(木) 10:13:04

    シエル的にも対アルクにはノエルと一緒に対処したいだろうからマジで志貴(ロア)をどうするかって話なんだろうな

  • 25二次元好きの匿名さん25/02/06(木) 16:26:00

    これ以上戦えば勝手に召されちまいそうだしな
    どうなるのか

  • 26スレ主25/02/06(木) 19:52:08
  • 27二次元好きの匿名さん25/02/06(木) 19:58:20

    >>26

    まとめありがとうございます

    加筆修正やったー!

  • 28スレ主25/02/06(木) 21:05:10

    あと加筆修正はある程度ながら今後もちょくちょく加えていくつもりなのでお楽しみに
    けどそれはそれとしてとりあえず今はこっちの√を優先して書かないとな

  • 29二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 00:41:06

    「……それは」

    ここにきてシエルの口から再び動揺が洩れる。ノエルの言葉に間違いはない。教会というアテこそあるが探し出せるのにいつまで要するか分からない、いやそもそもそんな方法が本当にあるのかも分からない。

    「それは、何?言い淀んでないでハッキリと答えなさいよ。『不確定で不明瞭だけど知った事ではないので愛しの彼氏がロアに堕ちるその瞬間までありもしないモノを探します』ってさぁ!!」
    「っ……!」

    その動揺を見逃さずにノエルが叩みかける。シエルが優勢だったそれまでの状況から、再び天秤がノエルの方へと傾く。
    それでもシエルは小さくない迷いを振り払って立ち向かう。彼女とて希望的観測で動いては入るものの考えなしではない。

    「違います。ちゃんとした可能性を見出しているんです、ノエル!確かにこれまでの転生体はわたしも含めてロアの侵食から逃れる事はできませんでした。彼もまた例外ではないでしょう。
    でも、今回は。今回は違うんです!救える余地がある筈なんです!だってわたしという、『吸血種から人間に戻った』唯一のサンプルがあったんですから!」

    それまでの『ロア』は例外なく吸血鬼として死んだ。例え汚染源である『ロア』の情報が転生体の死と共に肉体から霧散したとしても、一度吸血種として魂が変異した時点で肉体も死徒のまま朽ちる。
    死徒化という現象は治る治らないではなく、どのような要因であれ“そうなった”時点から不可逆なモノとなる。故に汚染源が消えようが人間に戻る事は二度と叶わない。

    しかし、彼女は―――代行者シエルは、エレイシアは例外だった。真祖の姫に殺され、『ロア』という汚染源が消えて以降、なぜか吸血種から人間だった頃の精神と肉体を取り戻せたのである。
    魂のラベルこそロアのそれではあるが、それ以外は人間として蘇っていた。
    もっともその所為で半年間に渡る地獄の審問を受ける羽目になったが、今の彼女からすればそれもまた良かったと思っている。
    然るべき罰を受けたから……というのもあるが、その時に色々と検証して得ただろうデータを元に『転生体からロアを救う、苦しくは抑制する方法』の一つ二つは研究していてもおかしくはないからだ。

  • 30二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 01:13:16

    加えて自分はアルクェイドに殺されて法王庁に運ばれた時点で人間の肉体に戻っていた。なら、自分が死から目覚めるまでの間にも貴重なサンプルとして研究していた筈。

    だから、その可能性に懸ける。自分という例外の情報をもとに転生体を救う手段が立てられている事を希望に懸けて、彼を救(たす)ける。それが今のシエルの考えだった。

    「まったくのゼロじゃない。1にも満たない可能性だったとしても、わたしはそれに懸けたい。彼がわたしを信じてくれているように、わたしも彼の為に自分にできる事を最期までやり遂げたい。いいえ、やり遂げてみせます!!」
    「じゃあさっさと!!あの子の尊厳を護る為に、あの子を今すぐ苦しみから解放させる為に!!殺してやりなさいよぉぉぉぉ!!!!」

    お互いに吠え合い、信じるモノの為にぶつかり合う。炎の勢いは更に増していき、響き渡る鉄と鉄の衝突する音はより激しくなっていく。
    炎の檻はじわじわと床を這っていき、ゆっくりと遠野志貴という獲物の足元へと火の手を伸ばす。
    タイムリミットはもう残されていない。
    このまま炎が彼に届いてその存在を焼き尽くすか、その前に礼拝堂が崩れるか。

    或いは―――彼女たちの闘いに決着が付くか。

    「らぁああああああああああああぁぁぁああああああああ―――!!!!」
    「っああアアあああぁぁああああアアアアアあぁああああ―――!!!!」

    もはや少女たちにとって、今は己のエゴを貫き通す為に全霊を以て力をぶつけ合うだけとなった。片や復讐する為に命を懸け、片や贖罪と恋の為に命を懸ける。
    どちらかが正しいだの間違いだのという理屈はもう意味を成さず。
    いつかの世界で鉄の代行者が死徒に堕ちた弟子に言い放った、強さで以て己の正しさを証明する。この闘いは最初からそうなっていた。

  • 31二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 06:33:50

    ノエル先生があまりにも全うで辛くなるが美しい

  • 32二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 10:07:46

    結局、最初からそうなっていた故に話し合いでの解決など土台無理な事であったのだ。
    シエルが倒れるまでノエルはその矛を納めず、ノエルが矛を納めてくれるまでシエルは闘わざるを得ない。
    後はこのまま、どちらかが地に伏すまで得物を振り翳し続けるだけ。
    互いに余裕はなく、ただ全力で相手を打ち負かすのみである。

    「っ……!
    ………いいの?さっきも言ったけど、私は容赦なく報告するわよ?『代行者シエルは主の代行としての責務より一身上の都合を優先して私というバディを攻撃した』って!!
    いえ、それ以上に結局志貴クンがロアと化したらどう責任を取るの!?真祖の対処もしないといけないってのに、随分とまあ楽観的ね!
    ねえ、答えてよ。答えろ!!」

    ここまで来てもノエルは冷静さを失わずに後先の事を訪ねる。復讐にしか生きられなくとも、それでも罪なき無辜の人々の安寧を護る為に動く彼女からすれば、シエルの行動はどうあっても許容できるものではない。
    槍斧の刃が、柄が、傷付いていく中で復讐者は尚も怒りのままに奔走する。

    「構いません。報告されるのはとっくに覚悟の上です。そして彼がロアに変異したなら、その時は彼を殺してわたしも死にます。
    いえ、正しくは貴女の復讐を潔く受け入れて殺されるつもりです。その死を以て、責任を取ります。
    けれど―――だからこそそうなる前にアルクェイドを退け、その上でロアの侵食から転生体を解放する手段を必ず見つけ出して彼を救います!!」

    その復讐者の言葉に、想いに、殺意に応えながらも代行者は剣を振るう。炎を、激流を、雷霆を一身に受けながら彼女の怨念(おもい)に正面から向き合っていく。
    仮に彼をロアから救えたとしても、真祖から護りきれたとしても、彼女との誓いを反故にした事実は覆らない。自分はきっと、ろくでもない末路を辿るだろう。
    でも、それでいい。その間違いを犯した見返りで彼を救えるのなら、自分はそれを抵抗なくこの身に甘受しよう。

    「なによそれ、結局同じ事しか言ってないじゃない!ああそう、私が何言ってもアンタは一貫してそうほざくワケか!今すぐに彼を楽にしてあげるって考えにはならないしなれないってコト!?
    開き直りやがって―――それが不公平で筋違いで愚かそのものなんだって、何度も何度も言ってるじゃないっ……!!!」

  • 33二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 17:51:09

    自分への殺意が無いことを怒ってたけど、シエルからしたら向けられるはず無いんだ、だってノエルは死徒化せず真っ当に強くなってて、殺して終わりには出来ないし、死徒化してないからこそま間に合うって思ってるからね

  • 34二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 22:06:35

    ノエルには悪いがシエルに勝って貰って、ノエルの頭を冷やして欲しいなあ

  • 35二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 22:33:00

    少なくとも周囲から見たらノエル先生は復讐による私情であったとしても死徒化せずに優秀な主の代行として責務を全うしようとしてるのに対して
    シエルは吸血鬼を助けるという特大の規律違反をしてる上に吸血鬼によって無辜の人々に生じるであろう害と自身の恋を天秤にかけた上で後者を選択してるからなぁ…
    周りからしたら志貴を殺す方が確実に防げるであろう害をありもしない手段があると言い張って私情で無理矢理押し倒そうとしてるのは糾弾されて当然よ

  • 36二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 01:07:02

  • 37二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 02:19:09

    このノエルは常に周囲への被害や影響を考えてて視点狭窄になってないのよね
    元々自分自身が何もできない凡人から死に物狂いでここまで来たから無辜の人々への被害や安寧についてはメチャクチャシビアに判断してるというか
    シエルは寧ろ才能があったからこそそこらへんが甘いというか楽観的なのは今までの経験や所業からしたらノエルにとってはあり得ないし
    そりゃ許せる訳ないな

  • 38二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 10:13:28

    保守

  • 39二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 10:22:54

    そんな代行者の言葉に、想いに、戦う意思に復讐者は糾弾する。加速度的に擦り減っていく得物の事など知った事か。
    なりふり構ってる場合なんかじゃない。この瞬間、この時を以てこの女を叩き伏せ、そしてロアをここで消す。
    そして現実を見せつける。どれほど尊い願いだろうと、結局は理不尽に奪われるのだと。運命という抗いようのない巨(おお)きな力の前では、ただ蹂躙されて失うだけなのだと。

    「嫌い。全部嫌いだ。私との誓いを裏切ったのも、代行者としての責務と使命感を後回しにしてありもしない希望に縋りだしたのも、私をおいてただの人間に戻ったのも、全部全部全部全部大っ嫌いっ!!」

    目の前の女に全てをぶつける。思いも、力も、ここで全て出し尽くすつもりで殺しにかかる。分からない。なぜそこまでバカな幻想に決起できるのかがどうしても理解できない。
    ならこれまでの6年間は一体なんだったのか。この女は、自分には―――ノエルという人間にはどこまでいっても嘘しか口にできないのか。
    馬鹿馬鹿しい。阿保らしい。憎い。憎すぎる。
    正しいのは自分なのに。間違っているのはそっちなのに。倒れるべきはそっちなのに。
    彼を―――遠野志貴を本当に救(たす)けたいのであれば、これ以上苦しませないように慈悲の手向けを与えてやるべきなのに。
    その怒りをここで燃やす。そうだ。裁かれなくてはならないのはこの女の方だ。
    自分は復讐という大義を果たし、彼は主の憐れみによってその魂を救われ、そしてロアとこの女は地獄に墜ちて永久に苦しむ。
    だからこそここでシエルという障害を退け、彼を殺し、自分の正しさを証明する。

    復讐者はその一心で裏切り者にその業火を浴びせ、代行者もまた己と共に生きたいと願う者の為に鉄の刃を振るう。
    徐々に崩壊の進む礼拝堂。少年の命を焼き尽くさんと近づく黒い焔(ほむら)。
    その中でいつ果てる事もなく続くかと思われた少女たちの戦いは。

    「―――がっ」

    杭打機の一撃が、炎を纏う槍斧を突き砕き、そのまま復讐者の脇腹ごと抉り貫いた事で決した。

  • 40二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 17:33:14

    歴史の修正力というか、運命というか、ノエルは正史と違って今の時点で既に単騎で祖をコミュニティ毎葬れるほど強くなったのにシエルには負けるのか・・・・・

  • 41二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 23:00:10

    シエル先輩は殺意はなくて無力化だけしてあとはことが終わるまで放置するのかな
    ノエル先生の憎悪がまた増しそうだ

  • 42二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 23:26:46

    どれだけ強くなっても、シエルが更に強くなってあっさり叩き潰されるルートも見たい

  • 43二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 01:25:35

    通常の代行者で祖を狩れる所まで登り詰めてきたノエルは行使しようと思えばシエルよりも聖堂教会で広く立ち回れると思うからどうだろ

  • 44二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 09:58:54

    >>42

    そんな...ぽっと出の同じ能力の能力者にやられた吸血鬼みたいな...

  • 45二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 16:36:33

  • 46二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 21:16:55

    敗因は熱くなりすぎて引き際を見極めるられなかったことかな?

  • 47二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 22:18:29

    保守

  • 48二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 02:39:41

    マーリオゥとかもめっちゃ甘いし祖も埋葬期間に入るし正直ロアに覚醒したらちゃんと殺せるという前提の上では無辜の人間を助けようとする努力は教会的にもセーフな気がするのよな
    意外と切嗣とか守護者みたいに大を救うために小を切り捨てるの必須みたいな職場ではなくて結構我を通せるとこな気がする

  • 49二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 07:25:48

    >>46あとはシエルが駆けつけた時点で無駄に争わず上に報告すれば良かった気もすんだよね

  • 50二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 15:16:46

    ノエル倒したとしても志貴もシエルもこの後スッキリ手段を探しましょうとはならないよな
    ノーマルエンドならシエルが志貴に命を譲渡して志貴がそれを戻すための手段も求めて教会入りしてるけどそれをノエルが許す訳ない

  • 51二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 15:37:55

    マーリオゥからしてもシエル側には絶対立たないだろうからな
    トップクラスの代行者としてのノエルのこれまでの努力や執念を全て無駄にするような選択を行なった事はまだしも代行者の絶対原則やノエルの根本に存在する人々を護るという信念への背信はその立場まで死徒を殺し続けて人々を守り続けて這い上がって来たノエルからの糾弾となれば絶対肯定出来ない

  • 52二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 16:27:40

    「ぁ、がふっ……は、っあ……!う"ぅぅぅ……!!」

    血を吐きながらも、折れた槍斧の柄を支えにして膝をつく。彼女の呻きと共に周囲を囲う炎は更に燃え盛る―――事はなく、寧ろ燃え尽きるように勢いが沈んで消えていく。
    勝敗は着いた。杭の一撃を受け、武器を失い、炎も出し尽くした復讐鬼に代行者は近づいていく。

    「―――ノエル。貴女はさっき、わたしに“どうして殺意を向けないのか”と言いましたね」
    「―――、―――、っ……ええ。言った、わ。私を裏切りやがった、クセに……なんで、アンタは……本気で殺そうとしなかったの」

    息を荒げながら、ノエルは憎々し気に疑問を投げる。なぜこの闘いの中でただの一度も殺意を見せなかったのか。本来なら先の一撃を心臓や頭に向けて刺し貫けた筈。
    なのにどうしてそうせずにわざわざ脇腹なんかに放ったのか。こうして相容れない敵として刃を向けあっていながら、なぜ今もこうして殺そうとしないのか。

    「貴女が正しいから。貴女がわたしなんかよりずっと、人々の為に戦っているから。わたしに貴女を殺す権利も資格もないから。
    理由は他にもありますが―――何よりも。何よりも貴女に生きていてほしいと、死んでほしくなんかないと、そう思っているからです」

    もし、彼女が死徒に堕ちたのなら。代行者は『一周目の記憶』と同じように、測り知れない罪悪感を抱きながらも決別と断罪の手向けを与える事ができただろう。
    だが、この彼女は違う。復讐の為にその身を人ならざる怪物に堕としながらも、死徒のように踏み越えてはならない一線を越える事なく代行者としての責務を全うし、今もまた己の復讐のみならず弱き人々の為にも動いている。

    「わたしは、先ほど遠野くんに言ったように色々な人間を見てきました。その中で、誰よりもわたしの事を毛嫌いし、同時に誰よりもわたしの事をちゃんと見てくれていたのも貴女だけでした。
    言うなれば、貴女はわたしの理解者です。わたしにとって遠野くんが唯一の恋人なら、貴女は唯一の相棒(バディ)なんです。
    そんな、大切な人を―――殺せる訳が、ないじゃないですか」

    微かに声を震わせながら、代行者は想いを告げる。
    例え誓いを放棄し、裏切ろうとも―――自分の理解者であるノエルを殺すなど、シエルには到底できるものではなった。

  • 53二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 16:31:03

    シエルさん一番のバディ(相棒)とか言いつつ普通に裏切るのは面の皮が厚過ぎるぞ

  • 54二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 17:00:31

    言葉と行動が一致してない時点でノエルからしたら意味ないんだよな
    唯一の相棒なのに
    ・自身との誓いを数週間交流したガキを理由に平然と破る
    ・恋という身勝手な私情で確実に多くの人々を護る手段を取らない所か寧ろ危険に晒す
    ・自分は何一つノエルの事を理解していたとは思えないような行動を連発
    その果てに自分が間違ってる事を知ってるのに自分の故郷を無茶苦茶にした才能と力で強制的に正しい自分を捩じ伏せてきた…
    ノエルからしたら巫山戯るなだよなぁ…

  • 55二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 17:07:47

    >>54

    その上で自分は志貴を助けてそのまま幸せに生きていく気満々で

    全てを裏切ったノエルに対しては何もないと自分から何も差し出さない辺りシエルがノエルをどう見てて何も理解してなかったのが分かる

  • 56二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 17:14:06

    ノエルにトドメを刺さなかったのって教会内で特別な名前で呼ばれるまでに至ったノエルを殺したら自分と志貴の立場が危うくなるから生かしたって打算的な解釈も普通にできる
    しかもこれ露悪的でもなく普通かつ当然にそう解釈できるレベルで今までの発言と行動が一致してないからノエルや周囲含めた教会にしても信用できる筈がない

  • 57二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 17:40:43

    これについてはシエルも『人間』だってことを忘れてた故のすれ違いとも言えなくもないよな、あとシエルは埋め合わせすると思う

  • 58二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 18:35:33

    「………はぁぁ?……おま、え……何を、言ってる?」

    裏切り者の返答に、復讐鬼は今度こそ理解が追いつかなくなる。
    自分を裏切るに飽き足らず、それどころか全力で抗戦した末にこのように生殺与奪を握っておきながら、“殺せる訳がない”?

    「いや、マジで。ホントに、本当に………何言ってんの、アンタ?」

    復讐鬼はここに来て恐怖を覚え始める。言ってる事とやっている事の整合性がない。合致しない。矛盾している。
    唯一の理解者だの殺せる訳がないだのと宣っておきながら、正しい事をやっている筈の自分をこうして動けなくなるまで追い詰めている。恋路を阻む邪魔者として切り払っている。

    “コイツ―――もしかして、私以上に狂っているんじゃないのか?”

    そう過った瞬間、もはやそうとしか思えずにいた。
    何が鉄の女だ。何が狂いも壊れもしない聖人だ。何が非人間の戦闘マシーンだ。
    今までずっと、ずっと自分は勘違いをしていた。目の前の女は化け物ではあるが、その贖罪の意志だけは紛う事なき本物であり、決してその使命より自分の都合を優先しない罪ある聖人だと。
    自分がもっと強くなれば、バディとして恥じない存在になれば、『記憶』とは違って人間に戻る事もなく代行者としての責務を全うしてくれる筈だと。

    でも違った。全部、全部全部、全部自分の浅慮な思い込みに、妄想に過ぎなかった。
    この女は始めから、始めから壊れていたのだ。贖罪の使命感というのは本物であり、しかし同時に自分の都合を押し通す為のテイのいい免罪符だったのだ。
    嘘ではないが、嘘である。嘘ではあるが、嘘ではない。だから殺したくないという気持ちは本物であれ、それはそれとして邪魔をするなら躊躇いなく戒律を破り、唯一の理解者を平気で傷つける。

    「………は、はは。ははは、はは。
    ……………………恋は、盲目。愛は人を、狂わせる。そんな言葉があるけど、おまえの場合はその子に恋する以前から狂いきっていたワケだ。
    私が、復讐という魂に刻んだ使命の下で好き勝手やってきたように、おまえも贖罪を言い訳に好き勝手に弄んで殺してきたってコトか。それで、今回もまたその子を救いたいという意思表示を盾にして………私を徹底的に、押し退けて否定すると。
    ああ―――つまり、結局、代行者シエルなんてヤツは最初っからいなかったんだ。そんなのは、私の幻想に過ぎなかったのね」

  • 59二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 19:01:29

    あーそっかノエルからしたら唯一シエルの事を認め尊敬していた贖罪についても薄っぺらい嘘にしか聞こえないだろうな
    人々の安寧と自分の恋を天秤をかけて後者を選択した奴が贖罪云々とか抜かしてたら明らかな嘘だもんな

  • 60二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 19:05:16

    逆にシエルが開き直るなら原作とは違ってノエルが今まで積み上げてきた立場から原作以上に効果的に糾弾できるからお得ではある
    ちょうど志貴という1番の弱点も出来てる…

  • 61二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 21:19:33

    我々は月姫本編を通して『人間』シエルを知ってるが、ノエルは「鉄の女」「狂いも壊れもしない聖人」「非人間の戦闘マシーン」の役を被ったシエルしか知らなかったが、事ここに至ってその仮面が外れた『人間』シエルを自覚したという訳か

  • 62二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 23:24:06

    「……………………」
    「…………はぁ。なんだかもう、馬鹿馬鹿しくなっちゃった。いいわよ、行くならさっさと行きなさい。どのみち、私はこれ以上動けないし。
    そして―――結局彼を救えずに、ロアの浸食に悪戯に苦しめてからやむなく殺してしまったという事実(みらい)に絶望してしまえ」

    落胆。失望。虚無。色んな面で嫌気が差した復讐鬼はこの場から失せるように言葉で突き放す。
    今の今まで自分は怪物ではなく狂った人間モドキと戦っていたらしい。こんなのは代行者でもなければシエルというヒトでさえない。
    元々おかしかったのが、恋というのを起爆剤に完全に一線を越えてしまった。そんなただの狂人だ。

    「失せろ。出ていけ。出ていってよ。おまえの顔なんか、もう見たくもない。私は私で、また動けるようになったらこの事を報告して、また志貴クンを楽にしてやる為に動くからさ。
    その後は、その時こそおまえに然るべき報いを与えてやる。ヒトとしてまともに死 ねると思うな、悪魔め」

    苦虫を噛み潰す屈辱感に襲われながらも、この場での執行は諦める事とした。
    今はこの敗北を認めよう。だがすぐにまた再起し、おまえの目の前で彼を殺す。そしておまえもいたぶり、辱しめ、弄んだ末に必ず殺してやろう。おまえに殺された人たちと、おまえに全てを奪われた自分の絶望を味わせてやる。
    ヘドロのような怨念を抱えて、復讐鬼はそう決意した。彼女には諦めるつもりなどなく、それどころかそれまでにも増して更に復讐への妄執が膨れ上がっている。

    「………わたしは、これから遠野くんをアパートの借り部屋に連れ込んでロアを一時的に鎮静化させた後に、本国の方へと戻って転生体を救う手立てを探します。その間を狙って襲撃してもいいですし、後々から接触してくるだろうアルクェイドとの戦闘を見計らって彼を殺しにかかっても構いません。
    その上で、今回のように彼を護りきります」

    この後の行動を説明しながら、いつ襲いかかっても構わないという旨を裏切り者は告げる。
    それはある種の律儀な詫び言葉だった。一方的に裏切った以上は、せめて彼女が自分たちをいつでも殺せるように、この後の動向を口にするだけでもしなければというシエルの罪悪感からのものであった。
    無論、そんな罪悪感からの詫びなどノエルからすれば鉄面皮の極まった浅慮以外の何者でもないのだが。

  • 63二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 23:28:44

    ノエルさんの強化イベント…
    確かに挫折からの成長は王道ではあるが…

  • 64二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 23:35:40

    この後の動向を口にするっていうシエルの言動もノエルの特大地雷踏んでるんだよな
    人々が巻き込まれて命を奪われる事を何よりも憎んでるノエルが護る為の戦いであるアルク戦で要でもあるシエルを攻撃する筈がない事を全く理解してない
    本当にどの口で話しているのだろうか…

  • 65二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 23:54:34

    この後の√って夜の虹?それとも白日の碧?
    これ前者でノエルが聖堂教会にそのまま在籍してるなら志貴の末路は絶対悲惨な事になるぞ
    志貴が代行者として活動するなら既に伝説級の活躍をしてるノエルに絶対服従だろうし
    シエルに自分の生命を移した所でノエルの復讐に巻き込まれて無駄死に確定だし

  • 66二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 23:55:59

    「では、先に失礼します。
    ………………上手く行くにしろ、最悪の結果に終わるにしろ。事が終わった後は、わたしは貴女の怨念(おもい)の全てを受け止めます。
    この言葉は―――嘘ではありません」

    そうして裏切り者は遠野志貴を抱えて出口の通路へと向かい、夜の闇に消えていった。
    あとに残されたのは、荒れた礼拝堂の中で血が滲むほどに拳を握り締め、復讐の焔を燻らせる鬼(おんな)だけだった。

    「………はは。嘘ではありませんって。なによ、それ。なんなの、よぉ……!」

    自分の怨念(おもい)を全て受け止める?馬鹿馬鹿しい。どうせそれも嘘に決まっている。彼が死んだのならともかく、もし奇跡が起きてロアから解放された上で生きていたのなら、自分からの報いを拒絶するに違いない。
    『彼と共に生きたい』『彼がそう願う限り、殺されてやる事はできない』―――そんな感じの口八丁な言葉を並べるに違いない。そして自分から幸せを奪った分際で自らは恋人と甘い日々を送っていくのだろう。

    「ふざけんな。ふざけないで。そんなの、罷り通るワケないでしょう。どこまで自分の都合を押し通せば気が済むのよ、あの女はっ……!
    あ、あぁ。ああ―――悔しい。悔しい、悔しい、悔しいぃぃぃぃ……!」

    未だに響く脇腹からの激痛と、抑えようのない憤怒と怨嗟に慟哭する。
    あんな姿はありえない。
    あんな無様さは許されない。
    あんな愚かしさは到底認められない。
    何より―――そんな弱さを剥き出しにした無様で愚かしい人間モドキのヤツに、結局こうして敗北を晒した自分自身の情けなさに、むかっ腹が立って仕方がない……!

    今更ながら、記憶の中の自分の無念さがどれほどのものだったのかをノエルは実感する。なるほど、これほどまでの失意に襲われるのであれば死徒の力に堕ちても分からなくはないと。

    『一周目の記憶』の彼女はがそうだったように、このノエルもシエルへの復讐心を燻ぶらせつつも心の何処かで“もしかしたら記憶と違って戦闘マシーンのままでいてくれるかもしれない”という期待をしていた。
    そして、少しでもそうなってくれるようにとそれまで以上に努力し、彼女とこれまで一緒に協力してきた。人間に戻る未来の可能性を、僅かでも消す為に。
    だが、結果は無駄だと思い知らされた。結局、同じように彼女は人に堕ち、自分とこうして決裂した。してしまった。

  • 67二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 00:17:01

    ここらで強化イベントとしてスルトかカグツチあたり取り込んでみるか?
    丁度燃やし尽くす為の薪は大量にセットされた所だし

  • 68二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 00:49:36

    「いいえ。それでも……それでも、私はここでいつまでも痛みに蹲ってるワケにはいかない。
    ええ、そうよ。そうよノエル。結局、やる事は変わらない。アイツが、自分の都合を押し通すって言うのなら。こっちも、自分の都合のままに動けばいいのよ」

    自分とて、常として自分の中の信念のもとに動いてきた。
    自分はヒトとしては間違っているけど、代行者としては、復讐者としては正しい。だから今まで上手くやれてこれた。だからこそ今からも変わらずにそうする。己の使命に従事する。

    「そうよ。私は、記憶の中のあの哀れな女とは違う。自分の為だけに祈ったりなんか絶対にしないし、そもそもそんな強請るだけの卑しいヤツに神さまは救いなんて齎さない。結局、自分で……自分一人で、動くしかない」

    『一周目の記憶』の自分自身を反面教師として成長した結果、彼女は困った時の神頼みという行いそのものを毛嫌いするようになっていた。
    見えもしない、いるのかもわからない何かに頼るくらいなら、身近にいる誰かや己の力の方がずっと信用・信頼できる。ただ求めるだけの人間に待っているのは、救いなどではなく破滅なのだから。
    ノエルはそうして13年間を生きてきた。

    「………とり、あえず。今やるべき事は、ここを出て……教会に報告する事。そして、この傷がある程度癒えたら、また動けばいい。志貴クンを……遠野志貴を、人間として殺してあげないと」

    よろめきながらも何とか立ち上がる。傷は深いが、人外と化しているこの肉体なら最低限の応急処置さえすれば後は勝手に治る。
    問題は武器の用意だ。先のシエルとの闘いで蛇腹剣も槍斧も破壊されてしまった。後から新品を送り付けるように教会に発注申請を出さなくてはいけない。

    「……ああ………それにしても、口惜しい。憎い。あの女が狂わなければ、こんな面倒な事にはならなかったのに。
    あと、もう少し。もう少しで、あの女を叩きのめした上で絶望を味わせてやれたのに……っ!!」

    頭の中を、心の中を、憎悪が埋め尽くしていく。その黒く染まった胸中を隠しもせずに礼拝堂を去ろうとした時。



    「うんうん!わかる、わかるわぁその気持ち。ノエルちゃんのその無念、アタシにはジューブンに理解できますとも!」



    この場に聞こえる筈のない―――聞こえてはならない声が、彼女の耳に響いてきた。

  • 69二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 00:51:03

    うわ出た

  • 70二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 03:41:23

    今更ノエルを堕とそうとしても無理だよ阿良句博士
    後蜘蛛って物凄く熱に弱いやっぱりらしいけど大丈夫?
    今の彼女おそらく燃え盛る溶鉱炉レベルの炎だよ

  • 71二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 04:16:16

    さすがに『一周目の記憶』同じ死徒化の選択はしないと思うししないでほしい。
    それは13年間必死に死に物狂いで築き上げてきたはずの、代行者としての、復讐者としての正しさをかなぐり捨てる、自分への最大の裏切りだから

  • 72二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 06:16:34

    でも今のノエル、蜘蛛の死徒とか出て来たら勝てる…??普段なら余裕だろうけど、今はシエルにボコボコにされてるわけだし、、、、

  • 73二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 12:28:13

    普段でも余裕とはいかないだろうにこんな状況であうのは不味すぎるな
    死徒化を自分から選ぶことはないと思うがはたしてどうなるか…?

  • 74二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 12:30:50

    原作でも最初無理やり注射されたしなあ…去ってくれえ…

  • 75二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 13:07:48

    >>72

    シエル√の明らかに強くなっていたノエルですら相打ちが限界だったんだから今のノエルじゃ万全でもまだ厳しいんじゃないかな…

    一矢報いることくらいならできるかもしれんが

  • 76二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 18:15:18

    「―――おま、えは」
    「はあい、こんばんは。いやぁ~遠くから観戦してたけどなかなか凄まじい戦いだったわねぇ。恨みという原動力(かんじょう)一つでああまで強くなれるだなんて、ノエルちゃんってばものすっごぉい!」

    ノエルは戦慄を覚えながらも冷静になる。厭に馴れ馴れしく話しかけてきたその者は、『記憶』の中の自分が死徒に堕ちる決定的な要因となったあの白衣の女だった。
    いつ、何処から観ていたというのか。それは今はどうでもいい。
    問題は、なぜこのタイミングで自分に接触してきたのか。そして、この状況をどう切り抜けるかだ。

    「…………おまえは、誰よ。こんなところにまるで散歩気分で来れている時点で、普通の人間じゃない事は理解できる。
    私やアイツの事を知ってるみたいな口ぶりだけど、もしかしてどこかで会った?」

    余裕がない事を少しでも悟られないように、せめて流通に喋る。応急処置もろくに出来ていないこの状況では戦闘沙汰に発展する事だけは避けたい。

    「お。意外と冷静なのね?まあそうじゃなきゃ13年間も代行者やれてないか。んーそうね、アナタたちとの“直接的な”面識はないわよ。うん、ナイナイ。
    アタシが一方的に代行者(そっち)の事を知ってるだけだから。説明すんのメンドーだし、これで納得して♡」
    「――――――、は」

    その返答に思わずノエルは鼻で笑った。得体の知れない不気味さもそうだが、それ以上にこちらの神経を一々逆撫でするような軽薄さも記憶の中と寸分違わぬ事に呆れてしまう。
    どういう情報網で自分たちの事を手に取るように把握しているのか。それが分からない事もまた、この女の不気味さに拍車をかけている。

    「……あっそ。ならそういう事で納得してあげる。で、おまえは何の目的で突然私の前に現れたワケ?
    どう考えても偶々なんて事はない。どんな悪巧みを以て、私にこうして接触してきたのよ?」
    「イヤねぇ、別にそんな悪どいコトとか企んでなんかないわよ。寧ろアタシなりの慈善活動、ライフワークの一貫って感じぃ?
    まあ、つまりね。ものすっごい戦闘を観させてもらったお礼として、敗北者のノエルちゃんに更なる力を得るチャンスをご提供して差し上げようかなって!ただ、それだけよぅ?」

    もう答えの分かりきった、実に単純で醜悪なその返答(もくてき)に、ノエルはこれと言って動揺する事も怯える事もなく目の前の女を蔑んだ。

  • 77二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 21:18:55

    ついさっきまで憎悪で胸がいっぱいだったのに、阿良句先生に会ったら一転冷静になったな、まあ自分の破滅を促した相手だからなあ

  • 78スレ主25/02/11(火) 23:54:56

    >>65

    えーとですね

    今更ですが現在進行中のこの√は夜の虹です

    つまり志貴クンのこの後は死ぬ事こそないですが晴れやかな未来を歩めるかって言われると………まあ、はい

  • 79二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 23:56:40

    スレ主さんおかえりなさい!!!
    スレッド落ちちゃってもう続き見れないかと思ったけど良かった!!!!

  • 80二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 23:56:43

    自分が死徒されるぐらいなら撤退するのも選択肢としてアリだよ
    それぐらいは代行者であっても認められると思うし

  • 81二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 00:50:51

    であれば、この後にこの女が何をほざくのかも自ずと分かるというもの。その上で、ノエルは続けて質問する。

    「更なる力を得るチャンス、か。具体的に言うと?」
    「簡単よ。アタシがアナタを、吸血鬼にしてあげる。本来ならノエルちゃんには死徒の才能とかからっきし……なハズだけど、それはあくまで人間だった頃の話。
    今のアナタは肉体も魂の霊的規模も人間の時とは比べ物にならないほど巨(おお)きくなってる。アタシは人間だった頃のアナタはほとんど見てないけど、その上でそう断言できるわ。
    そしてそんな今のアナタなら、死徒になっちゃえばそれなりに高い階梯まで一気に成れる……と、思わないかしらぁ?
    少なくともアタシはそう思ってるわよ。これは研究者としての直感ってヤツね!」

    要は結局、『記憶』の中と同じように自分を死徒にしようと接触しに来たワケだ。案の定もここまで来るといっそ清々しい。
    隠そうともしない悪意。しかし当人にはそのつもりがなく、本当にただの善意と興味本位でやっているという事実が恐ろしくタチが悪い。
    これ以上、この女の言葉を聞いていると耳が腐りそうだ。その一挙手一投足が醜悪で、不快に思わずにはいられない。

    「なるほどなるほど。それはまあ魅力的ね。でもさ、代行者の私がそのクソみたいな提案に首を縦に振って頷くと思う?」
    「あれぇ~?でもアナタ、力が欲しいんじゃないの?あの代行者とロアへの復讐の為ならどんな事でも手を染める、そんな覚悟と決意で今日まで生きてきたんでしょ?
    だったら、これを断わる理由なんてなくない?代行者と言っても、アナタはそんなに信心深いって腹でもないでしょうに。
    何よりアナタ、結局敗けちゃったじゃないの。仮に体制を整えてまた挑んだとしても同じ結果になるだけと思うわよ?
    でもだからこそ、アタシはそんな哀れで惨めなノエルちゃんに逆転の一手を与えてあげようと思って、死徒の力を授かってみないかって提案しているの。
    これも一つの愛。そう、ノエルちゃんという可哀想な弱者に対するアタシからの無償の愛(ラブ)ってヤツよ!」

  • 82二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 01:07:17

    この世界のノエルは執念でここまで這い上がって来たから絶対死徒にはならないんだよなぁ…
    寧ろ人外になろうとも弱き人々を護るヒトであり続けたという事実が彼女を後押ししてるだろうし

  • 83二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 06:45:04

    「哀れで惨め結構、吸血鬼になったら自分から無償の愛を弱者に向けられなくなるから要らない」って、つっぱねる度量はあると断言できるが、どうなるかな?

  • 84二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 13:57:54

    炎に関しては敗北とその屈辱によって今まで以上強化されてると思うが肉体の損傷の方がな…

  • 85二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 17:31:05

    取って付けたような気味の悪い笑顔を崩さずに、べらべらと喋りながら女はこれを無償の愛だと宣う。
    “力が欲しいのだろう。ならば自分の提案(あい)を受け入れろ。どうせこのまま頑張ったところで、おまえではアレには勝てないのだから。”
    要約すると非常にシンプルだ。つまり、この蜘蛛みたいな女は、どこまでも自分を舐め腐っているらしい。
    今はここから逃げる事に徹するが、次に顔を合わせれば即座に焼き尽くしてやろうとノエルは決意した。

    「無償の愛(ラブ)ね。それはまあ、実にお優しい事で。けど、おまえの言う無償の愛ってのは自分の為だけの愛でしょう?
    それで他人がどんな破滅を迎えようと、どんな末路を辿ろうと知った事じゃない。自分が心から楽しめればそれでいいだけ。
    自分が与えた『愛』で、ソイツが狂って壊れていく様を遠くで眺めながら愉悦に耽る。まるで賭け事でも愉しむかのように。
    私は既に狂って壊れちゃいるけど、そんな悍ましい魂胆が見え見えなのを分かってて提案を受け入れるほど堕ちちゃいないから。つまり、おまえのほざく『愛』とか心底気持ち悪くて論外だってコト」

    この女が幾ら言葉巧みに自分を堕とそうとしてこようが、そんな小賢しいマネはするだけ無駄だと暗に伝える。
    もしもノエルが『記憶』を引き継いでいなければ、そしてここまで強くなれていなければ。
    かつての『一周目』と同じように女の口車に乗せられ、そして強引に死徒として覚醒させられていただろう。
    だが今の彼女は違う。このノエルは『記憶』の中の自分自身を反面教師にし、同じ轍を踏まないように必死に努力し続けてきた凄絶な背景がある。
    如何に女が甘い言葉で心をぐらつかせようと、逃がさないように周囲を蜘蛛の糸で張り巡らせていようと、もはやこのノエルはただ抵抗虚しく絡め取られるだけの哀れな蝶(えもの)ではない。
    下手に手を出せば、その糸も八つ脚も、不浄を滅する焔(ほのお)によって芯まで焼却されてしまうだろう。

    「……ふうん。ちょっと言わせておけば随分とまあ口汚く罵ってくれるじゃない。アタシ、マゾっ気が全くないワケじゃないけどそーいう言葉責めは流石にナイかなぁ。普通にイラってくるし。
    あとさ―――なーんか好き勝手に言いたい放題してるけど、かくいうノエルちゃんの方だって『物騒な実験(コト)』企んでるじゃないの。
    ね、そうでしょう?狂ったヘンタイシスターさん?」

  • 86二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 17:31:07

    怖いのはここで善意の押し売りされたら十中八九喰らってしまうことだな
    それはそれとしてもし今のノエルが死徒になったら原作の比じゃないくらい強化されそう

  • 87二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 18:58:16

    おっと、さすがに死徒化薬生成実験ばれてるか、ほんとこの人の情報網いかれてる

  • 88二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 23:58:49

    「――――――なんで、それを」
    「いやぁん、それはヒミツ♡けど、今言ったようにアナタだって良からぬコトを画策しているっつーのはお見通しなのよね。アタシ、他人のヒミツを調べることは朝飯前なんで!」

    思えばこの女は、『記憶』の自分が隠れ家にしていたデパート跡地の一角をさも当然のように把握していた。
    ただ、あの場合はまだ納得できなくもない。隠れ家と言っても所詮は凡人の目利きで身を潜めてただけなんだし、この女が前々から目を付けていたのなら道すがら把握していても不思議じゃない。だからそれはまだできる。
    だが―――なぜ計画の事を知っている。誰にも口漏らしていないのは言うに及ばず、行動に移す際にも細心の注意を払いながら動いていた筈だ。
    現にこの事はあの司祭代行やシエル、遠野志貴にも知られていないし勘付かれてもいない。恐らくは、彼の内にいるロアでさえ気づいていないだろう。
    しかし目の前の女は、それこそ当たり前のように言及してきた。いつから、どのようにしてその計画に気づいていたのか。

    「いやさ~死徒化の実験を画策しておきながら、アタシの行いを上からああだのこうだのと言える立場じゃないよね。
    まあアタシの場合はアタシの愛を必要としてくれる不特定多数の人間全てだけど、アナタはあの代行者一人だけなんでしょ?少なくとも志貴チャン狙いはないし、そもそもあの子はあの子でロアになりかけちゃってるし。
    ねぇ?そこのところ、どう言い訳してくれるのかしら?」

    にたりと、口角をつり上げて女はノエルに問いかける。ノエルは顔にこそ出さなかったが、今度こそ本当に慄いた。
    どうやらこの女には、自分には及びもつかないほどの情報網がバックにあるらしい。隠し事や嘘は通じない、シンプルながらも一番厄介な手合いなのだと改めて認識せざるを得ない。

  • 89二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 00:22:08

    ノエルからしたらシエルは無辜の護るべき人々じゃないからなぁ…

  • 90二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 03:22:43

    逃げるのも手段の一つだぞ…

  • 91二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 06:20:49

    逃げてマーリオゥに「なんか蜘蛛っぽくて自分を死徒にしようとしたヤベー女がいるから気をつけろ」と報告しないと

  • 92二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 13:28:26

    別にコレ指摘されようと自分が死徒になる理由なんて全くないんだよな

  • 93二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 20:23:00

    ただ現状ノエルさんにロアやシエルをなんとかする力は無いし追い詰められてる(様に見える)のも事実なんだよな…

  • 94二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 23:23:45

    ロア(志貴)そのものは簡単に殺せるから問題はないんだけどシエルが問題だからなぁ…
    ノエルがマーリオゥ含めて教会に報告したら夜の虹√だと志貴の末路が原作と比べ物ならないレベルで酷くなるのは確定だし
    ある意味シエルへの意趣返しは出来るのかな?

  • 95二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 23:29:12

    >>94

    シエルロアは憎悪対象だけど志貴単体だとあくまで被害者みたいに見てるっぽいので

    んーむ、ここのノエルさんだとスカっとはしないイメージ

    (ノエル目線では)自己満足で死んだシエルを嘲笑った後に「莫迦な女」って吐き捨てそう

  • 969525/02/13(木) 23:30:43

    >>95

    言葉足らずめ、嘲笑うって書いたけどちょっと復讐者ロールでやってみるみたいな空笑いのイメージやで

  • 97二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 23:38:24

    >>95

    志貴はシエルに命を返そうとしてるけどノエルが聖堂教会に健在の場合

    命を返したところでシエルが殺されるのがオチだからどう判断するのか難しい…

  • 98二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 23:41:42

    「別に。変に理由つけて誤魔化すつもりも必要もないし、ヒトとしても代行者としても狂ってる事企んでる自覚はあるわ。どう言い訳してくれるのか、なんてマウント取ったつもりで聞いても“だからどうした”で終わりよ。
    その情報網の広さにはビビるけど、だからと言ってそんなものでおまえの掌の上で踊らされるほど私は単純じゃない。
    つまり、おまえが懐に備えてるだろう注射器を手に取る気になんて全くならないってコト。おわかり?」

    だが、厄介な手合いだと再認識できたからこそ尚更に容赦なく突き放せるというもの。
    相手が口にしていない秘密を把握しているのはノエルも同じ事。ここで彼女は、女が一度も見せていない注射器について言及する。

    「え?ちょい待って。なんで注射器って分かんの??いや、どの道これから見せるつもりだったけどまだ説明も」
    「していないから分かる筈がないのに、かしら?アホぬかさないで。
    その注射器こそ人間を吸血鬼にする、おまえ特製の魔薬でしょう?一本射ち込む度に死徒としての階梯をワンランクずつ底上げし、存在規模そのものを拡大させる。
    ただしその代償として使う度に原理の書き換え―――即ち死の痛みが直接的に魂に降りかかる。だから私のような才能がカスなヤツが一度に複数射ち込もうものなら、有り余る力と引き換えに時間経過でほぼ確実に自壊する。つまり私にとってはメリットが何一つとしてない。
    ついでに言うと、その魔薬の原材料となっているのは二十七祖の一角……リタ・ロズィーアンの原理血戒。そのレプリカでしょ?そこから察するに、おまえとロズィーアンには何かしらの明確な繋がりがあると考えるのが妥当よね。
    何、もしかして―――『友達』だったりするのかしら?」

    「――――――」

    ここに来て、初めて女が黙った。口は笑っているが、目は全くそうなっていない。
    それまで自分に取って都合よく進んでいたゲームの局面が、予想外の角度から一気に崩されて最初からやり直しという事実を突き付けられたかのような、筆舌に尽くしがたい様相だった。

    「―――はは。なんだ。おまえもそんな風に動揺したりするのね。ああ、私としてもおまえのそんな面が見れるとは思わなかったから予想外だわ。
    他人の隠し事は筒抜けにできるほどの情報網もってんのに、自分の情報の機密管理は意外と杜撰なのね?」

  • 99二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 23:44:07

    いやでもシエルが志貴に命を譲渡するのって結局ノエルからの思い(復讐)を受け止める事を辞めないでっていう決意から逃げたもしくは志貴に押し付けた事になるから
    またノエルに対して嘘つく事になるんだよな

  • 100二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 23:49:27

    トップクラスとはいえ一代行者が自分の開発物やその効果、その原料まで正確に当ててきたら驚愕するわ

  • 101二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 00:53:22

    こういう時に最大限クレバーに動くノエル先輩は控えめに言って好きよ
    こうした口の巧さもまた一周目の記憶からの反面学習+13年間の努力の賜物か……

  • 102二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 01:34:09

    ノエル先生ってシエルとの戦いの時に仕込んだ礼拝堂ごとぶっ壊せば確実に志貴を始末できるのに後々のアルクの事考えてその決断をしてないからね

    復讐の事しか無いって本人は常々言ってるけど無意識に復讐と弱き人々の守護を天秤にかけた時に復讐に傾く事が絶対にないって点で誰よりも人としても代行者としても正しい姿勢だと思う

    シエルは果たしてこの事に気づいてるのかな?

    >>62の言動見る限り全く理解できてなさそうだけど

  • 103二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 07:08:02

    まさか「フランス事変直後に、お前に死徒にされシエルに討伐された自分の記憶が流れ込んできて、お前の企みを知っている」なんて口が割けても言えんし信じて貰えないだろうな

  • 104二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 13:03:20

    志貴がいなくなってアルクが襲来してこないなら最悪礼拝堂を崩落させて逃げるのも手だぞ

  • 105二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 19:16:50

    アルク戦はどうするんだろうね
    光体にはおそらくならないと思うけど

  • 106二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 19:26:33

    >>104

    礼拝堂ボンバーは今できる手段としては有効なんだよな

    決着からそこまで時間が経過していない以上シエルがノエルの身に何かが起きたと察知して戻ってくる可能性も高いし

  • 107二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 22:48:05

    「………どーやって、それを知ったのかな?って訊いたところで死んでも答えちゃくれないでしょうね。さっきの初対面ムーブはただのブラフかしら?だとしたら一本取られたわぁ。誰にも知られてない筈のアタシ特製のレプリカを、こうも正確に言い当てられるってマジ?
    まあアナタに言われなかったら後々これを取り出して説明するつもりだったけど……もしかしてさぁ、ノエルちゃんってば未来視持ちだったりする?」

    砕けた口調こそ変わっていないが、ほんの先ほどまでのふざけた軽薄さは消えている。明らかに女はノエルの事を警戒していた。

    「未来視……ま、ある意味ではそうかもね。でも、そんなコトは今はどうでもいいわ。
    ところで―――ねえ、見るからに怪しい蜘蛛みたいなアバズレさん。唐突だけど、私と取引をしないかしら?」

    ここでノエルは現状を切り抜ける為に動く。こんなところで道草を食っている余裕も時間も彼女にはない。
    一分一秒が惜しいが、だからこそ変に焦って全てを無駄にしないようにすべく、冷静になって白衣の女に交渉を持ち掛ける。

    「……へぇ?何を言うかと思ったら。いいわ、取り敢えずは聞いてあげる」
    「まず、今こうして話した通り私とおまえはお互いにお互いの機密情報を握っている。となればもう口封じとして殺し合う他ない―――と言いたいところだけど、そうなればどちらも軽い怪我なんかじゃ済まないわよね。
    加えて、この場で殺り合おうものならこの空間ごと壊れて騒ぎになる。そうなればその喧騒を察知したシエルがやってくるかもしれない。私はこんな状態だし、おまえとここで闘えば殺されるでしょうけど、おまえの方も重傷は免れない。
    仮にシエルが来なくても、どの道おまえにとってはリスクとリターンが明らかに不釣り合い。私からしてもそう。
    となれば、ここはお互いに干渉しない事を条件に退き下がる……という事にしない?」
    「うーん、でもさあ。それって言い方変えれば騒ぎになる前にノエルちゃんを殺せればほとんどモーマンタイってコトでしょ?
    だったらアタシが素直に頷いてあげるには今一つ弱……」
    「―――ねえ、おまえ私を誰だと思ってるの?」

    そう口にした途端、ノエルの周囲から蒼黒い炎が噴き出す。炎は舐るように床を這い回り、張り巡らされていた蜘蛛糸の包囲網を次々に燃やし、灰にしていく。

  • 108二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 23:02:30

    おそらく阿良句博士って本体の蜘蛛じゃないからヒト型状態だとノエルに普通に火力負けする可能性高いし

  • 109二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 03:19:13

    保守

  • 110二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 10:48:09

    前√で相打ちだったのっておそらく絡め手喰らったからじゃね?
    同じ祖のロズィーアン相手に勝ち切ってた訳だし

  • 111二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 11:50:21

    「おまえがいつから生きてんのかは知らないけどさ。追い詰められた獣ほど、死に瀕したヤツの足掻きほど末恐ろしいって事を学んで来なかったワケ?況してや、私はいつもいつも死にかけてきたからこういう状況には慣れてんの。
    この期に及んで、まだ私の事をその程度の半端な虫ケラだとでも思ってんのなら―――その魔薬(おもちゃ)も、身体(にく)も、魂(いのち)も、悉くを焼き滅ぼすわよ。
    分かったらさっさと提案を呑め。おまえに拒否権とかないんだよ、異常者」

    言葉だけで抹殺せんとばかりに威圧する。ノエル自身、格上に対してはどうしても無意識に下手に出てしまいがちなクセがあるものの、それはあくまで心身ともに余裕がある間の話。
    追い詰められた彼女は相手が誰であろうと退かないし靡かないし譲らない。油断や妥協をしない。
    生きるか死ぬかの瀬戸際で、そんな余分を悠長に選択できるほどの愚かしい頭は持ち合わせていない。

    ノエルの刺すような威圧を受けた女は再び黙る。そしてつい数秒前の自らの思考を改める。ああ、この代行者は命を削れば削るほど脅威になるのだ。それは自分とて例外じゃないし、ここは大人しく話し合いで済ます方が賢明なのだろうと。

    「あー、分かった。分ぁったわよ。はいはい、提案を呑めばいいんでしょ。ちくしょう、むっかつくなぁ~。
    で、何なのサ。ノエルちゃんの言うその取引ってナニ?エッチなコト?」
    「焼き殺 すぞ。……まず、私の方はこの後におまえの事を教会に報告する。ただし、その魔薬に関しては一切を口にしない。おまえにとっては自分の存在自体よりもその魔薬の事を仔細に漏らされる方がイヤでしょう?」
    「まあ、それはそうだけど……ノエルちゃんのその発言を信じられる要素とか証拠は?あんの?」
    「魔薬の事まで伝えたら“なんでそこまで詳しく把握しているんだ”って、私が魔薬で死徒化してるとの疑いを向けられかねないから。
    それに、私だって似たようなモノを隠し持ってるからね。例えば所持品検査とかに掛けられて、そのままバレちゃったらもう言い逃れもできないし後は死ぬしかない。
    だからその注射器の事を報告するのは私にとっても都合が良くないわ。復讐を前にして、リスクの生じる可能性は出来るだけ削ぎ落としたいのよ」

  • 112二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 12:33:51

    久しぶりにポスト規制から書けるようになったので感想
    めちゃくちゃカッコいいよノエル先生!!!!
    めちゃくちゃ強そうなあらく博士とどうなるかとても楽しみです!!!!!!!!!!!!
    ノエル先生めちゃくちゃ強くなってめちゃくちゃカッコいいのでいけいけどんどん!!!!!!!!!!!!

  • 113二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 13:28:02

    ノエル的に最低限殺すべき祖は現段階だとパラノダリア、フェム、ロズィーアン、トラフィムかな
    この中だとフェムとトラフィムは現段階だとかなり難しいけど

  • 114二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 19:10:01

    保守

  • 115二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 20:09:06

    ノエル、クレバーでかっこいい、舌戦を記憶引き継ぎからの知見で制すとはなあ。

    報告するとして、マーリオゥからなんて言われるかな?  

    「遠野志貴はまだ殺しの報告は上がってなくて罪を犯したとは言えず、執行する大義名分がちと薄いから、シエルが復帰した時点で追撃を諦め俺に報告しにくるべきだったな」

    とか言わなくもないが、どうだろ

  • 116二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 20:12:32

    >>115 推定二十七祖第12位のパラノダリアと目されてる阿良句博士との舌戦を、記憶引き継ぎからの知見ありきとは言え制すとはな、が正しかったな

  • 117二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 20:16:15

    >>115

    私情込みでもノエル側には今回は責められる要素がゼロだからねぇ

    被害が出て取り返しがつかななら前に殺せるなら殺しておけっていうのは正論だし

    マーリオゥも今までノエルが積み重ねてきた功績もあるし軽く遇らうような事はしないと考える

  • 118二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 20:44:24

    >>117言われてみれば確かにロアになって、どうしようも無くなる前に楽にするって意思でノエルはやってたな、ただ途中からシエルに憎しありきになってたけど。

    マーリオゥはノエルがやってた事を汲んで軽くあしらわず、軽くアドバイスを言うのがらしいかも

  • 119二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 23:21:13

    別段、魔薬について報告したところで寧ろ貴重な情報を提供してくれたとして評価されるかもしれない。しかし経験上、疑わしきは罰するスタンスの教会がそんな優しい対応をするとは思えない。
    何より、少しでも懸念を覚えたら可能な限り取り除きたいのがノエルの本音だ。

    「ほーん、じゃあ一応は信用を置いてもいいってコトかな。そっちにとっても都合が悪くなるかもってんなら確かにコレについては黙ってた方がいいわよネ」
    「ええ、そうよ。で、おまえはおまえで私にこれ以上干渉せずに大人しく退いてもらう。付け加えて、私の計画(じっけん)を誰にも口漏らさない事。
    私はおまえの魔薬の事を黙秘し、おまえも私の計画を一切口外しない事を条件に、お互いにこうして殺し合わずに穏便に済ませる。どうかしら、悪くない取引でしょう?」
    「うーん、それってアタシのメリット小さくなぁい?アナタは魔薬を黙ってくれるとはいえ結局アタシの事は報告するんでしょ?対してアタシはアナタの悪巧みを秘密にすると約束した上で大人しく手を退かなきゃいけないって、旨味が対等じゃなくないかしら?」
    「いやねぇ、旨味ならちゃんと対等になってるじゃない。
    ―――ここで私の炎に焼却される事なく五体満足で生き延びられる。ほら、これ以上ないメリットでしょう?」

    無論、五体満足で切り抜けられるという点ではノエルにとってもメリットと言えるが。
    女は、ノエルからのここまでの取引の説明を聞いてから思考を高速で回す。メリットとデメリットを天秤に乗せ、どちらかを選んだ結果のその後に自分に振り掛かるだろう展開もそれぞれシミュレートし、その上でどちらがより許容できるかを吟味する。
    そも、ノエルが本当に魔薬の事を黙ってくれるかは分からない。別に報告されたところでその時はその時で見つからないように動けばいいだけだが、これまでのように自由には行動できなくなる。
    ならば結局信用に値しないとして殺そうか?否、確かにこの場で仕掛ければ最終的には殺して口封じにできるだろうが、その代償として負わされるだろうダメージがどれほどになるのかが想定できない。
    もしノエルがただの取るに足らない代行者に過ぎなかったのなら、そもそもこんな事を考える前にとっくに臨床実験に及んでいる。しかし生憎と彼女は取るに足らない代行者などではない故、リスクが無視できないほど高くなるだろう。

  • 120二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 23:24:30

    対等な状態なら討伐されてる訳だしね
    しかも相手は窮地になればなる程強化される訳だし

  • 121二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 23:52:37

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  • 122二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 23:55:54

    では、どうする。取引を受け入れるか、それともリスクを覚悟で口封じに及ぶか。どちらを選べば、自分にとって好い方向に転がっていくのだろうか。

    考慮に考慮を重ねた末に女が選んだ返答は、

    「………あーあ。上手いコト実験に漕ぎ着けられると思ったら、まさかの予想外の角度から想定外の抵抗を受けちゃうだなんて。うん、こりゃクッソハズレだわ。飛んだ地雷を踏んじまったわ!
    ――――――OKオーケー。その取引、ヨロコンデ受け入れてあげようじゃないの。アタシの寛大なハートにマジで感謝してよねノエルチャンっ!」
    「――――――交渉成立、ね。じゃ、とっとと目の前から消え失せてちょうだい。そして二度と私に近寄るな、関わるな。次にその顔を見せたら、その時こそ魂の芯まで跡形もなく焼き尽くしてやる。灰すらこの世に残らないと思いなさい」
    「キャーノエルチャンったらコワーイ!じゃあ、アナタに燃えカスにされない内にか弱い愛の伝道師はちゃっちゃとトンズラしちゃうといたしマショウ!ばいなら~~~✩✰」

    かくして、ノエルは口先だけで闘わずして危機を乗り越えた。ほとんどが虚勢を張ったものであり、尚且つ向こうの気分次第に任せた博打勝負もいいところではあったが、それでも結果としては生き延びるに至った。

    「…………っ、ぐ………!ふぅー……ふぅ、ぅ……っ!!」

    事なきを得た。そう認識した途端に安堵の汗がどっと流れ始め、同時に脇腹の痛みが再び襲い来る。
    取り敢えず、まずは応急処置をしなければならない。
    治癒系統の魔術を施し、止血の包帯代わりに法衣の裾を破って締める。多少あられもない姿になってしまうが、それで生を繋げられるのであれば安すぎる代償だ。

    「は、やく……報告しないと。あの得体の知れない女の事を………そして、あの裏切り者の事も。
    一刻も早く、伝えた上で……彼を、志貴クンを殺さないと。その後で、真祖も何とかして撃退して。
    そして、あの悪魔、に……シエルに―――エレイシアに、この復讐の刃を振り下ろさないと……っっ!!」

    この後に自分がすべき事を整理し、呪詛を垂れながらも復讐者は足を動かして礼拝堂を後にする。

    長いようで短かった、『一周目の記憶』をなぞった戦いはようやく終わり―――そして今、復讐鬼(かのじょ)だけの物語が始まった。

  • 123二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 00:27:08

    これシエル側の様子も気になるな
    ある意味お通夜だろうし

  • 124二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 09:31:52

    これでノエルは、「夜の虹・白日の碧」ルートに絡むようになったが、これから先どう動くんだろ

  • 125二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 09:50:11

    ノエル先生つらたんきついな

  • 126二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 09:51:39

    自分のやること全部がリスクあっていろいろ面でメリットとデメリットが大きいのはきっっついよなぁ………

  • 127二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 16:50:08

    ノエルってまだ強化できる要素あるかね?
    神霊とか取り込んじゃう?

  • 128二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 17:15:23

    お互いに秘密にすることでなんとか事なきを得たけど
    あらく博士はここから絡むんだろうか?
    ノエル先生はここからどうシエル先輩とロア志貴くんと対峙するかとても気になります!!!
    なんかこの感じだと誰かしら犠牲になりかねんな…
    幸せあるんだろうか…シエル先輩、志貴くん、ノエル先生に

  • 129スレ主25/02/16(日) 18:25:42

    うーん正直このままノエル先生視点を続けてもいいけど>>123の言うように先輩側の様子も気になるっちゃ気になるんだよね

    というわけでここは原作リスペクトの精神で先輩の方を書いていこうかな

  • 130二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 19:02:42

    >>129原作だと、うろ覚えだがエッッ なシーンがあったかもだが、それだと閲覧注意つくかもだし、ノエルが可哀想だから無いといいなあ

  • 131二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 22:23:06

    ―――俺たちが礼拝堂を去ってから間もなく。
    シエル先輩は俺を抱えてアパートの自室にへと駆け込み、そこで優しく介抱してくれた。

    「……頭痛もひとまず収まっているようですし、傷も大分癒えてきましたね。とはいえ、ノエルの炎を浴びた箇所は未だ火傷が深いので絶対安静には変わりないですが。
    特に……その、腕の方は大丈夫ですか?」
    「あ、はい。大丈夫かと言われたら、そうとは言えませんけど、取り敢えず感覚はギリギリ生きてます。これも先輩の治療のおかげです」

    ベッドの上で、ところどころ焼け爛れている自分の腕を見ながら答える。
    ノエルさんと戦っていた時はがむしゃらに動かしていたからよく分からなかったけど、どうやら俺の腕は炭化しかかっていたみたいで、先輩が言うには後ほんの少しでも炎を浴びていれば確実に焼き消えていたらしい。
    ……本当に手加減していたんだな、と改めて思い知らされる。あの時に先輩と戦っていた光景を思い返す度に実感させられる。
    今更という話だが、どうやら俺は本当に薄氷を踏み崩しながらも、寸でのところで運に助けられてこうして生きているようだ。

    「それはよかった。わたしの知識も、偶には人の役に立てるんですね。
    ………遠野くんはここでそのまま身体を横にしていてください。ごはん、温めてきますので」

    先輩はそう言って台所に向かうものの、その背中には元気がない。
    ……当たり前か。譲れない想いがあったとはいえ……あの人は俺を救(たす)ける為に、復讐を誓い合った彼女を裏切った。
    それが一体、どれほどの覚悟と後悔なのかは俺には分からない。ただ、身も心も裂かれそうな思いに晒されているのは理解できる。
    それこそ、俺という心の支えが無かったらそのまま死んでしまいそうな………いや、なに考えてやがるんだ俺。
    先輩が死ぬ?馬鹿馬鹿しい。例え心配ゆえについ過っただけとしても、そんな事を考えるな。仮に死ぬとしても、それは俺だけだ。あの人の死なんて、それこそ想像しただけで怖気が走る。
    それに……折角、今はこうして落ち着ける状況になっているんだから、ほんの少しでも早く先輩もいつもの姿に戻ってほしいというのが本音だ。

  • 132二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 01:40:17

    そういやシエルの部屋って一般のマンションよね
    他の一般人が住んでるならノエルは急襲しないだろうからある意味安全だな

  • 133二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 01:49:29

    ノエルがキレてるのって自分との誓いを破った事も大きいと思うけど
    それよりもシエルの贖罪が絶対的に優先されるモノではなく自身の行動を正当化する為の免罪符に過ぎずで、簡単に破棄される程度モノでしかなかった事に対して一番軽蔑してそうよね
    何というかノエルが唯一尊敬していた部分が丸々なくなったというか

  • 134二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 07:48:47

    マーリォウは阿良句博士のこと聞いたらどう反応するんだろ? パラノダリアっぽいと思いいやまさかなと思って、軽くよく生き残ったなと称賛してくれるかな?

  • 135二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 14:07:40

    シエルは志貴がもしも奇跡的に助かったらノエルの事をどうするんだろうね

  • 136二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 21:18:11

    ノエルの言った通り復讐を拒絶せず、やっぱりちゃんと受け入れて、志貴の進退を預ける線もあると思う

  • 137二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:13:02

    志貴がもしもロアの呪縛から逃れる事が出来た場合シエルはノエルじゃなくて志貴と生きていく事を選ぶ可能性大だからなぁ…
    怨みを受け止めるとか言っときながらこの決断したらマジでシエルはノエルに対して嘘しかついてない事になる

  • 138二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:45:21

    一度やらかしたらマジで信用できなくなるからな…
    過去にNTR物を書いた事のある作者の純愛物みたいな

  • 139二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 05:05:51

    信用を裏切ったのはシエルだからな
    これからどうなるのやら 楽しみだ

  • 140二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 12:28:34

    どう頑張ってもシエル先輩は志貴くんの味方してノエルも分かってくれますよね?って思ってそうなのがな…

  • 141二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 17:45:11

    上で先輩俺という心の支え失くなったら死にそう…ってあるけど割りとシエル先輩って目的&心の支え無くなったら死にそうなんだよね…前回のエンドの時点で志貴くん死んだら死にたい…ってなるしノエル先生も死んだら嘘だそんなの信じない!もう無理…………ってなるし

  • 142二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 19:06:55

    なんかシエル先輩と志貴くん二人がこのまま頑張ってロアさんどうにかしてもノエル先生との確執はどうにもならなそうなのが悲しいな…………

  • 143二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 21:00:43

    原作者であるきのこ氏が筆が乗ったキャラクターノエルさんなのできっと書いてるスレ主さんも書いてて楽しかろう
    ノエルさんは不幸になればなるほど良きってなるくらいいい意味?で不幸が似合うキャラクターなのほんと凄いよね…報われよノエル氏!!!

  • 144二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 22:54:16

    ……ん?いつもの、先輩?

    「あの、先輩」
    「ん? どうしました、遠野くん?」
    「いや、ふと思ったんだけど……その格好のままでいるのかなって。
    何というか、その、礼拝堂で殺されかけた事が思い出してしまうというか。軽くトラウマになってるというか」

    この人にそのつもりはもう無いと思っていても、いつまでもそのスーツを着られていると殺る気に満ちているように見えてくる。
    あと正直に本音を言うと色々と晒してる上に出るトコ出てるのがハッキリと確認できて目に毒なんで、俺の心が落ち着けない。

    「あ……そ、そうですよね。すみません、そこまで考えが至らなくて……と、とにかく着替えてきます!」

    一言謝ってから先輩はそそくさと脱衣場に駆け込んでいく。言い出した俺が言うのも何だけど、そこまで申し訳さなそうに謝罪しなくてもいいのに……。

    それからタイヘン美味しい晩飯を頂いてから、俺は改めて先輩に今後について訊く事にした。

    「……それで、先輩。俺はこれからどうすればいいのかな。ロアを抑えられる方法の確保と、ノエルさんにどう対応するのか。
    前者は言うに及ばずだけど、後者に関しても最早先輩一人だけで当たる問題じゃない。俺も関係者として彼女の説得に当たるべきだと思っているんだけど、先輩としてはどう考えているんだ?」
    「そうですね。後者についてはこの後に答えるとして、まずは前者から答えます。
    先に礼拝堂でわたしがノエルに言っていたように、ひとまずは遠野くんの中のロアを鎮静化させます。この部屋は簡易的な結界になっていますので、ここに籠っている限りは危険はない筈です」
    「……ですね。頭もヒリヒリするくらいで、目眩にも厭な高揚感に襲われる事もないし。でもそれは一時的なものであって、万全とは言えない?」

  • 145二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:32:22

    「はい。あくまで一時的な鎮静化に過ぎないのであって、ずっと留めていられる訳ではありません。ロアの侵食は本来なら止めようがないモノ。ですから根本的な解決にはなっていません。
    つまり、ロアの意識は日に日に強くなっていきます。この部屋も今はちゃんと機能していても、何れは意味を成さなくなってしまう」

    ……改めてそう言われると、絶望的に思えてしまう。ノエルさんは精神でどうにかなるようなモノなんかじゃないとも言っていたけど、本当にタチが悪い。今まで“ロア”にされてきた人たちも、こんな気持ちだったんだろうか。
    まあ、だからと言って早々に諦めてやるつもりもないが。

    「ですから、その前にロアだけを消し去れる方法を見つけ出します。
    これも礼拝堂で戦っていた時に言いましたが、法王庁に戻って探せば何らかの手段がある筈なんです。だって13年前とは違う。わたしというサンプルがあったのですから、彼らが転生体とロアを切り離す研究をしていない筈がない」
    「じゃあ、上手くいけば本当にロアを切り離せる……?」
    「……ですが、仮にその手段が確立されていたとしても、貴方を待っているのは地獄かもしれない。
    その術式がわたしひとりで扱えるものならまだいい。けれど、もし本国でなければ行えないものなら―――」
    「……シエル先輩だけじゃなく、俺も教会へ行かなくちゃいけないんですね?」
    「……はい。彼らからすれば貴方もわたしも異端者です。人並の扱いはされないでしょう。
    遠野くんの場合は目の事さえ黙っていれば普通の男の子な訳ですから、わたしのように研究材料として扱われる事はないでしょうが、」
    「……それでも、凄く痛かったりする?」

    先輩はあの時、半年以上殺され続けたと口にした。ノエルさんも同じように『アンタを散々いたぶったあの聖堂教会が』、と言っていた。
    となれば、俺もそこまで酷くはなくとも似たような事をされるんじゃないか。

    「いえ、どうでしょう。痛みや耐性を測る手術ではありませんから、麻酔くらいは使うと思いますが。
    まあ、言ってしまえばその辺りは立ち会う人間の趣味ですね。異常性癖者でないコトを祈るしかないです」
    「――――――」

    趣味って……と抗議したくなる気持ちを抑え込む。先輩はこうして偶に泣く子も黙るクールさを垣間見せてくる。ここは恐らく天然だろう。

  • 146二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:46:24

    教会行っても埋葬機関の治外法権で行動そのものは出来るんだろうけど
    治療の方法があったとしてもそれを公開する義理もないというか
    正攻法で教会内の実績を積み上げてきたノエルの発言権に関しちゃシエルよりも圧倒的に上だから妨害しようと思えば幾らでも出来そう
    マーリオゥもノエルの功績や過去の軌跡を考慮したら口出ししようととも思わないだろうし

  • 147二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 23:55:48

    「問題は過程ではなく結果です。教会でも治療ができなかった場合、遠野くんは吸血種として扱われてしまうんです。
    ………もし、そうなれば。貴方はわたしと同じ扱いを受けてしまう。死んだ方がマシな扱いを、されてしまう。
    だから―――」

    だからいっそ、ロアになる前に終わらせようとして先輩はあの礼拝堂に現れた。ノエルさんと同じように、俺の尊厳を護る為に俺を楽にしようと動いた。
    でも今は違う。
    そんな責め苦から俺を守る為に、俺を教会に行かせたくないと苦悩してくれている。

    「……いいですよ、先輩。それが一番確実ならどこにだって行きます。ノエルさんがいつ襲ってくるか分からない以上、この部屋だってずっと安全な訳じゃない。
    どんな結果になっても先輩に文句は言わないし、誰にも文句は言わせません。
    ………例えその人が、ノエルさんであったとしてもです」
    「―――いえ。例え何を敵に回そうとも、誰にも遠野くんを傷つけさせない。それだけは信じてください」
    「それが、ノエルさんであったとしても?」
    「…………はい。けれど、わたしは彼女の怨念(おもい)とも向き合わなくてはいけない。
    ですから、遠野くんをロアから救った後は、わたしはもう彼女に矛を向けられません。それでも、彼女とも向き合い続ける上で貴方を護りきってみせます。
    それに……彼女はわたしなんかよりずっと罪なき人々には慈悲深い。遠野くんがロアから解放されて、普通の人間に戻りさえすれば、彼女も少なくとも貴方には刃を向けるような事はしなくなる筈。筈、です」

    ……本当に、そうだろうか。確かにノエルさんだって街の人たちを吸血鬼の脅威から護る為に動いているし、俺を殺そうとしたのも俺という人間の尊厳を救う為にという動機だった。
    だけど、あの人は―――疑わしきは徹底的に罰する、冷徹な代行者としてのシエルという人間を尊敬していた。
    だから俺が人間に戻れたとしても、その精神で容赦なく殺しにかかるんじゃないだろうか。
    何より、あの人からすれば俺は自分が尊敬していた代行者シエルを狂わせた元凶と言えるだろう。それも考えると、尚更あの人が俺を生かすイメージが想像できない。

  • 148二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 00:02:01

    志貴君それは余計な心配だ
    ノエルが真に許せないのは自分との誓いと心に決めた筈の贖罪を果たすべき場面で放棄したシエルという人間の選択であって君というキッカケじゃない
    現にそうなら礼拝堂の時点での一対一の場面で瞬殺してる

  • 149二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 00:17:04

    『…彼女とも向き合い続ける上で貴方を護りきってみせます。』
    つまりロアから奇跡的に志貴を救えた場合自分は死んでるやる気一切ないと…
    ノエルが報われるのは復讐を成し遂げた時、それはエレイシアを殺す時なのを
    シエルが理解してない筈がないのである意味ノエルが礼拝堂の慟哭で言っていた事をやろうとしてるな

  • 150二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 08:31:24

    保守

  • 151二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 08:47:30

    そういやこの志貴くんはシエル先輩が昔ロアなったのは知らないのかなこの感じだと
    『ノエルの事はあとで考えます』って言ってるシエル先輩はさノエルさんが聞いたらはぁ~!?ってなる気がするのが…

  • 152二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 10:32:42

    君の中からロアがいなくなったどうかを確かめる簡単な方法があるよ
    シエルを殺して蘇る事がなければそれはロアが消えたという証明になる

  • 153二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 11:06:36

    先輩!先輩大好きずっとしていてよ志貴さん

  • 154二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 17:42:26

    保守そして暗躍するあらく博士とパートナー取られていじけてるアルクェイドといろいろがんばる先輩&ロアッソ入ってる志貴くん見たい

  • 155二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 18:13:08

    「先輩、それはどうだろう。ノエルさんの立場になって考えてみれば、俺はあの人が尊敬していた代行者シエルを人間に引きずり堕とした原因だ。
    人間に戻れたところで本当に生かしてもらえるんだろうか?」
    「断言はできません。しかし、貴方からロアが消えた事が分かりさえすれば見逃してくれる筈なんです。
    だって、もしノエルが貴方を本気で殺すべき相手と見做していたら、わざわざ礼拝堂で戦ったりなんかする前に一瞬で消していた筈でしょう?」

    言われて、ハッとする。よくよく考えなくともノエルさんがその気になれば俺なんか文字通り瞬殺だ。
    にも関わらず、律儀に俺の意地に付き合って礼拝堂で手加減しながら戦ってくれていた。殺そうと思えばいつでも殺せた筈なのにそうしたという事は、少なくとも“死徒化している間は”生かさないという事なのだろうか?
    とすれば、先輩の言うように俺がロアの呪いから解放されれば本当に見逃してくれる……?

    「こういうハッキリしない言い方は嫌いですが、彼女を信じましょう。それに……もし解放されて尚も貴方に危害を加えてくるのであれば、その時はわたしが盾となって全てを受けきります。
    遠野くんは、わたしと一緒に生きていたいと願ってくれました。わたしもそれに全力で応えたい。
    でも、貴方は同時にノエルの怨念(おもい)をちゃんと受けきった上で向き合ってほしいとも言った。
    だからわたしは、その両方をやっていきたい。彼女の復讐に殺されながら、その上で彼女とだけでなく貴方とも生きていきたい」

    先輩は苦しそうに、されど真っ直ぐな瞳でそう訴えかけてくる。
    他でもない俺自身がこの人にそうしろと言っておいて何だが、それは想像を絶する茨の道だろう。けどこの人はそれも心から承知の上でこうして決意している。

    「………無論、ノエルからすればわたしはさっさと殺したい怪物です。本当ならこのままロアを殺して、その後にやるべき事をやった後で彼女に殺されるべきなんでしょう。
    わたしもそれには何の異論もありませんし、その通りだと肯定したい。けれど貴方という、命を賭してでも守りたいヒトができてしまった。殺されるべきと頭では分かっているのに、心は頷いてくれない。
    馬鹿ですよね。全部彼女の言う通りなのに、わたしはそれに対して強引に力で押し通して、そのクセ死を以て償おうともせずにこんな風に恥知らずな我儘を宣っているんです」

  • 156二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 19:33:06

    「………先輩」
    「わたしは―――自分が憎くて、嫌いです。
    どこまで行っても中途半端で、自分の使命も優先できない愚かさも。唯一の理解者を裏切っておきながら、こうして自分にとっての理想を手前勝手に語る厚かましさも。
    必死に考えてみて、必死に動いて、必死に頑張って……こんな結果しか導けない自分の無能さが、大嫌いです」

    先輩は、顔を俯かせながら自らの不甲斐なさを非難する。
    暗い影を落とした表情には生気や覇気がまったく感じられない。そんなコトはない……と言うべきだろうけど、言えない。
    それまでずっと信じていたモノが全部ウソだったと思い知らされた時の悲しみと失意はとても筆舌に尽くしがたい。
    俺にとってのシエルという人間が優しくて頼れる先輩であるのと同じように、ノエルさんからすれば冷徹無情の代行者としての姿こそが全てだった。
    だがその姿はウソだと突き付けられた。ヒトを超えた怪物(えいゆう)なんてものはまやかしで、全て自分の幻だった。
    おこがましいかもしれないが、その気持ちは俺も理解できる。俺も礼拝堂で先輩に追い詰められた時、シエル先輩なんて人間は初めからいなかったんだという絶望を味合わされた。
    だけどそれは、そんな偉そうな事はノエルさんの前では口にできない。
    何故なら結果として俺の知る先輩はちゃんと帰ってきてくれて、その絶望は一時のモノとして終わってくれたのだから。
    対して、彼女は信じていた理想像を粉々に打ち砕かれたままだ。裏切られた事への絶望と怒りは消えていないし、今も益々膨れ上がっているだろう。
    さっきは調子に乗って『自分もノエルさんの説得に当たるべきと思ってる』なんて言ったけど、ここに関しては俺がずけずけと立ち入れる余地はない。シエル先輩だけで、当たるしかない。
    そして何より、この人自身がそれを一番理解している。しているからこそ、自分の愚かしさを嘆いている。

    ……それでも、今はこの人を少しでも励まそう。後悔に塗れようと、嘆こうと、この状況を招いたのは俺たちだ。
    なら、例えどれほどの地獄になろうと歯を食いしばって立ち向かっていくしかない。

    「……先輩は、無能なんかじゃない。そうだったとしても、これから有能になればいい。
    俺からロアだけの消し去れる方法を必ず見つけ出して、ノエルさんも説得する。先輩一人でコトに当たるワケじゃないんだし、俺も最後まで協力します」

  • 157二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 23:52:13

    「……ありがとうございます。ちょっとだけ弱音を吐いてしまいましたね。
    それでしたら、遠野くんはしばらくこの部屋で待機してください。その間、わたしはこの国の支部に出向して本国と渡りを付けます。
    そうですね……一週間以内には何とか話をつけてきますので、それまでは絶対安静で待っていてください」
    「え……ちょっと待って。ひとまず立ち直ってくれたのは嬉しいけど、それはそれとして先輩の部屋にひとりで何日も泊まるんですか、俺!?
    ロアの侵食もだけど、それ以上にいつノエルさんが狙ってくるかも分からないのに!?」
    「……あのですね。だからこそ下手に動かず安静にしていてほしいんです。
    確かにノエルは体制を整えて再起すれば、すぐにでも遠野くんを殺しにかかるでしょう。それを防ぐ為にアパートごとこの部屋に強力な結界を張っている程度の対策はしています。
    それと、わたしの読みが狂わなければノエルもまた教会から新しく武装を寄越すように取り合う筈です。傷の完治に要する時間なども諸々と含めれば、少なくとも2日~3日は襲撃の心配はないと思います。
    ですから、ええ……実際は3日或いは4日以内に決着をつけないといけない、というコトですね」

    微かに眉をひそめながら先輩は歯噛みする。タイムリミットは長くても4日。
    それまでにロアを消滅させられる手段を都合よく見つけられるだろうか。仮にあったとしても、そんな短期間で手掛かりを掴むのは難しいだろう。
    やはりここは危険を犯してでも俺も一緒に行って探すのを手伝う方がいいのでは。

    「遠野くん、バカなコト考えないでくださいね?口にせずとも顔に出ていますよ。
    こうなったのも全てはわたしのせいなんですから、ここはわたしだけで何とかします。これもまた、わたしの贖罪なんですから」
    「あ……はい、すいません。大人しくしてます」

    ……筒抜けになっていたらしい。ヒトは動揺を覚えると表情に考えてる事が現れるようだが、俺はどうやらその類みたいだ。

    「ええ、絶対にそうしておいてください。あ、でも妹さんに電話をかけるくらいなら構いませんよ。ただし、状況が状況なのであんまり事情は話さないでくださいね」
    「いや、秋葉には…………まあ、先輩がいいなら、それでいいです」

    あいつには本当に悪いけど、今しばらくは他にどうしようもない限りは連絡は入れたくない。色々と話が拗れて絶対に面倒なコトになる。

  • 158二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 08:29:10

    保守

  • 159二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 15:55:16

  • 160二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 21:52:51

    説得、できねえよなあ・・・・・・・、もうノエルの仲では決定的に決裂してしまったからなあ、シエル自身もホントは無理で半ば志貴との未来を諦めつつ希望を捨てきれないでいるからああ言ったのか?

  • 161二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 22:21:29

    とにかく、これから自分がするべき事は飲み込めた。
    シエル先輩を信じてここで待つ。
    それまでに俺がロアに負けず、その上でノエルさんに殺されずにやり過ごせれば解決だ。
    ………あとは、そう。

    「これで、俺の問題についての話は済みました。次は先輩の番です」
    「わたしの番、ですか……?」

    俺の事なんかより何倍も大切な、先輩の話をきっちりとしておかないと。

    「はい。何もかも上手くいって、何もかも終わった後での話です。
    ロアが消えて、体が元に戻ってたら先輩は俺と付き合ってください。もちろん恋人としてですよ。ちゃんと学校も卒業してくれないとイヤです。ノエルさんとも一緒に、三人で青春を謳歌しましょう」
    「え―――こ、恋人って、つつ、つつしんでうけ、じゃなくて!なんか、性格かわってませんか遠野くん!?少し……いやすごく動物的のような!?」
    「いいえ、もともとこういう性格です。やりたいと思った事はやります。
    とにかく先輩は俺と一緒にいてください。今まで頑張ってきたんだから、ノエルさん共々にちょっとぐらい普通の生活を楽しむべきなんです。
    それと、死にたいと思うのもなしです。さっきは俺と生きていたいと言ってくれましたけど、それはそれとして死を以て償うべきという自罰の念もあるでしょう?
    でも俺は、先輩には死んでほしくなんかない。……だからそれだけは、絶対になしですよ」
    「――――――」

    ………やっぱりそうだ。
    案の定、先輩の心にはまだ自責の思いが渦巻いている。
    “ロアを殺して体が元に戻ったのならノエルの復讐を潔く受け入れて死ぬ”
    それだけを希望にこの人はここまでやってきた。そんな結末に縋らなければまともに戦ってこられなかった。
    ノエルさんが、ロアや先輩への復讐を原動力として13年間も戦ってきたように。
    でももう、そんな生き方はしないでほしい。
    少なくとも俺は、先輩がそうして一人で苦しみながら生きていくのは見たくない。

  • 162二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 22:31:44

    ノエルの立場から志貴の発言を聞いてるとピキピキと眉間に皺が寄るな…

  • 163二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 22:49:48

    「………………だめ、ですよ、そんなの」

    舞い上がっていた空気を振り払うように、泣きそうな声で彼女はそう零した。

    「……遠野くんの言いたい事は分かります。
    わたしも、安易に死を望む事はもうありません。貴方という何よりも尊い人が、わたしと生きる事を願ってくれている以上は、彼女の復讐を受け入れはすれどそれで死ぬ事はできません。受け入れてしまえば、貴方の想いまでも裏切る事になる。
    でも、それとわたしの在り方は別問題です。わたしはロアとして多くの人間を殺しました。加えて、ここに来て彼女との復讐の誓いさえ切り捨てた。それらの罪の精算が残っています。
    たとえ不死身でなくなっても―――わたしは、最後まで償わなければいけません。いいえ、償いたいんです」

    死ぬ為に戦うのではなく、ひとりでも多く救う為に戦う。
    ……ほんと、自分が見えていないにも程がある。
    いまになってようやく目が覚めたような言いぶりで先輩は口にしたけど、そんなの、こっちは初めから知っていた。

    「うん。それはそれでいいと思いますよ、すごく。
    先輩は一生償えばいい。もう納得するまで償ってください。その上で、同時並行で自分の幸せを求めてください。
    だいたい、先輩が今日まで吸血鬼を斃してきた時からそうだったでしょう?
    先輩は吸血鬼が憎いんじゃなくて、人間として当たり前の義務として戦っていた筈です。そのあたりからして考えがまっとうなんです、貴女は」

    ……吸血鬼を殺す事しか考えていなかった俺とは違う。
    どんなに強い力があっても、どんなに辛い出来事に直面しても、この人はずっと公務の為に生きられる人だった。
    そして、それはノエルさんにも言える事だ。

    「で、でも、それは。わたしには、それくらいしかできないのであって。まっとうなんかとは、違います。
    だって、公務に忠実だったら、ノエルを裏切ったりする筈がないじゃないですか。過程がどうあれ、わたしは彼女との誓いを反故にして………それどころか同じ代行者でありながら、容赦なく傷つけた。
    こんなの、決して………まっとうな人間のする事では、ありません」

  • 164二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 23:19:35

    「なに言ってるんですか、あれだけ学校で人気者だったクセに。戦う事しかできないだなんて、笑わせないでください。
    それに……俺から言わせれば間違いは誰にだって絶対にあります。ノエルさんを裏切った事は、確かに決して許される事じゃないでしょう。でもだからこそ、貴女はその行いの責任もしっかり取って償おうとしている。
    自分の犯した過ちから目を背けずに、ちゃんと向き合おうと頑張っている。ほら、まっとうじゃないですか」
    「………とおの、くん」
    「いいですか、付け加えて言うと先輩は普通の生活だってちゃんと出来るんです。でもそれだけじゃ物足りない。貴女は欲張りだから、ぜんぶ解決したがってるだけなんです。
    自分の過去も、未来も、ハンパにはできない。だからいっつも貧乏くじを引いて、いいように利用されるんですよ。
    ノエルさんとの任務活動なんか、まさにそういう感じだったんじゃないですか?」
    「―――。そ、そんなコトは……ない、とは言い切れませんが。でもわたし、そこまでお人好しではありませんから!」
    「ならちょっとは悪いコトしましょう。先輩には両立できるだけの素質も努力もあるんだから、続けたいんなら続ければいいんです。
    そうしていれば、いつか―――」

    ―――先輩が自分から幸福を望める日だってやってくるかもしれない。いや、きっとやってくる。
    ………この人は自分を絶対に許さないし、ノエルさんも彼女が幸福を望んだりするのは死んでも赦さないだろうけど。
    それでも先輩に救われた多くのものの感謝が、いつか、この人を縛り続ける後悔の念を越えるだろう。
    というより、俺がそうさせてみせる。俺だって、彼女にこうして救われているのだから。
    それが何年、何十年後の事かはわからない。
    ただ、その時まで俺も生きていて、先輩の隣にいられたとしたら、これ以上の喜びはないと思う。
    たとえノエルさんがそれを認めなかったとしても、俺はこの想いと願いだけは絶対に譲れない。
    これから先、礼拝堂の時みたいに何度もぶつかる事になろうとも、俺は俺の信念の為に先輩との幸せを護る。
    身勝手とか傲慢とか言われようが関係ない。その程度を恐れて躊躇うようなら、俺はさっきの礼拝堂でとっくに先輩に殺されている。

  • 165二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 23:35:51

    『…先輩に救われた多くのものの感謝が、いつか、この人を縛り続ける後悔の念を越えるだろう。…』
    でもコレってノエルにも同じ事言えるよね
    代行者として多くの無辜の人々を救って来たのはノエルとて同じ
    寧ろ純然な被害者で凡人でありながらも護る為に身を燃やし続けていた彼女に救われた人々も彼女を奮い立たせて来た復讐を果たす事で彼女が救われるなら志貴のように肯定するだろうし

  • 166二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 23:52:06

    「……とにかく、先輩が楽しくやっていける時だって来ると思います。それを自分から切り捨てるのはやめてください」
    「…………そう、でしょうか。それは、夜に虹がかかるような話だと、思います」
    「夜に虹……?」
    「お父さんの口癖です。わたしたちの町のたとえ話。起きてほしいけど、起きるはずのない出来事をそう言っていたんです。虹は太陽の可視光が分かれて見えるものですから、昔の人はそんな仕組みは知らなかったでしょうけど」
    「……??」

    つまり………ええっと?

    「……いいえ、なんでもありません。ありがとう遠野くん。貴方にそう言ってもらえるのは、本当に嬉しいです。
    でも、やっぱり駄目ですよ。わたしはもう学生には戻れないし、と、遠野くんの恋人になんて、なれません。
    わたしは貴方を騙して、助けを求めてきた貴方を殺すところでした。……あれだけの事をして、今さら―――」
    「なんだ、そんなコト気にしてたんですか。先輩は」
    「なっ……そ、そんなコトじゃないです!思い出す度に死にたくなります!っていうか死にます!」

    むう。そんなの、助けてくれたんだから気にしなくてもいいのに。乙女心はまだイマイチ分からないな。

    「大丈夫、俺は気にしませんから。先輩も気にしなくていいよ。ほら、好きな人に追いかけられるっていうのも貴重な経験ではあったしさ」

    乙女心は分からないが、できるだけ明るい口調で慰めてみる。

    「………」

    先輩は泣きそうな顔で押し黙っている。よく見ると耳がちょっと赤くなっている。
    これは、もうひと押しかける必要があるかな。

    「なにより今夜の先輩、かっこ良かったし。いつもの制服も法衣姿もいいけど、ここぞという時に特別な服装で決めてくるとか反則です。あんなの誰だって惚れ直しますし、助けられた俺からすれば尚更ですよ」
    「…………」

    ………先輩は変わらず黙っているものの、ちらっとこっちを見てくる。
    ごめん、ノエルさん。立場的に言えば寧ろノエルさんの方が大衆にとってのヒーローだろうけど、今の俺にとっては先輩の方がヒーローだ。

  • 167二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 01:05:31

    原作に沿って志貴クンが一生懸命に先輩を宥めてるけど………スレ主さんがこの√でもノエル先輩が死徒化の実験を行うって宣言しちゃってるからなぁ
    前のエンドは先輩だけは何だかんだで代行者として再スタートできたのが唯一の救いではあったけど何れにしろ人間から吸血鬼に再び堕とされる未来が待ってると考えるとどうしようもなく無常だ

  • 168二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 01:47:56

    やっぱり人間のシエルもいいなぁ…
    どうしようもないくらいにノエルを裏切っている、けど何処かでまたノエルとまたやっていけるのではないかと期待している…
    ノエルからしたらふざけんなかもしれないけど今の矛盾を決め込んでるシエルも好きよ

  • 169二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 09:32:28

    ノエルに向き合うなら行動で示さないとダメだ

  • 170二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 17:47:59

    ノエルとは完全に決別しちゃったからなぁ…
    ノエルは二周目で一周目で自分の瑕疵となるような部分を全てを無くした上で正義に基づいた功績という補強したというのにシエルはソレに応えようとしなかったという事実は信頼関係をズタズタにしたと言っても過言じゃない
    ここからは志貴とシエルが悪役だぞ

  • 171二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 17:53:14

    「あとは……そうだ、眼鏡をかけてないとイメージ変わるんですね。キリッとして、なんだか年上みたいに見えました」
    「……………みたい、じゃなくて年上です。……そりゃあ、あの時から体は成長してません、けど」


    「―――なん、ですと?」


    待て。
    今、とんでもない問題発言しなかったかこの人……?

    「…………」

    あの時からって、ロアとしてアルクェイドに殺された時からだよな。
    今までの情報から逆算すると、つまり………

    「先輩って―――12歳の時からそんな体格(スタイル)なのか!?」

    いや、いくらハーフだからって発育良すぎない!?

    「ひ、ひとより早熟だったんです!それに、目覚めてから少しは成長しましたからっ!ぜったい!」

    ……この人はこう言っているが、ノエルさん曰く6年間ずっと成長していないらしい。けど、これ以上つっこむと流石に先輩も大人しく受けに回ってはいまいだろう。
    肉体年齢問題はここらが引き時か……。

    「あー……でもほら、先輩もノエルさんも俺なんかとはくぐってきた修羅場が違いますもんね。二人は吸血鬼退治のプロフェッショナルなワケだし。
    俺は吸血鬼になりかけなんだから、先輩が非情に徹したのは至極当然というか」
    「……………………」

  • 172二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 20:11:14

    ……まいった。何を言っても先輩は応えてくれない。
    場を和ませようとした話題も空振りしてしまって、他にかけるべき言葉が見つからない。

    「……参りました。先輩、何か言ってください。それとも俺なんかとは、話したくない?」
    「……………………」

    ……息を呑む音がする。
    先輩は観念したように、泣き出しそうな顔のまま、

    「………………………ばか」

    小さな声で、そんな言葉を返してくれた。

    「遠野くんは、ばかです。わたしは遠野くんが思っているような人間じゃないのに、どうしてそんなにわたしに優しくできるんですか?
    わたしがどういう人間なのかは、文字通り身をもって思い知った筈なのに。
    ……そんな資格、わたしにはありはしないのに」
    「それを言うなら、資格なんて俺にだってなかったですよ。でも、そんなものは必要ないって笑い飛ばしてくれたのは他ならない先輩です」

    ……ああ、そう言えば、あれはこの部屋だったかな。
    アルクェイドを一方的に殺してしまって、自殺ぐらいしか考えつかなかった俺を救ってくれたのは、この人だった。

    「わたしが、ですか……?」
    「……はい、そうです。
    先輩、俺は先輩の罪なんて知りません。それは俺には関われない事です。先輩自身以外でそこに関われるのは、それこそノエルさんだけでしょう。
    俺は先輩が好きだから、先輩を誰よりも愛しているからここにいるんです。
    ……貴女がどんな人間だろうと構わない。
    先輩と―――シエルとずっと一緒にいたい、生きていきたいから幸せになってほしいんです。
    貴女が幸せに生きていける日々こそが、俺にとって何よりも望んでいる事なんですから」

  • 173二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:44:45

    「―――遠野くん、いま―――」
    「なんで、もう先輩が何を言おうと騙されませんから。こうなったら地獄の底まで付いていって無理矢理笑わせます。
    ……だから、ほら。先輩にとっては迷惑だろうけど、たちの悪い後輩に捕まったと思って、いい加減降参してください。いつまでもそうして意固地になってると、そろそろ泣いてしまいますよ。俺が」

    右手を差し出して、先輩の返答を待つ。
    これぐらい言わないと本当の事を口にしてくれないと思ったからだ。

    「……しようのない後輩ですね。聞いているこっちの方が恥ずかしくなるなんて、想定外もいいところですよ。そんなコトをまっすぐに言われたら、完全降伏するしかないじゃないですか」

    差し出した右手に、先輩の手が重なる。
    握り合うものではなく、指に指を重ねただけの、ささやかな繫がり。

    「先輩、それじゃ―――」
    「はい。お言葉をお受けします。自信はありませんけど、遠野くんといる時は、自分から諦める事はしないと誓います。もう、ノエルの時のように裏切ったりはしません。
    こ、これからは………その、恋人同士なワケですし」

    先輩はつっかえながらもそんなコトを言うと、差し出した手を引っ込めて、上目遣いで俺の目の前まで近づいて、

    「でも、これだけは先輩として言わせてください。
    ……あのですね。遠野くんの十倍、いえ百倍以上、わたしの方が大好きですから。そこは覚悟しておいてくださいよ?」

    今まで見たことのない悪戯な微笑みを浮かべて、俺の胸を指で優しくつつくのだった。

    ……でも、ようやく戻れた。俺と先輩の間にはもう何のわだかまりもない。
    茶道室でお茶を飲んでいる時のように、心が穏やかで、弾んでいる。
    それは嬉しい。本当に心から嬉しく思うんだけど…………だからこそ、ノエルさんをどうやって説得するか。納得はさせられなくとも、如何にして矛を納めるところまで持っていくかが大きな問題だ。
    こうして、俺と先輩は本当の意味で和解し、恋人になった。これは彼女からすれば絶対に許せないだろう。
    仮に俺が間もなく死んだとしても、ロアから解放されて生き延びられたとしても、あの人は先輩を決して許さない。そこはもう、どうしようもない。
    だからせめて、事が全部上手くいった後で尚も殺し合うようなコトだけは何としても避けないと。
    今はまだ分からないけど、だからって考える事を放棄してはいけない。

  • 174二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:52:44

    でもノエルの事を裏切った事実は変わらないよね
    その上でノエルにとって一番許せないのは贖罪の意志が恋ごときで放棄する程度もモノでしかなかったというシエルの認識
    復讐の対象でもあったシエルに対してノエルが唯一敬意を見せていた姿勢でもあったからこの事への失望は志貴死亡√でもなかった上に決裂を決定付けた要因で後から志貴やらシエルが口先だけで媚び諂っても何も変わらないぞ
    なんなら志貴のロアの確認に関しちゃシエルが死.ねばいいだけだし

  • 175二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 22:37:11

    「……………」

    それに………こう、目の前にシエル先輩が立っていると、いても立ってもいられなくなるというか。
    先輩の部屋はいい匂いがするというか……

    「……っ!?」

    唐突に、部屋の中に音が響き渡る。振り返ると、時計の針が午前零時を示していた。

    「あ、もうこんな時間だったんだ……」
    「はい。夜明けまで、あとちょっとしかないですね」

    「…………」
    「…………」

    口ごもりながら見つめ合う。心なしか心音が速くなっていくような感覚を覚える。
    ………ええい、これじゃ埒が明かない。時間がないんだ、ここで素直にならなくてどうする!言うぞ。というか行動に移すぞ。
    せーの、

    「「先輩、ベッドを使いましょう!/遠野くん、ベッドにどうぞ!」」

    ……カチカチと、秒針の動く音が響く。恥ずかしくて先輩の顔を直視できないけど、それ以上に今の先輩の顔は愛らしすぎた。
    それは先輩にとっても同じだったようで、俺たちは互いの台詞を頭の中で1分ほどたっぷり反芻してから。
    クスクスと。何もかもが嬉しくて、笑いあった。
    …………こう思うのはあまりにも無いものねだりで、厚顔無恥が過ぎるけど。
    ここにノエルさんもいてくれたら、彼女とも一緒に笑えていたら、もっと幸せな時間になった筈だったろう。
    一度はあの人にナイフを向けた俺がこんなコトを考えるのは虫がよすぎるが、それでもそう思わずにはいられなかった。

    「それじゃあ、今度は床に寝るのはなしで。ベッドは一つしかありませんから、一緒に寝るしかないですね」
    「な、なるほど。そ、それではわたし、先にシャワー浴びてきます……!」

  • 176二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 00:53:21

    保守

  • 177二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 08:40:05

    保守

  • 178二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 08:53:00

    志貴とシエルさんにもやっぱり幸せになった欲しいな……

  • 179二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 15:48:35

    おそらくシエルが想定している以上にノエルは早く回復して武器も調達してそうだがどうだ…?

  • 180二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 16:30:37

    二人のイチャイチャはよきよき
    そしてそのイチャイチャはずっとは許されない…………

  • 181二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 20:20:04

    先輩は慌てて浴場へ走っていく。その様子がおかしくて、頬がニヤけっぱなしだ。
    俺はロアという時限爆弾を抱えているのに、そしてノエルさんに全力で命を狙われてもいるというのに、今は不安にさえ思わない。我ながら即物的にも程がある。

    ……でも、この際それぐらいは大目に見てほしい。
    今まで何度も失ったと思わされてきた人が、本当に俺の傍にいてくれる。
    シエル先輩がずっといてくれるなら、不安や恐怖なんてどこにもない。

    夜の礼拝堂の通路で、俺はあの人を抱きしめた。
    あの時は愛しいというより悲しくて、抱きしめてあげたかった。

    けど、今は違う。
    今はただ、あの人が只管に、どこまでも愛しい。
    朝になれば一時だけとはいえ離ればなれになるのは分かっていても、あの人をこのまま行かせたくないぐらい、愛しいと思えていた。

  • 182二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 20:28:55

    戦いの最中の恋愛っていいよね
    甘くてデレデレでとても好きです

  • 183二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 23:03:40

    ……時計の針が5時を回ろうとしている。
    時間はあっという間に過ぎてしまった。俺と先輩はベッドに入って、眠らずに天井を見上げている。

    「夜は絶対に眠っちゃいけません。逆に日中なら眠っていいですよ。ロアは吸血種ですから、朝になれば鎮静化します」

    それは助かる。まる2日眠っていないので、いいかげん限界ではあったし。
    そういえば、こんな話もした。もし俺が教会に行かなくちゃいけなくなったらの話だ。
    “……そもそも、どんなに手続きをして許可をとったところで、吸血鬼なら門前払いにされるんじゃないんですか?”

    「それは大丈夫です。遠野くんは血を吸ってもいなければ、人を殺してもいないでしょう?吸血鬼になりかけていても無実なんですから、裏口からならそろっと入れますよ」
    「………」

    その自信はない。俺には、数日の記憶がない。
    なにより彼女に―――琥珀さんに、取り返しのつかないコトをしてしまった。

    「だから、記憶はないんでしょう?ならやっぱり潔白です。精神面での話ではなく、現実のお話として」

    “……自分の記憶がないのに、何もしていないと断言できるんですか?”

    「はい。実際に行為に及んでいる記憶がないのなら、貴方は罪を犯していない。
    いいですか遠野くん。転生体の意識とロアの意識は同じなんです。仮にロアの意識が上回って行動した時があっても、自分自身である以上は自分のした事は必ず記憶しています。
    なので誰かを殺した記憶がない、というのは何よりも明白な無罪証明なんですよ」

    ああ、と安堵する気持ちと、改めて先輩の強さを実感する。
    “ロアの行為は必ず記憶されている”
    ……それは、彼女は何一つ残さず、自分の罪と向き合っているという事だからだ。
    ノエルさんが13年もの間、片時も復讐の使命を忘れる事も諦める事もなかったように。

  • 184二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 23:33:49

    ……窓の外が白ばんできた。まだまだ過ごしたかったがもうすぐ時間だ。俺はずっと先輩の声を聞いている。
    自分から話しかけてしまえば、俺はきっと先輩を衝動的に引き止めてしまう。だから黙って、せめて彼女の吐息とか肌の感触とかを、傍らで感じていたかった。
    衣擦れの音がする。外がまだ藍色に染まっているうちに先輩はベッドから出て、修道服姿に着替えていた。
    その横顔を、ベッドに横になったまま見上げている。

    「……時間ですね。遠野くんをポケットにしまえたら、一緒にいられるのに」

    俺と先輩はいつも一緒にはいられない。
    今までずっとそうだったし、場合によってはこれからずっと、一緒にはいられない。どんな理由があれノエルさんと敵対した事も考えると、寧ろその可能性が高いのかもしれない。
    それにもし、教会でもロアを消せる手段を結局見つけられなかったら、後は自分たちの手で決着をつけるだけだ。
    俺が遠野志貴でなくなる前に、ノエルさん……いや、他ならない先輩の手で―――

    「―――死なせません」
    「え……?」
    「貴方は……絶対に死なせない。ロアなんかに遠野くんは渡さない。ノエルにも殺させない。わたしが貴方を守ります。必ず、救(たす)けてみせる。
    だから―――そんなコト、言わないでください」
    「……言ってないですよ。先輩の気のせいですから、それ。……でも」

    ありがとう、と気持ちを言葉にするのは止めておいた。今のは本当に、一時の気の迷いだ。

    「それでは、行ってきます。できるだけ早く戻ってきますから、それまでこの部屋から出ないでくださいね。ともすればわたしの予想よりも早く、ノエルが襲撃の準備を終える可能性も十分にありますし」

    ちなみに一週間分の食糧はあるそうだ。その大半がレトルトカレーだったりカレーパンだったりするのは、この際気にしないでおこう。

    「また、これはわざわざ言うまでもないでしょうけど、わたしがいない間に浮気なんかしないでくださいね。
    自分で言うのも何ですが、わたし、凄く嫉妬深いので」

    笑顔でさらっと恐い事を言って、先輩は部屋を後にした。
    ……窓からの陽差しに目を細める。太陽が昇る。これで、ようやく眠りにつける。
    胸に沈殿する多くの不安は未だ拭えないが、今ぐらいは忘れて眠りに身を委ねよう―――

  • 185二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 23:58:28

    「…………ふぅ」

    仮部屋の自室に戻り、溜息を漏らす。
    とりあえずはこれでいい。事の仔細はジャリガキと教会に報告し、ついでに新しく武器を寄越すように取り合った。
    2日もすれば届くだろう。その頃にはこの傷もほぼほぼ完治している。
    そうなれば、あとは再び彼を殺しに行くだけだ。

    「……………………」

    ベッドに身を預けてから、あの礼拝堂での事を振り返る。
    どうしてこうなってしまったのだろう。どうすれば良かったんだろう。考えるほど堂々巡りになる。
    それで結局行き着くのが“あの悪魔は利己的な狂人”という結論だ。

    「今頃、愛しい彼氏とイチャついてるんでしょうね。私の事なんてどうでもよくってさ。
    ただの邪魔者、恋路を阻んでくる鬱陶しい障害。どうやったら秘密裏に殺せるか、とさえ考えていてもおかしくないわ」

    なんて悍ましい。
    なんて自分勝手。
    なんて哀れで憎らしい。
    私の全てを奪っておいて、私の人生を踏みにじっておいて、自分はそんなの知らないとばかりに束の間の幸せを謳歌しようってのか。
    私には、奪っていながら何も返してこなかった分際で。

    「………いえ。今はもう、寝ましょう。どうせもうすぐ、今度は私があいつの全てを奪い尽くしてやる番なんだから」

    ああ、楽しみだ。本当に、その時が楽しみだ。
    その期待に胸を膨らませながら、私は意識を静かに手放した―――

  • 186二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 08:54:05

  • 187二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 12:56:48

    不穏な語り…

  • 188二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 14:50:51

    ………………沈んでいた意識が段々と明瞭になる。

    どうやらもう夜らしい。
    ずっと長く眠っていたような気がしたので、側に置いてあったスマホを取って日付と時間を確認する。
    日付は最後に寝た時間から変わっていない。そういえば午前零時過ぎに寝たんだっけ。
    時間は午後11時30分を示していた。

    「ああ……よかった。てっきりまた数日くらい寝ついてしまってたかと焦ったわ」

    いつも通り睡眠を取る筈が何日も寝込んでいた、なんて事はよくあった。
    そういう時は決まって心身ともに疲弊しきっている場合がほとんどだけど、酷い時は一週間近くも昏睡してた記憶もある。
    まあ、それもここ1年くらいはご無沙汰してるけど。何にせよ一日程度で起きれてよかった。

    「とりあえず、まずは着替えて………ああそうだった。疲れすぎて法衣着たまま寝てたんだったわ」

    無論、止血目的として巻いてる包帯もそのままなので、よく見るまでもなくベッドにも小さくない赤黒いシミが浮かんでいた。うん、やらかした。あとでちゃんと証拠隠滅しよう。
    その一方で、抉られた傷口からの出血は完全に止まっていた。まだ無視できないほどの痛みはあるが、少なくとも昨日よりは全然動ける程度には回復している。

    「それにしても、大分スリットが深くなったわね。しょうがない状況だったから思いきり破っちゃったけど、これじゃ足がまる見えじゃない」

    ちょっと恥ずかしい。人間だった頃の私ならそう感じたのかもしれないけど、今は“多少あられもないナリになったな”としか思わない。
    これまではずっとシエルと同じタイプの法衣を着ていたけど、これではまるで記憶の中の自分の装いそのままだわ。
    実年齢も考えずにあんな露骨に男受けを狙ってるような痛々しい魂胆で着ているのが見ていてイヤだったから肌を晒さないタイプにしたってのに……。

    「―――いいえ、こんな時になに考えてるの。
    そんなコトは今はどうでもいい。まずは軽く夕食を食べて栄養補給してから、今度こそ志貴クンを楽にしてやる為に行動しないと。
    といっても武器の申請は昨日したばっかだから時間が掛かるし、ここは偵察と行きましょう」

    確か、シエルのアパートは……うん、ここよね。もし偵察してる中でイケそうなら、そのまま彼を殺してしまおう。

  • 189二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 16:29:37

    大丈夫かノエルさん文読む限りとんでもなくぼろぼろだけど

  • 190二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 19:07:15

    ノエルさん不穏だなシエル先輩&志貴さんも不穏だけど
    やっぱりお互いに相容れないのかな

  • 191二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 22:52:47

    「……よし、それじゃあそろそろ向かおうかしら」

    食事を済ませ、血痕で汚れた毛布を浴室で焼却してから消灯し、玄関に向かう。
    ここら辺の売り場の寝具っていくらするかなぁ、なんて思いながらそのまま外出する。

    「時刻は午前零時。夜になれば死徒であるロアの意識が強くなるし、前もって朝方の内から睡眠を済ませているでしょうね。
    志貴クンも何だかんだで忍耐力は強い方だから、うっかり寝落ちするなんて事もないとは思うけど……様子が少しでも急変すればその時点で手を出そうか」

    仮に眠りにつかずに我慢していようと、ロアの意識が浮き彫りになりやすくなっている以上はふとした弾みで乗っ取られる……という可能性だってある。というより寧ろその可能性が断然高い。
    あくまで偵察だからと言って急がない理由にはならない。ここは普段通りに建物間を跳びながら向かおう。結局自分の足の方が普通の乗用車とかより速いしね。

    「―――見つけた。あのアパートだったわよね」

    しばらく移動する内に件のアパートを視界に捉える。あまり近づいては気づかれるかもしれないので、目測で50mほど離れたところで足を止める。確か部屋番号は………ああ、あれだ。
    光が漏れているので灯りを点けているのは確認できるが、カーテンで閉められているので中の様子が詳細に見れない。
    仕方がないので、ここは魔術で透視しましょう。

    「さて、志貴クンは今どうなって――――――え?」

    ………ちょっと、待って。
    居間、キッチン、脱衣場、浴室、トイレ、他は………………は?
    なんで、どこにも彼の姿が見当たらないの?
    いや、というより今気づいたけど、部屋のドアが空いてる。空いている、というコトはつまり。

    「……あの子は今、どこかに外出している?ロアという、いつ爆発してもおかしくない爆弾を抱えているにも関わらず?」

    ―――つうっと、頬を冷や汗が伝った気がした。

  • 192二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 22:55:20

    この時のノエルの心情的に復讐鬼なんかよりも吸血鬼が無防備な市井の人々の中に潜んでいる事が一番深刻な状況よね
    それならシエルとのイチャイチャを見せつけられてた方がマシというか

  • 193スレ主25/02/23(日) 22:58:21
  • 194二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 23:21:37

    >>193

    建て乙

    こっからノエルが急いで志貴を探すんだろうがどうなるんだろうか

  • 195二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 05:33:46

    確か本編だと志貴はこの時点で内側で暴れてるロアを少しでも抑えるためにとりあえず外に出てるんだったよね

  • 196二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 05:56:56

    次スレありがとうございます

  • 197二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 07:56:14

    スレ完走お疲れ様です!!

  • 198二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 08:10:58

    次スレありがとうございます!
    うめ

  • 199二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 09:25:54

    埋め

  • 200二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 09:26:27

    うめ

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