- 1二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 22:31:52
- 2二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 22:33:55
前スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart16|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの16スレ目です。アグネスは目の前で次々と発…bbs.animanch.com1スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たら|あにまん掲示板アグネスが士官学校卒業ザフトアカデミー、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSを書く予定です。お付き合い頂ければ。bbs.animanch.com2スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart2|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。はたして、アグネスは、ルナマ…bbs.animanch.com - 3二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 22:35:48
3スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart3|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの2スレ目です。己を取り巻く不可解な状況に四…bbs.animanch.com4スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart4|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバとアグネスはその進撃…bbs.animanch.com5スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart5|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの4スレ目です。ミネルバの活躍は起こるはずだ…bbs.animanch.com - 4二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 22:38:03
6スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart6|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの6スレ目です。自分の心境の変化や激動する世…bbs.animanch.com※落としてしまった7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。出世の点数稼ぎの場として『戦…bbs.animanch.com再建てされた7スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart7(再立)|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの7スレ目です。※不注意から一度スレを落とし…bbs.animanch.com8スレ目です。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart8|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの8スレ目です。戦いに消耗したアグネスとミネ…bbs.animanch.com - 5二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 22:39:48
9スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart9|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの9スレ目です。C.E.73年- C.E.7…bbs.animanch.com10スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart10|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの10スレ目です。遂に開始される『ロゴスとの…bbs.animanch.com11スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart11|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。『対ロゴス戦』は本編とはや…bbs.animanch.com - 6二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 22:42:29
12スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart12|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの11スレ目です。対ロゴス戦争が変え行く世界…bbs.animanch.com13スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart13|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの13スレ目です。本編を上回るほどの規模とな…bbs.animanch.com14スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart14|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの14スレ目です。激しい戦いの後、戦女神と大…bbs.animanch.com15スレです。
もしもアグネスがルナマリアの代わりにミネルバに着任して居たらpart15|あにまん掲示板アグネスが士官学校(ザフトアカデミー)卒業後、親のコネでミネルバに着任し、ルナマリアが入れ替えに月軌道艦隊に着任したいたら…、という何番煎じかわからないSSの15スレ目です。アークエンジェル問題を何と…bbs.animanch.com - 7二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 23:14:46
立て乙
- 8二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 23:15:00
保守
- 9二次元好きの匿名さん25/02/11(火) 23:27:02
たておつです
20スレが見えてきたな - 10二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 00:07:04
立ておつです。
頑張れアグネス
…いや、むしろ休めアグネス! - 11二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 00:37:42
私への連絡と同時にシンは飛び乗っていたスペングラー級空母にテンペスト・ビームソードを突き立てる。甲板から艦底まで貫かれた空母は火を噴き沈みゆく。
おそらく千人以上の乗組員を閉じ込めたまま-。
孤軍奮闘していたシンの下に馳せ参じたショーンとデイルは即座に、保持するM68 キャットゥス500mm無反動砲を発射する。砲弾が飛んだ先では爆発が二つ。それに続き、複数回の誘爆も発生、フレーザ級2隻が轟沈したと知れる。
同時刻、私達の遥か上空ではローラシア級から降下ポッドが分離されようとしている。分離の一瞬前に再確認を込めて連絡を入れる。
アグネス「ハイネ先輩聞こえますか?回線を固定してください。これよりAWACSディンを水面近くまで降下させ、ソナーによる水中探索を開始します。アビスとアッシュ隊はAWACSディンと戦術リンクの構築を!」
ハイネ「了解!」
ハイネ先輩との通信を終えるとルナマリアとAWACSディンに作戦決行の合図を送信する。
AWACSディンはソナーと投光器を搭載している。この戦場を照らす光であり、私達の『耳目』だ。特に暗黒の海中で戦う潜水部隊にとって彼らは心強い存在と言える。この機体をルナマリアと二人で守り切らなければいけない。
カオスは下側に付き防備を固める。海中から発射せれるうるフォノンメーザー砲からAWACSディンを守り切るためだ。それに-。脅威はフォビドゥンヴォーテクスだけではない。漆黒の空間に輝く光は敵水上艦の良い的になる。
現に残存する北方艦隊水上艦は、インパルスに脅かされながらもミサイルを一斉発射している。無数の光の線が私達に向けて急接近する。
言うまでもなく、ヴァリアブルフェイズシフト装甲なしの機体にとっては一発一発が致命打になる。盾を持つ者は持たぬものを庇うのが役目、カオスの頭部と胸部のCIWSはフル回転させる。
機関砲を回しながら、自分の盾は海面に盾を構える。左手には対ビームシールド、巡航機動防盾は右手に持ち替え済み。もし弾が切れれば機体ごと盾になるしかない。 - 12二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 00:48:01
ルナマリア「ちょっと!多すぎるわよ」
ただ、それはもう少し先のことになりそうだわ。ルナマリアのグフはAWACSディンの上からドラウプニル4連装ビームガンを連射し、カオスと共にミサイルを撃ち続ける。保持したM68 キャットゥス500mm無反動砲は魚雷弾頭を詰めたうえで海面を睨む。
予想に反してスペングラー級空母が大人しい。連装ビーム砲も心配の種だったのだが…。
アグネス「(シンとショーンとデイルのお陰ね!)」
特にショーンとデイル。二人は攻撃目標を臨機応変に変更し、最初の攻撃直後にはテンペストで2隻のスペングラー級空母を両断していた。自機へのミサイル攻撃はドラウプニル4連装ビームガンで迎撃と、月の裏側で散々鍛えられた甲斐が有ったというものね。
インパルスは、高エネルギービームライフルでもう1隻の空母の艦前部を撃ち抜き、別の空母に飛び移るや片手で持ったテンペストを甲板に突き刺している。
ただ、ここまでは前座に過ぎない。シン達が水上艦を捌き、私達が水中索敵を試みるなか、ローラシア級から遂に降下ポッドは分離される。
潜水部隊を乗せたカプセルは大気を切り裂きながら落下していくが、アッシュとアビスは飛行できないから最後の瞬間まで気を抜くことは出来ない。
AWACSディン「ソノブイ投下高度です。投光器で探れる範囲にフォビドゥンヴォ―テクスは確認できません」
アグネス「了解。警戒を続けます。ソノブイ投下してください」
AWACSディン「了解」
海面近くで滞空するAWACSディンの胴体左側から、ソノブイが海中に垂らされる。これまで通り、カオスは機体を下からガード、ルナマリアはやや上空からM68 キャットゥス500mm無反動砲を眼下の敵に向ける。ちょうど昔の銛打ちみたいね。
海中に投下されたソノブイは自ら音波を発し、反響音から深淵に潜む者達の姿を露にさせていく。
アグネス「(潜水艦をまずは6隻確認。それとあの動きがやたらと早いのがフォビドゥンヴォ―テクスか)」 - 13二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 01:00:47
因みに水中索敵中も私達3機にミサイルは飛来している。カオスのCIWSはとうに空だ!
ルナマリアがドラウプニル4連装ビームガンで墜としている。他の武装を持ちながら使用可能なこの兵器、開発者にノーベル賞を差し上げたい気分だわ。
アグネス「(でも、アビスにフォノンメーザー砲を着けなかったのもそいつ等。だから-プラスマイナス、0かな)」
その頃、私達の頭上で降下ポッドは開放可能限界点に到達する。開かれたカプセルからはアッシュ隊3機とアビスが飛び出し、輪になって海面に飛び込んでいく。
AWACSディン「フォビドゥン、海面付近で急停止!降下機を狙っています」
ルナマリア「はッ!」
AWACSディンの知らせを受け、ルナマリア機はM68 キャットゥス500mm無反動砲の引き金を引く。ハイネ先輩達を水中で待ち構えていた影に向かって!
飛び出た魚雷弾頭は、水面を叩き、鼻面を上に向けていたであろう敵機を海の奥に追いやる。
AWACSディン「命中!」
ルナマリア「やった!」
AWACSディンパイロットの報告後に水柱が立つ。一応、当たったのか。手足の一つでも捥げていると良いけど。ただ、何より重要なのは、この間に我等が水中部隊は極北の海に飛び込みを成功させられたこと。
彼らが海面に沈み込む直前までAWACSディンからの情報は共有されている。アビスとは回線が固定されたままだ。
アグネス「(きっと素晴らしい戦果を叩き出してくれるわ!)」
そう思った瞬間にキラリとした閃光が此方に延びてくることを察知する。安堵で気を抜いてしまったのか?この私が。
アグネス「え…!」
ビームだ、敵の!
反射的に右手で持つ巡航機動防盾を下から斜め上にスライドさせ、AWACSディンの守備に成功する。本当に間一髪だった。沈没寸前のスペングラー級空母が最後の力で連装ビーム砲を撃ったのだ。必死なのは私達だけではない。 - 14二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 01:07:02
ルナマリア「アグネス!」
アグネス「ッ!」
胸を撫で下ろそうと瞬間に左のデバイスから響くルナマリアの声、危機は続いていた!
緑色の光がカオスの右脇腹を切り裂き始めている。水中から伸びる禍々しい光。それを見た時から時間が一気にスローモーションになる。
フォノンメーザー砲、音波を用いた水中射撃兵器。光がカオスを切っているのではない。この光は発射角を確認のためのレーザー光線、同軸から出ている音波が刃の正体だ。
切裂かれつつあるカオスの右側胸部、フェイズシフト装甲にもこの兵器が有効というのは本当だったのか。ありがたい、潜水部隊をターゲットにせずにこちらを狙ってくれて!
アグネス「(右手の巡航機動防盾を戻しても無意味。間に合わないし、反射しているスペングラー級の連装ビームがまだ消え切っていない。カオス左腕は故障して固定状態、動くのはマニピュレーターのみ。なら!)」
スラスターの推力のバランスを敢えて崩し、そのまま機体を左側に90度倒す。この回転による角度変化を活かして、巡航機動防盾上のビームは反射させ切る。一石二鳥とはよく言ったものだが…。
本命はカオスの撃墜回避。敵の刃を滑らせて傷を少しでも浅くしないといけない。姿勢の急変化により、右胸部をコックピット寸前まで切裂いていたフォノンメーザーの刃は空転し、今度はコックピット前部切り裂く。
私の目の前でコックピットの前面隔壁が切り裂かれ、刹那にも満たぬ間、緑色の光が網膜を焼く。カオスの胸部を舐めたフォノンメーザーは最後に左手の対ビームシールドを切り裂いて、虚空に消えていく。連続して攻撃を受け止め続けていたグフの予備シールドは相当傷んでいた。
永遠にも感じられた刹那の後、私の眼前には暗くなった前面コックピットモニターと穿たれた横一文字の亀裂。そこから見える海は漆黒で氷結した空気が肌を凍り付かせる。
『0.1秒刻みの戦い』などと宣いながら、いざ自分に攻撃が直撃するとこのざまか。
ルナマリア「アグ…。はッ!」
ルナマリアはカオスの回転中もM68 キャットゥス500mm無反動砲の次弾装填の手を止め無かった。そして、海中から届くレーザーが消え去る前に発射元に魚雷弾頭を撃ち込む。 - 15二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 01:15:13
アグネス「(それが『見える』と言うことは網膜が無事と言うこと。パイロットスーツの有用性が分かるわね。ヘルメットの透明部が私の目を守ってくれた。一番危ない瞬間は目を瞑ったのかも知れないけれど)」
ルナマリア「アグネス、無事!!?」
崩れ落ちた水柱の飛沫が私の身体を濡らす。その中で響く彼女の叫び声、生きているみたいね。私は。そう改めて確信する。
アグネス「風通しが良くなったわ。カオスも寿命かな」
そう伝えながら、機体の姿勢を元に戻し、巡航機動防盾を再度構える。再び海中からの攻撃に備えなければいけない。もう右モニターと左のデバイスが頼りだ。前面のモニターはうんともすんとも言わない。空いた亀裂から前が見えるのは救いか。
AWACSディン「お身体は!?」
身体はどうか…。うーむ。どうなっている。目線を下に向けると血まみれだ。うん。
アグネス「身体は平気。嘘、シートベルトは切断。パイロットスーツの胸上部が裂かれて、また乳房に傷が増えたわ!それだけ。『全機、アグネス・ギーベンラートは生存。カオスは中破、戦闘行動は続行する』。今の魚雷弾頭は当たった?」
AWACSディン「命中…。しかし、まだ撃破は出来ていません。お気を確かに!」
アグネス「ありがとう」
ああ!後から痛みが来たわ。
ドクドク血が出ている。男子諸君にとってはロマンの『服ビリ』も現実ではこんなものだわ。とは言え、パイロットスーツの有効性を実体験できた。あの膨らんだアーマー部、結構硬かったのね。
アグネス「(乳房と言ったけれど、よく見るともうちょっと上。両鎖骨のやや下が横一線に切れたというのが正しい。あの音波の切っ先が軽くとは言え掠めたことを思えば…。本当に良く生きているわね、私)」
まだ、死すべき定めではないと言うことなのかしら。何てね。ただの戦場の運だ。 - 16二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 08:09:01
☆
- 17二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 11:05:13
このレスは削除されています
- 18二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 16:04:46
保志
- 19二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 16:06:35
もうレクイエムの脅威も去ったんだしプラント本国に送還して治療受けたほうが⋯
え?ロゴス討伐がまだ残ってるからダメ?そっかぁ⋯⋯ - 20二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 16:08:05
今後邪魔になるオーブも焼かないといけない
- 21二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 22:04:03
その前に、可及的速やかに医療班と合流しなければ、出血多量でタヒねる。ミネルバー!早く降下して来てー!!
- 22二次元好きの匿名さん25/02/12(水) 22:21:32
コクピット周りに完全に穴空いた状態で飛んでるカオスくんがいよいよヤバい
メーデー脳的に考えると亀裂拡大からの墜落まっしぐらコースや⋯
いくらVPS装甲で普通の航空機の比じゃない強度があるったって限度があるぞ - 23二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 00:26:24
しかし―。
アグネス「(『また乳房に傷が増えた』、最悪。男性に相手に何てことを…。吐き出したい心理だったのだとしても、言い方というものがある。恥の上塗りだわ)」
そんなことを気にしている場合ではないのだが、やはり気になってしまう。恥ずかしい。通信相手がルナマリアとごちゃ混ぜになっていた。
でも、その恥ずかしさで少しだけ痛みを誤魔化せる。音波の鋭い刃で鎖骨の下をスパッと切られた。ちゃんと息が出来ているから呼吸器系は無傷なはず。姿勢を維持できているから、重要な筋肉が完全に断裂したわけでも無いだろう。
だが、相応に出血の量が多い。ここまで負傷を繰り返してきたのだから累積した分もある。ショック死を警戒するべき。
でも、嬉しいことに胸元から脳幹に向けてズキズキした痛みが止めどなく流れ込んでくる。良し!痛いうちは生きているということ。まだ、モビルスーツ隊、全員で生きて帰れる。
AWACSディンパイロット「申し訳ありません!自分のミスです。見逃しました!」
左のデバイス画面にはAWACSディンパイロットの顔が映る。彼は半泣きで謝り続けている。まあ、ソナーで見落としたともいえるのだから仕方ない。とは言え、水中探知は難しい技術だ。責めても仕方ない。
アグネス「いえ。私が気を抜きました。平気なので任務に集中してください。どうか返事を」
AWACSディン「了解」
ルナマリア「アグネス、しっかり…」
アグネス「ええ」
そもそも注意不足だったのは私なのだ。
あれだけフォビドゥンヴォ―テクスに気をつけろ、フォノンメーザー砲に気をつけろと他人には言っておきながら-。全く何て言うざまなのだろう。
潜水部隊の降下を確認して気が抜けたとしか思えない。こんな失態二度としない。そう心に誓う。 - 24二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 00:34:59
おまけに-。
デバイスから目を話し、コックピットの亀裂からノルウェー海とバレンツ海を覗く。亀裂が入ったコックピットの向こう側、カオスの装甲はフェイズシフトダウンにより灰色になっている。
元から減っていたエネルギー残量、さっきの一撃が止めだった。もう一撃も食らうわけにはいかない。そもそも、このままでは、撤退時のエネルギーですら覚束ない。損傷の拡大を抑えるために速度の調整に全集中力を注ぐしかない。
シン「うぉぉォォォォォ!」
怪我の功名とでもいうべきか、私の負傷と生存が皆の士気に喝を入れたようだ。インパルスは続けざまにスペングラー級を切り刻む。今、真っ二つにしたのが無事な空母の最後の1隻だった。ショーンとデイルは、遮二無二フレーザ級を斬っている。
小型駆逐艦隊はさっき見た時、確かは12隻浮いていた。それが今や6隻のみだわ。
女性兵の死傷で味方の報復感情に火が付くのは本来、望ましいことではない。ただ、今の状況はどうかな。
まあ、良いだろう。私は生きているし、ここが正念場だ!
コックピット正面に空いた穴から見える暗黒の海を視認する。右側コックピットモニターも確認、ちょうど6本の水柱が建つ。AWACSディンの情報リンクで最初に確認した潜水艦6隻がまとめて轟沈したのだ。アッシュ隊の内の誰かが実行したのだろう。
AWACSディンの上を飛ぶルナマリアから通信が入る。
ルナマリア「アグネス、上下を入れ替えよう。私が盾でAWACSディンを下から守るわ。M68 キャットゥス500mm無反動砲を渡す。それを持ってあんたは上を飛んで!」
アグネス「了解。悪いわね」
ルナマリアから武器を受け取り、配置転換を済ませる。私とカオスに戦闘不能判定が降りてしかるべきだと、お互い分かっている。でも、この場は一人でも欠ければ皆が死ぬ局面。気合を入れ直すしかない。 - 25二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 00:56:54
アグネス「(水中は?フォビドゥンヴォ―テクスはどうなっている?!)」
私のデバイスはアビスのコックピットモニターとリンクさせてある。身体の悲鳴は無視してデバイスを操作して戦況を確認。向こう側ではアビスとフォビドゥンヴォーテクスの死闘が繰り広げられている。
アグネス「(視認したわ。フォビドゥンヴォ―テクスは強襲形態、水生生物を思わせる背部バックパックを頭部に覆い被せて戦闘中。両足は欠損、ルナマリアの放った2発の魚雷弾頭によるものと推測)」
AWACSディンの射撃誘導は彼らも読み辛かっらしい。私達も接近を許して一撃貰っているのだからお相子か。油断も隙もあったものではない。
敵は確実にダメージを負っている。しかし、これは水面下の戦い。両足を捥いだからと言って致命打とはならない。追加攻撃でハイネ先輩を支援しなくては!
AWACSディン「ソナーに感あり。数3、データ共有」
そう思った矢先に御あつらえ向きの標的が見つかる。フォビドゥンヴォ―テクスに味方を近づかせてはならない。何としても孤立させなくては。
アグネス「確認しました。M68 キャットゥス500mm無反動砲発射します。ショーン、デイル、フレーザ級はアッシュに任せて。潜水艦を!」
ショーン、デイル「了解!」
ソナーで新たに発見できていた新手の潜水艦3隻、うち一隻に向け引き金を引く。ショーンとデイルも同じく。3門のM68 キャットゥス500mm無反動砲から発射された魚雷弾頭は、空を切り、海面を叩き、水中を潜って進む。
ややあって、3つの水柱が立ち込める。撃沈成功。潜水艦を沈めるのは何気に初めてか。
ちょうどその時、10隻の水上艦が纏めて轟沈する。
フレーザ級小型駆逐艦8隻と大破し漂流中だったスペングラー級空母2隻、彼らは海面下からの魚雷を受け、急激な水圧の変化に抗しきれず竜骨をへし折られ、海に引き摺り込まれた。ミネルバのアッシュ隊の戦果だ。
そのおかげで、あれほど慌ただしかった水面が突然静まり返る。恐ろしいほどの沈黙だ。仮初の静寂、ナルヴィクとムルマンスクの部隊も迫ってきているはず。淡々と急げ! - 26二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 01:08:59
デバイス画面を操作して、再びアビスのモニター画面とリンクさせる。同時に下を飛ぶルナマリア機から次の弾頭を受け取り装填する
画面越し、ハイネ先輩は機体を潜水艇型モビルアーマー形態に変形し、フォビドゥンヴォ―テクスに接近を図っている。敵も最早逃げずに雌雄を決する構えだ。というより、アビスを早めに撃破しなければアッシュ隊に囲まれてしまうから、選択の余地がないのだろう。
AWACSディン「フォビドゥンヴォ―テクス、捉えました。反映させます」
アグネス「確認しました。M68 キャットゥス500mm無反動砲発射します。ショーン、デイル同時に!」
ショーン、デイル「了解!」
私達は上空からハイネ先輩をアシストする。同時に投下された3つの魚雷弾頭は海の上層からフォビドゥンヴォ―テクスに向けて疾走を開始する。迎え撃つフォビドゥンヴォ―テクスはバックパック両側に装備されている2つの可動式のシールドを上に構える。
この2つのシールドこそ、フォビドゥン系モビルスーツの核心部。エネルギー偏向装甲『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』だ。レクイエムの中継コロニーにも利用されたビーム歪曲技術をこの機体は耐水圧技術として利用、力場で偏向装甲を覆っている。
そして、フォビドゥンヴォ―テクスはトランスフェイズシフト装甲であるが-この部分はフェイズシフト装甲部だ。
そのため、私達が放った3発の魚雷は敵機に命中こそしたものの、成果としては機体を強振させ、姿勢を崩させるに留まる。残念ながら、彼も(彼女?)も水面上からの攻撃に注意を払っていた。ルナマリアに2度も食らっているのだから当然か。
しかし、それで十分だった。
私達の攻撃で出来た隙を衝いてアビスは一度、やや深めの進度に機体を沈め、直後に急速上昇を開始する。敵機の盾がまだ2枚とも頭上に掲げられている間に、両肩部シールドから、自動追尾機能を有するMMI-TT101Mk9高速誘導魚雷を連続回転射出する。
フォビドゥンヴォ―テクスも崩れた姿勢を必至に立て直そうと努め、アビスにスーパーキャビテーティング魚雷キャニスターポッドを向ける。開かれたポッドからは12本の魚雷が疾走を開始する。各魚雷弾頭は気泡で覆われ速度を増しているのだ。おまけに鼻面からはフォノンメーザー砲も発射される。 - 27二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 01:18:26
無論、それは想定済みの事態だ。敵の『フルバースト』を前にしてもアビスは急速上昇を止めない。
ルナマリア「回避もしない?!」
アグネス「ロールはしているわ!それも織り込み済みよ!」
『艦首』は上の敵方向に向けたまま前進、縦方向のみは機体を回転させ、フォノンメーザーは躱す。魚雷群はヴァリアブルフェイズシフト装甲を武器に命中弾を食らいながら、物ともせず突き進む。
その直後、アビスから発射された魚雷がフォビドゥンヴォ―テクスのテイルエクステンションを捉える。海洋生物状のバックパック後部から伸びる尾のような部位、あの機体はこの『尻尾』に錨、超長波アンテナ、曳航ソナー・アレイを内蔵させたうえ、回転させてスクリューにも用いている。
海中でそんなものを振り回していたら、自動追尾型魚雷はそこに引き寄せられるに決まっている。
私達3機の目の前では、巨大な水柱が幾本も聳え立ち、重力に耐え切れなくなったものから崩れ落ちていく。舞い上がった大量の海水は、周辺一帯に飛び散り、外気温で凍り付きながら海面に舞い落ちていく。
最悪なことに、コックピットの亀裂から内部にも侵入し、私の傷ついた体にも吹き付ける。空いた傷口に電撃のような痛みが走るが直ぐになれる。それよりも水滴や氷を拭って右モニターと左のデバイスを温存することに必死だ。
破れて剥き出しになっている身体の部位が胴体で良かった。仮に手先が剥き出しになっていたら、今頃、凍傷は免れなかっただろう。
左のデバイスを拭う傍からAWACSディンパイロットの叫び声が響く。
AWACSディン「水中が荒れてソナーが使用不能!」
アグネス「了解。一旦、ソノブイを上げて下さい。それと、最後に確認できた潜水艦の位置座標の送信を。ショーンとデイルにも共有をしてください。二人ともお願いするわ」
AWACSディン、ショーン、デイル「了解」
アビスのリンクにも乱れが生じている。
仕方ない。私は私で為すべきことを成す。入れ替わりに盾役になってくれているルナマリアから次の弾頭を受け取り、手早く詰めるやM68 キャットゥス500mm無反動砲を発射する。目標はAWACSディンがソナー攪乱前に感知した潜水艦群、私とほぼ同時にショーンとデイルも無反動砲を発射している。 - 28二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 01:28:13
ドボン!という音が暗闇に3つ木霊し、ややあってまた3本の水柱が立ち上がる。AWACSディンと一緒に移動しながら、投光器で照らしてもらって戦果確認。良し!敵潜水艦3隻、撃沈成功。
突如、コックピット内にピーという警報音が響く。いよいよ帰還のためのエネルギーも切れたか。
アグネス「シン、AWACSディンの盾役をルナマリアと代わって!ルナマリア、担いで!」
シン「分かった!」、ルナマリア「ちょっと、早く言ってよ!」
アグネス「ごめん。計器やモニターがいろいろ壊れていて…」
ガクッと姿勢を崩したカオスをルナマリアのグフが受け止める。思えばこの白いグフ、元々はレイの機体だったわね…。
そのせいか、なんだか病気療養中の彼の気配を身近に感じる。身近も何も見送ってまだ5日も経っていないのだが…。
アグネス「(病気自体の苦痛に加え、徐々に弱って行く自分の体…。どれ程辛かっただろう。私は怪我するたびに勲章を貰えるけど、彼は自分の病気を隠すしか選択肢が無かった。あまつさえそれを運命の烙印のように思い込んでいた…)」
私と彼はいろいろな意味で境遇が異なる。
でも、自分の身体が健康だったころは、彼の『弱さ』を少し軽く考えていたかもしれない…。
アグネス「(罰が当たったのかな、私)」
シン「うぉぉォォォォォ!」
私の苦い告解を吹き飛ばすようにフォースインパルスはAWACSディンと海面の間に割り込む。元気(?)があって大変よろしい。海中からの攻撃がまだあるかは不明だけれど用心に越したことはない。
アグネス「シン、負傷は?」
シン「アグネスより軽い!」
そう。軽傷なら何より。 - 29二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 01:52:55
私達がフォーメーションを再構築した直後に、アビスとのリンクが回復する。
デバイス越しすでに勝負は着いていた。アビスの眼前には力なく漂う敵機の影がその答えだ。フォビドゥンヴォ―テクスはコックピットを背後からMX-RQB516 ビームランスの実体剣ピッケル部で貫かれている。あの機体のバックパックが海洋生物のような形をしていることも相まって、こちらからは銛に仕留められた鮫か鯨類のようにも見える。
先程の魚雷攻撃の応酬は、両者の運命の明暗を分けた。アビスの機体は無傷、フォビドゥンヴォ―テクスはテイルエクステンションを喪失。これはスクリューという『足』と超長波アンテナ、曳航ソナーという『耳目』を一度に奪われたことを意味する。
その後の展開は察するに-。
アビスは敵に態勢を立て直す暇を与えず、後方に回り込んで機体をモビルスーツ形態に変形し、間髪入れずビームランス実体剣ピッケル部を敵機コックピット部に叩き込んだのだろう。
フォビドゥンヴォ―テクスは強襲形態の時、バックパックを頭に被るから胴体部は剥き出しになっている。強化チタニウム製装甲はある程度、水圧に耐えられるだろうが、実体剣の直撃を持ち堪えるには足らなかった。
よく目を凝らすと、アビスの傍に緑の影が浮かんでくる。アッシュが1機-。
アグネス「(念には念を、ね。派手な攻防戦で敵味方が目を奪われている間、彼は忍び寄っていた。万一、ハイネ先輩が仕留めそこなった時、あるいはアビスが決定的不利になった場合に備えて)」
そこまで組み上げられていたのだから、連合機に勝ち目はなかっただろう。文字通りの袋叩きだ。この作戦の肝はフォビドゥンヴォ―テクスを斃せるか否か。最初から皆で協力して追い込みをかけた甲斐があったというもの。
ハイネ「かはっ…。フォビドゥンヴォ―テクス撃破!」
アグネス「了解。ミネルバに連絡します」
オープン回線から、痛みを堪えたハイネ先輩の声が届く。この報告がオープン回線で在った意味は明白だ。地球連合軍に対しては戦闘の結果を衝きつける。アークエンジェルに対しては出港準備完了の号令となる。 - 30二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 02:07:11
アグネス「ミネルバブリッジ応答せよ。地球連合ユーラシア連合軍北方艦隊空母打撃群の航空部隊は殲滅。水上艦は全隻撃沈。水中部隊はフォビドゥンヴォ―テクスを撃破、鹵獲。攻撃型潜水艦12隻撃沈。ただ、当海域にまだ敵潜水艦が15隻前後は存在すると思われます。アークエンジェルに投降勧告を行える状況にはありません」
この言葉に嘘はない。実際、ザフト側はボロボロだ。ハイネ先輩もあれだけの攻撃にノーガード戦法を取った以上、衝撃でお体を痛めているはず。流石に内臓や骨までは無事だと思いたいが…。
タリア「了解。状況はこちらも概ね把握しています。アーサー、降下シークエンスを開始。降下部隊は現海域で対潜戦闘を継続せよ」
アグネス「了解。『全機、対潜水艦戦継続とのこと』」
一同「了解!」
アークエンジェルも此方の意図に機敏に反応する。白亜の巨艦は遂に前進を再開、スカンジナビア王国接続水域を跨ぐ。彼らは接続水域から抜けるや艦を前傾させ、二つの艦首から水中に分け入っていく。
アグネス「(なるほど、潜水機能を後付けしていたのね。ミネルバと同じか。鬼に金棒、お互いに干戈を交えたくないものね)」
でも、今は艦首片側が大破している。フォビドゥンヴォ―テクス撃破まで先に進めなかった理由が良く分かる。
潜水して行くアークエンジェルの艦尾ミサイル発射管から、危険を承知で信号弾が1発発射され夜空を照らす。私達へのメッセージ、『感謝します』『恩に着ます』と言ったところか。
もう一度、彼らにコックピットの中で敬礼を送る。号令は掛けていないが、皆もそうしていることだろう。
アークエンジェルを見送った後も、私達の戦闘は続く。フォースインパルスと編隊を組み直したAWACSディンは再度、ソノブイを海中投入し、探知した情報を全機と共有する。アッシュ2機は水面に顔を出すことでデータを受け取っている。
北方艦隊を叩く機会、逃すべき理由はない。
データを受け取ったショーンとデイルのM68 キャットゥス500mm無反動砲が、早速唸り声をあげる。落水から、数秒後に大きな水柱が海中からそそり立つ。圧壊した艦内に取り残される者達の押し殺した叫び声を聞いた気分になる。 - 31二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 02:25:43
ハイネ先輩はフォビドゥンヴォ―テクスのコックピットからビームランスのピッケルを引き抜き、鹵獲した機体をアッシュ1機に任せる。
機体を引き渡した後はアビスを潜水艇型に変形させ、AWACSディンから指示された各目標に高速接近、MMI-TT101Mk9高速誘導魚雷を4連射する。
たちまち4本の水柱が吹き上がり、4隻の艦が4つの棺桶に用途変更したことを私達に知らせてくれる。棺桶一つの定員は65~150人程度だろうか。その死が速やかであることを祈らずにはいられない。アッシュの攻撃成功と推測される水柱も別に4本立つ。
オーロラの空の下に吹き上がっては崩れ落ちる大噴水、天国に旅立つ無数の命。現実離れした光景をどこか他人事のように見つめる。
実際、私が出来ることはもうない。
カオスはフェイズシフトダウンを起こした末に飛行エネルギーすら干上がり、グフ・ルナマリア機に持ち上げてもらって飛行中だ。コックピットに開けられた穴からは寒風が吹き込み続けている。切り裂かれたパイロットスーツの避け目から体温が奪われ続けている。
アグネス「(まったく、人生初の北極体験にしては十分すぎるわ。凍死の恐怖まで味わえるとは!軍に入った甲斐が有ったと云うもの…。娘が産まれたら絶対、戦闘兵種には就かせないわ!)」
ただ、空元気もそこまでだ。操縦席の前の亀裂からは余計なものが目に飛び込んで来る。凍て付く黒い海、そして波間を漂う無数の連合将兵達。
艦が沈没するまでが余りにも早かったせいで救命ボートに乗れている者など殆んどいない。神様に愛されボートに乗れた将兵も軒並み低体温症になり、寒天の下震えている。
それ以外の者達は、直に極寒の海に揉まれ続けている。救命胴衣の着用率は半々といったところか。ムルマンスクやナルヴィクの迎えが間に合うか疑わしい。この気温では数分と持たない。今この瞬間も沈みゆく艦から飛び込めた勇者が一人また一人と天門を潜っている。
彼らの存在は間違いなく現実だ。『戦果』というヴェールに包むべきではない。 - 32二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 10:33:23
自身の負傷も厭わず損傷したままの愛機で出撃して、味方機の盾になってさらなる負傷をしつつも勝利に導く
プロパガンダにするのに申し分ない活躍すぎる⋯
本人はそんなものの為に戦ってるわけじゃないってなってブチギレるか虚しくなるかの2択だろうけど - 33二次元好きの匿名さん25/02/13(木) 17:16:15
目が虚無ってそう。戦場のストレスに曝され続けて解離状態に陥った兵士の、「2000ヤードの凝視」というやつ。
- 34二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 00:16:18
氷よりも冷たい海に投げ出された無数の人々-それを目にすると、豪華客船沈没にまつわるエピソードを想起せずにはいられない。
音楽隊は傾く甲板の上でも最後まで曲を奏で、聖職者は寄る辺なき人々に向き合い最期の祈りを捧げ、船長は船と運命を共にする。
巨大な事故や醜い事件に遭遇した時ほど、人間はその真価を試されるもの。
SOSを受けた船は二次遭難のリスクを厭わず現場に急行し、パン屋は人助けの後ウィスキーを飲む。そう相場は決まっているわ!
アグネス「(それを是とするなら、この半壊したコックピットの中、私も自らの務めを果たすべき。カオスは飛べないにしろ、まだ姿勢を維持し腕を動かす程度の電力は残っている)」
決意を固め、カオスを担いでくれているルナマリアにデバイスで呼びかける。
アグネス「ルナマリア。私達は『戦闘能力を喪失し、宇宙や海中に取り残された敵兵は、既に敵ではなく、助けを必要とする遭難者である』そう習ったように思う。今日もまた、原則通りに振舞いたい。同意してくれる?」
一応、質問の形を取る。返事は聞く間でもないのだけど、形の上でね。
ルナマリア「勿論!でも、どうしよう?カオスの右手は動く?」
アグネス「何とか。左手もマニピュレーターは動くわ。グラディス提督に上申する」
デバイスでオーロラの空を確認すると赤く燃える流星が北極海上空に突入しようとしている。届くだろうか。一刻を争う。
アグネス「グラディス提督!撃沈した艦艇から漂流する地球連合将兵を多数確認中。救助活動の許可を求めます。放置すれば、彼らの過半数は味方の救援の前に命を落とします。当海域に残存する潜水艦は5隻前後に減少、反撃を受けるリスクは相当低減しています」
このメッセージは敢えてオープンチャンネルで申し伝える。
ちょうど水柱が新たに3本上がったところだ。ハイネ先輩から残存する潜水艦が2隻まで減り、彼らも逃走した可能性が高いと緊急通信も入った。動くなら今しかない。 - 35二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 00:26:37
タリア「許可します!対潜哨戒は継続せよ。
『国際救難チャンネルの放送を開始します。こちらはザフト軍月軌道艦隊旗艦ミネルバ。
これよりマーゲロイ島北方沖で遭難中の地球連合軍将兵の救助を開始します。各勢力は考慮されたし。30分の現地停戦を提案します。
遭難者救助を目的とした艦艇・航空機は非武装である限り、敵対国・敵対勢力の運用下でも本艦への接近を許容します。また、武装を外す猶予が無かった艦艇・航空機も事前に申告すれば、攻撃の対象とはしません。
繰り返す、これよりザフト軍ミネルバ及び当艦モビルスーツ隊はスカンジナビア王国マーゲロイ島北方沖で遭難中の地球連合軍将兵の救助を開始する。各国・各勢力軍・政府当局は配慮されたし。30分の現地休戦を提案する』」
大気圏降下の鉄火場でも律義に返答して下さるとは、ありがたいわ。グラディス提督には1000000000000アグネスポイントを進呈しよう。
ミネルバ降下部隊一同「了解!」
ショーンのグフがM68 キャットゥス500mm無反動砲から信号弾を撃ち上げる。スカンジナビア王国に対してのサインとしては、これだけでも十分だろう。地球連合軍の反応はまだ油断ならないが…。どの道、もう、アークエンジェルは逃してしまったのだ。
まともな指揮官なら継戦は愚と理解できるはず。
私とルナマリアは装備と姿勢を調整に掛かる。救助のため、まず、重さを少しでも減らす。カオスは巡航機動防盾を、グフ・ルナマリア機はテンペスト・ビームソードをそれぞれ海中に投棄する。
その上でルナマリア機はカオスを胴に手を回す形で抱きかかえて固定する。カオスはグフのトゲ付き大型シールドを受け取り、トゲが付いた方を下に向け両手で持つ。固定された左腕と右腕で捧げ持つようにして、盾を大きなボートのように見立てる。
無論、いざという時のためルナマリアのドラウプニル4連装ビームガンの安全装置は解除されたままだ。戦闘が再開された場合、最悪、カオスは捨て、ルナマリア機に乗せてもらう。
そうはならず、救助に専念したいところだけれど。この数分が勝負だ!
アグネス「準備良し。要救助者が最も多い地点までお願い」
ルナマリア「とすると、スペングラー級複数隻が轟沈した辺りね」 - 36二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 00:33:38
ルナマリアはグフを水面すれすれで飛行させ、最も効率よく人命を救える地点を探す。彼女が守る人命には勿論、私も含まれている。破損したコックピットを労わるように外側からホールドする巨人の腕が頼もしい。そのおかげで空中分解の恐怖に怯えなくて済む。
アグネス「(本来、私とカオスをミネルバに降ろしてルナマリアが救助活動をするべき。でも、ミネルバはまだ降下中で、1秒ごとに凍死者が出かねない状況。今の正解はこれで間違いない。私ももう少し頑張るわ)」
やがて、目標地点に到達、約400人の将兵が半死半生となりながら叫び声をあげ、海面を叩いている。流石にこの人数を一度にたすけることは不可能だ。
コックピットの備品ライトを取り出すと、カオスに生じた亀裂から海面に光で指示を出す。『盾を下ろしたい場所の指定』、『重傷者、力尽きそうな者から順番に救出したい旨』、『必ず全員助けるから諦めないこと』この3点を遭難者の群れに伝える。すると、彼らからも灯で返事が届く。
連合軍士官で体力のある者がリーダーシップを執り、海面での応対をしてくれるようだわ。
地球連合軍士官「負傷者と衰弱者、女性兵が先だ!順番を乱した者は射殺する!」
彼はそう叫んで実際に1発、空に発砲して見せる。驚くべきことにこの人自身は救命胴衣を身に着けていない。人に譲ったのだろう。判断が分かれる振る舞いだろうけれど、頼りになるわ。
アグネス「対ビームシールドを海面に降ろします。最大乗れて40人が限界です。持ちあがた際、落ちないように端の人は注意を!必ず助けは来ます!冷静さと勇気を!」
ライトで信号を発しつつ、声でも叫んで知らせる。
地球連合軍士官「ありがとう!ここに頼む!」
アグネス、ルナマリア「分かりました!」
氷点下の海で交通整理をしてくれている彼の下に、カオスは両腕ごとグフの対ビームシールドを着水させる。亀裂が走るコックピットの傍まで水面が迫り、波間に浮かぶ生者と死者の眼差しと私の眼差しがぶつかる。
残念ながら、間に合わなかった人も大勢浮かんでいる - 37二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 00:41:36
それを悼むのは後だ。生きるものの義務をこの場の皆で必死にこなす。
さしずめ急ごしらえの救命ボートとなったグフの対ビームシールド、先ずは連合軍女性軍人15名がロープを持って這いあがる。味方を見捨てたわけじゃない。弱った者を引き上げる人が必要なのだ。『女』をチョイスしたのは現場指揮官の騎士道精神によるものと思うけれど…。まあ、文句が出ない選択というのも大事だ。
彼女らが投げ込んだロープに弱った者は縋りつく。縋りつく力さえなかった者は…、後回しにするしかない。
地球連合士官「皆、手伝え!弱った者を押せ。上の者は引っ張り上げろ!一、二、三、はい!」
地球連合軍側の士官の尽力もあって、思っていた以上の素早さで救助が進む。30秒しない内に『即席救助ボート』は指定された40人で埋まっている。
見たところ女性兵と年少兵が割合としては多い。もう少し…、いや、それでも2400㎏前後はある。1回で助けられる限度だろう。
アグネス「必ず全員助けます。一度上がります、ご辛抱を!」
地球連合軍士官「頼む!感謝を!」
アグネス「こちらも!ルナマリア、お願い」
ルナマリア「OK、持ち上げるわよ」
カオスを抱えるグフのスラスターの推力が増していく。私は半壊・電力切れ0.1前のカオスを必至に操作して盾を揺らさないよう全力を尽くす。悪戦苦闘しながら、水面を離れ、高度を安定させる私達、その背中の上から明かりが暗闇を切り裂く!
我等がミネルバのご到着だわ!驚くべきこと、明かりを目にした敵兵からも歓声が上がっている。もう、こういうのは理屈ではない。
グフ・ルナマリア機は低空飛行を始めたミネルバの片甲板に向けて上昇を継続、メイリンから具体的な着艦指示が届く。同じタイミングで上昇してきた味方機が3機、ショーンとデイルのグフは掌(マニピュレーター)で、インパルスは私達と同じく盾を使って救助者をミネルバ甲板に運んできたわ。 - 38二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 00:55:47
カオスは、ルナマリア機に抱かれたまま右甲板に移動する。到着後は、彼女に膝からゆっくり着艦させてもらう。甲板上には保安要員と医療班、搔き集められた手隙要員たちが集結している。
カオスが正座座りみたいになったところで、私は対ビームシールドごと遭難者40名を甲板に降ろし後は彼らに任せる。
左のデバイス越しに少し焦ったようなルナマリアの声が響く。
ルナマリア「あんたも下りるのよ!」
アグネス「いえ…。そうしたいのは、やまやまなんだけどね。昇降機無しだと怪我で降りられなくて…」
ルナマリア「そう言えば…。待ってね」
正座座りになっているカオスの半壊したコックピットの前にグフの掌が広がる。まあ、これも『昇降機』かな。ハッチを空けて…。
アグネス「ハッチが壊れて開かないわ」
ルナマリア「開けるわ。待っててね!」
最後は力業、白いグフのハンドパワー(?)でカオスのコックピットは強引に開かれる。デバイスを外してメイリンから貰ったバックに詰めて、よっと?!
身体が強張ってまともに動かない!動かないけど、頑張るしかない。
前進の震えが止まらない中、必死によろよろ操縦席を這い出し、何とか彼女が差し出してくれた掌に身を預ける。
看護兵「ゆっくり、ゆっくり降ろして!アグネスさん、助かりますよ。頑張りましたね!」
アグネス「はい。うん?さっきまで、それ、私が口にして居たような…」
看護兵「戦地ではよくあることです!」
それもそうか。
涙ぐみながら私を抱きかかえる看護兵の体温を何時もよりもずっとありがたく思う。私が彼女達の担架に担がれる間に、甲板からグゥルに乗ったザク4機が一度に海面に飛び立つ。
ルナマリアとショーンとデイルも再出発だわ。やはり、シンは負傷したみたい。
アグネス「(ルナマリア、残業頑張って!管理職(FAITH)に残業はないけれどね)」 - 39二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 01:05:01
対潜哨戒はAWACSディンとハイネ先輩達潜水部隊が継続してくれている。ありがたいけれど、グーンにはあったマニピュレーターをアッシュではオミットした設計局の無能さには呆れるばかりだわ。そのせいでマニピュレーターを使った(救助を含む)作業が出来ない。
クローはクローで胴体にマウントさせるなり方法はあったはず。設計者はどんな顔をしているんだろう?
自身は担架に担がれながら、空の向こうの者に悪態を吐く。そして側の人達にまた目線を遣る。
ミネルバ両甲板は新たな戦場となっている。誰かを助けるための戦場だ。殺すためではない。救助された連合軍女性将兵はミネルバ医療班の手伝いを自主的に始めている。
天空では極光の下、幾筋もの信号弾が撃ちあがり、夜空を眩く輝かせている。東から撃ち上げられた休戦信号弾はユーラシア連合軍、西から上げられた者は大西洋連合軍、南のマーゲロイ島からはスカンジナビア王国軍の先発救難ヘリコプター隊6機が飛来し、海上を照らしている。
美しい光景だ。なぜ、干戈を交える前にこれが出来なかったのか。
それとも干戈を交えたからこそできたと己に言い聞かせるべきなのか。分からない…。私は後世の歴史家じゃないから。
アグネス「(欲張るものじゃない。これだけでも『戦場の奇跡』と呼ぶに足る。その先のことはその任の者に託すしかない)」
甲板エレベーターの上に私達、敵味方の急患は集められる。隣には救助した連合兵、皆、急患と女性兵だ。私達傷ついた雛鳥はエレベーター降下と共に戦女神の梟の翼の下に抱かれていく。
さて…。一応、任務は終わった。この先はどうなる-。 - 40二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 08:59:02
保守
- 41二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 10:51:31
ザフトも連合も現場はいつまでこんな戦争続けるんだろって厭戦感が漂ってるがここまで世界を滅茶苦茶にした張本人二名はどう思ってるんでしょうね?
ジブリはコーディ殲滅以外考えてるわけないか… - 42二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 14:24:57
またアグネスが死にかけてる…
- 43二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 19:49:21
アグネスデジタルならば尊死で済む(しかもすぐ復活する)が、アグネス・ギーベンラートはそうはいかんのだぞ……。
- 44二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 21:25:52
あにまんアグネスならやホじ案件で蘇るんだけどねぇ⋯
- 45二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 02:10:29
看護兵「アグネスさん、ごめんなさい。起きられますか?」
アグネス「う…。う…」
ぼんやりとした意識の向こうで馴染みのある声が聞こえる。ミネルバの看護兵だ。最近、向かうところ向かう所、病院送りになってばかり。保健室登校の子供のようだわ。
看護兵「無理なら大丈夫ですからね…。でも、出来ればと…」
おずおずとした声がけは続く。仕方ない。
薄っすらと目を開くと、案の定、ミネルバの医務室の中だった。見慣れた天井で大いに結構だこと。そう言えば、あの後、どれくらいたったのだろう。今は何時か…。うん?
仕事が!
アグネス「起きます!看護兵さん、私の業務用デバイスと制服は有りますか?!」
脳が急起動して、目がバッチリ覚める。いや、バッチリかどうかは分からないが…。瞼の向こう側には女性看護兵が2名と男性軍医が1名、付き添いにメイリンという何時もの面子。
私を起こした看護兵が気づかわし気な表情を浮かべ、私に対して慎重に声を掛けてくる。
看護兵「アグネスさん?その…。戦闘は終わったんですよ…」
アグネス「北方艦隊との、という意味ですね。それは良かった。それはともかく、あれから何時間ですか?教官の任務は続行中なのに。シホ先輩に一時委任してあるとはいえ-」
訓練課程のことが心配だわ。ラムシュタイン基地と連絡を取り合って、リモートワークしなくては。というか、ミネルバの現在位置は何処だ。地球衛星軌道上かな?
そう思って少し視線で周囲の様子を探る。私の身体は今ベッドに寝かされ、胴体には幾つも電極がピッタリくっつけられている。電極から伸びたケーブルは心電図モニターと接続、見たところバイタルは正常値だろう。
頭にも何やらくっつけられている。こちらは脳波モニターね。腕には点滴が刺してある。輸血はもう済んだのか。 - 46二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 02:19:31
軍医「ゴホン…。貴女が甲板に降ろされてから、という意味なら25時間後です」
アグネス「そうですか…」
そんなに寝ていたと驚くべきなのか、今生きていることを神に感謝するべきなのか、きっと両方だろう。まあ、一日ぐらいご褒美だと思うべきか。寝ていたというより昏睡だけど。
アグネス「ミネルバの現在位置は何処ですか?まだ、衛星軌道上ですか?」
当初の作戦ではマーゲロイ島沖で戦闘後に大気圏離脱の予定だった。救助活動を挟んだせいで狂いが生じていなければ良いが…。
軍医「いえ。今、ミネルバはアーモリーワンに入港した所です。グラディス提督がジブラルタルへの再降下はリスクが高いとご判断されて…」
なるほど、確かに一度、重力を振り切ったならそう動くべきか
アグネス「賢明なご判断です。確かに相当な損傷でした」
アンチビーム爆雷を発射したとは言え、ゴットフリートMk.71の斉射は堪える。その上でもう一度、大気の壁を突き抜けるのは厳しい。ジブラルタルのドックとアーモリーワンのドック、選べるなら後者にするべきだ。護衛の艦も上空宙域に達していたはず。
アグネス「(でも、そうか。ここは地球ではないのか…。アーモリーワンならL4宙域、この戦争の始まりの地に奇しくも帰ってきたわけね)」
ありがたいことに25時間なら、今日の訓練指導には間に合う。OK、では次に気になることは…。皆の負傷。
アグネス「アスラン先輩とハイネ先輩、シンの容体はいかがですか?連合軍の救助者のことも…」
軍医「人のことより…。私は先ず貴女の容体を確かめたい!全部そこからです」
そう言って軍医殿は私の身体を弄繰り回す。聴診器で体中の音を聞き、小さな槌で叩いて回り、下瞼、舌の色を確認する。脈拍等も直に触って確かめてくれる。アナログね。 - 47二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 02:24:41
アグネス「(まあ、アナログじゃない検査は終わっているだろうから。仕上げと言うことね)」
そう思っていると、思った通り、軍医殿からありがたいお言葉が掛かる。
軍医「良し。アグネスさん、よく頑張りました。これまでの負傷に加え新しい負傷、出血。それに低体温症が重なって一時は…。皆、心配していましたよ。目が覚めたことを副長に連絡します」
アグネス「はぁ…。はい」
モヤモヤした気持ちに包まれていると、看護兵にこそこそ注意された軍医殿がようやく説明してくれる。
軍医「今回の受傷は…。右鎖骨下から左鎖骨下までの裂傷、敵のフォノンメーザーの切っ先で綺麗に切られています。幸い傷自体はさほど深くは有りませんでしたが、それでも大胸筋上部に届いていました。出血も相当に。氷点下、コックピットに穴が開いた状態で、パイロットスーツも破れたまま作戦行動を続けたため、軽度の低体温症も発症していました」
そう言ってわざわざ写真とレントゲンと医療データを見せて解説してくれる。『裂傷と低体温症だけでも危ないのにこれまでの負傷も治りきっていない。ショック死していたかもしれない』と、やや強めにご指摘を受ける。
軍医「筋肉と血管は吸収糸で皮膚は皮膚縫合用接着剤で塞ぎました。それと輸血と点滴、保温に努めて対処を。まったく!本来ならドクターストップ10回は掛けているところですよ!」
アグネス「はい。ありがとうございます」
謝るべきなのか、お礼を言うべきなのか何が何やら。ともあれ、私は助かり、ミネルバも大気圏を再離脱して、無事にL4のアーモリーワンに入港済みと。
それは分かったわ。次行こう次!
軍医殿はお話している内にボルテージが上がってしまっている。メイリンに目線をやって、最初に聞こうとした仲間の容体をもう一度、尋ねる。
メイリン「アスランさんはあの後、グダニスクの病院に搬送され、昨日の内に退院されました。今、シャトルで此方に向かっているそうです。シンとハイネさんはコックピットに加わった衝撃で胸や腹部を強く圧迫され、内出血を起こしていました。加えて、むちうち。神経と骨に異常はなく、大事を取って休めば1週間ほどで回復するとのことです」 - 48二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 02:29:04
そう言って、彼女は軍医殿にアイサインを送る。自分の感情が昂り過ぎていたことに気が付いた軍医は少し極まりが悪そうに頷く。
軍医「あ・ん・せ・い・にすれば、です。貴女はもっとかかります」
アグネス「養生に努めます」
軍医「よろしい」
まあ、そうは言っても、結局は最高評議会と国防委員会と国防本部しだいなんだけれどね。というか、ラムシュタイン基地での教官任務はまだ継続中のはず。
それはそうと…。
アグネス「救助した連合軍はどうなりましたか?」
看護兵「ミネルバで一時収容、応急処置後、そのまま大気圏を離脱。他の艦にも分乗してもらい、当基地まで輸送しました。順次下船させて軍病院に輸送しています。あの夜、ミネルバだけでも1000人近くを救い上げたので、スペースの遣り繰りが大変でしたよ」
アグネス「そうですか。お疲れさまです」
でも、『思ったより』は助かっていたみたいで良かったわ。ハイネ先輩とシンも、まあ、1週間ぐらいいいでしょう。良いか悪いかを決めること等、私達にはかなわないけれどね。
そんな風に思っていると足早に駆けつけた影が医務室の扉を開ける。人間の足音というのは不思議なものだ。その音だけで本人の身長・体重、性別・職業、出身階層まで判別できるのだから。
この音の主は中肉やや高めの身長の女性、職業は-言うまでも無いか。
タリア「軍医、良いかしら?」
グラディス提督の声に軍医は頷き、カーテンを少し開く。25時間ぶりの再会、彼女の眼の下にはくっきりした隈が出来ている。『過労』と看板を掛けているみたいで気の毒になってしまうわ。
タリア「アグネス、目を覚ましたと聞いて。無理をさせたわね。本当によく頑張ったわ」
アグネス「いえ…。アークエンジェルの直接保護は叶いませんでした。そのことについてお咎めは?」
気がかりな点を訪ねるとグラディス提督が眩暈に襲われたような表情を浮かべられる。
タリア「貴女達は賞賛されても叱責されるようなことは何もしていない。そこは安心して。本国も西ユーラシアもその奮戦を高く評価して下さっているわ」 - 49二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 02:43:23
このご様子、取り逃がしたことを誰かからクドクド文句を言われたのだろう。私もさほど『安心して』いることは出来なさそうだ。まあ、先のことは後で考えよう。
労いの言葉を掛けると、彼女は本題を述べ伝え始める。
タリア「アグネス、『月軌道艦隊司令官にして、プラント国防委員会直属戦術統合即応本部隊長タリア・グラディスは、月軌道艦隊旗艦ミネルバ所属パイロットにして、戦術統合即応本部員アグネス・ギーベンラートにプラント国防委員会の名において、『名誉戦死傷章』を授与します。マーゲロイ島沖海戦に於いて、その身命を賭して国家の防衛に貢献したことに心からの賛辞を』もう、4回目ね…」
グラディス提督からは私の枕元に証明書(表彰状)と複数回受賞を示す小星が入った小箱を置いて下さる。この短期間に4回貰えたことを喜ぶべきか…、否!
『名誉戦死傷章』は1回貰えば十分だろう。獲ろうとして獲るものではない。
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ。
とは言え、その場の軍医と看護兵、メイリンに拍手をして貰えて悪い気はしない。略綬に着く星が3つになった。歴戦の猛者って感じだわ。
そう言えば-。
アグネス「グラディス提督、この勲章ですが…。ハイネ先輩とアスラン先輩、シンも受賞しましたか?」
タリア「ええ。貴女が心配することはない。皆、ちゃんと評価されているわ…。旗下の部隊が『パープルハート大隊』になってしまうのは指揮官として…。いえ、今の言葉は忘れて」
思わず溢しかけた本音をグラディス提督は必死で呑み込む。でも、私は-チョロいと言われるかもしれないが-、彼女が部下の死傷に心を痛めることができる人間であることを心強く思う。
アグネス「(その辺りは人それぞれなのかな。私はこれから部下にどう振舞っていくべきだろう?)」
私を見つめる彼女の相貌、酷い顔だわ。彼女も休まないと。タリア・グラディスは孤独なのだ。指揮官としても、子供を持つ寡婦としても。
アグネス「(これは、いけない!ウィラード隊長みたいに乱心することはない筈だけど。過労死されたら大変だわ!)」 - 50二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 02:54:43
まあ、そろそろ彼女にご執心な議長閣下がストップを頃合いとは思うけど…。あの腹黒議長は何を考えているのか。彼女に苦労を掛け、そうかと思えば気にかけ-。
あれがモラハラエネ夫というやつか。時代が時代ならパワハラとセクハラ要素まで加わるかも知れない。今の時代はコンプライアンスに厳しいんだぞ!不信任決議だ!
ダメンズには引っ掛からないよう、私は気をつけよう。殷鑑遠からず、だわ。
タリア「なに?貴女また何か、やましいことを考えていない?
アグネス「いえ…。まさか!提督もご自愛ください!」
やましいことは考えていない。彼女が心配なのは本心だ。不幸な目に合わないで欲しい。
タリア「…ゴホン!ゆっくり休んで養生なさい。時間が許す限り」
アグネス「はい!」
勲章授与が終わると、彼女はこちらに敬礼し、私も敬礼を返す。踵を返す彼女にもう一声念を押す。
アグネス「どうか、くれぐれもご自愛ください」
タリア「貴女もね。軍医を困らせないようになさい」
そう互いにエールを交わして、彼女の足音を見送る。
(カウントMS1032〈+共同撃破多数〉 デストロイ2(共同) セカンドシリーズ1(共同) 大型MA22(共同2)
戦闘機56 対MS戦闘ヘリコプター245 大型輸送機33〈+共同撃破多数〉 VTOL輸送機33〈+共同撃破多数〉 長距離偵察機1
リニアガン・タンク141〈+共同撃破多数〉 自走リニア榴弾砲210〈+共同撃破多数〉 ブルドック220〈+共同撃破多数〉 工兵車60<+共同撃破多数> レーダー車7 汎用車両・兵站車両・軍用トラック等297〈+共同撃破多数〉
地対空75mmバルカン砲塔システム7 大型砲20 ヘルダートタイプ・ミサイルランチャー5基 50mmガトリング砲9
空母12 イージス艦16 フレーザ級6 攻撃型潜水艦2 大型輸送艦1 コルベット艦2 哨戒艇1 軍用艇3 アガメムノン級14 ネルソン級14 ドレイク級17 リフレクターシールド装備型ドレイク級10)
- 51二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 09:06:23
ヘブンズベースまでは一旦休む時間が貰えるか
ようやくだな⋯
そして案の定回復力お化けのアスラン - 52二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 09:33:26
セイバーもカオスもオシャカになってしまったけど、代わりに来る機体はなんなんだろ?
- 53二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 10:14:28
時期的にはあの2機のロールアウト〜受領の時期だね⋯
戦果的には誰が貰えてもおかしくない状況だけど - 54二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 15:17:22
コンクルーダー用デスティニーって量産されてたのかな
- 55二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 15:25:23
シンが珍しく負傷
- 56二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 22:36:35
このレスは削除されています
- 57二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 22:52:08
アスランに運命を破壊されたときやイモジャを撃墜されたときも無事
- 58二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 02:52:46
少し急ぎ足の勲章授与式を終え、軍医殿にご質問する。
アグネス「軍医殿、朝まで少し休んでも良いですか?」
軍医「当然そうしてください」
アグネス「ありがとうございます。メイリン、おやすみ」
メイリン「はい。お休みなさい。アグネスさん」
彼女の声を聴くや、瞼を閉じる。朝まではまだ、少しだけ余裕がある。もう少しだけ英気を養おう。
ピピピピピピ!ピピピピピ!
数時間後、喧しい音に叩き起こされる。タイマーの音で身を覚ますとは何て健全な!良し。日常が帰って来たわ。
目をパッチリ開けると、額の中央から左眉にかけて強い違和感を覚える。昨日までは感じなかったのだが…。
アグネス「(顔に負った裂傷ね。痛み止めが切れたから)」
まあ、筋肉まで切れたのだ。『違和感』で済んでいるだけましだわ。医療班のご尽力のおかげね。もう体や頭に電極は着いていない。心電図と脳波モニターも片付けられている。峠は越したのだ。
メイリンが腰を下ろしていた椅子は空席になっている。ただ、右手が届く場所に私の業務用デバイスとメモが残されている。
アグネス「どれどれ…。うっ…」
負傷が重なった左半身も上手く動かない!動こうとすると縫合箇所は突っ張るような痛みを発し、不全骨折部は稲妻が走ったような激痛を脳に送り付けてくる。
生きている証だ。落ち着け。この程度で済んでいるということは間違いなく回復してきている。息をゆっくり吸って-。
アグネス「えい!や!」
掛け声を上げ、何とかデバイスとメモを引き寄せる。
メモにはメイリンの字で『勲章、証明書は自室の机に。また顔を出します。お大事に』と書かれている。嬉しいわね。
リモコン操作でベッドの高さと上半身の角度を調整し、患者用の机を横臥した体の上に渡す。そこにデバイスを乗せて、スイッチを起動する。朝食まで時間を有効に使いたい。 - 59二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 03:17:09
流石に業務メールのチェックは、後回しにする。病み上がりの朝一で仕事は気が進まない。甘えかも知れないが…、今見ると心が折れそう。
アグネス「(そうは言っても、カリーニングラード戦に参加した教導航空団の皆の叙勲申請もしないといけないから。後で戦果報告も確認しないと。全員良くやってくれていた。飛び抜けて誰かというのはないけど、それが正常よ)」
強いて言えば、シホ先輩と各中隊長かな。まあ、各員の個人的な勇敢さや成果は後で確認しよう。
アグネス「(後でね!まだ、朝食前だからね)」
それより世界の状況を知りたい。
デバイスを電子ネットワークに接続する。セキュリティ対策は一応、万全なはず。さて-。
アグネス「(さて、一昨日の戦闘が世界情勢に与えた影響を確認しよう。ニュース一覧には…!?)」
記事をパッと見ると政財界の人間の訃報がいっぱいだわ。最新の速報では、大見出しで『ロゴスメンバー、グラハム・ネレイス氏、射殺される』の文字。衆目の中、反ロゴス派民間人に射殺された、と。
記事を読み進めてみると-あの夜、私達が陸に宙に海にと転戦を繰り返し、その後、私が眠っている間に世界は様変わりしていた。一晩で潮目が変わったと言っていい。
カリーニングラード攻防戦から始まって結果的に3連敗した地球連合軍・ファントムペイン。それにより、バルト海の制海権とポーランド・リトアニアの制空権を喪失した。宙ではファントムペインが大敗し、ミラージュコロイド装備艦2隻は撃沈ないし拿捕、以後の隠密作戦が不可能になった。
ネオ・ロアノーク大佐に次ぐ司令官だったホアキン中佐の死亡も捕えた構成員の自白により判明した。薄紫色の方に搭乗していたとのこと。最後の止めが地球連合ユーラシア連邦北方艦隊壊滅…。
その有様を見た民衆の鬱憤は爆発。以前から発生していたロゴスメンバー及びその関係者・企業等への襲撃がエスカレートし、一線を超え始めた。末端メンバー-それでも庶民から観たら超大富豪だろう-や木っ端役人、小物政治家どころでは無い。メンバーの中でも最上級人物まで凶弾に斃れ始めている。
名を挙げれば、アダム・ヴァミリア氏、ダンカン・L・モッケルバーグ氏、セレスティン・グロート氏。彼らは暴徒や反ロゴス派民衆の攻撃に晒され各地で次々と血祭りに上げられた。ここにグラハム・ネレイス氏も加わったのだ。 - 60二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 03:34:52
驚くべきことに、彼らの最後の様子が繰り返しメディアで報道されている。グロ画像を子供に見せてどうする、という問題じゃない。無論、それも問題でもあるが…。
彼らは衆目の前で堂々と射殺されたのだ。この映像自体がある種の犬笛であり、次のターゲットへの犯行予告だ。これではテロではないか。私はテロリストと戦って来たばかりなのに!
アグネス「(確かセレスティン・グロート氏はリッターグループと並んでオーブ政界とも繋がりがあったはず。それが堂々と殺された…。オーブと言っても正確に言えばセイラン家となんだけど。果たして世界はどう見るか)」
ともあれ、オーブのことは一旦、置く。マシマ宰相代行政権とアークエンジェルが対処すべきことだ。
ただ、彼らの気持ちも理解はできる。決して、同調は出来ないけれど。ギリギリで堰き止められていた堤防が決壊したのだ。反戦世論、厭戦感情、虐殺や戦争犯罪、人道犯罪への怒りへ。一部の国家や特権階級の横暴への抗議etc.
アグネス「(そこに来て、連合軍のあの体たらく。誰がどう見ても戦局は連合不利-私の実感としては別にそうとも言えないのだけれど-。既に着火していた炎に注ぐガソリンとしては十分過ぎた)」
それにしてもタイミングが良すぎる気もするけれど-。
他の大物メンバー達、例えばアルヴィン・リッター氏、ブルーノ・アズラエル氏、ラリー・マクウィリアムズ氏、ルクス・コーラー氏も逃走を図っているか、既に逃亡中との観測も報じられている。
ワシントンでは大規模デモがコープランド大統領の手前まで押し寄せ、ロード・ジブリールの私邸は反ロゴス派民兵組織に包囲されている。
コープランドは腐っても民主的な手続きで選出された国家元首、正規軍に守られている。よほどのことがない限り大丈夫だろう。本人もあまり戦争に乗り気じゃなさそうだし。それはそれとして責任は取って欲しいが-。
問題はジブリール氏、あの屋敷に限っては陥落を免れないだろう。そこに彼がいるのかは知りようがないが。 - 61二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 03:45:25
アグネス「(しかし、それを因果応報と喜んでばかりもいられない。きちんとした手順を踏まず、私刑にすることは法の支配に対する挑戦だわ。仮に『勝者の裁き』や『事後法』の誹りを受けようとも、国際刑事手続きの上で懲役なり終身刑なり絞首刑にするべきだった)」
何より彼らの財産が散逸してしまう。地球連合側の諸国家は差押えが間に合ったとは思えない。
彼らが有していた莫大な財産、情報、人脈。それがただ消えるだけなら良いが-良くないが-その一部はまず間違いなくテロリストやゲリラ勢力、反社会的勢力に流れてしまうだろう。ブルーコスモス派軍人が生き残りのために用いるかも知れない。
そうなったら最悪だ。ザフト軍もモグラ叩きのハンマー役を任されるだろう。大概うんざりだわ。
アグネス「(しかし、世界情勢が幾ら流動的だとは言え、この勢いには圧倒されてしまうわ。ひょっとして『仕込み』が有ったのか…)」
そこまで考えて、自分のアホさ加減に呆れてしまう。動乱の時代、どの勢力も個人も生き残りに必死だ。どこも罠だらけ、陰謀だらけ、仕込みだらけに決まっている。ロード・ジブリールも仕込みをしていただろう。デュランダル議長も仕込みをしていただろう。無能そうなコープランド大統領だって何かしらの策は講じていたはず。
皆が皆、ばら撒かれた地雷原でタップダンスを踊っている。そのうちの幾つかが炸裂したと言うことなのだろう。思うにメディア工作に長けていたのは議長の方だった。
アグネス「(そうなると-。気になるのはジブリールの動向ね。このタイミングでユーラシア連邦から逃走すれば、己の基盤が大崩壊を起こす。苔の一念で踏み止まるかな、私なら)」
邸宅も城も幾つも持っているだろう。心中覚悟でユーラシア連邦にしがみ付けば巻き返しの目もあるかも知れない。あの国には資源もある。人口も多い。継戦能力自体は高いのだ。
ソ連だってナチスドイツにあそこまで追い詰められても盛り返したのだ。コープランドを脅し付けて、大西洋連邦から無制限無限レンドリースをさせると言う方法もある。まだ、ムルマンスクとアルハンゲリスク(砕氷船使用)への航路も閉ざされていない。ユーラシア東側も開かれている。
モスクワなりサンクトペテルブルクで粘り、それでも駄目ならエカテリンブルクさらにオムスク。彼にはまだ選択肢があり、私達はそれに対処しなければいけない。 - 62二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 04:12:56
とは言え、テロリストの片棒は担ぎたくない。第一、非対称戦争は地獄だ。ちゃんとした戦争がしたい。いや、したいかは微妙だが…。
そもそも、連合から絶滅戦争を仕掛けられて始まった戦争。その中を戦う軍人がそんなことを言うのも変な話、そう分かってはいるのだ。しかし-、いけない。思考が迷路になりそう。
そんな時、折よく廊下から良い香りが漂ってくる。朝食の時間らしい。
アグネス「(そうだわ!いろいろ考えるのも大事。でも、今を乗り切らないと。それでも世界は回る、よ!)」
看護兵「アグネスさん、おはようございます。朝食です」
ルナマリア「おはよう。良かったら一緒に食べない?」
ジャラシャラジャラ…。
カーテン越しにルナマリアの声、流石わが友。アカデミーの時、嫌いだった彼女のこういう所、今は凄く好き。もしかしたら最初から好きだったかもしれないけどね。
アグネス「おはようございます、看護兵さん。ルナマリアもおはよう。ええ、一緒に食べましょう」
私の返事を聞いたルナマリアは微笑みを浮かべるが、私がデバイスを弄っているのを見て表情を一変、呆れ顔になる。
ルナマリア「えぇ…。その身体で朝から仕事…。ごめん。そこまで追い詰められていたとは…。もっと自分を大切に…」
アグネス「ニュースを見ているだけよ!なんかいろいろヤバそうで」
看護兵「心理トラブルなら軍医殿にお伝えしないと!」
アグネス「違います。そう言うのとは…。それに、仕事は思いとどまりました」
早とちりするルナマリアと看護兵を宥める。
アグネス「(でも、ルナマリアの言うことも一理ある。私達としてはまず、疲れを癒すべき立場にあるのだから。その後のことは…、何とでもなるものはずよ!)」
今はお腹を満たして今日一日に備えよう。 - 63二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 11:38:36
ちゃんと休めると良いな…
- 64二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 17:50:47
ルナマリア「何か大変なことになっているわね」
アグネス「何かって…。他人事ね」
ベッド脇の椅子に腰かけたルナマリアは能天気な感想を述べる。
手には美味しそうなサンドイッチを掴んでいる。対して私の朝食はお粥とスープとベーコンエッグ、それに野菜ジュースと牛乳。まあ、ベーコンが有るから良しとしよう。食べられるだけ幸せだわ。
私の反応にルナマリアは曖昧な同意を返す。
ルナマリア「うん。実感がわかないのよね。当事者なのに蚊帳の外というか…。抗議活動や襲撃自体は前から発生していたから、今更かもしれないけれど…」
アグネス「そうね。でも、ちょっと箍が外れた感がある。このままではロゴスと言う名の魔女狩りで連合側の各国政府は機能不全に陥ってしまう。経済問題だけに留まらないわ」
そう話しながら、まず牛乳をゴブゴブ飲む。ちょうど喉が渇いていたんだ。その後にお粥を救ったスプーンを口に加える。生の実感を得る。最高だ!
それは程度の差は有れ、ルナマリアも変わらないのだろう。美味しそうに一口一口サンドイッチを噛み締めている。ただ、お互い世界の潮流はどうしても気にかかってしまう。
ルナマリア「『ロゴスは地球のほぼすべての政界・企業に関与している』そう聞いた時は半信半疑だったわ。ましかここまで騒ぎが大きくなっちゃうとは…」
アグネス「半信半疑で良いわよ。関与と言っても濃淡がある。でも、私はバルト海の制海権と制空権、アークエンジェル問題をまず念頭に置いていたのに…。驚いたわね」
まあ、敵失と言えばそれまでだが…。議長の情報公開-というかファクトを用いたプロパガンダは現在進行形で続いている。
アグネス「ロゴスメンバーの邸宅や拠点が占領されて、改めて証拠資料が世界に暴露されているわね。ダイダロス基地陥落の時点で公表された内容も改めて真実と確認された、と」
ルナマリア「ええ。この成行きの是非はともかく、とんでもない連中だったのね」
普段はノンポリっぽい雰囲気を漂わせているルナマリアも語調を強めている。地球の人々だけの万代ではない。もはや私達コーディネイター、プラント国民にとってもロゴスの存在は看過できない。
それが満天下に示されたのだ。 - 65二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 18:18:29
なんと、C.E.70年代以後、ロゴス代表はブルーコスモス盟主を兼任していた!当代はロード・ジブリール、先代はS級戦犯ことムルタ・アズラエル。さもありなんというものだが、奴は自分の足ではブルーコスモス少年兵養成施設まで出向いていたらしい。狂人は無駄にアグレッシブだから困る。
アグネス「(ブルーコスモスの前身がアズラエル財団の支援する環境保護団体であったことを考えると今更か。それでも『支援・支持母体』と自身が盟主になると言うのは次元が違うわ)」
そこまで関与が直接的かつ恒常的とは思わないじゃない!
一体、ロゴスとブルーコスモスは何年の付き合いなんだ?C.E.15年以前からとすれば-58年以上、この世界を無茶苦茶にした元凶の一つ、糾弾されてもやむを得ないかもしれない。
アグネス「アズラエル財団そしてロゴスは、ブルーコスモスを都合の良い鉄砲玉や先兵として利用しているつもりだった。しかし、気が付けばトップ自身がその思想に染まり、利益を度外視したコーディネイター排斥活動を率先して指導するようになり-。それに他のロゴスメンバー、各国の要人・軍高官も内心はともあれ同調していた、と」
仕方が無かったのよ、で済む話ではない。決然と拒否しないと共同共謀正犯扱いされてしまう。
ルナマリア「ロゴスは地球連合軍内にファントムペインこと第81独立機動群まで設立。わざわざ、直接意思を反映するべく…。もっと自分達の手を汚さないように立ち回っているかと思ったわ。ここまで手を突っ込んでいるなんて…」
アグネス「ほんと世話ないわね。『鉄砲玉』『トカゲのしっぽ』と宣言しているようなものね。意味がないわ、私兵集団なんて」
ペロリと朝食を食べ終わり、ルナマリアの言を肯定する。
私も少し考えを改めた方が良いかもしれない。ロゴスを『経済同友会兼ロビー団体』で済ませるには、彼らはレッドラインを跳び越えすぎている。
思いつく限りでも、①『平和に対する罪』、②『通例の戦争犯罪』、③『人道に対する罪』、④それらを犯そうとする『共同謀議』、どれかないし幾つかは犯しているだろう。少なくとも共同謀議で全メンバーと相当数の関係者がアウトだ。多分、コープランド大統領も引っ掛かる。 - 66二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 18:28:27
ファントムペインはこれに、Ⅰ『文民の居住地域に対する無差別攻撃』、Ⅱ『公正な裁判に基づかずにゲリラを処刑』、Ⅲ『ゲリラへの報復に無関係の一般住民を集団懲罰』、Ⅳ『民族を破壊する意図に基づく集団殺人』まで加わって役満だ。
こんな事が判明してしまった以上、私達コーディネイター、プラントは彼らを人道犯罪者・戦争犯罪者・テロリストとして地の果てまで、草の根分けても追い詰める他に選択肢はない。
ファントムペインとブルーコスモス派地球連合軍は殲滅するか武装解除、構成員は拘束した後に裁判。ロゴスメンバーと重要関係者も逮捕せざるを得ない。
アグネス「仕事が増えたわ。元から増えると分かってはいたけれど…」
ルナマリア「通信回線で話したんだけれど…。シャトルの中でアスラン先輩もまいっていたわ」
アグネス「でしょうね。オーブも無関係ではいられないから」
アスハ代表ご自身は潔白だから何も問題はないのだが…。ウナト宰相と子息のユウナ及びセイラン派は『人道に対する罪』容疑がかけられている。
具体的には、オーブ国内のコーディネイター住民及びその家族等に対する【奴隷化】、【住民の追放又は強制移送】、【政治的、人種的、国民的、民族的、文化的又は宗教的な理由、性に係る理由その他国際法の下で許容されないことが普遍的に認められている理由に基づく特定の集団又は共同体に対する迫害】について。企図、一部ないし全部の実行、共同謀議を行ったのではないか、と。
まあ、あくまで今は疑いの段階だし、厳密に言い出したら地上国家の要人の殆んどを捕まえないといけなくなる。どこかにラインを引くのだろう。
ただ、戦争犯罪に関してはザフトも襟を正さなくてはいけない。一応、私達はやらかしていないはずだけれどね。出来れば上層部にいると目される陰謀家も他国に突っ込まれる前に処しておきたいのだが…。今はどうしようもない。
アグネス「ごちそうさまでした」
ルナマリア「ごちそうさまでした」
朝食後にルナマリアから業務連絡も受け取る。
アグネス「グラディス提督から伝言。午前中に式典あり、貴女は病室で待機せよと。クレタ島戦の勲章授与だって。あんたの所には彼方から出向いてくれるそうよ」
アグネス「やっとね!忘れられているかと思ったわ。知らせてくれてありがとうね」 - 67二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 18:55:53
休めるかな?
- 68二次元好きの匿名さん25/02/16(日) 23:57:04
朝食後、病院服を脱いで制服に着替える。看護兵の助けを借りながら、えっちらおっちら。太腿が傷つくとこんなに不便だとは!
看護兵「時間になったら男性陣とも合流してミネルバ甲板に向かいます。プラントからはデュランダル議長とシュライバー国防委員長及びパーネル・ジェセック最高評議会議員、西ユーラシア連邦からは勲章使節団長として外務・安全保障上級大臣等が乗艦されます」
アグネス「分かりました」
戦艦・空母の上で授与式ね。そうした例も無きにしも非ずだろうけれど、また議長閣下はパフォーマンスがお上手ね。ドックで外殻の修理を頑張っているマッド・エイブスを始め整備班にとっては迷惑の極みだろう。
とは言え、負傷中の私やシン、ハイネ先輩にとってはありがたい申し出ではある。会場まで移動するのはきつい。それに何だかんだ叙勲と表彰と出世は自体は嬉しいのだ。
頑張った分、報われないとがっくりしてしまう。高い位の勲章を期待したいわね。
看護兵にお礼を言いつつ、一つ頼みごとをする。メイリンにここに来て欲しい。仕事の補佐を頼みたい。式典までリモートで仕事をする。戦闘後のことについても、もう少し情報を集めたい。
アグネス「メイリンの手が離せない様なら、無理にとは言いません」
看護兵「分かりました。お待ちください」
会話を切り上げた看護兵は次の患者の下に向かう。アーモリーワン到着後、体調を崩すクルーが少なくないと言う。ホームに戻り、地上という敵地で必死に張りつめていた緊張の糸が切れたと言ったところか。
アグネス「(そもそも今まで働き過ぎだったのよ。月軌道艦隊は全将兵過労死ライン越え。ミネルバに至っては突然死ライン越えだった。何で月軌道艦隊が地球外縁軌道統制統合艦隊みたいになっているんだか…)」
ゴンドワナが沈んでしまった影響がこんなところにも出てしまう。月か本国に戻るまでクルーやパイロットに真の安息はない。寝ている時さえ、24時間仕事モードのままだ。戦時だから止む無しだし、『塹壕より良いだろう』と言われればそこまでだが…。
今回は幸いなことに、ミネルバとタイミングを同じくして月軌道艦隊も引っ込むことが出来た。対ロゴス戦を見据え、本国から衛星軌道上にザフト艦が派遣されて来たためだ。彼らに一時的にポジションを入れ替えてもらっている。 - 69二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 00:05:56
さて、デバイスの業務メールを確認。お見舞いや慰労、激賞のお便りは後で読む。先ずはラムシュタイン基地の教導航空団を優先しないといけない。そのためには全段階としてカリーニングラード戦の報告と事後手続きから取り組まないと。
アグネス「(ハーネンフース副隊長・副教官から決裁が必要な書類が上がってきている。私の負担にならないよう自分の権限で可能な範囲は捌いてくれている。助かるわ)」
それでも書類は聳え立つ山の如し。私が生還を前提として振舞ってくれているのだから文句を言うわけにも行かない。地道の手早くこなそう。
シホ先輩が緊急で仮にやって下さった分をチェックして必要なら訂正して…。教導航空団隊長しか触れられない書類は一から書く。
アグネス「(プラント最高評議会及び国防委員会、西ユーラシア連邦外務・安全政策局、そしてポーランド地方政府とリトアニア地方政府に取り急ぎ、いや本当に急がなければ!)」
報告や事後手続きが必要なのは国防組織にも。ザフト軍本部と欧州合同軍とラムシュタイン基地とマルボルクの基地それと-。月軌道艦隊とミネルバつまりグラディス提督!
アグネス「(グラディス提督は特務隊長でも有るから…、急かさずにいて下さるだけ温情があるわ)」
そのために部下のレポートチャックも開始する。副隊長のシホ先輩の分、各中隊長の分(シホ先輩のチェック済み)と個別の隊員(中隊長とシホ先輩のチャック済み)の分、死にそう。
アグネス「(バクゥハウンド隊はルナマリア、アッシュ隊はハイネ先輩、ミネルバの分はグラディス提督が済ませてくれていたか。良かったわ)」
アスランもちゃんと自分の分は出している。よろしい。
アグネス「(それにしても、頭が沸騰しそうだわ。仕方がないけれど、ね。見落としは無いか、有ったらその時に対応しよう。自転車は足を止めた瞬間転ぶ)」 - 70二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 00:16:56
アグネス「(何しろ、カリーニングラード戦を上申したのは特務隊アグネス・ギーベンラート、こと私だわ。それを承認したのは国防委員会と最高評議会、同意し協力したのは西ユーラシア連邦政府だけど)」
そのせいもあって、部下が増えた以上にこなさなければいけない仕事が増えてしまった。一人師団も善し悪しだわ。
名ばかり管理職こと特務隊(戦術統合即応本部)。その権限は通常の部隊指揮官より上位であり、前線では作戦の立案及び実行の命令権限を有する。この組織には首席として隊長こそ存在するが、各個人がプラント国防委員会に直属する。
だから、私は2つの指揮命令系統に属していることになる。
一つ目はザフト軍士官、パイロットとして。
プラント最高評議会・国防委員会⇒ザフト軍本部⇒月軌道艦隊(司令長官タリア・グラディス)⇒ミネルバ(指揮官タリア・グラディス)⇒アーサー・トライン副長⇒ミネルバ、パイロット隊(先任、先輩あり)。
二つ目は特務隊として。
プラント最高評議会・国防委員会⇒特務隊アグネス・ギーベンラート(首席として隊長あり)。
だから、特務隊の方のラインでは、私の上官はシュライバー国防委員長と言うことになる。前大戦期、アスランがザラ議長兼国防委員長から直接命令を受け、ユウキ隊長が彼の首席補佐官のような位置に立っていた所以だ。
ボーンホルム島からカリーニングラード戦まで、私は主に特務隊のラインで(グラディス隊長の同意も得つつ)行動していた。昔の海軍士官が外交官の役割を担った例に倣い特命外交官の真似事までした。西ユーラシアの高官から諮問が有れば専門職・現場指揮官としてお答えした。
そのせいで報告書が終わらない…。ボーンホルム島も親書の件もいい。今、私はカリーニングラードの書類仕事を終える時間が欲しい!
必至にデバイスを右手で叩いているとカーテンが開かれ、メイリンが顔を覗かせる。
メイリン「おはようございます。アグネスさん」
アグネス「おはよう、メイリン。疲れているのにごめん。早速だけれど、いろいろ聞きたい」
私はもう一本の指揮系統にも義務を負っている。マルチタスクで処理していくしかない。勲章授与式までの時間で必死にね! - 71二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 00:47:14
やる事が、やる事が多い!!
頭パンクしちゃうよ - 72二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 02:09:50
これはもう、専任の秘書官が必要なレベルだろ。……それで送られて来たのが議長肝入りの、怪しげなグラサン女だったりしたらワロエンけど。
- 73二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 09:03:54
戦場から離れても事務仕事が山のように⋯
- 74二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 09:04:44
保守
- 75二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 17:06:58
議長ならこっそり手を回してる事もありそうで嫌だなぁ
- 76二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 20:05:18
メイリン「良いですよ」
メイリンは私の頼みを一つ返事で引き受けてくれる。ありがたい。
アグネス「じゃあ、まず、アスラン先輩やハイネ先輩、シンの容体を聞きたいわ。男女別室になっていて、それ自体は嬉しいんだけど。知らんぷりも出来ない。公私ともにね」
メイリン「アスランさんはまだシャトルの中ですが…。通信した感じだと身体は全快のように感じます。ただ、精神の方は…」
ああ、そっちはダメそうね。
アグネス「キラ・ヤマトの生死、アークエンジェルの行方、オーブ情勢に世界情勢etcね。真面目人間だし。キラ・ヤマトの生死は不明のまま?」
メイリン「はい。スカンジナビアの通信を傍受した所、撃墜直後にはストライクルージュが飛び出して救助探索を始めていたそうですが…。他の機体もアスハ代表に合流を。ただ、その結果までは不明です」
アグネス「そう。前大戦時のような奇跡を期待したいわね。他の2人は?」
ハイネ先輩とシンは胸部と腹部の内出血、むちうち。全治1週間と聞いたけど、同じ全治1週間でも人によって幅がある。彼らはどうだろう?心配だわ。
メイリン「結構元気そうです。でも、シンは当分、お粥と聞いてげんなりしていました」
アグネス「普段の食生活を省みるチャンスよ、あいつは。ハイネ先輩も?」
メイリン「コーヒーが飲めなくて残念がっていましたよ」
アグネス「そう。回復した時に一緒にお茶会をしましょう」
なんだ、心配して損したわ。とは言え、むちうちは思わぬ後遺症が生じる場合もある。同じ負傷兵同士、助け合っていきたいわね。
メイリン「ミネルバクルーの中にも突然の帰国で逆に心身のバランスを崩す人がちらほら」
アグネス「でしょうね。私も今実家には帰りたくないわ。家族や見知った人達と顔を合わせるのが恐い。祖国の為に戦ってきたはずなのに自分が急に余所者になったみたい。それに、傷ついた身体を母に見せて、悲しまれるのが恐い」
私は自分が上に行くために戦ってきたはず。祖国のためと言うのは嘘ではない。でも半分は建前。いっぱい貰った勲章を周りに見せびらかして、手柄話を自慢してやる、そう思っていた。
その私でさえ、この有様なのだから、他の真面目なクルー達の心境は察するに余りある。PTSDになっている者もいるかも知れない。私も含めて…。 - 77二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 20:14:23
アグネス「…まだ戦争は続いているわ。次の話を。拿捕・鹵獲した艦艇・機体はどうなった?」
メイリン「議長の働きかけと国防委員会の計らいで、ミネルバが手に入れた艦艇と機体は原則、月軌道艦隊の戦力に組み込むことになりました」
アグネス「それはありがたい…そう思うべきなのかしら?良く分からない処置ね」
戦力が増えるのはありがたいが、厳しい戦局の中、持ってて嬉しいコレクションを配備させる筈が無い。月軌道艦隊の戦力を増強させると言うことはまたお仕事が増えると言うこと。
メイリン「ガーティ・ルーは、降伏時に破壊させたミラージュコロイド制御装置を修復中です。開戦と同時にユニウス条約は失効しているので、月軌道艦隊に配備されます。これで私達の艦隊は8隻ですね」
アグネス「ええ。ローラシア級3隻とナスカ級3隻にミネルバだったから。様になって来たわね。艦長は?」
メイリン「アレクセイ・コノエ艦長を推す声が。名士ワルター・ド・ラメント氏のご友人で前大戦にも従軍経験あり。前職は教師だそうです」
ほう。前大戦からご活躍されているコノエ艦長か。目立った手柄は上げていない代わりに艦の生存、温存戦術に長け、激戦地から部下を必ず連れ帰ると評判の方ね。
アグネス「(ミラージュコロイドは解禁されたとはいえ、政治的に取り扱いが難しい。如何にも議会受けしそうな人事だけど、受け入れておくのがベターね)」
まあ、最終的には国防委員会の決めること。グラディス提督も意見ぐらいは聞かれるかもだけれど、拒否する理由も無いか。
アグネス「他に鹵獲した機体と言うと…。スローターダガーとフォビドゥンヴォ―テクスね」
メイリン「はい。フォビドゥンヴォ―テクスの修復・復元は最優先に。連合の技術は西ユーラシア離反の際に入手したものを利用するそうです。ただ、胴体部の修復に少し手間取りそうだとのこと」
アグネス「アビスが実体剣のピッケルで貫いちゃったからね。やっぱり、強化チタニウム製耐圧殻の構造が難しい?」
メイリン「はい。その上にトランスフェイズシフト装甲も被せられていましたので」
あれ?あの機体、コックピット周りにもトランスフェイズシフト装甲を使っていた?
そう言えば、私達は一時、ソナーが乱れて戦闘を追えていなかったわね。メイリンの話を聞き、デバイスで戦闘詳報を調べる。 - 78二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 20:19:29
私達が探知不能となっている間、ハイネ先輩はアビスのビームランス実体剣をフォビドゥンヴォ―テクスのコックピットに背後から一度、打突。この衝撃でパイロットは重傷を負った可能性あり。
ただ、機体の撃破と戦闘能力の完全喪失には至らず。
そこでハイネ先輩は側のアッシュにフォノンメーザー砲を発射させて背中に切れ込みを入れ、もう一回打突、やっと仕留めたとのこと。
フォノンメーザー砲でそのまま撃破も可能だったが、爆発させず確実に拿捕するため、最後は加減がしやすい実体剣を選択、合理的なハイネ先輩らしい。
メイリン「105スローターダガーは30機を鹵獲。これはガーティ・ルーに部品のスペアがあり、足りない分もダガー系と参照しやすいので修復にさほど時間は掛からないそうです」
アグネス「パックによっては重力下を飛べる機体、重宝しそうね」
修復と言えば…。
アグネス「セイバーとカオスについては聞いている?ボロボロになったけれど」
メイリン「フルレストアするしかないそうです」
アグネス「はぁ…。まあ、仕方ないわね」
カオスに関してはそもそも復元できるのかも微妙だ。フォビドゥンヴォ―テクスに関してはハイネ先輩が絶妙な手加減をしたのだろうけれど、私にはそんなものは無かった。
まあ、何とでもなるものよ。そう言い聞かせるしかない。
アグネス「ありがとう。勲章授与式まで私はリモートワークを続けるわ。何か他に…。そうだ。ボーンホルム島の救助・復旧は進んでいる?」
メイリン「はい。ザフト、欧州合同軍、地元当局の協力で。月軌道艦隊・ミネルバのザク隊やアビーさんの働きも評判です。それと…。ミリアリア・ハウさんについてですが…。彼女はアスハ代表のストライクルージュに乗り込み島を出たと。乗り込む前に傍の兵にアグネスさんへのお礼を述べていたそうです」
ミリアリアさんが…。そうか、そうなるわよね。彼女はそもそもオーブ国民だもの。カメラマンとしてではなく、戦士として、国家元首に仕え、共に時代の荒波を超える決断をしたのね。
アグネス「彼女達の旅路に幸いが有らんことを。建前じゃなくて本心から」
メイリン「ええ。そうあって欲しいです」 - 79二次元好きの匿名さん25/02/17(月) 21:19:49
ここでコノエ艦長来たか
- 80二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:21:22
リモートワークじゃなくて休養をですね…
- 81二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 00:22:49
部下の功績の報告とかも済ませなきゃおちおち休んでもいられないんだよ⋯
- 82二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 08:46:08
保守
- 83二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 08:51:27
種自由で、准将もこういう感じで休めなかったのかなぁ。アグネスがこの世界線でコンパスに所属したら、「どうしよう、
上官と同僚がすんげえワーカホリックで、休暇申請できる空気じゃねぇ……」って事になるんジャマイカ。 - 84二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 17:14:08
このままじゃもたないぞー
- 85二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 18:38:46
良し。今思いつく限りのことは聞いたわね。
アグネス「改めてありがとう、メイリン」
メイリン「いえいえ。書類仕事お疲れさまです!」
アグネス「ハハハハハ…」
つい乾いた笑い声が出てしまう。ともあれ、ビシッと敬礼してくれるメイリンにこちらは寝たまま敬礼だけど丁寧に返礼する。
まあ、変に暇を持て余すより良いのかもしれない。一日仕事、で終わるかどうかは分からないが…。何とか部下の叙勲申請まで進めたい。明日までに終わるか、うーん、どうだろう。
メイリンから情報収集を終えると後はひたすら地味な書類仕事だ。世間から見れば何とも奇妙に見えるかも知れないが、存外、『公務員』はこんなもの。民間人もそうなのだろうが…。
アグネス「(例えば有事の際に身体を張る消防士や警察官、海上警察官等も、訓練や現場出動と並んで書類仕事も多いはず。階級や部署にもよるのだろうけれど)」
我等、ザフト軍士官・将校も同じこと。とは言えしんどい。私のレベルでこれなら、グラディス提督はどれ程大変なんだろう!?
無心になって数時間仕事に没頭し、何とか部下の戦果報告・叙勲申請まで終えたところで、お呼びがかかる。もう昼近くか。
看護兵「アグネスさん、時間です」
何時もの看護兵が2人で呼びに来てくれる。一人で動けないのは本当にもどかしい。
アグネス「分かりました。車椅子に乗り換えないと、ですね」
看護兵「いえ。ストレッチャーで良いそうです。乗り換えが必要なのはそうですが…」
なるほど、議長閣下は『負傷兵に慈しみある指導者アピール』をお望みのようだわ。腹が立つから言ってやろう。
アグネス「ありがたいご配慮ですが、車椅子で。寝てばかりでは体が衰える一方です。ご迷惑で無ければ」
看護兵「それが良いと思います。無事な部位の筋肉が衰えたら、回復もリハビリもあったものではありませんから。だいたい、そんなことを言うくらいなら治るまで待って授与式をすればいいんですよ!」
アグネス「まあまあ…」 - 86二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 18:42:57
貰う勲章の種類は知らないが、従軍記章や部隊表彰を受ければ彼女達も対象者だ。それなのに目の前の怪我人の心配をしてくれるとは。
アグネス「(ヒポクラテスの誓いと戴帽式の際の思いを守ってくれているのね)」
看護兵「はい。持ち上げますよ、一、二、三、はい!」
車椅子の乗せてもらいながら思い出す。そうだ!お礼状も出さねば、ベルリンの病院とグダニスクの軍病院に。それとお見舞いをくれたバルト軍管区の旧ギーベンラート飛行隊のメンバーにお返しの品を郵送しないといけない!
アグネス「(アーモリーワンの特産品とかどうだろう?アーモリーワン饅頭とかアーモリーワンチョコレートとかアーモリーワンアイスとか。そう言うのあるかな?)」
キュルキュルキュル。
甲板エレベーターに続く廊下を押してもらいながら彼女達に尋ねる。
アグネス「アーモリーワン饅頭ありますか?」
看護兵「饅頭?日系文化の影響を強く受けた区ではありませんから…。ほぼ軍事施設ですし。でも、何かしら探せばあるとは思いますよ」
そうよね。大抵、各基地にお土産コーナーがあるもの。私は動けないから…ルナマリアにでも見繕ってもらおうかな。スイーツ奢りとかでどうだろう。
エレベーターまで着くと何時もの面子と合流。今日はクレタ戦の勲章授与式なので、モビルスーツ隊は33人。月軌道艦隊も補給、占領地確保で動いたので各艦艦長6人も集結。
それと、ブリッジ要員、アビーも間に合ったみたい。良かったわ。
アグネス「(あとは艦内各班の班長達。額の汗を拭っているマッド・エイブスは走って来たのね。迷惑至極そうね…)」
残念ながら、ラドル隊等中東軍までは呼べなかったようだ。彼らもクレタ戦で補給や占領地確保に動いてくれた。地球で別に授与が行われるのだろう。 - 87二次元好きの匿名さん25/02/18(火) 18:48:58
とは言え、先ずは挨拶…。
バッ、ビシ!
私がご挨拶しようとした瞬間、私に気が付いたその場の全員が此方に敬礼して下さる。名誉勲章を貰ってから慣れた光景とは言え、一斉に仲間からされるとビックリするわね。
私も車椅子上で丁寧に返礼しつつ、改めて挨拶を述べる。
アグネス「おはようございます。こんにちは。お久しぶりの方はお久しぶりです」
私がご挨拶するとその場の艦長の中で最先任のナスカ級艦長が答えて下さる。
ナスカ級艦長「お久しぶりです。お疲れさま。具合はどうですか?」
アグネス「大変です」
ナスカ級艦長「そ…そうですね。ごめんなさい」
正直に答えるとその場でちょっとした笑いが起きる。暖かい笑いだ。ナスカ級艦長は少し恥ずかしそうにしているが、別に大丈夫だろう。産休上がりの彼女を虐めたいわけでは無い。
ハイネ先輩もシンも車椅子上で笑いをこらえている。元気そうで何より。車椅子仲間がいて嬉しいわ!
そんな中、ボッチのアスランは浮かない顔をして佇んでいる。この人、大丈夫か?大丈夫でなくても何ともしてあげられないけれど。
最後にグラディス提督に到着なさる。私が彼女の敬礼に応えているとトライン副長の艦内放送が流れる。
アーサー「時間です。エレベーターを上げます」
タリア「ええ。頼むわ」
50人近くが乗っているエレベーターがぐぅんと上がって行くのは圧巻だ。もっとも、良く考えれば、モビルスーツ1機はこれよりずっと重いのだから当たり前かもしれない
アグネス「(何しろ相当軽いディンですら37トン以上ある。ジンなら78.5トン)」
比較対象として適切かは分からないが、ティラノサウルスは9トン、西暦時代のF35戦闘機が約31トン、M1A2SEP戦車が63トンちょっと。暦法が変わる前のご先祖が私達を見ればビックリすること間違いなしだわ。 - 88二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 00:11:28
そうか。
低体温症→エンジェルレスキュー作戦不参加で、一番元気なのがアスランなのか…
暴走したら止められるやつがいない…
アグネス、出番だぞ! - 89二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 02:01:03
甲板エレベーターが昇った先には、既に来賓の皆様が勢ぞろいしている。ミネルバはドックの中で、その外側には式典用ジンが整列し、何もかもがC.E.73年10月2日の記憶を蘇らせる。この艦は思えば進宙式もまだなのか…。
何処かフワフワした気持ちのまま皆で定位置まで進む。この風景を見るとこれまでの何もかもが下手な冗談のよう…。
タリア「全員、気をつけ!敬礼!」
ザッツ!ビシ!
全員が一斉に姿勢を正し、手礼をする。残念ながら、と言うべきか、冗談でもフィクションでもない。これは現実だ。受け入れなくては。ユニウスセブンは落ちた。世界は元には戻らない。
あの日ここで殉職した人の命も帰ってなど来ない。そんなこと当日は考えてすらいなかった、私は-。
さはさりながら、気分を切り替え参列者を見てみよう。
プラント側はデュランダル議長とシュライバー国防委員長、パーネル・ジェセック最高評議会議員。それと紫服が2名ほど。ジェセック評議員は再選組で司法委員、派閥は確か穏健派寄りの中立だったはず。
アグネス「(国家元首のデュランダル議長、それに対して最高評議会側から別に名代を、という訳ね。司法委員を敢えて選んでと言うことは戦犯の取り扱いについての議論を式後に話し合うつもりなのかな)」
一方、西ユーラシア連邦からは勲章使節団長として外務・安全保障上級大臣を始めとした高官達。皆様、わざわざL4までようこそ。おそらく、このイベントにかこつけて諸々の会議を進める気なのだろう。
聞いていなかったことは式典に他国の使節が参加すること。まあ、当たり前すぎて言わなかっただけね。面子は大洋州連合と汎ムスリム会議、アフリカ共同体とジョージア、アゼルバイジャン、ディオキア市、南アフリカ共和国の使節の皆様方。
それとファウンデーション王国…。
儀礼用の剣を吊り下げた青みがかった黒髪。トラドール国務秘書官だわ。
アグネス「(はぁ…。援助クレクレ王国がまた顔を出して来たわ。ウィラード隊長の件に弱みがあるから邪険には出来ないけれど…。プラントも懐が苦しいと言うのに!帰ってくれないかな)」
経済規模が比較的小さなディオキア市ですら、あそこまで厚かましくない。ガルナハン市も地に足付けた復興を進めていると聞いている。こいつ等は何なんだろう! - 90二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 02:07:38
アグネス「(それとアフリカ共同体…。絶対、旧領回復とスエズ攻めの時機についてプレッシャーを掛けに来たわね。前大戦からの友好国だから、何とかしてあげたいと私も思うけれど、でも正直、かなり厳しいわ)」
ただ、ミネルバの任務は本来、ジブラルタルに集結したスエズ派遣軍の援軍なのだ。
何と、未だに正式には!
ただ、肝心のスエズ遠征軍は欧州方面に順次転用され、今はほぼ全て欧州合同軍と一体化している。。いまさら何をどうせよと言うのか。
タリア「直れ!」
ビシ!ザッツ!
紫服「これより先日のエーゲ海周辺における戦闘に参加したザフト軍将兵諸君諸姉の勲章授与式を執り行う。代表として、月軌道艦隊司令長官、特務隊長タリア・グラディス提督。前にお進みください」
タリア「はい」
名を呼ばれたグラディス提督は姿勢を一切崩すことなく静々と前に進む。その先にはタカオ・シュライバー国防委員長、私自身は関わりが増えたから流石にエアーマンとは言わない。でも、世間ではどうか。正直、今一存在感のない人だわ。
シュライバー「月軌道艦隊司令長官、特務隊長タリア・グラディス提督、ザフトの名によって貴女に、先日決行されたエーゲ海解放作戦の『特別従軍記章』を授与します。この記章は後方基地の要員を含め作戦に参加した全軍人に授与されます。大気圏内の戦闘において、また衛星軌道上から、あるいは一時降下して参加した月軌道艦隊、及びザフト中東軍の作戦従事者全員の貢献をここに称えます」
連日の変事で少し疲れ気味のシュライバー国防委員長であるが、気を張ってグラディス提督のメダルに飾板を付け、証明書を手渡す。
彼女は代表、私達は後で配ってもらう。私の場合、『特別従軍記章』は、前回、二つ目のメダルも飾板5枚になっている。だから、後で貰う記章はメダルだ。
タリア「ありがとうございます」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
来賓の皆様がグラディス提督と私達に拍手をして下さる。まあまあに嬉しいわ。それと、シュライバー国防長官の顔を見るに次は部隊表彰が有るらしい。雰囲気を察して、グラディス提督もまだ下がらない。 - 91二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 02:13:09
シュライバー「続いて部隊表彰を。ザフト軍月軌道艦隊旗艦、惑星強襲揚陸艦ミネルバに7度目の『プラント最高評議会議長部隊表彰』を、その武勇と顕著な功績を賞して。代表して、月軌道艦隊司令長官、特務隊長タリア・グラディス提督」
タリア「はい」
グラディス提督が返事をして軽く白服を着た胸を突きだすと、シュライバー国防委員長が右胸のミネルバの略綬を差し替え、勲記を手渡す。略綬の星が増えて、銀の星1個、銅の星1個になったわけね。配られたら早速付け替えなくっちゃね。
シュライバー「おめでとう!」
タリア「ありがとうございます」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
アグネス「(やはり、月軌道艦隊単位での受賞は無理だったか…。仕方ない。またの機会に)」
今頃、フェブラリウス市で入院中のレイもこの映像を見ているのだろうか。というか、あいつも受勲を受けるだろうから、別のタイミングで使いの者が訪問するわ。
アグネス「(ちゃんと大人しくやっているかな?『どうせ俺は長くない』とかまた言い出していたら蹴とばさないといけない。足怪我していて、今は無理だけど)
まあ、あのアホのことはともかく-。
従軍記章と部隊表彰を代表で授与され、グラディス提督は一時下がる。彼女が下がるのを待って授与者もシュライバー国防委員長からデュランダル議長に入れ替わる。何事かな?
紫服「特務隊アグネス・ギーベンラート、前に…ゆっくり出なさい」
アグネス「はい」
ちゃんとした道徳を身に着けた人間は車椅子の人に優しくなる。小学校前から叩き込まれたせいで殆んど本能だ。ありがたく甘えさせて貰う。
看護兵にゆったり押してもらいモラハラエネ夫、セクハラ・パワハラワカメ、腹黒議長ことギルバート・デュランダル議長閣下の前に進み出る。
無論、お互い顔はニッコニコだわ。表向きね。いや、今は本心か、これはやったかな! - 92二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 02:22:12
デュランダル議長は勿体ぶることもなく、かと言って軽々しさも感じさせない、絶妙な間を取った話し方で口上を読み上げる。
デュランダル「特務隊アグネス・ギーベンラート。プラント最高評議会の名において、貴女の義務を超えて命を危険に曝す際だった勇敢さと大胆さに対して、『最高評議会名誉勲章』を授与します。
貴女はエーゲ海作戦において、カオスガンダムを操縦し、ロドス島の軍事空港にセイバーガンダムと2機で大気圏を敵前降下、先に決行されたニュージーランド奪還戦の疲労をいささかも垣間見せることなく、これを陥落させた。
そこから2機で続けざまにカルパトス島とカソス島、クレタ島東部の地球連合基地を痛打し陥落させ、本隊たる惑星強襲揚陸艦ミネルバの大気圏降下成功に決定的な役割を果たした」
あの時の戦闘、今思い返しても頭おかしくなるわ。よくあれだけ連戦できたと自分でも不思議に思う。
デュランダル「ミネルバ降下後はモビルスーツ隊の一員として母艦ミネルバと共にクレタ島各地で奮戦、著しい功績をあげ続けた。
西ユーラシア政変勃発に伴いミネルバとモビルスーツ隊が転進する中、最後にセイバーガンダムと2機でサントリーニ島に大気圏を敵前降下して強襲し、自身が重傷を負いつつも驚くべき冷静さを保ち敵拠点陥落に貢献した。
その奮戦と献身に心底からの感謝を。おめでとう」
腹黒議長は口上を述べ終わると私に感状を渡してくれるのでありがたく受け取りながら返事をする。
アグネス「身に余るお言葉です」
デュランダル「いや、君の果たした役割を考えれば当然のことさ」
そう言うと、彼は私の前からわざわざ後ろに回り、看護兵から車椅子の手押しハンドルを代わる。そして、私の向きを前後逆にして顔を皆の方に見せる。そして首に中綬(リボンで首にかけるタイプの勲章)を掛ける。ねっとりした手つきが恐いわ。
アグネス「ありがとうございます」
まあ、貰えるものは貰っとけばいい。
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
周りの人達、月軌道艦隊とミネルバの戦友も嵐のように拍手をしてくれる。何か照れるな。これで『最高評議会名誉勲章』の受勲は2度目か。何というか拍子抜けしたかもしれない。 - 93二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 02:33:21
アグネス「(守りに入ったら死ぬ。イケイケで行くわよ。これからこれから!)」
それから略綬や名誉勲章旗等を受け受け取り看護兵に押してもらって皆の列に戻る。
私の受勲の後も式は滞りなく進んでいく。
グラディス提督とアスランとシンには、その著しい軍事的貢献を賞され『ネビュラ勲章』が授与された。
アスランの勲章アレルギーはもう遺伝子レベルまで達しているようだ。胸に着けてくれているシュライバー国防委員長にも議長の『おめでとう』にも無反応。それどころか、若干、議長相手に無言の抗議を向けている感がある。
アグネス「(諸外国の目もあるの。お願い、そう言うの後にして!)」
戦闘に参加した他の30人のパイロットと匿名のミネルバクルー1名には、大きな責任を伴う任務において、並外れて功績のある奉仕をしたことを賞し『特殊勲章』が贈られた。
アグネス「(特殊勲章を受けた匿名のクルーはメイリンのことね。表に出てはいけない活躍だから。後でコッソリ、グラディス提督が渡すんだわ)」
そう思うと少し心が救われた気分になる。前線で戦っている自分達が認められたい気持ちはある。でも、報われずにいる仲間の横で無邪気にはしゃげるほど鈍感には成れない。成れなくなったが正しいか。
アグネス「(これで将来、メイリンの出世は間違いなしよ。でも、そう言えば、メイリンは出世したいのかな?)」
そう言うことを話す機会が無かった。ちゃんと時間を設けて、もっと、いろいろなことを話してみたい。
ちなみに、プラント側の勲章授与のハイライトはグラディス提督へのものだった。紫服にもう一度呼ばれたグラディス提督が前に進むとその前にジュセック最高評議員が立ち、勲記を広げる。
ジェセック「プラント国民タリア・グラディス殿、私、パーネル・ジェセック最高評議会議員はプラント最高評議会並びに60人議会の名代としてお伝えします。両議会は3分の2以上の賛意を持って、貴女に『議会の感謝』を決議しました。祖国プラントに捧げられたその並外れた功績を称え、国民を代表して感謝の意を表します」
タリア「ありがとうございます」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ! - 94二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 02:38:17
今度は私達皆で拍手だわ。まあ、私は左手の怪我のせいで拍手の形をとっている、という方が正しいけれど…。何時も厳しい顔をしている上官がはにかんだ笑みを見せているのも面白い。
それに、最近、この人にある種の共感を寄せるようになった自分に気が付く。
アグネス「(管理職、それも軍事組織の指揮官として過ごす日々はストレスの連続だ。まして提督には同格の人がいない。その孤独感がどれ程のものか想像もつかない。私は横にも斜め上にも先人がいてくれる。今のところは…)」
グラディス提督には特大の勲記(感状)がジェセック最高評議員からに手渡される。それをちょっと持て余しながらも彼女は私達の列に戻って来てくれる。
野球ならこういう時、ビールを掛けるのかな。野蛮人の風習だと思っていたけれど、少し気持ちが分かった気がする。
ジェセック最高評議会議員が下がると今度は外国勲章授与式が始まる。西ユーラシア連邦外務・安全保障上級大臣が使節団長として前に立つ。
紫服「月軌道艦隊司令長官、特務隊長タリア・グラディス提督、前に進んでください」
タリア「はい」
最初にグラディス提督が前に進む。おそらくまた代表役かな。
西ユーラシア連邦外務・安全保障上級大臣
「月軌道艦隊司令長官、特務隊長タリア・グラディス提督殿、貴女に同盟国軍人の資格により『ギリシャ解放作戦従軍記章』を授与します。この記章はギリシャ本土及びエーゲ海諸島において地球連合軍つまりはロゴスの支配から民衆を解放する戦役に従事した全ての軍事組織、レジスタンス、平和的抗議運動員を対象として、参加が証明され次第、証明書と共にお渡ししています。皆さんの貢献に感謝を」
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
ほう!随分太っ腹なメダルね。所謂、『国民運動』としてギリシャ戦役を位置付けたいわけね。
アグネス「(ただ、レジスタンスや平和的抗議運動に参加していた人は必ずしも名簿があるわけじゃないから。目撃証言や自己申告がベースに。認定に時間がかかるかも)」
その点、軍事組織である私達は白黒はっきりしやすい。ただ、戦闘エリアに入らずに任務に従事していた人たちの扱いが気になるけれど、他国の記章。基準に文句は言えないわね。 - 95二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 02:46:50
それと実はプラント、ザフトの法律と軍法として、外国勲章・記章・略綬を制服に付けるには許可が必要だ。先日に私達が大洋州連合から授与された勲章は許可が出ている。だから、西ユーラシアから貰った勲章・記章、その略綬も許可が出なければ、制服姿で身に着けることができない。ただの記念品扱いになる。
まあ、この雰囲気で許可を出さなければ大顰蹙だから、出るんだろうけどね。
それはそうと…。外務・安全保障上級大臣はグラディス提督の左胸に一生懸命、記章をピンで止めようとして手古摺っている。理由は簡単でグラディス提督の胸には既に『先客』の勲章・記章がぶら下がっていたせいだ。
こんな事なら箱に入った状態で渡すんだったと彼も後悔しているだろう。グラディス提督も恥をかかせてはいけないと慌てているわ。
アグネス「(うーん。悪気はないと知っているけど、傍目から見るとシュールね。中年の男性が30手前の女性の胸を必至に触っているわけだから)」
ただ、彼のしっかりした身嗜みから、嫌らしい雰囲気は全く出ていない。やはり、礼装は役に立つわ。
西ユーラシア連邦外務・安全保障上級大臣
「これで良し。本当にありがとうございます!」
タリア「はい」
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やっと上手くいって、大臣殿はご満悦だ。提督に証明書もお渡しして額の汗をぬぐう。
彼の振る舞いを見て、はたと気づく。彼が上手く記章を止められなかった理由は、『先客』云々では無い。緊張と-恐れだ。
アグネス「(大物なんだ。既にグラディス提督は…。多分私達もセットで)」
これまで武勲を上げまくって来た当然の帰結だ。悪いことではない。ただ、他所の国の大臣に居心地が悪い思いをさせてしまうのは考え物かも知れない。行き過ぎれば我が身を滅ぼすことになるかも知れない。 - 96二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 03:28:15
最初の一つを終えると、大臣はそのままグラディス提督を引き留め1枚の勲記と-。今度は緑色の飾緒を箱から丁寧に取り出す。
アグネス「(ほう。飾緒型の部隊勲章、フルラジェールね!)」
左肩から左腕を通して右胸に止める飾緒は(着用方法に微妙な差異あり)、参謀の印として身に着けられることも多い。しかし、主にフランス式の軍事制度を取り入れたヨーロッパ諸国は参謀章とは別に功績を上げた部隊の勲章として飾緒を用いる場合がある。
部隊の勲章だから、部隊表彰と同様に身に着けられるのはその部隊に配属中期間のみ。ただし、その勲章授与時に部隊に所属していたメンバーのみ転勤後も着用を継続できる、というものね。
西ユーラシア連邦外務・安全保障上級大臣
「プラント・ザフト軍月軌道艦隊、貴女達の部隊・艦隊は、既に達成された西ユーラシアの解放及び現在進められている西ユーラシアの解放に、顕著な功績を上げられました。その貢献を後世の記憶にとどめるべく、ここに『西ユーラシア解放勲章』を授与します」
タリア「ありがとうございます」
外務・安全保障上級大臣は、今度は懲りたのか使節団の女性軍人を目線で呼んで提督の左肩に飾緒を付ける手伝いをさせる。見たところ、派手さのない簡素な形式の飾緒だ。
あの形状からすると-本来、左肩上のボタンで留めてくるっと左脇を通し、紐を持ち上げてもう一度、それを肩のボタンに引っ掛け先が丸まった釘状の先端を前に垂らす、というもののはず。
ただ、ザフトの制服の肩部分にはボタンが無い。向こうもそれは分かっているので授与される飾緒にはボタンがセットになっている。授与式では安全ピンで代用することにしたらしい。
大臣は少佐の階級章を付けた使節団員の力を借り、今度はスムーズに授与して見せる。
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ! - 97二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 03:38:40
二人の手並みで無事、格好よくフルラジェールを身に着けられたグラディス提督に皆が喝采を送る。
シン「アグネスは普段あれをつけるのか?」
隣の車椅子の上のシンから能天気に聞かれたので答える。
アグネス「ええ。立派な行いでもらったのだもの。死ぬ時も身に着けて逝くべきだわ」
これはフルラジェールに限らず、勲章・記章についての私のスタンスだ。とは言え、故事に倣ったものだけどね。
シン「むむ…。ネルソン提督か。そう言う考え方もあるね。でも、プラプラするしな…」
アグネス「あんたは普段、略綬付けてないでしょう。好きにすれば」
シン「そうか...うん。そうだね」
目線の先ではグラディス提督への勲章授与が続いている。うん?
西ユーラシア連邦外務・安全保障上級大臣
「続いて、『西ユーラシア解放勲章』の個人授与を行います。グラディス提督はどうかそのままに。アーサー・トライン副長、モビルスーツ隊パイロット、恐れ入りますが、前にどうぞ」
アーサー、アグネス、一同「はい!」
皆で元気よく返事をして前に進む。私は押してもらう。副長はブリッジを守っているから来られない。名前だけでも呼んだ形か。
まだ元気な私達、対照的にずっと着せ替え人形と化しているグラディス提督はお疲れモードだ。顔の表情が無表情になりつつある。もう寝たいだろう。それはそれで実は私も同じ。
だが、ここは我慢、皆で整列する。やはり、外務・安全保障上級大臣は列に正対し、代表のグラディス提督に勲記を渡し、左胸に勲章が付ける。私達は後で配られる。私達は省略されてしまったが、あと34人も付けて回れないだろう。 - 98二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 05:35:44
そう思っていると、大臣は使節団から新たな箱と勲記を受け取り、私の前まで歩いて来て足を止める。
西ユーラシア連邦外務・安全保障上級大臣
「ザフト軍月軌道艦隊旗艦ミネルバ、パイロット隊、特務隊アグネス・ギーベンラート女史、ここに西ユーラシア連邦は、多大な貢献を果たした同盟国軍人の資格で、貴女に『西ユーラシア連邦軍勇敢名誉十字勲章』を授与します。
女史は西ユーラシアを解放する為の一連の戦役の中の一つギリシャ解放作戦において、ロドス島への敵前大気圏降下からサントリーニ島占領までの一連の戦闘に顕著な功績を上げました。
任務に臨んでは、常に前線で我が身を敵前に曝し、遂には負傷を負いながらも持続的かつ静謐な勇敢さを示し、軍事任務を完遂しました。その献身を称えます。おめでとう」
アグネス「ありがとうございます」
そう返事をすると外務・安全保障上級大臣は、私の左胸に十字章を付け、勲記を手渡す。怪我の功名とはこのことか(違う)!なんか皆より少しだけ格上の勲章がもらえたわ。
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
一緒に並んだグラディス、ハイネ先輩やシン、ルナマリア、ショーンやデイル他皆が拍手してくれる。アスランも義理で拍手をしてくれる。
嬉しい泣きそう。レイがいてくれたらもっと嬉しかったかもしれない。僚機を失ったことがないのが私の密かな自慢だ。どうせなら皆で一緒に受勲されたかった。
アグネス「(まあ、あいつもどうせ病院で受け取るんだけどね。冷かしに電話してやろうか?)」
とは言え、今度こそ最後だろう。私も疲れて来た…。列に戻って一安心していると、勲章使節団からまた誰か出てくる。
アテネ市長「えー。続きまして。アテネ市からグラディス提督に名誉市民権と証明書並びに『アテネ市の鍵(名誉市民の鍵)』の授与を…」
今度こそ最後かと思えば…。名誉なことなんだけれどね。もう、諦めモードのグラディス提督は虚無の顔になりそうなのを必死にこらえて笑顔を作り前に進む。
見た感じこれが本当に最後だから!寝不足だと知っていますが頑張ってください。 - 99二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 11:36:21
司会:「ここでデュランダル議長からお祝いのスピーチを……」
全員:((((((((ぶっ転がすぞテメエ)))))))) - 100二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 12:16:47
疲れたときは勲章貰うより、とにかく寝たいよね…
- 101二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 13:47:04
本題と同じくらいかそれ以上にお偉いさんのスピーチのが長い、ただの学生や社会人でもありがちだよね(遠い目)
- 102二次元好きの匿名さん25/02/19(水) 15:21:50
手短にとはいかない外交儀礼だからねえ、栄誉だけど全く休まらない
- 103二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 01:06:56
グラディス提督が西ユーラシア連邦ギリシャ地方政府アッティカ地域アテネ市から名誉市民の称号を授与され、ようやく長かった式典に終わりが見え始めた。
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
彼女に向け、私は不器用な拍手を送る。どうも左手の自由が利かないのはいけない。右手ならもっと悪かったと思うけれど。
アグネス「(しかし-。グラディス提督、目の下の隈がもう化粧で隠せていないわ。殆んどパンダみたい)」
アグネス「ふ…。くく…」
シン「アグネス?」
車椅子で並んで座っているシンが隣から心配そうな声を掛けてくる。大丈夫、何でもない。
アグネス「(く…くく。いけない、いけない。長い式典に参列するとき特有の変なテンションになって来たわ)」
礼服をきっちり着こなした市長の横にザフトの白服を着たパンダ(雌)、そのイメージが網膜に焼き付き、思わず吹き出しそうになってしまう。失礼な意味じゃなくてカンフーパンダみたいな感じのやつね。
意地悪な気持ちじゃないつもりだ。私だって、グラディス提督の名誉市民権授与は本当にお目出度いし、心からお祝いしているのだ。でも。このテンションは別勘定だわ。
アグネス「くくく…」
シン「おい?気分が悪いのか?」
アグネス「いえ、平気。何でもないわ!」
シン「ならいいけど…」
いけない。落ち着け。長い式典は幼い頃から慣れっこだ。怪我したからと言って精神まで赤ちゃん返りして居たら、両親に失望されてしまう。
アグネス「(いや、それよりも、私自身が自分に失望してしまう…。もう少し頑張ろう)」 - 104二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 01:11:16
私が再度、気合を入れ直す中、式場の配置が少し変化する。緑服の一般ザフト兵が、ミカン箱大のスピーチ台を前に運んできた。今度は祝辞の時間か。
今後の世界情勢を占う大事な一次情報、ここは気合を入れて聞こう。意識がしんどいけれど。
紫服「それではこれより、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルより、忠勇なるザフト軍将兵諸君諸姉に祝辞を賜ります」
タリア「全員、気をつけ!敬礼!」
ザッ!バッ!
グラディス提督の号令が掛かるや、私達は皆で一斉に姿勢を正し敬礼する。少し緩んでいた空気が、氷の鞭で打ち付けられたかのように引き締まる。便利なものだ。教育を通して、私達はオン、オフのスイッチを脳幹の最奥に移植されている。
司会の合図で演台に向かい始めたデュランダル議長は、私達の姿勢に少し感銘を受けたような表情を浮かべる。まあ、これくらいは普通だと思うけれど。何時ものことだし。
議長が右手を右胸に当て、姿勢を直したタイミングでグラディス提督は号令をかける。
タリア「直れ!」
バッ!ザッ!
デュランダル「ありがとう、グラディス提督。皆さん、私はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです。本日こうして、友好国の使節のご臨席の中、西ユーラシア連邦勲章使節団の皆様方と共にエーゲ海・ギリシャで奮戦してくれた勇敢なザフト軍人諸君諸姉に無事、栄誉を授けることが出来たこと、大変うれしく思います。グラディス提督以下、この場の、そしてこの場の外の勇士の皆、改めておめでとう」
タリア、アグネス、ザフト軍一同「はい!」
私達の返事に議長は笑みを以って答える。相変わらず、底が知れない気持ち悪い笑い方だ。そんな感想を抱いていると、ふと、こちらを監視するような視線に気が付く。 - 105二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 01:19:03
報道陣ではない。もっと鋭い!
私達を値踏みし、味方と敵を峻別し、篩にかけるような眼差し。
アグネス「(誰?!)」
反射的に眼差しの元を辿ると、その先にはファウンデーション王国使節トラドール国務秘書官の姿があった。
アグネス「(彼女が、何故?)」
戸惑う中、今、ちょうど目線が合った!
アグネス「…」、イングリット「…」
一瞬二人でお見合い状態になる。間違いないあの目線は彼女のもの。
観察より強い意志が籠った視線、どういう意味だろう?ミネルバと月軌道艦隊の動向を注視するよう、ファウンデーション王国本国から命じられているのか?
奇妙な膠着は議長のスピーチが続くうちに自然解消される。
デュランダル「月軌道艦隊、ミネルバ所属の諸君諸姉にプラントを代表して改めて感謝の意を表します。傷ついた身体を癒し、十分な休息を取りつつ次の戦いに備えて欲しい。
君たちの戦っている戦争はこれまでの戦争とは違う。真の敵はナチュラルでも地球連合でもない。もっと大きなロゴスの創る歪んだ戦争のシステム、そのものとの戦いだ」
来賓席に奇妙なざわめきが生じる。それはそうだ。私も驚いている。
アグネス「(『真の敵は地球連合でもない』って、最高評議会ちゃんと通した上で言っている?国防委員長もジュセック評議員も何となく空気で聞き逃しちゃったけど、大問題よ)」
私は、てっきり対ロゴス戦と地球連合軍との戦争を両輪でやって行くものだと考え、現にそうして戦ってきた。知らない間に本国の方針が変わったのか?
アグネス「(地球連合軍、条約締結国とは先に休戦条約を結び、正式な講和条約までフェイズを進める。その上で『地球圏連合』的な組織を創設してロゴス戦に集中すると言う意味なのか?)」
しかし、議長の口ぶりから察するに、どうやら彼は今の戦争の延長線としてロゴス戦を継続する気満々でいるようだ。こんなことを言われたら、『えっ』となるのは当然だ。 - 106二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 01:26:14
心配して来賓席に視線を遣ると、幸いなことに最初の動揺は沈静化している。一瞬驚きはしたものの、議長の言葉を単なる政治的修飾の一つと捉え納得したのだろう。
私としても『お得意のアジテーションが始まった』くらいに考えておくべきか。
それならそれで腹立たしいわ。こっちは怪我して、リモートワークがやっと、と言うくらい調子が悪いのに。どうでも良いことをべらべらと!
ともあれ、聴衆に一瞬走った戸惑いに気づかぬふりをしながら議長は話し続ける。
デュランダル「そう、君達いや私達にとって、真の敵は軍需産業複合体、死の商人、ロゴスだ。私とて先に名を挙げた方々に君達をただ送るような馬鹿な真似をするつもりはない。だが仕方ない。彼等は言葉を聞かないのだから。それでは戦うしかなくなる。それもまた現実だ」
『えっ…』『うん?』と腑に落ちない言葉の端が周囲の戦友幾人かから漏れる。当然、私も首をひねる。流石に声には出さないけど。
戦友達の幾人かが引っ掛かりを覚えているのは、議長の『言葉を聞かない』と言う部分だ。素直に聞けばデュランダル議長はロゴスと何かしらの和平交渉(と表現すべきかはともかく)や妥協案の申し入れを既に行い、残念ながら拒絶された。だから、戦うのだ、と言う風にも受け取れるが…。
最高評議会が犯罪組織・テロリストと本当に交渉を図ったのかは微妙なところだ。個々のメンバーと司法取引するならともかく。少なくとも特務隊として私は何も聞いていない。
アグネス「(うーん。まさか、議長のテレビ演説に応えてくれない、と言う意味でもないだろうし。この発言も政治的修飾かな)」
この男も流石にテレビ討論で問題が解決すると思っている訳でもあるまい。ビックリさせないで欲しい。段々気が滅入って来る。その間も議長のアジテーションは続く。
デュランダル「私自身、矛盾した、困った話と分かってはいるが。もう二度と戦争など起きない平和な世界と、戦場になど行かず、ただ愛する者達とありたい、そう願う人々のために。君達の力を存分に振るって欲しい。私は最高評議会議長として、その為のあらゆる助力を惜しむつもりはない」
気合を入れて戦え、艦もモビルスーツも補給もドシドシ準備してやるから、と。言質を得た。軍人としてはそれが一番気になるポイントだった。腹ペコでは戦えない。何よりだわ。 - 107二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 01:36:37
議長はここまでで一旦、言葉を切り、視線を軽く来賓の使節たちに移す。
デュランダル「ロゴス、彼等こそが平和を望む私達全ての真の敵です。彼等は和平を望む我々の手をはねのけ、我々と手を取り合い、対話による平和への道を選ぼうとした人々を住民、都市ごと焼き払ったのです。そんなことの繰り返しは、今度こそ、もう本当に終わりにしたい。歩み寄り話し合い、今度こそ彼等の創った戦う世界から共に抜け出そうではありませんか!皆さん」
パチパチパチパチ!
真っ先に拍手を始めたのは、トラドール国務秘書官。まあ、ファウンデーション王国の立場的にそうなるわね。
パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!パチパチパチパチ!
それに釣られて他の来賓、出席者からも拍手が始まる。私達も嫌だけどしないといけないのか。
タリア「全員、気をつけ!敬礼!」
ザッ!ビシッ!
グラディス提督の号令の下、月軌道艦隊全員で姿勢を正し、敬礼する。おかげで誰も拍手せずにすんだわ。見事な事務的な対処。
アグネス「(グラディス提督、腹に据えかねたわね。議長へのナイスな良い嫌がらせだわ。ざまあみろ)」
しかし、当の議長はグラディス提督の視線に余裕をもって応じ、右胸に手を優雅に当てて返礼を返してくる。
タリア「直れ!」
ビシッ!ザッ!
議長は聴衆に笑みを振りまきながら静かに演台を後にする。まあ、良い。これでやっと-。
紫服「続きましては、勲章使節団長にして西ユーラシア連邦外務・安全保障上級大臣殿から祝辞を賜ります」
死にそう。
この分だと、少なくとも後、シュライバー国防委員長と欧州合同軍最高司令官(西ユーラシア連邦軍人)、両議会の名代のジュセック最高評議会議員、ギリシャ地方政府首相まで話は止まらないだろう。場合によってはアーモリーワン基地付属地域住民代表とアテネ市長も。
各国使節まで話し始めたらどうしよう。昼食も食べていないのに。と言うか、この後は昼食会か?
アグネス「(耐えろ。心を『無』にするんだ。今の私は差し詰め『伽藍の胴』、心頭滅却すれば火もまた涼し。神よ、私に変える勇気と耐える静謐さと見分ける知恵をお与えください)」
結局、その後、議長に続いて9人話しやがったわ。アフリカ共同体が一番長かった!何とかして。 - 108二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 01:54:56
おいおいどうすんだよ
敵の攻撃じゃなくてお偉いさんの長ったらしいスピーチの最中に倒れましたとか笑い話にもならんぞ
というかもうアグネスたちを休ませてくれ - 109二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 09:48:42
>傷ついた身体を癒し、十分な休息を取りつつ次の戦いに備えて欲しい
とは言ってるから⋯まぁこの人の建前を完全に信じられるかっていうとアレだが
表彰終わったし、あとは戦闘での報告が全部済めば怪我の回復と新機体受領〜習熟の時間かねぇ
- 110二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 10:04:55
これはミネルバクルーが反乱を起こしても文句を言えないレベル。イングリットが読心していても、最後は
全員;「「「「早く終われ早く終われ早く終われ! でなきゃオマエヲムッコロス!!」」」」
となっててドン引きしたろうな(w。 - 111二次元好きの匿名さん25/02/20(木) 19:27:57
保守
- 112二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 00:44:43
保守
- 113二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 02:42:31
紫服「-以上を持ちまして、ギリシャ・エーゲ海解放に伴う勲章授与式典を終了いたします。使節の皆様、本日はお忙しく、戦況も逼迫する中お集まりいただきありがとうございました。なお、ご来賓の皆様には、当ドックからご宿泊先のホテルに送迎バスをご用意しておりますので…」
紫服の閉めの挨拶と次のアナウンスを、まるで天からの啓示を受けたような気分で聞く。やっと終わったのだ。もうヘロヘロだ。多分、グラディス提督もそうだろう。
アグネス「(勲章授与式の後は、本来なら昼食会が予定されていた。しかし、私とシンとハイネ先輩、つまりメインどころ3人が負傷中という事情もあり-、中止された。正直助かったわ)」
本来はそうした場に積極的に顔を出して人脈を作り、情報収集するのが正しいのだ。しかし、今回はコンディションが悪すぎる。一旦、仮眠を取らないと、リモートワークの続きも出来ない。
ハイネ「全員、気をつけ!敬礼!」 ザッ!バッ!
ハイネ「直れ!」 バッ!ザッ!
ハイネ先輩の号令の下、もう何度目かも分からない敬礼を済ませ、返礼を受ける。グラディス提督は来賓の方達と共に行かれる。彼女と共にお偉いさん達は甲板をエレベーターで降りていく。私達が乗って来たモビルスーツ用ではない方のものだ。
私達はようやくお役御免となるが、グラディス提督の仕事はまだ続く。本当に大変なお役目だわ。艦隊司令官とか艦長、当然なる予定だけど、今から鍛えておかないと将来きつそうだわ。
看護兵「アグネスさん、病室に戻りますね」
背後から、車椅子のハンドルを握った看護兵の声が掛かる。いけない、頭がボゥッとしていたわ。
アグネス「はい…。お願いします…」
ほぼ虚脱状態になりながら看護兵に返事を返し、皆にも挨拶を済ませる。
アグネス「皆さん、失礼します」
気が付けば、身体が辛すぎてこれ以上言葉が出ない。緊張の糸が切れたか。もう一人の看護兵は勲章類や勲記、証明書が入った紙袋を持ってくれている。ありがたい、それ忘れて行ったら後が大変だわ。
少し残念なことは、同じ車椅子組のハイネ先輩やシンにまで同情の視線を向けられること。もっと自分は強い人間だと思っていた。でも…、限界だ。半分寝落ち(?)しつつ、甲板を押されて病室への帰路を進む。 - 114二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 02:45:08
キュルキュルキュル、キュルキュルキュル…。
アグネス「(皆は仲間同士で食事をとるのだろう。良いなぁ…)」
看護兵「では、ハイネさん、シンさんも病室に戻りますよ」
ハイネ「はい。お願いします。皆、お先に失礼な」
シン「ごめん。お先に」
訂正、どうやら負傷兵組の運命は同じだったようだわ。怪我人は怪我人らしくしなさい、と言うことね。
男女に病室は分かれるが、最後の力を振り絞り、ハイネ先輩とシンにアイサインを送る。『頑張って早期回復しましょう』と。
上手くメッセージが伝わったか、定かではないが…。二人からも気合が入った眼差しを受け取る。『ああ!勿論』と言ったところかな。
それと、他のパイロット組と一緒にいたルナマリアが、とことこ此方に歩み寄って来る。
ルナマリア「付き添うわ」
アグネス「うん…」
お礼を言う気力も途切れて、一つ頷く。この体調で頭を振ったのが良くなかったようだ。首を振った瞬間、私の意識は揺り籠から転げ落ちるように、ふっと落ちてしまった。
次に病室で瞼を開けた時、目に飛び込んだ時計の針は3時を指していた。3時!
アグネス「仕事が!何てことを…」
メイリン「うわぁ!アグネスさん…。目が覚めましたね」
何やら悪夢にうなされるように目を覚ますと、腕には点滴が刺され、付き添いスペースにはメイリンの姿がある。ルナマリアと交代したのね。
アグネス「ごめん。無理しなくていいからね。せっかくの休憩時間に…」
メイリン「いいえ。好きでやっていることなので」 - 115二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 02:59:34
この親切を何時かお返しできる日は来るのだろうか。感謝の念を込めて、メイリンの顔をもう一度、見つめる。
アグネス「メイリン、おめでとう」
『特殊勲章おめでとう』とは言えない。匿名の意味が無くなるから。ただ、私の言葉を聞いた彼女は両眼を輝かせて応えてくれる。
メイリン「ありがとうございます。アグネスさんこそ、受勲おめでとうございます」
アグネス「ふっ…。当然の評価よ。でも、成果に合ったものを貰えて嬉しさ倍増だわ。どういたしまして。悪いけれど、業務用のデバイスを取ってくれる?」
メイリン「はい。仕事熱心ですね」
アグネス「いや、放り出すわけにも行かないし…」
何しろ、もう15時だ!各組織への報告と手続きも大事…、そっちも進めている。でも、今日も実施されている地上の訓練生の教育も管理しないといけない。
慌ててキーボードをたたき始める私を制して、メイリンが話を付け加える。と言うより、こっちが本題のようだ。
メイリン「その前に一つ。パーネル・ジェセック最高評議会議員(司法委員)は今晩、アーモリーワンのホテルにご宿泊なされます。議長は放送局に出演予定で既にアーモリーワンを発ちました。各国使節の方も夕刻には出発します」
ほう。それは、それは…、うーん。だからどういうこと?
メイリン「特務隊長グラディス提督から伝言です。『ジェセック最高評議会議員は司法委員として、特務隊アグネス・ギーベンラートと特務隊アスラン・ザラ、ミネルバクルー・メイリン・ホークにヒアリングの実施を希望なされている。特務隊長として命令は出来ないが体調が許す限り協力して欲しい』と」
なるほど。それで彼は議長とは別行動なのか。
メイリンは少し興味深そうな表情で私を見つめる。ここは口に出して言うべきね。
アグネス「プラント最高評議会における司法委員会は他国の司法省(法務省)を管轄する。その権能には司法局(警察機能)も含まれる。ザラ派政権下で司法局が政治的中立を保てなかったことを彼は反省しているのでしょう」
ザラ派の私としては耳の痛いポイントだ。当時は諸々の事情があったとはいえ、今思い返せばやり過ぎだったと思う。 - 116二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 03:14:43
アグネス「それに加えて-対ロゴス戦が進めば、国際刑事手続きや人道・戦争犯罪者等の勾留・矯正・恩赦・仮釈放、難民等の出入国管理、それらが一気に増える。業務量は数倍、しかも政権べったりとは行かない性質のもの多い」
そこまで話すとメイリンは得心が言ったという表情を浮かべる。彼女の顔を眺めながら、軽く予想してみる。そうなると、ジェセック評議員・司法委員が私達に尋ねたいことと言うのは-。
メイリン「ジュセック評議員のヒアリングの内容は戦争犯罪と人道犯罪、ジェノサイドについて。具体的にはロアノーク大佐とバヤン中尉関連です。アスランさんはその目でフラガ少佐を確認しましたし、私達はアスハ代表を間に挟んでではありますが、彼らの様子や事情を聴いたメンバーだから、と」
メイリンの話を聞いて、あの慌ただしい一日を回想する。
あの日、私とアスランはブリュッセルのカザエフスキー評議員を通して『ロアノーク大佐=フラガ少佐』問題を最高評議会に報告していたのだ。バヤン中尉を始め、ファントムペイン構成員の一部がブルーコスモスから拷問的洗脳を受けていることも。
アグネス「(それを踏まえ、プラントと世界の司法・警察は彼らとどう向き合うべきか。ジョセック評議員は、ひいてはプラント司法委員会一考したい、と言ったところか)」
私の予想をメイリンはすぐに肯定する。
メイリン「はい。是非詳しく。個人的な所感を述べても構わないと」
ありがたい申し出だ。あの日伝えたこと以上にお伝えできることがあるかは分からないが...。私達は今後テロリストたちと戦っていかないければいけない立場、司法委員とコミュニケーションを取る機会は大事にしたい。
アグネス「分かったわ。断る理由はない。時間とかが決まったら…。ごめん。そのあたりの調整、メイリンに任せて良い?アスランにも聞いて」
メイリン「お安い御用です。ところでアグネスさんは今、どの仕事をしているんですか?」
興味深げにメイリンは聞いてくるが…。残念、世界は散文的なのだ。
アグネス「今は教官業務よ。一応機密だから見たらダメ」
メイリン「はーい」
アグネス「元気な返事をありがとう」
まあ、メイリンは多分、見ようと思えば見えるだろう。その辺は紳士協定だ。 - 117二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 03:24:47
アグネス「(こちらが此方で大変だわ)」
地上に残ってくれているシホ先輩、彼女が仮に立てて進めて下さっているカリキュラムと訓練計画を確認してみる。なるほど、コンパクトでありながらも良くできている。
考えてみれば、グフの訓練生を最初に鍛えたのはジュール隊。彼女はそれの引継ぎも兼ねて地上に来たのだ。行きがかり上、私の指揮命令系統に組み込まれているが、訓練生との付き合いは彼女の方が長い。私よりも彼らの人柄や力量を把握しているだろう。
アグネス「(ただ、シホ先輩ご自身の対陽電子リフレクター装備機戦の経験値が少し足りない感があり。それが計画にも出てしまっている。ちょっと捻らないと、皆の強化訓練が中途半端に終わってしまうわ)」
デストロイ+αが彼女の目標、と言ったところだろう。シュライバー国防委員長の意向もそうだった。ただ、私としてはそれで足りるか甚だ疑問だ。
大型陽電子リフレクター装備搭載機と随伴モビルスーツのコンビネーションの対策までは良い。だが、出来ればそれらが複数連携してきた場合まで対処できるようにしたい。終了後、訓練生を死なせたくない。やはり、これでは最終目標地点が低いようにも思う。
アグネス「(私が寝込む前に出した命令、『グフと空戦機(バビ・ディン)の連携を重視した訓練を実施すること』はきちんと実行されているわ。シホ先輩、ありがとうございます)」
確かにグフはパイロットを選ぶ。戦力投入のタイミングも難しい。けれど、間違いなく優れた機体。ドラウプニル4連装ビームガン、スレイヤーウィップ、打突用トゲ付大型ビームシールド。どれも重宝する。何より実体剣を併せ持つテンペスト・ビームソード、これが心強い)」
最近のザフトの武装は少しビームに寄り過ぎているように思う。それに対する連合の返答が陽電子リフレクター、この流れは厄介だがどうしようもない。カウンター技術は常に考慮しておかないと。ビーム一辺倒の流れは改めるべき。
アグネス「(だから、対艦刀とまでは行かずとも、テンペストくらいの直接『斬れる・ぶん殴れる』質量兵器は大切だわ。そうなると、グフはバビと2機編隊で戦うのがベストなのか?でも、そのまま乱戦になり、近接戦に移行した場合、バビが足を引っ張ってしまうかも)」 - 118二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 03:41:58
煮詰まっている場合じゃない。
一日ごとの訓練結果や事後報告に目を通して、チャックや採点をしていかないと、それをフィードバックさせないと意味がない。副教官がやってくれていた分も再確認して…。私が寝ている間にも彼らの明日は来る。
そんな私をメイリンは感心したような、呆れたような顔をして見つめてくる。失礼ね。
メイリン「教官業務も抱えたままだったなんて…。分かりました。アスランさんにも声を掛けて、段取りしておきます」
アグネス「お願い。私もシュライバー国防委員長が今日ぐらいにお役御免と言ってくれるかと思っていたんだけど…。頑張るしかないわ。」
ここで投げ出して、死人が出たら一生引きずりそうな気がする。間違った感情かも知れない。だけれど、今はそうする以外に思いつかない。
メイリンはそんな私にさっきよりずっと真剣なまなざしを向けてくれる。
メイリン「はい。分かりました。きっと上手くいきます」
アグネス「ありがとう」
病室を辞して遠のくメイリンの足音を聞きつつ考える。
妙な成り行きだけれど、これはチャンスではないか?
ジュセック評議員は建国の父の一人でデュランダル議長の先輩議員、私の父も当然知り合いで私とも以前から面識がある。1年生議員のカザエフスキー評議員とは格が違う。
アグネス「(ラクスのこと、ユニウスセブンの疑念。お伝えするべきか否か…)」
相当迷うところだ。確信を持って言えるのは彼がラクス暗殺未遂の黒幕ではないこと。
中立よりの穏健派で、既に功成り名を上げている彼がラクスを害する理由は本当に思いつかない。別にラクスを殺したからと言って、そのまま最高評議会議長になれるわけでもないのだ。
と言うか彼なら、もし『ラクス政権』が爆誕しても最高評議会に残れるだろう。
では…。ユニウスセブンはどうか。司法委員としてテログループに目を光らすのも彼の仕事の内だったはず。勿論、司法委員は彼だけではないが-。
アグネス「(わざと見逃したのか?サトー一派を。プラント独立宣言に立ち会った建国の父の一人が?既に独立を達成した祖国を危うくしてまで、テロリストを見逃す?)」 - 119二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 09:06:02
保守
- 120二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 17:38:33
☆
- 121二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 19:07:32
- 122二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:11:15
スレ主さん?
ならもちろんどうぞ - 123二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 21:19:59
- 124二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 22:11:31
うーむ。それはあり得ないかな。第一、ジュセック評議員は、ちらかと言えばユニウス条約支持派のはず。彼には条約締結後の世界情勢をぶち壊す動機が全くない。逆さに振っても全くない。
条約破棄を望んでいた私達ザラ派とは異なる。
アグネス「(そのザラ派であれ、大多数は条約破棄こそ望めども、世界を壊そうとは思っていなかったはず-。まあ、私達のことはこの際、置いておけばいい)」
まだ、シュライバー国防委員長の方があり得るか-いや、無いな。彼は現実主義者だ。冒険主義者ではない。『落下直後の混乱を突いて領土拡大だ!』と言ったノリは無かったはず。
アグネス「(諸々考えて、やっぱりジュセック評議員は白だと推測。彼は…いや、シュライバー国防委員長も。何というか、これ等の陰謀との彼等は距離感、温度感が違うのだ。こう言うことに手を出すような御仁達ではない)」
『じゃあどんな人が手を出すのか?』と聞かれても困るが…。
仮にあの事件をある種の拡大自殺ないし無理心中と捉えるなら、それこそサトー一派のような人間だろう。そして、彼らはある意味本懐を遂げてしまった。
ただ、それを今どうこう言っても仕方ない。今は黒幕なり不作為犯の話をしている。
アグネス「(では、ユニウスセブン落下テロを一般的なテロの定義『政治的な目的を達成するために暴力および暴力による脅迫を用いること』の文脈でとらえるなら。それなら黒幕はある種の革命ないしクーデターを意図していたことになる)」
それならブルーコスモスかロゴスも候補に入るが…。どうだろう?少なくともジブリールではないだろう。『青き清浄なる世界』を自分から汚すのは信条に反するはず。第一、奴等の本拠地は地球、宇宙への影響力はそれほどでもない。やはり、彼らは状況を奇貨としたのみに留まるように思う
そうなると、やはり…。 - 125二次元好きの匿名さん25/02/21(金) 23:41:00
- 126二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 01:21:09
- 127二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 03:26:28
軽く体が震え、動悸がする。
考えられる候補は二つ、権力強化を企むデュランダル議長の派閥ないし彼自身か、あるいは権力復権を挑むザラ派大物(って誰?エザリアおば様やパパは違うし)か。
他にあり得るのだろうか?
大穴を狙って政権外のクライン派とか?いや、それだけはない。『当主』のラクスは当時地上にいたのだ。
アグネス「(落ち着け…。仮定が多すぎる。そもそも、黒幕なり不作為犯がいるのかどうかさえ、本当は分からないんだ。落ち着け、冷静になれ…)」
この二つの問題をジュセック評議員に話すべきか?分からない。最後まで迷いそう。アスランはどう思っているのか…。
その上-。
アグネス「(仕事が…。ああ、もう!どの優先順位で、最高評議員が先か-)」
それでも、今手を付けた教導航空団のチャックと採点、フィードバックは先に済ませる。そうでないと頭がパンクしてしまう。
時計の針を横目に作業を続け、何とか訓練生関係の書類仕事にケリをつける。
本当はシホ先輩や補助教官と協議をしたいし、少し取り残され気味な訓練生のフォローもしてあげたい。シミュレーターを使って遠隔でも、と思っている。それも、怪我で今は厳しいけれど-。
アグネス「(今日はいったん棚上げするしかない。アスランと事前協議を。ただ、その前に自分の意見を纏めなくては)」
先ずはユニウスセブンの落下テロに関して。これは議題にしても良い話だ。なぜなら、既に公開されている情報を基に話ができるから。私にもアスランにもジョセック評議員にも危害が及ぶ可能性は低い。
改めて整理してみよう。
改めて、『ブレイク・ザ・ワールド(ユニウスセブン落下テロ事件)』、C.E.73年10月3日に発生し、世界を一変させてしまった大事件について整理してみよう。
最高評議会議員に支離滅裂な話をするべきではない。そもそもが今回の本題ではないのだから。 - 128二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 03:41:43
あの巨大な大災厄は、残念ながら自然現象や偶然の引き起こしたものではなかった。テロ行為の結果だ。
犯人はザラ派を自認する数十人のザフト脱走兵たち、彼らは『血のバレンタイン』の被害者遺族でもあり、地上のナチュラルと彼らとの融和を図るコーディネイター(特にクライン派)への憎悪に突き動かされていた。リーダーの名前はサトー。
ここまでは確定した情報と考えて良い。私もこの目で目撃した。ファントムペインの馬鹿者どもが邪魔をしなければ破砕できていたのだが…。今言っても仕方ないこと。
アグネス「(そして、その馬鹿者が記録した映像を後日、大西洋連邦が世界に公表、なんやかんやあって今に至ると)」
それは良いのだが-良くはないが-この事件には裏に黒幕ないし不作為犯がいるのではないか、一部のものは―私やアスランを含めーは疑念を抱いている。
陰謀を疑う根拠は、主に3点。
Ⅰユニウスセブン落下テロの動力『フレアモーター』について。
テロリストは8㎞を超える巨大構造物の各所にこの装置を設置していた。厳重な監視下にあるはずのユニウスセブンで誰にも気づかれずにそんな作業が出来たのか?
Ⅱテロリストの装備について。
サトー達がテロ行為に用いた機体はジン・ハイマニューバ2型。近代化改装によりダガー系に迫る性能を有する名機だが、その生産量は極少数。所詮は脱走兵に過ぎない彼らがどうやって高性能機を多数、入手できたのか。
Ⅲプラントの監視体制について。
ユニウスセブンは100年安定軌道にあるとされつつも厳重に監視・管理されていた。にもかかわらず、当日の管制官たちは軌道変更にギリギリまで気づけなかったとされる。それは本当なのか?
本当ならば、現場職員が把握できない手段やタイミングで介入が行われたのではないか。
アグネス「(まずいことにⅠとⅡに関しては、あくまで視覚情報としてではあるけれど、既に世界に公表されている。大西洋連邦が公開した映像にはユニウスセブン全体に設置されたフレアモーター、そしてテロリストが操縦するジン・ハイマニューバ2型、両者がばっちり映っている)」
そして幸いなことに―と言うべきかは分からないが―これらの疑惑は大西洋連邦の対応があまりに稚拙であったおかげで今のところ有耶無耶にできている。ただ、それはそれ。 - 129二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 03:55:02
疑念があること自体はジョセック評議員にも指摘しておくべきだ。できれば白と考えられる他の大物評議会議員にも。
アグネス「(そして指摘するだけでは足りない。対策を―。ジュセック評議員には共犯者探しと陰謀への備えを。そして他にもなすべきことがある)」
一つ目は国内のテロ組織への監視により一層気を配ること。再発防止に努めてほしい。司法局は彼らの管轄なのだから。
そしてもう一つ、近い将来起こるかもしれない、プラントの国際的な責任追及に対して早め手を打っておいてほしい。
アグネス「(もし、テロリストの共犯者が存在するとして。その共犯者がプラント社会の指導的立場にいる人間なら。それこそ、まかり間違って議長だったりしたら…。ないと思いたいが、そんなことがあれば、地球諸国家からプラント国家への責任追及の声や賠償請求問題が再燃しかねない)」
だから、今のうちに、せめてプラントと国交を回復している国については『予防線』を張っておく必要がある。対ロゴス戦でどの国も混乱している隙をついて、プラント外交委員と司法委員会が協力して。
なんとか、万難を排して、これから結ぶ国際条約の条項に『ユニウスセブン落下テロのプラントの責任問題は最終的かつ不可逆的に解決した』、『あるいは〇〇国のプラントに対するユニウスセブン落下テロの国家賠償請権及び民事賠償請求権は落下テロ後にプラントが支払った支援金を以て、もはや解決されたものとする』
といった文言を押し込んでおくべき。かなうなら、これから休戦および講和を結ぶ国家に対しても。姑息と思われるかもしれないが、私はプラントの国民でザフトの軍人、真相の究明以上に国益を優先したい。
黒幕捜しは彼ないし彼女のこれ以上の暗躍の阻止が主目的だ。
無論、判明した事実は遠い将来に公開されるべきとは思うが…。特定秘密として50年後に解除とかどうかな?
アグネス「(この辺りアスランとすり合わせるべきか?でも、彼は実質オーブからの出向者、賛成してくれるか微妙だわ。突き詰めて言えば地球諸国家の賠償請求権の抹消を図ろうというのだから。彼から見たらオーブへの利益相反になるかもしれない)」
ただ、そのあたりはアスランしだいだわ。私としては、こればっかりは譲れないところだ。 - 130二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 09:45:50
ここの思考読み取りされたらヤバいよね
流石に顔も見えない状態では大丈夫だろうけど… - 131二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 09:55:17
病室で気絶してた間に、さすがにイングリットも帰っただろうから大丈夫だ。天井裏に潜んでいたりしたら怖いが。
- 132二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 10:20:30
ジュセックって確か終盤で議長と一緒にメサイアに上がってた人だっけ?
議長シンパだろうから本人から直接話が行ってしまいそうな気もする - 133二次元好きの匿名さん25/02/22(土) 20:08:43
見落としがなければ、彼は上がっていません。
少なくとも最終回の最高評議会には死亡した議長を除く11名がその席についていたので、誰かメサイアに上がっていても陥落までの間に袂を分かった(あるいは議長を見捨てた)と思われます。
なお、その時の最高評議会の一段高いオブザーバー席(?)に青服が1名確認されたので、もしかしたらカナーバ前議長も呼ばれていたのかも。
ただし、もう世界線が変わっているこの世界でどうなるかはアグネス含め誰にもわかりません。
- 134二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:16:15
アグネス「(良し。方針は固めたわ。ラクス暗殺未遂事件は、今回は触れない。具体的な証拠も手元に無い。だから、私たちの証言のみになる。役職上それだけでも十分ではあるけれど。それに加えて『犯人』が確実に政権内部ないしザフト軍幹部にいるとわかっている事件。大火傷を負うことになるかもしれない)」
火の粉を被る覚悟で打って出ようにも私自身が今は重傷でコンディションは最悪だ。陰謀と取っ組み合うのは体力勝負。時期が悪い。
一方、ユニウスセブン落下テロでは少々事情が異なる。既に周知されている情報と証拠から推察可能な可能性を摘示するのみで足りる。もしかしたらジュセック評議員ご自身も勘付いているのでは、とさえ思う。
だから、低リスクで『世間話』ができるし、その範囲で善後策まで意見交換できるかもしれない。
アグネス「(ただ、突出すべきではない。自分自身を守るためにも、仲間に迷惑をかけないためにも。最低限の根回しを!)」
決めたら即実行だわ。時間がない。ナースコールを押して看護兵を呼ぶ。
看護兵「はい?アグネスさん、どうしましたか?」
アグネス「お忙しいところ恐縮ですが、特務隊の案件で、グラディス提督にお繋ぎください」
看護兵「グラディス提督は軍医殿から過労と指摘され、艦長室でお休み中です。睡眠薬をお飲みになり点滴を受けていらっしゃいますが…」
アグネス「え…。ああ、そう言えば!具合が悪そうでしたね。タイミング悪…」
困ったわ。タイミング悪い、では済まされない。提督が駄目となると―。
アグネス「では、ブリッジのトライン副長にお繋ぎください。彼も特務隊ですので。場所を移る場合は、申し訳ありませんが、車椅子を押してください。国家の利益に直結する重要な要件なのです」
私の我儘に『またか』と口をへの字に曲げる看護兵さん。しかし、『国家の利益に直結』と聞きともあれ軍医殿に話を持って行ってくれる。カーテンの内側で聞き耳を立てていると診察室の軍医殿と看護兵の会話が聞こえてくる。案の定、軍医殿は少しごねている。 - 135二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:23:19
しかし、ごねながらも医務室の艦内電話でブリッジに連絡を入れている。それから待つこと暫し。
軍医「アグネスさん、トライン副長から、お話は士官室で聞くと。副長の判断でルナマリアさんも同席するそうです。士官室までは看護兵がお連れします。彼女はミーティング中、室外で待機を」
アグネス「ありがとうございます」
頭を下げようとして、彼に止められる。
軍医「そこ、縫ったばかりです!せめて今日一日は大人しくしてください!」
遂に大きな声で怒られてしまったわ。私、名誉勲章2つも貰っているのに…、関係ないわね。
アグネス「申し訳ありません。そうします」
軍医「よろしい。さあ、どうぞ」
看護兵「行きますよ。一、ニ、三、はい!」
看護兵二人係りで車椅子に乗せられる。少なくとも今日一日はこのフォーメーションの様だ。そのまま、『アグネス係』と化した感のある何時もの女性看護兵に押してもらい二人が待つ士官室に向かう。
アグネス「(ルナマリアが呼ばれたのは、怪我をしていないFAITHが彼女とアスランしかいないからかな。そのアスランが外されているのは副長なりに思うところがあるのかもしれない)」
甲板エレベーターの彼の様子、勲章を授与された時の振舞い方。議長を睨みつけるような眼差し。アスランの心の臨界点が迫ってきている。やはり、キラ・ヤマトが生死不明になったことが大きいのか。
アグネス「(今のアスランにこれ以上何か刺激を与えれば爆発してしまう。夜に一仕事あるのだから、今ぐらいそっとしておいてあげよう、と言ったトライン副長のご配慮ね。分からなくはないわ)」
キュルキュルキュル、キュルキュルキュル…。車椅子の車輪の音はどこか物悲しい。
もしかしたら、アスランはエンジェルレスキュー作戦の真相を知るか、察してしまったのかもしれない。私たちが、いよいよとなれば船体への直接攻撃やモビルスーツの通常撃墜、艦内での殺傷兵器使用を許可されていたと―。
しかし、偶然(ないし敵側の策略)とグラディス提督のご判断もあり、レスキュー作戦はレスキューだけで終わった。彼らを取り逃がしたとも言えるが…、あれ以上どうしようもなかった。でも、その結果はアスランとしても悪いものではなかったはず。 - 136二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:38:24
アグネス「(多分、それもあって。彼は私たちには怒っていない。これまで通り、ボッチなりに戦友意識を向けてくれている。授与式でのときに感じた彼の憤りは―どちらかと言えば議長ないし現プラント体制への不信感か)」
予想するにアスランはボスニア湾最北部の戦いにどこか仕組まれたものを感じているのかもしれない。いろいろあって私も先送りにしているが、ウィラード隊長の譫妄から正体不明機の襲撃まで不審な点はいっぱいだ。
無論、それを議長の仕業と考えるのは飛躍がある。彼もそれを分かっているから、違和感を口に出来ずに抱え込んでいるのかも知れない。
アグネス「(世話が焼けるが仕方ない。アスランはアスランで何とか―できるかは分からないが考えよう)」
第一、この後会うのだから本人に聞けばいい。腹の探り合いが得意な人間ではないのだから。アスラン・ザラには正面パンチに限る。搦手を使おうとすればしくじるわ。
キュルキュルキュル、キュルキュルキュル…
看護兵「着きました。士官室です」
アグネス「ありがとうございます。特務隊アグネス・ギーベンラート、入ってもよろしいでしょうか?」
アーサー「どうぞ。済まない。負傷中に」
士官室の扉が開くと同時にトライン副長とルナマリアの敬礼を受け、私も返礼する。そうこうするうちに看護兵はタイミング良く車輪を進め、室内の机での位置の調整を終えて退出する。
アグネス「お呼び立てして申し訳ありません」
開口一番、失礼を詫びる。別にこの二人も休みだったわけじゃない。ブリッジの業務なり訓練なりで忙しかったはず。
アーサー「いや、良いんだ。グラディス隊長の代わりに自分が聞く。内容はもちろん隊長にお伝えする」
ルナマリア「それでどうしたの?ジュセック評議員のヒアリングの件?」
ルナマリア、話が早くて助かるわ。では、私も端的に言おう。
アグネス「はい。ヒアリングには知っている限りの事実を正確にお伝えします。いくつかの所感も付して。ただ、もう一つ。この機会にユニウスセブン落下テロの疑惑についてもジュセック評議員に摘示しようと思います。グラディス隊長とお二人には先にお伝えしておきます」 - 137二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:46:54
一度に打ち明けると、二人は目を真ん丸にする。
アーサー「ええ…。でも―」
ルナマリア「それで、良いの?」
特にトライン副長は明らかに気圧されしている。ルナマリアはもう少し肝が据わっているが、それでも戸惑いを隠せていない。
アグネス「はい。この機会を逃すべきではありません。ジュール隊長たちも動いてくださっていると思います。しかし、任地の都合や傍受の可能性もあり連携は難しい。私たちもアクションを起こすべきです」
そう切り出し、改めて二人にユニウスセブン落下テロの黒幕ないし不作為犯ないし事後共犯がプラントの内部に存在する可能性を二人に整理してお伝える。
大西洋連邦が世界に暴露した映像の中にもそれを推察するに足る材料が移りこんでいること。その『犯人』が仮に実在した場合、彼ないし彼女が現政権の中枢人物あるいはザフト軍幹部である疑いが濃厚であること。
二人ともここまでは薄々、察していることだ。
アーサー「いや…。しかし、証拠もないのに」
アグネス「証拠がないからです。出て来てプラントが不利になってからでは遅いのです。犯人が政府の要職にあった場合、『あくまで彼の個人的責任』『プラントも彼に騙された被害者』という弁が通用しないかも知れません」
勢い込んで話を続ける私にルナマリアはジェスチャーで落ち着くよう合図を送ってくる。
ルナマリア「なるほどね。確かに今はプラント側陣営内でザフトの力は突出している。地球連合の反撃の恐れもまだある中、多少不利な条件でも親プラント国に呑ませることができる、と」
嫌な言い方だが、まさしくその通りだ。そもそも黒幕がいるかもしれないというのはあくまで推測に過ぎない。同盟国もユニウスセブン落下テロの犯人はサトー一派という言い分を今は受け入れている。
だから、そもそも不利も有利もない。私は将来、蒸し返される可能性を摘んでおきたい言っているだけだわ。
そして、その必要性を今夜、ジュセック評議員にお伝えしたい。私は国防委員会の人間だから、そのような振舞いが何処まで許容されるか、判断は難しい。でも、ヒアリングの後の『世間話』で話す分にはギリセーフだろう。 - 138二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 01:57:36
アグネス「対ロゴス戦が進む中、諸外国との関係も密になり、共同宣言も含めた多くの条約が結ばれるはずです。その諸条約のどれかに、ユニウスセブン落下テロの対プラント賠償請求権放棄の条項を押し込むべき。条約締結は外交委員の出番ですが、条約案作成には司法委員会もタッチするはず。そして締結前後の政権内の法解釈は司法委員の領分です。
国益のために、『証拠』や『真実』がポロリと出てきた場合に備えておきましょう。プラントは被災国に既に相当な支援を行っています。それを以て最終的かつ不可逆的に解決したものとして、未来への禍根を断っておくべきです」
そこまで話を聞いていたトライン副長は、ややあいまいな表情を浮かべる。
アーサー「地上国家に対プラント賠償権の放棄を確認させたい、アグネスの話は分かった。ジュセック評議員に機を見てお伝えすること自体は、本官は止めるつもりはない」
そう話しながら彼はルナマリアにも視線を遣る。それに対して、彼女はちょっと考え込みつつ私に問いかける。
ルナマリア「要は…。賠償金を踏み倒そうということね。亡くなった人も苦しんでいる人もいるのに」
私を見つめるルナマリアの眼差しから少し非難めいたものを感じる。私の考えが余りにも自国とコーディネイターの利益を重んじすぎていると言いたいのね。
そんな風に思われると少し意固地になってしまいそう。いや、落ち着け、誤解を解くんだ。
アグネス「違う。プラントにはそもそも賠償金支払い義務はない。国家として道徳的な非難を受けるいわれもない。黒幕や陰謀家がいたとしてもその責任は彼自身のもの。ただ、『将来、的外れな非難や請求をされないように念押しをしておくべきだ』と、せっかく最高評議会議員にお会いする機会なのだからお伝えしたい。そう言っているだけよ」
一応私なりの理屈を伝える。ルナマリアはその言葉をゆっくり嚙み砕きながら飲み込み、ようやく納得してくれる。
ルナマリア「分かったわ。賛成する。それはそうと―」
ルナマリアは心の内の疑問を口にするか迷い、トライン副長に視線を遣る。彼女の視線を受け、上位者として彼は私に問いかける
アーサー「ああ。さっきから気になっていた。対プラント賠償請求権問題も大事かもしれない。だが、肝心の黒幕探しはどうする?それもジュセック評議員に依頼するのか?」 - 139二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 02:10:05
トライン副長の問いに首を振りながらお答えする。これも散々考えた。ラクス暗殺未遂の件も、だけれど、やはり―。
アグネス「『現政権下では』お願いしません。どの道、遠からず任期が終了します。政権が代わって風通しが良くなれば見えてくることもあるでしょう」
やや、婉曲に私の恐れを伝えると二人の表情が能面のようになる。滅多なことを言えないという顔、もし私の考えた可能性の一つが当たっていた場合、如何な大物議員とて、深入りすれば身の危険を免れないだろう。
アグネス「(その任期もどうなるものか…。いけない。あれこれ考えすぎればパンクする。ジュセック評議員にお会いできる機会も今日が最後というわけでは無いだろう。慌てたほうが負ける)」
部屋に変な緊張感が張り詰める。嫌なものだ。思えばいわゆる監視国家の住民はこれの何十倍も生きにくいのか。
部屋に入るたびに盗聴器を恐れ、親しい人、家族さえも疑いながら日々を過ごす。そしてそれを当たり前と感じるようになってしまう。
そう思うと自由とはかけがえのない価値がある。プラントが悪い方向に向かってほしくない。誰がどんな目的で悪事を働いているのか(ラクスの件は犯人がいることは確定)知らないが、人々を萎縮させる振舞いで明るい未来も作ることは出来ないだろう。
まあ、その人物が私利私欲で動いていた場合はそんな批判など一顧だにしないだろうけれど。
さて―。
アグネス「二人の御返事も聞けましたし、紅茶でも飲みませんか?」
何時ものミーティングと同じように二人に話しを振る。そうするとトライン副長とルナマリアの顔に生気と笑みが戻ってくる。
ルナマリア「そうしようか?じゃあ、待ってて。あんた動けないし」
アーサー「いや、本官も入れよう。最近はコンプライアンスが厳しいから」
確かに最近はセクハラとパワハラに厳しいからね。軍隊でも。
アグネス「ありがとうございます。では、お願いします」
そうだわ!今ぐらい怪我人特権を利用しないとね! - 140二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 08:48:47
アグネス行ったぁ!
オラワクワクしてきたぞ! - 141二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 09:00:02
>そうだわ!今ぐらい怪我人特権を利用しないとね!
特権を利用する前に、部屋に戻ったらそのままバタンキュー(表現が古い)してしまうんジャマイカアグネス。
そして翌朝、「仕事が、仕事の予定が~!」と涙目になって業務用デバイスにしがみつく様に作業する姿が。
- 142二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 15:16:28
- 143二次元好きの匿名さん25/02/23(日) 21:52:47
そういえばマジな話、コンプラがやたらと五月蠅くなった結果、かえって女性の方が損をしてるんだと。
男性側が「コンプラ盾に後でギャースカ言われるのも怖いから、声かけないでおこう……」と委縮したから。
おかげで、女性が男性との共同ビジネスや共同研究に参加できる割合がガタ減りしてるそうな。
やっぱネット弁慶のツ○フェ○は害悪でしかない、と現実ははっきり証明してるんだね。
- 144二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 00:16:15
私たち3人のミーティングとお茶会は大過なく終わりを告げる。
ルナマリア「張り切りすぎて自爆しないでよ」
アグネス「それ、そうなりそうで気を付けているのよ」
実は私自身、藪蛇にならないかハラハラしている。誰だって危ない橋を渡りたくはない。
アーサー「大丈夫、最悪、本官達が何とかしよう」
いかにも『上官』といった顔のトライン副長が心強いお言葉をかけてくださる。背中を押してくださっているのね。
アグネス「ありがとうございます。最善の道を探ってきます」
彼らと別れ、車椅子を看護兵に押されて病室に帰る。すると、ベッドの傍の椅子にメイリンが待っていてくれた。
アグネス「ただいま、メイリン」
メイリン「おかえりなさい、アグネスさん。どうでしたか?」
興味深そうな視線で彼女は探りを入れてくる。そういえば、ヒアリングの際、彼女も同席する。軽くは伝えておくべきだろう。
アグネス「待ってね。メモ帳を取って」
メイリン「はい」
自分のメモから一枚を破り、筆圧で他の場所に痕跡が残らないよう注意しながらサラサラと概要を記す。それを4回折りメイリンに手渡す。
アグネス「はい。読んだら厳重に処分して。他の媒体に写したりは無しね」
メイリン「しません。すぐに処分を。でも、何かスパイ小説みたいですね」
メモを受け取りながら、メイリンの顔はわくわくモードだ。前々から知ってはいたが、彼女の神経は相当図太い。伸るか反るかのこの局面、普段通りの大胆さを保てるとは! - 145二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 00:25:21
アグネス「確かにそうね。じゃあハッピーエンドを目指しましょうか。でも、身辺には注意をしてね」
メイリン「はい!それとアグネスさん…、軍医殿から仕事は暫く抑えて進めるように言付かっています」
今度は彼女から、軽くジト目で注意を受ける。なるほど、同室の友人を経由しての注意の方が効く。軍医殿はそうご判断されたのか。狙いは的中だわ。
アグネス「はい。気を付けます」
メイリン「良かった。破らないでくださいね」
アグネス「分かったわ」
なんか最近、皆から言われるわ。早く回復して、そう言われない状態に戻りたい。
メイリン「それで、本題ですが…。ジュセック評議員は7時からのディナーに私達とグラディス提督を招待して下さっています。ヒアリングはお食事の後、ホテルの小会議室で。小会議室の盗聴・盗撮等防止はグラディス提督の命を受け、ミネルバクルーがディナー中に済ませてくれるそうです。帰りは艦から迎えが来ます」
アグネス「グラディス提督、巻き込まれちゃったのね。まあ、ジュセック評議員は提督の体調のことを知る由もないか…」
とは言え、災難なことだわ。メイリンの話を聞いていると、過労で寝込むグラディス提督のパンダ顔が目に浮かんでくる。夕食までに調子を戻してくれているとは思うけれど。
メイリン「ジュセック評議員もその辺りはご配慮なさるお積もりと…。アグネスさんも負傷中です。消化に良いメニューで時間も短くすると秘書の方から伺っています」
秘書か、そういえばヒアリングの時はどうなる?
アグネス「ヒアリングの際、ジュセック評議員側の同席者は?」
メイリン「ジュセック評議員お一人です。当初は秘書1名と補佐官2名の計4名と私たち3人の予定だったそうですが…。グラディス提督のお口添えで評議員と私達の4人きりになりました。なので、正直に存念を述べるようにと。ただし、会話は録音・録画されるそうです」
そうか、まあ、そうなるわね。ただ、『世間話』の時は止めてほしい旨、その場で伝えよう。
アグネス「ありがとう。もうすぐね。はぁー、なんとかシホ先輩達とリモート会議するだけの時間はあるか…」
メイリン「まだ、あるんですか。国防委員会も殺生ですね。間違ってもFAITHにはなりたくないな…」 - 146二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 00:36:00
はぁー。メイリンも最初はエリートたる特務隊に憧れを持っていたはずなのに。何とも現実は散文的ね。
アグネス「こうして出世したくない若者が増えるのか…。ともあれ、メイリンありがとうね。ヒアリングも乗り切りましょう」
メイリン「はい!時間になったら迎えに来ます」
メイリン「はい!時間になったら迎えに来ます」
元気良い返事とともにメイリンは退出していった。彼女の存在を本当に心強く思う。傍にいるのがシリアスモードの(何時もの)アスランだけでは息が詰まるわ。
それはさておき、業務用デバイスとラムシュタイン基地内の教導航空団教官室のデバイスを繋ぐ。通信が始まるや彼らが全力の敬礼をしてくれるので私も丁寧に返す。
そして、私からは皆に共に戦ってくれた感謝とカリーニングラード戦の労いの言葉をかける。皆からは各々、私にお見舞いと受勲のお祝いを伝えてくれる。
アグネス「皆、どうもありがとう。カリーニングラード戦に於ける諸君諸姉ら教導航空団各員の奮闘ぶりも上部組織に報告しておいた。結果を楽しみに待つとしよう」
シホ、副教官一同「はい!」
ふむふむ。画面越しに見る限り、シホ先輩も副教官達も顔色は良い。声に張りもある。彼らは今のところ大丈夫ね。
アグネス「では手短に。皆の報告は読んだ。書式等はあれで構わない。書ききれなかったことや新たに思いついたこと、この場で発表したいことがある者は挙手を」
そう呼びかけるとシホ先輩が手を挙げる。
アグネス「ハーネンフース副教官どうぞ」
シホ「ありがとうございます。まず、訓練生は総じて高いモチベーションを維持しています。しかし、カリーニングラード戦という試練を越えたことで、次の目標を見失いかけている者も。まだ、訓練は始まったばかりなのに気が早い、と注意はしましたが…」
ああ、そうね。次のステップを彼らも知りたいはず。ただカリキュラムを進めて、それだけで、量産機によるデストロイ撃破が果たして可能なのか。
訓練生たちにしてみれば、その壁が余りにも高く感じられてイメージ辛いのだろう。
アグネス「国防委員会主導で訓練用陽電子リフレクター装備大型モビルアーマー、大型モビルスーツの復元が進められている。鹵獲機と鹵獲部品を用いて。そう事情なら、時期を早められないか聞いてみよう。ただ、現実的にもう少しかかるかもしれない」
シホ「確かに…」 - 147二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 00:45:25
シホ先輩は補助教官も困り顔だ。せっかく訓練生のモチベーションが高いなら、今、空回りさせるべきではない。確かカリキュラムだともう少しでゲルズゲー―。
アグネス「そうだわ!ゲルズゲー、カリーニングラード戦であの機体との戦闘は皆が見ているはず。ゲルズゲーの攻略を当面の中心課題にしてはどうか。接近戦に特に弱い機体、残念だが、ゲルズゲーを攻略できないなら、先には進めさせられない。それに上半身はストライクダガーだから、実戦練習もしやすい」
そこまで口走ってしまって、はっと正気に返る。いけない。こう言う上位者の『突然の思い付き』で部下を振り回すわけには…。
補助教官「なるほど!確かに、基地の合同軍からストライクダガーかダガーLを借りれば―上半身は再現できます。下半身は…リニアガン・タンク等に何とか乗せて実物大の模型を作ってみます」
補助教官達「おお、面白…ゴホン!いいアイデアだと思います。やりましょう」
ふーむ、なるほど、男子はやっぱり工作が好きなのね。偏見かも知れないけれど。
アグネス「ハーネンフース副教官の意見は?」
シホ「賛成です。教官がおっしゃるようにあの機体を倒せないなら、ザムザザーもユークリッドも―ましてデストロイ撃破など不可能です。ビームライフルは模擬光線、イーゲルシュテルンは模擬弾を用います」
じゃあ、結論を下そう。
アグネス「ありがとう。実戦練習はシミュレーターで十分基礎を叩き込んでから実施すること。『ゲルズゲー1機をバビとグフの2機編隊一つで倒す』。これを当面の目標とする。ディンは回避飛行の訓練を徹底的に。ビームライフル×2とイーゲルシュテルン1基程度を躱せないなら話にならないから」
そういった上で最後にもう一つ付け加える。
アグネス「あの夜、『カリーニングラードを生き残れた訓練生なら、この課題も乗り越える力がある』教官陣はその確信を共有し、万一、取り残されそうな訓練生がいれば、そう言って激励するように」
シホ、補助教官一同「了解!」
皆と敬礼を交わし、通信を切る。まあ、ゲルズゲーくらい楽勝でしょう。随伴機の想定もしておくべきだったか。いや、ワンステップごと勧める。カリキュラム通り、随伴機対策は次に進んでからだ。 - 148二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 00:50:29
上官ぽい振舞いは疲れる。いずれ慣れるのか?訓練生、部下への指導や指示の仕方はあれでよかったのか?
アグネス「(私は上に行く人間なのに...。いざそうなってしまうと何もかも手探りだわ)」
ふぅと息を吐きだしていると、廊下から3人分の足音が接近してくる。このままホテル行きか…。
アグネス「看護兵さん、お願いします」
看護兵「はい。一、ニ、三、はい!」
ベッドから車椅子に乗り換えたタイミングでメイリンが扉を開けて顔をひょっこり出す。
メイリン「アグネスさん、おお、タイミングが良いですね」
アグネス「足音が聴こえたからね」
制服の皺や略綬に注意、良し!大丈夫だわ。
タリア「準備ができているみたいね。よろしい」
アスラン「…済まない」
メイリンに続いて、グラディス提督とアスランも顔を出す。提督のパンダ顔は仮眠と点滴で少しマシになり今はシロクマ顔になっている。早く何時もの顔色に戻らないとね。
アスランは何を謝っているのやら。口癖か、まあ、負傷者を見かけると意味もなく謝りたくなることもあるからね。
アグネス「お待たせしました。それでは行ってきます」
看護兵「はい。行ってらっしゃい。4人ともアルコールはいけませんよ。体調と年齢的に」
タリア「ありがとう。それでは彼女を借りるわね」
後ろに回り込むルームメイトの影、なるほど車椅子はメイリンが押してくれるのか。さて、何処までやれるものか。やれるだけのことはしよう。 - 149二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 08:07:34
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- 150二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 08:10:30
- 151二次元好きの匿名さん25/02/24(月) 16:57:21
☆
- 152二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 01:18:23
グラディス提督、アスラン、メイリン、私の4人は保安要員10名と合流してミネルバを発つ。移動連絡橋を通過してドック、そのまた出入り口へ。
連絡橋のガラス窓から、私たちの家でもある母艦を振る。すると自分の体中、縫った傷口にビリビリと痛みが走る。でも私だけじゃない。目の前のミネルバも傷だらけだ。
メイリン「もう少し掛かりそうですね」
私の顔を前に軽く戻しながら、メイリンが呟く。軍医殿から仰せつかったお目付け役の任をはたしているのだろう。
アグネス「殊勲艦の定めかしらね」
タリア「ドックの者も整備班も、皆、頑張ってくれている。もう暫くすれば補修も終わるわ。貴女も気を抜かない―いや、貴女は抜きなさい」
アグネス「はい。ありがとうございます」
頭上からは、グラディス提督の声が降ってくる。お礼は言ったものの、どっちにすべきか良く分からないわ。
ドックの外側出入り口にはリムジンと装甲兵員輸送車が停まっている。私達4人はリムジン、保安要員は装甲兵員輸送車、それぞれに乗り込む。
リムジン発車後、グラディス提督が正面から、私にお話しされる。運転手とは壁で区切られている。
タリア「アグネス、貴女とハイネとシンは明日早朝、ここL4宙域アーモリーワンを出発し、プラント本国フェブラリウス市に向かうように。同市の病院に転院よ。プラントの医学の中心地で短期集中治療を受けるよう国防委員会から通知されました」
意味深な目つきだわ。わざわざアスランにまで目を配るとは何事なのか?ともあれ―
アグネス「了解しました。国防委員会のご配慮に感謝します」
そう返事をすると、グラディス提督はほんの少しだけ頭を抱えるようなジェスチャーをする。
タリア「ご配慮ね…。アスラン、アグネス、貴方達、コンクルーダーズのことは知っている?」
アスラン「…」
アグネス「風聞を耳にしたことは。新たに設けられる精鋭パイロット部隊であると」
流石にメイリンの前で核とバッテリーのハイブリットエンジン云々は口にはしない。私とアスランがシホ先輩と話す側に彼女もいたのだけれど。建前というか外面としてね。 - 153二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 01:30:23
アグネス「(遂に部隊構想がグラディス提督まで届いたか。コンクルーダーズに引き抜かれる予定のハイネ先輩とシンの現在の上官。考えてみれば当たり前ね)」
だから二人には一刻も早く怪我を治してもらわないと困る、と。私も一緒にと言うのはもしかして自分もコンクルーダーズ候補なのか?はたまた、同じパイロット隊の怪我人として、公平感を出すためなのか、どちらだろう。
傷を早く癒せるのは結構だけれど、疑問も尽きない。
精鋭パイロット部隊『コンクルーダーズ』、議長肝いりの特殊部隊。部隊の制式主力機はサードステージシリーズ、型式番号:ZGMF-X42Sデスティニーガンダム。すでに量産化が進められていて、少なくともハイネ先輩とシンの分は確保済みという。
隊員の数は未確認、ディステニーも何機が製造済みで最終的にどれだけ造る積もりかは私もアスランも知らない。
アグネス「(もし黙示録のラッパ吹きに因みなら7人、7機と言ったところか)」
そう目星をつけている。一応、7人という数字の予想には私なりの根拠がある。
アスランに割り当てられると聞く同じくサードステージシリーズのレジェンドガンダム、その型式番はZGMF-X666S。言うまでもなく『666』は黙示録の『獣の数字』ないし『悪魔の数字』だ。
ヨハネの黙示録の繋がりのみならず、ハイパーデュートリオンエンジンの製造可能数、優秀なエースパイロットの人数の上限を考えても、だいたいそのくらいが妥当と思う。
アグネス「(黙示録には『12の星』や『3人の天使』も出てくる。でも、流石に核・バッテリーハイブリッドエンジンを12機分確保は至難のはず。逆に3人では『部隊』ではなく『小隊』と言ったところ)」
だから、5~7機程度の部隊だろうと睨んでいる。アスランはレジェンドだから、コンクルーダーズとは別扱いなのかな。それとも『戦隊もの』に在りがちな定員外の戦士枠にする積もりなのか?
ちょっと考え込んでいると、グラディス提督は溜息交じりに言葉を漏らす。
タリア「そう。貴女達は知っていたのね。私は今日、議長から聞かされたわ。勲章授与式の後、お見送りする際に、突然ね。はぁー」
提督が頭を押さえる間にもリムジンは進む。あんまり眉間に皺を寄せるとジュセック評議員とお会いする前にお化粧が崩れてしまうわ! - 154二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 01:42:01
タリア「議長のおっしゃるザフト特殊部隊『コンクルーダーズ』構想。その目的は、最強のモビルスーツと優秀なエースパイロットを組み合わせた当部隊で地球連合の戦力を一蹴し、戦意を阻喪させることにある、と。今日、授与式の際、読まれた祝辞とご自身の本心は、ずいぶん乖離があるようね」
グラディス提督から、議長の『構想』とやらを伝えられた私の気分を想像できるだろうか?アホかバカかと、素人はこれだから困る!
アグネス「(『一蹴』、『戦意を阻喪』?軍事素人は相変わらず碌なことを考えない。米軍やソ連が大失敗した故事を知らないのか!そもそもモビルスーツだけでは領土を占領できない。地上軍、特に歩兵が必要だわ。そして地上軍と歩兵が居ようが住民の支持がなければ戦争には勝てない)」
『一撃加えれば敵は戦意を失い降伏するだろう』、そんな見通しが如何に甘いものであるのか、はぁー。賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶとはよく言ったものだわ。
そして、大馬鹿者は歴史にも己の経験からすら学ばない!
アグネス「(なんと愚かな―。議長の言う部隊構想はずいぶん子供じみている。要は『でっかくて強い戦車でドカーン!最大最強戦艦の一斉射撃ボボーン、最速最強の戦闘機で敵の飛行機をズドドドーン!!はい、勝った!われらの勝利に疑いあるなし!!』と言っているわけだ。そんなものに国運を賭けるとは!腹立たしい)」
その結果、自分の愛する人まで過労状態、呆れてしまうわ。せっかく造ったなら、新機体だけ置いて、とっとと研究室に返ってほしい。-変な陰謀など考えずに―
私が呆れ返っている傍でアスランは何時もより深刻な表情を浮かべる。
アスラン「連合の戦意を阻喪させて―その後は?」
彼はグラディス提督と視線を合わすが、彼女も当然答えなど持ち合わせていないだろう。
タリア「さあ、そこまでは。普通に考えるなら、新しい講和条約とその後の国際秩序維持の一翼を担うことになる。ザフト軍の他の部隊とともに平和のための抑止力に」
アスラン「プラント中心の秩序の抑止力に?それとも彼の…」 - 155二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 02:17:54
アグネス「(確かに、真っ当な戦争の勝利や確保した拠点の占領を目的とせず、ただ敵対者を破壊するだけなら『コンクルーダーズ』は恐ろしい部隊。それを―どうする)」
アスラン「彼は…。議長は何を?」
呟くようなアスランの問いに、俯き加減のグラディス提督は曖昧な返答をする。
タリア「私にだって分からないわ。戦争は政治の一部よ。そこから全体などなかなか見えるものではないわ」
グラディス提督のお答えはごもっともだ。『ごもっとも』だが、それでは困るわ。
彼女も私がユニウスセブン落下テロについて話した内容をトライン副長から伝え聞いているはず。今の情勢は異常時なのだ。異常時には異常時の法で対処するべき時もあるはず。
アグネス「特務隊長グラディス提督、特務隊アグネス・ギーベンラートが分不相応ながら、申し上げます。私たちは国防委員会に直属し、健全な最高評議会を守護する立場です。見えるものが仮に一部であっても、プラント国家と全国民、自分の家族や大切な人達、場合によっては友邦の諸国民。その全体全員の利益を時に推し量り、必要とあれば勇気を持って行動するべきです」
政治から距離を置こうとするグラディス提督に、あえて踏み込んだ発言をする。というか熱弁する。小娘が生意気だと分かっているが、ここは抑えておきたい。
私は所詮、任期1年の議長に付き合わされて祖国と軍が破滅することなど許すつもりはない。彼がもし破滅するなら自分と家族が巻き込まれるなど御免だ。それに-尊敬する上官が無駄死にすることも我慢ならない―
議長に付いて行きプラントが戦勝国になり、私が勝ち組に成れるならそれも良いかもしれない。しかし!あれはポンコツだ。コンクルーダーズの件でハッキリ分かったわ!
ふと前を見ると、グラディス提督はやや虚を突かれた表情を浮かべられている。急な直言に戸惑われているのか。でも、その後、一、二度肯き言葉を返してくれる。
タリア「そうね。確かに私達はそうした立場まで来てしまったものね。注意を払って勇敢に振舞いましょう」
そういうと彼女はメイリンにも視線を遣る。メイリンの賢そうな眼は先ほどから静かにこちらを眺めている。提督の眼差しを受けて彼女も肯く。
それにしても―少し話の方向が危ういわね。
グラディス提督に視線をもう一度遣る。コンクルーダーズの話を切り出したのは彼女なりの思惑もあるのだろう。 - 156二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 03:01:34
タリア「議長には、私からはパイロットを無暗に引き抜かないようにお願いをしておいたわ。ただ、どうだか―。
それともう一つ、別枠の機体について。議長はアスランをパイロットに推しているわ。でも国防委員会は―というか委員長はアグネスを推している。二人の内、どちらが選ばれてもお互い気を悪くしないように」
アスラン「はい?」、アグネス「はい?」
別枠機体とはレジェンドのことね。アスランで決まっていると聞いていたけれど...。議長は一旦、国防委員会に投げたのか?自分の希望も言い添えたうえで。
きっと突然のこと、シュライバー国防委員長も腰を抜かしているはず。
アグネス「(少なくとも『今は』国防委員会の顔を立てるのね)」
議長は、多分パイロット適正からアスラン推し、国防委員会は私推しと言うよりアスランの選定に反対なのだろう
アスランはプラントとオーブの変則的二重国籍者であり、さらにモビルスーツ持ち逃げの前科有り。当時は絶滅戦争、人類滅亡寸前で止む負えなかった訳だけれども。強力な新機体を託すのに躊躇う理由としては十分すぎる。
あと、議長が引き立ててきた人事にストップをかけて、最近、好き放題している彼への牽制球を投げたいのだろう。
対してまあ、好きにしてほしい。どの道、私は怪我が治るまで乗れないのだから。
アグネス「ところで、アスラン先輩、帰化手続きは済みましたか?」
アスラン「…いや、済まない。していなかった…」
じゃあ駄目じゃない!アスハ代表への義理か、いや、単に忙しくて忘れていた可能性も…。
アグネス「(見た感じアスランはそれどころじゃないわね。議長の思わせぶりな行動のせいで混乱しているわ。それは私も周囲の人たちも同じ。それが議長の策、自分のペースに乗せるための!しっかりしないと!)」
私が結論を出したのタイミングとホテル到着はほぼ同時だった。
車内でノックされ、運転手を務めるミネルバクルーの声が響く。
運転手(ミネルバクルー)「ホテルに到着しました」
タリア「ご苦労」
運転手(ミネルバクルー)「はい!」
玄関前で扉を開かれ、グラディス提督とアスランが降りた後、私も降ろしてもらう。彼とメイリンの補助が上手く決まって、玄関から続く赤い高級カーペットにふわぁっと車輪が乗る。 - 157二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 08:59:09
ほしゅ
- 158二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 14:21:31
ビット搭載のカオスで大暴れした実績はデカい
- 159二次元好きの匿名さん25/02/25(火) 19:19:34
議長の思惑でアイツもコイツも節操無しに引き抜いたらミネルバの戦力ガタ落ちになりそうなんですが
- 160二次元好きの匿名さん25/02/26(水) 03:41:27
女性秘書「ようこそおいでくださいました。特務隊長グラディス提督、特務隊アスラン・ザラ様、特務隊アグネス・ギーベンラート様、ミネルバ、艦橋オペレーター・メイリン・ホーク様。パーネル・ジェセック評議会議員の秘書官です。どうぞ、こちらに」
制服姿ではない女性秘書官が私たちを出迎え、最上階のレストランまで案内してくれる。手荷物等は一緒に来たミネルバ保安要員が運んでいく。ホテルの皆さんを信用していないわけじゃないが、念のためだ。
メイリン「どんなメニューかワクワクしますね」
車椅子を押してくれるメイリンが後ろからコソっと話しかけてくれる。そうか、やっぱり、この友人はこういう場が楽しみなのね。怪我人が居るから、簡易なものになるとお互い知っているけれど、それはそれ。
アグネス「ええ。さてどんなものかしら。楽しみね」
まあ、そう思う分にはタダだ。何かと面倒ごとを押し付けてしまっているメイリン、この友が楽しんでくれるならそれで良いかな。
途中で保安要員の半分は行動を別にする。ヒアリングを実施する小会議室に監視カメラ・盗聴器等が仕掛けられていないか、チャックするためだ。
アグネス(思えば、私達は保安要員のお世話になる機会が何かと多い。規律の番人だから、何時もは疎ましく思うことも多いけど…。尊敬の念を偶には抱いておこう)」
その後ろ姿に目礼し、私達は別のエレベーターで最上階を目指す。
エレベーターにはエレベーターガール、メイリンはかなり珍しがっている。まあ、必要性より演出要員だものね。
上昇していく鉄の箱、窓ガラスからはアーモリーワンの夜景が一望できる。私達にとってここは基地とか月軌道艦隊の母港と言った印象が強いが、人工とは言え海あり丘あり街在り、改めて見ると奇麗なものだわ。
アスラン「あの日は降りてきた…。彼女と―」
傍らでアスランはボソッと呟く。『あの日』とはC.E.73年10月2日、『彼女』とはアスハ代表のこと―。因縁の地に戻り彼自身思うことがたくさんあるのだろう。ボッチで話す相手が居ないだけで。 - 161二次元好きの匿名さん25/02/26(水) 03:50:39
仕方ないわね―。
アグネス「…終わるまでは仕方ありません。でも、オーブが、在りし日の国体を取り戻すことができれば、きっと我等の行く道は同じとなるでしょう」
聴こえた以上、無視するのも可哀想だわ。近くの私が適当に応えてあげる。まあ、私の本心でもあるからね。
それを聞くと彼はよほど嬉しかったらしく、ふっと笑ってしかめ面を一時解除し、優し気な眼差しを目下の私に向けてくる。
そんなな話をするうちにエレベーターは目的の最上階に着き、チン!と調子はずれな音を鳴らす。
エレベーターガールにグラディス提督が、そっとエレベーターガールにチップを支払い、秘書官は案内を再開する。
効率的なプラントの社会システムに慣れているメイリンと、日系の影響が強いオーブのサービスにすっかり染まったアスランは、チップの支払いを見て『ああ、そう言えば』と言った顔をする。
アスランと同様、上流家庭出身の私でさえ内心面倒に思っている。諸々込みで会計時に請求してくれれば良い。気前良く振舞うのもエリートの義務ではあるのだが…。何時までも文化遺産の様な慣習に固執するものでもないだろう。
アグネス「(まあ、提督が払ってくれたから良いか)」
女性秘書「こちらです」
タリア「ありがとう」
彼女に続いて進む。幾つかあるレストラン、中からは祝典・催事の音が響く。高級武官の家同士での結婚会場にもなっているようだわ。
私たちが案内されたのはこじんまりしているが上品でお洒落なレストラン、貸し切りにされている。
女性秘書「どうぞ」
タリア、アグネス、一同「ありがとうございます」
私たちのお礼に少し頬を綻ばせた彼女は、付いてきた保安要員とともにレストランの外で待機する。ドアの前で私達を出迎えてくれた店員がお辞儀してくれるので、私達も敬礼して返す。
彼らの手でドアが開かれると、向こう側には壮年の紳士がこちらを待っていてくれた。 - 162二次元好きの匿名さん25/02/26(水) 03:56:16
彼は慎ましげでありながら堂々と立ち、短い黒髪をオールバックに整え、同じく黒い眉毛は本人の意思の強さを表すように太く長い。それでも強面な印象を受けないのは、彼の知性を宿した穏やかな相眼の宿す光によるものだろう。
身に纏うのは文官系議員の証たる青服-彼こそ、最高評議会議員・司法委員パーネル・ジェセック閣下だ。
ジェセック「こんばんは。月軌道艦隊司令長官、特務隊長グラディス提督、特務隊アスラン・ザラ殿、特務隊アグネス・ギーベンラート嬢、ミネルバ、艦橋オペレーター・メイリン・ホーク嬢。夕食会にご足労いただき、本当にありがとう。
細やかなおもてなししかできないが、どうか楽しんでいってくれたまえ」
穏やかで温かみのある声だわ。
何時もの最高評議会中継で目にする各評議会議員は大抵、厳しい声で話し、自身の意見・見解をぶつけ合っている。それを思うとちょっとレアケースかも知れない。
タリア、アグネス、アスラン、メイリン「はい。ありがとうございます!」
さて挨拶も終わり私達はテーブルに、女性陣は男性陣に椅子を引いてもらう。私は引くも何もない。恰好が付かないのでアスランに押してもらってスタンバイだわ。
食前酒は飲めない。私達はこの後お仕事、グラディス提督はドクターストップ。なのでグラディス提督達4人は炭酸が入ったリンゴジュース、私は炭酸が入った乳酸菌飲料を代わりにいただく。ほぼ同時に出される一口料理もなかなか凝っている。悪くないわね。
アグネス「(それにしても乳酸菌飲料とは…。受傷後、ようやく回復しつつある胃腸に配慮してくださったのね。感謝しないと)」 - 163二次元好きの匿名さん25/02/26(水) 10:42:59
☆
- 164二次元好きの匿名さん25/02/26(水) 19:44:21
さて、どのようなお話になるのか
- 165二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 02:05:20
私達が初めに出された一口料理に舌鼓を打っている間、グラディス提督はジュセック評議員とお決まりの社交辞令を交わしている。上官が居ると料理に集中出来て助かるわ。
タリア「今日はお招きいただき、誠に光栄に存じます」
ジェセック「いや、グラディス提督はじめ貴官らの活躍はかねがね。私もプラント国民の一人として前線の将兵と艱難辛苦を共にしたいと思っている。ただ、最高評議会議員と言う立場上、なかなか地上に降りるのも容易ではなくてね。今日皆に直接栄誉を授けられて、本当にうれしく思うよ」
おっ!ここは声を合わせて!
アグネス「はい。光栄に思います!」、メイリン「!光栄です!」、アスラン「…ありがとうございます」
良し、合ったわ、アスランも。一安心だわ。こうして最高評議会議員の『お言葉』を『お聞きする』ことも今日ここに来たお仕事の一つだろう。
私達の元気のよい返事にジュセック評議員も気を良くして、私たちに接して下さる。
ジョセック「うん。こちらこそ。諸君諸姉の貢献に感謝を。さぁ、遠慮なく」
タリア、アグネス、一同「ありがとうございます」
良し、後はミネルバに帰った後、クルーたちに『ジュセック評議員は叶うなら前線の将兵と艱難辛苦を共にしたいと仰っていた。私達に直接栄誉を授けることができて、とてもお喜びであった』と言い広めてあげれば良い。これで、ディナー任務は一つ達成だろう。
アグネス「(私の場合は看護兵、つまり医務室かな。無論、義務ではないんだけれどね)」
さはさりながら、ジュセック評議員のせっかくのご厚意だ。ディナーを楽しみ、ヒアリング前にしっかり腹を満たしておこう。
アグネス「(それに仮に前線の将兵云々が建前でなく本心だったとしても、気にすることはない。同じく国家に仕える身の上とは言え、果たすべき役割が違うから)」
前線付近に最高評議会の窓口が必要なら、名代としてブリュッセルに滞在中のカザエフスキー評議員の出番だ。彼女はちゃんと勲章配達人兼現地政府のクレーム対応係の任を果たしている。
アグネス「(私は―というか私達は―政治家が後ろで偉そうな顔をすること自体を非難したいわけでは無い。『お前達は血を流していないではないか』とか言ってヘソを曲げるのは流石に子供っぽい振舞いだわ。と言うか最高評議会の面々は別に偉そうな顔をしていないし)」 - 166二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 02:23:02
むしろやたらと地上に降りたがって周囲を困らせる議長の方がずっと問題だわ。半分、身代わりになる形でカザエフスキー評議員が地上に行ったのに!
アグネス「(彼が地球行きを望む理由はザフト軍のためじゃない。『軍を先頭指揮するデュランダル議長格好いい!』『新時代を切り開く、新たなる指導者デュランダル、万歳!』を演出したいがため。腹立つわ!)」
感情的な問題だけじゃない。もし、そんな事態になったら、現場の軍人は大迷惑だ。素人のお偉いさんが現場主義者を気取って前に来ると、現場が委縮してしまう。勝てる戦いに勝てなくなるかもしれない。
アグネス「(もし、私が抱く諸々の嫌疑が杞憂に過ぎず、議長が『白』であったとしても。戦争指導者としてあの男は赤点だ。『貴方は何もしないで』が私の正直な本音ね)」
ただ、彼の事など、今、どうでも良い。次は前菜、その次はスープ。順番に運ばれてくる食事をメイリンと一緒に楽しむ。アスランは難しい顔で地蔵になっているが―何時もの事。
アグネス「(スープに関してはドイツで飲んだオリオ・スープの方が好みね。あの味が忘れられない。体が弱っていたから猶のこと美味しく感じたのだと思うけど。それでも、また、あの味を楽しみたいわ)」
目の前のメイリンは魚料理と格闘中だわ。上品に食べようとして一口の大きさの調整に四苦八苦しているのが面白い。何にしろ、一緒に食事を楽しめて嬉しい。
しかし―ただ食いしん坊モードになっているわけにはいかない。グラディス提督とジョセック評議員の会話にも耳を澄ませる。
タリア「閣下、前線も大事ではありますが…。本国の方は今どのように…。地球連合と休戦、終戦に向けての動きはありませんの?」
そう、それ。私も気になっているポイントだ。私の感触では地球連合軍も戦争に飽いている。国元では反戦世論が盛り上がり、政治家達も、もう進軍ラッパを吹こうとしない。銃を置きたがっている兵士も多い。案外どこかが白旗を上げればドミノ倒しに休戦が成るのではないか。
ジョセック「それが残念ながら…。戦争目的が当初の『積極的自衛権の行使』のままなら、今頃、休戦もあり得たかもしれない。ただ、途中から我々は戦争目的を対ロゴス戦にシフトしてしまっている。そうなると休戦・講和へのハードルがどうしても高くなる」 - 167二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 02:35:40
アスラン「それは…」
むむむ。やはりそうなるか。アスランと目配せし合い、二人してグラディス提督に代弁をお頼みする。
タリア「議長は…、いえプラントは。ロゴスの実態を世界に公開してしまいました。それが理由ですの?」
難しい顔でジュセック評議員は肯く。
ジュセック「そうなるね。議長による一連の情報公開、加えて占拠したロゴス拠点のデータを復元し判明した事実は我々にとっても衝撃的なものだった。
ロゴスの一角、アズラエル財団はCE15年時点からブルーコスモスの支持母体となって反コーディネイター運動に深く関与していた。これは彼らがこのC.E.に起きた巨大な悲劇の元凶の一つであったことを意味する。
その上、ロゴスの前代表ムルタ・アズラエルと現代表ロード・ジブリールはブルーコスモス盟主も兼任し、それを他のロゴスメンバーも承知、迎合していた。ロゴスはさらに組織の利益のため、地球連合軍内にファントムペインと言う犯罪実行部隊まで設置していた!」
つい熱弁を振るってしまったジュセック評議員は、話が脇道にそれ掛けたことを自覚し、一度言葉を区切り、炭酸入りリンゴジュースに口を着ける。もっとも、彼の話した内容自体は既に確定した事実、私達も特に異存はない。
彼が一口を飲み込むタイミングでグラディス提督は言葉を続ける。
タリア「それが明らかになった以上、少なくともプラントから見て―プラント陣営諸国から見て―ロゴスメンバーは狭義・広義双方の意味で戦争犯罪人。ロゴスは犯罪組織であり、ファントムペイン及び一部のブルーコスモス派地球連合軍はテロ組織、我々はそう見なさざるを得ない。そして、それが明らかとなったにも関わらず、彼らと関係を断絶しない国家は『テロ支援国』であり、『ならず者国家』である、と」
ジュセック評議員はグラディス提督の言葉により厳しい顔で肯く。もともと彼は穏健寄りの中立派、事を無暗に荒立てたいタイプの人間ではない。その彼をしてこの表情だ。
ジュセック「テロリストとは取引できない。テロ支援国やならず者国家とも容易に妥協するべきではない。少なくとも原則としては」 - 168二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 03:02:35
ここでジュセックはちょっと一工夫して話を続けてくださる。
ジュセック「そうなると―例えばプラントがA国と休戦条約を結ぼうとする。A国もそれに乗り気であると。ただ、ここで言う休戦は両軍が国境線で戦闘を停止することのみを意味しない。A国がロゴス、ブルーコスモス関連勢力と正式に断交し、自国内から奴らを排除した上でないとプラントはA国と休戦条約を正式に結ぶことができない」
そこでジュセック評議員は会話のボールを私達に投げる。『なぜだか分かるかい?』と言う事ね。
よろしい。ちょっと周囲にアイサインして続きを私が続きをお答えする。
アグネス「なぜなら、一度休戦条約にサインしてしまえば、ザフトはA国の領域に侵入することは出来ない。そうなれば、他の交戦国、B国やC国が対プラント戦で不利になれば、ロゴス・ブルーコスモスは安全なA国に逃げ込み再度力を蓄えてしまう。そして、彼らはA国内を言わばキャンプ地としてプラントや同盟国に攻撃を続けることに。だから、休戦条約を結ぶには相手国がロゴス・ブルーコスモスと断交し、国内から彼らを追放することが最低条件になる、と」
そうお答えするとジュセック評議員は我が意を得たりと言う表情になる。
ジュセック「そうなのだよ。しかし、それは相手国にとっては『休戦協定=自国の政治大改革&経済大改革』を意味する。ロゴスは地球のほぼ全ての政界・企業に関与しているのだから。相当な国が引っ繰り返るほどの痛みを伴う決断に成る」
アグネス「それを受け入れる踏ん切りがついた国がなかなか現れない、と言う事ですね」
ジュセック「ああ、そうなるかな」
なかなかの難題だわ。
大多数のプラント国民とザフト将兵にしてみれば、地球連合諸国家に理不尽を強いている意識はない。
『休戦するなら戦犯を引き渡せ、犯罪組織と手を切れ、テロリストを追放し入国禁止にしろ』ただ、『それだけの事』がなぜできないのだ、民衆レベルだけでなく、高官や60人議会議員の中にもそう思っている人が居るのではないか。
しかし、その実『それだけの事』のハードルが地球国家にはかなり高い。
まず、市井のプラント国民は『お手頃な対ロゴス戦』としてロゴス関連企業の製品の不買運動を展開している。でも、これさえ親プラント国以外では難しい。ロゴスがさまざまな企業と絡み過ぎていて不買と言う選択肢がないのだ。 - 169二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 03:11:29
ロゴスが経済を全て支配しているとか歴史上の全ての戦争の仕掛け人だ、等と云うのは誇張が過ぎるが…。
アグネス「(それ相応の巨大な影響力を持つ―持っていた組織であったことは間違いない。良い悪いはともかく、地上の人々の暮らしに密接に絡んでいる)」
そして、それを宙で暮らす同胞たちは実感しようがない。せめて資産凍結をもっとちゃんとやっておけば!親プラント側がギリ間に合っただけでも良しとするしかないが…。議長め。
『戦犯を引き渡せ』についても言うは易く行うは難し。ロゴスの最高幹部だけなら10名ほどとは言え、共同謀議に参加した者、各国で『手足』となって犯罪の共犯関係を構築していた政治家・軍人・公務員・民間人まで含めると相当な数になる。
厳密に犯罪要件を適用すれば、現国家元首が戦犯と言う国もある。その場合どうするのか。どこまで含めるのか?
タリア「どの国もユニウスセブン落下テロと戦争で疲弊していますもの。それに加えて、となりますと…」
ジュセック「ああ、無理は承知している。ただ、この一線に関しては妥協しようがない。デュランダル議長はそのお積もりだ。無論、我々、最高評議員の総意でもある」
『ロゴスを討つ』という大義を優先すれば、当然、和平も遠のいてしまう。これまでの災厄と戦災に加えて、さらに自国の政治経済への大被害を覚悟で休戦協定にサインとなると、どの国も―。対ロゴス戦を始めなければ、今頃停戦だった可能性もあったはず!
各国で反戦・反ロゴス世論が盛り上がっているにも関わらず、各国政府が二の足を踏んでいる所以だろう。
まあ、話は分かった。脳みそが沸騰しそうなので甘いソルベ(果汁やリキュールを凍らせたフランス)を解ける前に口に移す。
通俗的な表現だが、現実はこのソルベほどには甘くない。
では、ロゴスをそのままにするべきだったのか、と問われても違う。私はロゴスが諸悪の根源と言う議長のアジテーションに乗るつもりはない。しかし、十分に悪辣で可能な限り速やかに対処されるべき勢力ではあったと思う。
それでも、十分な周知も用意もなくパンドラの箱の蓋を叩き割った人間は非難されてしかるべきだ。
アグネス「(この場では言えないことだけどね)」 - 170二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 03:14:58
あまりにも問題が多すぎていっその事地球を滅ぼせば楽っていうのが立ち返って来かねない
- 171二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 03:42:37
メイリンとアイサインしながら、肉料理、チーズと順々にお腹に収めていく。良かった、ずいぶん臓器も回復してきたわ。私をコーディネイターに産んでくれてありがとう、パパ、ママ。因果が逆ね。コーディネイター同士が結婚して私が生まれたのだから。
アグネス「(では、若さ万歳ね。それと鍛錬を怠らなかった自分にありがとう!)」
さて、食いしん坊タイムはここまでだわ。今の会話の流れなら、この機会にジュセック評議員に進言すべきであろう。
アグネス「ジュセック最高評議員閣下、発言をお許しいただけますか?」
ジュセック「おお、ギーベンラート嬢?是非どうぞ。御父君にはいつもお世話になっている。思えば久しぶりだね」
アグネス「はい。ご無沙汰しておりました。では早速-」
グラディス提督から私に少し強めの眼差しが注がれる。アイサイン『ほどほどにしておきなさいよ』と言いたいのね。分かっているけれど、ここは引きないわ。
アグネス「閣下がおっしゃるように、現在交戦中の条約締結国との和平は一筋縄では行かないでしょう。それならば、現在志を同じくしてくれている親プラント国と紐帯を強めなければなりません。個別ないし包括的な新条約を締結して、政治・経済・文化各分野の協力を推進をするべきです」
まずは軽いジョブを打ってみる。どうかな?
ジュセック「ふむ。その通り。新条約については現在、外交委員が精力を注いでいるところ。経済協力も進むだろう」
良し。もう少し強めで投げてみよう。気を良くしてお話を続けてくださるジュセック評議員に向け車椅子から少し身を乗り出して目元に力を入れる。こちらが本命だ。
アグネス「新条約締結が我等コーディネイターと祖国プラントに安寧をもたらすことを願うのみです。これは国防委員会側の人間が口にするべきことではないと重ね重ね思いますが…。お伝えせずにはいられません。国交を今後深めていく地上国家との友好関係が後戻りしないためにも。
地上国家にユニウスセブン落下テロの政治的責任問題と賠償問題を蒸し返されることがないように先手を打っておくべきかと。『プラントが落下テロ後に各国に拠出した支援金・支援物資を以て、被害国の国家・民間賠償請求権は最終的かつ不可逆的に解決した』とする条項をいずれかの条約に設けることが喫緊の課題であると思います」 - 172二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 03:57:15
言ってしまったわ。どうだ?本当はユニウスセブン落下テロの真相疑惑をお伝えしてからお話しする予定だった。でも、よく考えたらグラディス提督が証人になってくれていた方が『拘束力』がある。話の流れからしても―どうだ―
ジュセック「おお。その件は外交委員とも話し合っていたところ。過去の賠償金問題の事例を考えても、友好国から順に、できるだけ早めに区切りを入れておくべきと。やはり、国防委員会も同じお考えか?」
興味津々に私に聞かれるが返事に詰まってしまう。私は国防委員会側の人間だが、今の発言は国防委員会の意をお伝えしたわけでは無い。あくまで私の見解だ。
言い方を誤ってしまったわ…。
タリア「特務隊長として本官も地上諸国家との外交紛争の芽は早めに摘むべき、そう国防委員会に進言しようと準備中ですの。そうよね?」
グラディス提督が機転を聞かせて助け舟を出してくださる。飛び乗るしかない。
アグネス「はい!閣下が、司法委員会の皆さまがその意向なら本官からも、国防委員長閣下を説得…」
『説得しようと思います』と口にしようとしてグラディス提督に睨まれてしまう。『ジュセック評議員から言質は取れたのだから、これで満足しろ、あとはこっちで引き受ける』と言う意味ね。
やはり勇み足だったか…。上官に迷惑をかけてしまったわ。
しょんぼりモードの私とは対照的に国防委員会の『賛意』を確信したジュセック評議員は上機嫌だ。大丈夫か、なんてことを。
アグネス「(しっかりしろ、大丈夫。国防委員会としても悪くない案だったはず)」
これは賭けに勝ったと言えるのだろうか?落ち着け、賠償問題に関しては賭けに勝ったはず。うん、多分。
判断に若干戸惑いつつも、新たに運ばれてきた菓子、フルーツを口に運ぶ。とても美味しい。幸せだわ。
ちょっとこちらを見るグラディス提督の視線が怖いけれど、内容自体は事前にトライン副長からお伝えしておいたのだ。私なりに祖国を思えばのことと理解はしてくれているみたい。 - 173二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 08:31:20
☆
- 174二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 18:29:40
ちょいちょい挟まる飯ターン好き
- 175二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 18:47:38
飯の場が交渉・外交の場になるのは、「良いとこの出」であるアグネスならではって感じがする。
- 176二次元好きの匿名さん25/02/27(木) 18:53:59
- 177二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 00:28:35
メイリンは私のミスを敏感に感じ取り、ジュセック評議員とグラディス提督、そして私を心配そうに見つめている。
一方、グラディス提督は平静を装い、ご自身もフルーツを召し上がっていらっしゃる。
私も敢えて態度を崩さない。
フルーツを楽しんだ後は、小菓子とコーヒータイム。皆の前の白いカップには芳醇な香りを漂わせる熱くて真っ黒い液体、私のみ体への負担を軽くするためにハーブティーが運ばれる。私が落ち着いて小菓子にスプーンを入れるのを見て、メイリンもやっと自分の手元に意識を戻してくれたわ。せっかくの甘味、楽しまなきゃ損よ。
アグネス「(心配かけてごめんね、メイリン)」
それはともあれ、この小菓子、あまり大きくはないが、お洒落で凝ったケーキだわ。アーモリーワンのホテルもなかなかやるじゃない。
当たって砕けろと勝負を終えたなら、残りのディナーもしっかり味わっておきたい。
ジュセック評議員は、私との会話に区切りができたので、次はアスランに話しかけていらっしゃる。私やグラディス提督とだけ話すのも悪いとお考えになられたようだ。
ジュセック「アスラン君、お久しぶりだね。いろいろ大変だったろう」
アスラン「はい…」
敢えて『ザラ君』とは言わない。ジュセック評議員にとってもザラ前議長との諸々について思うことはあるだろう。でも、そのことと息子は別。アスランの功績はアスランのものだと、この分別ある紳士は理解して下さっている。
ジュセック「ミネルバ、月軌道艦隊、そして君の活躍はプラント本国でもよく耳にする。我が国への献身、誠にありがとう」
アスラン「え…。はぁ…」
せっかく声を掛けてもらっているのに…。アスランは案の定上手い返しが出来ていない…。全身の力が抜けてガクッときそう。ザラ前議長の事があって心苦しいのは理解できる。そのほかにも理由があるのも分かっている。
それでも何か言え。 - 178二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 00:38:19
アグネス「(何も嘘を言えとは言っていない。当たり障りのないことを!アスランは世界と平和のために戦っている、プラントのためではない。それに―『献身』する相手は別にいる。分かっているけれども!)」
せっかくジュセック評議員は『他のザフト将兵と差別することなく』彼の武功を誉め、力闘を労ってくださっているのに。
仕方ない―。
私は小菓子を食べる手を止め、視線と小さな身振りでアスランにサインを送る。
『なんか言って!評議員に恥をかかせないで!』
駄目だわ、アスランが少し伏せ目がちなせいで伝わらない。
それでも辛抱強く、しっかり力を込めた視線を彼に向け続ける。数秒の後、やっと彼と目が合ったわ。それに何かを感じたらしく、彼はやっと重い口を開く。
アスラン「ジュセック最高評議会議員、自分はプラントのためだけに戦って来た訳ではありません」
ジュセック「え…?」
アスラン「自分は復隊時にある方と誓いを立てました。自分の信ずるところに従い、今に堕することなく、また必要な時には戦っていくこと。その力をザフト、プラントの為だけではなく、皆が平和に暮らせる世界の為に使うこと。私がこの制服と徽章を纏って今日まで戦ってきたのはそのためです」
それを聞いた瞬間、体と心が氷結する。例のあれだ。アスランがミネルバに来て直ぐ皆に打ち明けドン引きされた議長の言葉…。
アグネス「(落ち着け、心を『無』にするんだ。私ならできる。今朝と同じこと、心頭滅却すれば火もまた涼し!)」
『無』の境地に達して仏陀と心を通わせながら、恐る恐るグラディス提督に視線を向ける。
タリア「…」
グラディス提督も凍り付いている!眼だけが動き、何かを求めるような眼差しを私に向けてくるが…。いったいどうせよと!
こ、…こういうのなんて言うんだっけ?ああ、覆水盆に返らずかな。 - 179二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 00:51:22
ジュセック「ハハハハハ。君に一本取られてしまったね。そう、確かに今プラントは対ロゴス戦の最中。自国の国益増大を前面に押し出せば、他国からの信用を無くしてしまう。『皆が平和に暮らせる世界のため』、その大義を揺るがしてはならないね」
良かった…。ジュセック評議員はアスランの言葉をプラントの対外姿勢に対する警句と捉えて下さっているわ。ここで、全力のフォローを!
アグネス「では、祖国プラントの弥栄(いやさか)と万国平和実現のために!」
そう唱えながら、右手のカップを乾杯するように上げて見せる。中身はハーブティーだけど、この場を収められるなら何でもいい。
それを受けてジョセック評議員もコーヒーカップをお上げになる。
ジュセック「おお。いいね。では『祖国プラントの弥栄と万国平和実現のために!』アルコール厳禁で少し残念だ」
アグネス「はい。私達にはまだ早いですから」
お酒は飲む気もないけれどね。私の振舞いを見てグラディス提督とメイリンも調子を合わせてカップを上げてくれる。
タリア、メイリン「祖国プラントの弥栄と万国平和実現のために!」
アスラン「…平和…実現のために…」
なんかアスランがボソボソ言っているが今は良し。みんなで少し上げたカップに口を着けて一口二口と飲んでみる。作法的にどうなのかは分からないが、こう言うのは勢いだわ。
ジュセック「うん。そうだ。そこを目指していかないとな。私達は…。でないと何のための犠牲だったのか―」
亡くしたと友と袂を分かって逝った友、今傷ついている誰かに静かに思いを馳せているみたい。暫し、私達はカップの中身をのみながら彼の次の言葉を待つ。
やがて目線を今ここにいる私達に合わせたジュセック評議員は、先ほど中断したセリフの続きを述べる。
ジュセック「グラディス提督、そしてアスラン君、ギーベンラート嬢、ホーク嬢、改めて―、この場に居ない最高評議会議員達の分も合わせてお礼を言いたい。どうもありがとう。今後も厳しい日々が続くと思うが、戦争終結に向け皆の力をお借りしたい」 - 180二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 01:09:15
これが今夜のディナーの締めの言葉か。過不足なくてよろしい。偉い人にこういわれたら、元気よく返事ね―。
タリア、アグネス、メイリン、(アスラン)「はい!」
ジュセック「よろしく頼むよ」
返事を聞き、ジュセック評議員も満足されたようだ。彼の表情からふっと付き物が墜ちている。まだ、ヒアリングがあるから、気を張っていてほしいけれどね。
でもよかったわ。何とか収まった。皆でカップの残りを飲み干す。良し、ごちそうさまでした。
さて、お店を出るまでがディナーだ。
席を立つのは女性が先、男性は後。立った後、レストランの入り口に向かうのも女性が先、男性は後。扉を開けるのも男性なのだが、これはレストランの店員がしてくれたわ。
その扉を潜り、お店から出るのも女性から―。ちなみに同性同士は偉い順なので、私は2番目だ。車椅子はレディのメイリンに押させるわけにも行かない。なのでアスランが押してくれる。その後ろにメイリンが続く。結果としてジョセック評議員は最後尾だ。
アグネス「(ただし、国と状況による。今回は偶々こうなった。自分が最高評議会議員の先を行くとは…。なんか新鮮ね)」
まあ、こんな不思議な状況はそうそうあるものではない。この不思議な事態を楽しむのも一興かな。
お店から出た瞬間、社会的立場は元通り、改めてグラディス提督以下、皆でジュセック評議員に敬礼し、返礼を受ける。
車椅子係もアスランからメイリンに。まあ、これはアスランが押してくれてもいいんだけれど、先輩に押させるわけにも行かないわよね。
ジュセック「では…。いろいろあって疲れていると思うが最高評議会司法委員会のヒアリングに協力を。その間、グラディス提督にはホテルの部屋を取ってある。寛いでくれたまえ」
タリア、アグネス、一同「はい!」
いよいよヒアリング…。軍人は簡潔明瞭に話さなければいけない。雄弁は銀沈黙は金、アスランはもう少し銀を混ぜてもいいけれど。そして折を見てユニウスセブンの真相疑惑もお伝えして―。
アグネス「(気が休まらないわ…。いや、それを言えばグラディス提督も…。ディナー中にお仕事を増やして申し訳ありません!)」 - 181二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 10:56:15
最後まで何か言いたげにしてるんだろうなアスラン
- 182二次元好きの匿名さん25/02/28(金) 20:51:03
待機保守
- 183二次元好きの匿名さん25/03/01(土) 01:07:03
食事後はレストラン階から皆で降りる。帰りはエレベーターガール無し。機密を守らなければならない。
ガラス越しの夜景を見下ろしながら少し降りるとエレベーターは一度停まる。
秘書「グラディス提督と御付きの方はこの階でお降り下さい。扉の向こうに案内の者が待機しています」
タリア「ありがとう。じゃあ、あなた達、しっかりお応えするように」」
アグネス、一同「はい!」
グラディス提督が私達に向ける表情が緩やかなもので少し安心する。顔色も頬がピンク色になっている。私としてはやはり事で怒られるのが怖い。それに彼女が待ち時間中に倒れるようなことがあってはいけない。
秘書官が扉のオープンスイッチを押している間に、提督はジュセック評議員に手早く暇乞いをする。
タリア「ジュセック最高評議員、今日は楽しい夕食をありがとうございました。失礼します。それと…、彼らはまだ若年、もしご無礼があってもどうかお目溢し下さい」
そう口にする提督は完全に頼れる女上司の顔をしていらっしゃる。うう…。ご心配をお掛けします。それに対して、ジュセック評議員も鷹揚に応じてくださる。
ジュセック「勿論、心得ている。提督、こちらこそ楽しいディナーだった。またの機会を楽しみにしている」
タリア「はい」
二人が敬礼を交わした後に扉は閉じ、その階から3階下で残りの全員が外に出る。そこから15メートルほど廊下を歩いた先の扉前に保安要員と補佐官が表側で待機している。あれがヒアリングを実施する小会議室か…。
私達が視界に入ったタイミングで彼らはジュセック評議員に敬礼し、評議員は穏やかに返礼なさる。小会議室の扉を潜るタイミングで私も車椅子上で彼らに敬礼して通り過ぎていく。
事前に聞いていた通り、小会議室内には誰もいない。扉に近い位置にアスランとメイリンの椅子が丁度、車椅子一つ分のスペースをおいて配置され、その前に中くらいの机が置かれている。机の向こう側にはジュセック評議員が腰掛ける椅子。
ジュセック「さあ、かけたまえ」
アグネス、アスラン、メイリン「はい。失礼します」
まあ、私はかけるも何もないのだが…。それにしても―。
さほど広くない部屋の四角に録画・録音用のカメラが計4台設置されている。その無機質な目がジュセック評議員を含む私達4名覗き込むのを見て先ほどまでの自分の楽観的な考えを改める。 - 184二次元好きの匿名さん25/03/01(土) 01:13:42
最高評議会司法委員会は単なる受答えの文言以上にノンバーバルナなシグナルの資料価値を良くご理解なさっている。
アグネス「(これは思ったよりも本気ね。言動全てに機を配らないと…、心配になる。特にアスランが…)」
自分が緊張していることを実感して、周囲の様子を伺うと、両側のアスランとメイリンの身にも微かな慄きが走っている。ちょっと舐めていたわね、司法委員会を。
私達の態度の変化をジュセック評議員は敏感に感じ取る。
ジュセック「まあ、そう緊張することはない。君たちが犯罪の取り調べを受けるわけでは無いのだから。さあ、秘書官!」
秘書「はい。皆さんどうぞ」
後ろの扉が開かれ、ジュセック評議員と私達3人にコーヒーが運ばれる。今、体調的にコーヒーは…。
秘書「デカフェです。きついのではないのでご安心を」
そう言って彼女は親切に笑いかけて下さる。アスランとメイリンにも飲み物とともに笑顔を届け、緊張を和らげるのに腐心して下さる。秘書官も大変だ。
配膳を済ませた彼女は再び退出し、ジュセック評議員は、私達3人全員がコーヒーに口を着けるのを待つ。ご厚意に甘えて私たちが一口目を飲み終わったタイミングで彼は口火を切る。
ジュセック「さて、皆気持ちを楽にしてくれ。ヒアリングの間、君たちの言動は映像・音声データとして記録され、司法委員会と場合によっては最高評議会に参考資料として提出される。
ただし、今回のこの場でなされる証言はプラント及びザフトの刑事・民事・行政・軍法その他の裁判・裁定・審判等で不利益な証拠として用いられることは一切ない。
だから、ただ事実のみを話して欲しい。所感を述べる時間は証言の後に設ける」
アグネス、アスラン、メイリン「はい。事実のみをお話しします」
3人で少し震えて返事をする。こちらの返答を確認すると彼は話を再開する。
ジュセック「では、録画録音を開始する。
『私、最高評議会、司法委員パーネル・ジェセックが、ザフト軍月軌道艦隊旗艦ミネルバ所属、特務隊アスラン・ザラと同所属、特務隊アグネス・ギーベンラート、同所属ブリッジオペレーター、メイリン・ホークに対しヒアリングを執り行う。議題は『ロゴス傘下のテロ組織である地球連合軍所属第81独立機動群、通称、ファントムペイン構成員の戦争犯罪者訴追問題に関して』」 - 185二次元好きの匿名さん25/03/01(土) 01:19:52
開始の言葉を聞いて頭をフル回転させる。まず、どんなことが聞かれるのか。おそらくは事実確認だろう。
ジュセック「では最初にアスラン君、君をアスラン君と呼んでもよろしいかね?」
アスラン「はい。閣下」
ジュセック「私の事はミスター・ジュセックで構わない、この場ではね。ではアスラン君に聞こう。あの日、西ユーラシア政変時にネオ・ロアノーク専用ウィンダムを撃墜したのは君か?」
アスラン「はい」
ジュセック「深い意味はないが、不殺撃破したのはなぜ?他の場所では通常撃破しているようだが」
思わぬ質問にアスランは少し動揺する。ジュセック評議員の質問の意図は『元々、搭乗者がフラガ少佐と知っていたから手加減したのか?』あるいは『テロリスト、戦争犯罪人確保のためだったのか?』と云った意味ね。
アスランは暫く当時を思い返しながら、質問に応える。
アスラン「あの時は、本当に現場は混乱していて深くは―。ただ、もうこんなことは、やめさせたいと思いました。そして被害者であるデストロイパイロットを救いたいとも。そのような気持ちが無意識に戦闘に影響したのかもしれません。傍にキラ…フリーダムパイロットも居ました。安心感があったのかもしれません」
思いのほかしっかり答えるアスランに安心する。良かった、ちゃんと喋っているわ。
アグネス「(そして…。ふむ、なるほど。そういう事情だったのね)」
ジュセック評議員も彼の回答に納得し話を続ける。
ジュセック「そしてストライクノワールはフリーダムが不殺撃墜。君はこの時、搭乗者がスウェン・カル・バヤン容疑者であることは知らなかった?」
アスラン「はい。角度的に死角でした。一瞬、失神したパイロットスーツ姿の人物が救助される所は見ました。しかし、それが彼かどうかまでは。当時はバヤン容疑者の存在自体も自分は把握していませんでした」
二人の会話は静かに続く。思うに当時の現場の状況は既に照合済み、それでも現場で立ち会った者の体験談は貴重と言う事か。
ジュセック「パイロットスーツと言えば。君は撃墜後、直ぐにネオ・ロアノーク容疑者が元地球連合軍少佐ムウ・ラ・フラガ氏と看破できたようだが…。なぜ?」 - 186二次元好きの匿名さん25/03/01(土) 01:33:36
もっともな疑問だが、この疑問の答えは呆れるほど簡単だ。
アスラン「彼はパイロットスーツを着用していませんでした。改造された連合士官服と黒い仮面姿でコックピットから投げ出され、仮面が脱げた状態で失神。それで素顔を確認できました」
返す返す良く生きていたと感心する。やはり不可能を可能にする男は伊達ではない。私なら死んでいたわ!
ジュセック「そういうことは良くあるものなのか?」
アスラン「非常時以外、普通はありません。ある種のゲン担ぎでそうする者はいるかもしれませんが...」
私は必ず生還する主義だからだ、とかね(撃墜時の備えのパイロットスーツはいらないの意)。それだけが目的ではないのだから、着た方が良いと思うけれど。
その後は連続したやり取りが続く。
ジュセック「なるほど、そうか。それで、彼を最初に発見したのはアスラン君、君か?」
アスラン「いえ。フリーダムパイロットのキラ・ヤマトが最初に見つけました。私はその後です。私と同時にストライク・ルージュ搭乗中のオーブのカガリ・ユラ・アスハ代表首長も確認しています」
ジュセック「その際、投げ出された人物の正体が間違いなく、ムウ・ラ・フラガ元少佐であると確信を抱いた?」
アスラン「はい。顔に大きな傷跡はありましたが、間違いない、そう思いました。その場の二人も同じ意見でした」
ジュセック「ふむ。アスハ代表もか、聞いていた通りとは言え…」
そこで、評議員は一度間を開け、自分のコーヒーの口を着ける。アスランに疲労を貯めさせないよう気を使っているのだ。暫くして、表情をやや改めると聞きにくい質問をアスランに投げかける。
ジュセック「これは決して君を責めたい訳では無いのだが―どうしてロアノーク容疑者をアークエンジェル側に回収させたのかな。正体がどうであれ、彼が重大な戦争犯罪の容疑者であることは当時の君にも容易に想像がついたと思うのだが?」
ジュセック評議員から爆弾が投げつけられ、私とメイリンはカメラとアスランを二度見する。まずい質問だわ。一番触られたくないことかも。
心臓がバクバクする。
アスラン「…そのままにしておけば、激高した現地の軍や民衆に彼がリンチに遭うと予想しました」
ジュセック「彼を一時保護するだけならミネルバに運んでも良かったと思う。そこは考えなかった?」 - 187二次元好きの匿名さん25/03/01(土) 01:51:42
自分の呼吸が気が付けば止まっていた―。
アスラン「…当時は混乱の最中で。もし、ザフト・西ユーラシア側に彼を連れて行けば酷い報復に会うのではないか、その心配が頭から離れませんでした」
アスランの正直な回答を軽い絶望とともに聞く。
聞かれれば答えるしかない。そういう場なのは理解しているつもりだ。答えなくても罰則はないが、『なんでだ?』と言う話になるのは目に見えていた。
アグネス「(それでも、これはまだ、最高評議会に伝わるべきではなかった。今の答えはアスランにとって『味方のザフトが信用ならない、アークエンジェルの方を自分は信頼している』そうもとられる発言だ)」
実際それが彼の本音なのだろう。私としては―戦友としては寂しいが―しかし、それが味方内から外に漏れてしまう…
ジュセック「うむ…。そうか、いや正直に良く応えてくれたね。なるほど。状況は理解した」
神妙な面持ちのジュセック評議員は記録帳に何かを記入している。今の回答についてか?分からない…。どう伝わるのだろう。もうここまで来たら、味方を信じられない理由を暴露するしかないか?
アグネス「…」
落ち着け。これならまだ良い。ジュセック評議員はアスランの味方不信の理由が当時の現地軍と民衆と一般ザフト将兵に昂っていた報復感情と受け取ってくれている。そのせいで見方を信用できず、アークエンジェル側にフラガ少佐を預けたのだと。
でも、それはいくつかある理由の内、一番表に出して問題ない部分。根源的な理由はもっと、どす黒い。
アグネス「(アスランの味方不信の最大の理由は、ユニウスセブン落下テロ黒幕疑惑やラクス暗殺未遂事件、それらが根底にあってのもの。端的に言って彼は議長をもう信用できないのだ)」
それが伝わってしまったのか、ジュセック評議員の表情を不審がられない範囲でよく確認する。良し、本音のそのまた本音までは見抜かれていないみたいね。
安心と落胆の感情が自分の胸の奥で同時に湧き上がる。やがて評議員は顔を上げ、西ユーラシア政変当日のヒアリングにけりをつける。
ジュセック「よろしい。では次はボーンホルム島での出来事について質問したいと思う。ギーベンラート嬢、応えてくれるかな」
アグネス「はい。事実のみをお話しします」
ジュセック「ありがとう」 - 188二次元好きの匿名さん25/03/01(土) 07:41:23
アグネス…アスラン係をやってるうちに随分と情が移ったな
- 189二次元好きの匿名さん25/03/01(土) 13:08:29
カガリやキラ、ミリアリアとは直接話したしAA隊との共闘も済ませてるしね
多少なかれ仲間意識は芽生えてるかも - 190二次元好きの匿名さん25/03/01(土) 21:24:16
☆
- 191二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 02:47:38
ジュセック評議員の質問が飛び出すまでの僅かな間に少しでも思考を整理する。
サントリーニ島で受傷してから今日まで気絶と覚醒と戦闘を繰り返す日々、どう考えてもまともな精神状態ではない。副交感神経と交感神経は目まぐるしく切り替わり、脳内麻薬は3回転生した先の分まで絞り出されてしまった。
アグネス「(分けても、あの日はいろいろなことが有り過ぎたわ。ちゃんと答えられるかな)」
ジュセック「では、まず確認から。ギーベンラート嬢、貴女はベルリンの病院で入院中にお見舞いに来たアスラン君から一つの情報を告げられた。アークエンジェルとアスハ代表に接触する方法が見つかったと、正しいかな?」
そこからか、ちょっと長いな。まあ、仕方ない。
アグネス「はい。アスラン先輩の戦友であるミリアリア・ハウ女史の伝手を頼れると。先輩はベルリン散策中にたまたま彼女と再会したそうです。ハウ女史はオーブ国籍の旧ヘリオポリス避難民、現在の職業はフリーカメラマン。前大戦時はアークエンジェルの戦闘管制兼通信士としてアスハ代表達と宙に上がり絶滅戦争の阻止に尽力したお方です。国籍と職業、前歴からなのでしょうか、アスラン先輩のお願いであるならお繋ぎ下さると伺いました」
話してみるとここまでで結構ボリュームがあるわ。ちなみにターミナル云々は敢えて省略した。クライン派の影響下にある組織だが、今は伏せておくべきだろう。もしかしたら派閥的に近いジュセック評議員ご自身が知っているかもしれないが…。
ジュセック評議員の表情を筋の動き一つ見逃さない様に見つめるが、特に変化がない。やはり、この人はターミナルと関りがない、あるいは薄いのか?
私のお話しに一つ二つ肯くと今度は視線をアスランに向け確信する。
ジュセック「アスラン君、彼女の記憶に間違いはないかな?」
アスラン「はい。間違いありません」
ジュセック「なるほど、ふむ。カメラマンの方々のバイタリティーは凄いものだな。ヤキンを戦ったなら今更かもしれないが…」
確かに朝ドラでヒロインやれるぐらいのヒロイン力がミリアリアさんにはあると思う。ただそれ以上にアスランの引きは凄い。
アグネス「(『たまたま』でキーパーソンと再会…。やはり『大河ドラマの主人公』を張れるのはこう言う人なのだろう。私も負けてはいられないわ)」 - 192二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 03:08:40
決意を新たに、ジュセック評議員を見つめると私の視線に気が付いた彼がまた質問を投げかける。
ジュセック「その情報を聞いたギーベンラート嬢、貴女は特務隊としてアスハ代表とアークエンジェルに接触することを発案した。表向きは事変時のお礼と今後の被災地支援の調整のため、実際はフラガ少佐他1名の戦犯の今後の取り扱いについて話し合うために。
同じ病院で入院中だった特務隊長グラディス提督と特務隊シン・アスカ、同じく特務隊ルナマリア・ホークとも話し合い、『表・裏』の会談を『公・私』で進められるように、貴女は公務として、アスラン君は私用としてハウ女史の指定した場所に赴こう、と。その案に彼ら彼女らも同意した。間違いないね?」
報告書には目を通された後か、その通りなのだから認めるだけの事。
アグネス「はい。間違いありません」
私の答えを確認すると彼はメイリンにも視線を遣る。
ジョセック「そして、ホーク嬢は特務隊ギーベンラートにミネルバから徴発され同行した。間違いないね?」
メイリン「はい。徴発されて同行しました」
ジュセック「なるほど…。ギーベンラート嬢は国防委員会からの案件も掛け持ちしていたから大忙しだね」
ジュセック評議員は私に穏やかにお声を掛けて下さる。しかし、片側の手では、手元の記録帳のページをぺらりと捲る。何か―深堀するつもりだ!
ふむ、と一つ間を取った後にその問いは投げ掛けられる。
ジュセック「ギーベンラート嬢、私達は君を咎めるつもりはない。しかし、この話を一度、国防委員会か外交委員に上げようとは考えなかったのかな?君は怪我をしていたのだから返事を待ってからでもよかったのでは?」
その件か...。そこに触れるとラクスの件やユニウスセブンの件を話さざるを得ない。何とか嘘を言わずに乗り切れ!
アグネス「返事に関してはタイムリミットが迫っていました。当時、アークエンジェルは支援物資の陸揚げをほぼ終えていました。そして、この案を最高評議会と国防委員会に一度上げなかった理由ですが…。私が見るにアークエンジェルとプラントの信頼関係がまだ醸成されておらず、あの艦の特異な状況故に互いが不安定な関係を強いられていました。故に一先ずは人的な関係性を基に交渉を進めるのがベストと判断しました」
そうお伝えするとジュセック評議員は少し首を傾げる。 - 193二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 03:19:57
ジュセック「ギーベンラート嬢の言うことは良く分かる。しかしやはり腑に落ちない。貴女らしくないというか…。私からは何か頑なに貴女が、というか貴方達が我々をアークエンジェルから遠ざけたいと思っていたようにも感じられるのだが…。自分達で先に話を進めておきたいと、そのような意図があったようにも感じられる。その点はどうかな?」
ジュセック評議員の視線が私の目を捉える。この方は眉がしっかりしているから視線が合うとかなりの迫力を感じる。彼の訝し気な視線に意地悪な感情は含まれていない。しかし、下手な誤魔化しは許さない、そうも告げている。
アグネス「(司法局-警察のドンなだけはあるわね…)」
アークエンジェル問題を最高評議会と―と言うか月軌道艦隊とジュール隊以外のザフト上層部と極力関わらせないように配慮してきたのは本当の事。見破られている。
どうする?ここをしくじると命取りかも知れない。
ラクス暗殺未遂事件を、私達は地上に降りる前から知っていた。その上で『ロアノーク=フラガ少佐』問題まで転がり込み、上層部を関わらせれば収拾が付かなくなることは目に見えていた。
彼の目と合った自分の目を離さないように注意しながら右手を握る。どうする!思い切ってラクス暗殺未遂事件の事をここで打ち明けるべきか?!
一瞬、目線がカメラに向きそうになるが、ジュセック評議員の目力で縫い留められる。
蛙が蛇に睨みつけられたようだ。両隣のアスランとメイリンに助けを求めることもできない。
私はこれまで自分の戦場で、常に攻勢をかけて勝ち続けてきた。アーモリーワンからここまで、私を頼りにする人はいてもぞんざいに扱うような人は居なかった。上も下も。
だから、こうなるとどうすることもできない。この世界にはパーネル・ジュセックとアグネス・ギーベンラートの二人しかいないのか?
アグネス「(落ち着け。私は立派なことをして立派な勲章を貰ってきた。それに神の御前で申し開きの出来ないことはしていない。神様の前でお話しできるのに、なぜ一人の男性を恐れる必要があるのか?!)」
一度大きく息を吸って後、彼に告げる。
アグネス「ジュセック最高評議員閣下、アーモリーワンをお立になるのは明日ですか?」
私の回答を聞き、何時もは穏やかな彼の顔にちょっとした苛立ちが走る。 - 194二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 03:25:06
ジュセック「ああ。明日の朝だが…。それはともかく、ギーベンラート嬢、質問に答えてくれるかな。貴女らしくもない。あるいは答えられないとか、答えたくないとか…」
彼の苛立ちを敢えて無視して話を続ける。
アグネス「既に便を取っているならキャンセルして今夜発つことをお勧めします。もし、便がないなら―私の権限でシャトルを借り上げます。きっとお急ぎでしょう」
これで伝わらないほど、彼は間抜けではないだろう。建国宣言以前から今日まで修羅場を潜って来た元勲の一人なのだから。
そんな私を前にして、はた、とジュセック評議員は顔色を変える。やっぱりね。
ジュセック「むむ…。分かった。今夜、発とう。それとカメラは止める訳にはいかない。ここはそういう場だ」
アグネス「心得ています」
心得ているが止めてほしかった。これでラクスの件は後回しだ。先にユニウスセブンの件を。
早く先を話せと促すジュセック評議員の目線に急かされながら必死に考える。これはここで言うべきか。話して対オーブ関係が拗れないか―もう拗れているか。良し、話そう。
アグネス「私達が先行してアークエンジェルと接触を図ったのは、彼らがプラントに不信感を抱いていると察したためです。私より先に目覚めたアスラン先輩の話からそれを察することができました」
アスラン「え…。あぁ…」
横で目を白黒させているアスランを張り倒したくなる。『私より先に目覚めて』ラクス暗殺未遂事件を知ったのは本当でしょう。省略して言っているの!
ちょっと動揺気味のアスランと対照的にメイリンはもう落ち着きを取り戻している。そしてジュセック評議員は暫し考え込んだ後、口を開く。
ジュセック「確かに、ボスニア湾の奥でも彼らはそう言っていたな。『連合かプラントか。今また二色になろうとしている世界に、本艦はただ邪魔な色なのかもしれません。ですが、だからこそ今ここで消えるわけにはいかないのです』と。だが、なぜ?彼等も議長の言葉を聞いたはずなのに―」
その『言葉を聞いた、聞かない』と云うのが流行りなのか?下らない、神か神官にでもなったつもりなのか、あの男は!周囲が持ち上げるから駄目なんだ。 - 195二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 03:34:20
アグネス「デュランダル議長はプラントの実質的な国家元首、彼の指令で時に我らは身を投げ出します。ただ、彼は数ある国家指導者の一人に過ぎません。アークエンジェルには彼らの国家元首が乗艦中です。彼らがまず聞くべき言葉はアスハ代表のものでしょう」
そう言って、半ば議長に取り込まれかけているジュセック評議員に猫騙しを喰らわせる。私の発言に評議員が少し驚いてくださった所で、いよいよ本題を切り出す。
アグネス「彼らは訝しんでいるのです。今のこの争乱の全てが、とある者の野心に端を発したものなのではないかと。世界を荒廃させ、大戦の引き金となったユニウスセブン落下テロの黒幕ないし不作為犯がプラント上層部に今も猶、身を潜めているのではないか、と。
その彼らの不信感を汲み取り、まず現場レベルで信頼関係を構築し、かつ、最高評議会との橋渡しもできる特務隊の私達が行動することが最善と愚考しました」
アスラン「…」、メイリン「…」
両側の二人が息を詰まらせ、アスランに至ってはまじまじと私を凝視してくる。我ながら早計なのは分かっている。しかし、兵は拙速を聞くも、未だ巧の久しきを賭ざるなり。ここで話を胡麻化そうとする方が危うい、そう判断した。
私の回答で部屋の体感温度は一気に下がる。気まずい沈黙の中、空気が凍結する寸前にジュセック評議員が重い口を開く。
ジュセック「そうか。先方はそう疑っているのか…」
彼は溜息のように言葉を吐きだす。ただ、その言葉にはどこか安堵感が混じっている。やはり―疑っているのは私達だけでは無かったか。
アグネス「この疑惑は最高評議会議員の皆さまの間でも囁かれているのですか?」
少し突っ込んだことを聞く。もしかしたら突破口に成るかも知れない。
ジュセック「それはここでは言えない。ただ、プラント上層部に事前にテロ計画を把握していながら、敢えて見逃した者が居るのではないか。そういった疑惑の目は確かにある。私は単なる陰謀論と思いたかったのだが…。貴女がディナー中にテロの賠償問題と責任問題の早期解決を図れと言ったのはそう言うことなのだね?」
そう口にすると、彼は私の瞳に再び視線を移す。答えはYes。 - 196二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 03:45:17
アグネス「はい。仮に黒幕なり、見逃した人間なりがプラント上層部に居たとしても―個人の犯罪責任を国家としてプラントが負う道理はありません。しかし、彼が高ランクの公職者であった場合、やはり地上国家から責任論が噴出する可能性は否めません。それを防ぐためにも賠償問題と国家として道徳的な責任問題は共に最終的かつ不可逆的に解決されたとしておかなければならないのです」
私がそう力説するとジュセック評議員は、ちょっと待ってくれと両掌を向ける。
ジュセック「賠償問題等は良く分かった。直ぐに協議して親プラント国との間に合意を急ぐ。それで―。いや、待った。うん。やはり、不自然なのか…。陰謀論ではないのか?」
ジュセック評議員は何かを恐れるような視線を漂わせ始める。多分彼が恐れているのは特定の誰かではない。自分が信じてきた世界、正義が揺らぐことを恐れているのだ。
ジュセック「モビルスーツの機体か…。ジン・ハイマニューバ2型とか言う。それに大量のフレアモーター…」
なんだ、心配して損した!
やはり頭が良い人達はずっとあの事件の疑惑について自問自答していたのね。そして誰も言い出さないから、『ああ、これは違うんだ』と安心していた。正確な意味ではないけれど、ある種の正常化バイアスがかかっていたのだろう。
そして、それは誰かが堰を切ったらもう止まらない。止まらないから、内々に処理しないと。とは言え、もう一つ加えておかなくてはいけない。
アグネス「その二つに加えて、ユニウスセブンの監視体制です。現場職員の精勤は疑いようがありませんが、その上のところで手が加えられたのかも知れません」
私の指摘を聞き、粗方の事に施行を巡らし終わった頃合いで、彼はもう一度私の瞳に視線を合わせてくれる。聡明かつ穏やかな元の彼の目だ。
ジュセック「そうか、良く知らせてくれた。ありがとう。そうか、それで彼らはこちらを信用してくれなかったのか。分かった。よろしい。疑問は解決した」
実は少しだけ違う。ユニウスセブンの件は彼らの不信感の主たる原因ではない。ラクス暗殺未遂の方が彼らの本命なのだ。ただ、今それを伝えるのはよした方が良いだろう。お互いに処理が追いつかない。 - 197二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 13:03:00
事前のやらかしがやらかしが多い(+してアークエンジェル保護の時指揮官を暴走させてファウンデーション機のせいでザフトのパイロットに死者を出す)
- 198二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 18:34:25
もしジブリが討ち取られる前に議長が失脚してゆかり王国に潜伏
ジブリもユーラシアの緩衝地帯に潜伏なんて情勢になったらどうしよう… - 199二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:22:39
- 200二次元好きの匿名さん25/03/02(日) 21:35:52
いいぞアグネス
頑張れアグネス
セイノッ⊂(^・^)⊃フレー\(~0~)/フレー