- 1全4レス(予定)25/02/10(月) 22:39:32
バレンタイン。今でこそ好きな相手にチョコを渡す日みたいに思われているが、元々はそうでもなかったらしい。なんでも、日本に入ってきてちょっとしてから、どこかの小学生が好きな男の子にチョコを渡したのが震源地。そうして誰もが想像する日本のバレンタインが広まったとか。
「ホントかどうかは知らないけどね」
今日は休日。アタシの方から誘って、トレーナーと出かけることにした。出かけると言っても学園の近くを散歩して、適当な公園のベンチに座って何をするでもなく過ごすくらいしかしてないけど。
勿論、好き好んでこの暑苦しくて喧しいバカと一緒に居ようとなんてしない。……それは絶対、絶対にあり得ない。何度言ってもハヤヒデは信じないし、クリークさんは母親みたいな目で見てくるだけ。チケットに至っては、信じる信じない以前にこっちの言ってる事を理解してなさそうだけど、本人が言うんだからそうじゃないに決まっている。
ただ、今日はちょっと渡したい『もの』があっただけだ。
「……………これ」
「タイシンは物知りだなあ」とか言いながら、アホ面浮かべてるトレーナーに小包を渡す。包装は簡素、と言えば聞こえがいいが適当な安物の包装紙に包んでいるだけ。リボンすらないものだ。
「ありがとう」
初めは面食らってた様子みたいだけど、そう屈託なく笑って、トレーナーは私の渡したものを受け取ってくれた。
「これ、開けてもいい?」
『開けずにどうやって中身を見るんだよ』『いいに決まってるでしょ』そんな感じで、憎まれ口の一つも叩いてやりたい。……というか、叩かなきゃいけないのに
「…………うん」
トレーナーの目を見ることもなく、力なくうなづくくらいしかできなかった。
心臓が辛い。ドキドキと喧しくて、いっそ止まってしまえと思ってしまう。もう、渡した以上は後戻りもできない。だからさっさと腹をくくればいいのに、渡す前より鼓動も恥ずかしさも、たぶん頬の赤らみも酷いことになっている。これじゃ……
これじゃ、なんのために色々言い訳を用意したんだか分からないじゃん。 - 2全4レス(予定)25/02/10(月) 22:39:46
わざわざ包装を安っぽくしたのも、バレンタイン当日じゃなくて今日渡したのも、全ては言い訳。アンタにこの気持ちを気づかれたくない。けど、何もしないなんて考えられない。耐えられない。そんなどうしようもなさに突き動かされた結果の、苦肉の策。
これはあくまで友チョコとか義理チョコとか、そういうヤツであって本命なんかじゃ決してない。そういうことにしたかった。だから、わざわざよくわからない蘊蓄まで引っ張ってきて予防線を貼ったりだってした。
……ああ、そうだ。そうだよ。アタシは好き好んでこの暑苦しくて喧しいバカと一緒に居る。ハヤヒデとクリークさんが気づいている通りだ。チケットのバカの言うバカだって当たっている。
アタシは、トレーナーが好きだ。
大好きだ。アタシを支えてくれた。アタシの隣に居てくれた。一生って軽々しく言えちゃうような、デリカシーのないバカのことが誰よりも好きだ。けど、それを正直に言えるような勇気はない。
大量の言い訳を用意して、この日を迎えるまでに何度も頭の中でシミュレーションした。けど、結果はぐずぐず。結局恥ずかしさが優っていつもの調子を取り繕えてない。そんなアタシに想いを伝えるなんてこと、できるわけがない。
分かってるよ……言わなきゃ仕方がないって。伝えなきゃ、それで終わり。このままじゃ、コイツが指導したウマ娘Aにしかならないなんて。
それでも、もし断られたらとか思うと怖くて怖くて声がでなくなる。それならいっそ、このままでいいとさえ思える。逃げ道を探して、そんな欺瞞に心が満ちていく。
アタシの気持ちもつゆ知らず。隣のバカはアタシからのチョコをめちゃくちゃに褒めちぎってくる。ありがとう、ありがとうと喧しい。
そう言ってくれるのは確かに嬉しい。けど、これ以上ボロを出すわけにもいかない。何より万一間抜けなニヤケ面とか、らしくない赤ら顔とかを浮かべていて、それを見られたら死にたくなるから、フードを被って誤魔化す。
……そういえば今日の服、フードないんだった。 - 3全4レス(予定)25/02/10(月) 22:40:08
ありもしないフードを被ろうとするなんてバカをやってしまったし、渡すものも渡した。だからさっさと帰りたいうという気持ちと、渡してすぐに帰れば色々勘繰られるんじゃって気持ちとがぶつかって、身動きが取れなくなる。……事前に考えてた段取りなんてとっくの昔に吹っ飛んでいた。
「先越されちゃって、格好つかないな」
だから、トレーナーが恥ずかしそうに、そう言って差し出してきた小包にすぐには気づけなかった。
それは包装紙からして高そうで、立派なリボンもついていた。柄はいかにもバレンタインという感じだ。それも、まるで……
「俺は、君ほど器用じゃないから」
その言葉に、小手先の情け無い防衛策が見事に看破されていた恥ずかしさも、どこかへ吹っ飛んでしまった。
嬉しさはない。それもそうでしょ?こんないきなりのこと、脳も気持ちも追いつくわけがない。頭が真っ白になって、何も思い浮かばない。
「は?……あ、……えっと、えっ……?」
そんな状態がほんの僅かなような、酷く長いような間続けば、流石にちょっとは冷静さを取り戻す。取り戻して、やっぱりまた取り乱す。言葉にならない声を出すのが精一杯だった。
どうしていいか分からない。なんて言えばいいか分からない。YES?ありがとう?大好き?さっきの今で、そんな素直な気持ちを吐き出せるわけもない。
気づいた時には、ベンチから立ち上がっていた。こうなると、まさかまた座り直すワケにもいかない。もう、臆病風に吹かれて逃げるしかない。いつものように。
「……ちょっと、色々と整理する時間貰える?」
トレーナーは何も言わなかったけど、頷いてくれているのはなんとなくわかった。……よっぽど勢いよく立っちゃったらしい。悪いことしたかな。 - 4全4レス(予定)25/02/10(月) 22:40:27
とりあえずこの場から離れよう。そう、足早に歩き出して、すぐに立ち止まる。……これだけは言っておかないと。それに、今の状態でもこれくらいのことなら、なんとか言えるはずだし。
「……アタシだって、そんなに器用じゃないから」
それだけ言って、公園から逃げ出した。アイツなら、これだけ言えばきっと充分分かってくれるはず。アタシの情けないところの塊みたいなそのチョコがどういうものかって。
アタシの本当の気持ちが、アンタと同じだってことも、きっと—— - 5おわり25/02/10(月) 22:42:16
ちなみに最初に書いたバレンタインの蘊蓄は割とうろ覚えで書いたので話半分に聞き流して忘れてください(たぶんプレステップ宗教学って本に書いてあると思うんだけど本を無くしちゃったから確認できん…)
前回書いたやつ
【トレウマ・SS】モルモット君の受難は続くよどこまでもend|あにまん掲示板やあやあ、おはようモルモット君。お目覚めの心地はどうかな?おいおい、何をギョッとしているんだ?まさか昨夜の事を忘れたとは言わないだろうな?あの情熱的な夜をね。それは流石の私でもショックだぞ。おやおや、…bbs.animanch.com - 6二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 22:50:46
ハヤヒデにもクリークにもバレバレな恋心可愛いね❤️
- 7二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 22:57:52
まぁ節分もちょっと早まってるしバレンタインが早まってもええでしょ
- 8二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 23:19:17
そういえばタイシンの私服ってフードついてない?
- 9二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 23:32:04
チケットの扱いェ…
- 10二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 23:37:07
どうやってもウマ娘Aにはならないと思われるが
- 11二次元好きの匿名さん25/02/10(月) 23:53:06
バレンタインにドライカレー(たぶん隠し味にチョコ入れてる)贈ってたころよりはかなり進歩というか勇気出せるようになってる
- 12二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 02:28:40
ええやん。素直になれない子が、それでも予防線を幾重にも張って遠回しに好意を伝えるシチュは実に尊い。
- 13二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 02:32:15
- 14二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 09:54:58
- 15二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 12:47:47
そんなチケットが底抜けのおバカみたいな…