- 1◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:24:26【SS】これより、テイエムオペラオーの世紀末推理劇、開幕さ!|あにまん掲示板「ねえ、私、どうして勝てないんだろう」 日が暮れたコースのベンチに、2人のウマ娘が座っていた。そのうちの1人、ナリタタイシンは、誰もいなくなったコースを見つめながら、話を聞いていた。「タイシンさんに負…bbs.animanch.com
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- 2◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:24:42
―――
日が傾き始めた頃。オレンジ色の光が差し込む保健室には、2人のウマ娘しかいなかった。
「タイシンさん……なんで……」
ベッドで眠っているタイシンの横で、アーチは彼女の手を握る。体温は伝わっても、タイシンは目覚めない。それでもアーチはそこに座り、彼女のことをじっと見つめていた。
「役者は揃っているね。では始めよう」
突然の声に、アーチの背筋が伸びる。しかし、オペラオーの姿を見るや、すぐに怪訝そうな顔になった。
「……あなた、何しに来たの?」
「決まっているだろう? 推理だよ。ボクの頭脳は、この難解な事件の真相に気付いてしまったんだ。君も聞きたいだろうと思ってね。タイシンさんと仲のいい、君なら」
不機嫌なアーチに、笑顔を見せるオペラオー。その横で申し訳なさそうに縮こまるドトウ。
「ドトウちゃん。その人をどこかへ連れてって。気分が悪いわ」
「で、でもぉ……オペラオーさん、犯人がわかったみたいで……」
「いいよ。そんな人の推理、当たってるとは思えないし」
刺々しいアーチの話し方に、身を引いてしまうドトウ。
「まあそう言わず、特等席で聞いてくれたまえ。いずれこの学園一の探偵になるボクの推理だ。聞かないのは人生の損失というものさ」
「こんな茶番に付き合ってる方が損よ。いいからこの部屋から出てって」
だんだん声が大きくなるアーチ。
「迷える羊は、ある時から人生が上手くいかなくなった」
彼女の様子に構わず、オペラオーは語り始める。
「目指すべき夢が見つかったのに、そこに向かって進んだはずなのに、全く手に入らない。それまでの自分では幸せを感じられず、さらに上の幸せを求めてしまったのさ。そして、彼女は他人に救いの手を求めた。誰かになぐさめてほしくて、自分が正しいと認めて欲しくて。だが、彼女が手を伸ばした先にいたのは、全てを見通してしまうサージュだった。見透かされた彼女は、賢者を敵だと見なし、暗殺する計画を企てた。彼女の不幸は、その企ての前に、全てを救い出せるこのボクと出会えなかったことだね」 - 3◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:25:10
「……わけがわからないわ。何が言いたいの?」
「ボクなりに考えた過去の話さ。次は、今の話をしようか」
オペラオーの瞳が、鋭くアーチをにらむ。
「アーチさん。なぜ、タイシンさんは気を失ったんだと思う?」
「なぜって……水の温度が低くて体温が下がったから、とか」
そう言う彼女の眼前で、オペラオーは人差し指を左右に揺らす。
「違うね。今日はよく晴れた日だ。水温はそれほど低くないのさ。水に腕を思い切り突っ込んだドトウも、気を失ってないしね」
「それじゃあ、息ができなかったから……」
「それも無いね。タイシンさんは仰向けで川に浮いてたんだ。引き上げた後も問題なく呼吸はできていた」
「じゃあ何? 川に落ちて気を失う理由って。まさか、水面や地面にぶつかった衝撃でなんて言わないでよ? あんな低い場所で」
ぶっきらぼうに言う彼女に対し、人差し指をビシッと突きつけられる。
「そう、そこさ! 川に落ちて気を失う。そこが違うんだよ」
口角を上げながら、オペラオーは説明を続ける。
「逆なのさ。川に入ってから気を失ったんじゃない。川に入る前に気を失ったんだ。気絶した彼女を川の近くに連れていけば、すんなりと川へ落とせるだろう?」
「そんな、どうやって気絶させるのよ……」
呆れた顔をするアーチに、オペラオーの顔が真顔になる。
「アルコールだよ」
冷たく告げる彼女に、アーチはフッと笑った。
「まさか! じゃあ犯人はお酒を飲ませたの? どこで? 少なくとも、お昼ご飯の時は酔っ払ってなかったよ」
「おや? あなただって見ているはずだよ? タイシンさんがフラついているところを。保健室にも連れて行こうとしたって言ってたじゃないか」
「でも、学園内にお酒なんてあるわけ……」 - 4◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:25:42
「あるだろう? 消毒液が」
それを聞いたアーチの顔が引きつる。
「タイシンさんは、マイノーン君がこぼした消毒液を拭いたんだろう? その時、気化するエタノール、もといアルコールを吸っている。気化したものを吸った場合、肺から直で血液にアルコールが入るんだ。飲んで摂取した時よりも、酔いが回るのは速いそうだよ。タイシンさんの体質次第だけど、酔っ払う可能性は充分ある」
彼女の説明を聞き、アーチは鼻で笑う。
「たかが消毒液で酔っ払うわけ……」
「消毒液に含まれるアルコール濃度は、お酒なんかの比じゃない。そのことも、あなたはよくわかっているはずだ。普段からポケットに消毒スプレーを入れているくらいだからね」
オペラオーはアーチの左ポケットを指差す。
「マイノーン君は消毒液にぶつかり落としただけだ。消毒液の容器のフタが、それだけで外れるとも思えない。誰かがあらかじめフタを緩め、ぶつかりやすいところに置いたと考える方が自然だね」
鼻を高くして歩くオペラオー。
「何が言いたいわけ?」
「あなただろう? スミレアーチさん。タイシンさんを落とした犯人は」
「えぇぇぇぇ!? そ、そうなんですかぁぁぁぁ!?」
オペラオーの横で目を丸め、大袈裟に叫ぶドトウ。
「どうして君が驚いてるのさ。役者は揃ったって言っただろう?」
オペラオーが両手をだらんと広げていると、アーチが立ち上がった。
「ふざけるのもいい加減にしてよ!」
「ひいっ!?」
ドトウの体が震え上がったが、オペラオーは動じない。
「消毒液の容器を緩めるのなんて、誰でもできるでしょう!? なんで私がやったことに!」
「あなたは今日、タイシンさんと一緒に昼食を食べたと言っていた。とすれば、彼女の座席を決めることができたわけだ。お盆の返却口と、席の間のところに消毒液を置けば、タイシンさんが消毒液と接触しやすくできるし、その後の彼女の動向も追いやすい。君はタイシンさんと川沿いまで一緒に行き、彼女の意識があやふやなのを確認してから、彼女を落としたのさ」
「言いがかりよそんなの! 証拠が無いでしょう! 証拠も無しに犯人呼ばわりなんて……」 - 5◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:26:30
「あるよ」
その一言で、アーチの顔が固まる。そう思ったのも束の間、すぐに鬼のような形相へと変化した。
「あるですって!? どこに!?」
「見せられるものじゃないよ」
「見せられないなら、無いのと同じよ!」
「なぜなら、アーチさん。証拠はあなたの証言だからさ。あなたが犯人じゃないのなら、おかしな発言が2つあるんだ」
彼女に怯まず、2本の指を立て笑顔のまま、オペラオーは説明を続ける。
「1つ目は、タイシンさんが外周しなきゃと言っていたことさ。川に浮かんでいた彼女は制服姿だった。外周しに行くのなら、ジャージ姿の方がいいだろうに、なぜ彼女は制服だったのかな?」
「そ、それは、外周っていうのは覚え違いで、本当は散歩だって言ってたかも……」
不安気に言う彼女に、オペラオーはいやらしく笑顔で覗き込む。
「おや? 歯切れが悪いね。ボクが間違っているのなら、違うと主張していいんだよ?」
「でも、こんなものだけで証拠にはならないわ! あなたの言うことは……」
「もう1つは、割と決定的だよ」
アーチの眼前に指を突き立て、彼女の言葉を遮るオペラオー。
「ボクがあなたを疑っていた時の言葉だ。オグリさんが味噌ラーメンを食べてから突き落とした可能性や、メガネのウマ娘やボクらが犯人である可能性を指摘していたね?」
「それの何がおかしいの?」
「いわば、この事件の容疑者をまとめていたわけだ。だが、あなたが挙げた以外にもう1人、容疑者に入ってないとおかしい人物がいるのさ」
「もう1人? いないわ、全員挙げてるもの」
「ラーメン屋の店主だよ」
アーチの顔は、再び引きつった。
「彼が犯人なら犯行が目撃されていないことにも筋が通る。屋台は置いておけばアリバイ偽装もできる。状況的には最も犯行しやすい人物だ。なぜ、彼を容疑者に入れなかった?」
「そ、それは……」
アーチは見るからに焦っている。 - 6◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:26:52
「答えは簡単。ウマ娘を恨んで犯行に及ぶのは、ウマ娘しかいないと考えていたから。もしくは、他のウマ娘に罪を着せられるようにしたかったからかな? だから、正体のわからないメガネのウマ娘でさえ犯人扱いしたんだよ。だが、このことが逆に、あなたが犯人だと物語ってしまうのさ! ああ、なんと皮肉なことか!」
「くっ……」
酔いしれるオペラオーに反論できずにいたアーチが、急に二ヤリと笑う。
「そう、そうよ。私が犯人だと成り立たないじゃない……」
「何がだい?」
「ハンカチのあった場所から落としたのなら、私のことをラーメン屋が見てるはずでしょ!? 私は何もやってないし、他の人がやったか、タイシンさんが勝手に落ちたかだよ!」
勢いよくまくし立てたのも虚しく、オペラオーは笑みを崩さない。
「アーチさん。あなたが川沿いでボク達に会った時、学園に向かおうとしたボク達の後ろから声をかけたよね?どこに行ってたんだい?」
「そ、それは外周だって言ったでしょう? 何もおかしくないじゃない!」
声を荒げる彼女に向かって、チッチッチ、と指を振るオペラオー。
「クリークさんのハンカチは、君が後から置いたんだ。ボクらが聞き込みをしている間にね。実際にタイシンさんを落とした場所はあそこじゃない。もっと上流の方だったのさ。それなら、オグリさんやラーメン屋に見られずに行うことも可能だろう?」
「え、あ……」
アーチは戸惑っていたものの、すぐに敵意剥き出しの顔に戻った。
「いや、まだ! あなたの推理は、タイシンさんが酔っ払ってたことが根拠でしょ? そんなの確かめようがないじゃない!」
「あるよ。アルコールチェッカーがね」
「へっ?」
またしてもアーチの顔が固まる。
「吐いた息に、どれだけアルコールが含まれているかわかる代物さ。保健室にならあるだろうって、ハヤヒデさんも言っていたよ。先生が戻ってくれば、確かめられるだろうね。最後に付け加えるなら、川沿いで会った時にあなたから消毒液の話が出なかったことも、君が犯人であることを裏付けているね。違うかい?」
彼女の話を最後まで聞くと、アーチは失意の表情を浮かべ、がっくりとうなだれた。 - 7◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:27:27
「す、すごいですぅ、オペラオーさん! 本当に、犯人がわかってたんですね!」
「はーっはっはっはっは! また1人、迷える羊を救ってしまった! ああ、なんて罪深いんだ! やはり、この世で最も罪深いのはこのボク! ボクの罪は、誰にも裁けないというのか……!?」
ドトウの言葉で、すっかりいつもの様子に戻るオペラオー。
「それで……どうするの?」
上機嫌な2人の横で、アーチがゆっくりと顔を上げる。2人のことを、強く、にらみつけて。
「私のやったことを知ってどうするの? 先生に報告すんの? それとも警察にでも通報する?」
それを聞き、オペラオーはやれやれと言いたげな仕草をする。
「どうもしないさ。ボクはただ、事件の真相を明らかにしたかっただけだからね。答え合わせができたのなら、それ以上することも無い」
「え……?」
毒気抜かれ、目を丸くするアーチ。
「だから、どうするのかは君が選びまえ。自分がやったことをタイシンさんに話すのか。それとも、自分のやったことを誰にも明かさず、陰に生き続けるのか」
「あ、うっ……」
彼女の言葉に、アーチは曇った表情でうつむいた。
「う……保健室……?」
突然、ベッドから声がする。
「あれ、アーチじゃん……それと、オペラオーと、ドトウだっけ?」
タイシンは目をパチクリさせている。
「やあタイシンさん。あなたは川に落ちて気を失っていたんだ。それをボクがここまで運んできたのさ。君の友人も、心配して来てくれたようだよ?」
「そうなの?」
「あっ……」
アーチはバツの悪そうな顔をした。タイシンは宙を見つめて何かを考えた後、ああ、と漏らした。
「アタシ、お昼食べて、消毒液を拭いたらフラフラになって、アーチが景色のいいところまで行こうって、それから2人で川を見ながら座って……そっか。だからアタシ……」
タイシンは、穏やかな笑みを浮かべる。
「ありがと、アーチ」
「へ……!?」
「あの時、結構ヤバくて、しんどかったから。隣座った時も、枕にしちゃって。でも、あの時のアンタの肩、あったかくて……」
幸せそうに言う彼女を見て、アーチの口元が震えていた。 - 8◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:28:56
「違うの!」
突然アーチがベッドに手を突き、前のめりになる。
「私がやったの! 私が、タイシンさんのこと、川に、突き落として……!」
告白した彼女の顔はぐちゃぐちゃだった。突然のことで驚いていたタイシンだったが、やがて彼女を見て、目を細めた。
「ああ、そっか。やっぱそうなんだ」
うなずく彼女の顔に、憎悪は一切無い。ただ、穏やかに話し続ける。
「そうかもしれないって思ってたけど、なんか、それでもいいかなって思えてさ。優しいアンタを、それだけ怒らせちゃったのかもしれないって、思ったから」
儚げに微笑む彼女に向かって、アーチは首を震わせている。そんな彼女の様子を見て、タイシンは宙を見つめ始めた。
「アタシもさ、あったんだ。強いヤツが憎かった時が」
彼女の言葉に、驚き固まるアーチ。
「アタシが必死になってるのに、何の不自由も無く、幸せそうにしてる。そんなヤツらが、憎くて仕方ない時があった。自分が弱くて、嫌いで、どうしようもなくて……」
ふと、タイシンは窓の方を向く。オレンジ色に傾いた夕日を見つめている。
「けど、そんな時にも、信じてくれるヤツがいたんだ。そんなヤツがいっぱいいてさ。まだ、やり続けてもいいかもって思えて。アタシのことを不幸せにしてたのは、他でもない、アタシ自身だったって気付いて。だから、アンタの気持ちも、わかってたはずなのにね。どうしてだろ」
口元は微笑んだままだが、タイシンは苦い顔をする。
「やっぱ、弱いね。アンタも、アタシもさ」
そう言って、タイシンはアーチにはにかんだ。
「違った……」
アーチはベッドを見つめたまま呟いた。
「あの時、結局タイシンさんは強い人の味方なんだって思った。弱い私達のことなんか、理解できる人じゃないんだって。でも違ったんだ。本当は、世界は誰も悪くなくて、私が私を許せないだけだって。それなのに、こんなことしちゃいけないって、わかってたはずなのに……! ごめんなさい……!」
声を震わせながら、アーチはベッドに頭を着ける。やがて頭を上げると、彼女の口角は上がっていた。
「でも、もうおしまいだね。私、こんなひどいことしちゃって、普通に生きていけない」
そう言って、自嘲気味に笑うアーチ。涙ぐむ彼女に、タイシンはクスッと笑った。 - 9◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:29:37
「終わらないでしょ。死んだわけじゃないし」
「え……?」
キョトンとするアーチの顔を見て、タイシンはまたクスっと笑う。
「また走りなよ。アタシ、アンタのこと、信じてるから」
「なんで!? なんでよ!? 私のことなんて、許しちゃ、ダメだよ……!」
見開いた瞳を震わせ、声を荒げるアーチ。今度はタイシンはキョトンとしていた。
「なんでって、アンタ、気付いたじゃん。世界は悪くないって。なら、もう同じこと、しないでしょ?」
「あ、え、ああ……」
涙が溢れ、タイシンへと落ちていく。
「ごめんなさい、タイシンさん! 本当に、本当に、ごめんなさい……!」
泣き崩れるアーチを、タイシンは笑顔で見守っていた。
「これにて、世紀末推理劇は閉幕だね」
雰囲気を壊さないためか、2人を横目にオペラオー達は保健室を静かに出た。
「でも、これで本当に良かったんでしょうか……? アーチさん、また誰かにひどいことをするんじゃ……」
不安そうなドトウの前で止まり、オペラオーは彼女の顔を覗く。
「ドトウ。悪人は、自分の行いが悪だと気付かない。自らの行いを正義だと思い込むから、ためらいなく悪行へ走る。けど涙を流した彼女なら、その心配は無いだろう。自分の犯したことが罪だと、向き合えたのだからね」
「な、なるほど……」
うなずく彼女の前で、オペラオーは自身の胸に手を当てる。
「そして! それもボクという圧倒的な光があったからこそ!」
そう高らかに言った時、廊下に、ぐぅ~、という音が響いた。
「す、すみません……事件が解決したら、お、お腹が……」
ドトウがお腹を抑えるものの、その横でオペラオーも顔をしかめた。意識したことで、昼食を抜いていた空腹感が2人を襲う。しかし、すぐに笑みに戻った。
「それじゃあ、もう少しこの喜劇を続けようか」
そう言って、玄関へと駆け出すオペラオー。
「へ? 続けるって、どこに行くんですかぁ?」
「まだ降りていないはずさ。幕も、暖簾もね」 - 10◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:30:18
―――
「おや、オペラオー君。先に戻っていたか」
「ああ。おかえり、ハヤヒデさん」
湿気が残る髪を触りながら、ハヤヒデが部屋に入ってくる。
「先週はご苦労だった。タイシンが世話になったね」
「ボクにかかれば造作もないことさ。だが、まさかメガネのウマ娘の正体がハヤヒデさんだったとはね! 驚いたよ!」
「ああ。タイシンから誘われて以来、ラーメンに興味が出てね。不定期だが食べに行くんだ」
タイシンが川に落ちた事件の経緯は、オペラオーもハヤヒデに話していた。あの後、スミレアーチは自身のやったことを先生やトレーナーにも自白。ただ、被害者であるタイシンが追及を望まなかったこともあり、事件は公にはならず、このことを知る者も限られた。しかし、謹慎処分の代わりとして、また彼女自身の精神状態も鑑みて、アーチは1ヶ月間レース活動を休止することとなった。
「で、話ってなんだい? 事件についてと言っていたが……まさか、さらなる謎が現れ、ボクの手が必要になったのかな?」
ハヤヒデは、オペラオーの胸に手を置く仕草を黙って見つめ、やがて口火を切った。
「スミレアーチ君が今日、生徒会室に来た。厳密には、生徒会から呼び出したそうだが、彼女からも話したいことがあったらしい」
「話したいこと? レース休止が不服だったのかい?」
「いや、そうではない」
ハヤヒデは、人差し指と中指でメガネの位置を直した。
「妙だと思わなかったか? 彼女の偽装が」
首をかしげるオペラオー。
「偽装? なんのことだい?」
「犯行の曜日とバナナの皮、そしてクリークさんのハンカチのことだ」
それを聞いてもオペラオーはピンと来ていないようで、指を顎に当てて考えている。 - 11◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:30:50
「アーチ君はオグリさんと面識が無い。だがオグリさんが毎週、あの曜日にラーメン屋に通うことを知っていた。それだけじゃない。私があそこに行くことも知っていたんだ。だからバナナの皮を道端に置き、そのせいでタイシンが川に落ちたように見せかけた」
説明を聞いてうなずくも、どこか納得していないオペラオー。
「彼女は生徒会なんだろう? 学生の情報は集まりやすいんじゃないのかい?」
「そう言われればそれまでだ。だが」
一呼吸置いて、ハヤヒデは説明を続ける。
「彼女が恨んでいたのはタイシンだけだったはずだ。目撃されるリスクを冒してハンカチを置き、他の生徒へ疑いを向けることまで頭が回るのなら、こんな手の込んだことはしないだろう。冷静に練られた犯行だと言える」
「だとしたら、どうなるんだい?」
「この犯行は彼女が計画したわけではない。別の誰かが計画を考え、メールで彼女へと伝えていた」
それを聞き、オペラオーの顔は一気に険しくなる。
「黒幕がいる、というわけだ。けど、メールなら相手のアドレスを特定できるじゃないか」
「メールはすぐに削除するよう指示されていたそうだ。ゴミ箱の中にすら残っていない。だが、手がかりはある」
ハヤヒデはスマホをせわしなくタップし、そしてオペラオーへと渡した。その画面に写っていたものは、背景が黒く、赤枠で囲われたページだった。
「『トレセン学園の闇』……? ハヤヒデさん、これは?」
「いわゆる学校裏サイトというものだ。2000年代に流行っていた匿名掲示板で、その学校の生徒が誹謗中傷を行う。現代では珍しいが、この学園にもひっそりと存在していたらしい」
「学園は、そのことを知っているのかい?」
「認知したのは最近のことだそうだ。検索エンジンで普通に検索するだけでは、サイトが表示されないようになっている。このサイトの利用者の1人が密告して判明したという話だ」
顔をしかめるオペラオー。その表情には、怒りとも、悲しみとも取れるものがあった。
「こんなものが存在していようとは……人が抱える業の深さはわかっていたつもりだったが、こう、目の前で相対すると、なかなかくるものがあるね」
「不幸中の幸いか、掲示板の利用者数はさほど多くない。この手の輩は一定数存在するものさ」
オペラオーからスマホを受け取り、再び操作するハヤヒデ。
「中でも見て欲しいのは、このページだ」 - 12◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:31:15
見せられたページには、『報復の間』と白文字で大きく書かれていた。手に取ったオペラオーは、下にスクロールしていく。
「『憎いあの人に天罰を。方法をお教えします』だって? なんなんだ、これは……」
「この欄に憎い相手と自身のメールアドレスを書き込めば、その人物を陥れる計画を考え、メールを送ってくれるそうだ。アーチ君も、ここに書き込んでから1週間ほどでメールが届いたらしい」
ハヤヒデが画面の一部を指差す。オペラオーは絶句していたが、やがて真剣な顔つきに戻る。
「では、このサイトを作った者が黒幕なんだね?」
「そうとは言い切れない」
「どうして?」
「密告者によると『報復の間』というページが作られたのは、ここ1ヶ月のことらしい。裏サイト自体は、その前から存在していた」
彼女の言葉に、オペラオーの脳裏に1つの考えが過る。
「1ヶ月ということは、ドトウのチームメイトの事件も……」
「ああ。同じ者が計画した可能性はある」
オペラオーの眉間にしわが寄る。
「ハヤヒデさん。黒幕は誰なんだ? 一刻も早く捕らえるべきだろう」
眉を吊り上げるオペラオーに対し、ハヤヒデは首を振った。
「残念だが、今はまだわからない。手がかりもほとんど無い。が、わかっていることもある」
再び、ハヤヒデはメガネの位置を直す。
「1つは、学園の中にいる可能性が高いということだ。今回の事件でも、黒幕はオグリさんや私があのラーメン屋に通うことを知っていた。過去の事件にも関与しているのなら、ドトウ君がにゃーさんを譲り受けたことも知っていたことになる。生徒の情報を細かく把握できるのは、学園内の人物だからという他ないだろう」
オペラオーはうなずきつつ、ハヤヒデに目線を送る。
「『1つは』ということは、まだあるのかい?」
「ああ、もう1つある。これだ」
ハヤヒデがページを1番下までスクロールすると、『報復提案者』という肩書が表示された。そして、その下に大きく書かれた文言は。
「『Mt.Shadow』……山の、影?」
「そう。それが、黒幕のハンドルネームだ」 - 13◆.SBffrpxUgai25/02/10(月) 21:35:20
最後までお読みいただきありがとうございました。お疲れ様でした。
続編ありきの最後なので好みが分かれてしまいそうですが、この部分を書くための話でもあるので割り切ります。
以下に前作までのスレも貼りますが、後から文章を修正した箇所があるため、渋のシリーズからお読みいただけると幸いです。
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「名探偵ウララと一流助手のキングヘイローの事件簿」/「菜目ルナ」のシリーズ [pixiv]突然、探偵をやりたがるハルウララ。 そして、運悪く起こってしまう事件。 仕方なく付き合うキングヘイローだったが、次第に正義の心が灯る。 謎を解く理由も、推理も、何もかも正反対な2人だが、 そんな2人だからこそ解ける謎がある。 コミカルだけどシリアスで、ちょっぴりハートフルなミステ...www.pixiv.net - 14二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 06:30:17
続きが来てた
おもしろかったです