- 1◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:06:04
二月十四日。それは、渡したチョコとかおかしとかのお返しに渡した以上にお返しがもらえるめちゃスゴなイベント! ……だったけれど、いつもと違うのは、きっと。
「……よろこんで、くれるかな」
渡す人が。
「──トレーナーさん」
渡したい人が、できたから。
そりゃあ、いつもトレーニングを応援してくれてがんばらせてくれるし、がんばったらホメてくれる。お仕事じゃないのに勉強だって見てもらってるから、わたしにだって感謝のキモチくらいはある。……あるけれど。
「……ん~! 何だこのキモチ~っ!」
それだけじゃないこのキモチは、いったいなんなんだろう。
買おうかな? って考えたけれど、人気なモノはやっぱりスグ無くなっちゃうのがふつーなわけでして。あれこれ考えてみたけれど思い切って自分で作ることに。料理はそんなにニガテってワケじゃないし、どうせ食べてもらうなら、ね。
「……えへへ~、手作りってなんかいいよね~♪」
そして、去年までなら思うこともなかった、そんなコトをつぶやいた。 - 2◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:06:16
いつもより長く感じる学校の授業がやっと終わって放課後、まだまだ春は遠いけれど、さくらのつぼみがちょっとずつ、ほんとうにちょっとずつだけどふくらんでいた。そんなさくらにいやされて。だけど、勇気づけられて。
「……わたしも、うん。がんばろう」
トレーナー室に足を向けたちょうどその時。
「──あっ!」
廊下の先にトレーナーさんがいた。だけど、誰かとお話してるみたいで。
「──さん良いんですか!?」
「ええ……。お世話になったので」
わたしのしらない、女性のヒトと。
そこからさきは、あんまり覚えてなくて。
「……あ、ヒシミラクルっ! 授業お疲れさま!」
「今日のトレーニングの事なんだけ……えっ!? ヒシミラクルっ!?」
トレーナーさんがわたしに気づいて、笑顔になって話しかけてくれた気がするけれど、耳がなんだか聞こえなくって。顔がぼやけて、見えなくなっちゃって。
むねが、いたくて。 - 3◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:06:26
気がついたときにはもう日はすっかりおちてて、オレンジ色の夕やけがいやにまぶしかった。掃除のときに見つけた、誰も来ないような、屋上に続くちょっとした階段。ここに来て、あれから何時間経ったっけ。ずっと泣いてた気がする。
そりゃあ、トレーナーさんだって男の人だもん。好きな人くらいいて当たり前だって。わかってたじゃん。……わかってたのに。また、目からぽろぽろと。
「……ぁ、そっかぁ」
わたし、トレーナーさんのことが。
トレーナーさんのことが……。
「そっかぁ……」
バックにしまっていた小さなハコをそっと取り出す。色々と選んでつくったプレゼント。だけど。
もう、いらなくなっちゃった。
すてる勇気も、気力も、何もかもがなくなっちゃって、また、うつむいたまま。
その時。遠くの方から足音がした。わたしはその音にびっくりして目も耳もぎゅってしちゃった。その足音のヒトは、息切れしてて、もうムリなハズなのに、走ることをやめないで。
ずっと、誰かを探してたみたいで。 - 4◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:07:15
わたしがいるところに来ると、気付いたみたいで安心そうにしてた。息を整えて、ゆっくりと近づいてくるそのヒトは、多分。そして、前に。
「……、っ」
ずっとうつむいて泣いていたままのわたしのあたまに、暖かかい優しさが。
それは、いつもホメてくれたり、応援してくれた、あなたの手。
「……渡したいものがあるんだ」
返事をすることもできなくて、ただ、聞いていた。だってもう、届かない人だから。だから、声も出せなくて。それでも、あなたは。
「慣れないことだから、色んな人に手伝ってもらったんだ。最初は頼れる人も居なくて、どうしようって。だけど」
ごそごそと、バックのようなものから、何かを取り出す音。すこしずつ。すこしずつ顔を上げて。見えたのは、にじんだままの小さな箱。
「やっと、できたよ」
そして、
「──ハッピー、バレンタイン」
ぼやけたままの、あなたの笑顔。 - 5◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:07:25
どうして。
どうして、そんなに優しくしてくれるの。
「……どうし、て」
そのギモンは無意識に口から出てて。だって、もう。
「……ヒシミラクルには、いろんなものを貰ったから」
聞きたいのは、そうじゃなくて。
「なん……で」
「あっ、もしかして廊下で会った人? カレンチャンのトレーナーって凄いね」
「同じ男性なのに料理がすごく上手でさ」
……。……ん???? おとこの、ひと???? え??
バッと顔を見上げた。その勢いでトレーナーさんが逆にびっくりしてた。でももっとびっくりしてるのはわたしの方で。
「……ぅえぇっ!? だってめちゃ女性って感じじゃなかったですか!」
「あー……。それがなんか、今やってるイベントでカレンチャンの格好してたみたい」
じゃあ、つまり、わたしがしてたのって……。
「──カン違い~~~!!!???」
ハズかしくて逃げてしまいたかった。 - 6◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:07:48
さっきまで目真っ赤っ赤でぽろぽろとこぼれてたなみだも、いつのまにかすっかり止まってた。だって、まさか男の人だったなんて思わんし。
そのかわりハズかしさとゴメンナサイってきもちがぐるぐるしてて、どんな顔していいかわかんなくなっちゃったや。
そのとき、トレーナーさんの手がばんそうこうだらけになってるのが見えた。わたしが見てることにトレーナーさんも気づいて、「……あはは。結構切っちゃって……。……いてっ」って、恥ずかしそうに言ってた。
「そんな……。どうして」
何もそんなに痛い思いしなくたって。そう続けようとしたけれど。トレーナーさんのほうが先に口を開いた。
「このまえだって、作ってくれただろ? だから、俺もちゃんとお返ししないとって」
言いかけたことばを、飲み込んで、あなたの声を聞く。
「ヒシミラクルはたくさんのものを俺にくれた。まだまだ足りないけれど、それでも」
「──貰った以上に、ヒシミラクルにあげたいんだ」 - 7◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:08:08
──そっか。そっかぁ。
これが、わたしのトレーナーさんなんだ。
真面目で、厳しくて、たまに甘くて。
ほんのちょっぴり、とんでもなくて。
『──これから先も、ずっと、誰よりも』
ほんとうに、そうしちゃうくらい。
わたしと、ずっと、ずっとずっと、そばにいてくれるひと。 - 8◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:08:29
ふしぎだなぁ、っておもう。
「……トレーナーさん。さっきは、ゴメンナサイ」
「ん? ……ああ、俺の方こそ、済まなかったな」
こんな子だったっけ、わたしって。
「……ぷ、あははっ! お互いにあやまってちゃ、ワケわかんなくなっちゃうじゃないですか~」
「……ふふっ、そうだな」
そっか。このキモチって。きっとそうなんだ。
「……ね、トレーナーさん。わたしも、わたしもね」
「わたしも、トレーナーさんにいろんなものをいっぱいもらいました」
また、ぽろぽろとあふれて、にじんで。でも、今までのとはちがくて。
「でも……わたしがトレーナーさんに何かをあげられたって感覚、してないんです、全然。……だから」
「だから、これからも。これからもトレーナーさんにあげつづけられたらいいなぁ〜って」
「──ずっと、ずっとずっと。これからも」
そっかぁ。
想うヒトのために、こんなにもココロが動くキモチなんだ。
「……だから、どうぞっ」
わたしは、
「──はっぴー、ばれんたいん……っ!」 - 9◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:09:25
- 10◆4soIZ5hvhY25/02/14(金) 22:10:50
- 11二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 22:22:33
あまーい!素敵なSSありがとう!
文字での表現、心情の描写。たまらなく好き! - 12二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 22:25:04
マスターコーヒーを頼む無糖のブラックを.....
- 13二次元好きの匿名さん25/02/14(金) 22:35:21
……おかしいな
エスプレッソ頼んだはずなのに口の中がやけに甘ぇや………… - 14二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 00:09:59
乙
貰っている以上にあげられるように…
これってシンプルだけどすごくじんわり響くフレーズだよな
お久のミラクルはとっても甘くて美味しい逸品でした!ありがとう!! - 15◆4soIZ5hvhY25/02/15(土) 08:03:08
- 16二次元好きの匿名さん25/02/15(土) 17:59:24
砂糖不要なぐらい甘くてよかったです