- 1二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 19:19:27
- 2二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 19:23:32
- 3二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 19:27:11
目の前にはタイムやホルムオークの灰色の草原が広がっている
そこをさらに歩いて行けば、おとぎ話にでも出てきそうなこじんまりとした、しかし美しい村が見えてきた
イデア「………」
イデア(……完っっっ全に道に迷った………!!!) - 4二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 19:31:50
イデア(うう……。課題でどうしても郊外に行かなきゃいけなくてそしたら案の定これ!こんなド田舎じゃネットも通じないし人も通らないから道も訊けないし、そもそも自分から声をかけて道を訊くとか引きこもりにはハードモードすぎるんですが???)
イデア(あーあ……。やっぱり部屋でネトゲしとくんでしたわ。ぶっちゃけ検索すれば資料とかはどうにでもなったし……)
イデア(まあ、景色がいいことだけはまだマシっちゃマシだけど) - 5二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 19:32:35
保守
- 6二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 20:08:35
保守
- 7二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 21:33:18
イデアがしばらくウロウロしていると、次は芝地に出た
すると槍を構えた騎士、巨大な孔雀、頭の髪を丸く整えた姫君……これらの形に剪定されたイチイの木々が目に入る
その向こうには古い石造り屋敷がたっている。窓は細長く縦に仕切られていて、屋根は明るいバラ色のタイル。屋敷を囲んでいる塀もバラ色で、それをツゲの生け垣が囲んでいる
イデア(へえ、このまま映画のセットに使えそうだ。そのうちあのドアが開いて、お茶会へ誘いにご令嬢が出てきたりして……まあ、不法侵入で通報されたりしなければ) - 8二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 21:45:05
イデア(ん?)
その屋敷の2階の窓から、1人の子供の影が見えた。
こっちに親し気に手を振っているような気がしたが、そうではなくて仲間を呼んだらしい。すぐに明るい金髪の頭が見えた。
急に後ろのイチイの陰から笑い声が聞こえてきた。驚いて振り向くと、生け垣の向こうに噴水がある。噴水と取りの鳴き声と、それに子供たちの楽しそうな笑い声が混ざって響いていた
イデア(……この家の子供かな) - 9二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 22:33:37
庭の木戸が開く音が聞こえた。大きな日よけの帽子をかぶった女性が出てきた。
イデア(アッ や、ヤバい、なんて言い訳しよう……!)
彼女はすり減った石段をゆっくり下りてくると、こっちに向かって歩いてきた。
言い訳を考えていたイデアだったが、彼女が顔を上げたのを見て、一瞬息をのんだ。
彼女は、目が見えないのだと分かったからだ - 10二次元好きの匿名さん25/02/09(日) 23:03:17
女性「音が聞こえたので……どうかされましたか?」
イデア「み、道を間違えてしまって……引き返せばよかったんですけど……」
女性「いいえ、大歓迎です。この庭に、お客さんが来てくれるなんて!きっと喜ぶと……」
彼女は辺りを見るように首を回した
女性「まだ……まだ、誰にも会ってませんよね?」 - 11二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 00:34:23
イデア「ええ。話しかける相手はいませんでした。ただ、子供たちがこっちをチラチラ見ていました」
女性「どんな子ですか?」
イデア「あの窓の所に2人。ついさっきです。それから庭の方でも子供たちが遊んでいましたよ」
女性「まあ、羨ましい。私は、あの子たちの声を聞けるだけで……。あなたは見えて、聞こえるんですね」 - 12二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 08:40:36
保守
- 13二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 12:24:26
女性「あの……ご迷惑でなければ、お願いを聞いていただけますか?」
イデア「えっ?は、はぁ……」
女性「家の車を執事に運転させて、あなたを送らせて頂きます。ただ、その前に庭をゆっくり1、2周走らせて欲しいのです。あの子たち、きっと喜ぶから……。こんな田舎では新しいことなんか起こらなくて。楽しませてあげたいのは山々なんですが」
イデア「あの、僕は構いませんけど、芝生が駄目になりますよ?」
女性「あそこに敷石があるでしょう。あれに沿って走れば、芝生を駄目にせずに街に出られますわ」 - 14スレ主25/02/10(月) 12:27:25
(夜中の23時まで仕事の都合で更新できません。お読みになってる方はもしよろしければ、保守していただけると嬉しいです)
- 15二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 17:52:49
保守
- 16二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 21:54:36
とっさにええっていえるイデアいいとこ育ち感あって好き
- 17スレ主25/02/11(火) 00:51:20
結局、屋敷の中から執事が出てきてイデアを車で送ってくれることになった
女性「私も乗っていいかしら?ああ、大丈夫よ、1人で乗れます。私が乗っているのを見れば、子供たちも喜ぶと思うんです」
女性は難なく車に近寄って、ステップに足を掛けながら大声で呼びかけた
「みんな、ほら、見ててちょうだい!」
すると、イチイの向こうから子供たちの歓声が応えた
イデア(あ、さっきの噴水の近くにいた男の子の声だ)
車が近づいてくるのを見て慌てて走ったのか、イチイの木の陰に青いブラウスだけが見えた - 18スレ主25/02/11(火) 00:55:26
イデア「小さい男の子がこっちを見てますよ。乗りたいのかな」
女性「みんな、とっても恥ずかしがり屋さんなんです。でも、あの子たちを見られるなんて貴方は運の良い方ね。……あ!ほら、耳を澄ましてみて!」
執事はすぐに車を止めた。しかし聞こえたのはハチの羽音と、鳩の鳴き声のようなものだけだった
女性「まったくもう、意地悪なんだから!」
イデア「……車に慣れてないだけじゃないかな。窓の所にいた女の子は興味津々でこっちを見てましたよ」 - 19スレ主25/02/11(火) 01:01:32
女性は嬉しそうにパッと顔をあげた
女性「そうでした?私ったら、酷いこと言っちゃったわ。みんな、私のことを大好きでいてくれてるのよ。私の生きがいはそれだけ。みんなの愛情を感じた時だけ、生きていて良かったと思えます。もしみんないなくなってしまったら、私は生きていけませんわ。……ここは、美しいとお思いになりませんか?」
イデア「ええ、とても」
女性「みなさんそう仰るの。私もそれを感じています。でも、実際に見るのと感じるのでは違うのでしょうね」
イデア「あなたは、産まれた時から……」
イデアはそう言いかけて慌てて口をつぐんだ - 20スレ主25/02/11(火) 01:07:19
女性は気分を害した風もなく、静かに答えた
女性「何かを見た記憶はありません。生後数か月の時から、と言われました。でも、何かしらは覚えているのでしょうね。そうでなければ、色の夢なんて見れないでしょう?夢の中では、光が見えるんです。色も。でも、あの子たちの顔だけは一度も見えません。目が覚めているときと同じで、声しか聞こえないんです」
イデア「夢の中で人の顔をはっきり見るのは難しいそうですよ。見られる人もいるらしいですけど、ほとんどの人間にそんな能力はありません」
イデアは話しながら、子供が隠れて傍に立っている窓を見上げた - 21スレ主25/02/11(火) 01:15:24
女性「私も聞いたことがあります。特に亡くなった人の顔は見られないそうです。夢の中では。それって、本当なんですか?」
イデア「その通りだと思います。考えてみれば、確かに」
女性「でも、あなたはどうなんですか?……ご自身の経験では?」
イデア「いままで夢で、あの世に行った身内に会ったことは一度もありません」
女性「……それなら、目が見えないのと同じことね」
それからしばらく、2人は黙り込んでいた