【閲注】相澤先生関連のSSを書いていく・17

  • 1125/02/05(水) 22:34:52

    相澤先生最推しで雑食なスレ主が先生関連のSSを書いていく
    CP無夢クロスBLNL左右非固定何が飛び出てくるかわからねえ 覚悟してくれ
    CP関係はBLは右寄りでNLは左寄りだったはずだが女攻めも普通にあるごめんな

    今は転生ドル澤が佳境!
    書きたいものを書きたいように書いているせいで人によっては受け付けない展開も普通にあるごめんな(2回目)
    平日昼間はこれないから保守代わりに雑談とかをしてくれてるととても嬉しい
    20の大台が見えてきたのでこれからも頑張って書いていく
    今スレもよろしくだぜ

  • 2125/02/05(水) 22:35:16
  • 3125/02/05(水) 22:35:31
  • 4125/02/05(水) 22:37:03
  • 5二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 22:37:37

    立て乙

  • 6二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 22:38:03

    立て乙

  • 7125/02/05(水) 22:38:57

    おつあり!
    じゃあ出していくね

     高校の入試は何一つ分からなくて、入れるところがなかった。
     仕方ないからすぐに就職したんだけど、誰でもできるって言われてた倉庫業は作業が覚えられなくて、細かいことを何個も失敗してすぐに辞めた。手に職をつけた方が良いって言われて職人って呼ばれる物を目指したけど、作業を覚えるのに時間がかかりすぎてどこに行っても向こうから「辞めてほしい」って頭下げられた。
     バイトでどうにか自分の生活費くらいは稼ぎたいと思って飲食業についてホールに配属されたけど、注文ミスが多すぎてこれもダメだった。ここらへんで「あれ、俺もしかして人生詰んでね?」って思い始めたんだ。
     やり方自体がわからないから努力もあんま出来ないし、出来ないことを何度もやるのが嫌で結局何もやらなくなった。でも、今まで育ててくれた母ちゃんとか父ちゃんを安心させたくて、なんか俺みたいなのが出来る仕事ないかなって探してた時だった。
     ある日鏡をまじまじと見て、思ったんだ。

    「俺、もしかしてイケメンじゃね……!?」

     【朗報】俺、顔が良かった!

     この顔ならなんか職があるはずだろって思って、そういえば体動かすのは得意だし体育のダンスの授業はいつも褒められてたのを思い出した。だからこれもうアイドルになるしかないっしょ! って思って、この世界に飛び込んだ。

  • 8二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 22:39:05

    立て乙!
    ついに17スレ目か…
    最初期から追ってきたから感慨深い

  • 9125/02/05(水) 22:39:37

    >>7

     そしたら大正解! この世界は俺を「使えないバカ」から「個性のあるキャラ」に変えてくれた。バカはキャラ的にウケるからみんな計算したバカを演じるけど、俺のは天然のバカだから飽きが来ないってプロデューサーが言ってくれた。バカじゃないのにバカな振りしたがるなんてみんな変だよな。

     でも、それもあんまし続かなかった。

     事務所の下積みからDD9のグループに編成されて、暫くしたころ光木が“個性”事故を起こしちゃって、それをメンバーに叩かれた。

     俺はそれがすごいムカついて、でも俺は口げんかが凄い弱いから言い負かされちまって、結局彰とかマネさんが「一緒に来るか?」って声をかけてくれてようやく動くことが出来た。

     その、記者会見をする日のことを俺はふとした時にいつも思い出す。


    「嫌な事には答えなくて良いです。全部僕が答えますから」

    「でも……」


     一番苦しいのは光木なのに、どうして全部光木がやるんだろうって不思議だった。でも俺はバカで口も上手くなくて、いつも余計な事ばっか言っちゃうから彰みたく「俺が代わりに応える」なんてことは言えなかった。そっちの方が足引っ張るってわかってたし。

  • 10125/02/05(水) 22:40:31

    >>9

     光木は「ダメですよ」甘くて優しい、ファンに言う時みたいな声で俺たちに言った。


    「みんながここに来てくれて、僕はそれだけで嬉しいんです。僕と違ってアイドルになるためにこの業界に飛び込んだみんなが、危ない橋を僕と一緒に行くって言ってくれただけで、すごく、すごく。だからせめて、背負うことは僕だけにさせてほしいんです」


     その時俺は、何も言えなかった。

     危ない橋を一緒に渡るって言われても、俺はその危なさが全然わからない。DD9に残った方が良いのかも、一緒に行った方が良いのかも、俺には判断が出来ない。ただ、隣に居た彰が俺と一緒に行くか? って聞いてくれたから手を取っただけだ。


     ──俺、自分が思ってるよりもバカなんじゃ……?


     急に怖くなった。

     自分で自分の将来をこんなに考えられない俺って本当にバカすぎるんじゃないかって。そんな俺がここに居ても、怒られるんじゃないかって。


    「だから、みんな……代わりと言っては何だけど」


     変な気持ちが頭の中をぐるぐるし始めたら、それを遮るように光木が声を出した。いつもよりちょっと低い、聞いたことない声だった。

     拳を俺たちの前に突き出して、サングラス越しにニカッて笑う。

  • 11125/02/05(水) 22:40:48

    >>10




    「僕に、最後まで着いてきて」




    .

  • 12125/02/05(水) 22:41:26

    >>11

     頭ん中にあったぐるぐるが全部吹っ飛んだみたいな。

     テーブルクロスの上に落ちたコーヒーのシミみてえな悩みが、クロスごと変えられたみたいな……なんだろうちょっと頭良い表現しようとしたけどしっくりこねえ。

     とにかく、そんくらいの衝撃で。


    「おう!」


     俺、コイツみたいになりてえって、心底思ったんだ。


     ‡


     鼓膜ぶち破んのかってくらいの音量の目覚ましを止めて横を見る。ホワイトボードに書いてある文字を見て、時計の時間と見比べて起き上がった。


     壁にかけてあるチェックボードにある項目を一個ずつ埋めていく。顔を洗う、歯を磨く、化粧する、服着替える、朝飯を食う……他にもいろんなことをやって、準備が出来たら鞄を持って玄関に行く。


     そこで鞄を広げて、玄関の扉に貼り付けてあるボードの物がちゃんと入っているかを確認。ハンカチがなかったから手の届く位置に置いてある棚から予備を入れた。


     全部完璧にして、最後に今日のダイヤを確認した。時間通りなら三十分で着く。時間に余裕は持たせてるけど遅延した場合の迂回路をスクショに撮った。

  • 13二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 22:41:39

    oh…
    最初から飛ばすねスレ主
    ワクワクしながら見てる

  • 14125/02/05(水) 22:42:32

    >>12

    「よし、行ってきます!」


     元気よく外に出る。ドアを閉めたら動画を起動して鍵を締めるところを撮って保存した。これで完璧。

     電車はスムーズに全部乗り換えが出来て、せっかくだからと近くの駅で差し入れのお菓子を買っておく。予定より遅い四十五分で到着した。もうロケの現場にはスタッフさんが集まってたから、さっき買ったお菓子を皆さんで分けてくださいって渡す。


    「おはようございます~! 佐伯さんこれみんなで食べて~!」

    「REN~! お前マジ後輩力たっけえなあ!」

    「いやバカなんでこんくらいは出来ねえと! 今日もミスったらいい感じにカットしてくださいね!」

    「ははっ! 任せとけイケメンなところ使ってやるよ!」


     人の顔を覚えるのは好きだ。この人は佐伯さん、怒ると滅茶苦茶怖いけど甘いものが好きでシゴデキなアラフォーのおじさん。好きなヒーローはMtレディ。

     差し入れを皆が食べるところに置いておくと、やけに机が寂しいことに気付いた。いつもなら先に置いてある差し入れが無い。

  • 15125/02/05(水) 22:43:38

    >>14

    「あれ、SHOTAは?」

    「まだSHOTAくん来てねえのよ」

    「えっ!? アイツがっすか!?」

    「そうなんよ、まあまだ一時間以上あるから全然大丈夫なんだけどさ、珍しいよな」


     SHOTAに対抗するみたいに始めた俺の差し入れ大作戦は、大抵いつもSHOTAが先に渡してる。アイツは前に仕事が入ってない限りは必ず余裕を持って現場に来るし、人に迷惑をかけないようにしっかり台本を読み込む時間を作る。

     机の上にあった置時計を確認すると、開始までもう五十分を切ってる。


    「嘘だろ」


     撮影開始一時間前に居ないって言うのは衝撃どころじゃない。俺は携帯を点けてすぐにSHOTAに電話をかけた。

     出ない。


    「で、出ねえ……」

    「SHOTAくん遅刻かあ~?」


     後ろから飛んできた声に背筋が跳ね上がった。俺が怒られてるわけじゃないのに冷や汗が止まらない。


    「えっ、いや、アイツが遅刻はあり得ないと思……いますけど、あるとしたら敵に巻き込まれたとか……?」

    「それもあるか。おーい、日高~! 敵の発生状況わかるか~?」

  • 16125/02/05(水) 22:44:31

    >>15

     ADの日高さんが佐伯さんに言われて調べるけど「ここ近辺は無さそうっす」って簡単な返事が来た。俺の頭の中がパニックになる。BLACK CASEのグループチャットをつけて「誰かSHOTAどこにいるか知らん?」って送るけど、みんな「知らない」って言ってる。


    『どうしたの?』

    『SHOTAまだ来てない』

    『えマジ? 電話は?』

    『繋がらない』

    『このチャットも既読付きませんね』

    『マネさんに確認して緊急用のGPSで場所探してみる』

    『拓哉ナイスゥ~』


     拓哉がすぐにマネさんに連絡をしてくれたのか、位置情報が送られてきた。場所はここからはちょっと遠いけど、地図の上にあるマークの速さ的にあと三十分もすればつきそうだ。

     電話に出ない理由は分からんけど。


    「SHOTAあと三十分くらいで来そうっす!」

    「おっ、了解~」


     心底安心して心臓がバクバク言ってる。

     俺はその間に化粧と服の着替えを済ませておいた。ぴったり三十分後、タクシーに乗ったSHOTAが現場に飛び込んでくる。

  • 17125/02/05(水) 22:45:20

    >>16

    「すみません、遅れました!」

    「遅れてないよSHOTAくん~、準備してきな~」

    「はい、有難うございます!」


     大焦りをしているショータに周りの大人たちは笑顔を向けてる。佐伯さんなんかは「SHOTAくん珍しいなあ」ってデカい腹を撫でて笑ってた。


    「……」


     でも、アイツの顔は真っ青だった。

     みんなが許してくれてるのに、今にも倒れそうなくらい青い顔でメイク用のロケバスに入っていく。ちゃんと間に合ったのに、何であんな不安な顔をしてんだろう。

     結局その日のロケは無事に終了したし、アイツはいつも通りのリアクションしかしなかったんだけど俺の胸にはその違和感がずっとつっかえていた。


     ‡


     売れっ子SHOTAにもスケジュールの穴ってのが存在する。今日はちょうどその日で、二人して一緒に事務所に帰ってきた。他のメンバーは仕事とプライベートで事務所にはいない。扉を閉めると、前を歩いていたショータがいきなり立ち止まって俺の方を向いて頭を勢い良く下げた。

  • 18125/02/05(水) 22:45:59

    >>17

    「朝、ごめん」

    「えっ、なにが」

    「その、遅刻しただろ」

    「遅刻はしてないじゃん。いやまあ電話位出ろよって思ったけど」


     ちょっとした不満を言えば「それも悪かった」って、随分大人しい声で言われた。なんだか不気味だなって思うけど、それ以上に大袈裟だった。


    「遅刻してないし、ロケもいつも通りできてただろ。たまに調子悪い日くらいあんじゃね? そんな気にするようなことじゃないだろ」

    「でも、最年少の俺があんな遅くにタクシーで来たらお前だって嫌味いわれるだろ」


     えっ、こいつそんなことまで考えてんの。凄いな。

     でも今日のスタッフさんたちは優しかったし、寧ろショータも寝坊とかするんだ~って微笑ましそうにしてたけどな、俺が遅刻寸前の時は死ぬほど怒鳴り散らかす癖に。

     大人びてるって言うか社会人感がすげえんだよなショータって。芸能人の大人たちとも全然違うっていうか、サラリーマンやってる俺の親みたいな責任感の感じ方してるっつーか。

     実は人生二周目なんじゃねえの?

  • 19二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 22:46:44

    図星で草

  • 20125/02/05(水) 22:47:15

    >>18

    「別に気にしてねえって。寧ろ人間味合ってオモロって言われてたぞお前」

    「本当にそう言ってたのか?」

    「大体こんな感じで言ってた」


     安心したのか「有難う」って言って茶ぁ淹れに行った。何がそんなに不安だったんだろ。「茶いるか?」って聞かれたから「お願い」って言って椅子に座って考える。

     今まで他のメンバーが遅刻したの見たことないから比較対処がないしわからねえな。DD9時代なら何人か遅刻寸前の奴ら居たけど、アイツらはアイツらで「ギリだし大丈夫っしょ!」って全然違うこと言ってたし。俺もギリだし大丈夫っしょ! 派だったからなんも思わなかったなあ。

     でも、光木とかはめっちゃ怖い顔してたからギリはダメなんだろうな。なんでかは分からないけど、多分その「なんで」は俺がわからなくても良いやつだ。そんでショータは「なんで」が分かってるから今回のを凄いやらかしだと思ってる……のかな。

     茶を持ってきてくれたショータにお礼を言って一口すする。いつも通りのショータが目の前に居るけど、なんかむずがゆくなった。


    「あのさ」

    「なに?」


    「俺ってさあ、バカじゃん?」


    「なんだよ急に」


     あれ、切り出し方ミスったかな。

     でも良いか、ショータは頭良いし俺の言葉ちゃんとわかってくれんだろ。

  • 21125/02/05(水) 22:48:18

    >>20

    「ええと……ちょっと俺の話しても良い?」

    「別に良いが」

    「やったぜ。いやさ、俺ってめちゃくちゃバカなんだけど、ちょっと他の人とは違うバカなのね」


     こんな変な切り出し方だったのにショータは真剣に俺の話を聞いていた。目を見られるのがちょっと恥ずかしくて逸らす。

     俺のコップを持った手が震えてた。


    「違うっていうのは?」

    「なんていうんだろ……例えばさ、家の鍵締めたかどうかわかんなくて不安になることってショータある?」

    「あるが……」

    「そういう時ってどうする?」

    「どうって。早く帰りてえなって思うけど」

    「やっぱそうなんだ」


     頭の良いやつってすげえな。

     光木も彰も拓哉もマネさんもみんなそうだったから、多分ショータもそうなんだなってえ思ってたけど。俺はスマホの画面を弄って動画のフォルダを開いた。


     鍵を差して回して、扉が閉まっていることを確認するだけの動画がずらりと並んだフォルダを見て、ショータが息をのむ。

  • 22125/02/05(水) 22:49:15

    >>21

    「俺ね、こうやって鍵かけた証拠? みたいなの残しとかないと家出れねえんだ。怖くてどんなに遅刻ギリでも家に戻って鍵かかってるか確認しちゃう」


     そのあとに見せたのはホワイトボードや大きな目覚まし時計がたくさん並んでる画像。


    「これは俺の部屋。でけえ目覚ましは一撃で起きる為に光木がくれた。枕もとのホワイトボードは目が覚めた時必ず目に入る場所に何時にどこに出かけるかを書いとかないとやっぱり二度寝しちゃうからって彰と拓哉がくれたのを置いてある」

    「……この、やることリストってのは」

    「そのまんま。家を出るまでにやらなきゃいけないことを一個ずつ書いてあんの。これないと次何やれば良いんだっけって焦って余計遅れんだわ」


     最後に見せたのが玄関の画像。


    「このホワイトボードは出かける時に確認する「取りあえずこれ持っときゃどうにかなるリスト」マネさんが作ってくれたの。前に携帯忘れて死にかけたからその時から必須の確認事項になったんだわ」


     全部見せると、なんか嫌な沈黙がショータを攻撃してるみたいにアイツの顔を青くさせてた。何を言えばいいのかわからないのか、ショータはずっと口を開けたり開いたりして、結局無言になった。

  • 23125/02/05(水) 22:50:24

    >>22

     そりゃびっくりするよな。俺にとっては「ちょー良いアイディアじゃん! これなら遅刻しなくて済むわ!」って言う世紀の発明だったけど、他の奴らからすれば「こんだけ対策しても遅刻しそうになるヤバイ奴」だもんな。


     “個性”が産まれて世の中がぐちゃぐちゃになる前は俺みたいな奴の症状にもちゃんと名前が付いてたらしい。そんくらい、人とは違うってことなんだろ。


     とりあえず、なんでこんなことを話したのかちゃんと説明しないといけない。彰からも「何か話したらちゃんと理由を言うんだぞ」って言われてるもんな。


    「俺はさ、ここまでしないと遅刻無くせねえんだ」

    「……その、蓮」

    「でも俺は、なんでここまでして遅刻を無くさないといけないのか、わかってねえの」

    「は?」


     本当に理解できない顔って結構堪える。

     でも、俺だって光木みたいにちゃんと人を励ます人になりたい。こいつの不安はちゃんと取り除いておいてやりたい。やり方があってるかわからねえけど。


    「いや、遅刻しちゃいけないってわかってるからここまで対策してんだろ?」

    「対策してんのは「とにかく遅刻だけはするな」ってマネさんに言われたから。それ以外は頑張らなくていいまで言われたし、とにかく遅刻対策に全振りしてどうにかしてるけど、遅刻をしちゃダメな理由はよくわかってない」

  • 24125/02/05(水) 22:51:28

    >>23

     すっげえ口開いてる、間抜け面。

     でもそっか、そうなんだよな。頭良いやつらはみんなわかるんだよな、どうして遅刻しちゃいけないかとか、そう言う理由が。


    「なんだっけ、信頼関係がどうとか色々言われたけど、言葉は分かっても意味がよくわからないっていうか。オレンジとかの皮だけを食ってる感じ? 中身がわかんねえの、伝わるかな」

    「伝わってる」

    「そっか、良かった。そんなわけでさ、俺はお前らと一緒に仕事するために頑張ってこうしてそれっぽく振舞ってるわけなんだけど……ショータはさ、今日たまたま寝坊しただけなんだろ? そのうえ、なんで遅刻したらダメなのかをわかってるからあんなに真っ青になってた」


     やっと言いたいことが言える。

     ちゃんと頼もしい兄ちゃんみたいに出来てるかな。俺は言いたいこと散らかりすぎててわからないって拓哉からもしょっちゅう言われるから不安だ。


    「ショータにとっては当たり前なのかもしれないけど、「なんで」「どうして」って理由がわかるのってすげえことだよ。俺は場の雰囲気に流されてそれっぽい回答をしてるだけ。みんなと仕事出来てるのもみんなのおかげだ。そんな俺から見たら、相手のこと考えて反省して次につなげようとするお前は、凄いと思う」

  • 25125/02/05(水) 22:52:36

    >>24

     ショータは本当に凄い。

     俺が諦めた数学も国語も全部俺より出来てる。努力って言う行為が苦手でダンスの練習が出来なかった俺に根気強く教えることも出来る。こいつは本当に凄いやつ。

     だから、凄いやつが俺みたいな『バカ』で『普通』な人間とおんなじって顔をしてるのが、ちょっと気にくわない。


    「凄いんだから、もっと堂々としててくれよ。お前が『普通』みたいなツラされたら、俺が『普通』じゃないみたいじゃん」

    「蓮」

    「いや違う、あの、なんだ、もっと良いことを言おうとしてたんだ俺は。光木みたいにお前のことを励ませる最高の言葉をだな、俺は……」

    「大丈夫だよ」


     言いたいことが伝わってない気がして焦る。こういうちょっと馬鹿にした感じの言い方じゃなくって、もっとストレートに、あの時の光木みたいに格好いい励ましの言葉が言えるはずなんだ俺は。

     でも、目の前のショータが歯を見せて笑ってて、言葉が止まった。


    「わかってる、伝わってるよ」

    「ほ、ほんと……?」

    「ああ。元気出させようとしてくれてたんだろ? 有難うな」


     何とか伝わったみたいで良かった。

  • 26125/02/05(水) 22:54:22

    >>25

     俺はすっかり冷めた茶を啜る。ショータはちょっと考えてから俺に話し始めてくれた。


    「この間敵に襲われたって言ったろ? それのせいでちょっと不安になっちまって、最近寝つきが悪いんだ。電話に出れなかったのは寝起きでパ二くってたから」

    「ごめんそれ俺に言って良いやつ? 俺あんま隠し事とか出来ねえんだけど」

    「大丈夫、近いうちにマネさんからみんなに伝えようと思ってたし。仕事も少し調整する」

    「はー……まあ最近お前忙しすぎたからなあ」


     ブレイクしたころの光木もびっくりな仕事量だったもんな。

     それにしてもあんま寝れてないって大丈夫なのかよ。もっかい心配の言葉をかけたら「大丈夫だよ」って同じ答えを返される。


    「光木みたいにって言ってたけど、お前の中の目標ってアイツなのか?」

    「目標……って言うとちげえな。光木っていつもほんわかしてるけど時々すっげえ頼りがいある感じになるじゃん? ああいうのに憧れるんだよね」

  • 27125/02/05(水) 22:55:07

    >>26

     ショータはピンとこないみたいだった。確かにこいつの前だと光木ってあんま昔の感じ出さねえもんな。俺は事務所に備え付けてある事務用のパソコンを勝手に立ち上げて、そこにショータを手招きした。

     過去フォルダの中に入ってるのはDD9よりもずっと昔、今から十年近く前の写真たちだ。


    「これは……」

    「十代の頃の光木。あの頃アイツって舞台役者やっててさ、スポンサーにDD9時代の事務所つけて劇団ひっさげてそこらじゅうで公演してたんだぜ」

    「なんか今と雰囲気違うな」

    「あの頃の光木ってオラオラしてたらしいからなあ。映像見るだけでも男らしくて格好いいよな!」


     舞台で声を張る光木は今とは全然違う男らしさ全開で、この頃はどうやら男ファンもかなり多かったらしい。今とは違いすぎるその姿にショータも目を丸くする。


    「……今はどうしてアイドルに?」

    「それがさあ、なんか昔光木が責任者の劇団がボランティアに行った場所で子供に怪我させて解体になっちまったんだって。表立って大きな騒ぎにはならなかったけど、元々スポンサー側は光木を舞台役者のままにしたくなかったから不祥事を理由にゴリ押ししたんだろうって彰が言ってた」

  • 28125/02/05(水) 22:56:22

    >>27

     舞台役者ってあんま金にならないらしい。

     だから事務所は出来るだけ芸能系で活動させたがるんだと。だったら最初からスポンサーなんかやらなきゃいいのに。


    「……勿体ねえな」

    「だろ!? そう思うだろ!?」


     写真の中の光木はすごく格好いい。DD9の事務所に入った時は光木のことよくわかってなかったけど、この写真とか当時の動画を見せてもらってマジかっけー! って大興奮したのを覚えてる。

     今の光木も格好いいけど、俺はやっぱりこっちも好きだ。


    「また劇やらねえの? もう事務所離れたのに」

    「うーん、事務所は離れたけど向こうがエンタメにめちゃくちゃ手を伸ばしてて入れる隙がねえって拓哉が言ってた」


     アイツは元々演技がべらぼうに上手いから、すぐにドラマにも慣れた。でもやっぱり板の上にかなりこだわりがあるのか、時々マネさんに直談判するところを見たことがある。それくらい、光木にとって劇ってのは大切なんだろう。


    「俺の目標はこういう感じの格好いい大人になること!」

    「……そうか」

    「なあ、目線で「無理だろ」って言うのやめてくんねえ? 傷つくんだけど」

    「じゃあお前ならできるって言ってほしかったか?」

    「うーん、僅差で「無理だろ」が勝つなあ」

    「だろ」


     すっかりいつも通りの調子に戻ったショータに安心してパソコンの電源を落とした。

     残った茶を飲み干して、今度は俺がおかわりを淹れて来てやる。たぶんこいつが事務所に入ってから、初めてサシで長話をした日だった。

  • 29二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 23:00:58

    1話のボリュームが凄いなぁ

  • 30125/02/05(水) 23:02:44

    >>28

    以上です!

    蓮の話はどっかでちゃんと書きたかったので書いた

    蓮みたいに支援がないと『普通』に生活ができない子って絶対“個性”社会では埋もれて得るべき支援を受けられないし

    なんなら支援のリソース自体が“個性”に取られてなくなってるだろうなと思いながら書いた


    先生が担任をしていた頃であっていたのはそういうのと無縁そうな子ばかりだったと思うけど

    アングラ時代はその生きづらさゆえにドロップアウトしてしまった子も沢山みていただろうなあとも思い書いてる


    メンバーが蓮のことをバカ扱いするのは本人が一番それを望んでいるから

    一時期は「こいつ普通とは違うんじゃ」って思われて丁寧にされてたんだけどそれが逆に苦しくて耐えられなかったから「普通の友達にするみたいにバカ扱いしてほしい」って蓮から頼んだ

    蓮は自分が普通ではないしバカという括りでもないことをわかっているけどわかったところでこの社会に救いはないのでせめて「そこら辺に居るバカ」でありたいと思ってる

    メンバーもそれを理解して接してる


    ただSHOTAはそれを知らなかった(伝えるタイミングがなかった)のでこうしてサシで伝えることにした

    っていう感じの話

  • 31二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 23:04:03

    うーん
    なんか考えさせられる話だなあ…

  • 32二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 23:09:07

    そっか個性社会の弊害ってそう言うのもあるか
    今のところ出てきたメンバー全員がそれぞれ別種の問題抱えつつちゃんと前に進もうとしてるの良いな
    オリキャラなのにちゃんと生きてる感があってみんなのこと大好きだよ…
    いつもありがとうスレ主…

  • 33二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 23:18:58

    ワイ所謂ギリ健なんだけど途中の「言葉は分かるけど意味は分からない」に共感しまくってしまった
    説明されてもなんか言葉の上っ面だけが脳の中を滑ってなんも納得できないんだよ
    でも周りがそう言ってるからとりあえず従わなきゃいけないか…って感じ
    でもちゃんと意味を理解してないからちゃんと意味を理解してれば対応できたはずの不具合とかに全然対応できない

    友達とかは「わかるわかる納得できないけどやらなきゃいけないことってあるよね~」みたいに共感してくれるんだけど明らかにそのレベルが違うんだよね
    こういう人間に対して全く理解のなくなっただろう個性社会あまりにも怖すぎる…

    ショータが眠れてないとか光木の過去とか気になるところがいっぱいあるのに芸能人としてちゃんと仕事してる蓮に死ぬほど共感してそれどろこじゃなくなっちゃった
    有難うスレ主この話好きだよ

  • 34二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 23:32:29

    最初はただのおバカキャラだと思ってたのに普通のバカになるために試行錯誤と努力を重ねてるのを知ってより一層蓮に惹かれてしまった

    確かに個性関連のケアでも手が回ってなさそうだからそっち方面のケアはおざなりになっててもおかしくないんだよな
    ここに気付けるくらいヒロアカの世界について色々考えてるスレ主凄いよ
    自分はその視点に気づくことすらできなかったわ

  • 35二次元好きの匿名さん25/02/05(水) 23:32:58

    正直今まで蓮のことそんな好きじゃなかったと言うかモブの一人くらいに見てたんだけどこんな…こんな頑張って…って泣きそうになった
    次あたりみつきの話来そうでドキドキしてる
    過去オラオラ系の金髪ウェーブヘアサングラス男はダメだろ

  • 36二次元好きの匿名さん25/02/06(木) 08:06:04

    蓮努力家なメンバーたちの中では珍しいサボり癖のあるバカだと思って見てたけどこの話見てから今までの話見るとイメージ変わるな
    眠りにくくなってる相澤先生お労しいし光木の過去の匂わせもちょっと不穏で怖い

  • 37二次元好きの匿名さん25/02/06(木) 08:09:06

    スレ主いろんなことへの解像度が高いから本当に話に入り込める
    今回の話も蓮の普通の生活をおくる大変さとか不器用な優しさとかが凄い伝わってきた

  • 38二次元好きの匿名さん25/02/06(木) 12:10:08

    頼りになるリーダーな光木格好いいけど過去が結構重そうだな
    先生も早くお仕事減らして安眠してほしい

  • 39125/02/06(木) 20:47:05

    ただいま
    ファッキン労働
    相澤先生ってオールマイトにはワーカホリックって言ってたけど自分も大概だよね
    多分周りもそういう奴らばっかだから感覚麻痺しててお医者さんから「言いづらいんですがヒーローの勤務時間ってやばいんです」って真顔で言われて欲しい
    本人は改善する気なし

    今日はちょっと無理
    明日は約束されしクソ労働なのでもっと無理
    すまないが土曜の夜か日曜まで来れなさそうや〜!
    お待たせしてすまんやで

    保守を頼む

  • 40125/02/06(木) 20:49:52

    ごめん言うの忘れてた!
    感想ありがとう!
    今回の話は“個性”社会になってからの福祉ってどうなってるんだろうて考えてからずっと書きたかったので受け入れてもらえて嬉しい!
    ドル澤はあと2〜3話で完結する予定だから本編は今週終わらせるつもりだよ〜

  • 41二次元好きの匿名さん25/02/06(木) 23:42:05

    保守了解!
    トップのオールマイトがあれだしランキングもあるしで無意識のうちに過労気味になる人確かに多そう
    ドル澤あと2〜3話で完結マジか
    楽しみと寂しいの感情が入り混じってる

  • 42二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 07:28:18

    ドル澤もうすぐ完結か…
    ここまで書き切るスレ主今更だけどすごい

  • 43二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 08:11:57

    労働がんばれスレ主
    ドル澤ももうそこまできたか…
    ショータと先生がどう落ち着くのかすごい楽しみ

  • 44二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 12:21:55

    ドル澤完結寂しい〜
    でも残った伏線回収たのしみにしてるぜ
    スレ主は体気をつけてくれ

  • 45二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 21:23:07

    ドル澤もう少しで完結か~
    どんな風になるのか楽しみ

  • 46二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 21:30:00

    ドル澤完結まじか!
    結末と伏線が気になる!
    でも余っちゃうと思うとちょっと寂しい…

  • 47二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 21:36:33

    完結前だからドル澤の妄想話すんだけどみんなでご飯行った時に一人だけ十代だからって理由でショータにみんなおかずあげてたら可愛い
    お菓子とかもらうと最初に配られる末っ子

  • 48二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 23:33:28

    結末まで見れるの嬉しいけど終わっちゃうの寂しいな
    グループの子達も好きになったから小ネタとか時々投下してくれると嬉しいぜ

  • 49二次元好きの匿名さん25/02/07(金) 23:48:53

    今日はあるのだろうか…

  • 50二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 07:05:55

    土曜の夜か日曜まで来れないって言ってるから来れないんじゃね?
    気持ちとしては今すぐにでも見たい

  • 51二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 08:46:47

    グループの末っ子エピ大好き人間だからショータもメンバーにいっぱい甘やかされてたら嬉しい
    ドル澤終わるの悲しいけど続き読めるのはめちゃくちゃ楽しみ!

  • 52二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 09:42:57

    初めて一人だけの現場に行くショータが心配すぎて無理やり一日オフにして現場に付き添いに来る光木とかなんぼでも見たい

  • 53二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 14:59:46

    実際のアイドルでも末っ子初仕事で観客席からぬいぐるみ必死に振って緊張和らげようとした話とか卒業式や入学式にメンバー総出でお祝いに来た話とかあるけどショータもそういう可愛がられ方してげんなりした顔してたら面白い

  • 54125/02/08(土) 20:52:39

    ファッキン休日出勤

    今日出しに来れるとしたら夜中か明け方になりそう〜
    それか寝落ちする
    みんなは先に寝ててくれ

  • 55二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 21:51:40

    スレ主お疲れ様〜
    いつも更新ありがとやで
    ゆっくり休んでくれ

  • 56二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 22:09:47

    朝の3時とかに更新されてると心配になっちゃうからゆっくり寝ててもええんやで
    ワイらはいくらでも待てるので

  • 57二次元好きの匿名さん25/02/08(土) 22:40:52

    スレ主お疲れ様
    健康が1番だから無理せずゆっくり休んでくれ
    雑談でもしながら気長に待つで

  • 58二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 00:56:10

    スレ主休日出勤お疲れ様!
    元気が一番だからな!寝れる時寝ときや
    末っ子エピじゃないけどショータの格付けを見守るメンバーとショータが泣いちゃった時あたふたしてたメンバーが可愛くて好きだった

  • 59二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 07:01:09

    格付け可愛かったよな
    元旦なのにみんな集まっててほっこりした

  • 60125/02/09(日) 14:42:39

    おはよう普通に寝落ちしてた
    今から書くぜ
    たぶん今日中の完結は難しいと思うが書きたいところまで書くぜ

  • 61二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 15:59:52

    ありがとう

  • 62二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 17:40:27

    続きやった!楽しみに待ってる!

  • 63125/02/09(日) 19:45:17

    ごめんあと2~3話って言ったけどぜんっぜん終わらん
    終わりが分かってるのにまだ全然たどり着けない
    完結までドル澤の更新続いちゃう~興味ない人ごめんよ
    まず今日の夜と明日の夜に前後編で一話書くね
    それ以降で完結編を書くぜ

    今日は21時くらいに持ってくるよ

  • 64二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 20:26:42

    ドル澤大好きだからもうまだまだ続くの嬉しいよ!
    なんでも美味しく食べるからスレ主のペースで好きなの書いてくれ

  • 65125/02/09(日) 20:51:57

    はじめるぜ!!
    前編開始や

     ショータの活動縮小は最初にメンバーに伝えられ、そのあとファンクラブのお知らせメールで告知された。ファンは皆最初こそ驚きをしたものの、彼の活動時間を考えれば活動停止でないだけでもありがたいと思ったらしく、想定よりも混乱はずっと少なかった。
     どちらかと言えば、混乱していたのはグループ内の方で。

    「ショータどれくらい会えない? もう事務所来ないの?」
    「いやなことがあったんですか? 誰かにセクハラをされたとか」
    「鬱になったとかそういうんじゃないんだよな?」

     矢継ぎ早にされる質問にショータはたじろぎ、どれから答えれば良いかわからなくなって視線を彷徨わせ、近くで突っ立っている蓮の後ろに隠れた。

    「おいっ、俺を巻き込むなよ!」
    「すまんちょっと盾になってくれ」

     いつもならばこういう状況で誰かに頼るという選択肢を取らない末っ子の反応に、拓哉の視線がじとりと湿り気を帯びる。

    「なんで蓮そんな落ち着いてるわけ?」
    「俺この前聞いたから」
    「はあ!?」
    「えっなに今怒られるところあった?」
    「蓮に相談できて俺らには相談できなかったのか?」
    「相談してねえ。ただ活動縮小するって確定事項を伝えただけだ」

  • 66125/02/09(日) 20:52:28

    >>65

     蓮の体の後ろから出てこずに言葉だけで返事をする。まさかこの三人がここまで荒れるとは想像していなかったショータは「言うタイミングがずれたのは謝る」肉の壁越しに謝罪をした。

     複雑な事情があるわけではなく、引退や活動停止になるわけでもない。そこまで重要ではないと思っていたから話す優先順位を下げていた。ショータが頑なに蓮の後ろから出てこないでいると、光木が一歩前に出た。


    「ショータ、何も僕らは君に相談してもらえなかったことを怒ってるんじゃないんですよ」

    「……」


     体越しに三人を見ると、彰は頷いているが拓哉は微動だにしない。

     反応の差に若干の違和感を覚えつつ、優し気な声を出す光木を陰から見上げた。


    「最近の君の仕事量は芸能界に長くいる僕から見ても異常でした。見兼ねて何度かマネさんに仕事量の調整を申し出たこともあります」

    「知らねえんだが」

    「でも「今は大切な時期だから仕事を減らしたくないとショータから強い要望が出ているので出来ない」と言われました。そんな君がいきなり活動縮小をすると言いだしたのだから、何かあったと思うのは仕方ないでしょう」


     子供に言い聞かせるような語り口に、ショータのなかの相澤消太が気まずさを見せる。

  • 67125/02/09(日) 20:54:21

    >>66

     だが実際、ショータも言われる心当たりはあった。デビューしてから約半年以上、十六歳の少年が担うには多すぎる仕事をこなしてきた自覚はある。光木の言う通り、そんな人間がいきなり活動縮小をすると言うのだから燃え尽き症候群や精神を病んだなどを疑うのが当然だ。

     渋々とショータは三人の前に出てくる。蓮は「もう隠れるなよ」と自分の背中を壁につけた。


    「ええと……最近ちょっと不眠が続いてて」

    「は?」

    「大丈夫なの? 医者には行った?」

    「縮小じゃなくて休止にしろ」

    「最後まで聞けって」


     過保護な反応に辟易しつつ、これも自分が蒔いた種だと納得させる。

     とにかく不安を取り除く必要があった。ショータは「本当に大丈夫だから」と前置きをする。


    「……仕事が原因じゃなくて、こないだ敵に襲われただろ? あれでちょっとバランス崩しちまって。だから仕事を辞めて休んだところで大した意味はないってお医者さんにも言われた」

    「この間の」

    「言っておくけど彰のせいじゃねえからな。これは俺の問題」

  • 68125/02/09(日) 20:56:12

    >>67

     思い詰めたみたいに声を出した彰を牽制しつつ、仕事が原因ではないことを伝える。

     拓哉は悲しそうな表情を見せるが、光木の顔はサングラス越しで分かりにくい。


    「でも、仕事をしている限りは心を休めることは出来ないでしょう?」

    「何もしてない時間って逆にキツいんだよ。適度に仕事しつつ、睡眠時間と勉強時間を確保して疲労を貯めないようにしていきたい。ちゃんと事前にマネさんやお医者さんたちみたいな体を休めるプロに相談してある、心配しなくて大丈夫だから」


     何せ前世は教師とプロヒーロー二足の草鞋という激務の究極系のような仕事ぶりだった。ライフワークバランスのライフを考えたこともなく、ライフはワークに浸食されワークワークバランスという有様だった。

     そんな人間がいきなり長期休暇などとっても逆に精神を病む原因にしかならないのは明白だ。


    「……わかりました」


     一応の納得を見せた光木に安堵する。

  • 69125/02/09(日) 20:57:29

    >>68

     光木が理解を示すと何か言いたげだった彰と拓哉も目線を交わして頷き、それ以上追及することはなかった。やはり、良くも悪くもこのグループは光木という人物を中心に回っているのだなとショータは声に出さずに思う。

     微妙な空気が流れ始めると、耳の奥を叩くような軽快な音が近づいてくる。それがハイヒールが床を蹴る音であるとわかると音源に皆目を向けた。


    「話はまとまったか? それでは仕事の話をしよう」

    「今縮小するって言ったばっかじゃなかった?」

    「言っていたさ、だがするのは縮小であり休止ではない。逆に出てくる場面では常に最上のパフォーマンスをしてもらう必要がある。今からする話はそういう仕事だ」


     現れたマネージャーはいつも通り尊大な喋り口調だった。全員が席に着き、彼女を見上げる。光木がグループをまとめるリーダーであるならば、彼女は優秀な参謀のような人だった。

     彼女は一冊の本を取り出す。台本らしき本に書かれている文字を見て、全員がざわついた。


    「マネさん、これって」

    「ああそうだ。『AIDORISE』(アイドライズ)に君たちの出演が決定した」

    「うおおおマジ!?」

  • 70125/02/09(日) 20:58:58

    >>69

     メンバーが浮足立つ中、ショータは現実味のない表記に目を見開いている。この文字を忘れたことなど一度もなかった。

     資料を手渡されると表紙に釘付けになる。光木は柔らかく声をかけた。


    「……ショータにとっては、思い出深いものかもしれませんね」

    「光木」


     資料から顔をあげると、優し気に微笑む彼と目が合った。恥ずかしい気持ちもあったが素直に「そうだな」と答える。この名前は、ショータにとって特別な物だった。

     横で聞いていた蓮は会話に割って入ってくる。


    「『AIDORISE』つったら超でけえアイドルフェスだけどなんでそれがショータと関係あんの?」

    「お前マジか」

    「これの成り立ち知らないの?」

    「待って俺だけ知らないやつ?」


     彰が「お前何年アイドルやってんだよ」とツッコミを入れている。確かに本職が知らないでどうするのだという気持ちもあるが、そこまで目くじらを立てることでもなくショータは苦笑し、含みを持たせずに事実を伝えた。


    「このフェスは十年前の災害をきっかけに作られたんだよ」

    「十年前……あっ」


     十年前、災害。

     二つの言葉が合わさればさすがの蓮も気づかないわけがない。蓮は口元を抑えて俯いた。それに「別に気にしなくていいから」とショータは笑う。本当に気にしなくて良いことなのだ。

  • 71125/02/09(日) 21:00:37

    >>70

     『AIDORISE』……通称ADRは十年前に起こった大規模な災害を助ける為、多くのアイドルたちがチャリティーライブをしに集まったことから作られた大規模なアイドルフェスだ。

     十年前の被災地から場所は変わってしまったが、代わりに多くの人数を収容できる巨大な海上会場がメインステージとなり、その日得た収益は全額寄付に回される。

     無給ではあるものの、アイドルにとってこのステージに選ばれ立つことが許されることは赤白歌合戦よりも名誉なことだった。


    「……今回、我々が選ばれたのは十年前の災害の被災者でもあるショータがメンバーに居ることが大きい」

    「それっておこぼれってこと?」

    「ああ。我々が入ったことによってその分出演することが叶わなかったアイドルもいるだろう。例えば、DD9は今年も出演の依頼が来ていないと噂がある」

    「まあ一昨年やっとブレイクしそうだった時に俺ら抜けちったからな」

    「DD9が出演勝ち取れなかったのは完全に実力じゃないですか?」


     棘のある言葉に「そうかもしれんな」とマネージャーは同意を示すが次に続いたのはうすら寒い予感を感じさせる言葉だった。

  • 72125/02/09(日) 21:02:01

    >>71

    「だが、DD9や元ファンはそう思わないだろう。我々のせいでせっかく今年は取れるはずだったADRの枠を取られてしまったと思うだろうし、事務所もきっと世間にそう思わせるようメディア操作をしてくる。かなり厳しい戦いになると思っていてほしい」

    「うへえ……」

    「ショータの縮小期間が重なって良かったですね」

    「こいつから提案されなければこちらから言っていたところだ。……ショータ」


     マネージャーは眼鏡越しの目で見つめる。目の下にはレンズ越しにもわかる隈があった。どれだけの調整を重ねていたのかショータには理解することはできない。


    「はい」

    「お前が要だ。くれぐれも倒れてくれるなよ」

    「こんだけ休ませてもらって使い物になりません、なんて情けねえこと言うつもりないですよ」


     不遜な末っ子の言葉にメンバーはあきれ返る。だがマネージャーはそれでこそ、と言いたげに胸を張った。


    「それでは、『AIDRISE』で結果を残すためにある助っ人を頼んでいる。……入ってきてくれ」


     彼女が呼びかけると、事務所の扉が開く。

     黒い長い髪を無造作に一つ結びにし、無精ひげを生やした顔色の悪い男が背を丸めたまま入ってきた。テレビ関係者でも見たことのない人物に、一同が首をかしげる。

     だがショータの横で一人、光木が目を見開いて立ち上がり、その男の元へと駆けて行った。

  • 73125/02/09(日) 21:04:00

    >>72

    「ライムさん! お久しぶりです!」

    「おー久しぶり、光木。元気してたか?」

    「それはこっちのセリフですよ! お仕事は何個か拝見してましたけど貴方どこ行っても捕まらないから……」


     ライムと呼ばれた男は照れ臭そうにはにかみつつ光木の差し出した手を取って強く握る。二人が既知であることは一目でわかることだった。

     こんなにテンションの高い光木を見たのは初めてかもしれない。マネージャーに説明を求める視線を送ると、彼女は一つ咳払いをした。


    「こちらの男性はライム氏。ライブ、舞台等の演出を手掛けられている。最近だとYOMAWARIのドームツアーを担当されていた」

    「あの演出エグいって噂の!?」

    「や、どーもどーも」

    「そんなすごい人よく捕まえてこれましたね」


     ショータはまさか、“個性”で弱みを握ったのではないだろうなと胡乱気な目になる。“個性”を知らない他の面子もまさかそんな豪華な人を連れてくるとは思っていなかったのか、不審そうだった。

     マネージャーは「失礼だな」と笑った。


    「今回私はほとんど何もしていない。ライム氏の方からBLACK CASEのライブ演出に携わりたいとお話が合ったんだ」

  • 74125/02/09(日) 21:05:32

    >>73

     光木と握手をしていた手を離し、ライムは全員に顔が見えるように体を向けた。


    「昔光木が劇団をやっていたのは知ってるだろ? 俺はそこで演出やらせてもらっててね。彼がいつか大舞台に立つ日がくるなら絶対に携わりたいって思ったんだよ」

    「そんな……恐縮です」


     頭を下げる光木の背中をライムが豪快に叩く。静かな室内に破裂音みたいなそれが大きく響いた。


    「って」

    「昔はこんな優男じゃなかったんだがなあ! だいぶ丸くなったな光木ぃ!」

    「そりゃ十年も経てば誰だって丸くなりますよ」

    「それもそうか!」


     アメリカンのような笑い方をして、ライムは大股でショータの方へと歩み寄ってくる。そして、無表情でやり取りを眺めていたショータの手を両手で取った。


    「君がSHOTAだな? 活躍、見てるぜ」

    「どうも」

    「歳に似合わねえクールな男だと思ってたが、可愛げのある顔してんじゃねえの」

    「はあ」

    「……お前のおかげで光木がまた日の目を見られた。感謝してるぜBLACK CASEのラッキーシンボル」

  • 75125/02/09(日) 21:06:29

    >>74

     まるで祈りを捧げるように握った手に額をつけられて、離される。一連の姿がまるで映画みたいでどこで口を挟めばいいかわからなかった。

     話が終わったと思ったのかマネージャーが次に話を進める。


    「舞台の時間は三十分程度。普段ならば構成はこちらで組むがライム氏の希望もあって光木も話し合いに入ってもらう」

    「光木かなり忙しくならない?」

    「まあ僕は忙しいの慣れているので」

    「っか~~~~国民的スターは言うことがちげえや」


     場数の違いを見せつけるリーダーは心なしか嬉しそうだった。マネージャーはライムの「希望」と言っていたが恐らく仕事を受ける「条件」でもあったのではないかと勘繰ってしまう。

     そのあとは今ショータが持っている仕事の割り振りと軽いミーティングをして解散になった。ショータは資料を握りしめる。あの日の輝きが脳裏に浮かんではなれなかった。


     ‡

  • 76125/02/09(日) 21:07:12

    >>75

     マイクの家に帰ると、やたらめったら豪華な食事と浮かれ切った男がシャンメリー片手に出迎えた。ド派手にクラッカーを鳴らされて「うるせえ」と言うが相手が堪えた様子はない。


    「『AIDORISE』出演オメデトー! BLACK CASEと相澤の更なる発展を祈ってェ、カンパァイ!」

    「やかましいんだよ」


     BLACK CASEは蓮という爆弾が居る為メンバーに知らされるときは基本的に情報解禁日でもある。相澤が家に帰るまでの間に公式SNSから告知が出ていたのを見たのだろう。

     それにしても、その短時間で良くもここまで集められたものだ。素直にうれしいが口に出すのは憚られた。


    「マッジスッゲーじゃん! 『AIDORISE』つったらチャリティーライブとしてもアイドルフェスとしても日本最大規模、知らねえ奴はモグリ! アイドルの頂点みてえなフェスじゃんかよA・I・ZA・WA~!」

    「俺が被災地出身だから選ばれただけだよ。全部が全部実力じゃない」

    「そんなこと言うなって! 運だって実力の内だし被災地出身者を抱えてもライブに出れないグループなんぞ山のようにいる。それでも選ばれたんだからもっと誇れよ」


     席に座らされ、シャンメリーがシャンパングラスに注がれた。気泡が浮かぶ透明度の高い水面を見て、相澤は下唇を突き出した。

  • 77125/02/09(日) 21:08:24

    >>76

    「……喜んでる、けど」

    「ケドォ~?」

    「少し、驚きすぎて。どう反応すりゃいいかわからねえ」


     初めて見たアイドルのライブ。キラキラの景色。

     先に見えるもの全てに絶望をしていた時に現れた光り輝く目標。あの光があったから、今日まで相澤はSHOTAとして活動することが出来た。

     それが、もうすぐ届く。現実味のない事実に、頭が混乱していた。

     ぼんやりと目の前の食事を眺めていると、乾燥した男の掌がぐしゃりと相澤の頭を無遠慮に撫でる。


    「よろこんどきゃ良いんだガキなんだから」

    「……いまいち、喜び方がわからない」

    「じゃあボイスヒーローが教えてやるよ。とりあえず美味いモン死ぬほど食って満腹になって「やったー!」って言ってみ。嬉しい実感沸くぜ?」

    「じゃあそれの「やったー!」抜きで頼む」

    「シヴィーぜ!」


     騒がしいマイクが対面に座り、二人で手を合わせた。豪華なオードブルはどれも美味しくて、箸が進む。シャンメリーにアルコールは入っていないのに、つい心が浮かれて口が勝手に喋り出した。

  • 78125/02/09(日) 21:09:46

    >>77

    「俺、このフェス名前も好きなんだよ」

    「名前?」

    「ん。アイドルって普通綴りは「IDOL」だけど、これは頭文字がAになってて日本語の発音に寄せてあるだろ?」

    「あ、やっぱこれアイドルって意味なんだな」

    「そりゃアイドルフェスなんだからそうだろ」


     いつだったか。

     フェスのタイトルを決めたある社員のインタビューを見たことを思い出す。彼は普段テレビに出るような人ではないのか、とても緊張した顔だった。


    「これの頭文字をAにすることで最初の単語が『AID』……助けるって意味になる。後ろの単語は立ち上がるって意味の『RISE』だ。アイドルが、助けて、立ちあがる。初めて聞いたときちょっと感動した」

    「相澤酔ってる?」

    「シャンメリーだぞ」


     言われた通り、少しだけ場の空気に酔っているかもしれない。アルコールが入っている感覚はないが、それでも頭は浮かれてふわふわとしていた。

     フェスのタイトルに込められた思いが、今もまだ続いている。あの日見た輝きが、同じ志を持つ人たちによって繋がっている。そう気づけたとき、あの目印に向かって走り出した自分は間違いではなかったのだと思えた。

  • 79125/02/09(日) 21:11:32

    >>78

     ご飯をたらふく食べるとお腹がいっぱいで眠くなる。明日はちょうど休みになっているから昼まで寝ても構わない。相澤は思わず「ふっ……」と噴き出すような笑いをした。


    「薬無くても寝れそう?」

    「ん……」

    「そっか。良かったなあ、相澤。良いこといっぱいあったんだな」

    「んぅ……」

    「ははっ、もうほぼ寝てやんの」


     マイクは自分はほどほどに飯を食い、うつ伏せになった相澤を横抱きにしてリビングを出る。


    「じゃ、余計ちゃんと成功させないとな」

    「……なあ、山田」

    「な~に~」


     足がプラプラと揺れる。

     全体重がかかっているのに鍛え上げられたマイクの足腰はびくともしなかった。


    「もし、このライブを成功させられたら……俺、今自分が何なのかわかるかなあ」

    「……どーだろなあ」


     相澤の瞼はもう殆ど落ちかけていた。いつもならこれくらいでシャットダウンするような体力ではないが、今日は情報量が怒涛すぎていつも以上に付かれてしまったのだろう。自分が何を言っているかも、どんな言葉を返されているのかも、わからなかった。

  • 80125/02/09(日) 21:13:51

    >>79

    「……俺は、今のお前が好きだよ」


     当然、夢の大穴に落ちて行った相澤の意識はその言葉を拾わない。マイクは頭を撫でてベッドに彼を寝かせてやった。


    「っと、忘れてた」


     そう言うと完全に彼が眠っていることを確認してから、瞼を勝手に持ち上げて彼の目から1dayのカラーコンタクトを抜き取る。人の眼球に触るのは恐ろしいが、これを放置する方が怖かった。相澤がいつも癖で捨てているような形でコンタクトをゴミ箱に捨て、何事もなかったかのように布団をかけてやる。


    「お前の口から、ちゃんと話してくれよ」


     聞こえていないことを承知で語り掛け、マイクは部屋を出て行った。部屋の中には寝息だけが聞こえている。この寝息が誰の物なのかまではわからなかった。


     ‡

  • 81125/02/09(日) 21:18:16

    >>80

     BLACK CASEは順調に全員分の仕事が入ってきている。蓮はロケ中心の、彰はひな壇で笑いを取るタイプのバラエティで。拓哉はBLACK CASEの配信でかなり人気が高まっていた。だがそんな三人さえ霞んでしまうのが光木の活躍だった。彼は地上波のドラマを二本こなしつつ、ウェブドラマにも出演し、時折番宣でバラエティにも顔を出していた。その勢いはDD9時代よりも凄まじい。


    「アイツマジやべえ~」

    「光木のことか?」

    「そう。バイタリティバケモン」

    「まあ俺らとは年季が違うからねそもそも光木は」


     忙しい時間の合間に休みに来た拓哉と蓮が机に突っ伏していた。彰は流石に疲れたのか仮眠室で寝ている。三人の忙しさに申し訳なさが少し出るが、それ以上に忙しい光木は今日すれ違った時全く疲れを感じさせない笑顔だった。

     それどころか、いつも以上に輝いていたようにも思える。


    「劇団上がりだから体力の基礎ポイントみてえなのが全然違うんだよな。あとああ見えてハングリー精神爆高だし。ライムさんも正直同時進行で何個も演出抱えてるとは思えねえし」

  • 82125/02/09(日) 21:19:24

    >>81

     ショータは拓哉と撮るSNS用の動画について打ち合わせをしつつ、蓮の言葉にも耳を傾ける。光木が仕事を複数本掛け持ちしているのは知っていたが、彼もそうだとは知らなかった。

     あのあと、ライムというひとについて少し調べた。どうやら演劇業界では知らない人が居ないレベルの大御所で、ライブ事業に手を出し始めたのは最近らしい。恐らくそれも、光木がアイドルとして有名になり始めたからだろう。

     それくらいライムと言う人は光木に入れ込んでいる。そうなると少し懸念材料があった。


    「……もしかしてライムさん、光木を役者に戻すつもりなんじゃないか?」


     ただ協力を申し出たにしてははっきり言って彼に旨味が無さ過ぎる。BLACK CASEがいくら飛ぶ鳥を落とす勢いだとは言え、きちんと世間に認知されているのは光木位な物だ。ショータは炎上騒ぎやヒーローの推し活により知名度自体は低くないがそれでもやはり「最近よく見る人」のラインを超えることはできない。

     対して、ライムの手がけたステージや舞台は国内外からも高く評価される規模の大きなものが多く、中には国外の演出賞を取ったこともある。対価が釣り合わないのだ。

  • 83125/02/09(日) 21:20:16

    >>82

    「みんな思ってても言わなかったのに」

    「やっぱり思ってたか」

    「俺は今ショータに言われて初めて気が付いた」

    「実際、昔の光木って凄かったからね。日帝劇場で主演張ってたこともあるし、バックにDD9の事務所があるとはいえあそこまで有名になったのは光木の実力だよ」

    「じゃあ役者に戻ってほしいって思う人が居るのもしょうがないのか。でも嫌すぎね? そういう外堀から埋めてやるみたいな感じのやつ」

    「流石に今の光木を邪魔するようなことはしないよ」


     外から入ってきた部外者の声に全員がそちらを向く。にこやかな顔で手を挙げて挨拶をするライムと気まずげな顔をする光木が立っていた。


    「やべ」

    「ヤバくないって。君らの心配はまあ最もだからね、ちゃんとここらで言っといた方が良いかなと思うし。俺は光木の活動を邪魔するつもりはないし、アイドルをやめさせて役者に戻そうとも考えてないよ。アイドルやりながらだって役者は出来るからね」

    「そ、そうなん?」


     蓮が見たのは光木だった。

     彼は少し困ったように笑って「そうですよ」と答える。少しだけ心外だと言いたげな怒りも含まれていた。

  • 84125/02/09(日) 21:21:21

    >>83

    「役者一本で食べていくのは夢でもありますけど……それはこの場を捨ててまで叶えたいことではありませんから」

    「み、光木ぃ~!」

    「ちょっと蓮。痛いですよ」


     力強く抱きつく蓮を引きはがそうとはせず、その背中を抱きしめる。


    「じゃあなんでライムさんは手伝ってくれるんですか?」

    「ん? あー……」


     そうなると疑問は最初に戻る。

     どうしてこれだけ高名なライムが自分たちを手助けしてくれるのか。それもチャリティーライブである以上、収益は見込めない。

     彼は歯切れ悪く答える。


    「……このライブは俺たちにとって因縁、みたいなものがあるんだよね」

    「ちょっとライムさん」

    「良いだろ、ちゃんと説明しておきたい」


     因縁、とはまた穏やかではない。

     ライムの出した言葉に部屋の空気が張り詰めた。異様な空気を察したのか、パーテーションで区切った向こうで寝ていた彰も起きてくる。

  • 85125/02/09(日) 21:22:20

    >>84

    「俺たちは子供に怪我をさせたことが原因で劇団を解散する羽目になったんだが……それが十年前のあの災害だったんだ」

    「……っ」

    「と、悪い。君は被災者だったな、配慮が足りなかった。だが俺たちにとってはとても大事なことだ、もし気分が悪くならないのなら最後まで聞いてほしい」


     ショータは少し迷った。

     あの頃の記憶は少し混濁していて、曖昧なところもある。悪意があるわけではない彼らの話を聞いても大丈夫だとは思うが……。

     少し迷ってから「大丈夫です」と答えた。


    「有難う。俺たちはボランティアであの街を訪れた。そもそもボランティアに行くことになったのはスポンサーになっている事務所の命令だったんだが、俺たちとしてもあの災害で何か力になれることがあればと思っていたのは事実だったからな。誰も反対することはなかったよ」


     時計の音がやけに大きく響いた。


    「俺たちの仕事は瓦礫の撤去だった。ヒーローたちがご遺体を片付けて安全を確保したあとの作業だ。それでも危険なことには変わりないから、瓦礫は必ず所定の位置に置くよう厳命されていた。俺たちはそれをしっかりと守っていた」

  • 86125/02/09(日) 21:25:49

    >>85

     言葉に熱がこもり始める。彼の目にうっすらと涙が見えた。


    「……瓦礫の山になっているところに、地元の少年が飛び込んできた。彼は瓦礫の下敷きになって……意識不明の重体、そのあとはわからない」

    「そんな……」

    「今でもあの時の光景が目に浮かぶよ。死角からいきなり飛んで来た小さな塊が、瓦礫の山にぶつかって音を立てて崩れていく様が。少し目を離したすきに絶望のどん底になった」


     そのあとは事務所がご家族に謝罪をつけ、責任を取って劇団は解散となった。彼らは誰も被害者の家族に話をすることも、講義をすることも受け入れられなかった。

     ライムが右手を強く握る。


    「俺は、あの日にけりをつけたい。全部終わっちまったあの日が、実は始まりだったんだって思いたいんだ」


     ショータは思わず口元を抑えた。

     光木がすぐに近寄って背中をさする。


    「大丈夫ですか」

    「だい、じょうぶ」

    「悪い、ちょっと言葉が荒くなっちまった」

    「いえ、平気です。……その、俺もあの頃大怪我して入院したんで、思い出しちまって。俺の時は建物の崩落に巻き込まれたみたいなんですけど」

    「それは……悪いことをした」

    「それだけ強い思いでこれに臨んでいただいてるってことがわかって、良かったです」

  • 87125/02/09(日) 21:26:58

    >>86

     ショータは思わず口元を抑えた。

     光木がすぐに近寄って背中をさする。


    「大丈夫ですか」

    「だい、じょうぶ」

    「悪い、ちょっと言葉が荒くなっちまった」

    「いえ、平気です。……その、俺もあの頃大怪我して入院したんで、思い出しちまって。俺の時は建物の崩落に巻き込まれたみたいなんですけど」

    「それは……悪いことをした」

    「それだけ強い思いでこれに臨んでいただいてるってことがわかって、良かったです」


     少なくとも光木を連れ戻すために今回のことを利用しているわけではないとわかっただけでもショータにとっては良いことだった。

     BLACK CASEは光木という圧倒的なスターを中心に回っている。万が一抜ければ今度こそこグループはおしまいになってしまうだろう。

     吐き気を抑え込んでいると、頭の上に掌が乗る感覚がする。マイクとは違う、皮の薄い柔らかな手だ。


    「グループを抜ける提案をしたのは彰ですけど、グループを作る提案をしたのは僕なんですよ」

    「そう、なのか」

    「ええ。自分で言いだしたことなのに辞めるわけないでしょう。僕のこと見くびってます?」

  • 88125/02/09(日) 21:28:02

    >>87

     頬を指でつつかれる。

     奇麗に切りそろえられた指先が柔らかな頬に沈んだ。「お餅みたいですね」と光木が笑って頬をつまみ始めるといい加減不快になりそれを振り払う。


    「……お前が居なくならないならそれで良いよ」

    「これはデレですか?」

    「デレだね」

    「だな」

    「こいつ最近可愛い扱いされまくってるから狙ってやってるぜきっと」

    「蓮!」

    「うわ怒った」


     先ほどとは変わって和やかな笑いが満ちる。それを眺めるライムの目も優しかった。

     口では反論しつつ、ショータもその胸中は温かい。自分が誰なのかがわからなくて不安になっていても、暖かいこの場所があればどうにかなる気がした。



     気がして、いた。

  • 89125/02/09(日) 21:31:06

    >>88

    前編ここまで!

    後編は明日かけたら持ってくるぜ!


    長いので一気読み用URLも用意した

    ドルパロ澤10 前編 | Writening ショータの活動縮小は最初にメンバーに伝えられ、そのあとファンクラブのお知らせメールで告知された。ファンは皆最初こそ驚きをしたものの、彼の活動時間を考えれば活動停止でないだけでもありがたいと思っ…writening.net

    ハートとか感想とかいつもありがとやで

    そんじゃあ明日めちゃくちゃ早いからもう寝るぜ!

    おやすみ!

  • 90二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 21:31:06

    おっと不穏

  • 91二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 21:31:28

    最後ォ!

  • 92二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 21:31:51

    マイクカラコンのこと気付いてるのも怖いな

  • 93二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 21:34:28

    最後が怖すぎるよ!!
    あとマイクカラコンのこと気づいてたの?!え、もしかして髪のことも…?

  • 94二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 21:47:46

    髪色がバレた時先生はマイクに見られたくなかったからたぶん先生は白髪と目の色のことは秘密にしてるはず
    でもマイクは知ってる
    写真のネタは残ってる

    い 嫌だ…なんかすごい嫌な予感がする…

  • 95二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 22:45:33

    めちゃくちゃほっこりした気分で読んでたら最後の一文で一気に突き落とされた
    続きが気になるけど怖すぎる……

  • 96二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 23:03:44

    もう不穏なことについてはみんな言い尽くしてると思うんだけど
    冒頭の活動縮小するってことについて3人に激詰めされてたり過保護じゃない蓮の後ろに隠れたりするショータ可愛すぎた
    マイクにお祝いされて照れてるのも可愛いが過ぎる
    憧れのフェスに出れて良かったねえ〜っておばあちゃんみたいな気持ちになる

  • 97二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 07:25:27

    バレたくない相手の家でいつもカラコン捨てちゃったりする詰めの甘さがショータは平和に生きてきたんだなって感じがして癒される
    案の定マイクには気づかれてるのも可愛いし

  • 98二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 08:01:21

    薬なくても寝れる?ってマイク聞いてんの良いなあ
    幸せなことがたくさんあって不安を忘れて眠れて良かったね

    なお

  • 99二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 09:00:25

    このレスは削除されています

  • 100二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 12:24:57

    当たり前に受け入れてるんだけど前半だけで万字超えてるのビビる
    スレ主の気合いの入り方がすごい

    最近ちょっとドル澤の話をするだけのスレとかほしいなと思い始めてる

  • 101二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 18:37:30

    とても分かる
    最初はそこまで気にしてなかったのに話しが進むにつれて愛着がどんどん増して今やメンバーやマネさんのオタクになってる

  • 102125/02/10(月) 21:10:01

    ただいま
    いっぱい反応ありがとう〜!好き勝手書いてるから反応もらえるの嬉しい!
    今から書くけど下手したら寝落ちしそう

    こんな超ニッチな作品の感想スレはちょっと考えてなかった…ありがたいことだけども
    もし欲しくなったら作るので言ってくれ〜

  • 103125/02/10(月) 21:18:59

    いやごめんほんま眠い寝る
    後半は明日持ってくるで

  • 104二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 21:25:56

    ゆっくり寝てくれ
    スレ主の健康が1番や
    俺らはあったかくして待ってるから

  • 105二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 21:30:12

    おかえりスレ主〜!
    明日了解やで、ゆっくり休んでね

  • 106二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 22:53:57

    お疲れ様スレ主
    睡眠が1番大事やいっぱい寝てくれ

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